(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について説明する。
図1は、前輪のみにアンチロックブレーキ制御が実行可能な1チャンネルのABS液圧ユニットの液圧回路を示す回路図である。1チャンネルのABS液圧ユニット100は、液圧回路1を1系統しか有しておらず、自動二輪車に搭載されて前輪のみにABS(アンチロックブレーキシステム)制御を実行可能になっている。以下、前輪のABS制御を実行可能な液圧回路1について説明する。
【0011】
液圧回路1は、ブレーキ液で満たされており、接続端Aでマスタシリンダ2に接続されている。マスタシリンダ2は、ブレーキレバー3が取り付けられているとともに、リザーバ4に接続されている。これにより、ライダーが前輪のブレーキを制動させるべく、ブレーキレバー3を操作すると、マスタシリンダ2は、リザーバ4に貯留されているブレーキ液を液圧回路1に吐出するようになっている。
【0012】
一方、液圧回路1は、接続端Bでホイールシリンダ5に接続されている。ホイールシリンダ5は、前輪のブレーキキャリパ6内に設けられており、ホイールシリンダ5内の液圧が昇圧されることによりブレーキキャリパ6を作動させ、前輪に制動力を発生させるようになっている。
【0013】
マスタシリンダ2とホイールシリンダ5との間に接続された液圧回路1は、モータ11、ポンプ12、込め弁(バルブ)13、弛め弁(バルブ)14、及びアキュムレータ15を備えている。
【0014】
込め弁13は、ソレノイドを備えた電磁弁であり、第1の管21で接続端Aに接続されている一方、第2の管22で接続端B及び弛め弁14に接続されている。なお、第2の管22は、途中で分岐することにより込め弁13、接続端B、及び弛め弁14と接続されている。込め弁13は、それぞれフィルタを介して第1の管21及び第2の管22と接続さている。込め弁13は、2つのフィルタの間に逆止弁が並列に接続されており、この逆止弁は、第1の管21から第2の管22へはブレーキ液を流さないが、第2の管22から第1の管21へは込め弁13が閉じていてもブレーキ液を流すようになっている。込め弁13は、開閉することにより、第1の管21から第2の管22へのブレーキ液の流れを制御するようになっている。
【0015】
弛め弁14は、ソレノイドを備えた電磁弁であり、第2の管22で込め弁13及び接続端Bに接続されている一方、第3の管23でアキュムレータ15に接続されている。弛め弁14は、フィルタを介して第2の管22に接続されている。弛め弁14は、開閉することにより、第2の管22から第3の管23へのブレーキ液の流れを制御するようになっている。
【0016】
アキュムレータ15は、第3の管23で弛め弁14に接続されている一方、第4の管24でポンプ12の吸込側に接続されている。アキュムレータ15は、逆止弁17を介して第4の管24に接続されており、ブレーキ液は、所定の液圧を超えるとアキュムレータ15から第4の管24に流れることはできるが、第4の管24からアキュムレータ15に流れることは逆止弁17を有することにより常にできないようになっている。アキュムレータ15は、第3の管23から流入するブレーキ液を貯留し、また、貯留していたブレーキ液を第4の管24に流出できるようになっている。
【0017】
ポンプ12は、第4の管24でアキュムレータ15に接続されている一方、第5の管25で第1の管21に接続されている。ポンプ12は、フィルタを介して第4の管24に接続され、絞りを介して第5の管25に接続されている。ポンプ12は、DCモータであるモータ11が駆動することによって作動し、吸込側にある第4の管24からブレーキ液を吸込み、吐出側にある第5の管25に吸込んだブレーキ液を吐出する。
【0018】
図2は、ECUによる機能的構成を示すブロック図である。
ECU40は、前輪の回転速度を検出して対応する回転速度信号を出力する速度センサ41f、及び後輪の回転速度を検出して対応する回転速度信号を出力する速度センサ41rから受信した回転速度信号に基づき、モータ11の駆動や、込め弁13及び側弛め弁14の開閉状態等を制御する。
【0019】
ECU40は、通常のブレーキング状態では、モータ11の駆動を停止し、込め弁13を開いた状態で保持し、弛め弁14を閉じた状態で保持している。これにより、ライダーがブレーキレバー3を操作してマスタシリンダ2(
図1参照)でブレーキ液が昇圧されると、ブレーキ液の昇圧は第1の管21(
図1参照)、込め弁13、及び第2の管22(
図1参照)を伝ってホイールシリンダ5(
図1参照)に伝達される。このため、ライダーによるブレーキレバー3(
図1参照)の操作に連動するようにブレーキキャリパ6(
図1参照)は動作し、前輪に制動力を生じさせる。
【0020】
ECU40は、ブレーキキャリパ6によって制動力を生じさせているブレーキング時に、速度センサ41f,41rから取得した回転速度信号に基づいて前輪がロック状態にあるか否か、すなわち、前輪が路面に対して過剰に滑っているか否かを繰り返し判断している。ECU40は、前輪がロック状態にあると判断した場合に、込め弁13を閉じ、弛め弁14を開き、モータ11を駆動させてポンプ12を作動させ、込め弁13及び弛め弁14を開閉してホイールシリンダ5に伝達されるブレーキ液の液圧を下げるように制御する。これにより、ECU40は、ブレーキキャリパ6の制動力をアンチロックブレーキ制御し、前輪のロック状態を解消する。
【0021】
図3は、1チャンネルのABS液圧ユニットを示す斜視図であり、
図4は、1チャンネルのABS液圧ユニットからハウジングを取り外した状態を示す斜視図であり、
図5は、ABS液圧ユニットからハウジングを取り外した側面図であり、
図6は、遊星歯車機構近傍を示す断面図である。
【0022】
1チャンネルのABS液圧ユニット100は、
図3に示すように、ECU40(
図2参照)が格納されたハウジング42とブロック50とが組み合わせて構成されている。
【0023】
ブロック50は、アルミニウムで形成されている。このブロック50は、内部に液圧回路1(
図1参照)を有し、ブレーキ液が流れる第1の管21乃至第5の管25である管路が形成されている。ブロック50は、ハウジング42が取り付けられるハウジング取付面(第1の面)51と略直交する配管接続面52に、接続端A及び接続端Bが形成されるとともに、ポンプ12及びアキュムレータ15(
図1参照)が組み込まれている。
【0024】
ハウジング42は、ブロック50のハウジング取付面51上に取り付けられており、制御基板43、モータ11、込め弁13及び弛め弁14(
図4参照)を覆っている。ハウジング42は、ブロック50に取り付けられた状態で、制御基板43を外部の装置と電気的に接続するためのコネクタ45がブロック50から離れる方向に突出して設けられている。このコネクタ45は、接続されるコネクタ(不図示)がコネクタ45の外周を覆うように組み付けられるようになっている。
【0025】
ハウジング42は、モータ11(
図6参照)を覆う部分42aとコネクタ45の矢印zで示すz方向の厚さが略同じに厚く形成されている一方、込め弁13及び弛め弁14を覆う部分42bがモータ11を覆う部分42aよりもブロック50に向かうz方向に薄く形成されている。
【0026】
ABS液圧ユニット100は、ハウジング42を取り外すと、
図4に示すように、モータ11、込め弁13、弛め弁14、及び制御基板43が露出するように設けられている。ブロック50のハウジング取付面51は、ハウジング取付面51に垂直な方向、すなわちz方向に穴が形成されており、この穴にモータ11、込め弁13及び弛め弁14が組み込まれている。込め弁13及び弛め弁14は、モータ11と制御基板43との間に配置されており、モータ11、込め弁13、及び弛め弁14は、ブロック50のハウジング取付面51に対して略垂直に組み込まれている。
【0027】
ブロック50は、ハウジング取付面51と交わる基板対向面(第2の面)54が制御基板43と対向するように形成されている。本実施形態では、基板対向面54は、ハウジング取付面51及び配管接続面52に対して略垂直に交わるように形成されている。
【0028】
制御基板43は、CPUやメモリ等が搭載されてECU40を構成し、ABS液圧ユニット100を制御する。この制御基板43は、ハウジング42が取り付けられたときにコネクタ45(
図3参照)内で外部に露出するコネクタ部43aを有している。制御基板43は、コネクタ部43aを有していることにより、ABS液圧ユニット100が搭載された自動二輪車の車体側のコネクタ(不図示)と接続されて、車輪速度等のさまざまな情報を車体側とやりとりできるようになっている。
【0029】
制御基板43は、
図5に示すように、ブロック50の基板対向面54に沿って延在するとともにモータ11との間に込め弁13及び弛め弁14(
図4参照)が位置するように配置されている。また、制御基板43は、モータ11、込め弁13、及び弛め弁14(
図4参照)がブロック50に組み込まれるz方向に沿って延在するように配置されている。すなわち、制御基板43の面内方向と、モータ11、込め弁13、及び弛め弁14がブロック50に組み込まれるz方向とは、略平行になっている。
【0030】
制御基板43は、柔軟性を有するフィルム状のフレキシブル配線44を介してモータ11、込め弁13、及び弛め弁14と電気的に接続されている。これにより、制御基板43は、込め弁13及び弛め弁14を通電及び非通電させて、込め弁13及び弛め弁14の開閉を制御したり、モータ11の回転を制御したりできるようになっている。このフレキシブル配線44は、ハウジング取付面51に沿って、込め弁13、弛め弁14、及びモータ11の各々の頂部を通るように延びている。
【0031】
フレキシブル配線44は、複数の配線が合わさって設けられており、モータ11、込め弁13、及び弛め弁14で共用されている。このフレキシブル配線44は、制御基板43に一端が固定されて電気的に接続されており、モータ11、込め弁13、及び弛め弁14は、それぞれ接続端子11a、13a、14aがフレキシブル配線44に刺さって引っ掛かることによりフレキシブル配線44と電気的に接続されている。
【0032】
モータ11は、
図6に示すように、モータ11の外周に沿って取り付けられたモータカバー11bを介して、ブロック50のハウジング取付面51に形成された穴51aに組み込まれている。この穴51aには、遊星歯車機構30及び偏心シャフト18が内部に組み込まれている。モータ11の駆動力は遊星歯車機構30で減速された後に偏心シャフト18を駆動するようになっている。
【0033】
遊星歯車機構30は、モータ11と偏心シャフト18との間に連結されており、内歯車31、遊星キャリア32、太陽歯車33、及び遊星歯車34を備えている。
【0034】
内歯車31は、回り止めが形成されており、穴51a内でブロック50に固定されて回らないようになっている。内歯車31は、リング形状に形成されて内周面に沿って配列された複数の歯が形成されている。
【0035】
遊星キャリア32は、円盤形状に形成されており、内歯車31内に配置されるようになっている。遊星キャリア32内には、3つの遊星歯車34が回転可能に取り付けられている。遊星歯車34は、内歯車31の内周面に沿って形成された歯と常にかみ合った状態になっている。
【0036】
遊星キャリア32は、3つの遊星歯車34の中心に太陽歯車33が配置されている。太陽歯車33は、遊星キャリア32に組み込まれた状態で、3つの遊星歯車34と常にかみあった状態になっている。
【0037】
遊星キャリア32は、軸心近傍に穴が形成されており、この穴を貫通して遊星キャリア32内に延びるモータ11の出力軸11cに太陽歯車33は組み付けられている。太陽歯車33は回転できないように固定して出力軸11cに取り付けられており、太陽歯車33と出力軸11cとは一体で回転するようになっている。
【0038】
遊星キャリア32は、偏心シャフト18側の軸心近傍に穴が形成されており、この穴には偏心シャフト18が組み付けられて固定されている。これにより、この穴に組み付けられた偏心シャフト18は、遊星キャリア32と一体で回転するようになっている。
【0039】
偏心シャフト18は、一端が遊星歯車機構30で支持され、モータ11と同軸で回転する回転軸部18aが軸受19を介してブロック50で支持されている。偏心シャフト18の他端は、モータ11の回転軸に対して偏心した軸である偏心部18bの周りにボールベアリング20が取り付けられており、ピストン運動をポンプ12に滑らかに伝えられるようになっている。偏心シャフト18が回転してポンプ12にピストン運動を伝えることにより、ポンプ12はピストンを往復移動させて液圧回路1の第5の管25(
図1参照)にブレーキ液を吐出させるようになっている。
【0040】
遊星歯車機構30は、以上の構成により、モータ11の駆動力により出力軸11cに組み付けられた太陽歯車33が回転すると、太陽歯車33とかみ合う3つの遊星歯車34は、それぞれ太陽歯車33とは逆方向に回転する。3つの遊星歯車34はそれぞれ内歯車31ともかみ合っているため、3つの遊星歯車34は、回転することにより内歯車31の内周面に沿って移動する。このとき、3つの遊星歯車34は、太陽歯車33が回転する方向と同方向に内歯車31内を回転移動する。3つの遊星歯車34は遊星キャリア32に組み込まれているため、遊星キャリア32は、3つの遊星歯車34と一体で内歯車31内を回転移動するようになっている。これにより、遊星キャリア32と一体で回転する偏心シャフト18は、太陽歯車33と同方向に回転するようになっている。なお、本実施形態に係る遊星歯車機構30は、モータ11の出力軸11cの回転数が約1/5になって偏心シャフト18から出力される一方、モータ11の出力軸11cのトルクが約5倍になって偏心シャフト18から出力されるような減速比になっている。すなわち、例えば、モータ11が15000rpm(回転/分)で回転しているときには、出力軸11cは3000rpmで回転し、モータ11が20000rpmで回転しているときには、出力軸11cは4000rpmで回転する。また、モータ11の出力軸11cで10N・cmであったトルクは、偏心シャフト18では50N・cmとなる。
【0041】
次に、前輪及び後輪のアンチロックブレーキ制御が可能な2チャンネルのABS液圧ユニットについて説明する。
図7は、2チャンネルのABS液圧ユニットを示す斜視図であり、
図8は、2チャンネルのABS液圧ユニットからハウジングを取り外した側面図である。2チャンネルのABS液圧ユニット200は、液圧回路1を2系統有しているという構成が液圧回路1を1系統のみ有している1チャンネルのABS液圧ユニット100と異なっており、前輪だけでなく後輪にもABS制御を実行可能になっている。
【0042】
ABS液圧ユニット200は、
図7に示すように、前輪側のマスタシリンダ2に接続される接続端Afと、前輪側のホイールシリンダ5に接続される接続端Bfと、後輪側のマスタシリンダ2に接続される接続端Arと、後輪側のホイールシリンダ5に接続される接続端Brとが配管接続面52に設けられている。これにともない、ブロック150は1チャンネルのABS液圧ユニット100よりもx方向に長く形成されており、ハウジング42は、前輪側の込め弁13f及び弛め弁14f(
図8参照)を覆う部分42bと後輪側の込め弁13r(第2のバルブ)及び弛め弁14r(第2のバルブ)(
図8参照)を覆う部分42bとがポンプ11を覆う部分42aを挟んで配置されている。
【0043】
ABS液圧ユニット200は、
図8に示すように、前輪側の込め弁13f及び弛め弁14fと後輪側の込め弁13r及び弛め弁14rとがポンプ10を中心に面対象に設けられている。すなわち、込め弁13r及び弛め弁14rは、制御基板43との間にモータ11が位置するようにハウジング取付面51に組み込まれている。ポンプ10、モータ11、及び遊星歯車機構30等は、前輪側の液圧回路1と後輪側の液圧回路1とで共用されている。
【0044】
ブロック150は、モータ11と、前輪側の込め弁13f及び弛め弁14fと、後輪側の込め弁13r及び弛め弁14rとが組み込まれたハウジング取付面51と交わる基板対向面54が制御基板43と対向するように形成されている。本実施形態に係る2チャンネルのABS液圧ユニット200の基板対向面54は、1チャンネルのABS液圧ユニット100と同様に、ハウジング取付面51及び配管接続面52に対して略垂直になるように形成されている。
【0045】
制御基板43は、ブロック150の基板対向面54に沿って延在するとともにモータ11との間に込め弁13f及び弛め弁14fが位置するように配置されている。
【0046】
制御基板43及びフレキシブル配線144は、前輪側と後輪側とで共用されている。すなわち、フレキシブル配線144は、複数の配線が合わさって設けられており、モータ11、込め弁13f,13r、及び弛め弁14f,14rで共用されている。
【0047】
制御基板43に接続されたフレキシブル配線144は、前輪側の込め弁13f及び弛め弁14fの接続端子13a,14a、モータ11の接続端子11a、後輪側の込め弁13r及び弛め弁14rの接続端子13a,14aの順に接続されている。なお、本実施形態では、接続基板43を前輪側の込め弁13f及び弛め弁14fと隣接して配置しているが、後輪側の込め弁13r及び弛め弁14rと隣接して配置してもよい。
【0048】
本実施形態では、制御基板43は、基板対向面54に沿って延在するとともにモータ11との間に込め弁13,13f及び弛め弁14,14fが位置するように配置され、ハウジング取付面51に沿って延びるフレキシブル配線44,144を介してモータ11、込め弁13,13f,13r、及び弛め弁14,14f,14rと電気的に接続されている。これにより、1チャンネルのABS液圧ユニット100と2チャンネルのABS液圧ユニット200とで制御基板43を同じ大きさにすることができる。このため、ブロック50,150の大きさに応じて制御基板43の大きさを変更する必要がなく、制御基板43を共通化できる。
【0049】
以上、実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、実施形態では、1チャンネルのABS液圧ユニット100は、前輪のみにABS制御を実行可能に設けられているが、これに限定されない。例えば、ブレーキペダルのマスタシリンダ及び後輪のホイールシリンダに接続することにより後輪のみにABS制御を実行可能に設けられていてもよい。