特許第6202663号(P6202663)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202663
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】制震ダンパーの変位計測装置
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20170914BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20170914BHJP
   G01B 21/00 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   E04B1/58 A
   E04H9/02 311
   G01B21/00 C
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-264914(P2012-264914)
(22)【出願日】2012年12月4日
(65)【公開番号】特開2014-109160(P2014-109160A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】599145395
【氏名又は名称】高田機工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104363
【弁理士】
【氏名又は名称】端山 博孝
(72)【発明者】
【氏名】佐合 大
【審査官】 兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】 登録実用新案第3178733(JP,U)
【文献】 特開2008−274684(JP,A)
【文献】 実開昭59−025405(JP,U)
【文献】 特開2010−249711(JP,A)
【文献】 特開2005−069982(JP,A)
【文献】 特開平10−122912(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3168872(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0095879(US,A1)
【文献】 けんせつPlaza,SUB(座屈拘束ブレース) (株)横河住金ブリッジ,日本,一般社団法人 経済調査会,2017年 2月17日,URL,http://kensetsu-plazasite.ec-optimizer.com/goods/ci3554500_mi526010.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
E04B 1/58
E01D 1/00−24/00
G01B 3/00−3/56,5/00−5/30,21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端部に構造物への継手部が設けられた軸部材と、この軸部材の外周に同軸的に配置されて前記軸部材に対して軸方向に相対変位する補剛材とを有する座屈拘束ブレースからなる制震ダンパーにおいて、前記変位を計測するための装置であって、
前記補剛材に固定される取付部と、この取付部に設けられ前記補剛材の面に対して平行かつ所定距離離間している変位表示部とを有し、この変位表示部にダンパーの軸方向に沿って長孔が形成された変位表示部材と、
前記変位表示部に取り付けられ、前記長孔に案内されて前記変位表示部の表面上をスライドする1対の変位検出部材と、
一方の前記継手部に固定される基部と、この基部から前記変位表示部の下方に向けてダンパーの軸方向に伸びる延伸部と、この延伸部の先端部から前記変位表示部に向けて立ち上がる起立部とを有し、この起立部が前記1対の変位検出部材間に位置するように前記長孔に嵌合されて、前記軸部材及び前記補剛材間に生じる変位を前記変位検出部材に伝達して該変位検出部材をスライドさせるアーム部材と
を備えてなることを特徴とする制震ダンパーの変位計測装置。
【請求項2】
前記変位表示部の表面は、ダンパーの変位の大きさに対応した複数の領域に区画され、各領域が異なった色で表示されていることを特徴とする請求項1記載の制震ダンパーの変位計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、制震ダンパーの変位計測装置に関し、より詳細には地震時にダンパーの最大変位を計測し、それを表示するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鋼橋の地震対策として、従前の対策であった部材断面の増強や変形性能の向上による耐震では種々問題があることから、制震の考え方を導入したダンパーブレースが採用されつつある(例えば特許文献1参照)。ダンパーブレースは、制震ブレースや座屈拘束ブレースとも称される履歴型のもので、常時やレベル1地震時には弾性部材として機能するが、レベル2地震時には軸部材(芯部材)が降伏して塑性変形を繰り返すことで、地震エネルギーを吸収して振動を減衰させ、橋の主要部材に生じる作用力や応答変位を低減する機能を持っている。
【0003】
このような制震ダンパーにおいて、地震時の最大変位を把握することはダンパー交換の必要性の判断をする等メンテナンス上、極めて重要である。加えて、巨大地震の場合にはその後に余震が頻発することから、ダンパー付近に近づくことは安全性に問題があり、したがって遠方から目視により最大変位を把握できることが要求される。
【0004】
特許文献2には、地震後にダンパーの変位を目視することができる変位センサーが開示されている。この変位センサーは、相対変位する2つの部材の一方に両刃の刃部材を取付けるとともに、他方の部材に刃部材が貫通する粘弾性部材を取付け、地震時に刃部材が移動することによって粘弾性部材に切れ目が形成されるようにしたものである。
【0005】
しかしながら、この従来のものは、地震後に切れ目を目視することにより変位を容易に把握することができるが、次の地震に備えるためには、粘弾性部材を新たなものと取り替えなければならず、すなわちセンサーのリセットをすることができず、メンテナンスが面倒である。また、従来のものは、変位を粘弾性部材に形成された切れ目から把握するため、遠方からの目視は困難であり、そのためダンパーの継続使用可能性の判断を即時にすることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−227126号公報
【特許文献2】特開2005−69982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は上記のような技術的背景に基づいてなされたものであって、次の目的を達成するものである。
この発明の目的は、簡単な構造でダンパー変位を目視により把握することができ、しかも地震後にリセットすることができてメンテナンスが容易な制震ダンパーの変位計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は上記課題を達成するために、次のような手段を採用している。
すなわち、この発明は、両端部に構造物への継手部が設けられた軸部材と、この軸部材の外周に同軸的に配置されて前記軸部材に対して軸方向に相対変位する補剛材とを有する座屈拘束ブレースからなる制震ダンパーにおいて、前記変位を計測するための装置であって、
前記補剛材に固定される取付部と、この取付部に設けられ前記補剛材の面に対して平行かつ所定距離離間している変位表示部とを有し、この変位表示部にダンパーの軸方向に沿って長孔が形成された変位表示部材と、
前記変位表示部に取り付けられ、前記長孔に案内されて前記変位表示部の表面上をスライドする1対の変位検出部材と、
一方の前記継手部に固定される基部と、この基部から前記変位表示部の下方に向けてダンパーの軸方向に伸びる延伸部と、この延伸部の先端部から前記変位表示部に向けて立ち上がる起立部とを有し、この起立部が前記1対の変位検出部材間に位置するように前記長孔に嵌合されて、前記軸部材及び前記補剛材間に生じる変位を前記変位検出部材に伝達して該変位検出部材をスライドさせるアーム部材と
を備えてなることを特徴とする制震ダンパーの変位計測装置にある。
【0009】
上記変位計測装置において、前記変位表示部の表面は、ダンパーの変位の大きさに対応した複数の領域に区画され、各領域が異なった色で表示されている構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、地震時に2つのダンパー構成部材間に軸方向の相対変位が生じたとき、アーム部材がその変位を変位検出部材に伝達して変位表示部上をスライドさせるので、地震後に変位検出部材の移動位置を目視することによりダンパー変位を容易に把握することができる。
【0012】
特に、変位表示部の表面を変位の大きさに応じて複数の領域に区画し、各領域を色分けすることにより、遠方からの視認性に優れたものとなり、地震後の点検時に近接して目視する必要がなくなるので、安全に点検作業を行うことができる。また、ダンパー構成部材の弾性域での変形であれば、地震後に変位検出部材を単に元の位置に戻すだけでよく、すなわちリセットすることができ、地震後のメンテナンス作業を極めて簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】制震ダンパーの一例として、変位計測装置が取り付けられた座屈拘束ブレースを示し、(a)は全体正面図、(b)は(a)のA−A線矢視断面図である。
図2図1に示した変位計測装置を拡大して示す正面図である。
図3図2のB−B線矢視断面図である。
図4】変位表示部材の平面図であり、(a)は変位ゼロ、(b)は圧縮による変位、(c)は引張による変位の各状態をそれぞれ示している。
図5】座屈拘束ブレースの取付け例として、鋼橋の脚柱を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。図1は、この発明による変位計測装置が取り付けられる制震ダンパーの一例として、座屈拘束ブレース50を示している。座屈拘束ブレース50は、図5に示すように、例えばラーメン橋において主桁を支持する脚柱70に適用される。具体的には、脚注70は1対の主構71と、主構71間を連結する複数の横構72と、横構72の中央部と主構71との間に配置される対傾構とを有し、座屈拘束ブレース50は対傾構として適用される。
【0015】
再び図1を参照し、座屈拘束ブレース50は、それ自体は公知のものであるが、その構造について概略説明する。座屈拘束ブレース50は軸部材51と、その外周に配置される補剛材52とで構成されている。軸部材51は低降伏点の鋼材からなり、図示の例では断面平型のものが示されているが、断面十字型に形成されるものもある。
【0016】
補剛材52は軸部材51の両側にそれぞれ2本ずつ配置された計4本の角形鋼管52aからなる。互いに隣接する角形鋼管52a,52aどうしは、平鋼53をそれらに溶接することにより、互いに固定されている。これにより、4本の角形鋼管52aは一体化され、補剛材52は軸部材51の軸方向に移動自在である。
【0017】
なお、互いに隣接する角形鋼管52a,52a間には丸鋼からなるスペーサ部材54が設けられ、角形鋼管52a,52a、平鋼53及びスペーサ部材54で区画された空間にはエポキシ樹脂などの防錆用の樹脂材が充填されている。これにより、平鋼53の塗装劣化箇所への空気や雨水の浸入が遮断され、塗装劣化箇所からの腐蝕の進行を防止することができる。
【0018】
軸部材51の両端部には断面十字型の継手部55が設けられている。この継手部55には複数のボルト穴56が形成され、座屈拘束ブレース50はこの継手部55を介して、脚柱70の主構71及び横構72に設置したガゼットプレート73(図5参照)にボルトにより固定される。
【0019】
脚柱70に地震力が作用すると、対傾構である座屈拘束ブレース50の軸部材51には圧縮及び引張の軸力が作用し、軸部材51は弾塑性変形する。その結果、軸部材51と補剛材52との間には軸方向の相対変位が生じる。なお、軸部材51は周囲が補剛材52によって拘束されているので、圧縮時に座屈が生じるのが防止される。
【0020】
上記変位を計測するための変位計測装置1は、補剛材52と軸部材51の継手部55との間を跨ぐように設置されている。図2は変位計測装置1を拡大して示す軸直角方向の正面図、図3図2のB−B線矢視断面図、図4は平面図である。変位計測装置1は、変位表示部材2と、1対の変位検出部材3,3と、アーム部材4とを有している。変位表示部材2は互いに直角をなす2つのプレート部2a,2bを有する部材(アングル鋼)で作られ、一方のプレート部2aが変位表示部を構成し、他方のプレート部2bが補剛材52への取付部を構成している。
【0021】
変位表示部材2の取付部2bは、補剛材52の面に軸方向に沿って垂直に固定されている。その結果、変位表示部2aは補剛材52の面と平行をなすとともに、補剛材52の面から所定距離離間している。変位表示部2aには軸方向に沿って長孔6が形成されている。この長孔6は、補剛材52の断面を2等分する中心線C上に位置するように形成されている(図3参照)。
【0022】
変位検出部材3は図4に示すように角形のプレートからなり、長孔6を横切るように変位表示部2aの表面に配置されている。この変位検出部材は3は、長孔6を貫通するボルト7及び変位表示部2aを挟むようにボルト7に螺着されるナット8により、変位表示部2aに取り付けられている。これにより、変位検出部材3は長孔6に案内されて変位表示部2a上をスライドすることができる。
【0023】
アーム部材4はプレートからなり、継手部55に固定される基部4aと、基部4aから変位表示部2aの下方に向けて軸方向に延びる延伸部4bを有している。延伸部4bの先端部には変位表示部2aに向けて直角に立ち上がる起立部4cが設けられている。そして、この起立部4cは1対の変位検出部材3,3間に位置するように、長孔6に嵌合されている。
【0024】
図4に示すように、変位表示部2aの表面はダンパーの変位に応じた複数の領域に区画され、それぞれの領域は異なった色で表示されている。すなわち、軸方向中央の領域S0は変位ゼロの領域、その外側の2つの領域S1,S1は設計許容変位(設計時に想定しているダンパーの許容変位)の領域、その外側の2つの領域S2,S2は限界変位(ダンパー製品として性能確認を行っている最大変位)の領域であり、例えば、領域S0が緑色、領域S1が黄色及び領域S2が赤色で表示される。また、1対の変位検出部材3,3の表面は白色であり、その軸方向外側の端縁には、変位を検出するための検出線9が例えば赤色で印されている。なお、領域S1にある線10(例えば黒色)は、地震時解析における計算上の最大変位を示すためのものである。
【0025】
次に、上記のように構成された変位計測装置の作用について説明する。図4(a)は、地震が生じていないときの状態を示し、変位がゼロである。ここで、地震が生じて軸部材51が圧縮変形し、軸部材51と補剛材52との間に相対変位が生じると、図4(b)に示すように、アーム部材4が図中左側に移動し、その起立部4cが一方の変位検出部材3(図中左側)を同方向に押しやり変位表示部2a上をスライドさせるので、圧縮によるダンパー変位が変位検出部材3に伝達される。
【0026】
また、軸部材51が引張変形すると、図4(c)に示すように、アーム部材4が図中右側に移動し、その起立部4cが他方の変位検出部材3(図中右側)を同方向に押しやりスライドさせるので、引張によるダンパー変位が変位検出部材3に伝達される。このような変位の伝達によって、変位検出部材3,3の検出線9が移動した位置がダンパーの最大変位(圧縮及び引張)であり、検出線9の移動位置を目視することにより、すなわち検出線9が領域S1,S2のどの領域にあるかを目視することにより、設計許容変位であるか、あるいは限界変位であるかを把握することができる。
【0027】
特に、この実施形態では、変位表示部2aの表面を変位の大きさに応じて複数の領域S0,S1,S2に区画して各領域を色分けしたので、遠方からの視認性に優れ、地震後の点検時に近接して目視する必要がない。また、軸部材51の弾性域での変形であれば、地震後に変位検出部材3を単に領域S0に戻すだけでよく、すなわちリセットすることができ、メンテナンス作業が極めて簡単である。
【0028】
上記実施形態は例示にすぎず、この発明は種々の態様を採ることができる。例えば、上記実施形態では、変位表示部材を補剛材に、アーム部材を軸部材の継手部にそれぞれ取り付けたが、これとは逆に変位表示部材を軸部材の継手部に、アーム部材を補剛材に取り付けることも可能である。
【0029】
また、この発明による変位計測装置は、鋼橋に設置される制震ダンパーに限らず、建築物等他の構造物に設置される制震ダンパーにも適用することができる。さらに、ダンパーの形式は、上記実施形態で示した座屈拘束ブレースに限らず、シリンダー型の粘性ダンパーであっても、適用が可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 変位計測装置
2 変位表示部材
2a 変位表示部
3 変位検出部材
4 アーム部材
4a 基部
4b 延伸部
4c 起立部
6 長孔
7 ボルト
8 ナット
51 軸部材
52 補剛材
52a 角形鋼管
55 継手部
0 変位ゼロ領域
1 設計許容変位領域
2 限界変位領域
図1
図2
図3
図4
図5