特許第6202664号(P6202664)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6202664極数変換永久磁石式回転電機及びそのドライブシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202664
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】極数変換永久磁石式回転電機及びそのドライブシステム
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/27 20060101AFI20170914BHJP
   H02K 21/14 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   H02K1/27 501M
   H02K21/14 M
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-38592(P2013-38592)
(22)【出願日】2013年2月28日
(65)【公開番号】特開2014-168320(P2014-168320A)
(43)【公開日】2014年9月11日
【審査請求日】2016年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】501061319
【氏名又は名称】学校法人 東洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(72)【発明者】
【氏名】堺 和人
【審査官】 ▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−028957(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0201294(US,A1)
【文献】 特開2009−072046(JP,A)
【文献】 特開2012−070608(JP,A)
【文献】 特開2006−280195(JP,A)
【文献】 特開2013−034317(JP,A)
【文献】 特開平11−018382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
H02K 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種の極数の回転磁界を生じる電機子巻線を有する固定子と、
外部磁界により磁化される永久磁石を持つ回転子と
を備え、
前記電機子巻線に流す電機子電流の位相を変化させ、前記位相の変化後に前記電機子電流が生起する磁界によって前記永久磁石を磁化させて前記回転子の極数を変換することを特徴とする永久磁石式回転電機。
【請求項2】
複数種の極数の回転磁界を生じる電機子巻線を有する固定子と、
前記固定子の電機子電流の生起する磁界により磁化される永久磁石を持つ回転子と
を備え、
前記電機子電流の位相を変化させ、前記位相の変化後に前記電機子電流が生起する磁界によって前記永久磁石を磁化させて前記回転子の極数を変換することを特徴とする永久磁石式回転電機。
【請求項3】
前記固定子の電機子巻線は、複数種の極数の回転磁界を生じる分数スロットの電機子巻線から構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の永久磁石式回転電機。
【請求項4】
第1の極数の回転磁界を生じさせる場合に前記第1の極数の極ピッチに近い第1のコイルピッチで前記電機子巻線が構成された前記固定子を用い、前記第1の極数よりも少ない第2の極数の回転磁界を生じさせる場合に前記第1の極数の極ピッチに対するコイルピッチよりも短い前記第2の極数の極ピッチに対するコイルピッチで前記電機子巻線が構成された前記固定子を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の永久磁石式回転電機。
【請求項5】
第1の極数の回転磁界を生じさせる場合に前記第1の極数の極ピッチに近い第1のコイルピッチで前記電機子巻線が構成された前記固定子を用い、前記第1の極数よりも多い第2の極数の回転磁界を生じさせる場合に前記第1の極数の極ピッチに対するコイルピッチよりも等価的に短い前記第2の極数の極ピッチに対するコイルピッチで前記電機子巻線が構成された前記固定子を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の永久磁石式回転電機。
【請求項6】
前記外部磁界又は電機子電流の生起する磁界によって磁化される永久磁石の保磁力は、500kA/m以下であることを特徴とする請求項1に記載の永久磁石式回転電機。
【請求項7】
複数種の極数の回転磁界を生じる電機子巻線を有する固定子と、外部磁界に磁化される永久磁石を持つ回転子とで構成される永久磁石式回転電機と、
前記永久磁石を磁化することにより前記回転子の極数を変換し、変換後の極数により前記回転子を回転させるドライブ装置と
を備え、
前記電機子巻線に流す電機子電流の位相を変化させ、前記位相の変化後に前記電機子電流が生起する磁界によって前記永久磁石を磁化させて前記回転子の極数を変換することを特徴とする永久磁石式回転電機ドライブシステム。
【請求項8】
複数種の極数の回転磁界を生じる電機子巻線を有する固定子と、前記固定子の電機子電流の生起する磁界により磁化される永久磁石を持つ回転子とで構成される永久磁石式回転電機と、
前記永久磁石を磁化することにより前記回転子の極数を変換し、変換後の極数により前記回転子を回転させるドライブ装置と
を備え、
前記電機子電流の位相を変化させ、前記位相の変化後に前記電機子電流が生起する磁界によって前記永久磁石を磁化させて前記回転子の極数を変換することを特徴とする永久磁石式回転電機ドライブシステム。
【請求項9】
前記固定子の電機子巻線は、複数種の極数の回転磁界を生じる分数スロットの電機子巻線から構成されることを特徴とする請求項7又は8に記載の永久磁石式回転電機ドライブシステム。
【請求項10】
第1の極数の回転磁界を生じさせる場合に前記第1の極数の極ピッチに近い第1のコイルピッチで前記電機子巻線が構成された前記固定子を用い、前記第1の極数よりも少ない第2の極数の回転磁界を生じさせる場合に前記第1の極数の極ピッチに対するコイルピッチよりも短い前記第2の極数の極ピッチに対するコイルピッチで前記電機子巻線が構成された前記固定子を用いることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の永久磁石式回転電機ドライブシステム。
【請求項11】
第1の極数の回転磁界を生じさせる場合に前記第1の極数の極ピッチに近い第1のコイルピッチで前記電機子巻線が構成された前記固定子を用い、前記第1の極数よりも多い第2の極数の回転磁界を生じさせる場合に前記第1の極数の極ピッチに対するコイルピッチよりも等価的に短い前記第2の極数の極ピッチに対するコイルピッチで前記電機子巻線が構成された前記固定子を用いることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の永久磁石式回転電機ドライブシステム。
【請求項12】
前記外部磁界又は電機子電流の生起する磁界によって磁化される永久磁石の保磁力は、500kA/m以下であることを特徴とする請求項7に記載の永久磁石式回転電機ドライブシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻線切り替え無しの極数変換永久磁石式回転電機とそのドライブシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
環境とエネルギー問題からプラグインハイブリッド車や電気自動車の実用化が急速に進められており、低消費電力量で高出力、全運転領域で高効率のモータが必要とされている。希土類元素の永久磁石は従来の数十倍の磁力を生じるため高出力で高効率のモータが得られる。そのようなモータでは、電源電圧の制限下で中〜高速回転域でモータを駆動するため、インバータ制御を用い、弱め磁束制御と言われる永久磁石の磁力(磁束)と逆方向の磁力を形成して磁力(電圧)を制御している。そして、埋め込み型永久磁石式モータ(IPMモータ)はこの制御が効果的に作用する磁気的構造を持つ永久磁石式モータである。
【0003】
しかしながら、弱め磁束制御を用いると、出力にならない制御電流による銅損と高調波鉄損が発生して効率が大幅に低下する。そのため、この永久磁石式モータをハイブリッド自動車に搭載する場合、モータの高速回転域では燃費が低下する問題点がある。また、この永久磁石式モータを電車に搭載する場合、電車では駅間の高速走行時にはモータから駆動力をもらわない惰行運転モードに移行する。しかし、惰行運転モードでも車輪の高速回転によってモータのロータが回転させられ、これによってロータに埋め込まれている永久磁石によりインバータに高電圧の誘起電圧がかかる。そこで、インバータを保護するため、弱め磁束制御をしているが、駆動力を必要としない惰行運転モードで弱め磁束制御のために電力を消費する必要があり、省エネルギーにならない問題点がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】橋本尚宜、倉持暁、堺和人:「極数変換と機器定数の可変を可能とする永久磁石モータ」、平成24年度電気学会全大、No.5、18ページ、2012年。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、回転速度に応じて回転子の極数を変換して誘起電圧を可変にし、高速回転域では低極数に切り替えることによって誘起電圧を低くし、高速回転域まで弱め磁束制御せずに運転可能で、省エネルギーが図れ、しかも回転子の極数変換のために電機子巻線の接続切り替えを必要としない極数変換永久磁石式回転電機とそのドライブシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの特徴は、複数種の極数の回転磁界を生じる電機子巻線を有する固定子と、外部磁界により磁化される永久磁石を持つ回転子とを備え、電機子巻線に流す電機子電流の位相を変化させ、位相の変化後に電機子電流が生起する磁界によって永久磁石を磁化させて回転子の極数を変換する永久磁石式回転電機である。
【0007】
本発明の別の特徴は、複数種の極数の回転磁界を生じる電機子巻線を有する固定子と、固定子の電機子電流の生起する磁界により磁化される永久磁石を持つ回転子とを備え、電機子電流の位相を変化させ、位相の変化後に電機子電流が生起する磁界によって永久磁石を磁化させて回転子の極数を変換する永久磁石式回転電機である。
【0008】
本発明のまた別の特徴は、複数種の極数の回転磁界を生じる電機子巻線を有する固定子と、外部磁界に磁化される永久磁石を持つ回転子とで構成される永久磁石式回転電機と、永久磁石を磁化することにより回転子の極数を変換し、変換後の極数により回転子を回転させるドライブ装置とを備え、電機子巻線に流す電機子電流の位相を変化させ、位相の変化後に電機子電流が生起する磁界によって永久磁石を磁化させて回転子の極数を変換する永久磁石式回転電機ドライブシステムである。
【0009】
本発明のさらに別の特徴は、複数種の極数の回転磁界を生じる電機子巻線を有する固定子と、固定子の電機子電流の生起する磁界により磁化される永久磁石を持つ回転子とで構成される永久磁石式回転電機と、永久磁石を磁化することにより回転子の極数を変換し、変換後の極数により回転子を回転させるドライブ装置とを備え、電機子電流の位相を変化させ、位相の変化後に電機子電流が生起する磁界によって永久磁石を磁化させて回転子の極数を変換する永久磁石式回転電機ドライブシステムである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、回転速度に応じて回転子の極数を変換して誘起電圧を可変にし、高速回転域では低極数に切り替えることによって誘起電圧を低くし、高速回転域まで弱め磁束制御せずに運転可能で、省エネルギーが図れ、しかも回転子の極数変換のために電機子巻線の接続切り替えを必要としない極数変換永久磁石式回転電機とそのドライブシステムが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】低速域、高速域での運転に適した極数変換の説明図。
図2】本発明の第1の実施の形態の永久磁石式モータドライブシステムのブロック図。
図3図3(a)は8極モードの回転子の永久磁石磁化状態を示す断面図、図3(b)は4極モードの回転子の永久磁石磁化状態を示す断面図。
図4】実施例の極数変換永久磁石式モータの諸元図。
図5】上記実施の形態の永久磁石式モータにおいて8極モードでの無負荷磁束密度分布を示す解析図。
図6】上記実施の形態の永久磁石式モータにおいて4極モードでの無負荷磁束密度分布を示す解析図。
図7】上記実施の形態の永久磁石式モータの8極モードでのUVW各相の誘起電圧のグラフ。
図8】上記実施の形態の永久磁石式モータの4極モードでのUVW各相の誘起電圧のグラフ。
図9】上記実施の形態の永久磁石式モータの8極モード、4極モードでの誘起電圧の調波成分毎の強さのグラフ。
図10】上記実施の形態の永久磁石式モータの8極モード、4極モードでのトルク−電流位相の特性図。
図11】上記実施の形態の永久磁石式モータの8極モード、4極モードでの回転数別の鉄損を示すグラフ。
図12】本発明の第2の実施の形態の永久磁石式モータドライブシステムのブロック図。
図13】上記実施の形態の永久磁石式モータにおいて回転子を8極から4極に変換する際の磁化磁束の状態を示す説明図。
図14】本発明の第3の実施の形態の永久磁石式モータドライブシステムのブロック図。
図15】上記実施の形態の永久磁石式モータの回転子の8極と4極に極数変換する動作を示す図。
図16】上記実施の形態の8極主体のコイル配置の永久磁石式モータの8極モード、4極モードでの回転時のトルク特性図。
図17】上記実施の形態の4極主体のコイル配置の永久磁石式モータの8極モード、4極モードでの回転時のトルク特性図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて詳説する。
【0013】
[第1の実施の形態]
本発明の1つの実施の形態は、巻線切り替え無しで8極磁界と4極磁界が作れる6スロットの巻線切り替え無し極数変換永久磁石式モータとそのドライブシステムである。その基本構成、動作原理、基本特性は以下の通りである。
【0014】
[巻線切り替え無し極数変換永久磁石式モータドライブシステムの構成]
図1に示すように、極数変換永久磁石式モータは、低速回転域(Low speed area)では8極(8pole)、中速から高速回転域(High speed area)では4極(4pole)として動作させる。このように運転状況に応じて極数を変換することでモータは常に効率の良い領域で運転することができる。
【0015】
図2に、実施の形態の巻線切り替え無し極数変換永久磁石式モータドライブシステムの基本構成を示している。永久磁石式モータ1は、固定子10と回転子20、この回転子20の中心に固定された回転軸30で構成されている。そして、固定子10の電機子巻線の相順切り替えと交流給電を行うインバータIVと回転子20の回転位置を検出するエンコーダENとを含むドライブ装置2が接続されている。
【0016】
永久磁石式モータ1の固定子10は、円筒状の固定子鉄心11の内周側に形成した6つのスロット12を用いて2種類の回転磁界を発生できるように電機子巻線13が巻装してある。この電機子巻線13は分数スロット巻線であり、ドライブ装置2による相順の切り替えによって8極と4極の両方の回転磁界を発生させることができる。これにより、従来の極数変換誘導モータのような電機子巻線のΔ−Y結線の接続替えを機械的な電磁接触器で行う機械的機構、あるいは電機子巻線の接続替えを電子的に切り替えて8極と4極を作る機構(電子的な機構)が不要である。
【0017】
回転子20には、回転子鉄心21の中に若しくは周面に周方向に高保磁力(1600kA/m)の磁石(以下、固定磁力磁石と称す。)22H1,22H2と低保磁力(420kA/m)の磁石(以下、可変磁力磁石と称す。)22L1,22L2をそれぞれ2個ずつ隣り合うように配置した構成である。例えば、図2において左端から右回りに1周する間、固定磁力磁石22H2、可変磁力磁石22L1、可変磁力磁石22L2、固定磁力磁石22H1、固定磁力磁石22H2、…と並び、全周で固定磁力磁石22Hが4個ずつ、可変磁力磁石22Lも4個ずつ、それらが2個ずつ交互に並ぶように配置してある。そして低保磁力磁石22L1,22L2は、ドライブ装置2により短パルスのd軸電流を電機子巻線13に流すことで磁化方向を変えることができ、これによってNS極を相互に反転させる。ドライブ装置2が流す磁化のためのパルス的なd軸電流の大きさは、可変磁力磁石22L1,22L2の磁化方向を不可逆的に変化させるのに十分な大きさで、かつ、固定磁力磁石22H1,22H2を不可逆的に減磁することがない大きさである。尚、各図で永久磁石22H,22Lは回転子鉄心21の外周に貼り付けた構成で示しているが、永久磁石は回転子鉄心21の中の円周部近くに埋め込む、磁石埋め込み型の構成とすることもできる。
【0018】
ドライブ装置2は、モータ1の電機子巻線13に流すUVW3相電源の相順をU−V−WとU−W−Vの間で相互に変換することによりモータ全体の極数を8極と4極との間で極数変換する。このようにドライブ装置2に含まれるインバータIVで電機子巻線13に与える電圧の相順を切り替えるのみで、スイッチングによる巻線切り替えはしない。
【0019】
図3に可変磁力磁石22L1,22L2による磁極の形成を示す。固定磁力磁石22H1,22H2については、固定磁力磁石22H1はエアギャップ側がS、回転中心側がNであり、固定磁力磁石22H2は逆にエアギャップ側がN、回転中心側がSで固定されている。(以下、回転子20におけるN,Sの説明では、エアギャップ側に現れる磁極についてNあるいはSという。)そして、回転子20を4極から8極に切り替える場合は、図3(a)に示すように、電機子巻線13を8極の相順に切り替えて定格の数倍の正のd軸電流をパルス的に流し左側の可変磁力磁石22L1をN、右側の可変磁力磁石22L2をSに磁化させる。そして8極の相順で駆動電流を流すことで8極モータとして運転する。
【0020】
図3(b)に示すように、回転子20を8極から4極に切り替える場合は、8極の相順のままで上とは逆に負のd軸電流をパルス的に流し、左側の可変磁力磁石22LをS、右側の可変磁力磁石22L2をNに磁化させる。そして電機子巻線13に流す駆動電流の相順を4極に変えることで4極モータに極数変換する。
【0021】
あるいは、次のようにしても極数変換は可能である。回転子20を4極から8極に切り替える場合は、前記と同様にして図3(a)に示すように、電機子巻線13を8極の相順に切り替えて定格の数倍の正のd軸電流をパルス的に流し左側の可変磁力磁石22L1をN、右側の可変磁力磁石22L2をSに磁化させる。そして8極の相順で駆動電流を流すことで8極モータとして運転する。回転子20を8極から4極に切り替える場合は、前記の8極変換時のパルス電流の位相を変える。8極変換時のパルス電流の位相と180度ずれたパルス電流を流し、図3(b)のように左側の可変磁力磁石22LをS、右側の可変磁力磁石22L2をNに磁化させる。そして電機子巻線13に流す駆動電流の相順を4極に変えることで4極モータに極数変換する。
【0022】
さらに他の方法として、回転子20を8極から4極に変換する場合は、図3(a)の8極の回転子の状態で、電機子巻線13を4極の相順に切り替えて定格の数倍の正のd軸電流をパルス的に流し、図3(b)に示すように左側の可変磁力磁石22L1をS、右側の可変磁力磁石22L2をNに磁化させる。そして4極の相順で駆動電流を流すことで4極モータとして運転する。
【0023】
[極数変換特性]
実施例の諸元を図4に示す。この諸元のモータによる8極と4極の無負荷時の磁束密度分布を図5図6に示す。また、図7図8に8極と4極の無負荷時の誘起電圧波形を示す。このように、可変磁力磁石22L1,22L2の極性を変換することで8極から4極に極数変換していることが確認できる。
【0024】
図9に8極と4極の無負荷時の誘起電圧波形の調波成分を示す。8極での基本波成分の振幅値は223.4V、4極では182.7Vである。したがって、8極から4極に極数変換すると100%から82%まで誘起電圧を低下させることができる。これにより、8極から4極に切り替えることにより、より高速域まで弱め磁束制御無しに回転域を広げることができる。
【0025】
図10にトルク−電流位相特性を示す。8極の最大トルクは電流位相約90度で60Nm、4極の最大トルクは電流位相114度で44.3Nmでリラクタンストルク成分も併用している。8極の平均トルクは61.3Nm、4極の平均トルクは34.8Nmである。
【0026】
モータの極数を変更することで高速回転域での効率が改善される可能性を確認するために鉄損を解析した。図11に無負荷時の固定子の鉄損特性を示す。全運転領域で8極から4極に変換することで、鉄損が60%減少している。これより、鉄損が大きく、高トルクを必要としない高速域で8極から4極に変換することで鉄損が下げられるので、効率が向上する。
【0027】
本実施の形態の極数変換永久磁石式モータドライブシステムによれば、巻線切り替えを行わずに永久磁石の磁化方向を変化させて8極から4極に極数変換できる。これにより、高速域では8極から4極に極数変換することによって誘起電圧を低く抑えることができ、広い可変速運転範囲が得られ、鉄損も約60%低減できるので低速から高速までの広範囲での高効率運転ができる。
【0028】
[第2の実施の形態]
図12に示す第2の実施の形態の巻線切り替え無しの極数可変永久磁石式モータドライブシステムは、巻線切り替え無しで8極磁界と4極磁界を作る9スロットの巻線切り替え無し極数変換永久磁石式モータ1Aとそのドライブ装置2で構成されている。
【0029】
極数変換永久磁石式モータ1Aも、低速回転域では8極、中速から高速回転域では4極として動作させるものであり、固定子10Aと回転子20、この回転子20の中心に挿通された回転軸30で構成され、これに固定子10Aの電機子巻線の相順切り替えと交流給電を行うインバータIVと回転子20の回転位置を検出するエンコーダENとを含むドライブ装置2が接続されている。
【0030】
永久磁石式モータ1Aの固定子10Aは、円筒状の固定子鉄心11の内周側に形成した9つのスロット12を用いて2種類の回転磁界を発生できるように電機子巻線13Aが巻装してある。この電機子巻線13Aも分数スロット巻線であり、ドライブ装置2による相順の切り替えによって8極と4極の両方の回転磁界を発生させることができ、電機子巻線を構成する電機子コイルの接続を機械的あるいは電子的に切り替えて8極と4極を作る機構が不要である。
【0031】
本実施の形態における回転子20の構成は、図2に示した第1の実施の形態のものと同様であるので、図12において図2と共通する要素には同一の符号を付して示してある。低保磁力磁石22L1,22L2は、ドライブ装置2により短パルスのd軸電流を電機子巻線13Aに流すことで磁化方向を変えることによってNS極を相互に反転させる。
【0032】
ドライブ装置2は、モータ1の電機子巻線13Aに流すUVW3相電源の相順をU−V−WとU−W−Vの間で相互に変換することによりモータ全体の極数を8極と4極との間で極数変換する。これも第1の実施の形態のものと同様であり、インバータIVで電機子巻線13Aに与える電圧の相順を切り替えるのみで、機械的あるいは電子的な巻線切り替えは必要としない。
【0033】
図12は回転子20が8極の状態を示している。図12において真上の両側の固定磁力磁石22H1,22H2のうち左側の固定磁力磁石22H1はエアギャップ側にN極があり、その右側の固定磁力磁石22H2は逆にエアギャップ側にS極がある。真下の両側の固定磁力磁石22H1,22H2についても、真上の両側の固定磁力磁石22H1,22H2と180度対称に配置されている。そして、回転子20を4極から8極に切り替える場合は、電機子巻線13Aを8極の相順に切り替えて定格の数倍の正のd軸電流をパルス的に流し左上側の可変磁力磁石22L2をS、左下側の可変磁力磁石22L1をNに磁化させる。同様に右上側の可変磁力磁石22L2をN、右下側の可変磁力磁石22L1をSに磁化させる。そしてドライブ装置2によって8極の相順で駆動電流を流すことで8極モータとして運転する。
【0034】
図13に示すように、回転子20を8極から4極に切り替える場合は、ドライブ装置2によって、8極の相順のままで上とは逆の負のd軸電流をパルス的に流し、左上側の可変磁力磁石22L2をN、左下側の可変磁力磁石22L1をSに磁化させる。同様に右上側の可変磁力磁石22L2をS、右下側の可変磁力磁石22L1をNに磁化させる。そしてドライブ装置2により、電機子巻線13Aに流す駆動電流の相順を4極に変えることで4極モータに極数変換する。
【0035】
ここにおいても、第1の実施の形態によるのと同様の他の方法によっても、4極から8極への極数変換、またその逆の極数変換が可能である。
【0036】
本実施の形態の永久磁石式モータドライブシステムにあっても、巻線切り替えを行わずに永久磁石の磁化を変化させて8極から4極に極数変換できる。これにより、高速域では8極から4極に極数変換することによって誘起電圧を低くし、広い可変速運転範囲が得られるようになり、鉄損も低減でき、低速から高速までの広範囲での高効率運転ができる。
【0037】
[第3の実施の形態]
風力発電等の流体装置システムでは前記とは逆の特性が要求される。すなわち、低速回転域では低トルク、高速回転域では高トルクが要求される。このような用途でも、本発明は、前記と逆の特性ではあるが同様な作用によって従来に無い優れた特性が得られる。
【0038】
第3の実施の形態を図14図15に示す。各図において、第1の実施の形態と共通するあるいは類似する構成要素については同様のあるいは類似する符号を付して示してある。
【0039】
固定子10は3相18スロットの分数溝巻線の構成とし、8極と4極に変換する。コイル12の配置は8極主体のコイル配置とする。8極主体とは8極の時にコイルピッチは極ピッチに近く、4極の時にコイルピッチは短くなる配置である。逆にコイル12の配置を4極主体のコイル配置とすることもできる。4極主体とは4極の時にコイルピッチは極ピッチに近く、8極の時にコイルピッチは短くなる配置である。
【0040】
回転子20は、4個の高保磁力永久磁石(固定磁力磁石)22Hと4個の低保磁力永久磁石(可変磁力磁石)22Lを回転子鉄心21の外周部に設置した構成である。そして、固定磁力磁石22Hも可変磁力磁石22Lとも2個ずつ隣り合わせに配置し、全体で8個の永久磁石を配置している。
【0041】
図15に示すように、回転子20を8極から4極に変換するときには、丸印を付けた図において上左側の可変磁力磁石22Lを磁化してNからSに極性反転させ、上右側の可変磁力磁石22Lを磁化してSからNに極性反転させる。図外の下左側の可変磁力磁石22L、下右側の可変磁力磁石22Lについても同様である。回転子20を逆に4極から8極に変換する場合には、上と逆の磁化により極性反転させることになる。
【0042】
8極主体のコイル配置とした本実施の形態の回転電機における極数変換時のトルク特性を図16に示す。曲線51が8極負荷時のトルク特性、曲線53が4極負荷時のトルク特性を示し、直線52が8極時の平均トルク、直線54が4極時の平均トルクを示している。低速回転域で使用する8極モードではトルク51,52が大きく、高速回転域の4極モードではトルク53,54が小さくなる。電気自動車や電車などのモータに要求される定出力特性に近い特性が得られる。
【0043】
一方、4極主体のコイル配置とした本実施の形態の回転電機における極数変換時のトルク特性を図17に示す。曲線61が4極負荷時のトルク特性、曲線63が8極負荷時のトルク特性を示し、直線62が4極時の平均トルク、直線64が8極時の平均トルクを示している。低速回転域で使用する8極モードではトルク63,64が小さく、高速回転域の4極モードではトルク61,62が大きくなる。風力発電、海流発電、河川・排水用水力発電などの流体用発電機に要求される低減トルク特性に近い特性が得られる。
【0044】
尚、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、永久磁石式モータとそのドライブシステム、また永久磁石式発電機とそれによる発電システム等永久磁石式回転電機とそのドライブシステムに広く適用できる。また、回転子の可変磁力永久磁石の数、固定子のスロットの数と電機子コイルの数も変更可能である。さらに、上記の実施の形態では、回転子20は高保磁力の磁石(固定磁力磁石)22H1,22H2と低保磁力の磁石(可変磁力磁石)22L1,22L2の2種類を設置した構成にしたが、低保磁力の可変磁力磁石のみの構成も可能である。但し、永久磁石を磁化させるための磁界は、変化させたい極数と同じ極数の磁界を電流で形成することになる。
【符号の説明】
【0045】
1,1A 永久磁石式モータ
2 ドライブ装置
10 固定子
11 固定子鉄心
12 スロット
13,13A 電機子巻線
20 回転子
21 回転子鉄心
22H,22H1,22H2 固定磁力磁石
22L,22L1,22L2 可変磁力磁石
30 回転軸
IV インバータ
EN エンコーダ
図1
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図5
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図16
図17