(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202708
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】水陸両用車の車両制御装置
(51)【国際特許分類】
B60F 3/00 20060101AFI20170914BHJP
B63H 11/107 20060101ALI20170914BHJP
B63H 19/08 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
B60F3/00 B
B63H11/107
B63H19/08
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-247183(P2012-247183)
(22)【出願日】2012年11月9日
(65)【公開番号】特開2014-94657(P2014-94657A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2015年9月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078499
【弁理士】
【氏名又は名称】光石 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】230112449
【弁護士】
【氏名又は名称】光石 春平
(74)【代理人】
【識別番号】100102945
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100120673
【弁理士】
【氏名又は名称】松元 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100182224
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲三
(72)【発明者】
【氏名】青木 泰道
【審査官】
常盤 務
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−171363(JP,A)
【文献】
特開2009−262598(JP,A)
【文献】
実開平04−039991(JP,U)
【文献】
特表2006−525918(JP,A)
【文献】
特開2010−269764(JP,A)
【文献】
特開平07−165185(JP,A)
【文献】
特開平07−156878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60F 3/00
B63H 11/107
B63H 19/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陸上走行モードを選択したときに、駆動装置の出力を履帯へ伝えることにより前記履帯によって陸上を走行する陸上走行と、水上航行モードを選択したときに、前記駆動装置の出力を推進器へ伝えることで前記推進器により生成する噴流によって水上を航行する水上航行と、水際走行モードを選択したときに、前記駆動装置の出力を前記履帯と前記推進器へ伝えることにより前記履帯と前記推進器によって水際を走行する水際走行とを行うことが可能な水陸両用車の車両制御装置であって、
前記推進器により生成する噴流の排出方向を調整する噴流方向調整手段と、
前記水陸両用車の姿勢を検出する姿勢検出手段と、
前記水際走行モードを選択したときに、前記姿勢検出手段で検出された前記水陸両用車の姿勢に基づき、前記推進器による噴流が前記水陸両用車の後方で下方となるようにして、または、前記水陸両用車に旋回力が生じるようにして、前記噴流方向調整手段または前記推進器の少なくとも一方を前記水際走行が安定する方向へ制御する制御手段と
を備える
ことを特徴とする水陸両用車の車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された水陸両用車の車両制御装置であって、
前記姿勢検出手段が、前記水陸両用車のピッチ角変位量を検出可能であり、
前記制御手段が、前記姿勢検出手段で検出されたピッチ角変位量がピッチ角成分の設定値以上であるときに、前記推進器により生成される噴流の排出方向が当該水陸両用車の後方側にて下方向となるように前記噴流方向調整手段を制御する
ことを特徴とする水陸両用車の車両制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載された水陸両用車の車両制御装置であって、
前記姿勢検出手段が前記水陸両用車のロール角変位量を検出可能であり、
前記推進器が、当該推進器により生成する噴流を前記水陸両用車の後部の1箇所以上から排出可能な機器であり、
前記制御手段が、前記姿勢検出手段で検出されたロール角変位量がロール角成分の設定値以上であるときに、前記水陸両用車に旋回力が生じるように前記噴流方向調整手段を制御する
ことを特徴とする水陸両用車の車両制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載された水陸両用車の車両制御装置であって、
前記姿勢検出手段が前記水陸両用車のロール角変位量を検出可能であり、
前記推進器が、当該推進器により生成する噴流を前記水陸両用車の後部における少なくとも左右方向複数箇所から排出可能な機器であり、
前記制御手段が、前記姿勢検出手段で検出されたロール角変位量がロール角成分の設定値以上であるときに、前記水陸両用車に旋回力が生じるように前記推進器を制御する
ことを特徴とする水陸両用車の車両制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載された水陸両用車の車両制御装置であって、
前記姿勢検出手段が、前記水陸両用車のピッチ角変位量および前記水陸両用車のロール角変位量を検出可能であり、
前記推進器が、当該推進器により生成する噴流を前記水陸両用車の後部の1箇所以上から排出可能な機器であり、
前記制御手段が、前記姿勢検出手段で検出されたピッチ角変位量がピッチ角成分の設定値以上であるときに、前記推進器により生成される噴流の排出方向が当該水陸両用車の後方側にて下方向となるように前記噴流方向調整手段を制御し、前記姿勢検出手段で検出されたロール角変位量がロール角成分の設定値以上であるときに、前記水陸両用車に旋回力が生じるように前記噴流方向調整手段を制御する
ことを特徴とする水陸両用車の車両制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載された水陸両用車の車両制御装置であって、
前記姿勢検出手段が、前記水陸両用車のピッチ角変位量および前記水陸両用車のロール角変位量を検出可能であり、
前記推進器が、当該推進器により生成する噴流を前記水陸両用車の後部における少なくとも左右方向複数箇所から排出可能な機器であり、
前記制御手段が、前記姿勢検出手段で検出されたピッチ角変位量がピッチ角成分の設定値以上であるときに、前記推進器により生成される噴流の排出方向が当該水陸両用車の後方側にて下方向となるように前記噴流方向調整手段を制御し、前記姿勢検出手段で検出されたロール角変位量がロール角成分の設定値以上であるときに、前記水陸両用車に旋回力が生じるように前記推進器を制御する
ことを特徴とする水陸両用車の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水陸両用車の車両制御装置に関し、詳細には、水際における水陸両用車の挙動あるいは運動を安定化できる水陸両用車の車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水陸両用車は、水陸両用車に装備される履帯によって陸上を走行する陸上走行モードと、水陸両用車に装備される推進器によって水上を航行する水上航行モードと、前記履帯および前記推進器の両方によって、水上から陸上へ向けて水際を走行する水際(上陸)走行モードとの3つのモードでの走行が可能になっている。
【0003】
水際走行モードでの走行につき詳述すると、
図8に示すように、水際101の水底102が水陸両用車200の進行方向A11に延在する傾斜面102aを持つ地形で構成される場合には、水陸両用車200の車両制御装置(図示せず)が水陸両用車200に装備されるスプロケット21の回転駆動により当該水陸両用車200に装備される履帯22を駆動させると共に、前記水陸両用車200に装備される推進器(図示せず)の駆動により噴流を当該水陸両用車200の後方へ直線状に生じさせることで、前記水陸両用車200が、前記水際101の水底102の傾斜面102a上を陸側に向かって走行するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−215066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した水陸両用車は、水際走行モードで走行する際、水際の水底の地形によっては、安定な姿勢で走行することができず、走行可能な地形が限られてしまう可能性があった。
【0006】
例えば、
図9Aに示すように、水際101の水底103が水陸両用車200の進行方向A12に対して段差103aのある地形で構成される場合には、前記車両制御装置が前記スプロケット21および前記推進器を制御して前記スプロケット21の回転駆動により前記履帯22を駆動させると共に、前記推進器の駆動により噴流を当該水陸両用車200の後方へ直線状に生じさせても、前記水陸両用車200が安定な姿勢を保持することができず、前記水陸両用車200の後部200b側が矢印B11の方向へ傾き、前記段差103aを登りきることができない可能性があった。
【0007】
また、
図9Bに示すように、水際101の水底104が水陸両用車200の進行方向A13とは異なる方向に延在する傾斜面104aを持つ地形で構成される場合には、前記車両制御装置が前記スプロケットおよび前記推進器を制御して前記スプロケットの回転駆動により前記履帯を駆動させると共に、前記推進器の駆動により噴流を当該水陸両用車200の後方へ直線状に生じさせても、前記水陸両用車200が安定な姿勢を保持することができず、前記傾斜面104aの下方側をなす前記水陸両用車200の側部200c側が矢印B12の方向へ傾き、前記傾斜面104aを登りきることができない可能性があった。
【0008】
なお、上記特許文献1には、車両の挙動あるいは運動を安定化できる車両運動制御システムについて記載されているが、水際を走行するときに車両の挙動あるいは運動を安定化できる水陸両用車の車両制御装置については記載されていない。
【0009】
このようなことから、本発明は、前述した課題を解決するために為されたものであって、水際の水底が段差のある地形や進行方向とは異なる方向に延在する傾斜面を持つ地形で構成される場合であっても、安定な姿勢で走行することができる水陸両用車の車両制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決する第1の発明に係る水陸両用車の車両制御装置は、陸上走行モードを選択したときに、駆動装置の出力を履帯へ伝えることにより前記履帯によって陸上を走行する陸上走行と、水上航行モードを選択したときに、前記駆動装置の出力を推進器へ伝えることで前記推進器により生成する噴流によって水上を航行する水上航行と、水際走行モードを選択したときに、前記駆動装置の出力を前記履帯と前記推進器へ伝えることにより前記履帯と前記推進器によって水際を走行する水際走行とを行うことが可能な水陸両用車の車両制御装置であって、前記推進器により生成する噴流の排出方向を調整する噴流方向調整手段と、前記水陸両用車の姿勢を検出する姿勢検出手段と、前記水際走行モードを選択したときに、前記姿勢検出手段で検出された前記水陸両用車の姿勢に基づき、
前記推進器による噴流が前記水陸両用車の後方で下方となるようにして、または、前記水陸両用車に旋回力が生じるようにして、前記噴流方向調整手段または前記推進器の少なくとも一方を前記
水際走行が安定する方向へ制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
上述した課題を解決する第2の発明に係る水陸両用車の車両制御装置は、前述した第1の発明に係る水陸両用車の車両制御装置であって、前記姿勢検出手段が、前記水陸両用車のピッチ角変位量を検出可能であり、前記制御手段が、前記姿勢検出手段で検出されたピッチ角変位量がピッチ角成分の設定値以上であるときに、前記推進器により生成される噴流の排出方向が当該水陸両用車の後方側にて下方向となるように前記噴流方向調整手段を制御することを特徴とする。
【0012】
上述した課題を解決する第3の発明に係る水陸両用車の車両制御装置は、前述した第1の発明に係る水陸両用車の車両制御装置であって、前記姿勢検出手段が前記水陸両用車のロール角変位量を検出可能であり、前記推進器が、当該推進器により生成する噴流を前記水陸両用車の後部の1箇所
以上から排出可能な機器であり、前記制御手段が、前記姿勢検出手段で検出されたロール角変位量がロール角成分の設定値以上であるときに、前記水陸両用車に旋回力が生じるように前記噴流方向調整手段を制御することを特徴とする。
【0013】
上述した課題を解決する第4の発明に係る水陸両用車の車両制御装置は、前述した第1の発明に係る水陸両用車の車両制御装置であって、前記姿勢検出手段が前記水陸両用車のロール角変位量を検出可能であり、前記推進器が、当該推進器により生成する噴流を前記水陸両用車の後部における少なくとも左右方向
複数箇所から排出可能な機器であり、前記制御手段が、前記姿勢検出手段で検出されたロール角変位量がロール角成分の設定値以上であるときに、前記水陸両用車に旋回力が生じるように前記推進器を制御することを特徴とする。
【0014】
上述した課題を解決する第5の発明に係る水陸両用車の車両制御装置は、前述した第1の発明に係る水陸両用車の車両制御装置であって、前記姿勢検出手段が、前記水陸両用車のピッチ角変位量および前記水陸両用車のロール角変位量を検出可能であり、前記推進器が、当該推進器により生成する噴流を前記水陸両用車の後部の1箇所
以上から排出可能な機器であり、前記制御手段が、前記姿勢検出手段で検出されたピッチ角変位量がピッチ角成分の設定値以上であるときに、前記推進器により生成される噴流の排出方向が当該水陸両用車の後方側にて下方向となるように前記噴流方向調整手段を制御し、前記姿勢検出手段で検出されたロール角変位量がロール角成分の設定値以上であるときに、前記水陸両用車に旋回力が生じるように前記噴流方向調整手段を制御することを特徴とする。
【0015】
上述した課題を解決する第6の発明に係る水陸両用車の車両制御装置は、前述した第1の発明に係る水陸両用車の車両制御装置であって、前記姿勢検出手段が、前記水陸両用車のピッチ角変位量および前記水陸両用車のロール角変位量を検出可能であり、前記推進器が、当該推進器により生成する噴流を前記水陸両用車の後部における少なくとも左右方向
複数箇所から排出可能な機器であり、前記制御手段が、前記姿勢検出手段で検出されたピッチ角変位量がピッチ角成分の設定値以上であるときに、前記推進器により生成される噴流の排出方向が当該水陸両用車の後方側にて下方向となるように前記噴流方向調整手段を制御し、前記姿勢検出手段で検出されたロール角変位量がロール角成分の設定値以上であるときに、前記水陸両用車に旋回力が生じるように前記推進器を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る水陸両用車の車両制御装置によれば、水際の水底が段差のある地形や進行方向とは異なる方向に延在する傾斜面を持つ地形で構成される場合であっても、安定な姿勢で走行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る水陸両用車の車両制御装置を実施する形態の一例を示すブロック図である。
【
図2A】前記車両制御装置を備えた水陸両用車の一例を示す概略側面図である。
【
図2B】前記車両制御装置を備えた水陸両用車の一例を示す概略後面図である。
【
図3A】前記水陸両用車の説明図であり、前記水陸両用車が備える推進器による噴流方向を調整しないときの状態を示す図である。
【
図3B】前記水陸両用車の説明図であり、前記水陸両用車が備える推進器による噴流方向を調整したときの状態を示す図である。
【
図4】本発明に係る水陸両用車の車両制御装置の第1の実施例による水際走行時のフローチャート図である。
【
図5】前記車両制御装置を備えた水陸両用車が水際を走行するときの説明図であって、水際の段差を登りきる前の状態と前記水際の段差を登りきった後の状態を示す。
【
図6】本発明に係る水陸両用車の車両制御装置の第2の実施例による水際走行時のフローチャート図である。
【
図7】前記車両制御装置を備えた水陸両用車が水際を走行するときの説明図であって、水際の傾斜面を登りきる前の状態と前記水際の傾斜面を登りきった後の状態を示す。
【
図8】従来の車両制御装置を備えた水陸両用車が水際にて傾斜面のある水底を走行する場合の説明図である。
【
図9A】従来の車両制御装置を備えた水陸両用車が水際にて段差のある水底を走行する場合の説明図である。
【
図9B】従来の車両制御装置を備えた水陸両用車が水際にて進行方向と異なる方向に傾斜面のある水底を走行する場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る水陸両用車の車両制御装置の各実施例について図面に基づいて説明するが、本発明は、図面に基づいて説明する以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0019】
[実施例1]
本発明の第1の実施例に係る水陸両用車の車両制御装置について
図1〜
図5に基づいて説明する。
【0020】
水陸両用車1は、
図1〜
図3に示すように、車両本体10に設けられた走行装置20と、前記車両本体10に設けられた推進器11とを備える。前記走行装置20は、エンジンなどの駆動装置(図示せず)により回転駆動されるスプロケット21を備えると共に、前記スプロケット21により回転駆動される履帯22とを備える。
【0021】
前記推進器11は、前記車両本体10の下面部10cと後部10bを連通し、内部を水などの流体が流通可能な流体通路12内に配置されたプロペラ13と、前記プロペラ13が先端部側に設けられたプロペラ軸14とを備える。前記プロペラ軸14は基端部側が前記駆動装置に連結され、回転駆動可能に前記車両本体10に設けられている。よって、前記プロペラ軸14の回転駆動により前記プロペラ13が回転して噴流が生じ当該噴流が前記水陸両用車1の後部1bへ排出されることになる。
【0022】
前記水陸両用車
1は、流体通路12の後部側開口部12b近傍に設けられ、前記噴流の排出方向を調整する噴流方向調整器15を備える。よって、前記噴流方向調整器15の位置を調整することで、噴流方向が調整可能になっている。
【0023】
例えば、
図3Aに示すように、前記噴流方向調整器15を制御しない場合には、当該噴流調整器15が前記流体通路12の前記後部側開口部12bから退避した位置に位置づけられることになり、推進器11により生成する噴流F1が前記水陸両用車1の後方に向けて直線状で生じることになる。また、
図3Bに示すように、前記噴流方向調整器15を制御して当該噴流方向調整器15による開口部を下方側へ位置づけることで、前記推進器11により生成する噴流F2が前記水陸両用車1の後方にて下方向に生じることになる。
【0024】
つまり、前記水陸両用車1は、前記陸上走行モードが選択されると、前記駆動装置の出力が前記スプロケット21に伝達し、当該スプロケット21を回転駆動して前記履帯22を回転駆動することで、陸上走行することができるようになっている。
【0025】
前記水陸両用車1は、前記水上航行モードが選択されると、前記駆動装置の出力が前記推進器11の前記プロペラ軸14に伝達して当該プロペラ軸14の回転により前記プロペラ13を回転駆動することで噴流が生成し、当該噴流を水陸両用車1の後方に向かって排出することで、水上航行することができるようになっている。
【0026】
前記水陸両用車1は、前記水際走行モードが選択されると、前記駆動装置の出力を前記スプロケット21および前記推進器11に伝達し、前記スプロケット21を回転駆動して前記履帯22を回転駆動する一方、前記推進器11を回転駆動して噴流を生成することで、水際(上陸)走行することができるようになっている。
【0027】
前記水陸両用車1は、当該水陸両用車1の姿勢(例えば、ロール角、ピッチ角など)を検出する姿勢検出器31を備える。前記姿勢検出器31として、例えばジャイロセンサを用いることができる。前記ジャイロセンサは、水陸両用車1の前後方向の回転であるピッチ角や水陸両用車の左右方向の回転であるロール角などを検出可能なセンサである。前記姿勢検出器31は、制御装置30の入力部に電気的に接続している。前記制御装置30は、前記姿勢検出器31で検出された水陸両用車1の姿勢データ(例えば、ピッチ角変位量)と設定値に基づき、水際の水底の地形を判定し、水際の水底が段差のある地形で構成されると判定したときに、噴流方向調整器15を制御し、当該噴流方向調整器15を所定の箇所に位置づけている。これにより、前記噴流方向が前記水陸両用車1の後方にて下方向となり、前記水陸両用車1の後部1b側を上方へ押し上げる力を生じさせることで、前記履帯22の回転駆動により前記水陸両用車1が前記段差を登りきることができる。
【0028】
このような本実施例においては、前記噴流方向調整器15等が噴流方向調整手段を構成し、前記姿勢検出器31等が姿勢検出手段を構成し、前記制御装置30等が制御手段を構成している。
【0029】
次に、前述した水陸両用車の車両制御装置を備える前記水陸両用車1にて、水際を走行する水際走行モードを選択したときの当該車両制御装置による前記水陸両用車1の運動制御について、
図4および
図5に基づき説明する。
【0030】
前記水上航行モードで水上を航行している前記水陸両用車1が水際に接近し水際走行モードが選択されると(水際走行選択工程S11)、前記水陸両用車1に装備される前記姿勢検出器31により車両姿勢としてピッチ角変位量P1を検出する(車両姿勢検出工程S12)。
【0031】
続いて、前記姿勢検出器31により検出したピッチ角変位量P1がピッチ角成分の設定値P2以上であるかどうかを判定する(ピッチ角変位量判定工程S13)。前記ピッチ角変位量判定工程S13にて、前記ピッチ角変位量P1が前記設定値P2より小さいと判定したときには、前記噴流方向調整器15を制御せずに、つまり、前記噴流方向調整器15による噴流方向の調整(変更)を行わずに、前記走行装置20及び前記推進器11を制御している(走行装置及び推進器の制御工程S15)。よって、前記駆動装置の出力は、前記スプロケット21に伝達し当該スプロケット21の回転駆動により前記履帯22が回転駆動すると共に、前記推進器11に伝達し前記プロペラ軸14が回転駆動し前記プロペラ13の回転により生成した噴流が前記水陸両用車1の後方にて直線状をなすことから、当該水陸両用車1の前方向への推進力が当該水陸両用車1に作用することになる。つまり、前記車両制御装置が、水際の水底が、当該水陸両用車1の後部1b側を上方へ向けて押し上げる推進力が必要となる段差のある地形で構成されていないと判断し、前記水陸両用車1は、水際の水底が、水陸両用車1の進行方向に延在する傾斜面を持つ地形で構成される場合と同様に、水際を走行することになる。
【0032】
他方、前記ピッチ角変位量判定工程S13にて、ピッチ角変位量P1がピッチ角成分の設定値P2以上であると判定したときには、前記水陸両用車1の後部1b側を上方へ押し上げる推進力が生じるように、例えば、前記推進器11による噴流が下方となるように前記噴流方向調整器15を制御し(噴流方向制御工程S14)当該噴流方向調整器15を所定の箇所に位置づけ、前記走行装置20及び前記推進器11を制御している(走行装置及び推進器の制御工程S15)。これにより、前記駆動装置の出力は、前記スプロケット21に伝達し当該スプロケット21の回転駆動により前記履帯22が回転駆動すると共に、前記推進器11に伝達し前記プロペラ軸14が回転駆動し前記プロペラ13の回転により生成した噴流が前記噴流方向調整器15により前記水陸両用車1の後方にて下方向をなすことから、
図5に示すように、当該水陸両用車1の後部1b側を上方に押し上げる推進力が当該水陸両用車1に作用することになる。つまり、前記車両制御装置が、水際101の水底103が、当該水陸両用車1の後部1b側を上方へ向けて押し上げる推進力が無いと登りきることができない段差103aのある地形で構成されると判断し、前記水陸両用車1は、前記履帯22の回転駆動と、前記水陸両用車1の後方側での下方向への噴流により、前記水際101の前記段差103aを走行することになる。
【0033】
したがって、本実施例に係る水陸両用車の車両制御装置によれば、水際を走行する際に、前記水陸両用車1のピッチ角変位量を検出し、ピッチ角変位量がピッチ角成分の設定値以上であると判定したときに、前記推進器11により生成する噴流を前記水陸両用車1の後方にて下方向となるように噴流方向調整器15を制御することで、上方へ押し上げる力が前記水陸両用車1の後部1b側に作用すると共に、前記スプロケット21の回転駆動により前記履帯22を回転駆動することで当該水陸両用車1が進行方向へ走行することになる。その結果、前記水際101の前記水底103に前記段差103aのある地形で構成される場合であっても、前記水陸両用車1は安定な姿勢で前記段差103aを走行することができる。
【0034】
[実施例2]
本発明の第2の実施例に係る水陸両用車の車両制御装置について、
図1、
図6、および
図7に基づいて説明する。
本実施例では、上述した第1の実施例に係る水陸両用車の車両制御装置において、ピッチ角変位量に基づく姿勢制御を行う代わりに、ロール角変位量に基づき姿勢制御を行っている。つまり、本実施例に係る水陸両用車の車両制御装置は、前記第1の実施例に係る水陸両用車の車両制御装置が具備する制御装置による制御フローを変更したものであって、それ以外は当該第1の実施例に係る水陸両用車の車両制御装置と同じ構成をなしている。
なお、前述した実施例の場合と同様な部分については、前述した実施例の説明で用いた符号と同様な符号を用いることにより、前述した実施例での説明と重複説明を省略する。
【0035】
水陸両用車1は、
図1および
図6に示すように、前記制御装置30は、前記姿勢検出器31で検出された水陸両用車1の姿勢データ(例えば、ロール角変位量)と設定値に基づき、水際の水底の地形を判定し、水際の水底が進行方向と異なる方向に延在する傾斜面のある地形で構成されると判定したときに、前記水陸両用車1に旋回力が生じるように前記推進器11を制御している。これにより、前記水陸両用車1に旋回力が生じ、前記水陸両用車1の前部側が前記傾斜面の上方となるように当該水陸両用車1が旋回し、前記傾斜面上にて前記水陸両用車1の姿勢が安定することになることから、前記水陸両用車1が前記傾斜面を登りきることができる。
【0036】
次に、前述した水陸両用車の車両制御装置を備える前記水陸両用車1にて、水際を走行する水際走行モードを選択したときの当該車両制御装置による前記水陸両用車1の運動制御について、
図6および
図7に基づき説明する。
【0037】
前記水上航行モードで水上を航行している前記水陸両用車1が水際に接近し水際走行モードが選択されると(水際走行選択工程S11)、前記水陸両用車1に装備される前記姿勢検出器31により車両姿勢としてロール角変位量R1を検出する(車両姿勢検出工程S22)。
【0038】
続いて、前記姿勢検出器31により検出したロール角変位量R1がロール角成分の設定値R2以上であるかどうかを判定する(ロール角変位量判定工程S23)。前記ロール角変位量判定工程S23にて、前記ロール角変位量R1が前記設定値R2より小さいと判定したときには、左右の推進器11の動力分配を制御せずに、前記走行装置20及び前記推進器11を制御している(走行装置及び推進器の制御工程S25)。つまり、左右の推進器11にあっては、当該左右の動力分配を同一にし、前記駆動装置の出力を前記左右の推進器11にて同一となるように伝達している。よって、前記駆動装置の出力は、前記スプロケット21に伝達し当該スプロケット21の回転駆動により前記履帯22が回転駆動すると共に、前記推進器11に伝達し前記プロペラ軸14が回転駆動し前記プロペラ13の回転により生成した噴流が前記水陸両用車1の後方にて直線状をなすことから、当該水陸両用車1の前方向への推進力が当該水陸両用車1に作用することになる。つまり、前記車両制御装置が、水際の水底が、当該水陸両用車1の後部1b側を旋回する旋回力が必要となる傾斜面のある地形で構成されていないと判断し、前記水陸両用車1は、水際の水底が、水陸両用車1の進行方向に延在する傾斜面を持つ地形で構成される場合と同様に、水際を走行することになる。
【0039】
他方、前記ロール角変位量判定工程S23にて、前記ロール角変位量R1がロール角成分の設定値R2以上であると判定したときには、前記水陸両用車1に旋回力が生じるように前記左右の推進器11を制御し(旋回力制御工程S24)、前記走行装置20及び前記推進器11を制御している(走行装置及び推進器の制御工程S25)。これにより、前記駆動装置の出力は、前記スプロケット21に伝達し当該スプロケット21の回転駆動により前記履帯22が回転駆動すると共に、
図7に示すように、前記左右の推進器11に伝達し前記左右の推進器11の駆動により左右で異なる強さの噴流F3,F4を生じさせることから、前記水陸両用車1に旋回力を作用させることになる。つまり、前記車両制御装置が、水際101の水底104が、前記水陸両用車1を旋回させる旋回力が無いと登りきることができない、進行方向とは異なる方向に延在する傾斜面104aを持つ地形で構成されると判断し、前記水陸両用車1は、前記履帯22の回転駆動と、左右で異なる噴流強さとなるように前記左右の推進器11の制御により、前記水際101の前記傾斜面104aを走行することになる。
【0040】
したがって、本実施例に係る水陸両用車の車両制御装置によれば、水際を走行する際に、前記水陸両用車1のロール角変位量を検出し、ロール角変位量がロール角成分の設定値以上であると判定したときに、前記左右の推進器11による噴流強さを左右で異なるように当該左右の推進器11を制御することで、旋回する力が前記水陸両用車1に作用すると共に、前記スプロケット21の回転駆動により前記履帯22を回転駆動することで当該水陸両用車1が、前記水際101の前記水底104に進行方向と異なる方向に延在する傾斜面104
aのある地形で構成される場合であっても、前記水陸両用車1は安定な姿勢で前記傾斜面104aを走行することができる。
【0041】
なお、上記では、姿勢検出器31で検出したピッチ角変位量に基づき噴流方向調整器15を制御した水陸両用車の車両制御装置、姿勢検出器31で検出したロール角変位量に基づき左右で異なる強さの噴流を生じさせるように左右の推進器11,11を制御した水陸両用車の車両制御装置について説明したが、前記姿勢検出器31で前記水陸両用車1のロール角変位量と前記水陸両用車1のピッチ角変位量の両方を検出し、水際走行モードを選択したときに、前記姿勢検出器31で検出したピッチ角変位量がピッチ角成分の設定値以上であると判定した場合に、前記推進器11により生成される噴流の排出方向が当該水陸両用車1の後方にて下方向となるように前記噴流方向調整器15を制御し、前記姿勢検出器31で検出したロール角変位量がロール角成分の設定値以上であると判定した場合に、左右で異なる強さの噴流によって前記水陸両用車1に旋回力が生じるように前記左右の推進器11,11を制御する制御装置を備える水陸両用車の車両制御装置とすることも可能である。このような水陸両用車の車両制御装置によれば、上述した第1および第2の実施例に係る水陸両用車の車両制御装置と同様、水際が段差のある地形や水陸両用車の進行方向とは異なる方向に傾斜面のある地形で構成される場合であっても、水際での水陸両用車の姿勢の安定化を図ることができる。
【0042】
上記では、水陸両用車の後部における左右方向2箇所から噴流を排出することができる推進器11を備える水陸両用車の車両制御装置について説明したが、水陸両用車の後部における左右3箇所以上から噴流を排出することができる推進器を備える水陸両用車の車両制御装置とすることも可能である。また、水陸両用車の後部における左右方向1箇所から噴流を排出することができる推進器と、前記水陸両用車に旋回力が生じるように前記噴流を旋回方向へ調整することが可能な噴流方向調整器とを備える水陸両用車の車両制御装置とすることも可能である。これらの場合であっても、上述した水陸両用車の車両制御装置と同様な作用効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係る水陸両用車の車両制御装置は、水際の水底が段差のある地形や進行方向とは異なる方向に延在する傾斜面のある地形で構成される場合であっても、安定な姿勢で走行することができることから、走行可能な地形範囲が拡大し、極めて有益に利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 水陸両用車
1a 前部
10 車両本体
11 推進器
12 流体通路
12a 前部側開口部
13 プロペラ
14 プロペラ軸
15 噴流方向調整器
20 走行装置
21 スプロケット(動輪)
22 履帯
30 制御装置
31 姿勢検出器
101 水際
102 水底
102a 傾斜面
103 水底
103a 段差
104 水底
104a 傾斜面
A1,A2 進行方向
B2 旋回方向
F1 噴流方向(後方向)
F2 噴流方向(下方向)
S11 水際走行選択工程
S12 車両姿勢検出工程
S13 ピッチ角変位量判定工程
S14 噴流方向制御工程
S15 走行装置及び推進器の制御工程
S22 車両姿勢検出工程
S23 ロール角変位量判定工程
S24 旋回力制御工程
S25 走行装置及び推進器の制御工程