【実施例1】
【0022】
先ず、本発明の実施例1に係る水陸両用車の構造について、
図1および
図2を参照して説明する。
【0023】
本実施例の水陸両用車における動力伝達部は、
図1に示すように、動力源であるエンジン1と、エンジン1で発生させた動力を分配する動力分配装置2と、陸上を走行するための車輪変速機3および車輪4a、4bと、水上を航行するためのプロペラ変速機5a、5bおよびプロペラ6a、6bとを備えている。
【0024】
エンジン1には、動力伝達シャフト10を介して動力分配装置2が連結されている。動力分配装置2には、第一の動力分配シャフト20を介して、先端に車輪4a、4bを設けた車輪軸30a、30bを回転自在に支持する車輪変速機3が連結されている。更に、動力分配装置2には、第二の動力分配シャフト40a、40bを介して、先端にプロペラ6a、6bを設けたプロペラ軸50a、50bを回転自在に支持するプロペラ変速機5a、5bが連結されている。
【0025】
エンジン1で発生させた動力は、動力伝達シャフト10を介して動力分配装置2に伝えられ、動力分配装置2において第一の動力分配シャフト20と第二の動力分配シャフト40a、40bに分けて伝達される。第一の動力分配シャフト20に伝えられた動力は、車輪変速機3を介して車輪軸30a、30bおよび車輪4a、4bを回転させ、水陸両用車の陸上走行を可能にする。第二の動力分配シャフト40a、40bに伝えられた動力は、プロペラ変速機5a、5bを介してプロペラ軸50a、50bおよびプロペラ6a、6bを回転させ、水陸両用車の水上航行を可能にする。
【0026】
動力分配装置2には、第一の動力分配シャフト20に対応する図示しない第一のクラッチ機能および第二の動力分配シャフト40a、40bに対応する図示しない第二のクラッチ機能が備えられている。第一のクラッチ機能を作動させることにより、エンジン1から車輪変速機3への動力伝達を断ち、第二のクラッチ機能を作動させることにより、エンジン1からプロペラ変速機5a、5bへの動力伝達を断つことができる。更に、水陸両用車には図示しない制御装置が備えられ、動力分配装置2における図示しない第一のクラッチ機能および第二のクラッチ機能の作動を制御している。
【0027】
本実施例の水陸両用車においては、図示しない制御装置の制御モードとして、水陸両用車が陸上を走行する陸上走行モード、水陸両用車が水上を航行する水上航行モード、水陸両用車が水上から陸上へ移行する上陸モードの三種類がある。なお、本実施例の水陸両用車には図示しないモード切換スイッチが備えられ、水陸両用車の運転者がモード切換スイッチを手動操作することにより、水陸両用車における図示しない制御装置の制御モードを切り換える。あるいは、制御により自動的にモード切換を行う方式であっても良い。図示しない制御装置は、運転者あるいは自動制御によって切り換えられた陸上走行モード、水上航行モード、上陸モードのいずれかの制御モードに対応するように、動力分配装置2の制御を行う。
【0028】
図示しない制御装置の各制御モードにおける動力分配装置2の制御は、以下の通りである。陸上走行モードにおいては、図示しない第二のクラッチ機能を作動させ、エンジン1からプロペラ変速機5a、5bへの動力伝達を断ち、エンジン1から車輪変速機3へのみ動力を伝達する。水上航行モードにおいては、図示しない第一のクラッチ機能を作動させ、エンジン1から車輪変速機3への動力伝達を断ち、エンジン1からプロペラ変速機5a、5bへのみ動力を伝達する。上陸モードにおいては、エンジン1から車輪変速機3およびプロペラ変速機5a、5bへ動力を伝達する。
【0029】
車輪変速機3は、クラッチ機能を備えた変速機であり、水陸両用車の陸上走行における発進時に使用する低速ギヤから段階的に複数の変速ギヤを組んだものである。陸上走行モードにおいては、水陸両用車の車速に応じて図示しないギヤを変えることにより、車輪4a、4bを回転させるために必要なトルクを制御し、エンジン1における負荷を低減させることができる。また、上陸モードにおいては、図示しない低速ギヤを使用することにより、車輪4a、4bを回転させるために必要なトルクを制御し、エンジン1における負荷を低減させることができる。
【0030】
図2は、車輪変速機3およびプロペラ変速機5a、5bを備えていない従来の水陸両用車および本実施例に係る水陸両用車の前述した三種類の制御モードにおけるエンジン回転数とトルクとの関係を示すグラフである。
【0031】
図2の線aは、従来の水陸両用車の陸上走行モードにおけるエンジン回転数とトルクとの関係を示し、
図2の線bは、従来の水陸両用車の水上航行モードにおけるエンジン回転数とトルクとの関係を示し、
図2の線cは、従来の水陸両用車の上陸モードにおけるエンジン回転数とトルクとの関係を示す。
【0032】
図2の線Aは、本実施例に係る水陸両用車の陸上走行モードにおけるエンジン回転数とトルクの関係を示し、
図2の線Bは、本実施例に係る水陸両用車の水上航行モードにおけるエンジン回転数とトルクとの関係を示し、
図2の線Cは、本実施例に係る水陸両用車の上陸モードにおけるエンジン回転数とトルクとの関係を示す。
【0033】
図2に示すように、従来の水陸両用車において車輪を回転させるために必要なトルク(
図2における線a)に比べ、本実施例のように車輪変速機3を備えた水陸両用車において車輪4a、4bを回転させるために必要なトルク(
図2における線A)は小さい。
【0034】
なお、車輪変速機3に図示しないクラッチ機能を備えたことにより、陸上走行モードまたは上陸モードにおいて、エンジン1から動力分配装置2を介して車輪変速機3へ動力伝達されている場合においても、車輪変速機3のクラッチ機能を作動させ、車輪4a、4bへの動力伝達を断つことができる。
【0035】
プロペラ変速機5a、5bは、図示しないクラッチ機能を備えた変速機であり、水陸両用車の水上航行における発進時に使用する低速ギヤから段階的に複数の変速ギヤを組んだものである。水上航行モードにおいては、水陸両用車の車速に応じて図示しないギヤを変えることにより、プロペラ6a、6bを回転させるために必要なトルクを制御し、エンジン1における負荷を低減させることができる。また、上陸モードにおいては、図示しない低速ギヤを使用することにより、プロペラ6a、6bを回転させるために必要なトルクおよびエンジン1における負荷を低減させることができる。
【0036】
図2に示すように、従来の水陸両用車においてプロペラを回転させるために必要なトルク(
図2における線b)に比べ、本実施例のようにプロペラ変速機5a、5bを備えた水陸両用車においてプロペラ6a、6bを回転させるために必要なトルク(
図2における線B)は小さい。
【0037】
なお、プロペラ変速機5a、5bに図示しないクラッチ機能を備えたことにより、水上航行モードまたは上陸モードにおいて、エンジン1から動力分配装置2を介してプロペラ変速機5a、5bへ動力伝達されている場合においても、プロペラ変速機5a、5bのクラッチ機能を作動させ、プロペラ6a、6bへの動力伝達を断つことができる。
【0038】
もちろん、車輪変速機3およびプロペラ変速機5a、5bの構造は本実施例に限定されず、例えば、歯車以外の機構により変速比を連続的に変化させる無段変速機としても良い。また、陸上走行における発進時に使用する車輪変速機3の図示しない低速ギヤ、または水上航行における発進時に使用するプロペラ変速機5a、5bの図示しない低速ギヤとは別に、上陸専用の超低速ギヤを追加して組んでも良い。これにより、上陸時に車輪4a、4bおよびプロペラ6a、6bを回転させるために必要なトルクおよびエンジン1における負荷をより低減させることができる。
【0039】
また、水上航行時における動力伝達部の水密を図るため、車輪変速機3およびプロペラ変速機5a、5bを水密構造にすることが好ましく、例えば、車輪変速機3およびプロペラ変速機5a、5bにおける図示しないクラッチ機構を、オイルで満たされた密閉容器の中で入出力の動力伝達を行う流体クラッチとする。
【0040】
また、本実施例では、陸上を走行するための駆動装置を車輪4a、4bとし、水上を航行するための推進装置をプロペラ6a、6bとしているが、本発明に係る水陸両用車における駆動装置および推進装置はこれに限定されない。例えば、駆動装置を、駆動輪を介して履帯を回転させる装軌としても良く、推進装置を、スクリューやウォータージェットとしても良い。
【0041】
次に、本発明の実施例1に係る水陸両用車の動作について、
図1および
図2を参照して説明する。
【0042】
水陸両用車は、陸上を走行中においては陸上走行モードで制御され、エンジン1からプロペラ変速機5a、5bへの動力伝達が断たれ、エンジン1から車輪変速機3への動力伝達のみがされる状態となっている。つまり、プロペラ6a、6bは停止した状態で車輪4a、4bのみが回転し、水陸両用車は陸上走行する。なお、陸上走行中においては、水陸両用車の車速に応じて図示しないギヤを変えることにより、車輪4a、4bを回転させるために必要なトルク(
図2における線A)およびエンジン1における負荷を低減させている。
【0043】
水陸両用車が陸上から水上へ移行すると共に、水陸両用車の運転者は図示しないモード切換スイッチを手動操作し、水陸両用車の制御モードを陸上走行モードから水上航行モードへ移行させる。モードの移行は、手動操作に限定されず、自動制御によってでも良い。
【0044】
水陸両用車は、水上を航行中においては水上航行モードで制御され、エンジン1から車輪変速機3への動力伝達が断たれ、エンジン1からプロペラ変速機5a、5bへの動力伝達のみがされる状態となっている。つまり、車輪4a、4bは停止した状態でプロペラ6a、6bのみが回転し、水陸両用車は水上航行する。なお、水上航行中においては、水陸両用車の車速に応じて図示しないギヤを変えることにより、プロペラ6a、6bを回転させるために必要なトルク(
図2における線B)を制御し、エンジン1における負荷を低減させている。
【0045】
水上から陸上へ移行する際には、水陸両用車の運転者は図示しないモード切換スイッチを手動操作し、水陸両用車の制御モードを水上航行モードから上陸モードへ移行させる。モードの移行は、手動操作に限定されず、自動制御によってでも良い。
【0046】
水陸両用車は、上陸中においては上陸モードで制御され、エンジン1からプロペラ変速機5a、5bへの動力伝達がされると共に、エンジン1から車輪変速機3への動力伝達がされる状態となっている。つまり、プロペラ6a、6bおよび車輪4a、4bが共に回転し、水陸両用車は上陸する。なお、上陸中においては、車輪変速機3の図示しない低速ギヤおよびプロペラ変速機5a、5bの図示しない低速ギヤを使用することにより、プロペラ6a、6bを回転させるために必要なトルク(
図2における線B)および車輪4a、4bを回転させるために必要なトルク(
図2における線A)を制御している。
【0047】
上陸モードにおいては、プロペラ6a、6bおよび車輪4a、4bを共に回転させる。よって、上陸モードにおいて必要なトルク(
図2における線C)は、前述のプロペラ6a、6bを回転させるために必要なトルク(
図2における線B)と車輪4a、4bを回転させるために必要なトルク(
図2における線A)の和によって算出される。
【0048】
図2に示すように、従来の水陸両用車における上陸モードに必要なトルク(
図2における線c)に比べ、本実施例のようにプロペラ変速機5a、5bおよび車輪変速機3を備えた水陸両用車における上陸モードに必要なトルク(
図2における線C)は極めて小さくなる。つまり、本実施例の水陸両用車が上陸する際のエンジン1における負荷は極めて小さい。
【0049】
水陸両用車が上陸を終え、再び陸上を走行すると共に、水陸両用車の運転者は図示しないモード切換スイッチを手動操作し、水陸両用車の制御モードを上陸モードから陸上走行モードへ移行させる。モードの移行は、手動操作に限定されず、自動制御によってでも良い。陸上の走行については、前述した通りである。
【0050】
本実施例では、水陸両用車の制御モードを運転者の手動操作によって切り換えたが、本発明はこれに限定されない。例えば、水陸両用車に水圧センサを取付け、水圧センサによって水陸両用車に掛かる水圧を感知し、自動的に制御モードが切り換えられるようにしても良い。