特許第6202710号(P6202710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202710
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】水陸両用車および水陸両用車の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60F 3/00 20060101AFI20170914BHJP
   B63H 5/07 20060101ALI20170914BHJP
   B60K 17/04 20060101ALI20170914BHJP
   B63H 23/06 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   B60F3/00 A
   B63H5/07 Z
   B60K17/04 Z
   B63H23/06
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-263217(P2012-263217)
(22)【出願日】2012年11月30日
(65)【公開番号】特開2014-108688(P2014-108688A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078499
【弁理士】
【氏名又は名称】光石 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】230112449
【弁護士】
【氏名又は名称】光石 春平
(74)【代理人】
【識別番号】100102945
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100120673
【弁理士】
【氏名又は名称】松元 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100182224
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲三
(72)【発明者】
【氏名】青木 泰道
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 進一
【審査官】 常盤 務
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−171363(JP,A)
【文献】 特表2008−525265(JP,A)
【文献】 特表2008−524043(JP,A)
【文献】 特開2010−269764(JP,A)
【文献】 特表2008−517818(JP,A)
【文献】 特開2009−067121(JP,A)
【文献】 特表2008−516836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60F 3/00
B63H 5/07
B60K 17/04
B63H 23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力を発生させる動力源と、前記動力源で発生させた動力によって駆動される陸上走行用の駆動装置と、前記動力源で発生させた動力によって駆動される水上航行用の推進装置と、前記動力源で発生させた動力を前記陸上走行用の駆動装置と前記水上航行用の推進装置とに分配する動力分配装置とを有し、
水上から陸上へ移行する際には、前記陸上走行用の駆動装置と前記水上航行用の推進装置を共に作動させる水陸両用車であって、
前記動力分配装置と前記陸上走行用の駆動装置との間に第一の変速機を備え、前記動力分配装置と前記水上航行用の推進装置との間に前記第一の変速機とは別の第二の変速機を備え、
前記第一および前記第二の変速機は、水上から陸上へ移行する際における前記陸上走行用の駆動装置および前記水上航行用の推進装置の作動に必要なトルクを低減するための上陸専用の変速比を有する
ことを特徴とする水陸両用車。
【請求項2】
前記第一および前記第二の変速機は、クラッチ機能を有することを特徴とする請求項1に記載の水陸両用車。
【請求項3】
動力を発生させる動力源と、前記動力源で発生させた動力によって駆動される陸上走行用の駆動装置と、前記動力源で発生させた動力によって駆動される水上航行用の推進装置と、前記動力源で発生させた動力を前記陸上走行用の駆動装置と前記水上航行用の推進装置とに分配する動力分配装置とを有し、
水上から陸上へ移行する際には、前記陸上走行用の駆動装置と前記水上航行用の推進装置を共に作動させる水陸両用車であって、
前記陸上走行用の駆動装置は、陸上走行に適した機構を有するものであり、
前記水上航行用の推進装置は、水上航行に適した機構を有するものであり、
前記動力分配装置と前記陸上走行用の駆動装置との間に第一の変速機を備え、前記動力分配装置と前記水上航行用の推進装置との間に前記第一の変速機とは別の第二の変速機を備え、
水上から陸上へ移行する際に、前記第一の変速機および前記第二の変速機を低速ギアとする
ことを特徴とする水陸両用車。
【請求項4】
動力を発生させる動力源と、前記動力源で発生させた動力によって駆動される陸上走行用の駆動装置と、前記動力源で発生させた動力によって駆動される水上航行用の推進装置と、前記動力源で発生させた動力を前記陸上走行用の駆動装置と前記水上航行用の推進装置とに分配する動力分配装置と、前記陸上走行用の駆動装置と前記動力分配装置との間に設けられる第一の変速機と、前記水上航行用の推進装置と前記動力分配装置との間に設けられる第二の変速機とを有する水陸両用車において、
前記水陸両用車が陸上を走行する陸上走行モードでは、前記第二の変速機を遮断して前記陸上走行用の駆動装置のみを駆動し、
前記水陸両用車が水上を航行する水上航行モードでは、前記第一の変速機を遮断して前記水上航行用の推進装置のみを駆動し、
前記水陸両用車が水上から陸上へ移行する上陸モードでは、前記陸上走行用の駆動装置と前記水上航行用の推進装置の双方を駆動し、前記第一の変速機と前記第二の変速機の変速比を制御する
ことを特徴とする水陸両用車の制御方法。
【請求項5】
動力を発生させる動力源と、前記動力源で発生させた動力によって駆動される陸上走行用の駆動装置と、前記動力源で発生させた動力によって駆動される水上航行用の推進装置と、前記動力源で発生させた動力を前記陸上走行用の駆動装置と前記水上航行用の推進装置とに分配する動力分配装置と、前記陸上走行用の駆動装置と前記動力分配装置との間に設けられる第一の変速機と、前記水上航行用の推進装置と前記動力分配装置との間に設けられる第二の変速機とを有する水陸両用車において、
前記陸上走行用の駆動装置は、陸上走行に適した機構を有するものであり、
前記水上航行用の推進装置は、水上航行に適した機構を有するものであり、
前記水陸両用車が陸上を走行する陸上走行モードでは、前記第二の変速機を遮断して前記陸上走行用の駆動装置のみを駆動し、
前記水陸両用車が水上を航行する水上航行モードでは、前記第一の変速機を遮断して前記水上航行用の推進装置のみを駆動し、
前記水陸両用車が水上から陸上へ移行する上陸モードでは、前記陸上走行用の駆動装置と前記水上航行用の推進装置の双方を駆動し、前記第一の変速機および前記第二の変速機を低速ギアとする
ことを特徴とする水陸両用車の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水陸両用車および水陸両用車の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水上および陸上における移動が可能な水陸両用車は、観光用車両や水難救助車、災害対策車両などとして使われる。一般に、水陸両用車は、エンジンやモータ等の一つの動力源に対して、プロペラやウォータージェット等の水上を航行するための推進装置と、車輪や履帯等の陸上を走行するための駆動装置とを備え、更に、動力源から水上航行用の推進装置および陸上走行用の駆動装置へ動力を分配するための動力分配装置を備えている。
【0003】
水陸両用車は、動力分配装置を制御することにより、駆動装置および推進装置を使い分けて水上および陸上における移動を可能にしている。駆動装置を作動させることにより陸上を走行し、陸上から水上へと移行すると、駆動装置を停止して推進装置を作動させることにより水上を航行し、水上から陸上へ移行する際には、水上航行のために作動させていた推進装置に加え、駆動装置を作動させる(特許文献1)。
【0004】
このような動力分配装置の制御は、水陸両用車の移動状態によって陸上走行モード、水上航行モード、上陸モードの三つに分けられる。陸上走行モードは、水陸両用車が陸上を走行する際の制御であり、水陸両用車を推進装置が停止して駆動装置のみが作動した状態とするものである。水上航行モードは、水陸両用車が水上を航行する際の制御であり、水陸両用車を駆動装置が停止して推進装置のみが作動した状態とするものである。上陸モードは、水陸両用車が水上から陸上へ移行する際の制御であり、水陸両用車を駆動装置および推進装置が作動した状態とするものである。
【0005】
上記の制御においては、駆動装置は、陸上走行モードおよび上陸モードで作動される。陸上走行モードにおいては、駆動装置は、エンジンの高回転までの広い範囲、水陸両用車の高速走行時までの広い範囲で使用される。一方、上陸モードにおいては、駆動装置は、エンジンの低回転時だけの狭い範囲、水陸両用車の低速走行時だけの狭い範囲で使用される。
【0006】
よって、水陸両用車の駆動装置としては、使用範囲の広い陸上走行モードに適した機構で構成される。つまり、水陸両用車の駆動装置は、陸上走行モードにおいてエンジン回転数に対する水陸両用車の車速および駆動装置の作動に必要なエンジントルクが適切となるように設定されている。
【0007】
また、推進装置は、水上航行モードおよび上陸モードで作動される。水上航行モードにおいては、推進装置は、エンジンの高回転時までの広い範囲、水陸両用車の高速航行時までの広い範囲で使用される。一方、上陸モードにおいては、推進装置は、エンジンの低回転時だけの狭い範囲、水陸両用車の低速航行時だけの狭い範囲で使用される。
【0008】
よって、水陸両用車の推進装置としては、使用範囲の広い水上航行モードに適した機構で構成される。つまり、水陸両用車の推進装置は、水上航行モードにおいてエンジン回転数に対する水陸両用車の車速および推進装置の作動に必要なエンジントルクが適切となるように設定されている。
【0009】
以上のようにして、駆動装置は陸上走行モードに適し、推進装置は水上航行モードに適するように設定しているので、駆動装置のみを作動させた陸上走行モードおよび推進装置のみを作動させた水上航行モードにおいては、エンジン回転数およびエンジントルクは適切な状態にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−269764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、水陸両用車の上陸モードにおいては、陸上走行モードに適した機構の駆動装置および水上航行モードに適した機構の推進装置を使用する。つまり、上陸モードにおいては、陸上走行モードにおいて駆動装置の作動に必要なエンジントルクと、水上航行モードにおいて推進装置の作動に必要なエンジントルクとを加算したエンジントルクが必要となる。
【0012】
水陸両用車は、安全で確実な上陸を行うことができれば良いので、水陸両用車を加速させるほどの駆動装置および推進装置の作動は必要ない。水陸両用車の上陸モードにおいては、低速で走行することができる程度の駆動装置の作動および水陸両用車の姿勢を制御することができる程度の推進装置の作動があれば十分である。つまり、前述の加算したエンジントルクは、水陸両用車の上陸においては過剰である。このような余分に必要とされるエンジン出力が、エンジンの大型化に繋がる虞がある。
【0013】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたもので、水陸両用車の上陸時に必要となるエンジントルクおよびエンジンの必要出力を低減させ、エンジンの大型化を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する第一の発明に係る水陸両用車は、動力を発生させる動力源と、前記動力源で発生させた動力によって駆動される陸上走行用の駆動装置と、前記動力源で発生させた動力によって駆動される水上航行用の推進装置と、前記動力源で発生させた動力を前記陸上走行用の駆動装置と前記水上航行用の推進装置とに分配する動力分配装置とを有し、水上から陸上へ移行する際には、前記陸上走行用の駆動装置と前記水上航行用の推進装置を共に作動させる水陸両用車であって、前記動力分配装置と前記陸上走行用の駆動装置との間に第一の変速機を備え、前記動力分配装置と前記水上航行用の推進装置との間に前記第一の変速機とは別の第二の変速機を備え、前記第一および前記第二の変速機は、水上から陸上へ移行する際における前記陸上走行用の駆動装置および前記水上航行用の推進装置の作動に必要なトルクを低減するための上陸専用の変速比を有することを特徴とする。
【0016】
上記課題を解決する第二の発明に係る水陸両用車は、第一の発明に係る水陸両用車において、前記第一および前記第二の変速機は、クラッチ機能を有することを特徴とする。
上記課題を解決する第三の発明に係る水陸両用車は、動力を発生させる動力源と、前記動力源で発生させた動力によって駆動される陸上走行用の駆動装置と、前記動力源で発生させた動力によって駆動される水上航行用の推進装置と、前記動力源で発生させた動力を前記陸上走行用の駆動装置と前記水上航行用の推進装置とに分配する動力分配装置とを有し、水上から陸上へ移行する際には、前記陸上走行用の駆動装置と前記水上航行用の推進装置を共に作動させる水陸両用車であって、前記陸上走行用の駆動装置は、陸上走行に適した機構を有するものであり、前記水上航行用の推進装置は、水上航行に適した機構を有するものであり、前記動力分配装置と前記陸上走行用の駆動装置との間に第一の変速機を備え、前記動力分配装置と前記水上航行用の推進装置との間に前記第一の変速機とは別の第二の変速機を備え、水上から陸上へ移行する際に、前記第一の変速機および前記第二の変速機を低速ギアとすることを特徴とする。
上記課題を解決する第四の発明に係る水陸両用車の制御方法は、動力を発生させる動力源と、前記動力源で発生させた動力によって駆動される陸上走行用の駆動装置と、前記動力源で発生させた動力によって駆動される水上航行用の推進装置と、前記動力源で発生させた動力を前記陸上走行用の駆動装置と前記水上航行用の推進装置とに分配する動力分配装置と、前記陸上走行用の駆動装置と前記動力分配装置との間に設けられる第一の変速機と、前記水上航行用の推進装置と前記動力分配装置との間に設けられる第二の変速機とを有する水陸両用車において、前記水陸両用車が陸上を走行する陸上走行モードでは、前記第二の変速機を遮断して前記陸上走行用の駆動装置のみを駆動し、前記水陸両用車が水上を航行する水上航行モードでは、前記第一の変速機を遮断して前記水上航行用の推進装置のみを駆動し、前記水陸両用車が水上から陸上へ移行する上陸モードでは、前記陸上走行用の駆動装置と前記水上航行用の推進装置の双方を駆動し、前記第一の変速機と前記第二の変速機の変速比を制御することを特徴とする。
上記課題を解決する第五の発明に係る水陸両用車の制御方法は、動力を発生させる動力源と、前記動力源で発生させた動力によって駆動される陸上走行用の駆動装置と、前記動力源で発生させた動力によって駆動される水上航行用の推進装置と、前記動力源で発生させた動力を前記陸上走行用の駆動装置と前記水上航行用の推進装置とに分配する動力分配装置と、前記陸上走行用の駆動装置と前記動力分配装置との間に設けられる第一の変速機と、前記水上航行用の推進装置と前記動力分配装置との間に設けられる第二の変速機とを有する水陸両用車において、前記陸上走行用の駆動装置は、陸上走行に適した機構を有するものであり、前記水上航行用の推進装置は、水上航行に適した機構を有するものであり、前記水陸両用車が陸上を走行する陸上走行モードでは、前記第二の変速機を遮断して前記陸上走行用の駆動装置のみを駆動し、前記水陸両用車が水上を航行する水上航行モードでは、前記第一の変速機を遮断して前記水上航行用の推進装置のみを駆動し、前記水陸両用車が水上から陸上へ移行する上陸モードでは、前記陸上走行用の駆動装置と前記水上航行用の推進装置の双方を駆動し、前記第一の変速機および前記第二の変速機を低速ギアとすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
第一の発明に係る水陸両用車によれば、動力分配装置と陸上走行用の駆動装置との間に第一の変速機を備え、動力分配装置と水上航行用の推進装置との間に第二の変速機を備えることによって、陸上走行用の駆動装置および水上航行用の推進装置の変速比を変えることができるので、陸上走行用の駆動装置および水上航行用の推進装置を作動させるために必要なトルクを低減させることができる。よって、上陸時における陸上走行用の駆動装置および水上航行用の推進装置を作動させるために必要なトルクを低減させ、動力源の必要出力を低減させることができる。このことにより、動力源の大型化を防止することができる。
また、陸上走行用の駆動装置に対応する第一の変速機および水上航行用の推進装置に対応する第二の変速機に、上陸専用の変速比を設けたことにより、上陸時における陸上走行用の駆動装置および水上航行用の推進装置を作動させるために必要なトルクを更に低減させ、上陸時における動力源の必要出力を更に低減させることができる。
【0019】
第二の発明に係る水陸両用車によれば、陸上走行用の駆動装置に対応する第一の変速機および水上航行用の推進装置に対応する第二の変速機にクラッチ機能を備えることによって、動力分配装置の制御によらず陸上走行用の駆動装置および水上航行用の推進装置を停止させることができる。つまり、水陸両用車が陸上走行モードまたは上陸モードで制御されている場合においても、陸上走行用の駆動装置を停止させることができ、水上航行モードまたは上陸モードで制御されている場合においても、水上航行用の推進装置を停止させることができる。
第三の発明に係る水陸両用車によれば、動力分配装置と陸上走行用の駆動装置との間に第一の変速機を備え、動力分配装置と水上航行用の推進装置との間に第二の変速機を備えることによって、陸上走行用の駆動装置および水上航行用の推進装置の変速比を変えることができるので、陸上走行用の駆動装置および水上航行用の推進装置を作動させるために必要なトルクを低減させることができる。よって、上陸時における陸上走行用の駆動装置および水上航行用の推進装置を作動させるために必要なトルクを低減させ、動力源の必要出力を低減させることができる。このことにより、動力源の大型化を防止することができる。
また、水上から陸上へ移行する際に、前記第一の変速機および前記第二の変速機を低速ギアとすることにより、上陸時における陸上走行用の駆動装置および水上航行用の推進装置を作動させるために必要なトルクを更に低減させ、上陸時における動力源の必要出力を更に低減させることができる。
第四の発明に係る水陸両用車の制御方法によれば、第一の変速機と第二の変速機の変速比を制御することによって、陸上走行用の駆動装置および水上航行用の推進装置を作動させるために必要なトルクを低減させることができる。よって、上陸時における陸上走行用の駆動装置および水上航行用の推進装置を作動させるために必要なトルクを低減させ、動力源の必要出力を低減させることができる。このことにより、動力源の大型化を防止することができる。
第五の発明に係る水陸両用車の制御方法によれば、前記水陸両用車が水上から陸上へ移行する上陸モードでは、前記陸上走行用の駆動装置と前記水上航行用の推進装置の双方を駆動し、第一の変速機および第二の変速機を低速ギアとすることによって、上陸時における陸上走行用の駆動装置および水上航行用の推進装置を作動させるために必要なトルクを低減させ、動力源の必要出力を低減させることができる。このことにより、動力源の大型化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1に係る水陸両用車における動力伝達部を示す説明図である。
図2】実施例1に係る水陸両用車におけるエンジン回転数と必要エンジントルクとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明に係る水陸両用車の実施例について、添付図面を参照して詳細に説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、各種変更が可能であることは言うまでもない。
【実施例1】
【0022】
先ず、本発明の実施例1に係る水陸両用車の構造について、図1および図2を参照して説明する。
【0023】
本実施例の水陸両用車における動力伝達部は、図1に示すように、動力源であるエンジン1と、エンジン1で発生させた動力を分配する動力分配装置2と、陸上を走行するための車輪変速機3および車輪4a、4bと、水上を航行するためのプロペラ変速機5a、5bおよびプロペラ6a、6bとを備えている。
【0024】
エンジン1には、動力伝達シャフト10を介して動力分配装置2が連結されている。動力分配装置2には、第一の動力分配シャフト20を介して、先端に車輪4a、4bを設けた車輪軸30a、30bを回転自在に支持する車輪変速機3が連結されている。更に、動力分配装置2には、第二の動力分配シャフト40a、40bを介して、先端にプロペラ6a、6bを設けたプロペラ軸50a、50bを回転自在に支持するプロペラ変速機5a、5bが連結されている。
【0025】
エンジン1で発生させた動力は、動力伝達シャフト10を介して動力分配装置2に伝えられ、動力分配装置2において第一の動力分配シャフト20と第二の動力分配シャフト40a、40bに分けて伝達される。第一の動力分配シャフト20に伝えられた動力は、車輪変速機3を介して車輪軸30a、30bおよび車輪4a、4bを回転させ、水陸両用車の陸上走行を可能にする。第二の動力分配シャフト40a、40bに伝えられた動力は、プロペラ変速機5a、5bを介してプロペラ軸50a、50bおよびプロペラ6a、6bを回転させ、水陸両用車の水上航行を可能にする。
【0026】
動力分配装置2には、第一の動力分配シャフト20に対応する図示しない第一のクラッチ機能および第二の動力分配シャフト40a、40bに対応する図示しない第二のクラッチ機能が備えられている。第一のクラッチ機能を作動させることにより、エンジン1から車輪変速機3への動力伝達を断ち、第二のクラッチ機能を作動させることにより、エンジン1からプロペラ変速機5a、5bへの動力伝達を断つことができる。更に、水陸両用車には図示しない制御装置が備えられ、動力分配装置2における図示しない第一のクラッチ機能および第二のクラッチ機能の作動を制御している。
【0027】
本実施例の水陸両用車においては、図示しない制御装置の制御モードとして、水陸両用車が陸上を走行する陸上走行モード、水陸両用車が水上を航行する水上航行モード、水陸両用車が水上から陸上へ移行する上陸モードの三種類がある。なお、本実施例の水陸両用車には図示しないモード切換スイッチが備えられ、水陸両用車の運転者がモード切換スイッチを手動操作することにより、水陸両用車における図示しない制御装置の制御モードを切り換える。あるいは、制御により自動的にモード切換を行う方式であっても良い。図示しない制御装置は、運転者あるいは自動制御によって切り換えられた陸上走行モード、水上航行モード、上陸モードのいずれかの制御モードに対応するように、動力分配装置2の制御を行う。
【0028】
図示しない制御装置の各制御モードにおける動力分配装置2の制御は、以下の通りである。陸上走行モードにおいては、図示しない第二のクラッチ機能を作動させ、エンジン1からプロペラ変速機5a、5bへの動力伝達を断ち、エンジン1から車輪変速機3へのみ動力を伝達する。水上航行モードにおいては、図示しない第一のクラッチ機能を作動させ、エンジン1から車輪変速機3への動力伝達を断ち、エンジン1からプロペラ変速機5a、5bへのみ動力を伝達する。上陸モードにおいては、エンジン1から車輪変速機3およびプロペラ変速機5a、5bへ動力を伝達する。
【0029】
車輪変速機3は、クラッチ機能を備えた変速機であり、水陸両用車の陸上走行における発進時に使用する低速ギヤから段階的に複数の変速ギヤを組んだものである。陸上走行モードにおいては、水陸両用車の車速に応じて図示しないギヤを変えることにより、車輪4a、4bを回転させるために必要なトルクを制御し、エンジン1における負荷を低減させることができる。また、上陸モードにおいては、図示しない低速ギヤを使用することにより、車輪4a、4bを回転させるために必要なトルクを制御し、エンジン1における負荷を低減させることができる。
【0030】
図2は、車輪変速機3およびプロペラ変速機5a、5bを備えていない従来の水陸両用車および本実施例に係る水陸両用車の前述した三種類の制御モードにおけるエンジン回転数とトルクとの関係を示すグラフである。
【0031】
図2の線aは、従来の水陸両用車の陸上走行モードにおけるエンジン回転数とトルクとの関係を示し、図2の線bは、従来の水陸両用車の水上航行モードにおけるエンジン回転数とトルクとの関係を示し、図2の線cは、従来の水陸両用車の上陸モードにおけるエンジン回転数とトルクとの関係を示す。
【0032】
図2の線Aは、本実施例に係る水陸両用車の陸上走行モードにおけるエンジン回転数とトルクの関係を示し、図2の線Bは、本実施例に係る水陸両用車の水上航行モードにおけるエンジン回転数とトルクとの関係を示し、図2の線Cは、本実施例に係る水陸両用車の上陸モードにおけるエンジン回転数とトルクとの関係を示す。
【0033】
図2に示すように、従来の水陸両用車において車輪を回転させるために必要なトルク(図2における線a)に比べ、本実施例のように車輪変速機3を備えた水陸両用車において車輪4a、4bを回転させるために必要なトルク(図2における線A)は小さい。
【0034】
なお、車輪変速機3に図示しないクラッチ機能を備えたことにより、陸上走行モードまたは上陸モードにおいて、エンジン1から動力分配装置2を介して車輪変速機3へ動力伝達されている場合においても、車輪変速機3のクラッチ機能を作動させ、車輪4a、4bへの動力伝達を断つことができる。
【0035】
プロペラ変速機5a、5bは、図示しないクラッチ機能を備えた変速機であり、水陸両用車の水上航行における発進時に使用する低速ギヤから段階的に複数の変速ギヤを組んだものである。水上航行モードにおいては、水陸両用車の車速に応じて図示しないギヤを変えることにより、プロペラ6a、6bを回転させるために必要なトルクを制御し、エンジン1における負荷を低減させることができる。また、上陸モードにおいては、図示しない低速ギヤを使用することにより、プロペラ6a、6bを回転させるために必要なトルクおよびエンジン1における負荷を低減させることができる。
【0036】
図2に示すように、従来の水陸両用車においてプロペラを回転させるために必要なトルク(図2における線b)に比べ、本実施例のようにプロペラ変速機5a、5bを備えた水陸両用車においてプロペラ6a、6bを回転させるために必要なトルク(図2における線B)は小さい。
【0037】
なお、プロペラ変速機5a、5bに図示しないクラッチ機能を備えたことにより、水上航行モードまたは上陸モードにおいて、エンジン1から動力分配装置2を介してプロペラ変速機5a、5bへ動力伝達されている場合においても、プロペラ変速機5a、5bのクラッチ機能を作動させ、プロペラ6a、6bへの動力伝達を断つことができる。
【0038】
もちろん、車輪変速機3およびプロペラ変速機5a、5bの構造は本実施例に限定されず、例えば、歯車以外の機構により変速比を連続的に変化させる無段変速機としても良い。また、陸上走行における発進時に使用する車輪変速機3の図示しない低速ギヤ、または水上航行における発進時に使用するプロペラ変速機5a、5bの図示しない低速ギヤとは別に、上陸専用の超低速ギヤを追加して組んでも良い。これにより、上陸時に車輪4a、4bおよびプロペラ6a、6bを回転させるために必要なトルクおよびエンジン1における負荷をより低減させることができる。
【0039】
また、水上航行時における動力伝達部の水密を図るため、車輪変速機3およびプロペラ変速機5a、5bを水密構造にすることが好ましく、例えば、車輪変速機3およびプロペラ変速機5a、5bにおける図示しないクラッチ機構を、オイルで満たされた密閉容器の中で入出力の動力伝達を行う流体クラッチとする。
【0040】
また、本実施例では、陸上を走行するための駆動装置を車輪4a、4bとし、水上を航行するための推進装置をプロペラ6a、6bとしているが、本発明に係る水陸両用車における駆動装置および推進装置はこれに限定されない。例えば、駆動装置を、駆動輪を介して履帯を回転させる装軌としても良く、推進装置を、スクリューやウォータージェットとしても良い。
【0041】
次に、本発明の実施例1に係る水陸両用車の動作について、図1および図2を参照して説明する。
【0042】
水陸両用車は、陸上を走行中においては陸上走行モードで制御され、エンジン1からプロペラ変速機5a、5bへの動力伝達が断たれ、エンジン1から車輪変速機3への動力伝達のみがされる状態となっている。つまり、プロペラ6a、6bは停止した状態で車輪4a、4bのみが回転し、水陸両用車は陸上走行する。なお、陸上走行中においては、水陸両用車の車速に応じて図示しないギヤを変えることにより、車輪4a、4bを回転させるために必要なトルク(図2における線A)およびエンジン1における負荷を低減させている。
【0043】
水陸両用車が陸上から水上へ移行すると共に、水陸両用車の運転者は図示しないモード切換スイッチを手動操作し、水陸両用車の制御モードを陸上走行モードから水上航行モードへ移行させる。モードの移行は、手動操作に限定されず、自動制御によってでも良い。
【0044】
水陸両用車は、水上を航行中においては水上航行モードで制御され、エンジン1から車輪変速機3への動力伝達が断たれ、エンジン1からプロペラ変速機5a、5bへの動力伝達のみがされる状態となっている。つまり、車輪4a、4bは停止した状態でプロペラ6a、6bのみが回転し、水陸両用車は水上航行する。なお、水上航行中においては、水陸両用車の車速に応じて図示しないギヤを変えることにより、プロペラ6a、6bを回転させるために必要なトルク(図2における線B)を制御し、エンジン1における負荷を低減させている。
【0045】
水上から陸上へ移行する際には、水陸両用車の運転者は図示しないモード切換スイッチを手動操作し、水陸両用車の制御モードを水上航行モードから上陸モードへ移行させる。モードの移行は、手動操作に限定されず、自動制御によってでも良い。
【0046】
水陸両用車は、上陸中においては上陸モードで制御され、エンジン1からプロペラ変速機5a、5bへの動力伝達がされると共に、エンジン1から車輪変速機3への動力伝達がされる状態となっている。つまり、プロペラ6a、6bおよび車輪4a、4bが共に回転し、水陸両用車は上陸する。なお、上陸中においては、車輪変速機3の図示しない低速ギヤおよびプロペラ変速機5a、5bの図示しない低速ギヤを使用することにより、プロペラ6a、6bを回転させるために必要なトルク(図2における線B)および車輪4a、4bを回転させるために必要なトルク(図2における線A)を制御している。
【0047】
上陸モードにおいては、プロペラ6a、6bおよび車輪4a、4bを共に回転させる。よって、上陸モードにおいて必要なトルク(図2における線C)は、前述のプロペラ6a、6bを回転させるために必要なトルク(図2における線B)と車輪4a、4bを回転させるために必要なトルク(図2における線A)の和によって算出される。
【0048】
図2に示すように、従来の水陸両用車における上陸モードに必要なトルク(図2における線c)に比べ、本実施例のようにプロペラ変速機5a、5bおよび車輪変速機3を備えた水陸両用車における上陸モードに必要なトルク(図2における線C)は極めて小さくなる。つまり、本実施例の水陸両用車が上陸する際のエンジン1における負荷は極めて小さい。
【0049】
水陸両用車が上陸を終え、再び陸上を走行すると共に、水陸両用車の運転者は図示しないモード切換スイッチを手動操作し、水陸両用車の制御モードを上陸モードから陸上走行モードへ移行させる。モードの移行は、手動操作に限定されず、自動制御によってでも良い。陸上の走行については、前述した通りである。
【0050】
本実施例では、水陸両用車の制御モードを運転者の手動操作によって切り換えたが、本発明はこれに限定されない。例えば、水陸両用車に水圧センサを取付け、水圧センサによって水陸両用車に掛かる水圧を感知し、自動的に制御モードが切り換えられるようにしても良い。
【符号の説明】
【0051】
1 エンジン
2 動力分配装置
3 車輪変速機
4 車輪
5 プロペラ変速機
6 プロペラ
10 動力伝達シャフト
20 第一の動力分配シャフト
21 車輪軸
30 第二の動力分配シャフト
31 プロペラ軸
図1
図2