特許第6202716号(P6202716)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202716
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】バイオマスの糖化方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/14 20060101AFI20170914BHJP
   C12N 1/14 20060101ALI20170914BHJP
   C12N 9/42 20060101ALI20170914BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20170914BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20170914BHJP
   C12R 1/80 20060101ALN20170914BHJP
【FI】
   C12P19/14 AZAB
   C12N1/14 AZNA
   C12N9/42
   B09B3/00 304Z
   !C12N15/00 A
   C12N1/14 AZNA
   C12R1:80
【請求項の数】6
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2013-55080(P2013-55080)
(22)【出願日】2013年3月18日
(65)【公開番号】特開2013-223489(P2013-223489A)
(43)【公開日】2013年10月31日
【審査請求日】2016年2月19日
(31)【優先権主張番号】特願2012-64109(P2012-64109)
(32)【優先日】2012年3月21日
(33)【優先権主張国】JP
【微生物の受託番号】NPMD  FERM P-22221
(73)【特許権者】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100169812
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛志
(72)【発明者】
【氏名】永井 和夫
(72)【発明者】
【氏名】倉根 隆一郎
(72)【発明者】
【氏名】青山 晃久
(72)【発明者】
【氏名】松浦 明
【審査官】 平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第101717728(CN,A)
【文献】 Appl. Biochem. Biotechnol., 2011, 164:819-830
【文献】 J. Microbiol. Biotechnol., 2011, 21(12):1322-1329
【文献】 Enzyme and Microbial Technology, 2003, 32:606-615
【文献】 Bioresource Technology, 1991, 35:73-80
【文献】 The Chinese Journal of Process Engineering, 2003, 3(5):447-452
【文献】 Acta Microbiologica Sinica, 2010, 50(7):870-875
【文献】 Database GenBank[online], Accession No. GU724348, 12-Apr-2010 uploaded, [retrieved on 2017-01-20]
【文献】 Database GenBank[online], Accession No. GU724347, 12-Apr-2010 uploaded, [retrieved on 2017-01-20]
【文献】 Database GenBank[online], Accession No. HM053477, 12-Jun-2010 uploaded, [retrieved on 2017-01-20]
【文献】 Database GenBank[online], Accession No. HM469410, 27-Mar-2011 uploaded, [retrieved on 2017-01-20]
【文献】 Database GenBank[online], Accession No. HE651152, 23-Jan-2012 uploaded, [retrieved on 2017-01-20]
【文献】 Database GenBank[online], Accession No. AF034455, 02-Jun-1998 uploaded, [retrieved on 2017-01-20]
【文献】 Database GenBank[online], Accession No. AY213620, 22-Jan-2007 uploaded, [retrieved on 2017-01-20]
【文献】 Database GenBank[online], Accession No. DQ123663, 23-May-2008 uploaded, [retrieved on 2017-01-20]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−41/00
B09B 1/00− 5/00
C12N 1/00− 9/99
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペニシリウム属(Penicillium)に属する糸状菌が分泌するセルロース糖化活性およびヘミセルロース糖化活性を有する分泌物と、化学的な前処理及び高温高圧の水による前処理のいずれも行っていない草本系バイオマスまたは木質系バイオマスとを接触させることを含み、
前記糸状菌が、受託番号:FERM P−22221で特定されるペニシリウム・オキサリクム(Penicillium oxalicum)SA57−2株であるバイオマスの糖化方法。
【請求項2】
ペニシリウム属(Penicillium)に属する糸状菌を液体培養し、その液体培地から菌体を除去して得られる、セルロース糖化活性およびヘミセルロース糖化活性を有する液体組成物と、化学的な前処理及び高温高圧の水による前処理のいずれも行っていない草本系バイオマスまたは木質系バイオマスを接触させることを含み、
前記糸状菌が、受託番号:FERM P−22221で特定されるペニシリウム・オキサリクム(Penicillium oxalicum)SA57−2株であるバイオマスの糖化方法。
【請求項3】
前記液体組成物と接触させた後の前記草本系バイオマスまたは前記木質系バイオマスを漉し取って固液分離する工程をさらに含む請求項に記載のバイオマスの糖化方法。
【請求項4】
前記糸状菌が、配列番号1に記載の塩基配列に対して99%以上の相同性を有する塩基配列からなるITS1−5.8S rDNA−ITS2領域を有する請求項1〜のいずれか1項に記載のバイオマスの糖化方法
【請求項5】
前記糸状菌が、配列番号2に記載の塩基配列に対して99%以上の相同性を有する塩基配列からなる28S rDNAのD1/D2領域を有する請求項1〜のいずれか1項に記載のバイオマスの糖化方法
【請求項6】
5〜10mmの長さに粗粉砕した前記草本系バイオマスまたは前記木質系バイオマスを用いる請求項1〜5のいずれか1項に記載のバイオマスの糖化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスの活用に関し、より詳しくは草本系バイオマスおよび木質系バイオマスの糖化効率が高い微生物、その微生物から得られるセルロース糖化活性およびヘミセルロース糖化活性を有する分泌物および液体組成物、並びに、その分泌物または液体組成物を用いる草本系および木質系バイオマスの糖化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物由来の資源であるバイオマスを利用するバイオ燃料は、非化石燃料であり、これを消費して二酸化炭素を排出しても大気中の二酸化炭素量は増減しないため、二酸化炭素の排出はないものとして取り扱われる。このため、バイオ燃料は、従来使用されてきた化石燃料に代わる新たなエネルギー源として注目を集めている。
【0003】
トウモロコシやサトウキビを原料とするバイオエタノールなどのバイオ燃料は、世界的に利用が進んでおり、増産が続いている。しかし、トウモロコシやサトウキビは、食糧としても利用される作物であり、食糧との競合により食糧価格の高騰を招くという弊害も生じている。
そこで近年では、稲わらや間伐材、建築廃材等の、食糧とは競合しない草本系バイオマスおよび木質系バイオマスがバイオ燃料源として注目されている。
【0004】
草本系バイオマスや木質系バイオマスをバイオエタノールとして利用する場合、まず、ポリマーであるバイオマス構成成分を、オリゴマーを経てモノマーである単糖類にまで分解(糖化)し、次いで、単糖類をエタノールに変換する。このうち、ポリマーをモノマーに変換する糖化反応の効率は非常に低いため、基質である草本系バイオマスまたは木質系バイオマスに対して酸やアルカリによる前処理がなされている。しかし、バイオマスを酸やアルカリで処理する方法には、以下の5つの問題が存在する。
【0005】
第1に、糖の過分解の問題がある。C5やC6の単糖をC2、C3、C4などの種々の化合物に分解してしまい、単糖類への変換効率が下がる問題がある。
第2に、糖の過分解によって発生するフラン類や有機酸類が、単糖をアルコール発酵する際の阻害剤となることが知られている。
第3に、黒液が発生し、その処理に多量のエネルギーが必要となる問題がある。酸やアルカリによる前処理をすると、リグニンが分解されて、水溶性となったリグニン誘導体を主成分とする黒液が発生する。この黒液は水分を多量に含むため、サーマルリサイクルを行うことは困難である。このため、排水処理が必要となるが、現状では、バイオエタノールの製造に伴って発生する黒液の処理に、得られるバイオエタノールのエネルギーよりも多量のエネルギーが必要とされており、草本系バイオマスや木質系バイオマスからバイオエタノールを製造する際の障害となっている(特許文献1参照)。
第4に、リグニン分解産物として生成するフェノール類がセルラーゼ阻害作用を持つことおよびアルコール発酵を阻害する問題がある。
第5に、処理後に酸やアルカリを中和する必要があり、中和によって塩が形成され、この塩が酵素反応を阻害し、アルコール発酵の妨げとなる問題がある。
【0006】
酸やアルカリを用いる代わりに、基質である草本系バイオマスまたは木質系バイオマスを高温・高圧の水で前処理する方法もあるが、この方法でも、上記第5の問題を除き、同様の問題が生じる。
【0007】
また、セルロース系バイオマスからエタノールを製造する際には、エタノールを1リットル得るために糖化酵素費用が25円かかると試算されており、セルロース系バイオマスからのエタノール生産を実用化するために糖化酵素の費用を削減することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−94593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このため、バイオエタノールの原料として利用が進んでいない草本系バイオマスおよび木質系バイオマスを効率よく糖化し、バイオエタノール製造コストを低減できる酵素およびそれを生産する微生物が産業界より切望されていた。
従って、本発明の目的は、草本系バイオマスおよび木質系バイオマスを効率よく、かつ、安価に糖化できる酵素およびそれを産生する微生物を提供し、その微生物が産生する草本系および木質系バイオマス糖化活性を有する分泌物、並びに、その微生物および分泌物の利用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するにあたり、まず、草本系バイオマスの糖化工程について詳細に検討した。
草本系バイオマスの構成成分にはセルロース成分、ヘミセルロース成分と少しのリグニン成分が含まれている。このうち、セルロース成分を高効率で糖化できるセルラーゼはいくつか知られているものの、単一の微生物に由来する酵素でセルロースに加えてヘミセルロースも効率よく糖化できる酵素はこれまで知られていない。
そこで、本発明者らは多数の土壌サンプルについて、セルロースとヘミセルロースの両方について糖化活性が高い微生物を鋭意研究し、探索した。この結果、ペニシリウム属(Penicillium)に属する糸状菌で、セルロースとヘミセルロースの糖化活性が非常に高い菌株を特定し、この菌株の培養液が草本系バイオマスの糖化活性のみならず、木質系バイオマスの糖化活性も備えていることを見いだし、上記目的を達成しうる本発明の完成に至った。
すなわち、本発明は、ペニシリウム属(Penicillium)に属し、セルロース糖化活性およびヘミセルロース糖化活性を有する分泌物を体外に分泌することを特徴とする糸状菌を提供する。
【0011】
本発明においては、前記ペニシリウム属に属する糸状菌が、ペニシリウム・オキサリクム(Penicillium oxalicum)であること;受託番号:FERM P−22221で特定されるペニシリウム・オキサリクム(Penicillium oxalicum)SA57−2株であることが好ましい。
【0012】
また、本発明においては、前記ペニシリウム属に属する糸状菌の性状が、
A.ポテトデキストロース寒天培地で培養した際のコロニーの巨視的形態として、
(1)表面の色調:濃緑色〜灰色がかった緑
(2)裏側の色調:黄味を帯びた白
(3)表面性状:ビロード状
(4)可溶性色素:なし
(5)形:円形
B.ポテトデキストロース寒天培地で培養した際の微視的形態として、
(1)栄養菌糸
(イ)形成箇所:寒天表面上及び寒天内の少なくともいずれか
(ロ)色調:無色
(ハ)隔壁:あり
(2)分生子柄の形態:栄養菌糸より直生し、分生子柄の先端部から円筒形のメトレが形成され、その先に皮針形のフィアライドが形成される。
(3)分生子
(イ)分生子形成型:フィアロ型
(ロ)形態:楕円形
(ハ)単位:1細胞
(ニ)表面性状:平滑〜粗面
(4)2週間培養中の有性生殖器官の形成:なし
であることが好ましい。
【0013】
また、本発明においては、前記ペニシリウム属に属する糸状菌が、配列番号1に記載の塩基配列に対して99%以上の相同性を有する塩基配列からなるITS1−5.8S rDNA−ITS2領域を有すること;配列番号2に記載の塩基配列に対して99%以上の相同性を有する塩基配列からなる28S rDNAのD1/D2領域を有することが好ましい。
【0014】
また、本発明は、前記糸状菌が分泌する、セルロース糖化活性およびヘミセルロース糖化活性を有する分泌物;該分泌物と草本系バイオマスまたは木質系バイオマスとを接触させることを含むバイオマスの糖化方法;前記糸状菌を液体培養し、その液体培地から菌体を除去して得られる、セルロース糖化活性およびヘミセルロース糖化活性を有する液体組成物;該液体組成物と草本系バイオマスまたは木質系バイオマスを接触させることを含むバイオマスの糖化方法を提供する。この糖化方法においては、液体組成物と接触させた後の草本系バイオマスまたは木質系バイオマスを漉し取って固液分離する工程をさらに含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、セルロース糖化活性およびヘミセルロース糖化活性を有し、草本系バイオマスおよび木質系バイオマスを効率よく糖化できる糸状菌の分泌物およびその分泌物を産生する糸状菌、並びに、その分泌物を利用して、バイオマスを前処理することなく糖化できる直接糖化方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】A株の分生子柄の形態を示す顕微鏡写真。
図2】A株の分生子柄の先端部の形態を示す顕微鏡写真。
図3】A株の分生子の形態を示す顕微鏡写真。
図4】A酵素の安定性測定結果を示すグラフ。
図5】A菌株培養液のモニタリング結果を示すグラフ。
図6】A酵素、CTec、CTec2の基質特異性を示すグラフ。
図7】A酵素とCTec2の相乗効果測定結果を示すグラフ。
図8】A酵素の密度勾配等電点電気泳動による各分画の酵素活性を示すグラフ。
図9】A酵素、Z酵素、CTec2の酵素活性を示すグラフ。
図10】Z酵素とCTec2の酵素活性を示すグラフ。
図11】粗粉砕稲わらに対する糖化活性を示すグラフ。
図12】アンモニア処理稲わらに対する糖化活性を示すグラフ。
図13】Z酵素とアクレモニウムセルラーゼの糖化活性を示すグラフ。
図14】Z酵素とアクレモニウムセルラーゼの糖化活性を示すグラフ。
図15】稲わらの糖化における酵素濃度の依存性を示すグラフ。
図16】小麦わらの糖化における酵素濃度の依存性を示すグラフ。
図17】葦に対する糖化酵素活性を示すグラフ。
図18】イネ籾殻に対する糖化酵素活性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明を実施するための形態について具体的に説明する。
本発明でいうセルロース糖化活性とは、ポリマーであるセルロースをモノマーであるグルコースに分解する酵素活性のことをいう。また、ヘミセルロース糖化活性とは、ポリマーであるヘミセルロースをモノマーであるキシロースやガラクトースなどの単糖類に分解する酵素活性のことをいう。
本発明の糸状菌が属するペニシリウム属(Penicillium)は、アオカビ類とも呼ばれる。本発明の糸状菌はセルロース糖化活性およびヘミセルロース糖化活性を有する分泌物を体外に分泌するので、液体培養した場合、その培地がセルロース糖化活性およびヘミセルロース糖化活性を発揮する。このため、この液体培地から菌体を取り除くだけで、セルロース糖化活性およびヘミセルロース糖化活性を有する液体組成物を容易に入手することができる。
【0018】
前記糸状菌はペニシリウム・オキサリクム(Penicillium oxalicum)であることが好ましく、フルカツム(Furcatum)亜属、フルカツム節のCurrie&Thomに属することがより好ましい。
具体的な菌株としては本発明者らが単離したA592−4B株(以下『A株』と略す。)およびSA57−2株が挙げられる。SA57−2株(以下『Z株』と略す。)は、本発明者らにより2012年2月20日(受領日)に独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センターに寄託され、受託番号:FERM P−22221が付与された。
Z株は、A株胞子にUV照射して得られた変異株であり、A株より優れたバイオマスの糖化活性を有する菌株である。
【0019】
本発明の前記ペニシリウム属に属する糸状菌は配列番号1に記載の塩基配列に対して99%以上の相同性を有する塩基配列からなるITS1−5.8S rDNA−ITS2領域を有することが好ましい。また、配列番号2に記載の塩基配列に対して99%以上の相同性を有する塩基配列からなる28S rDNAのD1/D2領域を有することが好ましい。
【0020】
本発明のペニシリウム属に属する糸状菌は、ペニシリウム属に属する微生物を培養する公知の方法で培養できる。培地の組成は、特に限定されないが、培養時のコンタミネーションを防ぐ観点から、草本系バイオマスまたは木質系バイオマスを唯一の炭素源として用いることが好ましい。培地は、固形培地および液体培地のどちらでもよいが、液体培地を用いて培養することにより、培地中にセルロース糖化活性およびヘミセルロース糖化活性を有する分泌物が分泌され、糖化酵素群が蓄積されて培地のバイオマス糖化活性を向上できるため好ましい。
培養時の温度は25〜35℃であることが好ましく、28〜30℃であることがより好ましい。培地の初発pHは、3.0〜7.0であることが好ましく、4.0〜6.0であることがより好ましい。
培養方法は静置培養、振盪培養、撹拌培養等、培地の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0021】
前記の通り、本発明のペニシリウム属に属する糸状菌を液体培養した液体培地は、セルロース糖化活性およびヘミセルロース糖化活性を有し、草本系バイオマスおよび木質系バイオマスの糖化に使用することができる。前記本発明の糸状菌を培養した液体培地をそのままバイオマスの糖化に使用してもよいが、本発明者らは、前記液体培地から糸状菌を除去することにより、単糖類の収率が格段に向上することを見いだした。培地中に存在する本発明の糸状菌は生成した単糖類を急速に消費しており、培地中から前記糸状菌の菌体を除去することで、生成した単糖類が培地中に蓄積され、単糖類の回収率を向上できるものと考えられる。
【0022】
液体培地中から菌体を除去する方法は特に制限されず、遠心分離や濾過など周知の手段を用いればよいが、遠心分離して菌体、基質バイオマスおよびその分解物を沈殿させ、上清画分を得る方法が簡便で好ましい。菌体の除去の際には、基質であるバイオマスおよびその分解物も併せて除去することがより好ましい。このようにして得られる本発明の液体組成物は、基質が稲わらであれば家庭用ミルで5〜10mm程度の長さに粗粉砕しただけで、それ以上処理することなく高い効率で直接糖化することができる。
【0023】
既知の酵素や酵素製剤は、バイオマスそのものに対する分解酵素活性が非常に弱く、バイオマスの糖化にあたっては、酸やアルカリを用いる方法あるいは高温高圧の水を用いることによりバイオマスを化学的に前処理することが必須であった。しかし、酸やアルカリを用いる方法あるいは高温高圧の水を用いる方法によってバイオマスの処理をすると、上述の通り、難溶性の黒液が発生し、その処理にコストがかかるため、単糖類や目的物であるバイオエタノールの製造コストが高価となり、さらに黒液は酵素を吸着するので糖化反応をいっそう困難なものとしていた。
一方、本発明の分泌物および液体組成物は、バイオマスを糖化するにあたって化学的な前処理が不要であり、単に物理的に粉砕をするだけで草本系バイオマスや木質系バイオマスを直接糖化できるため、糖化やバイオエタノールの製造コストを格段に低減できる可能性がある。さらに、本発明の分泌物または液体組成物を作用させた反応液中には黒液が発生せず、エタノール発酵阻害物も極めて少ないため、この反応液を直接エタノール発酵に利用することができる。
糖化処理を終えた後に残る草本系バイオマスや木質系バイオマスの残渣は目の粗い布や網目状のフィルターで漉し取るだけで回収でき、また、回収したバイオマスの残渣は、燃焼してサーマルリサイクルをすることも容易である。
【0024】
草本系バイオマスはポリマー成分としてセルロースを40質量%程度、ヘミセルロースを40質量%程度、リグニンを10質量%程度含んでいる。セルロースの糖化は、
セルロース→セロオリゴ糖→セロビオース→グルコース
の順で進む。このセルロース糖化活性を有する酵素は従来公知であり、市場から入手できる酵素として、アクレモニウムセルラーゼ(明治製菓製)やCellic(登録商標)CTec、Cellic(登録商標)HTec、Cellic(登録商標)CTec2、Cellic(登録商標)HTec2、(いずれもノボザイムズ社製)が挙げられる。前記酵素のうち、Cellic(登録商標)CTecとCellic(登録商標)CTec2が基本的な糖化酵素を含んだもので、Cellic(登録商標)HTecとCellic(登録商標)HTec2は特にバイオマス糖化に有効なヘミセルラーゼ群を含んだ添加剤である。前者と後者を9:1の質量比で混合して用いることが、メーカーにより推奨されている。本明細書中では、Cellic(登録商標)CTecとCellic(登録商標)HTecを9:1の質量比で混合した酵素を『CTec』、Cellic(登録商標)CTec2とCellic(登録商標)HTec2を9:1の質量比で混合した酵素を『CTec2』と略す。
【0025】
一方、ヘミセルロースの糖化は、ヘミセルロースの主成分であるキシランを例に挙げると、
キシラン(ヘミセルロース)→キシロオリゴ糖→キシロビオース→キシロース
の順で進む。セルラーゼは、通常多少のヘミセルロース分解活性も有しているが、上記セルロース糖化活性に加えて、実用的なヘミセルロース糖化活性を併せ持つ単一菌株由来の酵素は知られていなかった。このため、市販のバイオマス糖化酵素製剤は、セルラーゼに加えて、ヘミセルラーゼ、キシロシダーゼ、β―グルコシダーゼなどが補填されている。また、上記キシランの糖化反応には少なくとも2種の酵素、すなわち、キシランをキシロオリゴ糖に分解するキシラナーゼと、キシロオリゴ糖からキシロビオースを経てキシロースとする反応を触媒するキシロシダーゼが関与することも、ヘミセルロースの糖化反応を困難にしていた。
【0026】
しかし、前記本発明の分泌物および液体組成物は、セルロース糖化活性とヘミセルロース糖化活性を併せ持つため、別の菌や細菌を培養して各種の酵素を精製、入手する必要がないことに加え、単一菌株の分泌物または培養液の組成物として入手できるので、大量に調製することも容易であり、非常に実用的である。また、本発明の分泌物および液体組成物は、草本系バイオマスの糖化にあたってアルカリ処理等の化学的な前処理をしなくても糖化酵素活性を発揮できるためリグニンを分解せずに済み、その結果、黒液が発生しないため、糖化反応後の処理費用も少なくて済む。さらに草本系バイオマスの糖化率が高いため、廃棄物の発生も少ないという優れた効果を発揮する。また、本発明の分泌物および液体組成物は、木質系バイオマスに対しても強力な糖化活性を有している。
【0027】
前記の通り、本発明の分泌物および液体組成物はセルロース糖化活性とヘミセルロース糖化活性を併せ持っている。このため、バイオマスを糖化する場合、単に前記本発明の分泌物または液体組成物とバイオマスとを接触させればよい。接触面積と糖化速度は比例するので、バイオマスはあらかじめ粗粉砕または微粉砕してから糖化の基質として用いることが好ましい。稲わらを粗粉砕する場合、家庭用ミルで5〜10mm程度の長さにすればよい。微粉砕は、例えば製粉機を用いて行うことができる。また、バイオマスに汚れがついていると、糖化酵素活性が阻害されることもあるため、予め洗浄してから粉砕することが好ましい。
【0028】
本発明の分泌物または液体組成物は、密度勾配等電点電気泳動による分析結果から等電点がpH4〜5の酵素とpH6〜7の酵素の、少なくとも2種の酵素を含む酵素群であると考えられる。本発明の分泌物または液体組成物はpH3〜10の広い範囲で草本系バイオマスに対する高い糖化活性を示し、糖化酵素活性の至適pHは5である。また、糖化酵素活性の至適温度は50℃である。
なお、本発明において、A株由来の液体組成物をA酵素液、Z株由来の液体組成物をZ酵素液と呼び、A酵素液中の全タンパク質をA酵素、Z酵素液中の全タンパク質をZ酵素と呼ぶ。
【0029】
本発明の分泌物または液体組成物の適切な使用量は、基質である草本系バイオマスや木質系バイオマスの種類にも依存し一概には言えないが、基質1g当たりタンパク質量として0.1mg〜20mgを挙げることができる。Z酵素は低濃度であっても稲わらと小麦わらの両方に対して、既存のバイオマス糖化酵素と比べてより高い酵素活性を発揮する。このため、本発明の分泌物および液体組成物は、従来のバイオマス糖化酵素と比べて費用対効果に優れ、バイオ燃料の生産コスト低減に有用である。
なお、酵素液中のタンパク質濃度は、市販のキットを用いて、BSAを標準とするブラッドフォード法により決定することができる。市販のキットの例としては子牛血清アルブミンプロテインアッセイキットII(バイオラッド製、500−0002JA)が挙げられる。
【0030】
セルロース糖化活性およびヘミセルロース糖化活性を有する本発明の分泌物または液体組成物に、セルロース糖化活性を有する別の酵素またはヘミセルロース糖化活性を有する別の酵素を加えて、草本系または木質系バイオマスと接触させ、糖化処理に使用してもよい。別の酵素の例としては、複数の菌株に由来する酵素の混合物と考えられるCellic(登録商標)CTec2(ノボザイムズ社製)や単一菌株由来のセルラーゼであるアクレモニウムセルラーゼ(明治製菓製)が挙げられる。
【0031】
本発明者らは、A酵素とCTec2とを混合して粉砕稲わらの糖化に用いたところ、驚くべきことに、A酵素やCTec2を単独で用いた場合と比べて、単糖への分解量が最大30%も向上することを見いだした。また、Z酵素とCTec2とを混合して粉砕稲わらの糖化に用いたところ、条件によっては、CTec2を単独で用いた場合と比べて、単糖への分解量が約40%も向上することを見いだした。
【0032】
この理由は明らかではないが、草本系バイオマスや木質系バイオマスには様々なセルロースやヘミセルロースが存在し、単一の酵素だと分解されにくい成分が存在することがある。このため、本発明の分泌物または液体組成物とは別に加えた酵素が、本発明の分泌物または液体組成物による分解が遅い成分を効率よく分解し、本発明の分泌物または液体組成物と相乗効果を発揮して、極めて高い糖化活性を得られる場合があると考えている。
【0033】
草本系バイオマスの具体例としては、稲わら、もみ殻、麦わら、青刈りトウモロコシ、牧草、葦等が挙げられる。日本では年間853万トンの稲わらが発生するとされており、我が国で実施する場合には、生産量が多い稲わらを用いることが好ましい。一方、全世界では、稲わらの賦存量が5.8億トン/年であるのに対し、小麦わらの賦存量は7.9億トン/年とされている。本発明の分泌物および液体組成物は、小麦わらに対しても優れた糖化活性を有しており、海外でのバイオ燃料の生産にも非常に有用である。その他の海外における有望な草本系バイオマス資源としては、イネ科のエリアンサス、ネピアグラスが挙げられる。
【0034】
木質系バイオマスの具体例としては、間伐材、林地残材、建築廃材、製材廃材、竹などが挙げられる。
【0035】
本発明者らが見いだしたA酵素およびZ酵素は単一種の微生物に由来するにもかかわらず、麦わらおよび小麦わらに対し、複数の菌体に由来する酵素の混合物と考えられるCTec2と同等以上の糖化活性を有する。単一種の微生物から糖化酵素を入手する場合、複数の微生物から酵素を入手する場合や複数の酵素を混合して酵素を調製する場合と比べて、手間やコストを数分の1から数十分の1に減らすことができる。さらにA酵素およびZ酵素は、低濃度でも従来販売されている草本系バイオマス糖化酵素と比べて、優れた酵素活性を示すので、バイオ燃料の生産に要する酵素量を減らし、生産コストを削減することができる。
また、A酵素およびZ酵素は草本系バイオマスのみならず、木質系バイオマス由来のブナ材キシランに対する糖化活性も、市販の最強酵素製剤といわれているCTec2と同程度であり、木質系バイオマスの糖化にも好適に使用することができる。
【実施例】
【0036】
次に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の単なる例示であって、本発明の限定を意図するものではない。
なお、本発明における1Uは、1分間当たりに1μモルのグルコース(または還元糖)を遊離する酵素活性の意味である。
【0037】
<草本系バイオマス糖化酵素を有する微生物の探索と同定>
腐食を多く含む土壌サンプル、約800サンプルから菌を採取し、稲わらを唯一の炭素源とする集積培養を行った。この集積培養には、表1の組成の培地を使用した。粉砕稲わらは、長野県産稲わら(有限会社宮原商店製、長野市)をハサミで5mm程度にカットしてからセラミックミル(パナソニック製EU6820P−G)にて粉砕したものを用いた。
【0038】
前記集積培養の結果、草本系バイオマスの糖化効率が高い菌株(A592−4B株。「A株」と略す。)が得られ、その同定試験を業者(株式会社テクノスルガ・ラボ、静岡市)に委託した。ITS−5.8S rDNA(配列番号1)および28S rDNA−D1/D2(配列番号2)をアポロンDB−FUおよびBLAST相同性検索した結果、菌株はペニシリウム・オキサリクム(Penicillium oxalicum)に属する菌株と同定された。A株をポテトデキストロース寒天培地平板上で培養したときのコロニーは濃緑色で、その形状は真円形で平坦かつ均一に広がった。A株を種々の培地上で25℃にて1週間培養した後の巨視的観察結果を表2に示す。
【0039】
なお、表の色調欄の()内の数値は、Kornerup and Wanscher(1978)で用いられている色のコード番号を示す。
【0040】
A株の微視的観察結果は以下の通りである。
・栄養菌糸:菌糸は寒天表面上または寒天内に形成され、無色、有隔壁菌糸の形成が認められた。
・無性生殖器官
(1)分生子柄および分生子形成細胞:分生子柄は栄養菌糸より直生し、分生子柄の先端部から円筒形のメトレが形成され、その先に分生子形成細胞であるフィアライドが形成される二輪性ペニシルスが主に観察された(図1、2)。フィアライドは皮針形を示した(図2)。
(2)分生子:フィアロ型分生子で、フィアライドから鎖状に連なって形成され、楕円形、1細胞、表面は平滑〜粗面(図3)。
・有性生殖器官:約2週間の培養検体からは有性生殖器官の形成は確認できなかった。
【0041】
[実施例1]<A酵素の取得と活性測定>
(前培養)
小麦ふすま質量2%を含む液体培地10mLを25mm径のガラス試験管に分注し、シリコセン(登録商標)をして高圧蒸気滅菌器(平山製作所製、HVA−110)で121℃、15分間滅菌した後、常温にして前培養用の液体培地を調製した。これに、PDA培地上のA菌株を無菌的に1白金耳植菌し、培養恒温反応器(タイテック株式会社製、BR−43FL)で30℃にて3日間、250spmで往復振盪して、前培養を行った。
【0042】
(A酵素液の調製)
表1の組成の液体培地1Lを、2Lのバッフル付きフラスコ(柴田科学製)に調製し、シリコセン(登録商標、アズワン製C−65)を装着して高圧蒸気滅菌器(平山製作所製、HVA−110)で121℃、15分間滅菌して培養液を調製した。常温の培養液に前培養液10mLを植菌し、これを培養器(ブリス株式会社製、TB−25RS)中100rpmで回転させながら、30℃にて7日間培養した。得られたA菌株培養液を遠心分離器(日立製作所製、himac CF15R)で8000rpm、10分間遠心分離し、上清約900mLを得、これをA酵素液とした。
【0043】
(A酵素の安定性の検討)
粉砕稲わらを基質として、温度30〜60℃、pH3〜7の条件下でA酵素による糖化反応を行い、反応後に上清中の還元糖量をソモギーネルソン法で測定することによりA酵素の活性を求めたところ、A酵素の至適温度は50℃、至適pHは5であった。また、pH5.0として30〜70℃で30分間保った後に酵素活性を測定することでA酵素液の温度安定性を調べたところ、50℃以下では安定であった。また、pH2〜11で30分間保った後の酵素活性を測定した結果、A酵素の活性はpH3〜10の範囲で安定であった。pH安定性については、pH5とpH9で活性が高い二峰性を示したが、本発明者らは、A酵素液中に複数存在する酵素の安定性の違いに起因するものと考えている。結果をグラフとしたものを図4a〜dに示す。
【0044】
(酵素活性の測定)
1gの粉砕稲わらと10mLの1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)に蒸留水を添加して95mLにメスアップして基質液を調製した。この基質液を96穴マイクロプレートの各ウェルに190μLずつ分注し、プレートシールを貼ってからサーモシェーカー(バイオサン製PST−60HL−4)にセットした。15分間保温した後、各ウェルにA酵素を含む酵素液を10μLずつ添加し、30分間850rpmで回転振盪して酵素反応させた。その後、各ウェルに1M NaOHを15μL添加し、酵素反応を止めた。次いで、マイクロプレートをマイクロプレート遠心機(クボタ製、PlateSpinII)にて4000rpmで10分間遠心分離し、上清中の遊離還元糖濃度を後述するDNS法で測定した。この結果、A酵素の比活性は、18.2U/mgであった。
【0045】
(DNS法の手順)
DNS法の手順は以下のとおりである。
1.まず、96穴PCRプレートの各ウェルにサンプル20μLを入れる。
2.次いで、サンプルを入れたウェルに表3の組成のDNS試薬を40μL添加し、プレートの表面にプレートシール(株式会社バイオクロマト製、タイタースティックHC)を貼って密封した後、プレートを沸騰水に入れて5分間反応させる。
3.プレートを氷水中で5分間冷却してから、プレートシールを剥がし、各ウェルに蒸留水180μLを加える。
4.各ウェルに発色液180μLを加えたのち、プレートリーダー(大日本住友製薬製、Viento)で540nmの吸光度を測定し、この吸光度から遊離還元糖濃度を求める。
【0046】
表3にDNS試薬の組成を示す。DNS試薬は褐色瓶に入れて使用するまで室温で保存した。
【0047】
[実施例2]<1LスケールでのA株の培養モニタリング>
表1の組成の液体培地1Lを、2Lのバッフル付きフラスコ(柴田科学製)に計3サンプル調製し、実施例1と同様にして滅菌して培養液を調製した。これにA株の前培養液10mLを植菌し、このフラスコを培養器(ブリス株式会社製、TB−25RS)中90rpmで回転させ、30℃にて7日間培養しながら、1日ごとに培養液中の酵素活性、タンパク質濃度、還元糖濃度およびpHを測定した。
【0048】
その結果、還元糖濃度については実験開始直後0.7mg/mL程度であったが、24時間後には0.2mg/mLまで下がり、以後ほとんど変化しなかった。これは、粉砕稲わらに含まれる可溶性の還元糖が調製直後の培地に溶解するものの、菌体が生育のために利用・吸収し、その後もA酵素の作用で生成した還元糖を、菌体がすぐに取り込むためと考えられる。
【0049】
pHは24時間で3.5付近まで急激に下がるが、その後徐々に上昇し、培養4日目でpH5.5付近まで戻った。
タンパク質量は、培養開始直後は0.1mg/mL未満であったが、24〜96時間後にかけてなだらかに上昇した。
稲わら分解活性については、培養直後はほぼ0であったが、24時間後から上昇しはじめ、96時間後に最大値となった。稲わら分解活性の推移は、タンパク質量およびpHの推移と正の相関を示した。結果をグラフにしたものを図5に示す。
なお、タンパク質濃度の測定はBSAを標準としてブラッドフォード法により測定した。測定には子牛血清アルブミンプロテインアッセイキットII(バイオラッド製、500−0002JA)を用いた。酵素活性の測定は上記DNS法で行った。
【0050】
<各種基質に対するA酵素の糖化活性>
[実施例3]
酵素溶液を適宜希釈し、表4の組成の反応溶液を調製し、170spmで往復振盪させながら、45℃にて30分反応させた。その後、氷冷して反応を止め、4℃にて14000rpmで10分間遠心分離し、上清の還元糖濃度を実施例1の(DNS法の手順)と同様にして測定した。その結果、粉砕稲わらに対するA酵素の糖化酵素活性は13.4±0.53U/mgであった。
【0051】
【0052】
[比較例1]
反応溶液中のA酵素の代わりにノボザイムズ社(デンマーク)のCellic(登録商標)CTecとCellic(登録商標)HTecを9:1の割合で混合したもの(CTecと略す。)を用いたこと以外は、実施例3と同様にして糖化酵素活性を測定した。その結果、CTecの糖化酵素活性は2.70±0.02U/mgであった。
【0053】
[比較例2]
反応溶液中のA酵素の代わりにノボザイムズ社(デンマーク)のCellic(登録商標)CTec2とCellic(登録商標)HTec2を9:1の割合で混合したもの(CTec2と略す。)を用いたこと以外は、実施例3と同様にして糖化酵素活性を測定した。その結果、CTec2の糖化酵素活性は5.10±0.01U/mgであった。
【0054】
[実施例4、比較例3、4]
粉砕稲わらの代わりにカルボキシメチルセルロース(CMC;Wako製)を用い、遠心分離を行わなかったこと以外はそれぞれ実施例3、比較例1、2と同様にして各酵素のCMC糖化活性を測定した。
【0055】
[実施例5、比較例5、6]
粉砕稲わらの代わりにアビセル(登録商標)PH−101(Fluka製)を用いたこと以外はそれぞれ実施例3、比較例1、2と同様にして各酵素のアビセル(登録商標)糖化活性を測定した。
【0056】
[実施例6、比較例7、8]
粉砕稲わらの代わりにブナ材キシラン(SIGMA−ALDRICH製)を用いたこと以外はそれぞれ実施例3、比較例1、2と同様にして各酵素のブナ材キシラン糖化活性を測定した。
【0057】
[実施例7]
表4中、10mgの粉砕稲わらの代わりに終濃度0.25mMのp−ニトロフェノール−β−グルコピラノシド(PNPG;和光純薬工業製)を用いて反応溶液を調製し、これを170rpmで回転振盪させながら、45℃にて15分反応させた。その後、反応溶液に2mLの0.2M炭酸ナトリウム溶液を加え、アルカリ性にすることで反応を停止するとともに遊離のパラニトロフェノール(PNP)を発色させ、プレートリーダーで500nmの吸光度を測定し、標準曲線と比較することによりA酵素のPNPG分解活性を求めた。
[比較例9、10]
A酵素の代わりにそれぞれCTec、CTec2を用いたこと以外は実施例7と同様にしてPNPG分解活性を求めた。
【0058】
実施例3〜7および比較例1〜10の結果をグラフにしたものを、図6に示す。CTec2はすべての基質でCTecより優れていたので、本発明のA酵素とCTec2を比較すると、CMC、アビセル(登録商標)およびPNPGに対する活性は、CTec2の方がA酵素より高く、CMCで2.3倍、アビセル(登録商標)で5.2倍、PNPGで8.9倍であった。しかし、草本系バイオマスである粉砕稲わらについては、本発明のA酵素の方がCTec2よりも2.6倍も活性が高かった。これらの結果から、A酵素は自然物であるバイオマス原料に対して優れた糖化活性を持っていると考えられる。
また、ブナ材キシランに対する活性はA酵素とCTec2とで同程度であった。この結果から、A酵素は木質系バイオマスの糖化活性も十分に有していることが明らかである。
【0059】
<A酵素とCTec、CTec2との相互作用の検討>
実施例8、9および比較例11、12では、本発明のA酵素と、市販の複合酵素であるCTecおよびCTec2との相互作用を検討した。
[実施例8]
4.5mg/mLのA酵素液を用いて表4の組成の溶液を調製し、170rpmで回転振盪させながら、45℃にて反応させた。所定時間後に氷冷して反応を止め、4℃にて14000rpmで10分間遠心分離し、上清の還元糖濃度を実施例1の(DNS法の手順)と同様にして測定することにより、実験開始から120時間後までの溶液中の還元糖濃度を測定した。結果を図7に三角(△)で示す。
【0060】
[実施例9]
4.5mg/mLのA酵素液100μLに加えて、4.5mg/mLのCTec2を100μL同時に添加したこと以外は、実施例8と同様の手順で溶液中の還元糖濃度を測定した。結果を図7に(×)で示す。
【0061】
[比較例11]
A酵素液の代わりに、CTecを用いたこと以外は、実施例8と同様の手順で溶液中の還元糖濃度を測定した。結果を図7にひし形(◇)で示す。
【0062】
[比較例12]
A酵素液の代わりに、CTec2を用いたこと以外は、実施例8と同様の手順で溶液中の還元糖濃度を測定した。結果を図7に四角(□)で示す。
【0063】
実施例8、9および比較例11、12の結果から、驚くべきことに本発明のA酵素とCTec2とを混合した場合に、粉砕稲わらの糖化率が向上することが明らかとなった。なお、A酵素とCTecを混合した酵素の粉砕稲わら糖化率は、A酵素のみを用いた実施例8と同程度であった(不図示)。また、実施例8、9および比較例11、12の中では、実施例9のみ酵素添加量が他の倍の0.9mgとなっているが、酵素量は0.45mgでも大過剰であり、各酵素を単独で使用した場合、酵素量を0.45mgより増やしても粉砕稲わらの糖化率に変化は見られなかった(不図示)。
A酵素とCTec2を混合して用いた場合(実施例9)の粉砕稲わら糖化率は、A酵素を単独で用いた場合(実施例8)やCTec2を単独で用いた場合(比較例11)の約1.3倍であった。この結果から、粉砕稲わら基質中にA酵素のみが糖化できる成分と、CTec2のみが糖化できる成分とが存在することが示唆される。すなわち、本発明のZ酵素とCTec2とを混合して用いることにより、稲わらをより効率的に糖化できるとともに、糖化に伴い発生する廃棄物を減少できる可能性がある。
【0064】
[実施例10]
A酵素の密度勾配等電点電気泳動を行い、得られた各フラクションについて280nmの吸光度(A280nm)の測定、並びに、フラクションのCMC糖化(CMCase)活性、アビセル糖化(Avicelase)活性、PNPG糖化(PNPGase)活性およびキシラン糖化(キシラナーゼ)活性を測定した。結果を各フラクションの溶出時のpHと併せて図8に示す。
【0065】
A280nmのピークは、大きい方からpH2.5、pH4.5、pH7.0の3カ所に見られた。しかし、pH2.5付近のフラクションには酵素活性が全くみられないことから、雑タンパク質と考えられる。
一方、pH4.5とpH7.0付近のどちらかのフラクションに各酵素の活性が見られた。具体的には、CMCase活性はpH4.2およびpH6.5付近に極大が見られた。Avicelase活性もCMCase活性と同様でpH4.5付近およびpH6.3に極大が見られた。PNPGase活性は、pH4付近にのみ極大が見られた。キシラナーゼ活性は、pH4から9にわたり広範に活性が見られ、pH6.7付近に最大の活性が見られた。
【0066】
上記の結果と、ペニシリウム属のキシラナーゼにはアイソザイムが存在するとの報告があること、リグノセルロースの分解には複数の酵素の関与が必要とされていることを考慮すると、本発明のA酵素液には少なくとも2種の酵素が存在し、これらの酵素がエンド−β−グルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼおよびキシラナーゼ活性を発揮していることが示唆される。
また、A280nmを総計したうちの約3分の1がpH2.5付近に存在していたことから、この分画を除去することでA酵素液の比活性を1.5倍程度向上できると考えられる。
【0067】
[実施例11]<Z酵素の取得と活性測定>
A菌株胞子にUV照射することによって変異株であるZ株を得た。
そして、A菌株の代わりにZ菌株を用いたこと以外は実施例1と同様にしてZ酵素液を取得し、その活性を測定したところ、Z酵素の比活性は30.6U/mgであった。すなわち、Z酵素はA酵素に対し約1.7倍の比活性を有している。
このペニシリウム・オキサリクムSA57−2株(Z株)を2012年2月20日(受領日)に独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託し、受託番号:FERM P−22221が付与された。
【0068】
[比較例13]<粉砕稲わらの完全糖化率の測定>
粉砕稲わらを硫酸で完全分解して、その糖組成を調べた。具体的には、300mgの粉砕稲わらに72%硫酸3mLを加え、30℃にて1時間保温し、この間10分に1回撹拌した。その後、蒸留水84mLを加え、オートクレーブに入れて121℃にて1時間保った。溶液に炭酸カルシウムを加えて中和した後、0.2μmのフィルターに通し、ろ液をHPLC分析用試料とした。
HPLCの溶離液として蒸留水を0.5mL/分で流し、これに前記HPLC分析用試料を10μL注入し、RI検出器(日本分光株式会社製RI−2031 Plus)を用いて遊離糖を測定した。この結果、HPLC分析用試料の糖組成は、稲わら重量に対してグルコース24.7%、キシロース10.8%、アラビノース2.0%、ガラクトース1.8%で、前記稲わらを完全分解したときの遊離糖の割合は稲わら重量の39.3%であった。なお、カラムはアジレントテクノロジー社製PL Hi−Plex Pb 300×7.7mmを使用し、カラム温度は80℃とした。
【0069】
[実施例12]<Z酵素による限界糖化率の測定>
表5の組成の反応溶液を調製し、45℃にて250spmで往復振盪し5日間保った。その後、溶液を14000rpmで10分間遠心分離し、上清を100℃で5分間加熱処理してから0.2μm径のHPLC前処理フィルター(アドバンテック社製、25HP020AN)に通してHPLC分析用試料とした。
【0070】
HPLCの溶離液として蒸留水を0.5mL/分で流し、これに前記HPLC分析用試料を10μL注入し、RI検出器(日本分光製RI−2031 Plus)を用いて遊離糖を測定した。その結果、前記試料中の遊離糖濃度は3.40mg/mLであった。また、比較例13の稲わらを完全分解したときの糖組成の結果を用いて計算したところ、Z酵素による稲わらの糖化率は86.6%であった。
なお、カラムはアジレントテクノロジー社製PL Hi−Plex Pb 300×7.7mmを使用し、カラム温度は80℃とした。
【0071】
[実施例13]<A酵素による限界糖化率の測定>
前記反応溶液中のZ酵素の代わりにA酵素を用いたこと以外は実施例12と同様にして、HPLC分析用試料中の遊離糖を測定した。その結果、試料中の遊離糖濃度は3.13mg/mL、稲わらの糖化率は79.6%であった。
【0072】
[比較例14]<CTec2による限界糖化率の測定>
前記溶液中のZ酵素を、ノボザイムズ社(デンマーク)のCellic(登録商標)CTec2とCellic(登録商標)HTec2を9:1の割合で混合したもの(CTec2)に代えたこと以外は、実施例12と同様にしてHPLC分析用試料中の遊離糖を測定した。その結果、試料中の遊離糖濃度は2.55mg/mL、稲わらの糖化率は64.8%であった。
【0073】
上記実施例12、13および比較例14の結果をまとめたグラフを図9に示す。図中の数字は稲わらの糖化率である。この図から、Z酵素およびA酵素がともに、市販の強力なセルラーゼであるCellic(登録商標)CTec2よりも稲わら糖化率が高いこと、Z酵素はA酵素よりも稲わら糖化活性も稲わら糖化率も高い有用な変異株であることが明らかである。
【0074】
<20%稲わら糖化活性の比較>
[実施例14]
前記実施例12、13および比較例14の結果から、Z酵素およびA酵素の両方がCellic(登録商標)CTec2よりも高い稲わら糖化率を示すことが分かったが、稲わら添加濃度が1質量%と低く、稲わらの完全分解率を測定するために酵素添加量が多かった。実用的には、高濃度の稲わらを含む溶液から高濃度の糖液を得ることが好ましく、また、酵素添加量を少なくし高い酵素活性を発揮させることが好ましい。
このため、粉砕稲わら濃度を20質量%、酵素添加量を10mg酵素/g稲わら、100mM(終濃度)酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)を含むZ酵素反応溶液を調製し、酵素反応を行った。
【0075】
前記Z酵素反応溶液を調製後、恒温反応器で45℃にて7日間、250spmで往復振盪した。その後、溶液を14000rpmで10分間遠心分離し、上清を100℃で5分間加熱処理してから0.2μm径のHPLC前処理フィルター(アドバンテック社製、25HP020AN)に通してHPLC分析用試料とした。
HPLCの溶離液として、アセトニトリルと蒸留水を3:1の容積比で混合したものを0.5mL/分で流し、これに前記HPLC分析用試料を注入し、RI検出器(日本分光製RI−2031 Plus)を用いてグルコース、キシロースおよび全遊離糖を測定した。その結果、前記試料中のグルコース濃度は48.34mg/mL、キシロース濃度は13.66mg/mL、全遊離糖濃度は65.71mg/mLであった。また、比較例13で得られた糖組成に基づいて完全糖化率に対する各糖への分解率を求めたところ、グルコース:97.9%、キシロース:63.2%、糖全体:92.5%であった。結果を図10にグラフとして示す。図中の数字は、完全糖化率に対する各糖への分解率を示す。
【0076】
[比較例15]
Z酵素の代わりに、CTec2を用いたこと以外は実施例14と同様にして実験を行った。その結果、試料中のグルコース濃度は42.39mg/mL、キシロース濃度は8.89mg/mL、全遊離糖濃度は55.00mg/mLであった。また、完全糖化率に対する各糖への分解率は、グルコース:85.8%、キシロース:41.2%、糖全体:77.5%であった。結果を図10に示す。
【0077】
実施例14および比較例15の結果から、本発明者らが見いだしたZ酵素は、20質量%という高い基質濃度、10mg酵素/g稲わらの酵素添加量でも高い稲わら糖化率を維持しており、最新市販酵素CTec2よりも高い糖化率を示すことが明らかである。
【0078】
<粗粉砕稲わらの糖化活性測定>
[実施例15]
長野県産稲わら(有限会社宮原商店、長野市)をハサミで5cm程度にカットしてから家庭用ミキサー(パナソニック製MJ−M3)にて30秒程度粉砕し、粗粉砕稲わらを調製した。粗粉砕稲わら1gを50mL遠心チューブに入れ、これにZ酵素5mg、1M酢酸緩衝液(pH5.0)1mLを入れて、脱イオン水で10mLにメスアップして密栓した。このチューブを振盪培養器(タイテック製BR−43FL)に直立にセットし、300rpmで回転振盪して45℃にて7日間反応させた。その後、反応液を8000rpmで10分間遠心分離し、上清を100℃で5分間加熱処理してから0.2μm径のHPLC前処理フィルター(アドバンテック社製、25HP020AN)に通してHPLC分析用試料とした。
【0079】
HPLCの溶離液として、アセトニトリルと蒸留水を3:1の容積比で混合したものを0.5mL/分で流し、これに前記HPLC分析用試料を注入し、RI検出器(日本分光製RI−2031 Plus)を用いてグルコース、キシロースおよび全遊離糖を測定した。この測定結果と比較例13で得られた糖組成に基づいて完全糖化率に対する各糖への分解率を求めたところ、グルコース:75.13%、キシロース:36.28%、遊離糖全体:64.40%であった。結果を図11にグラフとして示す。なお、カラムは昭和電工製Asahipak NH2P−50 4E 250×4.6mmを使用し、カラム温度は26℃とした。
【0080】
[比較例16]
Z酵素の代わりに、CTec2を用いたこと以外は実施例15と同様にして実験を行った。その結果、各糖への分解率は、グルコース:52.34%、キシロース:37.93%、遊離糖全体:46.61%であった。結果を図11に示す。
【0081】
[比較例17]
Z酵素の代わりに、単一菌株由来酵素の市販製品で、最も強いバイオマス糖化活性を持っているとされるアクレモニウムセルラーゼ(明治製菓製)を用いたこと以外は実施例15と同様にして実験を行った。その結果、各糖への分解率は、グルコース:48.41%、キシロース:11.22%、遊離糖全体:37.33%であった。結果を図11に示す。
【0082】
実施例15、比較例16、17の結果から、本発明のZ酵素が、現在市販されている酵素の中でも高いセルラーゼ活性を持つとされるCellic(登録商標)CTec2や高いバイオマス糖化活性を持つアクレモニウムセルラーゼと比べても、ミキサー処理しただけの粗粉砕稲わらを、化学的な前処理をすることなく64.4%という高い分解率で糖化できることが示された。
従来、稲わら等のバイオマスを糖化する際には、酵素による糖化に先立ち酸やアルカリあるいは高温高圧の水による前処理が必要とされてきた。アルカリ法や高温高圧の水を用いる方法による前処理では黒液が発生し、別途黒液等の廃液処理が必要であるが、本発明のZ酵素は粗粉砕稲わらを高い分解率で直接糖化できるため、黒液等の廃液処理を必要とせず、バイオマス糖化の実用化に当たり非常に有利である。
【0083】
<アンモニア処理わらの糖化活性比較>
[実施例16]
(アンモニア処理わらの調製)
実施例15に記載の手順で調製した粗粉砕稲わらに28%アンモニア水を稲わら重量の2.5倍量加え、それを60℃にて3時間振盪反応器で振盪した。その後、粉砕稲わらを乾燥し、製粉機(マルマス機械製、商品名:マルマスホーミル)でさらに粉砕して、アンモニア処理わらとした。
【0084】
(アンモニア処理わらの酵素処理)
アンモニア処理わら260mg、1M酢酸緩衝液(pH5.0)100μLおよびZ酵素2.6mgにイオン交換水を添加して全量1mLの酵素反応液を調製し、この反応液をマイクロチューブ(ザルスタット社製、72.694.007)に入れた。マイクロチューブを振盪培養器(タイテック社製、BR−43FL)に横向きにセットし、45℃にて7日間、300spmで往復振盪して、酵素反応させた。
その後、酵素反応液を14000rpmで10分間遠心分離し、上清を100℃で5分間加熱処理してから0.2μm径のHPLC前処理フィルター(アドバンテック社製、25HP020AN)に通してHPLC分析用試料とした。
【0085】
(反応液のHPLC分析)
HPLCの溶離液として、アセトニトリルと蒸留水を3:1の容積比で混合したものを0.5mL/分で流し、これに前記HPLC分析用試料を注入し、RI検出器(日本分光製RI−2031 Plus)を用いてキシロースとキシロビオースを測定した。その結果、酵素反応液中のキシロースの濃度は34.08mg/mL、キシロビオースの濃度は8.10mg/mLであった。別に行った組成成分分析では、アンモニア処理わらを完全に分解すると、その重量のうち20%がキシロースとなったことから、本実施例で使用したアンモニウム処理わら260mgを完全に糖化したときのキシロースの理論値は52mgである。この値を元に、酵素反応液におけるキシロースとキシロビオースへの分解率を算出した。分解率を図12のグラフ中に示す。キシロースとキシロビオースを合わせると生成率は理論値の81.1%であった。なお、カラムはアジレントテクノロジー社製PL Hi−Plex Pb 300×7.7mmを使用し、カラム温度は26℃とした。
【0086】
[比較例18]
Z酵素の代わりに、CTec2を用いたこと以外は実施例16と同様にして実験を行った。その結果、酵素反応液中のキシロースの濃度は32.43mg/mL、キシロビオースの濃度は9.47mg/mL、キシロースとキシロビオースを合わせると生成率は理論値の80.6%であった。結果を図12に示す。
【0087】
[比較例19]
Z酵素の代わりに、単一菌株由来酵素の市販製品で、最も強いバイオマス糖化活性を持っているとされるアクレモニウムセルラーゼ(明治製菓製)を用いたこと以外は実施例16と同様にして実験を行った。その結果、酵素反応液中のキシロースの濃度は16.23mg/mL、キシロビオースの濃度は15.70mg/mL、キシロースとキシロビオースを合わせると生成率は理論値の61.4%であった。結果を図12に示す。
【0088】
実施例16および比較例18、19の結果から、本発明のZ酵素は単一菌株由来酵素でありながら、複数種の酵素を組み合わせた複合酵素製剤であるCellic(登録商標)CTec2とほぼ互角の糖化率を示した。また、単一菌(アクレモニウム・セルロリティカス;Acremonium cellulolyticus)由来のアクレモニウムセルラーゼ(明治製菓製)を遙かにしのぐ糖化率を示した。アクレモニウムセルラーゼは、単一菌株由来酵素としては最も優れたセルラーゼ活性を持つといわれているが、本発明のZ酵素はそれに勝っているため、単一菌株由来酵素で最強であると考えられる。さらに、本発明のZ酵素は、上記CTec2やアクレモニウムセルラーゼと比較して、分解中間物であるキロビオースが残りにくく、単糖であるキシロースに効率よく分解できることが示された。
【0089】
<Z酵素とアクレモニウムセルラーゼとの比較>
[実施例17]
実施例16の(アンモニア処理わらの調製)の手順にてアンモニア処理わらを得、これに脱イオン水を加えて9000rpmで5分間遠心分離した。上清を捨ててから再度脱イオン水を加えて洗浄し、4000rpmで15分間遠心分離して沈殿を得、これを乾燥して洗浄微粉砕稲わらを得た。
【0090】
上記表6の組成の基質液を調製し、これをマイクロプレートに450μL/ウェル分注した。このプレートをプレートシェイカーにセットし30℃に予備加熱した後、Z酵素濃度が20mg/mLのZ酵素液を1ウェルあたり50μL加え、850rpmで回転振盪して2時間酵素反応させた。その後に1ウェルあたり25μLの1M NaOHを加えて撹拌し、酵素反応を止めた。次いで、マイクロプレートをマイクロプレート遠心機(クボタ製、PlateSpinII)にて1500gで10分間、室温にて遠心分離し、上清を回収し、これにアセトニトリルを加えて2倍に希釈してからフィルタープレート濾過(3μmガラスフィルター/0.2μmフィルター)したサンプルをHPLC分析用試料とした。
【0091】
上記HPLC分析用試料について、実施例15と同様にしてHPLCで試料中のグルコース濃度、キシロース濃度およびアラビノース濃度を求めた。結果を図13に示す。
【0092】
[実施例18〜22、比較例20]
酵素反応液中の全酵素濃度を2mg/mLとしたまま、Z酵素濃度とアクレモニウムセルラーゼ(明治製菓製)濃度を表7に記載の濃度としたこと以外は、実施例17と同様にして酵素反応を行い、試料中のグルコース濃度、キシロース濃度およびアラビノース濃度を求めた。結果を図13に示す。
【0093】
アクレモニウムセルラーゼによる遊離糖濃度の合計が7mg/mLであるのに対して、本発明のZ酵素は9mg/mLと多く、本発明のZ酵素が反応開始から2時間という短時間で草本系バイオマスを単糖に分解する能力に優れていることが示された。Z酵素は特にキシロース、アラビノースへの分解が迅速である。また、Z酵素とアクレモニウムセルラーゼを混合して用いることにより、Z酵素やアクレモニウムセルラーゼをそれぞれ単独で用いた場合よりも、グルコースへの分解が迅速であることが示された。
【0094】
[実施例23]
酵素反応時間を6日間とし、遠心分離後に得られた上清を水で3倍に希釈した後、さらにアセトニトリルを加えて2倍に希釈(最終的に6倍希釈)したこと以外は実施例17と同様にして酵素反応を行い、試料中のグルコース濃度、キシロース濃度およびアラビノース濃度を求めた。結果を図14に示す。
【0095】
[実施例24〜28、比較例21]
酵素反応液中の酵素濃度を2mg/mLとしたまま、Z酵素濃度とアクレモニウムセルラーゼ(明治製菓製)濃度を表7に記載の濃度としたこと以外は、実施例23と同様にして酵素反応を行い、試料中のグルコース濃度、キシロース濃度およびアラビノース濃度を求めた。結果を図14に示す。
【0096】
本発明のZ酵素による遊離糖濃度の合計は52mg/mLで、アクレモニウムセルラーゼの48mg/mLより糖化率が高いことが示された。アクレモニウムセルラーゼと比べて、Z酵素は特にキシロースへの糖化力が優れている。また、Z酵素とアクレモニウムセルラーゼを混合して用いることにより、Z酵素やアクレモニウムセルラーゼをそれぞれ単独で用いた場合よりも、稲わらの分解率を向上し得ることが示された。
【0097】
<ヘミセルラーゼ活性の測定>
[実施例29]
A酵素の代わりにZ酵素を用い、反応温度を30℃としたこと以外は実施例6と同様にして、Z酵素のキシラナーゼ活性を求めた。また、A酵素の代わりにZ酵素を用い、反応温度を30℃とし、PNPGの代わりにp−ニトロフェニル−β−D−キシロピラノシド(PNPX)を用いたこと以外は実施例7と同様にして、Z酵素のキシロシダーゼ活性を求めた。その結果、Z酵素のキシラナーゼ活性は20.3U/mg、キシロシダーゼ活性は56.1U/mgであった。
【0098】
[比較例22]
Z酵素の代わりにアクレモニウムセルラーゼ(明治製菓製)を用いて実施例29と同様の実験を行い、酵素活性を求めたところ、アクレモニウムセルラーゼのキシラナーゼ活性は8.7U/mg、キシロシダーゼ活性は2.2U/mgであった。
【0099】
[比較例23]
Z酵素の代わりにCTec2を用いて実施例29と同様の実験を行い、酵素活性を求めたところ、CTec2のキシラナーゼ活性は8.2U/mg、キシロシダーゼ活性は33.0U/mgであった。
【0100】
実施例29および比較例22、23の結果から、本発明のZ酵素は、アクレモニウムセルラーゼと比較してキシラナーゼ活性は2.3倍、キシロシダーゼ活性は25.5倍と優れた酵素活性を示した。
また、本発明のZ酵素はCTec2に対しても、キシラナーゼ活性、キシロシダーゼ活性のいずれもが優れていた。
【0101】
<酵素活性の濃度依存性の確認>
[実施例30]
粉砕稲わら1gあたりZ酵素を10mg含む、表8の組成の反応溶液を調製し、45℃にて4日間900rpmで撹拌した。その後、溶液を14000rpmで10分間遠心分離し、上清を100℃で5分間加熱処理してから0.2μm径のHPLC前処理フィルター(アドバンテック社製、25HP020AN)に通してHPLC分析用試料とした。
【0102】
HPLCの溶離液として、アセトニトリルと蒸留水を3:1の容積比で混合したものを0.5mL/分で流し、これに前記HPLC分析用試料を注入し、RI検出器(日本分光製RI−2031 Plus)を用いてグルコース、キシロースおよび全遊離糖を測定した。比較例13で得られた遊離糖の量に基づいて完全糖化率に対する分解率を求めたところ、63.0%であった。また、Z酵素を5mg、2.5mgとして同様の測定を行った。結果を図15に黒菱形(◆)で示す。
【0103】
[比較例24〜26、実施例31]
Z酵素の代わりに、それぞれCTec(比較例24)、CTec2(比較例25)、GC220(ジェネンコア社製セルラーゼ;比較例26)またはZ酵素とCTec2とをタンパク質量として1:1の割合で混合したもの;実施例31)を用いたこと以外は実施例30と同様にして測定を行った。図15に、CTecの結果を黒四角(■)、CTec2の結果を黒三角(▲)、GC220の結果を黒丸(●)、Z酵素:CTec2=1:1の結果を(×)で示す。
【0104】
これらの結果から、本発明のZ酵素が、市販のセルラーゼであるCTec、CTec2およびGC220より高い稲わら糖化率を示すこと、並びに、希釈をした場合でも、市販のセルラーゼよりも高い酵素活性を維持することが明らかである。また、10mg酵素/g稲わらの際の糖化率を100%としたときの、2.5mg酵素/g稲わらの糖化率は、CTec2が約74%であるのに対し、本発明のZ酵素は約86%であり、濃度希釈による酵素活性の低下が少なかった。特に、酵素濃度が10mg/mLとなるようにZ酵素とCTec2を1:1の割合で混合して使用した混合製剤の糖化率は53.3%であり、CTec2のみを用いた場合(38.8%)の1.38倍の糖化率を示した。
セルロース系バイオマスから1リットルのバイオエタノールを製造するときの酵素費用は約25円とされており、高額な酵素費用がバイオエタノール製造の障壁となっているが、本発明のZ酵素は低濃度であっても従来市販されているセルラーゼよりも高い酵素活性を示すことから、バイオエタノールの製造コスト低減に極めて有効である。
【0105】
<粉砕小麦わらに対する糖化活性の測定>
[比較例27]
粉砕稲わらの代わりに、粉砕小麦わらを用いたこと以外は比較例13と同様にして、粉砕小麦わらを硫酸で完全分解したときの、遊離糖の量と糖組成を測定した。
【0106】
[実施例32]
粉砕稲わらの代わりに、粉砕小麦わらを用いたこと以外は実施例30と同様にして、Z酵素を粉砕小麦わらに作用させたときに発生する遊離糖の量を測定した。この結果、遊離糖の濃度は14.8mg/Lであった。また、比較例27で得られた遊離糖の測定値に基づいて、完全糖化率に対する分解率を求めたところ69.3%であった。また、Z酵素を5mg、2.5mgとして同様の測定を行った。結果を図16に黒菱形(◆)で示す。
【0107】
[比較例28〜30、実施例33]
Z酵素の代わりに、それぞれCTec(比較例28)、CTec2(比較例29)、GC220(比較例30)またはZ酵素とCTec2とをタンパク質量として1:1の割合で混合したもの(実施例33)を用いたこと以外は実施例32と同様にして測定を行った。図16に、CTecの結果を黒四角(■)、CTec2の結果を黒三角(▲)、GC220の結果を黒丸(●)、Z酵素:CTec2=1:1の結果を(×)で示す。
【0108】
これらの結果から、本発明のZ酵素が、稲わらだけでなく小麦わらに対しても、市販のセルラーゼであるCTec、CTec2およびGC220より高い糖化活性を持つことが明らかである。本発明のZ酵素は希釈をした場合でも、同様に市販のセルラーゼよりも高い糖化活性を示した。また、酵素濃度が10mg/mLとなるようにZ酵素とCTec2を1:1の割合で混合して使用した場合、完全糖化率に対する分解率は75.4%であり、Z酵素の約1.1倍、CTec2の約1.3倍であった。
本発明のZ酵素は、稲わらのみならず、全世界では稲わらよりも賦存量の多い小麦わらに対しても優れた糖化酵素活性を有することから、バイオ燃料の製造に極めて有用である。
【0109】
<粉砕葦に対する糖化活性の測定>
[比較例31]
粉砕稲わらの代わりに、粉砕葦を用いたこと以外は比較例13と同様にして、粉砕葦を硫酸で完全分解したときの、遊離糖の量と糖組成を測定した。
【0110】
[実施例34]
粉砕稲わらの代わりに、粉砕葦を用いたこと以外は実施例30と同様にして、粉砕葦1gに対して10mgのZ酵素を作用させたときに発生する遊離糖(グルコース、キシロース、アラビノースおよびセロビオース)の量を測定した。結果を図17に示す。また、比較例31で得られた遊離糖の測定値に基づいて、完全糖化率に対する分解率を求めたところ、特にアラビノースへの変換率は24.7%と高い値であった。
【0111】
[比較例32〜34、実施例35]
Z酵素の代わりに、それぞれCTec(比較例32)、CTec2(比較例33)、GC220(比較例34)またはZ酵素とCTec2とをタンパク質量として1:1の割合で混合したもの(実施例35)を用いたこと以外は実施例34と同様にして測定を行った。結果を図17に示す。
【0112】
これらの結果から、本発明のZ酵素が、市販のセルラーゼと同程度の粉砕葦に対する糖化活性を持つことが明らかとなった。市販のセルラーゼがアラビノースへの糖化酵素活性を全く持たないのに対し、Z酵素はアラビノースへの高い糖化酵素活性を示した。アラビノースへの変換率は、Z酵素とCTec2を1:1の割合で混合して用いた実施例35でも21.0%と高いことから、バイオ燃料製造用の複合酵素群の一成分としても非常に有用である。
【0113】
<粉砕イネ籾殻に対する糖化活性の測定>
[実施例36]
粉砕稲わらの代わりに、粉砕イネ籾殻を用いたこと以外は実施例30と同様にして、粉砕イネ籾殻1gに対して10mgのZ酵素を作用させたときに発生する遊離糖(グルコース、キシロース、アラビノースおよびセロビオース)の量を測定した。結果を図18に示す。
【0114】
[比較例35〜37、実施例37]
Z酵素の代わりに、それぞれCTec(比較例35)、CTec2(比較例36)、GC220(比較例37)またはZ酵素とCTec2とをタンパク質量として1:1の割合で混合したもの;実施例37)を用いたこと以外は実施例36と同様にして測定を行った。結果を図18に示す。
【0115】
これらの結果から、本発明のZ酵素が粉砕イネ籾殻に対し市販のセルラーゼと同程度の糖化活性を持ち、イネ籾殻からバイオ燃料を製造するにあたっても非常に有用な糖化酵素であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明によれば、草本系バイオマスおよび木質系バイオマスを、迅速に効率よく、かつ安価に糖化することができる糸状菌が提供される。本発明の糸状菌を液体培養した場合、培地中にセルロース分解活性およびヘミセルロース分解活性を有する分泌物が蓄積するので、その液体培地から菌体を除去して得られる液体組成物を直接バイオマスの糖化に利用することができる。本発明の糸状菌が分泌するバイオマスの糖化酵素群は、従来公知の酵素よりも糖化活性が高く、さらに草本系バイオマスに対しては前処理することなく糖化でき、黒液等の廃棄物の発生もないため、バイオエタノールの製造に非常に有望である。
【受託番号】
【0117】
FERM P−22221
図1
図2
図3
図4
図5
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図11
図12
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図15
図16
図17
図18
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]