特許第6202733号(P6202733)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202733
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】ポンプスプライン潤滑構造
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20170914BHJP
   F16D 1/00 20060101ALI20170914BHJP
   F16D 1/02 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   F16H57/04 J
   F16D1/00 230
   F16D1/02 210
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-231613(P2013-231613)
(22)【出願日】2013年11月7日
(65)【公開番号】特開2015-90213(P2015-90213A)
(43)【公開日】2015年5月11日
【審査請求日】2016年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】313004724
【氏名又は名称】ユニキャリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【弁理士】
【氏名又は名称】谷田 龍一
(74)【代理人】
【識別番号】100082474
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩二
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−4964(JP,A)
【文献】 特開2008−190636(JP,A)
【文献】 特開平4−148087(JP,A)
【文献】 特開2007−85409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
F16D 1/00
F16D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクコンバータ保護用リリーフバルブのリリーフ油を、油圧ポンプのポンプ軸とポンプ駆動ギアとのスプライン嵌合部に供給するポンプスプライン潤滑油路を備え
前記ポンプ駆動ギアの軸方向両側に、前記ポンプスプライン潤滑油路の出口から排出されるリリーフ油を前記ポンプ軸のスプライン嵌合部の少なくとも一部が浸漬するように溜める油溜部を形成し、
前記油溜部は、前記ポンプ駆動ギアの軸方向両側のボスと該ポンプ駆動ギアを収容するケーシングの内壁面に突設されたボスとの間に介在され、前記ポンプ駆動ギアのギアに近い側に油の漏れを防ぐシールが取り付けられた一対のシール付き軸受によりシールされ、
前記ケーシングの内壁面に突設されたボスに、前記油溜部の油を所定レベルで越流させるための越流部が形成されていることを特徴とするポンプスプライン潤滑構造。
【請求項2】
前記ポンプスプライン潤滑油路は、トルクコンバータ保護用リリーフバルブのリリーフポートから、該ポンプスプライン潤滑油路の出口までを、ケーシングの穿孔により形成されていることを特徴とする請求項1に記載のポンプスプライン潤滑構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業車両や荷役車両に搭載される油圧ポンプのポンプ軸のスプライン係合部に潤滑油を供給する、ポンプスプライン潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フォークリフト等の産業車両や建設車両には、荷役作業を行うための油圧機器に作動油を送る油圧ポンプや湿式ブレーキやアクスルを冷却する油を送る油圧ポンプ等が取り付けられている。
【0003】
一般にこの種の油圧ポンプは、ポンプ軸とポンプ軸駆動ギアの軸孔とがスプライン嵌合して連結されており、このスプライン嵌合部(以下、ポンプスプラインとも言う。)の潤滑状態が悪いとフレッティング摩耗などの不具合を生じる。ポンプスプラインの潤滑には、ポンプ軸駆動ギアに付着したオイルの飛沫による自然潤滑と、クラッチ潤滑油を分岐させて潤滑油とする強制潤滑とがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−839099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自然潤滑は構造が単純であるがベンチテストで確認が必要となり、強制潤滑は潤滑油量を確保できるがポンプスプラインに潤滑油を供給するために別に油圧ポンプや潤滑油回路が必要となる、という問題がある。特にベンチテストでの確認は、油圧ポンプのポンプ軸のスプライン部を完全に脱脂してから当該油圧ポンプを取り付け、トルクコンバータを回転させて、アイドル回転から最高回転数迄スイープさせて停止、分解してスプライン部の潤滑状態を、ニュートラルを含む全ての速度段で確認するという、非常に手間のかかる作業が必要となる。また、強制潤滑において、クラッチ潤滑油を分岐させてポンプスプラインを潤滑すると、クラッチ潤滑油量が減少し、クラッチの冷却性能を損なう恐れもある。
【0006】
そこで、本発明は上記問題を解消し得る、ポンプスプライン潤滑構造を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るポンプスプライン潤滑構造は、トルクコンバータ保護用リリーフバルブのリリーフ油を、油圧ポンプのポンプ軸とポンプ駆動ギアとのスプライン嵌合部に供給するポンプスプライン潤滑油路を備え、前記ポンプ駆動ギアの軸方向両側に、前記ポンプスプライン潤滑油路の出口から排出されるリリーフ油を前記ポンプ軸のスプライン嵌合部の少なくとも一部が浸漬するように溜める油溜部を形成し、前記油溜部は、前記ポンプ駆動ギアの軸方向両側のボスと該ポンプ駆動ギアを収容するケーシングの内壁面に突設されたボスとの間に介在され、前記ポンプ駆動ギアのギアに近い側に油の漏れを防ぐシールが取り付けられた一対のシール付き軸受によりシールされ、前記ケーシングの内壁面に突設されたボスに、前記油溜部の油を所定レベルで越流させるための越流部が形成されていることを特徴とする。
【0008】
前記ポンプスプライン潤滑油路は、トルクコンバータ保護用リリーフバルブのリリーフポートから、該ポンプスプライン潤滑油路の出口までを、ケーシングの穿孔により形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、トルクコンバータ保護用リリーフバルブのリリーフ油を、油圧ポンプのポンプ軸とポンプ駆動ギアとのスプライン嵌合部に供給するようにしているため、別途の油圧ポンプを設けずに、且つ、クラッチ潤滑油量を減少させずに、油圧ポンプのポンプスプラインに潤滑油を供給することができる。
【0013】
エンジン回転数が低い時はリリーフ油の排出量が減少又は無くなるが、油溜部にリリーフ油を溜めておくことにより、潤滑油を確保することができる。
【0014】
また、油溜部をシール付き軸受でシールすることにより、簡易なシール構造で潤滑油を溜めることができる。
【0015】
また、越流部を設けることにより、所定量の潤滑油を油溜部に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係るスプライン潤滑構造が適用される荷役車両のトルコン式変速機(パワーシフト式変速機)の油圧回路の一実施例を示す油圧回路図である。
図2】本発明に係るスプライン潤滑構造が適用されるトルコン式変速機の一実施例を示す概略正面図である。
図3図2のIII−III線に沿う水平断面図である。
図4図3のIV−IV線に沿う要部縦断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係るポンプスプライン潤滑構造の一実施形態について、以下に図1〜4を参照しつつ説明する。なお、全図を通し、同様の構成部分には同符号を付した。
【0018】
図1はスプライン潤滑構造が適用される荷役車両のトルコン式変速機(パワーシフト式変速機)の油圧回路図であって、トルクコンバータ1を含み、前後進1速クラッチF1、R、及び前進2速クラッチF2を断続するとともにクラッチ潤滑油を供給する油圧回路図を示している。エンジン2から動力伝達されるチャージポンプ3によりトランスミッションケーシング(図2の符号15参照)底のオイルタンク4内の加圧された圧油は、トルクコンバータ1に供給されるとともに、オイルクーラ5を経て各クラッチF1、R潤滑油として供給され、クラッチF2にも潤滑油として供給される一方、チャージポンプ3から主圧力調整弁6の上流側で分岐した圧油は、インチングバルブ7を経て、更に前後進1速用電磁弁8及び前進2速用電磁弁9を経て、湿式多板式の各クラッチF1、R、F2の断続用作動油として供給される。
【0019】
チャージポンプ3からトルクコンバータ1に供給される作動油は、主圧力調整弁6及びトルクコンバータ保護用リリーフバルブ10によって調圧されている。また、トルクコンバータ1から各クラッチF1、R、F2に潤滑油を送る潤滑油回路を保護するための潤滑リリーフバルブ11も設けられている。符号12はアキュムレータである。
【0020】
トルクコンバータ保護用リリーフバルブ10のリリーフポート10aからリリーフされるリリーフ油は、ポンプスプライン潤滑油路13を通じて、後述するように、荷役用油圧ポンプのポンプ軸とポンプ駆動ギアとのスプライン嵌合部に供給される。
【0021】
図2は荷役用油圧ポンプが取り付けられるトランスミッションケースの概略外観を示す正面図、図3図2のIII−III線に沿う水平断面図、図4図3のIV−IV線に沿う縦断正面図である。
【0022】
トルクコンバータ1やクラッチ(図1参照)等が収容されているトランスミッションケース15の上部に、ポンプ駆動ギア16を収容するケーシング15A(15a、15b)が取り付けられ、このケーシング15Aに、ポンプ駆動ギア16にスプライン嵌合された荷役用油圧ポンプ17が取り付けられている。ケーシング15Aは、トランスミッションケース15の一部を構成している。
【0023】
図示例では、荷役用油圧ポンプ17は、トランスミッションケース15内のオイルタンク(ドレンタンク)内のオイルレベルHより高い位置に設けられているとともに、ブレーキやアクスル(不図示)の冷却等のために油を供給するための油圧ポンプ18の上部に配設されている。なお、油圧ポンプ18の回転軸はオイルレベルHより低い位置にあってオイルタンク内のオイルに常時浸漬することにより、該回転軸のスプライン嵌合部に潤滑油が常時供給されている。なお、図2には示されていないが、チャージポンプ(図1の符号3)は油圧ポンプ18の回転軸と同軸でケーシング内に内設されている。
【0024】
ポンプ駆動ギア16は、ギア16aの軸方向両側にボス16b、16cが形成されるとともに、回転軸線方向に貫通孔16dが形成され、貫通孔16dの内周面にスプライン16eが形成されている。荷役用油圧ポンプ17のポンプ軸17aにも、周面にスプライン17bが形成されている。ポンプ駆動ギア16のスプライン16eと荷役用油圧ポンプ17のポンプ軸17aのスプライン17bとが互いに噛み合って嵌合することにより、両者が駆動連結される。ポンプ駆動ギア16は、噛み合っているギア19及び図外のトルコンギアを通じて、トルクコンバータ1からの回転駆動力を伝達される。
【0025】
ポンプ駆動ギア16は、ケーシング15A内壁面から突出するボス15c、15dに、シール付き軸受20、21を介して回転自在に支持されている。ケーシング15Aのボス15c、15dの内周面に段部15e、15fが形成される一方、ポンプ駆動ギア16のボス16b、16cの外周面にも段部16f、16gが形成されて、これらの段部15e、15f、16f、16gによってシール付き軸受20、21が、ボス16b、16cの軸線方向に移動不能に取り付けられている。
【0026】
シール付き軸受20,21は、其々の片側、特に、ギア16aに近い側に、軸受の内輪と外輪との間を塞いで油の漏れを防ぐシール20a,21aが取り付けられており、軸受20,21にも潤滑油が供給される。なお、これとは反対に、ギア16aから遠い側にシールが取り付けられた軸受によりポンプ駆動ギア16を支持することもできる。この種のシールは、公知の接触形シール等が用いられ得る。
【0027】
ポンプ駆動ギア16の軸方向両側に間隙X1、X2が設けられている。間隙X1は、ケーシング15Aの段部15eを形成する凹部15gによって形成されている。この間隙X1に面するケーシング15Aの内壁面に、潤滑油の注油口13aが形成されている。この注油口13aは、ポンプスプライン潤滑油路13の出口となっている。ポンプスプライン潤滑油路13は、外部配管を用いず、トルクコンバータ保護用リリーフバルブ10のリリーフポート10aから、ケーシング15Aを形成している板厚内に穿孔することによって形成されている。トルクコンバータ保護用リリーフバルブ10は、ケーシング15Aの上部に配設されている。
【0028】
ポンプスプライン潤滑油路13を通じて注油口13aから排出された油は、隙間X1に流入し、隙間X1はシール付き軸受20で閉鎖されているため、徐々に溜まっていくと、油面が上昇し、スプライン嵌合部22に達する。そして反対側の間隙X2にもシール付き軸受21によって油が溜まっていく。このようにして、シール付き軸受20,21で閉じられた間隙X1、X2に、油を溜めることができる油溜部が形成され、スプライン嵌合部22に潤滑油を供給することができる。
【0029】
図4を参照すると、この油溜部Xに溜まる油を所定の液面高さで油溜部Xから排出するための越流部23が、ケーシング15Aのボス15cに形成されている。図示例において、越流部23は、図3及び図4に示すように、ケーシング15Aの内壁面から環状に突出するボス15cの突端面の一部を凹ませるようにして形成されているが、図示例に限らず、例えば、ボス15cの側壁に孔を設けることによって形成することもできる。越流部23は、ポンプスプライン潤滑油路13から排出されるリリーフ油によって、ポンプ軸17aのスプライン嵌合部22の少なくとも一部が浸漬する高さ位置に形成される。越流部23から越流した油は、トランスミッションケース15の底のドレンタンクに流下する。
【0030】
上記のように、本発明では、トルクコンバータ保護用リリーフバルブ10のリリーフ油を、荷役用油圧ポンプ17のポンプ軸17aとポンプ駆動ギア16とのスプライン嵌合部22に供給するようにしているため、潤滑油を別途圧送するための油圧ポンプを設けずに、且つ、クラッチ潤滑油量を減少させずに、荷役用油圧ポンプ17のポンプスプライン嵌合部22に潤滑油を供給することができる。
【0031】
また、エンジン回転数が低い時はトルクコンバータ保護用リリーフバルブ10からのリリーフ油の排出量が減少又は無くなるが、油溜部Xにリリーフ油を溜めておくことにより、潤滑油を確保することができる。
【0032】
また、油溜部Xをシール付き軸受20,21でシールすることにより、簡易なシール構造で潤滑油を溜めることができ、越流部23を設けることにより所定量の潤滑油を油溜部Xに溜めることができる。
【0033】
上記実施形態では荷役用油圧ポンプのポンプスプライン潤滑構造について説明したが、油圧ポンプ18がオイルタンク内のオイルレベルHより高い位置に設けられる場合には、上記荷役用油圧ポンプと同様のポンプスプライン潤滑構造を採用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 トルクコンバータ
10 トルクコンバータ保護用リリーフバルブ
10a リリーフポート
13 ポンプスプライン潤滑油路
15d、15d ボス
16 ポンプ駆動ギア
16b、16c ボス
17 荷役用油圧ポンプ
17a ポンプ軸
20、21 シール付き軸受
22 スプライン嵌合部
23 越流部
X 油溜部
図1
図2
図3
図4