特許第6202755号(P6202755)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越ポリマー株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202755
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】帯電防止性離型フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/68 20060101AFI20170914BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20170914BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20170914BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20170914BHJP
   B29C 55/02 20060101ALI20170914BHJP
   C08J 7/04 20060101ALI20170914BHJP
   B29K 83/00 20060101ALN20170914BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20170914BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20170914BHJP
【FI】
   B29C33/68
   B32B27/00 L
   B32B27/00 101
   B32B27/36
   B32B27/18 J
   B29C55/02
   C08J7/04 DCFD
   B29K83:00
   B29L7:00
   B29L9:00
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-137722(P2014-137722)
(22)【出願日】2014年7月3日
(65)【公開番号】特開2016-13668(P2016-13668A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2016年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
【審査官】 辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−080608(JP,A)
【文献】 特開2003−251756(JP,A)
【文献】 特開2011−038002(JP,A)
【文献】 特開平08−216346(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0084225(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C33/00−33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンの導電性複合体と水系分散媒とを含む導電性高分子水分散液に、硬化型シリコーン樹脂を含むシリコーンエマルジョンおよびアルカリ化合物を添加して、帯電防止性剥離剤を調製する調製工程と、
前記帯電防止性剥離剤をフィルム基材の少なくとも一方の面に塗工し、帯電防止性剥離剤の塗膜を形成して、塗工フィルムを得る塗工工程と、
塗工フィルムを加熱することにより、帯電防止性剥離剤の塗膜を乾燥させて帯電防止性離型層を形成すると共に該塗工フィルムを延伸して延伸フィルムを得る延伸工程と、を有する、帯電防止性離型フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記硬化型シリコーン樹脂が付加反応型シリコーン樹脂である、請求項1に記載の帯電防止性離型フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ化合物の含有量は、前記導電性複合体の中和当量のモル数に対して0.7倍モル以上1.5倍モル以下である、請求項1又は2に記載の帯電防止性離型フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記フィルム基材が非晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の帯電防止性離型フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記延伸フィルムを200℃以上に加熱した後に冷却して非晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムを結晶化させる結晶化工程をさらに有する、請求項4に記載の帯電防止性離型フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止性離型フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学部品、電子電気部品の保護や包装においては、帯電防止性及び剥離性の両方を有する帯電防止性離型フィルムが使用されることがある。
帯電防止性及び剥離性の両方を有する帯電防止性離型フィルムの製造方法としては、付加硬化型シリコーンエマルジョンとチオフェン系導電性高分子を含む剥離剤をポリエチレンテレフタレートフィルムに塗工し、シリコーンを硬化させる方法が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−241613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の帯電防止性離型フィルムの製造方法では、帯電防止性離型フィルムの生産性が必ずしも高くなかった。また、帯電防止性離型フィルムの帯電防止性が低くなる傾向にあった。
本発明は、帯電防止性及び剥離性を有する帯電防止性離型フィルムを高い生産性で製造できる帯電防止性離型フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]π共役系導電性高分子及びポリアニオンの導電性複合体と水系分散媒とを含む導電性高分子水分散液に、硬化型シリコーン樹脂を含むシリコーンエマルジョンおよびアルカリ化合物を添加して、帯電防止性剥離剤を調製する調製工程と、
前記帯電防止性剥離剤をフィルム基材の少なくとも一方の面に塗工し、帯電防止性剥離剤の塗膜を形成して、塗工フィルムを得る塗工工程と、
塗工フィルムを加熱することにより、帯電防止性剥離剤の塗膜を乾燥させて帯電防止性離型層を形成すると共に該塗工フィルムを延伸して延伸フィルムを得る延伸工程と、を有する、帯電防止性離型フィルムの製造方法。
[2]前記硬化型シリコーン樹脂が付加反応型シリコーン樹脂である、[1]に記載の帯電防止性離型フィルムの製造方法。
[3]前記アルカリ化合物の含有量は、前記導電性複合体の中和当量のモル数に対して0.7倍モル以上1.5倍モル以下である、[1]又は[2]に記載の帯電防止性離型フィルムの製造方法。
[4]前記フィルム基材が非晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムである、[1]〜[3]のいずれかに記載の帯電防止性離型フィルムの製造方法。
[5]前記延伸フィルムを200℃以上に加熱した後に冷却して非晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムを結晶化させる結晶化工程をさらに有する、[4]に記載の帯電防止性離型フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の帯電防止性離型フィルムの製造方法によれば、帯電防止性及び剥離性を有する帯電防止性離型フィルムを高い生産性で製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<帯電防止性離型フィルム>
本発明における帯電防止性離型フィルムは、フィルム基材と、フィルム基材の少なくとも一方の面に形成された帯電防止性離型層とを備える。
【0008】
(フィルム基材)
フィルム基材としては、プラスチックフィルムが挙げられる。
プラスチックフィルムを構成する樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。これらの樹脂材料の中でも、透明性、可撓性、汚染防止性及び強度等の点から、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。ポリエチレンテレフタレートは非晶性でもよいし、結晶性でもよいが、生産性向上のため、非晶性ポリエチレンテレフタレートを延伸後、加熱、冷却して結晶化させた結晶性ポリエチレンテレフタレートが最も好ましい。
【0009】
フィルム基材の厚みとしては、10〜500μmであることが好ましく、20〜200μmであることがより好ましい。前記厚みは、JIS K7130、JIS K6783、JIS C2151、JIS Z1702など、公知の手法に準じて測定した値のことを指す。
【0010】
(帯電防止性離型層)
帯電防止性離型層は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとの複合体(以下、「導電性複合体」という。)と、シリコーンとを含有する。
シリコーンと導電性複合体との比率は、シリコーンの固形分100質量部に対して、導電性複合体が0.5〜100質量部であることが好ましく、1〜60質量部であることがより好ましい。導電性複合体の含有量が前記下限値以上であれば、充分に高い帯電防止性を発揮でき、前記上限値以下であれば、充分に高い剥離性を発揮できる。
また、帯電防止性離型層は、必要に応じて、導電性向上剤、バインダ樹脂、添加剤等が含まれてもよい。
【0011】
[π共役系導電性高分子]
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば本発明の効果を有する限り特に制限されず、例えば、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリフェニレン類、ポリフェニレンビニレン類、ポリアニリン類、ポリアセン類、ポリチオフェンビニレン類、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール類、ポリチオフェン類及びポリアニリン類が好ましい。極性溶剤、例えば、水、又は水溶性有機溶媒等との相溶性、及び得られる帯電防止性離型フィルムの透明性の面から、ポリチオフェン系がより好ましい。ここで、「主鎖」とは、鎖式化合物の主要な炭素鎖を指し、本明細書においては、π共役系導電性高分子において、炭素数が最大となる幹部分のことを指す。
本発明の1つの態様において、「π共役系導電性高分子」とは、構造内にπ共役系を有する単量体の繰り返し単位(重合度)が、2以上である有機高分子のことを指す。
π共役系導電性高分子は無置換のままでも、充分な導電性、透明性を得ることができるが、導電性及び透明性をより高めるために、炭素数1〜12の直鎖、もしくは分岐鎖のアルキル基、カルボキシ基、スルホ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、ヒドロキシ基等の官能基をπ共役系導電性高分子に導入してもよい。
【0012】
π共役系導電性高分子のより具体的な例として、ポリチオフェン類としては、ポリチオフェン、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−エチルチオフェン)、ポリ(3−プロピルチオフェン)、ポリ(3−ブチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン)、ポリ(3−ブロモチオフェン)、ポリ(3−クロロチオフェン)、ポリ(3−ヨードチオフェン)、ポリ(3−シアノチオフェン)、ポリ(3−フェニルチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェン)、ポリ(3−ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−エトキシチオフェン)、ポリ(3−ブトキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3−デシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ブテンジオキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−メトキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−エトキシチオフェン)、ポリ(3−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール類としては、ポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−エチルピロール)、ポリ(3−n−プロピルピロール)、ポリ(3−ブチルピロール)、ポリ(3−オクチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3,4−ジブチルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルピロール)、ポリ(3−ヒドロキシピロール)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3−エトキシピロール)、ポリ(3−ブトキシピロール)、ポリ(3−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン類としては、ポリアニリン、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(3−イソブチルアニリン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)が挙げられる。
上記π共役系導電性高分子の中でも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
【0013】
[ポリアニオン]
ポリアニオンとは、アニオン基を有する構成単位(以下、「モノマー単位」と言うこともある)を、分子内に有する重合体である。また、ポリアニオンは、前記アニオン基をその分子内に2つ以上有する重合体であることが好ましい。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリ(4−スルホブチルメタクリレート)、ポリメタクリルオキシベンゼンスルホン酸等のスルホン酸基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等のカルボン酸基を有する高分子が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、帯電防止性に優れることから、スルホン酸基を有する高分子が好ましい。またその中でも、ポリスチレンスルホン酸が特に好ましい。
【0014】
ポリアニオンは、π共役系導電性高分子に配位している。そのため、π共役系導電性高分子とポリアニオンとは導電性複合体を形成している。
ただし、ポリアニオンにおいては、全てのアニオン基がπ共役系導電性高分子にドープせず、余剰のアニオン基を有している。この余剰のアニオン基は親水基であるから、導電性複合体の水分散性を向上させる役割を果たす。
【0015】
ポリアニオンの重合度は、モノマー単位が10〜100,000個の範囲であることが好ましく、分散性及び導電性の点からは、50〜10,000個の範囲がより好ましい。
すなわち、ポリアニオンは、モノマー単位が10〜100,000個、好ましくは50〜10,000個の範囲で重合した高分子であることが好ましい。
ポリアニオンの質量平均分子量は2万〜100万であることが好ましく、10万〜50万であることがより好ましい。ポリアニオンの質量平均分子量が前記下限値以上であれば、π共役系導電性高分子を含む帯電防止性剥離剤を均一化でき、質量平均分子量が前記上限値以下であれば、充分に高い導電性を得ることができる。
【0016】
導電性複合体中の、ポリアニオンの含有量は、π共役系導電性高分子1モルに対して0.1〜10モルの範囲であることが好ましく、1〜7モルの範囲であることがより好ましい。ポリアニオンの含有量が前記下限値、すなわち0.1モルより少なくなると、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が弱くなる傾向にあり、導電性が不足することがある。その上、前記ポリアニオンをドープして得られる導電性複合体の分散性および溶解性が低くなり、均一な水溶液を得ることが困難になる。また、ポリアニオンの含有量が前記上限値、すなわち10モルより多くなると、π共役系導電性高分子の含有量が少なくなり、やはり充分な導電性が得られにくい。
すなわち、導電性複合体中の、ポリアニリンの含有量が、π共役系導電性高分子1モルに対して、0.1〜10モルの範囲であれば、π共役系導電性高分子に対する十分なドーピング効果、及び導電性を有し、導電性複合体の分散性及び溶解性が低下しないため好ましい。
【0017】
[シリコーン]
帯電防止性離型層に含まれるシリコーンは、硬化型シリコーン樹脂の硬化物であり、剥離能を有するものである。硬化型シリコーン樹脂については後述する。
【0018】
[厚み]
帯電防止性離型層の厚み(平均値)は、用途に応じて適宜選択されるが、0.01〜10μmの範囲内であることが好ましく、0.05〜7μmの範囲内であることがより好ましく、0.1〜5μmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0019】
<帯電防止性離型フィルムの製造方法>
本発明の帯電防止性離型フィルムの製造方法は、調製工程と塗工工程と延伸工程とを有する。
【0020】
(調製工程)
調製工程は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとの導電性複合体を含む導電性高分子水分散液にシリコーンエマルジョンを添加して帯電防止性剥離剤を調製する工程である。
【0021】
[導電性高分子水分散液]
導電性高分子水分散液は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとの導電性複合体が水系分散媒に分散した液である。
【0022】
導電性高分子水分散液は、ポリアニオンの水系分散媒溶液を調製した後、そのポリアニオンの水系分散媒溶液中で、π共役系導電性高分子を構成するモノマーを酸化重合することによって得られる。
【0023】
水系分散媒は、水、又は、水と水系溶剤との混合液である。
分散媒中の水の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
水系溶剤としては、溶解度パラメータが10以上の溶剤が挙げられ、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチレンホスホルトリアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のヘテロ原子含有極性溶媒、クレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、D−グルコース、D−グルシトール、イソプレングリコール、ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール等の多価脂肪族アルコール、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル化合物、ジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等の鎖状エーテル類、3−メチル−2−オキサゾリジノン等の複素環化合物、アセトニトリル、グルタロニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル化合物等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、2種類以上の混合物としてもよい。このうち、安定性の観点から、前記分散媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、及びジメチルスルホキシドからなる群より選択される少なくとも1つの化合物と、水との混合物であることが好ましく、ジメチルスルホキシドと水との混合物であることが特に好ましい。
【0024】
帯電防止性剥離剤に含まれる分散媒の含有量は、帯電防止性剥離剤の総質量に対して、50〜90質量%であることが好ましく、70〜90質量%であることがより好ましい。
【0025】
[シリコーンエマルジョン]
シリコーンエマルジョンは、硬化型シリコーン樹脂の水系乳化物であり、硬化型シリコーン樹脂を公知の乳化重合によって形成することにより得られる。
硬化型シリコーン樹脂としては、縮合反応型や付加反応型のものがあり、これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの硬化型シリコーン樹脂は、通常、硬化剤と併用される。
本発明で使用されるシリコーンとしては、剥離性、環境負荷の点から、付加反応型シリコーン樹脂が好ましい。
シリコーンを乳化する界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等を制限なく使用できる。
【0026】
縮合反応型シリコーン樹脂としては、シロキサン結合を有する直鎖状ポリマーであって、前記直鎖の両方の末端にヒドロキシ基を有するポリジメチルシロキサンと、シロキサン結合を有する直鎖状ポリマーであって、前記直鎖の両方の末端が水素原子であるポリジメチルシロキサンとを有するものが挙げられる。
縮合反応型シリコーン樹脂の具体例としては、X−52−195、X−52−170(信越化学工業社製)が挙げられる。
縮合反応型シリコーン樹脂は、縮合反応によって三次元架橋構造を形成して硬化する。
【0027】
付加反応型シリコーン樹脂としては、シロキサン結合を有する直鎖状ポリマーであって、前記直鎖の両方の末端にビニル基を有するポリジメチルシロキサンと、ハイドロジェンシランとを有するものが挙げられる。
付加反応型シリコーン樹脂の具体例としては、KM−3951、X−52−151、X−52−6068、X−52−6069(信越化学工業社製)が挙げられる。
付加反応型シリコーン樹脂は、付加反応によって三次元架橋構造を形成して硬化する。
【0028】
[硬化剤]
シリコーンエマルジョンには、上記硬化型シリコーン樹脂の硬化を促進させる硬化剤を含有させることが好ましい。
硬化剤は、使用する硬化型シリコーン樹脂の種類に応じて異なる。
縮合反応型シリコーン樹脂の場合には硬化剤として有機錫触媒(例えば有機錫アシレート触媒)を使用する。有機錫触媒の具体例としては、CAT−PL10(信越化学工業社製)等が挙げられる。
付加反応型シリコーン樹脂の場合には硬化剤として白金系触媒を使用する。白金系触媒の具体例としては、CAT−PM−10(信越化学工業社製)等が挙げられる。
【0029】
[アルカリ化合物]
帯電防止性剥離剤にはアルカリ化合物を含有させてもよい。アルカリ化合物は、シリコーンエマルジョンを添加する前の導電性高分子水分散液に添加してもよいし、導電性高分子水分散液にシリコーンエマルジョンを添加した後の帯電防止性剥離剤に添加してもよい。
【0030】
アルカリ化合物としては、無機アルカリ、アミン化合物、窒素含有芳香族性環式化合物が挙げられる。また、アルカリ化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
無機アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウムなどが挙げられる。
無機アルカリは、水溶液の状態で帯電防止性剥離剤に添加することが好ましい。水溶液中の無機アルカリの濃度としては、無機アルカリ水溶液の総質量に対して、0.1〜10質量%であることが好ましく、0.1〜3質量%であることがより好ましい。ただし、無機アルカリとしてアンモニアを用いる場合、アンモニア水溶液中のアンモニア濃度としては、2〜30質量%であることが好ましく、4〜28質量%であることがより好ましい。
シリコーンエマルジョンが、付加反応型シリコーンを含むエマルジョンである場合には、アルカリ化合物として無機アルカリを用いることが好ましい。脂肪族アミンあるいは芳香族アミンは、付加反応型シリコーンの硬化剤として白金触媒を用いると、触媒毒になり、塗膜の硬化が不十分になることがあるが、無機アルカリはそのようなことはない。
【0032】
アミン化合物としては、1級アミン、2級アミン、3級アミン、4級アンモニウム塩のいずれであってもよい。
アミン化合物は、炭素数2〜12の直鎖、もしくは分岐鎖のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜12のアラルキル基、炭素数2〜12のアルキレン基、炭素数6〜12のアリーレン基、炭素数7〜12のアラルキレン基、及び炭素数2〜12のオキシアルキレン基から選択される置換基を有していてもよい。
【0033】
具体的な1級アミンとしては、例えば、アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、エタノールアミン等が挙げられる。
具体的な2級アミンとしては、例えば、ジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジフェニルアミン、ジベンジルアミン、ジナフチルアミン等が挙げられる。
具体的な3級アミンとしては、例えば、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、トリナフチルアミン等が挙げられる。
具体的な4級アンモニウム塩としては、例えば、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラフェニルアンモニウム塩、テトラベンジルアンモニウム塩、テトラナフチルアンモニウム塩等が挙げられる。アンモニウムの対となる陰イオンとしてはヒドロキシドイオンが挙げられる。
このうち、3級アミンが好ましく、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、またはトリブチルアミンがより好ましい。
【0034】
オキシアルキレン基を有する場合のアミン化合物としては、例えば、下記化学式I及びIIで示される化合物が挙げられる。
【0035】
【化1】
式中、R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜24のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等)を表し、AO、AOおよびAOは、それぞれ独立して、炭素数2〜4のオキシアルキレン基若しくはその混合物を表し、p、qおよびrは、それぞれ独立して、1≦p、q、r≦100である。
具体的には、三洋化成工業株式会社、商品名『イオネット』、日油株式会社 商品名『ナイミーン』、ライオンアクゾ株式会社 商品名『エソミン』などの各シリーズから選択することができる。
【0036】
窒素含有芳香族性環式化合物とは、少なくとも1個以上の窒素原子を含む芳香族性環を有するものであり、前記窒素原子は2級アミン、3級アミン、4級アンモニウム塩のいずれの形で芳香族性環に含まれていてもよい。
窒素含有芳香族性環式化合物の具体例としては、ピロール、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−プロピルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、N−メチルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシエチル)イミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、1−アセチルイミダゾール、4,5−イミダゾールジカルボン酸、4,5−イミダゾールジカルボン酸ジメチル、ベンズイミダゾール、2−アミノべンズイミダゾール、2−アミノべンズイミダゾール−2−スルホン酸、2−アミノ−1−メチルべンズイミダゾール、2−ヒドロキシべンズイミダゾール、2−(2−ピリジル)べンズイミダゾール、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヒドロキシド、ピリジン等が挙げられる。このうち、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−プロピルイミダゾール、又はピリジンがより好ましい。
窒素含有芳香族性環式化合物は、水溶液の状態で帯電防止性剥離剤に添加することが好ましい。窒素含有芳香族性環式化合物水溶液中の窒素含有芳香族性環式化合物の濃度は、水溶液の総質量に対して、0.1〜10質量%であることが好ましく、0.1〜3質量%であることがより好ましい。
【0037】
前記アルカリ化合物は、水への溶解度が0.1g/100ml(10℃)以上であることが好ましい。水への溶解度が0.1g/100ml(10℃)以上のアルカリ化合物は分散媒に溶解しやすく、帯電防止性剥離剤の保存安定性をより向上させることができる。また、前記溶解度は、5g/100ml(10℃)以下であることが好ましい。
水への溶解度が0.1g/100ml(10℃)以上のアルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウムなどの無機アルカリ、アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン等のアミン化合物、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラフェニルアンモニウム塩、テトラベンジルアンモニウム塩、テトラナフチルアンモニウム塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヒドロキシド等の4級塩、オキシアルキレン基を有するアミン化合物、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−プロピルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシエチル)イミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−アミノべンズイミダゾール、ピリジン等の窒素含有芳香族性環式化合物が挙げられる。
上記のうち、炭酸水素カリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア、イミダゾール、又はトリエチルアミンであることがより好ましく、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア、イミダゾール、又はトリエチルアミンであることがより好ましい。
【0038】
帯電防止性剥離剤におけるアルカリ化合物の含有量は、使用したアルカリ化合物により導電性複合体を中和滴定して得られる中和滴定曲線の変曲点の添加量、すなわち中和当量のモル数に対して、0.7倍モル以上であることが好ましく、0.9倍モル以上であることがより好ましい。アルカリ化合物の含有量が、導電性複合体の中和当量に対して0.7倍モル未満であると、帯電防止性剥離剤の保存安定性が低下する。
一方、アルカリ化合物の含有量は、導電性複合体の中和当量のモル数に対して、1.5倍モル以下であることが好ましく、1.2倍モル以下であることがより好ましい。
【0039】
帯電防止性剥離剤のpH(25℃)は、10以下であることが好ましく、9以下であることがより好ましい。帯電防止性剥離剤のpHが10を超えると、帯電防止性剥離剤の保存安定性が極端に低下する。一方、帯電防止性剥離剤のpH(25℃)は、3以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましい。すなわち、帯電防止性剥離剤のpH(25℃)は、3〜10であることが好ましく、5〜9であることがより好ましい。
また、帯電防止性剥離剤のpHは、pHメーターを用いて測定した値である。また、前記pHメーターは、pHが4.01であるフタル酸pH標準液、pHが6.86である中性リン酸塩pH標準液、pHが9.18であるホウ酸塩pH標準液を用いて校正を行ったものを用いることが好ましい。
【0040】
[導電性向上剤]
帯電防止性剥離剤は、導電性向上剤を含有してもよい。導電性向上剤は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む帯電防止性離型層の導電性を向上させる化合物である。
導電性向上剤としては、例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール等の極性溶剤、糖、糖誘導体などが挙げられる。また、導電性向上剤としての極性溶剤は分散媒としての役割も果たす。前記導電性向上剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
導電性向上剤の中でも、剥離性低下及び帯電防止性離型フィルムの外観悪化を招くことなく、導電性を向上できる点では、ジメチルスルホキシドが好ましい。
【0041】
[バインダ樹脂、添加剤]
帯電防止性剥離剤は、公知のバインダ樹脂や添加剤を含有してもよい。
バインダ樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、メラミン樹脂などが用いられる。バインダ樹脂は、水溶性もしくは水分散エマルジョンの形態で添加すると混合しやすい。
添加剤としては、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを使用できる。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。これらのポリマー系界面活性剤は保護コロイド剤として働き、帯電防止性剥離剤の保存安定性をより向上させることができる。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン又はシリコーンレジンであって、前記シリコーンエマルジョンに含まれるシリコーン以外のものが挙げられる。
カップリング剤としては、ビニル基、アミノ基、エポキシ基等を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類、ビタミン類等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0042】
(塗工工程)
塗工工程は、前記帯電防止性剥離剤をフィルム基材の少なくとも一方の面に塗工し、帯電防止性剥離剤の塗膜を形成して、塗工フィルムを得る工程である。
帯電防止性剥離剤の塗工方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた塗工方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた噴霧方式、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
帯電防止性剥離剤の塗工量としては、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限はないが、通常は、乾燥塗工量で0.1〜2.0g/mの範囲であることが好ましい。
塗工工程により得られた塗工フィルムは、未乾燥のまま延伸工程に送られる。
【0043】
帯電防止性剥離剤を塗工するフィルム基材としては、機械的物性、透明性及び汎用性の点から、非晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
また、帯電防止性剥離剤を塗工するフィルム基材としては、未延伸のフィルムであってもよいし、長手方向又は幅方向に予め延伸させた1軸延伸フィルムであってもよい。
【0044】
(延伸工程)
延伸工程は、塗工フィルムを加熱することにより、帯電防止性剥離剤の塗膜を乾燥させて帯電防止性離型層を形成すると共に該塗工フィルムを延伸して延伸フィルムを得る工程である。帯電防止性剥離剤の塗膜を加熱して乾燥している際には、分散媒が揮発すると共にシリコーンが硬化する。
該延伸工程では、帯電防止性剥離剤の塗膜の乾燥が終了した後に塗工フィルムを延伸する。
【0045】
塗工フィルムの加熱方法としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの通常の方法を採用できる。通常は、熱風ヒーター又は赤外線ヒーターが設置されて加熱された加熱室内に、塗工フィルムを通過させて加熱する。
加熱温度は60〜200℃の範囲内とすることが好ましく、90〜150℃の範囲内とすることがより好ましい。加熱温度が前記下限値以上であれば、シリコーンを速やかに且つ充分に硬化させることができる。しかし、加熱温度が前記上限値を超えると、フィルム基材が軟化するなど影響が生じる。また、加熱温度は、次第に高くすることが好ましい。例えば、加熱室内に塗工フィルムを通して加熱する場合には、加熱室内に複数のヒーターを配置し、加熱室の入口側から出口側に向って加熱温度が高くなるように、ヒーターの設定温度を調整することが好ましい。
【0046】
塗工工程で使用したフィルム基材が、長手方向に延伸させた1軸延伸フィルムである場合には、該延伸工程では、塗工フィルムを、その幅方向に延伸する。
塗工工程で使用したフィルム基材が、幅方向に延伸させた1軸延伸フィルムである場合には、該延伸工程では、塗工フィルムを、その長手方向に延伸する。
塗工工程で使用したフィルム基材が、未延伸フィルムである場合には、該延伸工程では、塗工フィルムを、その長手方向及び幅方向の少なくとも一方に延伸する。
塗工フィルム延伸は、公知のフィルム延伸装置を特に制限なく使用することができる。
延伸工程における延伸倍率は、1.5〜10倍とすることが好ましく、2〜6倍とすることがより好ましい。延伸倍率を前記下限値以上とすれば、帯電防止性離型フィルムの生産性をより高くでき、前記上限値以下であれば、過剰延伸による断裂を防止できる。
【0047】
(結晶化工程)
本発明の帯電防止性離型フィルムの製造方法において、フィルム基材として非晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた場合には、延伸工程の後に結晶化工程をさらに有してもよい。
結晶化工程では、延伸フィルムを200℃以上に加熱した後に冷却して非晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムを結晶化させる。200℃以上に加熱し、融点以上にすることで非晶性ポリエチレンテレフタレートを融解させた後、少なくとも融点未満に冷却することで、ポリエチレンテレフタレートを結晶化させることができる。
加熱方法は、延伸工程における加熱方法と同様である。冷却方法としては、加熱されていない空気又は冷却された空気を吹き付ける方法、空気中に放置する方法、冷却室内にフィルムを通す方法等が挙げられる。
【0048】
(作用効果)
上記したように、帯電防止性離型フィルムの製造方法では、π共役系導電性高分子及びシリコーンを含む帯電防止性剥離剤をフィルム基材に塗工し、帯電防止性剥離剤の塗膜を形成して塗工フィルムを得る。そして、塗工フィルムを加熱して帯電防止性剥離剤の塗膜を乾燥させて帯電防止性離型層を形成すると共に、該塗工フィルムを延伸して延伸フィルムを得る。この製造方法では、帯電防止性剥離剤がシリコーンを含むことで、得られるフィルムの剥離性が高くなるだけでなく、帯電防止性も高くなる。
また、帯電防止性剥離剤の塗膜を加熱して乾燥させた後に塗工フィルムを延伸することにより、乾燥のために付与した熱を、延伸する際の加熱にも利用することができる。したがって、帯電防止性離型フィルム製造におけるエネルギー効率が高い。
また、上記製造方法では、フィルム基材への帯電防止性剥離剤の塗工、塗膜の乾燥、塗工フィルムの延伸を連続的に一貫しておこなう。しかも、塗工フィルムの延伸によって、帯電防止性剥離剤の塗膜を広げて帯電防止性離型層を形成するため、塗工面積が小さいにもかかわらず大面積の帯電防止フィルムを得ることができる。したがって、上記帯電防止性離型フィルムの製造方法では、高い生産性で帯電防止性離型フィルムを製造できる。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例及び比較例を示すが、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。以下の例において、「%」は「質量%」のことである。
【0050】
(実施例1)
1.2%のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)水分散液(以下、「PEDOT−PSS水分散液」という。)10gに、シリコーンエマルジョン(信越化学工業社製KM−3951、付加反応型シリコーン樹脂、固形分濃度40%)10gと、白金触媒(信越化学工業社製CAT−PM−10A)0.5gとを添加して帯電防止性剥離剤を調製した。帯電防止性剥離剤の25℃でのpHを表1に示す。
次いで、得られた帯電防止性剥離剤を、非晶性ポリエチレンテレフタレートフィルム(A−PETフィルム)の上に、#4のバーコーターを用いて塗工した。この塗工により得た塗工フィルムを、フィルム2軸延伸装置(井本製作所製IMC−11A9)を用いて、130℃の温度で加熱して乾燥しながら、フィルムの幅方向に2倍延伸した。これにより、帯電防止性離型層を有する帯電防止性離型フィルムを得た。
【0051】
(実施例2)
幅方向の延伸倍率を4倍に変更したこと以外は実施例1と同様にして帯電防止性離型フィルムを得た。
【0052】
(実施例3)
1.2%のPEDOT−PSS水分散液の量を6.7gに変更したこと以外は実施例1と同様にして帯電防止性離型フィルムを得た。
【0053】
(実施例4)
1.2%のPEDOT−PSS水分散液の量を3.3gに変更したこと以外は実施例1と同様にして帯電防止性離型フィルムを得た。
【0054】
(実施例5)
1.2%のPEDOT−PSS水分散液6.7gに、シリコーンエマルジョン(信越化学工業社製X−52−6068、付加反応型シリコーン樹脂、固形分濃度40%)10gと、白金触媒(信越化学工業社製CAT−PM−10A)0.5gとを添加して帯電防止性剥離剤を調製した。その帯電防止性剥離剤をA−PETフィルムに塗工したこと以外は実施例1と同様にして帯電防止性離型フィルムを得た。
【0055】
(実施例6)
1.2%のPEDOT−PSS水分散液6.7gに、シリコーンエマルジョン(信越化学工業社製KM−3951)10gと、白金触媒(信越化学工業社製CAT−PM−10A)0.5gと炭酸水素ナトリウム(NaHCO)18.8mgとを添加して帯電防止性剥離剤を調製した。その帯電防止性剥離剤をA−PETフィルムに塗工したこと以外は実施例1と同様にして帯電防止性離型フィルムを得た。
【0056】
(実施例7)
1.2%のPEDOT−PSS水分散液6.7gに、シリコーンエマルジョン(信越化学工業社製X−52−6068)10gと、白金触媒(信越化学工業社製CAT−PM−10A)0.5gと炭酸水素ナトリウム18.8mgとを添加して帯電防止性剥離剤を調製した。その帯電防止性剥離剤をA−PETフィルムに塗工したこと以外は実施例1と同様にして帯電防止性離型フィルムを得た。
【0057】
(実施例8)
1.2%のPEDOT−PSS水分散液6.7gに、シリコーンエマルジョン(信越化学工業社製KM−3951)10gと、白金触媒(信越化学工業社製CAT−PM−10A)0.5gと、ジメチルスルホキシド(DMSO)1.3gとを添加して帯電防止性剥離剤を調製した。その帯電防止性剥離剤をA−PETフィルムに塗工したこと以外は実施例1と同様にして帯電防止性離型フィルムを得た。
【0058】
(実施例9)
1.2%のPEDOT−PSS水分散液6.7gに、シリコーンエマルジョン(信越化学工業社製KM−3951)10gと、白金触媒(信越化学工業社製CAT−PM−10A)0.5gと、ジメチルスルホキシド1.3gと炭酸水素ナトリウム18.8mgとを添加して帯電防止性剥離剤を調製した。その帯電防止性剥離剤をA−PETフィルムに塗工したこと以外は実施例1と同様にして帯電防止性離型フィルムを得た。
【0059】
(実施例10)
実施例1で得られたフィルムにおいて、130℃での延伸後に、240℃まで加熱し、次いで、加熱されていない空気中に放置することで、150℃以下まで徐々に冷却することによりA−PETフィルムを結晶化して結晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムとした。
【0060】
(比較例1)
1.2%のPEDOT−PSS水分散液6.7gに、水10gと、白金触媒(信越化学工業社製CAT−PM−10A)0.5gとを添加して塗料を調製した。その帯電防止性剥離剤をA−PETフィルムに塗工したこと以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0061】
(比較例2)
水6.7gに、シリコーンエマルジョン(信越化学工業社製KM−3951)10gと白金触媒(信越化学工業社製CAT−PM−10A)0.5gとを添加して塗料を調製した。その帯電防止性剥離剤をA−PETフィルムに塗工したこと以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0062】
(比較例3)
水6.7gに、シリコーンエマルジョン(信越化学工業社製X−52−6068)10gと白金触媒(信越化学工業社製CAT−PM−10A)0.5gとを添加して塗料を調製した。その帯電防止性剥離剤をA−PETフィルムに塗工したこと以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0063】
(比較例4)
1.2%のPEDOT−PSS水溶液6.7gに、水10gと白金触媒(信越化学工業社製CAT−PM−10A)0.5gと炭酸水素ナトリウム18.8mgとを添加して塗料を調製した。その帯電防止性剥離剤をA−PETフィルムに塗工したこと以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0064】
(比較例5)
A−PETフィルムを実施例1と同様に延伸したもの。
【0065】
<評価>
各実施例及び各比較例のフィルムについて、以下のように、表面抵抗値及び剥離強度を測定し、外観を評価した。結果を表1,2に示す。
【0066】
[表面抵抗値]
表面抵抗値は、三菱化学社製ハイレスタMCP−HT450を用い、JIS K6911に準じて測定した。表面抵抗値が低い程、導電性(帯電防止性)が高い。
【0067】
[剥離強度]
層を設けた側の表面にポリエステル粘着テープ(日東電工社製ニットー31B)を載せ、次いで、その粘着テープの上に1976Paの荷重を載せて、フィルムにポリエステル粘着テープを貼り合せた。そして、引張試験機を用いて、フィルムからポリエステル粘着テープを、180゜の角度で剥離(剥離速度0.3m/分)し、剥離強度を測定した。剥離強度が小さい程、フィルムに粘着シートを貼り合せた後に、粘着シートを容易に剥離できる。すなわち、剥離性が高くなる。
【0068】
[外観]
帯電防止性離型フィルムの白化度合いを目視観察し、以下の基準で評価した。
○:白化せず。
△:やや白化した。
×:白化した。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
各実施例により得た帯電防止性離型フィルムは、帯電防止性及び剥離性の両方に優れていた。特に、帯電防止性剥離剤を中和した実施例6,7,9では、フィルムが白化しなかった。また、帯電防止性剥離剤に導電性向上剤を含有させた実施例8,9では、帯電防止性に優れていた。
π共役系導電性高分子を含むが、シリコーンエマルジョンを含まない液をフィルム基材に塗布した比較例1,4では、帯電防止性及び剥離性の両方が低かった。
シリコーンエマルジョンを含むが、π共役系導電性高分子を含まない液をフィルム基材に塗布した比較例2,3では、帯電防止性が低かった。
延伸した単なるA−PETフィルムである比較例5は、帯電防止性及び剥離性の両方が低かった。