特許第6202772号(P6202772)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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▶ スティヒティング ディーンスト ランドバウクンディフ オンデルズークの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202772
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】メタクリル酸の生成のためのプロセス
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/38 20060101AFI20170914BHJP
   C07C 57/04 20060101ALI20170914BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20170914BHJP
   B01J 23/44 20060101ALI20170914BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20170914BHJP
   B01J 23/52 20060101ALI20170914BHJP
   B01J 23/755 20060101ALI20170914BHJP
   B01J 27/055 20060101ALI20170914BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20170914BHJP
【FI】
   C07C51/38
   C07C57/04
   B01J23/42 Z
   B01J23/44 Z
   B01J23/46 301Z
   B01J23/46 311Z
   B01J23/52 Z
   B01J23/755 Z
   B01J27/055 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】14
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-538880(P2016-538880)
(86)(22)【出願日】2014年8月26日
(65)【公表番号】特表2016-529289(P2016-529289A)
(43)【公表日】2016年9月23日
(86)【国際出願番号】NL2014050575
(87)【国際公開番号】WO2015030580
(87)【国際公開日】20150305
【審査請求日】2017年5月30日
(31)【優先権主張番号】13181709.0
(32)【優先日】2013年8月26日
(33)【優先権主張国】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510090760
【氏名又は名称】スティヒティング ディーンスト ランドバウクンディフ オンデルズーク
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ル ノートル,ジェローム エミール ルシアン
(72)【発明者】
【氏名】スコット,エリノア リンジー
(72)【発明者】
【氏名】クルス,ルーラント レオ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン ハヴィレン,ヤコブス
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/069813(WO,A1)
【文献】 特公昭35−011025(JP,B1)
【文献】 Study of the sequential conversion of citric to itaconic to methacrylic acid in near-critical and supercritical water,Industrial & Engineering Chemistry Research,1994年,33(8),pp 1989-1996
【文献】 Hight-temperature transformations of alkyl-substituted acrylic acids in aqueous solutions,Journal of organic chemistry of the USSR,1983年,Vol. 19, No. 10,P1778-1780
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/38
C07C 57/04
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属含有触媒の影響下で、150℃から350℃までの温度で、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、クエン酸、アコニット酸、イソクエン酸、及びそれらの混合物から成る群から選択された酸を備える出発物質を、0.1当量から3.0当量までの塩基に接触させることによって、メタクリル酸又はその塩を作製する方法。
【請求項2】
前記触媒が不均一な触媒である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記触媒が支持体によって担持された金属または塩の形態の前記遷移金属を備える、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記支持体が、アルミナ、炭素、硫酸バリウム、及びシリカから成る群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記遷移金属が金属の形態である、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記遷移金属含有触媒が、元素の周期表の6族、7族、8族、9族、10族、及び11族内の1以上の元素を含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記遷移金属が、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、金、及びタングステンから成る群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記温度が200℃から300℃までの範囲内である、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記温度が225℃から275℃までの範囲内である、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項10】
前記遷移金属含有触媒の前記遷移金属がルテニウムであり、前記温度が200℃から225℃までの範囲内である、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記塩基が0.8当量から1.2当量までの範囲内存在する、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
圧力を印加することなく圧力容器内で行われる、請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記出発物質が、炭水化物発酵プロセスから得られるブロス、農業食品産業のメインストリーム及びサイドストリームとして得られる液体ストリームら選択される未加工の液体であり、前記酸が前記未加工の液体からメタクリル酸に直接変換される、請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記遷移金属は塩の形態にある、請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イタコン酸又はその前駆物質又は異性体からの、メタクリル酸(MAA)又はそのカルボキシル誘導体の合成に関する。特に、本発明は、バイオベースの非化石資源からのMAAへのルート(route)に関する。
【背景技術】
【0002】
MAA及びメタクリル酸メチル(MMA)は、主に、アクリレート系繊維(ポリメタクリル酸メチル)、股関節又は膝関節全置換術におけるセメント(MMA)、様々な光学ガラス及びレンズ(PMMA)等、多種多様な用途を有するポリマーを作製するためのモノマーとして、産業界で広く用いられている。MAAは、コーティング及び徐放性の用途に用いられるポリマーを生成するため、MMA又はアクリル酸エチルと共にコモノマーとして使用可能である。また、MMAは、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン(MBS)等のポリマーを生成するためにコモノマーとして用いることができる。PMMAとポリ塩化ビニル(PVC)等の他のポリマーを混合することによって、材料を得ることができる。
【0003】
現在、MAAは石油化学資源から生成される。バイオベースの再生可能な非化石資源からこれを生成することができるルートを見出すことが望まれている。
【0004】
そのようなルートに関する1つの引例が国際公開第2009/135074A2号である。この開示は引用により本願にも含まれるものとする。ここでは、非天然微生物の再生可能な糖の供給原料の発酵によってMAAを生成することができるプロセスが記載されている。
【0005】
そのようなルートに関する別の引例が米国特許第2010/0035314A1号である。この開示は引用により本願にも含まれるものとする。ここでは、非天然微生物の再生可能な糖の供給原料の発酵により得られた2−ヒドロキシ−2−メチルカルボキシル酸の触媒脱水によってMAAを生成することができるプロセスが記載されている。
【0006】
そのようなルートに関する別の引例が、Pyo等によって記載された研究(Green Chem.2012、14、1942)である。この開示は引用により本願にも含まれるものとする。ここでは、バイオベースのグリセロールの発酵により得られる可能性のある2−メチル−1,3−プロパンジオールの連続した微生物変換及び触媒脱水によってMAAを生成することができるプロセスが記載されている。
【0007】
そのようなルートに関する別の引例が国際公開第2010/058119A1号である。この開示は引用により本願にも含まれるものとする。ここでは、プロピオン酸メチル及びホルムアルデヒドの反応によってMMAを生成することができるプロセスが記載されている。プロピオン酸メチルは、メタノールの存在下でのエチレンのカルボニル化によって生成され、用いられる3つの反応物のうち少なくとも1つはバイオマスから得られる。すなわち、バイオエタノールの脱水によるエチレン、及び/又はバイオベースの合成ガスにより得られる一酸化炭素及びメタノールである。ホルムアルデヒドはバイオベースの合成ガスから生成することができる。
【0008】
そのようなルートに関する別の引例が国際公開第2012/154450A2号である。この開示は引用により本願にも含まれるものとする。ここでは、エチレングリコール及びプロピレングリコール等のバイオベースのグリコールから開始する連続的な反応(脱水、ホルムアルデヒドアルドール縮合、エステル化)によってMMAを生成することができるプロセスが記載されている。
【0009】
そのようなルートに関する別の引例が国際公開第2012/069813号である。この開示は引用により本願にも含まれるものとする。ここでは、塩基触媒の存在下でのイタコン酸又はそのソースの脱カルボキシル化からMAAを生成することができるプロセスが記載されている。このプロセスは興味深いものであるが、MAAの収率(yield)は、このプロセスが商業的な関心を集める値よりもはるかに低い。反応温度を上げることで収率を向上させることができるが、これには選択性の著しい低下が伴う。また、高温自体及び高圧が加わることによって、このプロセスは、実利的な用途のためには、明らかに実行不可能とまではいかないがあまり興味深いものではなくなる。
【0010】
MAAを良好な収率で、かつ高い選択性で生成可能なプロセスを提供することが望まれている。また、例えば必要な反応温度の低下によってエネルギ入力の低減を可能とすると共に、圧力を印加することのない、経済的見地からいっそう魅力的なプロセスを提供することが望まれている。
【0011】
更に、既知のプロセスはイタコン酸、その異性体に適用可能である。引例では、このプロセスをこれらの酸のソースにも適用可能であることが述べられている。しかしながら、開示自体から、MAAを作製するための実際のプロセスがクエン酸等のイタコン酸の前駆物質には直接適用されないことは明らかである。クエン酸からのメタクリル酸の作製に関する背景技術は、Carlsson等のInd. Eng. Chem. Res. 1994、33、1989である。ここでは、脱水反応と2つの脱カルボキシル化反応によって、6%の低い収率でメタクリル酸が得られる。イタコン酸前駆物質、具体的にはクエン酸に直接適用可能であり、より高い収率でメタクリル酸を生成可能なプロセスを提供することが望まれている。
【発明の概要】
【0012】
前述の要求の1つ以上を満足させるため、本発明は、1つの態様において、遷移金属含有触媒の影響下で、150℃から350℃までの温度で、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、クエン酸、アコニット酸、イソクエン酸、及びそれらの混合物から成る群から選択された酸を備える出発物質を、0.1当量から3.0当量までの塩基に接触させることによって、メタクリル酸又はその塩を作製する方法を提供する。
【0013】
別の態様において、本発明は、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、クエン酸、イソクエン酸、アコニット酸、及びそれらの混合物から成る群から選択された酸を備える出発物質からのメタクリル酸又はその塩の合成の収率及び選択性を向上させることを目的とした遷移金属触媒の使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
広義では、本発明は、イタコン酸又はその前駆物質又は異性体を脱カルボキシル化する塩基触媒プロセスに遷移金属触媒を加えるという優れた洞察に基づいている。触媒の使用によって、当技術分野で利用可能なものよりはるかに温和な条件下で行われる反応において、収率及び/又は選択性の劇的な向上を得ることができる。また、本発明に従った触媒の使用によって、クエン酸、イソクエン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、アコニット酸、及びそれらの混合物からメタクリル酸を生成する実行可能なプロセスが可能となる。これにより本発明は、クエン酸、及び好ましくはそのバイオベースのソース自体を、貴重な化学メタクリル酸の直接合成の出発物質として用いることができるプロセスを提供する。メタクリル酸の生成に加えて、本発明のプロセスはメタクリル酸の塩を直接生成することを可能とし、塩基が塩の対イオンを形成する。エステル化等の既知の方法によって酸又は塩を変換することで、エステル等の更に別のカルボキシル誘導体を生成することができる。
【0015】
これより、出発物質、プロセス条件、及び関与する触媒に関連付けて、本発明について更に詳しく検討する。
【0016】
後者から始めると、遷移金属触媒は均一又は不均一なタイプとすることができる。
【0017】
本発明のプロセスにおいて、反応物は液相であり、すなわち水酸化ナトリウム水溶液のような塩基水溶液(aqueous base)中の出発物質の溶液又は懸濁液である。均一触媒の場合、触媒は反応物と同相である。これは典型的に遷移金属の塩の溶液について当てはまる。
【0018】
不均一なタイプの触媒では、触媒の相は反応物のものと異なる。不均一触媒の場合、触媒は一般に固体相であり、好ましくは粒子の形態で存在する。これは、流動床及び固定床タイプの双方の触媒系を指すことがある。
【0019】
触媒は金属自体と同一とすることができるが、遷移金属は支持体上に提供することが好ましい。担持触媒は当業者には周知である。典型的な支持体は、金属酸化物、シリカ、及び炭素を含む。
【0020】
金属酸化物支持体は一般に、2つ以上の金属及び/又はメタロイドを備えた化合物を含む、主族又は遷移金属又はメタロイドの少なくとも1つの酸化物から成る触媒支持体である。これに関連して、例えばMgO、CaO、又はBaO等の周期表の2族の金属又はメタロイドの酸化物、Al又はランタニド酸化物等の周期表の3族の金属又はメタロイドの酸化物、又はTiO、ZrO、SnO、又はSiO等の周期表の4族(IVA又はIVB)の金属又はメタロイドの酸化物を優先する。また、Feも使用可能である。2つ以上の金属及び/又はメタロイドを有する化合物は、好ましくはケイ酸塩であり、特にアルミノケイ酸塩である。
【0021】
炭素支持体は、例えば活性炭、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等である。
【0022】
支持体は、好ましくは、アルミナ、炭素、硫酸バリウム、及びシリカから成る群から選択される。アルミナ及び炭素の支持体が最も好適である。
【0023】
触媒は一般に、支持体に対する重量百分率で、遷移金属の0.1wt%から65wt%、好ましくは1〜20wt%、より好ましくは5〜10wt%から成る。当業者には既知であるが、好適な金属量(loading)は金属ごとに異なる(例えば上記範囲の上限、特に65wt%ではニッケルが好適である)。担持遷移金属触媒は、好ましくは粉末又は顆粒の形態で用いられる。触媒は、出発物質をベースとする計算で、好ましくは遷移金属の0.1モル%から2.5モル%までの量であるようにプロセス中に存在する。
【0024】
遷移金属は、元素自体として又は塩の形態で、ハロゲン化物、酸化物、酢酸塩、又は例えば水酸化パラジウムのような水酸化物等、無機又は有機酸の1、2、又は3の酸化状態とすることができる。均一触媒に適した塩は、PdCl、PdBr、PdI、Pd(OAc)、Pd(CN)、PdO、PtCl、PtBr、PtI、PtCl、PtO、RuCl、RuI、RuO、RuO、NiCl、NiBr、NiI、NiF、Ni(OH)、Ni(OAc)、Ni(CO)、AuCl、AuCl、AuBr、Au、RhCl、RhBr、RhI、及びRhを含む。
【0025】
不均一触媒の方が好適である。これによって、触媒及び生成物の分離が容易になるという点でプロセスの利点を得ることができる。また、不均一触媒には再利用性が高いという利点がある。
【0026】
好ましくは、遷移金属は元素自体として提供される。すなわちこれは金属の形態である。
【0027】
遷移金属は、元素の周期表の3族から12族を含むdブロック内の金属である。好ましくは、本発明において用いる遷移金属触媒は、そのもっと狭い定義に従ったものである。すなわち、中性原子又は共通の酸化状態のイオンのいずれかにおいてd副殻が部分的に満たされた元素である。従って、好適な遷移金属は周期表の3族〜11族のものである。更に好ましくは、触媒に含まれる遷移金属は、周期表の6族、7族、8族、9族、10族、及び11族の元素から選択され、より好ましいのは10族及び11族であり、最も好ましいのは10族である。
【0028】
この他に、好ましくは、触媒に含まれる遷移金属は、ルテニウム、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、金、及びタングステンから成る群から選択される。
【0029】
遷移金属は、単一の種として、又は2つ以上の遷移金属の混合物として存在し得る。
【0030】
本発明の方法は、高温で行われる脱カルボキシル化反応を含む。上述の従来技術のプロセスでは、温度は250℃から350℃までの範囲であり、典型的に200バールの高圧が加えられる。本発明の方法では、温度及び圧力の双方をもっと低くすることができる利点がある。圧力の低下はプロセスの利点であるが、反応温度において反応物が液体状態であるための充分な高さがあれば、圧力自体は特に重要とは考えられない。典型的な圧力は10バールから100バールまでの範囲である。特に、本発明の方法では圧力は印加されない。圧力容器内で反応を行うことで、圧力は反応中に蓄積するものだけとなる。この圧力はほぼ20から50バールであり、好ましくは40バールである。従って、好適な実施形態では、本発明の方法は圧力を印加することなく圧力容器内で行われる。
【0031】
反応温度は一般に150℃から350℃までの範囲内である。好ましくは、良好な収率及び選択性の双方を得るため、更には当技術分野で用いる高温に関連したエネルギの不利点を回避するため、本発明の方法において設定される温度は200℃から300℃までの範囲内であると好ましい。
【0032】
各触媒系について反応温度に最適値が存在することは当業者には理解されよう。この点で更なる助言として、元素の周期表の6族、7族、8族、9族、10族、及び11族の元素から選択された触媒又は触媒の混合物の場合、特にロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、金、及びタングステンでは、温度は225℃から275℃までの範囲以内であることが好ましい。遷移金属がルテニウムである場合、温度は好ましくは200℃から225℃までの範囲内である。
【0033】
遷移金属によって触媒下で行われる本発明の脱カルボキシル化方法は、本質的に塩基触媒プロセスである。適切な塩基は国際公開第2012/069813号に記載されている。ここで言及されたように、触媒は好ましくはOHイオンのソースを含む。好ましくは塩基触媒は、金属酸化物、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩(エタン酸)、アルコキシド、炭酸水素塩、又は分解可能ジカルボン酸もしくはトリカルボン酸の塩、又は上記のうち1つの第4級アンモニア化合物を含み、より好ましくは、I族又はII族の金属酸化物、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩、アルコキシド、炭酸水素塩、又はジカルボン酸もしくはトリカルボン酸もしくはメタクリル酸の塩を含む。また、塩基触媒は1つ以上のアミンを含む場合がある。好ましくは塩基触媒は、NaOH、KOH、Mg(OH)、Ca(OH)、及びそれらの混合物から選択される。これにより、国際公開第2012/069813号で検討されているように、他の適切な塩基に対する明示的な参照が行われる。
【0034】
塩基触媒は均一又は不均一なものであり得る。一実施形態において、触媒は液体反応相に溶解することができる。しかしながら触媒は、反応相が通過することができる固体支持体上に懸濁してもよい。この状況では、反応相は好ましくは液相に維持され、より好ましくは水相に維持される。あるいは、塩基触媒は均一触媒であり、塩基は水溶液として存在し、反応の出発物質は同一媒体に溶解されている。
【0035】
塩基の量は0.1当量から3.0当量までの範囲内であり、好ましくは0.5当量から2当量であり、更に好ましくは0.8当量から1.2当量であり、最も好ましくは約1当量(1当量)である。例えば、出発物質としてイタコン酸、塩基としてNaOHを用いる場合、NaOHは一般的に0.05Mから0.3Mまで、より好ましくは0.1Mから0.2Mまで、最も好ましくは0.15M(1当量)の量で存在するのが好ましい。
【0036】
本発明において用いる出発物質は、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、(イソ)クエン酸、アコニット酸、及びそれらの混合物から成る群から選択された酸を含む。このため本発明は、イタコン酸、イタコン酸の異性体(シトラコン酸及びメサコン酸である)、及びクエン酸であるイタコン酸の主要前駆物質、更にはその脱水生成物すなわちアコニット酸に適用することができる。本発明の方法は、単体又は組み合わせた酸自体、又はこれらの酸を含む出発物質に適用することができる。後者は、クエン酸のバイオベースのソースから価値を得るため本発明の方法を用いる場合に特に好ましい。本発明で用いる対象となる主要ソースは、クエン酸、イソクエン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、アコニット酸、及びそれらの混合物に対する炭水化物発酵プロセスのブロスであって、直接に又は細胞の濾過後に使用可能であるもの、糖蜜、未調理(糖)ジュース、発酵残渣、バガス、プロタミラス(protamylasse)等を含む農業食品産業のストリーム及びサイドストリーム、並びに、果実及び野菜、特に柑橘類の果実から得られた液体からのものである。
【0037】
本発明の方法は、イタコン酸及び異性体からのメタクリル酸の合成(国際公開第2012/069813号を参照のこと)、並びに上述のCarlsson等により報告されたようなクエン酸からのメタクリル酸の合成の双方について、現時点での最新技術と良好に比較される。例えば、特定の最適化なしで35%の収率を達成することができる。これに対して、Carlssonの反応スキームではわずか6%である。
【0038】
また、本発明は、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、クエン酸、アコニット酸、及びそれらの混合物から成る群から選択された酸を含む出発物質からのメタクリル酸又はそのカルボキシル誘導体の合成において収率及び選択性を向上させることを目的とした遷移金属不均一触媒の使用に関する。この使用は、当技術分野においてこれまで記載されていない前述の触媒の目的を具現化するものであり、上述の様々な実施形態に従ってメタクリル酸を作製する方法を実行することによって、実際に適用することができる。
【0039】
また、本発明の方法は、メタクリル酸又はそのエステルのポリマーに対してスルー合成(through synthesis)で適用することができる。この方法は、概ね前述した方法に従ってメタクリル酸を作製することを含み、任意選択として、得られたメタクリル酸をエステル化すること、及びメタクリル酸又はそのエステルを一般に当業者に既知の方法でポリマー化することを含む。
【0040】
概して、本発明の方法により極めて良好な結果が得られる。これらの結果は、温度低下及び圧力を印加しないというプロセスの利点に関連して認識することができる。これらの結果は更に、メタクリル酸の収率上昇及び副生成物のプロファイルの向上に関連して認識することができる。
【0041】
以下で、限定でない実施例を参照して本発明について説明する。
【0042】
実施例1
遷移金属触媒Pd/C(2.5モル%)を使用した場合及び使用しない場合の、イタコン酸(400mg、3.0mモル)の塩基触媒脱カルボキシル化。塩基は0.15MのNaOH(20mL)である。反応温度は250℃である。圧力(印加せず、反応容器内に蓄積したもののみ)は40バールである。反応時間は1時間である。結果を表1にまとめる。変換率(「変換率」)は、プロセスの結果として何かに変換されたイタコン酸の百分率を示す。メタクリル酸(MAA)の収率は、生成物組成内において取り出されたMAAのモル百分率である。含まれる他のモル%は、異性体(反応で形成されたメサコン酸及びシトラコン酸)、クロトン酸及びピルビン酸の副生成物、及び特定されていない副生成物(「その他」)について記している。
【0043】
【表1】
【0044】
本発明の方法は、同じ変換率収率の向上が得られる。また、この方法では、副生成物の分布が狭くなる。
【0045】
実施例2
実施例1と同一の手順及び条件を様々な触媒に対して及び触媒なしで適用する。結果を表2に示す。百分率は以下について特定している。
・イタコン酸(出発物質)
・イタコン酸の異性体
・メタクリル酸(MAA)
・その他の生成物
【0046】
反応条件は全ての触媒について等しく、必ずしも最適値を表さない。2つの触媒について、温度を変更することでバリエーションを生成した(温度は表中に示す)。
【0047】
【表2】
【0048】
実施例3
アルミナ上の白金(Pt/Al)触媒と、実施例1において特定した条件を用いて、本発明の方法をクエン酸で実行した。表3に、Carlsson等(Ind. Eng. Chem. Res.1994、33、1989)により報告されたものとの比較して、結果を示す。
【0049】
【表3】