(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項7記載の摩擦攪拌接合用工具の表面に、周期律表IVa、Va、VIa、IIIb族元素およびC以外のIVb族元素よりなる群から選択される少なくとも1種以上の元素、またはこれら元素群から選択される少なくとも1種以上の元素の炭化物、窒化物あるいは炭窒化物を含む被膜層を有することを特徴とする摩擦攪拌接合用工具。
【背景技術】
【0002】
近年、熱間押出用ダイス、継目無製管用ピアサープラグ、射出成形用ホットランナノズル、などの高温環境下で用いられる塑性加工用工具の長寿命化に適する耐熱合金が要求されている。
【0003】
特に近年開発の進みつつある摩擦攪拌接合(Friction Stir Welding、以下FSWとも略す)に用いられる回転工具は、摩擦攪拌接合の適用範囲を拡大するため、高温強度および室温硬度の高い材料の開発が進んでいる。
【0004】
摩擦攪拌接合は、金属部材の接合部に回転工具を押し当て、その摩擦熱により軟化した被接合材を塑性流動させて接合する方法である。摩擦攪拌接合は既に、アルミニウム、マグネシウムなどの低融点、軟質材料の接合において実用化が進み適用範囲が拡大しつつある。しかし現在は、より高融点、硬質な被接合材への適用を図るために、高温強度、耐磨耗性を向上させた実用寿命を有する工具の開発が求められている。
【0005】
その理由として、FSWでは摩擦熱により被接合材を軟化させた際に、接合条件、被接合材による違いがあるものの、一般には工具の温度が被接合材の融点の70%前後にまで上昇することがあるためである。すなわち低融点のアルミニウムではこの温度が約400℃程度であるのに対し、鉄鋼材では1000〜1200℃に達するため、工具材質にはこの温度域においても被接合材を塑性流動させることが出来る高温強度、靭性および耐摩耗性が要求される。これは、FSW、FSJ(Friction Spot Joining、摩擦点接合)および摩擦攪拌応用技術に使用される工具に共通の課題である。
【0006】
その解決策として、比較的入手が容易なMoを主成分として、硬質材料であるTi、Zr、Hfの炭化物を添加し、高温強度を高めたMo合金がある。例えば0.03〜9.5質量%のTi、Zr、Hfの炭化物を添加し、メカニカルアロイング処理により微細組織を有する構造としたモリブデン合金が知られている(特許文献1)。このモリブデン合金は再結晶温度や脆性-延性遷移温度に注目して開発され、メカニカルアロイング処理による微細組織が必須である。しかしながらモリブデンは微細化させることにより非常に酸化性が強くなるため、メカニカルアロイング処理容器の酸素を十分に取り除くことは、工業的レベルでは非常に難しい。
【0007】
また共晶組織を有するモリブデン2相合金があり、Moと添加炭化物の相互拡散反応および共晶反応を利用し良好な組織を得ている(特許文献2)。
【0008】
一方で、このMo-炭化物2相合金において、しばしばその反応性から、添加炭化物の異常成長による巨大柱状結晶が生じることがある。例えばTi炭化物の場合、Moに添加されたTi炭化物はMoの固溶体を作り、内部にTiC粒子を有し、その粒子の周りに薄い(Mo、Ti)C固溶体相を生じ、さらにMo相と強固な結合を発生することが、いわゆる有芯構造として公知である(非特許文献1)。しかしながら、TiCはC/Ti=0.5〜0.98の広い非化学量論的組成を持つ。そのため(Mo、Ti)C中間相の組成や厚さが異なり、(Mo、Ti)C中間相同士が接した場合、それぞれの元素の再拡散により安定化するため粒成長を生じることがある。
【0009】
このような巨大柱状結晶は強度低下の大きな原因となり、その存在、サイズなどの制御が難しく、素材全体の強度のバラツキにつながる。そのため巨大柱状結晶の形成を防ぐことが工具の実用上強度確保とバラツキの対策として有効な手段となる。なお、Tiと同族元素であるZr、Hfにおいてもその炭化物はTiCと同様な結晶構造ならびに非化学量論的組成を持ち、上記TiCと同じく巨大柱状結晶を生じる。
【0010】
一方、Mo合金以外の耐熱合金としては、高温強度の観点から、PCBN(Polycrystalline Cubic Boron Nitride)などのセラミックスや25%Re−Wがその候補として公知である(特許文献3、4)。しかしながら、PCBNは非常に製法が特殊であるため高価であり、かつ他のセラミックス同様その耐欠損性が低く、欠けが発生しやすいという致命的な欠点がある。一方で25%Re−Wについては金属であるため、靭性は良好であるが耐磨耗性が劣るとともにReが希少であるため入手が困難で高価であるという問題がある。
【0011】
さらに、FSW用工具ではないが、TiCN−Mo系焼結体の性質に関して、TiCNにMoを添加したTiCN基の硬質材料(サーメット)の研究がなされており、非特許文献1では、TiCに比較しTiCNを添加することで、Mo窒化物が生成しにくく、また微粒化することが報告されている。しかしながら、これらの硬質材料はセラミックス基であり、靭性の低さが問題であり、また結合材や焼結助剤としてNi、Co、Moなどその他の金属、炭化物を添加しており、用途も切削工具が主である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明に好適な実施形態を詳細に説明する。
【0026】
<モリブデン耐熱合金組成>
まず、本発明の摩擦攪拌接合用工具(塑性加工用工具)に用いられるモリブデン耐熱合金の組成について説明する。
【0027】
本発明の摩擦攪拌接合用工具に用いられるモリブデン耐熱合金は、Moを主成分とする第1の相と、Ti、Zr、Hfの少なくとも1つの炭窒化物を主成分とする第2の相と、前記第2の相の周囲に設けられ、MoとTi、Zr、Hfの少なくとも1つの炭窒化物を含む固溶体を有する第3の相とを有し、残部が不可避不純物であることを特徴とするモリブデン耐熱合金である。
【0028】
以下、各相および各相を構成する材料について説明する。
<第1の相>
第1の相はMoを主成分とする相である。ここでいう主成分とは最も含有量が多い成分であることを意味する(以下同様)。
【0029】
具体的には、第1の相は例えばMoと不可避不純物で構成されるが、後述する炭窒化物の含有量によっては、第1の相に炭窒化物を構成する元素が固溶している場合もある。
【0030】
第1の相におけるMoは高融点、高硬度でかつ高温における強度に優れ、耐熱合金に金属としての物性をもたせるために、必須である。
【0031】
合金中のMoの含有量は、後述する炭窒化物の含有率との関係で決まるが、耐熱合金に金属としての物性をもたせるためには50質量%以上であるのが好ましい。
【0032】
<第2の相>
第2の相は、Ti、Zr、Hfの少なくとも1つの炭窒化物を主成分とする相であり、具体的には、例えば上記した炭窒化物と不可避不純物で構成される。
【0033】
第2の相におけるTi、Zr、Hfの炭窒化物は、Moに添加することにより、後述するように、結晶粒が微細化され硬度と高温での0.2%耐力を高めることができるため、必須である。
【0034】
なお、炭窒化物の代表的なものとしてはTiCNが挙げられるが、TiCNの組成としては、例えばTiC
xN
1−x(x=0.3〜0.7)となるものが挙げられ、具体的にはTiC
0.3N
0.7、TiC
0.5N
0.5、TiC
0.7N
0.3などが挙げられる。
【0035】
この中で代表的なものとしては、TiC
0.5N
0.5が知られているが、その他の組成の炭窒化チタン、炭窒化ジルコニウム、炭窒化ハフニウムも、TiC
0.5N
0.5と同様に結晶粒の微細化の効果が得られる。
【0036】
なお、合金中の炭窒化物(例えばTiCN)の含有量が5質量%未満の場合、室温硬度、高温での0.2%耐力を高くする効果が得られず、50質量%を超える場合、焼結性が悪くなり十分な密度が得られず、必要な機械的強度が得られなくなる。
【0037】
そのため、合金中のTiCNの含有量は5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、10質量%以上40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以上40質量%以下とするのが良い。
【0038】
<第3の相>
第3の相は第2の相の周囲に形成される層であり、第1の相のMoと第2の相の炭窒化物との固溶体を主成分とし、これと不可避不純物で構成される。
【0039】
ここで、
図1〜
図3を参照して本発明のMo耐熱材料に炭窒化物を添加したことによる効果を、炭化物を添加した場合と比較して説明する。ここではセラミックスとしてTiを例にして説明するが、Zr、Hfを用いた場合の効果も同様である。
【0040】
前述のようにMoにTi炭化物を添加した場合、添加されたTi炭化物は添加炭化物の相互拡散反応および共晶反応(
図1参照)により
図2に示すように、Moの固溶体を作り、内部にTi炭化物粒子を有し、その粒子の周囲に(Mo、Ti)C固溶体を生じる。
【0041】
この際、前述のように、TiCはC/Ti=0.5〜0.98の広い非化学量論的組成を持つ。そのため、(Mo、Ti)C中間相の組成や厚さは一定にはならず、組成や厚さの異なる(Mo、Ti)C中間相同士が接した場合、それぞれの元素の再拡散により安定化するため粒成長を生じ、巨大柱状結晶が形成されて強度低下を引き起こす恐れがある。
【0042】
一方で、
図3に示すように、MoにTi炭窒化物を添加した場合も、Ti炭窒化物(TiCN)はMoとの固溶体(第3の相)を生じ、内部にTi炭窒化物(第2の相)を有し、その粒子の周囲には(Mo、Ti)C固溶体を生じる。
【0043】
しかしながら、この構造の場合、
図3から明らかなように、Ti炭化物を添加した場合と比較してMoとTi炭化物の接触機会が減少する。
【0044】
さらに、Moは窒素との親和力が炭素との親和力よりも小さいため、Ti窒化物はTi炭化物に比較しMoと反応しにくく、さらに(Mo、Ti)CN固溶体(第3の相)同士の反応も(Mo、Ti)C固溶体相に比較し減少する。
【0045】
そのため、Moに炭窒化物を添加した場合、炭化物を添加した場合と比較して、固溶体相に起因する粒成長が生じにくくなり、その結果、炭窒化物は微細に析出することとなる。そのためモリブデン耐熱合金の組織は微細化され、強度、靭性が向上する。
以上が炭窒化物を添加したことによる効果である。
【0046】
<不可避不純物>
本発明に係るFSW用工具を形成するモリブデン耐熱合金は、上記した必須の成分に加え、不可避不純物を含む場合がある。
【0047】
不可避不純物としては、Fe、Ni、Cr、などの金属成分や、C、N、Oなどがある。
【0048】
<TiCNの粒径>
次に、本発明の摩擦攪拌接合用工具を形成する焼結後のモリブデン耐熱合金中の炭窒化物の粒径(第2の相の粒径)について説明する。
【0049】
ここでは炭窒化物としてTiCNを例に説明するが、炭窒化ジルコニウム、炭窒化ハフニウム等も同様である。
【0050】
本発明の摩擦攪拌接合用工具を形成する焼結後のモリブデン耐熱合金中のTiCNの粒径は、平均粒径が0.3μm以上、10μm以下であるのが好ましい。これは、以下の理由によるものである。
【0051】
まず、平均粒径を0.3μm以上とする理由について説明する。
仮に、平均粒径を0.3μmよりも小さくする場合、配合するTiCN粉末の平均粒径を0.3μmより小さくする必要がある。しかし、このような微粒子は一般的に凝集し易くなる傾向があり、凝集2次粒子は焼結により顕著な粗大粒を形成し易くなり、また気孔の生成も促し易い。このような顕著な粗大粒子を形成させないためには、焼結温度を低下させる必要があるが、焼結温度の低下は焼結体密度の低下を引き起こしてしまう。
そのため、TiCNの平均粒径は0.3μm以上であるのが好ましい。
【0052】
次に、平均粒径を10μm以下とする理由について説明する。
仮にモリブデン耐熱合金中のTiCNの平均粒径を10μmよりも大きくする場合、粗粒のTiCNが焼結を阻害して焼結歩留まりが極端に悪くなり、工業的とはいえなくなる恐れがある。さらに焼結できたとしても粗粒のTiCN粒子が破壊の起点となって、機械的強度を低下させる恐れがある。
そのため、TiCNの平均粒径は10μm以下であるのが好ましい。
【0053】
また、焼結体の密度上昇と均一性の確保という観点からは、TiCNの平均粒径は0.3μm〜6μmであることがより好ましい。
【0054】
なお、詳細は後述するが、ここでいう平均粒径とは、線インターセプト法で求めた値のことである。
【0055】
また、
本発明に係る合金中のTiCN粒は、
図4に示すように、3.0〜5.0μmの粒子の個数割合が合金中のTiCN粒全体の40−60%の割合であるのが好ましい。これは、前述のように、TiCN粒の平均粒径は0.3〜6μmであるのが好ましいが、ひとつのほぼ正規分布の粒度を示している場合、粒度分布がブロード過ぎると焼結体組織の不均一性、即ち焼結体部位に関し特性の不均一性につながる可能性があるためであり、一方、非常に均一な粒度の粉末は得られ難く、製造コストの面でデメリットがあるためである。
【0056】
さらに、
本発明の実施例に係るTiCN粒は、
均一な粒度分布を備えていなくても良い。この場合、微粒と粗粒を織り交ぜることにより、添加の効果をより高めることができる。具体的には、
図5に示すように、粒径が1.5〜3.5μmの粒子の個数割合が合金中のTiCN粒全体の20−40%の割合、5.0〜7.0μmの粒子の個数割合が合金中のTiCN粒全体の10−30%の割合であるのがより好ましい。このような分布とすることにより、微粒側の粒径1.5μm〜3.5μmのTiCN粒は、主としてMoの粒界に介在することにより、Moの粒界強度を高める効果に寄与する(効果A)。一方、粗粒側の粒径5.0〜7.0μmのTiCN粒は、モリブデン耐熱合金のバルク全体の硬度を高める効果に寄与する(効果B)。
【0057】
なお、粒径が1.5−3.5μmの粒子の個数割合が20%より低いと、粗粒の比率が高くなるため、効果Aが得られ難く、40%より高いと、微粒の比率が高すぎ、効果Bが得られ難いため、好ましくない。
【0058】
また、粒径が5.0-7.0μmの粒子の個数割合が10%より低いと、粗粒の比率が低くなるため、効果Bが得られ難く、30%より高いと、粗粒の比率が高くなり、効果Aが得られ難いため、好ましくない。
【0059】
<物性>
次に、本発明の摩擦攪拌接合用工具を形成するモリブデン耐熱合金の物性について説明する。
【0060】
本発明のモリブデン耐熱合金の強度としては、1200℃における0.2%耐力が400MPa以上、好ましくは600MPa以上、かつ20℃におけるビッカース硬度(室温硬度)が400Hv以上、好ましくは600Hv以上である。
【0061】
モリブデン耐熱合金をこのような物性にすることにより、モリブデン耐熱合金を例えばFe系、FeCr系、Ti系用等の摩擦攪拌接合部材のような、高融点、高強度が要求される耐熱部材に適用することができる。
【0062】
なお、本発明がモリブデン「耐熱」合金であるにも関わらず、室温硬度を条件にしているのは、以下の理由によるものである。
【0063】
本発明のモリブデン耐熱合金を摩擦攪拌接合用工具として用いる場合、工具の摩耗量が工具材料の硬度と密接な関係にあり、硬度が高いほど工具摩耗量を少なくできる効果がある。摩擦攪拌接合の場合、ツールを挿入する際に工具への高い負荷が生じるため、挿入時の摩耗が顕著に現れる。挿入時はまだ工具もワークも発熱が少なく、両者の温度も高くはなっていないため、工具の摩耗量は、室温の硬度に依存することとなる。
【0064】
また、本発明のモリブデン耐熱合金は、摩擦攪拌接合用工具そのものとして使用される場合もあるが、多くの場合は摩擦攪拌接合用工具母材として使用され、周期律表IVa、Va、VIa、IIIb族元素およびC以外のIVb族元素よりなる群から選択される少なくとも1種以上の元素、またはこれら元素群から選択される少なくとも1種以上の元素の炭化物、窒化物あるいは炭窒化物を含む被膜が表面に被覆され工具とされる。ここで、実際に工具として使用する場合、まず室温にて工具を接合対象材料に強く押し込みながら回転させ、摩擦熱により接合対象物の温度を上昇させる。よって、回転初期の母材の変形、破壊また母材と被覆膜との剥離がないように、母材の室温硬度が高いことが必要である。
以上がモリブデン耐熱合金の条件である。
【0065】
<製造方法>
次に、本発明のモリブデン耐熱合金およびそれを用いた摩擦攪拌接合用工具の製造方法について、
図6を参照して説明する。
【0066】
本発明のモリブデン耐熱合金およびそれを用いた摩擦攪拌接合用工具の製造方法については、上記した条件を満たす摩擦攪拌接合用工具が製造できるものであれば、特に限定されるものではないが、以下のような方法を例示することができる。
【0067】
まず、原料粉末を所定の比率で混合して混合粉末を生成する(
図6のS1)。
【0068】
原料としては、Mo粉末およびTiCN粉末(または炭窒化チタン、炭窒化ジルコニウム、炭窒化ハフニウム等の炭窒化物粉末)が挙げられるが、以下、各粉末の条件について、簡単に説明する。
【0069】
Mo粉末は純度99.99質量%以上、Fsss(Fisher Sub-Sieve Sizer)平均粒径3.5〜5.0μmのものを用いるのが好ましい。
【0070】
なお、ここでいうMo粉末純度とは、JIS H 1404記載のモリブデン材料の分析方法により得たものであり、Al、Ca、Cr、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Pb、Si、Snの値を除いた金属純分を意味する。
【0071】
TiCN粉末は、純度99.9%以上、Fsss平均粒径0.1〜10.0μmのもの用いるのが好ましい。
【0072】
なお、ここでいうTiCN粉末の純度とは、Al、Ca、Cr、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Si、Snを除いた純分を意味する。
【0073】
また、粉末の混合に用いる装置や方法については特に限定されることはなく、例えば、乳鉢、V型ミキサー、ボールミルなど公知の混合機を使用することができる。
【0074】
次に、得られた混合粉末を圧縮成形し、成形体を形成する(
図6のS2)。
【0075】
圧縮成形に用いる装置は特に限定されるものではなく、一軸式プレス機やCIP(Cold Isostatic Pressing)など公知の成形機を使用すればよい。圧縮の際の条件としては、圧縮の際の温度は室温(20℃)でよい。
【0076】
一方、成形圧は1〜3ton/cm
2であるのが好ましい。これは、成形圧が1ton/cm
2未満の場合は成形体が十分な密度を得られず、また、3ton/cm
2を超えると、圧縮装置と金型が大型化し、コスト面で不利になるためである。
【0077】
次に、得られた成形体を加熱し、焼結する(
図6のS3)。
【0078】
具体的には、少なくとも水素あるいは窒素を含む雰囲気(例えばH
2、H
2−Ar、H
2−N
2混合雰囲気、減圧N
2雰囲気等)にて1600℃以上、2000℃以下で加熱するのが好ましい。
【0079】
これは、加熱温度が1600℃未満の場合、焼結不十分となり焼結体の密度が低くなるためであり、また、加熱温度が2000℃より高いと、TiCNの分解が進行することにより巨大柱状結晶粒の成長へと至り、その結果モリブデン耐熱合金の強度が低下してしまうためである。そのため、焼結する際には、1600℃以上、2000℃以下で焼結するのが好ましい。また、水素あるいは窒素を少なくとも含む雰囲気である理由は、水素は原料粉末が含む酸素の還元作用があり、また窒素は焼結中の脱窒を防ぐ効果があるためである。なお、焼結時の圧力は大気圧で可能であるが、これに限定されず、加圧、減圧のいずれでも焼結可能である。
【0080】
次に、得られた焼結体の相対密度が95%程度であった場合には、不活性雰囲気にて熱間等方圧加圧(Hot Isostatic Pressing 以降HIPとも呼ぶ)することが好ましい。(
図6のS4)。ただし、焼結工程で相対密度が96%以上となっていれば、HIPを省略しても室温硬度や高温での0.2%耐力を低下させることはほとんどない。
【0081】
HIPを行う際の具体的な加圧条件としては、温度1400〜1800℃、圧力152.0〜253.3MPaの不活性雰囲気で、HIP処理を行うのが好ましい。これは、この範囲を下回ると密度が上がらなくなり、上回ると大型装置が必要となり製造コストに影響するためである。
【0082】
このようにして得られたFSW用工具の素材は、切削工程、研削・研磨工程等の加工工程を経て、摩擦攪拌接合工具が作製される。
【0083】
以上が本発明のモリブデン耐熱合金とそれを用いた摩擦攪拌接合用工具の製造方法である。
【0084】
<FSW用工具>
本発明のFSWを形成するモリブデン耐熱合金は、上記の構成を有するものであるが、ここで、本発明のモリブデン耐熱合金を用いた摩擦攪拌接合用工具の構成について、
図7を参照して簡単に説明する。
【0085】
図7に示すように、摩擦攪拌接合用工具101は、接合装置の図示しない主軸と連結されるシャンク102と、接合時に接合対象物の表面と接触するショルダー部103と、接合時に接合対象物に挿入されるピン部104を有している。
【0086】
このうち、少なくともショルダー103とピン部104の母材は、本発明に係るモリブデン耐熱合金で形成される。
【0087】
また、摩擦攪拌接合用工具が使用中の温度によって酸化、また接合対象物と溶着することのないように、モリブデン耐熱合金の表面に周期律表IVa、Va、VIa、IIIb族元素およびC以外のIVb族元素よりなる群から選択される少なくとも1種以上の元素、またはこれら元素群から選択される少なくとも1種以上の元素の炭化物、窒化物あるいは炭窒化物を含む被膜が表面に被覆されるのが好ましい。被膜層の厚さは、1〜20μmが好ましい。被膜層の厚さが1μm未満の場合は、被膜層を設けたことによる効果が期待できない。一方で、被膜層の厚さが20μm以上の場合は、過大な応力が生じ膜が剥離する恐れがあるため、極端に歩留まりが悪くなる可能性がある。
【0088】
このような被膜(コーティング層)としては、TiC、TiN、TiCN、ZrC、ZrN、ZrCN、VC、VN、VCN、CrC、CrN、CrCN、TiAlN、TiSiN、TiCrN、並びに少なくともこれらの内の1層以上を含む多層膜を有するものが挙げられる。ここで、コーティング層の各元素の組成比率は任意に設定できる。上記TiCNも本願発明に記載のTiC
xN
1−x(x=0.3〜0.7)のX値に限定されるものではない。
【0089】
コーティング層の形成方法は、特に限定されることなく、公知の方法で被膜形成できる。代表的な方法として、アークイオンプレーティングやスパッタリングなどのPVD(Physical Vapor Deposition)処理、化学反応によりコーティングするCVD(Chemical Vapor Deposition)処理、ガス状元素をプラズマにより分解、イオン化しコーティングするプラズマCVD処理などがあるが、いずれの方法でも単層膜から多層膜まで処理可能であり、本願発明のモリブデン耐熱合金を母材とした場合に、優れた密着性を発揮できる。
【0090】
このように、本発明のモリブデン耐熱合金はMoを主成分とする第1の相と、Ti、Zr、Hfの少なくとも1つの炭窒化物を主成分とする第2の相と、第2の相の周囲に設けられ、MoとTi、Zr、Hfの少なくとも1つの炭窒化物を含む固溶体を有する第3の相とを有し、残部が不可避不純物である。
【0091】
そのため、本発明のモリブデン耐熱合金を用いた摩擦攪拌接合用工具は従来よりも接合対象物(加工対象物)の高融点化に対応した耐力や硬度等の物性と実用性の双方を充足する。
【実施例】
【0092】
以下、実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。
【0093】
(実施例1)
TiCN含有量の異なるモリブデン耐熱合金を用いて摩擦攪拌接合用工具を作製し、得られたモリブデン耐熱合金の特性を評価し、さらに、摩擦攪拌接合用工具の性能を評価した。具体的な手順は以下の通りである。
【0094】
<試料の作製>
まず、原料としてMo粉末、TiCN粉末を用意した。具体的には、Mo粉末は純度99.99質量%以上、Fsss法による平均粒径が4.3μmのものを用いた。
【0095】
また、TiCN粉末には、株式会社アライドマテリアル製のTiCN粉末・品種名5OR08で、Fsss法による平均粒径が0.8μmのものを用いた。
【0096】
成形性を促進するバインダーとしてパラフィンを用い、上記粉末全体の重量に対し2質量%を添加した。
【0097】
次に、これらの粉末を後述する表1に示す配合比率で、乳鉢で混合して混合粉末を作製し、一軸式プレス機を用いて、温度20℃、成形圧3ton/cm
3の条件下で圧縮成形し、成形体を得た。
【0098】
次に、得られた成形体を水素雰囲気下(大気圧)で温度1900℃で加熱し、焼結を試みた。
【0099】
次に、焼結体を温度1600℃、Ar雰囲気下、圧力202.7MPaでHIP処理を行いモリブデン耐熱合金を作製し、切削加工および研削加工を経てFSW用工具を作製した。
【0100】
<相対密度測定>
次に、得られたモリブデン耐熱合金の相対密度を測定した。ここでいう相対密度とは、作製した試料(バルク)について測定した密度を理論密度で除して%で表した値である。
【0101】
以下、具体的な測定方法について説明する。
(バルク密度の測定)
バルク密度はアルキメデス法により求めた。具体的には、空中と水中での重量を測定し、下記計算式を用いてバルク密度を求めた。
バルク密度=空中重量/(空中重量−水中重量)×水の密度
【0102】
(理論密度の測定)
まず、以下の手順でMo−TiCN合金の理論密度を求めた。
【0103】
(1)ICP−AESによりバルク材中のTiの質量比率(0〜1)を求め、化学分析によりC、Nの質量比率も求め、TiCNの質量比率(Zc)を算出し、Moの質量比率(Zm)を1−Zcとして算出した。
【0104】
(2)Moの密度をMm(=10.2g/cm
3)、TiCNの密度をMc(=5.1g/cm
3)とし、上記質量比率を体積比率に換算した。
即ち、TiCNを添加した場合のTiCNの体積比率は以下のように表される。
TiCNの体積比率=[Zc/Mc]/[Zc/Mc+Zm/Mm]
また、Moの体積比率は以下のように表される。
Moの体積比率=[Zm/Mm]/[Zc/Mc+Zm/Mm]
【0105】
(3)求めた体積比率に密度を乗じてバルク全体の理論密度を求めた。最後に、バルク密度を理論密度で除して相対密度を求めた。
【0106】
<粒径測定>
次に、得られたモリブデン耐熱合金中の粒径測定を、以下に示すような線インターセプト法により、測定した。
【0107】
具体的には、まず、測定箇所となる断面について倍率1000倍の拡大写真を撮り、この写真上において、
図8に示すように、任意に直線を引き、この直線が横切る対象となる結晶粒の粒子について、この直線上を横切る個々の結晶粒の粒径を測定し総和を算出した。次に、測定した粒子の径の総和と測定粒子数より平均結晶粒径を得た。なお、測定の視野は120μm×90μmとし、50個以上の粒子を測定した。
【0108】
また、観察された結晶粒がMo、TiCNのいずれであるかの判断はEPMAによる線分析で行った。
【0109】
<硬度測定>
モリブデン耐熱合金の硬度測定は(株)アカシ製マイクロビッカース硬度計(型番:AVK)を用い、大気中20℃にて測定荷重20kgを加えることにより、ビッカース硬度を測定した。測定点数は5点とし、平均値を算出した。
【0110】
<0.2%耐力測定>
摩擦攪拌接合用工具は、回転しながら工具の横移動により接合を実施するため、高温での回転曲げに対する強度が必要であるが、高温回転曲げ試験は特殊である。そのためここでは単純曲げ試験により高温強度を評価した。さらに摩擦攪拌接合用工具は耐変形性が要求されるため、同じ歪量での評価を実施することを目的として便宜上0.2%の歪を生じた際の応力、すなわち0.2%耐力を用いた(一般に0.2%耐力は引張試験時、降伏点が不明瞭な材料の評価に使用される)。
【0111】
0.2%耐力は、以下の手順により測定した。
まず、モリブデン耐熱合金を長さ:約25mm、幅:2.5mm、厚さ:1.0mmとなるように加工し、表面を#600のSiC研磨紙を用いて研磨した。
【0112】
次に、試料をピン間隔が16mmとなるようにインストロン社製高温万能試験機(型番:5867型)にセットし、Ar雰囲気下で、1200℃で、クロスヘッドスピード1mm/minでヘッドを試料に押し付けて3点曲げ試験を行い、0.2%耐力を測定した。0.2%耐力は、3点曲げ試験における曲げ応力と歪みを下記の式を用いて算出して応力歪み線図を描き、0.2%の永久歪みが生じる応力を解析することによって求めた。
曲げ応力=3FL/2bh
2
曲げ歪み=6sh/L
2
ここで、F:試験荷重(N)、L:支点間距離(mm)、b:試験片の幅(mm)、h:試験片の厚さ(mm)、s:たわみ量とする。
【0113】
<FSW用工具の性能評価試験>
FSW用工具の性能評価は、以下の手順により行った。
日立製作所製2次元摩擦攪拌接合装置を用い、工具回転速度600rpm、走行速度100mm/min、工具押し込み量2.5mm、走行距離100mmとして、SUS304の突合せ接合を行い工具の摩耗量を評価した。
以上の試験条件および試験結果を表1に示す。
【0114】
【表1】
【0115】
表1から明らかなように、TiCN粉末の配合割合が5〜50質量%のもの(本発明品)は、この範囲外の比率でTiCNを配合したもの(比較例1、2)、この範囲内にある配合割合のTiCを配合したもの(比較例3、4)に比べて室温硬度と0.2%耐力が優れていた。即ち、TiCNの適正な配合比率による室温硬度と0.2%耐力の向上が確認された。ここで、TiCの配合比率を16質量%までとしているのは、16質量%を超えると焼結後の密度が低くなり、室温硬度および高温での0.2%耐力が著しく低下したため、比較例として適切でないと考えたためである。
【0116】
また、10〜40質量%のものは、さらに室温硬度と0.2%耐力を向上できることがわかった。
【0117】
同様に、ZrCN、HfCNについても、TiCNと同等の室温硬度と0.2%耐力が得られることが確認された。
【0118】
次に、これら炭窒化物を添加したモリブデン耐熱合金を素材として用い、摩擦攪拌接合用工
具を製作し、SUS304の線接合を行い、比較例の合金を用いて作製した摩擦攪拌接合用工具と比較を行った結果、表1に示した本発明の範囲内の合金を用いた場合には、摩擦攪拌接合用工具のピン部およびショルダー部における摩耗はほとんど認められなかった。しかし、比較例1、3、4の合金を用いた場合には、摩擦攪拌接合用工具のピン部およびショルダー部の摩耗が認められた。また、比較例2の場合には室温硬度測定時、ダイヤモンド圧子の角部からクラックが発生したため、他の例に比較し硬度は高いが靭性が低いことがわかった。また摩擦攪拌接合用工具のピン部とショルダー部の境界部においてクラックの発生が認められた。
【0119】
<X線回折試験>
次に、上記の範囲のうち、Mo粉末が70質量%、TiCN粉末が30質量%としたもの、Mo粉末が60質量%、TiCN粉末が40質量%としたもの、および、Mo粉末が50質量%、TiCN粉末が50質量%として合金を製造したものについて、以下の条件でX線回折を行った。具体的な条件は以下の通りである。
【0120】
装置:(株)リガク製X線回折装置(型番:RAD-IIB)
管球:Cu(KαX線回折)
発散スリット及び散乱スリットの開き角:1°
受光スリットの開き幅:0.3mm
モノクロメーター用受光スリットの開き幅:0.6mm
管電流:30mA
管電圧:40kV
スキャンスピード:1.0°/min
結果を
図9に示す。
【0121】
図9に示すように、X線回折により得られたピークは、MoとTiCNに起因するピークのみが観察され、TiCNの質量比率が30%、40%、50%いずれの場合も、TiCNが分解することによって生成される不可避化合物に起因するピークは見受けられなかったので、TiCNの分解は生じていないことが分かる。
【0122】
(実施例2)
次に、TiCN粉末の配合比率を30質量%とし、第2相中のTiCNの粒径と最大粒径、ならびにMoの平均粒径を変えた摩擦攪拌接合用工具を製作し、室温硬度と0.2%耐力の評価を行い、摩擦攪拌接合試験を行った。その試験条件と試験結果を表2に示す。
【0123】
【表2】
【0124】
表2から明らかなように、本発明に示すTiCN相の平均粒径を0.3μm〜10μm、最大粒径が1.4μmから30μmとしたものは、その範囲外のもの(比較例5〜8)に比べて、室温硬度と0.2%耐力が優れることがわかった。比較例5、6においては、いずれも密度が75〜93%以下の範囲でバラツキが生じ、そのため評価不能な試験体が多く認められ、信頼性に劣る結果となった。
TiCN相の最大粒径が1.4μmから30μmのとき、良好な結果が得られることは実施例1、3、及び4においても同様である。
【0125】
また、Mo相の平均粒径を0.3〜20μmとしたものは、その範囲外のものに比べて、室温硬度と0.2%耐力が優れることがわかった。比較例7、8に示すMo相の平均粒径が0.4μmおよび25μmの試験体は、比較例5、6と同様、密度バラツキが大きく評価不能であった。
【0126】
さらに、上記の範囲内の配合比率にてモリブデン耐熱合金を焼結して摩擦攪拌接合用工具を製作し、SUS304の線接合を行った結果、摩擦攪拌接合用工具のピン部およびショルダー部における摩耗および塑性変形はほとんど認められず、より好ましい形態であることがわかった。
【0127】
また、上記の効果はTiCN粉末の配合比率が30質量%の場合について述べたが、表1に記載の本発明の範囲内の組成であれば同様の効果が得られた。
【0128】
(実施例3)
次に、Mo粉末が70質量%、TiCN粉末が30質量%とし、他は実施例1と同様にて合金を製造し、合金中のTiCN粒のうち、粒径が3.0〜5.0μmのものの個数割合と合金の特性との関係についての評価を行った。試験条件および試験結果を表3に示す。なお、3.0〜5.0μmのものの個数割合は、株式会社アライドマテリアル製の炭窒化チタン粉末(品種名5MP15、5MP30)を用い、それらを分級処理して調整することにより制御した。
【0129】
【表3】
【0130】
表3に示すように、合金中のTiCN粒のうち、粒径が3.0〜5.0μmのものの個数割合が40%と60%のものは、30%のものと比べて室温硬度と0.2%耐力が優れていた。
【0131】
また、60%よりも高いものは、非常に均一な粒度の粉末であり得られ難く、実質的に粉末製造が不可能であり、評価不能であった。
【0132】
この結果から、合金中のTiCN粒のうち、3.0〜5.0μmのものの個数割合が40%〜60%のものは、室温硬度と高温での0.2%耐力に優れることがわかった。一方、比較例に記載したように、3.0〜5.0μmのものの個数割合が30%の場合には、室温硬度と高温での0.2%耐力が著しく低下するものではないが、密度が低いため強度のばらつきを生じやすくなるため好ましくないことがわかった。また、3.0〜5.0μmのものの個数割合が60%の場合には、さらに密度が低くなり製作が困難であった。
【0133】
さらに、上記の範囲内の配合比率にてモリブデン耐熱合金を焼結して摩擦攪拌接合用工具を製作し、SUS304の線接合を行った結果、摩擦攪拌接合用工具のピン部およびショルダー部における摩耗および塑性変形はほとんど認められず、より好ましい形態であることがわかった。
【0134】
また、上記の効果はTiCN粉末の配合比率が30質量%の場合について述べたが、表1に記載の本発明の範囲内の組成であれば同様の効果が得られた。
【0135】
(実施例4)
次に、Mo粉末が70質量%、TiCN粉末が30質量%とし、他は実施例1と同様にて合金を製造し、合金中のTiCN粒のうち、粒径が1.5〜3.5μmのものの個数割合、および5.0〜7.0μmのものの個数割合と合金の特性との関係についての評価を行った。試験条件および試験結果を表4に示す。なお、1.5〜3.5μmのものの個数割合、および5.0〜7.0μmのものの個数割合は、平均粒径2.0μmのTiCN粉末と5.5μmのTiCN粉末とを混合し、それら原料粉末の混合比率を変えることにより制御した。
【0136】
【表4】
【0137】
表4に示すように、合金中のTiCN粒のうち、粒径が1.5〜3.5μmのものの個数割合が20%と40%のものは、15%、45%のものと比べて室温硬度、0.2%耐力、および相対密度が優れていた。
【0138】
同様に、合金中のTiCN粒のうち、粒径が5.0〜7.0μmのものの個数割合が10%と30%のものは、5%、35%のものと比べて室温硬度、0.2%耐力、および相対密度が優れていた。
【0139】
この結果から、合金中のTiCN粒のうち、粒径が1.5〜3.5μmのものの個数割合が20%〜40%で、かつ粒径が5.0〜7.0μmのものの個数割合が10%〜30%のものは、室温硬度、0.2%耐力、および相対密度に優れることがわかった。一方、比較例に示したように、TiCN粒の粒径が1.5〜3.5μmのものの個数割合が15%で、かつ、5.0〜7.0μmのものの個数割合が35%の場合、および1.5〜3.5μmのものの個数割合が45%で、かつ、5.0〜7.0μmのものの個数割合が5%の場合には、室温硬度と高温での0.2%耐力が著しく低下するものではないが、密度が低いため強度のばらつきを生じやすくなるため好ましくないことがわかった。
【0140】
さらに、上記の範囲内の配合比率にてモリブデン耐熱合金を焼結して摩擦攪拌接合用工具を製作し、SUS304の線接合を行った結果、摩擦攪拌接合用工具のピン部およびショルダー部における摩耗および塑性変形はほとんど認められず、より好ましい形態であることがわかった。
【0141】
また、上記の効果はTiCN粉末の配合比率が30質量%の場合について述べたが、表1に記載の本発明の範囲内の組成であれば同様の効果が得られた。
【0142】
(実施例5)
実施例および比較例の試料を電子顕微鏡で撮影し、組織の定量分析を行った。具体的な手順は以下の通りである。
【0143】
<分析用試料の作製>
まず、実施例として表1に示す「本発明3」の試料を、比較例として表1に示す「比較例4」の試料を作製した。なお、作成した焼結体の寸法は直径20mm、高さ20mmである。
【0144】
次に、得られた焼結体から10mm×5mm×5mmの立方体形状の試料片を切り出し、メタクリル酸メチルを主成分とする熱間埋込樹脂に埋め込んだ。
【0145】
次に、#180のSiCペーパーで表面を研磨し、さらに公知の研磨機にて粒径9μmのダイヤモンドスラリーで粗研磨を行った。
【0146】
次に、公知の研磨機にて粒径3μmのダイヤモンドスラリーで中仕上げ研磨を行い、さらに粒径3μmのダイヤモンドスラリーを吹き付けた不織布で仕上げ研磨を行った。
【0147】
最後に、島津製作所製イオンコーター(機種名:ION COATER,IC50)を用いて、イオン電流3.5mA、蒸着時間3minの条件下でAuを試料表面に蒸着させた。
【0148】
<撮影・分析条件>
試料の観察と分析は以下の条件下で行った。
まず、装置として日立製作所製走査型電子顕微鏡(FE-SEM/EDX)S−4200を用い、分析はエネルギー分散型X線分析で定量分析を行った。
【0149】
この際、加速電圧は15kV、エミッション電流は10μAとし、撮影倍率は「本発明3」が8000倍、「比較例4」が5000倍とした。
【0150】
また、分析は撮影した像の濃淡から、濃色部、淡色部、および濃色部と淡色部の中間的な色の中間部の3箇所を選んでTiとMoの質量%を測定した。
【0151】
撮影した電子顕微鏡写真を
図10および
図11に、分析結果を表5に示す。なお、表1における丸数字は、
図10および
図11において分析した場所を示すものであり、
図10および
図11では白い線で囲まれた四角形の領域で現されている。
【0152】
【表5】
【0153】
図10および表1に示すように、比較例4の試料は、淡色部はMoが主成分であり、濃色部はTiが主成分であり、中間色部は濃色部と淡色部の中間の組成であった。
また、中間色部の面積が濃色部の面積よりも大きかった。
【0154】
この結果から、淡色部は第1の相、濃色部は第2の相、中間色部が第3の相に該当することがわかった。また比較例4の試料は、第3の相が第2の相よりも成長していることが分かった。
【0155】
一方、
図11および表1に示すように、本発明3の試料も、淡色部はMoが主成分であり、濃色部はTiが主成分であり、中間色部は濃色部と淡色部の中間の組成であったが、中間色部の面積が写真からは判別するのが困難なほど小さかった。
【0156】
そのため、TiCNを用いたことにより、第3の相の成長が抑制されたことが確認できた。