【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、p型半導体層としてp型有機半導体高分子と変性させたカーボンナノチューブとの混合物を用いた場合、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記全固体型太陽電池に関する。
【0010】
項1.p型有機半導体高分子及び変性カーボンナノチューブを含有するp型半導体層を備える全固体型太陽電池。
【0011】
項2.前記変性カーボンナノチューブの含有量がp型有機半導体高分子100重量部に対して0.01〜100重量部である、前記項1に記載の全固体型太陽電池。
【0012】
項3.前記変性カーボンナノチューブが、酸変性カーボンナノチューブ、カテキン変性カーボンナノチューブ又はこれらの混合物である、前記項1又は2に記載の全固体型太陽電池。
【0013】
項4.前記p型有機半導体高分子がPEDOT:PSSである、前記項1〜3のいずれかに記載の全固体型太陽電池。
【0014】
項5.前記p型半導体層の上にn型半導体層を備える、前記項1〜4のいずれかに記載の全固体型太陽電池。
【0015】
項6.前記n型半導体層が無機材料からなる半導体層である、前記項5に記載の全固体型太陽電池。
【0016】
項7.前記n型シリコン系半導体層がn型結晶シリコン層である、前記項6に記載の全固体型太陽電池。
【0017】
項8.前記n型半導体層の上に、さらに、下部電極を備える、前記項5〜7のいずれかに記載の全固体型太陽電池。
【0018】
項9.前記p型半導体層の上に、上部電極を備える、前記項1〜8のいずれかに記載の全固体型太陽電池。
【0019】
項10.前記p型半導体層が、変性カーボンナノチューブを含む溶液を用いた湿式法で塗布し、乾燥した後、p型有機半導体高分子を含む溶液を用いた湿式法で塗布し、乾燥することにより作製される、前記項1〜9のいずれかに記載の全固体型太陽電池。
【0020】
以下、本発明の全固体型太陽電池について詳細に説明する。
【0021】
本発明の全固体型太陽電池は、(1)p型有機半導体高分子及び変性させたカーボンナノチューブ(以下、変性カーボンナノチューブということもある)を含むp型半導体層と(2)n型半導体層とを備える。
【0022】
(1)p型半導体層
本発明においてp型半導体層は、p型有機半導体高分子及び変性カーボンナノチューブを含むものである。
【0023】
変性カーボンナノチューブの含有量は、p型有機半導体高分子100重量部に対して、変換効率の観点から0.01〜100重量部が好ましく、0.1〜10重量部がより好ましく、0.2〜5重量部が特に好ましい。
【0024】
本発明では、上記のとおり、p型半導体層は、p型有機半導体高分子及び変性カーボンナノチューブを含む。p型半導体層は
、複層の場合は、
p型有機半導体高分子を含む層と、酸変性カーボンナノチューブを含む層との積層構造を有することが好ましい。
【0025】
p型有機半導体高分子
本発明で用いるp型有機半導体高分子としては、特に限定されるわけではないが、例えば、ポリ(3,4−エチレン−ジオキシチオフェン):ポリスチレンスルフォネート(PEDOT:PSS)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)、ポリ(3−オクチルチオフェン)(P3OT)等のポリチオフェン誘導体;2,2’−7,7’−テトラキス−(N,N−ジ−p−メトキシフェニルアミン)−9,9’−スピロビフルオレン(spiro−MeO−TAD)等のフルオレン誘導体;ポリビニルカルバゾール等のカルバゾール誘導体;トリフェニルアミン誘導体;ジフェニルアミン誘導体;ポリシラン誘導体;ポリアニリン誘導体等を挙げることができる。
【0026】
これらのp型有機半導体高分子の中でも、変換効率の観点から、ポリ(3,4−エチレン−ジオキシチオフェン):ポリスチレンスルフォネート(PEDOT:PSS)が特に好ましい。
【0027】
なお、ポリ(3,4−エチレン−ジオキシチオフェン):ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS)は、導電性高分子であるポリ(3,4−エチレン−ジオキシチオフェン)(PEDOT)と水溶性高分子であるポリスチレンスルホネート(PSS)とを混合した化合物であり、例えば、以下の構造:
【0028】
【化1】
【0029】
[式中、nは1以上の整数である。]
を有する化合物である。PEDOT:PSSは、市販のものを用いても、公知の方法により別途製造したものを用いてもよい。市販のPEDOT:PSSとしては、例えば、Sigma-Aldrich社製のPEDOT:PSS等が挙げられる。
【0030】
変性カーボンナノチューブ
本発明で用いる変性カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブに酸変性処理を施した酸変性カーボンナノチューブ、カーボンナノチューブにカテキン含有水溶液による変性処理を施したカテキン変性カーボンナノチューブ又はそれらを組み合わせたものを用いることができる。
【0031】
変性処理を行う前のカーボンナノチューブとしては、限定的ではなく、公知の単層又は多層のカーボンナノチューブ等が使用できる。具体的には、例えば、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、ダブルウォールカーボンナノチューブ(DWCNT)、3層以上の多層カーボンナノチューブ(MWCNT)等が挙げられる。
【0032】
変性前の単層カーボンナノチューブあるいはダブルウォールカーボンナノチューブとしては、平均直径が0.1〜20nm程度、平均長さが0.05〜1000μm程度のものが好ましく、平均直径が0.2〜10nm程度、平均長さが0.05〜50μm程度のものがさらに好ましく、特に、平均直径が0.3〜5nm程度、平均長さが0.1〜10μm程度のものが好ましい。カーボンナノチューブの平均直径及び平均長さは、例えば、10000倍以上の電子顕微鏡(SEM又はTEM)観察により測定できる(以下、同じ)。
【0033】
変性前の3層以上の多層カーボンナノチューブとしては、長軸に直交する平均直径が0.5〜100nm程度、長軸の平均長さが0.5〜1000μm程度、平均アスペクト比(長軸の平均長さ/長軸に直交する平均直径)が10〜2000000程度のものが好ましく、長軸に直交する平均直径が1〜50nm程度、長軸の平均長さが0.5〜1000μm程度、平均アスペクト比が10〜1000000程度のものがさらに好ましく、特に、長軸に直交する平均直径が5〜30nm程度、長軸の平均長さが0.3〜1000μm程度、平均アスペクト比が10〜1000000のものが好ましい。
【0034】
酸変性カーボンナノチューブとは、上記したカーボンナノチューブを酸変性処理したカーボンナノチューブを使用することができる。酸変性処理の方法としては、例えば、変性前のカーボンナノチューブを硝酸、混酸等の酸化合物の水溶液中に懸濁する方法が挙げられる。懸濁後に、超音波ホモジナイザー、ボールミル、ホモジナイザー等の公知の攪拌機による物理的分散処理を行うことがより好ましい。カーボンナノチューブと酸化合物の水溶液の使用割合としては、カーボンナノチューブに対して、酸化合物の水溶液が過剰量であればよい。
【0035】
酸変性処理に使用する酸化合物の水溶液のpHは、変換効率の観点から、2以下が好ましく、1以下が特に好ましい。
【0036】
また、酸変性処理時に、水溶液を加熱することが好ましく、例えば、70〜100℃で2〜48時間保持することが好ましい。
【0037】
カテキン変性カーボンナノチューブとは、上記した変性前のカーボンナノチューブをカテキン含有水溶液により変性処理したカーボンナノチューブを使用することができる。カテキン含有水溶液による変性処理の方法としては、例えば、変性前のカーボンナノチューブをカテキン含有水溶液中に懸濁する方法が挙げられる。懸濁後に、超音波ホモジナイザー、ボールミル、ホモジナイザー等の公知の攪拌機による物理的分散処理を行うことがより好ましい。カーボンナノチューブとカテキン含有水溶液の使用割合としては、カーボンナノチューブに対して、カテキン含有水溶液が過剰量であればよい。
【0038】
カテキン変性処理において使用するカテキン含有水溶液とは、例えば、カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等のカテキン類(いわゆる茶カテキン)及びこれらの重合体からなる群より選ばれた少なくとも一種(以下、単に「カテキン化合物」ということもある)を含有する水溶液等が挙げられる。本発明において使用するカテキン含有水溶液としては、緑茶(Green Tea)が特に好ましい。緑茶とは、特に限定されるものではなく、茶の若葉を収穫後に熱処理をすることにより酸化発酵を止めた緑茶茶葉から、温水(好ましくは熱水)により成分を抽出した水溶液をいう。カテキン含有水溶液として使用する緑茶は、市販の飲料用緑茶を使用してもよいし、市販の緑茶茶葉から水(好ましくは熱水)により成分を抽出した水溶液を使用してもよい。緑茶を使用する場合、使用前に緑茶中の浮遊成分をフィルター等を用いた濾過作業により除去することが好ましい。
【0039】
カテキン変性処理に使用するカテキン含有水溶液のカテキン化合物の濃度としては、例えば、10〜5000mg/Lを採用することができる。カテキン含有水溶液として、緑茶を使用する場合、緑茶茶葉6〜8gから温水(好ましくは熱水)100〜500Lで成分を抽出したものを採用することができる。
【0040】
p型半導体層には、上記p型有機半導体高分子及び変性カーボンナノチューブ以外にも、セレン、ヨウ化銅(CuI)等のヨウ化物、層状コバルト酸化物等のコバルト錯体、CuSCN、MoO
3、NiO等を含ませてもよい。層状コバルト酸化物としては、A
XCoO
2(A=Li、Na、K、Ca、Sr、Ba;0≦X≦1)等が挙げられる。
【0041】
p型半導体層の厚みは、特に制限されないが、0.01〜100μmが好ましく、0.05〜10μmが特に好ましい。複層の場合、p型半導体層の厚みは、総厚みを上記した範囲内とすることが好ましい。p型半導体層の厚みを上記範囲内とすることにより、より均質な膜が得られるとともに、キャリアの失活がより制限され、より高い変換効率が得られる。
【0042】
次に、p型半導体層の形成方法について、説明する。
【0043】
前記p型半導体層の形成方法は特に制限されないが、p型有機半導体高分子を含む溶液及び変性カーボンナノチューブを含む溶液を用いた湿式法により形成することができる。より具体的には、p型有機半導体高分子及び変性カーボンナノチューブの双方を含む溶液を塗布し、乾燥させることにより同時に行ってもよいし、変性カーボンナノチューブの溶液を先に塗布し、乾燥させた後、p型有機半導体高分子の溶液を塗布し、乾燥させることにより逐次的に行ってもよい。
【0044】
前記p型有機半導体高分子の溶液としては、前記p型有機半導体高分子を溶媒に溶解又は懸濁させたものを使用することができる。これらの溶媒には、界面活性剤を含むことが好ましい。界面活性剤としては、特に制限されず、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤のいずれも使用することができるが、ノニオン系界面活性剤が好ましい。
【0045】
特に、フッ素系ノニオン系界面活性剤が好ましく、中でも好ましい界面活性剤は、デュポン社製のZonyl(登録商標)FSN、Zonyl(登録商標)FSN−100、FS−300等が挙げられる。
【0046】
界面活性剤の含有量は、特に制限されないが、より均質な混合物を得つつ、電気特性及び変換効率を維持できる観点から、p型有機半導体高分子100重量部に対して0.01〜10重量部が好ましく、0.05〜1重量部がより好ましい。
【0047】
使用する溶媒は、抵抗を低減し、短絡電流密度を向上させて変換効率を向上させることができる観点から、極性溶媒が好ましく、アルコール類がより好ましい。なお、極性溶媒の中でも、アルコール類はグリコール類よりも向上効果が優れているが、アルコール類とグリコール類との混合溶媒を使用すると、開放電圧及びフィルファクターも向上させ、アルコール類単独と比較してさらに変換効率を向上させることができる。特に、メタノールとエチレングリコールとの混合溶媒が最も好ましい。
【0048】
なお、アルコール類としては、メタノール、エタノール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルブチルアルコール、イソブチルアルコール、ターシャリーブチルアルコール等が挙げられ、グリコール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。
【0049】
溶媒としてアルコール類とグリコール類との混合溶媒を使用する場合、その混合比率はアルコール類100重量部に対して、グリコール類3〜30重量部が好ましく、5〜20重量部がより好ましい。この範囲とすることにより、より優れた変換効率が得られる。
【0050】
前記変性カーボンナノチューブの溶液としては、カーボンナノチューブの変性時の溶液をそのまま使用することができる。即ち、これらの変性カーボンナノチューブは、変性処理の際に用いた酸化合物の水溶液又はカテキン含有水溶液の状態で使用することができる。前記変性カーボンナノチューブの溶液は、カーボンナノチューブの変性時の溶液から、変性カーボンナノチューブを濾過し、変性カーボンナノチューブに対して過剰量の蒸留水を用いて分散させたものを用いることもできる。変性カーボンナノチューブは濾過後に蒸留水により洗浄してもよい。また、変性カーボンナノチューブを再度蒸留水に分散させる際には、超音波ホモジナイザー、ボールミル、ホモジナイザー等の公知の攪拌機による物理的分散処理を行うことがより好ましい。
【0051】
前記p型有機半導体高分子及び変性カーボンナノチューブの双方を含む溶液としては、前記p型有機半導体高分子の溶液に変性カーボンナノチューブをさらに含むものを使用することができる。
【0052】
また、湿式法を行う際の溶液には、最終的に得ようとするp型半導体層に応じて、セレン、ヨウ化銅(CuI)等のヨウ化物、層状コバルト酸化物等のコバルト錯体、CuSCN、MoO
3、NiO、有機ホール輸送材等を含ませてもよい。層状コバルト酸化物の具体例は上記したものを用いればよい。
【0053】
湿式法を行う際の相手材としての基材は、特に限定されないが、後述のn型半導体層を採用することが好ましい。つまり、無機材料、特にn型結晶シリコンが好ましい。
【0054】
湿式法としては、塗布・印刷法であれば特に制限されず、スピンコート、インクジェット、噴霧、ディップコート、スクリーン印刷等を採用できる。
【0055】
また、塗布後乾燥することが好ましい。乾燥条件は特に制限されないが、空気中、温度は0〜200℃、特に25〜150℃が好ましく、時間は10〜2000分、特に20〜600分が好ましい。
【0056】
ここでは、p型半導体層の製造方法について一例を示したが、これに限定されることはなく、様々な組成及び条件で作製することができる。
【0057】
前記n型半導体層として、有機系n型半導体高分子層を用いる場合、樹脂基板又はガラス基板上に導電性膜(下部電極)を形成したものの上に、有機系n型半導体高分子を塗布し、乾燥する他は、前記n型シリコン系半導体層の場合と同様に行えばよい。有機系n型半導体高分子の塗布方法や乾燥条件も前記と同様の方法により行えばよい。
【0058】
(2)n型半導体層
本発明では、p型半導体層の上に、n型半導体層を備えることが好ましい。
【0059】
本発明のn型半導体層は、無機材料からなる層としてもよいし、有機材料からなる層としてもよい。n型半導体層を構成する材料は、n型結晶シリコン、酸化チタン、酸化ジルコニア、又はこれらの混合体等の無機材料;フラーレン又はその誘導体等の有機材料等が挙げられる。従来はp型半導体層にPEDOT:PSS等の有機材料を用いる場合には、n型半導体層も有機材料を用いることが好ましいとされていたが、本発明においては、無機材料、特にn型結晶シリコンが変換効率向上の観点から好ましい。
【0060】
n型半導体層の厚みは、特に制限されないが、1nm〜5mm程度が好ましく、0.1〜500μm程度がより好ましい。n型半導体層の上記範囲内とすることにより、より変換効率を向上させることができる。
【0061】
n型半導体層を構成する材料にn型結晶シリコンを用いる場合、その結晶面は(100)、(110)、(111)等が存在するが、成膜する分子の配向性の点から(100)又は(111)であることが好ましい。
【0062】
(3)下部電極
本発明では、n型半導体層の上(p型半導体層と反対側)に、さらに、下部電極を備えることが好ましい。
【0063】
この下部電極を構成する材料は、特に制限されないが、キャリアの再結合をより低減し、電極としての導電性を確保するという観点から、Al、Al(Cs
2CO
3)又はInGa等が好ましい。
【0064】
下部電極の厚みは、特に制限されないが、1nm〜10μm程度が好ましく、0.02〜1μm程度が特に好ましい。下部電極の厚みを上記範囲内とすることにより、シート抵抗をより低減し、結果として太陽電池の抵抗をより低減でき、また、パッシベーション膜としてキャリアの再結合をより抑制するため、フィルファクター特性をより維持できる。
【0065】
なお、n型半導体層の上に下部電極を形成する方法は特に制限されず、例えば、スパッタ、蒸着等を採用できる。
【0066】
(4)上部電極
本発明では、p型半導体層の上(n型半導体層と反対側)に、上部電極を備えることが好ましい。
【0067】
上部電極を構成する材料としては、特に制限されないが、例えば、カーボン、金、銀、タングステン、モリブデン、チタン等が上げられる。また、金、銀、タングステン、モリブデン、チタン等の金属の合金等も好ましく用いられる。中でもより高い導電性を有し、加工がよりしやすい等の観点から、銀が好ましい。
【0068】
上部電極の厚みは、特に制限されないが、0.01〜100μm程度が好ましく、0.1〜10μm程度が特に好ましい。
【0069】
なお、p型半導体層の上に上部電極を形成する方法は、特に制限されず、例えば、塗布、印刷、スパッタ、蒸着等を採用できる。