特許第6202872号(P6202872)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202872
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】生体情報処理システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 1/00 20060101AFI20170914BHJP
   A61B 5/07 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   A61B1/00 681
   A61B1/00 C
   A61B5/07
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-90260(P2013-90260)
(22)【出願日】2013年4月23日
(65)【公開番号】特開2014-212838(P2014-212838A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年4月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】312009531
【氏名又は名称】トランスブート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100078916
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 由充
(74)【代理人】
【識別番号】100142114
【弁理士】
【氏名又は名称】小石川 由紀乃
(72)【発明者】
【氏名】笠嶋 聖
(72)【発明者】
【氏名】田中 允也
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 誠
(72)【発明者】
【氏名】小林 泰之
(72)【発明者】
【氏名】下村 恒
【審査官】 田中 洋行
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−225996(JP,A)
【文献】 特開2005−245938(JP,A)
【文献】 特開2011−009802(JP,A)
【文献】 特開昭58−062966(JP,A)
【文献】 特開2004−320101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00 − 1/32
A61B 5/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の内部で生じた生体情報を検出するために当該生体の内部に導入される検出装置と、前記生体の外部において生体内の検出装置と通信を行って当該検出装置により検出された生体情報を取得して処理する処理装置とを具備する生体情報処理システムにおいて、
前記検出装置の本体内には、生体の外部に向けて波長範囲が近赤外域の650nm〜1200nmに含まれる周波数のコヒーレント光を発する投光部と、検出された生体情報を含む光信号を前記投光部に送出させる制御部とが収容されており、
前記処理装置には、前記検出装置からの光信号を検出するための手段として、受光の対象をコヒーレント光に絞り込む第1の光学フィルタと、前記投光部からの光に適合する周波数帯域の光に受光の対象を絞り込む第2の光学フィルタとを含むフィルタリング手段と、フィルタリング手段を通過した光を受光し、その受光量を示す信号を強度を高めて出力する自己増幅機能を有する受光素子とを具備する光検出器が設けられる、
ことを特徴とする生体情報処理システム。
【請求項2】
前記検出装置の投光部には、波長範囲が近赤外域の650nm〜1200nmに含まれる周波数のコヒーレント光を発する発光素子を含むパッケージ部品と、このパッケージ部品に一端部が取り付けられ、他端部が開放された可撓性を有する導光管とが含まれており、
前記導光管の開放側の端部はパッケージ部品に取り付けられた端部よりも重量が大きくなっており、
前記処理装置は、近赤外域の光を通過させることが可能な支持台を備え、この支持台上に支持された生体内の前記検出装置から出て地表へと向かう光を受け入れ可能な場所に前記光検出器が配備される、請求項1に記載された生体情報処理システム。
【請求項3】
前記検出装置は前記生体の内部での移動が可能であり、
前記処理装置には、前記支持台の支持面より下方位置において、前記光検出部を当該支持面に沿って移動可能に支持するステージ部が含まれる、請求項2に記載された生体情報処理システム。
【請求項4】
前記検出装置は、生体の消化器の内部を撮影するための撮像部を有するカプセル内視鏡である、請求項1〜3のいずれかに記載された生体情報処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の内部で生じた生体情報を検出して、検出された生体情報を含む信号を生体の外へと伝送し、伝送された信号から生体情報を取得して解析等の目的のために処理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
生体情報を検出する目的で人体の内部に導入される微小な検出装置の代表的なものとして、カプセル内視鏡が知られている。従来のカプセル内視鏡は、レンズ,照明用のLED,撮像素子などを含む撮像部、映像信号の処理回路、アンテナコイルを含む無線通信用の回路、バッテリーなどがカプセル内に組み込まれた構成のもので、蠕動運動によって食道から胃、さらに小腸へと移動しながら撮影を行って複数枚の静止画像を生成した後に、便と共に排出される。毎時の画像は無線通信によって生体外の処理装置に伝送された後に、医師による読影の対象として、パーソナルコンピュータなどのモニタに表示される(たとえば特許文献1を参照。)。
【0003】
また、この種のカプセル内視鏡に関して、特許文献2には、カプセルの内部に赤外線発光素子を導入すると共に、人体の外部に2つのカメラを設けて赤外線発光素子からの光を各カメラに受光させ、各カメラによる画像を用いた三角測量によってカプセルの位置を示す3次元データを求めることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−68488号公報
【特許文献2】特開2005−304998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カプセル内視鏡による検査を普及させるには、検査の精度を向上して長時間の使用を可能にすること、カプセル内視鏡を量産できるようにしてコストを下げること、飲み込みやすいようにカプセルを小型にすることなどの課題を解決する必要がある。
【0006】
カプセル内視鏡による検査の精度を向上するには、高画質の画像を高速で伝送する必要がある。しかし、無線通信に用いられる電波は水分に吸収されやすく、人体を構成する物質の約60%を占める水分によって電波が減衰されてしまうため、通信速度を向上するのは困難で、送信対象の画像のデータ容量も落とさざるを得ない。電波の減衰を防ぐには、水分に吸収されにくい周波数域の電波を選択する必要があるが、電波法の規制によって利用可能な周波数域が制限されるため、そのような選択も困難である。
【0007】
また、無線通信には、高性能の水晶発振器、変調回路、アンテナコイルなどが必要となるため、回路が大がかりになる。また十分な強度の電波を送出するとなると、消費電力も大きくなるため、バッテリーの大型化を招く。これらは、カプセルの小型化や計測時間の延長を妨げる要因となる。
【0008】
また、カプセル内視鏡は、人体内で使用されるため、動作の信頼性を確保する必要があるが、回路構成が複雑になるほど、信頼性を確保するのは困難になる。無線通信用の回路は部品点数が多く、構成も複雑になるため、信頼性が確保された製品を完成させるまでに多大な労力がかかる。このため、品質の良いカプセル内視鏡を低コストで提供するのは非常に困難である。
【0009】
電波を除く非接触通信の手段としては光通信が考えられる。大半の光は水やヘモグロビンに吸収されてしまうが、近赤外域(650nm〜1200nmあたりの周波数帯域)の光は、水にもヘモグロビンにも吸収されにくく、生体組織における透過率が高いことが知られている。したがって、この近赤外域の光による通信であれば、生体内で大きな減衰は生じないと思われるので、送信データの容量を増やしたり、送信速度を早めることが可能になる。また光通信のための回路は、発光素子やその駆動回路を主要構成とするもので、無線通信用の回路に比べるとはるかにシンプルであり、回路の信頼性を確保する作業も比較的容易である。この点や消費電力を抑えてバッテリを小型化できる点によれば、カプセルの小型化や低コスト化を実現することができる。
【0010】
しかし、生体外には、被検者自身の身体の表面での黒体放射による赤外線光や周囲環境中の赤外線光などが存在し、これらが大きなノイズ要因となる。また生体への影響を考えると、カプセルから出る光を強くするのは望ましくないため、生体の外に出た光を受光した後に強度を高める必要がある。しかし、一般的な半導体アンプにより受光量信号を増幅すると、アンプが有するノイズ成分が強調されて光信号がノイズ成分に埋もれてしまうおそれがある。
【0011】
本発明は上記の問題に着目してなされたもので、生体の内部で検出された生体情報を近赤外域の光による光信号として送出し、これを十分な強さでS/N比の良い信号として取得して、生体情報を着実に復元できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明が適用される生体情報処理システムは、生体の内部で生じた生体情報を検出するために当該生体の内部に導入される検出装置と、生体の外部において生体内の検出装置と通信を行って当該検出装置により検出された生体情報を取得して処理する処理装置とを具備する。
【0013】
前記検出装置の本体内には、生体の外部に向けて波長範囲が近赤外域の650nm〜1200nmに含まれる周波数のコヒーレント光を発する投光部と、検出された生体情報を含む光信号を前記投光部に送出させる制御部とが収容される。
前記処理装置には、前記検出装置からの光信号を検出するための手段として、受光の対象をコヒーレント光に絞り込む第1の光学フィルタと、前記投光部からの光に適合する周波数帯域の光に受光の対象を絞り込む第2の光学フィルタとを含むフィルタリング手段と、フィルタリング手段を通過した光を受光し、その受光量を示す信号を強度を高めて出力する自己増幅機能を有する受光素子とを具備する光検出器が設けられる。
【0014】
検出装置の投光部から近赤外域のコヒーレント光を投光するには、光源として近赤外光を発するレーザダイオードまたはLEDを投光部に組み込む必要がある。これらの発光素子からの光は周波数帯域が狭く、位相の揃ったコヒーレント光となるが、人体の表面からの黒体放射による近赤外光や環境中の近赤外光は、周波数や位相が様々にばらついた光となる。
本発明では、上記の点を考慮して、投光部からの光に適合しない周波数帯域の光や非コヒーレント光をフィルタリング手段により取り除くようにしたので、ノイズ光が高い確度で取り除かれた光を受光素子に導くことができる。
【0015】
また、本発明では、上記のフィルタリング手段を通過した光を自己増幅機能を有する受光素子(アバランシェフォトダイオードや光電子増倍管など)により受け入れて、受光量を示す信号の強度を受光量素子内で高めて出力するので、ノイズを混入させることなく受光量信号の強度を高めることができる。
上記のフィルタリング手段および受光素子によって、検出装置からの光信号を十分に強度が高められたS/N比の少ない信号として検出することができるので、元の生体情報を支障なく復元することが可能になる。
【0016】
上記システムの一実施形態では、検出装置の投光部には、波長範囲が近赤外域の650nm〜1200nmに含まれる周波数のコヒーレント光を発する発光素子を含むパッケージ部品と、このパッケージ部品に一端部が取り付けられ、他端部の端面が開放された可撓性を有する導光管とが含まれる。この導光管の開放側の端部はパッケージ部品に取り付けられた端部よりも重量が大きくなっている。また処理装置は、近赤外域の光を通過させることが可能な支持台を備え、この支持台上に支持された生体内の前記検出装置から出て地表へと向かう光を受け入れ可能な場所に前記検出器が配備される。
【0017】
上記の実施形態は、支持台上に生体が支持された状態として、この生体内の検出装置から出た光を生体より下方に位置する検出器により受光するものである。検出装置内の投光部では、発光素子から出た光が導光管の一端面から導光管内に入った後に他方の開放端面から出射されるが、導光管の開放側の端部の重みの作用によって光ファイバの開放端面を地表に向けることができる。よって、検出装置が生体内である程度傾いても、光ファイバの開放端面から地表へと向かう光を出射することができるので、その光を光検出器に安定して入光させることが可能になる。
【0018】
さらに上記の実施形態において、生体の内部での移動が可能な検出装置が導入される場合には、信号処理装置には、前記支持台の支持面より下方位置において、光検出部を当該支持面に沿って移動可能に支持するステージ部を含めることができる。このステージ部によれば、生体内における検出装置の移動に追随させて光検出部を移動させることができるので、広範囲にわたって生体情報を安定して取得することが可能になる。
【0019】
本願発明における検出装置の一例は、生体の消化器の内部を撮影するための撮像部を有するカプセル内視鏡であるが、このような移動するタイプの検出装置に限らず、生体内の所定箇所に固定されるタイプの検出装置を導入してもよい。また、生体情報を検出する方法は撮影に限らず、血流センサや血糖値センサなど、何らかの生体情報を検出するためのセンサが組み込まれた検出装置を導入してもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、生体組織を通過する割合が高い近赤外域の光を用いて生体内で検出された生体情報を光信号に変換して生体外へと伝送し、生体外において、この光信号を大きなノイズを混入させることなく認識できるレベルにまで増幅して、生体情報を復元することが可能である。よって、伝送可能な情報の容量を大幅に高めると共に伝送速度を短縮することができるので、生体情報の解析の精度や処理速度を高めることができる。また、消費電力を抑え、回路構成を簡単にすることができるので、検出装置本体の小型化や低コスト化を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明が適用された消化器系の検査システムの構成例を示す説明図およびブロック図である。
図2】カプセル内視鏡の構成例を示す説明図である。
図3】カプセル内視鏡の電気的構成を示すブロック図である。
図4】検査システムの他の構成例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、カプセル内視鏡を用いた消化器系の検査システムに本発明を適用した例を、システムの概略構成を示す説明図(A)とブロック図(B)とにより示す。
この検査システムは、人体Mに導入されるカプセル内視鏡1と、カプセル内視鏡1から画像データを含む信号の転送を受け付けて画像データを復元する処理装置2と、パーソナルコンピュータ3とにより構成される。パーソナルコンピュータ3には、復元された画像データを解析したり、付属のモニタ30に画像や解析結果などを表示するためのプログラムがインストールされている。
【0023】
詳細は後述するが、この実施例のカプセル内視鏡1は、撮影により生成された画像データを、近赤外光による光信号に変換して外部に送出するように構成されている。処理装置2には、カプセル内視鏡1からの光信号を検出するための光検出器21と、人体Mを支持するための寝台23と、寝台23の台部232の下方の空間で光検出器21を移動可能に支持するステージ部22と、光検出器21により検出された信号を処理するための制御装置20とが含まれる。
【0024】
光検出器21では、筒型の本体内に2種類の光学フィルタF1,F2が上下に並べて配備される。上方の光学フィルタF1はコヒーレント光を通過させる偏光フィルタであり、下方の光学フィルタF2はカプセル内視鏡1の発光周波数の帯域に適合する光(たとえば650〜1200nmの範囲内の一部範囲)を通過させるバンドパスフィルタである。
さらに光検出器21には、各光学フィルタF1,F2を通過した光の光量を検出する手段として、複数の受光素子の集合PD(以下、「受光素子群PD」という。)が設けられている。
【0025】
ステージ部22は、回転機構を備える支持テーブル221や、この支持テーブル221を寝台23の幅方向(X方向)および長さ方向(Y方向)に沿って移動させる移動機構222を備える。
光検出器21は、ステージ部22の支持テーブル221に固定され、移動機構222の動きに応じてステージ部22と共にX方向およびY方向に沿って移動する。また支持テーブル221の回転機構の動きによって、光検出器21を軸回転させることもできる。
【0026】
図1(B)に示すように、制御装置20には、コンピュータによる制御部200や、パーソナルコンピュータ3に対するインタフェース回路201のほか、光検出器21の受光素子群PDから出力された受光量信号を処理する信号処理回路202、ステージ部22を動かすためのステージ駆動回路203などが設けられる。制御部200は、信号処理回路202を介した受光量信号から画像データを復元する機能、復元された画像データをパーソナルコンピュータ3に伝送する機能、ステージ駆動回路203を介してステージ部22の動きを制御する機能などを備えている。
【0027】
寝台23のマット部231やこれを支える台部232は、近赤外域の光を通過させやすい材料により構成される。マット部231の上に横たえられた人体M内のカプセル内視鏡1から出射された近赤外レーザ光は、人体M,マット231,台部232を順に通過してステージ部22の方へと進む。この近赤外レーザ光の光路に光検出器21が位置合わせされていれば、制御部20は、画像データを含む光信号を取得することができる。
【0028】
光検出器21内の受光素子群PDは2次元状に配列されている。信号処理回路202には、この受光素子群PD内の個々の素子からの受光量信号(電流信号)を電圧信号に変換する回路と、変換後の受光量信号を増幅する回路と、増幅後の受光量信号をディジタル変換する回路とが含まれる。
【0029】
制御部200は、信号処理回路202から入力した各素子の受光量信号の強度をチェックしながらステージ部22の移動機構222を動かすと共に、適宜、支持テーブル221を回転させて、光検出器21が光信号を適切に受光できるように調整する。具体的には、受光素子群PDにおける受光量のピーク値があらかじめ定めた基準値以上となり、かつそのピークが受光素子群PDの中心部に位置するように、ステージ部22内の移動機構や回転機構を制御する。この調整が終了すると、制御部200はステージ部22を停止して、画像データの復号やパーソナルコンピュータ3への画像伝送を開始する。
【0030】
カプセル内視鏡1が移動すると、受光素子群PDにおける受光量のピークの位置も移動する。制御部200は、この移動の方向や移動量に基づき、ステージ部22を動かして、受光量のピークが受光素子群PDの中央部に位置する状態でステージ部22を停止する。また、受光量のピークの強度が弱まった場合には、制御部200は、回転機構を動かしてピークの強度が基準値以上になるように調整する。
以下も、上記の処理を繰り返すことにより、カプセル内視鏡1の動きに光検出器21を追随させながら消化器官内の各所を撮影すると共に、各撮影により得た画像データをパーソナルコンピュータ3に伝送することが可能になる。
【0031】
また制御部200は、毎回のステージ部22の停止位置を示す情報(寝台23の幅方向における位置を示すX座標と長さ方向に沿う位置を示すY座標との組み合わせ)や回転角度を取得し、復号した画像データにその位置情報や回転角度情報を添付してパーソナルコンピュータ3に送信する。したがって、人体Mの撮像され得る範囲をマット部231のあらかじめ定められた範囲に位置合わせしておけば、各画像データに添付された位置情報や回転角度情報によって、それぞれの画像に対応する撮影場所を推定することが可能になる。
【0032】
パーソナルコンピュータ3では、制御部200から送信された画像データによる画像をモニタ30に表示すると共に、ユーザ(検査員)による操作に応じた処理を実施する。たとえば、画像中の所定の範囲を指定する操作に応じて、指定された範囲内の異常部位を検出したり、その部位の大きさを計測したり、計測結果をモニタ30に表示する。
【0033】
図2は、上記の検査システムで使用されるカプセル内視鏡1の内部構成を、図3はカプセル内視鏡1の電気的構成を、それぞれ示す。
この実施例のカプセル内視鏡1は、透明樹脂製のカプセル10を本体とする。このカプセル10の内部の前方側(図2の左手側)には、撮像素子11や照明用のLED12などが搭載された第1の制御基板S1が配備され、その後方に電源基板Sを挟んで一対のバッテリ14,15が配備され、さらに後方に、第2の制御基板S2が配備されている。各基板S1,S2,Sは、いずれもカプセル10の内部の空間に起立配置される。
【0034】
第1の制御基板S1の前面の中央位置には撮像素子11が実装され、この撮像素子11の周囲を取り囲むようにレンズ鏡筒13が取り付けられ、レンズ鏡筒13の周囲に複数の照明用LED12が配備される。制御基板S1の裏面には、図3に示す画像処理回路16やLED駆動回路17が実装される。
【0035】
第2の制御基板S2は、制御回路18や投光回路19が実装された面を背面側に向けて配備される。さらに、この背面には近赤外レーザ光を発するレーザダイオードLDが収容されたパッケージ部品100が実装される。
【0036】
制御基板S2に搭載された制御回路18は、LED駆動回路17や画像処理回路16に電気接続されており、これらの回路17,16を介して照明用LED12の発光動作や撮像素子11の撮像動作を制御する。
【0037】
画像処理回路16には、撮像素子11から出力された画像信号をディジタル変換するためのA/D変換回路が含まれている。制御回路18は、このディジタル変換後の画像信号を、ビットマップ形式またはJPEGなどの圧縮形式の信号として投光回路19に出力する。投光回路19が制御回路18からの信号に基づいてレーザダイオードLDの発光動作を制御することにより、レーザダイオードLDから画像データを含む光信号が送出される。
【0038】
レーザダイオードLDを含むパッケージ部品100の前面には、孔部(図示せず。)が形成され、その孔部に光ファイバ101の一端部が挿入されている。光ファイバ101の他端の端面は開放されており、その開放端面の近傍位置に重り102が取り付けられている。また、カプセル10内の基板S2の背後の空間には、粘性を有する液体105が充填される。
【0039】
人体Mの内部に導入されたカプセル内視鏡1は、蠕動運動によって移動するため、様々な姿勢をとる可能性があるが、この実施例では、カプセル10の主軸が傾いても、重り102の作用によって光ファイバ101の開放端面を地表側に向けることができる。また、光ファイバ101の有する弾性係数や液体105の粘性による力を減衰力として、重り102による外力が過剰な減衰や過剰な応答が生じることがない程度の力になるように、重り102の重さを定めておけば、カプセル10の姿勢の変化に対して光ファイバ101に激しい振動や回転が生じたり、光ファイバ101の動きが鈍くなるのを防ぐことができる。よって、光ファイバ101を緩やかに動かして、その開放端面から出射されて人体M等を通過した近赤外レーザ光を、地表の方へと安定して進行させて、光検出器21に入光させることが可能になる。
【0040】
しかし、レーザダイオードLDから出たレーザ光は、光ファイバ101内に導かれて光ファイバ101内を進行する間に減衰し、光ファイバ101から出た後も、カプセル10,人体Mの各種器官、マット部231、台部232などを通過する間に減衰する。人体Mへの影響を考慮すると、レーザダイオードLDからの出射強度を強めることはできないため、光検出器21に到達するレーザ光の強度はかなり弱いものとなる。
【0041】
したがって、検査に必要な画像データを復元するには、光検出器21に入ったレーザ光による信号を十分な強度にまで増幅する必要があるが、半導体アンプによる増幅処理での増幅率を高めると、アンプが持つノイズ成分も強調されるため、レーザ光由来の信号がノイズ成分に埋もれてしまうおそれがある。
また光検出器21には、人体Mの表面での黒体放射による赤外線や周囲環境で生じた赤外線などのノイズ光も入るので、これらのノイズ光が精度良く取り除かれた光を受光素子群PDに導く必要がある。
【0042】
上記2つの課題のうちノイズ光の除外に関しては、この実施例では、偏光フィルタF1およびバンドパスフィルタF2を含むフィルタリング手段によって、レーザダイオードLDからの光に位相および周波数帯域が適合する光に受光対象を絞り込む。レーザダイオードLDから出る近赤外レーザ光は、周波数帯域が狭い範囲に集約され、位相が揃ったコヒーレント光であるのに対し、ノイズ光は周波数が離散的で位相も揃わない非コヒーレント光となる。上記によれば、偏光フィルタF1によって受光の対象がコヒーレント光に絞り込まれ、さらにバンドパスフィルタF2によって、レーザダイオードLDに適合する周波数帯域の光に受光の対象が絞り込まれるので、ノイズ成分を高い確度で除去することができる。
【0043】
なお、図2に示したカプセル内視鏡1の構成によれば、人体M内におけるカプセル10の向きによっては、光ファイバ101から出射されるレーザ光の振動方向が偏光フィルタF1に適合しない可能性もあるが、その場合でも、光検出器21を支持する回転テーブル221を回転させることによって、レーザ光が偏光フィルタF1を通過する状態に調整することができる。
【0044】
ノイズ除去後の光の強度を高めるために、この実施例では、受光素子群PDを構成する各受光素子として、自己増幅作用を有するアバランシェフォトダイオードを使用する。アバランシェフォトダイオードは、光電子を増やす機能を有するため、光信号そのものの強度を高めることができる。よって、微弱な光信号を、ノイズを混入させることなく、大幅に強度が高められた信号にすることができる。
【0045】
受光素子群PDから出力された受光量信号は、図1(B)に示した信号処理回路202において、電流・電圧変換の後に再度増幅され、その増幅の際にノイズ成分が重畳される可能性があるが、各受光素子の自己増幅作用により増幅された分だけ増幅回路のゲインを低くすることができるので、重畳されるノイズ成分が大きくなるのを防ぐことができる。
【0046】
このように、ノイズ光が精度良く取り除かれた光信号の強度を、ノイズ成分による影響を受けにくい状態で高めるので、制御部200には、十分な強度でS/N比の良い受光量信号が入力される。
よって、制御部200では、元の画像データを精度良く復元することができる。また、光を用いた伝送により、大容量のデータを高速で送信することが可能になるので、画像データの解像度を高めることができる。
【0047】
撮像素子におけるゲインや照明用LEDの発光色には個体差があるため、生成される画像の色合いも個々の内視鏡によって異なる。生成された画像データをそのまま検査にもちいると、計測や読影に誤りが生じるおそれがあるため、事前にキャリブレーションにより画像の色合いを調整する必要がある。しかし、キャリブレーションによると、画像データのダイナミックレンジが狭められるので、一画素あたりのデータ容量が小さいと、画質がますます低下するという問題があった。
上記実施例のカプセル内視鏡1によれば、大容量のデータを送信できる利点を生かして1画素あたりのデータ容量が高められた画像データを生成することができるので、色合いの調整後も高い画質を確保することができる。よって、鮮明で正確な色彩による画像データを取得することが可能になる。
【0048】
さらに、光通信によって消費電力を抑えることができるので、バッテリを小型にすることができる上に、無線通信型の従来のカプセル内視鏡に導入されていた発振器やアンテナコイルなどが不要になるので、カプセルを小型にし、コストを下げることができる。回路構成が簡単になると、回路の信頼性を確保することも容易になり、部品点数の削減も相俟ってコストを大幅に下げることが可能になる。また、消費電力が少なくなることから、長時間の計測を実施することも可能になる。
【0049】
なお、図2に示したカプセル内視鏡1では、レーザダイオードLDからの光を重り付きの光ファイバ101を介して地表の方へと導くようにしたが、この場合の光ファイバ101は1本に限らず、複数のファイバを束にし、その束の先端部分に重り102を取り付けるようにしてもよい。または、重り付きの市販の光ファイバ101を導光管として使用する方法に代えて、一端部が他端部より重量が大きくなるように成型された専用の導光管を導入してもよい。
また、生体情報を示す光信号を発する手段はレーザダイオードに限らず、近赤外域の光を発するLEDを用いてもよい。また、受光素子群PDを構成する各受光素子として、アバランシェダイオードに代えて。光電子倍増管を用いてもよい。
【0050】
先にも述べたように、この実施例では、毎回の撮像におけるステージ部22のX,Y座標を取得することによって、撮影時のカプセル10の位置を推定することができるが、さらに、受光素子群PDにおける受光量のピークの強度や人体Mの平均的な光吸収特性などから、高さ方向(Z方向)におけるカプセル10の位置を推定してもよい。
【0051】
一方、カプセル内視鏡1による撮影場所を特定する必要がないのであれば、光検出器21を移動可能に支持することなく、光信号を検出するための構成を図4に示すように変更してもよい。
図4に示す第2実施例では、寝台23の台部232の下方に、移動機構を持たないテーブル24が配備され、その支持面241上に反射鏡25が固定されている。光検出器21は、この反射鏡25と台部232との間の空間に、図示しない支持部材によって回転可能に支持される。
【0052】
カプセル内視鏡1,制御装置20,寝台2,パーソナルコンピュータ3の構成は、図1図3に示した第1実施例と同様であるので、説明は省略する。
反射鏡25は、人体Mの撮影対象範囲に対応する大きさを持ち、周縁に向かうほど上方に反るように湾曲した反射面を有する。反射面の各所に照射された光は、反射面の中心部の上方に集光する。光検出器21は、この集光した光を入射可能な位置に、図1(A)の例とは上下を逆転させた状態で固定支持される。すなわち、集光した光を受ける高さ位置に偏光フィルタF1が配置され、その上方にバンドパスフィルタF2を挟んで受光素子群PDが配置される。
なお、この実施例では、受光素子群PDにおける受光量のピークの位置を検出する必要がないため、光検出器21は第1の実施例より小型に形成される。また図示していないが、カプセル内視鏡1からのレーザ光が光検出器21の上面から受光素子群PDに入るのを防ぐために、受光素子群PDの上方に遮光フィルタが設けられる。
【0053】
上記構成において、人体Mに導入されたカプセル内視鏡1は蠕動運動によって移動しながら各所で撮影を行い、生成された画像データを含む近赤外レーザ光を出射する。反射鏡25では、人体Mや寝台23のマット部231および台部232を通過した近赤外レーザ光を、光検出器21に向かう方向に反射させる。反射した近赤外レーザ光は、偏光フィルタF1およびバンドパスフィルタF2を順に通過して受光素子群PDに導かれ、以下、第1の実施例と同様の方法で受光量信号が処理されて、元の画像データが復号される。なお、人体M内におけるカプセル10の向きによっては、カプセル10からのレーザ光の振動方向が偏光フィルタF1に適合しない可能性があるが、その場合にも、図示しない回転機構により光検出器21を回転させることによって、レーザ光が偏光フィルタF1を通過する状態になるように調整することができる。
【0054】
上記2つの実施例では、蠕動運動によって人体M内を移動するタイプのカプセル内視鏡1を示したが、これに限らず、体外から磁気信号などを受けて自走する機能を有するカプセル内視鏡1を導入することもできる。自走式のカプセル内視鏡1の場合には、レーザ光の光路が地表に向かう状態になるように姿勢をコントロールすることができるので、図2に示した重り付きの光ファイバ101は不要になり、画像データを表す光信号をより安定して受信することが可能になる。また、体内のカプセル内視鏡1を回転させることによって、カプセルからのレーザ光の振動方向を偏光フィルタF1に適合させることができるので、光検出器21を回転させるための機構も不要になり、処理装置2の構成を簡易にすることができる。
【0055】
一方、移動式のカプセル内視鏡1に代えて、人体Mの所定箇所に埋め込まれて、特定の場所の画像情報を光信号により送り続けるタイプの検出装置を導入することもできる。光通信による検出装置は、消費電力を抑えて小型にすることができるので、人体Mへの負担を軽減することができ、また長寿命化を実現できる可能性もある。よって、手術後の経過を観察するなどの目的に適した検出装置を提供することができる。人体M内に固定されるタイプの検出装置では、レーザ光の出射の位置や方向が大きく変動することがないので、パッケージ部品100の開口部から出た光を直接または重りのない光ファイバ101を介して送出すればよい。体外でも、レーザ光の進行方向に合わせて光検出器21を配置することにより、レーザ光を安定して受光することができる。
また、生体情報を検出する手段は撮像素子に限らず、血糖値センサや血流センサなどを採用することも可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 カプセル内視鏡
2 処理装置
20 制御装置
21 光検出器
22 ステージ部
23 寝台
10 カプセル
11 撮像素子
16 画像処理回路
18 制御回路
19 投光回路
100 パッケージ部品
101 光ファイバ
102 重り
LD レーザダイオード
PD 受光素子群
M 人体
図1
図2
図3
図4