(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、水田に除草剤や肥料などを散布する方法として、模型船舶を用いる方法が提案されている(特許文献1)。このような模型船舶は、一般的に、内部を中空状にした船体と、内部に除草剤などを貯留したタンクと、この船体を航行させるエンジンやプロペラなどからなる駆動部とを有して構成されている。そして、このような船舶を用いて除草剤などを散布させる場合は、駆動部のプロペラを回転させて走行させるとともに、タンクから除草剤を排出させて水田に散布させるようにしている。
【0003】
ところで、このような船舶を用いて除草剤などを散布させる場合、水田が広くなると、コントローラーを操作する者の低い視点からは、その船舶と畦との距離が分かりにくくなり、船体が畦に衝突してしまう可能性がある。特に、このような船舶は、浅い水底への接触を防止するために、船底にセンターボードやキールなどを有していないため、舵を切ったとしても、そのまま直進した状態となってしまい、畦に衝突してしまう可能性が高くなる。そこで、下記の特許文献1では、船体に超音波センサを設けて畦との距離を計測し、船体が畦に近づいた場合には、後方のランプを点灯させてオペレーターに旋回の必要性を知らせるようにした方法などが提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような方法で畦との衝突を知らせるようにした場合であっても、次のような問題を生じる。
【0006】
すなわち、上記特許文献1に記載させる方法では、超音波センサを用いて畦との距離を計測しているために、超音波センサから出力された超音波が、稲や雑草、畦などによって乱反射してしまい、正確に障害物との距離を計測することが難しくなる。特に、水田を高速走行している場合やタンクの残量が少なくなった場合には、船首部分が持ち上がってしまい、畦が低く形成されている場合は、その畦との距離を計測できなくなってしまう。このため、超音波センサを用いる場合には、現実的には、畦に超音波を正反射させるための板材などを全面に立設させるなどの作業が必要となり、その作業が非常に面倒になるといった問題があった。
【0007】
そこで、本発明は上記課題を解決するために、船舶が畦に近づいた場合に、確実に船舶をその畦に衝突しないようにした船舶衝突防止システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は上記課題を解決するために、
船体上に設けられたエンジンを駆動させてプロペラを回転させるとともに、当該プロペラの後方に設けられた舵を制御しながら水田上を走行し、当該水田に除草剤や肥料などの被散布物を散布させる船舶と、前記水田の畦に、電波到達距離がオーバーラップするような間隔に設けられ、電波を発信する発信器と、前記船舶側に、前記発信器からの電波を受信させる受信器と、当該受信器で受信した電波により発信器との距離が一定距離以下であるか否かを検知する検知部と、当該検知部によって発信器との距離が一定距離以下であることが検知された場合に、前記
舵の方向を制御し、旋回のための推進力を得られるようにするとともに、エンジンの回転数を低減させるための駆動制御を行う衝突防止部とを備えるようにしたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、指向性の少ない電波を用いることで正確に距離を測定することができ、未然に船舶の衝突を防止することができるようになる。また、このような発明において、発信器と受信器を入れ替えて使用した場合においても、畦側に設けられている受信器との距離が一定距離以下になった場合に、報知や衝突防止のための駆動信号を送出することで、未然に船舶の衝突を回避することができるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の位置実施の形態について図面を参照して説明する。
【0012】
この実施の形態における船舶衝突防止システム100は、
図7に示すように、水田の水面上を走行しながら除草剤を散布する船舶1と、水田の畦などに取り付けられる複数の発信器71と、その船舶1に設けられる受信器72とを備えて構成されるものであって、船舶1が発信器71の所定範囲内(
図7の破線領域内)に近づいた場合に、船舶1に設けられた警告灯75を点灯させたり、あるいは、船舶1の速度を低減させたりするように衝突防止部74(
図5の機能ブロック図参照)で制御するようにしたものである。以下、本実施の形態における船舶衝突防止システム100の構造について詳細に説明する。
【0013】
まず、船舶1の構成について
図1から
図4および
図6などを用いて説明する。この船舶1を構成する船体2は、厚み1〜5mm程度のポリエチレンによって、平面視において長方形状をなすように構成されるものであって、内部を密閉中空状にすることにより水深の浅い水田でも走行できるようにしている。なお、この船体2の底面側には、センターボードやキールなどの突起を設けないようにしており、これによって、浅い水田における水底に接触させないようにしている。しかしながら、このように底面側に突起を設けないようにすると、水底への接触を防止することができる反面、直進安定性や操舵性に欠けるという欠点があり、舵5を切ったとしても、しばらくは直進したままの状態となってしまう。このため、このような突起を設けることなく、ある程度の直進安定性を向上させるために、
図3に示すように、船底に進行方向に沿った複数本の凹部21を設けるようにしている。
【0014】
この船体2上に設けられる除草剤散布機3は、水田に除草剤を散布できるようにしたものであって、タンク30に貯留された液体の除草剤をノズル32から散布できるようにしている。ここで除草剤を散布する場合、船舶1の速度によってノズル32からの排出量を調整する。ここでは、プロペラ4の駆動源であるエンジン40の排ガスをタンク30内に供給する第二導出管31をタンク30に取り付け、その第二導出管31によってタンク30内を加圧する。そして、その圧力によって排出された除草剤を後方のノズル32から水田に散布させる。なお、ここでは、排圧によって散布量を調整できるようにしているが、ノズル32の孔径を調整することによって除草剤の排出量を調整できるようにしてもよく、あるいは、排出量を調整するのではなく、常に一定量の除草剤を排出させるようにしてもよい。また、除草剤を散布する場合、後方のノズル32から水田に散布させるようにしているが、タンク30からプロペラ4に向けて排出し、そのプロペラ4から除草剤を拡散させて散布させるようにしてもよい。
【0015】
一方、このプロペラ4は、船体2の上面中央から後方に設けられるものであって、複数設けられた羽根41をエンジン40で回転させることによって後方への推進力を得られるようにしている。このエンジン40は、側方に設けられた燃料タンク44に貯留されたガソリンで駆動できるようになっており、後方に向けて設けられた排出口を介して排気できるようになっている。この排出口には、導出管43へ向けて排気を分岐する分岐部(図示せず)が設けられており、また、この分岐部を介してタンク30側へ排気を分岐させる第二導出管31や、船体2の中空部に向けて排気を流入させる導出管43が接続される。そして、このように排気をタンク30や船体2の中空部に流入させることによって、エンジン40が高速回転になった場合に、タンク30からの散布量を多くできるようにするとともに、船体2を高圧にして高速走行を可能にしている。なお、このように分岐部を介して導出管43や第二導出管31に排気を流入させる場合、図示しない調整弁を設けて導出量を調整できるようにしてもよい。この調整弁については、手動によって回転させることによって第二導出管31や導出管43への流量を調整できるようにしてもよく、あるいは、ラジコンのコントローラー6によって流量をそれぞれ独自に調整できるようにしてもよい。
【0016】
このプロペラ4の後方に設けられる舵5は、
図2や
図6に示すように、船体2の左右方向に一定の間隔を設けて設けられるものであって、この舵5の詳細図である
図4に示すように、それぞれX軸方向への長さが比較的長く設定された第一ブレード51と、この第一ブレード51の後端側のヒンジ55で連結され、X軸方向の長さが比較的短く設定された第二ブレード56とを設けて構成されている。このうち、第一ブレード51は、その中央付近に設けられた第一回転軸を中心に回転させるようになっており、船体2に取り付けられた第一アクチュエーター52を用いて角度を調整できるようになっている。このとき、第一ブレード51の角度としては、通常の前進走行時においては、X軸に沿った方向としておき(
図6(a))、逆進走行時においては、
図6(d)に示すように、X軸の軸方向から船体2の左右両外側に60度〜80度の範囲内に設定する。そして、このように角度を最大限変更した場合に、平面視において、その後端側がプロペラ4の回転半径の外側近傍(好ましくは、羽根41の外側)に位置するようにしている。なお、この第一ブレード51の角度を変える場合、
図4に示すように、その第一ブレード51の下辺に取り付けられたL字状のプレート片53に、第一アクチュエーター52からの連結部材54を連結させ、この連結部材54を軸方向に進退させることによって第一ブレード51の角度を制御する。この第一ブレード51の角度調整については、エンジン40と同様に、後述するコントローラー6の制御部61によって制御される。
【0017】
一方、第二ブレード56は、この第一ブレード51の後端側に設けられたヒンジ55で連結されており、第二アクチュエーター57によって第一ブレード51との角度を調整できるようになっている。この第二ブレード56の角度を調整する場合、第一ブレード51に取り付けられた第二アクチュエーター57と、第二ブレード56の下辺に取り付けられたL字状のプレート片58との間に第二連結部材59を取り付け、この第二連結部材59を軸方向に進退させるように第二アクチュエーター57を制御する。この第二ブレード56の制御についても、同様にコントローラー6の制御部61によって第一ブレード51とともに制御される。
【0018】
この制御部61は、
図1に示すラジコンのコントローラー6に設けられるものであって、上下方向に傾倒される第一ジョイスティック62と、左右方向に傾倒される第二ジョイスティック63などを設けて構成される。また、必要に応じて緊急停止ボタン64などが設けられる。そして、第一ジョイスティック62を上方に傾倒させることによってエンジン40を正方向に回転させ、逆に、下方に傾倒させることによってエンジン40を逆方向に回転させる。また、第二ジョイスティック63を右側に傾倒させることによって舵5を右に切って右旋回できるようにし、逆に、左側に傾倒させることによって左旋回できるようにしている。
【0019】
一方、このような船舶1において、畦側には、
図7に示すように、一定間隔ごとに発信器71が設けられる。この発信器71は、内蔵された電池もしくは外部電力によって、電波到達距離が数メートル程度の電波を発するようにしたものであって、互いの電波到達距離がオーバーラップするように配置される。
【0020】
一方、この発信器71に対応して、船舶1側には、その電波を受信するための受信器72が設けられる。この受信器72には、発信器71からの電波を受信して、所定の閾値以上の強度の電波を受信したか否かを検知部73で検出する。そして、その閾値以上の強度の電波を受信した場合は、衝突防止部74にその旨の信号を出力する。なお、この受信器72については、コントローラー6の送受信器と一体的に設けてもよいが、この実施の形態では、船首側に設けて、いち早く発信器71からの電波を受信できるようにしている。
【0021】
衝突防止部74では、衝突防止に際して種々の制御を行うようにする。まず、第一の方法としては、閾値以上の強度の電波を検知部73(
図5)で検知した場合、舵5の上方に設けられた警告灯75を点灯させるか、あるいは、スピーカー76から警報音を出して、オペレーター側にその旨を伝えるようにし、コントローラー6による衝突防止のための操作を促すようにする。また、このように警告灯75を点灯させる場合や警報音を出力する場合、受信器72で受信した電波の強度に応じて報知方法を変えるようにすることもでき、例えば、発信器71までの距離が近づくにつれて「青、黄、赤」の順序で警告灯75を点灯させるようにしてもよく、あるいは、受信器72までの距離が近づくにつれて警報音の音量を大きくするようにしてもよい。
【0022】
また、第二の方法として、エンジン70の回転数や舵5を制御する方法を採用することもできる。このエンジン70の回転数の制御では、閾値以上の強度の電波を検知部73で検知した場合に、エンジン40の回転数を低減させ、最終的にはアイドリング状態に切り換える。もしくは、舵5の方向を制御することによって、方向転換や逆進のための推進力を出力できるようにする。このような舵5の制御を行う場合、
図6(b)(c)に示すように、舵5を一方向に切ることによって右方向あるいは左方向へ旋回できるようにし、また、逆進のための推進力を出力できるようにする場合は、
図6(d)に示すように、左右一対の舵5をW字状に屈曲させ、これによってエンジン40から吹き出された空気を前方へ流すようにする。具体的には、まず、それぞれの第一アクチュエーター52を駆動させて第一ブレード51の後端側が左右両外側に向くようにする。このときの第一ブレード51の角度θとしては、60度〜80度の範囲内としておき、プロペラ4から出力された風が第一ブレード51によって左右両外側にスムーズに流れるようにする。また、このような角度に第一ブレード51を設定した際には、それぞれの第一ブレード51の前端側の隙間が小さくなるようにしておき、これによって、その隙間から後方に風が流れないようにしておく。また、このような角度に第一ブレード51を設定した際、第一ブレード51の後端側については、プロペラ4の回転半径の外側に位置するようにしておき、これによって、プロペラ4からの風をスムーズに外側に流れるようにする。そして、このように第一ブレード51を左右対称に広げるとともに、ヒンジ55を介して取り付けられた第二ブレード56の角度を制御する。この第二ブレード56の角度を制御する際には、第二アクチュエーター57を駆動させて、それぞれの第二ブレード56の後端側が船舶1の前方側に向くようにする。このとき第二ブレード56の後端側については、プロペラ4の回転半径の外側に位置するようになっているので、プロペラ4からの直接的な風の影響を受けることがなく、第一ブレード51に沿って流れてきた風を斜め前方へと流すことができる。そして、このように斜め前方へと出力された風のうち、X軸方向に沿った成分が逆進時における推進力として働くことになる。これにより、緊急停止ボタン64の押下などによって緊急停止させる際に、プロペラ4が慣性力で回転し続けたとしても、左右に広げられた第一ブレード51や第二ブレード56によって逆進方向への推進力を得ることができ、制動距離を短くすることができる。
【0023】
次に、このような構成において、船舶1を用いて除草剤などの被散布物を散布させる場合の使用方法について説明する。
【0024】
まず、この船舶1を用いて被散布物を散布させるに際して、
図7に示すように、発信器71を畦に沿って一定間隔おきに立設しておく。この発信器71の立設に際しては、オペレーターの対岸側に、発信器71の電波到達距離をそれぞれオーバーラップさせるように設ける。
【0025】
そして、このように発信器71を立設した状態で、発信器71や受信器72の電源を入れ、船舶1を水田に浮かべて走行させる。すると、その船舶1はオペレーター付近から対岸側に向けて走行し、その際、タンク30内に貯留された被散布物を水田に散布させる。そして、その船舶1が対岸側の発信器71に近づいた場合(
図7の破線領域内)、受信器72が所定の閾値以上の強度の電波を受信したか否かを検知部73で検出し、その強度以上の電波を受信した場合に、その旨の信号を衝突防止部74に出力する。
【0026】
そして、衝突防止部74では、第一の方法として、舵5の上方に取り付けられた警告灯75を点灯させるか、あるいは、スピーカー76から警報を鳴らして衝突の危険性をオペレーターに知らせるようにする。これに基づいて、そのオペレーターは、警告灯75や警報に基づいて、ジョイスティック62、63を操作して、旋回や走行速度の低減などを操作する。あるいは、第二の方法として、衝突防止部74では、船舶1が発信器71の所定距離内に入った場合に、舵5の方向を制御し、旋回や逆進のための推進力を得られるようにするとともに、エンジン40の回転数を低減させるようにする。
【0027】
このように、本実施の形態によれば、
船体2上に設けられたエンジン40を駆動させてプロペラ4を回転させるとともに、当該プロペラ4の後方に設けられた舵5を制御しながら水田上を走行し、当該水田に除草剤や肥料などの被散布物を散布させる船舶1と、前記水田の畦に
、電波到達距離がオーバーラップするような間隔に設けられ、電波を発信させる発信器71と、前記船舶1側に、前記発信器71からの電波を受信することにより発信器71との距離が一定距離以下になったことを検知する検知部73と、当該検知部73によって一定距離以下であることを検知した場合に、前記
舵5の方向を制御し、旋回のための推進力を得られるようにするとともに、エンジン40の回転数を低減させるための駆動制御を行う衝突防止部74とを備えるようにしたので、指向性の少ない電波を用いることで正確に距離を測定することができ、未然に畦などの障害物への衝突を防止することができるようになる。
【0028】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。
【0029】
例えば、上記実施の形態では、船舶1側に受信器72を設け、畦側に発信器71を設けるようにしたが、これとは逆に、船舶1側に発信器71、畦側に受信器72や検知部73などを設けるようにしてもよい。そして、船舶1側の発信器71で、常に所定の強度の電波を出力しておき、受信器72側で、所定の閾値を超える強度の電波を受信した場合に、警告灯の点灯や警報出力などの報知を行うようにしてもよい。この報知を行うに際しては、船舶1側にその旨の信号を出力して、船舶1の舵5の上方に設けられた警告灯75などを点灯させるようにしてもよく、あるいは、畦に立設された受信器に設けられた警告灯やスピーカーなどから報知を行うようにしてもよい。
【0030】
また、上記第一の実施の形態では、電波を船舶1側の受信器72で受信して報知などの制御を行うようにしたが、この受信器72については、コントローラー6の受信器と兼用することもできる。
【0031】
さらに、上記実施の形態では、所定の閾値を超える強度の電波を受信した場合に、船舶1の衝突防止部74で制御するようにしたが、コントローラー6側の制御部61に信号を送出して、コントローラーに設けられた警告灯の点灯や、エンジンや舵などの制御を行わせるようにしてもよい。
【0032】
また、上記実施の形態では、数種類の制御方法を採用するようにしたが、受信した電波強度が閾値よりも大きな第一の電波強度である場合、第一の制御方法として「警告灯の点灯」などを行い、また、その第一の電波強度よりも大きな第二の電波強度である場合は、第二の制御方法として、舵5の方向転換や逆進方向への制御などを行うなどのように制御方法を切り替えるようにしてもよい。また、このように舵5を制御する場合は、船舶1自身で独自に制御を行うようにしてもよく、あるいは、コントローラー6側に電波強度に関する情報を送信し、コントローラー6からのその制御のための信号を送信するようにしてもよい。また、このように電波強度の閾値に応じて制御するのではなく、電波強度に応じて無段階的に警告灯75や舵5の制御などを行うようにしてもよい。
【0033】
また、上記実施の形態では、電波の受信強度に応じて距離を検知するようにしたが、特定の信号を発信器から送信し、これを受信器で受信した場合に「一定距離範囲内である」と検知するようにしてもよい。