特許第6202914号(P6202914)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202914
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】超音波診断装置及びその制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/14 20060101AFI20170914BHJP
【FI】
   A61B8/14
【請求項の数】12
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-146964(P2013-146964)
(22)【出願日】2013年7月12日
(65)【公開番号】特開2015-16251(P2015-16251A)
(43)【公開日】2015年1月29日
【審査請求日】2016年7月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】東芝メディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】特許業務法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉新 寛樹
(72)【発明者】
【氏名】平間 信
(72)【発明者】
【氏名】吉田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】掛江 明弘
(72)【発明者】
【氏名】川岸 哲也
(72)【発明者】
【氏名】四方 浩之
【審査官】 森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−319177(JP,A)
【文献】 特開2009−011363(JP,A)
【文献】 特開2006−102126(JP,A)
【文献】 特表2013−510612(JP,A)
【文献】 特開2010−220875(JP,A)
【文献】 米国特許第05833613(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00−8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の超音波パルス及び前記第1の超音波パルスの振幅が所定の比率で変調した第2の超音波パルスを走査線毎に各々少なくとも1回送信させ、当該送信に基づく複数の受信信号で構成される第1の受信信号群を取得する送受信部と、
FIR(Finite Impulse Response)フィルタのフィルタ係数であって、前記第1の受信信号群に含まれる複数の受信信号の少なくとも1つの受信信号を補正する前記フィルタ係数に基づいて、前記第1の受信信号群に含まれる複数の受信信号の少なくとも1つの受信信号を補正し、補正後の前記第1の受信信号群を加算又は減算の少なくとも一方を行うことにより合成することで第の合成信号を取得する信号処理部と、
前記第の合成信号に基づく超音波画像を生成する画像生成部と、
を備え
前記フィルタ係数は、第3の超音波パルス及び前記第3の超音波パルスの振幅が前記所定の比率で変調した第4の超音波パルスを、前記第1の超音波パルス及び前記第2の超音波パルスと同一の送信条件で送信させることで取得された第2の受信信号群に含まれる複数の受信信号を加減算により合成することで得られる第2の合成信号のエネルギーを最小化するように設計される、超音波診断装置。
【請求項2】
前記第2の超音波パルスは、前記第1の超音波パルスの位相極性が反転した超音波パルスの振幅を前記所定の比率で変調させた超音波パルスであり、前記第4の超音波パルスは、前記第3の超音波パルスの位相極性が反転した超音波パルスの振幅を前記所定の比率で変調させた超音波パルスである、請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記第の受信信号群は、走査領域内に造影剤が存在しない場合において前記送受信部によって取得された複数の受信信号であり、前記第の受信信号群は、走査領域内に造影剤が存在する場合において前記送受信部によって取得された複数の受信信号である、請求項1又は2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
造影剤が存在しない場合において前記送受信部によって取得された複数の受信信号それぞれは、信号レベルが飽和していない不飽和領域からの受信信号である、請求項1又は2に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
造影剤が存在しない場合において前記送受信部によって取得された複数の受信信号それぞれは、非線形伝播の発生が低減される音圧の超音波送信により受信された受信信号である、請求項1又は2に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
造影剤が存在しない場合において前記送受信部によって取得された複数の受信信号それぞれは、ファントム、又は、生体から受信した受信信号である、請求項1又は2に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記フィルタ係数が前記FIRフィルタを構成し、前記FIRフィルタのフィルタ長は、送信超音波のパルス長の略2倍である、請求項1又は2に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記信号処理部は、
複数の送信条件ごとに予め設計された複数の前記フィルタ係数を記憶する係数テーブルと、
造影撮影時の送信条件に対応する係数を前記係数テーブルから取得して、取得した係数をフィルタに設定し、前記第の受信信号群に含まれる複数の受信信号のうち少なくとも1つの受信信号に対して、前記フィルタを用いてフィルタ処理を行うフィルタ処理部と、
を有する、請求項1又は2に記載の超音波診断装置。
【請求項9】
前記信号処理部は、
造影剤が存在しない場合において前記送受信部によって取得された前記第2の受信信号群に含まれる複数の受信信号に基づいて、前記フィルタ係数を設計する設計部と、
前記設計部が設計した前記フィルタ係数をフィルタに設定し、前記第の受信信号群に含まれる複数の受信信号のうち少なくとも1つの受信信号に対して、前記フィルタを用いてフィルタ処理を行うフィルタ処理部と、
を有する、請求項1又は2に記載の超音波診断装置。
【請求項10】
前記第の受信信号群がIQ信号である場合には、前記フィルタ係数が設定されたフィルタは、複素有限インパルス応答フィルタであり、前記第の受信信号群がRF信号である場合には、前記フィルタ係数が設定されたフィルタは、実数有限インパルス応答フィルタである、請求項1又は2に記載の超音波診断装置。
【請求項11】
第1の超音波パルス及び前記第1の超音波パルスの振幅が所定の比率で変調した第2の超音波パルスを走査線毎に各々少なくとも1回送信させ、当該送信に基づく複数の受信信号で構成される第1の受信信号群を取得し、
FIR(Finite Impulse Response)フィルタのフィルタ係数であって、前記第1の受信信号群の少なくとも1つの受信信号を補正する前記フィルタ係数に基づいて、前記第1の受信信号群に含まれる複数の受信信号の少なくとも1つの受信信号を補正し、補正後の前記第1の受信信号群を加算又は減算の少なくとも一方を行うことにより合成することで第の合成信号を取得し、
前記第の合成信号に基づく超音波画像を生成する、
ことを含み、
前記フィルタ係数は、第3の超音波パルス及び前記第3の超音波パルスの振幅が前記所定の比率で変調した第4の超音波パルスを、前記第1の超音波パルス及び前記第2の超音波パルスと同一の送信条件で送信させることで取得された第2の受信信号群に含まれる複数の受信信号を加減算により合成することで得られる第2の合成信号のエネルギーを最小化するように設計される、制御プログラム。
【請求項12】
前記第2の超音波パルスは、前記第1の超音波パルスの位相極性が反転した超音波パルスの振幅を前記所定の比率で変調させた超音波パルスであり、前記第4の超音波パルスは、前記第3の超音波パルスの位相極性が反転した超音波パルスの振幅を前記所定の比率で変調させた超音波パルスである、請求項11に記載の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超音波診断装置及びその制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、静脈投与型の超音波造影剤が製品化され、超音波診断装置により、CHI(Contrast Harmonic Imaging)と呼ばれる造影エコー法が行われている。造影エコー法は、例えば、心臓や肝臓等の検査において、静脈から超音波造影剤を注入して血流信号を増強し、血流動態の評価を行うことを目的としている。超音波造影剤の多くは、微小気泡(マイクロバブル)が反射源として機能するものである。しかし、気泡というデリケートな基材の性質上、通常の診断レベルの超音波照射であっても、超音波の機械的作用によって気泡が崩壊し、結果的にスキャン面からの信号強度が低下してしまう。
【0003】
従って、還流の動的な様子をリアルタイムで観察するためには、低音圧の超音波送信によって画像化する等、スキャンによる気泡の崩壊を比較的低減させることが必要となる。この様な低音圧の超音波送信による画像化では、信号/雑音比(S/N比)も低下してしまう。これを補うため、位相変調法(PM:Phase Modulation)や振幅変調法(AM:Amplitude Modulation)、位相振幅変調法(AMPM)のように、様々な信号処理法が考案されている。これらの映像化手法により、リアルタイムで高いS/N比の造影画像を表示することが可能となっている。超音波造影は、リアルタイム性や高空間分解能から、X線CT装置やMRI装置では視覚化できない微小構造(例えば、微小血管構造)の精査に利用される。
【0004】
例えば、振幅変調法は、バブル組織比や深部感度に優れた映像化手法である。振幅変調法は、造影剤の非線形応答を抽出する一方、組織からの線形信号をキャンセルし、造影剤を特異的に抽出する映像化手法である。振幅変調法の実現には、高精度の波形形成が求められる。しかし、超音波診断装置は、システム構成や開口制御・振幅制御などの実装方式、回路の非線形性により、組織由来の線形信号を完全にはキャンセルできない場合がある。かかる場合、組織由来の線形信号が残存し、造影画像におけるバブル組織比が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−14921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、バブル組織比の高い造影画像を生成することできる超音波診断装置及びその制御プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の超音波診断装置は、送受信部と、信号処理部と、画像生成部とを備える。送受信部は、第1の超音波パルス及び前記第1の超音波パルスの振幅が所定の比率で変調した第2の超音波パルスを走査線毎に各々少なくとも1回送信させ、当該送信に基づく複数の受信信号で構成される第1の受信信号群を取得する。信号処理部は、FIR(Finite Impulse Response)フィルタのフィルタ係数であって、前記第1の受信信号群に含まれる複数の受信信号の少なくとも1つの受信信号を補正する前記フィルタ係数に基づいて、前記第1の受信信号群に含まれる複数の受信信号の少なくとも1つの受信信号を補正し、補正後の前記第1の受信信号群を加算又は減算の少なくとも一方を行うことにより合成することで第の合成信号を取得する。画像生成部は、前記第の合成信号に基づく超音波画像を生成する。前記フィルタ係数は、第3の超音波パルス及び前記第3の超音波パルスの振幅が前記所定の比率で変調した第4の超音波パルスを、前記第1の超音波パルス及び前記第2の超音波パルスと同一の送信条件で送信させることで取得された第2の受信信号群に含まれる複数の受信信号を加減算により合成することで得られる第2の合成信号のエネルギーを最小化するように設計される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成例を示すブロック図である。
図2図2は、第1の実施形態に係るBモード処理ユニットの構成例を示すブロック図である。
図3図3は、第1の実施形態に係るフィルタ係数を説明するための図である。
図4図4は、第1の実施形態に係るフィルタ係数設計部によるフィルタ係数設計処理を説明するための図である。
図5図5は、第1の実施形態に係るフィルタ係数設計部によるフィルタ係数設計処理を説明するための図である。
図6図6は、第1の実施形態に係る超音波診断装置による処理の手順を示すフローチャートである。
図7図7は、第1の実施形態に係る超音波診断装置による超音波の送受信処理の手順を示すフローチャートである。
図8図8は、第1の実施形態に係る超音波診断装置によるBモードデータ生成処理の手順を示すフローチャートである。
図9図9は、第2の実施形態に係るBモード処理ユニットの構成例を示すブロック図である。
図10図10は、第2の実施形態に係る超音波診断装置による処理の手順を示すフローチャートである。
図11図11は、第2の実施形態に係る超音波診断装置によるフィルタ設計処理の手順を示すフローチャートである。
図12図12は、第3の実施形態に係る超音波診断装置による処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施形態)
まず、図1を用いて、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成について説明する。図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置1の構成例を示すブロック図である。かかる超音波診断装置1は、図1に例示するように、超音波プローブ10と、入力装置20と、モニタ30と、装置本体100とを有する。
【0010】
超音波プローブ10は、複数の圧電振動子を有し、これら複数の圧電振動子は、後述する装置本体100が有する送受信ユニット110から供給される駆動信号に基づき超音波を発生する。また、超音波プローブ10は、被検体Pからの反射波信号を受信して電気信号に変換する。また、超音波プローブ10は、圧電振動子に設けられる整合層と、圧電振動子から後方への超音波の伝播を防止するバッキング材などを有する。なお、超音波プローブ10は、装置本体100と着脱自在に接続される。
【0011】
超音波プローブ10から被検体Pに超音波が送信されると、送信された超音波は、被検体Pの体内組織における音響インピーダンスの不連続面で次々と反射され、反射波信号として超音波プローブ10が有する複数の圧電振動子にて受信される。受信される反射波信号の振幅は、超音波が反射される不連続面における音響インピーダンスの差に依存する。なお、送信された超音波パルスが、移動している血流や心臓壁などの表面で反射された場合の反射波信号は、ドプラ効果により、移動体の超音波送信方向に対する速度成分に依存して、周波数偏移を受ける。
【0012】
入力装置20は、装置本体100と接続され、トラックボール21、各種スイッチ22、各種ボタン23、マウス24、キーボード25などを有する。かかる入力装置20は、操作者からの各種指示を装置本体100に通知する。例えば、各種指示には、関心領域(ROI:Region of Interest)の設定指示、超音波の送信条件を含む撮影条件の設定指示、被検体Pに造影剤を投与してからの経過時間を表示する指示等が含まれる。
【0013】
モニタ30は、超音波診断装置1の操作者が入力装置20を用いて各種設定を行うためのGUI(Graphical User Interface)を表示したり、装置本体100において生成された超音波画像などを表示したりする。具体的には、モニタ30は、後述する画像生成部140から入力されるビデオ信号に基づいて、生体内の形態学的情報や血流情報を画像として表示する。また、モニタ30は、被検体Pに造影剤を投与してからの経過時間を表示する指示を受付けた場合、造影剤を投与後の時間を表示する。
【0014】
装置本体100は、超音波プローブ10が受信した反射波信号に基づいて超音波画像を生成する。かかる装置本体100は、図1に例示するように、送受信ユニット110と、Bモード処理ユニット120と、ドプラ処理ユニット130と、画像生成部140と、画像メモリ150と、ソフトウェア格納部160と、インタフェース部170と、記憶部180と、制御部190とを有する。なお、装置本体100に内蔵される送受信ユニット110、Bモード処理ユニット120、ドプラ処理ユニット130、画像生成部140等は、集積回路などのハードウェアにより実現されてもよいし、ソフトウェア的にモジュール化されたソフトウェアプログラムにより実現されてもよい。
【0015】
送受信ユニット110は、図示しない遅延回路、パルサ回路、トリガ発生回路等を有し、超音波プローブ10に駆動信号を供給する。パルス発生回路は、所定の繰り返し周波数(PRF:Pulse Repetition Frequency)で、送信超音波を形成するためのレートパルスを繰り返し発生する。なお、繰り返し周波数は、レート周波数等とも呼ばれる。また、遅延回路は、超音波プローブ10から発生される超音波をビーム状に集束し、かつ送信指向性を決定するために必要な圧電振動子ごとの遅延時間を、各レートパルスに対し与える。また、トリガ発生回路は、遅延回路により遅延時間が与えられた各レートパルスに基づくタイミングで、超音波プローブ10に駆動信号(駆動パルス)を印加する。なお、送信方向に応じた遅延時間は記憶部180に記憶されており、遅延回路は、記憶部180を参照して遅延時間を与える。
【0016】
また、送受信ユニット110は、図示しないアンプ回路、A/D(Analog/Digital)変換器、加算器等を有し、超音波プローブ10が受信した反射波信号に対して各種処理を行って、例えば、RF(Radio Frequency)信号を反射波データとして生成する。アンプ回路は、反射波信号をチャネル毎に増幅する。A/D変換器は、増幅された反射波信号をA/D変換し、受信指向性を決定するために必要な遅延時間を与える。加算器は、遅延時間が与えられた反射波信号の加算処理を行なって反射波データを生成する。加算器の加算処理により、反射波信号の受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調され、受信指向性と送信指向性とにより超音波送受信の総合的なビームが形成される。なお、受信方向に応じた遅延時間は記憶部180に記憶されている。また、以下では、反射波データのことを「受信信号」と呼ぶ場合がある。
【0017】
なお、送受信ユニット110は、制御部190からの指示に従って、遅延情報、送信周波数、送信駆動電圧、開口素子数等を瞬時に変更可能な機能を有している。特に、送信駆動電圧の変更は、瞬間にその値を切り替え可能なリニアアンプ型の発信回路、または、複数の電源ユニットを電気的に切り替える機構によって実現される。このように、送受信ユニット110は、超音波の送受信における送信指向性と受信指向性とを制御する。
【0018】
Bモード処理ユニット120は、送受信ユニット110から反射波データを受け取り、対数増幅、包絡線検波処理などを行って、信号強度が輝度の明るさで表現されるデータ(Bモードデータ)を生成する。Bモードデータは、走査線上の各サンプル点に、信号強度に応じた輝度が割り当てられたデータである。ここで、Bモード処理ユニット120は、高調波成分を映像化するハーモニックイメージングを行なうための信号処理を行なうことができる。
【0019】
例えば、ハーモニックイメージングとしては、コントラストハーモニックイメージング(CHI:Contrast Harmonic Imaging)やティッシュハーモニックイメージング(THI:Tissue Harmonic Imaging)が知られている。また、ハーモニックイメージングには、スキャン方式として、振幅変調(AM:Amplitude Modulation)法、位相変調(PM:Phase Modulation)法、AM法とPM法とを組み合わせることで、AM法の効果及びPM法の効果の双方が得られるAMPM法が知られている。
【0020】
なお、上記の送受信ユニット110は、造影像を生成するための映像化手法であるCHIを行なう場合、超音波の走査線毎に、異なる波形を複数回送信する。例えば、CHIをAM法で行なう場合、送受信ユニット110は、1回目の送信波形に対して同じ位相極性で振幅の比率を1/2に変調した波形を2回目に送信し、反射波データをそれぞれ生成する。なお、ハーモニックイメージングを行なう場合、送受信ユニット110は、後述する制御部190によって設定されたスキャンシーケンスで超音波を送信する。Bモード処理ユニット120は、上記のAM法の場合、マイクロバブルが注入された被検体Pに対する2つの反射波データを、送受信ユニット110から受信する。そして、Bモード処理ユニット120は、送受信ユニット110から受信した2つの反射波データの振幅の比率を補正した後、2つの反射波データを差分することにより、基本波成分が抑制され、高調波成分(非線形成分)が抽出された反射波データを生成する。なお、AM法では、例えば、同じ位相極性で、振幅の比率を「1:2:1」に変調させた超音波を各走査線で3回送信させ、3つの反射波データを受信してもよい。この場合の、AM法では、振幅の比率が「1」である反射波データを加算し、加算した反射波データと振幅の比率が「2」である反射波データと差分することにより、高調波成分(非線形成分)が抽出された反射波データを生成する。
【0021】
また、例えば、CHIをAMPM法で行なう場合、送受信ユニット110は、1回目の送信波形に対して位相極性を反転させ、かつ振幅の比率を1/2に変調した波形を2回目に送信し、反射波データをそれぞれ生成する。Bモード処理ユニット120は、上記のAMPM法の場合、マイクロバブルが注入された被検体Pに対する2つの反射波データを、送受信ユニット110から受信する。そして、Bモード処理ユニット120は、送受信ユニット110から受信した2つの反射波データの振幅の比率を補正した後、2つの反射波データを加算することにより、基本波成分が抑制され、高調波成分(非線形成分)が抽出された反射波データを生成する。なお、AMPM法では、例えば、振幅の比率を「1:2:1」に変調させ、更に、1回目及び3回目の送信超音波の極性と2回目の送信超音波の極性とを反転させた超音波を各走査線で3回送信させ、受信した3つの反射波データを加算することにより、高調波成分(非線形成分)が抽出された反射波データを生成してもよい。
【0022】
続いて、Bモード処理ユニット120は、高調波成分が抽出された反射波データに対して、包絡線検波処理等を行なって、造影画像を生成するためのBモードデータを生成する。この結果、後述する画像生成部140は、被検体P内を流動する造影剤を高感度に映像化した造影画像、及び組織を映像化した組織画像を生成することができる。
【0023】
ドプラ処理ユニット130は、送受信ユニット110から受け取った反射波データから速度情報を周波数解析し、ドプラ効果による血流や組織、造影剤エコー成分を抽出し、平均速度、分散、パワー等の血流情報(ドプラデータ)を多点について算出する。
【0024】
画像生成部140は、Bモード処理ユニット120が生成したBモードデータから、信号強度が輝度の明るさで表現されるBモード画像を生成し、ドプラ処理ユニット130が生成した血流情報から、血流の速度、分散、血流量等を示すパワー成分等を色によって識別可能に表示するカラードプラ画像を生成する。なお、画像生成部140に入力される前のデータは「生データ」と呼ばれることがある。
【0025】
具体的には、画像生成部140は、Bモードデータ及びドプラデータに対してフィルタリング処理を実行することにより、超音波スキャン走査線信号列からノイズ成分を除去し、フィルタリング処理後のデータを画像メモリ150に格納する。そして、画像生成部140は、フィルタリング処理を実行したデータの超音波スキャン走査線信号列をテレビなどの一般的なビデオフォーマットの走査線信号列に変換する。画像生成部140は、走査線信号列に対して、輝度やコントラストの調整処理や、空間フィルタ等の画像処理、もしくは種々の設定パラメータの文字情報やメモリ等を合成する合成処理を実行し、ビデオ信号としてモニタ30に出力する。これにより、画像生成部140によって生成された被検体組織形状を表す断層像等の超音波画像は、モニタ30に表示される。
【0026】
画像メモリ150は、画像生成部140が生成した超音波画像や、超音波画像を画像処理することで生成した画像を記憶するメモリである。例えば診断の後に、操作者が検査中に記録された画像を画像メモリ150から呼び出すことが可能となっており、静止画像的に、あるいは複数枚を使って動画的に再生することが可能である。また、画像メモリ150は、送受信ユニット110を通過した後の画像輝度信号、その他の生データ、ネットワークを介して取得した画像等を必要に応じて記憶する。
【0027】
ソフトウェア格納部160は、後述する制御部190によって各種装置制御プログラムが展開される記憶領域である。
【0028】
インタフェース部170は、入力装置20、外部装置(図示を省略)、ネットワークに関するインタフェースである。超音波診断装置1によって得られた超音波画像などのデータは、インタフェース部170によって、ネットワークを介して他の装置へ転送することができる。
【0029】
記憶部180は、スキャンシーケンス、画像処理及び表示処理等を実行するための各種装置制御プログラムや、診断情報(例えば、患者ID、医師の所見等)、診断プロトコルや各種設定情報等の各種データ群を記憶する。なお、各種装置制御プログラムは、制御部190と同様の処理を実行する手順が記述されたプログラムを含む場合もある。また、記憶部180は、必要に応じて、画像メモリ150が記憶する超音波画像の保管などにも使用される。なお、記憶部180が記憶する各種データは、インタフェース部170を経由して、外部装置へ転送することができる。
【0030】
制御部190は、情報処理装置(計算機)としての機能を実現する制御プロセッサ(CPU:Central Processing Unit)であり、超音波診断装置1における処理全体を制御する。具体的には、制御部190は、入力装置20を介して操作者から入力された各種指示や設定指示、記憶部180から読み込んだ各種装置制御プログラムをソフトウェア格納部160に展開し、各種設定情報に基づいて、送受信ユニット110、Bモード処理ユニット120、ドプラ処理ユニット130及び画像生成部140の処理を制御したり、画像メモリ150が記憶する超音波画像などをモニタ30にて表示するように制御したりする。
【0031】
以上、第1の実施形態に係る超音波診断装置1の全体構成について説明した。かかる構成のもと、第1の実施形態に係る超音波診断装置1は、例えば、AM法でCHIを行なうことで、マイクロバブルが注入された被検体Pに対して、2次高調波成分がより強調された造影像を生成する。しかし、超音波診断装置1は、システム構成や開口制御・振幅制御などの実装方式、回路の非線形性により、組織由来の線形信号を完全にはキャンセルできない場合がある。かかる場合、組織由来の線形信号が残存し、造影画像におけるバブル組織比が低下する。
【0032】
このようなことから、第1の実施形態に係る超音波診断装置1において、Bモード処理ユニット120は、送受信ユニット110から受信した反射波データを、変調法に応じたビーム加減算処理を行う前に波形整形を行い、組織由来の線形信号をキャンセルする。以下に、図2図6を用いて、第1の実施形態に係るBモード処理ユニット120についてより詳細に説明する。
【0033】
図2は、第1の実施形態に係るBモード処理ユニット120の構成例を示すブロック図である。図2に例示するように、Bモード処理ユニット120は、直交検波部121aと、フィルタ処理部121bと、フィルタ係数テーブル121cと、加減算部121dとを有する。なお、説明の便宜上、以下では、超音波診断装置1が、AM法でCHIを行う場合に、例えば、(0.5,1.0)のように、同じ位相極性で振幅の比率を「1:2」に変調させた超音波を各走査線で2回送信させる例を仮定する。なお、振幅の比率が「2」である超音波を大振幅送信レートと呼び、振幅の比率が「1」である超音波を小振幅送信レートと呼ぶ。
【0034】
直交検波部121aは、反射波データとして送受信ユニット110から出力されたRF信号を、ベースバンド帯域の同相信号(I信号、I:In-pahse)と直交信号(Q信号、Q:Quadrature-phase)とに変換する直交検波を行なう。そして、直交検波部121aは、I信号及びQ信号(以下、IQ信号と記載する)を、反射波データ(受信信号)として後段の処理部に出力する。本実施形態では、直交検波部121aは、小振幅送信レートのIQ信号を加減算部121dに出力し、大振幅送信レートのIQ信号をフィルタ処理部121bに出力する。なお、このIQ信号は、反射波データ(受信信号)の一種である。
【0035】
フィルタ処理部121bは、図示しないフィルタを有する。この実施形態に係るフィルタは、FIR(Finite Impulse Response)フィルタである。また、この実施形態では、IQ信号に対してフィルタ処理を行うので、フィルタは、複素FIRフィルタである。このフィルタには、フィルタ係数が設定される。
【0036】
フィルタ係数は、造影剤非存在下において、AM法又はAMPM法のいずれかの変調法に基づいて同一走査線で複数回送信された超音波それぞれの複数の受信信号である複数の非造影受信信号を、変調法に応じた加減算により合成した非造影合成信号のエネルギーを最小化するように設計される。非造影受信信号は、造影剤非存在下において、受信される受信信号である。
【0037】
ここで、フィルタ係数の設計上、複数の非造影受信信号それぞれは、信号レベルが飽和していない不飽和領域からの受信信号であることが望ましい。また、フィルタ係数の設計上、複数の非造影受信信号それぞれは、非線形伝播の発生が低減される音圧の超音波送信により受信された受信信号であることが望ましい。
【0038】
フィルタ処理部121bは、造影撮影時に、変調法に応じて同一走査線で複数回送信された超音波それぞれの複数の受信信号の少なくとも1つの受信信号に対して、フィルタをかける。例えば、フィルタ処理部121bは、大振幅送信レートのIQ信号に対して、畳み込みを行う。言い換えると、フィルタ処理部121bは、フィルタ係数テーブル121cが記憶するフィルタ係数を用いて、大振幅送信レートのIQ信号を補正する。なお、フィルタ処理部121bは、AMPM法においても同様に、大振幅送信レートのIQ信号に対して、畳み込みを行う。そして、フィルタ処理部121bは、補正したIQ信号を加減算部121dに出力する。なお、フィルタ処理部121bは、造影撮影時の送信条件に対応するフィルタ係数をフィルタ係数テーブル121cから取得して、取得したフィルタ係数をフィルタに設定する。
【0039】
フィルタ係数テーブル121cは、複数の送信条件(周波数、送信フォーカスの深さ方向の位置、及び音圧等)ごとに予め設計された複数のフィルタ係数を記憶する。例えば、フィルタ係数テーブル121cは、造影剤が投与されていない被検体Pから受信した各反射波データの加減算後のエネルギーを最小にするフィルタ係数を記憶する。言い換えると、フィルタ係数テーブル121cは、組織由来の線形信号を最小にするフィルタ係数を記憶する。このフィルタ係数テーブル121cは、例えば、他の超音波診断装置から取得したフィルタ係数を記憶する。なお、フィルタ係数の設計方法については、後述する。
【0040】
図3は、第1の実施形態に係るフィルタ係数を説明するための図である。図3は、造影剤非存在下でのAM法により得られた非造影合成信号に残存する線形成分を最小化させるように設計されたフィルタ係数の一例である。また、図3は、非造影合成信号のエネルギーを最小化するために大振幅レートの受信信号(IQ信号)に対してフィルタ処理を行なうために設計されたフィルタ係数の一例である。図3の(A)は、時間成分で表したフィルタ係数の一例を示す。図3の(A)において、縦軸は、フィルタ係数を示し、横軸は、時間を示す。ここで、時間は、超音波を送信後の時間に対応した走査線上の深さ方向を示す。また、図3の(A)において、IQ信号の実部(I信号)に対するフィルタ係数を3aで示し、IQ信号の虚部(Q信号)に対するフィルタ係数を3bで示す。図3の(A)に示すように、各深さには、フィルタ係数が各々対応付けられる。フィルタ処理部121bは、時間領域でフィルタ処理を行う場合、IQ信号の実部の波形を深さ毎に順次サンプリングし、サンプリングしたIQ信号の実部を深さ毎に予め設定されたフィルタ係数で成形する。また、フィルタ処理部121bは、時間領域でフィルタ処理を行う場合、IQ信号の虚部の波形を深さ方向に順次サンプリングし、サンプリングしたIQ信号の虚部を深さ毎に予め設定されたフィルタ係数で成形する。
【0041】
図3の(B)は、図3の(A)に示す時間成分で表したフィルタ係数をフーリエ変換によって周波数成分で表した図である。図3(B)の横軸は、周波数を示し、縦軸は、振幅特性或いは位相特性を示す。また、図3の(B)において、振幅特性を3cで示し、位相特性を3dで示す。図3の(B)に示すように、各周波数には、振幅特性及び位相特性が各々対応付けられる。フィルタ処理部121bは、周波数領域でフィルタ処理を行う場合、IQ信号の波形を周波数毎に順次サンプリングし、周波数毎に予め設定された振幅特性及び位相特性で成形する。図3の(B)に例示するフィルタ係数の振幅特性は、画像化される周波数帯域において凹状の形状となり、フィルタ処理では、I線形成分をキャンセルするために、IQ信号の振幅は、変更されることになる。なお、フィルタ処理部121bは、周波数領域又は時間領域のいずれかにおいて、フィルタ処理を行なう。
【0042】
加減算部121dは、フィルタ処理部121bによるフィルタ処理後の複数の受信信号を、変調法に応じた加減算により合成した合成信号を出力する。例えば、加減算部121dは、AM法でCHIを行う場合、直交検波部121aから入力された小振幅送信レートのIQ信号と、フィルタ処理部121bから入力された補正された大振幅送信レートのIQ信号とを加算して合成信号を生成する。なお、後述するように、フィルタ係数には、2つの反射波データの振幅の比率及び位相極性が加味されているので、加減算部121dは、AM法でCHIを行う場合、2つの反射波データを加算して合成信号を生成する。また、例えば、加減算部121dは、AMPM法でCHIを行う場合、直交検波部121aから入力された小振幅送信レートのIQ信号と、フィルタ処理部121bから入力された補正された大振幅送信レートのIQ信号とを加算して合成信号を生成する。これにより、加減算部121dは、組織由来の線形信号をキャンセルし、造影剤由来の高調波成分を抽出することができる。加減算部121dにより生成される合成信号は、造影像を生成するための「Bモードデータ」となる。
【0043】
そして、画像生成部140は、Bモードデータから、Bモード画像データ(造影像データ)を生成し、モニタ30に造影像を表示する。
【0044】
続いて、フィルタ係数の設計方法について説明する。第1の実施形態に係るフィルタ係数は、他の超音波診断装置によって、造影剤非存在下の他の被検体、造影剤非存在下の被検体P、及びファントムを用いて設計される。すなわち、第1の実施形態に係るフィルタ係数は、ファントム、又は、生体から受信した受信信号である複数の非造影受信信号を用いて設計される。なお、この他の超音波診断装置はBモード処理ユニットの構成が異なる点を除いて、超音波診断装置1と同様の構成を有する。具体的には、他の超音波診断装置は、Bモード処理ユニット内に、フィルタ係数設計部を有する。以下では、このフィルタ係数設計部によるフィルタ係数設計処理について説明する。なお、フィルタ係数は、ワークステーションによって設計されてもよい。
【0045】
図4は、第1の実施形態に係るフィルタ係数設計処理を説明するための図である。図4は、大振幅送信レートの送信信号のIQ信号を画像化した一例を示す。図4中に示す4aは、大振幅送信レートの送信信号のIQ信号が飽和した領域の一例を示し、図4中に示す4bは、大振幅送信レートの送信信号のIQ信号が飽和していないが組織由来の線形信号が生じている領域(不飽和領域とも言う)の一例を示す。フィルタ係数を設計する場合、造影剤からの信号領域や信号レベルが飽和している部分を避けて反射波データをサンプリングする必要がある。このため、第1の実施形態に係るフィルタ係数設計部は、操作者により不飽和領域の設定を受付ける。例えば、フィルタ係数設計部は、操作者から図4中の4bで示す矩形領域をサンプリングする領域に設定する指示を受付ける。そして、フィルタ係数設計部は、造影剤が存在しない状態のビーム加算後の信号エネルギーが最小となるようなフィルタを設計する。
【0046】
以下では、フィルタ係数設計部によるフィルタの設計について説明する。なお、説明の便宜上、送信信号の送信レートが2であるAM法でCHIを行う場合を例にフィルタ設計例を説明する。また、フィルタ係数は、線形成分のキャンセル性能のみを向上させるフィルタであるものとする。このため、フィルタ係数設計部は、非線形成分の影響を無視してフィルタを設定する。
【0047】
送受信ユニット110が送信する小振幅送信レートの送信信号をsTxL(t)、大振幅送信レートの送信信号をsTxH(t)とする。これらの送信信号が、物体(反射係数:ρ(z=2tc)、cは伝搬速度)で反射された場合に得られる、小振幅送信レートの送信信号に対する受信信号(RF信号又はIQ信号)をrTxL(t)とし、大振幅送信レートの送信信号に対する受信信号(RF信号又はIQ信号)をrTxH(t)とする。また、小振幅送信レートの送信信号の送信で受信されるノイズ(白色ノイズ)をnTxL(t)とし、大振幅送信レートの送信信号の送信で受信されるノイズ(白色ノイズ)を、nTxH(t)とする。なお、「t」は、時間を示し、深さ方向に沿った各サンプル点の位置は、「t」により表される。
【0048】
フィルタ処理後に加算して得られる合成信号(「AM信号」とも言う)rAM(t)は、式(1)で表される。ここで、h(t)は、フィルタのインパルス応答関数である。なお、h(t)には、2つの反射波データの振幅の比率及び位相極性が加味される。
【0049】
【数1】
【0050】
この式(1)の両辺を周波数成分にフーリエ変換すると、式(2)が得られる。
【0051】
【数2】
【0052】
この加算後の合成信号は、消え残りとノイズである。このため、フィルタ係数設計部は、加算後の合成信号のエネルギーを最小とするフィルタH(ω)を求める。加算後のAM信号RAM(ω)の絶対値2乗のアンサンブル平均であるε(ω)は、式(3)で表される。また、ここで白色ノイズの性質を式(4)で表す。また散乱係数の性質は、式(5)で表される。なお、「ω」は、周波数を示す。
【0053】
【数3】
【0054】
ε(ω)は、ノイズとは無相関とする場合、式(6)で表される。
【0055】
【数4】
【0056】
式(6)において、第2項以降は定数であるので、ε(ω)を最小とするH(ω)は第1項を最小とするHOpt(ω)で表される(式(7))。
【0057】
【数5】
【0058】
ここで、実際の送信信号スペクトルsTxL(ω)やsTxH(ω)が既知であれば、式(7)に従って最適なフィルタが得られる。しかし、状況によっては一様な散乱体群からの反射信号しか得られない場合が考えられる。この場合、準最適なフィルタを求める方法が必要である。なお、非線形伝播の発生が低減される音圧の超音波(例えば、低中音圧の超音波)を送信させることにより、受信信号には組織由来の非線形成分が含まれていないものとする。
【0059】
大振幅送信レートの送信信号の送信で得られる受信信号rTxH(t)は、式(8)で表される。この式(8)の両辺をフーリエ変換すると、式(9)が得られる。
【0060】
【数6】
【0061】
この式(9)のパワースペクトルのアンサンブル平均を求めると、式(10)が得られる。この式(10)は、式(7)の分母である。
【0062】
【数7】
【0063】
次に、小振幅送信レートの送信信号の送信時に得られる受信信号rTxL(t)は、式(11)で表される。この式(11)の両辺をフーリエ変換すると、式(12)が得られる。
【0064】
【数8】
【0065】
ここで、大振幅送信レートの送信信号の送信時に得られる受信信号のスペクトル、式(9)の複素共役と、この小振幅送信レートの送信信号の送信時に得られる受信信号のスペクトル、式(12)との積は、式(13)で表される。そして、このアンサンブル平均は、式(4)〜式(5)の性質を用いて、式(14)で表される。
【0066】
【数9】
【0067】
この式(14)は、式(7)の分子である。よって、ある走査線iの小振幅送信レートの送信信号に対する受信信号及び大振幅送信レートの送信信号に対する受信信号のサンプルスペクトルRTxLi(ω),RTxHi(ω)を各々求めると、フィルタ係数は、式(15)で与えられる。
【0068】
【数10】
【0069】
このようにして、フィルタ係数設計部は、一つの走査線に対してフィルタ係数を算出する。また、フィルタ係数設計部は、同様にして各走査線でフィルタ係数を算出する。そして、フィルタ係数設計部は、算出したフィルタ係数を平均処理する。これにより、超音波診断装置1は、ロバスト性を向上させることができる。なお、フィルタ係数設計部は、一つの走査線に対してだけで算出することにより、フィルタ係数を設計するようにしてもよい。
【0070】
図5は、第1の実施形態に係るフィルタ係数設計部によるフィルタ係数設計処理を説明するための図である。図5では、フィルタ係数設計部によって設計されたフィルタ係数で補正した場合の大振幅送信レートの送信信号のIQ信号を画像化した一例を示す。なお、図5に示す撮影領域は、図4に示した撮影領域と同一である。図5に示すように、大振幅送信レートの送信信号のIQ信号にフィルタ係数で補正を行った場合、図4中の4aに示した組織由来の線形信号がキャンセルされる。
【0071】
ここで、フィルタのフィルタ長(カーネル長、フィルタ係数長、或いはタップ長とも言う)は、送信超音波のパルス長の略2倍となるように設計される。すなわち、フィルタ係数設計部は、フィルタのフィルタ長さをパルス長の約2倍程度に設計する。これにより、補正対象である受信信号の波形の先頭が、フィルタの中心に位置した場合、補正対象である受信信号の波形の末端がフィルタ内に収まるようになる。なお、フィルタ長さが長すぎると、組織由来の線形信号をキャンセルできるが、深さ方向の空間分解能が犠牲になってしまう場合がある。また、フィルタ長さが短すぎると、組織由来の線形信号をキャンセルできない。フィルタ係数設計部は、様々な送信条件ごとにフィルタ係数を設計する。
【0072】
フィルタ係数テーブル121cは、様々な送信条件ごとに設計されたフィルタ係数を記憶する。そして、フィルタ処理部121bは、撮影時には、送信条件に合致するフィルタ係数或いは、送信条件と近似するフィルタ係数をフィルタ係数テーブル121cから取得して、フィルタに設定する。
【0073】
次に、図6図8を用いて、超音波診断装置1による処理の手順について説明する。図6は、第1の実施形態に係る超音波診断装置1による処理の手順を示すフローチャートである。図6に示すように、制御部190は、造影剤の投与を受付ける(ステップS101)。そして、送受信ユニット110は、超音波の送受信処理を実行する(ステップS102)。なお、この超音波の送受信処理の詳細については、図7を用いて後述する。
【0074】
続いて、Bモード処理ユニット120は、Bモードデータ生成処理を実行する(ステップS103)。なお、このBモードデータ生成処理の詳細については、図8を用いて後述する。そして、画像生成部140は、造影画像データを生成し(ステップS104)、モニタ30に造影画像を表示させる(ステップS105)。
【0075】
図7は、第1の実施形態に係る超音波診断装置1による超音波の送受信処理の手順を示すフローチャートである。なお、この処理は、図6に示したステップS102の処理に対応する。図7に示すように、送受信ユニット110は、被検体Pに小振幅送信レートの超音波を送信する(ステップS201)。そして、送受信ユニット110は、小振幅送信レートの反射波信号を受信して、反射波データを生成する(ステップS202)。また、送受信ユニット110は、被検体Pに大振幅送信レートの超音波を送信する(ステップS203)。そして、送受信ユニット110は、大振幅送信レートの反射波信号を受信して、反射波データを生成する(ステップS204)。なお、送受信ユニット110は、ステップS203とステップS204とを実行してから、ステップS201とステップS202とを実行してもよい。図7に示すフローチャートは、1フレーム分の複数の走査線について行われる。
【0076】
図8は、第1の実施形態に係る超音波診断装置1によるBモードデータ生成処理の手順を示すフローチャートである。なお、この処理は、図6に示したステップS103の処理に対応する。Bモード処理ユニット120において、直交検波部121aは、送受信ユニット110から入力された受信信号の直交検波を行う(ステップS301)。直交検波部121aは、小振幅送信レートの反射波データ(IQ信号)を加減算部121dに出力し、大振幅送信レートの反射波データ(IQ信号)をフィルタ処理部121bに出力する。そして、フィルタ処理部121bは、フィルタ係数テーブル121cから送信条件と合致する或いは送信条件と近似するフィルタ係数を読出して、大振幅送信レートの反射波データ(IQ信号)を補正する(ステップS302)。そして、加減算部121dは、小振幅送信レートの反射波データ(IQ信号)と、補正された大振幅送信レートの反射波データ(IQ信号)とを加減算処理を行う(ステップS303)。図8に示すフローチャートは、1フレーム分の複数の走査線について行われる。これにより、1フレーム分の造影像用のBモードデータが生成される。
【0077】
上述したように、第1の実施形態に係る超音波診断装置1は、受信信号に対して、組織由来の線形信号をキャンセルするフィルタ係数が設定されたフィルタを有し、CHIを行う場合、複数の受信信号の少なくとも1つの受信信号をこのフィルタで処理する。これにより、超音波診断装置1は、組織由来の線形信号をキャンセルし、造影剤由来の高調波成分を抽出することができる。この結果、超音波診断装置1は、バブル組織比の高い造影画像を生成することができる。
【0078】
また、複数の非造影受信信号それぞれは、ファントム、又は、生体から受信した受信信号であって、信号レベルが飽和していない不飽和領域からの受信信号である。これにより、フィルタ係数設計部は、バブル組織比の高いフィルタ係数を設計することが可能となる。
【0079】
第1の実施形態では、非線形伝播の発生が低減される音圧の超音波送信により受信された受信信号を用いてフィルタ係数を設計する。このため、第1の実施形態では、組織由来の非線形成分が含まれていない条件でフィルタ係数を設計するので、組織由来の線形成分をキャンセル可能であるとともに、造影剤由来の高調波成分だけを抽出することが可能なフィルタを設計することができる。
【0080】
フィルタ係数テーブル121cは、複数の送信条件ごとに予め設計された複数のフィルタ係数を記憶する。これにより、操作者が造影撮影用の送信条件を入力するだけで、入力された送信条件に適合するフィルタ係数が自動的に選択される。この結果、バブル組織比の高い造影画像を容易に生成することができる。
【0081】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、フィルタ係数が事前に設定されている場合について説明した。しかし、より高画質な造影像を生成するには、事前に設計されたフィルタ係数を用いてフィルタ処理を行うよりも、撮影部位に応じて適応的に設計されたフィルタ係数を用いてフィルタ処理を行う方が望ましい。このため、第2の実施形態では、超音波診断装置1が、スキャンする被検体Pからの受信信号に基づき適応的にフィルタ係数を設計する例を説明する。
【0082】
第2の実施形態に係る超音波診断装置1の構成は、Bモード処理ユニットの構成が一部異なる点を除いて、図1に示した第1の実施形態に係る超音波診断装置1の構成と同様である。図9は、第2の実施形態に係るBモード処理ユニット120の構成例を示すブロック図である。図9に示すように、第2の実施形態に係るBモード処理ユニット120は、直交検波部121aと、フィルタ処理部121bと、加減算部121dと、フィルタ係数設計部121eとを有する。
【0083】
第2の実施形態に係るフィルタ係数設計部121eは、複数の非造影受信信号に基づいて、フィルタ係数を設計する。すなわち、第2の実施形態に係るフィルタ係数設計部121eは、第1の実施形態で説明したフィルタ係数設計部と同様の機能を有する。
【0084】
また、フィルタ係数設計部121eが用いる複数の非造影受信信号それぞれは、造影撮影と同一の送信条件により受信される受信信号であって、造影撮影が行なわれる被検体Pの撮影部位であり、造影剤が存在しない状態の撮影部位から受信した受信信号である。具体的には、複数の非造影受信信号それぞれは、造影剤が到達していない撮影部位又造影剤投与前の撮影部位から受信した受信信号である。ここで、例えば、フィルタ係数設計部121eは、操作者の入力を契機として、フィルタ係数を設計する。具体的には、造影剤投与前に、撮像部位の超音波走査を開始したタイミングでフィルタ係数を設計する。
【0085】
また、フィルタ係数設計部121eは、複数の非造影受信信号の信号レベルに基づいて、当該複数の非造影受信信号が不飽和領域からの受信信号であるか否かを判定する。例えば、フィルタ係数設計部121eは、入力された受信信号のエネルギーと、ダイナミックレンジとに基づいて、受信信号が飽和しているか否かを判定する。具体的には、フィルタ係数設計部121eは、ダイナミックレンジよりも大きなエネルギーの受信信号が入力された場合に、受信信号が飽和していると判定する。また、フィルタ係数の設計を行う際に、フィルタ係数設計部121eは、例えば、大振幅送信レートの受信信号を用いて、受信信号が飽和しているか否かを判定する。なお、フィルタ係数設計部121eは、例えば、小振幅送信レートの受信信号を用いて、受信信号が飽和しているか否かを判定してもよい。また、フィルタ係数設計部121eは、例えば、大振幅送信レートの受信信号と、小振幅送信レートの受信信号とを用いて、受信信号が飽和しているか否かを判定してもよい。
【0086】
また、フィルタ係数設計部121eは、フレーム内の全ての走査線でフレーム内のフィルタ係数を設計するようにしてもよいし、フレーム内の一部の複数の走査線でフレーム内のフィルタ係数を設計するようにしてもよいし、フレーム内の一つの走査線でフレーム内のフィルタ係数を設計するようにしてもよい。また、これらの処理を複数のフレームで行ってもよい。また、フィルタ係数設計部121eは、操作者によりROI(Region Of Interest)の設定を受付けて、ROI内の全ての走査線でROI内のフィルタ係数を設計するようにしてもよいし、ROI内の一部の複数の走査線でROI内のフィルタ係数を設計するようにしてもよいし、ROI内の一つの走査線でROI内のフィルタ係数を設計するようにしてもよい。また、これらの処理を複数のフレームで行ってもよい。
【0087】
第2の実施形態に係るフィルタ処理部121bは、フィルタ係数設計部121eが設計したフィルタ係数をフィルタに設定する。そして、フィルタ処理部121bは、複数の受信信号の少なくとも1つの受信信号に対して、フィルタをかける。加減算部121dは、フィルタ処理後の複数の受信信号を、変調法に応じた加減算により合成した合成信号(Bモードデータ)を出力する。そして、画像生成部140は、Bモードデータから、信号強度が輝度の明るさで表現されるBモード画像を生成する。
【0088】
図10は、第2の実施形態に係る超音波診断装置1による処理の手順を示すフローチャートである。図10に示すように、フィルタ係数設計部121eは、フィルタ設計処理を実行する(ステップS401)。なお、このフィルタ設計処理の詳細については、図11を用いて後述する。そして、制御部190は、造影剤の投与を受付ける(ステップS402)。そして、送受信ユニット110は、超音波の送受信処理を実行する(ステップS403)。なお、この超音波の送受信処理の手順は、図7に示した処理の手順と同様である。
【0089】
続いて、Bモード処理ユニット120は、Bモードデータ生成処理を実行する(ステップS404)。なお、このBモードデータ生成処理の手順は、図8に示した処理の手順と同様である。そして、画像生成部140は、造影画像データを生成し(ステップS405)、モニタ30に造影画像を表示させる(ステップS406)。
【0090】
なお、超音波診断装置1は、投与した造影剤が流出され切った後に、再度造影剤を投与して、異なる送信条件で造影撮影を行う場合には、ステップS401に移行し、ステップS401以降の処理を繰り返し実行するようにしてもよい。
【0091】
図11は、第2の実施形態に係る超音波診断装置1によるフィルタ設計処理の手順を示すフローチャートである。図11に示すように、フィルタ係数設計部121eは、各レートの反射波データを受信する(ステップS501)。例えば、フィルタ係数設計部121eは、直交検波部121aから小振幅送信レートの反射波データと、大振幅送信レートの反射波データとを受信する。
【0092】
そして、フィルタ係数設計部121eは、フィルタ係数を設計可能な信号か否かを判定する(ステップS502)。ここで、フィルタ係数設計部121eは、フィルタ係数を設計可能な信号であると判定しなかった場合(ステップS502、No)、ステップS501に移行して、各レートの反射波データを受信する。なお、フィルタ係数設計部121eは、フィルタ係数を設計可能な信号であると判定しなかった場合、例えば、プローブの当接位置を変更する旨や送信条件を変更する旨をモニタ30に表示させるように制御部190に通知してもよい。これにより、再度受信した受信信号によりフィルタ係数を設計可能な信号か否かを判定する。
【0093】
一方、フィルタ係数設計部121eは、フィルタ係数を設計可能な信号であると判定した場合(ステップS502、Yes)、フィルタ係数を設計する(ステップS503)。例えば、フィルタ係数設計部121eは、小振幅送信レートの送信信号の反射波データ(IQ信号)と、大振幅送信レートの送信信号の反射波データ(IQ信号)とからフィルタ係数を算出する。そして、フィルタ係数設計部121eは、算出したフィルタ係数をフィルタ処理部121bに通知する。
【0094】
上述したように、第2の実施形態に係る超音波診断装置1は、被検体Pと送信条件とに適応したフィルタ係数を設計する。ここで、複数の非造影受信信号それぞれは、造影撮影と同一の送信条件により受信される受信信号であって、造影撮影が行なわれる被検体の撮影部位であり、造影剤が存在しない状態の撮影部位から受信した受信信号である。このため、超音波診断装置1は、バブル組織比の高い造影画像を生成することができる。
【0095】
なお、造影剤を投与後、撮影対象部位まで造影剤が届くまでには、約20〜30秒かかる。このため、第2の実施形態では、造影剤投与前ではなく造影剤投与後に、撮影対象部位まで造影剤が届くまでの時間を利用して、フィルタ係数を設計してもよい。かかる場合、この処理には、通常造影撮影に用いられる造影剤投与タイマーを利用する。制御部190は、この造影剤投与タイマーから造影剤投与後の経過時間を取得する。そして、例えば、造影剤投与から10秒後に自動的に造影剤投与後の非造影受信信号群からフィルタ係数を設計する指示をフィルタ係数設計部121eに送出する。すなわち、フィルタ係数設計部121eは、造影剤投与の時間を計測する造影剤投与タイマーに連動して、フィルタ係数を設計する。これにより、操作者は、造影剤投与前にフィルタ係数の設計指示を入力しなくてもよく、自動的にフィルタ係数を設計することができる。
【0096】
また、第2の実施形態において、Bモード処理ユニット120は、フィルタ係数テーブル121cを有するようにしてもよい。この場合、フィルタ係数設計部121eは、適応的に設計したフィルタ係数をフィルタ係数テーブル121cに記憶させる。これにより、フィルタ処理部121bは、同一の被検体かつ同一の送信条件で設計したフィルタ係数がフィルタ係数テーブル121cに記憶されている場合、フィルタ係数テーブル121cからフィルタ係数を読出して、フィルタに設定することができる。
【0097】
なお、第1の実施形態で説明した内容は、造影剤到達前に、造影撮影に用いる条件(撮影条件)で得られた非造影受信信号群を用いて、適応型のフィルタ係数を設計する点以外、第2の実施形態においても適用可能である。
【0098】
(第3の実施形態)
第2の実施形態では、スキャンする被検体Pからの受信信号に基づき適応的にフィルタを設計する例を説明した。ところで、造影剤投与後に、送信条件を変えて造影像を取得したい場合がある。かかる場合、変更後の送信条件に適したフィルタ係数を設計することが望ましい。しかし、造影剤投与後であるので、被検体P内には造影剤バブルが残ったままであり、フィルタ係数を設定することができない。このため、第3の実施形態では、超音波診断装置1は、残存する造影剤バブルを壊すために超音波を送信して造影剤バブルが存在しない状態で、組織由来の線形信号をキャンセルできるフィルタを設計する。以下では、造影剤を破壊可能な音圧の超音波のことを「フラッシュ」と呼ぶ。
【0099】
第3の実施形態に係る制御部190は、「フラッシュ用のボタン」の選択を操作者から受付けた場合、送受信ユニット110に造影剤を破壊可能な音圧の超音波(フラッシュ)を送信させるように指示する。
【0100】
第3の実施形態に係るフィルタ係数設計部121eは、第2の実施形態に係るフィルタ係数設計部121eと同様の機能を有することに加えて、更に以下の機能を有する。例えば、第3の実施形態に係るフィルタ係数設計部121eは、造影剤投与後に造影剤を破壊可能な音圧の超音波送信が行なわれた撮影部位から受信した受信信号である複数の非造影受信信号それぞれを用いてフィルタ係数を設計する。
【0101】
第3の実施形態に係るフィルタ処理部121bは、フィルタ係数設計部121eが設計したフィルタ係数をフィルタに設定する。そして、フィルタ処理部121bは、第2の実施形態と同様に、複数の受信信号の少なくとも1つの受信信号に対して、フィルタをかける。加減算部121dは、第2の実施形態と同様に、フィルタ処理後の複数の受信信号を、変調法に応じた加減算により合成した合成信号(Bモードデータ)を出力する。そして、画像生成部140は、第2の実施形態と同様に、Bモードデータから、信号強度が輝度の明るさで表現されるBモード画像を生成する。
【0102】
図12は、第3の実施形態に係る超音波診断装置1による処理の手順を示すフローチャートである。図12に示すように、制御部190は、フラッシュを予め設定されたフレーム分送信する(ステップS601)。そして、フィルタ係数設計部121eは、フィルタ設計処理を実行する(ステップS602)。なお、このフィルタ設計処理の手順は、図11に示した処理の手順と同様である。
【0103】
そして、送受信ユニット110は、超音波の送受信処理を実行する(ステップS603)。なお、この超音波の送受信処理の手順は、図7に示した処理の手順と同様である。続いて、Bモード処理ユニット120は、Bモードデータ生成処理を実行する(ステップS604)。なお、このBモードデータ生成処理の手順は、図8に示した処理の手順と同様である。そして、画像生成部140は、造影画像データを生成し(ステップS605)、モニタ30に造影画像を表示させる(ステップS606)。なお、超音波診断装置1は、更に送信条件を変更して造影撮影を行う場合、ステップS601に移行して、フラッシュを送信し、フィルタ係数を設計する処理を実行する。そして、超音波診断装置1は、フィルタ係数を設計した後、ステップS602以降の処理を実行する。
【0104】
上述したように、第3の実施形態に係る超音波診断装置1は、造影剤バブルを崩壊する超音波送信を行うことで、造影撮影用の送信条件を適宜変更する場合であっても、適応的なフィルタ係数を設計することが可能である。したがって、第3の実施形態では、造影撮影用の送信条件が変更された場合であっても、バブル組織比の高い造影画像を生成することができる。
【0105】
なお、第1の実施形態及び第2の実施形態で説明した内容は、フラッシュ送信によりフィルタ係数を再設計する点以外、第3の実施形態においても適用可能である。
【0106】
(その他の実施形態)
上述した実施形態においては、AM法でCHIを行う場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、AMPM法でCHIを行う場合でも適用可能である。更に、AMPM法では、THIを行う場合にも適用可能である。
【0107】
また、上述した実施形態においては、フィルタ処理部121bは、大振幅送信レートのIQ信号にフィルタ処理を行う場合を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、フィルタ処理部121bは、小振幅送信レートのIQ信号にフィルタ処理を行ってもよい。或いは、フィルタ処理部121bは、大振幅送信レートのIQ信号と、小振幅送信レートのIQ信号とにフィルタ処理を行ってもよい。
【0108】
また、上述した実施形態においては、フィルタ処理部121bは、直交検波後のIQ信号に対してフィルタ処理を行う例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、フィルタ処理部121bは、RF信号に対してフィルタ処理を行うようにしてもよい。すなわち、フィルタ処理部121bは、フィルタをIQ信号又はRF信号に対してかけるようにしてもよい。なお、IQ信号を処理する場合のフィルタは、複素FIR(有限インパルス応答)フィルタであり、RF信号を処理する場合のフィルタは、実数FIR(有限インパルス応答)フィルタである。
【0109】
フィルタ係数設計部121eは、1画像(1フレーム)だけではなく、数フレーム分のフィルタ係数を算出して、各走査線で平均したフィルタ係数を設計するようにしてもよい。また、フィルタ係数設計部121eは、1フレームを短冊状の領域に分割し、分割した領域それぞれでフィルタ係数を設計するようにしてもよい。また、フィルタ係数設計部121eは、深さ方向に応じてフィルタ係数を設計するようにしてもよい。これにより、超音波診断装置1は、マルチフォーカスを行う場合に、組織由来の線形信号をキャンセルし、バブル組織比の高い造影画像を生成することができる。また、フィルタ係数設計部121eは、撮影領域をメッシュ状に分割し、分割した領域に含まれる複数のピクセル単位でフィルタ係数を算出するようにしてもよい。
【0110】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、バブル組織比の高い造影画像を生成することができる。
【0111】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0112】
1 超音波診断装置
100 装置本体
110 送受信ユニット
120 Bモード処理ユニット
121b フィルタ処理部
121d 加減算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12