特許第6202939号(P6202939)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋アルミニウム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6202939-ペースト組成物と太陽電池素子 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202939
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】ペースト組成物と太陽電池素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0224 20060101AFI20170914BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20170914BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20170914BHJP
   C22C 21/00 20060101ALN20170914BHJP
【FI】
   H01L31/04 264
   H01B1/22 A
   H01B1/00 L
   !C22C21/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-172808(P2013-172808)
(22)【出願日】2013年8月23日
(65)【公開番号】特開2015-41713(P2015-41713A)
(43)【公開日】2015年3月2日
【審査請求日】2016年5月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 孝輔
(72)【発明者】
【氏名】ダムリン マルワン
(72)【発明者】
【氏名】松原 萌子
(72)【発明者】
【氏名】中原 正博
(72)【発明者】
【氏名】和辻 隆
【審査官】 濱田 聖司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−530845(JP,A)
【文献】 特開2003−69056(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第468382(EP,A1)
【文献】 中国特許出願公開第101937947(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第102522156(CN,A)
【文献】 G.Du,"Efficient Boron Doping in the Back Surface Field of Crystalline Silicon Solar Cells via Alloyed-Aluminum-Boron Paste",IEEE Electron Device Letters,Vol.33, No.4 (2012),pp.573-575
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00−31/20
H01B 1/00− 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶系シリコン太陽電池を構成するシリコン半導体基板の裏面上に電極を焼成形成するために用いられるペースト組成物であって、
アルミニウム粉末、Al-B合金粉末、ガラス粉末、および、有機ビヒクルを含有し、
前記Al-B合金粉末が0.01質量%以上0.07質量%以下のホウ素を含有し、
当該ペースト組成物におけるホウ素の濃度が0.005質量%以上0.05質量%以下である、ペースト組成物。
【請求項2】
前記ガラス粉末の含有量が、前記アルミニウム粉末100質量部に対して、0.1質量部以上15質量部以下である、請求項1に記載のペースト組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のペースト組成物をシリコン半導体基板の裏面上に塗布した後、焼成することにより形成した電極を備えた、太陽電池素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的にはペースト組成物と太陽電池素子に関し、特定的には、結晶系シリコン太陽電池を構成するシリコン半導体基板の裏面上に電極を形成する際に用いられるペースト組成物、およびそれを用いて裏面電極が形成された太陽電池素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコン半導体基板の裏面上に電極が形成された電子部品として、特開2003−69056号公報(特許文献1)、特表2009−530845号公報(特許文献2)に開示されているような太陽電池素子が知られている。
【0003】
図1は、太陽電池素子の一般的な断面構造を模式的に示す図である。
【0004】
図1に示すように、太陽電池素子は、厚みが200μm程度のp型シリコン半導体基板1を用いて構成される。p型シリコン半導体基板1の受光面側には、厚みが0.3〜0.6μmのn型不純物層としてn+層2と、その上に反射防止膜3とグリッド電極4が形成されている。
【0005】
また、p型シリコン半導体基板1の裏面側には、アルミニウム電極層5が形成されている。アルミニウム電極層5は、アルミニウム粉末、ガラスフリットおよび有機質ビヒクルからなるペースト組成物をスクリーン印刷等によって塗布し、乾燥した後、660℃(アルミニウムの融点)以上の温度にて短時間焼成することによって形成されている。この焼成の際にアルミニウムがp型シリコン半導体基板1の内部に拡散することにより、アルミニウム電極層5とp型シリコン半導体基板1との間にAl-Si合金層6が形成されると同時に、アルミニウム原子の拡散による不純物層としてp+層7が形成される。このp+層7の存在により、電子の再結合を防止し、生成キャリアの収集効率を向上させるBSF(Back Surface Field)効果が得られる。
【0006】
+層7としてのBSF層が形成される仕組みについては、概略的に以下のように説明することができる。まず、ペースト組成物が塗布されたp型シリコン半導体基板1を状態図におけるAl-Si合金の固相線の温度(577℃)以上の高温(一般的には700〜900℃)で熱処理するときに、ペーストに含まれるAlとセル由来のSiとが溶融することによってAl-Si合金の溶融物が形成される。その後、Al-Si合金の溶融物が形成されたp型シリコン半導体基板1を室温付近まで急冷することによって、Al-Si溶融物が再び固化される。このときに、シリコンへのアルミニウム原子の拡散がアルミニウムへのケイ素原子の拡散に比べて遅いことによってAl-Si合金の溶融物のうちのアルミニウム原子の一部がケイ素中に取り残されるため、Al-Si合金層6が形成されると同時に、高濃度のアルミニウムを含むケイ素の層として、p+層7(つまりBSF層)が形成される。
【0007】
一方、太陽電池の変換効率をより向上させる目的として、均一のBSF層を形成する方法、または、BSF層に含まれる不純物の濃度を増加する方法等が従来から多く検討されている。たとえば、特開2003−69056号公報(特許文献1)に記載の太陽電池においては、ホウ素粉末、無機ホウ素化合物および有機ホウ素化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種のホウ素含有物をペースト組成物に添加することによって、BSF効果の向上が図られている。
【0008】
特表2009−530845号公報(特許文献2)に記載の太陽電池においては、BSF層の不純物の濃度を増加させるために、Al-B合金を含むペースト組成物が用いられている。これらのように、アルミニウムと同じ3価の価数を持つホウ素含有物をペースト組成物に添加することによって、BSF層における不純物の濃度を増加させる方法が従来から検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−69056号公報
【特許文献2】特表2009−530845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特開2003−69056号公報(特許文献1)に記載される方法によれば、ホウ素含有物がペースト組成物において単体で分布しているため、BSF層が形成される仕組みを考慮すると、ホウ素原子がBSF層に不均一に拡散すると考えられる。そして、BSF層におけるホウ素の不均一な拡散は、開放電圧の増大の障害となる。
【0011】
特表2009−530845号公報(特許文献2)に記載される太陽電池の実施例において用いられるホウ素を0.2質量%含むAl-0.2質量%B合金については、状態図においてこの合金の液相線が示される位置が1000℃付近であって、太陽電池素子を実際に焼成する温度(つまり、一般的に700〜900℃)においては、金属間化合物であるAlB2のままでホウ素とアルミニウムの液相とが混在するため、BSF層にホウ素原子を拡散させることができない。
【0012】
さらに、ペースト組成物を太陽電池素子の裏面に塗布した場合にペースト組成物のホウ素の量が多いときには、BSF層に含まれる不純物の濃度の過多によって、裏面における光の反射率の低下を招くおそれがある。裏面における光の反射率の低下によれば、電流密度の減少を招く。
【0013】
そこで、本発明の目的は、上記の課題を解決することであり、シリコン半導体基板の裏面上に電極を形成するために用いられるペースト組成物であって、開放電圧を増大させるとともに、電流密度の減少を抑制することが可能なペースト組成物と、その組成物を用いて形成された裏面電極を備えた太陽電池素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明の発明者らは、従来技術の問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、シリコン半導体基板の裏面上に電極を形成するために、アルミニウム粉末とAl-B合金粉末との混合粉末が含まれ、かつ、特定の量のホウ素を含有するペースト組成物を用いることにより、上記の目的を達成できることを見出した。この知見に基づいて、本発明に従ったペースト組成物は、次のような特徴を備えている。
【0015】
本発明に従ったペースト組成物は、結晶系シリコン太陽電池を構成するシリコン半導体基板の裏面上に電極を形成するために用いられるペースト組成物であって、アルミニウム粉末、Al-B合金粉末、ガラス粉末、および、有機ビヒクルを含有する。当該ペースト組成物におけるホウ素の濃度は、0.005質量%以上0.05質量%以下である。
【0016】
好ましくは、Al-B合金粉末が0.01質量%以上0.07質量%以下のホウ素を含有する。
【0017】
本発明に従った太陽電池素子は、上述のいずれかの特徴を有するペースト組成物をシリコン半導体基板の裏面上に塗布した後、焼成することにより形成した電極を備える。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、シリコン半導体基板の裏面上に電極を形成するために、アルミニウム粉末とAl-B合金粉末との混合粉末が含まれ、かつ、特定の量のホウ素を含有するペースト組成物を用いることにより、開放電圧を増大させるとともに、電流密度の減少を抑制することが可能なペースト組成物と、その組成物を用いて形成された裏面電極を備えた太陽電池素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】一つの実施の形態として本発明が適用される太陽電池素子の一般的な断面構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、従来技術の問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、シリコン半導体基板の裏面上に電極を形成するために用いられるペースト組成物に、アルミニウム粉末とAl-B合金粉末との混合粉末を含ませ、かつ、特定の量のホウ素を含ませることにより、上記の目的を達成できることを見出した。この知見に基づいて、本発明に従ったペースト組成物は、次のような特徴を備えている。
【0021】
本発明に従ったペースト組成物は、結晶系シリコン太陽電池を構成するシリコン半導体基板の裏面上に電極を形成するために用いられるペースト組成物であって、アルミニウム粉末、Al-B合金粉末、ガラス粉末、および、有機ビヒクルを含有する。本発明のペースト組成物におけるホウ素の濃度は、0.005質量%以上0.05質量%以下である。
【0022】
本発明のペースト組成物に用いられるAl-B合金粉末は、0.01質量%以上0.07質量%以下のホウ素を含有することが好ましい。
【0023】
シリコン半導体基板の裏面上に電極を形成するために用いられるペースト組成物として、アルミニウム粉末およびAl-B合金粉末を含有するとともに、特定の量のホウ素を含む本発明に従ったペースト組成物によれば、BSF層へのホウ素の拡散を均一化させることによって開放電圧の増大を図ることができるとともに、太陽電池素子の裏面における光の反射率の悪化による電流密度の減少を抑制することができる。
<太陽電池素子>
図1に示すように、本発明に従った太陽電池素子の一つの実施の形態としてのp型の太陽電池素子は、たとえば、厚みが180〜250μmのp型のシリコン半導体基板1を用いて構成される。シリコン半導体基板1の受光面側の表面には、厚みが0.3〜0.6μmのn型不純物層としてn+層2と、その上に、たとえば、窒化シリコン膜からなる反射防止膜(パッシベーション膜)3と、グリッド電極4とが形成されている。表面電極としてのグリッド電極4は、たとえば、銀ペーストをスクリーン印刷したうえで焼成することによって形成される。
【0024】
また、シリコン半導体基板1の受光面と反対側の裏面には、アルミニウム電極層5が形成されている。アルミニウム電極層5は、本発明のペースト組成物をスクリーン印刷等によって塗布し、乾燥させた後、660℃(アルミニウムの融点)を超える温度にて短時間焼成すること(ファイヤースルー法)によって形成されている。本発明のペースト組成物は、アルミニウム粉末と、Al-B合金粉末と、ガラス粉末と、有機ビヒクルとを含む。この焼成の際にアルミニウムがシリコン半導体基板1の内部に拡散することにより、アルミニウム電極層5とシリコン半導体基板1との間にAl-Si合金層6が形成されると同時に、アルミニウム原子の拡散による不純物層としてのp+層(BSF層)7が形成される。このp+層7の存在により、電子の再結合を防止し、生成キャリアの収集効率を向上させるBSF(Back Surface Field)効果が得られる。このようにして、シリコン半導体基板1の裏面側には、アルミニウム電極層5とAl-Si合金層6とからなる裏面電極8が形成され、さらに、アルミニウム電極層5に対面するシリコン半導体基板1の領域にはBSF層7が形成されている。
【0025】
<ペースト組成物>
本発明のペースト組成物は、上記のアルミニウム電極層5を形成するためにシリコン半導体基板1の受光面と反対側の裏面に塗工されるペースト組成物であって、アルミニウム粉末と、Al-B合金粉末とを含有し、バインダーとして、ガラス粉末と、有機ビヒクルとを含有する。ペースト組成物におけるホウ素の濃度は、0.005質量%以上0.05質量%以下である。さらに、好ましくは、ペースト組成物に用いられるAl-B合金粉末が0.01質量%以上0.07質量%以下のホウ素を含有する。
【0026】
<アルミニウム粉末>
ペースト組成物に含まれるアルミニウム粉末は、その導電性から電極としての効果を発揮する。また、アルミニウム粉末は、ペースト組成物を焼成した際にシリコン半導体基板1との間にAl‐Si合金層6とp+層(BSF層)7を形成するので、上述のBSF効果または所望のp+層が得られる。
【0027】
アルミニウム粉末の形状は、特に限定されない。アルミニウム粉末の形状は、球状であることが好ましい。アルミニウム粉末を構成するアルミニウム粒子の短径に対する長径の比率は、1以上1.5以下であることが好ましい。このような形状のアルミニウム粒子を含む粉末を用いることによって、アルミニウム電極層5におけるアルミニウム粒子の充填性が増し、電極としての電気抵抗を効果的に低下させることができる。また、シリコン半導体基板1とアルミニウム粒子との接点が増え、良好なAl‐Si合金層6を形成することができる。
【0028】
アルミニウム粉末を構成するアルミニウム粒子の平均粒径は、1μm以上10μm以下であることが好ましい。アルミニウム粒子の平均粒径が1μm以上10μm以下の範囲内であれば、良好な分散性を得ることができる。平均粒子径が1μm未満であると、アルミニウム粒子同士が凝集するおそれがある。平均粒子径が10μmを越えると、アルミニウム粒子の分散性が悪くなるおそれがある。
【0029】
アルミニウム粉末におけるアルミニウムの純度は、99.7%以上であることが好ましい。アルミニウム粉末に不純物が混入されているとしても、アルミニウム粉末においてFeとSiとを合わせて0.1%未満であれば、不純物の混入は許容される。
【0030】
<Al-B合金粉末>
本発明のペースト組成物がAl-B合金粉末を含むことによって、BSF層における不純物の濃度をホウ素によって増加させることができる。また、ペースト組成物におけるAl-B合金粉末中のホウ素の含有量が0.01質量%以上0.07質量%以下であれば、太陽電池素子を焼成するときに液相を十分に形成することができるので、良好なBSF層を形成することができる。
【0031】
Al-B合金粉末の形状は、特に限定されない。Al-B合金粉末の形状は、球状であることが好ましい。Al-B合金粉末の形状として、真球度が0.5以上であると、アルミニウム電極層5における充填の性能を増大させることができるので、電気抵抗の低下を抑制することができる。
【0032】
なお、ここでいう真球度としては、たとえば、球状のAl-B合金粉末の粒子を走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)で観察することによって得ることができる。任意に選んだ複数個(たとえば20個)の粒子において、各粒子の最小径(この直径は、顕微鏡における観察用の視野上または当該視野の範囲が撮影された写真上で、各粒子を平行な2本の線分で挟むことによって得られる2本の線分の間の距離のうち、最短の距離のことである)と、最大径(この直径は、顕微鏡における観察用の視野上または当該視野の範囲が撮影された写真上で、各粒子を平行な2本の線分で挟むことによって得られる2本の線分の間の距離のうち、最長の距離のことである)とを測定する。この最小径と最大径との平均を粒子ごとに算出する。さらに、任意に選んだ複数個の粒子における最小径と最大径との各平均の平均値を算出する(つまり、任意で選んだ複数個の粒子における最短径と最長径との各平均を加算した値を、用いられた粒子の個数で除算する)。
【0033】
なお、本発明のペースト組成物におけるAl-B合金粉末の平均粒子径は、好ましくは、1μmよりも大きく10μm未満である。平均粒子径が1μm以下であると、ペースト中における分散性が悪化し、10μm以上であると、反応性が低下してしまう。
【0034】
<ガラス粉末>
ガラス粉末は、アルミニウム粉末とシリコン半導体基板との反応と、アルミニウム粉末自身の焼結とを助ける作用があるとされている。ガラス粉末は、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、バナジウム(V)、ホウ素(B)、シリコン(Si)、スズ(Sn)、リン(P)、亜鉛(Zn)からなる群から選択される1種または2種以上を含有していてもよい。
【0035】
さらに、ガラス粉末には、鉛を含むガラス粉末、もしくは、ビスマス系、バナジウム系、錫-燐系、ホウ珪酸亜鉛系、アルカリホウ珪酸系等の無鉛のガラス粉末を用いることができる。特に人体への影響、または、耐環境性能を鑑みると、無鉛のガラス粉末の利用が望ましい。
【0036】
また、ガラス粉末の軟化点は750℃以下であることが好ましい。軟化点が750℃を超えるガラス粉末であると、特定のパッシベーション膜を用いた際にパッシベーション膜の性能を著しく損なわせてしまうおそれがある。
【0037】
さらに、ガラス粉末を構成するガラス粒子の平均粒径は、1μm以上3μm以下であることが好ましい。
【0038】
なお、本発明のペースト組成物に含まれるガラス粉末の含有量は、特に限定されないが、アルミニウム粉末100重量部に対して、0.1重量部以上15重量部以下であることが好ましい。ガラス粉末の含有量が0.1重量部未満であると、シリコン半導体基板1との密着性が低下するおそれがある。ガラス粉末の含有量が15重量部以上であると、形成されるアルミニウム電極層5の電気抵抗が増加してしまうおそれがある。
【0039】
<有機ビヒクル>
有機ビヒクルとしては、溶剤に、必要に応じて各種添加剤および樹脂を溶解したものが使用される。溶剤としては公知のものが使用可能であり、具体的には、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。各種添加剤としては、たとえば、酸化防止剤、腐食抑制剤、消泡剤、増粘剤、カップリング剤、静電付与剤、重合禁止剤、チキソトロピー剤、沈降防止剤等を使用することができる。具体的には、たとえば、ポリエチレングリコールエステル化合物、ポリエチレングリコールエーテル化合物、ポリオキシエチレンソルビタンエステル化合物、ソルビタンアルキルエステル化合物、脂肪族多価カルボン酸化合物、燐酸エステル化合物、ポリエステル酸のアマイドアミン塩、酸化ポリエチレン系化合物、脂肪酸アマイドワックス等を使用することができる。樹脂としては公知のものが使用可能であり、エチルセルロース、ニトロセルロース、ポリビニールブチラール、フェノール樹脂、メラニン樹脂、ユリア樹脂、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フラン樹脂、ウレタン樹脂、イソシアネート化合物、シアネート化合物等の熱硬化樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンオキサイド、ポリスルフォン、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリ4フッ化エチレン、シリコン樹脂等の二種以上を組み合わせて用いることができる。本発明のペースト組成物に含められる有機ビヒクルとして、溶剤に溶解させないで樹脂を用いてもよい。
【0040】
なお、本発明のペースト組成物中に含まれる有機ビヒクルの含有量は、特に限定されないが、アルミニウム粉末100重量部に対して、30重量部以上100重量部以下であることが好ましい。有機ビヒクルの含有量が30重量部未満、または、100重量部を越えると、ペースト組成物の印刷性が低下するおそれがある。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例と比較例について説明する。
【0042】
(ペースト組成物の準備)
実施例1〜4と比較例1〜4のペースト組成物を次のようにして準備した。
【0043】
(実施例1)
粒径が約3〜6μmの球状を有するアルミニウム粉末とAl-0.011質量%B合金粉末とをそれぞれ用意する。合計で100重量部のアルミニウム粉末およびAl-0.011質量%B合金粉末に対して、1.5重量部のガラス粉末と、40重量部の有機ビヒクルとを周知の混合機で混合し、ペースト組成物におけるホウ素の含有量が0.005質量%のアルミニウムペーストを得た。
【0044】
(実施例2)
粒径が約3〜6μmの球状を有するアルミニウム粉末とAl-0.032質量%B合金粉末とをそれぞれ用意し、実施例1と同様の方法によって、合計で100重量部のアルミニウム粉末およびAl-0.032質量%B合金粉末に対して、1.5重量部のガラス粉末と、40重量部の有機ビヒクルとを混合し、ペースト組成物におけるホウ素の含有量が0.02質量%のアルミニウムペーストを得た。
【0045】
(実施例3)
粒径が約3〜6μmの球状を有するアルミニウム粉末とAl-0.051質量%B合金粉末とをそれぞれ用意し、実施例1,2と同様の方法によって、合計で100重量部のアルミニウム粉末およびAl-0.051質量%B合金粉末に対して、1.5重量部のガラス粉末と、40重量部の有機ビヒクルとを混合し、ペースト組成物におけるホウ素の含有量が0.034質量%のアルミニウムペーストを得た。
【0046】
(実施例4)
粒径が約3〜6μmの球状を有するアルミニウム粉末とAl-0.070質量%B合金粉末とをそれぞれ用意し、実施例1,2,3と同様の方法によって、合計で100重量部のアルミニウム粉末およびAl-0.070質量%B合金粉末に対して、1.5重量部のガラス粉末と、40重量部の有機ビヒクルとを混合し、ペースト組成物におけるホウ素の含有量が0.05質量%のアルミニウムペーストを得た。
【0047】
(比較例1)
粒径が約3〜6μmの球状を有するアルミニウム粉末を用意する。100重量部のアルミニウム粉末に対して、1.5重量部のガラス粉末と、40重量部の有機ビヒクルとを周知の混合機で混合することにより、アルミニウムペーストを得た。
【0048】
(比較例2)
粒径が約3〜6μmの球状を有するアルミニウム粉末とAl-0.006質量%B合金粉末とをそれぞれ用意する。合計で100重量部のアルミニウム粉末およびAl-0.006質量%B合金粉末に対して、1.5重量部のガラス粉末と、40重量部の有機ビヒクルとを周知の混合機にて混合し、ペースト組成物におけるホウ素の含有量が0.002質量%のアルミニウムペーストを得た。
【0049】
(比較例3)
粒径が約3〜6μmの球状を有するアルミニウム粉末とAl-0.083質量%B合金粉末とをそれぞれ用意し、比較例2と同様の方法で、合計で100重量部のアルミニウム粉末およびAl-0.083質量%B合金粉末に対して、1.5重量部のガラス粉末と、40重量部の有機ビヒクルとを混合し、ペースト組成物におけるホウ素の含有量が0.06質量%のアルミニウムペーストを得た。
【0050】
(比較例4)
粒径が約5〜8μmの球状を有するアルミニウム粉末とAl-0.240質量%B合金粉末とをそれぞれ用意し、比較例2,3と同様の方法で、合計で100重量部のアルミニウム粉末およびAl-0.240質量%B合金粉末に対して、1.5重量部のガラス粉末と、40重量部の有機ビヒクルとを混合し、ペースト組成物におけるホウ素の含有量が0.2質量%のアルミニウムペーストを得た。
【0051】
(アルミニウム電極層の形成)
5インチの単結晶セルにおいて、シリコン半導体基板1の表面(受光面)に予め銀ペーストが印刷されたシリコン半導体基板1の裏面上の全体に、スクリーン印刷機を用いて、上記で得られた実施例1〜4と比較例1〜4のペースト組成物を厚さ40μmで塗布した。スクリーンメッシュには、250Meshを使用した。そして、各ペースト組成物が塗布されたセルのそれぞれを、100℃の温度で10分間乾燥させた後、赤外線焼成炉にて、空気雰囲気中で焼成した。焼成では、赤外線焼成炉の焼成ゾーンの温度を750〜800℃に設定した。この焼成により、各セルのシリコン半導体基板1に、図1に示すようにアルミニウム電極層5が形成された。このようにして、それぞれ異なるp+層(BSF層)7を有する8種の単結晶セルを得た。
【0052】
(変換効率の評価)
上記のようにして得られた各セルのI−V特性を、株式会社ワコム電創製のソーラシミュレータを用いて測定した。当該ソーラシミュレータをAM1.5の条件に設定した。各セルのI−V特性については、当該ソーラシミュレータに表示されたものを用いた。なお、変換効率Eff(%)は下記式によって算出する。

変換効率Eff(%)=(電流密度I×開放電圧V)×フィルファクタ値F.F.
【0053】
実施例1〜4と比較例1〜4の評価結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
変換効率Effの向上を考える場合には、電流密度と開放電圧との積である電力値W(=I・V)に着目すべきであるから、ペースト組成物においてホウ素を含有しない比較例1に比べて、実施例1〜4と比較例2,3とのペースト組成物のようにAl-B合金粉末またはアルミニウム粉末およびAl-B粉末の混合物を用いることによって、電流密度の減少の抑制と開放電圧の増大との両立(つまり、電力値I・Vの増大)が可能であることが表1からわかる。
【0056】
さらに、表1から、上記の実施例1〜4のペースト組成物によれば、ペースト組成物におけるホウ素含有量の増大に従って電流密度の減少の抑制および開放電圧の増大が可能であることがわかる。一方、ペースト組成物におけるホウ素含有量が0.005質量%未満であると、開放電圧の増大が顕著に現れないことがわかる(比較例2参照)。また、比較例1の変換効率Effと比較例2の変換効率Effとの間には殆ど差が無いことがわかる。また一方、ペースト組成物におけるホウ素含有量が0.05質量%よりも多い場合(比較例3参照)には、ホウ素含有量の増大に伴って電流密度が著しく減少した。また、比較例3のペースト組成物においては、ホウ素を含有しない比較例1のペースト組成物に比べて、変換効率Effが同等以下であることが確認された。さらに、ホウ素を過多に含有する比較例4のペースト組成物においては、ホウ素を含有しない比較例1のペースト組成物に比べて、開放電圧が著しく低下し、変換効率Effも著しく低下した。
【0057】
以上、表1に示す結果から、本発明のペースト組成物(実施例1〜4)が塗布されたシリコン半導体基板1を用いることによって、太陽電池素子の変換効率のさらなる向上を図ることができることがわかる。
【0058】
以上に開示された実施の形態や実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態や実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものと意図される。
【符号の説明】
【0059】
1:p型シリコン半導体基板、2:n型不純物層、3:反射防止膜、4:グリッド電極、5:アルミニウム電極層、6:Al-Si合金層、7:p+層、8:裏面電極。
図1