(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水/セメント比(質量比)が35〜200%、および水/粉体比(質量比)が25〜70%であるセメント組成物を、板状またはブロック状に成形してなるセメント組成物の硬化体を浸透部材とし、該浸透部材の1面は大気中に曝露された曝露面であり、該曝露面に対向する背面には電気的特性を利用して中性化を検知する中性化検知部材が設置され、該曝露面以外の面は遮断材により大気と遮断された遮断面である、コンクリートの中性化環境評価用センサであって、
前記中性化検知部材が、中性化に起因した腐食反応による電気抵抗の変化、電位の変化、または電流密度の変化により中性化を検知する部材である、コンクリートの中性化環境評価用センサ。
【背景技術】
【0002】
通常、コンクリート中の鉄筋は、セメントの水和により生成した水酸化カルシウム等のアルカリ性物質により保護され腐食を免れている。しかし、空気中の炭酸ガスや亜硫酸ガス等の酸性物質がコンクリート内に侵入して、前記アルカリ性物質と反応し鉄筋周辺の中性化が進むと、鉄筋の防錆機能は失われる。その結果、鉄筋の腐食により生じる錆の膨張によって、コンクリートにひび割れが生じコンクリートの耐久性は著しく低下する。したがって、中性化の評価は、コンクリートの耐久性を維持管理するための指標として極めて重要である。
【0003】
ところで、従来の中性化の評価方法は、コンクリートから採取したコアの割裂面にフェノールフタレイン溶液(赤紫色)を噴霧し、無色に退色した中性化部分の深さを測定する方法が一般的であった。また、コンクリートの中性化を評価する方法は、他にもいくつか提案されている。
例えば、特許文献1には、コンクリートを穿孔する際に排出されるコンクリート粉のアルカリ性を検知してコンクリートの中性化深さを測定する方法が提案されている。また、特許文献2には、鉄筋が埋設されたコンクリート中にセンサを設置し、任意の間隔でモニタリングを行い収集した情報を用いて、鉄筋の腐食を予測する方法が提案されている。
【0004】
しかし、前記従来の方法や特許文献に記載の方法は、下記(1)〜(3)の問題がある。
(1)コアの採取や穿孔はコンクリートの損傷を伴うため、耐久性面の低下が懸念される。
(2)コンクリートの中性化は年単位で徐々に進行するため、通常、その評価は数年以上かかる。
(3)前記方法はそもそもコンクリートの中性化を事後的に、または同時に把握するものであり、コンクリート構造物の新規建設場所における中性化環境の事前評価には向かない。
ちなみに、事前評価が必要な場所は、酸性物質が比較的多く存在する温泉地帯や化学工業地帯等がある。このような場所では、コンクリートの耐久性を確保するため、鉄筋のかぶり厚さ等を十分に検討する必要があり、それには中性化環境の事前評価が重要になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、コンクリートが置かれた中性化環境を簡易かつ早期に評価できるセンサと、これを用いた中性化環境評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的にかなうセンサを検討したところ、後掲の
図1に示すように、(i)モルタルの中性化速度定数(中性化のし易さ)と、水/セメント比との間には、乾燥(気中曝露)期間に依らず、ほぼ同一の線形関係が成立すること、したがって、
(ii)中性化のし易さは、一義的に水/セメント比により決まること、そして、
(iii)この新たな知見に基づき創作した下記のセンサは、前記目的を達成できること
を見い出し本発明を完成させた。具体的には、本発明は以下の構成を有するものである。
[1]水/セメント比(質量比)が35〜200%、および水/粉体比(質量比)が25〜70%であるセメント組成物を、板状またはブロック状に成形してなるセメント組成物の硬化体を浸透部材とし、該浸透部材の1面は大気中に曝露された曝露面であり、該曝露面に対向する背面には電気的特性を利用して中性化を検知する中性化検知部材が設置され、該曝露面以外の面は遮断材により大気と遮断された遮断面である、コンクリートの中性化環境評価用センサ
であって、
前記中性化検知部材が、中性化に起因した腐食反応による電気抵抗の変化、電位の変化、または電流密度の変化により中性化を検知する部材である、コンクリートの中性化環境評価用センサ。
[2]前記
[1]に記載のセメント組成物の硬化体の1面および該1面に対向する背面は大気中に曝露された曝露面であり、該2つの曝露面との間に中性化検知部材が設置され、該曝露面以外の面は遮断材により大気と遮断された遮断面である、コンクリートの中性化環境評価用センサ
であって、
前記中性化検知部材が、中性化に起因した腐食反応による電気抵抗の変化、電位の変化、または電流密度の変化により中性化を検知する部材である、コンクリートの中性化環境評価用センサ。
[3]前記
[1]または[2]に記載のセンサの浸透部は、水/セメント比の異なる2以上のセメント組成物の硬化体が、前記曝露面および前記曝露面に対向する背面以外の面で連接され、かつ該連接面は酸性物質の移動が遮断されてなるものである、前記[1]
または[2]に記載のコンクリートの中性化環境評価用センサ。
[4]前記
[1]に記載の背面は、前記曝露面との距離(厚み)が段階的に異なるように階段状に形成されてなり、かつそれぞれの背面に中性化検知部材が設置されてなる、前記[1
]に記載のコンクリートの中性化環境評価用センサ。
[5]前記[1]〜[
4]のいずれかに記載のセンサを1個以上、評価の対象となる場所(2カ所以上)に設置し、センサの曝露開始から前記中性化検知部材が中性化を検知するまでの期間を求め、該期間を比較して中性化環境の評価を行う、コンクリートの中性化環境評価方法。
[6]前記[1]〜[
4]のいずれかに記載のセンサを1個以上、評価の対象となる場所に設置し、センサの曝露開始から中性化検知部材が中性化を検知するまでの期間を求め、該期間と曝露面から中性化検知部材の距離に基づき、下記(A)式を用いて中性化速度定数を算出し、該定数を用いて中性化環境の評価を行う、コンクリートの中性化環境評価方法。
D=C・t
1/2 ・・・(A)
(ただし、(A)式中、Dは曝露面から中性化検知部材の距離を表し、Cは中性化速度定数を表し、tはセンサの曝露開始から中性化検知部材が中性化を検知するまでの期間を表わす。)
【0008】
[6]前記[1]〜[5]のいずれかに記載のセンサを1個以上、評価の対象となる場所(2カ所以上)に設置し、センサの曝露開始から前記中性化検知部材が中性化を検知するまでの期間を求め、該期間を比較して中性化環境の評価を行う、コンクリートの中性化環境評価方法。
[7]前記[1]〜[5]のいずれかに記載のセンサを1個以上、評価の対象となる場所に設置し、センサの曝露開始から中性化検知部材が中性化を検知するまでの期間を求め、該期間と曝露面から中性化検知部材の距離に基づき、下記(A)式を用いて中性化速度定数を算出し、該定数を用いて中性化環境の評価を行う、コンクリートの中性化環境評価方法。
D=C・t
1/2 ・・・(A)
ただし、(A)式中、Dは曝露面から中性化検知部材の距離を表し、Cは中性化速度定数を表し、tはセンサの曝露開始から中性化検知部材が中性化を検知するまでの期間を表わす。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコンクリートの中性化環境評価用センサと中性化環境評価方法によれば、コンクリートの中性化環境を簡易かつ早期に評価することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の中性化環境評価用センサ、および中性化環境評価方法について説明する。
1.中性化環境評価用センサ
本発明の中性化環境評価用センサは、前記のとおり、特定の水/セメント比等を有するセメント組成物を、板状またはブロック状に成形してなるセメント組成物の硬化体を浸透部とし、該浸透部の1面は大気中に曝露された曝露面であり、該曝露面に対向する背面には電気的特性を利用して中性化を検知する中性化検知部材が設置され、該曝露面以外の面は遮断材により大気と遮断された遮断面を有するセンサである。そして、本発明のセンサを構成する浸透部は、セメント組成物の硬化体で形成され、炭酸ガスや亜硫酸ガス等の酸性物質が浸透する部材として機能する。
以下に、(1)セメント組成物の水/セメント比等、(2)センサの形態、および(3)センサの製造方法に分けて詳細に説明する。
【0012】
(1)セメント組成物の水/セメント比と水/粉体比
前記水/セメント比は質量比で35〜200%である。該比が35%未満では硬化体が密実で中性化の進行が遅いため評価期間が長くなるおそれがあり、200%を超えると硬化体の空隙が多く中性化の進行が不均一になって、評価精度が低下するおそれがある。該比は、好ましくは55〜180%、より好ましくは60〜160%、さらに好ましくは60〜150%である。
また、前記水/粉体比は質量比で25〜70%である。該比が25%未満ではセメント組成物の流動性が低く成形が困難になる場合があり、70%を超えるとセメント組成物の成形の際に材料分離が生じる場合がある。該比は、好ましくは30〜60%、より好ましくは30〜50%である。
【0013】
(2)センサの形態
前記[1]のセンサは浸透部材、中性化検知部材、および遮断材を含み、また、センサの強度の補強、小型化、および誤差要因の回避等のため、必要に応じて、任意の部材として外装材を含む。そして、浸透部材は、立体形状のセメント組成物の硬化体であり、成形の容易性から、好ましくは、
図2〜4に示すように、板状またはブロック状のセメント組成物の硬化体である。
そして、前記[1]のセンサの1面は、酸性物質が浸透部材内に侵入できるように大気中に曝露され、該曝露された面に対向する背面には中性化検知部材が設置され、該曝露面以外の面は酸性物質の侵入を防止するため遮断材により大気と遮断されている。該遮断材は、酸性物質の侵入を防止できるものであれば、特に限定されず、例えば、フィルム、シート、塗膜、および板等から選ばれる1種以上が挙げられる。該遮断材は、粘着剤、接着剤、およびビス止め等の公知の方法で硬化体面に固定できる。なお、前記外装材が遮断材としての機能を有する場合は、外装材を遮断材に含めるものとする。
【0014】
前記中性化検知部材は、酸性物質(中性化の原因物質)による金属の腐食反応に起因する、電気抵抗の変化、電位の変化、および電流密度の変化等に基づき中性化を検知する部材であって、腐食反応により電気的特性が変化する導体パターン部を、金属薄膜を用いて下地材の上に形成してなる部材である。
前記導体パターン部の形状は、酸性物質との接触確率が高く腐食反応が進みやすい形状が好ましく、例えば、
図9に示すような、つづら折りの形状等が挙げられる。
また、前記導体パターン部を構成する金属は、炭酸ガスや亜硫酸ガス等の酸性物質との腐食反応により、電気的特性が変化する金属であれば特に限定されず、例えば、イオン化傾向が大きい鉄、鉄の合金、および亜鉛等が好ましい。
さらに、前記下地材は、電気的な絶縁性が高く、セメント組成物の硬化体に含まれるアルカリ成分と反応せず、かつ耐候性や耐水性が高い材料であれば特に制限されず、例えば、ガラスエポキシ等のガラスコンポジット材料、フェノール樹脂、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、またはPETなどのポリカーボネート等が挙げられる。
【0015】
次に、
図9に基づき、中性化検知部材を説明する。
中性化検知部材100は、金属薄膜(例えば、鉄を圧延して作製した鉄箔材)で形成した導電パターン部101と、導電パターン部101を保持する下地材102と、導体パターン部101の一部に設けられた貴金属(例えば、金)で形成された薄膜部103とを備えている。導電パターン部101の端部には、測定用端子101aが設けられている。導電パターン部101は、酸性物質による腐食により電気的特性が変化する。
また、電気的特性により腐食を検知するメカニズムは以下のとおりである。
金属の陽極部と陰極部が明確に区別できるような電池が形成されたものをマクロセルといい、両極間を流れる電流を腐食電流(マクロセル電流)という。そして、腐食により金属薄膜がイオン化する反応(アノード反応)と、金属薄膜の表面で酸素が還元される反応(カソード反応)が同時に進行し、アノード部は卑な電位、カソード部は貴な電位となって電位差が生じ、アノード部からカソード部に腐食電流が流れて、金属薄膜の腐食が進む。この原理を利用して、貴金属で形成された薄膜部103(カソード部)を設けることにより、導体パターン部101の腐食が進行して、腐食をより早く把握できる。
中性化検知部材は、中性化を検知する装置に直接接続して、導電パターン部の腐食反応にともなう電気信号を計測するか、または、
図10に示すように、計測回路を有する無線装置にあらかじめ接続して無線で計測してもよい。
【0016】
また、腐食を検知し得る電気的特性として、(i)電気抵抗の変化、(ii)電位の変化、および(iii)電流密度の変化等が知られている。以下、該電気的特性について説明する。
(i)電気抵抗の変化
中性化検知部材100の導体パターン部101の腐食に伴い、金属の断面積は減少し、これに伴って、
図12に示すように電気抵抗が増加する。したがって、電気抵抗の変化により腐食(中性化)を検知できる。
(ii)電位の変化
中性化検知部材101の金属が腐食すると、金属がイオン化する際に腐食発生箇所(アノード)の電子が未腐食箇所(カソード)に移動して電位差が生じる。これを駆動力として継続的に腐食電流が生じ、腐食が進行することから、例えば電極を用いて、金属間の電位差を計測することにより、腐食現象の発生前と発生後の電位の変化から、腐食の発生を判定することができる。
(iii)電流密度の変化
腐食は、腐食回路の生成により生起する現象であり、腐食電流に伴って生ずる腐食部位の電流密度の変化を計測することにより、腐食現象を捉えることができる。
【0017】
図11に中性化検知部材の製造方法のフローチャートを示す。具体的には、中性化検知部材の製造方法は、下記(i)〜(v)に記載のとおりである。
(i)金属薄膜(
図11では鉄箔材)と下地材102とを一体化させて、金属薄膜シートを作製する。該一体化の方法としては、例えば、下地材として樹脂フィルム(例えば、PET、ポリイミド材等の樹脂フィルム)に、接着剤を塗布し、ローラ等を用いて、鉄箔材と下地材102とを張り合わせる。
(ii)作製した金属薄膜シートの金属薄膜上に、導体パターン部101と回路の形状のレジスト膜を、スクリーン印刷やフォト印刷等によって形成する。また、このとき一緒に、完成後に中性化検知部材100を抜き型によって個々に切断して分離するためのガイド等も印刷する。
(iii)レジスト膜を形成した金属薄膜シートは、エッチング槽にてエッチングする。これにより、レジスト膜が施されていない露出した金属薄膜は、エッチング液(例えば、塩化第2鉄溶液)に溶解し、エッチングの終了後は、金属薄膜シートをエッチング槽から取り出して付着液を洗浄する。
(vi)レジスト被膜を溶剤等によって除去し、導体パターン部101および回路の外形を形成する。
(v)金属薄膜シートの分割を行ない、マスキングを剥離し、導体パターン部101を完成させ、その後、抜き型を用いて、保護処理を施したセンサを個々に切断・分離し、コードを取り付ける。
【0018】
(3)センサの製造方法
本発明のセンサの浸透部はセメント組成物の硬化体で構成され、酸性物質の浸透部材として機能するものであり、好ましくはモルタル、またはセメント硬化体(セメントペースト硬化体)である。
前記セメント組成物中のセメントは、特に限定されず、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、石炭灰含有セメント、シリカセメント、白色セメント、およびエコセメント等から選ばれる1種以上が挙げられる。
また、前記セメント組成物の混練水は、中性化環境評価に悪影響を与えないものであれば用いることができ、例えば、上水道水や再生水等である。
【0019】
前記硬化体がモルタルの場合、用いる細骨材は、川砂、陸砂、珪砂、および軽量骨材等から選ばれる1種以上が挙げられる。また、該細骨材は天然骨材のほか再生骨材も使用できる。
細骨材の粒度によってはセンサの厚みの下限が制限されるためと、骨材の偏在を防止するため、前記細骨材は、好ましくは呼び寸法が2.5mmのJIS標準ふるいを全通するものであり、より好ましくは呼び寸法が850μmのJIS標準ふるいを全通するものである。
また、前記細骨材の配合量は、好ましくは細骨材/粉体比(質量比)で3以下である。該値が3を超えると、粉体ペーストの量が少ないため、成形性が低下して粗大な空隙が生じる場合がある。また、前記細骨材の単位容積率は、好ましくは60%以下である。
【0020】
さらに、前記硬化体は硬化体の密実性等を調整するため、混和材を含むことができる。該混和材は、好ましくは石灰石微粉末や珪石粉等の、潜在水硬性やポゾラン活性を有しない鉱物質微粉末である。該混和材の粉末度は、ブレーン比表面積で、好ましくは2500〜10000cm
2/g、より好ましくは3000〜8000cm
2/gである。該値が2500cm
2/g未満では、保水性や材料分離抵抗性が低下してセンサの品質変動が生じる場合があり、10000cm
2/gを超えると粘性が増して成形が困難になる場合がある。また、前記混和材の置換率は、好ましくは10〜85質量%である。なお、前記置換率とは、混和材とセメントの質量の合計を100とした場合の混和材の含有率(質量%)である。
【0021】
また、前記硬化体は、乾燥収縮によるひび割れを防止するため、ビニロン繊維、ポリエチレン繊維、およびポリプロピレン繊維等の有機繊維や、鋼繊維およびガラス繊維等の無機繊維や、収縮低減剤および保湿剤等を含んでもよい。該繊維の添加量は、好ましくはセメント組成物中の粉体量に対し質量比で0.02以下である。
また、セメント組成物の流動性を高めるため、減水剤、AE減水剤、および高性能AE減水剤等の減水剤を添加してもよい。該減水剤の添加率は、好ましくはセメント組成物中の粉体量に対し質量比で0.05以下である。
さらに、前記セメント組成物は、流動性等のフレッシュ性状を良好に保つため、空気量調整剤を用いて空気量を調整してもよい。該空気量は好ましくは5〜30%である。該値が5%未満ではセメント組成物の流動性や表面仕上げ性が低く、30%を超えると脱気し易く空気量が変動する場合がある。該値は、より好ましくは5〜25%、さらに好ましくは10〜25%である。なお、前記セメント組成物の流動性は15打のフロー値(JIS R 5201−1997)で表わせば、好ましくは105〜250mmである。
なお、本発明のセンサの構成材料は、評価の精度の観点から、評価対象のコンクリートが決定している場合は、該コンクリートに用いる材料と同じものが好ましい。
【0022】
本発明のセンサを構成する浸透部材は、型枠への流し込み成形、押出成形、プレス成型、振動加圧成形等により製造できる。例えば、中性化検知部材を、アクリル製や高強度モルタル製の型枠(外装材)の底面側に設置し、曝露面側に前記セメント組成物を打設する。そして、成形後に成形体は、湿潤養生、水中養生、蒸気養生、およびオートクレーブ養生等を行ってもよい。
【0023】
次に、前記[2]、[4]および[5]に記載のセンサについて説明する。
前記[2]に記載のセンサは、浸透部材として前記セメント組成物で形成され、前記セメント組成物の硬化体の1面および該1面に対向する背面は大気中に曝露された曝露面であり、該2つの曝露面との間に中性化検知部材が設置され、該曝露面以外の面は遮断材により大気と遮断された遮断面を有するものである。そして、[2]のセンサは、前記[1]のセンサと異なり、2つの面からのセンサの曝露開始から前記中性化検知部材が中性化を検知するまでの期間を測定できるため、1回の試験で2倍のデータが得られ、その分、環境評価の信頼性が高まる。
【0024】
また、前記[4]に記載のセンサは、
図5と
図6に示すように、水/セメント比が異なる2以上のセメント組成物の硬化体が、曝露面およびその背面以外の面で連接され、かつ該連接面は酸性物質の移動が遮断されてなるものである。該センサを用いれば、コンクリートの水/セメント比の違いを考慮した中性化環境の評価を、まとめて1度に行うことができるため効率がよく、また、取得データ数が増えるから、その分、評価の精度も向上する。
【0025】
さらに、前記[5]のセンサは、
図7と
図8に示すように、前記背面と曝露面との距離(厚み)が段階的に異なるように、前記背面が階段状に形成されてなり、かつ階段状の各背面には中性化検知部材が設置されてなるものである。また、センサの別の形態として、背面を階段状に形成する代わりに、曝露面において浸透部材の厚みが異なるように階段状にすることもできる。前記遮断材は曝露面以外の面を大気から遮断するために、曝露面以外の面には遮断材が設けられている。この形状によれば、同じ材質(水/セメント比等)の複数のセンサにより、曝露開始から前記中性化検知部材が中性化を検知するまでの期間を求めることができるため経済的である。
前記セメント組成物の硬化体(浸透部材)の厚みは、特に限定されないが、中性化速度等を考慮すると、好ましくは2〜100mm、より好ましくは5〜60mmである。該値が2mm未満ではセンサにひび割れが生じる場合があり、100mmを超えると評価期間が長くなり過ぎる。
【0026】
2.コンクリートの中性化環境評価方法
本発明のコンクリートの中性化環境評価方法は、前記[6]および[7]に記載された方法であり、以下、該方法について具体的に説明する。
(1)前記[6]に記載の評価方法
該方法は、前記[1]〜[5]のいずれかに記載のセンサを1個以上、評価の対象となる場所(2カ所以上)に設置し、センサの曝露開始から中性化検知部材が中性化を検知するまでの期間を求め、該期間を比較して中性化環境を評価する方法である。
ここで、前記[1]〜[5]に記載のセンサを1個以上とは、前記[1]〜[5]に記載のセンサから選択された同種類のセンサを2個以上用いる場合と、異なる種類のセンサを2個以上用いる場合のいずれも含む。
設置するセンサの個数は1個以上、好ましくは3個以上であり、また、該センサの厚みは1水準以上、好ましくは2水準以上であり、該センサの水/セメント比は1水準以上、好ましくは3水準以上である。前記の各好ましい水準数であれば、評価の精度は向上する。
なお、前記評価の対象となる環境に設置するとは、コンクリートの設置を予定している場所、または評価の対象であるコンクリートと同一の中性化環境を有する範囲に設置することをいい、可能な限りコンクリートの近くに設置するのが好ましい。
【0027】
コンクリートの中性化環境は、直接的には中性化深さと期間で評価できるため、[6]の評価方法では、曝露面から中性化検知部材までの距離を一定にした場合の、センサの曝露開始から中性化検知部材が中性化を検知するまでの期間を評価指標として用いる。該評価方法について具体例を用いて説明すれば、A地点とB地点のそれぞれに同じ厚さの浸透部材を有するセンサを1個以上設置し、中性化検知部材が中性化を検知するまでの期間を測定する。A地点に設置したセンサにおける該期間が100日、B地点に設置したセンサにおける該期間が70日とすれば、B地点の中性化環境はA地点と比べ相対的に厳しい中性化の環境であると定性的かつ容易に評価できる。
【0028】
(2)前記[7]に記載の評価方法
該方法は、センサの曝露開始から中性化検知部材が中性化を検知するまでの期間と、曝露面から中性化検知部材までの距離から、前記(A)式を用いて中性化速度定数を算出し、該定数を用いて中性化環境の評価を定量的に行うものであり、以下の方法が挙げられる。
(i)中性化速度定数の比を用いる方法
該方法について、前記(1)で挙げた具体例を前記(A)式に当てはめて具体的に説明する。
前記(1)の具体例によれば、中性化速度定数は、A地点でC
A=10(mm)/100
1/2(日)=1.0、B地点でC
B=10(mm)/80
1/2(日)=1.2になる。そして、両地点の中性化環境の違いを両地点の中性化速度定数の比(K)で表すと、K=C
B/C
A=1.2/1.0=1.2が得られ、B地点はA地点と比べ20%程度中性化し易い環境にあると定量的に評価できる。
【0029】
(ii)標準環境を設定して用いる方法
例えば、前記A地点の中性化環境を標準環境として設定し、A地点における中性化速度定数を標準値(標準中性化速度定数)として求めておけば、次回以降の評価において、評価対象場所の評価は、該中性化速度定数と該標準中性化速度定数との比を用いて行なえ、センサの曝露開始から前記中性化検知部材が中性化を検知するまでの期間の測定は評価対象場所だけで済み経済的である。
さらに、中性化評価を一般化するため、前記標準環境としてコンクリートの一般的な乾燥環境である20℃、相対湿度60%を設定し、該環境下で求めた標準中性化速度定数と、評価対象の構造物がある環境下で求めた中性化速度定数とを比較してもよい。
具体的には、B地点での中性化環境は、B地点での中性化速度定数(C
B)と標準中性化速度定数(C
S)を用いた下記(B)式により、一般化して定量的に評価できる。
K=C
B/C
A、またはK=C
B/C
S ・・・(B)
(B)式中、Kは中性化速度定数比を表し、C
AとC
Bは、それぞれA地点の中性化速度定数とB地点の中性化速度定数を表し、C
Sは標準中性化速度定数を表わす。
【0030】
本発明において、曝露期間と中性化深さから前記(A)式を用いて中性化速度定数を算出する方法は、センサの曝露開始から前記中性化検知部材が中性化を検知するまでの期間を説明変数とし中性化深さを目的変数として、(A)式を用いて曲線のフィッティングを行うか、または、(A)式の対数をとって対数関数の1次式に変換し、その切片の値(logC)から求める。もっとも、(A)式は経験上精度が高いことが知られているから、使用できるデータが1つの場合、(A)式にセンサの曝露開始から前記中性化検知部材が中性化を検知するまでの期間と中性化深さの値を直接代入して、中性化速度定数を算出してもよい。
【0031】
3.本発明の評価結果を建物の仕様へ反映する方法
コンクリート構造物中の鉄筋は、鉄筋を覆うかぶりコンクリートによって、中性化による腐食から保護されている。したがって、通常、構造物の重要性や耐用年数により、設計段階で、標準的な環境(20℃、相対湿度60%の定常的な乾燥環境)を想定してコンクリートのかぶり厚さを設定する。例えば、耐用年数50年として標準環境の中性化速度定数(Cs)を用いると中性化深さはCs×(50年)
1/2になり、これに安全係数をかけてかぶり厚さが求まる。
【0032】
また、実際に建物が置かれる場所で求めた中性化速度定数をC
Rとすると、C
R/Cs=1.0であれば、設計仕様でよいと判断できる。一方、該比が1.0を超えると中性化のリスクが増し、さらに安全係数を超えると該構造物は中性化による鉄筋腐食により、想定した耐用年数を下回ると予想される。
実際に、現場の環境条件を事前に把握することは難しく、従来のように、安全係数を過大にとって設計した場合、コンクリートの使用量が増加するほか、建築物中の居住空間が減少して実質的なコスト増に繋がり易い。
【0033】
これに対し、本発明のセンサを用いて、予め標準環境での中性化速度定数Csを把握しておけば、該センサを用いて求めた現地における中性化速度定数C
Rに基づき、適切なかぶり厚さを設定できる。具体的には、C
R/C
S=1.2とすれば、設定された耐用年数でのかぶり厚さは、中性化深さを1.2倍として設計した上に、安全係数を乗じて決定することが望ましい。
【0034】
また、コンクリートの水/セメント比を予め低く設定すれば、同一のかぶり厚さでも対応可能となる。例えば、C
R/C
S=1.2で、中性化速度定数と水/セメント比(%)の線形関係式の傾きが0.024とすると、0.2/0.024=8.3となるから、水/セメント比を9%程度低く設定すれば、中性化に起因するリスクを考慮に入れて、当初の設計を修正することができる。なお、ここで使用するセンサは、単一の水/セメント比のセンサ、または複数の水/セメント比のセンサのいずれでもよい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.使用材料
(1)セメント:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
(2)細骨材:珪砂(細目砂)、呼び寸法が850μmのJIS標準ふるいを全通した珪砂。
(3)混和材:石灰石微粉末、ブレーン比表面積6000cm
2/g
(4)水:上水道水
(5)AE減水剤:JIS A 6204 AE減水剤・標準形I種に適合するリグニンスルホン酸化合物
(6)空気量調整剤:JIS A 6204 AE剤・I種に適合するアルキルエーテル系陰イオン界面活性剤
【0036】
2.中性化試験
表1に示す配合に従い4種のモルタルを混練し、縦80mm、横150mm、厚さ50mmの大きさであって、それぞれ曝露面から5mm、10mm、15mm、20mm、30mm、および40mm離れた位置に6つの中性化検出部材(電気抵抗の変化により腐食を検知し得る部材)を埋め込んでなるブロック状のセンサ(
図7の(a)のタイプ)を成形した後、20℃で7日間密封養生を行った。
【0037】
【表1】
【0038】
次に、該センサの1面を残し他の5面をマスキングシートで被覆して大気中に曝露した。
センサの曝露開始から、各深さに埋め込んだ中性化検出部材が電気抵抗の変化により中性化を検知するまでの期間(
図12参照、ここでは閾値を200Ωとした。)を求め、該期間と、曝露面から中性化検知部材までの距離に基づき、前記(A)式を用いて中性化速度定数を算出した。
図13に、センサの中性化深さ(実験値)と、その回帰曲線を示す。
【0039】
また、
図13に示す結果から中性化速度定数と(A)式を用いて算出した予測曲線と、その現場で実際に、水/セメント比が60%および70%にて製造して設置したコンクリートの中性化深さの検証値との関係を
図14に示す。
図14に示すように、該予測曲線は検証値とよく一致し、本発明は中性化環境の評価だけでなく実構造物の中性化深さの予測にも用いることができる。なお、
図14に記載の薬液法とは、従来から行われている中性化試験方法であり、大気に曝露したコンクリート供試体を切断し、その断面に1質量%フェノールフタレイン溶液を噴霧して、無色に退色した部分の長さ(中性化深さ)を測定する方法である。本発明のセンサと薬液法よる中性化深さはよく一致している。
以上のことから、本発明のコンクリートの中性化環境評価用センサと中性化環境評価方法を用いれば、コンクリートの中性化環境を簡易かつ早期に評価することができる。