(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、必要に応じて図面を参照しながら、この発明の実施の形態に係る減酸素装置及び冷蔵庫を説明する。
(第1実施形態)
図1の正面図に、実施形態の減酸素収納庫2を有する冷蔵庫1を示す。減酸素収納庫2は、大気(20.95%)よりも酸素濃度を下げることが可能な領域を有する部屋である。また、冷蔵庫1には、減酸素装置3の運転を制御する制御部4が設けられることが好ましい。
【0009】
制御部4には、ユーザが自ら操作して減酸素装置3を制御することができる操作部が設けられることが好ましい。また、制御部4には、予め定められた時間に自動的に減酸素装置3を運転させることが可能なプログラムが保存され自動運転が可能であることが好ましい。また、減酸素収容庫2の開閉頻度や減酸素収容庫2内の酸素濃度を測定(推定を含む)して又は測定した時間を記憶し、開閉頻度の少ない時間帯や酸素濃度の高い時間帯に自動的に減酸素装置3を運転させることも可能であることが好ましい。家庭用の冷蔵庫などでは、消費電力や減酸素装置3に伴う保存領域の減少などの問題がある。さらに、減酸素運転時の発熱や減酸素運転に必要な水の供給に制限があるため、常時、減酸素運転を行うことは難しい。そこで、限定的な時間帯に効率よく減酸素運転を行う必要がある。実施形態では、水吸着供給部7を減酸素装置に採用した。
【0010】
図2の断面図に、実施形態の減酸素収納庫2を示す。減酸素収容庫2は、保存領域を有する減酸素室5と減酸素装置3を有する。減酸素室5に出し入れされる野菜や
魚などの保存対象物を低温・低酸素濃度下で保存可能である。保存対象物を出し入れするために、減酸素室5は、例えば、冷蔵庫本体1の前面に開口が可能である。この開口は開閉部材で開閉され、開閉部材が閉じられた状態で減酸素収納庫2は密閉状態に保持されるようになっている。減酸素収容庫2がスライド型の容器と冷蔵庫などの装置の筐体と密着させることで、減酸素室5を閉じることができる構成なども実施形態に含まれる。
【0011】
次に、
図2の断面図を参照して減酸素装置3を説明する。この減酸素装置3は、減酸素素子6と、水吸着供給部7と、電圧印加手段8とを有する。減酸素素子6と水吸着供給部7と電圧印加手段8を合わせた構成を実施形態の減酸素装置とする。
【0012】
減酸素素子6は、アノード10と、カソード11と、これらアノード10及びカソード11で挟まれた電解質膜12と、アノード集電板13と、カソード集電板14と、を有している。アノード10、カソード11、及び電解質膜12は、例えば、ホットプレスにより接合されて一枚の膜電極接合体を形成している。電圧印加手段8は、減酸素素子6へ電圧を印加する電源である。
【0013】
アノード10は、アノード10に供給される水をプロトン、電子と酸素に電気分解する機能を有している。空気中に存在する水分と水吸着供給部7の吸着材9から蒸発した水分がアノード10の電気分解反応に使用される。このアノード10は、アノード基材にアノード触媒を含有させて形成されている。アノード触媒として、例えば、白金、酸化ルテニウム、酸化イリジウムなどを挙げることができる。アノード10はその周部に取付けられたアノードガスケット15で保持されている。アノードガスケット15は、例えばシリコンゴム又はデュポン社製のテフロン(登録商標)等で形成されている。
【0014】
カソード11は、酸素とプロトンと電子から水を生成する機能を有している。プロトンは、アノード10から供給される。酸素は減酸素室5内から供給され、減酸素室5内の酸素が反応によって、消費されることで、減酸素室5内の酸素濃度を約21%から例えば、15%程度にまで下げることができる。このカソード11は、カソード基材にカソード触媒を含有させて形成されている。カソード11は、カソード触媒層、多孔質層、及びガス拡散層を接合してなるが、図の理解を容易にするために
図2においてカソード11は単層の状態で描かれているが、多層の形態でもよい。カソード触媒には白金又は白金を含む触媒材料が用いられる。カソード11はその周部に取付けられたカソードガスケット16で保持されている。カソードガスケット16は、例えばシリコンゴム又はデュポン社製のテフロン(登録商標)等で形成されている。
【0015】
なお、アノード触媒及びカソード触媒は、ともに前記触媒材料に他の触媒材料が混入されていてもよい。更に、アノード10の基材及びカソード11の基材には、例えばメッシュ構造のチタンを好適に用いることができる。これとともに、これらの基材及び触媒には例示しない他の好適な材料を用いることも可能である。
【0016】
プロトン伝導性電解質膜12は、アノード10からカソード11へ
プロトン伝導する材料であって、このプロトン伝導性電解質膜12としては、例えば、高分子固体電解質膜である。この電解質膜12には例えばデュポン社製のナフィオン(登録商標)を好適に使用できる。
【0017】
アノード10の電解質膜12に接触した側面と反対側の側面には、アノード10と接触する形で接続したアノード集電板13が配置されている。アノード集電板13には、例えばチタンやステンレスなどの金属板を用いることができる。
図2の断面図に示すように、アノード集電板13は、アノード10と接する部位の一部に1以上の開口部60(
図2では、開口部60は、一個のみ図示)を有していることが好ましい。開口部60からは、アノード10が露出している。開口部60の開口形状は、例えば、スリットである。
【0018】
カソード11の電解質膜12に接触した側面と反対側の側面には、カソード11と接触する形で接続したカソード集電板14が配置されている。カソード集電板14には、例えばチタンやステンレスなどの導電性材料からなる板を用いることができる。
図2の断面図に示すように、カソード集電板14は、カソード11と接する部位の一部に、1以上の開口部70(
図2では、開口部70は、一個のみ図示)を有している。開口部70はカソード11に対する空気の供給用及びカソード11で生成された水を排出するために設けられ、カソード11が露出している。開口部70の開口形状は、例えば、スリットである。
【0019】
アノード集電板13と接続した水吸着供給部7は、外部と連通しており、空気の供給と排出のための経路となる空隙と吸着材9を有し、吸着材9を収容する容器である。開口部60を介して、吸着材9からアノード10へ水分を供給することができる。水吸着供給部7は、少なくとも開口部60と接続していることが好ましく、接続した領域からアノード10へ水分を供給することができる。水吸着供給部7は、開口部60に接続する領域と空気供給口20及び空気排出口21が開口している。水吸着供給部7の開口した領域の内部に、吸着材9が存在する。吸着材9の一部が、開口部60の領域中に存在していてもよい。水吸着供給部7は、伝熱性の部材で構成されると吸着材9への熱伝導の観点から好ましい。水吸着供給部7は、銅、アルミニウムと炭素のいずれかを含むことが好ましい。水吸着供給部7は、樹脂で被覆されていると、水吸着供給部7の部材が一部イオン化し、その金属イオンを含む水分によってアノード10の劣化を防ぐことができるという観点から好ましい。吸着材9は、空気中の水分を物理的又は化学的に吸着し、水分を脱離することのできる材料を含むことが好ましい。吸着材9は、緻密ではなく開口部20から流入する空気との接触面を多くするため,多孔質体であることが好ましい。物理吸着もしくは化学吸着する吸着材9によって水分を吸着し、加熱することで水分を脱離することが可能である。吸着材9に含まれる材料としては、例えばシリカゲル、ゼオライトなどの中から選ばれる1種以上を用いることができる。吸着材9には、塩化カルシウムやポリリン酸カリウムなどが含まれていてもよい。吸着材9への加熱は、減酸素素子6の電気分解反応に伴う熱を熱源とすることができるため、加熱部材無しに減酸素素子の動作時に、吸着材9を加熱することができる。この場合、減酸素素子6を、吸着材9の加熱部材としてみなすことができる。減酸素素子6を吸着材9の加熱部材としてみなす場合は、減酸素素子6と水吸着供給部7を熱的に接続することが好ましい。
【0020】
吸着材9は、粒状又は多孔質の塊状が好ましい。粒状の場合、直径10μm以上5mm以下程度の球状体の粒子を含むことが好ましい。水吸着供給部7には、吸着材9への水分の供給源となる空気が供給されることが好ましい。水吸着供給部7に空気を供給するための開閉口として、空気供給口20と、空気排出口21が設けられていることが好ましい。
図3の断面図に示すよう、空気供給手段17を用い、空気供給口21から冷蔵庫内の空気を供給すると、吸着材9の空隙を空気が通過し、吸着材9は通過空気に含まれる水分を吸着する。吸着材9を通過した空気は空気排出口21から再び冷蔵庫内へと排出される。
【0021】
空気供給手段17は、水吸着供給部7に空気を送風するための手段である。空気供給手段17は、空気供給口20と空気排出口21の少なくともいずれか一方に設けられることが好ましい。空気供給手段17として、送風機が用いられることが好ましい。なお、気流が十分にある場合は、送風機を設けずに開閉口のみでもよい。冷蔵庫1内部又は外部の空気を吸入し、水吸着供給部7へと供給した後、冷蔵庫1内部又は外部へと放出する。減酸素素子6の動作中は、吸着材9から蒸発した水分が拡散しないように、空気供給手段17を停止または開閉口を閉じた状態が好ましい。
【0022】
吸着材9は、水分の吸着脱離を繰り返し行うことができる。しかし、タンパク質や油分を吸着すると、これらは加熱によっては脱離することができず、吸着材9が劣化してしまう。例えば、冷蔵庫は、台所に設置されることが多いため、油分の多い環境である。そこで、実施形態では、空気供給口20と空気排出口21の少なくともいずれか一方に、油分又はタンパク質の除去フィルタを設けることが好ましい。または、活性炭などの吸着性物質を吸着材9に含ませてもよい。
【0023】
ヒータ50は、吸着材9を加熱する役割を果たす加熱部材である。ヒータ50は、水吸着供給部7と接続する。ヒータ50は、電熱線へ電気を流すなどすることで発生した熱を吸着材9へ伝える。ヒータ50の熱又はヒータ50と減酸素素子6の熱で、吸着材9の温度が上昇し、吸着材9から蒸気が放出される。ヒータ50は、吸着材9を直接加熱してもよいし、吸着材9の容器である水吸着供給部7や図示しない伝熱部材を介して、吸着材9を間接的に加熱してもよい。なお、減酸素装置3において、先述のようにセル自体の発熱を利用することでヒータ50を省略することができる。減酸素室5内の温度変化は、減酸素室5内の食品等の保存に悪影響を与えるため、好ましくないが、実施形態のヒータ50は、冷却が必要とされる減酸素室5の外部に配置されるため、減酸素室5内への温度変化への影響が少ないという利点を有する。ヒータ50による加熱は、低温であると、水分の脱離が不十分であり、高温であると、保存対象物の温度が上がってしまうため好ましくない。そこで、ヒータ50による加熱は、吸着材9の温度で、30℃以上60℃以下になるように行うことが好ましい。
【0024】
次に
図4のチャート図を例に、減酸素装置3の運転方法を説明する。運転方法に関しては、上述の構成の一部の機能を採用した方法について説明する。
ユーザがスイッチ4を押し、減酸素運転開始指令がなされると、空気供給手段17の運転が停止する。次いで、加熱ヒータ50が動作し、水吸着供給部7(吸着材9)が予め定められた温度(T
set)に加熱される。また、電圧印加手段8が動作し、減酸素素子6に設定電圧V
setが印加されて減酸素装置3の運転サイクルが開始される(ステップS01→S02→S03→S04→S05)。
【0025】
こうして減酸素素子6に電圧が印加されると、アノード10では、空気中の水分を利用して、水の電気分解反応が進行する。大気中の水分のみではアノード10へ供給される水分が不足するため、減酸素素子6の能力に対して十分な減酸素運転を行えないが、吸着材9から水分が蒸気として放出されるため、実施形態ではアノード10への水分の供給が不足せずに、減酸素装置を運転することができる。アノード10で蒸気が電気分解されるとともに、カソード11で水が生成される。
即ち、アノード10での水の電気分解反応により、酸素(O
2)と、プロトン(H
+)と電子(e
−)が生成される。
【0026】
この反応は、2H
2O→O
2+4H
++4e
−の式(1)で表される。こうして生成された酸素(O
2)は、アノード10側から排出口7を通して減酸素装置3の外部に排出される。
この一方で、生成されたプロトン(H
+)は、アノード10から電解質膜12を通ってカソード11に移動する。これとともに、生成された電子(e
−)は電圧印加手段8を含んだ図示しない外部回路を通ってカソード11に移動する。
【0027】
カソード11には、減酸素室5内の空気(酸素と窒素)が、カソード集電板14の開口部70を通って供給されている。このため、カソード11において、減酸素室5内の酸素(O
2)と、カソード11に供給されたプロトン(H
+)及び電子(e
−)とが反応して水が生成される。
【0028】
この反応(減酸素反応)は、O
2+4H
++4e
−→2H
2Oの式(2)で表される。このようなカソード11での酸素の還元反応で、空気中の酸素が水になることで、減酸素室5内の酸素濃度が減少する。
そして、酸素濃度が所望の値まで低減したら、運転を停止する(ステップS05→S06→S07)。ここで、酸素濃度の低減を検知する手段として、酸素濃度センサーを用いる方法や、経過時間から推定する方法、および、電圧印加時の負荷電流から推定する方法などが用いられる。アノード10への水分の供給量が足りない場合は、電流値の減少によって知ることができ、これも減酸素運転の終了の目安になる。所望の酸素濃度は、減酸素運転の効率や減酸素による保存性の効果にもよるが、5%以上15%以下が好ましい。
【0029】
減酸素装置3の運転停止がなされると、ヒータ50の加熱と電圧印加手段8による電圧印加は停止され、空気供給手段17が動作し、冷蔵庫内の空気を水吸着供給部7に供給する。これにより、冷蔵庫1内の空気中に含まれる水分が吸着材9に吸着される(ステップS07→S08→S09→S10)。
【0030】
実施形態では、停止中に冷蔵庫内の空気中の水分を吸着材9に吸着させ、運転時に吸着した水分をアノード10へ供給する。冷蔵庫のような低温環境では空気中の水分量が少ないが、停止中に冷蔵庫1内に含まれる水分を吸着材9に吸着させておくことで、水分の絶対量を確保することが可能となる、これにより、運転時には素早く所望の酸素濃度まで低減可能になる。減酸素収容庫2の開閉頻度が少ない時間帯に、減酸素室5内を減酸素状態にすることで、長時間にわたって減酸素状態にすることができ、減酸素による保存性の効果を向上させることができる。そこで、ユーザによって設定された運転開始時刻、ユーザによって減酸素運転が開始された時機、ユーザの減酸素収容庫2の開閉頻度の少ない時間帯を記憶し、その時間帯が開始する時機に減酸素運転を開始することが好ましい。減酸素運転は、一日に複数回行ってもよい。
【0031】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について
図5と
図6の断面図を参照して詳細に説明する。第2実施形態は、水吸着供給部80が吸着材9と伝熱板81を交互に有することなどが第1実施形態と異なる。第1実施形態と共通する構成や運転方法については、その説明を省略する。
第2実施形態の減酸素装置30は、減酸素素子6と、水吸着供給部80と、電圧印加手段8とを具備している。
【0032】
図5と
図6の断面図に示すように、水吸着供給部80は、伝熱板81と吸着材9を交互に有し、伝熱板81間には、吸着材9への空気の供給と排出の経路となる空隙82を有する。空隙82の少なくとも一方の端部が開口し、空気の供給排出口となる。伝熱板81は、背板83で支持される。背板83はヒータ50で代用することができる。伝熱板81と背板83は、熱伝導性の観点から、銅、アルミニウムと炭素のいずれかを含むことが好ましい。水吸着供給部80では、吸着材9が存在する領域が、伝熱板81で小さく仕切られている。この構成とすることで、重力などの影響により、吸着材9が水吸着供給部80中で偏在することを防ぐことができる。従って、実施形態1に比べて、吸着材9は水分の吸着と脱離を効率的に行うことができる。また,伝熱板がヒータ50の熱を吸着材に均一に素早く伝える役割を果たし,水分の脱離を効率的に行うことができる。水吸着供給部80は、運転中に外部への蒸気の漏出を減らすために、伝熱板81の幅Wは、奥行きDよりも大であることが好ましい。
【0033】
図6の断面図に示すように、空隙82の開口面にはフィルタ84が取付けられている。フィルタ84は空気の透過性と、吸着材9が水吸着供給部80内からの脱離を防止する役割を果たす。フィルタ84は、伝熱板81と背板83の少なくとも一方と接着剤やテープなどで固定される。フィルタ84は前述の油分やたんぱく質の除去も行えることがより好ましい。フィルタ84の部材は、PTFEフィルタ、不織布などを用いることができる。また、フィルタに有害物を除去する目的で活性炭などを担持させても良い。減酸素運転中にフィルタ84を閉じることができるようにシャッタが設けられていてもよい。
【0034】
次に、
図7のチャート図を例に、減酸素装置30の運転方法を説明する。
例えば、ユーザが制御部4のスイッチを押し、減酸素運転開始指令がなされると、ヒータ50が動作し、水吸着供給部80が予め定められた温度(T
set)に加熱される。また、電圧印加手段8が動作し、減酸素素子6に設定電圧V
setが印加されて減酸素装置30の運転サイクルが開始される(ステップS11→S12→S13→S14)。
【0035】
そして、酸素濃度が所望の値まで低減したら、運転を停止する(ステップS15→S16)。
減酸素装置30の運転停止がなされると、ヒータ50、電圧印加手段8は停止される(ステップS16→S17→S18)。
実施形態は、減酸素装置を用いた装置として、冷蔵庫を例示して説明したが、減酸素装置の応用例は、冷蔵庫に限られるものではない。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。