(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリプロピレン75.4〜77.7質量%と、スチレン系エラストマ5.2〜6.1質量%と、シリコーンオイル1.8〜1.9質量%と、硫酸バリウム15.2〜16.7質量%とを含有する樹脂組成物。
前記ポリプロピレンの含有量が76.2質量%、前記スチレン系エラストマの含有量が5.4質量%、前記シリコーンオイルの含有量が1.8質量%、前記硫酸バリウムの含有量が16.7質量%である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【背景技術】
【0002】
医療分野では、柔軟性を有するチューブ(軟質チューブ)が様々な用途に用いられている。例えば内視鏡のチャンネル管を通じて生体内に挿入されるカテーテルやプッシャチューブとして軟質チューブが使用されている。
内視鏡のチャンネル管は湾曲しており、このようなチャンネル管を介して生体内に挿入される医療用チューブ(カテーテル、プッシャチューブ等)においては、医療用チューブの操作性(チャンネル管への挿入性等)やプッシャチューブに挿通されるガイドワイヤの操作性を高めるため、柔軟性および摺動性が要求される。
このような医療用チューブとしては、上記の要求をある程度満たすことから、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂が汎用されている。しかし、フッ素樹脂は、柔軟性、剛性等の物性の微調整が難しい、良好に着色させにくい等の欠点がある。
【0003】
一方、軟質チューブとして、ポリプロピレン系樹脂をベースとするものが提案されている。例えば特許文献1には、輸液チューブ等に用いられる軟質チューブとして、特定のプロピレン系ランダム共重合体が5重量%超過30重量%未満、スチレン系共重合体エラストマが20重量%超過60重量%未満、パラフィン系オイルが10重量%超過75重量%未満の配合量で構成されている軟質チューブが開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の樹脂組成物は、ポリプロピレン75.4〜77.7質量%と、スチレン系エラストマ5.2〜6.1質量%と、シリコーンオイル1.8〜1.9質量%と、硫酸バリウム15.2〜16.7質量%とを含有する。
【0011】
ポリプロピレン(以下、PPともいう。)としては、単独重合体(ホモPP)、ランダム共重合体(ランダムPP)、ブロック共重合体(ブロックPP)のいずれでもよく、また、アタクチック構造、シンジオタクチック構造のいずれでもよい。
ランダムPP、ブロックPPにおけるコモノマー(プロピレンと共重合するモノマー)としては、エチレン、炭素数4以上のα−オレフィン(1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン等)等が挙げられる。
樹脂組成物に含まれるPPは1種でも2種以上でもよい。
PPとしては、ブロッPPが好ましい。
【0012】
スチレン系エラストマとしては、スチレン系熱可塑性エラストマが好ましく用いられる。スチレン系熱可塑性エラストマとしては、公知のものを用いることができ、例えば、スチレン系モノマーの重合体から構成されるブロック(スチレン系ブロック)と、共役ジエンの重合体から構成されるブロック(ジエン系ブロック)とからなるブロック共重合体の前記ジエン系ブロックの二重結合が水素添加されたもの(水素添加ブロック共重合体)等が挙げられる。
【0013】
水素添加ブロック共重合体において、スチレン系モノマーとしては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジメチルスチレン等が挙げられる。共役ジエンとしては、例えばブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等が挙げられる。
水素添加ブロック共重合体の具体例としては、例えば、水素添加スチレン−ブタジエンブロック共重合体、水素添加スチレン−イソプレンブロック共重合体、水素添加スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体等が挙げられる。
【0014】
前記水素添加ブロック共重合体中、スチレン系モノマーに基づく構成単位の含有量は、水素添加ブロック共重合体の総質量に対し、5〜50質量%が好ましく、8〜45質量%がより好ましく、10〜40質量%がさらに好ましい。
前記ジエン系ブロックの二重結合の水素添加率は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましい。
水素添加ブロック共重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の値として、5万〜50万が好ましく、6万〜40万がより好ましく、7万〜30万がさらに好ましい。
樹脂組成物に含まれるスチレン系エラストマは1種でも2種以上でもよい。
【0015】
シリコーンオイルとしては、公知のものを用いることができ、例えばジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、フロロアルキルシリコーンオイル等が挙げられる。
樹脂組成物に含まれるシリコーンオイルは1種でも2種以上でもよい。
【0016】
シリコーンオイルは、動粘度が1000〜1000000mm
2/sであることが好ましい。シリコーンオイルの動粘度が1000mm
2/s以上であると、表面にブリードし難く、1000000mm
2/s以下であると、樹脂中への分散性が良好である。
【0017】
硫酸バリウムは、固体粒子として樹脂組成物中に分散する。
硫酸バリウムとしては、通常、粉末状のものが使用される。硫酸バリウムの平均粒子径は、0.1〜10μmが好ましい。平均粒子径が0.1μm以上であると樹脂中への分散性が良好で、10μm以下であると、樹脂の表面性が良好である。
【0018】
本発明の樹脂組成物は、上記のほか、本発明の効果を損なわない範囲で、無機物、有機物の添加剤等をさらに含有してもよい。
【0019】
本発明の樹脂組成物中、PPの含有量は75.4〜77.7質量%、スチレン系エラストマの含有量は5.2〜6.1質量%、シリコーンオイルの含有量は1.8〜1.9質量%、硫酸バリウムの含有量は15.2〜16.7質量%である。
各成分の含有量(質量%)は、樹脂組成物の総質量を100質量%としたときの値である。
PP、スチレン系エラストマ、シリコーンオイル、硫酸バリウムの含有量が上記の範囲内であることで、当該樹脂組成物は、生体内に挿入される医療用チューブ(カテーテル、プッシャチューブ等)の形成材料として適度な柔軟性と優れた摺動性(例えば後述する[実施例]に示す測定方法にて測定される曲げ弾性率が800±100MPaの範囲内で、動摩擦係数が0.19以下(さらには0.13以下))とを有する。
【0020】
一方、PPの含有量が77.7質量%を超えるか、またはスチレン系エラストマの含有量が5.2質量%未満であると、柔軟性が不足するおそれがある。スチレン系エラストマの含有量が6.1質量%を超えるか、またはPPの含有量が75.4質量%未満であると、柔軟性が高くなりすぎるおそれがある。
シリコーンオイルの含有量が1.8質量%未満であるか、または硫酸バリウムの含有量が15.2質量%未満であると、摺動性が不足するおそれがある。シリコーンオイルの含有量が1.9質量%を超えるか、または硫酸バリウムの含有量が16.7質量%を超えると、柔軟性が高くなりすぎるおそれがある。
【0021】
本発明の樹脂組成物においては、PPの含有量が76.2質量%、スチレン系エラストマの含有量が5.4質量%、シリコーンオイルの含有量が1.8質量%、硫酸バリウムの含有量が16.7質量%であることが好ましい。
PP、スチレン系エラストマ、シリコーンオイル、硫酸バリウムの含有量が上記の値であると、生体内に挿入される医療用チューブの操作性、挿入性に寄与する柔軟性が、より好適なもの(例えば後述する[実施例]に示す測定方法にて測定される曲げ弾性率が810±50MPaの範囲内)となる。
【0022】
本発明の樹脂組成物は、PPと、スチレン系エラストマと、シリコーンオイルと、硫酸バリウムと、必要に応じて任意成分と、を溶融混練することにより製造できる。
溶融混練は、例えば単軸押出機、二軸押出機等の公知の混練装置を用いて行うことができる。
溶融混練では、使用するPPの融点以上(複数のPPを使用する場合は、最も融点が高いPPの融点以上)の温度で行われる。
混練温度は、使用するPPの熱分解温度未満(複数のPPを使用する場合は、最も熱分解温度が低いPPの熱分解温度未満)で行うことが好ましい。
【0023】
このようにして得られた樹脂組成物は、用途に応じた形状に成形される。
樹脂組成物の成形は、熱可塑性樹脂の成形方法として公知の成形方法、例えば押出成形、射出成形等により行うことができる。
【0024】
本発明の樹脂組成物の用途としては特に制限されず、例えば、医療用チューブ、医療製品等を形成する材料として用いることができ、なかでも医療用チューブ形成材料として有用である。
医療用チューブとしては、柔軟性と摺動性との両立が要求されることから、生体内に挿入される医療用チューブが好ましい。このような医療用チューブとしては、例えばカテーテル、プッシャチューブ等が挙げられる。
【0025】
本発明の樹脂組成物は、特に、挿入方向の先端部分(以下、先端部ともいう。)の曲げ弾性率が516±111MPaの範囲内であり、他の部分(以下、非先端部ともいう。)の曲げ弾性率が855±81MPaの範囲内であるプッシャチューブの前記非先端部分を形成する材料として好適である。
プッシャチューブは、ステントを生体内の目的部位に挿入する際に、内視鏡のチャンネル管を通じて生体内に挿入されたガイドワイヤに沿ってステントを目的部位まで押し出すために使用される。内視鏡のチャンネル管は湾曲している。プッシャチューブの先端部が曲げ弾性率516±111MPaの範囲内程度の比較的高い柔軟性を有していれば、チャンネル管の湾曲した部分を通過させやすい。また、非先端部が曲げ弾性率855±81MPaの範囲内程度の比較的低い柔軟性を有していれば、プッシャチューブの挿入時に加える力が効率よく先端部まで伝わりやすい。そのため、プッシャチューブの挿入性が向上する。
本発明の樹脂組成物によれば、曲げ弾性率が855±81MPaの範囲内のチューブ状部材を形成でき、該チューブ状部材は、表面の摩擦抵抗が小さく、摺動性が高い。そのため、本発明の樹脂組成物から形成されたチューブ状部材で非先端部を構成したプッシャチューブは、加えられた力が効率よく先端部まで伝わるため、操作性が高い。また、その内腔に挿通されるガイドワイヤの操作性も良好である。
プッシャチューブの先端部の長さは、1〜30cm程度が好ましい。非先端部の長さは、プッシャチューブの全長に応じて設定される。プッシャチューブの全長は、通常、100〜300cm程度である。
先端部を形成する材料としては、特に限定されないが、先端部として適した柔軟性と良好な摺動性とを両立できる点、先端部は着色されていることが要求される点から、ポリプロピレン50.6〜60.3質量%と、スチレン系エラストマ19.6〜33.7質量%と、シリコーンオイル1.6〜4.5質量%と、硫酸バリウム9.1〜17.3質量%と、顔料0.3〜0.6質量%とを含有する樹脂組成物が好ましい。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例および比較例で用いた原料は以下の通りである。
【0027】
<使用原料>
ポリプロピレン:製品名「ノバテックPP BC8」、日本ポリプロ社製。
スチレン系エラストマ:製品名「スーパートリブレンHD0900」、新興化成社製。
シリコーンオイル:製品名「360MF 動粘度12500CS」、東レダウコーニン社製。
硫酸バリウム:製品名「B−1 平均粒子径1μm」、堺化学社製。
【0028】
<実施例1〜4、比較例1〜6>
[樹脂組成物の調製]
ポリプロピレンと、スチレン系エラストマと、シリコーンオイルと、硫酸バリウムとを、表1〜2に示す組成(単位:質量%)となるように配合し、2軸押出成形機(φ30mm)で溶融混練してペレット状の混練物(樹脂組成物)を得た。溶融混練は、回転数200rpmで、設定温度を80℃−180℃−220℃−220℃の順に変化させて行った。
なお、実施例1、比較例2において、各成分の含有量の合計が100.0%になっていないのは小数点以下第2位を四捨五入したためであり、実際の各成分の合計は100.0%である。
【0029】
[チューブの作製]
得られた混練物を、チューブダイを備えた単軸押出機(φ20mm)を用い、下記の条件で成形してチューブを得た。
(成形条件)
回転数:20rpm。
チューブダイの口金寸法:外径5mm、内径3mm。
成形速度:3m/min。
チューブの寸法:外径3mm、内径2mm。
【0030】
[摺動性の評価]
120mm×120mm×1mmの型枠に材料を入れ、200℃の熱プレスにより20MPaの荷重を5分間かけシートを作成した後、幅20mmにカットし試験片を得た。
JIS K7125を参考に、得られた試験片の表面の動摩擦係数を測定した。
図1を用いて動摩擦係数の測定手順を説明する。測定には、試験片1が設置され、設置面と平行に移動可能なテーブル2と、試験片1をテーブル2に固定する補強板3と、試験片1の上に載せられる相手材4と、試験片1に対して相手材4を一定荷重で押圧するためのおもり5と、相手材4に接続されたロードセル6とから構成される摩擦係数測定器を使用した。試験片1は、テーブル2に固定され、テーブル2と共に平行移動するようになっている。テーブル2に固定された試験片1は、おもり5により垂直荷重が掛けられ相手材4と接触する。テーブル2を、ロードセル6側とは反対方向(図中、矢印方向)に平行移動させると、試験片1と相手材4との接触面に摩擦が生じる。この時の摩擦力がロードセル6で動摩擦係数に変換される。この動摩擦係数が小さいほど、表面摩擦抵抗が小さく、摺動性が高いことを示す。
動摩擦係数の測定において、相手材4の素材はSUS、相手材4の試験片1への接触面の寸法は10mm×10mm、おもり5の重さ(測定時の荷重)は50g、テーブル2の移動速度は100mm/minとした。
【0031】
上記の測定結果から下記の判定基準で、摺動性を評価した。結果を表1〜2に示す。
(判定基準)
○:動摩擦係数が0.19以下。
×:動摩擦係数が0.19超。
【0032】
[柔軟性の評価]
120mm×120mm×2mmの型枠に材料を入れ、200℃の熱プレスにより20MPaの荷重を5分間かけシートを作成した後、幅20mmにカットし試験片を得た。
図2に示すように、試験片7を、長さ方向の両端が支持されるように支持台8の上に置き、試験片の上方から圧子で試験片の中央に力Fを加えて曲げ弾性率を測定した。曲げ弾性率の測定は、以下の測定条件で、JIS K7171に準じて行った。
支点間距離L:20mm。
圧子先端半径R1:2.0mm。
支点先端半径R2:2.5mm。
曲げ速度:15mm/min。
【0033】
上記の測定結果から下記の判定基準で、柔軟性を評価した。結果を表1〜2に示す。
(判定基準)
○:曲げ弾性率が800±100MPaの範囲内。
×:曲げ弾性率が800±100MPaの範囲外。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
上記結果に示すとおり、PP75.4〜77.7質量%と、スチレン系エラストマ5.2〜6.1質量%と、シリコーンオイル1.8〜1.9質量%と、硫酸バリウム15.2〜16.7質量%とを含有する実施例1〜4の樹脂組成物は、適度な柔軟性と高い摺動性とを有していた。特に、実施例1は、より好ましい柔軟性(曲げ弾性率が810±50MPaの範囲内)を有していた。
一方、比較例1〜6の樹脂組成物はいずれも、柔軟性が高すぎ、摺動性も、実施例1〜4に比べて劣っていた。特にシリコーンオイル、硫酸バリウムともに含まない比較例2はの摺動性が悪かった。