特許第6203207号(P6203207)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6203207
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】気化器
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/31 20060101AFI20170914BHJP
【FI】
   H01L21/31 F
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-19404(P2015-19404)
(22)【出願日】2015年2月3日
(65)【公開番号】特開2016-143798(P2016-143798A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2016年8月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】390014409
【氏名又は名称】株式会社リンテック
(74)【代理人】
【識別番号】100082429
【弁理士】
【氏名又は名称】森 義明
(74)【代理人】
【識別番号】100162754
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 真樹
(72)【発明者】
【氏名】小野 弘文
(72)【発明者】
【氏名】八木 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】古門 龍彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 健太
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 哲弘
【審査官】 桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−028349(JP,A)
【文献】 特開2002−115067(JP,A)
【文献】 特開平10−074746(JP,A)
【文献】 特開2008−251614(JP,A)
【文献】 特開2008−231515(JP,A)
【文献】 特開2006−202965(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/157211(WO,A1)
【文献】 特開2000−216150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/31
C23C 16/448
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体原料を霧化して吹き出すアトマイザと、
アトマイザの噴霧口が接続された中空のアウターチューブと、
アウターチューブ内に収納されたインナーチューブと、
アウターチューブの外側或いはインナーチューブの内側の少なくともいずれか一方に設けられたヒータとで構成され、
インナーチューブの先端頭部は前記噴霧口方向に向くように配置され、噴霧口と該先端頭部との間に霧化空間が設けられ、
アウターチューブの内周面とインナーチューブの外側面との間に前記霧化空間に連通する気化用間隙が設けられ、
インナーチューブの先端頭部は、半球状又は円錐状に形成されており、先端頭部の頂部から外側面に向かって弧状突条又は弧状溝が同一の弧状方向を有するように形成されていることを特徴とする気化器。
【請求項2】
アトマイザ、インナーチューブ及びアウターチューブが石英ガラスで形成されていることを特徴とする請求項1に記載の気化器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は気化効率に優れた、特に半導体製造用並びに光導波路形成用の気化器に関する。
【背景技術】
【0002】
SiやSiCなどの半導体材料の熱酸化手法の種類としてウェット酸化とドライ酸化がある。ウェット酸化では水を使う。H2Oをガス(水蒸気)として炉の中に流して、水の中の酸素を酸化膜の成長に使う。この特徴は、酸化速度が速い。したがって厚い膜厚が必要な場合にはこの方法を使う。一方、ドライ酸化は酸化膜成長に酸素ガスを使う。これは、ウェット酸化の反対で、成長速度は遅い。近年、更に酸化膜の成長速度を上げるために、水(H2O)の代わりに過酸化水素(H22)が使用されるようになってきた。他方、半導体以外の用途として、光導波路の形成がある。(特許文献1を参照)。この場合、10〜25μmの厚さの二酸化ケイ素(SiO2)の堆積には、H2Oによる酸化法では、長時間の堆積時間を必要とする。H2Oの代わりに過酸化水素(H22)を利用すれば、大幅な時間短縮が可能となる。
【0003】
そのためには大量の過酸化水素水を気化させて反応炉に送り込む必要がある。このような目的の装置として特許文献1に示すような装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−337240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された、過酸化水素水を気化させて酸化性ガスを発生させる気化器は、過酸化水素水の入ったフラスコに似た中空球状容器の気化器の下半分を外からヒータで覆うもので、中空球状容器は100〜130℃に加熱され、気化した過酸化水素ガスの含有された水蒸気ガスが、ガス供給管を経て反応炉に流れ込むようになっている。この装置は過酸化水素水を単に加熱させ気化させているもので、気化器内での過酸化水素水の蒸発と共に、過酸化水素の濃度が変化することが欠点である。さらに、過酸化水素の流量を一定に保持できることも困難であるほか、どれだけ流れているかの流量が不明である。
【0006】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来例に比べて気化効率がほぼ100%と遥かに優れ、且つ、気化量や濃度に関して経時的変化がない気化器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載した発明に係る気化器Aは、
液体原料Lを霧化して吹き出すアトマイザ7と、
アトマイザ7の噴霧口73が接続された中空のアウターチューブ1と、
アウターチューブ1内に収納されたインナーチューブ2と、
アウターチューブ1の外側或いはインナーチューブ2の内側の少なくともいずれか一方に設けられたヒータ4(9)とで構成され、
インナーチューブ2の先端頭部2aは前記噴霧口73方向に向くように配置され、噴霧口73と該先端頭部2aとの間に霧化空間Mが設けられ、
アウターチューブ1の内周面とインナーチューブ2の外側面との間に前記霧化空間Mに連通する気化用間隙3が設けられ、
インナーチューブ2の先端頭部2aは、半球状又は円錐状に形成されており、先端頭部2aの頂部Pから外側面に向かって弧状突条81又は弧状溝82が形成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項2は、請求項1に記載した気化器Aにおいて、アトマイザ7、インナーチューブ2及びアウターチューブ1が石英ガラスで形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかる気化器Aは、「霧化空間M」とこれに連通する「気化用間隙3」が設けられているので、アトマイザ7からの液体原料Lは「霧化空間M」で霧化され、先端頭部2aに沿って流れ、十分に幅の狭い「気化用間隙3」内に流れ込み、ヒータ4(9)により急速に気化される。
【0010】
この時、インナーチューブ2の先端頭部2aは、半球状又は円錐状に形成されており、先端頭部2aの頂部Pから外側面に向かって弧状突条81又は弧状溝82が同一の弧状方向を有するように形成されているので、先端頭部2aに沿って流れる霧状流体Kを含む流体は弧状突条81又は弧状溝82に沿ってカーブし、「気化用間隙3」ではインナーチューブ2の周囲を旋回する旋回流GRを形成して流れる。これにより気化に十分な時間が確保でき、常に定量の気化ガスG2が次工程に供給される。

【0011】
このような本発明の気化器Aは、液体流量制御器Eと直結でき、気化器A内に輸送されてきた過酸化水素水を、ほぼ100%の高率で気化できる。従って、定量的且つ定濃度で過酸化水素ガスを発生できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施例の一部を断面した正面図である。
図2図4のX−X断面矢視図である。
図3図4のY−Y断面矢視図である。
図4図1の断面図である。
図5】本発明のインナーチューブの先端頭部の拡大斜視図である。
図6】本発明のインナーチューブの先端頭部の拡大斜視図である。
図7】本発明のインナーチューブの先端頭部の更に他例の拡大斜視図である。
図8】本発明の気化器を使用した半導体製造装置に構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を図面に従って説明する。気化器Aは、アトマイザ7と、アウターチューブ1及びインナーチューブ2並びにヒータ4(9)とで構成される。気化器Aが適用される液体原料Lは気化して使用されるもの(半導体製造に供される例えば各種の液体原料)であればどのようなものでもよいが、ここでは過酸化水素水とする。気化器Aが、過酸化水素水の気化用で、且つ、半導体製造装置のように極めて高純度な過酸化水素含有水蒸気ガスG2が必要な場合、高温環境において、過酸化水素含有水蒸気ガスG2に犯されないような「石英ガラス」でアトマイザ7、アウターチューブ1及びインナーチューブ2が作られる。そうでない分野では、パイレックス(登録商標)ガラスのような耐熱性ガラス、或いはハステロイやステンレス鋼のような耐食性金属の使用も可能である。
【0014】
アトマイザ7は、アウターチューブ1の端部に接続される噴霧ガス管7aと、噴霧ガス管7aに対して直角又はこれに近い角度或いは図示していないが、霧化ガスの通流方向に傾斜させた液体原料導入管7bとで構成され、噴霧ガス管7aには霧化ガスが通過する主供給孔7cが穿設されており、液体原料導入管7bには主供給孔7cに連通する副供給孔7dが穿設されている。主供給孔7cの内径は副供給孔7dの内径より大で、出口は細く絞られ噴霧口73となっている。このアトマイザ7の噴霧ガス管7aの出口部分はインナーチューブ2に接続されている。
【0015】
アウターチューブ1は円筒状の中空管で、一端が閉塞され、この閉塞端1aにアトマイザ7の噴霧ガス管7aが接続されており、噴霧口73が開口している。そしてアウターチューブ1の閉塞端1aと反対側の外周面には後述する気化用間隙3に連通する出口ノズル11が接続されている。
【0016】
インナーチューブ2は挿入端側である先端頭部2aが閉塞され、半球状に形成されており、その先端頭部2aの頂部Pから外側縁に至り、且つ、インナーチューブ2の外側面に向かう3本の弧状突条81が等角度、同方向(凸湾曲方向が図2のように時計方向に突曲している)に形成されている。弧状突条81は細い石英ガラス棒で形成され当該部分に溶着されている。弧状突条81の本数は特段限定されるものではなく、1以上であればよいが少なくとも3本以上が好ましい。
【0017】
インナーチューブ2の外側縁に達した弧状突条81の端部に接する直線(外接線)は、インナーチューブ2の外側面の接線或いはこれに近い線になるようにするのが好ましい。なお、図の実施例では先端頭部2aの形状は、半球状であるが、勿論、これに限られず、回転楕円体面、回転放物面或いは円錐状であってもよい。また、ここでは弧状突条81を用いたが、同方向(凸湾曲方向が図2のように時計方向に突曲している)に湾曲した弧状溝82を形成してもよい。いずれの場合でも複数設けることが好ましい(図7)。
【0018】
インナーチューブ2の他端は開放しており、インナーヒータ9が挿入される。そして、インナーチューブ2の外周面には同一円周上で少なくとも3点の微小な突起6が2段に亘って設けられており、インナーチューブ2をアウターチューブ1に挿入した時にこの微小な突起6がアウターチューブ1の内周面に接触してインナーチューブ2とアウターチューブ1との間に全周に亘って均一な且つ十分に狭い気化用間隙3を形成する。この気化用間隙3はヒータ挿入端側で前述のように出口ノズル11に繋がっている。この出口ノズル11は例えばシリコン基板酸化用の反応炉に気化ガスG2を質量流量だけ供給する質量流量制御器Sに接続されている。
【0019】
気化用間隙3の幅Wは、特段限定されるものではないが、該幅Wは気化効率の面から高い熱伝達率を有する温度境界層が形成される範囲であることが好ましい。即ち、気化用間隙3を流れる通流流体Qの温度は、インナーチューブ2の外周面又はアウターチューブ1の内周面の温度を壁面温度とすると、これら壁面から離れるに従って流体温度が次第に下がり、或る温度で一定の温度(一様流温度)になる。壁面から一定の温度になる範囲が温度境界層であり、気化用間隙3の幅Wをこの範囲にすることが好ましい。
【0020】
インナーチューブ2とアウターチューブ1のヒータ挿入側の開口端は全周に亘って融着され、前記気化用間隙3のヒータ挿入側の開口側端部は全周に亘って閉塞される。アウターチューブ1に収納されたインナーチューブ2の先端頭部2aは噴霧口73方向に向いており、噴霧口73が設けられている閉塞端1aと先端頭部2aとの間に霧化空間Mが設けられている。そしてこの霧化空間Mに気化用間隙3が全周に亘って連通している。
【0021】
加熱装置として電気ヒータが使用され、図の実施例ではインナーヒータ9とアウターヒータ4とが使用されている。勿論、加熱が十分であれば、いずれか一方でも構わない。インナーヒータ9はインナーチューブ2の内側に挿入され、熱伝導性に優れた接着用のペースト5でインナーチューブ2の内周面に接着されている。同様にアウターヒータ4がアウターチューブ1の外周面に接着用のペースト5で接着されている。そしてインナーヒータ9には温度センサ10が装備されており、インナーヒータ9の温度を制御している。アウターヒータ4はインナーヒータ9の温度センサ10に連動するように制御してもよいし、図示していないが、独自に温度センサを用意してもよい。
【0022】
次に、本発明の気化器Aの作用について説明する。図8は本発明の気化器Aを使用した半導体製造装置の装置構成の一例で、液体原料L(本実施例では過酸化水素水)が貯蔵された、加圧ガスG0により液体原料Lが送り出される原料タンクT、前記原料タンクTに接続され、供給された液体原料Lを一定流量だけ送り出す液体流量制御器E、窒素ガスや酸素ガスなどの霧化ガス供給源に接続され、これら霧化ガスG1を質量流量だけ送り出す質量流量制御器S、前記液体流量制御器Eから送り出された液体原料Lを受け取る液体原料導入管7bと質量流量制御器Sからの霧化ガスG1を受け取る噴霧ガス管7aとで構成されたアトマイザ7がその入口部分に装備され、例えばシリコン基板酸化用の反応炉Hに処理ガスG2(本実施例では過酸化水素含有水蒸気ガス)を一定量安定的に供給する気化器Aとで構成されている。
【0023】
この装置において、ヒータ4(9)が通電されてアウターチューブ1及びインナーチューブ2が所定温度まで加熱されるとアトマイザ7に液体原料L(本実施例では過酸化水素水)が液体原料供給口72に供給され、同時にガス供給口71に霧化ガスG1が圧入される。これによって噴霧口73から流体原料Lが霧状流体Kとなって霧化空間M内に吹き込まれる。
【0024】
この霧状流体Kはインナーチューブ2の球状の先端頭部2aに衝突し、先端頭部2aの弧状突条81(或いは弧状溝82)に沿って流れる。先端頭部2aの外周縁ではインナーチューブ2の外周円の接線方向或いはこれに近い方向で流れ、インナーチューブ2の周囲を旋回しながら出口ノズル11に向かって気化用間隙3内を進む。即ち、気化用間隙3内で旋回流GRを発生させる。これにより加熱時間を十分に確保することが出来る。この間、気化用間隙3全体が温度境界層となっている場合には、前記旋回流GRは壁面温度に近い温度に熱せられて急速に気化し、出口ノズル11から排出されて質量流量制御器Sに供給される。
【0025】
なお、上記気化器Aのアトマイザ7、アウターチューブ1及びインナーチューブ2が「石英ガラス」で形成されている場合には、液体原料Lが過酸化水素水であったとしても、犯されないので、シリコン基板の表面酸化に適用することが出来る。
【符号の説明】
【0026】
A:気化器、L:液体原料、E:液体流量制御器、G0:加圧ガス、G1:霧化ガス、G2:気化ガス、GR:旋回流、H:反応炉、K:霧状流体、M:霧化空間、P:頂部、Q:通流流体、S:質量流量制御器、T:原料タンク、W:気化用間隙の幅、1:アウターチューブ、1a:閉塞端、2:インナーチューブ、2a:先端頭部、3:気化用間隙、4:アウターヒータ、5:ペースト、6:突起、7:アトマイザ、7a:噴霧ガス管、7b:液体原料導入管、7c:主供給孔、7d:副供給孔、9:インナーヒータ、10:温度センサ、11:出口ノズル、71:ガス供給口、72:液体原料供給口、73:噴霧口、81:弧状突条、82:弧状溝。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8