【実施例1】
【0057】
以下、本発明を製造例及び実施例により詳しく説明する。但し、下記製造例及び実施例は、本発明を例示することに過ぎず、本発明の内容が下記製造例及び実施例により限定されるものではない。
【0058】
実施例1.骨髓由来幹細胞の採取及び培養
白ネズミから骨髓を採取してリン酸塩緩衝液(PBS)に1:1に希釈し、遠心分離及び培養によって骨髓由来の間葉系幹細胞を採取した。得られた間葉系幹細胞は、5%CO
2及び37℃下で培養し、以後、実施例では、継代培養2−5世代(passage 2−5、P2−5)細胞を使用した。実験は、実験動物研究委員会の承認下で進行された。
【0059】
実施例2.虚血血清を利用した幹細胞刺激
前記実施例1から得られた3×10
5個の骨髓由来の間葉系幹細胞を、35mm培養皿に前処理群または対照群に分けて培養した。対照群培地は、10%FBSを含むDMEM培地で、一般血清処理群と虚血血清処理群は、一般血清(NS)あるいは虚血血清(IS)を各々10%含む培地で、24時間の間(単回処理、継代培養4−5世代)あるいは培養初期からFBSを使用せず培養した。虚血血清は、継代培養4−5世代まで持続的に処理し、一継代培養当たり3日培養を実行した。実験は、各群当たり3回ずつ繰り返して実行した。虚血血清処理群で使用された虚血血清は、白ネズミに中脳動脈梗塞を誘発させた後、1日になったラットから得た。虚血血清は、安定化されている幹細胞に急性刺激を誘発するために使用された。このような急性刺激によって幹細胞が虚血性脳疾患者への移植に適合な幹細胞に活性化されたか否かを確認した。本発明の虚血血清を利用して幹細胞を活性化させる過程を
図1に示した。
【0060】
2.1 虚血血清で処理した幹細胞の表現型及び細胞数の変化
FBS、一般血清及び虚血血清を利用して培養された幹細胞の細胞表現型をフローサイトメトリー(flow cytometric analysis)を利用して、光学顕微鏡によって前処理前後の細胞数を比較して数値化した。その結果を
図2に示した。
【0061】
図2(A)に示したように、一般血清処理群、虚血血清処理群と対照群のいずれも細胞形状には差がないことを観察した。また、
図2(B)及び(C)に示したように、一般的に白血球から発現されるCD11bに対しては陰性である一方、幹細胞マーカーであるCD90に対しては陽性を示した。このような結果によって、虚血血清の処理が幹細胞の表現型には影響を及ぼさないことを確認した。単回培養後の一般血清あるいは虚血血清処理群がFBS処理群に比べて細胞数が増加することを確認し、これを
図2(D)に示した。2継代培養から6継代培養にわたって連続的な培養を実行した結果、虚血血清を含んだ培地で培養した幹細胞の増殖割合が、一般血清あるいはFBSで培養した幹細胞に比べて高いことを確認し、これを
図2(E)に示した。
【0062】
2.2 虚血血清を処理した幹細胞の成長因子発現の測定
虚血血清を幹細胞で処理した場合、成長因子の遺伝子発現を増加させることができるか否かを、間葉系幹細胞に一般血清あるいは虚血血清で処理した処理群(10%NS、10%IS)とFBSで処理した対照群を利用して比較した。各々の処理群と対照群をリアルタイム遺伝子分析法(Real−time PCR)で、幹細胞で細胞成長及び生存に関与する成長因子であるVEGF、GDNF、HGF、bFGF、幹細胞を分化させることに関与するBDNF、NGF遺伝子発現量の変化を測定した。その結果は、
図3に示した。
【0063】
図3に示したように、VEGFは、虚血血清を処理した処理群がFBSまたは一般血清で処理した群に比べて増加し(A)、GDNFは、虚血血清処理群が一般血清処理群とは差がないが、FBSで処理した対照群に比べて増加した(B)。また、HGFとbFGFの場合、FBSまたは一般血清処理群に比べて虚血血清処理群で遺伝子発現が増加した(C及びD)。
【0064】
一方、幹細胞の神経細胞への分化を誘導するBDNF及びNGFの遺伝子の発現は、一般血清と虚血血清処理群がFBSのみで処理した対照群に比べて低い遺伝子発現を示した。
【0065】
これを総合すれば、細胞増殖及び成長に関与する成長因子の発現は増加し、分化を誘導する成長因子は減少した。これによって、虚血血清処理が幹細胞で成長因子の発現を調節することができることを確認した。
【0066】
2.3 虚血血清を処理した幹細胞の移動能力の測定
幹細胞を移植する治療法は、幹細胞が目的する部位に移動することが重要な要素であるので、虚血血清を処理した幹細胞が虚血組織に移動が促進されるか否かを確認した。虚血血清で前処理を行った幹細胞と虚血血清を処理しない幹細胞をチャンバガラスに培養した後、虚血−脳抽出物を含んだ寒天ゲルを置いて48時間の間移動する幹細胞の数を測定した。また、幹細胞の移動を誘導する因子であるSDF−1、HGFを阻害するために、ケモカインSDF−1拮抗剤であるAMD3100あるいはHGF収容体c−Metの阻害剤であるPHA66752を処理した後、幹細胞移動の増加が遮断されるか否かを測定した。その結果は、
図4に示した。
【0067】
図4に示したように、虚血血清で前処理しない幹細胞に比べて、虚血血清で前処理によって活性化された幹細胞は、移動が促進され、AMD3100、PHA66752処理により部分的に阻害された。このような結果によって、虚血血清の前処理により幹細胞の移動性が増加し、このような幹細胞の移動には、SDF−1、HGF外にも多様な因子が関与することを確認した。結果的に、虚血血清を幹細胞に前処理して培養する場合、損傷部位に移動する幹細胞の能力が向上されて、選択的に脳梗塞のような損傷部位に移動することができることが分かる。
【0068】
2.4 虚血血清処理による細胞周期の変化測定
トリプシン処理した細胞を1,300rpm、3分間遠心分離してペレットを作った後、90%エタノール1mlで再浮遊(resuspension)させて、4℃で一晩の間培養した。1,500rpmで5分間遠心分離してエタノールを除去し、0.1%triton X−100、20μg/ml RNaseA PBS 500μlを再浮遊させた。37℃で30分間培養した後、50μg/mlのPIを入れて虚血血清処理による細胞周期の変化を測定した。その結果は、
図5に示した。
【0069】
図5に示したように、虚血血清を利用して培養した場合、FBSで培養したことに比べてS期とG2/M期が増加することを確認した。10%FBS培養に比べて、10%、20%の虚血血清を単回(3日間)処理した後のS、G2/M期が増加し、10%虚血血清を利用して継代培養した場合、1世代継代培養では、S期とG2/M期の割合が10%FBSと類似であるが、2、3、4世代継代培養になることによってS期とG2/M期の割合が10%FBSに比べて増加することを確認した。
【0070】
2.5 虚血血清処理による幹細胞の細胞生存率の分析
虚血血清で刺激された幹細胞が虚血環境で抵抗性を示して生存率が高くなることができるか否かを確認するために、虚血脳類似環境で虚血血清を処理した処理群とFBSを処理した処理群、一般血清で処理した処理群の細胞生存率を比較分析した。虚血血清で継代培養した後、20%虚血脳抽出物を細胞に処理して虚血脳類似環境培養を作成した。24時間後に細胞をトリプシン処理して5%FBS−PBSで、1300rpmで3分間遠心分離してペレットを作った後、1x結合緩衝液(binding buffer)を150μl入れた。以後、 Annexin V−FITC 10μl、50μg/mlPIを10μl入れて、常温で15分間反応させた後、1x結合緩衝液350μlを入れて分析した。その結果は、
図6に示した。
【0071】
図6に示したように、虚血血清で幹細胞を刺激して培養した場合、虚血脳類似環境培養による死滅細胞は、FBSで培養した場合に比べて顕著に減少し、生存した細胞は増加した。これによって、虚血血清の処理時に、虚血抵抗性が増加されて虚血部位に移植する場合、幹細胞の生存率を増加させることができることを確認した。
【0072】
2.6 虚血後の時期別虚血血清処理による細胞数の変化測定
脳虚血誘発動物から虚血誘発1日、7日、14日、28日後に虚血血清を得た後、これを利用して2継代培養から6継代培養まで順次に継代培養し、各継代に細胞数を顕微鏡上で測定した。その結果は、
図7に示した。
【0073】
図7に示したように、FBSを含んだ培地より虚血誘発1日、7日、14日、28日後に得た虚血血清を含む培地で培養した場合、継代が増加するほど得られる細胞数が増加することを確認した。
【0074】
2.7 虚血後の時期別虚血血清処理による細胞周期の変化測定
脳虚血誘発動物から虚血誘発1日、7日、14日、28日後に虚血血清を得た後、これを利用して2継代培養から6継代培養まで順次に継代培養した細胞をトリプシン処理し、1,300rpmで3分間遠心分離してペレットを作った後、90%エタノール1mlで再浮遊(resuspension)させて、4℃で一晩の間培養した。1,500rpmで5分間遠心分離してエタノールを除去し、0.1%triton X−100、20μg/ml RNaseA PBS 500μl再浮遊させた。37℃で30分間培養した後、50μg/mlのPIを入れて虚血血清処理による継代培養別細胞周期の変化を測定した。その結果は、
図8に示した。
【0075】
図8に示したように、遺伝子複製と細胞分裂段階であるS期とG2/M期にある細胞が、1日目の虚血血清で培養した群で2−6世代継代培養までFBSで培養した対照郡に比べて増加することを確認した。7日、14日、28日目の虚血血清で培養した群は、2−4世代継代培養までFBSで培養した対照群に比べて増加することを確認した。
【0076】
2.8 虚血後の時期別虚血血清処理による幹細胞の細胞生存率の分析
虚血後の時期別虚血血清で培養された幹細胞が虚血環境で抵抗性を示して生存率が高くなることができるか否かを確認するために、虚血脳類似環境により時期別虚血血清で処理した処理群と、FBSで処理した処理群の細胞生存率を比較分析した。具体的には、虚血血清で継代培養した後、20%虚血脳抽出物を細胞に処理して虚血脳類似環境培養を作成した。24時間後に細胞をトリプシン処理して、5%FBS−PBSで1300rpm、3分間遠心分離してペレットを作った後、1x結合緩衝液(binding buffer)を150μl入れた。以後、 Annexin V−FITC 10μl、50μg/mlPIを10μl入れて、常温で15分間反応させた後、1x結合緩衝液350μlを入れて分析した。その結果は、
図9に示した。
【0077】
図9に示したように、1日、7日、14日、28日目の虚血血清で幹細胞を培養した場合、虚血脳類似環境培養による死滅細胞は、FBSで培養した場合に比べて顕著に減少し、生存した細胞は増加した。また、継代培養を繰り返しても虚血血清で培養した幹細胞が、FBSで培養した幹細胞に比べて虚血脳類似環境で生存率が高いことを確認した。これによって、虚血血清の処理時に、虚血抵抗性が増加されて虚血部位に移植する場合、幹細胞の生存率を増加させることができることを確認した。
【0078】
2.9 虚血後の時期別虚血血清処理による幹細胞の老化(senescence)分析
虚血血清培養が幹細胞の老化(senescence)に及ぶ影響を調べるために、2世代培養から虚血血清とFBSで培養した幹細胞を、6世代培養にβ−ガラクトシダーゼ染色後に比較分析した。具体的には、虚血血清とFBSで培養した6世代培養細胞を4%パラフォルムアルデヒドで固定化した後、930μl1× Staining Solution、10μlStaining Supplement A、10μlStaining Supplement B、50μl120mg/mlX−gal溶液(cell signaling製)混合物を処理した後、37℃で24時間反応して観察した。その結果は、
図10に示した。
【0079】
図10に示したように、FBSのみで培養した幹細胞は、虚血後に、1日、7日、14日、28日に得た虚血血清で培養した幹細胞に比べて、β−ガラクトシダーゼ染色陽性である細胞の数が多いことを顕微鏡上で、肉眼で確認することができた(A)。全体細胞の中でβ−ガラクトシダーゼ染色陽性である細胞数を測定して割合を図に示した(B)。これによって、虚血血清培養が幹細胞の老化を緩めることができることを確認した。
【0080】
実施例3. 虚血血清のサイトカイン及び成長因子の分析
前記実施例1及び実施例2で使用した虚血血清及び一般血清に含有されたサイトカイン成長因子のレベルを、R&D System社のRat cytokine antibody arrayとELISAを利用して分析した。また、脳梗塞患者と正常群の血清を得て、サイトカインと成長因子のレベルを確認しようとBIO−RAD社のHuman cytokine multiplexを利用して分析した。実験は各群当たり3回繰り返して実行した。
【0081】
3.1 虚血脳梗塞動物の虚血血清サイトカイン及び成長因子の分析
脳梗塞誘導1日目の虚血血清と一般血清に含まれたサイトカイン及び成長因子のレベルを、R&D System社のRat cytokine antibody arrayとELISAを利用して分析した。
【0082】
具体的には、サイトカインと成長因子を含む29種の相違なる抗体が塗布された膜組織は、遮断緩衝液(blocking buffer)で1時間の間反応させて、血清は、検出抗体と混合して1時間反応させる。このように反応させた試料を膜組織に混合して4℃で12時間反応させる。反応が終わると、洗浄液で3回洗浄した後、ストレプタビジン−HRPを30分間反応させる。反応が終わると、洗浄液で3回洗浄した後、フィルムに現像して結果を確認した。その結果は、
図11に示した。
【0083】
図11(A)に示したように、総29種のタンパク質のうち9種のタンパク質がフィルムに現象されることを確認した。これは、各々CINC−1、Fractalkine、CD54、IL−1alpha、LIX、L−selectin、MIP−3alpha、RANTES、TIMP−1であった。
【0084】
前記フィルムに現象された各点を、基準点(control spot)を利用して標準化して定量分析し、その結果を
図11の(B)に示した。
【0085】
図11(B)に示したように、CINC−1、IL−1、MIP−3は、虚血血清で高いレベルで確認されて、Fractalkine、CD54、LIX、L−selectin、RANTES、TIMP−1は、低いレベルで確認された。
【0086】
また、ELISAを利用してVEGFとTIMP−1の虚血後の時期による変化を確認し、その結果を
図11(C)及び(D)に示した。
【0087】
図11(C)及び(D)に示したように、TIMP−1は、1日目の虚血血清で減少する傾向を示し、7日、14日、28日目の虚血血清で統計的に有意味に減少することを確認した(C)。VEGFは、虚血後に時間が経過するほど増加する傾向を示した(D)。
【0088】
結果的に、虚血血清には、幹細胞を活性化させることができる炎症性サイトカインと成長因子のレベルが高くて、細胞分裂と成長を抑制することができる細胞付着分子などは低いことを確認した。
【0089】
3.2 脳梗塞患者の虚血血清サイトカイン及び成長因子の分析
脳梗塞発病後に7週間以内の患者から虚血血清を得て正常人の血清と比較し、含まれたサイトカイン及び成長因子のレベルをBIO−RAD社のHuman cytokine multiplexを利用して分析した。
【0090】
具体的には、標準試料は250μlの標準緩衝液を入れてボルテックスして氷で5分間培養した後、標準バイアルに移してボルテックスしてから5分間培養した。調整した標準試料を4倍希釈するために、8個のチューブのうち2〜8番のチューブに各150μlの標準バッファーを入れて、1番のチューブには標準溶液のみを200μl入れた。その後、50μlずつチューブ1から2に、2から3に移して段階希釈した。濾過プレートに150μlのリーディング緩衝液(reading buffer)を入れて5分間培養してフィルターを充分に濡らした後、真空濾過を利用して緩衝液を除去した。先混合された抗体ビーズ(premixed antibody beads)を30秒間ボルテックスした後、50μlずつ各ウェルに入れて真空濾過で緩衝液を除去した。150μlの緩衝液で洗浄して真空で除去した後、ウェル当たり25μlのサンプルと標準試料を入れて密封した後、700rpm、60分間プレート撹拌機(plate shaker)上で、室温条件で培養した。60分後に真空を利用して溶液を除去し、150μlの洗浄緩衝液を入れて3回洗浄した。25μlの検出抗体を入れて密封した後、700rpmで30分間撹拌培養した後3回洗浄した。SAPE(streptavidin−PE)溶液を各ウェル当たり50μlずつ入れて、700rpmで30分間撹拌培養して3回洗浄した。その後、120μlのリーディング緩衝液を各ウェルに入れて700rpmで5分間撹拌培養した後、Luminex instrumentに入れてリーディングした。その結果は、
図12に示した。
【0091】
図12に示したように、脳梗塞患者の血清と正常人の血清は、成長因子であるHGF、VEGF、BDNF、NGFとケモカインであるSDF−1、MCP−1、SCFのレベルで相異することを示した。幹細胞の成長及び自家分裂を促進することができるHGF、VEGFのレベルは、脳梗塞患者の血清で高く現われた一方(A)、幹細胞の神経細胞への分化を誘導することができるBDNFとNGFは、低いことを確認した(B)。体内で幹細胞が陽性走化性を示すケモカインであるSDF−1、MCP−1、SCFは、脳梗塞患者の血清で正常人の血清に比べて低いレベルで存在することを確認した(C)。これによって、脳梗塞患者の血清が正常人の血清に比べて幹細胞の活性を調節する物質のレベルが相違することを確認した。
【0092】
製剤例1. 薬学的製剤の製造
1.1 注射剤の製造
虚血血清を含んだ培地で培養された幹細胞:5×10
6細胞/ml
マンニトール:180mg
注射用滅菌蒸溜水:2974mg
Na
2HPO
4H
2O:26mg
通常の注射剤の製造方法によって1アンプル当たり(2ml)、前記の成分含量で製造する。