特許第6203273号(P6203273)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6203273虚血血清を含む幹細胞活性化促進用組成物及び幹細胞の活性化促進方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6203273
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】虚血血清を含む幹細胞活性化促進用組成物及び幹細胞の活性化促進方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/074 20100101AFI20170914BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20170914BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20170914BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALI20170914BHJP
【FI】
   C12N5/074
   C12N5/0735
   C12N5/0775
   C12N5/0789
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-535568(P2015-535568)
(86)(22)【出願日】2013年10月4日
(65)【公表番号】特表2015-533087(P2015-533087A)
(43)【公表日】2015年11月19日
(86)【国際出願番号】KR2013008904
(87)【国際公開番号】WO2014054917
(87)【国際公開日】20140410
【審査請求日】2015年6月2日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0110876
(32)【優先日】2012年10月5日
(33)【優先権主張国】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】511284203
【氏名又は名称】サムスン ライフ パブリック ウェルフェア ファンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バン,オ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ムン,ギョン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ヨン ヒ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ス ジェ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ドン ヒ
(72)【発明者】
【氏名】リョ,ス キョン
(72)【発明者】
【氏名】リー,ジ ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ナム,ジ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】スン,ジ ヒ
【審査官】 平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−509847(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/085612(WO,A1)
【文献】 Stroke, 2011;42:e253,254, Abstract No. W P337
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00− 7/08
A61K 35/00−35/768
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞のVEGF、HGF及びbFGF発現増加誘導と、BDNF及びNGF発現減少誘導用の虚血血清(ischemic serum)を有効成分で含み、前記虚血血清は虚血性個体から分離された血清であることを特徴とする、幹細胞の成長因子分泌促進及び幹細胞分化抑制用組成物。
【請求項2】
前記幹細胞のVEGF、HGF及びbFGF発現増加は、一般血清を処理した幹細胞と比較して増加されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の幹細胞の成長因子分泌促進及び幹細胞分化抑制用組成物。
【請求項3】
前記虚血血清は、脳梗塞、心筋梗塞、脳出血、神経外傷及び脊椎損傷からなる群から選択された1種以上を有する患者から得られることを特徴とする、請求項1に記載の幹細胞の成長因子分泌促進及び幹細胞分化抑制用組成物。
【請求項4】
前記虚血血清は、同種または自家の虚血血清であることを特徴とする、請求項1に記載の幹細胞の成長因子分泌促進及び幹細胞分化抑制用組成物。
【請求項5】
前記虚血血清は、炎症性サイトカインまたは細胞成長因子が一般血清のものより多く含まれたことを特徴とする、請求項1に記載の幹細胞の成長因子分泌促進及び幹細胞分化抑制用組成物。
【請求項6】
前記虚血血清は、細胞分化因子またはケモカインが一般血清と比較して少量で含まれたことを特徴とする、請求項1に記載の幹細胞の成長因子分泌促進及び幹細胞分化抑制用組成物。
【請求項7】
前記ケモカインは、SDF−1(Stromal cell−derived factor−1)、MCP−1(monocyte chemoattractant protein−1)及びSCF(Stem cell factor)からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする、請求項6に記載の幹細胞の成長因子分泌促進及び幹細胞分化抑制用組成物。
【請求項8】
前記幹細胞は、成体幹細胞、胚性幹細胞、間葉系幹細胞、脂肪幹細胞、造血母細胞、臍帯血幹細胞及び逆分化幹細胞からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする、請求項1に記載の幹細胞の成長因子分泌促進及び幹細胞分化抑制用組成物。
【請求項9】
前記幹細胞は、同種または自家の幹細胞であることを特徴とする、請求項1に記載の幹細胞の成長因子分泌促進及び幹細胞分化抑制用組成物。
【請求項10】
幹細胞のVEGF、HGF及びbFGF発現増加誘導と、BDNF及びNGF発現減少誘導用の虚血血清(ischemic serum)を有効成分で含み、前記虚血血清は虚血性個体から分離された血清であることを特徴とする、幹細胞の成長因子分泌促進及び幹細胞分化抑制用培地。
【請求項11】
前記虚血血清は、5〜20%の濃度で含まれたことを特徴とする、請求項10に記載の幹細胞の成長因子分泌促進及び幹細胞分化抑制用培地。
【請求項12】
幹細胞のVEGF、HGF及びbFGF発現増加誘導と、BDNF及びNGF発現減少誘導用の虚血血清を含む培地で幹細胞を培養する工程を含み、前記虚血血清は、虚血性個体から分離された血清であることを特徴とする、幹細胞の成長因子分泌促進及び幹細胞分化の抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、虚血血清を含む幹細胞活性化促進用組成物及び幹細胞の活性化を促進する方法に関する。
【0002】
また、本発明は、虚血血清刺激により活性化が促進された幹細胞に関する。
【背景技術】
【0003】
21世紀のバイオテクノロジーは、人間福祉を最終目標で食糧、環境、健康問題において新しい解決策の可能性を提示しており、最近、幹細胞を利用した治療法は、難病治療の新しい手段として検討されている。以前までは人間の難病治療のために臓器移植や遺伝子治療などが提示されて来たが、免疫拒否反応と供給臓器の不足、ベクター開発や疾患遺伝子に対する知識不足により効率的な実用化はされていなかった。
【0004】
このような問題点を解決することができる代案として幹細胞に対する関心が高まっており、増殖と分化によってすべての器官を形成することができる能力を有した誘導多能性幹細胞が、大部分の疾病治療は勿論、難病であったパーキンソン病、各種癌、糖尿病と脊髓損傷などの治療に至るまで多様に適用できるという可能性が認識されている。
【0005】
幹細胞(stem cell)とは、自己複製能力を有しながら二つ以上の新しい細胞に分化する能力を有する細胞をいい、胚性幹細胞(embryonic stem cell)、誘導多能性幹細胞(induced pluripotent cell)、成体幹細胞(adult stem cell)などが最も研究されている。このうち胚性幹細胞や誘導多能性幹細胞の場合、倫理的な問題や腫瘍形成のような安全性問題により臨床に適用するには制限がある。成体幹細胞の場合、安全性の面で有利なため患者を対象として臨床研究が試みたことがある。成体幹細胞の中で神経幹細胞(neural stem cell)、臍帯血細胞(cord blood cell)の場合、自分の細胞を自分に移植する自家移植(autograft)がまだ不可能なため、他人の神経幹を移植しなければならない制限がある。骨髓や脂肪由来の間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell)の場合、人体から容易に得ることができるので、臨床で最も研究されている幹細胞である。
【0006】
間葉系幹細胞を利用した細胞治療法に関して、自分の骨髓から間葉系幹細胞を分離してこれを増殖した後、また静脈で注入する細胞治療法に対する長期間の臨床研究が行われ、これが報告されている(非特許文献1)(非特許文献2)。しかし、このような利点を有した間葉系幹細胞の場合にも、骨髓から分離した後に細胞治療のために使用できる十分な濃度(約1×108個細胞)で培養するためには、4〜5週間以上の培養期間が要する制限がある。
【0007】
このように、幹細胞の種類によっては、自家移植が不可能であるか、または自家移植が可能であっても、治療効果を得るために培養するまでに長い時間が要するので、同種移植(allograft)に対する研究が行われている。すなわち、正常人からあらかじめ得ておいた細胞を使用することが、患者から得ることより容易であるので、最近同種幹細胞を利用した細胞治療に対する研究が活発に行われている。
【0008】
しかし、前記のような利点を有した幹細胞の同種移植治療剤の開発においても次のような問題点が報告されている。
(a)正常人から得た幹細胞と患者(例えば、脳梗塞患者)から得た幹細胞は、異なる特徴を有することが報告されている。すなわち、脳梗塞動物の骨髓から得た幹細胞が正常動物の骨髓から得た幹細胞に比べて、脳梗塞後の機能回復において優れていることが報告されている(非特許文献3)。したがって、同種移植をしても、他人の幹細胞を単純に注入することより、幹細胞に適切な刺激を与えて幹細胞を移植に適合な状態で活性化させる工程が必要である。また、患者から得た幹細胞も長期間ウシ血清で培養する過程で、幹細胞の特性が変化される可能性がある。
【0009】
(b)幹細胞を移植した後に一定時間が経過すると、幹細胞の数が顕著に減少する問題点がある。これは幹細胞が脳梗塞、心筋梗塞のような有害環境に置かれた場合、細胞死(cell death)が起きるからである。したがって、このような環境で幹細胞が長期的に生存して治療効果が維持されるように、移植される幹細胞の生存能を向上させることが、幹細胞治療において重要である。
【0010】
(c)脳梗塞/心筋梗塞のような急性損傷が起きた後、細胞治療の効果は早急に幹細胞を注入するかによって決定される。しかし、先に言及したように、自家または同種の幹細胞を移植しても治療に適合な濃度の幹細胞で培養するまでは長期間を要し、治療が必要な患者に、適切な時期に移植することができない制限がある。したがって、幹細胞に適切な刺激を与えて活性化を誘導することで増殖率を向上させて培養期間を短縮して、培養過程で急性損傷時の幹細胞に加えられた刺激(conditioning)の消失を最小にする必要がある。
【0011】
(d)一般的に幹細胞の培養過程には、ウシ胎仔血清(fetal bovine serum;FBS)を使用しているが、ウシ胎仔血清の場合、一部幹細胞内部に入って狂牛病のような動物原性感染症(zoonosis)を誘発することができるという危険性が報告されている。
【0012】
このように脳損傷患者を治療するための幹細胞治療において、同種または自家の移植幹細胞を使用する場合、多様な制限が報告されているが、このような制限を克服するための適切な幹細胞の活性化を誘導する方法に対しては、いままで報告されたことがない。したがって、幹細胞治療の既存の制限を克服するために、幹細胞を適切な状態で活性化させる方法に対する研究が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Bang OY、Lee JS、Lee PH、Lee G. Autologous mesenchymal stem cell transplantation in stroke patients. Ann Neurol. 2005;57:874−882
【非特許文献2】Lee JS、Hong JM、Moon GJ、Lee PH、Ahn YH、Bang OY. A long−term follow−up study of intravenous autologous mesenchymal stem cell transplantation in patients with ischemic stroke. Stem Cells. 2010;28:1099−1106
【非特許文献3】Zacharek A、Shehadah A、Chen J、Cui X、Roberts C、Lu M、Chopp M. Comparison of bone marrow stromal cells derived from stroke and normal rats for stroke treatment. Stroke. 2010;41:524−530
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者らは、幹細胞に適切な刺激を加えて、移植に適合な脳梗塞初期の活性化された状態を維持する方法に関して研究して、虚血血清(ischemic serum)で幹細胞を刺激する場合、幹細胞で成長因子の分泌が促進、増殖力が向上、及び生存能が向上することで、幹細胞の活性化が促進されることを確認し、本発明を完成した。
【0015】
本発明の目的は、虚血血清を有効成分で含む幹細胞活性化促進用組成物及びこれを利用した幹細胞の活性化促進方法を提供することにある。
【0016】
本発明の他の目的は、虚血血清を含んだ培地で培養された、活性化された幹細胞を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記のような目的を達成するために本発明は、虚血血清を有効成分で含む幹細胞活性化促進用組成物及び幹細胞の活性化促進方法を提供する。
【0018】
また、本発明は、虚血血清を含んだ培地で培養された活性化された幹細胞を提供する。
【0019】
また、本発明は、虚血血清を含んだ培地で培養された幹細胞を有効成分で含む虚血性疾患治療用薬学的組成物を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明による虚血血清は、幹細胞を刺激することで、成長因子の分泌促進、生存率の向上、損傷部位への移動性向上、増殖速度の向上または幹細胞の特性維持のように、幹細胞が脳損傷患者への移植に適切な状態になるように活性化を促進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、急性刺激である虚血血清を利用して幹細胞を活性化させる本発明の内容を概略的に示した模式図である。
図2図2は、FBS、一般血清、虚血血清を利用して培養された幹細胞を顕微鏡で観察した写真(A)、前記幹細胞の細胞表現型を、フローサイトメトリー分析を利用して確認した結果(B及びC)、及び細胞増殖率(D)を示した図である(FBS:ウシ胎仔血清処理群、IS:虚血血清処理群、NS:一般血清処理群)。
図3図3は、間葉系幹細胞を虚血血清またはFBSで培養した後、幹細胞で成長因子(VEGF、GDNF、HGF、bFGF)遺伝子及び幹細胞分化因子(BDNF、NGF)の発現程度を、リアルタイム遺伝子分析法(Real−time PCR)を利用して測定した結果を示した図である(10%FBS:ウシ胎仔血清処理群、10%IS:虚血血清処理群、10%NS:一般血清処理群)。
図4図4は、虚血血清を処理した幹細胞が虚血組織に移動が促進されるか否か、及び遮断剤であるAMD3100、PHA66752処理時の幹細胞移動能の変化を確認した結果を示した図である(FBS:ウシ胎仔血清処理群、IS:虚血血清処理群、NS:一般血清処理群、IBE:虚血脳抽出物(ischemic brain extracts))。
図5図5は、虚血血清処理による細胞の成長速度及び細胞周期の変化を確認した結果を示した図である。
図6図6は、 虚血血清処理による幹細胞の細胞生存率を虚血脳類似環境で確認した結果を示した図である(FBS:ウシ胎仔血清処理群、IS:虚血血清処理群、NS:一般血清処理群)。
図7図7は、脳虚血動物から虚血を誘導して経過時間によって虚血血清を得た後、これを間葉系幹細胞の培養時に期間による細胞数の変化を確認した結果を示した図である(P3:3継代培養、P4:4継代培養、FBS:ウシ胎仔血清処理群、1D IS:脳梗塞後に1日目の虚血血清処理群、7D IS:脳梗塞後に7日目の虚血血清処理群、14D IS:脳梗塞後に14日目の虚血血清処理群、28D IS:脳梗塞後に28日目の虚血血清処理群)。
図8図8は、脳虚血動物から虚血を誘導して経過時間によって虚血血清を得た後、これを間葉系幹細胞の培養時に期間による細胞周期の変化を確認した結果を示した図である(P3:3継代培養、P4:4継代培養、FBS:ウシ胎仔血清処理群、1D IS:脳梗塞後に1日目の虚血血清処理群、7D IS:脳梗塞後に7日目の虚血血清処理群、14D IS:脳梗塞後に14日目の虚血血清処理群、28D IS:脳梗塞後に28日目の虚血血清処理群)。
図9図9は、脳虚血動物から虚血を誘導して経過時間によって虚血血清を得た後、これを間葉系幹細胞の培養時に期間によって虚血脳類似環境で幹細胞の生存率を確認したことを示した図である(P3:3継代培養、P4:4継代培養、FBS:ウシ胎仔血清処理群、1D IS:脳梗塞後に1日目の虚血血清処理群、7D IS:脳梗塞後に7日目の虚血血清処理群、14D IS:脳梗塞後に14日目の虚血血清処理群、28D IS:脳梗塞後に28日目の虚血血清処理群)。
図10図10は、脳虚血動物から虚血を誘導して経過時間によって虚血血清を得た後、これを間葉系幹細胞の2継代培養から培養して、6継代培養でβ−ガラクトシダーゼ(beta−galactosidase)染色によって老化程度を確認したことを示した図である(P3:3継代培養、P4:4継代培養、FBS:ウシ胎仔血清処理群、1D IS:脳梗塞後に1日目の虚血血清処理群、7D IS:脳梗塞後に7日目の虚血血清処理群、14D IS:脳梗塞後に14日目の虚血血清処理群、28D IS:脳梗塞後に28日目の虚血血清処理群)。
図11図11Aは、脳虚血動物から虚血誘導後1日目に得た虚血血清に含まれたサイトカイン含有量を一般血清と比較して観察した図である。図11Bは、正常ラットと脳梗塞を誘導したラットから血清を得てサイトカイン抗体アレイ(cytokine antibody array)を実行した後に定量化した結果、CINC−1、IL−1alpha、MIP−3alphaは、一般血清に比べて虚血血清が高いレベルを示したが、Fractalkine、CD54、LIX、L−selectin、RANTES、TIMP−1は、低いレベルであることを確認した(NS:一般血清、IS:虚血血清)。また、図11C及びDは脳虚血動物から虚血を誘導して経過時間によって虚血血清を収得して、血清に含まれたTIMP−1とVEGFのレベルをELISAで観察した図である。TIMP−1は、一般血清に比べて1日目に減少する傾向があり、7日、14日、28日目の血清は、統計的に十分な減少を確認した。VEGFは、一般血清に比べて時間が経つほど増加する傾向を確認した(1D IS:脳梗塞後に1日目の虚血血清、7D IS:脳梗塞後に7日目の虚血血清、14D IS:脳梗塞後に14日目の虚血血清、28D IS:脳梗塞後に28日目の虚血血清)。
図12図12は、脳梗塞患者と正常である対照群の血清を得た後、血清に含まれたサイトカイン及び成長因子のレベルをサイトカインマルチプレックス(cytokine multiplex)法を利用して確認した。定量的に分析した結果、成長因子中VEGFとHGFは、脳梗塞患者血清で高いレベルで確認された(A)が、BDNFとNGFは、低いレベルで確認された(B)。ケモカインであるMCP−1、SDF−1、SCFは、脳梗塞患者の血清で低いレベルで確認された(C)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、虚血血清を有効成分で含む幹細胞活性化促進用組成物を提供する。
【0023】
本発明による虚血血清は、幹細胞を刺激することで、成長因子の分泌促進、生存率の向上、損傷部位への移動性向上、増殖速度の向上など幹細胞が、脳損傷患者に移植されるために適切な状態になるように活性化を促進させることができる。
【0024】
前記虚血血清とは、脳梗塞、心筋梗塞、脳出血、神経外傷及び脊髓損傷からなる群から選択された1種以上の疾患を有する患者から得られる血清として、同種の虚血血清または自家虚血血清を全て含む。前記虚血血清は、定常状態の血清とはその性質が相違するため、幹細胞に処理する場合、幹細胞の活性化を促進させることができる。
【0025】
前記虚血血清を、急性脳梗塞患者から得る場合、脳梗塞発病1日〜90日内の患者から得た虚血血清であることができ、好ましくは、脳梗塞直後1日〜30日以内に得た虚血血清であることができる。培養時に添加される虚血血清の濃度は、5%〜20%の濃度で処理されることが好ましくて、より好ましくは、10%の濃度で処理されることができる。
【0026】
前記虚血血清は、炎症性サイトカインまたは細胞成長因子が一般血清と比較してより多く含むことができる。前記炎症性サイトカインは、CINC−1(Cytokine−induced neutrophil chemoattractant−1)、IL−1α(Interleukin−1α)またはMIP−3α(Macrophage inflammatory protein 3α)であることができ、前記細胞成長因子は、VEGF(Vascular endothelial growth factor)、GDNF(Glial cell−derived neurotrophic factor)、HGF(hepatocyte growth factor)またはbFGF(basic fibroblast growth factor)であることができるが、これに限定されるものではない。
【0027】
また、前記虚血血清は、細胞分化因子またはケモカインが一般血清と比較して不十分に含まれたものであることができる。前記ケモカインは、SDF−1(Stromal cell−derived factor−1)、MCP−1(monocyte chemoattractant protein−1)またはSCF(Stem cell factor)であることができ、前記細胞分化因子は、BDNF(Brain derived neurotrophic factor)またはNGF(Nerve growth factor)であることができるが、これに限定されるものではない。
【0028】
幹細胞は、活性物質にさらされて活性化させることができる。前記幹細胞活性化とは、幹細胞の成長因子の分泌能向上、生存率向上、損傷部位への移動性向上、増殖速度向上または幹細胞の特性維持を含むことで、幹細胞が移植に適合な状態になるように変化することを意味する。活性化された幹細胞は、長期間の培養期間を経る必要なしに、すぐに損傷部位に移植することができる。このような幹細胞の活性化は、活性物質の刺激によって、細胞周期及び成長因子遺伝子の変化が達成することができる。したがって、幹細胞の活性化が促進されることは、一般培養幹細胞が損傷部位に移植可能な状態になるように誘導及び促進されることを意味する。
【0029】
前記幹細胞は、成体幹細胞、胚性幹細胞、間葉系幹細胞、脂肪幹細胞、造血母細胞、臍帯血幹細胞及び逆分化幹細胞を含むことができ、同種または自家の幹細胞であることができる。
【0030】
また、本発明は、虚血血清を有効成分で含む幹細胞活性化促進用培地及び前記培地で幹細胞を培養する工程を含む幹細胞の活性化促進方法を提供する。
【0031】
前記幹細胞活性化促進用培地は、一般的に当業界で使用できる培地に虚血血清を含む培地である。好ましくは、培地は、細胞培養に使われる通常の培地のDMEM(Dulbecco's modified essential medium)またはNPBM(Neural progenitor cell basal medium:Clonetics)を使用することができる。
【0032】
また、前記基本培地にbFGF(Basic fibroblast growth factor)またはEGF(Epidermal growth factor)を単独または組み合わせて添加することができ、濃度は、1ng/ml〜100ng/ml、好ましくは、10ng/mlを添加することができる。
【0033】
虚血血清を含む幹細胞活性化促進用培地は、基本培地に虚血血清を含むことで、幹細胞を刺激して活性化された状態で作成することができ、より具体的には、前記培地で培養された幹細胞が成長因子の分泌を促進し、生存率向上、損傷部位への移動性向上、増殖速度の向上など移植に適切な状態の幹細胞になるようにすることができる。
【0034】
前記幹細胞活性化促進用培地に含まれる虚血血清は、好ましくは、5〜20%の濃度で含むことができ、より好ましくは、10%の濃度で含むことができる。
【0035】
虚血血清を有効成分で含む幹細胞活性化促進用培地で幹細胞の活性化のための培養は、33℃〜38℃、好ましくは、37℃の温度で24時間の間培養して行うことができる。
【0036】
その他培養条件では、特別な制限はないが、幹細胞は浮遊した状態または培養容器に付着した状態で培養することができる。培養容器では、例えば、チャンバガラス、ノンコーティングディッシュ(non−coating dish)など当業界に広く使用される容器を使用することができる。
【0037】
また、本発明は、虚血血清を含んだ培地で培養されて活性化された幹細胞を提供する。
【0038】
前記活性化された幹細胞は、成長因子分泌能の向上、生存率向上、損傷部位への移動性向上、増殖速度の向上または幹細胞としての特性維持の特性を有する幹細胞である。
【0039】
前記成長因子は、幹細胞の増殖、成長、維持、生存を調節する重要な機能を有するタンパク質を意味し、特別に限定されないが、VEGF(Vascular endothelial growth factor)、GDN F(Glial cell−derived neurotrophic factor)、NT−3(Neurotrophin−3)、NT−4(Neurotrophin−4)、EGF(Epidermal growth factor)、bFGF(Basic fibroblast growth factor)またはCNTF(Ciliaryneurotrophic factor)などを含む。好ましくは、本発明の培養過程で刺激された幹細胞から生産される成長因子のうち増殖、成長、維持、生存などを調節する成長因子であるVEGF、GDNF、HGFまたはbFGFであることができる。
【0040】
前記損傷は、虚血による損傷を意味する。
【0041】
前記増殖速度の向上は、細胞増殖率が増加されることを意味し、細胞増殖率とは、幹細胞が自己分裂して細胞の数が増加する速度を意味する。
【0042】
また、本発明は、前記活性化された幹細胞を有効成分で含む虚血性疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0043】
本発明による虚血血清は、幹細胞を刺激することで、成長因子の分泌促進、生存率向上、損傷部位への移動性向上、増殖速度向上または幹細胞の特性維持など幹細胞が脳損傷患者に移植されるために適切な状態になるように活性化を促進させることができる。したがって、本発明の虚血血清は、虚血性疾患の予防または治療に有用に使用することができる。
【0044】
前記虚血性疾患は、虚血性脳疾患または虚血性心臓疾患または虚血性末梢血管疾患であることができる。虚血性脳疾患と虚血性心臓疾患及び末梢血管疾患の機序は、非常に類似するため、虚血性脳疾患に効果を示す場合、虚血性心臓疾患や末梢血管疾患においても同一または類似な効果を示すことができる。前記虚血性脳疾患は、血栓症、塞栓症、一過性虚血発作、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、白質異常症及びラクナ梗塞を含むことができる、前記虚血性心臓疾患は、心筋梗塞または狭心症を含むことができる。
【0045】
前記幹細胞は、そのまま移植に使用することができ、移植による治療効率を向上させるために各種薬剤を添加した、あるいは遺伝子を導入した組成物として移植することができる。
【0046】
本発明の組成物の調製においては、例えば、1) 本発明の細胞増殖率を向上させるまたは神経系細胞への分化を一層促進する物質の添加、あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入、2) 本発明の細胞の損傷神経組職内での生存率を向上させる物質の添加、あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入、3) 本発明の細胞が損傷神経組職から受ける悪影響を阻止する物質の添加、あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入、4) ドナー細胞(donor cell)の寿命を延長させる物質の添加、あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入、5) 細胞周期を調節する物質の添加、あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入、6) 免疫反応の抑制を目的とする物質の添加、あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入、7) エネルギー代謝を活性にする物質の添加、あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入、8) ドナー細胞の宿主組職内での移動能力を向上させる物質、あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入、9) 血流を向上させる物質、あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入(血管新生誘導も含む)、10) 宿主(host)脳神経でいかなる治療効果を有する物質の添加(対象疾患は、例えば、血栓症、塞栓症、一過性虚血発作、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、白質異常症及びラクナ梗塞)あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入を行うことを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
本発明の幹細胞の投与方法は、特に限定されず、例えば、局所投与、静脈内投与、動脈内投与、脳脊髓液内投与(例えば、腰椎穿刺(lumbar puncture)と脳室内の投与(intraventricular adminstration))などを使用することができる。
【0048】
より具体的に、患者への細胞移植は、疾病部位への移動を誘導することができれば、いかなる経路を通じても投与が可能である。例えば、移植する細胞を人工脳脊髓液と生理食塩水などを使用して浮遊させた状態で注射器に収集して、手術により損傷した神経組職を露出させて、この損傷部位に注射針で直接注入することができ、幹細胞を病変部位に向けるようにする手段を具備したべヒクルをローディングする方法も考慮することができる。したがって、本発明の活性化された幹細胞は、局所(頬側、舌側、皮膚及び眼内投与を含み)、非経口(皮下、皮内、筋肉内、点滴、静脈内、動脈内、関節内及び脳脊髓液内を含み)または経皮性の投与を含んだ多くの経路を通じて投与することができ、好ましくは、非経口、一番好ましくは、発病部位に直接投与する。本発明の幹細胞は、損傷された部位、特に虚血損傷部位への移動性が高いので、効果的に治療が必要な部位に移動が可能である。
【0049】
また、脳脊髓液中への注入も効果を期待することができる。この場合、通常の腰椎穿刺(lumbar puncture)で細胞を注入することが可能であるので、手術が不必要であり、局所麻酔のみで十分なので病室で患者を処置することができる。さらに、動脈内と静脈内への注入も効果を期待することができる。
【0050】
したがって、通常の輸血の手順で移植が可能になり、病棟での移植操作が可能であるという点で優れている。
【0051】
本発明の薬学的組成物は、細胞治療剤で使用が可能である。前記細胞治療剤とは、ヒトから分離、培養及び特殊な操作によって製造された細胞及び組職で、治療、診断及び予防の目的で使われる医薬品(アメリカFDA規定)として、細胞あるいは組職の機能を復元させるために、生きている自家、同種、または異種の細胞を体外で増殖選別するかを、他の方法で細胞の生物学的特性を変化させるなどの一連の行為によって治療、診断及び予防の目的で使用される医薬品を意味する。
【0052】
また、本発明の薬学的組成物は、投与のために前述の有効成分外に、薬学的に許容可能な担体、賦形剤及び希釈剤をさらに含むことができる。例えば、担体、賦形剤及び希釈制は、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルギネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、アモルファスセルロース、ポリビニールピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム、鉱物油からなる群より選択することができる。
【0053】
本発明の薬学的組成物は、公知の方法によって多様な非経口形態で製造することができる。代表的な非経口投与用剤型では、注射用剤型で等張性水溶液または懸濁液が好ましい。注射用剤型は、適合な分散剤または湿潤剤及び懸濁化剤を使用して当業界で知られた技術によって製造することができる。例えば、各成分を、食塩水または緩衝液に溶解させて注射用で剤型化することができる。
【0054】
非経口投与のための製剤には、滅菌溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤が含まれる。非水性溶剤、懸濁剤では、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性オイル、エチルオレートのような注射可能なエステルなどを使用することができる。坐剤の基材では、ウイテプゾール、マクロゴ−ル、ツイン61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどを使用することができる。
【0055】
本発明の薬学的組成物の有効投与量は、患者の年齢、性別、体重によって変更することができるが、適切な希釈剤に1×103〜5×106細胞/mlの濃度で懸濁させて個体に投与することができる。前記希釈剤は、細胞を保護及び維持する目的となる組職への注入時に容易に使用できる用途で使用される。前記希釈剤では、生理食塩水、リン酸緩衝溶液、HBSSなどの緩衝溶液、血漿, 脳脊髓液または血液成分などがある。
【0056】
本発明の組成物は、虚血性脳疾患治療のために単独で、または手術、化学的治療、放射性治療、ホルモン治療、薬物治療及び生物学的反応調節剤を使用する方法と併用して使用することができる。
【実施例1】
【0057】
以下、本発明を製造例及び実施例により詳しく説明する。但し、下記製造例及び実施例は、本発明を例示することに過ぎず、本発明の内容が下記製造例及び実施例により限定されるものではない。
【0058】
実施例1.骨髓由来幹細胞の採取及び培養
白ネズミから骨髓を採取してリン酸塩緩衝液(PBS)に1:1に希釈し、遠心分離及び培養によって骨髓由来の間葉系幹細胞を採取した。得られた間葉系幹細胞は、5%CO2及び37℃下で培養し、以後、実施例では、継代培養2−5世代(passage 2−5、P2−5)細胞を使用した。実験は、実験動物研究委員会の承認下で進行された。
【0059】
実施例2.虚血血清を利用した幹細胞刺激
前記実施例1から得られた3×105個の骨髓由来の間葉系幹細胞を、35mm培養皿に前処理群または対照群に分けて培養した。対照群培地は、10%FBSを含むDMEM培地で、一般血清処理群と虚血血清処理群は、一般血清(NS)あるいは虚血血清(IS)を各々10%含む培地で、24時間の間(単回処理、継代培養4−5世代)あるいは培養初期からFBSを使用せず培養した。虚血血清は、継代培養4−5世代まで持続的に処理し、一継代培養当たり3日培養を実行した。実験は、各群当たり3回ずつ繰り返して実行した。虚血血清処理群で使用された虚血血清は、白ネズミに中脳動脈梗塞を誘発させた後、1日になったラットから得た。虚血血清は、安定化されている幹細胞に急性刺激を誘発するために使用された。このような急性刺激によって幹細胞が虚血性脳疾患者への移植に適合な幹細胞に活性化されたか否かを確認した。本発明の虚血血清を利用して幹細胞を活性化させる過程を図1に示した。
【0060】
2.1 虚血血清で処理した幹細胞の表現型及び細胞数の変化
FBS、一般血清及び虚血血清を利用して培養された幹細胞の細胞表現型をフローサイトメトリー(flow cytometric analysis)を利用して、光学顕微鏡によって前処理前後の細胞数を比較して数値化した。その結果を図2に示した。
【0061】
図2(A)に示したように、一般血清処理群、虚血血清処理群と対照群のいずれも細胞形状には差がないことを観察した。また、図2(B)及び(C)に示したように、一般的に白血球から発現されるCD11bに対しては陰性である一方、幹細胞マーカーであるCD90に対しては陽性を示した。このような結果によって、虚血血清の処理が幹細胞の表現型には影響を及ぼさないことを確認した。単回培養後の一般血清あるいは虚血血清処理群がFBS処理群に比べて細胞数が増加することを確認し、これを図2(D)に示した。2継代培養から6継代培養にわたって連続的な培養を実行した結果、虚血血清を含んだ培地で培養した幹細胞の増殖割合が、一般血清あるいはFBSで培養した幹細胞に比べて高いことを確認し、これを図2(E)に示した。
【0062】
2.2 虚血血清を処理した幹細胞の成長因子発現の測定
虚血血清を幹細胞で処理した場合、成長因子の遺伝子発現を増加させることができるか否かを、間葉系幹細胞に一般血清あるいは虚血血清で処理した処理群(10%NS、10%IS)とFBSで処理した対照群を利用して比較した。各々の処理群と対照群をリアルタイム遺伝子分析法(Real−time PCR)で、幹細胞で細胞成長及び生存に関与する成長因子であるVEGF、GDNF、HGF、bFGF、幹細胞を分化させることに関与するBDNF、NGF遺伝子発現量の変化を測定した。その結果は、図3に示した。
【0063】
図3に示したように、VEGFは、虚血血清を処理した処理群がFBSまたは一般血清で処理した群に比べて増加し(A)、GDNFは、虚血血清処理群が一般血清処理群とは差がないが、FBSで処理した対照群に比べて増加した(B)。また、HGFとbFGFの場合、FBSまたは一般血清処理群に比べて虚血血清処理群で遺伝子発現が増加した(C及びD)。
【0064】
一方、幹細胞の神経細胞への分化を誘導するBDNF及びNGFの遺伝子の発現は、一般血清と虚血血清処理群がFBSのみで処理した対照群に比べて低い遺伝子発現を示した。
【0065】
これを総合すれば、細胞増殖及び成長に関与する成長因子の発現は増加し、分化を誘導する成長因子は減少した。これによって、虚血血清処理が幹細胞で成長因子の発現を調節することができることを確認した。
【0066】
2.3 虚血血清を処理した幹細胞の移動能力の測定
幹細胞を移植する治療法は、幹細胞が目的する部位に移動することが重要な要素であるので、虚血血清を処理した幹細胞が虚血組織に移動が促進されるか否かを確認した。虚血血清で前処理を行った幹細胞と虚血血清を処理しない幹細胞をチャンバガラスに培養した後、虚血−脳抽出物を含んだ寒天ゲルを置いて48時間の間移動する幹細胞の数を測定した。また、幹細胞の移動を誘導する因子であるSDF−1、HGFを阻害するために、ケモカインSDF−1拮抗剤であるAMD3100あるいはHGF収容体c−Metの阻害剤であるPHA66752を処理した後、幹細胞移動の増加が遮断されるか否かを測定した。その結果は、図4に示した。
【0067】
図4に示したように、虚血血清で前処理しない幹細胞に比べて、虚血血清で前処理によって活性化された幹細胞は、移動が促進され、AMD3100、PHA66752処理により部分的に阻害された。このような結果によって、虚血血清の前処理により幹細胞の移動性が増加し、このような幹細胞の移動には、SDF−1、HGF外にも多様な因子が関与することを確認した。結果的に、虚血血清を幹細胞に前処理して培養する場合、損傷部位に移動する幹細胞の能力が向上されて、選択的に脳梗塞のような損傷部位に移動することができることが分かる。
【0068】
2.4 虚血血清処理による細胞周期の変化測定
トリプシン処理した細胞を1,300rpm、3分間遠心分離してペレットを作った後、90%エタノール1mlで再浮遊(resuspension)させて、4℃で一晩の間培養した。1,500rpmで5分間遠心分離してエタノールを除去し、0.1%triton X−100、20μg/ml RNaseA PBS 500μlを再浮遊させた。37℃で30分間培養した後、50μg/mlのPIを入れて虚血血清処理による細胞周期の変化を測定した。その結果は、図5に示した。
【0069】
図5に示したように、虚血血清を利用して培養した場合、FBSで培養したことに比べてS期とG2/M期が増加することを確認した。10%FBS培養に比べて、10%、20%の虚血血清を単回(3日間)処理した後のS、G2/M期が増加し、10%虚血血清を利用して継代培養した場合、1世代継代培養では、S期とG2/M期の割合が10%FBSと類似であるが、2、3、4世代継代培養になることによってS期とG2/M期の割合が10%FBSに比べて増加することを確認した。
【0070】
2.5 虚血血清処理による幹細胞の細胞生存率の分析
虚血血清で刺激された幹細胞が虚血環境で抵抗性を示して生存率が高くなることができるか否かを確認するために、虚血脳類似環境で虚血血清を処理した処理群とFBSを処理した処理群、一般血清で処理した処理群の細胞生存率を比較分析した。虚血血清で継代培養した後、20%虚血脳抽出物を細胞に処理して虚血脳類似環境培養を作成した。24時間後に細胞をトリプシン処理して5%FBS−PBSで、1300rpmで3分間遠心分離してペレットを作った後、1x結合緩衝液(binding buffer)を150μl入れた。以後、 Annexin V−FITC 10μl、50μg/mlPIを10μl入れて、常温で15分間反応させた後、1x結合緩衝液350μlを入れて分析した。その結果は、図6に示した。
【0071】
図6に示したように、虚血血清で幹細胞を刺激して培養した場合、虚血脳類似環境培養による死滅細胞は、FBSで培養した場合に比べて顕著に減少し、生存した細胞は増加した。これによって、虚血血清の処理時に、虚血抵抗性が増加されて虚血部位に移植する場合、幹細胞の生存率を増加させることができることを確認した。
【0072】
2.6 虚血後の時期別虚血血清処理による細胞数の変化測定
脳虚血誘発動物から虚血誘発1日、7日、14日、28日後に虚血血清を得た後、これを利用して2継代培養から6継代培養まで順次に継代培養し、各継代に細胞数を顕微鏡上で測定した。その結果は、図7に示した。
【0073】
図7に示したように、FBSを含んだ培地より虚血誘発1日、7日、14日、28日後に得た虚血血清を含む培地で培養した場合、継代が増加するほど得られる細胞数が増加することを確認した。
【0074】
2.7 虚血後の時期別虚血血清処理による細胞周期の変化測定
脳虚血誘発動物から虚血誘発1日、7日、14日、28日後に虚血血清を得た後、これを利用して2継代培養から6継代培養まで順次に継代培養した細胞をトリプシン処理し、1,300rpmで3分間遠心分離してペレットを作った後、90%エタノール1mlで再浮遊(resuspension)させて、4℃で一晩の間培養した。1,500rpmで5分間遠心分離してエタノールを除去し、0.1%triton X−100、20μg/ml RNaseA PBS 500μl再浮遊させた。37℃で30分間培養した後、50μg/mlのPIを入れて虚血血清処理による継代培養別細胞周期の変化を測定した。その結果は、図8に示した。
【0075】
図8に示したように、遺伝子複製と細胞分裂段階であるS期とG2/M期にある細胞が、1日目の虚血血清で培養した群で2−6世代継代培養までFBSで培養した対照郡に比べて増加することを確認した。7日、14日、28日目の虚血血清で培養した群は、2−4世代継代培養までFBSで培養した対照群に比べて増加することを確認した。
【0076】
2.8 虚血後の時期別虚血血清処理による幹細胞の細胞生存率の分析
虚血後の時期別虚血血清で培養された幹細胞が虚血環境で抵抗性を示して生存率が高くなることができるか否かを確認するために、虚血脳類似環境により時期別虚血血清で処理した処理群と、FBSで処理した処理群の細胞生存率を比較分析した。具体的には、虚血血清で継代培養した後、20%虚血脳抽出物を細胞に処理して虚血脳類似環境培養を作成した。24時間後に細胞をトリプシン処理して、5%FBS−PBSで1300rpm、3分間遠心分離してペレットを作った後、1x結合緩衝液(binding buffer)を150μl入れた。以後、 Annexin V−FITC 10μl、50μg/mlPIを10μl入れて、常温で15分間反応させた後、1x結合緩衝液350μlを入れて分析した。その結果は、図9に示した。
【0077】
図9に示したように、1日、7日、14日、28日目の虚血血清で幹細胞を培養した場合、虚血脳類似環境培養による死滅細胞は、FBSで培養した場合に比べて顕著に減少し、生存した細胞は増加した。また、継代培養を繰り返しても虚血血清で培養した幹細胞が、FBSで培養した幹細胞に比べて虚血脳類似環境で生存率が高いことを確認した。これによって、虚血血清の処理時に、虚血抵抗性が増加されて虚血部位に移植する場合、幹細胞の生存率を増加させることができることを確認した。
【0078】
2.9 虚血後の時期別虚血血清処理による幹細胞の老化(senescence)分析
虚血血清培養が幹細胞の老化(senescence)に及ぶ影響を調べるために、2世代培養から虚血血清とFBSで培養した幹細胞を、6世代培養にβ−ガラクトシダーゼ染色後に比較分析した。具体的には、虚血血清とFBSで培養した6世代培養細胞を4%パラフォルムアルデヒドで固定化した後、930μl1× Staining Solution、10μlStaining Supplement A、10μlStaining Supplement B、50μl120mg/mlX−gal溶液(cell signaling製)混合物を処理した後、37℃で24時間反応して観察した。その結果は、図10に示した。
【0079】
図10に示したように、FBSのみで培養した幹細胞は、虚血後に、1日、7日、14日、28日に得た虚血血清で培養した幹細胞に比べて、β−ガラクトシダーゼ染色陽性である細胞の数が多いことを顕微鏡上で、肉眼で確認することができた(A)。全体細胞の中でβ−ガラクトシダーゼ染色陽性である細胞数を測定して割合を図に示した(B)。これによって、虚血血清培養が幹細胞の老化を緩めることができることを確認した。
【0080】
実施例3. 虚血血清のサイトカイン及び成長因子の分析
前記実施例1及び実施例2で使用した虚血血清及び一般血清に含有されたサイトカイン成長因子のレベルを、R&D System社のRat cytokine antibody arrayとELISAを利用して分析した。また、脳梗塞患者と正常群の血清を得て、サイトカインと成長因子のレベルを確認しようとBIO−RAD社のHuman cytokine multiplexを利用して分析した。実験は各群当たり3回繰り返して実行した。
【0081】
3.1 虚血脳梗塞動物の虚血血清サイトカイン及び成長因子の分析
脳梗塞誘導1日目の虚血血清と一般血清に含まれたサイトカイン及び成長因子のレベルを、R&D System社のRat cytokine antibody arrayとELISAを利用して分析した。
【0082】
具体的には、サイトカインと成長因子を含む29種の相違なる抗体が塗布された膜組織は、遮断緩衝液(blocking buffer)で1時間の間反応させて、血清は、検出抗体と混合して1時間反応させる。このように反応させた試料を膜組織に混合して4℃で12時間反応させる。反応が終わると、洗浄液で3回洗浄した後、ストレプタビジン−HRPを30分間反応させる。反応が終わると、洗浄液で3回洗浄した後、フィルムに現像して結果を確認した。その結果は、図11に示した。
【0083】
図11(A)に示したように、総29種のタンパク質のうち9種のタンパク質がフィルムに現象されることを確認した。これは、各々CINC−1、Fractalkine、CD54、IL−1alpha、LIX、L−selectin、MIP−3alpha、RANTES、TIMP−1であった。
【0084】
前記フィルムに現象された各点を、基準点(control spot)を利用して標準化して定量分析し、その結果を図11の(B)に示した。
【0085】
図11(B)に示したように、CINC−1、IL−1、MIP−3は、虚血血清で高いレベルで確認されて、Fractalkine、CD54、LIX、L−selectin、RANTES、TIMP−1は、低いレベルで確認された。
【0086】
また、ELISAを利用してVEGFとTIMP−1の虚血後の時期による変化を確認し、その結果を図11(C)及び(D)に示した。
【0087】
図11(C)及び(D)に示したように、TIMP−1は、1日目の虚血血清で減少する傾向を示し、7日、14日、28日目の虚血血清で統計的に有意味に減少することを確認した(C)。VEGFは、虚血後に時間が経過するほど増加する傾向を示した(D)。
【0088】
結果的に、虚血血清には、幹細胞を活性化させることができる炎症性サイトカインと成長因子のレベルが高くて、細胞分裂と成長を抑制することができる細胞付着分子などは低いことを確認した。
【0089】
3.2 脳梗塞患者の虚血血清サイトカイン及び成長因子の分析
脳梗塞発病後に7週間以内の患者から虚血血清を得て正常人の血清と比較し、含まれたサイトカイン及び成長因子のレベルをBIO−RAD社のHuman cytokine multiplexを利用して分析した。
【0090】
具体的には、標準試料は250μlの標準緩衝液を入れてボルテックスして氷で5分間培養した後、標準バイアルに移してボルテックスしてから5分間培養した。調整した標準試料を4倍希釈するために、8個のチューブのうち2〜8番のチューブに各150μlの標準バッファーを入れて、1番のチューブには標準溶液のみを200μl入れた。その後、50μlずつチューブ1から2に、2から3に移して段階希釈した。濾過プレートに150μlのリーディング緩衝液(reading buffer)を入れて5分間培養してフィルターを充分に濡らした後、真空濾過を利用して緩衝液を除去した。先混合された抗体ビーズ(premixed antibody beads)を30秒間ボルテックスした後、50μlずつ各ウェルに入れて真空濾過で緩衝液を除去した。150μlの緩衝液で洗浄して真空で除去した後、ウェル当たり25μlのサンプルと標準試料を入れて密封した後、700rpm、60分間プレート撹拌機(plate shaker)上で、室温条件で培養した。60分後に真空を利用して溶液を除去し、150μlの洗浄緩衝液を入れて3回洗浄した。25μlの検出抗体を入れて密封した後、700rpmで30分間撹拌培養した後3回洗浄した。SAPE(streptavidin−PE)溶液を各ウェル当たり50μlずつ入れて、700rpmで30分間撹拌培養して3回洗浄した。その後、120μlのリーディング緩衝液を各ウェルに入れて700rpmで5分間撹拌培養した後、Luminex instrumentに入れてリーディングした。その結果は、図12に示した。
【0091】
図12に示したように、脳梗塞患者の血清と正常人の血清は、成長因子であるHGF、VEGF、BDNF、NGFとケモカインであるSDF−1、MCP−1、SCFのレベルで相異することを示した。幹細胞の成長及び自家分裂を促進することができるHGF、VEGFのレベルは、脳梗塞患者の血清で高く現われた一方(A)、幹細胞の神経細胞への分化を誘導することができるBDNFとNGFは、低いことを確認した(B)。体内で幹細胞が陽性走化性を示すケモカインであるSDF−1、MCP−1、SCFは、脳梗塞患者の血清で正常人の血清に比べて低いレベルで存在することを確認した(C)。これによって、脳梗塞患者の血清が正常人の血清に比べて幹細胞の活性を調節する物質のレベルが相違することを確認した。
【0092】
製剤例1. 薬学的製剤の製造
1.1 注射剤の製造
虚血血清を含んだ培地で培養された幹細胞:5×106細胞/ml
マンニトール:180mg
注射用滅菌蒸溜水:2974mg
Na2HPO42O:26mg
通常の注射剤の製造方法によって1アンプル当たり(2ml)、前記の成分含量で製造する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12