特許第6203303号(P6203303)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6203303熱硬化性樹脂組成物、その製造方法および用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6203303
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物、その製造方法および用途
(51)【国際特許分類】
   C08L 61/14 20060101AFI20170914BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20170914BHJP
   C08K 5/3415 20060101ALI20170914BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20170914BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20170914BHJP
   B32B 27/42 20060101ALI20170914BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   C08L61/14
   C08J5/24CFB
   C08K5/3415
   C08L63/00 Z
   B32B27/18 Z
   B32B27/42 101
   H05K1/03 610H
【請求項の数】14
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-29127(P2016-29127)
(22)【出願日】2016年2月18日
(65)【公開番号】特開2017-145345(P2017-145345A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2017年2月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000126115
【氏名又は名称】エア・ウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100116241
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 一郎
(72)【発明者】
【氏名】海老原 陽介
(72)【発明者】
【氏名】小山 治
【審査官】 藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/057171(WO,A1)
【文献】 特開2016−210927(JP,A)
【文献】 特開2006−022179(JP,A)
【文献】 特開2010−090238(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/165423(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/047203(WO,A1)
【文献】 特開2003−119348(JP,A)
【文献】 特開2003−147170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
・IPC
C08L 61/14
B32B 27/18
B32B 27/42
C08J 5/24
C08K 5/3415
C08L 63/00
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)マレイミド化合物と(B)フェノール化合物との反応溶媒中における反応によって生成される(C)反応生成物を含有しており、
前記(A)マレイミド化合物のマレイミド基当量数が、前記(B)フェノール化合物の水酸基当量数よりも大きい熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(C)は、アミド系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒およびアルコール系溶媒からなる群から選ばれる1または複数の反応溶媒中における、前記(A)と前記(B)との反応によって生成されたものである請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
記反応溶媒は、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、アセトン、メチルエチルトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メタノール、エタノール、プロパノールおよびブタノールからなる群から選ばれる1または複数である請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
記(C)反応生成物が下記の一般式(1)で示される請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化1】

(一般式(1)中のAおよびA’は、下記の一般式(2)または(3)で示される構造を有し、AとA’とは同一であっても異なっていてもよい。nは括弧内に示す構造の繰り返し数の平均値を示しており、1以上である。)
【化2】

【化3】

(一般式(3)中、Bは下記の一般式(4)で示される置換基、もしくは直接結合である。
【化4】

一般式(4)中、mは括弧内に示す構造の繰り返し数の平均値を示しており、1以上であり、B’は下記の一般式(5)または(6)で示される置換基である。)
−O−Ar ・・・(5)
−Ar−OH ・・・(6)
(一般式(5)および一般式(6)中、Arはベンゼン環またはナフタレン環を一つ以上有し、その環上は置換基で修飾されていてもよい。)
【請求項5】
熱硬化させることにより得られる熱硬化物の線熱膨張係数が40ppm/℃以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
エポキシ樹脂を含有しない請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
重合可能な不飽和基を1分子中に少なくとも1価以上有する化合物をさらに含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物の製造方法であって、(A)マレイミド化合物と(B)フェノール化合物とを、アミド系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒およびアルコール系溶媒からなる群から選ばれる1または複数の反応溶媒中において反応させて(C)反応生成物とする反応工程を含んでいる熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記反応溶媒は、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、アセトン、メチルエチルトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メタノール、エタノール、プロパノールおよびブタノールからなる群から選ばれる1または複数である請求項8に記載の熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物を含有する絶縁材料。
【請求項11】
封止材として用いる請求項10記載の絶縁材料。
【請求項12】
熱硬化性樹脂組成物を基材に含浸させたプリプレグとして用いる請求項10記載の絶縁材料。
【請求項13】
請求項12記載のプリプレグを積層して得られる積層板または金属張積層板。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させてなる、ガラス転移温度が180℃以上である熱硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化により線熱膨張係数が小さい熱硬化物となり、回路基板を構成する部材に好適に用いることができる熱硬化性樹脂組成物、その製造方法および用途に関する。
【背景技術】
【0002】
電気電子産業を中心とする様々な分野において、電子機器の小型化、多機能化、通信速度の高速化等が追及されるに伴い、電子機器に用いられる回路基板のさらなる高密度化が要求されている。このような高密度化の要求にこたえるため回路基板の多層化が図られている。
【0003】
多層化された回路基板は、例えば、電気絶縁層とその表面に形成された導体層とからなる内層基板に積層した電気絶縁層上に導体を形成し、さらに電気絶縁層上と導体の形成を繰り返すことにより作製される。回路基板の多層化を実現するために、種々の熱硬化性樹脂組成物が種々提案されている(特許文献1〜3)。
【0004】
特許文献1には、高Tg(高耐熱)、低熱膨張であって、難燃性にも優れた熱硬化性樹脂組成物を提供することを目的として、マレイミド化合物、分子中に少なくとも2個のグリシジル基を有するエポキシ樹脂、および分子中に少なくとも2個のOH基を有するフェノール化合物を含有する変性ポリイミド熱硬化性樹脂組成物が記載されている。
【0005】
特許文献2、3には、難燃性の積層板を提供することを目的として、特定のマレイミド基を含有する熱硬化性樹脂組成物とエポキシ樹脂(ナフトール骨格含有のエポキシ熱硬化剤または/およびエポキシ樹脂)を複合化させた熱硬化性樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2012/057171号
【特許文献2】特開2003−119348号公報
【特許文献3】特開2003−147170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜3に開示されている熱硬化性樹脂組成物はいずれも、熱硬化性樹脂の難燃性を向上させることを主な目的とするものであり、熱硬化させて得られる熱硬化物の熱膨張性が十分に低く抑えられたものではない。
本発明は、熱硬化により線熱膨張係数が小さい熱硬化物となり、回路基板を構成する部材に好適に用いることができる熱硬化性樹脂組成物、その製造方法および用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1](A)マレイミド化合物と(B)フェノール化合物との反応溶媒中における反応によって生成される(C)反応生成物を含有しており、前記(A)マレイミド化合物のマレイミド基当量数が、前記(B)フェノール化合物の水酸基当量数よりも大きい熱硬化性樹脂組成物。
[2]前記(C)は、アミド系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒およびアルコール系溶媒からなる群から選ばれる1または複数の反応溶媒中における、前記(A)と前記(B)との反応によって生成されたものである[1]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[3]前記反応溶媒は、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、アセトン、メチルエチルトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メタノール、エタノール、プロパノールおよびブタノールからなる群から選ばれる1または複数である[1]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0010】
[4]記(C)反応生成物が下記の一般式(1)で示される[1]〜[3]のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化1】

(一般式(1)中のAおよびA’は、下記の一般式(2)または(3)で示される構造を有し、AとA’とは同一であっても異なっていてもよい。nは括弧内に示す構造の繰り返し数の平均値を示しており、1以上である。)
【化2】

【化3】

(一般式(3)中、Bは下記の一般式(4)で示される置換基、もしくは直接結合である。
【化4】

一般式(4)中、mは括弧内に示す構造の繰り返し数の平均値を示しており、1以上であり、B’は下記の一般式(5)または(6)で示される置換基である。)
−O−Ar ・・・(5)
−Ar−OH ・・・(6)
(一般式(5)および一般式(6)中、Arはベンゼン環またはナフタレン環を一つ以上有し、その環上は置換基で修飾されていてもよい。)
【0011】
[5]熱硬化させることにより得られる熱硬化物の線熱膨張係数が40ppm/℃以下である[1]〜[4]のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[6]エポキシ樹脂を含有しない[1]〜[5]のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[7]重合可能な不飽和基を1分子中に少なくとも1価以上有する化合物をさらに含む[1]〜[6]のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0012】
[8][1]に記載の熱硬化性樹脂組成物の製造方法であって、(A)マレイミド化合物と(B)フェノール化合物とを、アミド系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒およびアルコール系溶媒からなる群から選ばれる1または複数の反応溶媒中において反応させて(C)反応生成物とする反応工程を含んでいる熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
[9]前記反応溶媒は、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、アセトン、メチルエチルトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メタノール、エタノール、プロパノールおよびブタノールからなる群から選ばれる1または複数である[8]に記載の熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
【0013】
[10][1]〜[7]のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物を含有する絶縁材料。
[11]封止材として用いる[10]記載の絶縁材料。
[12]熱硬化性樹脂組成物を基材に含浸させたプリプレグとして用いる[10]記載の絶縁材料。
[13][12]記載のプリプレグを積層して得られる積層板または金属張積層板。
[14][1]〜[7]のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させてなる、ガラス転移温度が180℃以上である熱硬化物。
【発明の効果】
【0014】
本発明の熱硬化性樹脂組成物を熱硬化することによって、線熱膨張係数の低い熱硬化物が得られる。線熱膨張係数の小さい熱硬化物を回路基板の部材として用いることにより、回路基板等を構成する他の部材との線熱膨張係数の差が小さくなるから、熱応力による回路基板等の変形を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
(熱硬化性樹脂組成物)
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、(A)マレイミド化合物、および(B)フェノール化合物を含有している。
(A)マレイミド化合物
マレイミド化合物(A)は下記一般式(7)で示される1分子中に2個以上のマレイミド基を有する化合物である。熱硬化性樹脂組成物中に含有されるマレイミド化合物(A)は、1種のみであっても2種以上であってもよい。
【化5】
一般式(7)中、Rはk価の有機基であり、XおよびXは水素原子および有機基から選ばれた同一または異なる一価の原子または基であり、kは2以上の整数であり、好ましくは2〜10である。
【0016】
好ましいマレイミド化合物として、一般式[1]中のRが下記一般式(8)で示されるk価の有機基の群から選ばれたものを挙げることができる。
【化6】
(一般式(8)中、Zは−CY−、−CO−、−O−、−、−S−、−SO−を示しており、各Zは同一であっても異なっていても良い。Yは−CH、CHCH−、CHO−、−OH、−NHまたは水素原子を示しており、各Yは同一であっても異なってもよい。rは1〜10の整数を示している。)
【0017】
一般式(7)中、XおよびXで示される有機基として、メチル基等の炭素数1〜20のアルキル基を挙げることができる。
一般式(7)で示される(ポリ)マレイミド化合物としては、例えば、N,N’−エチレンビスマレイミド、N,N’−ヘキサメチレンビスマレイミド、N,N’−(1,3−フェニレン)ビスマレイミド、N,N’−[1,3−(2−メチルフェニレン)]ビスマレイミド、N,N’−(1,4−フェニレン)ビスマレイミド、ビス(4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(4−マレイミドフェニル)エーテル、ビス(4−マレイミドフェニル)スルホン、ビス(4−マレイミドフェニル)スルフィド、ビス(4−マレイミドフェニル)ケトン、ビス(4−マレイミドシクロヘキシル)メタン、1,4−ビス(4−マレイミドフェニル)シクロヘキサン、1,4−ビス(4−マレイミドメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(マレイミドメチル)ベンゼン、1,3−ビス(3−マレイミドフェノキシ)ベンゼン、ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]エタン、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]ブタン、4,4’−ビス(3−マレイミドフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−マレイミドフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]エーテル、1,4−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)−3,5−ジメチル−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)−3,5−ジメチル−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)−3,5−ジメチル−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)−3,5−ジメチル−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン等を挙げることができる。
【0018】
好ましいマレイミド化合物として、下記一般式(9)〜(11)で表されるポリマレイミド化合物を挙げることができる。
【化7】
(一般式(9)のsおよび一般式(10)のtは括弧内に示す構造の繰り返し数の平均値で0〜10であり、一般式(11)のuは括弧内に示す構造の繰り返し数の平均値で0〜6である。)
【0019】
(B)フェノール化合物
本発明で用いられる(B)フェノール化合物としては、下記一般式(12)で表されるフェノール化合物を挙げることができる。
【化8】
(一般式(12)中、Ar、Arは、それぞれ下記一般式(13)で示されるフェニレン基または下記一般式(14)で示されるナフタレン基であり、
【化9】
上記一般式(12)中、Xは直接結合、炭素数1〜4のアルキレン、芳香環を含む炭素数8〜15のアルキレン、O、SまたはSOのいずれかを示し、アルキレンとしてはメチレン等が挙げられ、芳香環を含む炭素数8〜15のアルキレンとしてはフェニレン、ナフタレン、ビフェニレン構造を含むもの等が挙げられる。mは0以上の整数であり、但しmが0の場合は、Arは少なくとも1個の水酸基を有するものである。上記一般式(13)および(14)中、R、R、Rはそれぞれ炭化水素基または水酸基であり、v、w、xはそれぞれ0〜3の整数である。)
【0020】
(B)フェノール化合物の具体例として、ヒドロキノン、レゾルシン、カテコール、ピロガロール、フロログルシン;o,m’−ビフェノール、o,p’−ビフェノール、m,m’−ビフェノール、m,p’−ビフェノール、p,p’−ビフェノール等のビフェノール類;ビスフェノールF、ビスフェノールA等のビスフェノール類;1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、1,8−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレンのほか、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、フェノールナフチルアルキル樹脂、トリフェノールメタン型ノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル樹脂等の公知のフェノール樹脂系熱硬化剤を挙げることができる。これらの中では、ビフェニルアラルキル樹脂、フェノールアラルキル樹脂が好ましく、ナフトールアラルキル樹脂がより好ましい。
【0021】
(当量比)
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、(A)マレイミド化合物のマレイミド基当量数が、(B)フェノール化合物の水酸基当量数よりも大きい。マレイミド基当量数を水酸基当量数よりも大きくすることにより、熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させて得られる熱硬化物の線熱膨張係数が小さくなる。熱硬化物の線熱膨張係数を低くする観点から、マレイミド基当量数は、水酸基当量数の1.2倍以上であることが好ましく、2倍以上であることがより好ましく、2.3倍以上であることがさらに好ましい。また、同様の観点から、マレイミド基当量数は、水酸基当量数の25倍以下であることが好ましく、4倍以下であることがより好ましく、3.3倍以下であることがさらに好ましい。
【0022】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂は、高接着性、多様性、価格が比較的廉価であるというメリットがあることから、熱硬化性樹脂組成物に含まれる代表的な成分として、長年、様々な産業において広汎に使用されている。このため、例えば、特許文献1〜3に記載されている熱硬化性樹脂はいずれも、エポキシ樹脂を高い割合で含有している。これに対して、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、(A)マレイミド化合物のマレイミド基当量数を(B)フェノール化合物の水酸基当量数よりも大きくするとともに、エポキシ樹脂の含有量を従来の熱硬化性樹脂よりも低くしている。熱硬化物の線熱膨張係数を低くする観点から、エポキシ樹脂含有量は、熱硬化性樹脂100質量部中に、30質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましい。熱硬化物の線熱膨張係数を低くする観点からは、エポキシ樹脂を含有しない熱硬化性樹脂組成物として本発明を実施しても良い。
【0023】
熱硬化性樹脂組成物中にエポキシ樹脂含有量を所定量以下とすることにより、線熱膨張係数が小さい熱硬化物、具体的には、線熱膨張係数が40ppm/℃以下、さらには25ppm/℃以下である熱硬化物を得ることができる。
【0024】
熱硬化性樹脂組成物にエポキシ樹脂を配合する場合は、公知のものを使用することができる。
例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、フェノール、ナフトールなどのキシリレン結合よるアラルキル樹脂のエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂のエポキシ化物、ジヒドロナフタレン型エポキシ、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、イソシアヌル酸含有エポキシ樹脂、グリコールウリル含有エポキシ樹脂などの2価以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂を挙げることができる。これらのエポキシ樹脂は単独で使用しても2種類以上を併用してもよい。
【0025】
(反応生成物)
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、(A)マレイミド化合物と(B)フェノール化合物との反応によって生成される(C)反応生成物を含有するものとして実施することができる。この場合、(A)マレイミド化合物のマレイミド基当量数が、(B)フェノール化合物の水酸基当量数よりも大きい熱硬化性樹脂組成物とする。
【0026】
(A)マレイミド化合物と(B)フェノール化合物とを含有する熱硬化性樹脂組成物に熱を加えることにより、(A)と(B)とが反応して(C)反応生成物となる。したがって、熱硬化性樹脂組成物には(C)反応生成物が含まれることとなる。この場合、未反応の(A)および/または(B)がある場合、熱硬化性樹脂組成物は(C)と(A)および/または(B)との混合物となる。熱硬化性樹脂組成物中の(A)と(B)との全てが反応したときは、熱硬化性樹脂組成物は(A)および(B)を含有せず、これらの反応生成物である(C)のみを含有する。
【0027】
(製造方法)
(C)反応生成物を含有する熱硬化性樹脂組成物の製造方法としては、(A)マレイミド化合物と(B)フェノール化合物とを反応溶媒中で反応させて(C)反応生成物とする反応工程を含むものが挙げられる。反応工程において、(A)および(B)を溶解する反応溶媒としては、汎用されている溶媒を用いることができる。汎用されている溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、アセトン、メチルエチルトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどが挙げられる。これらの中では、線熱膨張係数が低い熱硬化物が得られるという観点から、DMAc、NMPおよびシクロヘキサノンが好ましい。
【0028】
上記反応工程は、(A)と(B)とを溶解した反応溶媒中で加熱することにより、進行させる。反応工程における反応溶媒の温度は、反応溶媒の種類にもよるが、一般に80〜160℃程度とする。
【0029】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物を成形材として調製する場合の一般的な方法としては、所定の割合の各原料を、例えばミキサーによって十分に混合した後、熱ロールやニーダーなどによって混練処理を加え、さらに冷却固化後適当な大きさ粉砕し、必要に応じタブレット化するなどの方法を挙げることができる。
【0030】
このようにして得た成形材は、例えば低圧トランスファー成形などにより半導体を封止する等、半導体装置の製造に用いることができる。熱硬化性樹脂組成物の熱硬化は、例えば100〜250℃の温度範囲で行うことができる。
【0031】
(熱硬化物)
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させた熱硬化物としては、熱硬化性樹脂組成物をワニスとして加熱して熱硬化させた樹脂フィルムや、プリプレグを加熱して熱硬化させたものなどが挙げられる。ワニスには樹脂成分の溶剤として、アセトン、メチルエチルケトンのような汎用されているものを用いることができ、溶剤の配合量は特に限定されない。
【0032】
エポキシ樹脂の熱硬化に際しては、熱硬化促進剤を併用することが好ましい。熱硬化促進剤としては、エポキシ樹脂をフェノール系熱硬化剤で熱硬化させるために用いられている公知の熱硬化促進剤を用いることができ、例えば、3級アミン化合物、4級アンモニウム塩、イミダゾール類、尿素化合物、ホスフィン化合物、ホスホニウム塩等を挙げることができる。より具体的には、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等の3級アミン化合物、2−メチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、3−フェニル−1,1−ジメチルウレア、3−(o−メチルフェニル)−1,1−ジメチルウレア、3−(p−メチルフェニル)−1,1−ジメチルウレア、1,1’−フェニレンビス(3,3−ジメチルウレア)、1,1’−(4−メチル−m−フェニレン)−ビス(3,3−ジメチルウレア)等の尿素化合物、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ(p−メチルフェニル)ホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィン等のホスフィン化合物、トリフェニルホスホニオフェノラート、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラナフトエ酸ボレート等のホスホニウム塩を挙げることができる。
【0033】
本実施形態の熱硬化物は、絶縁材として用いることができる。絶縁材は、封止材(アンダーフィル材)、導電性ペースト、成形材、各種バインダー、マウンティング材、コーティング材、積層材基板材、ダイボンド剤、ソルダーレジスト等として使用することができる。封止材とは、隙間を封じることにより、回路基板を構成する部品が外気に触れることを防止するものをいう。
【0034】
熱硬化物のガラス転移温度は、180℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることがさらに好ましい。ガラス転移温度を上記範囲とすることにより、熱硬化物よりなる部材の剛性や耐熱性を良好にすることができる。本実施形態においてガラス転移温度は、示唆熱分析法(TMA)を用いて40℃から300℃まで毎分10℃で昇温して測定して得られた値をいう。
【0035】
導電性ペーストとは、はんだの代わりに用いられる導電性のあるペースト状の材料をいい、一般に、低温溶融金属粒子を熱硬化性樹脂組成物中に分散させた熱硬化性樹脂組成物が用いられる。
【0036】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂組成物を有する基板材や、基材に熱硬化性樹脂組成物を含浸させたプリプレグとして用いることができる。これら基板材およびプリプレグの熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させて熱硬化物とすることにより、線熱膨張係数の低い部材を作製することができる。熱硬化物として得られた部材は、フレキシブル基板やリジッド基板を構成する部材として用いられる。
【0037】
プリプレグとは、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物をワニスとし、基材に含浸させて、加熱または乾燥させて半熱硬化状態にしたものをいう。基材としては、例えば、ガラスクロス、炭素繊維等の無機繊維、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル等の有機繊維が用いられる。これらは、単独または複数を組み合わせて用いることができる。
【0038】
熱硬化性樹脂組成物を有する基板材とは、その原料または構成要素として熱硬化性樹脂組成物を用いたものをいう。このような基板材としては、例えば、熱硬化性樹脂組成物をフィルム状にした絶縁樹脂シート等のフィルム状基板材や、熱硬化性樹脂組成物を含有する樹脂を備えた樹脂付き銅箔(Resin Coated Copper、RCC)等が挙げられる。
【0039】
(他の樹脂成分)
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、上述した樹脂成分(A)マレイミド化合物、(B)フェノール化合物、(A)と(B)との(C)反応生成物、およびエポキシ樹脂以外に、重合可能な不飽和基を1分子中に少なくとも1価以上有する化合物をさらに含んでも良い。
例えば、スチレン系、ビニルベンゼン系、アクリル系、メタクリル系、ジシクロペンタジエン系の化合物が挙げられる。これらの不飽和基を有する化合物は単独もしくは2種類以上を併用してよい。中でもエチレン性不飽和基を含有するポリフェニレンエーテル、イソシアヌル酸、グリコールウリル、グリシジルエーテルが好ましい。エチレン性不飽和基としては、エテニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、プロペニル基、ブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセル基、ビニルベンジル基、ビニルナフチル基等が挙げられる。1分子中に2価以上のエチレン性不飽和基を含有する場合は、同一の不飽和基であっても、異なる不飽和基であってもよい。また1分子中に2価以上の官能基を含有する場合は、少なくとも1価以上がエチレン性不飽和基であって残りは他の官能基であってもよい。他の官能基として、例えば、グリシジル基、エポキシ基等が挙げられる。
上述した化合物としては、例えば、ポリフェニレンエーテル型スチレン樹脂、グリコールウリル型アリル樹脂、イソシアヌル酸型アリル樹脂、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0040】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、無機充填剤、カップリング剤、離型剤、着色剤、難燃剤、低応力剤などを添加することができる。また、これらは、予め反応させてから用いることもできる。
【0041】
無機充填剤の例として、非晶性シリカ、結晶性シリカ、アルミナ、ベーマイト、ガラス、珪酸カルシウム、マグネサイト、クレー、タルク、マイカ、マグネシア、硫酸バリウムなどを挙げることができるが、特に非晶性シリカ、結晶性シリカ、ベーマイト、硫酸バリウムが好ましい。また優れた成形性を維持しつつ無機充填剤の配合量を高めたい場合は、細密充填を可能とするような粒度分布の広い球形の無機充填剤を使用することが好ましい。
【0042】
カップリング剤の例としては、メルカプトシラン系、ビニルシラン系、アミノシラン系、エポキシシラン系などのシランカップリング剤やチタンカップリング剤を、離型剤の例としてはカルナバワックス、パラフィンワックスなど、また着色剤としてはカーボンブラックなどをそれぞれ例示することができる。難燃剤の例としては、リン化合物、金属水酸化物など、低応力剤の例としては、シリコンゴム、変性ニトリルゴム、変性ブタジエンゴム、変性シリコンオイルなどを挙げることができる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例によって本発明をより具体的に説明する。各実施例は、具体的な例に照らして本発明の技術的範囲を説明するものであって、具体的な開示に本発明の技術的範囲を限定するものではない。以下の記載においては、特段の説明がなければ、「部」は「質量部」を示し、「%」は「質量%」を示し、各工程における液の温度は室温(約25℃)を示す。
【0044】
(評価方法)
実施例および比較例の性能評価において用いた試験方法は次のとおりである。
(1)ガラス転移温度
実施例で得られたプリプレグ1枚の上下部分にセパニウム(アルミニウム箔表面を耐熱離型皮膜で処理した離型剤)を配し、1〜4MPa、180〜230℃で120〜240分間加熱し、熱硬化させた。得られた試料(サンプル)のガラス転移温度を測定した。測定装置、測定条件等は以下のとおりであった。
測定機器:リガク社製「TMA8310evo」
雰囲気:窒素中
測定温度:30〜300℃
昇温速度:10℃/min
荷重:47mN
(2)線熱膨張係数
樹脂フィルムはその状態のままで、プリプレグは1枚の上下部分にセパニウムを配し、1〜4MPa、180〜230℃で120〜240分加熱し、熱硬化させた。得られた成形品の線熱膨張係数を測定した。測定装置、測定条件等は以下のとおりであった。
測定機器:リガク社製「TMA8310evo」
雰囲気:窒素中
測定温度:50〜100℃
昇温速度:10℃/min
荷重:47mN
【0045】
実施例および比較例において用いた原料の詳細は以下のとおりである。
(1)マレイミド化合物A:4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、BMI−1000(商品名、大和化成工業(株)社製、一般式(9)におけるsが0であるマレイミド化合物)
(2)マレイミド化合物B:フェニルメタンマレイミド、BMI−2000(商品名、大和化成工業(株)社製、一般式(9)におけるsの平均値が1以上であるマレイミド化合物)
(3)マレイミド化合物C:フェニルメタンマレイミド、BMI−2300(商品名、大和化成工業(株)社製、一般式(9)におけるsの平均値が1以上であるマレイミド化合物)
(4)マレイミド化合物D:フェニルメタンマレイミド、BMI−4000(商品名、大和化成工業(株)社製、式(15)で表されるマレイミド化合物)
【化10】

(5)フェノール樹脂A:ナフトールアラルキル樹脂、SN−485(商品名、新日鉄住金化学(株)社製)
(6)フェノール樹脂B:フェノールアラルキル樹脂、HE100C−10(商品名、エア・ウォーター(株)社製)
(7)エポキシ樹脂:ビフェニルアラルキルエポキシ樹脂、NC3000(商品名、日本化薬(株)社製)
(8)アリル化合物:グリコールウリル型アリル樹脂、TA−G(商品名、四国化成工業(株)社製)
(9)熱硬化促進剤:U−CAT 3513N(商品名、三洋化成工業(株)社製)
【0046】
(実施例1)
攪拌機、温度計、冷却管を設置した丸底フラスコに4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド(マレイミド化合物A、BMI−1000)385部、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)202部を仕込み、内温が125℃に到達した後5時間混合攪拌した。その後、ナフトールアラルキル樹脂(フェノール樹脂A、SN−485)165部、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)165部添加し、110℃を17時間保持した。
次にメチルエチルケトン(MEK)83部を添加し、均一に溶解した状態の熱硬化性樹脂組成物のワニスを得た。
上記ワニスを150℃から230℃で9時間熱硬化し、熱硬化性樹脂組成物の熱硬化物として薄い膜状の樹脂フィルムを得た。
【0047】
(実施例2)
4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド(マレイミド化合物A、BMI−1000)をフェニルメチレンマレイミド(マレイミド化合物B,BMI−2000)に変えたこと、およびSN485とDMFとを反応溶媒に添加した後の110℃での保持時間を15時間にしたこと以外は、実施例1と同じ方法を用いて薄い膜状の樹脂フィルムを得た。
【0048】
(実施例3)
フェニルメチレンマレイミドの番手(製品番号)をBMI−2000(マレイミド化合物B)からBMI−2300(マレイミド化合物C)に変えたこと以外は、実施例2と同じ方法を用いて薄い膜状の樹脂フィルムを得た。
【0049】
(実施例4)
4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド(マレイミド化合物A、BMI−1000)をビスフェノールAジフェニルジエチルマレイミド(マレイミド化合物D、BMI−4000)に変えたこと、およびSN485とDMFとを添加した後の110℃での保持時間を12時間にしたこと以外は、実施例1と同じ方法を用いて薄い膜状の樹脂フィルムを得た。
【0050】
(比較例
攪拌機、温度計、冷却管を設置した丸底フラスコに4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド(BMI−1000)270部、ナフトールアラルキル樹脂(SN−485)82部、ビフェニルアラルキルエポキシ樹脂(NC−3000)221部、メチルエチルケトン(MEK)120部を仕込み、内温が80℃に到達後2時間混合攪拌した。その後、反応性希釈剤(アリルグリシジルエーテル)27部、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)12部を添加し、80℃を4時間保持した。
次にNMP28部を添加して更に80℃で18時間保持した。MEK200部、NMP40部を添加して2時間攪拌して、均一に溶解した状態のエポキシ樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物のワニス(I)を得た。
熱硬化促進剤としてU−CAT3513N:0.2質量部加え、150℃から230℃で6時間熱硬化して、熱硬化物として薄い膜状の樹脂フィルムを得た。
【0051】
上記実施例および比較例の結果を以下の表に示す。
【表1】
上記の結果より、熱硬化性樹脂組成物の熱硬化物である樹脂フィルムの線熱膨張係数は、エポキシ樹脂を含有しない実施例1〜4がエポキシ樹脂を含有する比較例1よりも低くなることが分かった。したがって、熱硬化物の線熱膨張係数を低くする観点から、熱硬化性樹脂の樹脂成分100部中のエポキシ樹脂の含有量は40部以下とすることが好ましく、30部以下とすることがより好ましい。
また、実施例1〜4のうち、一般式(9)で示されるマレイミド化合物を含有する実施例1〜3の線熱膨張係数が小さいことから、マレイミド化合物は一般式(9)で示されるものが好ましい。
一般式(9)で示される(A)マレイミド化合物と(B)フェノール化合物とを加熱して反応させることにより、一般式(1)で示される(C)反応生成物が生成されると考えられる。したがって、熱硬化性樹脂組成物が(C)反応生成物を含有する場合、線熱膨張係数を低くする観点から、一般式(1)で示される(C)反応生成物を含有することが好ましい。
【0052】
(実施例5)
攪拌機、温度計、冷却管を設置した丸底フラスコにフェニルメチレンマレイミド(BMI−2300)713部、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)213部を仕込み、内温が125℃に到達した後5時間混合攪拌した。その後、ナフトールアラルキル樹脂(SN−485)38部、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)38部添加し、110℃を12時間保持し、均一に溶解した状態の熱硬化性樹脂組成物のワニスを得た。
上記ワニスを実施例1と同じ方法で熱硬化して、熱硬化物として薄い膜状の樹脂フィルムを得た。
【0053】
(実施例6)
攪拌機、温度計、冷却管を設置した丸底フラスコにフェニルメチレンマレイミド(BMI−2300)285部、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)95部を仕込み、内温が125℃に到達した後5時間混合攪拌した。その後、ナフトールアラルキル樹脂(SN−485)285部、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)285部添加し、110℃を12時間保持し、次にメチルエチルケトン(MEK)50部を添加し均一に溶解した状態の熱硬化性樹脂組成物のワニスを得た。
上記ワニスを実施例1と同じ方法で熱硬化して、熱硬化物として薄い膜状の樹脂フィルムを得た。
【0054】
上記実施例および比較例の結果を以下の表に示す。
【表2】
上記の結果より、マレイミド化合物のマレイミド基当量数がフェノール化合物の水酸基当量数よりも大きい実施例3、5および6の熱硬化性樹脂組成物を熱硬化することにより、エポキシ化合物を含有する比較例1の熱硬化性樹脂よりも、線熱膨張係数が小さい熱硬化物が得られることが分かった。また、当量比(マレイミド基/水酸基)を変化させた実施例3、5および6のうち、当量比が2.8である実施例3の線熱膨張係数が最も低かったことから、当量比は2〜4が好ましく、2.3〜3.3がより好ましい。
【0055】
(実施例7)
反応溶媒をDMFからN,N−ジメトリアセトアイミド(DMAc)に変更したこと、および110℃での保持時間を11時間にしたこと以外は、実施例3と同じ方法を用いて、薄い膜状の樹脂フィルムを得た。
(実施例8)
反応溶媒をDMFからN−メチルピロリドン(NMP)に変更し、110℃の保持時間を4時間にした以外は実施例3と同じ方法を用いて、薄い膜状の樹脂フィルムを得た。
(実施例9)
反応溶媒をDMFから1−ブタノールに変更し、125℃の保持時間をなくし、110℃の保持時間を4時間にした以外は実施例3と同じ方法を用いて、薄い膜状の樹脂フィルムを得た。
(実施例10)
反応溶媒をDMFからシクロヘキサンに変更し、125℃の保持時間をなくし、110℃の保持時間を4時間にした以外は実施例3と同じ方法を用いて、薄い膜状の樹脂フィルムを得た。
(実施例11)
フェノール樹脂Aのナフトールアラルキル樹脂(SN−485)を、フェノール樹脂Bのフェノールアラルキル樹脂(HE100C−10)に変更し、110℃の保持時間を1.5時間にした以外は実施例3と同じ方法を用いて、薄い膜状の樹脂フィルムを得た。
【0056】
上記実施例の結果を以下の表に示す。
【表3】
上記の結果より、(A)マレイミド化合物と(B)フェノール化合物との反応に用いられる反応溶媒の種類により、熱硬化性樹脂組成物を熱硬化して得られる熱硬化物の線熱膨張係数が異なることが分かった。反応溶媒は熱硬化性樹脂組成物中を熱硬化させた熱硬化物中にはほぼ残存しないが、実施例3、7〜10の結果が異なっていることから、反応溶媒の種類によって、線熱膨張係数が異なる熱硬化物が得られることが分かった。反応溶媒の種類によって、反応工程における(A)マレイミド化合物と(B)フェノール化合物の溶解度が異なり、この溶解度の違いが(C)反応生成物の性質に影響したものと推定される。したがって、熱硬化物の線熱膨張係数を低くするという観点から、反応溶媒としては、アミド系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒が好ましく、アミド系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒がより好ましい。
反応溶媒としてシクロヘキサノンを用いた実施例10および11は、フェノール化合物A、B(SN485、HE100C−10)を添加する前に、BMIを溶解するための125℃での加熱工程が不要になった。したがって、反応溶媒として、環状ケトン系溶媒であるシクロヘキサノン等のケトン系溶媒を用いることは、製造効率の観点からも好ましい。
【0057】
(実施例12)
実施例3で合成した熱硬化性樹脂組成物のワニス80部に、ビフェニルアラルキルエポキシ樹脂(NC−3000)11部とメチルエチルケトン(MEK)9部を加えた。
上記ワニスを実施例1と同じ方法で熱硬化して、熱硬化物として薄い膜状の樹脂フィルムを得た。
(実施例13)
実施例3で合成した熱硬化性樹脂組成物のワニス90部に、重合可能な不飽和基を1分子中に少なくとも1価以上有する化合物としてのアリル化合物(TA−G)5.5部と、メチルエチルケトン(MEK)4.5部を加えた。
上記ワニスを実施例1と同じ方法で熱硬化して、熱硬化物として薄い膜状の樹脂フィルムを得た。
上記実施例の結果を以下の表に示す。
【0058】
【表4】
上記の結果より、以下のことが分かる。
(A)マレイミド化合物と(B)フェノール化合物とを所定比率で含有する熱硬化性樹脂組成物100部中のエポキシ樹脂含有量を1〜30部とすることにより、線熱膨張係数が40ppm/℃以下である低線熱膨張係数の熱硬化物が得られた。
上記熱硬化性樹脂組成物にグリコールウリル型アリル樹脂(TA−G)を添加することにより、熱硬化物の線熱膨張係数をさらに低くすることができた。
【0059】
(実施例14)
実施例7で合成した熱硬化性樹脂組成物のワニス:90.7部に、無機充填剤(ベーマイト)50部を加えて均一に攪拌し、熱硬化性樹脂組成物のワニスを調製した。
このワニスをガラスクロス(旭化成イーマテリアル(株)社製2116)に含浸し170℃で5分間乾燥して、プリプレグを得た。このプリプレグを2枚重ね合わせ、さらにその上下(両面)の最外層に18μmの銅箔を配して1〜4MPaの圧力で120〜240分間の加熱条件で成型して銅張積層板(積層板、金属張積層板)を得た。
(実施例15)
実施例11で合成した熱硬化性樹脂組成物のワニス:87.1部に、メチルエチルケトン:3.3部および無機充填剤(ベーマイト)50部を加えて均一に攪拌し、熱硬化性樹脂組成物の樹脂ワニスを調製した。
このワニスを用いて、実施例14と同様に成型して銅張積層板を得た。
【0060】
上記実施例の結果を以下の表に示す。
【表5】
上記の結果より、プリプレグ両面の上下の最外層に銅箔を配して加熱成型して得られた銅張積層板である実施例14および15は、フィルムである実施例7および11同様、線膨張係数の低い熱硬化物であった。
熱硬化性樹脂組成物をガラスクロスに含浸したプリプレグを熱硬化させた実施例14および15の熱硬化物は、ガラスクロスに含浸させずに熱硬化させた実施例7および11の熱硬化物であるフィルムよりも、ガラス転移点が高くなった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明により提供される熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化により線熱膨張係数が小さい熱硬化物となることから、例えば回路基板の部材を形成する材料として有用である。