【実施例】
【0043】
以下に実施例によって本発明をより具体的に説明する。各実施例は、具体的な例に照らして本発明の技術的範囲を説明するものであって、具体的な開示に本発明の技術的範囲を限定するものではない。以下の記載においては、特段の説明がなければ、「部」は「質量部」を示し、「%」は「質量%」を示し、各工程における液の温度は室温(約25℃)を示す。
【0044】
(評価方法)
実施例および比較例の性能評価において用いた試験方法は次のとおりである。
(1)ガラス転移温度
実施例で得られたプリプレグ1枚の上下部分にセパニウム(アルミニウム箔表面を耐熱離型皮膜で処理した離型剤)を配し、1〜4MPa、180〜230℃で120〜240分間加熱し、熱硬化させた。得られた試料(サンプル)のガラス転移温度を測定した。測定装置、測定条件等は以下のとおりであった。
測定機器:リガク社製「TMA8310evo」
雰囲気:窒素中
測定温度:30〜300℃
昇温速度:10℃/min
荷重:47mN
(2)線熱膨張係数
樹脂フィルムはその状態のままで、プリプレグは1枚の上下部分にセパニウムを配し、1〜4MPa、180〜230℃で120〜240分加熱し、熱硬化させた。得られた成形品の線熱膨張係数を測定した。測定装置、測定条件等は以下のとおりであった。
測定機器:リガク社製「TMA8310evo」
雰囲気:窒素中
測定温度:50〜100℃
昇温速度:10℃/min
荷重:47mN
【0045】
実施例および比較例において用いた原料の詳細は以下のとおりである。
(1)マレイミド化合物A:4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、BMI−1000(商品名、大和化成工業(株)社製、一般式(9)におけるsが0であるマレイミド化合物)
(2)マレイミド化合物B:フェニルメタンマレイミド、BMI−2000(商品名、大和化成工業(株)社製、一般式(9)におけるsの平均値が1以上であるマレイミド化合物)
(3)マレイミド化合物C:フェニルメタンマレイミド、BMI−2300(商品名、大和化成工業(株)社製、一般式(9)におけるsの平均値が1以上であるマレイミド化合物)
(4)マレイミド化合物D:フェニルメタンマレイミド、BMI−4000(商品名、大和化成工業(株)社製、式(15)で表されるマレイミド化合物)
【化10】
(5)フェノール樹脂A:ナフトールアラルキル樹脂、SN−485(商品名、新日鉄住金化学(株)社製)
(6)フェノール樹脂B:フェノールアラルキル樹脂、HE100C−10(商品名、エア・ウォーター(株)社製)
(7)エポキシ樹脂:ビフェニルアラルキルエポキシ樹脂、NC3000(商品名、日本化薬(株)社製)
(8)アリル化合物:グリコールウリル型アリル樹脂、TA−G(商品名、四国化成工業(株)社製)
(9)熱硬化促進剤:U−CAT 3513N(商品名、三洋化成工業(株)社製)
【0046】
(実施例1)
攪拌機、温度計、冷却管を設置した丸底フラスコに4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド(マレイミド化合物A、BMI−1000)385部、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)202部を仕込み、内温が125℃に到達した後5時間混合攪拌した。その後、ナフトールアラルキル樹脂(フェノール樹脂A、SN−485)165部、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)165部添加し、110℃を17時間保持した。
次にメチルエチルケトン(MEK)83部を添加し、均一に溶解した状態の熱硬化性樹脂組成物のワニスを得た。
上記ワニスを150℃から230℃で9時間熱硬化し、熱硬化性樹脂組成物の熱硬化物として薄い膜状の樹脂フィルムを得た。
【0047】
(実施例2)
4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド(マレイミド化合物A、BMI−1000)をフェニルメチレンマレイミド(マレイミド化合物B,BMI−2000)に変えたこと、およびSN485とDMFとを反応溶媒に添加した後の110℃での保持時間を15時間にしたこと以外は、実施例1と同じ方法を用いて薄い膜状の樹脂フィルムを得た。
【0048】
(実施例3)
フェニルメチレンマレイミドの番手(製品番号)をBMI−2000(マレイミド化合物B)からBMI−2300(マレイミド化合物C)に変えたこと以外は、実施例2と同じ方法を用いて薄い膜状の樹脂フィルムを得た。
【0049】
(実施例4)
4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド(マレイミド化合物A、BMI−1000)をビスフェノールAジフェニルジエチルマレイミド(マレイミド化合物D、BMI−4000)に変えたこと、およびSN485とDMFとを添加した後の110℃での保持時間を12時間にしたこと以外は、実施例1と同じ方法を用いて薄い膜状の樹脂フィルムを得た。
【0050】
(比較例
1)
攪拌機、温度計、冷却管を設置した丸底フラスコに4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド(BMI−1000)270部、ナフトールアラルキル樹脂(SN−485)82部、ビフェニルアラルキルエポキシ樹脂(NC−3000)221部、メチルエチルケトン(MEK)120部を仕込み、内温が80℃に到達後2時間混合攪拌した。その後、反応性希釈剤(アリルグリシジルエーテル)27部、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)12部を添加し、80℃を4時間保持した。
次にNMP28部を添加して更に80℃で18時間保持した。MEK200部、NMP40部を添加して2時間攪拌して、均一に溶解した状態のエポキシ樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物のワニス(I)を得た。
熱硬化促進剤としてU−CAT3513N:0.2質量部加え、150℃から230℃で6時間熱硬化して、熱硬化物として薄い膜状の樹脂フィルムを得た。
【0051】
上記実施例および比較例の結果を以下の表に示す。
【表1】
上記の結果より、熱硬化性樹脂組成物の熱硬化物である樹脂フィルムの線熱膨張係数は、エポキシ樹脂を含有しない実施例1〜4がエポキシ樹脂を含有する比較例1よりも低くなることが分かった。したがって、熱硬化物の線熱膨張係数を低くする観点から、熱硬化性樹脂の樹脂成分100部中のエポキシ樹脂の含有量は40部以下とすることが好ましく、30部以下とすることがより好ましい。
また、実施例1〜4のうち、一般式(9)で示されるマレイミド化合物を含有する実施例1〜3の線熱膨張係数が小さいことから、マレイミド化合物は一般式(9)で示されるものが好ましい。
一般式(9)で示される(A)マレイミド化合物と(B)フェノール化合物とを加熱して反応させることにより、一般式(1)で示される(C)反応生成物が生成されると考えられる。したがって、熱硬化性樹脂組成物が(C)反応生成物を含有する場合、線熱膨張係数を低くする観点から、一般式(1)で示される(C)反応生成物を含有することが好ましい。
【0052】
(実施例5)
攪拌機、温度計、冷却管を設置した丸底フラスコにフェニルメチレンマレイミド(BMI−2300)713部、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)213部を仕込み、内温が125℃に到達した後5時間混合攪拌した。その後、ナフトールアラルキル樹脂(SN−485)38部、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)38部添加し、110℃を12時間保持し、均一に溶解した状態の熱硬化性樹脂組成物のワニスを得た。
上記ワニスを実施例1と同じ方法で熱硬化して、熱硬化物として薄い膜状の樹脂フィルムを得た。
【0053】
(実施例6)
攪拌機、温度計、冷却管を設置した丸底フラスコにフェニルメチレンマレイミド(BMI−2300)285部、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)95部を仕込み、内温が125℃に到達した後5時間混合攪拌した。その後、ナフトールアラルキル樹脂(SN−485)285部、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)285部添加し、110℃を12時間保持し、次にメチルエチルケトン(MEK)50部を添加し均一に溶解した状態の熱硬化性樹脂組成物のワニスを得た。
上記ワニスを実施例1と同じ方法で熱硬化して、熱硬化物として薄い膜状の樹脂フィルムを得た。
【0054】
上記実施例および比較例の結果を以下の表に示す。
【表2】
上記の結果より、マレイミド化合物のマレイミド基当量数がフェノール化合物の水酸基当量数よりも大きい実施例3、5および6の熱硬化性樹脂組成物を熱硬化することにより、エポキシ化合物を含有する比較例1の熱硬化性樹脂よりも、線熱膨張係数が小さい熱硬化物が得られることが分かった。また、当量比(マレイミド基/水酸基)を変化させた実施例3、5および6のうち、当量比が2.8である実施例3の線熱膨張係数が最も低かったことから、当量比は2〜4が好ましく、2.3〜3.3がより好ましい。
【0055】
(実施例7)
反応溶媒をDMFからN,N−ジメトリアセトアイミド(DMAc)に変更したこと、および110℃での保持時間を11時間にしたこと以外は、実施例3と同じ方法を用いて、薄い膜状の樹脂フィルムを得た。
(実施例8)
反応溶媒をDMFからN−メチルピロリドン(NMP)に変更し、110℃の保持時間を4時間にした以外は実施例3と同じ方法を用いて、薄い膜状の樹脂フィルムを得た。
(実施例9)
反応溶媒をDMFから1−ブタノールに変更し、125℃の保持時間をなくし、110℃の保持時間を4時間にした以外は実施例3と同じ方法を用いて、薄い膜状の樹脂フィルムを得た。
(実施例10)
反応溶媒をDMFからシクロヘキサンに変更し、125℃の保持時間をなくし、110℃の保持時間を4時間にした以外は実施例3と同じ方法を用いて、薄い膜状の樹脂フィルムを得た。
(実施例11)
フェノール樹脂Aのナフトールアラルキル樹脂(SN−485)を、フェノール樹脂Bのフェノールアラルキル樹脂(HE100C−10)に変更し、110℃の保持時間を1.5時間にした以外は実施例3と同じ方法を用いて、薄い膜状の樹脂フィルムを得た。
【0056】
上記実施例の結果を以下の表に示す。
【表3】
上記の結果より、(A)マレイミド化合物と(B)フェノール化合物との反応に用いられる反応溶媒の種類により、熱硬化性樹脂組成物を熱硬化して得られる熱硬化物の線熱膨張係数が異なることが分かった。反応溶媒は熱硬化性樹脂組成物中を熱硬化させた熱硬化物中にはほぼ残存しないが、実施例3、7〜10の結果が異なっていることから、反応溶媒の種類によって、線熱膨張係数が異なる熱硬化物が得られることが分かった。反応溶媒の種類によって、反応工程における(A)マレイミド化合物と(B)フェノール化合物の溶解度が異なり、この溶解度の違いが(C)反応生成物の性質に影響したものと推定される。したがって、熱硬化物の線熱膨張係数を低くするという観点から、反応溶媒としては、アミド系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒が好ましく、アミド系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒がより好ましい。
反応溶媒としてシクロヘキサノンを用いた実施例10および11は、フェノール化合物A、B(SN485、HE100C−10)を添加する前に、BMIを溶解するための125℃での加熱工程が不要になった。したがって、反応溶媒として、環状ケトン系溶媒であるシクロヘキサノン等のケトン系溶媒を用いることは、製造効率の観点からも好ましい。
【0057】
(実施例12)
実施例3で合成した熱硬化性樹脂組成物のワニス80部に、ビフェニルアラルキルエポキシ樹脂(NC−3000)11部とメチルエチルケトン(MEK)9部を加えた。
上記ワニスを実施例1と同じ方法で熱硬化して、熱硬化物として薄い膜状の樹脂フィルムを得た。
(実施例13)
実施例3で合成した熱硬化性樹脂組成物のワニス90部に、重合可能な不飽和基を1分子中に少なくとも1価以上有する化合物としてのアリル化合物(TA−G)5.5部と、メチルエチルケトン(MEK)4.5部を加えた。
上記ワニスを実施例1と同じ方法で熱硬化して、熱硬化物として薄い膜状の樹脂フィルムを得た。
上記実施例の結果を以下の表に示す。
【0058】
【表4】
上記の結果より、以下のことが分かる。
(A)マレイミド化合物と(B)フェノール化合物とを所定比率で含有する熱硬化性樹脂組成物100部中のエポキシ樹脂含有量を1〜30部とすることにより、線熱膨張係数が40ppm/℃以下である低線熱膨張係数の熱硬化物が得られた。
上記熱硬化性樹脂組成物にグリコールウリル型アリル樹脂(TA−G)を添加することにより、熱硬化物の線熱膨張係数をさらに低くすることができた。
【0059】
(実施例14)
実施例7で合成した熱硬化性樹脂組成物のワニス:90.7部に、無機充填剤(ベーマイト)50部を加えて均一に攪拌し、熱硬化性樹脂組成物のワニスを調製した。
このワニスをガラスクロス(旭化成イーマテリアル(株)社製2116)に含浸し170℃で5分間乾燥して、プリプレグを得た。このプリプレグを2枚重ね合わせ、さらにその上下(両面)の最外層に18μmの銅箔を配して1〜4MPaの圧力で120〜240分間の加熱条件で成型して銅張積層板(積層板、金属張積層板)を得た。
(実施例15)
実施例11で合成した熱硬化性樹脂組成物のワニス:87.1部に、メチルエチルケトン:3.3部および無機充填剤(ベーマイト)50部を加えて均一に攪拌し、熱硬化性樹脂組成物の樹脂ワニスを調製した。
このワニスを用いて、実施例14と同様に成型して銅張積層板を得た。
【0060】
上記実施例の結果を以下の表に示す。
【表5】
上記の結果より、プリプレグ両面の上下の最外層に銅箔を配して加熱成型して得られた銅張積層板である実施例14および15は、フィルムである実施例7および11同様、線膨張係数の低い熱硬化物であった。
熱硬化性樹脂組成物をガラスクロスに含浸したプリプレグを熱硬化させた実施例14および15の熱硬化物は、ガラスクロスに含浸させずに熱硬化させた実施例7および11の熱硬化物であるフィルムよりも、ガラス転移点が高くなった。