(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6203315
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】映像変換処理装置
(51)【国際特許分類】
H04N 9/67 20060101AFI20170914BHJP
H04N 9/69 20060101ALI20170914BHJP
H04N 5/66 20060101ALI20170914BHJP
G09G 5/02 20060101ALI20170914BHJP
G09G 5/10 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
H04N9/67
H04N9/69
H04N5/66 A
G09G5/02 B
G09G5/10 B
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-64663(P2016-64663)
(22)【出願日】2016年3月28日
【審査請求日】2016年3月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】591053926
【氏名又は名称】一般財団法人NHKエンジニアリングシステム
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100185225
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 恭一
(72)【発明者】
【氏名】金澤 勝
【審査官】
大室 秀明
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−129437(JP,A)
【文献】
特開2007−241193(JP,A)
【文献】
特開2006−217043(JP,A)
【文献】
特開2006−270893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 1/00−1/40
G06T 3/00−5/50
G06T 9/00−9/40
G09G 5/00−5/36
G09G 5/377−5/42
H04N 5/66−5/74
H04N 9/44−9/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
色度変換を行う映像変換処理装置において、入力映像信号から変換された入力光に比例する信号を、仮数とビット数情報とにより表記し、前記入力光に比例する信号の仮数とリニアマトリクスに基づいて色度変換の演算処理を行い、色度変換処理された信号の仮数と前記ビット数情報に基づいて出力映像信号を求め、
前記ビット数情報は、処理に想定される最大ビット数と入力光に比例する信号の最大値のビット数との差に基づくことを特徴とする映像変換処理装置。
【請求項2】
色度変換を行う映像変換処理装置において、
所定の電気・光変換式に基づいて、第1の映像信号を入力光に比例する信号に変換する逆ガンマ変換部と、
前記逆ガンマ変換部の出力である入力光に比例する信号に基づいて、前記入力光に比例する信号のビット数情報を算出する桁数検出部と、
前記逆ガンマ変換部の出力である入力光に比例する信号と、前記ビット数情報に基づいて、前記入力光に比例する信号の仮数を算出する仮数部と、
前記入力光に比例する信号の仮数とリニアマトリクスに基づいて、色度変換された光に比例する信号の仮数を出力するマトリクス部と、
前記色度変換された光に比例する信号の仮数と、前記ビット数情報を入力とし、前記所定の電気・光変換式の逆変換である光・電気変換式に基づいて、第2の映像信号を出力するガンマ変換部と、
を備え、
前記ビット数情報は、処理に想定される最大ビット数と入力光に比例する信号の最大値のビット数との差に基づくことを特徴とする映像変換処理装置。
【請求項3】
色度変換を行う映像変換処理装置において、
所定の電気・光変換式に基づいて、第1の映像信号を入力光に比例する信号に変換する逆ガンマ変換部と、
前記第1の映像信号に基づいて、前記入力光に比例する信号のビット数情報を算出する桁数検出部と、
前記逆ガンマ変換部の出力である入力光に比例する信号と、前記ビット数情報に基づいて、前記入力光に比例する信号の仮数を算出する仮数部と、
前記入力光に比例する信号の仮数とリニアマトリクスに基づいて、色度変換された光に比例する信号の仮数を出力するマトリクス部と、
前記色度変換された光に比例する信号の仮数と、前記ビット数情報を入力とし、前記所定の電気・光変換式の逆変換である光・電気変換式に基づいて、第2の映像信号を出力するガンマ変換部と、
を備える映像変換処理装置。
【請求項4】
請求項3に記載の映像変換処理装置において、前記ビット数情報は、処理に想定される最大ビット数と入力光に比例する信号の最大値のビット数との差に基づくことを特徴とする映像変換処理装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の映像変換処理装置において、前記仮数のビット数は、必要な精度から求めたビット数であることを特徴とする映像変換処理装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の映像変換処理装置において、映像信号は、HDR(High Dynamic Range)対応の映像信号であることを特徴とする映像変換処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、映像変換処理装置に関し、特に、映像信号の3原色の色度変換処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スーパーハイビジョン等の高解像度映像の実用化に伴って、広色域表示系映像や高輝度映像等のリアリティのある映像が求められており、ITU-R(International Telecommunication Union Radiocommunications Sector)のBT.2020(非特許文献1)等、映像表示に関する新たな信号規格が、様々策定されている。
【0003】
一般に映像信号規格は、空間解像度、時間解像度、表色系等、多くの項目を規定しており、規格が異なれば同じ映像を表示する信号も相違するが、ある規格で作成された映像信号を、他の規格の映像信号に変換することが必要となる場合がある。
【0004】
映像表示に関する信号規格としては多くのものが用いられているが、ここでは、現在のハイビジョン等で利用されているITU-R BT.709(以下、BT.709という。)と、8K等のスーパーハイビジョンで利用されるITU-R BT.2020(以下、BT.2020という。)を例として説明する。なお、他の映像信号規格についても同様な説明となる。
【0005】
BT.709とBT.2020の映像信号規格は、表1に示すように異なる3原色点を持つ。表1の数値は、CIE(Commission International de l'Eclairage;国際照明委員会)で規定された色度図(CIE1931)の二次元座標で表した値(x,y)を示している。
【0006】
【表1】
【0007】
この違いのためBT.709で作成した映像信号をBT.2020に対応した映像機器(例えば表示装置)に入力するためには、画素数などの変換の他に3原色点の違いを補正するための変換処理装置が用いられる。この変換処理装置は、RGB(赤緑青)の各光信号値に対して、3行3列の行列を掛け合わせるマトリクス処理によって、色信号を変換する。なお、この変換処理装置をリニアマトリクスと呼ぶ場合もあるが、ここでは、色度変換を行う3行3列の行列を「リニアマトリクス」と呼ぶこととする。
【0008】
図3に、従来の映像変換処理装置のブロック図の例を示す。映像変換処理装置300は、逆ガンマ変換部11,12,13と、3×3マトリクス部20と、ガンマ変換部31,32,33とを備える。ここでは映像信号をBT.2020に規定されている12ビットとした。以下、簡単に動作説明を行う。
【0009】
映像変換処理装置300の入力は、各12ビットのR,G,B映像信号である。これら映像信号は、映像表示装置のディスプレイ上で本来の映像の白黒階調が適切に表示されるように、映像表示装置の入出力特性(ガンマ値)を考慮して、画像の階調を補正するガンマ補正がなされている。
【0010】
このガンマ補正は、本例でのBT.709、BT.2020(2015年時点)では、次の(1)式で定義されている(非特許文献2)。(1)式において、光信号Lと映像信号Vは、それぞれ最大値で正規化されている。なお、ここで光信号とは、必ずしも光からなる信号ばかりではなく、光量(入力光)に対して線形(リニア)関係にある信号を意味する。以下の説明においても、同様である。
【0011】
【数1】
【0012】
したがって、映像信号Vは非線形な補正がなされているため、色度変換(色変換ということもある)のためのマトリクス処理を行うためには、映像信号Vを一度元の光信号Lに戻す必要がある。
【0013】
逆ガンマ変換部11,12,13は、ガンマ補正がなされている映像信号(R,G,B)をそれぞれ元の光信号(入力光に対し線形関係にある信号)に戻す、逆ガンマ変換処理を行う。逆ガンマ変換は、次式(2)で表される。(2)式は、(1)式を変形して導いた電気・光変換式であり、(1)式と(2)式は、互いに逆変換の関係にある。
【0014】
【数2】
【0015】
図4に、この逆ガンマ変換の変換特性を示す。横軸が映像信号(入力)、縦軸が光信号(出力)である。信号レベルが低い領域での精度を保つために、逆ガンマ変換での光信号出力は入力の映像信号よりも2ビット分細かく量子化する必要があるため、この例では出力を14ビットとしている。逆ガンマ変換された信号は、光信号(入力光に対し線形関係にある信号)として、3×3マトリクス部20に入力される。
【0016】
3×3マトリクス部(単に、マトリクス部と呼ぶことがある)20は、ある映像信号規格の光信号(各色信号)を入力として、これを別の映像信号規格の光信号(各色信号)に変換する処理を行う。この色度変換処理は、入力信号がBT.2020、出力信号がBT.709の場合は(3)式のマトリクス計算となる。
【0017】
【数3】
【0018】
この変換処理の場合は、マトリクス内に負の係数があること、及び1よりも大きい係数があることの理由により、演算では入力信号の14ビットに加え、符号用の1ビット、及び桁上げ処理の1ビットで、合計16ビットの処理となる。このため出力信号も16ビットとなる。ただし演算後では負は出力されない、桁上げとなる大きな数値は出力されないと考えられるので、信号値としては14ビット出力と等価である。
【0019】
ガンマ変換部31,32,33は、色変換された光信号(各色信号)を、映像信号に変換するためのガンマ変換処理を行う。この変換処理は、(1)式に示したガンマ補正と同一である。
図5は、このガンマ変換の変換特性を示しており、横軸が光信号(入力)、縦軸が映像信号(出力)である。これは
図4の縦軸と横軸が入れ替わったものと等しい。
【0020】
図3の変換処理装置をハードウェアで構成する場合、逆ガンマ変換部11〜13、及びガンマ変換部31〜33はルックアップテーブルで実現でき、また、3×3マトリクス部20は掛け算器と加算器の組み合わせとなり、どれも16ビット精度で構成できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Recommendation ITU-R BT.2020, "Parameter values for ultra-high definition television systems for production and international programme exchange"
【非特許文献2】標準規格 ARIB STD−B56、「超高精細度テレビジョン方式スタジオ規格」、1.1版、一般社団法人 電波産業会、平成26年3月18日改定
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
2015年より放送の分野でもHDR(High Dynamic Range:広ダイナミックレンジ)と呼ばれる方式が登場してきた。HDRは、BT.709で規定される従来のダイナミックレンジであるSDR(Standard Dynamic Range)では不可能であった、ハイライト表現が可能な映像表示方式である。
【0023】
HDRの信号方式における光信号−映像信号の関係式(光・電気変換式)の例を(4)式に示す。(4)式はARIB(Association of Radio Industries and Businesses)標準規格のSTD−67で規定されているOETF(opto-electronic transfer function)である。なお、HDRの規格はARIB標準規格だけではなく、他にも、例えば、SMPTE(Society of Motion Picture and Television Engineers)標準規格のST.2084(High Dynamic Range Electro-Optical Transfer Function of Mastering Reference Displays)等があり、異なる関係式が定められている。
【0024】
【数4】
【0025】
図6は、(4)式のHDR対応の光信号−映像信号の変換特性を図示したものである。横軸が光信号(入力)、縦軸が映像信号(出力)で、
図6の点線で示した光レベルが、
図4及び
図5では光の最大値(基準白レベル)に対応する。
図6では、点線での光の値は1.0、光の最大値は20となっているので、(4)式に示すHDRの場合は光信号の大きさが従来の20倍まで対応する必要がある、ということがわかる。
【0026】
したがって、背景技術において説明したのは、従来のSDR対応の信号における映像変換処理であったが、HDR対応の信号に対する映像変換処理では、従来の20倍の大きさの光信号を処理することとなる。20を表現するには5ビット必要なので、従来と同じ精度で光信号を処理するには、従来の演算より5ビット大きい計算処理が必要となる。例えば、逆ガンマ変換の場合は、従来(
図3)では14ビットの処理であったが、HDRの光信号を処理するためには14+5=19ビット必要となる。
【0027】
図7に、HDR対応の映像信号−光信号の変換特性、すなわち、HDR対応の逆ガンマ変換特性を示す。この変換特性は、(4)式を変形して、EをE’で表した関数(電気・光変換式)であり、横軸が入力映像信号(12ビット)、縦軸が変換された光信号レベル(19ビット)である。
【0028】
また、前述のように3×3マトリクス部の内部の演算では、符号と桁上げ処理に対応するため入力信号よりも2ビット多く必要であるから、21ビットの処理となり、変換された光信号出力も21ビットとなる。
【0029】
図8は、HDRに対応する3原色変換のための映像変換処理装置のブロック図の例である。HDR対応の映像変換処理装置310は、逆ガンマ変換部11,12,13と、3×3マトリクス部20と、ガンマ変換部31,32,33とを備えており、ブロック構成は
図3と同じであるが、各光信号のビット数が従来よりも5ビット増加している。この映像変換処理装置310を実現するためには、各ブロックともに必要なビット数が増え、ハードウェア構成が困難になると考えられる。特にマトリクス部20を半導体メモリだけで構成しようとすると、入力が5ビット×3色の合計15ビット増えるので、メモリ容量は30,000倍以上になる。
【0030】
したがって、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、リニアマトリクスによる色度変換処理(特に、マトリクス部での演算処理)のビット数を削減した映像変換処理装置を提供することにあり、信号処理のビット数を大幅に増やすことなく、HDR信号にも対応可能な映像変換処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0031】
上記課題を解決するために本発明に係る映像変換処理装置は、色度変換を行う映像変換処理装置において、入力映像信号から変換された入力光に比例する信号を、仮数とビット数情報とにより表記し、前記入力光に比例する信号の仮数とリニアマトリクスに基づいて色度変換の演算処理を行い、色度変換処理された信号の仮数と前記ビット数情報に基づいて出力映像信号を求め
、前記ビット数情報は、処理に想定される最大ビット数と入力光に比例する信号の最大値のビット数との差に基づくことを特徴とする。
【0032】
また、上記課題を解決するために本発明に係る映像変換処理装置は、色度変換を行う映像変換処理装置において、所定の電気・光変換式に基づいて、第1の映像信号を入力光に比例する信号に変換する逆ガンマ変換部と、前記逆ガンマ変換部の出力である入力光に比例する信号に基づいて、前記入力光に比例する信号のビット数情報を算出する桁数検出部と、前記逆ガンマ変換部の出力である入力光に比例する信号と、前記ビット数情報に基づいて、前記入力光に比例する信号の仮数を算出する仮数部と、前記入力光に比例する信号の仮数とリニアマトリクスに基づいて、色度変換された光に比例する信号の仮数を出力するマトリクス部と、前記色度変換された光に比例する信号の仮数と、前記ビット数情報を入力とし、前記所定の電気・光変換式の逆変換である光・電気変換式に基づいて、第2の映像信号を出力するガンマ変換部と、を備え
、前記ビット数情報は、処理に想定される最大ビット数と入力光に比例する信号の最大値のビット数との差に基づくことを特徴とする。
【0033】
また、上記課題を解決するために本発明に係る映像変換処理装置は、色度変換を行う映像変換処理装置において、所定の電気・光変換式に基づいて、第1の映像信号を入力光に比例する信号に変換する逆ガンマ変換部と、前記第1の映像信号に基づいて、前記入力光に比例する信号のビット数情報を算出する桁数検出部と、前記逆ガンマ変換部の出力である入力光に比例する信号と、前記ビット数情報に基づいて、前記入力光に比例する信号の仮数を算出する仮数部と、前記入力光に比例する信号の仮数とリニアマトリクスに基づいて、色度変換された光に比例する信号の仮数を出力するマトリクス部と、前記色度変換された光に比例する信号の仮数と、前記ビット数情報を入力とし、前記所定の電気・光変換式の逆変換である光・電気変換式に基づいて、第2の映像信号を出力するガンマ変換部と、を備えることを特徴とする。
【0034】
そして、前記仮数のビット数は、必要な精度から求めたビット数であることが望ましい。
【0035】
また、前記ビット数情報は、処理に想定される最大ビット数と入力光に比例する信号の最大値のビット数との差に基づくことが望ましい。
【0036】
また、前記映像信号は、HDR(High Dynamic Range)対応の映像信号であることが望ましい。
【発明の効果】
【0037】
本発明における映像変換処理装置によれば、リニアマトリクスによる色度変換処理(特に、マトリクス部での演算処理)におけるビット数を削減することができる。また、HDR対応の映像信号においても、信号処理のビット数を大幅に増やすことなく、色度変換処理を行うことができ、回路規模を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の第1の実施例の映像変換処理装置のブロック図である。
【
図2】本発明の第2の実施例の映像変換処理装置のブロック図である。
【
図3】従来の映像変換処理装置のブロック図の例である。
【
図6】HDR対応の光信号−映像信号の変換特性の例である。
【
図7】HDR対応の映像信号−光信号の変換特性の例である。
【
図8】HDR対応の従来の映像変換処理装置のブロック図の例である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
(本発明の原理)
本発明の原理について説明する。本発明は、人間の視覚特性とリニアマトリクスの特徴を利用して、信号処理のビット数を圧縮するものである。
【0040】
まず、人間の視覚特性について説明する。
図9に示すように輝度Lと輝度L+ΔLの領域があるとき、次の(5)式を満足すると人間は輝度の差△Lを認識できる。これをWeberの定理(Weber-Fechner law)という。この式のWは定数でWeber比と言われ、0.01程度である。
【0042】
反対に、(5)式を満足しないほど△Lが小さければ、人間は2つの領域が同じ輝度であると認識する。例えば輝度1000と1009の違いをほぼ認識できないということになり、信号処理をする場合に必要な精度は入力信号の1%ということになる。
【0043】
この視覚特性を
図8の映像変換処理装置に応用する。各逆ガンマ変換部11〜13の出力をRγ,Gγ,Bγとするとき、必要な精度△RGBは、次の(6)式となる。ここで、必要な精度△RGBとは、当該画素において、光信号の差を認識できる最小の光信号量のことである。なお、WはWeber比であり、Maxは括弧内で最大の値を選択する関数である。
【0045】
ここで、光信号(逆ガンマ変換部の出力)の最大値が、次の(7)式で表されるとする。
【0047】
すると、(6)式と(7)式から、(8)式が成立する。なお、Wは約1/100であるから、7ビットの差に相当する。
【0049】
したがって、必要な精度からは、各光信号Rγ,Gγ,Bγを表現するには2
N-7〜2
Nの8ビット必要であることがわかる。これは(7)式の最大値を有する光信号の上位8ビットであり、これを仮数Lと表記する。前述のとおり、視覚特性により、仮数のビットより小さい2
0〜2
N-8のビットについては、どのような情報が入っていても映像からは識別できない。
【0050】
各光信号を表すには、上記の仮数Lと光信号の大きさ(例えば、(7)式を満たすNの値)の情報があれば良い。一方、
図8ではRγ,Gγ,Bγを表現するために19ビットを用いているので、Rγ,Gγ,Bγの値は(9)式の範囲であり、かつ精度の最小値は1である。精度が1というのは(8)式ではN=7に相当する。
【0052】
上記よりNの最小値は7、最大値は19で、その差(19−7=12)は4ビットで表現できる。例えば、最大値として19ビットが想定されている信号処理エリアに、(7)式の最大値を有する信号値が書き込まれたとき、下位の2
0〜2
Nの各ビットは有効な信号情報となるが、2
N+1〜2
19の各ビットは、例えば全て0となる等、実質的な意味の無いビットである。このような有効利用されないビットが何ビットあるかという情報により、光信号が何ビットの大きさであるか(すなわち、(7)式を満たすNの値)を知ることができる。このような情報をビット数情報Mとし、4ビット(M≦12)で表記することができる。なお、ビット数情報として光信号Rγ,Gγ,Bγの桁数である有効な信号情報のビット数を用いることも可能であるが、この場合は最大値が19ビットとなり表示に5ビット必要であるので、処理に必要なビットが1ビット多くなる。したがって、有効利用されない上位ビットのビット数の情報をビット数情報Mとする方が、データの圧縮効果が高い。よって、本発明の実施の形態では、有効利用されないビット(2
Nより上位のビット)が何ビットあるかという情報を、ビット数情報Mとして用いる。
【0053】
この表記方法を用いると、視覚上劣化なく処理を行うには、
図8の逆ガンマ変換部11〜13の出力の19ビットは、仮数Lの8ビットと、ビット数情報Mの4ビットの、合計12ビットで表記できる。
【0054】
次に、リニアマトリクスの特徴について説明する。BT.2020からBT.709に変換するリニアマトリクスを(3)式に示した。この逆マトリクスを(10)式に示すが、これはBT.709からBT.2020へ変換するリニアマトリクスになる。
【0056】
リニアマトリクスで対象とする3原色は、上記以外ではDCI規格、AdobeRGB等があるが、BT.709と大きく異なるものではなく、リニアマトリクスの数値も(3)式、(10)式からの差は少ない。
図8で、3×3マトリクス部20からの出力をRm,Gm,Bmと表記すると(11)式が成り立つ。
【0058】
(11)式は、(3)式及び(10)式において、リニアマトリクスの係数に2を超える数値が無いこと、及び、リニアマトリクスの左上から右下の対角上に並ぶ係数に0.5より小さい係数が無いこと、の理由から、マトリクス演算を行った結果の出力信号値(Rm,Gm,Bm)が、入力信号値(Rγ,Gγ,Bγ)の2倍以上の大きさにはならず、また、半分以下の値にもならないことを利用して、導かれている。
【0059】
(11)式と(7)式を組み合わせることにより、(12)式となる。
【0061】
したがって、Weber比(W)と、(12)式から、Rm,Gm,Bmの取扱いに必要な精度ΔRGB
mは、(13)式となる。
【0063】
3×3マトリクス部の内部処理では、前述のように信号のビット数に加え、符号と桁上げ処理で2ビット必要である。このようにRm,Gm,Bmを表現するには2
N-8〜2
N+2の11ビット+2ビット必要であることがわかる。なお、前項ではNの最小値を7としたが、(13)式のとおり、Rm,Gm,Bmの最小値が2
N-8なので、Nの最小値は8となり(よって、仮数Lは10ビット)、ビット数情報Mは(14)式とすることが適当である。
【0065】
以上より、リニアマトリクスによる演算処理も考慮すると、光信号出力の21ビットは、仮数Lの10ビットと、ビット数情報Mの4ビットと、符号+桁上げ処理の2ビットの、合計16ビットで表記できることがわかる。この原理を用いることにより、必要なビット数を大幅に増やすことはなくHDR対応の色変換を実現できる。
【0066】
(第1の実施例)
本発明の映像変換処理装置は、光信号の仮数Lとビット数情報Mを利用して、演算処理のビット数を削減したものである。
図1に、本発明の第1の実施例の映像変換処理装置のブロック図を示す。
【0067】
図1の映像変換処理装置100は、逆ガンマ変換部11,12,13と、桁数検出部40と、仮数部51,52,53と、3×3マトリクス部20と、ガンマ変換部31,32,33とを備える。各ブロックの入出力及び処理について説明する。
【0068】
逆ガンマ変換部11〜13は、
図8の逆ガンマ変換部と同じであり、
図7のHDR対応の映像信号−光信号の変換特性に基づく変換処理を行う。入力映像信号(12ビット)から光信号(入力光に対し線形関係にある信号、19ビット)への変換で、(4)式のEをE’で表した関数による変換を行う。この入力をRi,Gi,Bi(各値は整数で、0〜2
12)、出力をRγ,Gγ,Bγ(各値は整数で、0〜2
19)とし、(4)式でEの最大値をEmaxとすると、具体的にはRγを例として、(15)式となる。Gγ,Bγも同様である。得られた光信号Rγ,Gγ,Bγは、仮数部51〜53と桁数検出部40に出力される。
【0069】
【数15】
a,b,cの各係数は(4)式と同じ。r=0.5
【0070】
桁数検出部40は、逆ガンマ変換部からの出力である光信号Rγ,Gγ,Bγを入力とし、ビット数情報Mを出力する。前述のとおり、本実施の形態では、このビット数情報Mは、有効な信号情報となる2
0〜2
Nのビットより上位の有効利用されないビットが何ビットあるかという情報を用いる。桁数検出部40は、まず(7)式を満足するNを求め、光信号Rγ,Gγ,Bγの最大値の有効な桁数を検出する。その後、次の(16)式でビット数情報Mを計算する。得られたビット数情報Mを、仮数部51〜53とガンマ変換部31〜33に出力する。
【0072】
仮数部51〜53は、逆ガンマ変換部からの出力である光信号Rγ,Gγ,Bγ(各19ビット)と、桁数検出部40からの出力であるビット数情報M(4ビット)を入力とし、光信号の仮数Rs,Gs,Bs(各9ビット)を出力する。光信号Rγ,Gγ,Bγの下位から数えてi番目のビットをRγ(i)[i=1〜19]、仮数Rs,Gs,Bsので下位から数えてj番目のビットをRs(j)[j=1〜9]と表記すると、赤(Rγ,Rs)を例として、(17)式となる。この(17)式により得られた仮数Rs,Gs,Bsを、3×3マトリクス部20に出力する。
【0074】
3×3マトリクス部20は、光信号の仮数Rs,Gs,Bs(9ビット)を入力とし、リニアマトリクスによる色度変換処理を行って、映像信号規格の異なる光信号の仮数Rm,Gm,Bm(12ビット)を出力する。本発明の映像変換処理装置における、リニアマトリクスによる色度変換処理は、仮数から仮数への変換であり、処理のビット数が従来(
図3、
図8)より削減される。ここでは、BT.2020からBT.709への変換式を例に説明する。なお、他の映像信号規格への変換の場合も、リニアマトリクス(変換式)の係数が異なるだけで、信号処理は同様である。
【0075】
入力信号はRs,Gs,Bs(各9ビット:0〜511の整数)、出力信号はRm,Gm,Bm(各12ビット:0〜4095だが、2048〜4095は−2048〜0を意味する)であるが、まず中間の変数として、次の(18)式でRt,Gt,Bt(実数)を定義する。(18)式のマトリクスは、(3)式のマトリクスと同じである。
【0077】
このRt,Gt,Btを用いて、Rm,Gm,Bmを表すことができる。例として、Rmは(19)式のように表される。Gm,Bmも同様である。なお、(19)式は、Rtが負の数のとき、2の補数で表記することを示している。
【0078】
【数19】
ここで[x]とはxを超えない整数値である。
【0079】
ガンマ変換部31〜33は、光信号を映像信号に変換するために、例えば、(4)式に示す変換関数に基づいてガンマ変換(ガンマ補正)を行う。入力信号は光信号の仮数Rm,Gm,Bm(各12ビット:0〜4095だが、2048〜4095は−2048〜0を意味する)とビット数情報M(4ビット:0〜10の整数)、出力信号は映像信号Ro,Go,Bo(各12ビット:0〜4095の整数)であるが、中間値として
図8のガンマ変換部の入力値と同じRv,Gv,Bv(各21ビット:−1048575〜1048575の整数)を求める。
【0080】
仮数Rm,Gm,Bmの下位から数えてi番目のビットをRm(i),Gm(i),Bm(i)とし、Rv,Gv,Bvの下位から数えてj番目のビットをRv(j),Gv(j),Bv(j)と表記したとき、赤(R)を例とすると、Rv(j)は、Rm(i)を用いて、次の(20)式の関係で表せる。なお、j=20〜20−Mが0の場合は正の数、1の場合は負の数(2の補数処理)を意味する。Gv(j),Bv(j)も同様である。
【0082】
(20)式を用いて
図8の光信号出力と等価な信号Rv,Gv,Bv(21ビット)を作成することにより、
図1のガンマ変換部31〜33を
図8のガンマ変換部31〜33と同じ構成とすることができ、出力信号Ro,Go,Bo(各12ビット:0〜4095の整数)が得られ、これが出力映像信号となる。
【0083】
ARIB標準規格STD−B67を例に、ガンマ変換の具体的な計算を説明する。基本的な変換式は(4)式である。Eの最大値をEmaxとするとき、(21)式でE'maxを定義する。
【0084】
【数21】
(a,b,cは、(4)式と同じ。)
【0085】
赤(R)を例とすると、Rvは21ビット、Roは12ビットの信号であるから、EとRvの関係、E’とRoの関係は、それぞれ(22)式、(23)式で表される。緑(G)、青(B)も同様である。
【0088】
各ガンマ変換部31〜33の処理内容は、(20)式を用いて信号Rv,Gv,Bvを作成し、これを(22)式で正規化された光信号Eとし、(4)式に基づいて正規化された映像信号E’に変換する。その後、(23)式により12ビットの映像信号Ro,Go,Boを出力することと等価である。
【0089】
以上のとおり、仮数Lとビット数情報Mを用いることにより、3×3マトリクス部20は最大12ビットの計算処理に対応すれば良く、HDRの信号に対しても、ハードウェア構成を格別大きくすることなく、映像変換処理装置を構成できる。なお、本発明は、HDRの信号の色度変換に限られず、SDRの信号の色度変換にも適用可能であるが、SDRの信号は元の光信号のビット数が少ないため(
図3を参照)、本発明による効果は比較的小さい。したがって、本発明は、HDRの信号の色度変換に適用することが好ましい。
【0090】
(第2の実施例)
図2に、本発明の第2の実施例の映像変換処理装置のブロック図を示す。
【0091】
図2の映像変換処理装置200は、逆ガンマ変換部11,12,13と、桁数検出部60と、仮数部51,52,53と、3×3マトリクス部20と、ガンマ変換部31,32,33とを備える。第1の実施例と異なるのは、桁数検出部60の処理のみで、第1の実施例では逆ガンマ変換部の出力で行っていた最大値検出を、第2の実施例では、映像信号入力で行っている。以下、各ブロックの入出力及び処理について説明するが、第1の実施例と同じ部分は、説明を省略又は簡略にする。
【0092】
逆ガンマ変換部11〜13は、
図1の逆ガンマ変換部11〜13と同じであり、映像信号(12ビット)から光信号(入力光に対し線形関係にある信号、19ビット)へ、(15)式の変換を行う。
【0093】
桁数検出部60は、映像信号Ri,Gi,Biを入力とし、ビット数情報Mを出力する。ビット数情報Mは次のとおり算出する。まず、次の(24)式でRi
Nを定義する。このRi
Nは、
図7において、光信号(Rγ)が2
Nとなるときの入力映像信号(Ri)の値を意味する。Gi
N,Bi
Nも同様に定義する。
【0095】
これを用いて、次の(25)式を満足するNを求める。(25)式は、(7)式と等価であり、入力映像信号Riから、(7)式のNを求めることに相当する。
【0097】
その後、このNから、(16)式を用いてビット数情報Mを計算する。
【0098】
仮数部51〜53は、逆ガンマ変換部からの出力である光信号Rγ,Gγ,Bγ(各19ビット)と、桁数検出部60からの出力であるビット数情報M(4ビット)を入力とし、光信号の仮数Rs,Gs,Bs(各9ビット)を出力する。その内部処理は、
図1の仮数部51〜53と同じである。
【0099】
この処理以降については、第1の実施例と同じである。すなわち、3×3マトリクス部20は、光信号の仮数Rs,Gs,Bs(9ビット)を入力とし、リニアマトリクスによる色変換処理を行って、映像信号規格の異なる光信号の仮数Rm,Gm,Bm(12ビット)を出力する。
【0100】
また、ガンマ変換部31〜33は、光信号の仮数Rm,Gm,Bm(12ビット)とビット数情報M(4ビット)を入力信号とし、映像信号Ro,Go,Bo(12ビット)を出力信号として、例えば、(4)式に示すガンマ変換(ガンマ補正)を行う。
【0101】
以上のとおり、第2の実施例は、映像信号入力から求めたビット数情報Mと仮数Lを用いることにより、第1の実施例と同様に、HDRの信号に対しても、ハードウェア構成を格別大きくすることなく、映像変換処理装置を構成できる。
【0102】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。例えば、実施形態に記載の複数の構成ブロックを1つに組み合わせたり、あるいは1つの構成ブロックを分割したりすることが可能である。また、実施形態で示した各信号のビット数は例示であり、映像信号規格が異なれば、また異なるビット数となる。
【符号の説明】
【0103】
11,12,13 逆ガンマ変換部
20 3×3マトリクス部
31,32,33 ガンマ変換部
51,52,53 仮数部
40,60 桁数検出部
100,200,300,310 映像変換処理装置
【要約】 (修正有)
【課題】リニアマトリクスによる色度変換処理のビット数を削減した映像変換処理装置を提供する。
【解決手段】色度変換を行う映像変換処理装置100は、逆ガンマ変換部11、12、13と、桁数検出部40と、仮数部51、52、53と、3×3マトリクス部と、ガンマ変換部31、32、33とを備える。入力映像信号から変換された入力光に比例する信号を、仮数とビット数情報とにより表記し、前記入力光に比例する信号の仮数とリニアマトリクス20に基づいて色度変換の演算処理を行い、色度変換処理された仮数と前記ビット数除法に基づいて出力映像信号を算出することを特徴とする。
【選択図】
図1