【実施例】
【0062】
[実施例1:遺伝的機構は去勢抵抗性前立腺がんにおけるDHTの合成を増強する]
本発明者らは、触媒活性の増加ではなく、ユビキチン化および分解に対するタンパク質の耐性によって5α−アンドロスタンジオン(5α−ジオン)経路を介したデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)からDHTへの代謝フラックスを増加する、3βHSD1(3βHSD1(367T))の367T形態をCRPCが発現する場合があることを、本明細書にて示す。生殖細胞系のヘテロ接合が継承された患者における野生型コピーのヘテロ接合性の喪失(LOH)によるヒトCRPC腫瘍の体細胞変異ならびに、アビラテロン酢酸で処理したマウス異種移植モデルにおいて発生する同じ体細胞突然変異の発生および発現から、3βHSD1(367T)が選択されていることは明らかである。
【0063】
[結果]
3βHSD1(367T)を有する細胞は、DHTへのフラックスが増加している。3βHSD1によるDHEAからΔ
4アンドロステンジオン(AD)への変換は、副腎前駆体からDHTへの代謝のための末梢組織における近位のステップである。Lorence et al., Endocrinology 126, 2493-2498 (1990); Simard et al., Endocr Rev 26, 525-582 (2005)。CRPCを有する患者由来の2つの細胞株は、3βHSD1および3βHSD2(
図2A)の両方をコードする転写物の同じような発現にもかかわらず、DHEAからAD(
図1A)に広く異種のフラックスを有する。同じ条件下で、LNCaP細胞は、48時間後に[
3H]−DHEAの90%より多くを3βHSD酵素活性によってADに代謝するのに対し、LAPC4細胞は、[
3H]−DHEAのわずか約10%しか代謝しない。LNCaPではなくLAPC4では、優勢経路(DHEA→AD→5α−ジオン→DHT)でのDHTに至る過程でのDHEAからADへの見かけの律速変換は、下流での代謝産物の蓄積に限りがあること、AR調節PSAおよびTMPRSS2におけるDHEA濃度依存的増加がない(
図1B)ことから、さらに明らかである。両方のHSD3Bアイソエンザイムのエクソンのシーケンシングによって、LAPC4ではなくLNCaPで3βHSD1のアミノ酸位置367のアスパラギン(N)がスレオニン(T)に入れ替える、AからCに変換するHSD3B1の1245位における単一の非同義置換(
図1C)が明らかになる。HSD3B1配列とステロイド代謝との間の関連をさらに試験するために、他のヒト前立腺細胞株を調査した。他の前立腺がんおよび不死化前立腺細胞株における野生型(1245A)およびバリアント(1245C)HSD3B1配列の存在も、DHEAからADへの「遅い」および「速い」フラックスと一致する(
図2B)。しかしながら、組換え3βHSD1(367N)および3βHSD1(367T)タンパク質の動力学的特性は、それぞれのタンパク質を発現している細胞間のステロイド代謝の違いを説明していない(
図1D)。3βHSD1(367T)をコードするアレルが、これらの細胞におけるタンパク質のより多くの量に関連しているか否かを決定するために、ウェスタンブロットを行った。3βHSD1(367T)をコードするどちらのモデルも、野生型配列を持つモデルに比べて3βHSD1タンパク質が増加した(
図1E)。
【0064】
アンドロゲン抑制は、HSD3B1(1245C)を選択する。
HSD3B1(1245C);3βHSD1(367T)アレルは、生殖系列SNPバリアントで生じる(rs1047303;アレル頻度22%)(Shimodaira et al., Eur J Endocrinol 163, 671-680 (2010))だけでなく、前立腺がんにおける体細胞変異としても発生する可能性がある。生殖細胞系ホモ接合HSD3B1(1245C)の遺伝は防げないが、LNCaPおよびVCaPの両方に証拠のあるHSD3B1(1245C)アレルが単独で存在する理由を説明できる可能性が最も高いシナリオは、ホモ接合のHSD3B1(1245C)遺伝が想定される頻度が低いとすれば、生殖細胞系のヘテロ接合遺伝に野生型アレルのヘテロ接合性の喪失(LOH)が続くか、生殖細胞系ホモ接合野生型遺伝に1245A→Cの体細胞変異が続くかのいずれかである。ヒト腫瘍におけるHSD3B1(1245C)選択で考えられるこれらの機序の存在を同定するために、マッチしている生殖細胞系と腫瘍DNAをCRPCのある男性からシーケンシングした。ゲノムDNAは、University of Texas Southwestern Medical Center(UTSW)およびで治療を受けた患者由来のCRPCおよび正常組織ならびに、University of Washington(UW)rapid autopsy programから単離した。CRPCのある40名の男性のうち、25個体、11個体、4個体の生殖細胞系はそれぞれ、ホモ接合野生型HSD3B1(1245A)、ヘテロ接合およびホモ接合バリアントHSD3B1(1245C)である。ホモ接合HSD3B1(1245A)が遺伝した25のうち3例(12%)のCRPC腫瘍は、HSD3B1(1245C)アレルを獲得していた(
図3A)。HSD3B1(1245C)転写物の発現は、利用できる新鮮な凍結腫瘍1つで確認された。25名の患者で生じている3つの同一のde novo変異の観察は、二項法を使用して1,000,000塩基対あたり4つの変異率を仮定すると、偶然だけでなく統計的有意性の高い(p=1.47×10
−13)選択によるものである可能性が高い。Greenman et al., Nature 446, 153-158 (2007)。ヘテロ接合が遺伝した11のCRPC腫瘍のうち、3つ(27%)はHSD3B1(1245A)アレルのLOHを有し、優先的に検出可能なHSD3B1(1245C)アレルにつながる(
図3B)。これら3つの腫瘍では、隣接するヘテロ接合SNPのLOHから、第1染色体のこの領域の損失がさらに確認される。これとは対照的に、ヘテロ接合が遺伝した11例はいずれも、HSD3B1(1245C)アレルのLOHを呈さなかった(
図4A)。
【0065】
HSD3B1(1245A)アレルのLOHを持つ2つの腫瘍(UW9およびUW25)には、さらに研究するための組織が残っていた。HSD3B1(1245C)アレルを持つだけのLNCaPおよびVCaPで得られた知見と一致して、これらの腫瘍は両方とも検出可能な3βHSD1タンパク質を豊富に有する(
図3C)。これとは対照的に、ヘテロ接合の発現およびホモ接合のHSD3B1(1245A)の発現で試験した両方の腫瘍は、検出可能な3βHSD1をほとんど、あるいは全く持たなかった。qPCRによるmRNAの定量を行うと、LOHを有する腫瘍に特異的に起こる3βHSD1タンパク質の存在量の増加が転写物の過剰発現に起因しないことがわかる(
図4B)。LOHを持つ両方の腫瘍は、ARおよびPSAをロバストに発現し、ARシグナル伝達を誘発する3βHSD1タンパク質機能によって維持されるDHTへのフラックスを示唆している(
図3C)。
【0066】
アビラテロンは、CYP17A1を阻害し、3βHSDを弱く阻害して、腫瘍内アンドロゲン濃度をさらに低下させ、CRPCの生存期間を長くする。したがって、3βHSD1(367T)をコードするHSD3B1(1245C)アレルへの変換によって、前駆体の利用可能性が低いにもかかわらず、アンドロゲン合成を維持することが可能になり得る。アビラテロン処理がHSD3B1(1245C)アレルを選択するか否かを判断するために、アビラテロンまたは溶媒で処理した精巣摘出マウス(n=1処理あたりマウス8匹)で増殖させたLAPC4異種移植腫瘍からのゲノムDNAを単離し、配列決定した。Li et al., Clinical Cancer Research 18, 3571-3579 (2012)。アビラテロン処理群において8つのうち2つの腫瘍(Abi#1およびAbi#2)で1245Cアレルが検出可能であり、溶媒群では腫瘍は検出されない(
図3D)。アビラテロン群における体細胞的に獲得した変異の発現を確認するために、cDNAクローンを生成し、配列決定した。3βHSD1(367T)をコードする変異HSD3B1(1245C)転写物は、Abi#1から配列決定した21のcDNAクローンのうち12例(57%)で確認され、Abi#2からは26のクローンのうち7例(27%)で確認されている。対照的に、変異転写物は、2つの溶媒処理LAPC4異種移植腫瘍から得られた37のcDNAクローンのいずれにも存在しない。
【0067】
3βHSD1(367T)をブロックすると、DHT合成、AR−応答およびCRPCが阻害される。
DHEAからDHTへのフラックスの調節およびAR刺激における3βHSD1(367T)の発現の役割を決定するために、2つの独立したレンチウイルスのshRNAを使用して内因性発現をLNCaPでサイレンシングした(
図5A)。両shRNAのある3βHSD1の発現をブロックすると、DHEAからADへのフラックスが阻害され、下流の5α−ジオンおよびDHTへの検出可能な変換は、ほとんどあるいは全く生じない(
図5B)。変異3βHSD1の発現をサイレンシングし、DHTへのフラックスをブロックすると、AR調節PSAおよびTMPRSS2の発現が妨げられ(
図5C)、in vitroでの細胞増殖の阻害につながる(
図5D)。in vivoでは、内因的に発現される変異3βHSD1の欠乏が、外科的に精巣摘出したマウスでCRPCの増殖を大幅に妨げる(
図5E)。最初はレンチウイルスのshRNAノックダウンコンストラクトを発現している細胞株から最終的に発達するCRPC腫瘍は、おそらくはshRNAコンストラクトを失った細胞の選択から、3βHSD1タンパク質を取り戻す(
図5F)。
【0068】
3βHSD1(367T)は、ユビキチン化および分解に対する耐性がある。3βHSD1(367T)の内因性発現は、3βHSD1(367N)の発現と比較して、タンパク質の存在量の増加を生じさせるように思われる(
図1E)。背後にある機序がタンパク質分解の変化によるものであるか否かを決定するために、野生型(HSD3B1(N)−HA)および(HSD3B1(T)−HA)コンストラクトを作製して一過的に発現させ、シクロヘキシミド(CHX)処理での翻訳の阻害後にタンパク質レベルを比較した。367N→T変異は、タンパク質の半減期を2.1時間から27時間に実質的に増加させる(
図7A)。前立腺がん細胞株を変えた同様の実験(
図6A)およびレンチウイルスコンストラクトの安定な発現を用いた同様の実験(
図6B)で、3βHSD1(367T)半減期が長くなっていることが確認される。野生型タンパク質の分解増大がプロテアソーム阻害で可逆的であるか否かを決定するために、細胞をMG132で処理した。薬理学的プロテアソーム阻害は、LAPC4における内因性の野生型3βHSD1(367N)を増すが、LNCaPにおける3βHSD1(367T)は増さず(
図7B)、ポリユビキチン化内因性3βHSD1(367N)は、LAPC4においてMG132処理で蓄積する(
図7C)。対照的に、ポリユビキチン化内因性3βHSD1(367T)は、MG132処理でLNCaPにおいて増加しない(
図6C)。NiアガロースプルダウンによるHAタグ化野生型と変異タンパク質とのユビキチン化の直接的な比較は、3βHSD1(367T)がポリユビキチン化に耐性である(
図7D)ことを実証しており、プロテアソームによる分解に対する脆弱性の低下とタンパク質の半減期が長くなることを説明している。
【0069】
AMFRは3βHSD1(367N)と結合し、ユビキチン化に必要である。質量分析を用いて、3βHSD1(367N)上の1以上のユビキチン化リジン残基を決定した。ユビキチン化は、3βHSD1(367N)のK70(
図8A)およびK352(
図8B)の両方で検出可能である。K352RおよびK70R単一変異および二重変異がユビキチン化に対しておよぼす影響を、Ni−アガロースプルダウンによって評価した(
図8C)。K352はK70よりもユビキチン化の重要な部位であるように思われ、両方の部位の変異は、片方の変異だけの場合よりもユビキチン化を減少させる。AMFR(自己分泌型運動因子受容体、gp78としても知られる)は、小胞体関連タンパク質分解(ERAD)経路を介して機能する膜結合型ユビキチンリガーゼである。Song et al., Mol Cell 19, 829-840 (2005)。イーアレスタチンI(Eerl)は、ERAD経路を介してタンパク質分解を阻害する小分子である。Wang et al., J Biol Chem 283, 7445-7454 (2008)。内因性3βHSD1(367N)タンパク質は、Eerl処理したLAPC4細胞で増加することから、3βHSD1(367N)の分解にはERAD経路が必要であることが示唆される(
図8D)。高分解能質量分析と併用した細胞培養中のアミノ酸による安定同位体標識(SILAC)を使用して、優先的に3βHSD1(367N)と関連するバイアスのない方法で、候補ユビキチンリガーゼを同定した。Ong et al., Mol Cell Proteomics 1, 376-386 (2002)。この実験では、3βHSD1(367T)−HAおよび3βHSD1(367N)−HAを発現する細胞を、それぞれ軽培地と重培地で増殖させた。1:1の比で混合された3βHSD1(367N)−HAと3βHSD1(367T)−HA免疫沈降混合物中、正規化されたタンパク質比1.67(≦17%で変動するペプチド比から誘導)でAMFRが検出され、3βHSD1(367N)タンパク質との優先的な物理的会合を示していた。3βHSD1(367N)−HAおよび3βHSD1(367T)−HAの免疫沈降に続いてAMFRイムノブロットを行い、AMFRと3βHSD1(367N)タンパク質との優先的な物理的会合を確認する(
図8E)。この相互作用の機能的結果を評価するために、siRNAを用いてAMFRをサイレンシングした(
図8F)。AMFRノックダウンは、3βHSD1のタンパク質の量を増加させ、ERAD経路を介したAMFRが3βHSD1分解に必要であることを実証している。これとは対照的に、siRNAによる代わりのユビキチンリガーゼSKP2をサイレンシングすると、3βHSD1に対する検出可能な効果は認められない。
【0070】
3βHSD1(367T)は、DHTの合成を増加させる。3βHSD1に起因するタンパク質のユビキチン化および分解(367T)に対する耐性が、前駆体ステロイドからDHTへの合成を増すか否かを決定するために、本発明者らは、LAPC4細胞に、3βHSD1(367N)、3βHSD1(367T)、またはベクターのみをコードするコンストラクトを発現させ、[
3H]−DHEAから下流のステロイドへの代謝フラックスを評価した。3βHSD1(367T)をコードするコンストラクトで一過的にトランスフェクトしたLAPC4細胞は、DHEAからAD→5αジオン→DHTへのフラックスの増加を呈する(
図9A)。qPCRにより、両方の転写物の等価な発現が確認された(
図9B)。3βHSD1(367T)の安定したレンチウイルス発現からも、同様に、野生型(
図9D)に匹敵する転写の発現とDHEAからAD→5αジオン→DHTへのフラックスの増加が確認される(
図9C)。最後に、本発明者らは、DHEAからDHTへのフラックスを加速する3βHSD1(367T)表現型がアンドロゲン調節遺伝子発現の応答を増幅し(
図9E)、ヒト副腎生理学を模倣するためにDHEAを補った精巣摘出マウスでCRPC異種移植腫瘍が発達する時間を早める(
図9F)ことを決定した。3βHSD1(367T)腫瘍は、PSA転写物を3βHSD1(367N)腫瘍よりも高いレベルで発現し、3βHSD1(367T)腫瘍で生じる、より高い持続DHT濃度の存在を示唆している(
図9G)。まとめると、これらの知見は、アンドロゲン欠乏状態で3βHSD1(367T)をコードするアレルの遺伝子選択に有利な機序を裏付けている。
【0071】
最後に、
図10は、標準的なアンドロゲン抑制治療法(ADT)で治療した患者における進行までの時間(TTP)に対してHSD3B1変異の存在がおよぼす影響を示す。クリーブランドクリニックで前立腺切除術後にPSAを上昇させるためにADTを受けた男性119名のコホートにおいて標的生殖細胞系の遺伝子型決定を実行する(サンガー配列決定で検証した)高解像度融解アッセイ。生殖細胞系DNAは、アーカイブされた良性の前立腺切除組織から得られた。このアッセイを使用した予備的な結果は、ADTでの進行までの時間とHSD3B1バリアントとの間の強い相関関係を明らかにしている。ホモ接合バリアントの男性は、ホモ接合野生型の男性に比べて進行までの時間が著しく短い(31.8か月対78.9か月)のに対し、ヘテロ接合体は、中間の臨床経過を有する(進行までの時間=49.7か月)。両方の症例において、対照群(ホモ接合性野生型)と比較したログランクp値<0.05であり、遺伝子用量効果の証拠が存在する(トレンドのログランク検定は、p=0.011)。
考察
【0072】
最前線の性腺のT欠乏(または去勢)治療法に対する抵抗性の主要な機序は、獲得される代謝能力であり、これは、CRPC腫瘍がAR刺激および腫瘍の進行に十分なDHT濃度を維持するのを可能にする。本研究は、DHTへのフラックスを増加させるステロイド産生機構における機能獲得型変異を初めて同定するものである。注目すべきは、主要な副腎経路を利用するか、おそらくはコレステロールからのde novoでのステロイド産生を利用するかを問わず、3βHSD酵素活性による3−ケトへの3β−ヒドロキシル酸化およびΔ
5→4異性化は、Tおよび/またはDHTの合成に至るすべての経路に必要とされることである。副腎DHEAおよびDHEA−硫酸塩は一般に、ヒト血清中に高濃度で存在する。腫瘍内3βHSD1(367N)の発現の文脈では、性腺T枯渇に対する臨床応答は、おそらくいくらかは腫瘍内DHTへの副腎前駆体の寄与が限られていることによっても発生する。したがって、3βHSD1(367T)でタンパク質の存在量が増えて生じる3βHSD活性の増大は、DHT合成のためのそうでなければ律速的な近位のステップのはけ口を開く一助となり、CRPCの発症につながるのであろう。特に、ヘテロ接合遺伝の設定で、3βHSD1タンパク質の発現は、野生型配列を保持する腫瘍と比較して、野生型HSD3B1(1245A)アレルを失った腫瘍で顕著に高くなっている(
図2C)。野生型3βHSD1(367N)タンパク質の発現および共局在が、二量体化またはオリゴマー化によって変異3βHSD1(367T)のユビキチン化およびその後の分解を復元するがゆえに、この所見が生じる可能性がある。それにもかかわらず、3βHSD1(367T)の発現を操作すると、内因性3βHSD1(367N)が発現されるにもかかわらず、DHTへのフラックスの増加とCRPC開発を引き起こす(
図9)。そのため、3βHSD1(367N)だけの発現から混合発現、3βHSD1(367T)が優勢な発現への移行は、おそらくDHT合成のキャパシティの増加に対する段階的な選択を示している。
【0073】
HSD3B1(1245C)アレルの集団頻度は約22%であるが、これは民族(UCSC)ごとに大きく異なるように見える。他の研究は、HSD3B1(1245C)アレルがアルドステロンレベルを上昇させ、本態性高血圧症のリスクを高める可能性があることを示唆している。これはおそらく、アルドステロン合成に必要な3βHSD酵素活性が高まることに起因する。アルドステロンは一般に、3βHSD2を必要とすると考えられているにもかかわらず、である。興味深いことに、この表現型は、ホモ接合HSD3B1(1245C)があるほうが厳しいように見える。ホモ接合HSD3B1(1245C)でアルドステロンが非常に高くなるという観察結果は、CRPCで酵素活性が高くなり、3βHSD1(367T)だけの発現が段階的に選択されることと一致している。限局性前立腺がんのリスクに対しては、HSD3B1(1245C)による一貫性のある影響は存在しない。Cunningham et al., Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 16, 969-978 (2007)。
【0074】
実験手順
【0075】
[
3H]標識DHEA(100nM、300,000〜600,000cpm;PerkinElmer)を含有する1mLの無血清培地での処理により細胞を播種後、ステロイド代謝実験を12時間行った。最大48時間まで培地のアリコートを収集し、65℃で4時間、βグルクロニダーゼ(1000単位;Sigma-Aldrich)で処理した。脱抱合ステロイドを抽出し、窒素気流下で蒸発させ、50%メタノールに溶解し、モデル717プラスオートインジェクター(Waters Corp.)を取り付けたBreeze 1525システムに注入し、Luna 150×3mm、3.0μΜ C
18逆相カラム(Phenomenex)でステロイド代謝物を分離した。カラム溶出液をLiquiscintシンチレーションカクテル(National Diagnostics)と混合し、β−RAMモデル3インライン放射能検出器(IN/US Systems)で分析した。トランスフェクションの24時間後および25μΜシクロヘキシミド(CHX)での処理の12時間後に、pCMV5−HSD3B1(367Nおよび367T)コンストラクトを用いて一過性酵素の発現でのステロイド代謝実験を行った。pLVX-Tight-Puroベクターでのレンチウイルス感染後、安定した酵素発現でのステロイド代謝実験を行った。UT SouthwesternおよびUniversity of Washington rapid autopsy programでのIRB承認プロトコールを用いて、ヒト組織を得た。レンチウイルスコンストラクトをmiR30スタイルshRNA配列から作製し、pGIPZベクターにクローニングし、コンストラクトを発現する感染細胞を2μg/mlのピューロマイシンを用いて選択した。ABI−7500リアルタイムPCR装置(Applied Biosystems)においてROXキット(Bio-Rad)でiTaq SYBR Green Supermixを用いてqPCRにより遺伝子を発現させた。PCMX−HSD3Bl−HA(367Nおよび367T)プラスミドでの一過性トランスフェクション後に、タンパク質の半減期を測定し、24時間、100nMのDHEAを含有する無血清培地にて25μΜCHXを続けた。2ng/mLのドキシサイクリンでのタンパク質発現の誘導およびCHXでの処理後、pLVX-Tight-PuroにおけるHAタグHSD3B1(367Nおよび367T)を安定して発現する細胞を用いてタンパク質の半減期を決定した。
【0076】
細胞株。LNCaPおよびDU145はATCC(Manassas, VA)から購入し、10%ウシ胎児血清を含むRPMI 1640培地で培養した。VCaPはATCCから購入し、10%ウシ胎児血清を含むDMEM中で維持した。LAPC4は、Charles Sawyers博士(Memorial Sloan Kettering Cancer, New York, NY)から惜しみなく提供され、10%ウシ胎児血清を含むイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)中で維持した。RWPE−1は、ATCCから得て、ケラチノサイト無血清培地(K−SFM)(Invitrogen, Carlsbad, CA)にて培養した。PzHPV7は、JT Hsieh博士(UT Southwestern)から惜しみなく提供され、PrEGM(Lonza, Allendale, NJ)で維持した。VCaP以外のすべての細胞を、5%CO
2加湿インキュベーターでインキュベートした。VCaP細胞を、10%CO
2加湿インキュベーターで増殖させた。
【0077】
ステロイド代謝。細胞(1ウェルあたり300,000〜400,000個)を、ポリ−L−オルニチンでコーティングした12ウェルのプレートに播種した。播種の12時間後、培地を、PerkinElmer(Waltham, MA)から購入した[
3H]標識DHEA(100nM、300,000〜600,000cpm)を含む1mLの無血清培地と交換した。細胞を37℃でインキュベートし、培地のアリコート(0.25〜0.3mL)を最大48時間まで採取した。ステロイドからβ−D−グルクロン酸基を加水分解するために、1000単位のβ−グルクロニダーゼ(H. pomatia; Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)を各アリコートに添加し、65℃で4時間インキュベートした。脱抱合ステロイドを1:1の酢酸エチル:イソオクタン1mLで抽出し、窒素気流下で試薬を蒸発させた。乾燥サンプルを50%メタノールに溶解し、モデル717プラスオートインジェクター(Waters Corp., Milford, MA)を取り付けたBreeze 1525システムに注入した。Luna 150×3mm、3.0μΜ C
18逆相カラム(Phenomenex, Torrance, CA)で、メタノール/水勾配を用いて25℃にてステロイド代謝物を分離した。カラム溶出液をLiquiscintシンチレーションカクテル(National Diagnostics, Atlanta, GA)と混合し、β−RAMモデル3インライン放射能検出器(LabLogic, Brandon, FL)で分析した。すべての代謝試験は三重で行い、独立した実験で繰り返した。
【0078】
一過性の酵素発現を伴うLAPC4のステロイド代謝分析のために、pCMV5−HSD3B1は、J.Ian Masonの善意で提供を受け、配列決定し、3βHSD1(367T)のエンコーディングとして確認された。Lorence et al., Endocrinology 126, 2493-2498 (1990)。Quick Change Site directed Mutagenesisキット(Agilent Technologies, Santa Clara, CA)を使用して、プライマーセット(フォワード:5’−GGACCGGCACAAGGAGAACCTGAAGTCCAAGACTCAG−3’(配列番号1)およびリバース:5’−CTGAGTCTTGGACTTCAGGTTCTCCTTGTGCCGGTCC−3’(配列番号2))を用いて、野生型3βHSD1(367N)をコードするプラスミドを誘導した。プラスミドDNA(20ng)を、PLUS試薬(Life Technology, Grand Island, NY)と一緒にリポフェクタミンを用いて、1ウェルあたり300,000個の細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、細胞を25μΜ CHXで12時間処理した後、上述したようにステロイドを分析した。
【0079】
安定した発現を伴うステロイド代謝研究用に、HSD3B1、野生型(367N)または変異(367T)を、プライマーセット(フォワード:5’−TCCGCGGCCGCGGAGTGATTCCTGCTA−3’(配列番号3)およびリバース:5’−AAGACGCGTGAGCTCTAGTAGTCAAAA−3’(配列番号4))を用いてPCR増幅し、NotIおよびMluI制限部位によってpLVX-Tight-Puroベクター(Clontech, Mountain View, CA)にサブクローニングした。pLVX-Tight-Puroベクター、pMD2.G、psPAX2ベクター各10μgの同時トランスフェクションによって、293T細胞にレンチウイルス粒子をパッケージ化した。レンチウイルス感染および2週間の2μg/mlのピューロマイシン選択後、1ウェルあたり300,000個の細胞を代謝フラックスの分析に使用した。
【0080】
ヒト組織。IRB承認番号39053で、University of Washington rapid autopsy programから、CRPCと正常組織(UW1−UW26)のマッチングを得た。UT Southwesternでは、IRB承認済みのプロトコールSTU−032011−187およびSTU−062010−212を用いて、腫瘍と正常組織(UTSW1−UTSW14)のマッチングを得た。すべての配列決定研究を独立して繰り返した。
【0081】
DNAの単離とHSD3B1配列分析。DNeasy Blood and Tissue Kit(QIAGEN, Germantown, MD)を用いて、細胞株および臨床サンプル(転移性CRPC腫瘍およびマッチした末梢血または正常組織)からゲノムDNAを調製した。プロモーター領域のPCR産物、すべてのエクソン、エクソン−イントロン接合部、3’−UTRを配列決定し、HSD3B1における変異を同定した。プライマーおよびアニーリング温度は、過去に説明されていた。Chang et al., Cancer Res. 62, 1784-1789 (2002)。HSD3B1の3’フランキング領域を配列決定するために、プライマーセット(フォワード:5’−ATGTGGAGGGAGGTGTGAGT−3’(配列番号5)およびリバース:5’−ACGGAGATGGGTCTCTTCCA−3’(配列番号6))を、アニーリング温度62℃で使用した。ジェノタイピングPCR反応(50μl)は、30〜100ngのゲノムDNA、0.2mM dNTPを含む1×PCR緩衝液、各0.2μΜのプライマー、0.5μlのPhusion High-Fidelity DNA Polymerase(New England BioLabs Inc, Ipswich, MA)で構成されていた。DNAシーケンシングおよび多型解析は、McDermott Center, UT Southwesternにて実施した。
【0082】
HSD3B1転写物の分析用に、全RNAを回収し、iScript cDNA合成キット(Bio-Rad)によってmRNAをcDNAに逆転写した。クローニングプライマーセット(フォワード:5’−ACTGAATTCCAGGCCAATTTACACCTATCG−3’(配列番号7);リバース:5’−ACTCTCGAGTCAAACTATGTGAAGGAATGGA−3’(配列番号8))を使用して、HSD3B1エキソン4の3’領域をPCR増幅し、pCMXベクターにサブクローニングした。インサートを有するコロニーを配列決定のために採取した。
【0083】
遺伝子は、レンチウイルスベクターまたはRNA干渉によりノックダウン。レンチウイルスベクターの構築、ウイルスパッケージングおよび感染は、過去に説明されているようにして行った。Chang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108, 13728-13733 (2011)。簡単に説明すると、HSD3B1に対する3つのmiR30スタイルshRNA配列(#1:5’−TGCTGTTGACAGTGAGCGACCTCATACAGAAAGTGACAAGTAGTGAAGCCACAGATGTACTTGTCACTTTCTGTATGAGGCTGCCTACTGCCTCGGA−3’(配列番号9);#2:5’−TGCTGTTGACAGTGAGCGAAGAGGAAAGACCATGTGGTTTTAGTGAAGCCACAGATGTAAAACCACATGGTCTTTCCTCTGTGCCTACTGCCTCGGA−3’(配列番号10))をPCR増幅し、pGIPZベクター(Open Biosystems, Huntsville, AL)にクローニングし、シーケンシングによって確認した。ウイルスパッケージングは、pGIPZ、pMD2.G、psPAX2ベクター各10μgを同時トランスフェクトすることで、293T細胞にて行った。形質導入効率を高めるために、レンチウイルス粒子を含有する30mLの上清を回収し、0.45μmのニトロセルロース膜で濾過し、室温にて途切れることなく2時間20分間、19,000rpmでの超遠心分離によって濃縮した。ウイルス粒子を含有するペレットを、10%FBSを含む3mlのRPMI 1640で再懸濁し、1mLを用いて、ポリブレン(6μ/ml)加LNCaP細胞に感染させた。24時間後、感染細胞を2週間、2μg/mlのピューロマイシンを用いて選択した後、ノックダウン効率を評価した。
【0084】
RNA干渉には、25nMのsiGENOME Human siRNA(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)を、Lipofectamine RNAiMax(Life Technology, Grand Island, NY)によってLAPC4(ポリ−L−オルニチンをコーティングした6ウェルのプレートで1ウェルあたり1×10
6個の細胞)にトランスフェクトした。細胞溶解物を、トランスフェクションの48時間後に回収し、ウサギ抗AMFRおよびウサギ抗SKP2を用いるウェスタンブロットによりノックダウン効率を決定した。
【0085】
マウス異種移植研究。過去に詳細に説明されているようにして、マウス異種移植研究および酢酸アビラテロン処理を行った。Li et al., Clin Cancer Res 18, 3571-3579 (2012)。簡単に説明すると、6〜8週齢のオスのNOD/SCIDマウスをUT Southwestern Animal Resources Centerから入手し、外科的な精巣摘出とDHEAペレット(5mgの90日間徐放)移植をし、2日後に7×10
6のLAPC4細胞を皮下注射した。体積が300mm
3に達する腫瘍を、4週間にわたり、週5日間、毎日1回、腹腔内アビラテロン酢酸または溶媒で処理(1処理あたりn=8匹)した。マウスの屠殺時に、新鮮な状態で腫瘍を凍結した。変異3βHSD1ノックダウンの研究のために、shHSD3Bl#1、#2およびshCTRLを安定して発現しているLNCaP細胞(7×10
6個)を、正常性腺機能を有するNOD/SCIDマウスに、マトリゲルと一緒に皮下注射した(1群あたりn=15)。体積が100mm
3に達した腫瘍を有するマウスには、外科的去勢とDHEAのペレット移植を行った。去勢から腫瘍体積が≧600mm
3になるまでの時間を評価した。野生型と変異3βHSD1との比較のために、pLVX-Tight-Puro−HSD3Bl(367N)またはpLVX-Tight-Puro−HSD3Bl(367T)を安定して発現しているLAPC4細胞(7×10
6個)を、外科的に精巣摘出してDHEA(5mg、90日間徐放)ペレットを移植したNOD/SCIDマウスに皮下注入した。腫瘍直径をデジタルノギスで週に2〜3回測定した。
【0086】
細胞増殖研究。ポリ−L−オルニチンをコーティングした12ウェルのプレートに、LNCaP細胞を100,000個/ウェルで三重に播種し、20nMのDHEAまたは溶媒対照の存在下にて最大7日間増殖させた。ヘキストで核酸を染色することによって、相対的な細胞数を決定した。Kan et al., Cancer Res 67, 9862-9868 (2007)。簡単に説明すると、細胞をPBSで洗浄し、250μLのMilli−Q水と一緒に冷凍した。核酸を染色するために、プレートを完全に解凍し、500μLのヘキスト染色緩衝液(1mM EDTA、2M NaClおよび10mM Tris中ヘキスト10μg/mL、pH=7.5)を各ウェルに加えた。プレートを室温にて2時間、暗所で穏やかに振盪した後、360nmでの励起とプレートリーダーを用いての460nmでの発光測定によって、各ウェルの蛍光を決定した。DNAの量を、標準曲線との比較によって推定した。
【0087】
遺伝子発現。各遺伝子転写物を正確に定量するために、過去に説明されているようにして、qPCRを行った。Chang et al., 2011。簡単に説明すると、ROXキットを含むiTaq SYBR Green Supermix(Bio-Rad, Hercules, CA)を、ABI−7500リアルタイムPCR装置Applied Biosystems, Foster City, CA)にて、熱サイクル反応用に増幅した。RNeasyキット(QIAGEN)によって回収した全RNA(1μg)を、iScript cDNA合成キット(Bio-Rad)を用いるRTに使用した。以下のプライマーセットを用いて、qPCR分析を三重に行った。HSD3B1(フォワード:5’−CCATGTGGTTTGCTGTTACCAA−3’(配列番号11);リバース:5’−TCAAAACGACCCTCAAGTTAAAAGA−3’(配列番号12))、PSA(フォワード:5’−GCATGGGATGGGGATGAAGTAAG−3’(配列番号13);リバース:5’−CATCAAATCTGAGGGTTGTCTGGA−3’(配列番号14))、TMPRSS2(フォワード:5’−CCATTTGCAGGATCTGTCTG-3’(配列番号15);リバース:5’−GGATGTGTCTTGGGGAGCAA−3’(配列番号16))、ハウスキーピング遺伝子large robosomal protein P0(RPLP0)(フォワード:5’−CGAGGGCACCTGGAAAAC−3’(配列番号17);リバース:5’−CACATTCCCCCGGATATGA−3’(配列番号18))およびGAPDH(フォワード:5’−AGAAGGCTGGGGCTCATTTG−3’(配列番号19);リバース:5’−AGGGGCCATCCACAGTCTTC−3’(配列番号20))。それぞれのmRNA転写物は、RPLP0またはGAPDHおよび非サイレンシング対照細胞(ノックダウン)または溶媒処理した細胞(ステロイド処理細胞)にサンプル値を正規化することによって定量した。すべての遺伝子発現研究を、独立した実験で繰り返した。
【0088】
酵素反応速度。野生型および367Tタンパク質について、酵母ベクターV10−3βHSD1を用いて、S cerevisciae株W303Bにて組換えヒト3βHSD1を発現させ、記載のあるようにしてミクロソームを調製した。Li et al., 2012。50mMのリン酸カリウム(pH7.4)0.25ml中に[
3H]−DHEA(0.5〜40μΜ、100,000CPM)およびミクロソームタンパク質25μgを含有するインキュベーションを、37℃で1分間プレインキュベートした後、NAD
+(0.1mM)との反応を開始した。37℃で20分後、ジクロロメタン1mlでステロイドを抽出し、濃縮し、メタノール−水勾配を0.4ml/分で使用して、Kinetex 2.1×100mm、2.6μm C
18逆相カラム(Phenomenex, Torrance, CA)を備えたAgilent 1260 HPLCで分離した。β−RAM4(LabLogic)のインラインシンチレーションカウンターおよびBio-SafeIIカクテル(Research Products International)を用いて、カラム溶出液を分析した。三重測定の平均を、v対[S]としてプロットし、Originバージョン7.5を用いてミカエリス・メンテン式にデータをフィットすることで、反応速度定数K
mおよびV
maxを得た。
【0089】
LAPC4における3βΗSD1の安定した発現のために、pLVX-Tight-Puroベクター系(Clontech, Mountain View, CA)によって、HSD3B1に融合した野生型3βHSD1(367N)または3βHSD1(367T)HAタグを発現している細胞を構築した。10%Tet System Approved FBS(Clontech)を含有するEVIDMでポリ−L−オルニチンをコーティングした6ウェルのプレートの各ウェルに、100万個の細胞を播種した。2ng/mLのドキシサイクリンによって、24時間、3βΗSDの発現を誘導した。CHX処理および溶解物の収集は上述したようにして実施した。タンパク質は、SDS−PAGEおよびウェスタンブロットによって分析した。フィルムをスキャンし、ImageJによって定量した。過去に説明されているようにして、タンパク質の半減期を計算した。Bloom et al., Cell 115, 71-82 (2003)。簡単に説明すると、3βHSD1シグナルを、β−アクチンおよび時刻0に正規化した。対数トレンドラインから誘導した式によって、t
1/2を算出した。すべての実験を独立して繰り返した。
【0090】
ウェスタンブロット分析および免疫沈降。ウェスタンブロット分析のために、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche)を含むRIPA緩衝液(Sigma- Aldrich)を用いて、全細胞タンパク質抽出物を回収した。BCAタンパク質アッセイ試薬(Thermo Scientific, Rockford, IL)によってタンパク質濃度を決定し、タンパク質20μgを8.5%SDS−PAGEによって分離した。タンパク質をPVDF膜に転写し、マウス抗3βHSD1抗体(Sigma)、ウサギ抗HA抗体(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)、マウス抗アクチン抗体(Sigma)によって検出した。3βHSD1安定性におけるERAD経路の役割を決定するために、細胞溶解物を回収する6時間前に、細胞をイーアレスタチン(Sigma)で処理した。
【0091】
内因性ユビキチン修飾3βHSD1を精製するために、10μΜのMG132で6時間(EMD Millipore, Billerica, MA)処理した1000万個のLAPC4細胞からの全細胞溶解物を、プロテアーゼ阻害剤カクテルおよび20mM N−エチルマレイミド(Sigma)を加えたIP溶解緩衝液(20mM HEPES、pH7.9、1mM EDTA、1mM EGTA、150mM NaCl、10mMリン酸グリセロール、10mMピロリン酸ナトリウム、1mMジチオスレイトール、1mM NaF、1mM Na
3VO
4、0.1%Nonidet P-40)を用いて回収した。予備清澄化ライセートを、マウス抗ユビキチン抗体(Santa Cruz)と共に4℃で3時間インキュベートした後、プルダウンのためにさらに1時間、Protein AG UltraLink Resin(Thermo Scientific)40μlを添加した。溶解緩衝液で十分に洗浄した後、精製されたタンパク質を25μl 2×SDSサンプル緩衝液で溶出させ、ウェスタンブロットで分析した。
【0092】
3βHSD1およびAMFRの共免疫沈降のために、ポリエチレンイミン(Polysciences, Warrington, PA)によって、4つのディッシュの293T細胞(60%コンフルエンス)を、野生型3βHSD1(367N)または3βHSD1(367T)PCMX−HSD3Bl−HA 5μgで36時間トランスフェクションした。免疫沈降アッセイを上述したようにして行った。すべての免疫沈降研究を独立した実験で繰り返した。
【0093】
in vivoユビキチン化アッセイ。6xHis−ユビキチン(配列番号21として開示される「6xHis」)結合タンパク質を精製するために、過去に説明されているようにして、若干の修正を加えて実験を行った。Rodriguez et al., EMBO J 18, 6455-6461 (1999);Xirodimas et al., Cell 118, 83-97 (2004)。簡単に説明すると、野生型3βHSD1(367N)または3βHSD1(367T)PCMX−HSD3Bl−HAと一緒にpcDNA3−6xHisユビキチン(配列番号21として開示されている「6xHis」)を用いて、HEK293T細胞を36時間トランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞を氷冷PBS中で掻き取って回収した。細胞懸濁液の20%をペレット化し、RIPA溶解緩衝液で溶解した。異種発現タンパク質をウェスタンブロットによって分析した。残りの細胞をペレット化し、4mLの溶解緩衝液(6Mグアニジン−HCl、0.1M Na
2HPO
4/NaH
2PO
4、0.01Mトリス/HCl、pH8.0、5mMイミダゾール、10mM β−メルカプトエタノール)で溶解した。Ni−NTA−アガロース(QIAGEN Inc, Valencia, CA)40μlを加えることによって6xHis−ユビキチン(配列番号21として開示されている「6xHis」)によって共有結合したタンパク質をプルダウンし、室温にて2時間インキュベートし、以下の緩衝液で連続的に洗浄した。(1)6Mグアニジン−HCl、0.1M Na
2HPO
4/NaH
2PO
4、0.01Mトリス/HCl、pH8.0、5mMイミダゾールプラス10mM β−メルカプトエタノール;(2)8M尿素、0.1M Na
2HPO
4/NaH
2PO
4、0.01Mトリス/HCl、pH8.0、10mMイミダゾール、10mM β−メルカプトエタノールプラス0.1%トリトンX−100;(3)8M尿素、0.1M Na
2HPO
4/NaH
2PO
4、0.01Mトリス/HCl、pH6.3、10mM β−メルカプトエタノール(緩衝液A)、20mMイミダゾールプラス0.2%トリトンX−100、2回;(4)10mMイミダゾールプラス0.1%トリトンX−100を含む緩衝液A;(5)10mMイミダゾールプラス0.05%トリトンX−100を含む緩衝液A。最後の洗浄後、200mMイミダゾールを含有する25μl 2X SDSサンプル緩衝液でタンパク質を溶出した後、溶出液10μLをSDS−PAGEおよびウェスタンブロットで分析した。ユビキチン共役部位を決定するために、プライマーセット(K70Rフォワード:5’−GAT GAG CCA TTC CTG AGG AGA GCC TGC CAG GAC-3’(配列番号22);K70Rリバース:5’−GTC CTG GCA GGC TCT CCT CAG GAA TGG CTC ATC−3’(配列番号23);K352Rフォワード:5’−GAG GAA GCC AAG CAG AGA ACG GTG GAG TGG GTT−3’(配列番号24);K352Rリバース:5’−AAC CCA CTC CAC CGT TCT CTG CTT GGC TTC CTC−3’(配列番号25))を用いて、Quick Change Site directed Mutagenesisキット(Agilent Technologies)を使用して、リジン残基をアルギニンで置換した。ユビキチン化の研究は、独立した実験で繰り返した。
【0094】
質量分析
【0095】
材料。1M炭酸水素トリエチルアンモニウム(TEAB)溶液、dl−ジチオスレイトール(DTT)、ヨードアセトアミド、プロテオミクスシークエンシンググレードのトリプシンは、Sigmaから購入した。LC/MSグレードのアセトニトリルおよびLC/MSグレードのトリフルオロ酢酸(TFA)は、Fisher Scientificから購入した。
【0096】
ゲル内消化。タンパク質サンプルをSDS−PAGEで分離し、標準的な手順に従ってSimplyBlue SafeStain(Invitrogen)で染色した。簡単に説明すると、ゲルを超純水で5分間3回洗浄し、20mLのSimplyBlue SafeStainで室温にて1時間、染色した。100mLの超純水で1時間、2回洗浄した後、各ゲルのレーンを、各々がほぼ同じ量のタンパク質を含むであろうようにして3つに切断した。その後、切断した各ゲルバンドをさらに細かく1mm四方の立方体にした。ゲル内消化を、以下のプロトコールに従って実施した。50mMの炭酸水素トリエチルアンモニウム(TEAB)/アセトニトリル(1:1、v/v)中、37℃で30分間のインキュベーションによって、クーマシーブルー染色を除去した。ゲル片を室温にてアセトニトリルで脱水した後、DTTおよびヨードアセトアミドを用いて還元/アルキル化した。次に、ゲル片をアセトニトリルで脱水し、トリプシン溶液(50mMの酢酸中400ng/μg)で再水和した。トリプシン消化を37℃で一晩行った。50%アセトニトリルおよび3.3%TFAの最終濃度になるように抽出緩衝液を用いて37℃で30分のインキュベーション後にペプチドを抽出した。特に明記しない限り、すべてのステップは、サーモシェーカー(Eppendorf, NJ)で実施した。抽出物を真空遠心分離機にて乾燥させた。LC−MS/MS分析の前に、Oasis HLB μElutionプレート(Waters, MA)を用いて、塩を除去した。
【0097】
LC−MS/MS分析。2μmの樹脂を充填した内径75μm×50cmのThermo Scientific Easy-Sprayカラムを備えたUltimate 3000ナノHPLCシステム(Dionex)にて、一次元液体クロマトグラフィを行った。ペプチドの分離は、0.1%ギ酸中1%から25%アセトニトリルの200分間の直線勾配により350nl/分で行った。Easy-Sprayソース(Thermo Electron)を用いてカラム温度を上昇させ、60℃に維持した。(m/z 200で)解像度70Kで取得したフルMSスキャンおよび解像度17.5Kで取得したMS/MSスキャンを用いて、データ依存性のトップ20の方法を使用して、QExactive装置(Thermo Electron)にて質量分光分析を行った。3m/zの分離ウィンドウおよびMS/MS取得のための100m/zの固定された第1の質量で、アンダーフィル比を0.1%に設定した。割り当てられていない単一荷電種を除外するために、電荷除外を適用し、15秒の時間でダイナミック除外を使用した。GlyGly(K)を可変修飾として指定したことを除いてデフォルトのパラメータでMaxQuant(バージョン1.3.0.5)を使用して、SILAC MSデータを分析した。Cox, J., and Mann, M., Nat Biotechnol 26, 1367-1372 (2008)。
実施例2:生殖細胞/体細胞変異検出アッセイ
【0098】
体細胞変異の検出(PCR1):
【0099】
野生型アレルの増幅をブロックして変異アレルが優先的に増幅されるようにする、野生型アレルに特異的な非標識3’ロックド核酸(LNA)を用いる非対称PCRアッセイによって、野生型個体における(N367T)体細胞変異を検出する。DNA飽和色素のエンドポイント蛍光融解は、両方のアレルを等しく増幅する第2の非遮断PCRから生じるプローブ/野生型標的二重鎖の融解温度と比較できるプローブ/変異標的二重鎖に特異的である溶融動態につながる。アッセイは、全アレル集団中の変異アレルの0.75%に対して感受性である。
【0100】
各サンプルについて、以下の表1に示すようにして2種類のPCR混合物を調製する。
【0101】
【表1】
【0102】
PCR1については、表2に示すように、以下の「プレPCR」サイクルを行う。
【0103】
【表2】
【0104】
PCR1(プレ−PCRサイクル後)およびPCR2はどちらも、表3に示すサイクルで行う。
【0105】
【表3】
【0106】
生殖細胞SNP検出(PCR2):
【0107】
DNA飽和色素の存在下、非対称PCRにおける野生型特異的非標識ロックド核酸(LNA)ハイブリダイゼーションプローブを用いて、(N367T)生殖系SNP検出アッセイを設計した。LC-Green Lightscanner(登録商標) Master Mix(Biofire Defense, Salt Lake City, UT)を使用して、プライマー比1:10で、219bp−アンプリコンを増幅する。PCR終了後、エンドポイント蛍光融解は、増幅されたアレルに特異的なプローブ/標的二重鎖の2つの異なる融解温度を明らかにする(野生型で73.6℃、変異で71.5℃)。ヘテロ接合の遺伝子型は、2つの融解ピークを示す。3BHSD2および4つの3BHSD1偽遺伝子は、プライマーの特異性およびPCRのストリンジェンシーの高さがゆえに、このジェノタイピングアッセイに干渉しない。参照方法として配列決定と比較した場合、このアッセイは100%の一致を示した。新鮮な凍結組織およびFFPE組織から抽出した40ngのDNAについてアッセイを検証した。
【0108】
アッセイの実施結果を
図11に示す。PCR1に使用したのと同じプロトコールを用いて行われる、生殖細胞系変異アッセイ(PCR2)の背後にある目的は、同時PCR2で体細胞変異の遺伝子型を決定し、検出することである。既知の野生型サンプルだけを試験する場合には、これは不要である。また、PCR2アッセイはまた、ヘテロ接合変異と体細胞変異(いずれもPCR1における変異となる)とを区別し、ヘテロ接合性の喪失を検出することを可能にする。
【0109】
本明細書に引用されるすべての特許、特許出願および刊行物ならびに電子的に利用可能な資料の完全な開示内容が、本明細書に援用される。前述の詳細な説明および実施例は、理解を明確にするためだけに与えられている。そこから不必要な制限が理解されるべきではない。当業者に明らかな変形が特許請求の範囲に規定される本発明の範囲に含まれるため、本発明は、図示および記載された詳細な内容に厳密に限定されるものではない。