特許第6203469号(P6203469)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6203469-歯磨組成物 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6203469
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】歯磨組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/34 20060101AFI20170914BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20170914BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20170914BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   A61K8/34
   A61K8/49
   A61K8/73
   A61Q11/00
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-125226(P2011-125226)
(22)【出願日】2011年6月3日
(65)【公開番号】特開2012-250937(P2012-250937A)
(43)【公開日】2012年12月20日
【審査請求日】2014年3月19日
【審判番号】不服2015-19817(P2015-19817/J1)
【審判請求日】2015年11月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】市村 育久
(72)【発明者】
【氏名】中津 晋
(72)【発明者】
【氏名】押野 一志
【合議体】
【審判長】 大熊 幸治
【審判官】 渡戸 正義
【審判官】 須藤 康洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−297022(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0140881(US,A1)
【文献】 特表平08−505876(JP,A)
【文献】 特開2002−302450(JP,A)
【文献】 特開2011−011995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00-8/99
A61Q1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)、(B)、(C)及び(D):
(A)茶カテキン 0.01〜4質量%、
(B)プロピレングリコール 1〜20質量%、
(C)カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースから選ばれる1種又は2種以上のセルロース系粘結剤を含む粘結剤 0.3〜2質量%、及び
(D)水 10〜25質量%
を含有し、かつ(E)グリセリンの含有量が12質量%以下であり、又は(E)グリセリンを含有せず、
成分(B)と成分(E)との合計含有量が5〜25質量%である歯磨組成物。
【請求項2】
成分(E)と成分(B)との質量比(E:B)が、0:1〜7:1である請求項1に記載の歯磨組成物。
【請求項3】
さらに、(F)20℃において水に対する溶解度が40質量%以下の糖アルコールを20〜50質量%含有する請求項1又は2に記載の歯磨組成物。
【請求項4】
成分(D)と成分(F)との質量比(D:F)が、1:1〜1:4である請求項3に記載の歯磨組成物。
【請求項5】
25℃における粘度が、1000〜4000dPa・sである請求項1〜4のいずれか1項に記載の歯磨組成物。
【請求項6】
成分(E)を含有し、かつ成分(E)と成分(B)との質量比(E:B)が、0.1:1〜6:1である請求項1に記載の歯磨組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯磨組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、茶由来のポリフェノール等をはじめとする水溶性ポリフェノールは、抗う蝕効果、抗歯周病効果、抗菌効果、抗ウイルス効果、消臭効果等をもたらすことが知られており、歯磨組成物の薬効成分としても用いられている。また、歯磨組成物の多くは、グリセリン又はポリエチレングリコール等の湿潤剤や水等の各種成分が、用途に応じて適宜選択した量で配合されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、茶ポリフェノール100重量部に対し、湿潤剤80〜390重量部及び水0〜100重量部を含有する口腔洗浄剤が開示されている。そして、該文献には、湿潤剤としてグリセリンが好適であると記載され、多量のグリセリンを配合した具体例が示されている。また、特許文献2には、カテキン等のポリフェノールを保持したハイドロゲル粒子、粘結剤、及び水を含有する歯磨組成物が開示されている。ここでは、分散又は乳化した状態でポリフェノールをハイドロゲル粒子内に保持させることによって、ポリフェノールの安定性を確保する一方、透明性の点から湿潤剤を配合するのが好適であるとし、具体例ではグリセリン等のほか、ポリエチレングリコールが用いられている。
【0004】
一方、歯磨組成物に配合する湿潤剤によっては、低温での粘度が上昇して吐出性が低下したり、或いは高温での粘度が必要以上に低下して保形性や使用感が損なわれたりするおそれがある。これに対して、特許文献3には、ポリエチレングリコールを活性剤に対して特定比率で含有することによって、低温における粘度低下を防止した歯磨組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−215183号公報
【特許文献2】特開2009−196987号公報
【特許文献3】特開平3−109315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、水分の含有量の少ない歯磨組成物においては、多量に配合されたグリセリン等の湿潤剤の存在下で、低温での粘度の上昇及びそれによる吐出性の低下、或いは高温での粘度が必要以上に低下して保形性や使用感が損なわれたりするおそれが高くなる。なかでも、水溶性ポリフェノールを含有する歯磨組成物の場合、水溶液に水溶性ポリフェノールとポリエチレングリコールとを配合すると白濁が確認されることが判明したことから、ポリエチレングリコールを用いると、水溶性ポリフェノールとの間に複合体が形成され、ポリフェノールの薬効成分としての作用が低下することが懸念される。また、水溶性ポリフェノールを含有する歯磨組成物において、用いる湿潤剤の種類によっては、必要以上に着色するおそれもある。
【0007】
したがって、本発明の課題は、水溶性ポリフェノールの安定化を図り、その薬効成分としての作用を充分に発揮させながら、低温域から高温域に亘るまで、保形性と吐出性を確保できる粘度を保持し、使用感の良好な歯磨組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者らは、水溶性ポリフェノールを含有する安定な歯磨剤を開発すべく種々検討したところ、湿潤剤としてプロピレングリコールを用い、グリセリンとの合計含有量を調整することによって、低温域から高温域に亘るまで、保形性と吐出性を確保できる粘度を保持しながら、着色をも抑制し得る使用感の良好な歯磨組成物が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、次の成分(A)、(B)、(C)及び(D):
(A)水溶性ポリフェノール、
(B)プロピレングリコール 1〜20質量%、
(C)粘結剤 0.3〜2質量%、及び
(D)水 10〜30質量%
を含有し、かつ(E)グリセリンの含有量が20質量%以下であり、又は(E)グリセリンを含有せず、
成分(B)と成分(E)との合計含有量が5〜25質量%である歯磨組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水溶性ポリフェノールを含有し、温度の変動によっても保形性と吐出性を確保できる粘度を保持することができるとともに、水溶性ポリフェノールの安定性を高めながら着色をも抑制することができる、使用感の良好な歯磨組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例2及び比較例4の歯磨組成物を用いた押し出し試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の歯磨組成物は、水溶性ポリフェノール(A)を含有する。成分(A)は、水との親和性が高く、抗う蝕効果、抗歯周病効果、抗菌効果、抗ウイルス効果、消臭効果等をもたらすことができる。
【0013】
本発明に用いられる水溶性ポリフェノール(A)としては、縮合型タンニン等のモノマーやオリゴマーや加水分解型タンニンが挙げられ、カテキン類、フラバノール類、フラボン類、アントシアニジン類、ロイコアントシアニジン類等の縮合型タンニンモノマーのほか、プロアントシアニジン類等の縮合型タンニンオリゴマー、ガロイルグルコース類等の加水分解型タンニンが挙げられる。
【0014】
カテキン類としては、例えば、茶カテキン、ガロカテキン、カテキンガレート、ガロカテキンガレート等の非エピ体カテキン類;エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等のエピ体カテキン類などが挙げられる。フラバノール類としては、ケンフェロール、ケルセチン、ミリセチン等が挙げられる。フラボン類としては、アビゲニン、ステオリン、ジオスメチン等が挙げられる。ロイコアントシアニジン類としては、フラバン−3−オール、フラバン−3,4−ジオール等が挙げられ、アントシアニジン類としては、シアニジン、デルフィニジン等が挙げられる。プロアントシアニジン類は縮合型タンニンのオリゴマーの総称であり、代表的なものとしてウーロン茶ポリフェノール、紅茶ポリフェノール、ブドウ種子ポリフェノール、松樹皮ポリフェノール、ホップポリフェノール、リンゴポリフェノール、クランベリーポリフェノール、ブルーベリーポリフェノール、落花生渋皮ポリフェノール、黒豆ポリフェノール、カカオポリフェノール、柿タンニン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上くみ合わせて用いてもよい。なかでも、抗う蝕効果、抗歯周病効果、抗菌効果の点から、カテキン類が好ましく、茶カテキンがさらに好ましい。
【0015】
茶カテキンは、茶葉から熱水もしくは水溶性有機溶媒により抽出された緑茶抽出物を濃縮、精製等を行うことによって得ることができる。また、市販の三井農林(株)「ポリフェノン」、伊藤園(株)「テアフラン」、太陽化学(株)「サンフェノン」などの緑茶抽出物の濃縮物を用い、成分調整を行うことにより、本発明の目的に適う茶カテキンを得ることができる。
【0016】
水溶性ポリフェノール(A)の含有量は、抗う蝕効果、抗ウイルス効果、消臭効果等の薬効成分としての作用を充分に発揮させる点から、本発明の歯磨組成物中に、好ましくは0.01〜4質量%であり、より好ましくは0.05〜2質量%であり、さらに好ましくは0.1〜1質量%である。なお、水溶性ポリフェノールを含む抽出液又は抽出物を用いる場合、上記水溶性ポリフェノール(A)の含有量は、これら抽出液又は抽出物に含まれる水溶性ポリフェノールの量を意味し、本発明の歯磨組成物中における抽出液又は抽出物の含有量(質量%)を元に、これら抽出液又は抽出物中における水溶性ポリフェノールの含有量(質量%)を考慮して算出される値である。
【0017】
本発明の歯磨組成物は、プロピレングリコール(B)を含有する。従来より湿潤剤として多用されてきたポリエチレングリコールを用いると、後述する水(D)中に分散した状態で存在する水溶性ポリフェノール(A)との間で複合体を形成するため、水溶性ポリフェノールの薬効成分としての作用を低減させるおそれがあることが判明した。そこで、本発明では、湿潤剤としてプロピレングリコール(B)を用いることにより、水溶性ポリフェノール(A)との間に複合体を形成することなく、水溶性ポリフェノール(A)を水(D)中で安定に保持することができる。また、プロピレングリコール(B)を含有することにより、特に低温環境下における粘度の上昇を効果的に抑制することもできる。
【0018】
プロピレングリコール(B)の含有量は、湿潤剤としての機能を充分に発揮しながら水溶性ポリフェノール(A)を安定化する点、特に高温環境下での粘度の低下を有効に防止する点から、本発明の歯磨組成物中に、好ましくは1〜20質量%であり、より好ましくは2〜15質量%であり、さらに好ましくは2.5〜10質量%である。
【0019】
なお、本発明の歯磨組成物中におけるポリエチレングリコールの含有量は、水溶性ポリフェノール(A)との間で複合体が形成されるのを有効に防止する点から、本発明の歯磨組成物中に、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以下であり、さらに好ましくは0.01質量%以下であり、実質的に配合されていないことが最も好ましい。なお、「実質的に配合されていない」とは、意図的にポリエチレングリコールを配合していないことをいい、製造上不可避的に混入してしまう場合もこれに含まれる。ただし、ポリエチレングリコールを全く含まないことがより好ましい。
【0020】
本発明の歯磨組成物は、粘結剤(C)を0.3〜2質量%含有する。粘結剤(C)をかかる量で含有することにより、後述する水(D)を所定の含有量としながら、プロピレングリコール(B)やグリセリン(E)の含有量を調整した粘度の制御を可能とする。
【0021】
粘結剤(C)としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、コンドロイチン硫酸ナトリウム等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、プロピレングリコール(B)やグリセリン(E)の含有量の調整による粘度の制御をより有効なものとする点から、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースから選ばれるセルロース系粘結剤が好ましく、使用感等の点からセルロース系粘結剤と、カラギーナン及びキサンタンガムから選ばれる粘結剤とを併用することがより好ましい。
【0022】
粘結剤(C)の含有量は、プロピレングリコール(B)やグリセリン(E)の含有量を調整した粘度の制御を有効とする点から、本発明の歯磨組成物中に0.3〜2質量%であり、好ましくは0.5〜1.5質量%であり、より好ましくは0.6〜1.2質量%である。
【0023】
本発明の歯磨組成物は、水(D)を10〜30質量%含有する。水(D)は、含有される粉体による構造粘性と使用感とのバランスから、12〜28質量%含有することが好ましく、さらに12〜25質量%含有することが好ましい。通常、このように少ない水分量であって粘結剤(C)を上記範囲の量で含有する歯磨組成物は、低温での粘度が上昇したり、或いは高温での粘度が必要以上に低下したりするおそれがある。そのため、従来においては、湿潤剤としてポリエチレングリコールを配合することによって、粘度の安定性を図っていた。しかしながら、水溶性ポリフェノールとポリエチレングリコールとを共存させると、これらが複合体を形成するため、水溶性ポリフェノールを安定に保持しながら充分な薬効成分としての作用を発揮させるには、これを未然に防止する必要がある。そこで、本発明では、湿潤剤としてプロピレングリコール(B)を採用して、後述するようにグリセリン(E)との合計含有量を調整することにより、水(D)の含有量が10〜30質量%でありながら幅広い温度域において、保形性と吐出性を確保できる粘度を保持することができる。
【0024】
本発明の歯磨組成物は、グリセリン(E)の含有量が20質量%以下であり、18質量%以下であるのが好ましく、歯磨組成物の着色をより抑制する観点から12質量%以下であることがより好ましく、或いはグリセリン(E)を含有しなくてもよい。本発明の歯磨組成物は、プロピレングリコール(B)を含有し、かつ、グリセリン(E)を上記範囲内の含有量のように少量で含有するか、或いは全く含有しないことにより、低温環境下で粘度が上昇するのを抑制して吐出性を確保することができるだけでなく、高温環境下における粘度の低下を抑制して、保形性を確保することができる。また、水溶性ポリフェノール(A)との共存下において、多量のグリセリン(E)が含有されることに起因する着色の発現を抑制することもできる。さらに、製造時における混合撹拌工程での粘度上昇を回避することも可能である。
【0025】
本発明の歯磨組成物の粘度は、吐出性と保形性と使用感の観点から、25℃における粘度は、好ましくは1000〜4000dPa・sであり、より好ましくは1500〜3500dPa・sであり、さらに好ましくは2000〜3000dPa・sである。また、0℃における粘度は、3000〜25000dPa・sであることが好ましく、4000〜25000dPa・sであることがより好ましい。40℃における粘度は800〜3000dPa・sであることが好ましく、1000〜2500dPa・sであることがより好ましい。
【0026】
本発明の歯磨組成物は、25℃における粘度に対する0℃での粘度の変化率(0℃粘度/25℃粘度)は2〜9であることが好ましく、さらに2〜8であることが好ましい。25℃における粘度に対する40℃での粘度の変化率(40℃粘度/25℃粘度)は、0.4〜0.8であることが好ましく、さらに0.5〜0.8であることが好ましい。
【0027】
なお、本発明の歯磨組成物の25℃における粘度は、粘度測定用の容器に歯磨組成物を詰め、25℃の恒温器で24時間保存した後、ヘリパス型粘度計を用いて、ロータT−C、回転数2.5rpm、1分間の条件で測定することができる。本発明の歯磨組成物の40℃における粘度は、40℃恒温器で1週間保存する以外は、25℃における粘度と同様にして測定することができる。本発明の歯磨組成物の0℃における粘度は、0℃の恒温器で1週間保存し、ロータT−Eを用いる以外は、25℃における粘度と同様にして測定することができる。
【0028】
本発明の歯磨組成物中、プロピレングリコール(B)とグリセリン(E)との合計含有量は、5〜25質量%であり、好ましくは5〜20質量%であり、より好ましくは5〜17質量%である。上述のように、成分(E)を上記範囲内の含有量のように少量で含有するか、或いは全く含有しないこととしつつ、成分(B)と成分(E)との合計含有量を上記範囲内とすることにより、これらが相まって、低温域から高温域に亘り吐出性と保形性を確保した粘度を保持することができる。
【0029】
なお、グリセリン(E)を含有する場合、かかるグリセリン(E)とプロピレングリコール(B)との質量比(E:B)は、低温から高温に亘り粘度を安定に保持する点から、好ましくは0:1〜7:1であり、より好ましくは0:1〜6:1であり、さらに好ましくは0:1〜4:1である。なお、グリセリン(E)を含有する場合、上記質量比(E:B)は、より好ましくは0.1:1〜6:1であり、さらに好ましくは0.1:1〜5:1であり、さらに好ましくは0.1:1〜3:1である。
【0030】
本発明の歯磨組成物は、組成物に構造粘性を付与する点から、さらに(F)20℃において水に対する溶解度が40質量%以下、好ましくは10〜40質量%の糖アルコールを含有してもよい。上記溶解度とは、20℃における飽和水溶液100質量%中の糖アルコールの溶解量(質量%)を意味する。本発明に用いることのできる、20℃における水に対する溶解度が40質量%以下の糖アルコール(F)としては、エリスリトール、マンニトール、α−D−グルコピラノシル−1,6−ソルビトール、α−D−グルコピラノシル−1,6−マンニトール、α−D−グルコピラノシル−1,6−ソルビトールとα−D−グルコピラノシル−1,6−マンニトールの混合物である還元パラチノース等が挙げられる。
【0031】
本発明で用いるエリスリトールは、L−エリスリトール、D−エリスリトール、meso−エリスリトールの3種の異性体のいずれの構造であってもよいし、混合物であってもよい。結晶状のエリスリトールは、市販品としては、日研化学(株)、三菱化学フーズ(株)、セレスター社製等のものが入手可能である。エリスリトールの20℃における水に対する溶解度は33質量%である。
【0032】
マンニトールは、ヘキシトールの一種でありマンノースの糖アルコールである。工業的には、トウモロコシデンプン糖の電解還元、蔗糖の高圧還元により生産されている。本発明で用いるマンニトールは、D−マンニトール、L−マンニトール、D,L−マンニトールから選ばれる少なくとも1種であればよく、特に限定されるものではないが、天然界に存在するD−マンニトールが入手容易であり、好ましい。マンニトールの20℃における水への溶解度は、18質量%である。
【0033】
還元パラチノースは、二糖類の糖アルコールであり、α−D−グルコピラノシル−1,6ーマンニトール及びその異性体であるα−D−グルコピラノシル−1,6ーソルビトールの等モル混合物である。還元パラチノースは、シュクロースを原料とし、シュクロースを糖転移酵素によりパラチノースとした後に、水素添加反応させることによって得られる。また、還元パラチノースは、市販品としては、三井製糖社、及びSudzucker AG社(和名:南独製糖)の商品名「パラチニット」が入手可能であり、イソマルトという別名称もある。還元パラチノースの20℃における水への溶解度は、28質量%である。
【0034】
これらの糖アルコール(F)は1種又は2種以上を混合して用いることができる。また、糖アルコール(F)は粉体、粒状のいずれを配合してもよい。これらの糖アルコール(F)を含有する場合、より好適な構造粘性を付与する点から、本発明の歯磨組成物中に、20〜50質量%含有するのが好ましく、25〜45質量%含有するのがより好ましく、さらに25〜40質量%含有するのが好ましい。
【0035】
なお、糖アルコール(F)を含有する場合、より好適な構造粘性を付与する点から、水(D)と糖アルコール(F)との質量比(D:F)は、好ましくは1:1〜1:4であり、より好ましくは1:1.1〜1:3であり、さらに好ましくは1:1.2〜1:2.5である。糖アルコール(F)を水(D)との間で上記質量比となるように含有することで、歯磨組成物中に存在する糖アルコールの粒状物又は粉体により、構造粘性を付与しつつ、軽い使用感を得ることが可能になる。したがって、本発明の歯磨組成物において、軽い使用感と広範囲の温度領域における吐出性と保形性の両立を図ることができる。
【0036】
本発明の歯磨組成物は、良好な味を付与する点から、成分(B)及び成分(E)以外の湿潤剤として、さらにソルビトールを含有するのが好ましい。ソルビトールの含有量は、本発明の歯磨組成物中、好ましくは5〜50質量%であり、より好ましくは10〜35質量%であり、さらに好ましくは10〜30質量%である。
【0037】
本発明の歯磨組成物には、前記成分の他、本発明の効果を阻害しない範囲で、発泡剤、発泡助剤、研磨剤、甘味剤、保存料、殺菌剤、水溶性ポリフェノール(A)以外の薬効成分、顔料、色素、香料等を適宜含有させることができる。また、本発明の歯磨組成物は、例えば、ゲル状、ペースト状といった剤形に調製され、練り歯磨組成物、ゲル状歯磨組成物等にすることができる。なかでも、25℃における粘度が、好ましくは1000〜4000dPa・sであり、より好ましくは1500〜3500dPa・sであり、さらに好ましくは2000〜3000dPa・sの練り歯磨組成物であるのが望ましい。かかる練り歯磨組成物であれば、低温域から高温域に亘り吐出性と保形性を確保した粘度を保持し、使用感にも優れる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明する。なお、表中に特に示さない限り、各成分の含有量は質量%を示す。
【0039】
[実施例1〜4、比較例1〜3]
表1に示す処方にしたがって、各歯磨組成物を調製した。得られた歯磨組成物を用い、下記方法にしたがって、各評価を行った。結果を表1に示す。
【0040】
《味》
5名のパネラーにより、歯磨組成物1gを用いた歯磨きを2分間行った際の味について、下記基準にしたがって評価した。表1に、5名の評価の合計を示す。評価の数値が高いほど渋味がなく良好な味であることを示す。
3:渋味がなく、良好な味であった
2:若干の渋味が感じられた
1:渋味が感じられた
【0041】
《色(b値):着色の有無の評価》
歯磨組成物の色を次のように測定して、着色の有無の評価を行った。まず、透明で内容量が3cm×3cm×1cmのケース(AS ONE社、PS CASE No.1)に、歯磨組成物をいっぱいになるように詰めた。次いで、そのケースと共に、CASMATCH(大日本印刷製)が同視野に入るようにし、白色紙の上で撮影を行った。撮影条件はリングライト一様照明の下、一定のシャッター速度、しぼり、焦点距離で行った。撮影した画像をADOBE PHOTOSHOPにてCASMATCHを基準に用いて色補正後、ImageJ(NIH)にて被測定部位のL*,a*,b*を定量化した。水溶性ポリフェノールの着色はb*により評価した。
【0042】
歯磨組成物の製造直後と、歯磨組成物を容器に充填して40℃の恒温器で1ヶ月間保存した後の両方について、歯磨組成物の色を測定した。40℃、1ヶ月保存品のb*値と製造直後(初期)のb*値の差異(保存品のb*−製造直後のb*)をΔb*値とし、Δb*値によって着色の有無を評価した。なお、Δb*値が15以上であると、歯磨組成物を目視で明らかに着色していると判断できた。Δb*値が15未満では着色が軽微であるが、Δb*値が12以下であると、容易には着色が判断できないか、着色が認められないと判断される状態であった。
【0043】
《粘度(25℃)》
各歯磨組成物を粘度測定用の容器に詰め、25℃の恒温器で24時間保存した後、ヘリパス型粘度計を用いて、ロータT-C、回転数2.5rpm、1分間の条件で測定した。結果を表1に示す。
【0044】
《粘度(0℃)》
歯磨組成物を0℃の恒温器で1週間保存し、ロータT-Eを用いた以外、25℃における粘度と同様にして測定し、25℃における粘度に対する0℃での粘度の変化率(粘度(0℃)/粘度(25℃))を求めた。結果を表1に示す。
【0045】
《粘度(40℃)》
歯磨組成物を40℃の恒温器で1週間保存した以外、25℃における粘度と同様にして測定し、25℃における粘度に対する40℃での粘度の変化率(粘度(40℃)/粘度(25℃))を求めた。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1の結果より、実施例1〜4の歯磨組成物は、成分(B)と成分(E)との合計含有量が5質量%に満たない比較例1、成分(E)の含有量が20質量%を超える比較例2、及び成分(B)のみで25質量%を超える比較例3に比べ、良好な味を保持しつつ、粘度の変動を低温域から高温域に亘るまで効果的に抑制し、着色をも有効に防止するものであることがわかる。
【0048】
[押し出し試験]
表2に示す処方にしたがって、実施例2と比較例4の歯磨組成物を調製した。
次いで、実施例2及び比較例4の歯磨組成物をラミネートチューブ(チューブ本体:LDPE/Al/PET/LDPE、肉厚300μm、Al層12μm、口径:6mm)に収容して、0℃及び5℃にて各々1週間保存し、下記圧縮試験機を用いてチューブの口から歯磨組成物が約1.5cm出た時点での最高押し出し圧力(kgf)を測定した。結果を図1に示す。
なお、LDPEは低密度ポリエチレン、Alはアルミニウム層、PETはポリエチレンテレフタレートの略称である。
【0049】
《圧縮試験機(M1000E(MECMESHIN製))》
圧子:半径1cmの円形圧子
圧点:チューブ口部先端から7.5cm
圧縮スピード:4(約0.12cm/秒)
【0050】
【表2】
【0051】
図1に示すように、実施例2の歯磨組成物は、成分(B)を含有しない比較例4に比べ、0℃及び5℃のいずれの低温域であっても押し出し性に優れることがわかる。
図1