(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6203481
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】水素発生装置の反応剤の前処理方法
(51)【国際特許分類】
C01B 3/10 20060101AFI20170914BHJP
【FI】
C01B3/10
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-174876(P2012-174876)
(22)【出願日】2012年8月7日
(65)【公開番号】特開2014-34477(P2014-34477A)
(43)【公開日】2014年2月24日
【審査請求日】2015年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】512129217
【氏名又は名称】株式会社TI
(74)【代理人】
【識別番号】100120189
【弁理士】
【氏名又は名称】奥 和幸
(72)【発明者】
【氏名】石川 泰男
【審査官】
村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/084790(WO,A1)
【文献】
特開2009−142778(JP,A)
【文献】
特開昭58−074502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00−3/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低次の鉄酸化膜を反応剤としてステンレスの反応容器内に収納して加熱しつつ水蒸気と鉄酸化膜とを接触させるようにして水から水素を採集する水素発生装置の反応剤の前処理方法において、水酸化ナトリウム(NaOH)を無酸素雰囲気内でそれらの融点以上に加熱して溶融し、この溶融液を無酸素雰囲気内の受け容器に所定量注入し、この受け容器をステンレス板で被われた無酸素雰囲気の加熱容器内で加熱して前記加熱容器内に多数配設した低次鉄酸化膜形成板に低次のNaFeO2又はNa2Fe5O2からなる鉄酸化膜を形成するようにし、鉄酸化膜を形成した低次鉄酸化膜形成板を反応容器内に収納するようにした水素発生装置の反応剤の前処理方法。
【請求項2】
前記受け容器は、18Cr−8Ni−74Fe成分のSUS304である請求項1記載の水素発生装置の反応剤の前処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水から水素を採集する水素発生装置に使用される反応剤の前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反応剤としてのアルカリ金属溶融塩をステンレス製の反応セル内に収納し、これを500℃以上に加熱してその溶融塩から微細粒子を発散させ、この微細粒子と水蒸気とを反応せしめ、水を分解して水素を発生せしめる水素発生装置について、本件発明者は2〜3の出願を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2010/84790
【特許文献2】特開2010−155086
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1、2における反応剤としての水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムは親水性が強く、空気中の水分を著しく吸水するばかりでなく、空気に触れると劣化し、その後の水蒸気との反応においても大きな影響を与えるので、空気の影響を受けないような前処理が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明の第1発明は反応剤としての水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)等のアルカリ金属水酸化物をステンレスの反応容器内に反応剤受けを介して収納し、前記反応剤を加熱するとともに水蒸気を反応剤に接触させて水素を発生させるようにした水素発生装置の反応剤の前処理方法において、前記反応剤を無酸素雰囲気内でそれら融点以上に加熱して溶融し、この溶融液を前記無酸素雰囲気内に設置した反応剤受けに所定量注入し、この反応剤受けを無酸素雰囲気内で反応セル内に設置して反応セルを電子ビーム溶接で密封するようにした。
【0006】
また、前記無酸素雰囲気は真空容器により形成され、この真空容器内に加熱釜が設置され、この加熱釜によって加熱溶融された反応剤は、真空容器内に設置された反応剤受けに供給されることが好ましい。
【0007】
更にまた、前記無酸素雰囲気は、アルゴン、窒素等の不活性ガスで形成されることが好ましい。
【0008】
また、本発明の第2発明は、高次の鉄酸化膜を反応剤として反応容器内に収納して加熱しつつ水蒸気と鉄酸化膜とを接触させるようにして水から水素を採集する水素発生装置の反応剤の前処理方法において、水酸化ナトリウム(NaOH)又は水酸化カリウム(KOH)等のアルカリ金属水酸化物を無酸素雰囲気内でそれらの融点以上に加熱して溶融し、この溶融液を無酸素雰囲気内の受け容器に所定量注入し、この受け容器をステンレス板で被われた無酸素雰囲気の加熱容器内で加熱して前記加熱容器内に多数配設した高次鉄酸化膜形成板に低次の鉄酸化膜を形成するようにし、鉄酸化膜を形成した低次鉄酸化膜形成板を反応セル内に収納するようにした。
【0009】
また、前記受け容器は、18Cr−8Ni−74Fe成分のSUS304であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
NaOH又はKOHを真空又は不活性ガス雰囲気内で加熱して溶融塩とすれは、それら反応剤に含まれていた水和物としての水、保存中に吸湿した水分及び空気中の酸素を放出でき、この不純物を放出した溶融塩を無酸素雰囲気で反応剤受けに注入し、この反応剤受けを反応セル内に無酸素雰囲気で収納して電子ビーム溶接を行えば、そのまま反応セルを密封できて反応剤を一切空気中の酸素に触れることなく反応セル内に収納でき、反応期間を著しく増大できる。
【0011】
また、KOH又はKaOHとステンレス材とで形成する低次鉄酸化物を反応セル内に収納して水を分解して水素を採集する場合には、前記低次鉄酸化膜を無酸素状態で形成でき、これを反応セル内に収納した場合には、長期間水を分解する機能を有する反応セルとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】真空容器内での反応剤処理の概略構成図である。
【
図3】反応剤受けを不活性ガス雰囲気で保存するアルゴン箱の構成図である。
【
図4】電子ビーム溶接装置を備えた真空容器内の概略構成図である。
【
図6】低次鉄酸化膜を付着板上に付着した高次鉄酸化膜形成板の斜視図である。
【
図7】低次鉄酸化膜を収納した反応セル内の状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する、
図1において、本発明に係る水素発生装置Mは、ステンレス製(SUS04:Cr18%−Ni8%-Fe74%)からなる円筒状の反応セル1を有し、この反応セル1は、その一端に水又は水蒸気を供給する水供給口2を備え、その他端に水素排出口3を備えているとともにその内部に樋形で、且つ、ステンレス材(SUS304)からなる反応剤受け4を備え、この反応剤受け4内に反応剤5が収納されている。この反応剤5としては水酸化ナトリウム(NaOH)及び水酸化カリウム(KOH)等のアルカリ金属水酸化物が使用され、前記反応剤は加熱装置6によってそれら反応剤の融点以上(NaOH:318℃、KOH:360℃)に加熱され、好ましくは、500〜600℃に加熱される。前記反応剤は、その融点以上に加熱されると溶融して溶融塩を作り、この溶融塩の表面からは、微細粒子P
1が飛散し、この微細粒子と水蒸気とが反応して水が分解され水素が発生する。
【0014】
このようなステンレス成分雰囲気内(Fe、Cr、Ni)において、微細粒子(NaOH、KOH)Pと水蒸気は反応して低次の鉄酸化物(例えば、NaOHの場合、Na
2FeO
2、NaFeO
2)を作ることが観察されているが、この際、微細粒子P
1に空気中の酸素又は空気中で吸湿された水分等の不純物が入っていると純粋な低次の鉄酸化物が出来ずに反応性の弱い酸化物となり水の分解能力が低く、しかもその触媒機能が短命であることが考えられる。なお、NaOH、KOHは親水性が著しく高く、使用前の保存中に空気に曝されると著しく湿気を吸収し潮解する性質があり、空気中に放置すると劣化が激しい。なお、水又は水蒸気なしの反応では、低次鉄酸化膜が一般には生じるが、時として高次鉄酸化膜が発生する場合がある。
【0015】
そこで、反応剤の前処理が必要となり、先ず
図2に示すような第1真空容器10内で反応剤5が処理される。前記第1真空容器10内には、加熱釜11が配設され、この加熱釜11はステンレス材(SUS304)又はセラミックスで形成される。前記加熱釜11は、縦形の容器12を有し、その周囲には面状ヒータ13が巻回され、加熱釜11内には、撹拌羽根14が設けられている。前記反応剤5は加熱釜11内で400℃程度に撹拌羽根13で撹拌しつつ3〜4時間加熱される。これにより、反応剤5内に混入している水和物としての水、及び吸入した空気中の酸素、水蒸気が放出され、この放出気体は真空容器10の排出口10aからポンプ15によって排出される。このようにして処理された反応剤の溶融塩は、その底部に設けられた注出口16の弁17を開いてその下方に配置された反応剤受け4内に供給される。この反応剤受け4は、ステンレス製であり、真空容器10の底部に設けられたコンベア18により移動され、
図3に示すアルゴン箱30に移される。
【0016】
前記アルゴン箱30は、箱状本体31と、これを開閉自在とする蓋箱32からなり、これら本体31及び蓋箱32で形成される空間には、アルゴンタンク33から供給されるアルゴンガスが充填され、前記箱状本体31内には、固化した反応剤5を収納した反応剤受け4が収納され、これによって無酸素状態に保持された反応剤受け4は、
図4に示すような電子ビーム溶接装置40を備えた第2真空容器41内に開閉ドア42を開放して一端が開放した反応セル4内に挿入される。その後、反応セル1の端板1aを開放端にセットしてその周囲部分Cを電子ビーム溶接で密閉する。
【0017】
このようにして、反応剤受け4を反応セル1内に収納するようにすれば、反応剤の不純物を放出した状態で反応セル内に反応剤をセットでき、長時間の反応継続が可能となる。このような反応セル1を500〜600℃以上に加熱すれば、反応セル1の内壁及び反応剤受け4の内壁に低次の鉄酸化物が形成される。この低次鉄酸化物が水の分解作用をすることが判明しているので、低次鉄酸化物を付着した物を予め形成し、これを反応セル1内に収納することが考えられる。
【0018】
すなわち、
図5に示すような低次鉄酸化膜形成装置50が準備され、ここで高次鉄酸化膜形成板が作られる。
【0019】
前記装置50は、反応剤から不純物を取り除く反応剤処理部51と、ここで処理された反応剤を板に付着せしめる低次鉄酸化膜形成部52とからなる。
【0020】
前記処理部51及び形成部52は共に真空雰囲気とされ、前記処理部51内には、反応剤が加熱溶融される加熱釜53を備え、溶融された反応剤は、ステンレス製(SUS304)の受け容器54、54〜54内に受け入れられ、この受け容器54は、前記処理部51と形成部52間に設けられた真空バルブ55を開放して前記形成部52内に設けられた加熱炉55内に送られ、その底部に配置される。また、前記加熱炉55の内壁はステンレス板(SUS304)で被われ、その前面側に開閉扉56が取り付けられている。前記加熱炉55の中央部空間には、多数のステンレス製(SUS304)の付着板57、57…57が適宜上下左右に間隔を配してセットされ、加熱炉55が500〜600℃に加熱されることにより、受け容器54内の反応剤の溶融塩から炉内に微細粒子が飛散されて付着板57表面に低次鉄酸化膜(NaFeO
2、Na
2Fe
5O
2)が形成される。この高次鉄酸化膜形成板60(
図6)を
図7に示すように、反応セル1内に単に収納せしめ、水又は水蒸気を水供給口2を通して水受け2aに供給すれば、ステンレス成分元素雰囲気内(Fe、Cr、Ni)で前記形成板60の表面及びここから飛散する低次鉄酸化物の微細粒子P2と水蒸気との反応により、付着板57の表面及び反応セル1の内壁には高次鉄酸化膜(Na
3Fe
5O
9、Na
8Fe
2O
7)が発達して水蒸気が分解されて水素が発生する。なお、高次鉄酸化膜は一定厚になると、付着板57及び反応セル1の内壁から剥離して新たな膜が古い膜の内側に形成されていく。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本技術はオンサイトで水素を必要とする水素ステーション、水素発電等に適用できる。
【符号の説明】
【0022】
1…反応セル
3…反応剤受け
5…反応剤
6…加熱装置
10…第1真空容器
11…加熱釜
30…アルゴン箱
41…第2真空容器
50…低次鉄酸化膜形成装置
51…反応剤処理部
52…低次鉄酸化膜形成部
57…付着板
60…低次鉄酸化膜形成