特許第6203486号(P6203486)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6203486端子製造用合金材料の製造方法及び端子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6203486
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】端子製造用合金材料の製造方法及び端子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/08 20060101AFI20170914BHJP
   C22C 9/04 20060101ALI20170914BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20170914BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20170914BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20170914BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20170914BHJP
【FI】
   C22F1/08 B
   C22C9/04
   C22C9/06
   C22C9/00
   H01R13/03 A
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630C
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 661A
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 692A
   !C22F1/00 692B
   !C22F1/00 693A
   !C22F1/00 693B
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 694B
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-228125(P2012-228125)
(22)【出願日】2012年10月15日
(65)【公開番号】特開2014-80646(P2014-80646A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2015年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100060690
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 秀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100070002
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100110733
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥野 正司
(74)【代理人】
【識別番号】100173978
【弁理士】
【氏名又は名称】朴 志恩
(72)【発明者】
【氏名】窪寺 篤史
【審査官】 田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−056365(JP,A)
【文献】 特開2004−292875(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/113489(WO,A1)
【文献】 特開2003−277855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22F 1/08
C22C 9/00− 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅−亜鉛−錫系銅合金材、銅−ニッケル−珪素系銅合金、銅−鉄−燐系銅合金から選ばれる1つである銅合金材に対して均熱処理を行った後、50℃/時間以下の冷却速度で熱間圧延温度以上600℃以下まで冷却してα単相組織とした後、500℃以上600℃以下で熱間圧延を行うことを特徴とする端子製造用合金材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により製造した端子製造用合金材料を冷間圧延後にプレス成形加工することにより製造することを特徴とする端子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス加工により製造される端子用の合金材料、その製造方法、及び、端子に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス加工により製造される端子用の銅合金材料は、圧延前に鋳塊を800〜900℃に加熱して、鋳塊内の偏析を解消させた(以下、均熱処理と呼ぶ)後、700〜850℃の温度域で熱間圧延加工を行っている。この方法で黄銅(C2600、銅70質量%、亜鉛30質量%)のようにα固溶体で構成される銅合金からなる銅合金材料は問題なく製造でき、その後のプレス成形加工性も維持される。
【0003】
しかしながら、黄銅に対して添加元素を変更したことにより諸特性が優れた銅−亜鉛−錫系銅合金(Cu−Zn−Sn系銅合金)、銅−ニッケル−珪素系銅合金(Cu−Ni−Si系銅合金)、銅−鉄−燐系銅合金(Cu−Fe−P系銅合金)などを用いた場合では、熱間圧延加工での熱処理温度により結晶構造が変化する場合がある(特許文献1及び2)。
【0004】
このような銅合金材料においては、プレス加工前に行う冷間圧延工程で板切れ(切断)が生じ、あるいは、板切れを防止するために焼鈍処理を多数回行う必要が生じて、生産性が低下することがある。また、プレス成形時の曲げ加工性の低下が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−294957公報
【特許文献2】特開2007−270214公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、黄銅よりも機械的性質に優れる銅−亜鉛−錫系銅合金、銅−ニッケル−珪素系銅合金、銅−鉄−燐系銅合金等の銅合金からなる端子製造用合金材料において、冷間圧延工程で板切れが生じず、プレス形成時の曲げ加工性が良好な端子製造用合金材料を提供すること、また、首部でも十分な強度を有する端子を製造することができる端子製造用合金材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の端子製造用合金材料の製造方法は上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、銅−亜鉛−錫系銅合金材、銅−ニッケル−珪素系銅合金、銅−鉄−燐系銅合金から選ばれる1つである銅合金材に対して均熱処理を行った後、50℃/時間以下の冷却速度で熱間圧延温度以上600℃以下まで冷却してα単相組織とした後、500℃以上600℃以下で熱間圧延を行うことを特徴とする端子製造用合金材料の製造方法である。
【0010】
本発明の端子の製造方法は請求項に記載の通り、請求項1に記載の製造方法により製造した端子製造用合金材料を冷間圧延後にプレス成形加工することにより製造することを特徴とする端子の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の端子製造用合金材料の製造方法によれば、冷間圧延工程で板切れが生じず、プレス形成時の曲げ加工性が良好な端子製造用合金材料が得られる。
【0013】
本発明の端子製造用合金材料は、冷間圧延工程で板切れが生じず、プレス形成時の曲げ加工性が良好な端子製造用合金材料である。
【0014】
本発明の端子の製造方法によれば、プレス形成時の曲げ加工性が良好な端子製造用合金材料である。
【0015】
本発明の端子は、十分な強度を有し、かつ、プレス成形による製造が容易な優れた端子である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は本発明の原理を説明するための銅−亜鉛−錫系銅合金の状態図である。
図2図2は銅−鉄系銅合金の状態図である。
図3図3は銅−ニッケル−珪素系銅合金の状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明において、用いる銅合金材は、均熱処理温度からの冷却過程で銅のみからなる相が析出される銅合金材であることが必要である。
【0018】
このような銅合金材としては、銅−亜鉛−錫系銅合金材、銅−ニッケル−珪素系銅合金、銅−鉄−燐系銅合金などが挙げられる。
【0019】
ここで、銅−亜鉛−錫系銅合金の亜鉛含有量は10質量%以上35質量%以下、錫含有量は0.7質量%以下で、残部は銅であることが好ましい。
【0020】
ここで亜鉛含有量が10質量%未満であると材料強度の向上効果が十分に得られにくく、このために、端子としたときに十分な強度が得られにくく、特に端子の首部で強度が不足しやすい。また、35質量%超であると硬度が高いβ相を形成しやすく、このとき、端子のプレス成形性が低下しやすい。また、錫含有量が0.7質量%超であると硬度が高いβ相を形成しやすく、このときは上記同様、端子のプレス成形性が低下しやすい。
【0021】
銅−ニッケル−珪素系銅合金の場合、ニッケル含有量は1質量%以上5質量%以下、珪素含有量は0.2質量%以上1質量%以下で、残部は銅であることが好ましい。
【0022】
ここでニッケル含有量が1質量%未満であると材料強度の向上効果が十分に得られにくくなって端子としたときに十分な強度が得られにくくなり、特にその首部で強度が不足しやすい。5質量%超であるとニッケルが晶出もしくは析出し、熱間加工性が悪化しやすい。また、珪素含有量が0.2質量%未満であると材料強度の向上効果が十分に得られにくく、1質量%超であると珪素が晶出もしくは析出し、熱間加工性が悪化しやすい。
【0023】
銅−鉄−燐系銅合金の場合、鉄含有量は1質量%以上3質量%以下、燐含有量は0.01質量%以上0.2質量%以下で、残部は銅であることが好ましい。
【0024】
ここで鉄含有量が1質量%未満であると硬度向上効果が不十分となって端子としたときに十分な強度が得られにくくなり、特にその首部で強度が不足しやすい。3質量%超であると導電率の低下が著しく大きくなりやすい。また、燐含有量が0.01質量%未満であると硬度向上効果が不十分となり、同様に端子としたときに十分な強度が得られにくくなり、特にその首部で強度が不足しやすくなる。0.2質量%超であると十分な導電率が得られにくい。
【0025】
このような組成となるように各成分を配合したのちに、通常の雰囲気下で鋳造を行なって合金を得る。鋳造を行う温度としては1100℃以上1200℃以下であることが好ましい。1100℃未満であると溶湯の流動性が低く良好な鋳造が困難となり、1200℃以上であると溶湯表面に酸化物が形成され、後工程での欠陥となりやすい。
【0026】
このようにして得た銅合金に対して均熱処理を行って、鋳塊内の偏析を除去する。均熱処理の温度は、銅−亜鉛−錫系銅合金の場合は800℃以上900℃以下、銅−ニッケル−珪素系銅合金及び銅−鉄−燐系銅合金の場合には850℃以上1000℃以下である。
【0027】
均熱処理の温度がこれらそれぞれの範囲未満であると、鋳塊内の偏析の除去に必要な時間が長くなり実用的でなくなる。一方、均熱処理の温度がそれぞれこれらの温度範囲を越えると鋳塊の表面に「ふくれ」が生じ、この「ふくれ」は圧延時の表面欠陥発生の原因となりやすい。さらに、鋳塊の表面が溶融して圧延時の表面欠陥発生の原因となりやすい。
【0028】
均熱処理を行う時間としては、1時間以上8時間未満であることが好ましい。すなわち1時間未満であると鋳塊内の偏析の除去が十分でない恐れがあり、また8時間以上行っても、時間延長に見合った鋳塊内の偏析の除去効果は得られず、このとき。炉の占有時間が長くなり生産性が低下する。
【0029】
均熱処理後は熱間圧延処理温度まで冷却する。このとき、冷却速度が50℃/時間以下とすることが必要である。この速度よりも速いと、銅のみからなる層の析出が十分ではなく、本発明の効果が十分に得られない。好ましい冷却速度は30℃/時間以下である。
【0030】
ここで、一例として銅−亜鉛−錫系銅合金の状態図を図1に示す。
図1において、錫(Sn)の含有量が0.4質量%の場合を縦の破線で示す。
【0031】
錫の含有量が0.4質量%前後の場合、600℃以上の高温で銅(Cu)と(CuZn)との2層構造になっており、低温域では(Cu)の単相になっていることが理解できる。
【0032】
そして、CuZn相は硬度が高く成形性に悪影響を及ぼすので、CuZn相は存在しないことが望ましい。ここで(Cu)単相を得るために冷却速度を遅くする必要がある。冷却速度を遅く保ちつつ鋳塊温度を銅のみからなる相(銅単相)が析出する温度、この例では600℃以下まで冷却した後、その温度で熱間圧延を行うことにより、組織を銅単相とすることができ、このとき、高い成形性と、良好な曲げ特性を有する端子製造用合金材料が得られる。
【0033】
このような端子製造用合金材料を冷間圧延後にプレス成形加工する端子を得る。
【0034】
冷間圧延処理条件としては1パスあたりの冷間加工率を10%ないし50%とする。このとき、板切れが生じずに冷間圧延を行うことができる。
【0035】
プレス成形による端子製造は一般的な方法で行うことができるが、本発明によればプレス成形時の曲げ加工性が良好であるために複雑形状な端子への加工にも対応することができる。
【0036】
また、図2に銅−鉄系銅合金の状態図、図3には銅−ニッケル−珪素系銅合金の状態図を示す。
【実施例】
【0037】
<実施例1>
銅:70質量%、錫:29.6質量%、亜鉛:0.4質量%となるよう成分を調整して80mm厚さのスラブを得た。このスラブに対して、850℃で1時間保持する均熱処理を行った。その後、炉内温度を冷却速度:30℃/時間で580℃まで冷却し、その温度で1時間保ち、更にその温度で厚さが8mmとなるまで圧延加工により厚さが8mmとなるように熱間圧延を行った後、室温となるまで室内に放置し冷却した。
【0038】
その後、圧延加工により、厚さが0.4mmになるまで冷間圧延を繰り返し行った。このとき、厚さが0.6mmの段階で500℃、60分間の焼鈍処理が、板切れを防止するために必要であった。
【0039】
上記で得られた銅合金板によりコネクタ用端子(タブ寸法;0.64mm)を1000個作製し、電線を接続した後、コネクタへ、自動挿入機を用いて挿入テストを行ったところ、何ら問題が生じずに全数挿入出来た。
【0040】
<比較例1>
上記と同様に、ただし、均熱処理後の冷却を制御せずに均熱処理終了後に炉の温度を580℃に設定し(このとき冷却速度はおよそ200℃/時間)、スラブの温度が580℃となった後、その温度でさらに1時間保った後、上記同様に熱間圧延、冷間圧延を行った。この冷間圧延では、厚さが4.5mmのとき、及び、0.6mmのときの2回、上記同様の焼鈍処理が必要であった。
【0041】
実施例1同様に端子を作製し、コネクタへの挿入テストを行ったところ、端子首部での座屈が1000個中15個発生した。
【0042】
<実施例2>
銅:70質量%、亜鉛:29質量%、錫:1質量%となるよう成分を調整して80mm厚さのスラブを得た。以下、均熱温度を900℃、熱間圧延温度を500℃とした以外、実施例1と同様にして、0.4mmの合金板を得た。このとき、冷間圧延での焼鈍処理は不要であった。さらに、実施例1同様に端子を作製し、そのコネクタへの挿入テストを行ったところ、何ら問題が生じずに全数(1000個)、挿入できた。
【0043】
<比較例2>
実施例2同様にして、ただし、均熱処理後の冷却を制御せずに均熱処理終了後に炉の温度を600℃に設定し(このとき冷却速度はおよそ300℃/時間)、その温度でさらに1時間保った後、上記同様に熱間圧延、冷間圧延を行った。この冷間圧延では、厚さが4mmのとき、1.5mmのとき、及び、0.5mmのときの計3回、500℃、
600分間の焼鈍処理が必要であった。
【0044】
実施例2同様に端子を作製し、コネクタへの挿入テストを行ったところ、端子首部での座屈が1000個中18個発生した。
【0045】
<実施例3>
銅:97.6質量%、ニッケル:2質量%、ケイ素:0.4質量%となるよう成分を調整して80mm厚さのスラブを得た。以下、均熱温度を900℃、熱間圧延温度を500℃とした以外、実施例1と同様にして、0.4mmの合金板を得た。このとき、冷間圧延での焼鈍処理は不要であった。さらに、実施例1同様に端子を作製し、そのコネクタへの挿入テストを行ったところ、何ら問題が生じずに全数(1000個)、挿入できた。
【0046】
<比較例3>
実施例3同様にして、ただし、均熱処理後の冷却を制御せずに均熱処理終了後に炉の温度を600℃に設定し(このとき冷却速度はおよそ300℃/時間)、その温度でさらに1時間保った後、上記同様に熱間圧延、冷間圧延を行った。この冷間圧延では、厚さが6mmのとき、2mmのとき、及び、0.5mmのときの計3回、500℃、30分間の焼鈍処理が必要であった。
【0047】
実施例3同様に端子を作製し、コネクタへの挿入テストを行ったところ、端子首部での座屈が1000個中10個発生した。
図1
図2
図3