(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6203490
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】電気自動車用空調装置およびその運転方法
(51)【国際特許分類】
B60H 1/22 20060101AFI20170914BHJP
B60H 1/08 20060101ALI20170914BHJP
B60H 1/32 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
B60H1/22 651A
B60H1/22 671
B60H1/08 611A
B60H1/32 623S
B60H1/32 626E
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-265593(P2012-265593)
(22)【出願日】2012年12月4日
(65)【公開番号】特開2014-108770(P2014-108770A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年10月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】森下 昌俊
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 克弘
(72)【発明者】
【氏名】上藤 陽一
【審査官】
河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2011/0139397(US,A1)
【文献】
米国特許第05289698(US,A)
【文献】
特開2012−201360(JP,A)
【文献】
特開平08−138762(JP,A)
【文献】
特開平11−115466(JP,A)
【文献】
特開2006−321389(JP,A)
【文献】
特開2010−127282(JP,A)
【文献】
特開平07−329544(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/114439(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0291987(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/22
B60H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用モータに冷却水を供給する冷却水ポンプと、
前記走行用モータを冷却し終えた前記冷却水を外気と熱交換させる空冷熱交換器と、
前記空冷熱交換器を強制的に冷却する車室外ファンと、を有してなるモータ冷却回路を備えるとともに、
冷媒を圧縮する電動圧縮機と、
前記電動圧縮機の吐出側、且つ車室外に設けられた水冷媒熱交換器と、
車室内のHVACユニット内に設けられた車室内蒸発器と、を有してなる冷房回路を備え、
前記水冷媒熱交換器は、前記冷房回路において前記電動圧縮機から吐出された前記冷媒と、前記モータ冷却回路を流れる前記冷却水とを熱交換させるように構成されていることを特徴とする電気自動車用空調装置の運転方法であり、
前記モータ冷却回路が前記走行用モータのバッテリを冷却するように構成されている場合において、
前記バッテリの性能が低下するような低外気温時には、前記車室外ファンを停止させるとともに、前記冷却水の温度が前記バッテリにとって好適な温度に昇温するまで、前記電動圧縮機を作動させて前記水冷媒熱交換器において前記冷媒の凝縮熱を前記冷却水に熱移送することを特徴とする電気自動車用空調装置の運転方法。
【請求項2】
前記水冷媒熱交換器は、前記モータ冷却回路における前記空冷熱交換器の直ぐ上流側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の電気自動車用空調装置の運転方法。
【請求項3】
前記電気自動車用空調装置は、
前記HVACユニット内に設けられたヒータコアと、
前記ヒータコアに熱媒水を供給する熱媒水ポンプと、
前記熱媒水を加熱する熱媒水ヒータと、を有してなる、前記モータ冷却回路とは別系統の暖房回路をさらに備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の電気自動車用空調装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車用空調装置およびその運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されている車両用空調装置は、エンジン駆動車両において、ヒートポンプ式の暖房回路のコンプレッサから吐出された圧縮冷媒の圧縮熱を、水冷媒熱交換器を介してエンジン冷却水側に供給し、これによって低外気温時におけるエンジンの暖機時間の短縮および暖機に費やされる燃料の削減を図ったものである。
【0003】
この車両用空調装置において、エンジン冷却水の温度が所定値よりも高い場合には、コンプレッサから吐出された冷媒を水冷媒熱交換器に流してしまうと、エンジン冷機時とは逆に、エンジン冷却水の熱によって冷媒が過熱されてしまう。このため、エンジン冷機時以外は、コンプレッサから吐出された冷媒が水冷媒熱交換器を回避して空冷式のガスクーラ(凝縮器)に流れるようにバルブ手段が切り替えられ、ガスクーラにおいて冷媒を外気と熱交換させるようになっている。ガスクーラは、エンジン冷却水を冷却するラジエータに重なるように車両のフロントエンドに配置され、車室外ファンによって強制空冷されるようになっている。
【0004】
また、特許文献2に開示されている車両用ヒートポンプシステムは、電動モータ駆動車両において、走行用モータやインバータ等の発熱部品を水冷する水冷回路に水冷媒熱交換器を設け、この水冷媒熱交換器に、電動圧縮機に吸入される前の低圧な冷媒を流すことにより、発熱部品の廃熱を冷媒側に供給し、これによってヒートポンプモード時における暖房性能を向上させている。
【0005】
この車両用ヒートポンプシステムにおいて、冷房運転時には、電動圧縮機から吐出された高温、圧縮な冷媒が、水冷媒熱交換器を通らずに空冷式の室外熱交換器(凝縮器)に流されて外気と熱交換される。室外熱交換器は、特許文献1の構成と同じく、水冷回路の冷却水を冷却するラジエータに重なるように車両のフロントエンドに配置され、車室外ファンによって強制空冷されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−217087号公報
【特許文献2】特開2012−188108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エンジンを備えず、電動モータの動力で走行する電気自動車(EV:Electric Vehicle)では、エンジン騒音が全く無く快適である反面、エンジン駆動車両よりも空調装置の運転に伴う車室外ファンからの騒音が車室内に伝播し易く、これが耳障りになる。特に停車時や低速走行時にはファン騒音の車室内への侵入が顕著になり、乗員にとって不快なものとなるため、車室外ファンの低騒音化が望まれている。
【0008】
また、電気自動車では、限られたバッテリ容量の中で航続距離を極力延長させる必要がある(エンジン駆動車両における燃費に相当する電費を向上させる必要がある)。空調装置が冷房運転で消費する電力は非常に大きく、高COP冷房システムが要求されている。このため、車室外ファンの省電力化も必要である。さらに、航続距離の観点では車両の軽量化も重要視されており、圧縮冷媒を放熱させる凝縮器等は高重量であるため、軽量でコンパクトな製品が要求されている。
【0009】
このような風潮にも拘わらず、引用文献1,2に開示されている車両用空調装置においては、いずれも古典的なエンジン駆動車両用の冷却系レイアウトが踏襲されている。即ち、冷房運転時に圧縮冷媒を放熱させるガスクーラ(凝縮器)が、エンジンや走行用モータの冷却水を冷却するラジエータの前方に重ねられて車室外ファンと共にアッセンブリー化され、このアッセンブリーが電気自動車の車体前部に設置されて、車室外ファンにより2つの熱交換器が強制空冷されるようになっている。このため、車室外ファンのモータ入力が増大し、前述のファン騒音が車室内に伝播し易くなっていた。
【0010】
また、2種類の熱交換器が組み合わされた大型の冷却アッセンブリーが車体の前部に設置されていたため、電気自動車に要求される軽量化・コンパクト化が妨げられる原因となっていた。
【0011】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、車室外ファンの騒音を低減させるとともに、空調装置の軽量化・コンパクト化を図り、ひいては電気自動車の電費を向上させることのできる電気自動車用空調装置およびその運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
即ち、本発明に係る電気自動車用空調装置は、走行用モータに冷却水を供給する冷却水ポンプと、前記走行用モータを冷却し終えた前記冷却水を外気と熱交換させる空冷熱交換器と、前記空冷熱交換器を強制的に冷却する車室外ファンと、を有してなるモータ冷却回路を備えるとともに、冷媒を圧縮する電動圧縮機と、前記電動圧縮機の吐出側、且つ車室外に設けられた水冷媒熱交換器と、車室内のHVACユニット内に設けられた車室内蒸発器と、を有してなる冷房回路を備え、前記水冷媒熱交換器は、前記冷房回路において前記電動圧縮機から吐出された前記冷媒と、前記モータ冷却回路を流れる前記冷却水とを熱交換させるように構成されていることを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、冷房運転時に冷房回路の電動圧縮機から吐出された圧縮冷媒の凝縮熱が、水冷媒熱交換器においてモータ冷却回路を流れる冷却水と熱交換される。通常、圧縮冷媒の温度はモータ冷却回路の冷却水温よりも高いため、圧縮冷媒が冷却水によって効率良く冷却され、圧縮冷媒の熱はモータ冷却回路の空冷熱交換器によって外部に放熱される。
【0014】
このため、従来ではモータ冷却回路の空冷熱交換器の前面に重なるように設けられていた空冷式の凝縮器(ガスクーラ、コンデンサ)が不要となり、モータ冷却回路の空冷熱交換器を強制空冷する車室外ファンの空気抵抗が減少する。したがって、室外ファンモータを小型化する、あるいは室外ファンモータへの入力を低減させることができる。このため、車室外ファンの騒音を低減させることができる。
【0015】
しかも、水冷媒熱交換器は熱伝達率のよい水冷式の凝縮器であり、空冷式の凝縮器は使用されないため、高効率な冷房運転を行い、その分電費を向上させて航続距離の低下を抑制することができる。さらに、空冷式凝縮器を削除できるため、車両のフロントエンド部に配置される空冷熱交換器と車室外ファンのアッセンブリーを軽量化・コンパクト化することができる。
【0016】
また、本発明に係る電気自動車用空調装置は、上記構成において、前記水冷媒熱交換器が、前記モータ冷却回路における前記空冷熱交換器の直ぐ上流側に配置されていることを特徴とする。
【0017】
上記構成によれば、冷房回路において電動圧縮機から吐出された圧縮冷媒が水冷媒熱交換器に流れ、ここで、走行用モータやインバータ等の熱源を冷却し終えたモータ冷却回路の冷却水と熱交換される。モータ冷却回路の冷却水は、走行用モータ等を冷却し終えてから圧縮冷媒と熱交換されるため、圧縮冷媒の熱によって走行用モータ等の冷却効率が低下することがない。このため、走行用モータやインバータ等の熱源を適正に冷却して電気自動車の電費の向上に貢献することができる。
【0018】
また、本発明に係る電気自動車用空調装置は、上記構成において、前記HVACユニット内に設けられたヒータコアと、前記ヒータコアに熱媒水を供給する熱媒水ポンプと、前記熱媒水を加熱する熱媒水ヒータと、を有してなる、前記モータ冷却回路とは別系統の暖房回路をさらに備えたことを特徴とする。
【0019】
上記構成によれば、暖房回路がモータ冷却回路に対して独立的に設けられ、この暖房回路を流れる熱媒水温が熱媒水ヒータによって独自にコントロールされるため、モータ冷却回路の冷却水温に関係なく、安定した暖房性能を確保することができる。
【0020】
また、本発明に係る電気自動車用空調装置の運転方法は、前記いずれかに記載の電気自動車用空調装置の運転方法であり、前記モータ冷却回路が前記走行用モータのバッテリを冷却するように構成されている場合において、前記バッテリの性能が低下するような低外気温時には、前記車室外ファンを停止させるとともに、前記冷却水の温度が前記バッテリにとって好適な温度に昇温するまで、前記電動圧縮機を作動させて前記水冷媒熱交換器において前記冷媒の凝縮熱を前記冷却水に熱移送することを特徴とする。
【0021】
上記運転方法によれば、バッテリの性能が低下するような低外気温時においても、バッテリの温度を適温まで上昇させることができ、その後は走行用モータやインバータ等が発する熱によってバッテリの温度を適温に維持することができる。このため、バッテリの性能低下を抑制し、ひいては電気自動車の電費の向上に貢献することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明に係る電気自動車用空調装置およびその運転方法によれば、車室外ファンの騒音を低減させるとともに、空調装置の軽量化・コンパクト化を図り、電気自動車の電費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る空調装置の基本構成を示す回路図である。
【
図2】冷房運転時における空調装置の回路図である。
【
図3】暖房運転時における空調装置の回路図である。
【
図4】除湿暖房運転時における空調装置の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、
図1〜
図4に基づいて本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る空調装置の基本構成を示す回路図である。この空調装置1は、電気自動車を対象に備えられるものであり、HVACユニット2と、モータ冷却回路3と、冷房回路4と、暖房回路5とを備えて構成されている。
【0025】
HVACユニット2は、内外気切替ダンパ7を介して車室内の内気または車室外の外気のいずれかを選択的に導入し、下流側に圧送するブロア8と、ブロア8に連なる空気流路9内に上流側から下流側にかけて順次配設されている車室内蒸発器11と、ヒータコア12とを備えている。このHVACユニット2は、車室内前方のインストルメントパネル内に設置され、車室内蒸発器11およびヒータコア12により温調された空気を、車室内に向けて開口されているデフ吹出し口13、フェイス吹出し口14、フット吹出し口15のいずれかから、吹出しモード切替ダンパ16,17,18により切り換えられる吹出しモードに従って車室内に吹き出し、車室内を設定温度に空調するものである。
【0026】
一方、冷房回路4は、車室外に設置されて冷媒を圧縮する電動圧縮機20と、この電動圧縮機20の吐出側、且つ車室外に設けられた水冷媒熱交換器21と、HVACユニット2内に設けられた車室内蒸発器11と、レシーバ22と、膨張弁23とが、この順番で冷媒配管24によりループ状に接続された構成である。
【0027】
他方、モータ冷却回路3は、冷却水ポンプ26と、車体駆動用の走行用モータ27に設けられたウォータージャケットと、走行用モータ27に電力を供給するバッテリ28と、前述の水冷媒熱交換器21と、空冷熱交換器29とが、この順番で冷却水配管30によりループ状に接続された構成である。ここで、水冷媒熱交換器21は空冷熱交換器29の直ぐ上流側に配置されている。なお、バッテリ28と水冷媒熱交換器21との間に、冷却水を補充するリザーバタンク31が接続されている。また、空冷熱交換器29には、これを強制的に空冷する車室外ファン32が装着されている。
【0028】
このモータ冷却回路3において、冷却水ポンプ26から吐出された冷却水は、走行用モータ27とバッテリ28とに供給され、これらの部材27,28および図示しないモータ制御用のインバータ等の発熱機器類を冷却する。走行用モータ27を冷却し終えた冷却水は、水冷媒熱交換器21を通り抜けて空冷熱交換器29に流れ、ここで外気と熱交換される。車室外ファン32は空冷熱交換器29を強制的に空冷する。ここで冷却された冷却水は再び冷却水ポンプ26に供給され、上述の循環が繰り返される。
【0029】
水冷媒熱交換器21は、冷房回路4において電動圧縮機20から吐出された圧縮冷媒が流れる冷媒流通コア21aと、モータ冷却回路3において走行用モータ27やバッテリ28、インバータ等を冷却し終えた冷却水が流れる冷却水流通コア21bとが組み合わされた構造であり、冷房回路4において電動圧縮機20から吐出された高温な圧縮冷媒と、モータ冷却回路3を流れる冷却水とが互い混合されることなく効率的に熱交換されるように構成されている。
【0030】
また、暖房回路5は、HVACユニット2内に設けられたヒータコア12と、ヒータコア12に熱媒水を供給する熱媒水ポンプ35と、熱媒水を加熱する熱媒水ヒータ36とが、この順番で熱媒水配管37によりループ状に接続された構成である。なお、ヒータコア12と熱媒水ポンプ35との間に、熱媒水を補充するリザーバタンク38が接続されている。熱媒水ヒータ36としては、PTC(Positive Temperature Coefficient)素子を使用した電気式のPTCヒータを例示することができるが他の形式のものであってもよい。
【0031】
モータ冷却回路3の空冷熱交換器29の出口部には冷却水温度センサ(Tw)41が設置され、冷房回路4の車室内蒸発器11にはフロストセンサ(FS)42が設置され、暖房回路5の熱媒水ヒータ36の出口には熱媒水温センサ(Tw)43が設置されている。これらのセンサ41,42,43は、図示しない空調制御装置に各部の温度検出情報を出力する。
【0032】
空調制御装置は、冷却水温度センサ41からの温度情報を基にしてモータ冷却回路3を制御し、走行用モータ27やバッテリ28やインバータ等の発熱機器類の冷却を適切に行わせる。また、フロストセンサ42および暖房吹出し熱媒水温センサ43からの温度検出情報と、乗員が設定した空調温度とを対比しながら冷房回路4と暖房回路5を制御し、車室内の空調を適切に行わせる。
【0033】
次に、以上のように構成された空調装置1の運転時における冷却水、冷媒、熱媒水の流れを、
図2〜
図4を用いて説明する。この空調装置1は、冷房回路4を作動させて車室内の温度を下げる冷房運転(
図2参照)と、暖房回路5を作動させて車室内の温度を上げる暖房運転(
図3参照)と、冷房回路4および暖房回路5を共働させて車室内の空気を除湿する除湿暖房運転(
図4参照)と、バッテリ28の性能が低下するような低外気温時に、冷房回路4における圧縮冷媒の熱をバッテリ28に供給する熱移送運転と、を切り替えて運転される。なお、各図において、運転時に作動流体(冷媒、冷却水、熱媒水)が流れる配管は太線で示され、作動流体が流れていない配管は細線で示されている。
【0034】
[冷房運転]
図2に示すように、冷房運転時には、冷房回路4の電動圧縮機20で圧縮された高温、高圧な冷媒が水冷媒熱交換器21に流れ、ここでモータ冷却回路3を流れる冷却水と熱交換されることによって凝縮液化される。この液冷媒はレシーバ22に一旦貯留された後で膨張弁23により減圧されて気液二相状態となり、HVACユニット2内の車室内蒸発器11に供給される。そして、車室内蒸発器11でブロア8から送風されてくる内気または外気と熱交換されて気化した冷媒は、再び電動圧縮機20に流れて圧縮され、以下、同様のサイクルが繰り返される。
【0035】
車室内蒸発器11で気化した冷媒の気化熱と熱交換されることにより冷却された内気または外気は、吹出しモード切替ダンパ16,17,18により切り替えられる吹出しモードに応じて、デフ吹出し口13、フェイス吹出し口14、フット吹出し口15のいずれかから車室内に吹き出され、車室内の温度を下げる冷房に供される。
【0036】
この冷房運転時には暖房回路5が停止(OFF)状態とされるため、HVACユニット2内のヒータコア12には熱媒水ヒータ36に加熱された熱媒水が供給されることがなく、ヒータコア12の温度が高くなることがない。したがって、車室内蒸発器11を通過して冷却された風の全量がヒータコア12を通過しても、この冷風が温められることはない。なお、冷房温度の調整は、例えば電動圧縮機20の回転数を変化させることによって行われる。
【0037】
[暖房運転]
図3に示すように、暖房運転時には、暖房回路5の熱媒水ポンプ35から吐出された熱媒水が熱媒水ヒータ36によって加熱された後、HVACユニット2内のヒータコア12に流れ、HVAC2の内部でブロア8から送風されてくる内気または外気と熱交換されて放熱され、再び熱媒水ポンプ35に供給されるサイクルが繰り返される。
【0038】
ヒータコア12において加熱された内気または外気は、吹出しモード切替ダンパ16,17,18により切り替えられる吹出しモードに応じて、デフ吹出し口13、フェイス吹出し口14、フット吹出し口15のいずれかから車室内に吹き出され、車室内の温度を上げる暖房に供される。なお、通常の暖房運転は、窓の曇りを防止するために外気導入モードで行われる。
【0039】
この暖房運転時には、冷房回路4は停止(OFF)状態とされるため、HVACユニット2内の車室内蒸発器11には冷媒が供給されず、車室内蒸発器11の温度が低くなることもない。したがって、ヒータコア12を通過する前の空気が冷却されることはない。なお、暖房温度の調整は、熱媒水ヒータ36への通電量を変化させることによって行われる。
【0040】
[除湿暖房運転]
図4に示すように、除湿暖房運転時には、冷房回路4と暖房回路5の両方が作動する。このため、HVACユニット2内でブロア8から送風されてくる内気または外気は、まず車室内蒸発器11を通過することによって冷却および除湿され、次にヒータコア12を通過することによって適温まで再加熱され、その後、吹出しモード切替ダンパ16,17,18により切り替えられる吹出しモードに応じて、デフ吹出し口13、フェイス吹出し口14、フット吹出し口15のいずれかから車室内に吹き出される。このため、車室内の温度を下げることなく除湿が行われる。
【0041】
[熱移送運転]
さらに、バッテリ28の性能が低下するような低外気温時には、冷房回路4を作動させ、電動圧縮機20で圧縮された高温、高圧な冷媒の熱を水冷媒熱交換器21においてモータ冷却回路3を流れる冷却水と熱交換されることによって冷却水に圧縮冷媒の熱を移送して加熱する。この時には、空冷熱交換器29の車室外ファン32を停止させて冷却水の温度上昇を早める。この熱移送運転は、冷却水の温度がバッテリ28にとって好適な温度に昇温するまで行われる。
【0042】
なお、この熱移送運転時において、車室内温度が低下することを防止するために、デフ吹出し口13、フェイス吹出し口14、フット吹出し口15を全て閉鎖し、HVACユニット2に設けた図示しない外部連通口を開いて、車室内蒸発器11を通過した低温な空気を車室外に放出するようにしてもよい。
【0043】
[作用・効果]
本実施形態に係る空調装置1によれば、以下の作用効果が奏される。
まず、この空調装置1は、冷房回路4の電動圧縮機20から吐出された圧縮冷媒の凝縮熱が、水冷媒熱交換器21において、モータ冷却回路3を流れる冷却水と熱交換されるように構成されているため、モータ冷却回路3を流れる冷却水によって圧縮冷媒を効率良く冷却することができる。即ち、通常時において圧縮冷媒の温度はモータ冷却回路3の冷却水温よりも格段に高いため、圧縮冷媒の熱が水冷媒熱交換器21においてモータ冷却回路3の冷却水に移送され、移送された熱は空冷熱交換器29および車室外ファン32によって外部に放熱される。
【0044】
このため、従来では空冷熱交換器29の前面に重なるように設けられていた空冷式の凝縮器(ガスクーラ、コンデンサ)が不要になり、空冷熱交換器29を強制空冷する車室外ファン32の空気抵抗を大幅に減少させることができる。したがって、車室外ファン32のモータを小型化する、あるいはモータへの入力を低減させることができ、車室外ファン32の騒音を大幅に低減させて車室内の居住性を改善することができる。
【0045】
しかも、水冷媒熱交換器21は、熱伝達率のよい水冷式の凝縮器であり、上記のように従来の空冷式の凝縮器は使用されないため、電力消費の少ない高効率な冷房運転を行い、その分電費を向上させて電気自動車の航続距離の低下を抑制することができる。さらに、空冷式凝縮器を削除できるため、電気自動車のフロントエンド部に配置されるのは空冷熱交換器29のみとなり、これによってフロントエンド部の大幅な軽量化およびコンパクト化を実現することができる。
【0046】
また、この空調装置1は、水冷媒熱交換器21が空冷熱交換器29の直ぐ上流側に配置されているため、冷房回路4において電動圧縮機20から吐出された圧縮冷媒が水冷媒熱交換器21に流れ、ここで、走行用モータ27やインバータ等の熱源を冷却し終えたモータ冷却回路3の冷却水と熱交換される。このように、モータ冷却回路3の冷却水は、走行用モータ27等を冷却し終えてから圧縮冷媒と熱交換されるため、圧縮冷媒の熱によって走行用モータ27等の冷却効率が低下することがない。このため、走行用モータ27やインバータ等の熱源を適正に冷却して電気自動車の電費向上に貢献することができる。
【0047】
さらに、この空調装置1は、モータ冷却回路3に対して独立的に設けられた別系統の暖房回路5を備えているため、この暖房回路5を流れる熱媒水温が熱媒水ヒータ36によって独自にコントロールされる。このため、モータ冷却回路3の冷却水温に関係なく、安定した暖房性能を確保することができる。
【0048】
また、この空調装置1は、バッテリ28の性能が低下するような低外気温時に、車室外ファン32を停止させるとともに、モータ冷却回路3の冷却水温がバッテリ28にとって好適な温度に昇温するまで、電動圧縮機20を作動させて水冷媒熱交換器21において冷媒の凝縮熱を冷却水に熱移送する熱移送運転を行うことができるため、低外気温時においてもバッテリ28の温度を適温まで上昇させることができ、その後は走行用モータ27やインバータ等が発する熱によってバッテリ28の温度が適温に維持される。このため、バッテリ28の性能低下を抑制し、ひいては電気自動車の電費の向上に貢献することができる。
【0049】
以上のように、この空調装置1およびその運転方法によれば、車室外ファン32の騒音を低減させるとともに、空調装置1の軽量化・コンパクト化を図り、電気自動車の電費を向上させることができる。
【0050】
なお、本発明は上記実施形態の構成のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更や改良を加えることができ、このように変更や改良を加えた実施形態も本発明の権利範囲に含まれるものとする。
【0051】
例えば、モータ冷却回路3において、冷却水配管30から分岐して冷却水流通コア21bをバイパスするバイパス配管と、このバイパス配管に選択的に冷却水を流す切替弁とを設け、冷房運転を行っていない場合には上記バイパス配管に冷却水を流すことにより、冷却水流通コア21bによる圧力損失を回避させてモータ冷却回路3を流れる冷却水量を増大させ、冷却効果を高めることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 空調装置
2 HVACユニット
3 モータ冷却回路
4 冷房回路
5 暖房回路
11 車室内蒸発器
12 ヒータコア
20 電動圧縮機
21 水冷媒熱交換器
26 冷却水ポンプ
27 走行用モータ
28 バッテリ
29 空冷熱交換器
32 車室外ファン
35 熱媒水ポンプ
36 熱媒水ヒータ