(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
たとえば原子間力顕微鏡(AFM)などの走査型プローブ顕微鏡(SPM)は通常、チップを有するプローブを用いるとともに、原子次元まで表面を特徴付けるべく低力でチップを試料の表面に相互作用させる装置である。一般にプローブは、試料の特徴の変化を検出すべく試料表面に導入される。チップと試料との間に相対的走査運動を提供することで、表面特有のデータが、試料の特定領域にわたって獲得されることが可能であり、対応する試料マップが、生成され得る。
【0003】
典型的な原子間力顕微鏡システムは、
図1において概略的に示される。原子間力顕微鏡10は、カンチレバー15を備えたプローブ12を含むプローブ装置12を用いる。スキャナ24は、プローブ−試料相互作用が測定される間にプローブ12と試料22間で相対運動を生成する。このようにして、試料の画像または他の測定値が、得られることが可能である。スキャナ24は一般に相互に直交する3方向(XYZ)の運動を生成する1つあるいは複数のアクチュエータから構成される。スキャナ24は、試料またはプローブのいずれかを3軸方向全てに移動させる1つあるいは複数のアクチュエータ、たとえば円筒型圧電アクチュエータを含む単一統合ユニットであることが多い。別に、スキャナは、複数の別個のアクチュエータを概念的または物理的に組合わせたものであり得る。原子間力顕微鏡によっては、スキャナを複数の成分、たとえば試料を移動させるXYアクチュエータとプローブを移動させる別個のZアクチュエータの複数の成分に分離する。したがって計器は、試料の表面形状またはいくつかの他の性質を測定しながら、プローブと試料との間に相対運動を生じさせることが可能である(たとえば特許文献1,2,3参照)。
【0004】
特にスキャナ24は、積層圧電素子(本明細書において「ピエゾスタック」と称されることが多い)または測定プローブと試料表面間に相対運動を生成すべく用いられる円筒型圧電素子を含むことが多い。積層圧電素子は、積層上に配置された電極に適用される電圧に基づき1つあるいは複数の方向に移動する装置である。積層圧電素子は、積層圧電素子の運動を誘導、抑制、および増幅のうちの少なくとも一方を行う働きをする機械的屈曲と組合わせて用いられることが多い。さらに屈曲は、1つあるいは複数の軸方向にアクチュエータの剛性を増やすべく用いられる(たとえば特許文献4参照)。アクチュエータは、プローブ、試料、またはその両方に結合され得る。最も典型的には、アクチュエータ組立体は、プローブまたは試料を水平またはXY平面に駆動させるXYアクチュエータおよびプローブまたは試料を垂直またはZ方向に移動させるZアクチュエータの形態で提供される。
【0005】
一般的な構成において、プローブ17は、カンチレバー15の共振周波数かその近傍でプローブ17を振動させるべく用いられる振動アクチュエータまたは駆動装置16に結合されることが多い。別の構成は、カンチレバー15の撓み、捩れ、または他の特性を測定する。プローブ17は、統合されたチップを備えた微細加工カンチレバーであることが多い。
【0006】
一般的に電子信号は、アクチュエータ16(または別のスキャナ24)にプローブ12を振動させるようにすべく走査型プローブ顕微鏡制御装置20の制御下でAC信号源18
から適用される。プローブ−試料相互作用は通常、制御装置20によってフィードバックを介して制御される。特にアクチュエータ16は、スキャナ24に結合され得るが、プローブ12は、自己作動型カンチレバー/プローブの一部としてプローブ12のカンチレバー15と一体を成して形成され得る。
【0007】
選択プローブ12は、上記のようにプローブ12の振動の1つあるいは複数の特性の変化を検出することで、試料特性が監視されるときに、振動し、試料22に接触することが多い。この点において、撓み検出装置25は通常、光線をプローブ12の背側に向けるのに用いられ、その後、光線は、たとえば四象限光学検出器などの検出器26に向けて反射される。撓み検出器は、光学レバーシステムのことが多いが(たとえば特許文献1参照)、たとえば歪みゲージ、静電容量、などのいくつかの他の撓み検出器であり得る。装置25の検知光源は通常、レーザであり、可視または赤外レーザダイオードであることが多い。検知光線は、たとえばHe−Neまたは他のレーザ源、高輝度ダイオード(SLD)、LED、光ファイバ、あるいは小スポットに集束され得る任意の他の光源によって生成されることも可能である。光線は、検出器26を横切って転移できるので、適切な信号が、信号処理ブロック28によって処理される(たとえばプローブ12のRMS撓みを測定すべく)。相互作用信号(たとえば撓み)は、次に制御装置20に伝送され、制御装置は、信号を処理することで、プローブ12の振動変化を決定する。一般的に制御装置20は、ブロック30で誤差を決定し、次にチップと試料との間で相対的に一定相互作用(またはレバー15の撓み)を維持すべく、典型的にはプローブ12の振動に特有な設定値を維持すべく、制御信号(たとえばPIゲイン制御ブロック32を用いることで)を生成する。制御信号は一般にたとえばスキャナ24を駆動させる前に高電圧増幅器34によって増幅される。たとえば制御装置20は、チップと試料との間で概して一定力を確保するため、振動振幅を設定値、Asで維持すべく用いられることが多い。また設定値位相または周波数が、用いられ得る。制御装置20は、一般的にフィードバックとも称される。この場合、制御努力は、設定値によって定義される一定標的値(フィードバック設定値)を維持することである。
【0008】
たとえば点選択、曲線適合、および距離決定動作などのデータ操作動作を実行すべく、制御装置から集められたデータを受信するとともに走査中に得られたデータを操作する制御装置20、および別個の制御装置または連結型か独立型の制御装置のシステムのうちの少なくとも一方において、ワークステーション40も提供される。ワークステーションは、得られた情報のメモリ保存、さらなる計算へのその使用、および適切なモニタ上へのその表示のうちの少なくとも一方、およびその有線か無線による別のコンピュータか装置へのその伝送のうちの少なくとも一方を行うことが可能である。記憶装置は、たとえば限定ではないが、コンピュータRAM、ハードディスク、ネットワーク記憶装置、フラッシュメモリ、またはCD ROMを含む任意のコンピュータ可読データ記憶媒体を含み得る。
【0009】
原子間力顕微鏡は、接触モードおよび振動モードを含む、様々なモードで動作するように設計され得る。動作は、試料がその表面全体にわたって走査されると、プローブ組立体のカンチレバーの撓みに応答して試料とプローブ組立体のうちの少なくとも一方を試料の表面に対して相対的垂直に上下に移動させることで達成される。走査は、試料の表面に一般に少なくとも平行な「x−y」平面で典型的に生じ、垂直運動は、x−y平面に対して垂直な「z」方向で生じる。注目すべきは、多くの試料が、平面からそれる粗さ、湾曲および傾斜を有するため、用語「一般に平行な」を使用することである。このように、この垂直運動に関連するデータが、保存され、次にたとえば表面形状の測定試料特性に対応する試料表面の画像を構築すべく用いられることが可能である。TappingMode(商標)原子間力顕微鏡(TappingMode(商標)は、現譲受人の商標である)として公知の原子間力顕微鏡動作の1実用的モードにおいて、チップは、プローブの関連カンチレバーの共振周波数または近傍、あるいはその調波で振動する。フィードバックルー
プは、通常チップ−試料の間の距離(プローブと試料との間の制御距離)を制御することで、「トラッキング力」すなわちチップ/試料相互作用から生じる力を最小限にすべくこの振動の振幅を一定に維持しようと試みる。別のフィードバック構成は、位相または振動周波数を一定に維持する。接触モードにおけるように、次にこれらのフィードバック信号は、収集され、保存され、さらに試料を特性化するデータとして用いられる。
【0010】
それらの動作モードにかかわらず、原子間力顕微鏡は、圧電スキャナ、光学レバー撓み検出器、およびフォトリソグラフィ技法を用いて製造された非常に小型のカンチレバーを用いることで、空気、液体または真空内の多種多様の絶縁または導電表面に関して原子レベルまでの解像度を得ることが可能である。それらの解像度および多用途性のため、原子間力顕微鏡は、半導体製造から生物学的研究にいたる多くの様々な分野における重要な測定装置である。注目すべきは、「走査型プローブ顕微鏡」および特定タイプの走査型プローブ顕微鏡の頭字語が、顕微鏡装置またはたとえば「原子間力顕微鏡法」の関連技術のうちのいずれかを指すべく本明細書において用いられ得ることである。
【0011】
大部分の測定装置に関するように、原子間力顕微鏡は、解像度と収集速度間のトレードオフを要求することが多い。すなわち現在利用可能ないくつかの原子間力顕微鏡は、オングストローム未満の解像度で表面を走査することが可能である。これらのスキャナは、相対的に小さな試料面積のみを走査することができるが、その場合でさえ相対的に低走査速度でしか走査することができない。従来の市販原子間力顕微鏡は、高解像度(たとえば512×512ピクセル)および低トラッキング力で数ミクロンの面積を取り扱うのに通常、数分かかる総走査時間を要するのが普通である。原子間力顕微鏡走査速度の実用限界は、チップと試料のうちの少なくとも一方を損傷しないか最小限の損傷しか生じさせない十分に低いトラッキング力を維持しつつ原子間力顕微鏡が走査され得る最大速度の結果である。走査型プローブ顕微鏡が、小試料および小走査サイズに対して高解像度でビデオ走査速度を達成したこの領域において大きな進歩が遂げられている。
【0012】
とはいえ、TappingMode(商標)原子間力顕微鏡と接触モードの両方を含む公知の動作モードに関連する制約の現状を考えると、改善が望まれてきた。この場合もやはり、接触モードにおいて、チップの横方向走査は、チップと試料の両方に支障をきたし得る大きな力をチップと試料との間にもたらす。さらに生物試料およびポリマなどの軟質試料を画像化する場合、表面が破壊され、測定を使い物にならなくし得るか、少なくともひどく変形され、それによって解像度を有意に低下させ得る。注目すべきは、「画像化」とは、典型的には試料とプローブ間に相対走査運動を提供するとともにそれに応じて試料とプローブを相互作用させることで、試料表面の多重点で走査型プローブ顕微鏡データを得ることを示すために本明細書において用いられることである。
【0013】
TappingMode(商標)原子間力顕微鏡は、より低力の技法であるとともに、特に繊細な試料の試料表面をマップすべく最も広く用いられる原子間力顕微鏡動作モードである。試料に及ぼすチップの典型的な力は、約数nN〜数十nNである。この場合もやはり、チップをドラッグするよりはむしろチップを振動させることで、剪断力が、最小化される。とは言っても、TappingMode(商標)原子間力顕微鏡は、試料表面に作用する垂直抗力の制御が難しいという点で欠点を抱えている。ユーザは通常、最も優れた試料プロファイルの再現を得るべくチップ−試料相互作用を最小限にするため、プローブの自由空気撓み/振幅からの変動が少ししかない設定値を選択しようとする。特に軟質組織に対するジレンマは、画像化力が低すぎれば、チップは、試料を正しくトラッキングしないことになり(すなわち走査中に試料との相互作用の維持)、一方高すぎれば、試料の損傷/変形が、表面形状を正確に反映しない画像をもたらし得ることである。全般的に見れば、この力がうまく制御され得るほど(すなわちより低く維持され得るほど)、試料とチップのうちの少なくとも一方が損傷する可能性が減るので、解像度が改善されること
が可能である。
【0014】
各々のこれらのモードにおけるチップ−試料力の概説は、各々の制約を理解する上で手掛かりとなる。TappingMode(商標)原子間力顕微鏡またはJumpingMode(商標)によってプローブが、表面に相互作用する場合(たとえば特許文献5,2,6参照。これらの全体は、本明細書において参照文献によって盛り込んである)、チップは、周期的に表面に触れる。
図2Aは、チップ運動のうちの1期間「T」内の物理的プロセスを例示する。
図2Aは、試料表面位置に関するチップ軌道を示す。
図2Bは、様々な位置でのチップ軌道の同じ時間における対応相互作用力を示す。ピーク位置Amaxにおいて、チップは、試料表面から最も離れているので、試料に相互作用しない。チップは、水平軸に向かって下がり続けるので(ゼロチップ−試料の間の距離)、近視野ファン・デル・ワールス(van der Waals)力、Fa_vdwを受けることになり、ファン・デル・ワールス引力によってチップを試料にスナップ接触させる。試料に触れた後、チップは、時間域δTの間、反発相互作用の状態が続く。この時間中、チップは、試料に連続して接触している。ゼロを下回る位置は、チップが試料を変形させたかもしれないことを表わし、その位置を試料表面よりも下に表示させる。
【0015】
チップがδT後に表面を離れるとき、引力は、毛細管メニスカスを発現し得るので、メニスカスが壊れてなくなる直前に最大吸着力Fa_maxを示す。次にチップは、非相互作用領域に入り、最大離脱位置へと続く。
【0016】
相互作用自由域において、プローブが表面からより遠くにあるとき、
図2Bにおいて示されるように、相互作用力は、基線を形成すべくゼロであるかゼロに十分近い。
図2Bにおいて、水平軸よりも上方の力は、反発力であるが、水平軸よりも下方の力点は、正味の引力または吸着力を表わす。最大反発力Fr_maxは普通、試料表面に対する最低または最小チップ位置あるいは距離間隔に対応する。
【0017】
TappingMode(商標)原子間力顕微鏡およびJumpingMode(商標)原子間力顕微鏡において開示される先行公知モードにおいて、チップ振動振幅の振幅AmaxまたはRMSは、フィードバック制御パラメータとして用いられる。そのようなフィードバック制御装置の例は、
図1において示される。
【0018】
一般にゲイン制御フィードバックループ、位置決めアクチュエータおよびカンチレバー応答検出成分(たとえば象限光学検出器)を用いて実行される在来型の制御において、原子間力顕微鏡は、検出されたプローブ撓みまたはチップ−表面相互作用の指標としてカンチレバー(すなわちプローブ)運動に対応するRMS信号を用いるとともに、定数またはRMS撓みを維持すべくフィードバックループを用いる。
【0019】
在来型原子間力顕微鏡のさらに別の主要な制約は、高解像度画像化と同時に定量的機械特性情報を獲得する能力がないことである。原子間力顕微鏡は、表面形状の画像化に主たる焦点が当てられてきた。弾性、可塑性、および吸着の仕業を含む定量的機械的マッピングの獲得においてほとんど進歩がない。
【0020】
しかも、TappingMode(商標)制御は、フィードバックを用いてチップ−表面相互作用を制御すべく、測定された撓み信号の振幅または位相を用いる。特に振幅と位相の両方は、少なくとも1相互作用周期を用いるプローブ/チップ振動の平均特性である。より詳細には、平均は、チップ軌道における位置全てで生じるプローブ/試料相互作用に関連する(
図2)。したがって制御フィードバックが、実質的に瞬間チップ−試料相互作用に基づく可能性は存在しない。注目すべきは、瞬間相互作用はこの場合、
図2Bにおける任意の点(たとえば2マイクロ秒内)の相互作用を指すことである(さらに下述され
る)。
【0021】
さらにTappingMode(商標)原子間力顕微鏡は、プローブが試料に断続的に触れるときに生じる粘着状態として公知の状態を克服すべく開発されたことに注目することが重要である。プローブが試料に触れると、毛細管力は、チップを捕捉するとともにチップの放出を妨げる傾向があり得る。TappingMode(商標)におけるプローブ振動の振幅は、ゼロに下落し、それによってフィードバック振動を生じさせることになる。この問題は、ピークとピーク間を約10nmよりも大きい振動振幅でTappingMode(商標)原子間力顕微鏡を動作させながら、特定の剛性、通常10N/m(ニュートン/メータ)〜60N/mを有するプローブを40N/mの公称値で用いることで、TappingMode(商標)を用いる場合に克服された。これらの条件下でプローブが表面に触れると、タッピングプローブの運動エネルギは、毛細管力を克服するのに十分な静的弾性エネルギに変換するので、各々の周期において定常振幅を保証する。このモードの1欠点は、プローブに蓄えられた運動エネルギもまた、カンチレバーバネ定数に比例することである。たとえば1N/mなどのより低いバネ定数カンチレバーを用いる場合、カンチレバーが、自らの共振振動エネルギを用いることで毛細管吸着力を克服できないので、TappingMode(商標)は、多くの材料を測定する場合には不可能である。したがって大部分のTappingMode(商標)適用は、レバーとして当該分野で一般に公知の硬いカンチレバーが用いられる場合にのみ可能である。
【0022】
パルス力モードまたはPFM(たとえば特許文献7,8参照。)として公知の走査型プローブ顕微鏡を動作させる別のモードにおいて、プローブの振動の振幅は、各々の周期中にチップが接触して離れるように調整される。このモードにおいて、制御は、チップ−試料相互作用力を監視することで、提供される。制御は、特定の位置で材料特性を測定すべく原子間力顕微鏡分野においてなされた別の共通の測定、つまり力曲線に関連した性質に基づき動作する。力測定は、共通であるとともに力−体積画像として公知の画像を作成すべく試料全体にわたってマッピングされることが可能である。
【0023】
パルス力モードにおいて、力−距離曲線の形状を分析し、さらにチップと試料との間に作用する力を制御すべくそのデータを用いることで、獲得されるデータ量が、他の走査型プローブ顕微鏡動作モードと比較して減少する。パルス力モードは一般に吸着誘導撓み、ならびに結合誘導撓みを実質的に超えるFr_i(下述される)またはピークパルス力で動作する必要があることが重要である。結果的に、高い反発力が、制御基準値として必要とされる。そのような高力は、試料またはチップを損傷し得るので、高解像度画像の獲得を阻む。しかも、パルス力モードには、特に動作速度および解像度の制約に関して、他の制限があるので、軟質試料を画像化すべく実行されてきたが、あらゆるタイプの原子間力顕微鏡画像化適用にはそれほど広く採用されていない。さらに流体環境における画像化は、カンチレバープローブが試料に相互に作用していないときでさえ、流体中の粘性力が大きな撓みを生成するので、パルス力モードに対するさらなる課題を提示する。
【0024】
より具体的に、画像化速度が標準パルス力モード原子間力顕微鏡において制限される主な原因は、
図2Cにおいて例示される。
図2Cは、チップ−試料相互作用力対時間のグラフである。相互作用力は、「A」でのスナップ接触としてプロットされ、点反発力(チップに及ぼす試料)が「B」で始まる。ピーク反発力は、チップが試料から離れるほぼ点「D」まで吸着力がチップを引っ張るので、ほぼ「C」で生じる。点Eは、チップが試料から離れたときのカンチレバープローブの撓みピークを表わす。点CとEは両方とも、撓み信号におけるピークとして現れる。フィードバックが、チップ−試料相互作用を適切に制御することを保証するため、C値は、Eを超えるべきである。パルス力モードにおけるさらに別の制約において、特定のリングダウン期(その共振周波数でのプローブ振動周期)は、走査の継続に必要とされる基線力の決定が可能になる前に、必要とされる。これこそ
が、変調周波数、したがって走査速度を制限する、カンチレバーのリングダウン(TappingMode(商標)におけるような自由減衰プロセス)を待つことである。より具体的には、変調周波数は、プローブ共振周波数よりも有意に少ない(たとえばプローブ共振周波数よりも5分の1以上少ない)。
【0025】
上記の問題に加えて、相対的に複雑で多彩な原子間力顕微鏡のセットアップと動作は、特に未熟な原子間力顕微鏡オペレータと科学者のうちの少なくとも一方または複雑な計器に精通していないエンジニアにとって時間がかかり、扱いにくくなる可能性がある。たとえばセットアップおよび動作パラメータ値は一般に中でも硬質か軟質、導電性か非導電性、有機、合成または生物性の性質であるか否かを含む試料物質のタイプなどの因子に依存する。
【0026】
たとえば走査型電子顕微鏡(SEM)などの他の測定技法において、試料は、容易に計器に取り付けることができ、ほとんど教育を受けていないか専門知識のないユーザによって良質な画像が得られることが可能である。しかし、原子間力顕微鏡は、多次元表面形状および機械的性質(弾性など)を含む様々な種類の測定を行うその能力が与えられる好適技法であることが多い。それでも、原子間力顕微鏡は、ほとんどの場合、ツールと行われるべき測定の専門知識を必要とする。この点において、ユーザは、目的の位置を特定し、プローブのチップを試料に導入する(試料かプローブのいずれかを移動させることで)必要がある。次に、測定走査が開始されると、ユーザは、一般的に安定なフィードバックループを維持することで、チップが試料をトラッキングすることを確認する必要がある。
【0027】
しかも、測定が行われたら、得られたデータの解釈は、難しいことが多い。全般的に、これらは、物理学者または電子工学者の知識と経験を必要とする時間のかかるタスクであり得るが、ほとんどの場合、人の判定に頼る結果、付随する制限を伴う。原子間力顕微鏡は、広域適用性の可能性があるので、原子間力顕微鏡が熟練者の実行能力にそれほど頼らなければ、有益であり得るということが重要である。たとえば試料マップを含む不適合物質特性測定値を得るその能力を考えると、より使い易ければ、生物学者および材料科学専門家は、もっと広く原子間力顕微鏡を採用するだろう。この点において、原子間力顕微鏡と動作方法のうちの少なくとも一方が、a)測定および測定準備を行いながら、フィードバック安定性を維持することと、b)得られたデータを解釈することとの両方に関連する課題を最小化または除外し得るなら、使い易さは促進されるだろう。
【0028】
これらの問題に対処すべく、原子間力顕微鏡によって提示された基本的な課題およびその現在好適な動作モードが、考慮された。最初に公知の原子間力顕微鏡モードにおける安定性の維持に関して、制御装置の調整が重要な意味をもつ。大部分の現行市販システムにおいて、ユーザは、設定値およびゲインI(積分)とP(比例)の両方を制御しなければならない。設定値に関して、制御は、モードに依存する。接触モードにおいて、計器は、チップと試料との間で相対的に直接的な一定接触力を維持しようと試みる。しかし、最も広く用いられる原子間力顕微鏡動作モード、つまり上記の振動モードまたはTappingMode(商標)原子間力顕微鏡において、設定値(タッピング振幅または位相)の制御は、複雑である。なぜなら、ほとんど基本的に、設定値とチップ−試料力間に単純な関係は存在しないからである。同じ設定値変化は、高いか低いチップ−試料相互作用力のいずれかを示すことができ、カンチレバー動力学(基本的共振周波数など)は、様々な環境(たとえば流体対大気)における画像化に関してなど、大きな影響を与える。
【0029】
安定かつ最適なフィードバックも、適切なゲインの適用を要求する。一般にフィードバックは、高ゲイン下で不安定になり得るとともに、低ゲイン下ではトラッキング能力が低下し得る。PとIゲインは、十分なトラッキング能力も提供しながら、フィードバックが安定なままであることを確認すべく、一般的に試行錯誤しながらユーザによって調整され
る。しかし、TappingMode(商標)原子間力顕微鏡において、フィードバック動力学は、設定値によって極めて影響を受ける。すなわち同じゲインは、異なる振幅設定値下では異なるフィードバック安定性を示し得る。ゲインは、独立して機能しないので、ゲイン最適化のプロセスは、特に複雑である。
【0030】
安定なフィードバックはまた、設定値からの振動の偏差が検出される場合、適切なゲインの適用を要求する。ゲインは、振動を設定値に戻すべく調整されなければならない。PおよびIゲインは、フィードバックが安定なままであることを確認すべく、一般的に試行錯誤しながらユーザによって調整される。さらにゲインは、独立して機能しないので、課題が、特に複雑化される。
【0031】
あまり熟練していないユーザが参加して安定なフィードバックを維持する原子間力顕微鏡システムを所有する計器分野における願望に応じて、解決策が提案されている。とはいえ、各々の解決策には、有意な制約がある。
【0032】
「自動原子間力顕微鏡:適応制御法について(On automating atomi
c force microscopes:An adaptive control approach)」という表題のリファイ(Rifai)およびユウセフ−トウミ(Youc
ef−Toumi)において、ならびに「モデルベース制御による生物試料に関する高速接触モード原子間力顕微鏡(Fast contact-mode atomic force microscopy on biological specimen by model-based control)」という表題のシッタ(Schitter)らにおいて、高次またはモデルベース制御装置が、標準P/I制御装置よりも好んで用いられる。そのような制御装置は、設計するのが難しく、本質的に不完全である。そのような制御装置は、動作前にシステム動力学に関する情報を必要とすることが重要である。それらの制御装置は、接触モードで原子間力顕微鏡を動作させる場合に有効であり得るが、上記に示唆されるように、システム動力学が設定値の変動で変化することを考えれば、原子間力顕微鏡がTappingMode(商標)で動作される場合に機能するのは、一般に難しい。
【0033】
アストロム(Astrom)およびハッグルント(Hagglund)において、標準P/I制御装置が用いられるが、安定動作に要求される同調は、自動化される。アストロム(Astrom)およびハッグルント(Hagglund)は、位相と振幅のマージンに関する仕様書を用いる単純なレギュレータを用いる。この方法において、標的システムは、最も一般的には時間応答が遅い大型プラントである。特に応答の時間スケールは普通、数分から数時間である。この特徴は、応答時間が数ミリ秒で応答のQが高い(低エネルギ消散)原子間力顕微鏡システムとは本質的に正反対である。すなわちアストロム(Astrom)とハッグルント(Hagglund)によって教示されるような制御装置の自動同調(応答時間が遅い単純なレギュレータを用いることで)は、ほとんどの原子間力顕微鏡適用に役立たないだろう。
【0034】
ライス(Rice)らにおいて開示される別のシステム(特許文献9)において、システムは、不安定性の発現を検出するために働き、その後に補正を行う。しかし、不安定性の発現と制御不能の不安定性(すなわち測定プロセスの停止と再始動を要求する大きさの不安定性)の発現間の期間は、非常に短いので、測定プロセスを停止させるべき前に制御を実施するのは、困難である。当該分野において理解されるように、履歴現象は、システムが十分速やかに応答できない場合に主として信頼できる。しかも、この解決方法においてシステムは、測定振動に基づき判定する。許容ノイズ振幅が定義され、その振幅を上回る場合、システムは、ゲインを調整する。1つの主要な問題は、特にTappingMode(商標)で原子間力顕微鏡を動作させる場合、および特定タイプの試料を測定する場合にノイズ振幅が、非常に複雑化されるという事実に関わる。TappingMode(
商標)原子間力顕微鏡において、振動は、チップと試料との間の相互作用力の非線形表現である。したがってたとえばタッピング振幅の制御は、チップ−試料相互作用力の間接的制御を提供する。この相互作用力の間接的制御は、圧電アクチュエータ自体と原子間力顕微鏡の機械的成分由来を含む、たとえば振動調波およびシステム振動などの変数の作用を受け易い。これらこそが、特に画像化が様々な環境において生じ得る場合、ロバストな制御アルゴリズムの開発を極めて難しくするTappingMode動力学である。
【0035】
結果的に、このシステムは、判定するためのユーザ入力を要求しないが、システムが、不安定になりつつあるとき、測定振動を解釈するとともに制御を変調するその能力は、制限される。この場合もやはり、TappingMode(商標)原子間力顕微鏡において、システム動力学は、設定値(たとえば振幅または位相)とゲインの両方に依存するので、不安定性に適応させ得る制御アルゴリズムの開発能力を極めて複雑にする。
【0036】
要するに、これまで、原子間力顕微鏡でゲインを自動的に調整する試みが行われてきたが、この方法も特に有効であるとは証明されていない。公知の方法は、ゲイン調整によって安定性を維持しようとする任意の試みに予測不能な悪影響を及ぼし得る試料表面形状と、たとえば設定値、アクチュエータ履歴現象およびチップ形状などの動作パラメータとの両方を取り扱うことができないかもしれない。結果的に自動ゲイン調整は、ほとんど効果がない。
【0037】
この場合もやはり、これは、原子間力顕微鏡動作中に調整を要求できるパラメータとともに原子間力顕微鏡セットアップと動作の際に考えなければならない数多くの走査パラメータを考慮すると、驚くにはあたらない。たとえばユーザは、設定値、走査速度、比例ゲイン、積分ゲイン、駆動周波数、駆動振幅のような走査制御パラメータおよび他のパラメータのような走査制御パラメータを調整する必要があり得る。細心の注意、かなりの経験、時には少しばかりの運がなければ、カンチレバーまたは試料の損傷が生じ得るし、お粗末な結果または使用不可な結果が獲得され得るし、さらに全てがうまく動作しているように思われる場合において、走査時間が最適とはかけ離れるほどに動作上の効率の悪さが非常に大きくなり得るので、たとえば半導体業界におけるような高処理適用には特に問題がある。
【0038】
現在、手動で選択された、いくつかの制御パラメータのうちのいずれか1つの値が、最適でないか、その妥当な最適範囲内にはない場合、お粗末な性能および許容できないデータが生じるおそれがあり得る。さらに特定の原子間力顕微鏡パラメータ間に存在する相対的に複雑な相互依存性は、非常に経験のある原子間力顕微鏡オペレータでさえ、試行錯誤して操作手順をセットアップすることが多い。
【0039】
原子間力顕微鏡セットアップの実行において、いくつかの制御パラメータの値は、異なる動作モードおよびそのようなゲインのセットアップが要求される他の場合のフィードバックループのゲインとともに設定されなければならない。セットアップは、たとえば走査サイズ、ピクセル/ライン、走査ライン数、走査速度、チップ走査速度、デジタル/アナログ(D/A)解像度、Z中心位置、すなわちZ中心電圧またはZ圧電アクチュエータ動作範囲中心、チップ摩耗制御、および試料損傷の最小化などのパラメータを考慮するとともに構成されなければならない。
【0040】
たとえばTappingMode(商標)などの振動モードで動作すべく原子間力顕微鏡が、セットアップされる場合、セットアップは、振動に関連する振幅および設定値を選択することを含まなければならない。しかも、積分ゲイン(Iゲイン)、および比例ゲイン(Pゲイン)の初期値も、手動で設定される。ゲイン値の選択は、ゲイン値が通常、たとえば用いられる振動モードの特性、試料表面形状、試料の硬度と粗さのうちの少なくと
も一方または任意の他の機械特性および試料が位置する媒体などの因子、ならびに他の因子に依存するので、扱い難くなり得る。たとえばゲインの設定が低すぎる場合、システム応答は、相対的に遅くなる傾向があり、それによって、チップが試料表面をトラッキングしなくなる可能性がある。ゲインの設定が高すぎる場合、フィードバックループは、振動またはそれ自体でバックフィードを始めることが可能である。これは、望ましくないことに生成される試料画像にかなりのノイズを付加し得る。
【0041】
さらにゲインのセットアップは、最初はファインであるが、後にたとえば表面形状などの他のなんらかの因子が変化する場合にのみ不適切になり得る。たとえば試料が、比較的粗い場合、そのような高度に特徴的な表面形状を画像化するため、ゲインは、一般的により高く設定されるべきであり、得られるフィードバック振動ノイズの増加はいずれも、許容できる。試料が、比較的平滑か平坦である場合、ゲインは、ノイズを最小限にすべくより低く設定されるべきである。低ゲインでノイズを低く保つことによって、平坦領域のより良好な解像度が得られ、それによって原子間力顕微鏡が、そのより微細な詳細をより良好に画像化できるようにする。しかし、当該分野において理解されるように、過剰ノイズは、試料のより平坦な領域にそった画像化に悪影響を及ぼし得る。最初の高ゲイン設定は、試料が平坦化するとき、結局は高すぎることになる。逆に、初期低ゲイン設定は、画像を生成する試料のより高度な特徴の画像化を妨げることが多い。そのようなより高度な特徴は、変形か欠落のいずれかである。
【0042】
これらのセットアップの配慮は、最も有効なゲインが一般にカンチレバー動力学に依存するので、TappingMode(商標)で動作する場合にさらに問題となる。カンチレバー動力学は、自由大気タッピング振幅と設定値の関数なので、ゲインの同調は、特に未熟なユーザにとっては非常に難しい。事実、たとえばカンチレバー動力学およびZアクチュエータ応答速度などの因子は、初期設定値およびゲインの設定においてそのような問題をもたらし得るので、オペレータは、試料画像が、良さそうに見え始めるまで、試行錯誤に頼ることが多い。
【0043】
残念ながら、一方が他方に影響を及ぼし得るので、試行錯誤は、長い間続き得る。たとえば設定値が下げられると、ゲインは、より高く設定されることが可能であり、その逆も可能である。しかし、より低いゲインによって、より低い設定値が使用可能になり、一般にカンチレバー応答を増大させ得るが、誤差生成率も増大させる。これは、走査中に生成される画像を不必要に不鮮明にするか、変形させることが可能である。
【0044】
結局、オペレータが、いくつかの初期パラメータ値、ゲインおよび設定値を設定し、その後、フィードバック振動が生じ、次に後退するまで、各々の値を1つずつ手動で調整することが多い。このプロセスは、経験のある原子間力顕微鏡オペレータにとっては何とかうまくいき得るが、効率が悪く、時間がかかり、いまひとつであることが非常に多い。さらに原子間力顕微鏡画像化の動的性質に対処するものは何もなく、特定の設定を動作中にこっそりと変更するか、画像を観察するかなどのいずれかと、さらに逆戻りし、調整されたパラメータ値でお粗末に画像化された試料のそれらの部分を再走査することとをオペレータに要求することが多い。この場合もやはり、このプロセスは、極めて遅くなり得る。
【発明を実施するための形態】
【0067】
好適実施形態は、プローブ(チップ)と試料との間の相互作用力が監視され、しかも走査速度を妥協することなく非常に低力でチップ−試料の間の距離を制御すべく用いられる原子間力顕微鏡動作のピーク力タッピング(PFT)モードを対象とする。本明細書において記載される技術は、プローブチップ−試料力を低く維持することで高解像度を提供するとともに、試料表面の本質的にリアルタイムの性質マッピングを実現する。好適実施形態は、本質的に安定しているので、高信頼性データを獲得する能力を維持しながら長期力制御を促進する(解像度の改善)。しかも、従来型のTappingMode(商標)原子間力顕微鏡とは異なり同調が必要とされないので、原子間力顕微鏡セットアップは、他の原子間力顕微鏡モードの場合よりも高速および容易である。ピーク力タッピングモードを駆動する重要な考え方は、本明細書においてグラフで例示されるとともに記載される。
【0068】
実際的に、瞬間相互作用力を用いることで原子間力顕微鏡制御が実行され得る前に、解決されるべき3つの主要な問題が存在した。これらの問題は、1)結合による撓み背景の調節;2)基線の決定;および3)本明細書において定義されるような瞬間力の決定であった。
【0069】
図2Aにおいて、試料からプローブを接近および分離する変調周期(たとえばプローブ−試料の間の距離を周期的に変調する駆動装置を用いることで)は、期間Tによって表わされる。ゼロ位置(水平軸)は、表面を表わすが、垂直軸は、距離間隔である。プローブ−試料の間の距離が、水平ゼロ線を交差する場合、チップは、領域δT(チップ−試料接触の時間帯)によって表わされるように、試料に直接接触する。この領域に対応する相互作用力は、
図2Bにおいてプロットされる。
【0070】
図2Aと
図2Bにおいて、Amaxは、試料からチップ先端の最大距離間隔であり;Fa_vdwは、ファン・デル・ワールス吸着力であり;Fa_maxは、毛細管相互作用と、チップと試料表面間の吸着の仕業とによる最大吸着力である。反発力と吸着力はともに、
図2Bにおいて示されるように基線に対して算出される。注目すべきは、ここで参照される力が、通常ピラミッド形であるチップ全体に作用する合力であることである。実際、まさに頂点部分だけは、反発域に入れるが、合力は、依然として引力である。この場合は、この点での合力が、引力であっても、フィードバックは、なおフィードバックに所定同期位置(下述のように定義される)での頂点反発相互作用力を用いることが可能である。これは、制御がプローブのまさに頂点の原子と試料の原子または分子との間のパウリ(Pauli)反発およびイオン反発から生じる頂点反発相互作用によって決定されるので、最小相互作用力によって最高画像化解像度で動作する利益を提供する。
【0071】
カンチレバー撓みとチップ−試料相互作用力を区別することが、重要である。カンチレバー撓みは、チップ−試料相互作用力の測定に用いられるが、全ての撓みが、チップ−試料相互作用力を表わすわけではない。すなわち寄生力が、カンチレバー撓みに寄与する。たとえば
図2Cにおいて示されるように、カンチレバー撓みは、時間の関数としてプロットされ、図は、実際の撓みデータを表わす。点「D」後の振動は、時間とともに減衰するカンチレバー自由共振のためである。この共振撓みは、チップ表面相互作用に起因するのではなく、寄生撓みが寄与する(通常、寄生カンチレバーまたはプローブ運動に対応)と考えられる。点Eは、チップが試料に相互作用していない撓みの最高点を表わす。データの「平坦」部分も、チップが、試料に相互作用していない場合、通常は寄生力の機械的結合に起因する、より緩やかな撓み変動を有する。そのような結合は、変調アクチュエータ
自体、および空気または流体からの制動力によるカンチレバー応答のうちのいずれか一方のためであり得る。同様に、レーザ干渉からも生じる。これらの寄生効果は、後続の図においてさらに例示されることになる。
【0072】
公知の力制御システムにおいて、制御は、期間で生じる最大力に基づく。したがって反発力は、寄生力と区別されるとともに従来、フィードバックループによって用いられる真のチップ−試料相互作用の撓みに寄与する任意の寄生力よりも高くなければならない。この力の差別化要件は、チップと試料のうちの少なくとも一方を損傷し、それによってシステムが高解像度を得られないようにし得る比較的高い画像化力を必要とした。
【0073】
好適実施形態において、RMSまたは一定撓みは、
図3にしたがって決定される瞬間相互作用力Fr_iと置き換えられ、制御装置設定値は、以下の式1である。
δFr=Fr_i−F(基線)…(1)
F(基線)は、プローブが試料に接触していない場合の相互作用力である。その相互作用力は、ゼロであるべきである。原子間力顕微鏡において、力は普通、カンチレバー撓みによって表わされる。この場合、F(基線)は、チップが表面に相互作用していない場合のカンチレバー撓みに対応する。Fr_iは、チップが表面に極近接して接触する場合の相互作用力である。同期アルゴリズムは、領域δT(
図2A〜
図2B)が反発力およびその最大Fr_maxに一致し得るように、各々の駆動期の開始時間を整列すべく用いられる。期間の開始からFr_maxの発現までの時間は、同期時間であり、正確に決定されるとともに制御される(さらに下述される)。同期時間距離(Sync Distance)は、撓み応答と変調駆動信号間の位相遅延を測定することで決定されることが可能である。同期時間距離が、決定されると(プローブが、xy方向に固定される場合)、同じ同期時間距離が、xyラスタ走査位置全体を通して用いられる。画像化中、フィードバックは、Fr_iを実質的に一定に維持すべく機能するが、Fr_i値は、同期時間距離によって決定される。注目すべきは、同期時間距離はまた、変調期の開始から相互作用の瞬間までの距離として一般化され得ることである。
【0074】
同期距離または同期時間距離は、正確に制御されることが可能である。たとえば同期距離が48μ秒(μs)の場合、チップ振動期Tが100μ秒であるなら、48μ秒目に生じる相互作用力が、フィードバック制御パラメータとして用いられることになる。フィードバックループは、期間の開始から48μ秒目に瞬間相互作用力Fr_i(i=48μs)を維持しようと試みることになる。より一般的な適用において、相互作用領域δT内の任意の点の相互作用力が、フィードバックに用いられることが可能である。δTはまた、Fa_vdw(ファン・デル・ワールス引力領域)およびFa_max(毛細管吸着領域)を含めるべく、
図2Bにおけるマーク領域を超えて広がり得る。毛細管吸着領域は、機能化プローブおよび試料上の特殊な接着剤によって誘発された結合力に起因する吸着相互作用でもあり得る。
【0075】
基線の正確な測定を達成するため、チップが試料に接触していない場合に多重撓みデータ点が集められ、さらに平均基線レベルの生成に用いられる。この場合もやはり、非相互作用領域(最大分離/最高距離)は、この領域がピーク力位置後の変調期のほぼ半周期のはずであるので、同期時間距離によって決定されることが可能である。同期時間距離はまた、フィードバック力動作点を決定し、実際の力は、δFrによって測定される。δFrは、正か負のいずれかである。
【0076】
撓み信号に及ぼすドリフト(たとえば熱)の悪影響のため、対応力Fr_iは、時間とともに変動し得る。相対力δFr(基線決定に対して)は、チップ−表面相互作用をより正確に反映するので、Fr_iの代わりにフィードバック制御に用いられることが好ましい。この相対値は、カンチレバー撓みに及ぼすシステムドリフトによる有害な影響を除去
する。
【0077】
δFrはまた、チップが試料をくまなく走査するときに、δFrが様々な位置で経時的に一定なままであるように、フィードバックループによって制御可能な力を表わす。
図4A〜
図4Cにおいて、カンチレバー応答は、試料表面に相互作用するとき、チップ−表面相互作用力と背景結合の混合である。そのような応答は、「オリジナル」として
図4Aに概略的に示される。実際のチップ−試料相互作用力は、Fr_i部分(
図4Cにおいて示される)においてのみであり、寄生カンチレバーかプローブ運動の背景内に埋もれる。オリジナルデータ(たとえば相互作用力と寄生力の両方によるなどのプローブ運動)から背景を減算することで、相互作用力の大きさが得られることが可能である。
図4Bで例示される背景は、原子間力顕微鏡システムからの共振の機械的結合と、空気および流体のようなその環境媒体に対するカンチレバー応答とのうちの少なくとも一方に起因し得る。背景は、カンチレバーが試料に対して動くにつれて、レーザ干渉によって誘発されることも可能である。背景の共通する特徴は、チップが試料に相互作用していない場合であっても、周期的変化を表示するカンチレバー撓みが、チップ軌道に類似することである。成功した背景実験データの減算は、
図5A〜
図5Cにおいて示される。
【0078】
より詳細には、
図5Aは、オリジナルプローブ撓み対時間の略図を示す。上記のように、プローブの撓みは、チップ−試料相互作用の制御に用いられ得る寄生源によって高度に影響される。図示されるように、これらの周期的寄生撓みは、我々が本明細書において、たとえば「流体力学的背景」またはより一般的用語で寄生力と称する低周波数信号によって表わされる。これらの寄生力(流体力、ドラッグ力と空気、軸外運動、レーザ干渉およびプローブが試料に相互作用していない場合に生じる任意の他の周期的運動を含む)によるプローブ撓みへの寄与は、大きい。好適実施形態において制御信号として用いられるべき実際のチップ−試料相互作用力は、寄生背景信号に重畳されるので(
図5B)、実際のチップ−試料相互作用力を検出する課題になり得る。つまり、最小制御可能力は、プローブ撓みへの背景寄与によって決定される(最小制御可能力[旧]として
図5Aにおいて示される−約1000マイクロニュートン(μN)未満から10ピコニュートン(pN)未満の範囲)。特に始終あることだが、撓みへの寄生力寄与とチップ−試料相互作用力による撓みへの寄与の両方に対する低振幅を有するノイズ信号「N」が、存在する。
【0079】
図5Bおよび
図5Cに移ると、本好適実施形態の1つの重要な考えは、上記のように撓み信号から寄生背景信号(
図5B)を減算することである。それによって最小制御可能力を下げる。背景信号は、プローブが試料に相互作用しないようにするため(すなわち寄生力のみが、プローブの検出撓みに寄与している)、制御距離にチップ−試料の間の距離を十分増大することで決定される。制御距離は一般に100nmよりも大きく、比較的少ないかもしれないが、理想的には長期相互作用力が、プローブ撓みに寄与しない距離である。
図5Cにおいて示されるように、寄生背景を減算した後の撓みへのチップ−試料相互作用力の寄与は、チップ−試料相互作用に関連する明瞭なピークを有する撓み信号を提供する。特に非周期的ノイズは、常に存在し得るので、この場合、
図5Cにおいて示されるような最小制御可能力を決定する(最小制御可能力[新])。バネ定数が0.01N/mおよびカンチレバー長が100μmの非常に軟質のカンチレバーでは、この力は、約1pNであり得る。
【0080】
寄生背景減算を実行する場合に使用可能な最小制御可能力が、大きく低下し(たとえば3桁)、それによって好適実施形態がチップ−試料の間の距離を制御できるので、プローブ−試料相互作用力は、pN範囲に削減されることが明らかになる。この減算がハードウエアで遂行され得る方法は、
図10に関してさらに下述される。
【0081】
図10において、「Z」は、全般的にチップ位置と称されるチップと試料表面間の垂直
位置を示す試料表面に対して垂直な方向を表わす。
全体的に見て、そのような小さな力を検出するとともにそのような力を走査型プローブ顕微鏡フィードバックループにおいて制御パラメータとして用いることが、本明細書において「瞬間力制御」と称されるものを用いることで本発明にしたがう走査型プローブ顕微鏡動作が試料の画像化を可能にする能力である。リアルタイム力検出を用いる瞬間力制御は、改善された制御を提供するので、画像解像度を改善するとともに試料損傷の可能性を最小限にする。これに関連して、リアルタイムまたは瞬間力検出は、たとえば
図3において例示される本質的に各々の点の変動力が、好適実施形態によって検出され、さらに走査型プローブ顕微鏡動作を瞬間的に制御すべく用いられ得ることを暗示する。つまり、プローブと試料との間の各々の相互作用周期中[あるいは2つ間の距離間隔の変調、すなわち力曲線変調の各々の周期中]のプローブ−試料相互作用に起因するプローブに作用する変動力が、検出され、さらにリアルタイムで試料を画像化すべく原子間力顕微鏡によって用いられ得る。この瞬間力制御は、プローブ−試料の間の距離の1変調周期であり得る任意の相互作用点で原子間力顕微鏡制御を提供すべく用いられる。制御は、将来の任意の変調周期が終了する前(次のアプローチの前)に提供されるので、フィードバック遅延は、大きく減る。これは、さらに
図12A,
図12Bおよび
図12Cに関連して示されることになる。
【0082】
ピーク力タッピング制御におけるさらに別の利益は、その制御がカンチレバー共振周波数付近で動作される必要がないことである。そのような動作は、一過性共振応答によるカンチレバー遅延を実質的に排除できるので、瞬間相互作用制御を可能にする。
【0083】
次に
図6に移ると、好適実施形態はまた、ゼロ力点をすばやく抽出すべく力曲線の基線平均化を実行することで高速で原子間力顕微鏡が動作できるようにし、さらにシステムがほとんど時間遅延なしにプローブを試料に相互作用させ得るようにする。
図2Cによって表わされる先行技術と対照的に、本原子間力顕微鏡の変調周波数は、画像化システムを安定化すべく、プローブ「リングダウン」が終了するまで(チップが試料表面から跳び離れた後、プローブ振動を約1/eに減衰)システムが、プローブ−試料相互作用を再構築するのを待つという要件によって制限されない。リンダウンに要する時間は、Q/fに比例するカンチレバー動力学によって決定される。この場合、Qは、カンチレバーの品質因子であり、fは、カンチレバー共振周波数である(安定化すべく慣例的に利用されるカンチレバーでは一般に数十ミリ秒である)。
図6において示されるような好適実施形態において、リングダウン後、数周期のカンチレバー共振周波数は、本質的にリアルタイムでゼロ力点(すなわち装置設置時の基線位置)を決定するとともに、
図2Cにおいて例示されるシステムよりもずっと速くシステムがプローブを試料に相互作用させ得るようにすべく、平均化される。事実、リングダウン後に1周期のカンチレバー共振周波数のみの平均を行うことによっても、ゼロ点(基線)のロバスト推定が、実現され得る。結果的に、変調周波数は、システム安定性を妥協することなく有意に増大することが可能である。しかも、より高速に動作するさらなる利益は、もちろんシステム内のノイズの作用を減らしている。
【0084】
非常に感受性のある力検出による測定では、非常に軟質のカンチレバー(バネ定数0.01N/m〜0.3N/m)が、一般に用いられる。これらのレバーは、共振周波数がより低く、リングダウン時間が、非常に長い。さらに重要なことには、吸着誘発性振動(接触からの脱却)は、
図6Cにおいて示されるように、ずっと強いことである。
図6Cにおいて、軟質カンチレバーの撓み応答は、時間の関数としてプロットされる。チップ軌道はまた、位置基準としてプロットされる(
図6B)。図に示すように、カンチレバーの寄生振動は、相互作用力よりもはるかに勝っているので、基本的に制御を不可能にする。本発明に先だって、ユーザは、安定したフィードバックの制御を得るため、Fr_iが、唯一の最大値になり得るように振動が消失するのに必要な時間、待機しなければならなかった
であろう。カンチレバーがより感受性になると、リングダウンの待機に極めて時間がかかるようになる。本発明の好適実施形態は、プローブと試料との間の最接近位置に同期整列によって相互作用域と非相互作用域を分離することで、基線を決定する。「相互作用域」に対応する領域は、各々の周期の開始時に同期マーカ、基準トリガ信号を通じてロックされる。この領域における任意の撓み点は、定常状態相互作用制御のフィードバックパラメータとして用いられることが可能である。相互作用域外の撓みデータはすべて、定数に平均化され、さらに
図3においてΔFrを算出する基線として用いられる。基線検出と同期制御の組合せによって、相対力δFは、瞬時に正確に決定されるとともに制御されることが可能である。そのような制御は、
図6Cにおいて例示されるように、Fr_iが寄生撓みをはるかに下回れるようにする。
【0085】
定常状態もやはり、一定最大力または一定最小力、あるいは各々の周期のプローブ/試料相対運動における相互作用力曲線形の特徴の組合せを意味する。
本技法の別の主要な利点は、高振幅振動データで基線を決定する能力である。カンチレバーの共振周波数は、公知なので、別の実施形態において、平均は、整数倍のカンチレバー共振周波数周期を分析することで、非相互作用域において決定されることが可能である。整数周期平均化は、振動撓みデータを効率的に除去できるので、一定基線を得ることが可能である。
【0086】
特にカンチレバー共振周波数は、たとえば周波数掃引および熱同調などの公知技術によっても決定されることが可能である。
次に
図7および
図8Aと
図8Bに移ると、好適実施形態はまた、本明細書において「ゲート平均反発力制御」と称されるものも用いる。
図7は、原子間力顕微鏡動作後の一連の相互作用期を含むプローブ撓みを概略的に示す。制御パラメータとして力を用いる先行制御技術は、全周期のチップ−試料相互作用にわたる合力を平均化することで、力設定値と比較するRMS値を得る。当該分野において理解されるように、力曲線によって例示される力は、複雑である。反発力と引力はともに、上記のように周期中にプローブチップに働く。たとえば反発力を相殺する傾向がある引力部分(
図2CにおけるC−D)を含めることで、力感受性および画像化解像度は、ほとんどの場合、損なわれる。
【0087】
図8Aおよび
図8Bに移ると、ゲート平均反発力制御が、例示される。この実施形態において、
図8Bにおいて示されるようなシステム同期信号は、力曲線の引力部分を除外することで、力曲線の反発力部分(
図2CにおけるB−C)を「ゲートで制御」すべく(撓み曲線の斜線部分「A」によって例示される)用いられる。力曲線の反発力部分に基づきチップ−試料の間の距離を制御することで、力感受性および画像化解像度は、曲線の引力部分の有害作用を減らすために増大される(すなわち相互作用引力は、長期相互作用力であり、したがってずっと広い面積にわたるセンス相互作用であるため、解像度をより低くする)。しかも、ゲートは、ゲート平均化を実行するとき、ノイズを排除すべく機能する。この場合もやはり、同期信号は、反発力領域のみが用いられ得るように時間が決められる。そのような動作は、
図3に関連して図示および記載されるように所定同期位置でゲートを用いることで、保証される。
【0088】
図9Aおよび
図9Bにおいて示されるように、さらに上記にしたがうと、同期平均化はまた、信号対ノイズ比をさらに改善すべく用いられ得るので、ほぼゼロ力点での制御を最終的に提供することが可能である。他のチップ−試料撓み図に類似した
図9Aは、チップが試料に相互作用するときのプローブのいくつかの撓み周期を示す。すでに述べたように、ノイズ信号は、これらのタイプの走査型プローブ顕微鏡/原子間力顕微鏡測定を行う場合に常に存在する。撓み信号をたとえば
図9Bにおいて示されるような対応同期信号と組合わせることで、撓みの同期平均化が、実行される。結果的にノイズの作用は、以下の式2にしたがって大きく減少する。
【0089】
(D1+D2+D3+D4+・・・DN)/N…(2)
式中、Diは、第i周期におけるデータを表わす。信号対ノイズ比が√Nの倍数改善された平均化信号が、
図9Cにおいて示される。それによって最小制御可能力が減少する(狭いロックイン帯域幅を用いることが可能)。
【0090】
次に
図10に移ると、ピーク力タッピングモードで動作可能な原子間力顕微鏡100は、プローブホルダ108に据え付けられるとともにチップ106を支えるカンチレバー104を有するプローブ102を含む。この場合、チップ−試料の間の距離は、プローブホルダ108に結合されたアクチュエータ112(たとえばXYZ円筒型圧電素子)によって変調される。しかし、当然のことながら、好適実施形態は、Z方向に試料を動かすことによってチップ−試料の間の距離を変調する原子間力顕微鏡計器に適用できることである。
【0091】
動作中、プローブ撓みは、光線「L」をプローブの裏にあて、たとえば四象限光学検出器などの検出器114に向けて反射させることで、測定される。次に撓み信号は、アナログ・デジタル変換器103に伝送される。デジタル化信号は、原子間力顕微鏡を高速で動作させながらチップ−試料力を低く維持すべく用いられる。
【0092】
図10において示される実施形態において、チップ−試料の相互作用がないプローブ撓みは、背景発生器105に伝送される。背景発生器は、チップと試料が相互作用していない場合、背景信号に対応する周期波形を生成することになる。この波形は、その振幅と位相が、ロックイン増幅器によって決定され、その入力が、背景信号であるDDS(直接デジタル合成(Direct Digital Synthesis)関数発生器)によって生成されることが可能である。この波形はまた、同期信号を活用して多重周期の背景を同期的に平均化することで、生成されることが可能である。コンパレータ回路120は、寄生背景とは無関係のチップ−試料相互作用力を表わす信号を生成するために背景信号を減算することで、全体の撓み信号を処理する(
図4Cおよび
図5C)。(注目すべきは、アナログまたはデジタル回路系が、記載され得るが、当然ながら動作は、従来型の任意のアナログまたはデジタル回路系で実行され得るにもかかわらず、好適実施形態は、本発明を実装すべくFPGAアーキテクチャを用いることである)。次にこの信号は、レバーの処理リングダウン振動を選択周期数に制限すべく、減算後撓み誤差を処理するデジタルフィルタ122を通して供給される。フィルタ処理した信号は、信号対ノイズ比をさらに増大すべく同期平均化回路123に伝送される。同期化を活用して非相互作用領域のデータを平均化することで、基線は、基線平均化回路124から決定される。コンパレータ回路125は、カンチレバーDCドリフトがないチップ−試料相互作用力を表わす信号を生成するため、基線信号を減算することで、全体の撓み信号を処理する。この信号は、さらに力検出器126に伝送される。
【0093】
同期時間距離計算機135は、時間遅延型で駆動および同期制御を提供する、撓みとZ変調直接デジタル合成装置(ブロック127)間の位相シフトを決定する。ピーク力または反発力ゲート位置発生器129は、同期マーカと同期時間距離を活用して力検出器126の時限信号を生成する。力検出器126は、
図8Aにおいて例示されるゲート領域内のピーク反発力または平均化反発力のいずれかを同定することで、加算回路125の出力を分析する。この場合もやはり、力検出器126をこのように動作させることで、力制御が力曲線の選択部分(たとえば反発力領域)で誘発されることが可能であり、試料とチップ間の引力の作用を減らすことによって、より高い感受性が得られる。しかも、信号対ノイズ比は、検出器126のゲートからノイズを除外することで改善される。次にゲート反発力は、適切な設定値と比較され(ブロック128)、誤差信号が、生成されるとともに制御ブロックに伝送される(たとえばPI制御装置130)。次に制御信号は、アナログに
変換され(変換器132)、同期信号が、変換器136でアナログに変換された後、ブロック127からの同期信号と結合すべく加算回路134に伝送される。次に加算回路134の出力は、チップと試料との間の本質的に定常状態の相互作用を維持すべくz位置(この場合、プローブ)を作動させるためZ−圧電アクチュエータ112に適用される。対応する動作方法は、
図13に関連して下記でさらに詳細に記載される。
【0094】
図11に移ると、ピーク力タッピングモードにしたがう原子間力顕微鏡の動作方法300が、示される。セットアップおよび初期化ブロック302後(同調は要求されない)、プローブは、振動し、試料に係合する。好ましくは、ブロック304(生成段階)において、プローブと試料との間の相対XY運動が、開始する(走査。相互作用段階)。
【0095】
次にプローブの運動が、検出される(検出段階);特にプローブ撓みが検出され、さらに処理すべく変換器に伝送される。ブロック306において、次に方法は、上記のようにプローブ−試料相互作用を回収すべく機能し(回収段階)、好ましくはロックイン増幅、またはより好ましくは撓みの同期平均化のいずれかを用いて流体力学的背景減算を実行する。ブロック308において出力をフィルタ処理した後(たとえば処理するリングダウン周期数を選択する)、方法は、好ましくは、ブロック310において力曲線の反発領域を用いることで、力を検出する(ピーク力検出/ゲート平均化)。ブロック312において、次に力は、ユーザの所望相互作用力にしたがって設定された設定値力と比較される。Zアクチュエータは、試料の画像の生成に用いられる制御信号で、チップ−試料の間の距離を調整するとともに設定値力を維持すべく、ブロック316において制御信号に応答する。
【0096】
図12A〜
図12Cに移ると、瞬間力フィードバックを提供する好適実施形態の能力の図が示される。
図12Aにおいて、いくつかの概略力対時間曲線は、異なるピーク反発力で示される。特に相互作用QとSは、設定値によって定義された閾値力を超えるが、相互作用Rは、設定値を下回るピーク反発力を例示する。フィードバック誤差は、先行技術の力フィードバックシステムで
図12Bにおいて示されるように例示される。より詳細には、反発力が、設定値を超えると、遅延「d」は、第1相互作用のXでのピーク反発力をマッピングする前に示される。これは、反発力が設定値を超え始める点後しばらくするまで、フィードバック誤差が構築されないSと表示された相互作用にとっても同じである。
【0097】
それとは反対に、
図12Cにおいて示されるように、好ましくは同期平均化と組合わせた、寄生背景減算、基線平均化とゲート平均、反発力制御を含む、上記のピーク力タッピングモードの特徴に起因するフィードバック遅延がより少ないと考えると、設定値よりも大きな任意の力に対する応答は、本質的に瞬時に検出される。設定値を上回る力をすばやく同定できることで、チップ−試料相互作用に対応する力は、最小化されることができるので、高速および高解像度で原子間力顕微鏡動作に関して有意な利点を提供する。さらにこれは、試料表面変化が、応答時間と解像度のうちの少なくとも一方を制限し得る起伏のある試料には特に当てはまる。
【0098】
[アルゴリズム]
背景の正確な減算を保証するため、
図13および
図14において示されるような、2つのスキームが、開発されている。
【0099】
図13において、カンチレバー撓み背景(撓みへの寄生寄与)の減算用アルゴリズム400が、示される。ブロック402および404は、セットアップ後にユーザの選択にしたがって表面に及ぼす反発インパルス相互作用が存在できないようにするため、チップが試料から十分離れていること(たとえば30nm)を保証する。ブロック406は、いくつかの部分段階を含む。原子間力顕微鏡システムは、多重周期に対してカンチレバー撓み
データをサンプリングし、さらに各々のセグメントが期間Tを有する多重セグメントにデータをデジタル化する。原子間力顕微鏡方法は、データの各々のセグメントを期間Tの開始に揃え、その後データを平均化する。次に、方法400は、平均化セグメントデータを期間Tの背景として用いる。ブロック408は、たとえばFPGAプロセッサを用いることで、各々の期間Tにおける測定データからブロック406由来の背景を減算すべく機能する。ブロック408は、フィードバックに背景補正データを用いる。
【0100】
図14において、背景撓みを減算する別のアルゴリズム500が、示される。持上げ高を算出し、zフィードバックオフでチップを持ち上げるブロック502および504は、チップが、試料に相互作用していないことを保証すべく用いられる。ブロック506は、参照信号としてカンチレバープローブを移動させる駆動信号についてロックイン増幅器を用い、ロックイン入力としてカンチレバー撓みデータを用いる。ブロック508において、ロックインから得られた振幅と位相データは、正弦波信号の構築に用いられ、この信号は、撓みが一定(ノイズ限界内)になるまで調整され、さらに撓みデータを減算すべく用いられる。リアルタイム減算は、ブロック510において実行される。十分な減算が、得られると(チップが表面に相互作用していない場合、一定撓みを用いて決定される)、原子間力顕微鏡は、ブロック512においてフィードバックに背景補正データを用いることができる。
【0101】
図13および
図14にしたがって算出された背景は、実質的にプローブが試料表面に接近するにつれて変動する。そのような変動は、プローブと試料表面の距離の関数とする流体力に起因する。そのような変動はまた、プローブが実際に試料に相互作用する前の試料に対するプローブの近さの指標として働くことが可能である。この知識を持ってすれば、所定の背景値が得られるまで、電動係合は、高速で進行することが可能である。しかし、その後、より遅い係合段階が、実行され得る。
【0102】
背景減算はまた、
図15および
図16において示されるように、試料表面とプローブの係合中に実行される。
2つの係合方法間の差は、
図15における「通常の」係合600は、試料表面を検出すべく試料に向けてプローブを駆動させるためだけにステップモータを用いることである。しかし、
図16は、方法700が試料表面を探すとき、各々のモータステップでZ圧電アクチュエータによってプローブを動かす「ソーイング」係合を示す。まず
図15を参照すると、方法600は初めに、ブロック602において、たとえば0.1nm〜約3ミクロンの固定ステップにしたがってチップ−試料の間の距離を減らすべくモータをステップさせる。フィードバック制御をオンにすると(本技法にしたがう力検出)、フィードバックループは、ブロック604において、チップをこの場合、試料に向けて移動させるようにアクチュエータを制御する(提供段階)。ブロック606において、アルゴリズムは、表面が検出されているか否かを判定する(すなわち閾値設定値力に達しているか否か)。得られていなければ、
図5に関連した上記のような背景減算動作は、ブロック602においてモータをさらにステップさせる前に実行される。得られていれば、フィードバックは、解除され、さらに持上げ高が、ピーク力と負の最大吸着力位置の間のz移動を特定のマージン(たとえば10nm)を加えて算出することで計算され、チップは、ブロック610において持ち上げられ得る(たとえば破壊の可能性を最小限にするため)。その後、ブロック612において、背景減算動作が、実行され、さらにブロック614において本技法にしたがうフィードバック制御が、再度初期化される。
【0103】
図16において、ブロック708,712,714および716は、
図15のアルゴリズム600のブロック606,610,612および614に直接対応する。しかし、表面を検出する前に、たとえば当該分野において公知なソーイング係合は、ブロック702においてチップを持ち上げるべく用いられ、その後、ブロック704でモータをステップ
ダウンする。この場合、持上げは、モータステップの1.5倍である。持上げ量は、試料のタイプなどに基づきユーザによって選択され得る。その後、フィードバックは、ブロック706において本技法にしたがって力を検出すべく、オンにされる。表面が検出されない場合、アルゴリズム700は、ブロック710(ブロック608に類似)において背景減算を実行し、その後ブロック702において別の持上げを実行する。表面が、検出されると、走査型プローブ顕微鏡は、ブロック716において試料を画像化することが可能である。
【0104】
図17は、チップ−試料相互作用の実際の状況を例示するとともに、
図6に関連した上記の記載の補足を提供する。実際のチップ−試料相互作用は、同期時間距離マーカの近傍でのみ生じる。相互作用自由領域において、吸着力の解消に起因するカンチレバーの残存自律振動が存在する(またの名をリングダウンという)。そのような振動は、基線変動を生じさせ、
図3において示される同じδFrの変動を与える。そのような変動は、制御装置ノイズになり得る。基線変動を最小限にするため、「基線平均」領域内として表示されたデータは、点線によって表わされる単一定数に平均化される。この定数データは、各々のフィードバック周期においてδFrを算出する上で基線として用いられる。「基線平均」の領域は、データ品質に依存して変動し得る。前記領域は、ほぼ同期時間距離で生じる実際のチップ−試料相互作用の平均化を回避すべく、同期時間距離よりも小さくなる必要がある。
【0105】
瞬間相互作用力は、式1によって算出された力δFrを用いることで決定されることが可能である。式中、Fr_iは、同期時間距離での瞬間値であり得る。
図18において例示されるように、同期時間距離は、ゲート平均によって決定される値でもあり得る(
図7と
図8A/
図8Bも参照)。ゲート平均スキームは、時間域δtにおける撓み値を用い、この時間域における全データ点を平均する。そうすることで、信号対ノイズ比が実質的に改善され得る。Fr_iは、フィードバック制御において設定値として働く。Fr_iは、負のδFrをもたらす値から正の高いδFrをもたらす値まで様々であり得る。δFrの高い正数は、試料との反発相互作用がより強いことを意味する。
【0106】
図19は、ピーク力タッピング(PFT)画像化で用いられる瞬間力制御の手順800を例示する。ブロック802において、アクチュエータは、プローブまたは試料を振動させることで、たとえばピークとピークの間が0.1nmから3μmの範囲の振幅で相対運動を生成する。このとき、チップは、試料に触れていないので、基線および背景は、ブロック804および806において決定されることが可能である。背景が、決定されると、背景はまた、最小検出可能力ができるだけ小さいことを保証すべく、ブロック806において検出撓みから減算される。ブロック808は、
図15および
図16において詳述されるように、係合によってプローブを試料に相互作用させるべく機能する。試料がプローブに相互作用しているとき、ブロック810において期間Tにおける撓みデータが、サンプリングされ、さらに同期時間距離(
図18)、瞬間力Fr_iおよび相対力δFrを分析すべくデジタル化される。基線および背景は、このブロックで
図14にしたがって再検査されることが可能である。
【0107】
次にフィードバックは、ブロック812においてδFrおよびFr_iを既定値で維持すべく用いられる。XYスキャナはまた、ブロック814が、プローブを試料に対して再配置するのに有効であり、最終的には、表面形状画像、およびたとえば弾性、吸着、およびエネルギ消散を示す1つあるいは複数の機械的画像の生成に有効である。
【0108】
図20において、
図20Aにおける時間分解測定曲線は、
図20Bにおける実空間データに変換される。より具体的には、
図20Aは、1変調期における時間の関数とする相互作用力のプロットである。
図20Bは、1変調期におけるチップ−試料の間の距離の関数
とする相互作用力である。物質の弾性特性は、たとえばオリバー−ファー(Oliver−Pharr)モデル、または別の接触機械的モデルを用いて慣例的に傾斜の上方部を用いることで(
図20BにおけるセグメントDEを参照、セグメントCDEは、短距離反発相互作用を例示する)算出されることが可能である。(たとえば非特許文献1を参照)。ファン・デル・ワールス引力は、接近曲線(
図20Aおよび
図20BにおけるセグメントBC)から決定されることが可能であるが、チップが試料から離れるときに生じる毛細管吸着も算出され得る。(たとえば非特許文献2)。チップをxy−平面において移動させるとともにこれらの測定を繰り返すことによって、たとえば弾性、ファン・デル・ワールス吸着および毛細管吸着などの試料特性(セグメントEFは、引力と毛細管力に対応する)が、試料表面領域全体、またはその一部に対して画像化されることが可能である。さらに接近曲線および回収(離脱)曲線の差から、試料の硬度も、画像化されることが可能である。
【0109】
図20Bは、2タイプのデータ、つまり直接測定データおよび派生データを表わす。直接測定データは、たとえば各々の周期内で瞬時に測定される相互作用などのパラメータである。派生データは、曲線のうちの任意の部分から各々の相互作用周期内で算出されたデータである。そのようなデータは、
図20Bにおいて点Cから点Dまでの侵入深度によって算出される変形であり得る。別の実施例は、接近曲線(BCD)および撤退曲線(DEFG)で囲まれる領域によって定義される消散エネルギである。さらに別の実施例は、
図20BにおいてBとF間の差によって算出される吸着力である。任意の派生データは、フィードバック制御パラメータとして用いられることが可能である。たとえば変形が、フィードバックパラメータとして選ばれる場合、
図1の制御ループは、一定ピーク力に代わって一定変形に基づく画像を生成することになる。任意の他の派生データは、フィードバックループにおいて同じ目的を果たすことが可能である。
【0110】
瞬間力制御画像化の1つの重要な適用は、深トレンチ測定における。TappingMode(商標)原子間力顕微鏡が、深トレンチの画像化に用いられる場合(約3:1以上のアスペクト比で、幅100nm未満、一般に10nm〜100nmを有するトレンチを画像化するのが最も難しい)、側壁での強い引力が、振幅変化を生じさせることで、トレンチ深さの誤測定が生じる。フィードバックとして直接反発力を用いることで、チップが試料に接触しているとき、フィードバックは、z変化にのみ応答する。結果的に、力制御フィードバックは、TappingMode(商標)原子間力顕微鏡よりもずっと確実に深トレンチを測定することが可能である。
図21Aと
図21Bは、この測定の実証を提供する。測定は、同じ試料位置で同じプローブと試料を用いる。瞬間力制御フィードバックループは、トレンチ底に達するチップによって実際のトレンチ深さを測定することができた(
図21B)。他方、TappingMode(商標)原子間力顕微鏡は、チップを早期に移動させたので、非常に浅い深さ測定をもたらし、トレンチ底は測定されなかった(
図21A)。
【0111】
最後に
図22A/
図22Bおよび
図23A/
図23Bを参照して、本発明のさらなる特徴が記載される。
図22Aと
図22Bにおいて、原子間力顕微鏡は、反発力域(小振幅反発力モード(Small Amplitude Repulsive Force Mode))、すなわち表面から数ナノメータ離れた反発力域内にチップ−試料相互作用が常に留まっていることを確認すべく、十分小さな振幅(たとえばナノメータ未満)でZを変調すべく動作される。これは、フィードバックとして、ピークとピークの間の力差(Fa−Fb,ピークとピークの間のZ変調に対応する)、またはロックイン増幅器の振幅出力のうちのいずれかを用いることで達成される。フィードバックパラメータは、振幅が十分小さくて力勾配が線形になる場合、反発力勾配に比例する。この場合、フィードバックは、短距離化学結合力、原子解像度に対応する力に対してのみ感受性がある。結果的に、本技法は、高解像度画像化に理想的である。
【0112】
図23Aおよび
図23Bにおいて、
図22A/
図22Bにおいて示されるものに類似した配置が、示されるが、力曲線の引力部分が、用いられる(小振幅引力モード(Small Amplitude Attractive Force Mode))。この場合、システムは、チップ−試料相互作用が常に引力域に留まっていることを確認すべく十分小さな振幅でZを変調する。この場合もやはり、力勾配が線形であり得るように振幅が十分小さい場合にフィードバックパラメータが引力勾配に比例することを考えれば、単純なピークとピークの間の力差(Fa−Fb)、またはロックイン増幅器の振幅出力のうちのいずれかは、フィードバックとして用いられることが可能である。この技法は、チップが試料に接触しないので、試料に対する破壊性が最も低い。小振幅反発力モード(Small Amplitude Repulsive Force Mode)と比較して、フィードバック極性は、逆転する。
【0113】
[利点−ピーク力タッピングモード]
ピーク力タッピングモード原子間力顕微鏡動作の主要な利益は、1.画像化安定性の改善。2.より少ないチップまたは試料への損傷でより高い解像度。3.より高いトラッキング帯域幅またはより高い画像化速度。4.直接的物理量測定能力。5.信頼性のある流体画像化。6.各種の試料および適用に適応させるべく広範囲のカンチレバータイプから選択する能力。7.使い易さである。
【0114】
要するに、ピーク力タッピングモード原子間力顕微鏡動作の利益は、数知れない。上記に列挙した利益は、適用の観点からである。これらの利益は、動作機構における進歩の表れである。
【0115】
画像化安定性の改善:本質的に安定な長期力制御を前提として、ドリフトのない試料画像化は、TappingMode(商標)速度で同時に存在する高さ、剛性、吸着、弾性および可塑性の機械特性の測定とともに得られることが可能である。技法は、DCドリフトによって影響されないので(ピーク力タッピングモードは、数百マイクロ秒ごとに独自の基準を生成する)、定常動作が、熟練したオペラータなしでも得られる。これは、実質的に画像完全性を妥協することなく、数時間または数日間もの連続画像化を可能にする。画像化安定性の利益は、結晶成長のような工程内測定および数分または数時間さえもかかり得るポリマ位相変化の監視に特に有用である。
【0116】
より少ないチップまたは試料の損傷でより高い解像度:既存モードの原子間力顕微鏡動作と比較した場合、低平均トラッキング力と、チップにかかる横力の事実上の排除とを組合わせたピーク力タッピングモードによって提供された低力高速画像化は、多種多様の試料にわたる高速画像化において有意な進歩を提供する。たとえば単一分子弾性が測定されることが可能であり、流体中の狭いDNA試料(たとえば幅が2nmのDNA)も同様である。流体中でDNAを画像化する場合、比較によって、TappingMode(商標)原子間力顕微鏡は、少なくとも2nm低い解像度を有する。しかも、流体中のDNA剛性測定は、TappingMode(商標)原子間力顕微鏡での課題である。なぜなら、原子間力顕微鏡は、特性定量能力を有さなく、主として相対機械特性測定を提供することしかできないからである(たとえば位相画像におけるコントラストを検査することで)。本技法によって、分子レベルまでの特性測定が、得られることが可能である。
【0117】
TappingMode(商標)と比較すると、ピーク力タッピングモードは、より高解像度(たとえば10nm未満、より好ましくは横に約1nm未満の解像度)およびより少なくチップ−試料力(すなわちチップと試料のうちの少なくとも一方に対するより少ない損傷)でデータを獲得することができる。本技法は、他の公知の力フィードバック技法を上回る有意な速度の改善を提供し、さらに小型レバーの使用を必要とすることなくその
ようにする。事実、レバー応答が、いわゆる小型カンチレバーを用いる場合に得られる帯域幅をはるかに超える帯域幅(>10kHz)を有することができるようにするので、むしろ大型レバー(長さが>60μm)が、ピーク力タッピングモードにおいて亜共振で動作されることが可能である。
【0118】
本好適実施形態のさらに別の利益は、画像が典型的なTappingMode(商標)原子間力顕微鏡画像を超える情報を提供できるように、力曲線があらゆるピクセルで生成されることである。あらゆるピクセルでユーザは、剛性、吸着、弾性、可塑性などに関する定量的情報を得ることが可能である。さらにこの場合もやはり、基線チップ−試料の間の距離は、あらゆるピクセルで校正されるので、ドリフトは、生産性および画像信頼性における大きな改善が実現化され得るように、最小化される。
【0119】
より高いトラッキング帯域幅またはより高い画像化速度:特にピーク力タッピング画像は、2kHzよりも大きな動作帯域幅で生成されることが可能である。従来型のタッピングモード帯域幅は、主として遅いカンチレバー動力学のため(チップ−試料の間の距離の変化に対するカンチレバー振幅の遅い応答)、約1kHzである。
【0120】
直接機械特性測定能力:開示された実施形態は、独立して弾性、吸着、エネルギ消散などを測定する。これらの因子はすべて、カンチレバー振動の位相に寄与する。したがって位相チャネルは、TappingMode(商標)原子間力顕微鏡において機械特性情報を表わすべく用いられるが、測定位相の解釈において曖昧さが残る。ピーク力タッピングモードは、直接機械特性測定を提供することで、位相解釈問題を排除する。
【0121】
多種多様の試料および適用に適応させるべく様々なカンチレバータイプから選択する能力:ピーク力タッピングモードは、測定ピーク力がカンチレバー動力学によって制限されないので、カンチレバー動力学に対して感受性がない。これは、真空、空気および流体中における高速画像化を可能にする。
【0122】
一般にTappingMode(商標)原子間力顕微鏡は、カンチレバーに0.3N/mよりも大きなバネ定数を有することを要求するが、ピーク力タッピングモードは、0.01N/mの低さのバネ定数を有するカンチレバーを用いることが可能である。この場合もやはりこれは、ピーク力タッピングモードが毛細管吸着力を克服すべくカンチレバー内に蓄えられた振動エネルギに依存しないという事実によるものである。本技法は外部作動要素(好ましくはピーク力で始動させるフィードバック回路の)を用いるので、毛細管力を克服する機構は、TappingMode(商標)におけるよりもはるかに強力である。TappingMode(商標)では、カンチレバー自体の静的弾性エネルギ(振動プローブの運動エネルギによって供給される)が、毛細管力の克服において試料からチップを引き離す。結果的に、毛細管層の存在下で安定に動作するためのカンチレバーのバネ定数に関する制限は実際上存在しない。したがってピーク力タッピングモードは、少なくとも0.01N/mの低さのバネ定数を有するカンチレバーを用いることで、安定なタッピング制御動作を可能にする。
【0123】
ピーク力タッピングモードは、原子間力顕微鏡動作の1モードにおいて0.01N/m〜1000N/mのカンチレバーの使用を可能にする。これは、単一計器による非常に多様な物質(弾性モジュールにおいて10kPa〜100GPa)の高解像度機械特性マッピングを可能にする。
【0124】
信頼性のある流体画像化:ピーク力タッピングモードがプローブの共振周波数で動作する必要がないという事実は、流体中で画像化する場合に多くの利点を提供する。流体における様々な寄生結合力のため、カンチレバー同調は、TappingMode(商標)流
体画像を成功裏に得る上で難解な段階である。ピーク力タッピングモードは、カンチレバーを同調する(基線平均化、背景減算、その他)必要性を完全に除去する。さらに力制御範囲および非常に広範囲のバネ定数からカンチレバーを選択する能力は、生物試料画像化にとって画像化制御に非常に大きな可能性を与える。
【0125】
使用し易さ:さらに本質的に瞬間力フィードバックが与えられれば、チップの破壊は、実際上排除される。また撓みは、動力学的に補正されるので、一般に同調は必要なく、実質的にいかなるユーザによっても速くて敏速なセットアップが、達成されることが可能である。
【0126】
検討中の本ピーク力タッピングモードは、リアルタイム特性マッピングを用いることで非常に高解像度を提供する非常に低力の画像化を提供する(すなわち瞬間力制御)。力制御は、最小のユーザ介入または介入なしで試料を画像化する十分に長い期間にわたって本質的に安定である(本質的にドリフトなし)。本システムは、同調が必要とされないので(基線平均化および流体力学的背景補正)、より高速でより単純なセットアップを可能にする。しかも、力に対する正確な制御は、基本的にチップの破壊を排除するが、技法/システムは、試料表面に及ぼす横力も本質的に排除する。本システムはまた、プローブと試料が相互作用する前にプローブのリングダウンを待つ必要がないことによって、カンチレバー動力学に対して感受性がない。そして、上記のように、様々なカンチレバーは、TappingMode(商標)原子間力顕微鏡速度でユーザが高さ、剛性、吸着、弾性および可塑性の同時測定を得るために利用可能である(>2kHz)。本ピーク力タッピングモードは、これらの特徴によって、たとえば幅が2nmの試料を流体中で画像化することが可能であり、同様に単一分子弾性などの機械特性測定を改善することが可能である。
【0127】
[ピーク力タッピングモード使い易さ]
本発明の好適実施形態は、未熟ユーザに熟練したユーザに類似した品質で高品質画像を生成する能力を与えるべくピーク力タッピングモードを用いる。たとえばチップが試料に相互作用するとき(チップ−試料力に対する複雑な関係を表わす)、プローブ振動の設定値振幅または位相からの偏差に基づきチップ−試料相互作用を制御することで動作するTappingMode(商標)原子間力顕微鏡とは対照的に、ピーク力タッピングモードは、プローブ変調周期に沿った各々の点でのチップ−試料相互作用力に基づきチップ−試料相互作用を制御する。この相互作用の直接制御は、制御を簡略化するとともにカンチレバーと、アクチュエータを含む他の機械的成分の動力学を含む変数を複雑化する作用を好適実施形態が最小化できるようにし、したがって安定性を維持できるようにする。
【0128】
図24Aは、上昇する領域1004と低下する領域1006を含む試料プロファイル(高さ)1002の略グラフ1000を示す。このプロファイル1002に重畳されるのは、原子間力顕微鏡によって得られたトラッキング信号または画像1008である。指定方向に走査が続くにつれて、安定なフィードバックが、維持される。安定なフィードバックは、自励、すなわち入力にもかかわらず、振動出力を生成する傾向がないフィードバックループを指す。しかし、点「X」において、フィードバックは、不安定になり始め、画像は、よりノイズが出現し始める。フィードバックのゲインを下げることで、不安定なフィードバックは、より安定になり得る(画像化帯域幅の減少、または画像化速度、その他−の代償で)。
図24Bは、重畳されたトラッキング信号1008に対応する誤差信号である。不安定なフィードバックの高さ信号および誤差信号はともに、安定なフィードバックのものよりもノイズが出現することが重要である。この現象は、下述される本発明の自動ゲインスケジューリング装置および方法において用いられることになる。
【0129】
図25は、好適実施形態によって用いられるフィードバック不安定性検出をフィードバック高さまたは誤差信号の振幅スペクトルのプロットを用いて概念的に例示する。信号ス
ペクトルは、安定なフィードバック1010および不安定なフィードバック1012の両方で示される。フィードバック不安定性は、いくつかの基準のうちの1つあるいは複数に基づき定量的に測定されることが可能である。これらの基準のうちの数例は以下の通りである。1.特定周波数(f0)でのスペクトル振幅。周波数f0は、フィードバックが不安定な場合にシステム同定を用いることで、あるいはフィードバック信号のスペクトルを観察することから決定される。2.高さ信号または誤差信号のRMS誤差。3.高さ信号または誤差信号の標準偏差。
【0130】
図26A〜
図26Dに移ると、チップが試料に接触しなくなるとき(「パラシュート」としても公知)のチップ−試料力の図が、示される。
図24Aに類似して
図26Aは、試料プロファイル1022およびそれに重畳された原子間力顕微鏡トラッキング(高さ)信号1024を示す略
図1020を例示する。この場合、「A」と表示された領域において、画像走査中、チップは、試料表面に接触しなくなり、さらに制御システムが試料表面にチップを戻そうとするので(一般にプローブまたは試料のいずれかを移動させることで)、パラシュートしている。
図26Bは、下り傾斜面上(たとえば
図26Aにおける1026)で、誤差信号(測定チップ−試料相互作用力と設定値間の差)は、マイナスになり、制御システムにチップを試料に向けて移動を試みるようにさせる。平坦な領域(1032)において、誤差は、チップが補正なしに表面をトラキッングしているようにゼロである。上り傾斜面(1030)上では、誤差は、プラスであり、制御システムは、この情報を用いることで、チップを移動させて試料から離そうとする。しかし、パラシュート領域「A」(試料の下り傾斜部分1028に対応)において、誤差はまず、下り傾斜部分を示すが、フィードバックは、速い下降傾斜についていけないので、チップ−試料相互作用力がゼロになると、チップは、表面のトラッキングを停止する(
図26Cを参照)。
【0131】
パラシュート中、チップ−試料相互作用力は、チップ−試料の間の距離に関連しない。したがってパラシュート中、フィードバック安定性は、損なわれる。パラシュート期間中ゲインスケジューリングができないようにするので、パラシュート事象が、検出されることが重要である。ピーク力タッピングモードを用いるパラシュートの検出方法は、下記で説明される。
【0132】
チップ−試料相互作用力データの急上昇を示す
図26Dは、チップ−試料相互作用の領域に対応する力曲線を例示する(この場合、フィードバック補正が要求される)。個々のチップ−試料相互作用力曲線の拡大表示は、
図20Aにおいて示される。相互作用力は、引力領域BC(スナップ接触−ファン・デル・ワールス力)、チップが表面に相互作用し、その振動周期を継続するときの反発力領域CDE、チップが表面から離れようとするときの吸着領域EF、その後にチップが離れる点Fを特徴とし得る。たとえばTappingMode(商標)を超えるピーク力タッピングモードの1利点は、先に詳細に記載されたように、相互作用力曲線上のあらゆる点が表面をトラッキングすべく制御装置によって用いられることが可能なことである(別の変調周期を駆動する前にリングダウンを待つことなく)。パラシュートチップの場合、パラシュートは、以下の基準のうちの1つあるいは複数によって現在好適な実施形態において検出されることが可能である。1.振動期内のピーク力/吸着力またはピークとピークの間の力が、閾値未満である。2.フィードバック誤差信号が、2つの閾値間にあり、ピーク力が、ゼロに近いことを示す。3.フィードバック誤差信号の特定周波数(または複数の周波数)での標準偏差およびスペクトル振幅のうちの少なくとも一方が、閾値未満であり、フィードバックループが開いていることを示す。
【0133】
原子間力顕微鏡の動作に要求される技術を最小化すべくピーク力タッピングモードで動作可能な原子間力顕微鏡1100は、
図27において略図で示される。原子間力顕微鏡1100は、チップ1106を支えるカンチレバー1104を備えるプローブ1102を含
む。プローブ1102は、プローブホルダ1108に据え付けられる。この場合、プローブホルダ1108は、アクチュエータ1110に結合される。アクチュエータ1110(たとえば圧電アクチュエータ)は、プローブ1102のチップ1106を「Z」方向(試料表面に対して直角)に移動させることが可能である。プローブ1102が、試料1109に相互作用するとき、その撓みは、光線「L」をレバー1104の背側に向ける光源1114(たとえばレーザダイオード)を含む撓み検出スキーム1112によって監視される。レバー1104は、光線「L」を検出器1116(たとえば象限光学検出器)に向けて反射する。前記検出器は、撓みを示す信号をADC1118に伝送する。ADCブロック1118によってアナログ撓み信号が、デジタル信号に変換された後、得られた信号は、ピーク力タッピングモード力検出ブロック1120に伝送される。検出された力信号(チップ−試料相互作用力を1つ1つ抽出する上記の装置と方法にしたがって決定される)は、比較回路1122に伝送される。好ましくは、ピーク力は、力設定値と比較され、誤差信号は、PI制御装置1124に送られる。PI制御装置1124は、デジタル信号をアナログ信号に変換するZ走査DACブロック1126に伝送される制御信号を出力する。前記信号は、チップ−試料の間の距離を制御すべく、Z圧電アクチュエータ1110にさらに適用される。上記の成分は、フィードバックループを形成するので、チップ1106と試料1109間の相互作用力は、力設定値にしたがって調節される。
【0134】
動作中、DAC1126によって出力されるとともにゲイン制御回路1123(フィードバック制御回路)によって最適化されるZ走査制御信号は、ZオフセットDAC1136の出力(さらに下記で記載される)およびZ変調DDS(直接デジタル合成装置)1138によって提供されたピーク力タッピングモードの振動駆動と加算回路1139で結合される。
【0135】
安定性を促進すべく、したがって熟練したユーザの必要性を最小限にすべく、ゲインは、ゲイン制御回路1123を用いることで自動的に同調される。Z圧電アクチュエータ1110の制御に用いられるPI制御装置1124からの制御信号も、ブロック1128に伝送され、好ましくはピーク力に対応する位置で高さデータを再サンプリングする(ブロック1120を参照)。次に、振動検出アルゴリズム1130は、高さデータに振動が存在するか否か、すなわち不安定性の発現があるか否かを判定すべく用いられる。システムが、振動しようとし、不安定になると、高周波数ノイズが、検出されることになる。アルゴリズム1130が、ノイズ量を決定する方法は、
図28に関連して下記でさらに詳細に述べられる。振動検出アルゴリズム1130は、この章でのみ短く「ノイズ」と呼ばれる不安定性の大きさを示す信号を出力する。そのような不安定性は、それ自体をノイズのように示し、これは、フィードバックループに起因する。しかし、フィードバックがオフの場合のシステムの他の部分におけるノイズと混同されるべきではない。このノイズ信号は、加算回路1132でノイズ耐性マージンと比較される。ノイズ耐性マージンは、製品に関連する所定のパラメータであり、走査中に獲得された試料粗さ情報にしたがう画像化の開始後にさらに最適化されることが可能である。たとえばノイズ耐性は、試料が非常に平坦であると判定されると、減らされ得る。回路1132の誤差出力が、所定マージンを超える場合、ゲイン制御装置1134は、たとえば振動検出アルゴリズム1130から出た不安定信号の大きさが、ノイズ耐性マージン未満になるまで、徐々に(たとえば5%、各々の反復)IゲインとPゲインを減らすことによって、制御装置1124のゲインを調整すべく、適切なゲイン制御信号を決定する。つまり、各々の画像化位置でゲインは、システムの安定性を保証すべく最適化され得る(最適化段階)。
【0136】
この自動化ゲインスケジューリングがアクティブの場合、原子間力顕微鏡動作中に熟練ユーザがゲインを同調する必要性は、排除される。
フィードバックのゲイン自動化調整における決定的な要素のうちの1つは、走査中に不安定性の発現を迅速かつ正確に判定する能力である。この判定は、不安定性がゲイン制御
装置においてノイズを誘発した場合に間違って解釈され得る未知の表面形状によって複雑化されることが多い。
図28に移ると、
図27の振動検出アルゴリズム(振動検出ブロック)1130を実行するアルゴリズム1140は、さらに詳細に述べられる。高さは、任意の原子間力顕微鏡システムで校正されるが、高さは、たとえばスキャナZレンジおよびカンチレバー撓み感度、などの任意のシステム特異的パラメータとは無関係であるので、高さ情報は、不安定性振動のレベルの判定に用いられる。ノイズ耐性マージン(ブロック1155)は、不安定性誘発ノイズの許容された大きさとして定義される。このマージンが、高さ信号を用いて検出される場合、そのようなマージンは、フィードバックシステムにおいて許容されるノイズの絶対値を提供する。たとえばノイズ耐性マージンが、1nmの場合、ブロック1146または1148からの任意の不安定性出力は、許容できると考えられる。試料高さが100nm(レンジ)では、そのようなマージンは、画像における信号対ノイズ比100に対応する。しかし波形が1nm未満の平坦な試料では、ノイズ耐性マージンは、試料高さ信号よりも大きくなり得る。そのような状況において、ノイズ耐性マージンは、合理的に優れた画像(S/N=10)を得るため、0.1nmに減らされるべきである。このマージンは、試料の粗さに基づき自動調整されることが可能である。原子間力顕微鏡動作中に得られた高さデータは、試料表面形状とシステム振動の両方を反映する。一般的にアルゴリズム1140は、不安定性の発現を示すべくノイズが十分に大きいか否かを判定するために、試料トポロジィをフィルタ処理して除去するように機能する。走査中、試料トポロジィは普通、隣接するピクセルにおいて大きな変化を有さないことを知っておく必要がある。たとえば3つの隣接する点間で高さの差を算出することで、試料トポロジィは、ほとんどフィルタ処理で除去されることが可能である。これは、以下の式を用いて示される。
【0137】
位置x0周りの3つの連続的なピクセルの高さつまりH(x0−Δx),H(x0),H(x0+Δx)を以下のように仮定する。
H(x0+Δx)=H(x0)+dH/dx(x=x0)Δx+d
2H/dx
2(x=x0)Δx
2+d
3H/dx
3(x=x0)Δx
3+d
4H/dx
4(x=x0)Δx
4+・・・(1) 。
【0138】
H(x0−Δx)=H(x0)−dH/dx(x=x0)Δx+d
2H/dx
2(x=x0)Δx
2−d
3H/dx
3(x=x0)Δx
3+d
4H/dx
4(x=x0)Δx
4+・・・ (2) 。
【0139】
式1を式2に加えると、
H(x0+Δx)+H(x0−Δx)=2H(x0)+2d
2H/dx
2(x=x0)Δx
2+2d
4H/dx
4(x=x0)Δx
4+・・・(3) 。
【0140】
したがって
{H(x0+Δx)+H(x0−Δx)−2H(x0)}/2=d
2H/dx
2(x=x0)Δx
2+d
4H/dx
4(x=x0)Δx
4+・・・(4) 。
【0141】
小さな位置変化Δxによって、高さの差は、小さくなる。
これに関して、
図29を参照すると、PI制御装置1124(
図27)によって出力された高さ制御信号の1実施例は、Aで示される。この場合、フィードバックループは、t1とt2間で安定である。フィードバックループは、t2からt5にかけて振動し始める。
図28に戻って参照すると、高さデータは、ブロック1142において再サンプリングされる。このような状況における再サンプリングは、好ましくは少なくとも3つの隣接する力曲線のピーク力位置で高さデータ点を抽出することを意味する。ブロック1144において、選択数のデータ点またはピクセル間の高さの差が、判定される。たとえば3点が選ばれると、計算は、式5になる。
【0142】
H Diff(i)={H(i-1)+H(i+1)−2*H(i)}/2…(5) 。
この動作の結果は、
図29Cに示される。トポロジィデータは、フィルタ処理によってほとんど除去され、ほんの僅か残るが、t2とt5間の振動データは、基本的に変わらない。
図29Dで示されるように、この差の絶対値|H Diff(i)|は、特定時間でのフィードバックの安定性の程度を示す。
図28を参照すると、これは、ブロック1146において行われる。この段階は、本質的に振動検出器のように機能する。次に、ブロック1148において、移動平均が、決定され得る。比較的長期間にわたって計算される高度差の移動平均を決定することで、フィードバックループの安定性の程度を示す基線が、確立される。移動平均の決定は、トポロジィが、高度差計算に用いられる所定の試料においてフィルタ処理で除去され得ないような有意なトポロジィの変化を示す試料にのみ必要とされる。そのような試料には、たとえば急な段のあるシリコン格子が含まれる。そのような場合、トポロジィの急激な変化は、高度差出力データにおいて大きなスパイクを生じる。それらのスパイクは、一般に短命なので、それらを
図28、ブロック1149で示される動作によって高度差データの移動平均と比較することで、それらのスパイクは、完全に除去されることになる。一方、振動が存在する場合、問題のある振動ノイズは、一般にトポロジィ変化よりもずっと長く持続するので、関連する高度差データは、先の移動平均化データに類似する傾向があるため、本質的に見過ごされる。
【0143】
方法1140を続けると、ブロック1149において、ブロック1146で得られた差の絶対値が、移動平均のある倍数、たとえばブロック1148で計算された移動平均値の4倍未満である場合、振動検出アルゴリズム1140の出力は、|H Diff(i)|である。差の絶対値が、その倍数よりも大きい場合、アルゴリズム1140の出力は、移動平均値である。次にこの量のRMS値が、ブロック1150において決定される。これこそが、
図27に関連して上記に記載された加算回路1152によって「ノイズ耐性マージン」と比較される値である。最後に、ブロック1154においてゲイン制御フィードバック(ゲインの増大/減少)が、決定されるとともに回路1132の誤差出力に基づきPI制御装置1124に伝送される。ゲインは、振動検出アルゴリズム1130の出力がノイズ耐性マージン1155よりも低ければ、増大される。ゲインは、振動検出アルゴリズム1130の出力がノイズ耐性マージン1155よりも高ければ、減らされる。
【0144】
ピーク力タッピングモードを用いる原子間力顕微鏡動作の詳しい実行は、
図30において例示される。ピーク力タッピングモードを活用するとともに計器を使い易くするため、上記のような自動ゲインスケジューリング制御(本明細書において「オートパイロット」または「原子間力顕微鏡のオートパイロット」(自動制御段階)とも称される)は、次のように実行される。ユーザは、ブロック1502において所望の走査サイズを定義する。次に係合ルーチンが、ブロック1504において開始され、チップと試料を接触させる。次に原子間力顕微鏡システムは、ブロック1506において「オートパイロット」がオンか否かを判定する。オンでない場合、このルーチンは、終了し(ブロック1530)、原子間力顕微鏡は、自動ゲイン制御なしにオペラータ制御フィードバックを用いることで機能する(一部の熟練したユーザは、それらの測定を監視するとともに手動でゲインおよび設定値調整を行うことを好むかもしれない)。オートパイロットがオンの場合、動作パラメータは、ブロック1510におけるDSPのように、工場出荷時に定義されたデフォルト値によってブロック1508において初期化される。ブロック1512は、オートパイロット機能が、DSPで実行されることを示す。
【0145】
パラメータが、初期化されると、走査サイズは、ブロック1514において小値に設定される。小さな走査(たとえば10nm)は、初期ピーク力設定値を決定する低ゲインと設定値基準を提供するゲインで実行される。全ての原子間力顕微鏡画像化でチップ−試料相互作用のピーク力を最小限にすることで、ほとんどの場合、チップ寿命と試料完全性の
改善がもたらされる。システムは、システムにおける基線ノイズの情報に基づき最小設定値を決定することが可能である。たとえばチップが試料に相互作用していない場合、力検出ノイズが、100pNであれば、設定値は、300pNで設定され得るので、フィードバック制御にとって十分な信号対ノイズ比を可能にする。ブロック1516において、係合が確認され、さらにブロック1518において、システムは、初期ゲインおよび設定値を最適化しようと試みてこれらを変調する。最適化は、以下を含む反復プロセスである。
【0146】
1.チップ−試料相互作用が存在できないようにするため、チップを持ち上げることで、システム背景ノイズを決定することと;
2.段階1において決定されたピーク力ノイズ背景よりも通常3倍高い設定値を決定することと;
3.ノイズがノイズ耐性マージンとほぼ等しくなるまでゲインを増大すること(たとえば所定の段階において、反復的に)。
【0147】
ブロック1520においてゲインおよび力設定値が、小さな走査サイズで決定されると、システムは、ブロック1522においてユーザ入力走査サイズを元の状態に戻し、さらに試料データを獲得すべく原子間力顕微鏡動作を始める。
【0148】
ブロック1524において、システムは、アルゴリズムがゲインまたは設定値を調整しているか否かを判定する。ゲインと設定値のいずれもが、アルゴリズムによって調整されていなければ、デフォルトゲイン/設定値が、ブロック1526において復元される。次にシステムは、ブロック1528において監視ループ(監視モード)に入る。監視モードは、振動が閾値を超えるか否かを判定する。超える場合、ゲインが、調整され得る(減少される)。超えない場合、ゲインは、より優れたトラッキングのため増大され得る。監視モードはまた、パラシュート事象を検出するように機能する。パラシュート事象が、上記のように検出される場合、設定値は、性能を最適にすべく増大され得る。設定値の増大は、好ましくは毎回、5%の増分によって実行される(随意に上記で概略された段階1〜3を確認する)。上記は、ユーザ定義の試料走査サイズの走査が、終了するまで続行する。
【0149】
プローブと試料との間の相対位置は、2つの異なる概念を表わすということを指摘することが、重要である。チップは、周期的に移動しているので、任意の瞬間におけるプローブの位置は、プローブ位置と称される。1運動期間における平均位置は、平均プローブ位置である。たとえばプローブが、角振動数「w」および振幅「a」で正弦波的に移動する場合、任意の瞬間におけるプローブ位置は、a*sin(wt)である。しかし、1正弦周期における平均は、ゼロであるので、プローブの平均位置は、ゼロである。
【0150】
フィードバックループによって制御されるZ位置は、平均位置の制御を提供する(制御段階)。
つまり、上記のフィードバック制御は、プローブ振動/チップ−試料相互作用の各々の変調期において実質的に同じピーク相互作用力(既定瞬間力)を維持することができる。本方法は、ノイズ背景に基づきピーク相互作用力に関連する設定値を自動的に決定し、さらに不安定性の振動の大きさにしたがってフィードバックのゲインを自動的に決定する。そうすることで、原子間力顕微鏡は、自己最適化ゲインと設定値で画像を得るべく、未熟ユーザによって使用されることが可能である。
【0151】
タッピングモードと対照的にピーク力タッピングモードにおけるフィードバック特性は、かなり異なる。ほとんどの原子間力顕微鏡制御スキームにおいて、フィードバックループは、微積分ゲイン制御、または単純にP/Iフィードバックループを用いることで実行される。フィードバックは、既定値(設定点)および現行ピーク力値間の差によって駆動される。この差は、先に述べたように、誤差信号とも呼ばれる。P/Iフィードバックル
ープは、線形補償器である。フィードバックを用いるために補正されるべき誤差信号も、チップ−試料相互作用によって直線的に変動している場合、P/Iフィードバックループは、最も予測可能な挙動を有する。ピーク力誤差は、そのような誤差がチップ−試料相互作用によって直線的に増大するので、本来線形である。この誤差の直線性は、様々な試料にわたって長期のロバスト性でP/Iゲインの自動的同調(ゲイン最適化とも呼ばれる)を得る重要な要素である。
【0152】
図28および
図30において記載されたゲイン最適化は、最高速フィードバック応答、したがってより速い画像化のため、ゲインを最高帯域幅に増大するように機能する。
設定値最適化は、相互作用ピーク力を最小限にすべく
図28および
図30において記載されるプロセス、したがって表面のトラッキングに必要な設定値を意味する。
【0153】
走査速度最適化手段は、可能な限り最高の走査速度を得ながら、走査速度が、所定マージン(ピーク力誤差)で機能する設定値を可能にできるように、走査速度を自動的に調整する。たとえば設定値マージンが、10nNの場合、自動ゲイン調整および設定値調整は、ピーク力が10nNを下回る任意の最適化値に取り組むことになる。10nNでの設定値調整が、安定性を維持するのに不十分である場合、
図30における自動制御は、最大ピーク力誤差が10nN内にあることを保証すべく走査速度を減少させることになる。
【0154】
走査速度は、
図31において示されるように、ピーク力タッピングモードを用いて最適化すべく自動的に調整されることが可能である。
図31において、走査制御アルゴリズム1600のフローチャートが、示される。この場合、原子間力顕微鏡は、各々のチップ−試料相互作用周期におけるピーク力の連続監視を含むブロック1602においてピーク力タッピングモードで動作している(誘発段階)。ブロック1604において、方法1600は、ピーク力が既定閾値よりも大きいか否かを判定する。たとえば閾値は、8ボルトよりも大きな測定値に対応し得る。ピーク力が既定閾値よりも大きい場合、走査速度調整信号は、ブロック1608において走査速度を適量減らすべくスキャナに伝送される。ピーク力が既定閾値よりも大きくない場合、方法は、ブロック1606において背景変化が、特定の閾値(たとえば25ボルト)よりも大きいか否かを判定する。大きい場合、走査速度は、ブロック1608において減らされる。大きくない場合、ブロック1610において現行走査速度が、維持される(維持段階)。この最適走査速度制御は、ピーク力タッピングモードで動作するとき、あらゆるピクセルで最適化されることが可能である。したがってピーク力タッピングモードは、最短量の捕捉時間で高品質画像を獲得する上で理想的なバランスをうまく取る。ブロック1606をさらに説明するため、例として
図32Aおよび
図32Bを参照すると、
図32Aは、チップ−試料相互作用力周期の両側に平坦な背景領域を例示する。
図32Bにおいて、背景は、試料表面形状の変化によって影響を受ける−チップはおそらく、試料中にはまり込んでいるので、表面をトラッキングできないかもしれない。この場合、この背景変化は、同定されるとともに走査を遅くすべく用いられる。
【0155】
ピーク力タッピングモードはまた、自動Zリミット制御を可能にし、この原子間力顕微鏡の使い易さをさらに促進する。Zリミットパラメータは、Z圧電アクチュエータのダイナミックレンジを定義する。プローブは、このレンジの中心に置かれることが好ましい。より大きなZリミットは、表面形状の変動が大きな試料の画像化を可能にするが、同時にビット解像度を減少させる。特定の平坦な試料では、Zリミットは、高解像度表面形状画像を得るために調整される必要がある。これまでZリミット調整は、ユーザの経験に基づいていた。ピーク力タッピングモードにおいて、Zリミットパラメータの制御は、自動化されている。この点に関して、
図33に移ると、方法1700が、ブロック1702においてピーク力タッピングモードで動作を開始した後(Zリミットは、最大Zレンジを可能にすべく設定される)、方法1700は、ブロック1704においてユーザによって定義
された走査領域に対応する試料表面のうちの1つのコンプリートフレームを捕捉する。次にフレームのRMS高さが、ブロック1706において計算される。RMS高さが、ブロック1708において決定されるように閾値(たとえば10nm)未満なら、Zリミットは、ブロック1710において調整される。たとえば閾値を満たす平坦な試料では、Zリミットは、特定の値、たとえば2ミクロンに減らされるとともにフレームが、再走査され得る。これは、ユーザが、画像に納得し、1712へ進むまで、繰り返し行われ得る。調整されたZリミットは、ユーザが、走査領域を変更するまで、維持されることが好ましい。
【0156】
自動化に加えて、ピーク力タッピングモードは、良質の画像化を保証するとともに、試料のあらゆる走査位置(たとえばピクセル)で試料の機械特性測定値を得る能力を最大化するのに有用である。たとえばピーク力タッピングモードは、チップ半径監視の実行に用いられることが可能である。高品質画像を得るための1つの主要な妨げは、鋭いプローブチップにいつ傷害が起きたかをユーザが検出し難いことである。チップは、汚染のため(試料または環境由来の物質が、チップに付着する。これは、たとえば流体中で画像化するか油性試料を画像化する場合に生じることが多い)と物理的構造の変化(チップの一部が破砕するか磨滅する)からのうちの少なくとも一方によって傷害が起こり得る。傷害が起きたチップは、試料位置で得られた力曲線を精査することで同定されることが可能である。
図34は、チップの調子を示す力曲線のうちの1部分を例示する。
図34において、略グラフ1801は、チップ軌道を表わす。この軌道は、スキャナ制御信号を用いて定義された正弦信号と任意の形状のうちの一部であり得る。試料に近い位置でのファン・デル・ワールス引力は、1802−1が非相互作用ゼロ力基線を表わす略グラフ1802においてセグメントA−Bとしてプロットされる。このセグメントの傾斜は、チップ半径を用いることで決定される。より大きなチップ半径は、ファン・デル・ワールス力の早期発現に対応して点Aを左に移動させることになる。セグメントA−Bを分析することで、チップ半径を推定できるとともにチップが依然として鋭いか否かに関する判定を行い得る。特に領域A−Bの傾斜は、チップアーチファクトの指標を提供する(点線は、アーチファクトが存在する場合の応答を概略的に例示する)。ピーク力タッピングモードでの1つあるいは複数の力曲線は、ありとあらゆるピクセルで生成されるので、チップ力監視は、走査中、実質的に瞬間に起こり得る。したがって画像化を解釈するとともにチップに傷害が起きているか否かを同定しようとして試験力曲線を得るよりはむしろ、ピーク力タッピングモードで動作する原子間力顕微鏡は、あらゆる走査位置でそのような状態を自動的に同定することができる(たとえば数百マイクロ秒ごとに)。同定されると、走査は中断されることが可能であり、さらにユーザは通知を受け、それによって役に立たないデータをこれ以上獲得しないようにするとともに、ユーザが傷害を受けたチップを交換できるようにする。
【0157】
チップの調子の他の指標は、汚染である。そのような汚染は、
図34における略グラフ1803の斜線領域「w」を分析することで判定される。汚染は、吸着の仕業として知られている。吸着の仕業は、チップが水、またはチップが表面から引っ込むときにメニスカスを形成し得る別の物質によって汚染される場合、より大きい。吸着の仕業が大きいほど、より厄介な汚染を表わす。各々のピクセルで力曲線が獲得されるので、汚染に関するチップの調子も、連続して監視され得る。
【0158】
チップが、たとえばポリエチレングリコール(PEG)またはデンドロンなどの特定の化学化合物との化学結合によって機能化される場合、吸着の仕業は、意図的に導入される。この場合、化学化合物が、たとえばポリエチレングリコール(PEG)またはデンドロンとの結合を生成する特定の相互作用を示す分子部位に相互作用するとき、機能化されたチップだけが、有意な吸着の仕業を生成する。この相互作用を監視することで、吸着マップは、化学的または生化学的認識マップになり得る。
【0159】
図34の略グラフ1802における接触点Dに同期化される電気、光、磁気または熱摂動あるいは励起も適用されることが可能である。電流、電圧、熱特性、磁気反応または光学分光学反応の同期検出は、点Dが、近接試料相互作用(または近接場相互作用)における制御を表わすので、実質的な信号対ノイズの改善を得ることが可能である。
【0160】
[利点−ピーク力タッピングモードおよび使い易さ]
要するに、ピーク力タッピングモードは、原子間力顕微鏡を未熟なユーザが動作できるようにするいくつかの動作上の利点を提供する。使い易さを考慮すると、いくつかの画像化因子は、熟練したユーザの必要性を最小限にすべく考慮されなければならない。まず、フィードバックの安定性は、維持されなければならず、ピーク力タッピングモードによって可能な上記の自動ゲイン同調/スケジューリングによって、安定性は、手動でゲインを調整する熟練者がいなくても実現される。つぎに、良質画像を得るため、原子間力顕微鏡は、試料表面をトラッキングしなければならない。瞬間チップ−試料相互作用力に基づき制御を行うことによって、設定値力は、最小誤差で最適にトラッキングすべく選択されることが可能である。また上記のような走査速度および自動Zリミット制御は、画像化速度または高品質画像の獲得能力に支障をきたすことなく原子間力顕微鏡を動作させる場合、熟練者の必要性を最小限にするように働く。
【0161】
たとえばTappingMode(商標)などの公知の振動原子間力顕微鏡動作モードとは対照的に、ピーク力タッピングモードは、全く異なる力学的状態で動作する。振動モード設定値は通常、チップと試料との間の相互作用および力と非常に複雑な関係を有するパラメータである振動の振幅または位相である。本明細書において記載されるように、ピーク力タッピングモードは、チップが試料表面に相互作用するときの各々の点のチップ振動を考慮し、さらにそのフィードバックスキームにおいて対応力情報を用いる。これは、好適実施形態がユーザ制御フィードバックなしに動作できるようにし、ユーザ調整は、画像化中に要求されない(誤差信号の自動最小化)。ピーク力タッピングモードはまた、同調による(単純な事前画像手順だけを要求する−
図30)試料との断続的接触(およびその了解された利益)を提供し、さらに同調なしのセットアップを可能にする。結果的に、未熟者は、同調する必要なく特定の解像度(たとえば1nN)以下および特定の速度(たとえば1/2Hz、256ピクセル)以上で画像化することができる。
【0162】
しかもあらゆるピクセルで力曲線を提供することで、ユーザは、妥当な速度および特定の解像度で決定論的データ(たとえば吸着)を得ることができ、画像化中にそのようにすることが可能である。これはすべて、チップと試料との間の単一相互作用に基づく応答を可能にする力(チップ−試料)で直接フィードバックすることで可能になる(線形伝達関数を表わす−公知の振動モードとは正反対)。
【0163】
特に上記の概念はすべて、同様に電気的コンテキスト(たとえばSTM)においても用いられることが可能であり、それによって計器は、電流でフィードバックする。
また、フィードバックの複雑性のため、従来型の振動モードにおいて得られたデータは一般に複雑な間接的解釈を必要とする。ピーク力タッピングモードは、「エンベロープ」に基づくタッピングよりはむしろ力曲線に基づくことを考えると、データの直接的解釈を可能にする。
【0164】
ピーク力タッピングモードで動作する別の利益は、特定の試料をより効果的に画像化する能力を含む。たとえば半導体適用において、原子間力顕微鏡は、狭トレンチを確実に画像化することができないので、そのような測定を実行したいと思うユーザに原子間力顕微鏡以外の計器を選択させることが多い。しかしながら、ピーク力タッピングモードにおいて、ピーク相互作用力は、直接的力フィードバックとして用いられ、チップは、あらゆる
力曲線において試料に接触しているので、高アスペクト比試料特性の信頼できる測定を可能にする。
【0165】
さらにピーク力タッピングモードは、パラメータのドリフトに左右されない。たとえばTappingMode(商標)原子間力顕微鏡自由振幅は、空気中の駆動振幅ドリフトまたは液体中の流体セル駆動効率ドリフトのいずれかのため、画像化中に変化し得るので、チップ/試料力の変化を生じさせ、チップ/試料相互作用の損失をもたらし得る。そのようなドリフトは、TappingMode(商標)原子間力顕微鏡が、長期間安定な画像化を実行させないようにする。ユーザは、特に液体環境において従来型の振動原子間力顕微鏡モードを用いる場合、1時間未満に対してピーク力タッピングモードでは1時間よりも長い間(夜間を含む)画像化することが可能である。
【0166】
全体として、ピーク力タッピングモードにおいて、環境条件に対するカンチレバー応答の非干渉化が、存在する。真空(流体)および大気中の画像化は、セットアップに影響を及ぼすことなく達成されることが可能なので、計器を非常に使い易くする。振動周波数は、任意のカンチレバー共振に関係なく設定されることが可能である−流体中での使用を大いに単純化する。特に公知の断続的接触モードは、共振での動作を必要とするが、ピーク力タッピングモードは、亜共振で動作することが望ましい。これは、この場合もやはり超小規模の瞬間(平均ではなく)力(約1μN〜1pN)に基づく制御能力のためである。結果的に、原子間力顕微鏡はまた、カンチレバーQが、亜共振で不適切であるならば(伝達関数は、共振でカンチレバー内に蓄えられたエネルギとは無関係である)、フィードバックをより高速に動作させることが可能である。最後に、ピーク力タッピングモードはまた、上記のように、バネ定数が1〜10N/m未満のカンチレバーの使用を可能にする。
【0167】
本発明を実行する発明者によって考えられる最善のモードが、上記に開示されるが、上記の発明の実践は、それに限定されない。根本的な発明の概念の趣旨と範囲から逸脱することなく、本発明の様々な付加、変更および再配置を行い得ることは、明らかであろう。