特許第6203524号(P6203524)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6203524
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】手持ち式機械工具及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   B25D 11/06 20060101AFI20170914BHJP
【FI】
   B25D11/06
【請求項の数】12
【外国語出願】
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-86832(P2013-86832)
(22)【出願日】2013年4月17日
(65)【公開番号】特開2013-223918(P2013-223918A)
(43)【公開日】2013年10月31日
【審査請求日】2016年3月2日
(31)【優先権主張番号】10 2012 206 452.4
(32)【優先日】2012年4月19日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591010170
【氏名又は名称】ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100123342
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 承平
(72)【発明者】
【氏名】マルクス ハルトマン
(72)【発明者】
【氏名】エドゥアート プファイファー
【審査官】 須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−217472(JP,A)
【文献】 特開昭60−094281(JP,A)
【文献】 米国特許第04932479(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25D9/00−17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動作軸(10)上にたがね工具を取り付けるための工具取り付け口(2)と、空気圧ハンマー機構(6)とを有し、当該ハンマー機構(6)は
モータ(5)により駆動され、当該工具から遠い位置にある死点(22)と、当該工具に近い位置にある死点(23)との間を所定の行程(24)で往復運動するエキサイタ(12)と、
当該工具から遠い位置にある反転点(29)と衝撃点との間を当該動作軸(10)上で往復運動するハンマー(13)と、
当該エキサイタ(12)と当該ハンマー(13)とにより密閉され、当該ハンマー(13)の動きを当該エキサイタ(12)の動きに結合する空気室(15)と、
当該エキサイタ(12)の位置に応じて開度制御される弁装置(46)を介して前記空気室(15)に接続するポンプ(40)を含み、当該エキサイタ(12)が、当該工具から遠い位置にある当該死点(22)に向かう方向に移動中に、当該工具から遠い位置にある当該死点(22)までの全行程(24)の半分に満たない距離まで近づいたとき、当該空気室(15)内の圧力(32)を上昇させる制動装置(39)と
からなる手持ち式機械工具。
【請求項2】
前記工具から遠い位置にある前記死点(22)に向かう方向に移動中前記エキサイタ(12)が、前記工具から遠い位置にある前記死点(22)に向かう全行程(24)の10%未満まで近づく前に、前記制動装置(39)が前記空気室(15)内の前記圧力(32)を上昇させる、ことを特徴とする請求項1に記載の手持ち式機械工具。
【請求項3】
開度制御される前記弁装置(46)は、前記空気室(15)への開口(46)を含み、前記エキサイタ(12)が、前記全行程(24)の半分未満まで工具から遠い位置にある前記死点(22)に近づいたとき、前記エキサイタ(12)が当該開口(46)を解除する、ことを特徴とする請求項に記載の手持ち式機械工具。
【請求項4】
開度制御される前記弁装置(46)の下流側に圧力制御される弁(50)が配置され、前記空気室(15)から制動装置(39)へ流入する空気流を阻止する、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1に記載の手持ち式機械工具。
【請求項5】
前記制動装置(39)が前記空気室(15)内の前記圧力(32)を少なくとも1.5バール及び多くとも3.0バールとなるよう調節する、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1に記載の手持ち式機械工具。
【請求項6】
前記制動装置(39)が前記空気室(15)内の前記圧力(32)を時間区間(27)の少なくとも40%の間2バールよりも高く維持する、ことを特徴とする請求項記載の手持ち式機械工具。
【請求項7】
前記衝撃点(28)から前記ハンマー(13)まで距離が、後方反転点(29)から前記衝撃点(28)までの動作軌跡(31)の3分の1に満たない距離にあるとき、前記エキサイタ(12)に向かう方向に前記ハンマー(13)が移動中に、前記制動装置(39)が前記空気室(15)内の圧力を下降させる、ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1に記載の手持ち式機械工具。
【請求項8】
前記制動装置(39)は、少なくとも0.3バールと、多くても0.7バールとの間の値まで、前記空気室(15)内の圧力を下降させる、ことを特徴とする請求項に記載の手持ち式機械工具。
【請求項9】
前記制動装置(39)は、前記空気室(15)に、前記ハンマー(13)により制御される弁装置(54)を介して接続されるポンプ(40)を含む、ことを特徴とする請求項に記載の手持ち式機械工具。
【請求項10】
前記ハンマー(13)により制御される前記弁装置(54)は、前記空気室(15)への開口(54)を含み、当該開口は、前記衝突点(28)から前記ハンマー(13)までの距離が、前記後方反転点(29)から前記衝撃点(28)までの動作軌跡の3分の1に満たない距離にあるとき、前記ハンマー(13)により解除される、ことを特徴とする請求項記載の手持ち式機械工具。
【請求項11】
動作軸(10)上にたがね工具を取り付けるための工具取り付け口(2)と、空気圧ハンマー機構(6)とを有し、当該ハンマー機構(6)は、
モータ(5)により駆動され、当該工具から遠い位置にある死点(22)と、当該工具に近い位置にある死点(23)との間を所定の行程(24)で往復運動するエキサイタ(12)と、
当該工具から遠い位置にある反転点(29)と衝撃点(28)との間を当該動作軸(10)上で往復運動するハンマー(13)と、
当該エキサイタ(12)と当該ハンマー(13)とにより密閉され、当該ハンマー(13)の動きを当該エキサイタ(12)の動きに結合する空気室(15)とを有する
手持ち式機械工具の制御方法であって、
当該エキサイタ(12)が、当該工具から遠い位置にある当該死点(22)に向かう方向に移動中に、当該工具から遠い位置にある当該死点(22)までの全行程(24)の半分に満たない距離を移動したとき、ポンプ(40)により当該空気室(15)内の圧力(32)を上昇させるステップを含む、制御方法。
【請求項12】
前記衝撃点(28)から前記ハンマー(13)までの距離が、前記衝撃点(28)と後方反転点(29)との間の動作軌跡の3分の1に満たない距離にあるとき、前記ポンプ(40)により前記空気室(15)内の前記圧力(32)を下降させるステップを含む、請求項11に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば手持ち式ハンマードリル又は手持ち式破砕機など、たがね用手持ち式機械工具と、それに対応した制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1はハンマードリルを開示している。本ハンマードリルはハンマーを有し、内蔵された空気室を介して、モータ駆動されるピストンにより付勢される。ハンマードリルの効力と出力レベルは、遠心圧縮機により増加させられる。遠心圧縮機により加圧された空気は、ハンマーにより覆われた開口を通して空気室内に流入する。遠心圧縮機は、特に、例えばハンマーの最適な加速を生じさせる時点又は時間区間において、空気室内の空気圧を上昇させる。リベットセットを打ち付ける直前に、衝撃エネルギーを増加させるため、ハンマーには追加の推力が付与される。
【0003】
ハンマーにエネルギーが伝達されるときに、ユーザは保持力を働かせる必要がある。このエネルギー伝達は、通常10Hzから100Hzの範囲にある手持ち式機械工具のハンマーの動作周期に合わせて周期的に発生し、結果として、ユーザはこの保持力を振動として感じる。生理的な理由から、この振動は低いものである必要がある。従って、衝撃エネルギーを無限に増やすことはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許第2854953号明細書
【発明の概要】
【0005】
本発明による手持ち式機械工具は、動作軸上にたがね工具を取り付けるために設けられた工具取り付け口を含む。空気圧ハンマー機構は、モータにより駆動され、工具から遠い位置にある死点と、工具に近い位置にある死点との間を所定の行程で往復運動するエキサイタと、工具から遠い位置にある反転点と、衝撃点との間を動作軸上で往復運動するハンマーと、エキサイタ及びハンマーにより密閉された空気室であって、ハンマーの動きをエキサイタの動き結合する空気室とを含んでいる。エキサイタが工具から遠い位置にある死点に向かう方向に動いている間に、工具から遠い位置にある死点まで全行程の半分まで近づいたとき、制動装置は空気室内の圧力を上昇させる。手持ち式機械工具の制御方法は、エキサイタが工具から遠い位置にある死点に向かう方向に動いている間に、工具から遠い位置にある死点までの全行程の半分まで近づいたとき、ポンプにより空気室内の圧力を上昇させる。この圧力上昇は、エキサイタの位置のみにもとづいて引き起こされることが好ましい。
【0006】
空気室又は空気ばねは、周辺圧力ではエキサイタにハンマーを弱く結合する。制動装置により上昇した圧力は、効率的に強められた結合をもたらす。従って、長い時間区間にわたりエネルギー伝達が生じ、これにより、必要となるユーザの保持力は少なくて済むものとなる。ここでは、空気室内の最大圧力は下降させられ得る。
【0007】
エキサイタが工具から遠い位置にある死点に向かって移動中に、好ましくは、エキサイタが工具から遠い位置にある死点にその全行程の10%未満まで近づく前に、制動装置は空気室内の圧力を上昇させる。この圧力はエキサイタが死点に到達する前に上昇する。
【0008】
本発明の一態様では、制動装置はエキサイタの位置に応じて開度制御される弁装置を介して空気室に接続したポンプを含む。エキサイタは、それ自身により直接的に、又は内蔵された機構又は反応するアクチュエータを用いてその位置を決定するセンサにより間接的に、弁装置を制御することができる。ポンプにはハンマーとは分離した駆動装置が設けられることが好ましい。
【0009】
弁装置は空気室への開口を有するものであってもよく、例えば、エキサイタが工具から遠い位置にある死点にその全行程の半分に満たない距離まで近づいたときに、開口はエキサイタを解除する。
【0010】
一態様では、開度制御される弁装置の下流側に圧力制御される弁が配置され、この圧力制御される弁は空気室から制動装置へのいかなる空気流も阻止する。開度制御される弁装置は、空気室への空気の流入を開始している間に、圧力制御弁は、開度制御される弁装置が閉じる前にポンプへの接続を密閉する。従って、全体として構成されている弁を開けるタイミングは、工具から遠い位置にある死点から遠く離れたところでの弁を閉じるタイミングに合わせることができる。
【0011】
一態様では、空気室内の圧力を少なくとも1.5バール及び/又は多くても3.0バールに調整する。この圧力上昇により、ハンマーが反転動作するときに減速することとなる。従って、この圧力は、過度に大きな値となってはならない。そのような大きな値となった場合には、ハンマーは反転することができなくなるためである。
【0012】
一態様では、制動装置が、空気室内の圧力を少なくとも周期の40%の間、2バールよりも大きな値に保持する。空気室内の圧力は、エキサイタが工具から遠い位置にある死点に近づく前に、2バールよりも大きな値に既に近づいていることが好ましい。制動装置は、最初は積極的に圧力を上昇させ、その後、例えば、空気室を密閉することにより圧力を維持することができる。
【0013】
一態様では、衝撃点の後方反転点からハンマーまでの距離が、衝撃点の動作軌跡の3分の1に満たない距離にあるとき、エキサイタに向かう方向にハンマーが移動する間に、制動装置が空気室内の圧力を下降させる。エキサイタの位置に依存して、制動装置により圧力が上昇したことにより、その戻り動作軌跡ではハンマーが減速する。この圧力の初期下降は、ハンマーの減速を補償し、時間区間を一定に保つことができる。制動装置は、空気室内の圧力を、0.3バールと0.7バールとの間の値まで下降させることが好ましい。
【0014】
一態様では、制動装置がポンプを含み、そのポンプは、ハンマーにより制御される弁装置を介して空気室に接続される。空気室内を真空にする動作の開始は、ハンマーの位置のみに応じて制御することが好ましい。
【0015】
一態様では、ハンマーにより制御される弁装置が、空気室への開口を含む。この開口は、衝撃点からハンマーまでの距離が、後方反転点から衝撃点までの距離3分の1に満たない距離にあるとき、ハンマーにより解除される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ハンマードリルの図である。
図2】4つの動作位置のうちの1つの位置での、ハンマードリルのハンマー機構の図である。
図3】4つの動作位置のうちの1つの位置での、ハンマードリルのハンマー機構の図である。
図4】4つの動作位置のうちの1つの位置での、ハンマードリルのハンマー機構の図である。
図5】4つの動作位置のうちの1つの位置での、ハンマードリルのハンマー機構の図である。
図6】ハンマー機構のエキサイタ及ハンマーの概略的な動作軌跡の図である。
図7】ハンマー機構内の圧力の時間変化を示す図である。
図8】ハンマー機構内の空気量の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
特に指定のない限り、同一の要素又はこれらの同一の機能については、図面上で同一の引用記号で示す。
【0018】
図1は、たがね用手持ち式機械工具の一例として、ハンマードリル1を概略的に示す。ハンマードリル1は、例えば、ドリルビット4などのたがね工具の軸3の端部を挿入することができる工具取り付け口2を含む。モータ5は、ハンマードリル1の一次駆動を形成し、ハンマー機構6と駆動軸7を駆動する。ユーザは、ハンドル8を用いてハンマードリル1を支え、システムスイッチ9を用いてハンマードリル1の動作を開始することができる。動作中、ハンマードリル1は、動作軸10を中心にしてドリルビット4を連続して回転させることができるが、ここでハンマードリル1は、基礎に衝撃を与える方向11に、動作軸10に沿ってドリルビット4を駆動する。
【0019】
ハンマー機構6は、例えば空気式ハンマー機構6である。エキサイタ12及びハンマー13は、駆動軸10に沿って移動できるようにハンマー機構6内で案内される。エキサイタ12は、偏心フィンガー14又はウォッブルフィンガーを介してモータ5に結合され、強制的に周期的な線形動作を行う。空気ばねが、エキサイタ12とハンマー13との間に空気室15により形成され、ハンマー13の動きをエキサイタ12の動きに結合する。ハンマー13は、ドリルビット14の後方端に衝撃を与えるか、基本的に静止したリベットセット16を介して、その衝撃の一部をドリルビット4に伝達する。ハンマー13とエキサイタ12は、例えば、ガイドチューブ17内に配置されたピストンとして実装されていてもよい。ハンマー機構16と、その他の駆動要素も、機械ハウジング18内に配置されていることが好ましい。
【0020】
図2乃至図5は、エキサイタ12の動作の4つの連続した段階を追って、ハンマー機構6の一例としての実施例を示すものである。ハンマー機構6の相対的な寸法は概略的なものであり、機構設計を図示することのみを目的としている。図6は、時間軸上で変化する角度19に対応したエキサイタ12とハンマー13の動作を示すものである。曲線は、時系列の測定値から得たものである。ハンマー13からエキサイタ12までの距離20は、リベットセット16からハンマーまでの距離21に対して、x軸上で同じ位置となっているときのハンマーの位置に基づいて示してある。従来のハンマー機構のエキサイタとハンマーは、破線の曲線で表示されている。
【0021】
図2は、エキサイタ12が、工具から遠い位置にある後方位置又は死点位置22にある状態を示す。図3は、エキサイタ12が、後方死点22と、工具に近い位置にある前方位置又は死点3との間の中間点にある状態を示す。図4は、エキサイタ12が、前方死点23にある状態を示す。図5は、エキサイタが後方死点22に戻るまでの中間点にある状態を示す。以下では、前方死点23と後方死点22との間の距離を、行程24と呼ぶ。
【0022】
一例であるハンマー機構6において、エキサイタ12は偏心駆動軸14により駆動される。コンロッド25は、偏心ピン26をエキサイタ12に接続する。以下の記載に関して、エキサイタ12が後方死点22にあるとき(図2)には、偏心駆動軸14及び/又は偏心ピン26の角度位置19は0(ゼロ)度であると定義する。図3乃至図5に示した各段階は、90度、180度及び/又は270度の角度位置19に対応するものである。360度は、周期27に対応するもの、又はエキサイタの最終的な往復運動に対応するものである。エキサイタ12に偏心駆動軸14又は他の周期的に動作する駆動装置が用いられているか否かにかかわらず、角度位置19は時間と同義で用いられる。
【0023】
ハンマー13は、衝撃点28と、工具から遠い位置にある反転点29との間を周期的に往復運動する。エキサイタが全行程24の25%から40%だけ後方死点22から離れたときに、ハンマー13は工具から遠い位置にある反転点29に到達することが好ましい(図3)。エキサイタ12が工具に近い位置にある死点23に到達する直前に、ハンマー13は衝突点に到達する。ハンマー13が工具から遠い位置にある反転点29から衝突点28に到達するまでの時間は、エキサイタ12が全行程24の中間点を過ぎるまでの時間と概ね同一である。ハンマー13が描く動作軌跡31は、エキサイタ12の全行程24よりも10%から30%長い。
【0024】
ハンマー13からエキサイタ12までの距離20は周期的に変化する。ハンマーが後方反転点29に到達したときに、最も短い距離20となる。ここで生じる空気室15の体積変化は、空気室15内に存在する気体の圧縮及び/又は減圧をもたらす。空気室15内の圧力が周辺圧力を上回ったときは、衝撃を与える方向11にハンマー13に衝撃力が作用する。また、空気室15内の圧力が周辺圧力を下回ったときは、衝撃を与える方向11とは反対向きに衝撃力が作用する。ハンマー13が衝撃点28にあるとき、空気室15内の圧力は、概ね周辺圧力と等しくなるよう調節される。衝撃点28でハンマー13がリベットセット16に当接し、エキサイタが後方死点22と前方死点23の概ね中間点にあるときの空気室の体積を、以下では中立体積と呼ぶ。図7は空気室15内の圧力32の時間変化を示すものである。破線は、従来のハンマー機構の圧力を示す。
【0025】
一例として挙げたハンマー機構6において、エキサイタ12はピストンとして実装されており、ガイドチューブ17の内壁33に形状が合うようにして案内されている。また、ハンマー13は、ガイドチューブ17に形状が合うようにしたピストンとして実装されている。従って、空気室15内の気体は、衝撃を与える方向11とは反対側を向いたハンマー13の面領域34により、また衝撃を与える方向11を向いたエキサイタ12の面領域35により、さらにガイドチューブ17により半径方向に、気密状態で密閉されている。エキサイタ12とハンマー13の円周部にOリングを挿入し、生じた誤差を補償することができる。
【0026】
ハンマー機構6が動作する間、リベットセット16は、その通常位置において、衝撃を与える方向11とは反対側の止め具36に当接する。特に、この通常位置において、リベットセット16は、工具4を押圧して基礎に対して保持される。衝撃を与える方向11とは反対側に向いているリベットセット16の衝撃領域37は、衝撃点28を定める。ハンマー13は、リベットセット16の衝撃領域37上に衝撃を与える方向11に向いた面領域38により、衝撃点28に衝撃を与える。リベットセット16が通常位置で保持されていない場合は、ハンマー機構6は動作を停止することが好ましい。
【0027】
ハンマードリル1には制動装置39が設けられる。制動装置39は、ユーザにストレスを与える最大の後方負荷を減少させるものである。一例での制動装置39は、ポンプ40により構成され、エキサイタ12の位置に応じた制御動作により空気室15内の圧力32を上昇させる。ポンプ37は圧力容器41により支持されていてもよい。
【0028】
圧力容器41は、機械ハウジング18内に配置されている。圧力容器41は、例えば、剛性又は弾性を有する壁が設けられた、閉じた容器である。実施例において、圧力容器41は、ゴム製の球体又は剛性を有する壁を備えた分離したタンクとして実装してもよく、これらは、例えば、機械ハウジング18内にハンマー機構6から部分的に分離して配置され、供給路42を介してハンマー機構6に接続されている。圧力容器41の体積は、空気室15の中立体積の50%から200%の範囲であることが好ましい。
【0029】
ポンプ40は、圧力容器41内の圧力を1.5バールと3バールの間の値まで上昇させるために、圧力容器41に空気を注入する。圧力容器41内の圧力は、周辺圧力よりも高く、少なくとも0.5バール、さらに多くても2.5バールだけ高いことが好ましい。ポンプ40は、例えば膜ポンプであり、その膜43は、モータ又はピエゾ素子44により発振動作を行う。戻し弁45は、圧力容器41からポンプ40への空気の逆流を防止することができる。
【0030】
圧力容器41は、弁46を介して空気室15に接続されている。弁46は、エキサイタ12の位置に応じて開閉する。エキサイタ12がその戻り位置から後方死点22まで全行程24の半分以上を移動し、全行程24の90%まで移動し終えるまでの時点(時点52)で、弁が開く。従って、弁46が開いた時点では、角度位置19は270度から342度の範囲にある。弁46が開くと、圧力容器41から空気室15に空気が流入する。
【0031】
図8は、空気室15内の空気量47(質量)をy軸にとり示したものである。破線は、同一寸法の従来のハンマー機構での空気量を表したものである。その空気量は、概ね一定であり、すなわち、周辺圧力での中立体積の空気量に等しい。空気室15内の空気量は少なくとも50%増加することが認められる。弁46が開いてからの時間区間27の10%(36度)以内の時間内に、空気室15内の圧力32は、2バールの値に到達することが好ましい。特に、エキサイタ12が後方死点(0度)に到達する前に、圧力は2バールよりも高い値まで上昇する。
【0032】
弁46は、エキサイタ12の位置に応じて動作軌跡が制御され時点48で閉じる。弁46が閉じるのは、エキサイタ12が前方死点23に向かう間に、遅くとも、後方死点22(90度)から全行程24の半分を過ぎた時点である。エキサイタ12が後方死点22(概ね10度)から10%超えて移動したときにのみ、弁46は閉じることが好ましい。
【0033】
例として示した弁46は、ガイドチューブ17の開口46である。ガイドチューブ17の内壁33と面一で終端するエキサイタ12は、弁46の閉止体を形成している。エキサイタ12が、そのジャケット面又はOリングで開口49を覆ったときに、弁46は閉じられる。開口46は、面領域35及び/又はOリングのレベルに、動作軸10に沿って配置されており、弁46の動作方向に応じてエキサイタ12が開く及び/又は閉じるときのその位置を想定している。
【0034】
エキサイタ12により開口46を直接閉じることに代えて、閉止体をエキサイタ12に同期させて動かす、又は開口49の閉止体として設置してもよい。この閉止体は、例えば偏心駆動軸14により駆動することもできる。従って、開口46の位置は、エキサイタ12で定まる位置に依存したものである必要はない。さらに、機械的な機構に代えて、電気的に動作させる弁を用いることもできる。例えば、センサがエキサイタ12の位置を検出し、その結果、その検出位置まで弁を操作することもできる。
【0035】
戻し弁50は、開度制御される弁46の下流側に配置されていることが好ましい。戻し弁50は、空気室15内の圧力32が圧力容器41内の圧力を上回ったときの、空気室15から圧力容器41への空気の逆流を防止する。戻し弁50が閉じるための判定に用いられる圧力32のしきい値は、ポンプ40により上昇させた圧力容器41内の圧力と同一である。
【0036】
エキサイタ12が後方死点22に到達する少し直前で、ハンマー13がエキサイタ12へ追従する動作を開始する。遅くともエキサイタ12が後方死点22を過ぎて(図2)、衝撃を与える方向11への動きを開始するときには、エキサイタ12とハンマー13との間の距離20は減少している。空気室15の体積は減少し、エキサイタ12とハンマー13により空気は圧縮される。空気室15内の圧力32は、圧力容器41内の圧力を上回る値まで上昇し、戻し弁50が閉じる。この閉じる時点51は、開く時点(52)後の時間区間27の概ね5%と15%の間であり、明確にエキサイタ12がその後方死点22に到達する前であり、また明確に開度制御される弁46が閉じる時点(48)の前であることが好ましい。
【0037】
最後に、空気室15内の圧力が、少なくとも8バールに到達するが、ハンマー13が後方反転点29に到達したとき(図3)には、この値は多くて15バール、例えば多くても12バールであることが好ましい。これに対し、従来のハンマー機構では、最大20バールもの圧力に達する。
【0038】
空気室15内の圧力は、時間区間27の少なくとも40%の間、好ましくは少なくとも50%の間だけは、周辺圧力よりも高い。しかし、ハンマー13の後方反転点29での圧縮中の圧力は、6バールから10バールの範囲の値で中程度である。これに対応した中程度の圧力変化は、ユーザが適度な程度の圧力を用いて補償すればよいだけである。圧力容器41はダンピング効果を示す。圧力容器41を有しない従来のハンマー機構では、時間区間27の20%から25%の間のみで、空気室15内に高い圧力が生じる。ここで、エキサイタ12からハンマー13に同一のエネルギーを伝達することを可能とするために、圧縮のピーク圧力値は少なくとも15バールまで上昇する。
【0039】
真空容器53が機械ハウジング18内に配置されている。真空容器53は、剛性を有する壁を備えた閉じた容器である。例えば、真空容器53は、シースとしてガイドチューブ17を取り囲んでいてもよい。真空容器53の体積は、中立体積の50%から200%の範囲であることが好ましい。ポンプ40は、真空容器53内の空気を吸い出し、真空容器53内の圧力を0.3バールから0.7バールの範囲に下降させる。本実施例において、ポンプ40は、真空容器53内から空気を吸い込み圧力容器41に流入させる。別の実施例において、容器41、53の各々に独立したポンプを設けてもよい。さらに、ポンプ40には、開度制御される弁を設け、真空容器53からの空気の吸い込みに加えて、大気からの空気の吸い込みを可能としてもよい。
【0040】
真空容器53は、ガイドチューブ17の開口54により空気室15に接続されている。ハンマー13とともに、開口54は開度制御される弁を形成する。弁54を密閉するため、ハンマー13のジャケット面又はOリングは開口54を覆う。エキサイタ12が衝撃点28に到達した時に、弁54が開閉することが好ましい。空気は空気室15から真空容器53に流入する。空気室15内の空気量は、少なくとも30%減少する。エキサイタ12が前方死点23(180度)に到達する前に、空気室15内の圧力は0.7バールを下回る値まで下降する。ハンマー14が後方反転点28に至る動作軌跡31の3分の1まで移動する前に、弁54は時点55で閉じる。空気室15内の圧力32は、エキサイタ12の時間区間27の概ね20%から30%の間に、周辺圧力を下回る値を維持することが好ましい。
【0041】
例として示した閉止体としてハンマー13に実装された弁54は、ハンマー13が衝撃点28に到達する前の時点56で開く。空気室15内の圧力低下により、ハンマー13には停止効果が期待されるが、弁54が開くことによりこの効果は無視しうるものにすぎなくなる。
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