特許第6203531号(P6203531)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6203531
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】希土類磁石及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/053 20060101AFI20170914BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20170914BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20170914BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20170914BHJP
   B22F 3/00 20060101ALN20170914BHJP
【FI】
   H01F1/053
   H01F41/02 G
   B22F3/24 102Z
   H01F7/02 E
   !B22F3/00 C
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-93342(P2013-93342)
(22)【出願日】2013年4月26日
(65)【公開番号】特開2014-216514(P2014-216514A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2015年11月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】505199739
【氏名又は名称】株式会社五合
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋野 早人
(72)【発明者】
【氏名】辻 隆之
(72)【発明者】
【氏名】梶並 佳朋
(72)【発明者】
【氏名】吉川 紀夫
(72)【発明者】
【氏名】小川 宏二
【審査官】 池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−007867(JP,A)
【文献】 特開2005−015728(JP,A)
【文献】 特開2006−245064(JP,A)
【文献】 特開平06−329949(JP,A)
【文献】 特開2006−160997(JP,A)
【文献】 特開平09−063833(JP,A)
【文献】 特開2006−221173(JP,A)
【文献】 特開2001−185747(JP,A)
【文献】 特開2003−027248(JP,A)
【文献】 特開平07−283015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/053
B22F 3/24
H01F 7/02
H01F 41/02
B22F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類磁石本体の表面に保護層を備え、該保護層が、
固体のケイ酸アルカリ製の母材内に、該母材よりも硬度が高く200℃以上の融点を有する薄片を分散させたものである
ことを特徴とする希土類磁石。
【請求項2】
前記薄片がシリカ製であることを特徴とする請求項1に記載の希土類磁石。
【請求項3】
前記母材が、Al2O3及びB2O3のいずれか一方又は両方を含有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の希土類磁石。
【請求項4】
前記保護層が、前記母材にAl2O3を含有させることなくB2O3を含有させた外側層と、前記母材にB2O3及びAl2O3を含有させた内側層の2層構造を有することを特徴とする請求項3に記載の希土類磁石。
【請求項5】
前記希土類磁石本体と前記保護層の間に、該希土類磁石本体が有する希土類元素の酸化物、又は該希土類元素と他の元素の合金の酸化物を含有する下地層を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の希土類磁石。
【請求項6】
前記保護層の厚みが0.5〜50μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の希土類磁石。
【請求項7】
希土類磁石本体の表面に、液体のケイ酸アルカリに該ケイ酸アルカリの固体よりも硬度が高く200℃以上の融点を有する薄片を分散させた原料液を塗布し、その後、該ケイ酸アルカリが固化する温度以上に加熱することにより、該表面に保護層を形成する工程を有することを特徴とする希土類磁石製造方法。
【請求項8】
前記加熱の温度が200〜600℃であることを特徴とする請求項7に記載の希土類磁石製造方法。
【請求項9】
前記工程が、
液体のケイ酸アルカリ及び前記薄片と共にB2O3及びAl2O3を混合した第1原料液を前記希土類磁石本体の前記表面に塗布し、その後、前記温度以上に加熱することにより内側層を形成する第1工程と、
Al2O3を含有させることなく液体のケイ酸アルカリ及び前記薄片と共にB2O3を混合した第2原料液を前記内側層の表面に塗布し、その後、前記温度以上に加熱することにより外側層を形成する第2工程と
をこの順で行うものであることを特徴とする請求項7又は8に記載の希土類磁石製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R2Fe14Bを主相とするRFeB系磁石(Rは希土類元素)や、RCo5又はR2Co17を主相とするRCo系磁石等の希土類磁石及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RFeB系磁石は、残留磁束密度等の多くの磁気特性がそれまでの永久磁石よりもはるかに高いという特長を有する。そのため、RFeB系磁石はハイブリッド自動車や電気自動車で用いる自動車用モータ、電動補助型自転車用モータ、産業用モータ、ハードディスク等のボイスコイルモータ、高級スピーカー、ヘッドホン、永久磁石式磁気共鳴診断装置等、様々な製品に使用されている。
【0003】
RFeB系磁石の主相であるR2Fe14Bは非常に酸化しやすい。そのため、RFeB系磁石では従来より、酸素に触れないように、磁石の表面にコーティング等の処理が施されている。多くの場合、コーティングには樹脂塗膜が用いられている。しかし、例えば自動車用モータで使用されるRFeB系磁石では200℃以上の耐熱性が要求されており、このような温度では樹脂塗膜が劣化してしまい、このような耐熱性を満たさない。RCo系磁石も同様に、主相であるRCo5やR2Co17が非常に酸化しやすく、酸化防止のために樹脂塗膜が設けられるが、同様に耐熱性の問題を有する。
【0004】
特許文献1には、酸化物から成る3層構造の保護層を表面に設けた希土類磁石が記載されている。3層のうちの最も内側にある第1層には希土類磁石に含有される希土類元素及び遷移金属元素(RFeB系磁石ではFe、RCo系磁石ではCo)の酸化物が、2番目にある第2層には該希土類元素を含有しない該遷移金属元素の酸化物が、最外層であって空気に接する第3層には該希土類元素及び該遷移金属元素のいずれも含有しない酸化物(シリカ、アルミナ、ジルコニア等)が、それぞれ形成されている。このように酸化物から成る保護層が形成されていることにより、保護層の内側にある希土類磁石の本体は酸化することが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-245064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の希土類磁石における、シリカ、アルミナ、ジルコニア等から成る第3層(最外層)は、靭性が低いため、機械的な衝撃を受けると保護層にクラックが生じるおそれがある。そうすると、空気や水等がクラックを通って希土類磁石の本体に侵入し、それにより該本体が酸化してしまう。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、耐熱性に優れ且つ靭性が高い保護層を有し、それにより酸化し難い希土類磁石及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係る希土類磁石は、希土類磁石本体の表面に保護層を備え、該保護層が、
固体のケイ酸アルカリ製の母材内に、該母材よりも硬度が高く200℃以上の融点を有する薄片を分散させたものである
ことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る希土類磁石では、母材に用いられるケイ酸アルカリの固体は「無水の水ガラス」とも呼ばれ、高い靭性を有する。本発明では、このような母材に、母材よりも硬度が高い薄片が分散していることにより、たとえ母材にクラックが生じても、薄片のところでクラックの進行が阻止される。従って、クラックが保護層の表面から希土類磁石本体まで達すること、すなわち保護層を貫くクラックが形成されることを防止することができる。そのため、この保護層で保護された希土類磁石の本体は、空気や水等が侵入することが防止される。
【0010】
ケイ酸アルカリ製の母材は、自動車用モータ等で要求される耐熱温度である200℃においてもほとんど変形や変質を生じることがない。また、薄片も融点が200℃以上のものを用いるため、温度が200℃のときでも、母材でのクラックの進行を阻止する機能を有する。従って、本発明に係る希土類磁石の保護層は、自動車用モータ等で要求される耐熱性を満たしている。
【0011】
母材には、ケイ酸アルカリと共にB2O3及び/又はAl2O3を含有したものを用いることができる。B2O3は母材の機械的強度を高める役割を有し、Al2O3は、光(特に紫外線)に対する母材の耐性を高める役割を有する。
【0012】
前記保護層は、母材にB2O3及びAl2O3を含有させた内側層と、母材にAl2O3を含有させることなくB2O3を含有させた外側層の2層構造とすることが望ましいことが実験の結果、確認された。
【0013】
薄片には、シリカ(SiO2)製のもの(融点:1650℃)を好適に用いることができる。シリカはケイ酸アルカリよりも硬度が高く、且つ市販のものを入手することができる。市販のシリカ製の薄片には、厚みが0.01〜0.5μm、径が2〜5μm程度のものがあるが、本願発明ではこのサイズのものを好適に用いることができる。このサイズのシリカ製の薄片を用いることにより、保護層の厚みを0.1〜数μm程度まで薄くすることができる。なお、保護層が厚すぎるとクラックが入るため、保護層の厚みは50μm程度を上限とすることが望ましい。
【0014】
本発明に係る希土類磁石において、希土類磁石本体と保護層の間に、希土類磁石本体が有する希土類元素の酸化物、又は該希土類元素と他の元素の合金の酸化物を含有する下地層を備えることが望ましい。このような下地層は、希土類磁石本体と保護層をより強固に接合し、それによって保護層が希土類磁石本体から剥離することをより確実に防止する。
【0015】
本発明に係る希土類磁石は、例えば、以下の方法により作製することができる。
まず、従来と同様の方法により、RFeB系磁石やRCo系磁石等の希土類磁石の本体を作製する。次に、液体のケイ酸アルカリ(水ガラス)に薄片を分散させることにより、保護層の原料液を作製する。そして、この原料液を希土類磁石本体の表面に塗布する。その後、ケイ酸アルカリが固化する温度以上に加熱する。これにより、希土類磁石本体の表面に保護層が形成された、本発明に係る希土類磁石が得られる。
【0016】
なお、前記原料液には、磁石本体の表面に塗布しやすくするために、粘性を調整すべく、水等を加えてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る希土類磁石では、保護層を構成する母材の靭性が高いためクラックが生じ難いうえに、たとえクラックが生じても、薄片によりクラックの進行を阻止することができるため、クラックが保護層の表面から希土類磁石本体まで達することがない。そのため、希土類磁石本体の酸化を防止することができる。また、この保護層は、自動車用モータ等で要求される200℃以上の耐熱性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る希土類磁石製造方法の一実施例を示す概略図。
図2】本実施例で作製した希土類磁石におけるEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)を用いた組成分析の結果を示す図。
図3】本実施例で作製した希土類磁石の、保護層に略垂直な切断面におけるTEM(透過型電子顕微鏡)像。
図4】本実施例で作製した希土類磁石におけるNBD(ナノビーム回折)及びEDS(エネルギー分散分光)測定の結果を示す図。
図5】本実施例で作製した希土類磁石と、比較例の試料における耐水性試験の結果を示す写真。
図6】本実施例で作製した希土類磁石と、比較例の試料における耐水素ガス試験の結果を示す写真。
図7】本実施例で作製した希土類磁石と、比較例の試料における、エージング試験後の磁化曲線の測定結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る希土類磁石の実施形態を、図1図7を用いて説明する。
【0020】
本実施形態において、希土類磁石本体は、通常のRFeB系磁石やRCo系磁石を用いる。RFeB系磁石やRCo系磁石には主に、(i)主相粒子を主成分とする原料合金粉末を焼結させた焼結磁石、(ii)原料合金粉末を結合剤(高分子やエラストマなどの有機材料から成る。バインダ。)で固めて成形したボンド磁石、(iii)原料合金粉末に熱間塑性加工を施した熱間塑性加工磁石がある。これらのうちボンド磁石は結合剤の耐熱性の問題があるため、希土類磁石本体には焼結磁石又は熱間塑性加工磁石を用いることが望ましい。
【0021】
焼結磁石の場合には、以下に述べるプレス法及びプレスレスプロセス(Press-Less Process、PLP)法のいずれの方法で作製されたものも用いることができる。プレス法は、原料の合金粉末を磁界で配向中に、又は配向させた後にプレス機で所定の形状に圧縮成形し、その後焼結するものである。PLP法は、プレス成形を行うことなく、原料合金の粉末を所定の形状を有するモールドに充填したうえで磁界中配向及び焼結を行うものである(特開2006-019521号公報参照)。
【0022】
保護層は、上記のように母材及び薄片を有する。
母材のケイ酸アルカリには、ケイ酸リチウム(Li2SiO3)、ケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)、ケイ酸カリウム(K2SiO3)等があり、本発明ではそれらのいずれも用いることができる。また、複数種のケイ酸アルカリを混合して使用してもよい。
【0023】
薄片には、上記のシリカ製のものを用いることができる。シリカ製の薄片には、例えばAGCエスアイテック株式会社製の「サンラブリー」(登録商標)を用いることができ、厚みが0.01〜0.5μm、径が2〜5μm程度のものが入手可能である。その他に、コレマナイト(2CaO・3B2O3・5H2O)及び/又はウレキサイト(Na2O・2CaO・5B2O3・16H2O)を主成分とする天然ガラス製のもの等を用いることができる。また、複数種の薄片を混合して使用してもよい。
【0024】
母材及び薄片の比率は、母材が多くなるほど靭性がより高まり、薄片が多くなるほどクラックの進行をより確実に阻止することができるため、これら両者のバランスを取るよう、適宜調整する。その比率は、具体的には母材及び薄片の材料にもよるが、例えば薄片の材料にシリカを、母材の材料にケイ酸カリウムを、それぞれ用いる場合には、重量比で、母材100に対して、薄片を0.4〜60とすることが望ましい。
【0025】
保護層は、薄片と、母材の材料となる液体の水ガラスを混合した原料液を希土類磁石本体の表面に塗布し、ケイ酸アルカリが固化する温度以上に加熱することにより作製される。ケイ酸アルカリは200℃以上に加熱すれば固化するが、加熱温度が高すぎると母材や薄片を構成する元素が希土類磁石本体内に侵入して磁気特性を低下させるおそれがある。そのため、加熱温度は600℃以下とすることが望ましい。
【0026】
母材には、機械的強度を高めるためにB2O3を含有させることができる。例えば、ケイ酸カリウムにB2O3を含有させる場合には、重量比で、ケイ酸カリウム100に対して、B2O3を0.4〜40とすることが望ましい。また、母材には、光(紫外線)に対する耐性を高めるために、Al2O3を含有させてもよい。さらには、保護層には、母材にAl2O3を含有させることなくB2O3を含有させた外側層と、母材にB2O3及びAl2O3を含有させた内側層の2層構造のものを用いることができる。このような2層構造の保護層については、具体例を後述する。
【0027】
希土類磁石本体と保護層の間には、希土類磁石本体が有する希土類元素の酸化物を含有する下地層を設けることができる。これにより、希土類磁石本体と保護層がより強固に接合される。下地層は、希土類磁石本体の表面に保護層を作製するための加熱の際に、希土類磁石本体の表面が酸化することにより、自然に形成されることもある。
【0028】
以下、本発明に係る希土類磁石及びその製造方法の具体例を詳しく述べる。
【実施例】
【0029】
本実施例では、内側層と外側層の2層構造を有する保護層を有し、希土類磁石本体と保護層の間に下地層が形成された希土類磁石を作製した結果を示す。以下では、本実施例の希土類磁石の製造方法、及び製造された希土類磁石の特性を測定した実験結果を説明する。
【0030】
(1) 本実施例の希土類磁石の製造方法
本実施例では、以下の工程により希土類磁石を作製した(図1参照)。
(1-1) 希土類磁石本体11の作製
この工程では、保護層を表面に形成する前の希土類磁石本体11を作製した。本実施例では、希土類磁石本体11は、PLP法を用いて作製したNdFeB系(RFeB系においてR=Ndとしたもの)焼結磁石を、1辺が6mmである立方体に形状加工したものを用いた(図1(a))。この希土類磁石本体11の表面に対してアルカリ脱脂を行うことにより、表面の汚れ、特に油脂を除去した。その後、希土類磁石本体の表面を水洗し、よく乾燥させた。
【0031】
(1-2) 内側層12の作製
内側層12の材料となる原料液12Aを以下のように作製した。液体のケイ酸アルカリ(水ガラス)14を100(重量比。以下同様。)に対して、シリカ製の薄片16を2、アルミナ17A(Al2O3)を3、酸化ホウ素17B(三酸化二ホウ素、B2O3)を1.5、及び水を5だけ混合した(図1(b))。ここで水は、原料液12Aの粘性を調整するために加えたものである。本実施例では、ケイ酸アルカリ14にはケイ酸ナトリウムとケイ酸カリウムを混合したものを用いた。この原料液12Aを、スプレー法により、希土類磁石本体11の表面に塗布した(図1(c))。その際の膜厚は、5μmよりもやや厚めとした。そして、原料液12Aが塗布された希土類磁石本体11を250℃以上に加熱した(図1(d))。
【0032】
これにより、原料液12Aに含まれる液体のケイ酸アルカリ14が固化して無水の水ガラスとなり、その無水の水ガラスにアルミナ17A及び酸化ホウ素17Bが混合した母材15Aが形成された。その結果、この母材15Aと薄片16を含有する内側層12が希土類磁石本体11の表面に形成された。ここで形成された内側層12の厚みは約5μmである。また、上記加熱の際に、希土類磁石本体11の表面付近に、内側層12の原料液12Aに含有される酸素原子の一部が移動し、それにより希土類磁石本体11の表面と内側層12の間に下地層19が形成された(図1(e))。この下地層19は、希土類磁石本体11及び内側層12の双方と強固に結合し、内側層12を含む保護層18が希土類磁石本体の表面から剥離することを防止する役割を有する。
【0033】
(1-3) 外側層13の作製
外側層13の材料となる原料液13Aを以下のように作製した。ケイ酸ナトリウムとケイ酸カリウムが混合した液体のケイ酸アルカリ14を100(重量比)に対して、シリカ製の薄片16を1、酸化ホウ素17Bを2、及び水を10だけ混合した(図1(f))。原料液13Aには、アルミナは混合させない。この原料液13Aを、スプレー法によって内側層12の表面に塗布した(図1(g))。その際の膜厚は、5μmよりもやや厚めとした。その後、この原料液13Aが塗布された内側層12、下地層19及び希土類磁石本体11を250℃以上に加熱した(図1(h))。これにより、液体のケイ酸アルカリ14が固化した無水の水ガラスに酸化ホウ素17Bが混合した母材15Bが形成され、その母材15Bと薄片16を含有する外側層13が、内側層12の表面に厚み約5μmで形成された。こうして、本実施例の希土類磁石10が得られた(図1(i))。ここで外側層13の母材15は、酸化ホウ素17Bは含有するが、アルミナ17Aは含有しない。内側層12と外側層13は、両者を合わせて保護層18として機能する。
【0034】
なお、上記の例では、母材にアルミナを含有する内側層と、母材にアルミナを含有しない外側層を有する二重構造の保護層を設ける例を示したが、それ以外の組成を有する二重構造を有する保護層や、三重以上の構造の保護層を設けてもよい。例えば、二重構造の保護層において、外側層と内側層の双方にアルミナを含有させてもよい。
【0035】
(2) 本実施例の希土類磁石に対する実験結果
(2-1) 組成分析
本実施例の希土類磁石10を保護層18に略垂直な面で切断し、その切断面における元素分析を行った。元素分析には、(i)波長分散型電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)、並びに(ii)ナノビーム回折(NBD)及びエネルギー分散分光(EDS)装置(X線使用)を用いた。(i)では、O, Na, Al, Si, Kの各元素の含有率を測定した。(i)の測定の結果、図2に示すように、分析対象の各元素のうちAl以外のものは内側層12及び外側層13の双方に分布し、Alのみが外側層13には存在せずに内側層12に存在することが確認された。
【0036】
(ii)では、図3に示した上記切断面のTEM(透過型電子顕微鏡)像において濃淡の相違が現れた境界よりも希土類磁石本体11側の1点(点A)、及び保護層18側の2点(点B、点C)において、NBD及びEDSの測定を行った。なお、EDSでは測定対象物に含有される元素を検出するが、B(ホウ素)は、原子が軽いうえに含有率が低いため、今回の測定では検出できなかった。
【0037】
その結果、図4に示すように、点Aにおいて、NBDでは多結晶体に対応したリング状の回折像が見られ、EDSではNd, Fe及びOのピークが見られた。これらのデータは、点Aにおいて、多結晶体(焼結体)である希土類磁石本体11が酸化し、それにより下地層19が形成されていることを意味する。それに対して点Cにおいては、NBDでは非晶質性に対応したハロー状の回折像が見られ、EDSではSi及びOのピークが大きく現れ、その他にKの微小なピークが見られた。これらのデータは、内側層12に存在する、非晶質性である母材(ケイ酸カリウム)15及び/又は薄片(シリカ)16を反映している。一方、点Bにおいては、NBDで得られた回折像では、基本的には内側層12の非晶質性に対応したハロー状であるがリングも見られ、EDSでは、内側層12の各成分と共にNd及びFeが少量見られた。これらのデータから、点Bでは内側層12の下地層19との境界近傍に、希土類磁石本体11の成分が侵入していることを意味している。
【0038】
(2-2) 耐水性(耐酸化性)試験、耐水素ガス試験
本実施例の希土類磁石10を、(i)50℃の純水中に100時間浸漬した耐水性試験、及び(ii)室温、大気圧の水素ガスに227分間晒した耐水素試験を行った。併せて、(ii)においては、希土類磁石本体11の表面にディッピング法によって、厚み2μmの(鱗片状ではない)シリカのみから成る層を形成した試料(比較例1)についても同様の実験を行った。また、(i), (ii)共に、保護層18の無い希土類磁石本体11のみの試料(比較例2)を用いて同様の試験も行った。
【0039】
その結果、(i)の耐水性試験では、図5に示すように、比較例1では試験後の試料の表面に錆が生じているのが見られるのに対して、本実施例では試験の前後で試料表面には何らの変化も見られなかった。また、(ii)の耐水素試験では、図6に示すように、比較例1及び2共に試料が解砕してしまったのに対して、本実施例の希土類磁石10では試験の前後で形状の変化は無く、表面にもほとんど変化が見られなかった。このように、本実施例の希土類磁石10は、比較例よりも高い耐水性及び耐水素性を有することが確認された。
【0040】
(2-3) エージング試験
本実施例の希土類磁石10及び比較例1の試料(いずれも1辺6mmの立方体)を、内容積150mlの耐圧容器に収容した。そして、この耐圧容器にハイドロフルオロカーボン(R410A)冷媒12g、市販のエステル系冷凍機油であるポリオールエステル(POE)油40g、及び32mg(POE油に対して800ppm)の水を加えた。この耐圧容器を、温度が150℃の恒温器に収容し、600時間保持した。これにより、耐圧容器内の各試料の表面に約4MPa(約41気圧)の圧力が印加された。その後、各試料を耐圧容器から取り出し、磁化曲線を測定した。
【0041】
磁化曲線の測定結果を図7に示す。図7には併せて、エージング試験を行っていない希土類磁石本体11の磁化曲線の測定結果(未試験試料)を示す。これらのデータからわかるように、比較例1の試料では、磁化曲線が未試験試料のものよりも全体的に低下し、且つ、外部磁界Hの絶対値が大きく(グラフの左側に向かう)に連れて、磁化Jが徐々に小さくなる。それに対して本実施例の希土類磁石10では、磁化曲線が未試験試料のものからの値の低下が小さく、且つ、磁化曲線の傾きが未試験試料のものとほとんど同じである。
【0042】
比較例1における磁気特性の低下は、比較例の試料に圧力が印加されたことによって保護層にクラック等が形成され、それにより希土類磁石本体が耐圧容器内に加えた水の侵入により酸化したことによると考えられる。それに対して本実施例では、保護層の靭性が高いことにより、クラック等が形成され難く、それにより希土類磁石本体の酸化を防止できたため、エージング試験後にも磁気特性が維持されたものと考えられる。
【0043】
本発明に係る希土類磁石は、上記実施例のものには限定されない。
例えば、上記実施例では、希土類磁石本体11にNdFeB系の焼結磁石を用いたが、Nd以外の希土類元素を含有する焼結磁石やRCo系の焼結磁石を用いてもよい。また、希土類磁石本体11はPLP法で作製した焼結磁石を用いたが、プレス法で作製した焼結磁石を用いてもよい。さらには、焼結磁石の代わりに熱間塑性加工磁石を用いてもよい。
【0044】
上記実施例では、母材にはケイ酸ナトリウムとケイ酸カリウムを混合したケイ酸アルカリを用いたが、ケイ酸ナトリウムのみ、又はケイ酸カリウムのみを用いてもよい。また、母材にケイ酸リチウムを用いてもよいし、ケイ酸ナトリウム及び/又はケイ酸カリウムとケイ酸リチウムの混合物を用いてもよい。薄片には、上記実施例で用いたシリカ以外にも、天然ガラスを用いてもよいし、シリカと天然ガラスを混合したものを用いてもよい。
【0045】
また、保護層18には、内側層12と外側層13の2層構造のものを用いたが、1層構造のものを用いてもよい。その場合、保護層には、アルミナ17A及び酸化ホウ素17Bは双方が含まれていてもよいし、いずれか一方のみが含まれていてもよく、さらにはいずれも含まれていなくてもよい。あるいは、本実施例の保護層18とは異なる構成を有する2層以上の保護層を用いてもよい。
【符号の説明】
【0046】
10…希土類磁石
11…希土類磁石本体
12…内側層
12A…内側層の原料液
13…外側層
13A…外側層の原料液
14…ケイ酸アルカリ
15A、15B…母材
16…薄片
17A…アルミナ
17B…酸化ホウ素
18…保護層
19…下地層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7