【実施例】
【0029】
本実施例では、内側層と外側層の2層構造を有する保護層を有し、希土類磁石本体と保護層の間に下地層が形成された希土類磁石を作製した結果を示す。以下では、本実施例の希土類磁石の製造方法、及び製造された希土類磁石の特性を測定した実験結果を説明する。
【0030】
(1) 本実施例の希土類磁石の製造方法
本実施例では、以下の工程により希土類磁石を作製した(
図1参照)。
(1-1) 希土類磁石本体11の作製
この工程では、保護層を表面に形成する前の希土類磁石本体11を作製した。本実施例では、希土類磁石本体11は、PLP法を用いて作製したNdFeB系(RFeB系においてR=Ndとしたもの)焼結磁石を、1辺が6mmである立方体に形状加工したものを用いた(
図1(a))。この希土類磁石本体11の表面に対してアルカリ脱脂を行うことにより、表面の汚れ、特に油脂を除去した。その後、希土類磁石本体の表面を水洗し、よく乾燥させた。
【0031】
(1-2) 内側層12の作製
内側層12の材料となる原料液12Aを以下のように作製した。液体のケイ酸アルカリ(水ガラス)14を100(重量比。以下同様。)に対して、シリカ製の薄片16を2、アルミナ17A(Al
2O
3)を3、酸化ホウ素17B(三酸化二ホウ素、B
2O
3)を1.5、及び水を5だけ混合した(
図1(b))。ここで水は、原料液12Aの粘性を調整するために加えたものである。本実施例では、ケイ酸アルカリ14にはケイ酸ナトリウムとケイ酸カリウムを混合したものを用いた。この原料液12Aを、スプレー法により、希土類磁石本体11の表面に塗布した(
図1(c))。その際の膜厚は、5μmよりもやや厚めとした。そして、原料液12Aが塗布された希土類磁石本体11を250℃以上に加熱した(
図1(d))。
【0032】
これにより、原料液12Aに含まれる液体のケイ酸アルカリ14が固化して無水の水ガラスとなり、その無水の水ガラスにアルミナ17A及び酸化ホウ素17Bが混合した母材15Aが形成された。その結果、この母材15Aと薄片16を含有する内側層12が希土類磁石本体11の表面に形成された。ここで形成された内側層12の厚みは約5μmである。また、上記加熱の際に、希土類磁石本体11の表面付近に、内側層12の原料液12Aに含有される酸素原子の一部が移動し、それにより希土類磁石本体11の表面と内側層12の間に下地層19が形成された(
図1(e))。この下地層19は、希土類磁石本体11及び内側層12の双方と強固に結合し、内側層12を含む保護層18が希土類磁石本体の表面から剥離することを防止する役割を有する。
【0033】
(1-3) 外側層13の作製
外側層13の材料となる原料液13Aを以下のように作製した。ケイ酸ナトリウムとケイ酸カリウムが混合した液体のケイ酸アルカリ14を100(重量比)に対して、シリカ製の薄片16を1、酸化ホウ素17Bを2、及び水を10だけ混合した(
図1(f))。原料液13Aには、アルミナは混合させない。この原料液13Aを、スプレー法によって内側層12の表面に塗布した(
図1(g))。その際の膜厚は、5μmよりもやや厚めとした。その後、この原料液13Aが塗布された内側層12、下地層19及び希土類磁石本体11を250℃以上に加熱した(
図1(h))。これにより、液体のケイ酸アルカリ14が固化した無水の水ガラスに酸化ホウ素17Bが混合した母材15Bが形成され、その母材15Bと薄片16を含有する外側層13が、内側層12の表面に厚み約5μmで形成された。こうして、本実施例の希土類磁石10が得られた(
図1(i))。ここで外側層13の母材15は、酸化ホウ素17Bは含有するが、アルミナ17Aは含有しない。内側層12と外側層13は、両者を合わせて保護層18として機能する。
【0034】
なお、上記の例では、母材にアルミナを含有する内側層と、母材にアルミナを含有しない外側層を有する二重構造の保護層を設ける例を示したが、それ以外の組成を有する二重構造を有する保護層や、三重以上の構造の保護層を設けてもよい。例えば、二重構造の保護層において、外側層と内側層の双方にアルミナを含有させてもよい。
【0035】
(2) 本実施例の希土類磁石に対する実験結果
(2-1) 組成分析
本実施例の希土類磁石10を保護層18に略垂直な面で切断し、その切断面における元素分析を行った。元素分析には、(i)波長分散型電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)、並びに(ii)ナノビーム回折(NBD)及びエネルギー分散分光(EDS)装置(X線使用)を用いた。(i)では、O, Na, Al, Si, Kの各元素の含有率を測定した。(i)の測定の結果、
図2に示すように、分析対象の各元素のうちAl以外のものは内側層12及び外側層13の双方に分布し、Alのみが外側層13には存在せずに内側層12に存在することが確認された。
【0036】
(ii)では、
図3に示した上記切断面のTEM(透過型電子顕微鏡)像において濃淡の相違が現れた境界よりも希土類磁石本体11側の1点(点A)、及び保護層18側の2点(点B、点C)において、NBD及びEDSの測定を行った。なお、EDSでは測定対象物に含有される元素を検出するが、B(ホウ素)は、原子が軽いうえに含有率が低いため、今回の測定では検出できなかった。
【0037】
その結果、
図4に示すように、点Aにおいて、NBDでは多結晶体に対応したリング状の回折像が見られ、EDSではNd, Fe及びOのピークが見られた。これらのデータは、点Aにおいて、多結晶体(焼結体)である希土類磁石本体11が酸化し、それにより下地層19が形成されていることを意味する。それに対して点Cにおいては、NBDでは非晶質性に対応したハロー状の回折像が見られ、EDSではSi及びOのピークが大きく現れ、その他にKの微小なピークが見られた。これらのデータは、内側層12に存在する、非晶質性である母材(ケイ酸カリウム)15及び/又は薄片(シリカ)16を反映している。一方、点Bにおいては、NBDで得られた回折像では、基本的には内側層12の非晶質性に対応したハロー状であるがリングも見られ、EDSでは、内側層12の各成分と共にNd及びFeが少量見られた。これらのデータから、点Bでは内側層12の下地層19との境界近傍に、希土類磁石本体11の成分が侵入していることを意味している。
【0038】
(2-2) 耐水性(耐酸化性)試験、耐水素ガス試験
本実施例の希土類磁石10を、(i)50℃の純水中に100時間浸漬した耐水性試験、及び(ii)室温、大気圧の水素ガスに227分間晒した耐水素試験を行った。併せて、(ii)においては、希土類磁石本体11の表面にディッピング法によって、厚み2μmの(鱗片状ではない)シリカのみから成る層を形成した試料(比較例1)についても同様の実験を行った。また、(i), (ii)共に、保護層18の無い希土類磁石本体11のみの試料(比較例2)を用いて同様の試験も行った。
【0039】
その結果、(i)の耐水性試験では、
図5に示すように、比較例1では試験後の試料の表面に錆が生じているのが見られるのに対して、本実施例では試験の前後で試料表面には何らの変化も見られなかった。また、(ii)の耐水素試験では、
図6に示すように、比較例1及び2共に試料が解砕してしまったのに対して、本実施例の希土類磁石10では試験の前後で形状の変化は無く、表面にもほとんど変化が見られなかった。このように、本実施例の希土類磁石10は、比較例よりも高い耐水性及び耐水素性を有することが確認された。
【0040】
(2-3) エージング試験
本実施例の希土類磁石10及び比較例1の試料(いずれも1辺6mmの立方体)を、内容積150mlの耐圧容器に収容した。そして、この耐圧容器にハイドロフルオロカーボン(R410A)冷媒12g、市販のエステル系冷凍機油であるポリオールエステル(POE)油40g、及び32mg(POE油に対して800ppm)の水を加えた。この耐圧容器を、温度が150℃の恒温器に収容し、600時間保持した。これにより、耐圧容器内の各試料の表面に約4MPa(約41気圧)の圧力が印加された。その後、各試料を耐圧容器から取り出し、磁化曲線を測定した。
【0041】
磁化曲線の測定結果を
図7に示す。
図7には併せて、エージング試験を行っていない希土類磁石本体11の磁化曲線の測定結果(未試験試料)を示す。これらのデータからわかるように、比較例1の試料では、磁化曲線が未試験試料のものよりも全体的に低下し、且つ、外部磁界Hの絶対値が大きく(グラフの左側に向かう)に連れて、磁化Jが徐々に小さくなる。それに対して本実施例の希土類磁石10では、磁化曲線が未試験試料のものからの値の低下が小さく、且つ、磁化曲線の傾きが未試験試料のものとほとんど同じである。
【0042】
比較例1における磁気特性の低下は、比較例の試料に圧力が印加されたことによって保護層にクラック等が形成され、それにより希土類磁石本体が耐圧容器内に加えた水の侵入により酸化したことによると考えられる。それに対して本実施例では、保護層の靭性が高いことにより、クラック等が形成され難く、それにより希土類磁石本体の酸化を防止できたため、エージング試験後にも磁気特性が維持されたものと考えられる。
【0043】
本発明に係る希土類磁石は、上記実施例のものには限定されない。
例えば、上記実施例では、希土類磁石本体11にNdFeB系の焼結磁石を用いたが、Nd以外の希土類元素を含有する焼結磁石やRCo系の焼結磁石を用いてもよい。また、希土類磁石本体11はPLP法で作製した焼結磁石を用いたが、プレス法で作製した焼結磁石を用いてもよい。さらには、焼結磁石の代わりに熱間塑性加工磁石を用いてもよい。
【0044】
上記実施例では、母材にはケイ酸ナトリウムとケイ酸カリウムを混合したケイ酸アルカリを用いたが、ケイ酸ナトリウムのみ、又はケイ酸カリウムのみを用いてもよい。また、母材にケイ酸リチウムを用いてもよいし、ケイ酸ナトリウム及び/又はケイ酸カリウムとケイ酸リチウムの混合物を用いてもよい。薄片には、上記実施例で用いたシリカ以外にも、天然ガラスを用いてもよいし、シリカと天然ガラスを混合したものを用いてもよい。
【0045】
また、保護層18には、内側層12と外側層13の2層構造のものを用いたが、1層構造のものを用いてもよい。その場合、保護層には、アルミナ17A及び酸化ホウ素17Bは双方が含まれていてもよいし、いずれか一方のみが含まれていてもよく、さらにはいずれも含まれていなくてもよい。あるいは、本実施例の保護層18とは異なる構成を有する2層以上の保護層を用いてもよい。