(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記のような従来技術の欠点を解消することであり、本発明はセシウムイオン吸着剤を強固に固着させ、脱落が非常に少ない優れたセシウムイオン吸着能を有する繊維構造物およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セシウムイオン吸着剤を繊維構造物に固着させるに際し、特定のカチオン性高分子化合物及び低融点成分を含む繊維素材を用い、好ましくは、特定の繊維素材、特定のセシウムイオン吸着剤を用いることにより、セシウムイオン吸着剤を強固に固着させることが可能であり、セシウムイオン吸着能に優れ、且つ、吸着剤の脱落が非常に少ない繊維構造物となることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明は、以下の(1)〜(8)を要旨とするものである。
(1)30℃以上の融点差がある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維を含む繊維構造物であって、前記繊維構造物が第3級または第4級アンモニウム基を含むカチオン性高分子化合物及びセシウムイオン吸着剤が固着されていることを特徴とするセシウムイオン吸着用繊維構造物。
(2)前記セシウムイオン吸着剤がプルシアンブルー型錯体であることを特徴とする(1)記載のセシウムイオン吸着用繊維構造物。
(3)前記30℃以上の融点差がある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維が、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリ乳酸系繊維からなる群より選択された1またはそれ以上の繊維で構成されていることを特徴とする(1)または(2)記載のセシウムイオン吸着用繊維構造物。
(4)前記30℃以上の融点差がある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維の低融点側の繊維及び低融点側のポリマーの混率が、5質量%以上であることを特徴とする(1)〜(3)いずれかに記載のセシウムイオン吸着用繊維構造物。
(5)前記30℃以上の融点差がある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維の低融点側の繊維またはポリマーの融点が、110〜190℃であることを特徴とする(1)〜(4)いずれかに記載のセシウムイオン吸着用繊維構造物。
(6)前記繊維構造物が、下記(i)及び/または(ii)を満足することを特徴とする(1)〜(5)いずれかに記載のセシウムイオン吸着用繊維構造物。
(i)前記繊維構造体のセシウムイオン吸着能が
吸着等温式 y=ax
b においてa値が0.3以上且つb値が0.6以下。
ただし、yは、前記繊維構造物1gに吸着しているセシウムイオン量(mg)。
xは、吸着処理後に溶液に残留しているセシウムイオンの濃度(ppm)。
(ii)セシウムイオン濃度10ppmの塩化セシウム水溶液100mlに前記繊維構造物0.2gを投入し、25℃、120rpmで24時間振とう処理を行った繊維構造物1g当たりのセシウムイオンの吸着量が0.5mg以上。
(7)前記繊維構造物を25℃、120rpmで24時間振とう処理を行なった際のセシウムイオン吸着剤の脱落量が5ppm以下であることを特徴とする(1)〜(6)いずれかに記載のセシウムイオン吸着用繊維構造物。
(8)30℃以上の融点差がある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維を含む繊維構造物に、第3級または第4級アンモニウム基を含むカチオン性高分子化合物によるカチオン化処理を行った後、セシウムイオン吸着剤の固着熱処理を低融点側の繊維またはポリマーの融点以上の温度で行なうことを特徴とする(1)〜(7)いずれかに記載のセシウムイオン吸着用繊維構造物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物は、30℃以上の融点差がある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維を含む繊維構造物に特定のカチオン性高分子化合物にて処理を行った後にセシウムイオン吸着剤にて処理を行い、好ましくは特定の繊維材料、特定のセシウムイオン吸着剤などを選択することにより、セシウムイオン吸着性能に優れ、且つ、上記のように吸着剤の脱落が非常に少ないセシウムイオン吸着用繊維構造物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の繊維構造体は、30℃以上の融点差のある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維を含むことが必要である。
【0011】
30℃以上の融点差のある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維の組み合わせは特に限定されないが、ポリエステル繊維とポリエチレン繊維、ポリエステル繊維とポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維とポリエチレン繊維、ポリアミド繊維とポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維と第三成分を共重合し低融点化したポリエステル繊維、熱可塑性繊維とセルロース系繊維や動物性繊維などの天然繊維、熱可塑性繊維と活性炭繊維、または上記繊維を構成する複数のポリマーをサイドバイサイド、芯鞘構造等の複合構造とした繊維、上記天然繊維などを1種または2種以上複合したものなどが挙げられる。本発明においては、後述するように低融点側の繊維または低融点側のポリマーを含む繊維を熱融着性繊維と呼ぶことがある。
【0012】
なお、30℃以上の融点差とは、単一樹脂からなる2種以上の繊維の場合はその2種以上の樹脂の融点差をいい、融点が異なる樹脂からなる複合構造とした繊維の場合はその異なる樹脂の融点差をいい、単一樹脂からなる繊維及び/又は融点が異なる樹脂からなる複合構造とした繊維の組み合わせの場合は、最も高い融点と最も低い融点との差をいう。
【0013】
30℃以上の融点差のある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維を混合し、後述する所定の熱融着温度に加熱することで、低融点側の繊維またはポリマー(以下、低融点成分と呼ぶことがある。)が軟化して融着性を発揮するようになるとともに、高融点側のポリマーは非融着部としてその繊維構造を保持することができる。
【0014】
該融点差が30℃未満であると、温度差が少ないために、加工温度のブレにより低融点側の繊維または低融点側のポリマーが溶解時に繊維構造を保持するための非融着繊維も溶解し、セシウムイオンを含む処理水との接触面積が減少するため吸着能が低下するので好ましくない。
【0015】
なお、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維などにおいては、セシウムイオン吸着剤の固着性の観点から、表面をレーザー処理、紫外線照射、プラズマ処理、電子線処理などにより、水酸基、硫酸基などの官能基を導入したものが好ましい。
【0016】
本発明における30℃以上の融点差のある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維の形態は特に限定されないが、長繊維、短繊維、仮撚加工糸、紡績糸、スリットヤーンなどが挙げられる。
【0017】
さらに、30℃以上の融点差のある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維の低融点側の繊維または低融点側のポリマーの融点は、110〜190℃が好ましく、130〜170℃がより好ましい。後述するように、本発明の繊維構造物にセシウムイオン吸着剤を固着する際に熱処理する必要があるため、該低融点側の繊維または低融点側のポリマーの融点を110〜190℃とすることで、該固着熱処理においても繊維構造物が形態をより良好に保持できるとともに、ロール形態での保管時の熱安定性がより高く好ましい。
【0018】
本発明で用いられる繊維構造物を構成する繊維の単繊維繊度は特に限定されないが、セシウムイオン吸着剤の固着性の観点から、3dtex以下が好ましく、2dtex以下がより好ましい。単繊維繊度の繊度を3dtex以下とすることにより、繊維構造物の空隙を含めた表面積がより向上するため、後述するカチオン性高分子化合物の固着量が増大し、結果としてセシウムイオン吸着剤の担持率が向上するため固着能が向上するものと推測される。
【0019】
30℃以上の融点差のある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維の低融点側の繊維及び低融点側のポリマーの混率は、繊維構造物のうち5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、10〜90質量%がさらに好ましく、20〜80質量%がいっそう好ましい。該混率を5質量%以上とすることで、セシウムイオン吸着剤の固着熱処理時に該繊維構造物の空隙を良好に保持することが可能であり、さらには低融点側の繊維及びポリマーの溶解時に該繊維構造物の空隙を閉塞させたり、セシウムイオンを含む処理水との接触面積が減少することが少なく好ましい。
【0020】
本発明の繊維構造物は、繊維からなる構造物であれば特に限定されないが、例えば、綿からなる成形品、糸、織編物、不織布、紙等の形態が挙げられる。これらのうち、繊維構造物の高い空隙によりセシウムイオン吸着剤を良好に保持するとの観点から、不織布が特に好ましい。
【0021】
不織布は、30℃以上の融点差がある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維、すなわち低融点成分および高融点成分からなる繊維ウェブから公知の方法にて製造することができる。例えば、繊維ウェブの作成方法は、湿式でも乾式でも構わず、たとえば、カード方式、エアレイド方式、水流交絡方式、ニードルパンチ方式など、公知の繊維ウェブ作成方法のいずれでも適用できる。
【0022】
本発明の繊維構造物は、第3級または第4級アンモニウム基を含むカチオン性高分子化合物及びセシウムイオン吸着剤が固着されていることが必要である。
【0023】
第3級または第4級アンモニウム基を含むカチオン性高分子化合物は、第3級アンモニウム基または第4級アンモニウム基を含む高分子化合物であれば特に限定されない。第3級アミノ基を含むカチオン性高分子化合物としては、アルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの重合体、例えば、ジメチル又はジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド,ジメチル又はジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどの重合体、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの重合体、例えば、ジメチルまたはジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート,ジメチルまたはジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどの重合体、アクリルアミド・スチレン共重合体、第3級アミノ基含有ウレタン系重合体等があげられる。
【0024】
第4級アンモニウム基含有高分子としては、(メタ)アクリロイロキシアルキルトリアルキルアンモニウム塩の重合体、例えば、2−(メタ)アクリロイロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、3−(メタ)アクリロイロキシ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドの重合体など、(メタ)アクリルアミドアルキルトリアルキルアンモニウム塩の重合体、例えば、3−(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、3−(メタ)アクリロイルアミノ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドなどの重合体、2−(メタ)アクリロイロキシアルキルベンジルアンモニウム塩の重合体、例えば、2−(メタ)アクリロイロキシエチルベンジルアンモニウムクロライド,2−(メタ)アクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライドの重合体,前2者の単量体とアクリルアミド,ジメチルアミノエチルアクリレートなどの共重合体、アクリルアミドプロピルジメチルベンジルクロライドとN,N−ジメチルアクリルアミド及びN−メチル−N−ベンジルアリルアミン塩とN−メチル−N−ヒドロキシエチルアミノプロピルアクリルアミドとの共重合体など、その他、例えば、ジメチルまたはジエチルジアリルアンモニウムクロライド,β−ビニルオキシエチルトリアルキルアンモニウム塩、ビニルベンジルアンモニウム塩などの重合体があげられ、これらアンモニウム基含有高分子とビニル系ポリマーからなる共重合物などがあげられる。
【0025】
本発明のセシウムイオン吸着剤とは、セシウムイオンを吸着するものであれば特に限定されないが、例えば、セシウムイオン吸着性錯体、ゼオライト等が挙げられる。セシウムイオン吸着性錯体とは、例えば、プルシアンブルー型錯体、フタロシアニン型錯体などが挙げられる。
【0026】
プルシアンブルー型錯体は、一般式A
xM[Fe(CN)
6]y・zH
2O(但し、式中、Aは陽イオン、Mは金属原子を示す)で表される錯体である。Aの陽イオンとしては、アンモニウムイオンなどが挙げられる。Mの金属原子としては、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子が挙げられる。前述の組み合わせの中でも、セシウムイオンの吸着能及び挟雑物共存状態におけるセシウムイオンの選択性の観点から、Fe
4[Fe(CN)
6]
3、FeNH
4[Fe(CN)
6]が特に好ましい。
【0027】
プルシアンブルー型錯体の平均一次粒子径は特に限定されないが、セシウムイオン吸着能及び加工適正の観点から、0.001〜100μmが好ましく、0.001〜10μmがより好ましく、0.001〜1μmがさらに好ましく、0.001〜0.05μmがいっそう好ましい。
【0028】
フタロシアニン型錯体としては、銅フタロシアニン、塩素化銅フタロシアニン、臭素化塩素化銅フタロシアニン、アルミニウムフタロシアニン等が挙げられる。より具体的には、銅フタロシアニンとしては、例えば、Pigment Blue15,Pigment Blue15:3,Pigment Blue76、Ingrain Blue1,Direct Blue86が挙げられる。塩素化銅フタロシアニンとしては、例えば、Pigment Green7が挙げられる。臭素化塩素化銅フタロシアニンとしては、Pigment Green58が挙げられる。
【0029】
ゼオライトは、アルミノケイ酸塩のなかで結晶構造中に比較的大きな空隙を持つものの総称であり特に限定されないが、例えば、結晶性アルミノシリケート、メタロシリケート、アルミノホスフェート、シリカアルミノホスフェート等が挙げられる。
【0030】
ゼオライトの平均一次粒子径は特に限定されないが、セシウムイオン吸着能及び加工適正の観点から、0.1〜100μmが好ましく、1.0〜50μmがより好ましく、1.0〜30μmがさらに好ましい。
【0031】
上記セシウムイオン吸着剤は、剤全体が負に帯電しているため、上記第3級または第4級アンモニウム基を含むカチオン性高分子化合物にて処理した繊維構造物に固着処理することで、高濃度に繊維構造物に吸着させることができるものと推測される。
【0032】
本発明のカチオン性高分子化合物の固着量は、変退色・液汚染の低減の観点から、繊維構造物を構成する繊維材料に対し0.1〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましい。該カチオン性高分子化合物の繊維構造物への吸尽性、浸透性を向上させるために、該浴液にノニオン系またはカチオン系界面活性剤を併用することが好ましい。
【0033】
本発明の繊維構造物は、セシウムイオン吸着能が下記吸着等温式(1)において、a値は0.3以上、且つ、b値は0.6以下であることが好ましい。a値は、0.4以上がより好ましく、0.5以上がいっそう好ましい。b値は0.5以下がより好ましく、0.4以下がより好ましい。
吸着等温式(1)y=ax
b
ただし、yは、繊維構造物1gに吸着しているセシウムイオン量(mg)。
xは、吸着処理後に溶液に残留しているセシウムイオンの濃度(ppm)。
【0034】
ここで上記吸着等温式とはFreundlichの吸着等温式であり、任意の繊維構造物重量と溶液濃度で吸着処理を行った後の繊維構造物1gに吸着しているセシウムイオンの濃度ymgと吸着処理後溶液に残留しているセシウムイオンの濃度(ppm)を数点グラフにてプロットした時の累乗近似曲線の数式である。
【0035】
本発明におけるセシウムイオンの吸着能の評価方法は、繊維構造物Fgをセシウムイオン濃度Cppmに調整した各塩化セシウム水溶液100mlを120mlのバイアル瓶に入れて、振とう装置(タイテック株式会社製 バイオシェーカーBR−300L)を用い、温度25℃の120rpmの振とう速度で24時間振とう処理した後の水溶液のセシウム濃度(L1)(ppm)及び前記塩化セシウム水溶液中のセシウムイオン量(M1)(mg)、および繊維構造物を投入せずに同様の上記振とう処理を行った水溶液のセシウムイオン濃度(L0)(ppm)及び前記セシウム水溶液中のセシウムイオン量(M0)(mg)を、ICP−MS(JIS K 01025.5(2008年)及びJIS K 0133(2000年)に準拠して測定した)にて定量し、下記式(2)、(3)より算出した。なお、前記セシウムイオン濃度Cppmは、9〜11ppm、0.9〜1.1ppm、0.1〜0.4ppmの間で、少なくとも各1点を採取して累乗近似曲線を描き、a値及びb値を求めた。
(2)y(mg/g)=(M0−M1)/F
(3)x(ppm)=L1
【0036】
前述のa値が0.3以上、且つ、b値が0.6以下とすることにより、セシウムイオン吸着性能においてセシウムイオン濃度依存性が低くなることから、セシウムイオン吸着剤の脱落を抑えるという本発明の効果を奏しながら、さらに低濃度のセシウム水溶液での吸着性能が優れたものとすることができる。
【0037】
本発明の繊維構造物において、セシウムイオン濃度10ppmの塩化セシウム水溶液100mlに繊維構造物0.2gを投入し、25℃、120rpmで24時間振とう処理を行った繊維構造物1g当たりのセシウムイオンの吸着量が0.5mg以上であることが好ましく、0.9mg以上がより好ましく、1.2mg以上がいっそう好ましい。吸着能力を0.5mg以上とすることにより、目的とする吸着性能を得るための繊維構造物のサイズを適度なものとすることができ、特に0.9mg以上とすることが、放射性廃棄物の減容化の観点からより好ましい。
【0038】
本発明における繊維構造物からのセシウムイオン吸着剤の脱落量は、5ppm以下が好ましく、3ppm以下がより好ましく、2ppm以下がいっそう好ましい。脱落率を5ppm以下とすることにより、本発明の繊維構造物からのセシウムイオンを吸着した吸着剤の脱落が非常に少ないものとなるため、吸着された放射性セシウムが環境に流出・拡散する2次的な汚染が拡大する恐れを防止することができる。
【0039】
本発明においては、特定のカチオン性高分子化合物にて処理を行った後にセシウムイオン吸着剤にて処理を行い、好ましくは特定の繊維材料、特定のセシウムイオン吸着剤などを選択することにより、セシウムイオン吸着性能に優れ、且つ、上記のように吸着剤の脱落が非常に少ない繊維構造物とすることができる。
【0040】
以下に、本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物の製造方法について、不織布を例に挙げて説明する。
【0041】
本発明の繊維構造物(不織布)の製造方法は、30℃以上の融点差がある2種以上の繊維及び/または30℃以上の融点差があるポリマーが隣接または芯鞘構造となっている繊維を混合し、前述のカード方式、エアレイド方式、水流交絡方式、ニードルパンチ方式など、公知の繊維ウェブ作成方法で不織布とする。
【0042】
次いで、得られた不織布に、第3級または第4級アンモニウム基を含むカチオン性高分子化合物によるカチオン化処理を行う。カチオン性高分子化合物の処理の方法としては、パッド(スプレー、プリント)−スチーム法、パッド(スプレー、プリント)−熱処理法などが挙げられ、該繊維構造物の形態により適宜選択することができる。
【0043】
上記カチオン化処理は、均一な固着処理(加工斑などの低減)等の観点から、低融点側の繊維または低融点側のポリマーの融点以上の温度にて行うことが好ましく、該融点以上から220℃の温度範囲にて行うことがより好ましく、該融点以上から200℃の温度範囲にて行うことがいっそう好ましく、該融点以上から該融点+20℃の温度範囲にて行うことが特に好ましい。繊維構造物を構成するポリマーとカチオン性高分子化合物の物理的、イオン的な相互作用に加え、該温度で熱処理をすることにより、低融点側の繊維または低融点側のポリマーが軟化又は溶融し熱融着性を発揮することにより、繊維構造物を構成する繊維の表面にカチオン性高分子化合物の被膜をいっそう強固に形成することができる。
【0044】
なお、熱処理条件はシートの目付に応じて適宜選択することができるが、均一な皮膜形成等の観点から、目付けが大きいほど熱処理温度は高く、熱処理時間は長い方が好ましい。例えば、繊維構造物が不織布である場合、目付が300g/m2を超えると、熱処理条件を温度180〜200℃、4〜8分間程度とすることにより、マングル(絞りローラー)や生地表面等の凝集物の生成を抑え、カチオン性高分子化合物の被膜を均一に形成することができるため好ましい。なお、凝集物は明らかではないが、余剰なカチオン性高分子化合物とセシウムイオン吸着剤が反応したものであると推測される。
【0045】
本発明のカチオン性高分子化合物の固着量は、セシウムイオン吸着性能とセシウムイオン吸着剤の脱落の低減の観点から、繊維構造物を構成する繊維材料に対し0.1〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましい。また、該カチオン性高分子化合物の繊維構造物への浸透性を向上させるために、該浴液にノニオン系またはカチオン系界面活性剤を併用することが好ましい。
【0046】
本発明のカチオン化処理を施した後、繊維構造物を水または/および加温水にて未固着のカチオン性高分子化合物を洗浄し、必要に応じて乾燥処理を行った後、セシウムイオン吸着剤の固着熱処理を行なうことが、該吸着剤の脱落の低減の観点から好ましい。
【0047】
次いで、前述のカチオン化処理を行なった後、セシウムイオン吸着剤の固着熱処理を低融点側の繊維またはポリマーの融点以上の温度にて行なうことが必要である。均一な固着処理(加工斑などの低減)等の観点から、固着熱処理温度は、該融点以上から220℃の温度範囲にて行うことが好ましく、該融点以上から200℃の温度範囲にて行うことがより好ましく、該融点以上から該融点+20℃の温度範囲にて行うことがいっそう好ましい。固着熱処理方法としては、カチオン化処理と同様に、パッド(スプレー、プリント)−スチーム法、パッド(スプレー、プリント)−熱処理法などの公知の方法を適宜選択することができる。
【0048】
本発明は、熱融着性繊維が含まれた不織布等の繊維構造物に、カチオン性高分子化合物にて処理を行った後にセシウムイオン吸着剤を付与し、さらに固着熱処理を融点側の繊維またはポリマーの融点以上の温度にて行なうことにより、本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物を得ることができる。
【0049】
本発明においては、熱融着性繊維等を含む不織布などの繊維構造物にカチオン化高分子化合物の固着処理を行った後、さらにセシウムイオン吸着剤の固着熱処理を行なうことにより、セシウムイオン吸着性能に優れ、且つ、セシウムイオン吸着剤の脱落が非常に少ない繊維構造物とすることができる。
【0050】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。尚、本発明は以下に示す実施例には限定されない。
【0051】
実施例、比較例における本発明のセシウム吸着用繊維構造物の評価方法は下記の通りである。
【0052】
1.セシウムイオン吸着剤の担持量(%)
セシウムイオン吸着剤を固着した繊維構造物を600℃、30分間の灰化処理後、王水で完全に溶解し、該水溶液中の鉄量をICP発光分光分析法にて定量し繊維構造物担体単位質量当たりの担持量(%)を求めた。なお、本実施例、比較例において、鉄量からセシウムイオン吸着剤量の換算は、下記分子式1に基づいて換算した。
Fe
4[Fe(CN)
6]
3・・・・・・・・・(分子式1)
セシウムイオン吸着剤の担持量(%)=(担持されたセシウムイオン吸着剤(g)/繊維構造物量(g))×100
【0053】
2.セシウムイオン吸着量
120mlのバイアル瓶に、セシウムイオン濃度10ppmの塩化セシウム水溶液100ml、繊維構造物0.2gを投入し(固液比(固:液)=1:500)、振とう装置(タイテック株式会社製 バイオシェーカーBR−300L)を用い、25℃、120rpmで24時間振とう処理を行った。振とう処理前後の処理液中のセシウムイオン濃度をICP−MS(JIS K 01025.5(2008年)及びJIS K 0133(2000年)に準拠して測定した)にて定量し、繊維構造物1g当たりのセシウムイオンの吸着量(mg)を測定した。
【0054】
3.セシウムイオン吸着剤の脱落量
120mlのバイアル瓶に、セシウムイオン濃度10ppmの塩化セシウム水溶液100ml、繊維構造物5gを投入し(固液比(固:液)=1:20)、振とう装置(タイテック株式会社製 バイオシェーカーBR−300L)を用い、25℃、120rpmで24時間振とう処理を行った後の処理液中のシアン化合物量をJIS K0102 38.1.2及び38.3(2008年)の方法にて定量し、前述の分子式1に基づいて処理液中の脱落したセシウムイオン吸着剤量を換算した(ppm)。なお、脱落率は5ppm以下を合格とした。
【0055】
4.加工液の凝集状態
繊維構造物に第3級または第4級アンモニウム基を含むカチオン性高分子化合物によるカチオン化処理を行った後、セシウムイオン吸着剤を固着させる工程に於いてマングル(絞りローラー)や生地の表面に、加工液の凝集物が見られないかを、以下の評価基準にて目視で判定した。
評価基準
○:加工液の凝集なし
△:僅かに凝集物あり
×:凝集物が非常に多い
【0056】
5.加工斑
繊維構造物に第3級または第4級アンモニウム基を含むカチオン性高分子化合物によるカチオン化処理を行った後、セシウムイオン吸着剤を固着させる工程で、繊維構造物の生地表面の両サイドと中央部分の色差を、以下の評価基準にて加工斑として目視で判定した。
評価基準
○:色差なし
△:僅かに色差あり
×:色差あり
【0057】
6.セシウムイオン吸着能の評価
前述の測定方法により評価を行った。
【0058】
実施例1
<繊維構造物>
高融点繊維として、融点255℃のポリエチレンテレフタレート繊維(単繊維繊度:2.2dtex、繊維長:51mm)80質量部 、低融点繊維として、鞘成分に共重合ポリエチレンテレフタレート(融点110℃)、芯成分にポリエチレンテレフタレート(融点255℃)を配した芯鞘複合繊維(ユニチカ株式会社製 商品名「メルティー4080」、繊度2.2dtex、繊維長51mm)を20質量部、を混合した後、均一に混綿しパラレルカードウェブとした。前記ウェブを公知の方法でクロスラッパーを用いて積層し、ドラフターでドラフト後にニードルパンチ処理を行い、目付200g/m2の不織布を得た。
【0059】
<カチオン化処理・吸着剤の固着熱処理>
次に、この不織布を下記処方1からなる水溶液にてパディング処理を行い、ウェットピックアップ150質量%となるようにマングルで絞り、ピンテンターにて温度130℃、6分間の条件でカチオン化処理を行い、次いで、下記処方2からなる分散液にてパディング処理を行い、ウェットピックアップ150質量%となるようにマングルで絞り、ピンテンターにて温度150℃、4分間の条件でセシウムイオン吸着剤(プルシアンブルー)の固着熱処理を行い、本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物を得た。
(処方1)
カチオン性高分子化合物(山陽色素(株)社製 カチオン化剤CT F1101
固形分15%) 60g/L
ノニオン系界面活性剤(松本油脂製薬(株)社製 アクチノールR100) 2g/L
(処方2)
プルシアンブルー(関東化学(株)社製 Fe
4[Fe(CN)
6]
3、疎水性・低純度品固形分11%、平均一次粒子径0.01μm) 200g/L
ノニオン系界面活性剤(松本油脂製薬(株)社製 アクチノールR100) 2g/L
【0060】
実施例2
実施例1の処方1を下記処方3に変更する以外は、実施例1と同様にして本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物を得た。
(処方3)
カチオン性高分子化合物(山陽色素(株)社製 カチオン化剤CT F1101
固形分15%) 30g/L
ノニオン系界面活性剤(松本油脂製薬(株)社製 アクチノールR100) 2g/L
【0061】
実施例3
実施例1の低融点繊維(熱融着性繊維)を、鞘成分に共重合ポリエチレンテレフタレート(融点110℃)、芯成分にポリエチレンテレフタレート(融点255℃)を配した芯鞘複合繊維(ユニチカ株式会社製 商品名「メルティー4080」、繊度2.2dtex、繊維長51mm)から、鞘成分に共重合ポリエチレンテレフタレート(融点160℃)、芯成分にポリエチレンテレフタレート(融点255℃)を配した芯鞘複合繊維(ユニチカ株式会社製 商品名「キャスベン7080」、繊度2.2dtex、繊維長51mm)に変更し、目付を300g/m2に変更し、カチオン化処理条件をピンテンター180℃、6分間、セシウムイオン吸着剤(プルシアンブルー)の固着熱処理条件をピンテンター180℃、2分間に変更する以外は、実施例1と同様にして、本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物を得た。
【0062】
実施例4
実施例3の処方1を下記処方3、処方2を下記処方4に変更する以外は、実施例3と同様にして、本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物を得た。
(処方3)
カチオン性高分子化合物(山陽色素(株)社製 カチオン化剤CT F1101
固形分15%) 30g/L
ノニオン系界面活性剤(松本油脂製薬(株)社製 アクチノールR100) 2g/L
(処方4)
プルシアンブルー(関東化学(株)社製 Fe
4[Fe(CN)
6]
3、疎水性・低純度品固形分11%、平均一次粒子径0.01μm) 100g/L
ノニオン系界面活性剤(松本油脂製薬(株)社製 アクチノールR100) 2g/L
【0063】
実施例5
実施例1の低融点繊維(熱融着性繊維)と高融点繊維の質量比を90:10に変更する以外は、実施例1と同様にして本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物を得た。
【0064】
実施例6
実施例1の低融点繊維(熱融着性繊維)を、鞘成分に共重合ポリエチレンテレフタレート(融点110℃)、芯成分にポリエチレンテレフタレート(融点255℃)を配した芯鞘複合繊維(ユニチカ株式会社製 商品名「メルティー4080」、繊度2.2dtex、繊維長51mm)から、鞘成分に共重合ポリエチレンテレフタレート(融点160℃)、芯成分にポリエチレンテレフタレート(融点255℃)を配した芯鞘複合繊維(ユニチカ株式会社製 商品名「キャスベン7080」、繊度2.2dtex、繊維長51mm)に変更し、カチオン化処理条件をピンテンター180℃、4分間、セシウムイオン吸着剤(プルシアンブルー)の固着熱処理条件をピンテンター180℃、2分に変更する以外は、実施例1と同様にして、本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物を得た。
【0065】
実施例7
実施例1の低融点繊維(熱融着性繊維)を、鞘成分に共重合ポリエチレンテレフタレート(融点110℃)、芯成分にポリエチレンテレフタレート(融点255℃)を配した芯鞘複合繊維(ユニチカ株式会社製 商品名「メルティー4080」、繊度2.2dtex、繊維長51mm)から、鞘成分にポリエチレン(融点130℃)、芯成分にポリエチレンテレフタレート(融点255℃)を配した芯鞘複合繊維(ユニチカ株式会社製 商品名「メルティ6080」、繊度2.2dtex、繊維長51mm)に変更し、カチオン化処理条件をピンテンター150℃、5分間、セシウムイオン吸着剤(プルシアンブルー)の固着熱処理条件をピンテンター150℃、5分間に変更する以外は、実施例1と同様にして、本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物を得た。
【0066】
実施例8
低融点繊維(熱融着性繊維)と高融点繊維の質量比を100:0に変更し、カチオン化処理条件をピンテンター130℃、6分間、セシウムイオン吸着剤(プルシアンブルー)の固着熱処理条件をピンテンター130℃、6分間に変更する以外は、実施例1と同様にして本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物を得た。
【0067】
実施例9
実施例1の処方2を下記処方5に変更する以外は、実施例1と同様にして、本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物を得た。
(処方5)
プルシアンブルー(関東化学(株)社製 Fe
4[Fe(CN)
6]
3、疎水性・低純度品固形分11%、平均一次粒子径0.01μm) 10g/Lノニオン系界面活性剤(松本油脂製薬(株)社製 アクチノールR100) 2g/L
【0068】
実施例10
カチオン化処理条件を、ピンテンター210℃、3分間、セシウムイオン吸着剤(プルシアンブルー)の固着熱処理条件を、ピンテンター210℃、3分間に変更する以外は実施例6と同様にして、本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物を得た。
【0069】
比較例1
高融点繊維と低融点繊維(熱融着性繊維)の質量比を100:0に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例1の繊維構造物を得た。
【0070】
比較例2
カチオン化処理を施さない以外は、実施例1と同様にして、比較例2の繊維構造物を得た。
【0071】
比較例3
高融点繊維と低融点繊維(熱融着性繊維)の質量比を100:0とし、カチオン化処理を施さない以外は、実施例1と同様にして、比較例3の繊維構造物を得た。
【0072】
実施例1〜10、比較例1〜3にて得られたセシウムイオン吸着用繊維構造物の評価結果を表1に示す。
【0074】
表1から明らかなように、実施例1〜10の本発明のセシウムイオン吸着用繊維構造物は、セシウムイオン吸着剤を固着させるに際し、30℃以上融点の異なる2種以上の繊維等を含む繊維構造物に特定のカチオン性高分子化合物によるカチオン化処理を施した繊維構造物を用いることにより、熱融着性繊維とカチオン化処理の相乗効果でセシウムイオン吸着剤を強固に固着するので、セシウムイオン吸着能に優れ、且つ、吸着剤の脱落が非常に少ない繊維構造物が得られた。特に、低融点成分の融点以上〜融点+20℃の温度範囲で固着熱処理を施した実施例3〜4、6〜7においては、セシウムイオン吸着量に比べ脱落量が非常に少ないものとなり、吸着された放射性セシウムが環境に流出・拡散する2次的な汚染が拡大する恐れを効果的に防止することができることが分かった。なお、低融点繊維(熱融着性繊維)のみを用いた実施例8及び固着熱処理温度がやや高かった実施例10は、繊維間の融着だけにとどまらず繊維塊の一部の空隙を閉塞させたか、または吸着剤が低融点成分により過度に被覆されているため、セシウムイオン吸着能は一定レベルにとどまった。実施例9は、セシウムイオン吸着剤の使用量が少なかったため、セシウムイオン吸着量は一定のレベルにとどまり、加工斑が僅かにみられるものとなった。
一方、比較例1は、実施例1に比べ低融点繊維(熱融着性繊維)を用いないものであったため、吸着剤脱落量がやや大きいものであった。比較例2は、実施例1に比べカチオン化処理を施さなかったため、吸着剤の担持量が低く担持量に比べ脱落量も大きいものであった。比較例3は、低融点繊維(熱融着性繊維)を用いずさらにカチオン化処理を施さなかったため、吸着剤の担持量が極めて少なく担持量に対する脱落量が大きいものであった。