(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いつつ本発明のスチールコード、ゴム−スチールコード複合体及びタイヤの実施形態について具体的に説明する。
【0014】
図1(a)〜(d)に断面図で示す本実施形態のスチールコードは、複数本のフィラメントが並列に配列されてなるスチールコードである。
図1(a)に示すスチールコード10は、曲面の外面を有する2本のフィラメント11a、11bが並列に配列され、これらのフィラメント11a、11bが互いに面接触することでスチールコード10全体としてトラック形状の断面を有している。
図1(b)に示すスチールコード20は、長方形断面を有する2本のフィラメント21a、21bが、並列に配列され、これらのフィラメント21a、21bが互いに面接触することでスチールコード20全体として長方形の断面を有している。
図1(c)に示すスチールコード30は、曲面又は平面の外面を有する3本のフィラメント31a、31b及び31cが並列に配列され、これらのフィラメント31a、31b及び31cが互いに面接触することでスチールコード30全体としてトラック形状の断面を有している。
図1(d)に示すスチールコード40は、長方形断面を有する3本のフィラメント41a、41b及び41cが、並列に配列され、これらのフィラメント41a、41b及び41cが互いに面接触することでスチールコード40全体として長方形の断面を有している。
【0015】
図1(e)及び
図1(f)に示すスチールフィラメントは比較例であり、
図1(e)のスチールコード110は、円形断面の2本のフィラメント111a、111bが並列に配列された例、
図1(f)のスチールコード120は、円形断面の3本のフィラメント121a、121b及び121cが並列に配列された例である。
【0016】
図1(a)〜(f)に示したスチールコード10〜40は、配列された領域(以下、「配列領域」ともいう。)におけるフィラメントの占有率が、円形断面の同数のフィラメントが並列に配列された場合に比べて高い。このことを以下で説明する。
【0017】
図1(a)〜(f)に示したスチールコード10〜40、110、120について、スチールコードの輪郭を仮想的に四角の枠で囲んだ領域として、「フィラメントの配列領域」を定義する。
図1(a)のスチールコード10におけるフィラメントの配列領域は、図示した破線内の領域10Aである。
図1(b)のスチールコード20におけるフィラメントの配列領域は、スチールコード20の輪郭内の領域と同じである。
図1(c)のスチールコード30におけるフィラメントの配列領域は、図示した破線内の領域30Aである。
図1(d)のスチールコード40におけるフィラメントの配列領域は、スチールコード40の輪郭内の領域と同じである。
図1(e)のスチールコード110におけるフィラメントの配列領域は、図示した破線内の領域110Aである。
図1(f)のスチールコード120におけるフィラメントの配列領域は、図示した破線内の領域120Aである。
【0018】
図1(a)〜(f)に示した各スチールコードにおける「フィラメントの占有率」を、上述した「フィラメントの配列領域」の面積に対するフィラメントの断面積の総和の百分率で定義する。計算式で表すと[(フィラメントの断面積の総和)/(フィラメントの配列領域の面積)]×100である。
【0019】
図1(a)、
図1(b)に示した、2本のフィラメントよりなるスチールコード10、20は、同じく2本のフィラメントよりなる
図1(e)に示した比較例のスチールコード110よりも、フィラメントの占有率が高い。また、
図1(c)、
図1(d)に示した、3本のフィラメントよりなるスチールコード30、40は、同じく3本のフィラメントよりなる
図1(f)に示した比較例のスチールコード120よりも、フィラメントの占有率が高い。
【0020】
図1(a)〜(d)に示した本実施形態のスチールコード10〜40は、上述のとおりフィラメントの占有率が、円形断面の同数のフィラメントが並列に配列された比較例のスチールコード110、120の占有率よりも高いことから、スチールコード110、120に比べて強度が高く、また剛性も高い。このことは、高強度スチールコードを得るために、スチールコードを構成するフィラメントの抗張力を、無理に高める必要がないことを意味し、生産性の低下を免れることができる。また、本実施形態のスチールコード10〜40は、隣接するフィラメントが互いに面接触していることから、スチールコードの形状を安定して維持することができる。このことは、スチールコードの3本以上を並列に配列した
図1(c)や(d)の場合に効果が顕著である。更に、本実施形態のスチールコード10〜40は、隣接するフィラメントが互いに面接触で密着していることにより、接触している部分に水分が侵入することを防止することができ、これにより、ゴムペネトレーションについて格別の配慮を行わなくても、高い耐腐食疲労性を有している。また更に、
図1(a)〜(d)に示した本実施形態のスチールコード10〜40を得るための加工は、フィラメント単体に加わる変形量が少ないため、生産性が高く、また、高強度フィラメントであっても適用することが可能である。しかも、スチールコード10〜40は、横断面において扁平な輪郭を有していて、これらのスチールコード10〜40を用いたゴム−スチールコード複合体の薄厚化に寄与する。
【0021】
図2に示す本発明の別の態様のスチールコードは、
図1に示した実施形態のスチールコードをコアとし、このコアの周りに複数のフィラメントが撚り合わされた、いわゆるn+mのコード構造を有する層撚りのスチールコードであり、また、扁平な断面を有するスチールコードである。具体的には、
図2(a)のスチールコード50は、コアが
図1(a)に記載された2本のフィラメント11a、11bからなるトラック形状の断面を有するものであり、このコアの周りに8本のフィラメント12が撚り合わされた2+8のコード構造のスチールコードである。
図2(b)のスチールコード60は、コアが
図1(b)に記載された2本のフィラメント21a、21bからなる長方形の断面を有するものであり、このコアの周りに8本のフィラメント22が撚り合わされた2+8のコード構造のスチールコードである。
図2(c)のスチールコード70は、コアが
図1(c)に記載された3本のフィラメント31a、31b、31cからなるトラック形状の断面を有するものであり、このコアの周りに10本のフィラメント32が撚り合わされた3+10のコード構造のスチールコードである。
図2(d)のスチールコード80は、コアが
図1(d)に記載された3本のフィラメント41a、41b、41cからなる長方形の断面を有するものであり、このコアの周りに10本のフィラメント42が撚り合わされた3+10のコード構造のスチールコードである。
【0022】
図2(e)及び
図2(f)は比較例であり、
図2(e)のスチールコード130は、円形断面の2本のフィラメント111a、111bが並列に配列されたコアの周りに8本のフィラメント112が撚り合わされた2+8のコード構造のスチールコードである。
図2(f)のスチールコード140は、円形断面の3本のフィラメント121a、121b及び121cが並列に配列されたコアの周りに10本のフィラメント122が撚り合わされた3+10のコード構造のスチールコードである。
【0023】
図2(a)〜(f)に示したスチールコード50〜80は、コアが複数本のフィラメントが並列に配列されてなり、かつ、コアのフィラメント領域におけるフィラメントの占有率が、
図2(e)、(f)に示した円形断面の同数のフィラメントが並列に配列された場合に比べて大きい。したがって、
図1に示したフィラメントと同様に、スチールコード130、140に比べて強度が高く、また剛性も高い。また、本実施形態のスチールコード50〜80は、コアの隣接するフィラメントが互いに面接触していることから、コアの形状を安定して維持することができる。このことは、スチールコードの3本以上を並列に配列した
図2(c)や(d)の場合に効果が顕著である。更に、本実施形態のスチールコード50〜80は、コアの隣接するフィラメントが互いに面接触で密着していることにより、接触している部分に水分が侵入することを防止することができ、これにより、ゴムペネトレーションについて格別の配慮を行わなくても、高い耐腐食疲労性を有している。また更に、
図2(a)〜(d)に示した本実施形態のスチールコード50〜80のコアを得るための加工は、フィラメント単体に加わる変形量が少ないため、生産性が高く、また、高強度フィラメントであっても適用することが可能である。しかもスチールコード50〜80は、横断面において扁平な輪郭を有していて、これらのスチールコード50〜80を用いたゴム−スチールコード複合体の薄厚化に寄与する。
【0024】
図1(a)〜(d)に示したスチールコード10〜40に関し、また、
図2(a)〜(d)に示したスチールコード50〜80のコアに関し、並列に配列されたフィラメントの輪郭形状が、扁平形状又は略長方形状とすることができるが、これらの形状に限定されるものではない。
【0025】
上述した、並列に配列されたフィラメントの数は、本発明の趣旨からは特に限定されるものではないが、実用性を考慮すると2〜3本であることが好ましい。
また、並列に配列されたフィラメントの占有率は、好ましくは85%以上とすることができる。85%以上とすることで、比較例のスチールコードとの対比で、十分な効果を示すことができる。より好ましくは、88%以上、更に好ましくは90%以上である。なお,占有率の上限は100%である。
【0026】
並列に配列されたフィラメント又はそのフィラメントよりなるコアは、フィラメントの長手方向に捻れが生じていない、換言すれば無撚りのフィラメントであることが好ましい。フィラメントの長手方向に捻れが生じている場合には、これらのフィラメントを用いることによりスチールコードを扁平化して、スチールコードを使用したゴム部材の薄厚化を図る効果が、スチールコードの長手方向で低下する部分が生じるからである。
【0027】
図1(a)〜(d)に示したスチールコード10〜40は、複数本のスチールフィラメントを用意し、これらのスチールフィラメントを異形のダイス孔を有するダイスの当該ダイス孔に通して伸線加工をすることによって製造することができる。また、
図2(a)〜(d)に示したスチールコード50〜80は、上記の伸線加工が行われたフィラメントをコアとして、撚線機によってコアの周りに複数のシースフィラメントフィラメントを巻き付ける撚線加工を行って、スチールコードを得る。
【0028】
上記の伸線加工を行うために用意するスチールフィラメントは、スチールフィラメントの耐食性向上及びゴムとの密着性を向上させるために、表面にめっき、具体的には黄銅めっきがされたものであり、横断面において実質的に真円形である。フィラメント径は、スチールコードのコアに用いられる通常のフィラメント径とほぼ同じとすることができる。このような径を有する、めっきされたスチールフィラメントの製造方法については、通常のスチールフィラメントの製造方法に従えばよい。例えば、高炭素鋼線材に、乾式伸線を、必要に応じて焼鈍を挟んで行った後、パテンティング処理をしてから酸洗及びめっき処理を行い、その後に湿式伸線を行うことによって上記めっきされた所定径を有するスチールフィラメントを得る。
【0029】
伸線加工に用いる異形のダイス孔を有するダイスの例を
図3に示す。ダイス1のダイス孔の形状は、
図3に示した扁平形状、具体的には、円を直径方向に押しつぶして平行な二線分とそれらの両端を外側に向けて凸になる曲線で接続してなる楕円形状、換言すればトラック形状とすることが、扁平なスチールコードを得るために好ましい。また、長方形(
図2(b))のダイス孔を有するダイス2とすることもでき、いずれも扁平なスチールコードを得ることができる。
【0030】
なお、「異形のダイス孔」とは、タイヤ補強用スチールコードに使用されるスチールフィラメントを製造する際に、線材の伸線のために用いられるダイスが、通常は伸線方向に垂直な断面(横断面)において円形(実質的に真円形)を有していることから、この真円形以外のダイス孔形状を有しているものをいう。つまり、「異形」とは真円形以外の形状をいう。
【0031】
ダイス孔の大きさは、伸線を行う複数本のスチールフィラメントを合わせたときの大きさに対して、当該スチールフィラメントに対して適切な減面率となるような大きさとすることができる。これにより複数本のスチールフィラメントに対してダイス孔で伸線加工を行う。具体的には、上記伸線加工において1回伸線する際の減面率を、3〜25%とすることが好ましい。これは、減面率が25%を超えると、伸線加工時の発熱および引き抜きテンションの影響により、フィラメントの断線や延性低下が生ずるおそれがあり、一方、3%未満では、塑性変形が十分でない。また、伸線後、スチールフィラメント同士が密着して一体化され、板状とするためには、5%以上の減面率が必要となるため、より好ましい減面率の条件は5〜15%である。
【0032】
一つのダイス孔に通すスチールフィラメントの本数は、製造するスチールコードにおけるコアのフィラメント本数と同じかそれ以下であり、例えば、コアが2本の場合は2本、コアが3本の場合は3本である。
【0033】
伸線の際には、伸線加工に伴う発熱の抑制、伸線加工の潤滑性能確保及び発熱による延性低下を考慮して、油又は水溶性の潤滑剤をダイス及びダイス前のフィラメントの一方又は両方に供給するか、ダイス及びフィラメントの全体を潤滑剤に浸漬させて、その後、拭き取る措置を採ることが好ましい。
【0034】
上記異形のダイス孔を有するダイスを、ダイス孔の大きさを異ならせて複数個用意し、これらのダイスを用いて複数本のスチールフィラメントに対し複数回の伸線を行うこともできる。
【0035】
上記異形ダイスで複数本のフィラメントを伸線加工することにより、スチールコードのコアとなるフィラメントを一度に扁平形状等の所定形状に無撚りの状態で配列させることができ、この配列した状態でフィラメントを撚線機に導くことができる。したがって、扁平なコアを容易に得ることができる。また、伸線加工によりスチールフィラメントと互いに塑性変形して隣接するスチールフィラメントと面接触して密着するので、後の工程で行う撚線機を用いた撚線においては、コアフィラメントの並びが不揃いになるのを防止することができる。
【0036】
上述した異形のダイス孔を有するダイスを用いた伸線加工を経たスチールコードは、並列に配列された複数のフィラメントが塑性変形して互いに面接触で密着している。各フィラメントの接触界面には、塑性変形前のスチールフィラメントの表面に形成されためっきが存在している。
【0037】
伸線加工を終えたフィラメントは、一旦、一つのスプールに巻き取ることができる。そして撚線機により撚線を行う際は、巻き取られた一つのスプールから、伸線加工を終えた複数本のフィラメントを一度に巻き出して撚線機に供給する。この撚線機によりコアとなるフィラメントの周りに複数のシースフィラメントを巻き付けて、扁平なスチールコードを得る。この撚線機は、チューブラー撚線機が好ましい。
【0038】
一般にタイヤ用のスチールコードを製造するための撚線機には、バンチャー撚線機及びチューブラー撚線機のうちのいずれかが用いられる。これらの撚線機のうち、チューブラー撚線機を用いることが好ましい。
図4に一例として示したチューブラー撚線機5は、回転するバレル6と、バレル6内に供給されるコアフィラメント用のスプール7と、バレル6内に設けられるシースフィラメント用のスプール8と、コアフィラメント及びシースフィラメントを撚り合わせる、撚り合わせダイ9とを備えている。
【0039】
一般にバンチャー撚線機は、その構造から本質的にコア自体に捻れが生じる。そのため、バンチャー撚線機を用いて、上述の伸線加工後のコアフィラメントの周りに複数本のシースフィラメントを巻き付けて撚り合わせ、扁平なスチールコードを製造したとしても、この扁平なスチールコードは、コアフィラメントの捻れに応じて、断面における短径方向の向きが、該スチールコードの長手方向でコア中心の周りに変化するような形状になっている。このような形状のスチールコードは、ゴム−スチールコード複合体の薄厚化を十分に保証し得ない。
【0040】
これに対して、チューブラー撚線機は、本質的にコアに捻れが生じることがない。そのため、チューブラー撚線機を用いて、上述の伸線加工後のコアフィラメントの周りに、複数本のシースフィラメントを巻き付けて撚り合わせることにより、得られた扁平なスチールコードは、断面における短径方向の向きが該スチールコードの長手方向で一定である。したがって、その短径方向をシート状ゴムの厚み方向に揃うようにスチールコードをゴムに埋設して、ゴム−スチールコード複合体の薄厚化を確実に実現することができる。
【0041】
上述の伸線加工が行われた複数本のスチールフィラメントは、一つのスプールから巻き出されてチューブラー撚線機に供給される。バンチャー撚線機を用いた従来の撚線方法では、コア用のスチールフィラメントが巻き取られたスプールを、コアに用いられる個数だけ用意し、それぞれのスプールから一本のスチールフィラメントを巻き出してチューブラー撚線機に供給していた。この従来の撚線方法に比べて、上述のようにコア用の複数本のスチールフィラメントが一つのスプールから巻き出されることは、生産性やコストで有利である。
【0042】
上述の伸線加工が行われた複数本のスチールフィラメントを、コアに用いることにより、コアのスチールフィラメントが複数本ある場合であっても撚線の途中でコアフィラメントの並びが不揃いになるのを防止することができる。したがって、品質が安定したスチールコードを製造することができる。
【0043】
図5に、ゴム−スチールコード複合体90の一例の模式的な断面図を示すように、ゴム−スチールコード複合体90は、ゴムシート91内に、複数本のスチールコード10を所定の間隔を空けて埋設させてなるものであり、各スチールコード10の短径方向が、ゴムシートの31の厚さ方向に揃っている。このような方向でスチールコード10がゴムシート31内に埋設されていることにより、ゴム−スチールコード複合体90の薄厚化が実現できる。このようなゴム−スチールコード複合体90は、タイヤのベルト部材として用いて好適である。
【0044】
ゴム−スチールコード複合体90を、タイヤのベルト部材に用いたタイヤは、当該ベルト層の厚さを薄厚化することができ、タイヤの軽量を図ることができる。
【実施例】
【0045】
表1に示す2+8のコード構造を有するスチールコード及び表2に示す3+10のコード構造を有するスチールコードを製造した。スチールコードの製造の際に、扁平形状のダイスを通してコアフィラメントの伸線加工を行った。また、比較例1、2は、上記扁平形状のダイスを通してコアフィラメントの伸線加工を行わなかった。これらの実施例及び比較例は、コアフィラメントの周りに複数本のフィラメントを、チューブラー撚線機を用いて巻き付けて撚り合わせた。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
これらのスチールコードのコアの配列領域の面積、コアフィラメントの断面積の総和、コアのフィラメント占有率、面外剛性指数及び面内剛性比率を表1及び表2に併記した。なお、面外剛性比率、面内剛性比率は比較例1、比較例2を100とした場合の相対評価で示した。
表1、表2より、各実施例は、比較例と比べて面外剛性の向上は少ないが、面内剛性が大幅に向上した。