(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6203576
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】浮腫治療用の空気圧式マッサージ装置
(51)【国際特許分類】
A61H 7/00 20060101AFI20170914BHJP
【FI】
A61H7/00 322B
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-179054(P2013-179054)
(22)【出願日】2013年8月30日
(65)【公開番号】特開2015-47207(P2015-47207A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227386
【氏名又は名称】日東工器株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083895
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100175983
【弁理士】
【氏名又は名称】海老 裕介
(72)【発明者】
【氏名】高木 則和
(72)【発明者】
【氏名】中尾 春樹
(72)【発明者】
【氏名】前川 二郎
【審査官】
村上 勝見
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2009/049103(WO,A2)
【文献】
実開昭58−040137(JP,U)
【文献】
特開平11−019147(JP,A)
【文献】
特表2008−508917(JP,A)
【文献】
特開2005−058647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の腕又は脚を包むようにして装着され、装着されたときの前記腕又は脚の末梢の位置から身体の中枢に向う近位方向に複数の空気室が並べて配置されているマッサージ具と、
前記マッサージ具の前記複数の空気室への圧縮空気の供給排出を行う圧縮空気制御装置と、を備え、
該圧縮空気制御装置が、各空気室に圧縮空気を供給して各空気室を加圧する加圧手段と、
該加圧手段による該空気室のすべての加圧が完了した後に、各空気室から圧縮空気を排出して各空気室を除圧する除圧手段とを有し、
前記除圧手段が、前記空気室のうちの遠位端にある空気室を1番として近位方向に並ぶ順番に番号を付したときに偶数番となる空気室を該番号の大きい順に除圧を開始し、次に奇数番となる空気室を該番号の大きい順に除圧を開始するようにされている空気圧式マッサージ装置。
【請求項2】
人の腕又は脚を包むようにして装着され、装着されたときの前記腕又は脚の末梢の位置から身体の中枢に向う近位方向に複数の空気室が並べて配置されているマッサージ具と、
前記マッサージ具の前記複数の空気室への圧縮空気の供給排出を行う圧縮空気制御装置と、を備え、
該圧縮空気制御装置が、各空気室に圧縮空気を供給して各空気室を加圧する加圧手段と、
該加圧手段による該空気室のすべての加圧が完了した後に、各空気室から圧縮空気を排出して各空気室を除圧する除圧手段とを有し、
前記除圧手段が、前記空気室のうちの遠位端にある空気室を1番として近位方向に並ぶ順番に番号を付したときに奇数番となる空気室を該番号の大きい順に除圧を開始し、次に偶数番となる空気室を該番号の大きい順に除圧を開始するようにされた空気圧式マッサージ装置。
【請求項3】
前記加圧手段が、前記番号の小さい順に加圧を開始するようにされた、請求項1又は2に記載の空気圧式マッサージ装置。
【請求項4】
前記加圧手段が、前記複数の空気室の加圧を同時に開始するようにされた請求項1又は2に記載の空気圧式マッサージ装置。
【請求項5】
前記複数の空気室が、隣接する空気室が互いに重なり合うように配置されている、請求項1乃至4の何れか一項に記載の空気圧式マッサージ装置。
【請求項6】
前記圧縮空気制御装置が、前記加圧手段による各空気室の加圧が完了した後に前記加圧された空気室の加圧状態を一定時間維持する加圧状態維持手段をさらに有する、請求項1乃至5の何れか一項に記載の空気圧式マッサージ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気圧式マッサージ装置に関する。より詳細には、腕や脚におけるリンパ浮腫を初めとする種々の浮腫(むくみ)の治療に適した空気圧式マッサージ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
癌治療等によりリンパ管の機能が低下したりリンパ管が閉塞したりすると、リンパ液の流れが悪くなって本来リンパ管に吸収されるはずであったリンパ液が細胞組織の隙間に溜まり、主に腕や脚にむくみが生じることがある。リンパ液の循環が阻害されることに起因するこのようなむくみは、リンパ浮腫と呼ばれる。同様に、血管における何らかの障害により腕や脚に浮腫が生じる場合もある。
【0003】
このような浮腫の治療方法としては、用手的リンパドレナージが知られている。用手的リンパドレナージは、リンパ管系のみならず血管系の浮腫にも効果的であり、人の手によるマッサージによって細胞組織の隙間に貯留したリンパ液などの体液を正常な機能を有するリンパ管や血管に向かって誘導して、むくみを解消するものである。このような用手的リンパドレナージは、毎日のように行う必要があり自己で行う場合にも看護師等によって行う場合にも負担が大きい。
【0004】
そこで、用手的リンパドレナージを行う負担を軽減するために、用手的リンパドレナージの補助的役割として空気圧式マッサージ装置を用いたリンパドレナージが行われるようになってきている。このような用途に使用される空気圧式マッサージ装置では、複数の空気室が腕や脚の末梢の位置から身体の中枢に向かう近位方向に連続的に並んで配置されており、各空気室に圧縮空気を供給して膨らませて空気圧によって患者の腕や脚を圧迫してマッサージするようになっている。リンパ液等の体液は基本的には腕や脚の末梢から身体の中枢に向かって誘導する必要があるため、通常、末梢に位置する遠位端の空気室から加圧を開始して順次近位の空気室を加圧していくようにして、加圧時の腕や脚への圧迫作用によって体液の流れを促すようにしている。(非特許文献1)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】カタログ「フィジカルメドマーPM−8000」 日東工器株式会社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような従来の空気圧式マッサージ装置は用手的リンパドレナージの補助として一定の効果をあげることができるが、さらに効率的に体液の流れを促すことができるようにすることが望まれている。本発明は、このような点に鑑み、より効率的なドレナージを行うことを可能とする空気圧式マッサージ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、
人の腕又は脚を包むようにして装着され、装着されたときの前記腕又は脚の末梢の位置から身体の中枢に向う近位方向に複数の空気室が並べて配置されているマッサージ具と、
前記マッサージ具の前記複数の空気室への圧縮空気の供給排出を行う圧縮空気制御装置と、を備え、
該圧縮空気制御装置が、各空気室に圧縮空気を供給して各空気室を加圧する加圧手段と、
該加圧手段による該空気室のすべての加圧が完了した後に、加圧された各空気室から圧縮空気を排出して各空気室を除圧する除圧手段とを有し、
該除圧手段が、加圧された空気室のうちの隣接して配置された何れか一組の空気室を、該一組の空気室のうちの近位側の空気室の除圧を先に開始し遠位側の空気室の除圧を後に開始するようにされた、空気圧式マッサージ装置を提供する。
【0008】
当該空気圧式マッサージ装置においては、加圧された空気室の除圧をする際に、隣接して配置された何れか一組の空気室のうちの近位側(中枢側)の空気室の除圧を先に開始するようにしているので、該近位側の空気室の除圧が開始された時点ではまだ遠位側(末梢側)の空気室が加圧状態となっている。そのため、除圧された近位側の空気室によって圧迫されていた身体の部分と、まだ加圧されている遠位側の空気室によって圧迫されている身体の部分との間に圧力差が生じて、遠位の身体部分から近位の身体部分に向かって近位方向に体液が流れるようになる。このようにして空気室の加圧時だけでなく除圧時にも体液の近位方向への流動を促すことができるので、より効率的なドレナージを行うことが可能となる。上述のように、従来の空気圧式マッサージ装置では、末梢に位置する遠位端の空気室から加圧を開始して順次近位の空気室を加圧していくようにして、加圧時の腕や脚への圧迫作用によって主に体液の流れを促すようにしている。マッサージ室の除圧は、そのような加圧による体液の流れの促進を再度行うために行われるものとして、これまでの空気圧式マッサージ装置では、最初に加圧された遠位側の空気室から除圧したり、全部の空気室を一度に除圧したりするようにしている。本発明に係る空気圧式マッサージ装置では、上述の如く、空気室の除圧によっても身体中枢方向への体液の流れを促そうとするものである。
【0009】
好ましくは、前記除圧手段が、前記加圧された空気室のうちの最も遠位に配置された遠位端空気室の除圧よりも先に、前記加圧された空気室のうちの前記遠位端空気室以外の空気室のうちの少なくとも一つの空気室の除圧を開始するようにすることができる。
【0010】
具体的には、前記除圧手段が、前記加圧された空気室を前記遠位端空気室を1番として近位方向に並ぶ順番に番号を付したときに偶数番となる空気室を該番号の大きい順に除圧を開始し、次に奇数番となる空気室を該番号の大きい順に除圧を開始するようにすることができる。
【0011】
または、前記除圧手段が、前記加圧された空気室を前記遠位端空気室を1番として近位方向に並ぶ順番に番号を付したときに奇数番となる空気室を該番号の大きい順に除圧を開始し、次に偶数番となる空気室を該番号の大きい順に除圧を開始するようにすることもできる。
【0012】
または、前記除圧手段が、前記加圧された空気室を前記遠位端空気室を1番として近位方向に並ぶ順番に番号を付したときに番号の大きい順に除圧を開始するようにすることもできる。
【0013】
発明者らの鋭意研究の結果、上述のような除圧パターンにより、特に効率的なドレナージを行うことができることが分かっている。
【0014】
また、具体的には、前記加圧手段が、前記加圧された空気室を前記遠位端空気室を1番として近位方向に並ぶ順番に番号を付したときに番号の小さい順に加圧を開始するようにすることができる。
【0015】
または、前記加圧手段が、前記複数の空気室の加圧を同時に開始するようにすることもできる。
【0016】
好ましくは、前記複数の空気室が、隣接する空気室が互いに重なり合うように配置されているようにすることができる。
【0017】
隣接する空気室が互いに重なり合うように配置されているので、空気室によって加圧されない身体部分が減少して、腕又は脚の全体にくまなく圧力が掛けられるので、より効率的なドレナージを行うことが可能となる。
【0018】
好ましくは、前記圧縮空気制御装置が、前記加圧手段による各空気室の加圧が完了した後に前記加圧された空気室の加圧状態を一定時間維持する加圧状態維持手段をさらに有するようにすることができる。
【0019】
以下、本発明に係る空気圧式マッサージ装置の実施形態を添付図面に基づき説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の空気圧式マッサージ装置を示す全体図である。
【
図2】
図1の空気圧式マッサージ装置のマッサージ具を示す図である。
【
図4】従来の空気圧式マッサージ装置の電磁弁の駆動シーケンスを示す図である。
【
図5】本発明の空気圧式マッサージ装置の電磁弁の駆動シーケンスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態に係る空気圧式マッサージ装置1は、
図1に示すように、患者の脚を包むように装着される筒状のマッサージ具2と、このマッサージ具2とエアチューブ3で接続された圧縮空気制御装置4とを備える。マッサージ具2には、
図2に示すように、つま先からかかとの付近までを覆う末梢部分から大腿部を覆う中枢部分にまで連続して並べて配置された第1乃至第6の空気室5a−5fを有している。これら6つの空気室5a−5fは、隣接する空気室と部分的に互いに重なり合うようにして配置されている。エアチューブ3はマッサージ具2の各空気室5a−5fと圧縮空気制御装置4との間をそれぞれ接続している。圧縮空気制御装置4内には、図示しない圧縮空気を吐出するエアポンプと、エアポンプと各エアチューブ3との間に配置された6つの電磁弁と、各空気室5a−5fの圧力を測定するための6つの圧力センサと、6つの電磁弁の駆動を制御する制御回路とが設けられている。各電磁弁は、3方弁になっていて、エアポンプに連通する第1開口と、エアチューブ3を介して空気室に連通する第2開口と、大気と連通する第3開口とを有し、当該電磁弁がOFFの状態では第1開口を塞いで第2開口と第3開口とを連通させた圧縮空気排出状態となり、ONの状態では第3開口を塞いで第1開口と第2開口とを連通させた圧縮空気供給状態となるようになっている。すなわち、エアポンプが稼働している状態で、制御回路によって電磁弁をONにすることで、その電磁弁が圧縮空気供給状態となってエアポンプからの圧縮空気が対応する空気室に供給されその空気室が加圧されて膨らみ、電磁弁をOFFにすることで、その電磁弁が圧縮空気排出状態となって対応する空気室内の圧縮空気が大気に排出されその空気室が除圧されて縮むようになっている。
【0022】
各電磁弁の動作の順序、すなわち各空気室5a−5fの加圧及び除圧の順序は、制御回路によって任意に設定可能となっている。当該空気圧式マッサージ装置1においては、制御回路の加圧プログラム(加圧手段)によって設定された順序で電磁弁をONにして全ての空気室の加圧が完了した後に、加圧状態保持プログラム(加圧状態保持手段)によって一定時間(5秒間)各空気室が加圧された状態を維持し、その後の除圧プログラム(除圧手段)によって設定された順序で電磁弁をOFFにして全ての空気室5a−5fの除圧を行う。全ての空気室5a−5fの除圧が完了した後には、再び加圧プログラムが始まって同様な順序で加圧及び除圧を行い、以後このサイクルを繰り返す。
【0023】
当該空気圧式マッサージ装置1における代表的な加圧パターンとしては、全ての電磁弁を同時にONにして全ての空気室5a−5fを同時に加圧する第1加圧パターンと、第1の電磁弁から第6の電磁弁まで順次ONにしていって最遠位の第1の空気室から最近位の第6の空気室まで近位方向に順番に加圧を開始する第2加圧パターンとがある。ただし、本発明における加圧パターンはこれらに限定されるものではなく、どのような順序で第1乃至第6の電磁弁を駆動して各空気室5a−5fを加圧してもよい。
【0024】
当該空気圧式マッサージ装置1における除圧パターンは、基本的には、隣接して配置された何れか一組の空気室をその組の空気室のうちの近位側の空気室の除圧を先に開始して遠位側の空気室の除圧をその後に開始するようにするようになっている。こうすることで、除圧された近位側の空気室が圧迫していた身体の部分とその遠位側の空気室
が圧迫している身体の部分と
の間に圧力勾配が生じ、遠位側の空気室
によって圧迫されている身体の部分から近位側の空気室
によって圧迫されていた身体の部分に
向かって体液が流れるのを促すことが可能となる。当該空気圧式マッサージ装置1における代表的な除圧パターンとしては、第6の空気室5fの除圧を最初に開始し、以後、第4の空気室5d、第2の空気室5b、第5の空気室5e、第3の空気室5c、第1の空気室5aの順に除圧を開始する第1除圧パターン、第5の空気室5eの除圧を最初に開始し、以後、第3の空気室5c、第1の空気室5a、第6の空気室5f、第4の空気室5d、第2の空気室5bの順に除圧を開始する第2除圧パターン、及び第6の空気室5fから第1の空気室5aまで遠位方向に並ぶ順に順次除圧を開始する第3除圧パターンがある。ただし、本発明における除圧パターンは、身体に負荷される圧力が遠位から近位向かって減少している部分が生じるように各空気室5a−5fの除圧を行うようにすればよく、後述するように上記3つの除圧パターンに限られるものではない。
【0025】
当該空気圧式マッサージ装置1のリンパドレナージとしての効果を検証するために、ICG(インドシアニングリーン)蛍光法によって、当該空気圧式マッサージ装置1によるマッサージが行われている状態でのリンパ液の流れを観察した。ICG蛍光法は、波長760nmの赤外光によって励起されて波長830nmの赤外蛍光を発する性質を有するICGを身体内に皮内注射し、身体外部から赤外励起光を照射してICGが発する蛍光を赤外観察カメラによって観察することで、リンパ液と共に流れるICGを観察してリンパ液の流れやリンパ管の位置を特定する手法である。波長の長い赤外光は生体を比較的に透過しやすいため、ICG蛍光法では皮下深部のリンパ液の流れも観察することができる。今回の実験では、被験者の脚に6つの空気室5a−5fを有する透明なマッサージ具2を
図3のように装着し、被験者の各足趾間にICGを皮内注射して、空気圧式マッサージ装置1によるマッサージを開始し、このときの被験者のふくらはぎ辺りを赤外励起光で照らしながら赤外観察カメラにより観察してICGの流れを観察した。具体的には、赤外観察カメラによる観察領域内に
図3に示すように5つの測定領域R1−R5を設けて、各測定領域R1−R5内の蛍光強度の平均値を0.2秒毎に演算し、その平均蛍光強度の変化からICGの流れ、すなわちリンパ液の流れの大きさを評価した。
【0026】
第1の実験は、従来の空気圧式マッサージ装置の効果を検証するものである。この第1の実験では、
図4に示すように、第1乃至第6の空気室にそれぞれ対応する第1乃至第6の電磁弁を第1の電磁弁から第6の電磁弁まで順次ONにしつつ、第3の電磁弁がONにされた後のタイミングで第1の電磁弁から第6の電磁弁まで順次OFFにするようにした。これにより各空気室を、第1の空気室から第6の空気室まで近位方向に並ぶ順番に順次加圧し、第3の空気室の加圧が開始したところで最遠位の第1の空気室の除圧が開始され第6の空気室まで順次除圧されるようになる。各空気室の加圧時の圧力は8kPaとした。
【0027】
第2の実験は、本発明の空気圧式マッサージ装置1の効果を検証するものである。この第2の実験では、本発明の加圧除圧パターンの代表例として、
図5に示すように、上述の第1加圧パターンと第1除圧パターンとを組み合わせて、6つの空気室5a―5fを同時に加圧しその後加圧された状態を5秒間維持した後に、第6の空気室5fの除圧を開始し、以後第4の空気室5d、第2の空気室5b、第5の空気室5e、第3の空気室5c、第1の空気室5aの順に除圧を開始するように第1乃至第6の電磁弁を制御するようにした。各空気室5a―5fの加圧時の圧力は、第1の実験と同様に8kPaとした。
【0028】
図6及び
図7にそれぞれ示す第1及び第2の実験の結果は、各加圧除圧パターンのおよそ2サイクル分の時間の第1乃至第5の測定領域R1−R5における平均蛍光強度の変化を示すものである。
図6及び
図7のグラフにおいて、蛍光強度が増加しているところで各空気室5a―5fの加圧が行われており、減少しているところで除圧が行われている。
図6に示す従来の空気圧式マッサージ装置によるマッサージ時のICGの蛍光強度の変化量よりも、
図7に示す本発明の空気圧式マッサージ装置1によるマッサージ時のICGの蛍光強度の方が大きいことが分かる。蛍光強度の変化量はICGの量の変化に相関するので、上記結果から第2の実験の方がより多くのICGが測定領域R1−R5内を通過したと考えられる。すなわち、本発明の方がより多くのリンパ液が通過したと考えられる。また、
図7に示す第2の実験の結果の方が、特に除圧時において、より急峻に蛍光強度が減少しており、このことからリンパ液がより速く流れていたことが推察される。これらの実験結果から、本発明による空気圧式マッサージ装置1によるマッサージは、従来のものに比べて、より多くの量のリンパ液をより速く流すことが可能であることが示唆される。
【0029】
本発明は、各空気室5a―5fの特に除圧の順序を適切に設定することにより、身体の末梢から中枢に向かう近位方向に減少するような圧力勾配を身体内部に形成し、それにより加圧時だけでなく除圧時にもリンパ液の流れを促すようにするものである。このような圧力勾配を形成する除圧のパターンとして、先に第1乃至第3除圧パターンを具体的に示したが、当然にその他の除圧パターンによっても本発明を実現することは可能である。以下に上述の第1乃至第3除圧パターンとともに他の除圧パターンの一例を示す。ただし、本発明における除圧パターンはこれらに限定されるものではない。
【表1】
表1において、矢印はその左の番号の空気室の除圧を開始した後にその右の番号の空気室の除圧を開示することを意味し、括弧に囲まれた番号の空気室は同時に除圧を開始することを意味する。なお、除圧を開始するタイミングは、その前の空気室の除圧が完了するのを待って次の空気室の除圧を開始するようにしても良いし、前の空気室の除圧の途中で次の空気室の除圧を開始するようにしても良い。
【0030】
なお、上述の加圧除圧パターンにおいては、マッサージ具2が備える6つ全ての空気室5a―5fを使用しているが、例えばふくらはぎ部分のみに浮腫が生じていて大腿部のドレナージを行う必要がない場合などには第1乃至第4の空気室5a―5dのみを用いるようにするなど、必要な部分のみを利用するようにしてもよい。また、加圧力は、浮腫の重症度に合わせて適宜変更するようにしてもよいし、空気室5a―5f毎に異なる圧力値を設定するようにしてもよい。これらの条件は、患者の状態に合わせて適宜変更されうるものである。
【0031】
上記実施形態においては、マッサージ具2には6つの空気室5a―5fが設けられているが、空気室の数や大きさは適宜変更してもよい。生体のリンパ流はわずかなリンパ液が弁構造を有する細いリンパ管内を流れていて一度に長い距離を流すことはできないため、リンパ液を流したい部分から数センチから長くても20センチ中枢側の空気室を除圧することが効果的である。そのため、当該空気圧式マッサージ装置をリンパ浮腫の治療用として使用する場合には、空気室の数を8や12に増やして大きさを小さくした方がより効率的にリンパドレナージを行える場合がある。または、部分的なドレナージを行うための小型のマッサージ具とするために、より少ない4つの空気室を備えるようにしてもよい。なお、上記実施形態では脚用のマッサージ具2となっているが、マッサージ具の形状を変更して腕用のものとすることもできる。
【符号の説明】
【0032】
空気圧式マッサージ装置1; マッサージ具2; エアチューブ3; 圧縮空気制御装置4; 第1の空気室5a; 第2の空気室5b; 第3の空気室5c; 第4の空気室5d; 第5の空気室5e; 第6の空気室5f