特許第6203586号(P6203586)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6203586ヨウ素系エッチング液およびエッチング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6203586
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】ヨウ素系エッチング液およびエッチング方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/308 20060101AFI20170914BHJP
   C23F 1/14 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   H01L21/308 F
   C23F1/14
【請求項の数】13
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-199410(P2013-199410)
(22)【出願日】2013年9月26日
(65)【公開番号】特開2014-82480(P2014-82480A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2016年7月15日
(31)【優先権主張番号】特願2012-217438(P2012-217438)
(32)【優先日】2012年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591045677
【氏名又は名称】関東化學株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】永島 和明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀樹
【審査官】 長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/049750(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/026542(WO,A1)
【文献】 特開2003−213460(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/111389(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/306−21/3063、21/308、
21/465−21/467、
C23F 1/00− 4/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウム材料とパラジウム材料とは異なる他の金属材料とが共存する材料をエッチングするヨウ素系エッチング液であって、水と相溶する有機溶剤と水溶性高分子化合物とを含む、前記ヨウ素系エッチング液。
【請求項2】
水溶性高分子化合物が、パラジウム材料とは異なる他の金属材料表面に付着することにより前記他の金属材料に対するエッチングレートを低下させるものである、請求項1に記載のヨウ素系エッチング液。
【請求項3】
水溶性高分子化合物が、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリジノンおよびポリエチレンイミンからなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1または2に記載のヨウ素系エッチング液。
【請求項4】
水溶性高分子化合物が、ノニオン性高分子化合物である、請求項1または2に記載のヨウ素系エッチング液。
【請求項5】
水溶性高分子化合物の重量平均分子量が、300以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のヨウ素系エッチング液。
【請求項6】
水溶性高分子化合物の含有量が、1〜1000ppmである、請求項1〜5のいずれか一項に記載のヨウ素系エッチング液。
【請求項7】
有機溶剤が、含窒素五員環化合物、アルコール化合物、アミド化合物、ケトン化合物、有機硫黄化合物、アミン化合物およびイミド化合物からなる群から選択される1種または2種以上を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載のヨウ素系エッチング液。
【請求項8】
有機溶剤の濃度が、1〜60容量%である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のヨウ素系エッチング液。
【請求項9】
さらに、チオシアン酸化合物を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載のヨウ素系エッチング液。
【請求項10】
パラジウム材料とは異なる他の金属材料が、金、コバルト、ニッケル、アルミニウム、モリブデン、タングステン、およびこれらの合金からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1〜9のいずれか一項に記載のヨウ素系エッチング液。
【請求項11】
パラジウム材料とは異なる他の金属材料が、金または金合金である、請求項1〜10のいずれか一項に記載のヨウ素系エッチング液。
【請求項12】
ヨウ素系エッチング液を用いてパラジウム材料とパラジウム材料と異なる他の金属材料とが共存する材料をエッチングする方法であって、
ヨウ素系エッチング液が、水と相溶する有機溶剤と、水溶性高分子化合物とを含み、
ヨウ素系エッチング液中における有機溶剤および/または水溶性高分子化合物の含有量を調節することにより、パラジウム材料と前記他の金属材料とのエッチングレート比を調節する工程を含む、エッチング方法。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のヨウ素系エッチング液を用いてパラジウム材料とパラジウム材料とは異なる他の金属材料とが共存する材料をエッチングする工程を有する、半導体材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ素系エッチング液およびエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金、パラジウム等の金属は、一般に半導体や液晶表示装置の電極配線材料等として幅広く使用されている。これらの金属電極配線の微細加工技術として、化学薬品を用いるウェットエッチング方法がある。特に、近年電極配線の接合においてはフリップチップ方式が主流になっており、バンプの形成工程においてエッチング液が多用されている。
【0003】
従来から、このようなエッチング液としては、有機溶剤を含むヨウ素系のエッチング液が知られている(例えば特許文献1)。しかし、該エッチング液は、エッチング性能の変化が少なく安定して金のエッチングができるものの、金バンプの形成工程において、金バンプとともに下地のパラジウムをエッチングする際、それぞれの金属のエッチング量を制御することができなかった。
【0004】
また、ヨウ素を反応主体とするエッチング液を用い、金、パラジウムおよびそれらの合金をエッチングする方法が知られている(特許文献2)。しかし、該エッチング液による方法は、金およびパラジウムを同様にエッチングし、バンプへのダメージ、すなわち、金のエッチングを抑え、下地のパラジウムを選択的に除去することができなかった。
【0005】
このような背景の元、本発明者らは、パラジウムと金とが共存する材料をエッチングする際に用いる、パラジウムに対する選択性の高いエッチング液、およびパラジウムに対するエッチングの選択性を制御する方法を見出した(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−211142号公報
【特許文献2】特開昭49−123132号公報
【特許文献3】国際公開第2007/049750号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3に記載の方法においては、パラジウムの金に対するエッチングレート比を大きく、例えば1.5以上とするためには、エッチング液が高濃度の有機溶剤、例えば80vol%以上の有機溶剤を含むことが必要であった。このようなエッチング液はレジストへのアタック性が高く使用条件に制限が生じること、また、有機溶剤の種類によっては消防法上の危険物に該当し、煩雑な管理が必要であることといった問題がある。
【0008】
このように、従来、パラジウム材料と他の金属材料とが含まれる材料において、パラジウム材料の前記金属材料に対するエッチングレート比を高くしつつ、エッチング液中の有機溶剤の濃度を比較的低くすることは困難であった。したがって、前記エッチングレート比を比較的高い範囲も含めて調節することについても困難であった。
【0009】
よって、本発明は、パラジウム材料の前記金属材料に対するエッチングレート比の高いヨウ素系エッチング液、特にエッチング液中の有機溶剤の濃度を比較的低くすることが可能なヨウ素系エッチング液、および前記エッチングレート比を比較的広い範囲で調節可能なエッチング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を行う中で、特定の有機溶剤と水溶性高分子化合物とを含む組成をエッチング液として用いた場合に、パラジウム材料の他の金属材料に対するエッチングレート比が比較的高くなることを見出し、さらに研究を続けた結果、本発明を達成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下に関する。
[1] パラジウム材料とパラジウム材料とは異なる他の金属材料とが共存する材料をエッチングするヨウ素系エッチング液であって、水と相溶する有機溶剤と水溶性高分子化合物とを含む、前記ヨウ素系エッチング液。
[2] 水溶性高分子化合物が、金属材料表面に付着することにより金属材料に対するエッチングレートを低下させるものである、[1]に記載のヨウ素系エッチング液。
[3] 水溶性高分子化合物が、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリジノンおよびポリエチレンイミンからなる群から選択される1種または2種以上である、[1]または[2]に記載のヨウ素系エッチング液。
[4] 水溶性高分子化合物が、ノニオン性高分子化合物である、[1]または[2]に記載のヨウ素系エッチング液。
[5] 水溶性高分子化合物の重量平均分子量が、300以上である、[1]〜[4]のいずれかに記載のヨウ素系エッチング液。
[6] 水溶性高分子化合物の含有量が、1〜1000ppmである、[1]〜[5]のいずれかに記載のヨウ素系エッチング液。
[7] 有機溶剤が、含窒素五員環化合物、アルコール化合物、アミド化合物、ケトン化合物、有機硫黄化合物、アミン化合物およびイミド化合物からなる群から選択される1種または2種以上を含む、[1]〜[6]のいずれかに記載のヨウ素系エッチング液。
[8] 有機溶剤の濃度が、1〜60容量%である、[1]〜[7]のいずれかに記載のヨウ素系エッチング液。
[9] さらに、チオシアン酸化合物を含む、[1]〜[8]のいずれかに記載のヨウ素系エッチング液。
[10] 金属材料が、金、コバルト、ニッケル、アルミニウム、モリブデン、タングステン、およびこれらの合金からなる群から選択される1種または2種以上である、[1]〜[8]のいずれかに記載のヨウ素系エッチング液。
[11] 金属材料が、金または金合金である、[1]〜[10]のいずれかに記載のヨウ素系エッチング液。
[12] ヨウ素系エッチング液を用いてパラジウム材料とパラジウム材料と異なる他の金属材料とが共存する材料をエッチングする方法であって、
ヨウ素系エッチング液が、水と相溶する有機溶剤と、水溶性高分子化合物とを含み、
ヨウ素系エッチング液中における有機溶剤および/または水溶性高分子化合物の含有量を調節することにより、パラジウム材料と前記金属材料とのエッチングレート比を調節する工程を含む、エッチング方法。
[13] [1]〜[11]のいずれかに記載のヨウ素系エッチング液を用いてパラジウム材料とパラジウム材料とは異なる他の金属材料とが共存する材料をエッチングする工程を有する、半導体材料の製造方法。
[14] [1]〜[11]のいずれかに記載のヨウ素系エッチング液を用いてパラジウム材料とパラジウム材料とは異なる他の金属材料とが共存する材料をエッチングして得られた、半導体材料。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、パラジウム材料のパラジウム材料とは異なる金属材料に対するエッチングレート比の高いヨウ素系エッチング液、特にエッチング液中の有機溶剤の濃度を比較的低くすることが可能なヨウ素系エッチング液、および前記エッチングレート比を比較的広い範囲で調節可能なエッチング方法を提供することができる。
このようなパラジウム材料の他の金属材料に対する高いエッチングレート比が得られる理由は定かではないが、水と相溶する有機溶剤と水溶性高分子とを含むことにより、これらが以下のように作用したことが考えられる。
【0013】
すなわち、まず、エッチング液が水と相溶する有機溶剤を含むことにより、パラジウム材料に対するエッチングレートの低下が抑制される一方で、他の金属材料に対するエッチングレートは大きく低下する。この結果、パラジウム材料の他の金属材料に対するエッチングレート比が大きいものとなる。
【0014】
詳しく説明すると、被エッチング材料の溶解反応の速度には、溶解に関与するヨウ素イオンのヨウ素系エッチング液から被エッチング材料表面への供給速度、および溶解により生成したヨウ化物のヨウ素系エッチング液への移動速度が大きく関与しており、これらの供給および移動速度が大きいと、被エッチング材料の溶解反応の速度が大きくなる。そして、前記供給および移動速度は、反応場である被エッチング材料表面とヨウ素系エッチング液中との間の反応種(ヨウ素イオン、ヨウ化物)の濃度差による拡散が駆動力となる。有機溶剤を含む系(水-有機溶媒混合系)においては、イオンの解離が抑制される結果、全体活量が低下するとともに被エッチング材料表面とエッチング液中との間の反応種の濃度差が低下し、拡散速度の低下が起こると考えられる。しかしながら、パラジウム材料については、有機溶剤が配位子として作用してパラジウム配位化合物を生成する結果、これについてのエッチングレートの低下が抑制される。一方で、金等のその他の金属材料については、有機溶剤が配位子として作用しづらい結果、これについてのエッチングレートは大きく低下する。
【0015】
次に、このような水と相溶する有機溶剤を含むヨウ素系エッチング液が、水溶性高分子化合物を含むことにより、含まない場合と比較して、パラジウム材料に対するエッチングレートは同程度に維持される一方で、他の金属材料に対するエッチングレートは低下する。この結果、エッチング液が水溶性高分子化合物を含まない場合と比較して、パラジウム材料の金属材料に対するエッチングレート比が大きいものとなる。
【0016】
これは、前記金属材料表面に水溶性高分子化合物が付着する結果、当該金属材料表面で上記溶解反応が抑制される一方で、パラジウム材料表面においては水溶性高分子化合物が付着しづらい結果、当該水溶性高分子によってはパラジウム材料表面上での上記溶解反応が抑制されないためであると考えられる。
【0017】
以上より、本発明のヨウ素系エッチング液を用いた場合、パラジウム材料の金属材料に対するエッチングレート比を、例えば1.5以上と、高いものとすることができる。また、水と相溶する有機溶剤の含有量を比較的低くしても前記エッチングレート比を高いものとすることができるため、レジストへのアタック性等を考慮して、水と相溶する有機溶剤の含有量を低いものとすることも可能である。
さらに、ヨウ素系エッチング液中の水と相溶する有機溶剤および水溶性高分子材料の含有量を調節することにより、パラジウム材料の他の金属材料に対するエッチングレート比を調節することができる。すなわち、製造の目的に応じて、パラジウム材料の他の金属材料に対するエッチングレート比を比較的広い範囲において任意に設定することができる。
【0018】
また、特に、ヨウ素系エッチング液がチオシアン酸化合物を含むことにより、他の金属材料の配位子の形成と比較してパラジウム配位化合物の形成を促進することができるため、パラジウム材料の他の金属材料に対するエッチングレート比をさらに大きいものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、パラジウムと金が共存する材料をエッチングする場合における、ポリビニルピロリジノン(PVP)の添加量とエッチングレートとの関係を示すグラフである。
図2図2は、パラジウムと金が共存する材料をエッチングする場合における、チオシアン酸カリウム(KSCN)の添加量とエッチングレートとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について、本発明の好適な実施態様に基づき、詳細に説明する。
本発明のヨウ素系エッチング液は、パラジウム材料とパラジウム材料と異なる他の金属材料とが共存する材料をエッチングするために用いられる。
本発明のヨウ素系エッチング液は、水と相溶する有機溶剤と水溶性高分子化合物とを含む。また、一般のヨウ素系エッチング液と同様に、本発明のヨウ素系エッチング液は、水と、ヨウ素と、ヨウ化物とをも含んでいる。
以下、各成分について説明する。
【0021】
本発明のヨウ素系エッチング液は、ヨウ素およびヨウ化物を含む。
ヨウ化物としては、特に限定されず、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化アンモニウム、ヨウ化ルビジウム、ヨウ化セシウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化ストロンチウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化カドミウム、ヨウ化水銀(II)、ヨウ化鉛(II)等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。特に、ヨウ化物としては、水への溶解度、価格、取り扱い易さ、及び毒性等の観点から、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化アンモニウムが好ましい。
【0022】
ヨウ素系エッチング液中におけるヨウ素の含有量は、特には限定されないが、例えば、1〜1000mMとすることができる。好ましくは、50〜500mMである。
ヨウ素系エッチング液中におけるヨウ化物の含有量は、特には限定されないが、例えば、1〜3000mMとすることができる。好ましくは、150〜1500mMである。
また、ヨウ素とヨウ化物との含有量の比率(モル濃度比、ヨウ素:ヨウ化物)は特に限定されないが、好ましくは1:3〜1:10、さらに好ましくは1:5〜1:10である。
【0023】
また、本発明のヨウ素系エッチング液は、水溶性高分子化合物を含む。
水溶性高分子化合物は、一般に、その分子中にヘテロ原子を有し、これにより、極性を有し、水に溶解することができる。一方で、水溶性高分子化合物は、極性を有することによりエッチング時において金属材料表面に付着することができ、これにより、金属ヨウ化物およびこれの有機溶剤との錯体の形成を抑制し、この結果、金属材料に対するエッチングレートを低下させることができる。
【0024】
このような水溶性高分子化合物としては、特に限定されず、金属材料表面に付着することにより金属材料に対するエッチングレートを低下させるものを用いることができ、例えば、天然高分子化合物、合成高分子化合物またはこれらの誘導体を1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0025】
天然高分子化合物およびこれらの誘導体としては、特に限定されないが、例えば、デンプン、カルボキシメチルデンプン、リン酸デンプンもしくはカチオンデンプン等の変性デンプン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カチオン化セルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、グアーガム、キサンタンガム、アルギン酸、アラビアガム、カラギーナン、プルラン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウムおよびこの誘導体、コラーゲンおよびこの誘導体、キトサンならびにゼラチン、ポリペプトン等が挙げられる。
【0026】
合成高分子化合物およびこれらの誘導体としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール、ポリメチルビニルエーテル等のポリアルキルビニルエーテル、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム等のポリスチレン誘導体、ポリイソプレンスルホン酸ナトリウム等のポリイソプレン誘導体、ナフタレンスルホン酸縮合物塩等のナフタレン誘導体、ポリエチレンイミンおよびポリエチレンイミンキサンタート塩等のポリエチレンイミン誘導体、ポリイソプロピル(メタ)アクリルアミド等のポリアルキル(メタ)アクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリジノン、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸およびその誘導体、ポリアミジンおよびその共重合体、ポリビニルイミダゾリノン、ジシアンジアミド系縮合物、エピクロロヒドリン・ジメチルアミン縮合物、ならびにジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物および共重合物等のジアルキルジアリルアンモニウムハライド重合物および共重合物等が挙げられる。
【0027】
上述した中でも、ヨウ素系エッチング液は、ヨウ素系エッチング液への溶解性、および液中における安定性の観点から、水溶性高分子化合物として、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリジノンおよびポリエチレンイミンからなる群から選択される1種または2種以上を含むことが好ましい。
【0028】
また、水溶性高分子化合物は、ノニオン性、アニオン性、カチオン性または両性高分子化合物のいずれであってもよい。上述した中でも、水溶性高分子化合物がノニオン性高分子化合物である場合、水溶性高分子化合物は金属材料に対して付着する一方で金属材料を構成する金属と配位化合物を形成することが抑制され、この結果、エッチング液の金属材料に対するエッチングレートを十分に低下させることができる。
このようなノニオン性の水溶性高分子化合物としては、例えば、デンプン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、グアーガム、キサンタンガム、ポリアルキレングリコール、ポリアルキルビニルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリジノン等が挙げられる。
【0029】
また、水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、特に限定されないが、300以上であることが好ましく、300〜500000であることがより好ましく、500〜150000であることがさらに好ましい。水溶性高分子化合物の重量平均分子量が前記下限値以上であると、エッチングの際に水溶性高分子化合物が金属材料を構成する金属に配位して配位化合物を形成することが抑制され、この結果、エッチング液の金属材料に対するエッチングレートを十分に低下させることができる。一方、水溶性高分子化合物の重量平均分子量が前記上限値以下であると、水溶性高分子化合物がエッチング液中に溶解しやすいものとなり、水溶性高分子化合物がその効果を十分に発揮できるものとなる。
【0030】
また、エッチング液中における水溶性高分子化合物の含有量は、特に限定されず、有機溶剤の種類および濃度や水溶性高分子化合物の種類によって適宜変更することができるが、例えば、好ましくは、1〜1000ppmであり、より好ましくは、10〜1000ppmであり、さらに好ましくは、50〜500ppmである。かかる範囲内であれば、パラジウム材料に対するエッチング力を維持しつつ、金属材料に対するエッチング力を抑制することができ、パラジウム材料に対するエッチングの選択性を向上させることができる。
【0031】
また、本発明のヨウ素系エッチング液は、水と相溶する有機溶剤を含む。
このような有機溶剤としては、水と相溶するものであれば、特に限定されず、任意の有機溶剤を1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
ここで、有機溶剤は、好ましくは、含窒素五員環化合物、アルコール化合物、アミド化合物、ケトン化合物、エーテル化合物、有機硫黄化合物、アミン化合物およびイミド化合物からなる群から選択される1種または2種以上を含む。
【0032】
含窒素五員環化合物としては、ピロリジノン、イミダゾリジノン、オキサゾール、チアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、テトラゾール、トリアゾール等、またはそれらの誘導体が挙げられる。含窒素五員環化合物の好ましい具体例としては、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)、2−ピロリジノン、ポリビニルピロリジノン、1−エチル−2−ピロリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、2−イミダゾリジノン、2−イミノ−1−メチル−4−イミダゾリジノン、1−メチル−2−イミダゾリジノン、2,5-ビス(1−フェニル)−1,1,3,4−オキサゾール、2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−チアゾール、2,5−ビス(1−フェニル)−4,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール、1,4−ビス[2−(5−フェニルオキサジアゾリル)]ベンゼン、1,4−ビス[2−(5−フェニルオキサジアゾリル)−4−tert−ブチルベンゼン]、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−チアジアゾール、1,4−ビス[2−(5−フェニルチアジアゾリル)]ベンゼン、2,5−ビス(1−ナフチル)−4,3,4−トリアゾール、1,4−ビス[2−(5−フェニルトリアゾリル)]ベンゼン等が挙げられる。中でもNMP、2−ピロリジノン等のピロリジノン誘導体、または1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のイミダゾリジノン誘導体がより好ましく、NMPがさらに好ましい。
【0033】
アルコール化合物としては、炭素数が1〜10であるアルコールが挙げられ、これらは飽和もしくは不飽和、または直鎖状、分枝鎖状もしくは環状のいずれの構造であってもよく、水酸基を2個以上有するポリオールであってもよい。アルコール化合物の好ましい具体例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(IPA)、ヘキサノール等の直鎖または分岐鎖アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、その他のモノ、ジ−またはトリ−アルキレングリコール(グリコール化合物)等のジオール化合物、1,2,4−ブタントリオール、1,2,3−プロパントリオール、1,2,3−ヘキサントリオール等のトリオール化合物、1−シクロペンタノール、1−シクロヘキサノール等の環状アルコール等が挙げられる。これらのうち、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール化合物がより好ましい。
【0034】
アミド化合物はアミド基を有すればよく、ニトロ基、フェニル基、ハロゲン等の置換基を有していてもよい。アミド化合物の好ましい具体例としては、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、アクリルアミド、アジポアミド、アセトアミド、2-アセトアミドアクリル酸、4−アセトアミド安息香酸、2−アセトアミド安息香酸メチル、アセトアミド酢酸エチル、4−アセトアミドフェノール、2−アセトアミドフルオレン、6−アセトアミドヘキサン酸、p−アセトアミドベンズアルデヒド、3−アセトアミドマロン酸ジエチル、4-アセトアミド酪酸、アミド硫酸、アミド硫酸アンモニウム、アミドール、3−アミノベンズアミド、p−アミノベンゼンスルホンアミド、アントラニルアミド、イソニコチンアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-イソプロピル−1−ピペラジンアセトアミド、ウレアアミドリアーゼ、2-エトキシベンズアミド、エルシルアミド、オレイン酸アミド、2-クロロアセトアミド、グリシンアミド塩酸塩、コハク酸アミド、コハク酸ジアミド、サリチルアミド、2−シアノアセトアミド、2−シアノチオアセトアミド、ジアセトアミド、ジアセトンアクリルアミド、ジイソプロピルホルムアミド、N,N−ジイソプロピルイソブチルアミド、N,N−ジエチルアセトアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジエチルドデカン酸アミド、N,N−ジエチルニコチンアミド、ジシアノジアミド、N,N−ジブチルホルムアミド、N,N−ジブロピルアセトアミド、N,N−ジメチルプロピオンアミド、N,N−ジメチルベンズアミド、ステアリン酸アミド、スルファニルアミド、スルファベンズアミド、スルファミド酸、ダンシルアミド、チオアセトアミド、チオイソニコチンアミド、チオベンズアミド、3−ニトロベンズアミド、2−ニトロベンズアミド、2−ニトロベンゼンスルホンアミド、3−ニトロベンゼンスルホンアミド、4−ニトロベンゼンスルホンアミド、ピロリンアミド、ピラジンアミド、2−フェニルブチルアミド、N−フェニルベンズアミド、フェノキシアセトアミド、フタルアミド、フマルアミド、N−ブチルアセトアミド、n−ブチルアミド、プロピオンアミド、ヘキサン酸アミド、ベンズアミド、ベンゼンスルホンアミド、ホルムアミド、マロンアミド、メタンスルホンアミド、N−メチルベンズアミド、N−メチルマレインアミド酸、ヨードアセトアミド等が挙げられる。これらのうち、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等がより好ましい。
【0035】
ケトン化合物としては、炭素数が3〜10であるケトン化合物が挙げられ、ケトン化合物の好ましい具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、4−ヒドロキシ−2−メチルペンタノン等の鎖状ケトン化合物、シクロヘキサノン等の環状ケトン化合物、γ−ブチロラクトン等の環状エステル化合物、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等の炭酸エステル化合物等が挙げられる。これらのうち、アセトン等の鎖状ケトン化合物、炭酸エチレン等の炭酸エステル化合物等がより好ましい。
【0036】
エーテル化合物としては、水溶性のエーテル化合物が挙げられ、エーテル化合物の好ましい具体例としては、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
【0037】
有機硫黄化合物としては、ジメチルスルホキシド等のジアルキルスルホキシド、メルカプトコハク酸等のメルカプト基含有化合物、2,2’−チオ二酢酸等が挙げられる。これらのうち、ジメチルスルホキシド等のジアルキルスルホキシドが好ましい。
【0038】
アミン化合物の好ましい具体例としては、尿素、グリシン、イミノニ酢酸、N−アセチルエタノールアミン、N−アセチルジフェニルアミン、アリルアミン、アリルアミン塩酸塩、アリルシクロヘキシルアミン、イソアリルアミン、イソブチルアミン、イソプロパノールアミン、イソプロピルアミン、エタノールアミン、エタノールアミン塩酸塩、エチルアミン塩酸塩、N−エチルエタノールアミン、N−エチルエチレンジアミン、N−エチルジイソプロピルアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−エチルジシクロヘキシルアミン、N−エチル−n−ブチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、N−エチルベンジルアミン、N−エチルメチルアミン、エチレンジアミン硫酸塩、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸三カリウム三水和物、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム二水和物、エチレンジアミン、エトキシアミン塩酸塩、ジアリルアミン、ジイソブチルアミン、ジイソプロパノールアミン、ジイソプロピルアミン、ジエタノールアミン、ジエタノールアミン塩酸塩、ジエチルアミン、ジエチルアミン塩酸塩、ジエチレントリアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジフェニルアミン、ジフェニルアミン塩酸塩、ジメチルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルアリルアミン、スクシアミン酸、ステアリルアミン、ステアリルアミン塩酸塩、スルファミン酸、チアミン塩酸塩、チアミン硫酸塩、トリイソプロパノールアミン、トリイソペンチルアミン、トリエチレンジアミン、トリファニルアミン、トリベンジルアミン、トリメチレンジアミン、モノエタノールアミン、モノエタノールアミン塩酸塩等が挙げられる。
【0039】
イミド化合物の好ましい具体例としては、コハク酸イミド、ヒドロキシスクシンイミド、N−ヨードスクシンイミド、N−アクリロキシスクシンイミド、N−アセチルフタルイミド、3−アミノフタルイミド、4−アミノフタルイミド、N−アミノフタルイミド、イミド尿素、N−エチルフタルイミド、N−エチルマレイミド、N−カルベトキシフタルイミド、カルボジイミド、N−クロロコハク酸イミド、シクロヘキシイミド、2,6−ジクロロキノンクロロイミド、3,3−ジメチルグルタルイミド、1,8−ナフタルイミド、3-ニトロフタルイミド、4−ニトロフタルイミド、N−ヒドロキシフタルイミド、フタルイミドカリウム、マレイン酸イミド、N−メチルコハク酸イミド、ヨードスクシンイミド等の鎖状または環状のイミド化合物等が挙げられる。
【0040】
上述した中でも、パラジウム材料のエッチングレートを安定に保つことができるために、揮発性の低いものが好ましい。このような有機溶剤としては、含窒素五員環化合物、グリコール化合物、ジオール化合物、トリオール化合物、アミド化合物等が挙げられる。特にエッチング時の濡れ性が良好なNMPが好ましい。
なお、「揮発性が低い」とは、例えば、有機溶剤の25℃における蒸気圧が、
5kPa以下、好ましくは、2kPa以下であることをいうことができる。
【0041】
ヨウ素系エッチング液中における有機溶剤の含有量は、特に限定されず、使用する有機溶剤の種類に応じて適宜使用量を調整するのが好ましい。一般に1〜99容量%の範囲で使用可能であり、好ましくは10〜60容量%、より好ましくは20〜60容量%で使用する。例えば、添加剤がNMPの場合、使用量は好ましくは40〜60容量%、より好ましくは50〜60容量%である。
【0042】
また、ヨウ素系エッチング液は、水を含む。
ヨウ素系エッチング液中における水の含有量は、特に限定されず、例えば、他の成分の残余部分とすることができる。例えば、水の含有量は、1〜99容量%、好ましくは、20〜50容量%とすることができる。
【0043】
また、本発明のヨウ素系エッチング液は、上述した成分以外にも、チオシアン酸化合物や、他の成分を含んでいてもよい。
ヨウ素系エッチング液がチオシアン酸化合物を含む場合、パラジウム材料に対するエッチングレートをより一層大きくすることができ、この結果、パラジウム材料に対するエッチングの選択性を向上させることができる。
チオシアン酸化合物としては、チオシアン酸のアンモニウム塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属との塩、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩が挙げられる。これらの塩うち、上述したエッチングレート比を向上させる観点から、チオシアン酸アンモニウムまたはチオシアン酸カリウムが好ましい。
【0044】
ヨウ素系エッチング液中におけるチオシアン酸化合物の濃度は、添加剤の種類に応じて適宜使用量を調整するのが好ましいが、好ましくは0.01〜2mol/Lであり、より好ましくは0.1〜1.5mol/Lであり、さらに好ましくは0.2mol/L〜1mol/Lである。チオシアン酸アンモニウムの場合、その濃度は好ましくは0.15〜1.0mol/L、より好ましくは0.4〜1.0mol/L、さらに好ましくは0.4〜0.8mol/Lである。チオシアン酸カリウムの場合、その濃度は好ましくは0.3〜1.0mol/Lであり、より好ましくは0.4〜1.0mol/Lであり、さらに好ましくは0.6〜0.8mol/Lである。かかる範囲内であれば、パラジウム材料に対するエッチング力を向上させ、他の金属材料に対するエッチング力を抑制することができる。なお、有機溶媒がNMPである場合には、上述した範囲内において、チオシアン酸化合物の効果がより確実に発揮できるものとなる。
【0045】
上述した本発明のヨウ素系エッチング液は、パラジウム材料とパラジウム材料と異なる他の金属材料とが共存する材料をエッチングするために用いられる。
パラジウム材料としては、例えば、パラジウムおよび、パラジウムとマグネシウム、アルミニウム、チタン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、白金、金、銀、銅等とのパラジウム合金が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせたものに対し、ヨウ素系エッチング液を適用可能である。
なお、パラジウム材料としてパラジウム合金を用いた場合、上記エッチングレート比を高いものとするには、パラジウム合金中、パラジウムの含有量は、
60重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましい。
【0046】
パラジウム材料と異なる他の金属材料としては、特に限定されないが、金、コバルト、ニッケル、アルミニウム、モリブデン、タングステン等またはこれらの合金が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上についてヨウ素系エッチング液を適用可能である。
上述した中でも、金属材料として、金または金合金を用いることが好ましい。これにより、ヨウ素系エッチング液を用いた際に高いエッチングレート比がより確実に得られる。
【0047】
また、パラジウム材料に対するパラジウム材料の前記金属材料に対するエッチングレート比(パラジウム材料についてのエッチングレート/前記金属材料についてのエッチングレート)は、特に限定されないが、例えば、1.5以上であり、好ましくは、2.0以上である。
【0048】
なお、上述したパラジウム材料と、パラジウム材料と異なる他の金属材料とが共存する材料としては、特に限定されないが、例えば、半導体基板、シリコンウェハ、透明導電性電極等の半導体材料等が挙げられる。
また、本発明のヨウ素系エッチング液は、このような材料について使用した際に高い上記エッチングレート比が得られるが、例えば、パラジウム材料、上記金属材料のそれぞれについて個別に用いた場合にもエッチング液としてのエッチング効果が得られることは言うまでもない。
【0049】
本発明のヨウ素系エッチング液は、いかなる方法で製造するものであってもよい。例えば、本発明のヨウ素系エッチング液は、公知のヨウ素系エッチング液に上記の有機溶剤、水溶性高分子化合物等の成分を添加して調製することができる。また、各成分を水に混合することにより調製してもよい。
また、本発明のヨウ素系エッチング液は、あらかじめ調製されている必要はなく、例えば、エッチングを行う直前において、上記の方法により調製してもよい。
【0050】
次に、本発明のエッチング方法について説明する。
本発明のエッチング方法は、ヨウ素系エッチング液を用いてパラジウム材料とパラジウム材料と異なる他の金属材料とが共存する材料をエッチングする方法であって、
ヨウ素系エッチング液が、水と相溶する有機溶剤と、水溶性高分子化合物とを含み、
ヨウ素系エッチング液中における有機溶剤および/または水溶性高分子化合物の含有量を調節することにより、パラジウム材料と前記金属材料とのエッチングレート比を調節する工程(第1の工程)を有する。
また、本実施態様においては、上記工程後、パラジウム材料とパラジウム材料と異なる他の金属材料とが共存する材料をエッチングする工程(第2の工程)をさらに有する。
【0051】
第1の工程では、まず、本発明のヨウ素系エッチング液中における有機溶剤および/または水溶性高分子化合物の含有量を調節することにより、パラジウム材料と前記金属材料とのエッチングレート比を調節する。
有機溶剤または水溶性高分子化合物の含有量を大きくすることにより、上記エッチングレート比は大きくなり、また、前記含有量を小さくすることにより、上記エッチングレート比は小さくなる。本発明のエッチング方法においては、このようにして、エッチングレート比を、比較的広い範囲、例えば、0.5〜3.0において任意に制御することが可能である。
なお、有機溶剤および水溶性高分子化合物の含有量については、例えば、上述したような範囲内において変更することができる。
【0052】
次に、第2の工程では、パラジウム材料とパラジウム材料と異なる他の金属材料とが共存する材料をエッチングする。
本工程のエッチング条件は、特に限定されず、例えば、公知のエッチング方法の条件に準じて行うことができる。
エッチング対象物(材料)とヨウ素系エッチング液との接触方法としては、例えば、容器にヨウ素系エッチング液を満たしてエッチング対象物を浸漬するディップ方式等が挙げられる。その際、当該エッチング対象物を揺動するまたは容器内のヨウ素系エッチング液を強制循環させることが好ましい。これにより、エッチング対象物が均一にエッチングされる。
また、ヨウ素系エッチング液を噴霧により、エッチング対象物へ付着させるスプレー方式や、回転するエッチング対象物にノズルよりヨウ素系エッチング液を吐出するスピン方式等を用いてもよい。また、これらとディップ方式とを併用してもよい。
エッチングの時間は、特に限定されず、例えば、1〜60分間とすることができる。
また、エッチング温度(ディップ方式においてはヨウ素系エッチング液の温度、スプレー方式、スピン方式においては、ヨウ素系エッチング液の温度またはエッチング対象物の温度)は、特に限定されず、例えば、20〜50℃とすることができる。この際、必要に応じて、ヒーター等の加熱手段や、冷却手段によって、ヨウ素系エッチング液、エッチング対象物等の温度調節を行ってもよい。
【0053】
また、本発明は、上述したヨウ素系エッチング液を用いてパラジウム材料とパラジウム材料とは異なる他の金属材料とが共存する材料をエッチングする工程を有する、半導体材料の製造方法に関する。
さらに、本発明は、上述したヨウ素系エッチング液を用いてパラジウム材料とパラジウム材料とは異なる他の金属材料とが共存する材料をエッチングして得られた、半導体材料に関する。
以上、本発明について好適な実施態様に基づき詳細に説明したが、本発明はこれに限定されず、各構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成を付加することもできる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0055】
[比較例1]
パラジウムと金が共存するウエハ上のパラジウムのエッチングを想定して試験を行った。ヨウ化カリウム567mMおよびヨウ素93mMおよびN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)60容量%を含有するエッチング液を200mL調製した。次に2×2cmのパラジウム試片と金試片を液温30℃で弱攪拌しながら、上記エッチング液に2分間浸漬し、エッチングした。重量法からパラジウムと金に対するエッチングレートを算出し、エッチングレートの比(Pd/Au比)を算出した。その結果を表1に示す。表1に示すとおり、水溶性高分子化合物が含まれていないとパラジウムに対するエッチングレートが低く、Pd/Au比が低い。
【0056】
[実施例1]
パラジウムと金が共存するウエハ上のパラジウムのエッチングを想定して試験を行った。上記比較例のエッチング液にポリビニルピロリジノン(PVP、重量平均分子量:40000)を50または200または500ppm配合したエッチング液3種を各200mL調製した。次に2×2cmのパラジウム試片と金試片を液温30℃で弱攪拌しながら上記エッチング液に2分間浸漬し、エッチングした。重量法からパラジウムと金に対するエッチングレートを算出し、Pd/Au比を算出した。その結果を表1および図1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1および図1に記載される結果から、水溶性高分子化合物としてのポリビニルピロリジノンを含むことにより、パラジウムに対するエッチングレートが、金に対するエッチングレートより相対的に高くなり、この結果、Pd/Au比が高いものとなることがわかる。
【0059】
[実施例2]
パラジウムと金が共存するウエハ上のパラジウムのエッチングを想定して試験を行った。ヨウ化カリウム567mMおよびヨウ素93mM、NMP60容量%およびPVP500ppmを含有するエッチング液と、同エッチング液にチオシアン酸カリウムが400、800、または1200mMとなるように配合したエッチング液3種、合計4種を各200mL調製した。次に2×2cmのパラジウム試片と金試片を液温30℃で弱攪拌しながら、上記エッチング液に2分間浸漬し、エッチングした。重量法からパラジウムと金に対するエッチングレートを算出し、Pd/Au比を算出した。その結果を表2および図2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表2および図2に記載される結果から、チオシアン酸化合物を含むことにより、パラジウムに対するエッチングレートの上昇効果が、金に対するエッチングレートの上昇効果より強く作用することにより、Pd/Au比が更に高いものとなることがわかる。
【0062】
[実施例3]
実施例2(KSCN添加量:800mM)におけるNMPの代わりに表3に示す化合物(有機溶剤)を表3に記載の含有量で用いた以外、実施例2と同様にしてエッチングを行なった。結果を表3に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
表3に示されるように、いずれの有機溶媒を用いた場合であっても、水溶性高分子化合物およびチオシアン酸化合物を含まない場合と比較してPd/Au比が向上した。具体的には、表3に記載される条件においては、Pd/Au比はすべて1.5以上であった。また、有機溶剤の濃度を調節することにより、Pd/Au比を調節することができることが示された。
【0065】
[実施例4]
パラジウムと金が共存するウエハ上のパラジウムのエッチングを想定して試験を行った。上記比較例1のエッチング液にポリビニルアルコール(重量平均分子量:500)を50または200ppm配合したエッチング液2種を各200mL調製した。次に2×2cmのパラジウム試片と金試片を液温30℃で弱攪拌しながら上記エッチング液に2分間浸漬し、エッチングした。重量法からパラジウムと金に対するエッチングレートを算出し、Pd/Au比を算出した。その結果を比較例1の結果とともに表4に示す。
【0066】
【表4】
【0067】
表4に記載される結果から、水溶性高分子化合物としてのポリビニルアルコールを含むことにより、パラジウムに対するエッチングレートが、金に対するエッチングレートより相対的に高くなり、この結果、Pd/Au比が高いものとなることがわかる。
【0068】
[比較例2]
パラジウムと金が共存するウエハ上のパラジウムのエッチングを想定して試験を行った。ヨウ化カリウム567mMおよびヨウ素93mMおよびジプロピレングリコール20容量%およびチオシアン酸カリウム800mMを含有するエッチング液を200mL調製した。次に2×2cmのパラジウム試片と金試片を液温30℃で弱攪拌しながら、上記エッチング液に2分間浸漬し、エッチングした。重量法からパラジウムと金に対するエッチングレートを算出し、エッチングレートの比(Pd/Au比)を算出した。その結果を表5に示す。
【0069】
[実施例5]
パラジウムと金が共存するウエハ上のパラジウムのエッチングを想定して試験を行った。上記比較例2のエッチング液にポリエチレンイミン(重量平均分子量:2000)を50または500ppm配合したエッチング液2種を各200mL調製した。次に2×2cmのパラジウム試片と金試片を液温30℃で弱攪拌しながら上記エッチング液に2分間浸漬し、エッチングした。重量法からパラジウムと金に対するエッチングレートを算出し、Pd/Au比を算出した。その結果を表5に示す。
【0070】
【表5】
【0071】
表5に記載される結果から、水溶性高分子化合物としてのポリエチレンイミンを含むことにより、パラジウムに対するエッチングレートが、金に対するエッチングレートより相対的に高くなり、この結果、Pd/Au比が高いものとなることがわかる。
図1
図2