特許第6203625号(P6203625)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6203625-シリカ粒子の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6203625
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】シリカ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/193 20060101AFI20170914BHJP
【FI】
   C01B33/193
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-259534(P2013-259534)
(22)【出願日】2013年12月16日
(65)【公開番号】特開2015-117138(P2015-117138A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2016年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】新井 雄己
(72)【発明者】
【氏名】永野 幸恵
(72)【発明者】
【氏名】楊原 武
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−247625(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/072637(WO,A1)
【文献】 特開2008−169102(JP,A)
【文献】 特開2013−224225(JP,A)
【文献】 特開昭62−052120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 − 33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ケイ素及びケイ素化合物の何れかであり、トリウム・ウラン・アルミニウム、鉄からなる原料不純物濃度が全体の質量を基準として0.60%未満であるケイ素含有物から、体積平均粒径が2nm〜200nmであるシリカ粒子を製造する方法であって、
前記ケイ素含有物をアンモニアを溶解したアルカリ溶液に溶解させてアルカリ性ケイ酸塩溶液を製造するアルカリ性ケイ酸塩溶液製造工程と、
得られたアルカリ性ケイ酸塩溶液から水性シリカゾルを形成する水性シリカゾル形成工程と、
を有し、
前記水性シリカゾル形成工程において最終的に生成する水性シリカゾルの質量に対して90%以上が生成している間は前記アルカリ性ケイ酸塩溶液の温度を30℃以上60℃以下に保つシリカ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記水性シリカゾル形成工程における前記アルカリ性ケイ酸塩溶液の温度が30℃以上60℃以下である請求項1に記載のシリカ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ性ケイ酸塩溶液製造工程は、前記ケイ素含有物を5質量%以上残してアルカリ溶液に溶解させる請求項1又は2に記載のシリカ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記ケイ素含有物は金属ケイ素である請求項1〜3のうちの何れか1項に記載のシリカ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記金属ケイ素は、Fe及びAlの含有量が2000ppm以下、金属不純物の含有量が500ppm以下である請求項1〜4のうちの何れか1項に記載のシリカ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記水性シリカゾルに対して、シランカップリング剤およびオルガノシラザンによって表面処理する表面処理工程を持ち、
該シランカップリング剤は、3つのアルコキシ基と、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基と、を持ち、
該シランカップリング剤と該オルガノシラザンとのモル比は、該シランカップリング剤:該オルガノシラザン=1:2〜1:10である請求項1〜5のうちの何れか1項に記載のシリカ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記表面処理工程は、
前記シリカ粒子を前記シランカップリング剤で処理する第1の処理工程と、
前記シリカ粒子を前記オルガノシラザンで処理する第2の処理工程と、を持ち、
該第2の処理工程は、該第1の処理工程後に行う請求項6に記載の表面改質シリカ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱硬化性樹脂などの樹脂中にシリカ粒子を含有させた樹脂組成物が知られている。樹脂中にシリカ粒子を含有・分散させることにより樹脂組成物に対して耐熱性を向上したり、物理的強度を向上したりできる。
【0003】
ところで、半導体素子は年々そのプロセスの微細化が進行している。半導体素子はプロセスを微細化することにより体積効率の向上、消費電力の低減、動作速度の向上などの性能向上が期待できる。
【0004】
このように半導体素子の性能向上を安定して実現するためには半導体の熱的安定性などを確保する必要がある。そうすることにより半導体素子の耐久性を向上することができる。例えば、半導体素子を保護するために樹脂組成物にて封止することなどが行われるが、その樹脂組成物の熱的特性、機械的特性が半導体素子の耐久性に直接影響することになる。
【0005】
このような樹脂組成物として先述したようなシリカ粒子を分散させた樹脂組成物を採用することがあるが、半導体素子を製造するプロセスの微細化に伴い、樹脂組成物に分散するシリカ粒子の粒径も小さくすることが求められている。例えば数nm〜十数nmのオーダーのプロセスで加工された半導体素子に対しては、同様に数nm〜数十nmの粒径をもつシリカ粒子を採用することが求められる。
【0006】
ここで、数nmから数十nm程度の粒径をもつシリカ粒子を製造する方法としては水ガラスを原料として製造する方法(特許文献1)や、シリカ前駆体としてのアルコキシドを原料にするものなどが知られている。
【0007】
ところで、半導体素子の微細化・高集積化に伴い、外部からのα線などによる影響が大きくなっている。例えば半導体素子としてメモリ素子を例に挙げると、メモリ素子は電荷の蓄積の有無により記憶するデータの種類を保持するが、微細化によって、蓄積される電荷の大きさも小さくなって、外部から照射されるα線によって変化する程度の電荷によってデータの種類が変化していまい、結果、予期しないデータの変化が生じてしまう。また、半導体素子に流れる電流の大きさも小さくなるため、α線により生じる電流(ノイズ)が信号の大きさと比べても相対的に大きくなってしまい誤動作が危惧される。そのために、半導体素子を封止する樹脂組成物についてもα線生成量が少ないことが求められる。
【0008】
従来、純度が高いシリカ粒子を製造する方法としては高純度の金属ケイ素や四塩化ケイ素などの精製が容易なケイ素化合物を製造し、その後、高純度のケイ素化合物からシリカ粒子を製造する方法が採用されていた。例えば金属ケイ素を酸化してシリカ粒子を得る方法からはサブマイクロメートルからマイクロメートルオーダーのシリカ粒子を好適に得ることが可能になり、アルコキシドを経由した方法からはナノメートルから数十ナノメートルオーダーのものが好適に得られた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3463328号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、金属ケイ素や、シリカなどのケイ素化合物をアルカリ溶液に溶解した後に水性シリカゾルを形成してシリカ粒子を製造する方法がある。その場合に従来技術においては60℃を超えるような高温にて反応させることが必須であると考えられていた。
【0011】
本発明者らは鋭意研究を行った結果、純度が高いシリカ粒子を製造する際には反応温度を従来よりも低い温度にした方が反応が速やかに進行することを見出した。
【0012】
本発明は上記実情に鑑み案出されたものであり、高純度なシリカ粒子を速やかに製造可能なシリカ粒子の製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)上記課題を解決するシリカ粒子の製造方法は、金属ケイ素及びケイ素化合物の何れかであり、トリウム・ウラン・アルミニウム、鉄からなる原料不純物濃度が全体の質量を基準として0.60%未満であるケイ素含有物から、体積平均粒径が2nm〜200nmであるシリカ粒子を製造する方法であって、
前記ケイ素含有物をアンモニアを溶解したアルカリ溶液に溶解させてアルカリ性ケイ酸塩溶液を製造するアルカリ性ケイ酸塩溶液製造工程と、
得られたアルカリ性ケイ酸塩溶液から水性シリカゾルを形成する水性シリカゾル形成工程と、
を有し、
前記水性シリカゾル形成工程において最終的に生成する水性シリカゾルの質量に対して90%以上が生成している間は前記アルカリ性ケイ酸塩溶液の温度を30℃以上60℃以下に保つ。
【0014】
金属ケイ素及びケイ素化合物の何れかであり、トリウム・ウラン・アルミニウム、鉄からなる原料不純物濃度が全体の質量を基準として0.60%未満であるケイ素含有物から、シリカ粒子を製造する際には上述した温度範囲に制御することが望ましいとの知見を得て本発明を完成した。
【0015】
ここで「原料不純物濃度」とは「トリウム・ウラン・アルミニウム、鉄」の総量が全体の質量を基準としてどの程度含まれるかを表している。また、「水性シリカゾル形成工程」とは水性シリカゾルが生成する期間を含み、水性シリカゾル形成工程のうち温度が上記温度範囲にある期間は最終的に製造される水性シリカゾルのうちの90%が生成するまでを少なくとも含む。90%が生成するまでの間を含むのであればどの期間であってもよい。例えば、生成が始まったときを始期とする期間、生成が終わるときを終期とする期間、その中間である期間が挙げられる。さらには連続しない期間でも良い。つまり、アルカリ性ケイ酸塩溶液の温度が、上記温度範囲に連続してあった場合でも、上記温度範囲から温度がいったん外れた後に再び上記温度範囲に戻った場合でも、上記温度範囲にある期間に生成する水性シリカゾルの量が最終的に製造される量の90%以上であればよい。可能であればケイ素含有物が溶解してアルカリ性ケイ酸塩溶液を製し始めた後、その溶液内にて水性シリカゾルが形成し始めたときを水性シリカゾル形成工程の始期とすることが望ましい。
【0016】
上述の(1)に記載の製造方法は以下に記載の(2)〜(6)の構成のうちの1つ以上を加えることができる。更に(6)の構成を採用するときには(7)の構成を併せて採用することができる。
(2)前記水性シリカゾル形成工程における前記アルカリ性ケイ酸塩溶液の温度が30℃以上60℃以下である。
【0017】
水性シリカゾルが形成されているときには、この温度範囲に制御することにより反応が速やかに進行する。
(3)前記アルカリ性ケイ酸塩溶液製造工程は、前記ケイ素含有物を5質量%以上残してアルカリ溶液に溶解させる。
【0018】
ケイ素含有物をアルカリ溶液に溶解させてアルカリケイ酸塩溶液を調製することにより水ガラスに相当する溶液を得るのであるが、アルカリ溶液にケイ素含有物をすべて溶解させるのではなく途中で中断することにより溶解していないケイ素含有物に不純物を濃縮させ、製造したナノシリカに含まれるウランやトリウムなどの不純物の含有量を低減することができる。
(4)前記ケイ素含有物は金属ケイ素である。金属ケイ素は高純度のものが入手しやすく純度が高いシリカ粒子を得ることが容易である。
(5)前記金属ケイ素は、Fe及びAlの含有量が2000ppm以下、金属不純物の含有量が500ppm以下である。
(6)前記水性シリカゾルに対して、シランカップリング剤およびオルガノシラザンによって表面処理する表面処理工程を持ち、
該シランカップリング剤は、3つのアルコキシ基と、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基と、を持ち、
該シランカップリング剤と該オルガノシラザンとのモル比は、該シランカップリング剤:該オルガノシラザン=1:2〜1:10である。
【0019】
このような表面処理を行うことにより得られたシリカ粒子は凝集性が少なくなる。
(7)前記表面処理工程は、
前記シリカ粒子を前記シランカップリング剤で処理する第1の処理工程と、
前記シリカ粒子を前記オルガノシラザンで処理する第2の処理工程と、を持ち、
該第2の処理工程は、該第1の処理工程後に行う。
【発明の効果】
【0020】
本発明のシリカ粒子の製造方法は原料の純度が高い場合に、従来、技術常識であった60℃を超える温度での反応を採用することなく、速やかにシリカ粒子を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】試験例1で得られた水性シリカゾルのFE−SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のシリカ粒子の製造方法について実施形態に基づき以下詳細に説明を行う。
【0023】
本実施形態のシリカの製造方法は、体積平均粒径が2nm〜200nmであるシリカ粒子を製造する方法である。ナトリウム、カリウム、リチウムの含有量が500ppm以下であることが望ましい。また、ウラン及びトリウムの双方共に0.1ppb以下であることが望ましい。
【0024】
製造されるシリカ粒子の粒径は種粒子の数を少なく(濃度を薄く)することにより大きくすることができ、反対に種粒子を多く(濃度を高く)すれば小さくできる。種粒子の数は種粒子となるシリカ粒子の添加量を調節することで制御可能である。種粒子は外部から添加することも可能である。
【0025】
本実施形態のシリカ粒子の製造方法は、アルカリ性ケイ酸塩溶液製造工程と水性シリカゾル形成工程とその他必要に応じて選択される工程を有する。水性シリカゾル形成工程のうちの一部について温度を所定の範囲内に制御する。
【0026】
・アルカリ性ケイ酸塩溶液製造工程:アルカリ性ケイ酸塩溶液製造工程は金属ケイ素及びケイ素化合物の何れかであるケイ素含有物をアンモニアを溶解したアルカリ溶液に溶解させてアルカリ性ケイ酸塩溶液を製造する工程である。
【0027】
ケイ素含有物は、金属ケイ素及びケイ素化合物の何れかである。そして、トリウム・ウラン・アルミニウム、鉄からなる原料不純物濃度が全体の質量を基準として0.60%未満である。特に原料不純物濃度の上限としては0.50%、0.40%、0.30%、0.20%、0.10%、0.08%が挙げられる。
【0028】
ケイ素含有物は溶解前の全体の質量を基準として5%以上残して溶解させることが好ましい。5%以上残るように制御する方法としては溶解温度、溶解時間、アルカリ溶液の量などを制御することで実現できる。ケイ素含有物は金属ケイ素及びケイ素化合物の何れかであり、特に金属ケイ素を採用することが好ましい。
【0029】
アルカリ溶液としてはアンモニアの水溶液である。ケイ素含有物として金属ケイ素を採用する場合には、最終的に製造するシリカの質量を基準として3〜15%程度の濃度になるようにすることが望ましい。また、0.5%〜2.0%程度のアンモニアを加えることが特に望ましい。
【0030】
金属ケイ素の他、金属ケイ素を酸素と反応させてシリカなどのケイ素化合物を形成した後に溶解させることができる。特に非晶質のシリカを用いた方が溶解性が向上できる。また、結晶性のシリカであっても、溶解性を向上することを目的としてアモルファス化して溶解性を向上して用いることができる。
【0031】
金属ケイ素と酸素とを反応してシリカを得る方法としては爆燃法(VMC法)と称される方法が採用できる。VMC法は比表面積が大きい(粒子状)であり且つアモルファス状のシリカを得ることができる。VMC法は、酸素を含む雰囲気中でバーナーにより化学炎を形成し、この化学炎中に金属ケイ素粉末を粉塵雲が形成される程度の量投入し、爆燃を起こして球状の酸化物粒子を得る方法である。
【0032】
金属ケイ素についてアルカリ性ケイ酸塩溶液製造工程に供する前に精製を行う精製工程を採用することができる。精製工程は常法を採用することができる。特に精製工程は金属ケイ素におけるα線源(ウラン、トリウム)の量や、鉄、アルミニウムを低減することに特に有効な工程である。精製の方法は特に限定されない。例えば、精製が容易なケイ素化合物を経由して行う方法、ゾーンメルティング法、単結晶を析出させる方法などが挙げられる。また、これらの方法を複数回行ったり、組み合わせたりすることもできる。ウランやトリウムは最終的に製造されるシリカ粒子において1ppb以下の含有量になるまで生成される。鉄やアルミニウムは製造されるシリカ粒子における含有量がそれぞれ2000ppm以下になるまで精製されることが望ましい。その他の金属元素が、製造されるシリカ粒子における含有量がそれぞれ500ppm以下(望ましくは、その他の金属元素が全体で500ppm以下)になるまで精製されることが望ましい。
【0033】
・水性シリカゾル形成工程:水性シリカゾル形成工程は得られたアルカリ性ケイ酸塩溶液(アルカリ性シリカゾルを含む)から水性シリカゾルを形成する工程である。アルカリ性ケイ酸塩溶液に対して酸を添加することによりコロイドシリカが生成する。例えばpHは2〜9が好ましい。特にpH4〜7が好ましい。このpH4〜7のシリカゾルは、アルカリ性ケイ酸塩溶液を陽イオン交換樹脂又は陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂で処理し、pH2〜5の酸性シリカゾルを製造した後、アルカリ金属水酸化物水溶液、アンモニア水、アミン、第4級アンモニウム水酸化物水溶液などの塩基を添加し、pHを4〜7に調整することにより製造できる。このゾルは製造後直ちに用いることが好ましい。ここで、アルカリ性ケイ酸塩溶液中に含まれるSiO2 濃度は特に限定されないが、5〜50質量%が好ましい。
【0034】
水性シリカゾル形成工程は、最終的に生成する水性シリカゾルの質量に対して90%以上が生成している間は(望ましくは最終的に生成する水性シリカゾルの質量の95%以上が生成している間)アルカリ性ケイ酸塩溶液の温度を30℃以上60℃以下に保つ。温度をこの範囲に制御することにより水性シリカゾルが形成する速度が速くなる。特に水性シリカゾル形成工程のすべてにわたって(つまり水性シリカゾルが形成する全過程。便宜的に質量を基準として99%以上が生成する間)アルカリ性ケイ酸塩溶液の温度を30℃以上60℃以下に保つことで水性シリカゾルの形成速度が更に向上する。ここで制御すべき温度範囲の好ましい下限としては30℃、35℃、が例示できる。好ましい上限としては60℃未満、55℃、50℃、45℃が例示できる。
【0035】
前述のアルカリ性ケイ酸塩溶液製造工程についても水性シリカゾル形成工程と同様の温度範囲に制御することが好ましい。
【0036】
その他の工程としてアンモニウム塩含有工程を備えることができる。アンモニウム塩含有工程はアルカリケイ酸塩溶液製造工程及び水性シリカゾル形成工程のうちの何れかの時点でアルカリ性ケイ酸溶液にアンモニウム塩を含有させる工程である。アンモニウム塩を添加すると、以後は粒径が大きくなる反応が進行しやすくなる。そのため粒子成長の種になり得る粒子(種粒子)が存在する状態でアンモニウム塩を添加することが望ましい。種粒子は水性シリカゾル形成工程にて形成させることもできるし、外部から導入することもできる。
【0037】
アンモニウム塩の種類は特に限定しない。第1級〜第4級までのアンモニウム塩が採用できる。例えば炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウムが挙げられる。特に後の除去の容易性を考えるとアニオンとしては、残存し難いものを選択することが望ましい。例えば炭酸アンモニウムは除去が容易であり残存量が低くできるため望ましい。
【0038】
アンモニウム塩の添加量・添加濃度は特に限定しない。例えば溶液全体の質量を基準として好ましい下限として0.01%、0.02%、0.03%、0.05%、0.075%、0.1%を採用することができる。好ましい上限としては30%、30%未満、20%、10%、5%、2%、1%を採用することができる。アンモニウム塩の添加は水などの溶媒に溶解させて添加したり、単体そのままで添加したりすることができる。
【0039】
そして生成したシリカ粒子の粒子径は、BET法による比表面積又はシアーズ法による比表面積からの換算粒子径で測定する。シアーズ法は、アナレティカル・ケミストリー(ANALYTICAL CHEMISTRY)第28巻第12号(1956年12月)第1981頁に説明されているように、水酸化ナトリウムを用いた滴定による比表面積から換算される粒子径の測定方法である。
【0040】
・アルミン酸の使用:得られた水性シリカゾルに対して、アルミン酸及び/又はアルミン酸塩を添加するアルミン酸添加工程を有することができる。アルミン酸を添加することにより水分散品として用いるときの安定性が向上する。アルミン酸及び/又はアルミン酸塩の添加はアルカリ溶液(アルミン酸アルカリ水溶液)を添加することで行うことができる。使用するアルミン酸塩としてはアルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、アルミン酸第4級アンモニウム、アルミン酸グアニジンなどの水溶液を用いることができるが、工業薬品として市販されているアルミン酸ナトリウム水溶液が特に好ましい。アルミン酸ナトリウム水溶液のNa2 O/Al2 3 モル比は1.2〜2.0が好ましい。
【0041】
シリカゾルへのアルミン酸アルカリ水溶液の添加はpH2〜9にした上で、攪拌下に0〜80℃、好ましくは5〜60℃で行うことができる。攪拌はサタケ式、ファウドラー式、ディスパー型攪拌機、ホモミキサーなどにより行うことができるが、攪拌速度は強い方が好ましい。添加するアルミン酸アルカリ水溶液はAl2 3 濃度0.5〜10重量%で用いるのが好ましい。アルミン酸アルカリ水溶液の添加時間は長くても差し支えないが、通常10分以内がよい。
【0042】
シリカゾルに対するアルミン酸アルカリ水溶液(例えばアルミン酸アンモニウム水溶液)の添加量は、添加後のシリカゾルのAl2 3 /SiO2 モル比で0.0006を越えるが、0.004以下が好ましい。特に0.0008を越えるが、0.004以下が好ましい。得られるシリカゾルはpHが5〜11であり、6〜10が好ましい。
【0043】
得たシリカゾルを加熱処理する工程を有することが望ましく、加熱温度は80〜250℃、特に100〜200℃が好ましい。加熱時間は0.5〜20時間が好ましい。この加熱にはSUS製やガラス製の装置及び加圧装置を使用することができる。
【0044】
更にシリカゾルについて、陽イオン交換樹脂又は陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂との接触を行うことが可能であり、その時の温度は0〜60℃で使用できるが、特に5〜50℃が好ましい。陽イオン交換樹脂としては水素型強酸性陽イオン交換樹脂が好ましく、市販の工業製品として容易に入手される。その例としては商品名アンバーライトIR−120Bが挙げられる。陰イオン交換樹脂としては水酸基型強塩基性陰イオン交換樹脂が好ましく、市販の工業製品として容易に入手される。その例としては商品名アンバーライトIRA−410が挙げられる。
【0045】
このシリカゾルとイオン交換樹脂との接触は、イオン交換樹脂を充填したカラム中にシリカゾルを通液させることにより好ましく行うことができ、シリカゾルのカラムを通過させる速度は1時間当たりの空間速度1〜10程度が好ましい。シリカゾルと陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂との接触においては、はじめに陽イオン交換樹脂と接触し、次いで陰イオン交換樹脂と接触するのが好ましく、このシリカゾルを再び陽イオン交換樹脂と接触させると更に好ましい。
【0046】
イオン交換樹脂との接触に当たり、得られたシリカゾルを希釈せず、そのままのSiO2 濃度で通液することができるが、希釈して通液した場合や、得られたシリカゾルのSiO2 濃度が低下した場合には、蒸発法や微細多孔性膜を用いる方法などの方法で濃縮することによりSiO2 濃度を高めることができる。イオン交換樹脂への接触により得られた酸性シリカゾルのpHは2〜5である。
【0047】
・表面処理工程:表面処理工程は、上述の方法にて得られたシリカ粒子に対して、式(1):−OSiXで表される官能基と、式(2):−OSiYで表される官能基とが表面に結合した表面改質シリカ粒子を得る工程である。以下、式(1)で表される官能基を第1の官能基と呼び、式(2)で表される官能基を第2の官能基と呼ぶ。
【0048】
第1の官能基におけるXは、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基である。X、Xは、それぞれ、−OSiR又は−OSiYである。YはRである。Y、Yは、それぞれ、R又は−OSiRである。
【0049】
第2の官能基におけるYはRである。Y、Yは、それぞれ、−OSiR又は−OSiYである。
【0050】
第1の官能基および第2の官能基に含まれる−OSiRが多い程、表面改質シリカ粒子の表面にRを多く持つ。第1の官能基および第2の官能基に含まれるR(炭素数1〜3のアルキル基)が多い程、本発明の表面改質シリカ粒子は凝集し難い。
【0051】
第1の官能基に関していえば、X、Xがそれぞれ−OSiRである場合に、Rの数が最小となる。また、XおよびXがそれぞれ−OSiYであり、かつ、Y、Yがそれぞれ−OSiRである場合に、Rの数が最大となる。
【0052】
第2の官能基に関していえば、Y、Yがそれぞれ−OSiRである場合に、Rの数が最小となる。また、YおよびYがそれぞれ−OSiYであり、かつ、Y、Yがそれぞれ−OSiRである場合に、Rの数が最大となる。
【0053】
第1の官能基に含まれるXの数、第1の官能基に含まれるRの数、第2の官能基に含まれるRの数は、RとXとの存在数比や、表面改質シリカ粒子の粒径や用途に応じて適宜設定すれば良い。
【0054】
なお、X、X、Y、Y、Y、及びYの何れかは、隣接する官能基のX、X、Y、Y、Y、及びYの何れかと−O−にて結合しても良い。例えば、第1の官能基のX、X、Y、及びYの何れかが、この第1の官能基に隣接する第1の官能基のX、X、Y、及びYの何れかと−O−にて結合していても良い。同様に、第2の官能基のY、Y、Y、及びYの何れかが、この第2の官能基に隣接する第2の官能基のY、Y、Y、及びYの何れかと−O−にて結合していても良い。さらには、第1の官能基のX、X、Y、及びYの何れかが、この第1の官能基に隣接する第2の官能基のY、Y、Y、及びYの何れかと−O−にて結合していても良い。
【0055】
本発明の表面改質シリカ粒子において、第1の官能基と第2の官能基との存在数比が1:12〜1:60であれば、表面改質シリカ粒子の表面にXとRとがバランス良く存在する。このため、第1の官能基と第2の官能基との存在数比が1:12〜1:60である表面改質シリカ粒子は、樹脂に対する親和性および凝集抑制効果に特に優れる。また、Xが表面改質シリカ粒子の単位表面積(nm)あたり0.5〜2.5個であれば、表面改質シリカ粒子の表面に充分な数の第1の官能基が結合し、第1の官能基および第2の官能基に由来するRもまた充分な数存在する。したがってこの場合にも、樹脂に対する親和性および表面改質シリカ粒子の凝集抑制効果が充分に発揮される。
【0056】
何れの場合にも、表面改質シリカ粒子の単位表面積(nm)あたりのRは、1個〜10個であるのが好ましい。この場合には、表面改質シリカ粒子の表面に存在するXの数とRの数とのバランスが良くなり、樹脂に対する親和性および表面改質シリカ粒子の凝集抑制効果との両方がバランス良く発揮される。
【0057】
本発明の表面改質シリカ粒子においては、シリカ粒子の表面に存在していた水酸基の全部が第1の官能基または第2の官能基で置換されているのが好ましい。第1の官能基と第2の官能基との和が、表面改質シリカ粒子の単位表面積(nm)あたり2.0個以上であれば、本発明の表面改質シリカ粒子において、シリカ粒子の表面に存在していた水酸基のほぼ全部が第1の官能基または第2の官能基で置換されているといえる。
【0058】
本発明の表面改質シリカ粒子は、表面にRを持つ。これは、赤外線吸収スペクトルによって確認できる。詳しくは、本発明の表面改質シリカ粒子の赤外線吸収スペクトルを固体拡散反射法で測定すると、2962±2cm−1にC−H伸縮振動の極大吸収がある。
【0059】
また、上述したように本発明の表面改質シリカ粒子は凝集し難い。
【0060】
なお、本発明の表面改質シリカ粒子は、例え僅かに凝集した場合にも、超音波処理することによって再度分散可能である。詳しくは、本発明の表面改質シリカ粒子をメチルエチルケトンに分散させたものに、発振周波数39kHz、出力500Wの超音波を照射することで、本発明の表面改質シリカ粒子を実質的に一次粒子にまで分散できる。このときの超音波照射時間は10分間以下で良い。本発明の表面改質シリカ粒子が一次粒子にまで分散したか否かは、粒度分布を測定することで確認できる。詳しくは、この表面改質シリカ粒子のメチルエチルケトン分散材料をマイクロトラック装置等の粒度分布測定装置で測定し、表面改質シリカ粒子の粒度分布があれば、本発明の表面改質シリカ粒子が一次粒子にまで分散したといえる。
【0061】
本発明の表面改質シリカ粒子は、凝集し難いため、水やアルコール等の液状媒体に分散されていない表面改質シリカ粒子として提供できる。この場合、液状媒体の持ち込みがないために、樹脂材料用のフィラーとして好ましく用いられる。
【0062】
また、本発明の表面改質シリカ粒子は凝集し難いために、水で容易に洗浄できる。このため、本発明の表面改質シリカ粒子は、電子部品用の表面改質シリカ粒子に適用できる。
【0063】
本発明の表面改質シリカ粒子の製造方法は、水を含む液状媒体中で、シランカップリング剤およびオルガノシラザンによってシリカ粒子を表面処理する工程(表面処理工程)を持つ。シランカップリング剤は、3つのアルコキシ基と、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基(すなわち上記のX)とを持つ。
【0064】
シランカップリング剤で表面処理することで、シリカ粒子の表面に存在する水酸基がシランカップリング剤に由来する官能基で置換される。シランカップリング剤に由来する官能基は式(3);−OSiXで表される。式(3)で表される官能基を第3の官能基と呼ぶ。第3の官能基におけるXは式(1)で表される官能基におけるXと同じである。X、Xは、それぞれ、アルキコキシ基である。オルガノシラザンで表面処理することで、第3の官能基のX、Xがオルガノシラザンに由来する−OSiY(式(2)で表される官能基、第2の官能基)で置換される。シリカ粒子の表面に存在する水酸基の全てが第3の官能基で置換されていない場合には、シリカ粒子の表面に残存する水酸基が第2の官能基で置換される。このため、表面処理された表面改質シリカ粒子の表面には、式(1):−OSiXで表される官能基(すなわち第1の官能基)と、式(2):−OSiYで表される官能基と(すなわち第2の官能基)が結合する。なお、シランカップリング剤とオルガノシラザンとのモル比は、シランカップリング剤:オルガノシラザン=1:2〜1:10であるため、得られた表面改質シリカ粒子における第1の官能基と第2の官能基との存在数比は理論上1:12〜1:60となる。
【0065】
表面処理工程においては、シリカ粒子をシランカップリング剤及びオルガノシラザンで同時に表面処理しても良い。または、先ずシリカ粒子をシランカップリング剤で表面処理し、次いでオルガノシラザンで表面処理しても良い。または、先ずシリカ粒子をオルガノシラザンで表面処理し、次いでシランカップリング剤で表面処理し、さらにその後にオルガノシラザンで表面処理しても良い。何れの場合にも、シリカ粒子の表面に存在する水酸基全てが第2の官能基で置換されないように、オルガノシラザンの量を調整すれば良い。なお、シリカ粒子の表面に存在する水酸基は、全てが第3の官能基で置換されても良いし、一部のみが第3の官能基で置換され、他の部分が第2の官能基で置換されても良い。第3の官能基に含まれるX、Xは、全て第2の官能基で置換されるのが良い。
【0066】
なお、オルガノシラザンの一部を、第2のシランカップリング剤で置き換えても良い。第2のシランカップリング剤としては、3つのアルコキシ基と、1つのアルキル基とを持つものを用いることができる。この場合には、第3の官能基に含まれるX、Xが、第2のシランカップリング剤に由来する第4の官能基で置換される。第4の官能基は式(4);−OSiYで表される。Yは第2の官能基におけるYと同じRであり、X、Xはそれぞれアルコキシ基または水酸基である。第4の官能基に含まれるX、Xは、オルガノシラザンに由来する第2の官能基で置換されるか、または、別の第4の官能基で置換される。この場合には、表面改質シリカ粒子の表面に存在するRの量をさらに多くする事ができる。なお、オルガノシラザンの一部を、第2のシランカップリング剤に置き換える場合、第2のシランカップリング剤で表面処理した後に、再度オルガノシラザンで表面処理する必要がある。第4の官能基に含まれるX、Xを、最終的にはオルガノシラザンに由来する第2の官能基で置換するためである。
【0067】
オルガノシラザンの一部を第2のシランカップリング剤で置き換える場合、上述した第1の官能基に含まれるX、Xは、オルガノシラザンに由来する第2の官能基で置換されるか、第2のシランカップリング剤に由来する第4の官能基で置換される。X、Xが第4の官能基で置換された場合、第4の官能基に含まれるX、Xは、第2の官能基で置換されるか、別の第4の官能基によって置換される。第4の官能基に含まれるX、Xが別の第4の官能基によって置換された場合、第4の官能基に含まれるX、Xは、第2の官能基で置換される。このため第2のシランカップリング剤は、第1のカップリング剤及びオルガノシラザンのみで表面処理する場合(オルガノシラザンを第2のシランカップリング剤で置き換えなかった場合)に設定されるオルガノシラザンの量(a)molに対して、最大限5a/3mol置き換えることができる。この場合に必要になるオルガノシラザンの量は、8a/3molである。
【0068】
シランカップリング剤および第2のシランカップリング剤のアルコキシ基は特に限定しないが、比較的炭素数の小さなものが好ましく、炭素数1〜12であることが好ましい。アルコキシ基の加水分解性を考慮すると、アルコキシ基はメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基の何れかであることがより好ましい。
【0069】
シランカップリング剤として、具体的には、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0070】
オルガノシラザンとしては、シリカ粒子の表面に存在する水酸基およびシランカップリング剤に由来するアルコキシ基を、上述した第2の官能基で置換できるものであれば良いが、分子量の小さなものを用いるのが好ましい。具体的には、テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン、ペンタメチルジシラザン等が挙げられる。
【0071】
第2のシランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0072】
なお、表面処理工程において、シランカップリング剤の重合や第2のシランカップリング剤の重合を抑制するため、重合禁止剤を加えても良い。重合禁止剤としては、3,5−ジブチル−4−ヒドロキシトルエン(BHT)、p−メトキシフェノール(メトキノン)等の一般的なものを用いることができる。
【0073】
本発明の表面改質シリカ粒子の製造方法は、表面処理工程後に固形化工程を備えても良い。固形化工程は、表面処理後の表面改質シリカ粒子を鉱酸で沈殿させ、沈殿物を水で洗浄・乾燥して、表面改質シリカ粒子の固形物を得る工程である。上述したように、一般的なシリカ粒子は非常に凝集し易いため、一旦固形化したシリカ粒子を再度分散するのは非常に困難である。しかし、本発明の表面改質シリカ粒子は凝集し難いため、固形化しても凝集し難く、また、例え凝集しても再分散し易い。なお、上述したように、表面改質シリカ粒子を水で洗浄することで、電子部品等の用途に用いられる表面改質シリカ粒子を容易に製造できる。なお、洗浄工程においては、表面改質シリカ粒子の抽出水(詳しくは、シリカ粒子を121℃で24時間浸漬した水)の電気伝導度が50μS/cm以下となるまで、洗浄を繰り返すのが好ましい。
【0074】
固形化工程で用いる鉱酸としては塩酸、硝酸、硫酸、リン酸などが例示でき、特に塩酸が望ましい。鉱酸はそのまま用いても良いが、鉱酸水溶液として用いるのが好ましい。鉱酸水溶液における鉱酸の濃度は0.1質量%以上が望ましく、0.5質量%以上が更に望ましい。鉱酸水溶液の量は、洗浄対象である表面改質シリカ粒子の質量を基準として6〜12倍程度にすることができる。
【0075】
鉱酸水溶液による洗浄は複数回数行うことも可能である。鉱酸水溶液による洗浄は表面改質シリカ粒子を鉱酸水溶液に浸漬後、撹拌することが望ましい。また、浸漬した状態で1時間から24時間、更には72時間程度放置することができる。放置する際には撹拌を継続することもできるし、撹拌しないこともできる。鉱酸含有液中にて洗浄する際には常温以上に加熱することもできる。
【0076】
その後、洗浄して懸濁させた表面改質シリカ粒子をろ取した後、水にて洗浄する。使用する水はアルカリ金属などのイオンを含まない(例えば質量基準で1ppm以下)ことが望ましい。例えば、イオン交換水、蒸留水、純水などである。水による洗浄は鉱酸水溶液による洗浄と同じく、表面改質シリカ粒子を分散、懸濁させた後、ろ過することもできるし、ろ取した表面改質シリカ粒子に対して水を継続的に通過させることによっても可能である。水による洗浄の終了時期は、上述した抽出水の電気伝導度で判断しても良いし、表面改質シリカ粒子を洗浄した後の排水中のアルカリ金属濃度が1ppm以下になった時点としても良いし、抽出水のアルカリ金属濃度が5ppm以下になった時点としても良い。なお、水で洗浄する際には常温以上に加熱することもできる。
【0077】
表面改質シリカ粒子の乾燥は、常法により行うことができる。例えば、加熱や、減圧(真空)下に放置する等である。
【0078】
乾燥以外で表面改質シリカ粒子を脱水する方法として、含水している表面改質シリカ粒子に対して、水よりも沸点が高い水系有機溶媒を添加後、その水系有機溶媒に溶解可能な混合材料を混合し、水を除去する方法を用いることができる。水系有機溶媒としてはプロピレングリコールモノメチルエーテル(プロピレングリコール−1−メチルエーテル、沸点119℃程度;プロピレングリコール−2−メチルエーテル、沸点130℃程度)、ブタノール(沸点117.7℃)、N−メチル−2−ピロリドン(沸点204℃程度)、γ−ブチロラクトン(沸点204℃程度)などが例示できる。
【0079】
混合材料は、水系有機溶媒よりも沸点が高い有機化合物である。沸点が水系有機溶媒及び水よりも高いので、最終的に表面改質シリカ粒子と共に残存することになる。混合材料はそのまま、又は、反応することで高分子にすることもできる。混合材料は、表面改質シリカ粒子を分散するマトリクスを形成することもできる。混合材料は、含水した表面改質シリカ粒子に対して水系有機溶媒を添加した状態で、分散乃至溶解できる化合物である。混合材料は高分子であっても低分子であっても良い。混合材料は、エポキシ基、オキセタン基、水酸基、ブロックされたイソシアネート基、アミノ基、ハーフエステル基、アミック基、カルボキシ基、及び炭素-炭素二重結合基を化学構造中に有することが望ましい。これらの官能基は好適な反応条件を設定することで互いに結合可能な官能基(重合性官能基)であり、混合材料の分子量を向上できる。好適な反応条件としては単純に加熱や光照射を行ったり、熱や光照射によりラジカルやイオン(アニオン、カチオン)などの反応性種を生成したり、それらの官能基間を結合する反応開始剤(重合開始剤)を添加して加熱や光照射を行うことなどである。重合反応に際して必要な化合物を硬化剤として添加したり、その反応に対する触媒を添加することもできる。
【0080】
混合材料としては重合により高分子材料を形成する単量体や、上述したような重合性官能基により修飾した高分子材料が好ましいものとして挙げられる。例えば、硬化前の、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂などのプレポリマーが好適である。
【0081】
水(更には水系有機溶媒も)を除去することで、混合材料中に表面改質シリカ粒子が混合乃至分散した状態とすることができる。
【0082】
・得られたシリカ粒子について
得られたシリカ粒子は真密度が2.1g/cm以上であることが望ましく、更に望ましくは2.2g/cm以上である。本明細書における真密度の測定は、40℃、相対湿度80%の雰囲気下に72時間静置した後、真比重計(真密度計)を用いて算出した。また、吸湿性はカールフィッシャー水分量測定、熱重量測定から求めた。測定前には単位表面積当たり4μmolになるようにヘキサメチルジシラザンを用いて表面処理を行う。
【0083】
例えば従来の製造方法であるシランを経由して製造されたシリカ粒子は真密度が2.0g/cmかそれ以下であり、9%程度の吸湿性の値を示し、明確に識別できる。シランを経由して製造されたシリカ粒子は結晶構造が密で無いために吸湿性が高いことが推認される。ここで、後に説明する本実施形態のシリカ粒子の製造方法により製造しうるものも本実施形態のシリカ粒子の1つである。
(参考:フィラー含有組成物)
本実施形態のシリカ粒子の製造方法にて製造されたシリカ粒子はフィラー含有樹脂組成物に応用できる。
【0084】
例えば、フィラー含有組成物は上述の表面改質シリカ粒子と樹脂材料(及び/又は樹脂材料前駆体、以下「樹脂材料等」と記載する)とを混合したものである。表面改質シリカ粒子と樹脂材料等との混合比は特に限定しないが、表面改質シリカ粒子の量が多い方が熱的安定性に優れたものになる。
【0085】
更に上述の表面改質シリカ粒子は球形度が高いため樹脂材料等中への充填性が高く、金属材料の含有量、Na、Kなどのイオン性物質の量などを好適に制御することが容易なため水による抽出物により電気伝導性を示すことがなくなり電子機器に好適に用いることができる。
【0086】
樹脂材料等は何らかの条件下で硬化可能な組成物である。例えば、プレポリマーと硬化剤との混合物である。硬化剤は硬化直前に混合しても良い。樹脂材料等としてはその種類は特に限定しない。例えば、エポキシ基、オキセタン基、水酸基、ブロックされたイソシアネート基、アミノ基、ハーフエステル基、アミック基、カルボキシ基及び炭素-炭素二重結合基を化学構造中に有することが望ましい。これらの官能基は好適な反応条件を設定することで互いに結合可能な官能基(重合性官能基)であり、適正な反応条件を選択することにより樹脂材料等を硬化させることができる。硬化させるための好適な反応条件としては単純に加熱や光照射を行ったり、熱や光照射によりラジカルやイオン(アニオン、カチオン)などの反応性種を生成したり、それらの官能基間を結合する反応開始剤(重合開始剤)を添加して加熱や光照射を行うことなどである。重合反応に際して必要な化合物を硬化剤として添加したり、その反応に対する触媒を添加することもできる。
【0087】
樹脂材料等としては重合により高分子材料を形成する単量体や、上述したような重合性官能基により修飾した高分子材料が好ましいものとして挙げられる。例えば、硬化前の、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂などのプレポリマーが好適である。特に熱的安定性の高いものにする場合にはエポキシ樹脂を主体として組成物を構成することが望ましい。
【実施例】
【0088】
(試験例1−1)
全不純物量が約600ppm(トリウムが70ppb、ウランが30ppb、アルミニウムが500ppm、鉄が100ppm)である金属ケイ素100質量部、イオン交換水2000質量部、5質量%水酸化ナトリウム水溶液20質量部の混合溶液を40℃で10時間攪拌した(第1工程)
【0089】
未反応(未溶解)の金属ケイ素をろ過により分離した。未反応の金属ケイ素は16質量部であった。未反応の金属ケイ素はトリウムが260ppb、ウランが150ppb、ナトリウムが130ppm、アルミニウムが3600ppm、鉄が600ppmであった。
一方溶解した金属ケイ素は水性シリカゾルとなった。得られた水性シリカゾルはトリウムが0.1ppb、ウランが0.1ppb、ナトリウムが10ppm、アルミニウムが20ppm、鉄が1ppm未満(検出限界以下)、体積平均粒径が10nmであった。反応収率は85質量%だった。得られた水性シリカゾルのSEM写真を図1に示す。図から明らかなように均一な粒径をもつシリカ粒子が生成していることが分かった。
(試験例1−2)
第1工程において、5質量%水酸化ナトリウムに代えて5質量%アンモニア水を用いた以外試験例1−1と同様の試験を行った(本試験例における第1工程がアルカリ性ケイ酸塩溶液製造工程及び水性シリカゾル形成工程に相当)
(試験例1−3)
第1工程において、5質量%水酸化ナトリウム水溶液に代えて5質量%水酸化カリウム水溶液を用いた以外は試験例1−1と同様の試験を行った。
(試験例1−4)
第1工程において、全不純物量が約60ppm(トリウム、ウランが1ppb未満、アルミニウムが60ppm、鉄が1ppm)である金属ケイ素を用いる以外は試験例1−1と同様に行った。
(試験例1−5)
第1工程において、反応温度を60℃に代えた以外は試験例1−1と同様の試験を行った。
(試験例1−6)
第1工程において、反応温度を60℃に代えた以外は試験例1−2と同様の試験を行った(本試験例における第1工程がアルカリ性ケイ酸塩溶液製造工程及び水性シリカゾル形成工程に相当)
(試験例1−7)
第1工程において、反応温度を60℃に代えた以外は試験例1−3と同様の試験を行った。
(試験例1−8)
第1工程において、反応温度を60℃に代えた以外は試験例1−4と同様の試験を行った。
(試験例2−1)
第1工程において、全不純物量が約6000pm(トリウムが500ppb、ウランが500ppb、アルミニウムが2000ppm、鉄が4000ppm)含有する金属ケイ素を用いる以外は試験例1−1と同様の試験を行った。
(試験例2−2)
第1工程において、全不純物量が約6000pm(トリウムが500ppb、ウランが500ppb、アルミニウムが2000ppm、鉄が4000ppm)含有する金属ケイ素を用いる以外は試験例1−2と同様の試験を行った。
(試験例2−3)
第1工程において、全不純物量が約6000pm(トリウムが500ppb、ウランが500ppb、アルミニウムが2000ppm、鉄が4000ppm)含有する金属ケイ素を用いる以外は試験例1−3と同様の試験を行った。
(試験例2−4)
第1工程において、全不純物量が約6000pm(トリウムが500ppb、ウランが500ppb、アルミニウムが2000ppm、鉄が4000ppm)含有する金属ケイ素を用いる以外は試験例1−5と同様の試験を行った。
(試験例2−5)
第1工程において、全不純物量が約6000pm(トリウムが500ppb、ウランが500ppb、アルミニウムが2000ppm、鉄が4000ppm)含有する金属ケイ素を用いる以外は試験例1−6と同様の試験を行った。
(試験例2−6)
第1工程において、全不純物量が約6000pm(トリウムが500ppb、ウランが500ppb、アルミニウムが2000ppm、鉄が4000ppm)含有する金属ケイ素を用いる以外は試験例1−7と同様の試験を行った。
(試験例2−7)
第1工程において、反応温度80℃に代えた以外は試験例1−1と同様の試験を行った。
(試験例2−8)
第1工程において、反応温度80℃に代えた以外は試験例1−3と同様の試験を行った。
(試験例2−9)
第1工程において、反応温度80℃に代えた以外は試験例2−1と同様の試験を行った。
(試験例2−10)
第1工程において、反応温度80℃に代えた以外は試験例2−3と同様の試験を行った。
【0090】
それぞれの試験例の試料について反応収率、得られたシリカの粒径、ウラン及びトリウムの濃度を測定し、結果を表1に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
表より明らかなように、原料中の不純物濃度が0.06%である場合には、温度を40℃(試験例1−1〜1−3)、60℃(試験例1−5〜1−7)にした方が、温度を80℃(試験例2−7,2−8)よりも反応収率が高かった。原料不純物が0.01%未満と更に低い試験例1−4、1−8の結果からも40℃、60℃で高い反応収率を示すことが分かった。
【0093】
それに対して原料中の不純物濃度が0.60%である場合には反応温度が80℃(試験例2−9、2−10)の方が反応温度を40℃(試験例2−1〜2−3)、60℃(試験例2−4〜2−6)よりも反応収率が高かった。
【0094】
以上の結果から、原料中の不純物濃度が0.60%であると反応温度としては80℃であることが望ましく、0.60未満である場合には反応温度としては60℃以下であることが望ましいことが分かった。
【0095】
当反応はシリコンが水と反応してシリカを生成する反応である。酸化被膜(シリカ膜:約30-40nm)を塩基で溶かし、シリコン表面をむきださせることでシリコンと水との反応が進行する。今回の検討で原料不純物量によって低温での反応収率が異なることが確認された。最終的に溶解せずに残存した未反応シリコンに含まれる金属不純物量が反応前に比べ数倍に高まっていることから、シリコンの表面上には溶解しながら不溶性の金属不純物(更にはそれ由来の酸化物なども)が蓄積し層となることが想定される。これらの層が生成すると反応の進行が阻害されるが、反応温度が80℃であればこれらの層が溶解されて反応が進行できるものと考えられる。しかしながら、反応温度が30-60℃だとこの金属不純物の層を溶かすことができず反応収率が低下したものと考えられる。
【0096】
ここで、反応温度が80℃だと塩基による酸化被膜および金属不純物を溶かす反応も進行しているが、同時に酸化被膜を促進させる反応(ケイ酸粒子の付着による酸化被膜成長、金属不純物の酸化触媒作用によるシリコン酸化)も起こり反応を阻害することも考えられる。それゆえに原料不純物量が少ない場合には30〜60℃といった穏やかな反応温度を採用することが望ましいものと考えられる。
図1