(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6203644
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】開繊体拡幅ユニット、幅調整治具及び開繊体製造方法
(51)【国際特許分類】
D02J 1/18 20060101AFI20170914BHJP
D02J 1/00 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
D02J1/18 Z
D02J1/00 B
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-553(P2014-553)
(22)【出願日】2014年1月6日
(65)【公開番号】特開2014-221960(P2014-221960A)
(43)【公開日】2014年11月27日
【審査請求日】2016年9月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永田 真悟
(72)【発明者】
【氏名】重松 雅人
(72)【発明者】
【氏名】森岡 俊行
【審査官】
平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−112909(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/081024(WO,A1)
【文献】
特開2011−241487(JP,A)
【文献】
特開2008−255529(JP,A)
【文献】
特開2001−279542(JP,A)
【文献】
特開2005−048348(JP,A)
【文献】
特開昭56−144082(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/114437(WO,A1)
【文献】
実開昭56−028695(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G1/00〜 3/48
D02J1/00〜13/00
A24D1/00〜 3/18
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トウを流体で開繊して前記流体と共に噴射口から噴射する噴射装置と、
幅方向に対向する一対の側壁を有し、前記一対の側壁の間に前記噴射口の口径より幅広なチャンバが形成され、前記チャンバが前記チャンバの入口から出口に向かって低くなるように形成されている幅調整治具とを備え、
前記噴射装置は、前記トウを前記チャンバに噴射するように前記チャンバの前記入口側に配置され、
前記幅調整治具は、前記噴射装置から噴射される開繊された前記トウの幅を前記一対の側壁の間隔に調整して開繊体として前記出口から導出させるようになっている、開繊体拡幅ユニット。
【請求項2】
前記幅調整治具は、複数の通気孔を有しており、
前記複数の通気孔は、前記噴射装置から前記トウと共に前記チャンバに噴射された流体を排出するようになっている、請求項1に記載の開繊体拡幅ユニット。
【請求項3】
前記噴射装置は、前記噴射口を前記複数の通気孔に向けて配置されている、請求項2に記載の開繊体拡幅ユニット。
【請求項4】
前記幅調整治具は、前記複数の通気孔と前記噴射装置との間の距離が前記噴射口の中心から前記一対の側壁の一方までの距離以上になるように配置されている、請求項3に記載の開繊体拡幅ユニット。
【請求項5】
前記幅調整治具は、前記チャンバを前記チャンバの入口から出口に向かって低くするように傾斜している傾斜面を有しており、
前記噴射装置は、前記噴射口を前記傾斜面に向けて配置されている、請求項1乃至4のいずれか1つに記載の開繊体拡幅ユニット。
【請求項6】
前記噴射装置は、前記噴射口が前記幅調整治具の入口の略中央に位置するように配置されている、請求項1乃至5のいずれか1つに記載の開繊体拡幅ユニット。
【請求項7】
前記噴射装置は、その中を流れる前記流体によってトウを流体開繊し、開繊したトウを前記流体と共に先端の噴射口から噴射するノズル部を有しており、
前記ノズル部は、略円筒状に形成され、且つ前記ノズル部を流れる前記流体の流れが層流となるように構成されている、請求項1乃至6のいずれか1つに記載の開繊体拡幅ユニット。
【請求項8】
前記ノズル部は、その中を流れる流体の流れが前記噴射口付近で層流となるように長尺に形成されている、請求項7に記載の開繊体拡幅ユニット。
【請求項9】
前記噴射装置は、前記流体が供給される供給口と、前記供給口に供給された流体が流れる環状の流体流路と、前記流体流路を流れる流体を前記ノズル部に噴出する環状の噴出口とを有し、
前記供給口と前記流体流路との間には、それらを繋ぐバッファが形成されており、
前記バッファの流路径は、前記流体流路を流れる流体の流量分布が略均一になるように前記供給口の口径より大きく形成されている、請求項7又は8に記載の開繊体拡幅ユニット。
【請求項10】
前記噴射装置は、前記流体流路を流れる流体を前記ノズル部に噴出する環状の噴出口を有し、
前記噴出口を規定する周面は、前記ノズル部の軸線に略平行に形成されている、請求項7乃至9のいずれか1つに記載の開繊体拡幅ユニット。
【請求項11】
幅方向に対向する一対の側壁を備え、
前記一対の側壁の間には、トウを流体で開繊して前記流体と共に噴射口から噴射する噴射装置の噴射口より幅広なチャンバが形成され、
前記チャンバは、前記チャンバの入口から前記出口に向かって低くなっており、
前記チャンバの入口は、そこに前記噴射装置を配置し、前記噴射装置の噴射口から前記チャンバに前記トウを噴射できるように形成され、
前記チャンバの出口は、前記開繊されたトウによって形成される開繊体が前記一対の側壁の幅で導出することができるように形成されている、幅調整治具。
【請求項12】
請求項1乃至10のいずれか1つに記載の開繊体拡幅ユニットを用いて開繊体を製造する開繊体製造方法であって、
トウを引き出す引出工程と、
前記引出工程で引き出されたトウを予め開繊する予備開繊工程と、
前記予備開繊工程で開繊された前記トウを前記拡幅装置の噴射装置に導入し、前記噴射装置で前記トウを流体開繊した後に、前記トウを前記流体と共に前記噴射装置から前記幅調整治具のチャンバに噴射する流体開繊工程と、
前記噴射装置によって噴射された前記トウの繊維同士を前記幅調整治具のチャンバで前記流体によって絡み合わせて開繊体の幅を調整しながら前記開繊体を形成する幅調整工程と、
前記幅調整工程で形成された開繊体をシート状に成形する成形工程とを有する、開繊体製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トウを開繊して所定の幅に拡幅し、開繊体として導出させる開繊体拡幅ユニット、幅調整治具、及び開繊体製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
捲縮されるとともに帯状をなしたトウが折り重ねられて形成されたトウベールからトウを引き出し、そのトウを開繊して開繊体を製造する開繊体製造設備が知られている。この開繊体製造設備では、引き出したトウを機械開繊工程及び空気開繊工程によって開繊するようになっており、空気開繊工程にて使用される機器として、例えば特許文献1のトウトランスポートジェット及び特許文献2の開繊ユニットが知られている。
【0003】
特許文献1のトウトランスポートジェット(以下、「TTジェット」という)は、第1筒状部と第2筒状部とを有しており、第1筒状部が第2筒状部に挿入されている。第1筒状部には、トウが導入され、第2筒状部には、空気が供給されるようになっている。第2筒状部は、その内周面に半径方向内方に突出する傾斜面部を有しており、第1筒状部の先端開口部は、この傾斜面部付近に位置している。第2筒状部の傾斜面部と第1筒状部の先端開口部との間には、環状の噴出口が形成されており、第2筒状部に供給された空気は、傾斜面部によって噴出口から第2筒状部の中心軸に向かって噴出される。これにより、第1筒状部に導入されたトウを開繊して絡み合わすことができる。
【0004】
また、特許文献2の開繊ユニットは、いわゆるエアジェットであり、円柱状開繊部と第2の開繊部とを備えている。円柱状開繊部には、繊維通路、第1の開繊室、及び第2の開繊室が形成されており、繊維通路に捲縮繊維が供給されるようになっている。この捲縮繊維は、加圧ガスによって捲縮繊維から第1の開繊室に噴出させられ、更に加圧ガスと共に第1の開繊室から第2の開繊室へと供給される。捲縮繊維は、第1及び第2の開繊室にて開繊され、更に捲縮繊維を所望の形状に整形すべく第2の開繊部へと供給される。円柱状開繊部に取付けられている第2の開繊部は、断面楕円形状になっており、開繊繊維を所定の形状に整形して排出するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−239437号公報
【特許文献2】特開2008−255529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のTTジェットは、前述の通り噴出口から噴出される空気が第2筒状部の中心軸に向かって流れており、トウを第2筒状部の中心軸に集めるようになっている。そのため、TTジェットによって開繊された開繊体の幅(例えば、70〜100mm)が小さくなり、おむつ等に使用される開繊体で要求される幅(例えば、150mm)に達することができない。他方、特許文献2の開繊ユニットは、第2の開繊部によって開繊繊維を所定の形状に整形することは可能であるが、手触りにおいてTTジェットによる開繊体に比べてふんわり感に欠けている。
【0007】
そこで本発明は、ふんわり感を損なうことなく要求される幅に開繊体の幅を調整することができる開繊体拡幅ユニット、幅調整治具、及び開繊体製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の開繊体拡幅ユニットは、トウを流体で開繊して前記流体と共に噴射口から噴射する噴射装置と、幅方向に対向する一対の側壁を有し、前記一対の側壁の間に前記噴射口の口径より幅広なチャンバが形成され、前記チャンバが前記チャンバの入口から出口に向かって低くなるように形成されている幅調整治具とを備え、前記噴射装置は、前記トウを前記チャンバに噴射するように前記チャンバの前記入口側に配置され、前記幅調整治具は、前記噴射装置から噴射される開繊された前記トウの幅を前記一対の側壁の間隔に調整して開繊体として前記出口から導出させるようになっているものである。
【0009】
本発明に従えば、噴射装置から幅調整治具のチャンバに流体と共にトウを噴射することによりトウをチャンバの幅(即ち、一対の側壁の間隔)まで拡幅させ、更にチャンバの流体でトウに含まれる繊維同士を絡み合わせることができる。これにより、チャンバの幅に調整された開繊体を形成することができる。また、チャンバの入口が高く出口が低くなっているので、拡散させたトウから所定の嵩高さの開繊体を形成させることができる。更に、噴射装置から幅調整治具のチャンバに拡散させるようにトウを噴射させるので、開繊体の繊維同士の間に大きな隙間を確保することができ、形成された開繊体のふんわり感を達成することができる。このように、開繊体拡幅ユニットでは、ふんわり感を損なうことなく要求される幅に開繊体の幅を調整するができる。
【0010】
上記発明において、複数の通気孔を有しており、前記複数の通気孔は、前記噴射装置から前記トウと共に前記チャンバに噴射された流体を排出するようになっていてもよい。
【0011】
上記構成に従えば、トウを流体によって掻き混ぜて開繊体を形成する際、噴射装置から噴射された流体を通気孔から抜くことができる。これにより、流体によって開繊体が上から押さえつけられることを防ぐことができ、開繊体のふんわり感を向上させることができる。
【0012】
上記発明において、前記噴射装置は、前記噴射口を前記複数の通気孔に向けて配置されていてもよい。
【0013】
上記構成に従えば、噴射装置の噴射口が通気孔に向いているので、流体が通気孔を介して幅調整治具の外へと抜けやすくなっており、これによっても開繊体のふんわり感を向上させることができる。
【0014】
上記発明において、前記幅調整治具は、前記複数の通気孔と前記噴射装置との間の距離が前記噴射口の中心から前記一対の側壁の一方までの距離以上になるように配置されていてもよい。
【0015】
上記構成に従えば、噴射装置からトウを噴射させた際にチャンバの幅方向両隅までトウを行き渡らせることができる。これにより、開繊体の幅方向両端部分の厚みが薄くなることを防ぐことができる。
【0016】
上記発明において、前記幅調整治具は、前記チャンバを前記チャンバの入口から出口に向かって低くするように傾斜している傾斜面を有しており、前記噴射装置は、前記噴射口を前記傾斜面に向けて配置されていてもよい。
【0017】
上記構成に従えば、噴射された流体を出口からそのまま抜けさせることなくチャンバで撹拌させることができる。これにより、トウの繊維同士をよくかき混ぜて絡み合わせることができ、ふんわり感のある開繊体を形成することができる。
【0018】
上記発明において、前記噴射装置は、前記噴射口が前記幅調整治具の入口の略中央に位置するように配置されていてもよい。
【0019】
上記構成に従えば、トウを噴射装置からチャンバに均一に噴射することができる。これにより、チャンバにおいて、幅方向両隅までトウを行き渡らせることができ、開繊体の方向両端部分の厚みが薄くなることを防ぐことができる。
【0020】
上記発明において、前記噴射装置は、その中を流れる前記流体によってトウを流体開繊し、開繊したトウを前記流体と共に先端の噴射口から噴射するノズル部を有しており、前記ノズル部は、略円筒状に形成され、且つ前記ノズル部を流れる前記流体の流れが層流となるように構成されていてもよい。
【0021】
上記構成に従えば、トウを噴射装置からチャンバに均一に噴射することができる。これにより、チャンバにおいて、幅方向両隅までトウを行き渡らせることができ、開繊体の方向両端部分の厚みが薄くなることを防ぐことができる。
【0022】
上記発明において、前記ノズル部は、その中を流れる流体の流れが前記噴射口付近で層流となるように長尺に形成されていてもよい。
【0023】
上記構成に従えば、ノズル部を流れる流体の流れを層流にすることを実現することができる。
【0024】
上記発明において、前記噴射装置は、前記流体が供給される供給口と、前記供給口に供給された流体が流れる環状の流体流路と、前記流体流路を流れる流体を前記ノズル部に噴出する環状の噴出口とを有し、前記供給口と前記流体流路との間には、それらを繋ぐバッファが形成されており、前記バッファの流路径は、前記流体流路を流れる流体の流量分布が略均一になるように前記供給口の口径より大きく形成されていてもよい。
【0025】
上記構成に従えば、ノズル部を流れる流体の流れを層流にすることを実現することができる。
【0026】
上記発明において、前記噴射装置は、前記流体流路を流れる流体を前記ノズル部に噴出する環状の噴出口を有し、前記噴出口を規定する周面が前記ノズル部の軸線に略平行に形成されていてもよい。
【0027】
上記構成に従えば、ノズル部を流れる流体の流れを層流にすることを実現することができる。
【0028】
本発明の幅調整治具は、幅方向に対向する一対の側壁を備え、前記一対の側壁の間には、トウを流体で開繊して前記流体と共に噴射口から噴射する噴射装置の噴射口より幅広なチャンバが形成され、前記チャンバは、前記チャンバの入口から前記出口に向かって低くなっており、前記チャンバの入口は、そこに前記噴射装置を配置し、前記噴射装置の噴射口から前記チャンバに前記トウを噴射できるように形成され、前記チャンバの出口は、前記開繊されたトウによって形成される開繊体が前記一対の側壁の幅で導出することができるように形成されているものである。
【0029】
本発明に従えば、噴射装置から幅調整治具のチャンバに流体と共にトウを噴射することによりトウをチャンバの幅(即ち、一対の側壁の間隔)まで拡幅させ、更に流体でトウに含まれる繊維同士を絡み合わせることができる。これにより、チャンバの幅に調整された開繊体を形成することができる。また、チャンバの入口が高く出口が低くなっているので、拡散させたトウから所定の嵩高さの開繊体を形成させることができる。更に、噴射装置から幅調整治具のチャンバに拡散させるようにトウを噴射させるので、開繊体の繊維同士の間に大きな隙間を確保することができ、形成された開繊体のふんわり感を達成することができる。このように、開繊体拡幅ユニットでは、ふんわり感を損なうことなく要求される幅に開繊体の幅を調整するができる。
【0030】
本発明の開繊体製造方法は、前述のいずれか1つの開繊体拡幅ユニットを用いて開繊体を製造する開繊体製造方法であって、トウを引き出す引出工程と、前記引出工程で引き出されたトウを予め開繊する予備開繊工程と、前記予備開繊工程で開繊された前記トウを前記拡幅装置の噴射装置に導入し、前記噴射装置で前記トウを流体開繊した後に、前記トウを前記流体と共に前記噴射装置から前記幅調整治具のチャンバに噴射する流体開繊工程と、前記噴射装置によって噴射された前記トウの繊維同士を前記幅調整治具のチャンバで前記流体によって絡み合わせて開繊体の幅を調整しながら前記開繊体を形成する幅調整工程と、前記幅調整工程で形成された開繊体をシート状に成形する成形工程とを有する方法である。
【0031】
本発明に従えば、流体開繊工程において、引出工程及び予備開繊工程を経て噴射装置に導かれて導入されたトウを噴射装置内で流体開繊してから幅調整治具のチャンバに流体と共に噴射してトウをチャンバの幅(即ち、一対の側壁の間隔)まで拡幅させる。更に幅調整工程では、チャンバにおいて流体によりトウに含まれる繊維同士を絡み合わせることによって、チャンバの幅を調整された開繊体を形成することができる。また、流体開繊工程において、噴射装置から幅調整治具のチャンバに拡散させるようにトウを噴射するので、開繊体の繊維同士の間に大きな隙間を確保することができ、形成された開繊体のふんわり感を達成することができる。このように、開繊体拡幅ユニットでは、ふんわり感を損なうことなく要求される幅に開繊体の幅を調整するができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、ふんわり感を損なうことなく要求される幅に開繊体の幅を調整するができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本件発明の実施形態に係る開繊体拡幅ユニットを備える開繊体製造設備を概略示す図である。
【
図2】開繊体拡幅ユニットに備わるジェットを切断して見た断面図である。
【
図3】
図2のエアジェットを切断線III−IIIで切断して見た断面図である。
【
図4】
図2のエアジェットの領域Xを拡大して見た拡大断面図である。
【
図5】開繊体拡幅ユニットに備わる成型ボックスを正面から見た正面図である。
【
図6】
図5の成型ボックスを切断線VI−VIで切断して見た断面図である。
【
図7】開繊体製造方法の手順について示すフローチャートである。
【
図8】開繊体拡幅ユニットにおいてトウを拡幅した際の噴射したトウの拡散の仕方について概略説明する図であり、(a)は、成型ボックスを正面から見た図であり、(b)は、成型ボックスを切断線VI−VIで切断して見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係る実施形態の開繊体拡幅ユニット1及びそれを備える開繊体製造設備2について図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いる方向の概念は、説明する上で便宜上使用するものであって、発明の構成の向き等をその方向に限定するものではない。また、以下に説明する開繊体拡幅ユニット1及び開繊体製造設備2は、本発明の一実施形態に過ぎない。従って、本発明は実施の形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除、変更が可能である。
【0035】
使い捨ておむつ及び生理用品等の衛生材料吸収体には、セルロースアセテート繊維から成る開繊体が用いられており、この開繊体は、このセルロースアセテート繊維から成るトウを捲縮させてベール状にしたものを開繊し整形することによって製造される。具体的には、
図1に示す開繊体製造設備2によって、梱包容器9内に梱包されたベール状のトウTを引出し、引き出したトウTを一次開繊する。更に開繊体製造設備2では、トウTを空気開繊してから所定の幅に整形するようになっている。以下では、開繊体製造設備2の構成について詳述する。
【0036】
開繊体製造設備2は、基本的に、トウ開繊機3と、開繊体拡幅ユニット1と、成形ユニット8とを有している。トウ開繊機3は、ガイドプレート3aと、ロール3bと、2つのバンディングジェット4,5と、機械開繊ユニット6とを有している。トウ開繊機3では、梱包容器9内に収容されたベール状のトウTが一旦上方に引き出されるようになっている。引き上げられたトウTは、第1バンディングジェット4を通ってガイドプレート3aに達する。更に、トウTは、そのガイドプレート3aから前斜め下方に降りていき、第2バンディングジェット5を通ってロール3bを介して機械開繊ユニット6に供給されている。機械開繊ユニット6は、二対のローラ11,12を有しており、二対のローラ11,12は、トウTが流れている流れ方向Fに順番に並べて配置されている。これら二対のローラ11,12は、それらに供給されてくるトウTを予備開繊するようになっている。このようにして予備開繊されたトウTは、開繊体拡幅ユニット1に供給される。
【0037】
開繊体拡幅ユニット1は、機械開繊ユニット6から供給されたトウTを開繊し、開繊体の幅及び嵩高さを所定の値に調整するようになっており、エアジェット13と、成型ボックス14とを有している。
図2に示すように、噴射装置であるエアジェット13は、予備開繊されたトウTを空気流で開繊するようになっており、外筒15と、内筒16とを有している。外筒15は、ノズル部15aと外筒基部15bとを有している。ノズル部15aは、大略円筒状に形成され(例えば、ストレート管)、その中にエアと共にトウTを流して先端の開口部から排出できるようになっている。ノズル部15aの基端には、外筒基部15bが一体的に設けられている。外筒基部15bは、大略円筒状であってノズル部15aより大径に形成されており、その軸線とノズル部15aの軸線L1とが一致するように配置されている。
【0038】
外筒基部15bの内周面15cは、断面円形状に形成されており、ノズル部15a側である先端側の内径がノズル部15aの内径と一致している。また、外筒基部15bの内径は、その先端側領域に対して基端側領域の方が大径に形成されており、それらの間に介在する中間領域が先端側に向かって先細りのテーパ状に形成されている。また、内周面15cの基端側領域にはエア吸入口15dが形成され、外筒基部15bの外周部には、エア吸入口15dに繋がるエア供給管17が取り付けられている。
【0039】
図3に示すように、エア供給管17は、大略円筒状に形成されており、半径方向外方に突出している。エア供給管17の内孔は、半径方向外方側に供給口17aを有しており、この供給口17aがエア供給源(図示せず)と接続されている。また、エア供給管17の内孔の供給口17aを除いた領域がバッファ17bを形成しており、供給口17aは、このバッファ17bを介してエア吸入口15dに繋がっている。バッファ17bの孔径は、供給口17aの口径より大径であって内周面15cの基端側領域の内径と略一致するようになっている。このように構成されているエア供給管17の供給口17aには、前述のエア供給源からエアが供給されるようになっており、そのエアがバッファ17bを介して外筒基部15b内に導かれるようになっている。このエアが外筒基部15bの基端から流出しないように、外筒基部15bの基端部には、内筒16がシールを達成した状態で螺合されている。
【0040】
図2に示すように、内筒16は、大略円筒状に形成されており、トウ導入部16a、内側円筒部16b、及び螺合部16cを有している。トウ導入部16aは、内筒16の基端側に位置しており、先端に向かって先細りとなる円錐台形状(ラッパ状)に形成されている。また、内側円筒部16bは、内筒16の先端側に位置しており、円筒状に形成されている。内側円筒部16bの先端部分の外周部は、先端に向かって先細りとなるように若干傾斜している。螺合部16cは、円筒状に形成されており、トウ導入部16a及び内側円筒部16bとの間に位置している。螺合部16cの外径は、外筒基部15bの内周面15cの基端部分の内径と略一致しており、外筒基部15bの内周面15cの基端部分は、被螺合部分15eを構成している。被螺合部分15e及び螺合部16cの外周部分には、雌ねじ及び雄ねじが夫々形成されており、被螺合部分15eに螺合部16cを螺合することで内筒16が外筒15にシールを達成した状態で装着されるようになっている。
【0041】
このように装着されている内筒16の内側円筒部16bは、外筒基部15bの内周面15cの基端側領域から中間領域及び先端側領域を通ってノズル部15aまで延在しており、内周面15cの基端側領域及び中間領域との間に円環状のエア流路18を形成している。また、
図4に示すように、内周面15cの中間領域が内側円筒部16bの先端部分に比べてテーパ角が大きいため、内周面15cの中間領域と先端側領域とが繋がる部分付近に内周面15cと内側円筒部16bの外周面とによって絞り19が形成され、エア流路18に導かれたエアは絞り19を通ってその先にある噴出口15fからノズル部15aに導かれるようになっている。なお、絞り19の流路面積は、外筒15に螺合されている内筒16を回動させて内筒16の軸線方向の位置を変えることで調整することができる。
【0042】
このように構成されているエアジェット13は、エア供給管17にバッファ17bを構成することによってエアを供給口17aからエア流路18にスムーズに導くことができる。これにより、円環状に形成されるエア流路18の下側の領域まで略均一な流量のエアを導くことができ、エア流路18の軸線に垂直な断面における流量分布が不均一になることを防ぐことができる。また、流量分布の不均一性をなくすことで、絞り19を通ってノズル部15aに噴出されるエアの流れの乱れを抑制することができ、ノズル部15a内を流れるエアの流れを層流にすることができる。
【0043】
また、内側円筒部16bの先端部分は、そのテーパ角度αが極めて小さく、例えば5度以下、好ましくは2〜3度に形成されており、内側円筒部16bの先端部分がノズル部15aの内周面に沿うように形成されている。更に、内側円筒部16bの先端部分は、ノズル部15a内に挿入されており、この先端部分に対応するノズル部15aの内周面の部分が軸線L1に略平行に形成されている。これにより、噴出口15fが前方向きに形成され、そこから噴出されるエアが軸線L1に沿って噴射させることができ、ノズル部15a内を流れるエアの流れを層流にすることができる。更に、エアジェット13では、ノズル部15a内を流れるエアの流れが外筒15aの先端にある噴射口15g付近で層流となるように、ノズル部15aを長尺にしている。ノズル長は、例えば140mm以上(ノズル径の約4倍以上)、好ましくは210mm(ノズル径の約6倍以上)以上に設定している。このようにノズル部15aを長尺に形成することで、ノズル部15a内のエアの流れを安定させて層流にすることができる。
【0044】
このように構成されているエアジェット13では、機械開繊ユニット6にて開繊されたトウTが束ねられて内筒16のトウ導入部16a内に導入される。導入されたトウTは、トウ導入部16a、螺合部16c及び内側円筒部16b内を通って内筒16の先端にある開口部16dに導かれ、ノズル部15aに噴出されるノズル部15a内のエアによって開口部16dからノズル部15aに引き出される。ノズル部15aに引き出されたトウTは、ノズル部15a内を流れるエアによって空気開繊され、噴射口15gから成型ボックス14に向かって噴射される。
【0045】
図5及び
図6に示すように、幅調整治具である成型ボックス14は、エアジェット13から噴射されたトウTを幅調整するものであり、枠体21と、蓋体22とを有している。枠体21は、トウの流れ方向Fに見る(即ち正面から見る)と大略U字状に形成されており、床板23と一対の側板24,24とによって構成されている。床板23は、平面視で大略矩形状に形成されており、その左右方向(前記流れ方向Fに垂直な方向)の幅は、製造される開繊体に要求される幅と略同じになっている。床板23の左右両縁部には、側板24が夫々立設されている。側壁である側板24は、側面視で大略五角形状に形成されており、その流れ方向Fの下流側の高さが上流側の高さより低く、側板24の上端部の形状は、上方に突出する山形になっている。このように形成されている一対の側板24は、互いに重なるように左右方向に対向させて配置されており、それらの間には、蓋体22が架け渡されている。
【0046】
蓋体22は、平面視で大略矩形状に形成されており、その幅は、一対の側板24の間隔(即ち、開繊体に要求される幅)と略同じになっている。蓋体22は、その流れ方向Fの両端部に係止部22aを有している。係止部22aは、円筒状に形成されており、左右方向に延在している。蓋体22は、この係止部22aに図示しないピン部材を係止(挿入)させることによって一対の側板24に取付けるようになっており、一対の側板24には、前記ピン部材を嵌めるためのピン孔(後述する嵩高調整孔25及び角度調整孔26)25,26が複数形成されている。
【0047】
流れ方向Fの下流側のピン孔である嵩高調整孔25は、側板24の流れ方向Fの下流側付近(後述する出口27b付近)の上側に3つ形成されており、3つの嵩高調整孔25は、上下方向に互いに間隔をあけて配置されている。これら3つの嵩高調整孔25は、他方の側板24の3つの嵩高調整孔25に対応付けられており、対応付けられた嵩高調整孔25と左右方向に対向するように配置されている。また、側板24の流れ方向Fの上流側付近(後述する入口27a付近)の上端には、複数の角度調整孔26が形成されており、角度調整孔26は、各嵩高調整孔25に複数(本実施形態では4つずつ)対応付けて配置されている。各角度調整孔26は、他方の側板24に形成されている角度調整孔26に対応付け有られており、対応付けられた角度調整孔26と左右方向に対応するように配置されている。
【0048】
このように構成されている成型ボックス14は、対応付けられた一対の嵩高調整孔25に蓋体22の一方の係止部22aの内孔を重ね合わせ、一対の側板24の外方から嵩高調整孔25にピン部材を挿通させて一方の係止部22aに挿入する。これにより、一方の係止部22aが一対の側板24に取付けられる。また、ピン部材が挿入される嵩高調整孔25には、複数の角度調整孔26が対応付けられており、それら複数の内のいずれか1つの角度調整孔26と蓋体22の他方の係止部22aの内孔を重ね合わせ、側板24の外方から角度調整孔26を介して他方の係止部22aにピン部材を挿入する。これにより、他方の係止部22aが一対の側板24に取付けられる。このようにして蓋体22は、一対の側板24に取り付けられる。
【0049】
このように一対の側板24に蓋体22を取付けることで、成型ボックス14には、床板23、一対の側板24、及び蓋体22によって囲まれたチャンバ27が形成されている。また、蓋体22は、流れ方向Fの上流側から下流側に向かって斜め下方に延在するように配置されているため、チャンバ27の入口27aから出口27bに向かって低くなるように傾斜する傾斜面22bを形成している。これにより、チャンバ27では、チャンバ27の流れ方向Fの上流側にある入口27aの高さに対して流れ方向Fの下流側にある出口27bの高さが低くなっている。このように形成されているチャンバ27は、噴射口15gより幅広に形成されている。また、蓋体22の流れ方向Fの下流側には、チャンバ27内のエアを成型ボックス14外に抜くために複数の通気孔28が形成されている。
【0050】
複数の通気孔28は、複数の列をなしており互い違いに配置されている、即ち千鳥状に配置されている。このようにして配置されている複数の通気孔28は、蓋体22の流れ方向Fの下流側寄りから中央付近まで並んでおり、左右方向の両端部付近を除く左右方向中間部分に配置されている。エアジェット13は、その噴射口15gを通気孔28に向けて成型ボックス14の入口27a側に配置されており、噴射口15gからトウTと共に噴射されたエアを通気孔28から成型ボックス14外へと抜くことができるようになっている。また、噴射されたトウTはエアによってエアジェット13の噴射口15gから四方八方に拡散するので、エアジェット13は、その噴射口15gが成型ボックス14の上下方向及び左右方向の中央付近に位置するように配置されている。更に、成型ボックス14のチャンバ27の両端部分までトウTが行き渡らせるように、エアジェット13の噴射口15gと蓋体22との流れ方向Fの距離が一対の側板24の間隔より大きくなるようにエアジェット13を配置している。このようにしてエアジェット13は、所定の幅の開繊体Bを形成するべく、噴射したトウTがチャンバ27から溢れず且つ前記チャンバ27を満たすように配置されている。エアジェット13からチャンバ27に噴射されたトウTは、チャンバ27でエアによって掻き混ぜられながらチャンバ27の出口27bの方へと押し出されていく。出口27bまで押し出されることで、出口から要求される幅及び嵩高さの開繊体Bが排出され、排出された開繊体Bは、更に成形ユニット8に導かれる。
【0051】
成形ユニット8は、成型ボックス14から開繊体Bを取出し、取出した開繊体Bをシート状に整形するように構成されている。成形ユニット8は、一対の成形ローラ31を有しており、一対の成形ローラ31は開繊体Bを挟んで引き伸ばして開繊体Bをシート状に成形するようになっている。以下では、このようにして構成される開繊体製造設備2によって開繊体を製造する方法の手順について
図7のフローチャートを参照しながら説明する。
【0052】
開繊体製造方法は、開繊体製造設備2において製造開始の指令が入力されると開始され、ステップS1に移行する。引出工程であるステップS1では、トウ開繊機3によって梱包容器9からベール状のトウTが引き出される。引き出された後、トウTは、2つのバンディングジェット4,5に通されて機械開繊ユニット6に導かれる。機械開繊工程(予備開繊工程)であるステップS2では、機械開繊ユニット6に導かれたトウTが機械開繊ユニット6の二対のローラ11,12によって機械開繊され、機械開繊されたトウTが流れ方向Fの下流側の一対のローラ12によってエアジェット13に導かれる。
【0053】
空気開繊工程(流体開繊工程)であるステップS3では、エアジェット13に導かれたトウTをエアジェット13に供給されるエアによって空気開繊し、空気開繊したトウTをエアジェット13から成型ボックス14に噴射する。さらに詳細に説明すると、機械開繊されたトウTは、左右方向に広がっているので左右方向中央に寄せるように束ねられて機械開繊ユニット6からエアジェット13のトウ導入部16aに導入される。導入されたトウTは、内筒16の螺合部16c、及び内側円筒部16bを通って開口部16dまで導かれる。他方、エアジェット13の外筒15には、図示しないエア供給源からエア供給管17を介してエア流路18にエアが導かれている。エア流路18に導かれたエアは、絞り19を通って噴出口15fからノズル部15aに噴出されている。開口部16dに導かれたトウTは、噴出口15fから噴出されたエアによってノズル部15aに引き出され、更にそのエアによってノズル部15a内で空気開繊される。
【0054】
更に、トウTは、エアによって空気開繊されながらエアと共にノズル部15a内の流れ方向Fの下流側に流れていく。この際、ノズル部15aを流れるエアの流れが層流であるため、トウTに含まれる繊維同士が絡み合うことを抑制することができる。このようにして流れてくるトウTは、エアによって外筒15の噴射口15gまで導かれ、この噴射口15gからエアと共に成型ボックス14のチャンバ27に噴射される。これにより、噴射されるトウTは、
図8(a)に示すようにエアによって四方八方に広がるように拡散させて成型ボックス14のチャンバ27に噴射される。なお、外筒15の噴射口15gの口径(例えば、18mm以上)が従来技術の噴射口の口径より大きく形成されているので、トウTをより広範囲に拡散させることができる。
【0055】
幅調整工程であるステップS4では、エアジェット13から噴射されたトウTに含まれる繊維同士を同様に噴射されたエアによって成型ボックス14のチャンバ27で絡め合わせて開繊体Bを形成し、更にその開繊体Bの幅を調整する。具体的に説明すると、エアジェット13から成型ボックス14のチャンバ27に噴射されたトウTは、エアジェット13から噴射されることによって拡散してトウTの繊維同士がバラバラになり更に開繊される。また、エアジェット13の噴射口15gが蓋体22の傾斜面22bに向けられているので、トウTと共に噴射されたエアがそのまま出口27bから抜けずにチャンバ27で撹拌される。これにより、繊維同士がバラバラにされたトウTが
図8(b)に示すようにエアによって掻き混ぜられながらチャンバ27の出口27bへと押し出されていく。その結果、トウTの繊維同士が絡まり合わされ、チャンバ27でふんわり感のある開繊体Bが形成される。トウTは、チャンバ27全域で掻き混ぜられるので、開繊体Bの幅がチャンバ27の幅に形成される。即ち、開繊体Bが要求される幅に拡幅されて調整される。また、チャンバ27の出口27bの高さが蓋体22によって所定の高さに設定されているので、開繊体Bの嵩高さが出口27bの高さに調整される。そして、幅及び高さが調整された開繊体Bがチャンバ27の出口27bまで導かれる。
【0056】
成形工程であるステップS5では、幅調整工程で形成された開繊体Bを成型ボックス14から引き出してシート状に整形する。成形ユニット8では、一対の成形ローラ31によって、開繊体Bを挟んで引き伸ばして開繊体Bをシート状に成形する。
【0057】
このように開繊体拡幅ユニット1では、エアジェット13から成型ボックス14のチャンバ27にエアと共にトウTを噴射することによりトウTをチャンバ27の幅まで拡幅させ、更にエアでトウTに含まれる繊維同士を絡み合わせてチャンバ27の幅に拡幅して調整された開繊体Bをチャンバ27の出口から導出させることができる。また、エアジェット13から成型ボックス14のチャンバ27に拡散させるようにトウTを噴射させるので、開繊体Bの繊維同士の間に大きな隙間を確保することができ、形成された開繊体Bのふんわり感を達成することができる。このように、開繊体拡幅ユニット1及びそれを用いた開繊体製造方法では、ふんわり感を損なうことなく要求される幅に開繊体Bを拡幅するができる。
【0058】
また、開繊体拡幅ユニット1では、成型ボックス14の蓋体22に複数の通気孔28が形成されている。そのため、成型ボックス14のチャンバ27でトウTをエアによって掻き混ぜて開繊体Bを形成する際、そのエアを複数の通気孔28から抜くことができる。これにより、エアによって開繊体Bが上方から押さえつけられることを防ぐことができ、開繊体Bのふんわり感を向上させることができる。また、エアジェット13の噴射口15gを通気孔28に向けているので、エアが通気孔28を介して成型ボックス14外に抜けやすくなっており、これによっても開繊体Bのふんわり感を向上させることができる。また、繊維量、運転速度、運転条件(エアー量、等)など製造条件に合わせて、溢れない状態で成型ボックス内に満遍なくトウが溜まるように、成型ボックスのサイズを調整することでムラなく、ふんわり感のある開繊体の成型が可能である。
【0059】
また、開繊体拡幅ユニット1では、ピン部材を挿入する嵩高調整孔25を他の嵩高調整孔25に変えることで成型ボックス14の出口の高さを調整することができる。このように出口27bの高さを変えることで、生成される開繊体Bの嵩高さを調整することができる。また、角度調整孔26に関しても、ピン部材を挿入する角度調整孔26を他のいずれかの角度調整孔26に変えることで、蓋体22の角度を例えば30度から45度まで5度刻みで調整することができる。
【0060】
更に、開繊体拡幅ユニット1は、エアジェット13内においてエアの流れを層流にし、その層流と共にトウTを噴射させるようになっている。このように、トウTを噴射させるエアの流れを層流にすることで、トウTを上下左右方向に均等に拡散させることができる。これにより、成型ボックス14のチャンバ27において、幅方向両隅までトウTを行き渡らせることができ、開繊体Bの方向両端部分の厚みが薄くなることを防ぐことができる。また、エアジェット13の噴射口15gと蓋体22との距離(即ち、噴射口15gから軸線L1と蓋体22の傾斜面22bと交点Pまでの距離)を噴射口15gの中心(即ち、軸線L1)から一方の側板24までの距離(本実施形態では、一対の側板24の間隔の半分)より大きく、本実施形態では150mm以上に設定することによって、エアジェット13からトウTを噴射させた際にチャンバ27の幅方向両隅までトウTを行き渡らせることができる。これによっても開繊体Bの幅を要求される幅まで拡幅することを可能にしている。また、エアジェット13の開口部をチャンバ27の入口27aの中央(本実施形態では上下左右方向中央)に配置することでトウTをチャンバ27に上下左右方向に均一に噴射することができる。これにより、幅方向両隅までトウTを行き渡らせることができ、開繊体Bの方向両端部分の厚みが薄くなることを防ぐことができる。
【0061】
このように構成される本実施形態の開繊体拡幅ユニット1を用いて製造された開繊体B(第1実施例)と、開繊体拡幅ユニット1を改良した異なる3つの開繊体拡幅ユニットを用いて製造された開繊体(第2実施例〜第4実施例)とに関して以下に示す項目を評価した。各実施例に関して開繊体拡幅ユニット1と異なる点だけを説明すると、第2乃至第4実施例では、エア供給管17にバッファ17bが形成されておらず、エア吸入口15dの口径がエア供給管17の供給口17aの口径と同径になっている。また、第2及び第3実施例では、内側円筒部16bの先端部分に対応するノズル部15aの内周面の部分が縮径し、噴出口15fが外筒15の中心軸に向かって内向きにエアを噴射するように形成されている(即ち、噴出口15fが内向きに形成されている)。更に第2実施例では、ノズル部15aの断面形状が扁平形状になっている。また評価した項目は、開繊体の平均幅、開繊体の幅の安定性、開繊体の嵩高さ、開繊体の形状維持性、開繊体の幅方向に関する厚薄ムラ(厚薄ムラ)、及び開繊体に生じる筋の有無(筋の有無)であり、その比較結果を表1に示す。
【0063】
ここで、開繊体の平均幅は、開繊体を15cmごとに20点で測定した幅の平均値であり、開繊体の幅の安定性は、前記20点で測定された幅に基づいて演算された変動係数cv(即ち、バラつき)に基づいて評価したものである。評価としては、cv≦2.5以下で○、2.5<cv<3.0で△、cv≧3.0で×としている。開繊体の嵩高さに関する評価は、感覚評価(即ち、手触りの評価)であり、開繊体が厚み方向に十分に膨らんでふんわり感がある場合は○、開繊体に関してふんわり感がない場合は△としている。形状安定性に関する評価は、感覚評価(即ち、手触りの評価)であり、十分に触っても形状が崩れない場合は○、十分に触ると形状が崩れてしまう場合は△としている。また、開繊体の幅方向に関する厚薄ムラは、幅方向両端の厚みが中央部の厚みの80%以上である場合は○、幅方向両端の厚みが中央部の厚みの50%より大きく80%未満である場合は△、幅方向両端の厚みが中央部の厚みの50%以下である場合は×としている。更に、開繊体に生じる筋の有無は、目視確認での評価であり、筋が略見えない場合は○、筋は見えるが感触に影響しない場合は△、筋が大きく、開繊体が割れている状態に近く且つ触ると明らかに薄い場合は×としている。
【0064】
表1から分かるように、成型ボックス14を用いることによって各実施例1〜4で製造される開繊体の幅を要求される幅(本実施形態では150mm)にすることができ、また開繊体を厚み方向に十分に膨らませてふんわり感を出させることができる。また、エアジェット13のノズル部15aの形状を大略断面円筒状にすることで開繊体の幅安定性を向上させることができ、噴出口15fから噴出されるエアを内周面15cに沿うように流す(即ち、ノズル部15a内のエアの流れを層流にする)ことによって厚薄ムラを抑えることができる。更に、エア供給管17にバッファ17bを形成することで、開繊体の割れや筋の発生を抑えることができる。
【0065】
更に、ノズル部15aのノズル長による影響を評価すべく、実施例4の開繊体拡幅ユニット1においてノズル部15aのノズル長を変更した2つの開繊体拡幅ユニットを用いて製造された開繊体(第5実施例〜第6実施例)を評価した。第5実施例では、ノズル部15aのノズル長が70mmとなっており、第6実施例では、ノズル部15aのノズル長が140mmとなっている。評価する項目は、第1乃至第4実施例と同様であり、評価結果を第1及び第4実施例の評価と共に表2に示す。
【0067】
表1から分かるように、第5実施形態のようにノズル長が70mmの場合、開繊体の幅をおおよそ要求される幅にすることができるが、噴射したトウTを十分に拡散することができておらずチャンバ27をトウTで満たすことができていないので、要求の幅を達成することができていない。他方、実施例6のようにノズル長140mmまで延長すると、チャンバ27をトウTで満たすことができ、開繊体の幅を要求される幅にすることができる。それ故、前述の通り、ノズル部15aのノズル長は、70mmのように短くても拡幅することは可能であるが、140mm以上に設定されることが好ましい。
【0068】
[その他の実施形態について]
開繊体拡幅ユニット1では、エアジェット13と成型ボックス14とを備えているが、成型ボックス14にトウTを噴射する噴射装置はエアジェット13のような構成である必要はない。トウTを成型ボックス14に噴射できる構成であればよく、好ましくはエアジェット13のように層流のエアと共にトウTを噴射できるものがよい。また、成型ボックス14は、その幅を要求される開繊体の幅に応じて変更できるような機構を備えていてもよい。他方、成型ボックス14において、出口27bの高さを変更可能な構成や蓋体22の角度を変更可能な構成については必ずしも必要ではない。また、開繊体拡幅ユニット1で供給される流体は、エアに限定されず、窒素等の流体であってもよい。また、成型ボックス14では、蓋体22が傾斜して配置されているが、床板23を傾斜して配置されていてもよい。
【0069】
また、開繊体製造設備2では、二対のローラ11,12によって予備開繊を行っているが、必ずしも予備開繊を二対のローラ11,12で行う必要はなく、エア等の流体による予備開繊であってもよい。
【符号の説明】
【0070】
T トウ
1 開繊体拡幅ユニット
13 エアジェット
14 成型ボックス
15a ノズル部
15f 噴出口
15g 噴射口
17a 供給口
17b バッファ
22b 傾斜面
24 側板
27 チャンバ
27a 入口
27b 出口
28 通気孔