(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明の一実施形態としてのガスセンサ100の内部構造を示す概略図である。
図1には、ガスセンサ100の仮想中心軸AX(以下、単に「軸線AX」とも呼ぶ)を一点鎖線で図示してある。このガスセンサ100は、内燃機関の排気管などに装着され、測定ガスである排気ガス中の酸素濃度を、リッチ領域からリーン領域に渡ってリニアに検知する、いわゆる全領域空燃比センサである。
【0015】
ガスセンサ100は、軸線AX方向に沿って延伸された形状を有している。ガスセンサ100は、その先端側(紙面下側)が排気管の内部に挿入され、後端側(紙面上側)が排気管の外部に突出するように排気管の外表面に固定的に取り付けられる。なお、
図1には、ガスセンサ100が取り付けられたときの排気管の外表面の位置が二点鎖線PSで図示してある。
【0016】
ガスセンサ100は、自身を排気管に対して固定的に取り付けるための主体金具110を備える。主体金具110は、軸線AX方向に沿った貫通孔110cを有する筒状の金属部材である。主体金具110の外側には、排気管に設けられたガスセンサ100の取り付けのためのネジ溝に螺合するねじ部110aや、ガスセンサ100の取り付けの際にスパナやレンチなどの工具を係合させるための工具係合部110bが形成されている。
【0017】
主体金具110の先端側には、二重の有底筒状のプロテクタ101が、レーザ溶接により固設されている。二重のプロテクタ101には、ガスセンサ100を排気管に取り付けたときに、排ガスを内部に導入できるように、内側および外側の壁部のそれぞれに、複数の導入孔101cが形成されている。
【0018】
主体金具110の後端側には、筒状の金属製の外筒103がレーザ溶接により固設されている。ガスセンサ100の内部には、外筒103の後端側端部から、ガスセンサ100と外部の制御回路200(
図5参照)とを電気的に接続するための3本のセンサ用リード線193,194,195と、2本のヒータ用リード線196,197とが挿通されている。なお、外筒103の後端側端部には、外筒103の内部を封止するためのフッ素ゴム製のグロメット191が取り付けられており、5種類のリード線193〜197は、グロメット191を貫通して、外筒103の内部に挿入されている。
【0019】
ガスセンサ100は、酸素濃度に応じた信号を出力するガスセンサ素子120を備える。ガスセンサ素子120は、細長形状の板部材を積層した積層構造を有しており、仮想中心軸AXに垂直な断面が略矩形形状となる四角柱形状を有している(詳細は後述)。ガスセンサ素子120は、主体金具110の貫通孔110c内に固定的に保持されており、ガスセンサ100の内部において、軸線AX方向に沿って収容される。なお、
図1では、ガスセンサ素子120の積層方向に沿って互いに対向し合う第1と第2の面120a,120bがそれぞれ紙面左側および紙面右側に向いている。
【0020】
ガスセンサ素子120の先端側(紙面下側)の端部には、排気ガス中の酸素濃度を検出可能に構成されたガス検出部121が設けられている。ガス検出部121は、プロテクタ101の内部に収容・配置されている。これによって、ガスセンサ100が排気管に取り付けられたときに、ガス検出部121は、導入孔101cから導入された排ガスに曝される。
【0021】
ここで、主体金具110の後端側(紙面上側)の外筒103内には、軸線AX方向に沿った貫通孔181cを有する筒状の絶縁部材であるセパレータ181が固定的に保持されている。具体的には、セパレータ181は、外周に配置された略筒状の付勢金具190によって、グロメット191に向かって付勢された状態で、外筒103内に保持されている。ガスセンサ素子120の後端側の端部は、そのセパレータ181の貫通孔181c内に収容されている。
【0022】
ガスセンサ素子120の後端部には、第1の面120a側に、3つのセンサ用の電極パッド125、126、127が紙面奥行き方向に並列に配列され、第2の面120b側に、2つのヒータ用の電極パッド128,129が紙面奥行き方向に並列に配列されている。さらに、セパレータ181の貫通孔181c内には、3つのセンサ用の接続端子182,183,184と、2つのヒータ用の接続端子185,186とが、ガスセンサ素子120の対応する各電極パッド125〜129と接触するように設けられている。なお、各センサ用接続端子182〜186は、グロメット191を介してガスセンサ100内に挿通された5本のリード線193〜197に電気的に接続されている。
【0023】
ガスセンサ素子120は、主体金具110の筒内における以下のような構成により、主体金具110に固定的に保持されている。主体金具110の貫通孔110cの先端側には、径方向内側に突出する段部111が形成されている。そして、主体金具110の貫通孔110c内には、底面に貫通孔116cを有する金属カップ116が、その底面の外周端部が段部111と係合した状態で配置される。
【0024】
金属カップ116の底面側の内部空間には、セラミックホルダ113が配置される。セラミックホルダ113は、アルミナ(Al
2O
3)によって構成され、中央に、ガスセンサ素子120を挿通するための矩形状の貫通孔113cが形成されている。
【0025】
金属カップ116の内部には、金属カップ116の貫通孔116cと、セラミックホルダ113の貫通孔113cとに挿通されたガスセンサ素子120を気密に保持するための第1粉末充填層114(タルク)が形成されている。第1粉末充填層114は、セラミックホルダ113の上に滑石粉末を充填することにより形成される。このように、ガスセンサ素子120は、金属カップ116と、セラミックホルダ113と、第1粉末充填層114と、一体化された状態で、主体金具110の貫通孔110c内に保持される。
【0026】
主体金具110の貫通孔110c内には、第1粉末充填層114の上に、さらに、主体金具110の後端側とガスセンサ素子120のガス検出部121との間の気密性を確保するための第2粉末充填層115(タルク)が、滑石粉末を充填することにより形成されている。そして、第2粉末充填層115の上にはセラミックスリーブ170が配置されている。
【0027】
セラミックスリーブ170は、ガスセンサ素子120を挿通するための、軸線AX方向に沿った矩形状の軸孔170cを有する筒状体である。セラミックスリーブ170は、アルミナによって構成することができる。セラミックスリーブ170は、主体金具110の後端側の端部110kを径方向内側に屈曲させて加締めることにより、第2粉末充填層115側に押圧された状態で、主体金具110に固定される。なお、主体金具110の後端側の端部110kとセラミックスリーブ170との間には、加締リング117が配置される。
【0028】
図2は、ガスセンサ素子120の構成を示す概略斜視図である。
図2には、ガスセンサ素子120の第1の面120a側を紙面上側とし、第2の面120b側を紙面下側として図示してある。また、軸線AX方向(
図1)を紙面左右方向とし、先端側を紙面左側とし、後端側を紙面右側として図示してある。ガスセンサ素子120は、板状の検出素子130(紙面上側)と、板状のヒータ素子160(紙面下側)とが積層されて焼成一体化されることによって構成されている。
【0029】
なお、
図1においても説明したように、ガスセンサ素子120の先端側には、ガス検出部121が形成されている。そして、後端側の第1の面120a側には、3つの電極パッド125〜127が配列されている。なお、図示はされていないが、後端側の第2の面120b側には、2つの電極パッド128,129が配列されている。
【0030】
図3は、ガスセンサ素子120を分解して示す概略斜視図である。
図3には、積層方向(紙面上下方向)に分解されたガスセンサ素子120の各構成部が、紙面左側を先端側とし、紙面右側を後端側として図示してある。なお、図中の二点鎖線は、二点鎖線で結ばれた各構成部が電気的に導通していることを示している。ガスセンサ100の検出素子130は、保護層131と、酸素ポンプセル135と、スペーサ145と、酸素濃度検知セル150とが、第1の面120a側から、この順序で積層されている。
【0031】
保護層131は、アルミナを主成分として形成された板状部材であり、ガスセンサ素子120の第1の面120a側を保護する。保護層131の先端側には、保護層131の積層方向(紙面上下方向)に通気性を有する多孔質部132が形成されている。多孔質部132は、ガスセンサ素子120を、その積層方向に沿って見たときに、後述する電極部137Mと重なる領域に形成されている。多孔質部132は、ガス検出部121の排ガスの汲み入れ/汲み出しのためのガス流路部として機能する。
【0032】
保護層131の外側の面131aの後端側には、3つの電極パッド125〜127が、ガスセンサ素子120の幅方向(紙面奥行き方向)に並列に配列される。そして、保護層131には、第1〜第3のスルーホール導体11〜13が、第1〜第3の電極パッド125〜127に対応させて、貫通形成されている。
【0033】
酸素ポンプセル135は、固体電解質体136と、固体電解質体136を内部に配置するアルミナ層139と、一対の電極137,138とを備える。固体電解質体136は、ジルコニア(ZrO
2)を主成分として形成されており、一対の電極部137M,138Mよりも若干大きい面積を有するように形成された板状部材である。アルミナ層139は、固体電解質体136の外周を囲み、その周囲を覆うように設けられた、保護層131と略同様なサイズを有する板状部材である。アルミナ層139の後端側には、保護層131に形成された第2と第3のスルーホール導体12,13と電気的に導通する第4と第5のスルーホール導体14,15が貫通形成されている。なお、酸素ポンプセル135の固体電解質体136が、特許請求の範囲における「第2固体電解質体」に相当する。
【0034】
2つの電極137,138はそれぞれ、白金(Pt)を主成分として多孔質に構成されており、電極部137M,138Mと、リード部137L,138Lとを有している。電極部137M,138Mはそれぞれ、固体電解質体136の第1の面136a(紙面上側の面)と、第2の面136b(紙面下側の面)にそれぞれ配置されている。このうち、第2の面136b側に配置された電極部138Mは、後述するガス検出室145cに露出する。一方、第1の面136a側に配置された電極部138Mは、ガスセンサ100が排気管に装着されたときに、保護層131に設けられた多孔質部132を介して排気ガスに晒される。なお、電極138が、特許請求の範囲における「第2の電極」に相当する。
【0035】
また、リード部137L,138Lはそれぞれ、電極部137M,138Mから後端側へと延伸している部位である。このうち、第1の面136a側に配置された電極137のリード部137Lは、保護層131の第1のスルーホール導体11を介して、第1の電極パッド125と電気的に導通する。一方、第2の面136b側に配置された電極138のリード部138Lは、固体電解質体136に設けられた第4のスルーホール導体14および保護層131に設けられた第2のスルーホール導体12を介して、第2の電極パッド126と電気的に導通する。
【0036】
スペーサ145は、アルミナを主成分として形成された、酸素ポンプセル135のアルミナ層139と略同様なサイズを有する板状の絶縁部材である。スペーサ145の先端側には、開口部が形成されている。この開口部は、スペーサ145が、酸素ポンプセル135と、酸素濃度検知セル150とに狭持されたときに、測定ガスである排ガスが導入されるガス検出室145cを構成する。なお、スペーサ145は、特許請求の範囲における「絶縁層」に相当し、ガス検出室145cは、特許請求の範囲における「測定室」に相当する。
【0037】
スペーサ145において、開口部を挟んで、スペーサ145の幅方向に互いに対向し合う2つの側壁部には、拡散律速部146が形成されている。拡散律速部146は、通気性を有する多孔質のアルミナによって構成されている。ガスセンサ素子120では、拡散律速部146の通気度に応じた量の排ガスが、ガス検出室145cに導入される。即ち、拡散律速部146は、ガス検出部121のガス導入部として機能する。
【0038】
スペーサ145の後端側には、酸素ポンプセル135の電極138のリード部138Lと電気的に導通する第6のスルーホール導体16が貫通形成されている。また、第6のスルーホール導体16と隣り合う位置には、酸素ポンプセル135のアルミナ層139に設けられた第5のスルーホール導体15と電気的に導通する第7のスルーホール導体17が貫通形成されている。
【0039】
スペーサ145は、酸素ポンプセル135と酸素濃度検知セル150とを絶縁する絶縁層として機能する。なお、スペーサ145には、スペーサ145を厚み方向に貫通して、酸素ポンプセル135と酸素濃度検知セル150とを電気的に接続するリーク部148aが設けられている。なお、リーク部148aの詳細は後述する。
【0040】
酸素濃度検知セル150は、固体電解質体151と、固体電解質体151を内部に配置するアルミナ層154と、一対の電極152,153とを備える。固体電解質体151は、ジルコニアを主体に形成された、一対の電極部152M,153Mよりも若干大きな面積を有するように形成された板状部材である。アルミナ層154は、固体電解質体151の外周を囲み、その周囲を覆うように形成され、スペーサ145と略同様なサイズを有する板状部材である。アルミナ層154の後端側には、第8のスルーホール導体18が貫通形成されている。第8のスルーホール導体18は、スペーサ145に形成された第7のスルーホール導体17と電気的に導通する。なお、酸素濃度検知セル150の固体電解質体151は、特許請求の範囲における「第1固体電解質体」に相当する。
【0041】
2つの電極152,153はそれぞれ、白金(Pt)を主成分として多孔質に構成されており、電極部152M,153Mと、リード部152L,153Lとを有する。電極部152M,153Mは、固体電解質体151の第1の面151a(紙面上側の面)と第2の面151b(紙面下側の面)とにそれぞれ配置されている。このうち、第1の面151a側に配置された電極部152Mは、ガス検出室145cに露出する。なお、電極152が、特許請求の範囲における「第1の電極」に相当する。
【0042】
なお、第1の面151a側に配置された電極152のリード部152Lは、スペーサ145に設けられた第6のスルーホール導体16を介して、酸素ポンプセル135の電極138および第2の電極パッド126と電気的に導通する。一方、第2の面150b側に配置された電極153のリード部153Lは、固体電解質体151に設けられた第8のスルーホール導体18を介して、第3の電極パッド127と電気的に導通する。
【0043】
ヒータ素子160は、第1と第2の絶縁体161,162と、発熱抵抗体163と、第1と第2のヒータリード部164,165と、を備える。第1と第2の絶縁体161,162は、アルミナによって構成された、検出素子130と同様なサイズを有する板状部材である。第1と第2の絶縁体161,162は、発熱抵抗体163及びヒータリード部164,165を狭持する。
【0044】
発熱抵抗体163は、白金を主成分とする発熱線によって構成され、蛇行形状を有する発熱体である。2つのヒータリード部164,165はそれぞれ、発熱抵抗体163の両端に接続されており、発熱抵抗体163から後端側に向かって延伸している。
【0045】
ここで、第2の絶縁体162の外側の面162bの後端側には、第1と第2のヒータ用電極パッド128,129が、ヒータ素子160の幅方向に、並列に配列されている。そして、第2の絶縁体162には、第1と第2のヒータ用電極パッド128,129に対応する第1と第2のヒータ用スルーホール導体21,22が貫通形成されている。発熱抵抗体163に接続された第1と第2のヒータリード部164,165はそれぞれ、第1と第2のヒータ用スルーホール導体21,22を介して、第1と第2のヒータ用電極パッド128,129と電気的に導通する。
【0046】
ヒータ素子160は、ガスセンサ100の駆動の際には、外部のヒータ制御回路(図示せず)によって、発熱温度が制御される。そして、検出素子130を、数百℃(例えば、700〜800℃)に加熱して酸素ポンプセル135と酸素濃度検知セル150とを活性化させる。
【0047】
リーク部148aは、スペーサ145において、2つの固体電解質体136,151および電極138,152(より具体的には、それらのリード部138L,152L)に直接的に接するように、スペーサ145を積層方向に貫通して形成されている。具体的には、リーク部148aは、ガス検出室145cに面する位置に設けられている。換言すれば、リーク部148aは、ガス検出室145cに露出しており、ガス検出室145cの壁面の一部を構成する位置に配置されている。より具体的には、リーク部148aは、ガス検出室145cの先端側の壁面を構成する位置に配置されている。また、リーク部148aの上面および底面が、対応する各セル135,150(具体的には固体電解質体136,151)に接触可能な位置に形成されている。
【0048】
リーク部148aは、固体電解質体材料(例えばジルコニア)を主成分として構成される。ここで、本明細書において、「ジルコニアを主成分とする」とは、リーク部148aにおけるジルコニアの含有量比率が50%を超えることを意味する。なお、リーク部148aは、ジルコニアの含有量比率が80〜100%となるように形成されることが、より好ましい。また、リーク部148aは、スペーサ145との間の接合性を向上させるために、0〜20%程度の含有量比率でアルミナや、スピネル、チタニア(TiO
2)等の絶縁性セラミックが混合されていることが好ましい。
【0049】
ここで、本実施形態におけるガスセンサ100は、制御回路200(後述)によって、フィードバック制御される。その際に、リーク部148aは、制御回路200とセンサ出力とのフィードバック制御における発振の発生が抑制されるように、酸素ポンプセル135と酸素濃度検知セル150との間の電子および/又は酸素イオンの移動経路として機能する。リーク部148aがフィードバック制御の発振を抑制するメカニズムについての詳細は後述する。
【0050】
ところで、本実施形態のガスセンサ100では、リーク部148aは、ガスセンサ素子120を積層方向に沿って見たときに、その少なくとも一部が、発熱抵抗体163と重なるように配置されている。具体的には、リーク部148aは、リーク部148aを積層方向に沿って発熱抵抗体163に仮想的に投影したときに、その投影像の少なくとも一部が、発熱抵抗体163の上に位置するように形成されている。これによって、リーク部148aの温度が適切に制御され、リーク部148aを構成するジルコニアの導電性を良好に維持することができる。よって、確実に、フィードバック制御の発振を抑制でき、センサ出力が変動することを抑制できる。これらの点は、以下で説明する他の位置のリーク部も同様である。
【0051】
また、リーク部148aは、積層方向に垂直な任意の切断面における面積が、当該切断面におけるスペーサ145とリーク部148aの面積の合計に対して、50%未満となるように形成されることが好ましい。スペーサ145におけるリーク部148aの面積比率が上記の値以上となる場合には、リーク部148aに流れる電流(後述)が過度に大きくなってしまう。即ち、ガスセンサ素子120におけるスペーサ145の絶縁層としての機能が損なわれ、ガスセンサ100の測定精度が低下する虞がある。なお、この場合に、スペーサ145の面積は、ガス検出室145cを形成する開口部を除いた面積である。なお、2つのリーク部を設ける場合には、それらの合計の面積をこのように設定することが好ましい。
【0052】
図4は、ガスセンサ素子120の断面と制御回路200との電気的接続を説明するための模式図である。
図4には、ガスセンサ素子120のうちの酸素ポンプセル135と、スペーサ145と、酸素濃度検知セル150と、第1〜第3の電極パッド125〜127のみを模式的に図示してある。また、
図4には、第1〜第3の電極パッド125〜127を介して、酸素ポンプセル135および酸素濃度検知セル150に電気的に接続される、ガスセンサ100の外部に設けられた制御回路200を図示してある。
【0053】
上述したように、ガスセンサ100のガスセンサ素子120では、スペーサ145が2つのセル135,150に狭持されたときに、スペーサ145の内部にガス検出室145cが形成される。酸素ポンプセル135の電極138は、電極部138Mが、ガス検出室145cに面するように配置され、ガス検出室145cの壁面の一部を構成する。前述したように、リーク部148aも、ガス検出室145cの壁面の一部を構成している。
【0054】
同様に、酸素濃度検知セル150の電極152は、電極部152Mがガス検出室145cに面するように配置され、ガス検出室145cの壁面の一部を構成する。なお、ガス検出室145cには、スペーサ145に設けられた拡散律速部146(
図4)を介して、測定ガスである排ガスが導入される。
【0055】
酸素ポンプセル135の固体電解質体136では、電極137,138の間に電位差が生じたときに、その電位差に応じて、積層方向に酸素イオンが伝導する。ガスセンサ100では、制御回路200から酸素ポンプセル135に電流を流すことにより、固体電解質体136を介したガス検出室145cへの酸素の汲み入れ、及び、汲み出しを行う。なお、酸素ポンプセル135は、「Ipセル」とも呼ばれる。
【0056】
酸素濃度検知セル150の固体電解質体151では、第1の面151a(
図3)側と第2の面151b側との間に酸素の濃度差が生じたときに、その濃度差に応じて、起電力が生じる。ガスセンサ100では、酸素濃度検知セル150の電極152,153間の起電力を検出し、電極153の電極部153Mにおける酸素濃度を基準として、ガス検出室145cの酸素濃度を検出する。酸素濃度検知セル150は、「起電力セル」または「Vsセル」とも呼ばれる。
【0057】
ここで、本明細書では、酸素ポンプセル135の電極137に接続される第1の電極パッド125を「Ip電極パッド125」とも呼ぶ。また、酸素ポンプセル135の電極138と、酸素濃度検知セル150の電極152と接続される第2の電極パッド126を「COM電極パッド126」とも呼ぶ。そして、酸素濃度検知セル150の電極153と接続される第3の電極パッド127を「Vs電極パッド127」とも呼ぶ。
【0058】
制御回路200は、ガスセンサ素子120に対して、以下のようなフィードバック制御を行う。制御回路200は、酸素濃度検知セル150の出力電圧Vsを、COM電極パッド126とVs電極パッド127とを介して検出する。そして、酸素濃度検知セル150の出力電圧が所定の基準値となるように、Ip電極パッド125とCOM電極パッド126を介して、酸素ポンプセル135にポンプ電流Ipを流してガス検出室145cにおける酸素濃度を調整する。制御回路200は、酸素ポンプセル135に流したポンプ電流の電流値に基づく信号をガスセンサ100による検出結果として出力する。
【0059】
なお、前記したとおり、ガスセンサ100の駆動の際には、酸素濃度検知セル150の電極153における電極部153Mは、基準となる酸素濃度を有する閉塞された酸素基準室として機能する。そこで、ガスセンサ100では、その起動時に、電極部153Mにおける酸素濃度が所定の基準値となるように、制御回路200が、酸素濃度検知セル150に微少電流(例えば15μA程度の電流)を流し、電極部153M内に酸素を導入する。
【0060】
ここで、ガスセンサ100の駆動の際の、酸素濃度検知セル150の出力電圧の目標値は、ガス検出室145c内の排ガスの空燃比が理論空燃比となる値(例えば、450mV程度)である。そして、ガス検出室145cにおける排ガスの空燃比が理論空燃比よりも低いとき(リッチなとき)に、酸素ポンプセル135に対して、ガス検出室145cに酸素を汲み入れる方向のポンプ電流が入力される。また、ガス検出室145cにおける排ガスの空燃比が理論空燃比よりも高いとき(リーンなとき)には、酸素ポンプセル135に対して、ガス検出室145cから酸素を汲み出す方向のポンプ電流が入力される。
【0061】
図5(A)〜(D)は、リーク部の各種の配置例を示す説明図である。
図5(A)では、リーク部148aが、ガス検出室145cの先端側(図中左側)の壁面を構成している。この構成は、
図3、
図4で説明したものと同じである。このリーク部148aを「第1のリーク部148a」とも呼ぶ。
図5(B)〜(D)では、第1のリーク部148aに加えて、第2のリーク部148b,148c,148dがそれぞれ追加されている。この第2のリーク部148b,148c,148dは、ガス検出室145cの後端側(図中右側)の壁面を構成しており、また、第1のリーク部148aと同様に、2つの固体電解質体136,151および電極のリード部138L,152Lに直接的に接触する位置に設けられている。
図5(B)〜(D)の第2のリーク部148b,148c,148dは、軸線方向に沿った長さが異なる。すなわち、
図5(B)の第2のリーク部148bは、ガス検出室145cの壁面と2つの固体電解質体136,151の後端(図中右端)との間の中間の位置にまで延びている。
図5(C)の第2のリーク部148cは、2つの固体電解質体136,151の後端の位置まで延びている。
図5(D)の第2のリーク部148dは、2つの固体電解質体136,151の後端よりもさらに後端側に延びている。
【0062】
図6は、
図5(A)〜(D)に示したリーク部148a,148b,148c,148dの平面形状を示す説明図である。以下では、
図5(A)〜(D)のリーク部の配置をそれぞれ「パターンA」、「パターンB」、「パターンC」、「パターンD」と呼ぶ。また、リーク部148a,148b,148c,148dを区別する必要が無い場合には、これらを単に「リーク部148」と呼ぶ。
【0063】
なお、ガス測定室145cの先端側の壁面を構成する第1のリーク部148aを設けることなく、ガス測定室145cの後端側の壁面を構成する第2のリーク部148b(148c,148d)のみを設けるようにしても良い。すなわち、リーク部148として、第1のリーク部148aと第2のリーク部148b(148c,148d)のうちの少なくとも一方を設けるようにしても良い。これらの第1のリーク部148aと第2のリーク部148b(148c,148d)のいずれを設けるかは、具体的なガスセンサ素子120の性能に合わせて、より発振抑制効果が高いと思われる配置を選択することによって決定することができる。
【0064】
図7は、ガスセンサ100の制御回路200の構成の一例を示す概略図である。制御回路200は、PID(比例積分微分)素子210と、オペアンプ211と、第1〜第3の抵抗221〜223と、基準電源230とを備える。PID素子210は、一方の入力端子がVs電極パッド127に接続され、他方の入力端子が基準電源230に接続されている。そして、PID素子210の出力端子は、第1と第2の抵抗221,222を介してCOM電極パッド126に接続されるとともに、第2の抵抗222を介してオペアンプ211の一方の入力端子に接続されている。
【0065】
オペアンプ211は、一方の入力端子には、前記したとおり、第1または第2の抵抗221,222を介してCOM電極パッド126と、PID素子210とが接続され、他方の入力端子には、基準電圧Vref0が印加されている。オペアンプ211の出力端子は第3の抵抗223を介して、Ip電極パッド125に接続されている。
【0066】
この制御回路200では、基準電源230が出力する基準電圧Vref1と酸素濃度検知セル150が出力する電圧Vsとの差に応じた信号が、PID素子210からオペアンプ211に出力される。そして、PID素子210の出力信号に応じた電流が、ポンプ電流として、オペアンプ211から酸素ポンプセル135へと入力される。
【0067】
ところで、本実施形態のガスセンサ100のように、酸素ポンプセルと酸素濃度検知セルとが積層された従来の積層型のガスセンサでは、制御回路によって、上述したようなフィードバック制御が行われたときに、当該制御回路に発振が生じてしまう場合があった。この理由を、以下に説明する。
【0068】
積層型のガスセンサでは、酸素濃度検知セルの出力電圧が目標値となるように、酸素ポンプセルによって、ガス検出室への酸素の汲み入れ/汲み出しが行われた後に、酸素濃度検知セルの出力電圧が変化するまでにはタイムラグが生じる場合がある。これは、ガス検出室において、酸素ポンプセルと酸素濃度検知セルとの間を酸素分子が移動するのに時間がかかるためである。
【0069】
こうしたタイムラグが生じると、酸素濃度検知セルの電圧が目標値に到達する前に、再び、酸素ポンプセルのポンプ電流が、その目標値に到達する前の酸素濃度検知セルの電圧に基づいて変化してしまうことになる。従って、タイムラグが過度に大きくなった場合には、酸素濃度検知セルの出力電圧が収束せず、制御回路に発振が生じてしまう。
【0070】
これに対して、本実施形態のガスセンサ100では、酸素ポンプセル135と酸素濃度検知セル150との間にリーク部148を設けられている。このリーク部148によって、それら2つのセル135,150が電気的に導通し、そうしたタイムラグの発生が抑制される。具体的には、以下の通りである。
【0071】
ここで、ガス検出室145cにおける排ガスの空燃比が理論空燃比よりも低い状態を想定する。このときには、酸素ポンプセル135によってガス検出室145cに酸素が汲み入れられる。しかし、酸素濃度検知セル150の電極152は、汲み入れられた酸素が電極152に到達するまでの間は、酸素濃度が低いままである。
【0072】
しかし、本実施形態のガスセンサ100では、ポンプ電流Ipが変化したときに、酸素ポンプセル135の外側の電極137と酸素濃度検知セル150のガス検出室145c側の電極152との間において、リーク部148を介して、電気的なやりとりが行われる。即ち、ポンプ電流Ipが変化したときに、そのポンプ電流Ipの一部が、リーク部148を介して、酸素濃度検知セル150へと流れ(リークし)、酸素濃度検知セル150の出力電圧Vsが、目標値に近づくように変化する。
【0073】
このように、本実施形態のガスセンサ100では、酸素ポンプセル135における電気的な変化が、リーク部148を介して、酸素濃度検知セル150に伝達され、酸素濃度検知セル150における酸素濃度の変化の遅れが補償される。これによって、酸素ポンプセル135のポンプ電流Ipが変化したときに、酸素濃度検知セル150の出力電圧が目標値にリニアに到達することが促進され、上述したタイムラグの発生が抑制される。これは、ガス検出室145cにおける排ガスの空燃比が理論空燃比よりも高く、酸素ポンプセル135によってガス検出室145cから酸素が汲みだされる場合も同様である。
【0074】
図8は、リーク部148のパターンA〜D(
図6)に関する発振特性の実験結果を示す説明図である。本発明の発明者は、実施例として、本実施形態のガスセンサ100についての性能評価を以下のように行った。本発明の発明者は、酸素濃度検知セル150に、所定の範囲の電圧変化を外乱として周期的に与えた。そして、外乱によって変化したポンプ電流ΔIpに対する、外乱によって変化した酸素濃度検知セル150の出力電圧ΔVsの割合をセンサ利得として計測し、ポンプ電流ΔIpの位相に対する出力電圧ΔVsの位相のずれをセンサ位相として計測した。さらに、制御回路200に入力される出力電圧ΔVsに対して制御回路200から出力されるポンプ電流ΔIpの割合を制御回路利得として計測し、制御回路200に入力される出力電圧ΔVsに対する制御回路200から出力されるポンプ電流ΔIpの位相のずれを制御回路位相として計測した。そして、センサ利得と制御回路利得との合計を一巡伝達利得とし、センサ位相と制御回路位相との合計を一巡伝達位相とした。
【0075】
図8の横軸は一巡伝達利得(dB)、縦軸は一巡伝達位相(deg)である。このグラフには、リーク部148のパターンA〜D(
図6)に関する発振特性の他に、比較例の発振特性もプロットしている。比較例として使用したガスセンサは、リーク部を備えていないものである。また、比較例の発振特性として、制御回路200内に発振抑制用のRC回路を設けた場合の発振特性と、RC回路とを設けない場合の発振特性とをプロットしている。なお、リーク部148のパターンA〜D(
図6)では、制御回路200内に発振抑制用のRC回路を設けていない。
【0076】
図9は、比較例のガスセンサ100aに接続される制御回路200aの構成の一例を示す概略図である。
図9は、リーク部148が無く、また、発振抑制用のハイパスフィルタ240が設けられている点以外は、
図7とほぼ同じである。制御回路200aは、ガスセンサ100aに対して、本実施形態のガスセンサ100に用いられる制御回路200と同様なフィードバック制御を行う。そして、その際に、自身が備えるハイパスフィルタ240によって、発振の発生を抑制する。
【0077】
ハイパスフィルタ240は、互いに直列に接続された抵抗241とコンデンサ242とを備えるRC回路である。ハイパスフィルタ240は、抵抗241側がVs電極パッド127に接続され、コンデンサ242側がIp電極パッド125に接続されている。このハイパスフィルタ240は、酸素ポンプセル135におけるポンプ電流の流れの向きが変わったときに、所定量の電流だけを通す。制御回路200aは、このハイパスフィルタ240に流れる所定量の電流によって、酸素ポンプセル135のポンプ電流の変化に対する酸素濃度検知セル150の電圧変化の遅延を改善することができる。従って、制御回路200aにおいて発振が生じてしまうことが抑制される。
【0078】
図8のグラフにおいて、一巡伝達利得が0dB以上の範囲で一巡伝達位相が−160°以下の領域(図中の「リスク領域」)では発振のリスクがあり、また、一巡伝達利得が0dB以上の範囲で一巡伝達位相が−180°以下の領域(図中の「発振領域」)に入ると発振の可能性がかなり高いことが経験的に解っている。従って、発振特性としては、
図8のグラフにおいて、これらの領域よりも上に存在することが好ましい。
【0079】
リーク部を備えていない比較例において、発振抑制用のRC回路を設けない場合には、その発振特性がリスク領域に近く、制御回路200が発振してしまう可能性がある。但し、比較例においても、発振抑制用のRC回路を設ければ、その発振特性がリスク領域からかなり上方にシフトするので、制御回路200が発振する可能性を低減できる。
【0080】
一方、リーク部148のパターンA〜D(
図6)の発振特性は、いずれもリスク領域からかなり上方にあるので、制御回路200が発振する可能性が十分に低くなっていることが理解できる。4つのパターンA〜Dの中でも、特に、パターンDが最も優れており、パターンAが最も劣っている。
図5(D)に即して説明したように、パターンDは、第2のリーク部148dが、2つの固体電解質体136,151の後端よりもさらに後端側に延びているパターンである。従って、発振の抑制という観点からは、リーク部148が、2つの固体電解質136,151の後端よりも後端側まで延びるように設けられていることが好ましい。
【0081】
このように本実施形態では、ガス検出室145cの壁面の一部を形成する位置にリーク部148が設けられているので、制御回路200の発振を十分に抑制することが可能である。
【0082】
なお、従来は、リーク部148が排ガスに曝されると、リーク部148の外表面に排ガス中の水分が付着してリーク部148にクラックが生じてしまう問題や、リーク部148の外表面にカーボンが付着してブラックニング(黒化現象)が発生してしまう問題などが懸念されていた。このため、リーク部148は、排ガスが導入されるガス検出室145cにも露出しないことが好ましいと考えられていた。しかし、発明者らの実験によれば、リーク部148を、ガス検出室145cに露出した位置(すなわち、ガス検出室145cの壁面を構成する位置)に設けた場合にも、排ガス中の水分やカーボンは、多孔質のアルミナで形成されている拡散律速部146によってほとんど阻止されるので、実用上の問題とはならないことが判明した。但し、リーク部148の外周表面全体は、スペーサ145によって被覆されていることが好ましい。また、本実施形態のように、リーク部148をガス検出室145cの壁面を構成する位置に設けるようにすれば、リーク部148をガス検出室145cの壁面から離れた位置に設ける場合に比べて、2つの固体電解質136,151の間をより電気抵抗が小さな状態(より短絡に近い状態)で接続することができるので、発振抑制効果を更に高められることが期待できる。
【0083】
変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。例えば、リーク部148の形成位置や大きさは、上記実施形態や構成例において説明した位置に限定されるものではない。リーク部148は、酸素ポンプセル135と酸素濃度検知セル150とを互いに接続して、電気的に導通できる位置に形成されていれば良い。
【0084】
変形例1:
上記実施形態のガスセンサ100では、リーク部148は、ガスセンサ素子120を積層方向に沿って見たときに、ヒータ素子160の発熱抵抗体163と重なり合う領域に設けられていた。しかし、リーク部148は、当該領域の外側に設けられるものとしても良い。ただし、リーク部148が、そうした領域に設けられることにより、リーク部148の温度制御を適切に行うことができるため好ましい。なお、リーク部148は、発熱抵抗体163によって加熱可能な、発熱抵抗体163の近傍領域に設けられるものとしても良い。
【0085】
変形例2:
上記実施形態において、制御回路200は、PID素子210とオペアンプ211とを組み合わせて構成されていた。しかし、制御回路200は他の構成を有するものとしても良い。
【0086】
変形例3:
上記実施形態において、酸素ポンプセル135及び酸素濃度検知セル150は、第1固体電解質体136または第2固体電解質体151のそれぞれの両面に、一対の電極137,138,152,153が配置されていた。しかし、酸素ポンプセル135及び酸素濃度検知セル150は、第1固体電解質体136または第2固体電解質体151のそれぞれの片面に、一対の電極137,138,152,153が配置されるものとしても良い。さらに、上記実施形態において、酸素ポンプセル135の一対の電極137,138と、酸素濃度検知セル150の一対の電極152,153とは、ガスセンサ素子120の長手方向(軸線AXに沿った方向)において、略同位置に配置されていた。しかし、酸素ポンプセル135の一対の電極137,138と、酸素濃度検知セル150の一対の電極152,153とは、長手方向にずれて配置されるものとしても良い。
【0087】
変形例4:
上記実施形態では、ガスセンサ100は、酸素イオンを伝導可能な固体電解質体136,151を用いることにより、測定対象ガス中の酸素ガスの濃度を検出していた。しかし、ガスセンサ100は、酸素以外のガスの濃度を検出するものとしても良い。