特許第6203658号(P6203658)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6203658
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】排気ガス浄化システム
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/14 20060101AFI20170914BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20170914BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20170914BHJP
   F01N 3/025 20060101ALI20170914BHJP
   F01N 3/023 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   F02D41/14 330A
   F02D41/04 380M
   F02D45/00 360C
   F02D45/00 314R
   F01N3/025 101
   F01N3/023 A
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-28427(P2014-28427)
(22)【出願日】2014年2月18日
(65)【公開番号】特開2015-151974(P2015-151974A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2016年3月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】宮田 洋佑
(72)【発明者】
【氏名】白水 利樹
(72)【発明者】
【氏名】遊木 龍
【審査官】 神山 貴行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−048663(JP,A)
【文献】 特開平01−253527(JP,A)
【文献】 特開2012−229702(JP,A)
【文献】 特開2012−087705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00 〜45/00
F01N 3/021〜 3/035
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料噴射装置を備えたエンジンの排気経路に配置され、酸化触媒及び当該酸化触媒の排気下流側に配置されたフィルタを備えた排気ガス浄化装置と、
前記酸化触媒と前記フィルタの間の温度である酸化触媒出口温度を検出するフィルタ温度センサと、
前記酸化触媒出口温度を上昇させて前記排気ガス浄化装置に堆積した粒子状物質を焼却する再生制御を行う制御部と、
を備え、
前記再生制御には、リカバリ再生制御が含まれ、
前記リカバリ再生制御は、リカバリ第1再生制御と、前記リカバリ第1再生制御よりも高温かつ短時間実施されるリカバリ第2再生制御と、を含み、
前記制御部は、前記リカバリ第1再生制御から前記リカバリ第2再生制御に移行させるときに酸化触媒出口温度を上昇させて再生制御を行う場合、前記フィルタ温度センサが検出した前記酸化触媒出口温度に基づいて温度上昇率を算出し、前記酸化触媒出口温度を上昇させる制御をオープンループ制御からフィードバック制御に切り替えるための前記酸化触媒出口温度である切替温度又は切替時間を前記温度上昇率に応じて決定し、
前記制御部は、前記切替温度又は前記切替時間を決定するための前記温度上昇率を算出する処理を、前記酸化触媒出口温度が、第1リカバリ再生制御の温度と、第2リカバリ再生制御の温度と、の中間の温度に達するまでに行うことを特徴とする排気ガス浄化システム。
【請求項2】
請求項1に記載の排気ガス浄化システムであって、
前記制御部は、前記温度上昇率が高いほど、オープンループ制御からフィードバック制御に切り替えるタイミングを遅くすることを特徴とする排気ガス浄化システム。
【請求項3】
請求項2に記載の排気ガス浄化システムであって、
前記制御部は、前記温度上昇率に基づいて、制御を切り替える温度である切替温度を算出し、酸化触媒出口温度が当該切替温度に達したときに、オープンループ制御からフィードバック制御に切り替え、
前記温度上昇率と前記切替温度が比例関係にあることを特徴とする排気ガス浄化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの排気ガスを浄化する排気ガス浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すように、ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置(DPFユニット)として、酸化触媒とフィルタとを備える構成が知られている。酸化触媒は、排気ガスに含まれる未燃燃料、一酸化炭素、一酸化窒素等を酸化する。フィルタは、酸化触媒の排気下流側に配置されており、排気ガスに含まれるPM(粒子状物質)を捕集する。フィルタに堆積したPMは、O2又はNO2によって燃焼させることにより除去できる。
【0003】
また、従来から酸化触媒とフィルタとを別個に配置する構成以外にも、特許文献2に示すようにフィルタに酸化触媒を担持させる排気ガス浄化装置が知られている。この排気ガス浄化装置では、酸化触媒とフィルタとの間の温度を計測することができない。従って、温度制御を行う場合は、フィルタの下流側の温度を用いる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−122182号公報
【特許文献2】特開2007−92662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、排気ガス浄化装置は、フィルタの再生制御を行う場合、ポスト噴射の噴射量を増大させる等してDPF内の温度を上昇させてすすを燃焼させる。
【0006】
特許文献1のように、酸化触媒とフィルタとが別体の場合、酸化触媒とフィルタの間の温度を検出することができる。従って、この種の排気ガス浄化装置では、フィードバック制御を用いてポスト噴射の噴射量を制御することで、目標値まで温度を上昇させることができる。
【0007】
しかし、この場合であって温度上昇率が高いときは、目標温度と現在の温度との差が大きい場合にフィードバック制御を行うためポスト噴射の噴射量が増大し、オーバーシュートが発生し易くなる(図9の鎖線を参照)。一方、温度上昇率が低いときは、オーバーシュートは発生しにくいが、目標温度に到達するまでの時間が長くなってしまう(図10の鎖線を参照)。
【0008】
なお、特許文献2の構成では、酸化触媒とフィルタの間の温度を検出することができない。仮にフィルタ下流の温度を用いてフィードバック制御を行った場合、応答性が悪いので適切な制御ができず、例えばフィルタの温度が上がりすぎてしまうことがある。従って、特許文献2の構成では、温度に基づくフィードバック制御を適切に行うことができない。
【0009】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、酸化触媒とフィルタとが別体の排気ガス浄化装置を備え、排気ガス浄化装置の温度を素早くかつオーバーシュートを防止しつつ上昇させる排気ガス浄化システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0011】
本発明の観点によれば、以下の構成の排気ガス浄化システムが提供される。即ち、この排気ガス浄化システムは、排気ガス浄化装置と、フィルタ温度センサと、制御部と、を備える。前記排気ガス浄化装置は、燃料噴射装置を備えたエンジンの排気経路に配置され、酸化触媒及び当該酸化触媒の排気下流側に配置されたフィルタを備える。前記フィルタ温度センサは、前記酸化触媒と前記フィルタの間の温度である酸化触媒出口温度を検出する。前記制御部は、前記酸化触媒出口温度を上昇させて前記排気ガス浄化装置に堆積した粒子状物質を焼却する再生制御を行う。前記再生制御には、リカバリ再生制御が含まれ、前記リカバリ再生制御は、リカバリ第1再生制御と、前記リカバリ第1再生制御よりも高温かつ短時間実施されるリカバリ第2再生制御と、を含む。前記制御部は、前記リカバリ第1再生制御から前記リカバリ第2再生制御に移行させるときに酸化触媒出口温度を上昇させて再生制御を行う場合、前記フィルタ温度センサが検出した前記酸化触媒出口温度に基づいて温度上昇率を算出し、前記酸化触媒出口温度を上昇させる制御をオープンループ制御からフィードバック制御に切り替えるための前記酸化触媒出口温度である切替温度又は切替時間を前記温度上昇率に応じて決定する前記制御部は、前記切替温度又は前記切替時間を決定するための前記温度上昇率を算出する処理を、前記酸化触媒出口温度が、第1リカバリ再生制御の温度と、第2リカバリ再生制御の温度と、の中間の温度に達するまでに行う。
【0012】
一般的に、フィードバック制御のみで温度制御を行う場合、偏差の減少速度とオーバーシュートの防止を同時に両立させるためには、制御係数等を途中で変化させる等の複雑な制御が必要となる。この点、本発明の制御を行うことで、簡単な制御で、例えば温度上昇率が高い場合のオーバーシュートの発生を防止できるとともに、温度上昇率が低い場合であっても目標温度に素早く到達させることができる。また、リカバリ第1再生制御からリカバリ第2再生制御への移行時は、素早くかつオーバーシュートが生じないように温度制御を行うことが好ましいので、本発明の制御の効果をより有効に発揮させることができる。
【0013】
前記の排気ガス浄化システムにおいては、前記制御部は、前記温度上昇率が高いほど、オープンループ制御からフィードバック制御に切り替えるタイミングを遅くすることが好ましい。
【0014】
これにより、温度上昇率が高い場合にオーバーシュートが発生することを防止しつつ、温度上昇率が低い場合に目標温度への到達時間を短くすることができる。
【0015】
前記の排気ガス浄化システムにおいては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記制御部は、前記温度上昇率に基づいて、制御を切り替える温度である切替温度を算出し、酸化触媒出口温度が当該切替温度に達したときに、オープンループ制御からフィードバック制御に切り替える。前記温度上昇率と前記切替温度が比例関係にある。
【0016】
これにより、温度を用いて制御を切り替えるか否かを判定することで、例えば時間を用いる場合と比較して、より的確なタイミングで制御を切り替えることができる。また、温度上昇率と切替温度とが比例関係にあることで、適切な切替温度を簡単な処理で算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】エンジンの概略平面図。
図2】気体の流れ及び各種センサを模式的に示す説明図。
図3】燃料噴射の名称とタイミングを模式的に示す説明図。
図4】再生制御の種類と特性を説明する表。
図5】ステーショナリ再生制御からリカバリ制御を行う際の処理を示すフローチャート。
図6】第1リカバリ再生制御から第2リカバリ再生制御へ移行するときの温度制御を示すフローチャート。
図7】DOC出口温度の変化と温度上昇率を示すグラフ。
図8】切替温度と温度上昇率の対応関係を示すグラフ。
図9】温度上昇率が高い場合における、従来例と本実施形態のDOC出口温度の変化及びポスト噴射量の変化を示すグラフ。
図10】温度上昇率が低い場合における、従来例と本実施形態のDOC出口温度の変化及びポスト噴射量の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。エンジン100は、ディーゼルエンジンであり、作業機及び船舶等に搭載される。
【0021】
図1に示すように、エンジン100は、吸気系の部材として、吸入管20と、過給機21と、過給管24と、吸気スロットル25と、吸気マニホールド26と、ブリーザーホース27と、を備える。
【0022】
吸入管20は、外部から気体を吸入する。吸入管20は、気体中の塵等を取り除くフィルタを備える。
【0023】
過給機21は、タービンハウジング22と、コンプレッサーハウジング23と、を備える。タービンハウジング22内の図略のタービンホイールは、排気ガスを利用して回転するように構成されている。コンプレッサーハウジング23内の図略のコンプレッサホイールは、タービンホイールと同じシャフト21a(図2)に接続されており、タービンホイールの回転に伴って回転する。過給機21は、コンプレッサホイールが回転することにより、空気を圧縮して強制的に吸気を行うことができる。
【0024】
過給管24は、過給機21によって吸入された気体が流れる。過給管24の一側は過給機21に接続されており、過給管24の他側は吸気スロットル25に接続されている。
【0025】
吸気スロットル25は、吸気バルブを備えている。吸気スロットル25は、吸気バルブの開度を調整することで、シリンダに供給される気体の量を変化させることができる。吸気スロットル25を通過した気体は、吸気マニホールド26へ送られる。吸気バルブの開度は、図2に示すECU(エンジン制御部、制御部)50によって制御される。
【0026】
吸気マニホールド26は、吸気スロットル25から供給された気体をシリンダ数に応じた数(本実施形態では4つ)に分けてシリンダヘッド10へ供給する。シリンダヘッド10には、シリンダヘッドカバー11及びインジェクタ(燃料噴射装置)12が配置されている。
【0027】
インジェクタ12は、所定のタイミングで燃焼室に燃料を噴射する。具体的には、インジェクタ12は、図3に示すように上死点(TDC)の近傍でメイン噴射を行うように構成されている。また、インジェクタ12は、このメイン噴射の直前に騒音低減のためのプレ噴射を行ったり、プレ噴射の更に前のタイミングでNOx低減及び騒音低減のためのパイロット噴射を行ったりすることができる。また、インジェクタ12は、メイン噴射の直後にPMの低減及び排気ガスの浄化促進を目的としたアフター噴射を行ったり、アフター噴射の更に後のタイミングで温度上昇等を目的としたポスト噴射を行ったりすることができる。
【0028】
このように燃料を噴射してピストンを駆動させることで、動力を発生させることができる。燃焼室では、ブローバイガス及び排気ガス等が発生する。
【0029】
ブリーザーホース27は、燃焼室で発生したブローバイガスを吸入管20に供給する。これにより、未燃焼ガスが外部に排出されることを防止できる。
【0030】
また、吸気マニホールド26には、図2に示すように、吸気圧力センサ51と、吸気温度センサ52と、が取り付けられている。
【0031】
吸気圧力センサ51は、吸気マニホールド26内の気体の圧力を検出してECU50へ出力する。ECU50は、入力された圧力を吸気圧と認識する。吸気温度センサ52は、吸気マニホールド26内の気体の温度を検出してECU50へ出力する。なお、吸気圧力センサ51及び吸気温度センサ52は、吸気マニホールド26ではなく、それより上流の管等に配置されていても良い。
【0032】
エンジン100は、排気系の部材として、排気マニホールド30と、排気管31と、排気ガス浄化装置32と、を備える。このように、排気ガス浄化装置32を備えたエンジン100を特に排気ガス浄化システムと称する。なお、排気ガス浄化装置32は、エンジン100と少し離れた位置に配置されていても良い。
【0033】
排気マニホールド30は、複数の燃焼室で発生した排気ガスをまとめて過給機21のタービンハウジング22へ供給する。また、排気マニホールド30には、排気圧力センサ53と、排気温度センサ54と、が取り付けられている。
【0034】
排気圧力センサ53は、排気マニホールド30内の気体の圧力を検出してECU50へ出力する。ECU50は、入力された圧力を排気圧と認識する。排気温度センサ54は、排気マニホールド30内の気体の温度を検出してECU50へ出力する。
【0035】
排気マニホールド30及びタービンハウジング22を通過した気体は、一部がEGR管41を介してEGR装置40へ供給されるとともに、残りが排気管31を介して排気ガス浄化装置32へ供給される。
【0036】
また、エンジン100は、吸気系及び排気系の部材としてEGR装置40を備える。
【0037】
EGR装置40は、EGRクーラ42と、EGRバルブ43と、を備えている。EGRクーラ42は、排気ガスを冷却する。EGR装置40は、EGRバルブ43の開度を調整することで、吸気マニホールド26に供給される排気ガスの量を変化させることができる。EGRバルブ43の開度は、ECU50によって制御される。ECU50は、例えば吸気圧と排気圧の差圧に基づいてEGRバルブ43の開度を調整する。
【0038】
排気ガス浄化装置32は、排気ガスを浄化して排出する。排気ガス浄化装置32は、酸化触媒33と、フィルタ34と、を備える。酸化触媒33は、白金等で構成されており、排気ガスに含まれる未燃燃料、一酸化炭素、一酸化窒素等を酸化(燃焼)するための触媒である。フィルタ34は、例えばウォールフロー型のフィルタとして構成されており、酸化触媒33で処理された排気ガスに含まれるPM(粒子状物質)を捕集する。
【0039】
また、排気ガス浄化装置32には、酸化触媒温度センサ55と、フィルタ温度センサ56と、差圧センサ57と、が取り付けられている。酸化触媒温度センサ55は、排気ガス浄化装置32の入口近傍(酸化触媒33の排気上流側)の温度を検出する。フィルタ温度センサ56は、酸化触媒33及びフィルタ34の間(フィルタ34の排気上流側)の温度を検出する。
【0040】
差圧センサ57は、フィルタ34の上流側(酸化触媒33の排気下流側)と、フィルタ34の下流側の圧力差を検出してECU50へ出力する。ECU50は、差圧センサ57の検出結果に基づいてフィルタ34に堆積したPM堆積量を算出する。なお、PM堆積量の算出方法としては、差圧を用いる以外にも、エンジン100の動作履歴等に基づいて排気ガス浄化装置32で起こる酸化反応を算出し、それに基づいてPM堆積量を求めることもできる。
【0041】
また、エンジン100は、大気圧センサ58(図2)を備えている。大気圧センサ58は、大気圧を検出してECU50へ出力する。
【0042】
次に、排気ガス浄化装置32のフィルタ34に堆積したPMを除去する制御(以下、再生制御)について図4を参照して説明する。本実施形態では、アシスト再生制御、リセット再生制御、ステーショナリ再生制御、及びリカバリ再生制御の少なくとも4種類の再生制御を行うことができる。
【0043】
アシスト再生制御は、PM堆積量が所定以上となったタイミングで行われる。アシスト再生制御は、排気ガス浄化装置32内が比較的低温(300度から400度程度)となるように行われる。この温度の場合、酸化触媒33でNO2が発生し、このNO2によってPMが酸化除去される。アシスト再生制御では、吸気スロットル25を利用するとともに、アフター噴射も行うが、ポスト噴射は行わない。なお、アシスト再生制御は、エンジンを使った作業中に行われる。
【0044】
リセット再生制御は、所定時間(例えば数十時間から百数時間)毎に行われる。また、リセット再生制御は、アシスト再生制御を一定時間行ってもPM堆積量が所定以上残っている場合にも行われる。リセット再生制御は、排気ガス浄化装置32内が比較的高温(500度から700度程度)となるように行われる。この温度の場合、酸化触媒33でNO2は発生せず、O2によってPMが酸化除去される。リセット再生制御では、吸気スロットル25を利用するとともに、アフター噴射及びポスト噴射を行う。ポスト噴射を行うことにより温度を上昇させることができる。なお、リセット再生制御は、エンジンを使った作業中に行われる。
【0045】
ステーショナリ再生制御は、リセット再生制御を一定時間行ってもPM堆積量が所定以上残っている場合に行われる。ステーショナリ再生制御は、リセット再生制御と同様に比較的高温(500度から700度程度)で行われる。また、ステーショナリ再生制御でも、吸気スロットル25を利用するとともに、アフター噴射及びポスト噴射を行う。リセット再生制御とステーショナリ再生制御との違いは、リセット再生制御がエンジンを使った作業中に行われるのに対し、ステーショナリ再生制御は非作業中に行われることである。更に、ステーショナリ再生制御では、エンジン回転数を所定の高速回転速度に維持する。これにより、ステーショナリ再生制御では、リセット再生制御よりも好条件でPMを除去することができる。
【0046】
リカバリ再生制御は、ステーショナリ再生制御を一定時間行ってもPM堆積量が所定以上残っている場合に行われる。図4に示すように、リカバリ再生制御は、再生種別、制御対象及び作業可否の項目において、ステーショナリ再生制御と同一である。リカバリ再生制御は、第1リカバリ再生制御と第2リカバリ再生制御の2段階で構成される。
【0047】
以下、リカバリ再生制御の移行時から終了までについて図5のフローチャートを参照して説明する。ステーショナリ再生制御では、ポスト噴射量を多くすることで高温の環境で再生制御を行う(S11)。ECU50は、ステーショナリ再生制御の開始から所定時間(例えば数十分程度)経過後に、PM堆積量がM1以上か否か判断する(S12)。
【0048】
ECU50は、PM堆積量がM1以上であった場合、ステーショナリ再生制御によってPMが十分に除去されていないと判断し、リカバリ再生制御を行う。初めに、ECU50は、リカバリ第1再生制御を行う(S13)。リカバリ第1再生制御は、ポスト噴射量を抑えることでステーショナリ再生制御よりも排気ガス浄化装置32内の温度(より詳細には酸化触媒33とフィルタ34の間の温度)が低温で行われ、ステーショナリ再生制御よりも長時間(数時間程度)行われる。このように比較的低温で長時間掛ける処理がリカバリ再生制御の特徴であり、これにより、暴走燃焼のおそれがなくなった状態で、第2リカバリ再生制御を行うことができる。ECU50は、リカバリ第1再生制御の開始後所定時間(即ち数時間程度)経過後に、PM堆積量がM2以上か否か判断する(S14)。
【0049】
ECU50は、PM堆積量がM2以上であった場合、第1リカバリ再生制御によってPMが十分に除去されていないと判断し、第2リカバリ再生制御を行う(S15)。第2リカバリ再生制御は、ステーショナリ再生制御と同等の処理である。そのため、ECU50は、ポスト噴射量を増加させて排気ガス浄化装置32内の温度を上昇させる。この処理を数十分程度継続することで第2リカバリ再生制御が終了し、PMが除去される。
【0050】
次に、第1リカバリ再生制御から第2リカバリ再生制御に移行する際に、排気ガス浄化装置32内の温度を上昇させる処理について図6のフローチャート及び図7以降の各種グラフを参照して説明する。図6に示すフローチャートは、図5に示すフローチャートのリカバリ第2再生制御(S15)の開始時に行われる処理を示したものである。
【0051】
ECU50は、リカバリ第1再生制御からリカバリ第2再生制御に移行する場合、ポスト噴射量のオープンループ制御を開始する(S151)。オープンループ制御なので、目標温度とは関係なく予め定められた噴射量でポスト噴射を行う(図9(b)及び図10(b)のオープンループ制御の表示を参照)。
【0052】
ECU50は、フィルタ温度センサ56が検出した温度(以下、DOC出口温度)を記憶している。図7には、このDOC出口温度の時間変化を示すグラフが示されている。ECU50は、所定のタイミングで、DOC出口温度の温度上昇率を算出する(S152)。温度上昇率を算出するタイミングは任意であるが、温度上昇率に応じてオープンループ制御からフィードバック制御へ切り替えるタイミングを決定するため、比較的早期であることが好ましい。例えば、第1リカバリ再生制御の温度と、第2リカバリ再生制御の温度と、の中間の温度に達するまでに温度変化率を算出することが好ましい。なお、本実施形態のようにオープンループ制御でポスト噴射量を変化させた場合、温度変化が略線形になることが経験的に知られているため、温度上昇率はどのタイミングで算出しても大差ない。温度上昇率は、例えば酸化触媒33の劣化具合等によって異なる。
【0053】
次に、ECU50は、算出した温度上昇率に基づいて、オープンループ制御からフィードバック制御に切り替える温度(以下、切替温度)を算出する(S153)。切替温度は、切替温度と温度上昇率の対応関係を示すマップ又はテーブル等に基づいて算出される。図8(a)には、本実施形態における切替温度と温度上昇率の対応関係を示すグラフが示されている。
【0054】
図8(a)に示すように、基本的には、温度上昇率が高くなるに従って切替温度を高くする。なお、切替温度を目標温度以下にする必要があるため、切替温度には上限が設けられている。なお、図8(a)では、切替温度と温度上昇率とが比例関係にあるが、比例関係でなくても良い。
【0055】
次に、ECU50は、DOC出口温度が切替温度以上か否かを判定する(S154)。そして、DOC出口温度が切替温度以上と判定した場合、オープンループ制御からフィードバック制御に切り替える(S155、制御切替処理)。フィードバック制御では、目標のDOC出口温度と現在のDOC出口温度に基づいて、ポスト噴射量を決定する。そのため、例えば目標温度と現在の温度の差が大きい場合、ポスト噴射量が増大する。
【0056】
次に、図9のグラフ参照して、温度上昇率が高い場合の本実施形態と従来例の温度変化及びポスト噴射量の変化を説明する。ここで、従来例は、オープンループ制御からフィードバック制御へ切り替える切替温度が一定とした例である。温度上昇率が高い場合は本実施形態の切替温度が高くなるので、本実施形態よりも先に従来例がフィードバック制御に切り替わる。
【0057】
従来例では、目標温度との温度差が大きい状態でフィードバック制御に切り替わるので、フィードバック制御では非常に多い噴射量のポスト噴射が行われる(図9(b)の鎖線)。これにより、DOC出口温度も急激に上昇するため、目標温度を大きく超えてしまうオーバーシュートが発生する(図9(a)の鎖線)。
【0058】
これに対し本実施形態では、温度上昇率が高いため切替温度が高くなる。従って、目標温度との温度差が比較的小さい状態でフィードバック制御に切り替わるので、従来例より少ない噴射量でポスト噴射が行われる(図9(b)の実線)。これにより、DOC出口温度の急激な上昇を防止し、オーバーシュートを防止することができる(図9(a)の実線)。
【0059】
次に、図10のグラフ参照して、温度上昇率が低い場合の本実施形態と従来例の温度変化及びポスト噴射量の変化を説明する。温度上昇率が低い場合は本実施形態の切替温度が低くなるので、従来例よりも先に本実施形態がフィードバック制御に切り替わる。
【0060】
温度上昇率が低い場合、オープンループ制御で定められたポスト噴射量では、DOC出口温度が上昇するために多くの時間が掛かる。従来例では切替温度が本実施形態より高いので、オープンループ制御を行う時間が長くなり、結果として、DOC出口温度が目標温度に達するまでに長い時間が掛かる(図10(a)及び図10(b)の鎖線)。
【0061】
これに対し、本実施形態では従来例よりも切替温度が低いので、オープンループ制御を行う時間が短く済む。従って、早めにフィードバック制御を行うことができる。その結果、DOC出口温度が目標温度に達するまでの時間を従来例よりも短縮できる(図10(a)及び図10(b)の実線)。
【0062】
なお、従来例における切替温度を高くすることで、温度上昇率が高い場合のオーバーシュートを防止できるが、温度上昇率が低い場合の目標温度に達するまでの時間が一層遅くなる。また、従来例における切替温度を低くすることで、温度上昇率が低い場合の目標温度に達するまでの時間を短くすることができるが、温度上昇率が高い場合のオーバーシュートが顕著になる。このように、従来例における方法では、トレードオフが生じてしまう。
【0063】
この点、本実施形態のように温度上昇率に応じて切替温度を変化させることで、オーバーシュートの抑制、及び、目標温度に達するまでの時間の短縮という両方の効果を実現できる。
【0064】
なお、オープンループ制御を行わずにフィードバック制御のみでDOC温度を上昇させることも不可能ではない。しかし、一般的にフィードバック制御において安定性と速応性とがトレードオフの関係にあると言われるように、フィードバック制御の精度を向上させるだけでは、本願の課題を解決することは困難であり、実現できたとしても制御係数等を途中で変化させる等の複雑な制御が必要となる。
【0065】
以上に説明したように、本実施形態の排気ガス浄化システムは、排気ガス浄化装置32と、フィルタ温度センサ56と、ECU50と、を備える。排気ガス浄化装置32は、インジェクタ12を備えたエンジン100の排気経路に配置され、酸化触媒33及びフィルタ34を備える。フィルタ温度センサ56は、酸化触媒33とフィルタ温度センサ56の間の温度であるDOC出口温度を検出する。ECU50は、DOC出口温度を上昇させて排気ガス浄化装置32に堆積したPMを焼却する再生制御を行う。ECU50は、DOC出口温度を上昇させて再生制御を行う場合、DOC出口温度に基づいて温度上昇率を算出し、当該温度上昇率に基づいて、DOC出口温度を上昇させる制御を、オープンループ制御からフィードバック制御に切り替える制御切替処理を行う。
【0066】
これにより、簡単な制御で、温度上昇率が高い場合のオーバーシュートの発生を防止できるとともに、温度上昇率が低い場合であっても目標温度に素早く到達させることができる。
【0067】
また、本実施形態の排気ガス浄化システムにおいて、ECU50は、温度上昇率に基づいて、切替温度を算出し、DOC出口温度が当該切替温度に達したときに、オープンループ制御からフィードバック制御に切り替える。また、温度上昇率と切替温度が比例関係にある。
【0068】
これにより、温度を用いて制御を切り替えるか否かを判定することで、例えば時間を用いる場合と比較して、より的確なタイミングで制御を切り替えることができる。また、温度上昇率と切替温度とが比例関係にあることで、適切な切替温度を簡単な処理で算出することができる。
【0069】
また、本実施形態の排気ガス浄化システムにおいて、リカバリ再生制御は、リカバリ第1再生制御と、リカバリ第1再生制御よりも高温かつ短時間実施されるリカバリ第2再生制御と、を含む。ECU50は、リカバリ第1再生制御からリカバリ第2再生制御に移行させるときに、制御切替処理を行う。
【0070】
これにより、リカバリ第1再生制御からリカバリ第2再生制御への移行時は、素早くかつオーバーシュートが生じないように温度制御を行うので、本発明の制御の効果をより有効に発揮させることができる。
【0071】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0072】
上記実施形態では、リカバリ第1再生制御からリカバリ第2再生制御へ移行する際の温度上昇時に本発明の制御を適用する例を説明したが、その他の温度上昇時に本発明の制御を適用することもできる。例えば、リセット再生又はステーショナリ再生の開始時に本発明の制御を適用することができる。
【0073】
上記実施形態では、ポスト噴射の噴射量を変化させて排気ガス浄化装置32の温度を上昇させたが、他の処理(アフター噴射の噴射量及び吸気スロットル25の開度を変更する処理等)を行って排気ガス浄化装置32の温度を上昇させても良い。
【0074】
切替温度と温度上昇率の対応関係は、上記で説明した例に限られず、適宜変更することができる。例えば、図8(b)に示すように、切替温度を段階的に変化させても良い。
【0075】
上記実施形態では、DOC出口温度が切替温度以上になったタイミングで制御を切り替えるが、DOC出口温度の代わりに例えば時間を用いても良い。つまり、ECU50がDOC出口温度の温度上昇率に基づいて切替時間を算出し、当該切替時間に達したタイミングでオープンループ制御からフィードバック制御に切り替える。
【0076】
また、エンジン100の構成及びECU50が行う処理は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。例えば、自然吸気式のエンジンにも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0077】
12 インジェクタ(燃料噴射装置)
21 過給機
26 吸気マニホールド
30 排気マニホールド
32 排気ガス浄化装置
33 酸化触媒
34 フィルタ
50 ECU(制御部)
56 フィルタ温度センサ
100 エンジン
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8
図9
図10