(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0012】
(無灰炭の製造装置の構成)
本発明の実施形態による無灰炭の製造装置100は、模式図である
図1に示すように、製造工程の上流側から順に、溶剤タンク2、移送ポンプ4、予熱器5、抽出槽6、重力沈降槽(分離装置)7、および、溶剤分離器8・9を備えている。溶剤タンク2と予熱器5とは溶剤移送管10によって接続されている。また、予熱器5と抽出槽6とは溶剤供給管11によって接続されている。また、無灰炭の製造装置100は、抽出槽6の上流側に、溶剤移送管10および溶剤供給管11とは別系統に、石炭ホッパ12、および、スラリー供給装置14を備えている。
【0013】
(移送ポンプ)
移送ポンプ4は、溶剤タンク2に貯蔵された溶剤を溶剤移送管10および溶剤供給管11を介して抽出槽6に搬送するものであり、溶剤移送管10に設けられている。溶剤は移送ポンプ4により例えば乱流状態で抽出槽6に搬送される。本願でいう「乱流状態」とは、例えばレイノルズ数Reが2100以上の状態を言い、より好ましくはレイノルズ数Reが4000以上の状態を言う。なお、溶剤は層流状態、即ち、レイノルズ数Reが2100未満の状態で搬送されてもよい。
【0014】
(予熱器)
予熱器5は、移送ポンプ4によって搬送された溶剤を加熱するものであり、溶剤移送管10と溶剤供給管11との間に設けられている。予熱器5は、溶剤を加熱できるものであれば特に限定されないが、一般的に熱交換器が用いられる。溶剤移送管10を通って移送された溶剤は、予熱器5を通る際に熱交換することにより加熱される。また、予熱器5は、溶剤の分子量などにもよるが、例えば溶剤を毎分当たり10〜100℃の加熱速度で加熱できる能力のあるものが用いられる。また、予熱器5は、溶剤を300〜450℃まで加熱する。
【0015】
なお、本実施形態においては、移送ポンプ4によって搬送された溶剤を加熱しているが、先に予熱器5にて加熱した溶剤を移送ポンプ4で搬送するようにしてもよい。即ち、移送ポンプ4と予熱器5との配置が逆であってもよい。この場合、移送ポンプ4は溶剤供給管11に設けられることとなる。
【0016】
(溶剤供給管)
溶剤供給管11は、予熱器5にて加熱された溶剤を抽出槽6の中に供給するものである。予熱器5にて加熱された溶剤は、溶剤供給管11を通って、例えば乱流状態で抽出槽6の中に供給される。
【0017】
(スラリー供給装置)
スラリー供給装置14は、抽出槽6の中にスラリーを供給するものであり、溶剤移送管10および溶剤供給管11とは別系統に設けられている。スラリー供給装置14からスラリーが抽出槽6の中に供給されることにより、抽出槽6内で加熱された溶剤とスラリーとが抽出槽6内にて混合される。
【0018】
スラリー供給装置14は、混合器15、ホッパ16、および、ポンプ17を備えている。
【0019】
混合器15は、石炭ホッパ12から供給される石炭と、溶剤タンク2から供給される溶剤とを混合してスラリーを調製するものである。なお、溶剤タンク2とは別に設けられた溶剤タンクから混合器15に溶剤を供給するようにしてもよい。混合器15は、石炭と溶剤とを常圧、20〜70℃で混合する。本実施形態においては、混合後のスラリーのスラリー中の石炭濃度が40wt%以上70wt%以下となるように、石炭と溶剤とが混合される。混合器15で調製されたスラリーは、ホッパ16からポンプ17に投入され、ポンプ17を介して抽出槽6に供給される。
【0020】
なお、スラリー供給装置14は、混合器15で調製したスラリーをポンプ17で抽出槽6の中に供給するものではなく、別途調製しておいた、スラリー中の石炭濃度が40wt%以上70wt%以下のスラリーをポンプ17で抽出槽6の中に供給するものであってもよい。この場合、混合器15は不要となる。
【0021】
ポンプ17は、混合器15で調製されたスラリーを抽出槽6の中に供給するものである。ポンプ17としては、特に限定されるものではないが、例えば、一軸ねじポンプや二軸スクリューポンプ等の回転式の容積型ポンプを使用することができる。回転式の容積型ポンプは、ねじ型の回転子の回転運動によってポンプ室の容積を変化させて、液体を圧送するものである。本実施形態において、ポンプ17は、一軸ねじポンプである。一軸ねじポンプや二軸スクリューポンプは、一定容積のスラリーを無脈動で連続的に移送することが可能である。ポンプ17は、抽出槽6内の圧力と同等又はそれ以上の圧力でスラリーを圧送することで、内部が1.0〜3.0MPaに加圧された抽出槽6内にスラリーを供給する。
【0022】
ここで、一軸ねじポンプであるポンプ17でスラリーを移送するのに適したスラリーの状態として、スラリーを手で握った際に、隙間から液分のみが抜けていく状態ではなく、流動性のあるスラリーが分離することなく隙間から抜けていく状態が好ましい。スラリーが分離しにくいほど、抽出槽6の中でスラリーは加熱された溶剤と素早く混ざり合う。また、スラリーが分離しにくいほど、溶剤になじんだ石炭が加熱された溶剤で急速に溶解する。よって、スラリーが分離しにくいほど、抽出率が向上する。スラリーの状態は、石炭の粒子径や石炭濃度、撹拌条件などによって変わる。本実施形態においては、粒子径が1mm未満の石炭と溶剤とを20〜70℃、常圧で混合して、スラリー中の石炭濃度が40wt%以上70wt%以下であり、分離しにくく流動性のあるスラリーを調製している。
【0023】
なお、ポンプ17がスラリーの調製とスラリーの供給とをそれぞれ行う構成であってもよい。即ち、ポンプ17の中に石炭と溶剤とを供給し、ポンプ17の中で両者を混合してスラリーを調製しながら、調製したスラリーをポンプ17で抽出槽6の中に供給する。この場合、混合器15は不要となる。
【0024】
また、スラリー供給装置14は、溶剤供給管11の中にスラリーを供給するものであってもよい。この場合、ポンプ17は、溶剤供給管11に接続されて、内部が高圧(例えば、1.0〜5.0MPa)の溶剤供給管11の中にスラリーを供給する。この場合、後述するように、抽出槽6の中で加熱された溶剤とスラリーとが混合されるのではなく、溶剤供給管11の中で加熱された溶剤とスラリーとが混合されることとなる。なお、スラリー供給装置14は、抽出槽6の中、および、溶剤供給管11の中に、それぞれスラリーを供給するものであってもよい。
【0025】
(抽出槽)
抽出槽6は、石炭と溶剤とを混合してなるスラリーから溶剤に可溶な石炭成分を抽出する(溶剤に溶解させる)ものである。本実施形態において、抽出槽6は、予熱器5で加熱された溶剤と、スラリー供給装置14から供給されたスラリーとを混合してなるスラリーから、溶剤に可溶な石炭成分を抽出する。溶剤供給管11から抽出槽6に供給された高温(300〜450℃、より好ましくは350〜420℃)の溶剤と、スラリー供給装置14から抽出槽6に供給されたスラリーとは、抽出槽6の中で瞬時に混合される。加熱された溶剤とスラリーとが混合することで、混合後のスラリーは急速に昇温される。本実施形態においては、溶剤とスラリーとが混合してなるスラリーの温度が数秒〜数十秒で300〜420℃程度となるように、加熱された溶剤とスラリーとが混合される。
【0026】
(無灰炭の製造方法)
次に、本発明に係る無灰炭の製造方法について説明する。本発明の実施形態による無灰炭の製造方法は、搬送工程、加熱工程、溶剤供給工程、スラリー供給工程、抽出工程、分離工程、および、無灰炭取得工程を有し、必要に応じて副生炭取得工程をさらに有する。以下、各工程について説明する。
【0027】
(搬送工程)
搬送工程は、溶剤タンク2に貯蔵された溶剤を移送ポンプ4により後工程に搬送する工程である。上述したように、溶剤は例えば乱流状態(乱流化して)で後工程に搬送される。
【0028】
ここで、溶剤は石炭を溶解するものであれば特に限定されないが、石炭由来の2環芳香族化合物が好適に用いられる。この2環芳香族化合物は基本的な構造が石炭の構造分子と類似していることから石炭との親和性が高く、比較的高い抽出率を得ることができる。石炭由来の2環芳香族化合物としては、例えば、石炭を乾留してコークスを製造する際の副生油の蒸留油であるメチルナフタレン油、ナフタレン油などを挙げることができる。
【0029】
溶剤の沸点は、特に限定されないが、例えば抽出工程での抽出率、および、無灰炭取得工程あるいは副生炭取得工程での溶剤回収率の観点から、180〜300℃、特に230〜280℃のものが好適に用いられる。一方、溶剤の沸点が180℃よりも低い場合には、無灰炭取得工程あるいは副生炭取得工程で溶剤を回収する場合に揮発による損失が大きくなり、溶剤の回収率が低下するおそれがある。また、溶剤の沸点が300℃を超える場合にも、石炭と溶剤との分離が困難となり、溶剤の回収率が低下するおそれがある。
【0030】
(加熱工程)
加熱工程は、移送ポンプ4により搬送された溶剤を加熱する工程である。この加熱工程は、
図1中、予熱器5で実施される。より詳しくは、溶剤移送管10を通って移送された溶剤が予熱器5を通る間に加熱が行われる。予熱器5にて加熱された溶剤の温度は、抽出工程での抽出率の向上の観点から、300〜450℃が好ましく、350〜420℃がより好ましい。さらに、予熱器5にて加熱された溶剤の温度は、後述する抽出槽6内のスラリーの温度(300〜420℃)以上であることが好ましい。なお、予熱器5を通る前の溶剤の温度は100℃程度である。予熱器5での加熱時間は特に限定されるものではないが、およそ10〜30分間である。したがって、溶剤は、およそ毎分当たり10〜100℃の加熱速度で加熱されることになる。加熱工程は高圧下で行われ、その圧力は、溶剤の蒸気圧などにもよるが、1.0〜5.0MPaの範囲が好ましい。圧力を溶剤の蒸気圧よりも高くしておかないと、溶剤が揮発して抽出工程において石炭の抽出が困難となるためである。
【0031】
ここで、予熱器5にて加熱された溶剤の温度とは、溶剤供給管11内を流れる溶剤の温度のことを言う。スラリー供給装置14から抽出槽6に供給されたスラリーと抽出槽6内で混合される直前の溶剤の温度と言うこともできる。
【0032】
なお、スラリー供給装置14で、溶剤供給管11の中にスラリーを供給する場合、予熱器5にて加熱された溶剤の温度とは、ポンプ17との接続部分よりも上流側の溶剤供給管11内を流れる溶剤の温度のことを言う。
【0033】
なお、本実施形態では、加熱工程は搬送工程よりも後に行われているが、移送ポンプ4と予熱器5との順序を入れ替えるなどして、加熱工程が搬送工程よりも先に行われるようにしてもよい。
【0034】
(溶剤供給工程)
溶剤供給工程は、予熱器5で加熱された溶剤を、溶剤供給管11を経由して抽出槽6の中に供給する工程である。加熱された溶剤は例えば乱流状態(乱流化して)で抽出槽6の中に搬送される。
【0035】
なお、加熱工程が搬送工程よりも先に行われる場合、搬送工程は溶剤供給工程に含まれる。
【0036】
(スラリー供給工程)
スラリー供給工程は、抽出槽6の中の加熱された溶剤の中にスラリーを供給する工程である。スラリー供給工程は、
図1中、スラリー供給装置14で実施される。スラリー供給工程は、石炭混合工程およびスラリー移送工程を有している。
【0037】
(石炭混合工程)
石炭混合工程は、石炭と溶剤とを混合してスラリーを調製する工程である。この石炭混合工程は、
図1中、混合器15で実施される。原料である石炭が石炭ホッパ12から混合器15に投入されるとともに、溶剤タンク2から混合器15に溶剤が投入される。混合器15に投入された石炭および溶剤は混合されて、石炭と溶剤とからなるスラリーとなる。
【0038】
石炭の原料としては、様々な品質の石炭を用いることができるが、例えば瀝青炭、亜瀝青炭、褐炭が好適に用いられる。また、石炭を粒度にて分類すると、細かく粉砕された石炭が好適に用いられる。「細かく粉砕された石炭」とは、例えば、全石炭に対する、粒度が1mm未満の石炭の重量割合が80%以上である石炭を言う。石炭の粒度(粒径)が1mm未満であるか否かなど、石炭の粒径を検証する場合、例えば、JIS A 1102に規定されたふるい分け試験を用いることができる。なお、石炭の分離には例えば篩いを用いることができる。細かく粉砕されていない石炭を粉砕して「細かく粉砕された石炭」を調製してもよいし、すでに細かく粉砕されたものを調達してもよい。
【0039】
石炭と混合される溶剤としては、溶剤タンク2から搬送されて加熱される溶剤と同様のものを用いることができる。即ち、石炭由来の2環芳香族化合物であって、沸点が180〜300℃、特に230〜280℃のものが好適に用いられる。
【0040】
石炭ホッパ12から混合器15に供給された石炭は、20〜70℃、常圧で溶剤と混合される。ここで、混合後のスラリーのスラリー中の石炭濃度を、40wt%以上70wt%以下に調整する。石炭混合工程での混合時間は特に限定されるものではないが、スラリーの状態がポンプ17での移送に適した状態になるような条件で混合される。即ち、分離しにくく、ある程度の流動性のあるスラリーとなるように混合される。
【0041】
なお、スラリー供給工程は、混合器15で調製したスラリーを抽出槽6の中の加熱された溶剤の中に供給するものではなく、別途調製しておいた、スラリー中の石炭濃度が40wt%以上70wt%以下のスラリーを抽出槽6の中の加熱された溶剤の中に供給するものであってもよい。この場合、石炭混合工程は不要となる。
【0042】
(スラリー移送工程)
スラリー移送工程は、石炭混合工程にて得られたスラリーを抽出槽6の中へ供給する工程である。このスラリー移送工程は、
図1中、ポンプ17で実施される。
【0043】
なお、スラリー供給工程は、石炭混合工程にて得られたスラリーを、溶剤供給管11の中の加熱された溶剤の中に供給してもよいし、抽出槽6および溶剤供給管11の中の加熱された溶剤の中にそれぞれ供給してもよい。
【0044】
(抽出工程)
抽出工程は、スラリー供給工程にて供給されたスラリーから、溶剤に可溶な石炭成分を抽出する(溶剤に溶解させる)工程である。この抽出工程は、
図1中、抽出槽6で実施される。より詳しくは、抽出槽6の中の加熱された溶剤の中にスラリーが供給され、瞬時に混合される。混合後は、抽出槽6に備えられた撹拌機6aで撹拌されながら所定温度で保持されて抽出が行われる。ここで、溶剤可溶成分とは、溶剤に溶解され得る石炭成分であり、主として分子量が比較的小さく、架橋構造が発達していない石炭中の有機成分に由来するものである。なお、抽出は、加熱された溶剤とスラリーとが混合されるのと同時に行われる。よって、スラリー供給工程にてスラリーを溶剤供給管11の中の加熱された溶剤の中に供給する場合、溶剤供給管11の中でも抽出は行われる。
【0045】
ここで、溶剤供給管11を通って抽出槽6に供給された高温(300〜450℃、より好ましくは350〜420℃)の溶剤と、ポンプ17で抽出槽6に供給されたスラリーとが混合することで、混合後のスラリーは急速に昇温される。「急速昇温」とは、例えば毎秒当たり10〜500℃の加熱速度で加熱されることを言い、予熱器5での加熱速度よりも速い。その結果、加熱された溶剤とスラリーとが混合してなるスラリーの温度は数秒〜数十秒で300〜420℃程度となる(なお、石炭の顕熱分、スラリーの温度は予熱器5にて加熱された溶剤の温度よりも低下する)。スラリーが急速に昇温されると、スラリー中の石炭の軟化溶融特性(流動性)が向上するので、石炭が早期に流動状となり溶剤とよく混ざり合う。その結果、石炭が溶剤に好適に溶解されるので、抽出槽6において抽出される石炭成分の割合、即ち、抽出率が向上する。
【0046】
ここで、懸濁体であるスラリーと加熱された溶剤とが混合されることで、石炭と溶剤とを混合した後に加熱するのに比べて、両者は素早く混ぜ合わせられる。また、スラリー中の石炭の表面が溶剤で濡れているので、ここに加熱された溶剤が接触することで、石炭の内部に溶剤が素早く浸透し、これにより石炭を急速に溶解させることができる。すなわち、石炭と溶剤とを予め混合してなるスラリーを、加熱された溶剤の中に供給することで、スラリー中の溶剤に可溶な石炭成分の溶解を促進させることができる。これにより、昇温により直ちに溶解する石炭成分だけでなく、昇温後例えば抽出槽6でゆっくり熟成することにより溶解する石炭成分を素早く溶解させることができる。その結果、抽出率が向上する。これにより、無灰炭の収率を向上させることができる。
【0047】
また、溶剤が移送ポンプ4から乱流状態で搬送されるので、溶剤は抽出槽6内に供給されたスラリーに激しく衝突する。その結果、スラリー中の石炭がよく溶解され、抽出率が向上する。また、混合後には、溶剤と石炭とがよく混合されたスラリーとなる。
【0048】
また、石炭濃度が40wt%以上70wt%以下のスラリーから石炭成分を抽出することで、抽出される石炭成分の割合が多くなるので、抽出率を一層向上させることができる。
【0049】
また、粒子径が1mm未満の石炭を原料として使用することで、石炭粒子の表面積が大きくなるので、抽出工程において、スラリー中の石炭が高温の溶剤で溶解されやすくなる。これにより、抽出率を一層向上させることができる。
【0050】
抽出工程でのスラリーの温度は、抽出率の向上の観点から、300〜420℃、より好ましくは350〜400℃である。即ち、加熱工程での溶剤の温度を抽出工程においても維持するようにしている。300℃より低い温度では、石炭を構成する分子間の結合を弱めるには不十分であり、抽出率が低下する。一方、420℃より高い温度でも、石炭の熱分解反応が活発になり、生成した熱分解ラジカルの再結合が起こるため、抽出率が低下する。300〜420℃では、石炭を構成する分子間の結合が緩み、穏和な熱分解が起こり抽出率は高くなり、特に350〜400℃では、抽出率が最も高くなる。
【0051】
抽出工程は不活性ガスの存在下で行う。抽出工程で用いる不活性ガスとしては、特に限定されるものではないが、安価な窒素を用いることが好ましい。また、抽出工程での圧力は、抽出の際の温度や用いる溶剤の蒸気圧にもよるが、1.0〜3.0MPaの範囲が好ましい。抽出工程での加熱時間(抽出時間)は特に限定されるものではないが、十分な溶解と十分な抽出率を得る観点から5〜60分間の範囲が好ましく、20〜40分間の範囲がより好ましい。
【0052】
(分離工程)
分離工程は、抽出工程にて石炭成分が抽出された抽出スラリーを、例えば重力沈降法により、溶剤に可溶な石炭成分が溶解した溶液と、溶剤に不溶な石炭成分(溶剤不溶成分、例えば灰分)が濃縮した固形分濃縮液(溶剤不溶成分濃縮液)とに分離する工程である。この分離工程は、
図1中、重力沈降槽7で実施される。重力沈降法とは、重力を利用して固形分を沈降させて分離する分離方法である。抽出スラリーを槽内に連続的に供給しながら、溶剤可溶成分を含む溶液を上部から、溶剤不溶成分を含む固形分濃縮液を下部から排出することができるので、連続的な分離処理が可能となる。ここで、溶剤不溶成分とは、溶剤により石炭成分の抽出を行っても、溶剤に溶解されずに残る灰分や当該灰分を含む石炭などの石炭成分であり、分子量が比較的大きく、架橋構造が発達した有機成分に由来するものである。
【0053】
溶剤可溶成分を含む溶液は、重力沈降槽7の上部に溜まり、必要に応じてフィルターユニット(不図示)にて濾過した後、溶剤分離器8に排出される。一方、溶剤不溶成分を含む固形分濃縮液は、重力沈降槽7の下部に溜まり、溶剤分離器9に排出される。なお、分離方法としては、重力沈降法に限られず、例えば濾過法や遠心分離法により分離してもよい。その場合、分離装置として濾過器や遠心分離器などが使用される。
【0054】
重力沈降槽7内で抽出スラリーを維持する時間は、特に制限されるものではないが、およそ30〜120分間で沈降分離を行うことができる。
【0055】
重力沈降槽7内は、溶剤可溶成分の再析出を防止するため、加熱、および加圧しておくことが好ましい。加熱温度は、300〜420℃の範囲が好ましく、圧力は、1.0〜3.0MPaの範囲が好ましく、1.7〜2.3Mpaの範囲がより好ましい。
【0056】
(無灰炭取得工程)
無灰炭取得工程は、分離工程にて分離された溶剤可溶成分を含む溶液(上澄み液)から溶剤を蒸発分離して無灰炭(HPC)を得る工程である。この無灰炭取得工程は、
図1中、溶剤分離器8で実施される。蒸発分離とは、一般的な蒸留法や蒸発法(スプレードライ法等)等を含む分離方法である。分離して回収された溶剤は溶剤移送管10へ循環して繰り返し使用することができる。また、混合器15に戻して繰り返し使用することができる。溶剤の分離、回収により、溶液から実質的に灰分を含まない無灰炭(HPC)を得ることができる。
【0057】
無灰炭は、灰分をほとんど含まず、水分は皆無であり、原料石炭よりも高い発熱量を示す。さらに、製鉄用コークスの原料として特に重要な品質である軟化溶融性(流動性)が大幅に改善され、原料石炭が軟化溶融性を有しなくとも、得られた無灰炭(HPC)は良好な軟化溶融性を有する。従って、無灰炭は、コークス原料の配合炭として使用することができる。なお、無灰炭とは、灰分が5重量%以下、好ましくは3重量%以下のもののことをいう。
【0058】
(副生炭取得工程)
副生炭取得工程は、必要に応じて実施され、分離工程で分離された溶剤不溶成分を含む固形分濃縮液から溶剤を蒸発分離して副生炭(RC、残渣炭ともいう)を得る工程である。この副生炭取得工程は、
図1中、溶剤分離器9で実施される。
【0059】
固形分濃縮液から溶剤を分離する方法は、前記した無灰炭取得工程と同様に、一般的な蒸留法や蒸発法(スプレードライ法等)等を含む分離方法を用いることができる。分離して回収された溶剤は溶剤移送管10へ循環して繰り返し使用することができる。また、混合器15に戻して繰り返し使用することができる。溶剤の分離、回収により、固形分濃縮液から灰分等を含む溶剤不溶成分が濃縮された副生炭を得ることができる。副生炭は、軟化溶融性は示さないが、含酸素官能基が脱離されているため、配合炭として用いた場合に、この配合炭に含まれる他の石炭の軟化溶融性を阻害するようなものではない。従って、この副生炭は、コークス原料の配合炭の一部として使用することもできる。なお、副生炭は回収せずに廃棄してもよい。
【0060】
(スラリー調製試験)
次に、粒子径の異なる石炭を用いてスラリーを調製し、ポンプ17での移送に適したスラリー状態となる条件について検討した。具体的には、粒子径の異なる石炭を用いて、常温常圧下で、100rpmの撹拌速度で撹拌を行い、石炭濃度が60〜65wt%のスラリーを調製した。その際に、撹拌時間を0〜120分で異ならせて、スラリーの状態を確認した。その結果を表1に示す。なお、表1において、「△」はポンプ17での移送は可能であるが、全てが分離しないものの若干分離する傾向にあったもの、「○」は分離しにくかったもの、「◎」はより分離しにくかったものを意味する。ここで、スラリーが分離しにくいほど、加熱された溶剤とスラリーとが素早く混ざり合うので、ポンプ及び配管内部での沈降が抑制され、閉塞防止につながる。また、スラリーが分離しにくいほど、溶剤になじんだ石炭が加熱された溶剤で急速に溶解する。よって、分離しにくいスラリーほど、抽出率が向上する。
【0062】
表1から、石炭の粒子径が150μm未満で、石炭濃度が60wt%であり、撹拌時間が60分以上のものが、ポンプ17での移送に最も適したスラリーであることがわかった。このようなスラリーを用いれば、抽出率は好適に向上する。
【0063】
(スラリー移送試験)
次に、模式図である
図2に示すスラリー移送試験装置200を用いて実際にスラリーを移送し、配管移送状況を確認した。具体的には、ホッパ16に投入したスラリーをポンプ17で槽21に移送し、配管22の閉塞状況を確認した。
【0064】
ここで、表1の「◎」のスラリー、即ち、石炭の粒子径が150μm未満で石炭濃度が60wt%のスラリーと同等の状態あるいは「○」の状態のサンプルNo.1およびNo.2を、常温常圧下で調製し、試験を行った。サンプルを表2に示す。なお、ポンプ17には、兵神装備株式会社製の一軸偏心ねじポンプであるヘイシンモーノポンプを使用した。また、スラリーの撹拌には、撹拌速度が750rpmのミキサーを用いた。また、槽21内を0.10MPaGの加圧条件とした。
【0066】
サンプルNo.1のスラリーは、粒子径が250μm未満の石炭を用いて、30分間撹拌を行ったもので、石炭濃度は60wt%である。サンプルNo.2のスラリーは、粒子径が500μm未満の石炭を用いて、10分間撹拌を行ったもので、石炭濃度は60wt%である。これらのスラリーは、分離しにくく流動性が高い状態であった。これらのスラリーを移送したところ、配管22内で閉塞は発生せず、ポンプ17の吐出圧力は0.1〜0.2MPaGで安定していた。
【0067】
よって、石炭の粒子径や石炭濃度、撹拌条件によってスラリーの状態は変わるが、流動性が高く分離しにくいスラリーであれば、閉塞することなくポンプ17で移送することができることがわかった。このようなスラリーをポンプ17で連続的に移送することで、抽出率は好適に向上する。
【0068】
(効果)
以上に述べたように、本実施形態では、予熱器5にて加熱された溶剤を抽出槽6の中に供給するとともに、石炭と溶剤とを混合してなるスラリーを抽出槽6の中に供給する。これにより、予熱器5にて加熱された溶剤と、上記スラリーとが、抽出槽6の中で混合される。加熱された溶剤と上記スラリーとが混合されることで、混合後のスラリーは急速に昇温される。スラリーが急速に昇温されると、スラリー中の石炭の軟化溶融特性(流動性)が向上するので、石炭が早期に流動状となり溶剤とよく混ざり合う。その結果、石炭が溶剤に好適に溶解されるので、抽出槽において抽出される石炭成分の割合、即ち、抽出率が向上する。加えて、懸濁体である上記スラリーと加熱された溶剤とが混合されることで、石炭と溶剤とを混合した後に加熱するのに比べて、両者は素早く混ぜ合わせられる。また、スラリー中の石炭の表面が溶剤で濡れているので、ここに加熱された溶剤が接触することで、石炭の内部に溶剤が素早く浸透し、これにより石炭を急速に溶解させることができる。すなわち、石炭と溶剤とを予め混合してなるスラリーを、加熱された溶剤の中に供給することで、スラリー中の溶剤に可溶な石炭成分の溶解を促進させることができ、その結果、抽出率が向上する。これにより、無灰炭の収率を向上させることができる。
【0069】
また、混合器で予め混合・調製したスラリーを、抽出槽6の中へポンプ17で供給する。石炭と溶剤とを予め混合・調整しておくことで、抽出槽6の中でスラリーは加熱された溶剤と素早く混ざり合うとともに、溶剤になじんだ石炭が加熱された溶剤で急速に溶解する。これにより、抽出率を向上させることができる。
【0070】
また、一軸ねじポンプまたは二軸スクリューポンプを用いることで、混合器15で予め混合・調製したスラリーを、抽出槽6の中へ安定して供給することができる。
【0071】
また、移送ポンプ4で溶剤を乱流状態で抽出槽6に搬送する。これにより、乱流状態の溶剤が、抽出槽6内に供給されたスラリーに激しく衝突する。その結果、石炭成分の抽出がさらに進む。また、溶剤が乱流状態で搬送されることにより、溶剤とスラリーとがよく混合され、石炭成分の抽出が早く進む。したがって、抽出時間の短縮を図ることができて、装置コスト、運転コストを抑制することができる。
【0072】
また、予熱器5で溶剤を300℃以上450℃以下に加熱する。これにより、溶剤供給管11を流れる溶剤の温度が300〜450℃となる。したがって、抽出槽6において、加熱された溶剤とスラリーとを混合してなるスラリーを高い抽出率が得られる温度である300〜420℃程度にまで急速に昇温することが可能となる。その結果、抽出率をさらに向上させることができる。
【0073】
また、予熱器5で、抽出槽6内のスラリーの温度(300〜420℃)以上に溶剤を加熱する。これにより、抽出槽6において、加熱された溶剤とスラリーとを混合してなるスラリーを高い抽出率が得られる温度である300〜420℃程度にまで瞬時に昇温することが可能となる。その結果、抽出率を一層向上させることができる。
【0074】
また、スラリーのスラリー中の石炭濃度を40wt%以上70wt%以下に調整する。石炭濃度が高濃度のスラリーから石炭成分を抽出することで、抽出される石炭成分の割合が多くなるので、抽出率を一層向上させることができる。
【0075】
また、粒子径が1mm未満の石炭を原料として使用することで、石炭粒子の表面積が大きくなるので、抽出工程において、スラリー中の石炭が高温の溶剤で溶解されやすくなる。これにより、抽出率を一層向上させることができる。
【0076】
以上、本発明の実施形態を説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定するものではなく、具体的構成などは、適宜設計変更可能である。また、発明の実施の形態に記載された、作用及び効果は、本発明から生じる最も好適な作用及び効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用及び効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。