(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、溶剤可溶成分の抽出時間を短縮できる無灰炭の製造方法及び無灰炭の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、溶剤と石炭とを混合したスラリーを急速に昇温することで、上記溶剤可溶成分の抽出時間を短縮できることを見出した。急速昇温により溶剤可溶成分の抽出時間が短縮される理由は、溶剤に可溶な石炭成分には、昇温により直ちに溶解する石炭成分と、昇温後例えば抽出槽で緩やかに熟成することにより溶解する石炭成分とがあり、急速昇温により、緩やかに熟成することにより溶解する石炭成分が溶解し易くなるためと考えられる。
【0009】
すなわち、上記課題を解決するためになされた発明は、抽出用溶剤を加熱する工程と、ペースト化用溶剤及び石炭の混合によりペースト化石炭を得る工程と、上記抽出用溶剤及びペースト化石炭の混合によりスラリーを得る工程と、上記スラリーから石炭成分が溶解した溶液を分離する工程と、分離された上記溶液から上記抽出用溶剤及びペースト化用溶剤を蒸発分離する工程とを備える無灰炭の製造方法である。
【0010】
当該無灰炭の製造方法は、加熱した抽出用溶剤及びペースト化石炭の混合によりスラリーを得る工程を備えており、ペースト化石炭が加熱された抽出用溶剤と迅速に混合される。また、抽出用溶剤の量に対してペースト化石炭に含まれるペースト化用溶剤の量を少なくすることで、上記スラリーが急速に上記溶剤可溶成分の抽出され易い温度に上昇し、上記溶剤可溶成分が速やかに抽出される。その結果、当該無灰炭の製造方法により溶剤可溶成分の抽出時間を短縮できる。
【0011】
上記加熱工程で、上記抽出用溶剤の温度を330℃以上450℃以下とするとよい。このように、加熱工程で加熱する抽出用溶剤の温度を上記範囲内とすることで、抽出用溶剤及びペースト化石炭が混合されたスラリーが抽出率の高くなる抽出温度まで確実に昇温され、上記スラリー取得工程における上記溶剤可溶成分の抽出率がより向上する。
【0012】
上記ペースト化石炭取得工程で、ペースト化石炭中の石炭の濃度を無水炭基準で40質量%以上70質量%以下とするとよい。このように、ペースト化石炭取得工程でペースト化石炭中の石炭の濃度を上記範囲内とすることで、上記スラリー取得工程でペースト化石炭中の石炭が効率よく昇温される。これにより、上記スラリーがより確実に上記溶剤可溶成分の抽出され易い温度となり、上記溶剤可溶成分がより速やかに抽出され、溶剤可溶成分の抽出時間がさらに短縮される。
【0013】
上記スラリー取得工程で、上記抽出用溶剤を乱流状態でペースト化石炭と混合するとよい。このように、スラリー取得工程で上記抽出用溶剤を乱流状態でペースト化石炭と混合することで、上記スラリー取得工程において抽出用溶剤及びペースト化石炭の混合が促進され、より多くの溶剤可溶成分を抽出用溶剤に溶解させることができる。
【0014】
上記スラリー取得工程が、上記抽出用溶剤中へペースト化石炭を圧送する工程を含むとよい。このように、スラリー取得工程が抽出用溶剤中へペースト化石炭を圧送する工程を含むことで、上記スラリー取得工程において抽出用溶剤及びペースト化石炭の混合が促進され、より多くの溶剤可溶成分を抽出用溶剤に溶解させることができる。
【0015】
上記圧送工程で、所定量のペースト化石炭を加圧し、間欠的に圧送するとよい。このように、所定量のペースト化石炭を加圧し間欠的に圧送することで、上記抽出用溶剤の供給を継続しながら抽出用溶剤中へのペースト化石炭の圧送を簡易な構成で実現でき、設備コストの増加を抑制できる。
【0016】
上記圧送工程で、ポンプによりペースト化石炭を連続的に圧送するとよい。このように、ポンプによりペースト化石炭を連続的に圧送することで、ペースト化石炭の圧送量の調整がし易く、ペースト化石炭を安定して圧送できる。また、ペースト化石炭を供給する管等がペースト化石炭により閉塞することに対する抑止効果も高められる。
【0017】
また、上記課題を解決するためになされた別の発明は、抽出用溶剤を加熱する加熱部と、ペースト化用溶剤及び石炭の混合によりペースト化石炭を得る調製部と、上記抽出用溶剤及びペースト化石炭の混合によりスラリーを得る混合部と、上記スラリーから石炭成分が溶解した溶液を分離する固液分離部と、上記固液分離部で分離された溶液から上記抽出用溶剤及びペースト化用溶剤を蒸発分離する溶剤分離部とを備える無灰炭の製造装置である。
【0018】
当該無灰炭の製造装置は、加熱された抽出用溶剤及びペースト化石炭の混合によりスラリーを得る混合部を備えている。これにより、ペースト化石炭が加熱された抽出用溶剤と迅速に混合され、上記スラリーが急速に上記溶剤可溶成分の抽出され易い温度に上昇し、上記溶剤可溶成分が速やかに抽出される。その結果、当該無灰炭の製造装置は溶剤可溶成分の抽出時間を短縮できる。また、当該無灰炭の製造装置の上記混合部内は、溶剤の揮発を防止するために高圧となるが、当該無灰炭の製造装置は、供給する石炭原料として上記ペースト化石炭を用いるので、石炭原料の供給先と供給元との圧力差の影響をあまり受けずに石炭原料の供給を制御できる。
【0019】
上記混合部が、上記スラリーを貯留する抽出槽を有するとよい。このように、混合部がスラリーを貯留する抽出槽を有することで、より確実に上記溶剤可溶成分を抽出でき、抽出率がより向上する。
【0020】
なお、「ペースト化石炭」とは、ペースト状の石炭と溶剤との混合物を意味する。また、「無水炭基準の石炭濃度」とは、石炭を乾燥し無水炭の状態としたときの質量のペースト化石炭の溶剤を含む全質量に対する割合を意味する。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明の無灰炭の製造方法及び無灰炭の製造装置によれば、溶剤可溶成分の抽出時間を短縮できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る無灰炭の製造装置及び無灰炭の製造方法の実施形態について詳説する。
【0024】
〔第一実施形態〕
図1の無灰炭製造装置1は、抽出用溶剤を供給する抽出用溶剤供給部2と、抽出用溶剤を加熱する加熱部3と、ペースト化用溶剤及び石炭の混合によりペースト化石炭を得る調製部4と、ペースト化石炭を供給するペースト化石炭供給部5と、抽出用溶剤及びペースト化石炭の混合によりスラリーを得る混合部6と、上記スラリーから石炭成分が溶解した溶液を分離する固液分離部7と、固液分離部7で分離された溶液から抽出用溶剤及びペースト化用溶剤を蒸発分離する第1溶剤分離部8とを主に備える。第1溶剤分離部8で上記溶液から抽出用溶剤及びペースト化用溶剤が蒸発分離されることにより、無灰炭(HPC)が得られる。また、当該無灰炭製造装置1は、上記固液分離部7で分離され抽出用溶剤及びペースト化用溶剤に不溶な石炭成分(以下、溶剤不溶成分と呼ぶ)を含む固形分濃縮液から副生炭(RC)を得る第2溶剤分離部9を備える。
【0025】
<抽出用溶剤供給部>
上記抽出用溶剤供給部2は、抽出用溶剤を混合部6へ供給する。抽出用溶剤供給部2は、
図1に示すように抽出用溶剤タンク10及び抽出用溶剤圧送ポンプ11を主に備える。
【0026】
(抽出用溶剤タンク)
抽出用溶剤タンク10は、ペースト化石炭供給部5から供給されるペースト化石炭と混合する抽出用溶剤を貯蔵する。ペースト化石炭と混合する抽出用溶剤は、石炭を溶解するものであれば特に限定されないが、例えば石炭由来の2環芳香族化合物が好適に用いられる。この2環芳香族化合物は、基本的な構造が石炭の構造分子と類似していることから石炭との親和性が高く、比較的高い抽出率を得ることができる。石炭由来の2環芳香族化合物としては、例えば石炭を乾留してコークスを製造する際の副生油の蒸留油であるメチルナフタレン油、ナフタレン油などを挙げることができる。
【0027】
上記抽出用溶剤の沸点は、特に限定されないが、例えば抽出用溶剤の沸点の下限としては、180℃が好ましく、230℃がより好ましい。一方、抽出用溶剤の沸点の上限としては、300℃が好ましく、280℃がより好ましい。抽出用溶剤の沸点が上記下限未満であると、抽出用溶剤を蒸発分離する後述する溶剤蒸発分離工程で抽出用溶剤を回収する場合に揮発による損失が大きくなり、抽出用溶剤の回収率が低下するおそれがある。逆に、抽出用溶剤の沸点が上記上限を超える場合には、溶剤可溶成分と抽出用溶剤との分離が困難となり、この場合も抽出用溶剤の回収率が低下するおそれがある。
【0028】
(抽出用溶剤圧送ポンプ)
上記抽出用溶剤圧送ポンプ11は、抽出用溶剤タンク10を混合部6へ接続するライン中に配設されている。抽出用溶剤圧送ポンプ11は、抽出用溶剤タンク10に貯蔵されている抽出用溶剤を主供給管19を介して混合部6へ圧送する。
【0029】
上記抽出用溶剤圧送ポンプ11の種類は、上記抽出用溶剤を主供給管19を介して混合部6へ圧送できるものであれば特に限定されないが、例えば容積型ポンプや非容積型ポンプを用いることができる。より具体的には、容積型ポンプとしてダイヤフラムポンプやチューブフラムポンプを用いることができ、非容積型ポンプとして渦巻ポンプなどを用いることができる。
【0030】
なお、抽出用溶剤圧送ポンプ11によって抽出用溶剤を乱流状態で主供給管19内を圧送してもよい。抽出用溶剤を乱流状態でペースト化石炭と混合することにより、ペースト化石炭供給部5から供給されるペースト化石炭に抽出用溶剤が激しく衝突し、石炭がより早く溶解する。これにより、抽出時間がより短縮されると共に、抽出率がより向上する。ここで「乱流状態」とは、例えばレイノルズ数Reが2100以上の状態であり、より好ましくはレイノルズ数Reが4000以上の状態である。
【0031】
<加熱部>
上記加熱部3は、抽出用溶剤圧送ポンプ11によって圧送される抽出用溶剤を加熱する。加熱部3は、抽出用溶剤を加熱できるものであれば特に限定されないが、一般的には加熱部3として熱交換器が用いられる。加熱部3として熱交換器が用いられる場合、配管内を流れる抽出用溶剤は、加熱部3を通る際に熱交換することにより加熱される。加熱部3として用いる熱交換器としては、例えば多管式型、プレート型、スパイラル型などの熱交換器が用いられる。なお、
図1に示す当該無灰炭製造装置1では、加熱部3が抽出用溶剤供給部2の抽出用溶剤圧送ポンプ11よりも下流側に配設されており、抽出用溶剤圧送ポンプ11によって圧送された抽出用溶剤を加熱しているが、先に加熱部3にて加熱した抽出用溶剤を抽出用溶剤圧送ポンプ11で圧送するようにしてもよい。つまり、
図1において抽出用溶剤圧送ポンプ11と加熱部3との配置が逆であってもよい。
【0032】
ここで、混合部6において高い抽出率が得られるスラリーの温度(上記抽出温度)は、300℃以上420℃以下程度である。従って、混合部6においてペースト化石炭と混合されたスラリーがこの抽出温度となるような温度の抽出用溶剤を混合部6へ供給することが好ましい。ペースト化石炭と混合されることにより抽出用溶剤の温度は低下するので、混合部6内のスラリーの温度以上に抽出用溶剤を加熱するとよい。この観点より、加熱部3の下流における抽出用溶剤の温度の下限としては、330℃が好ましく、380℃がより好ましい。一方、上記抽出用溶剤の温度の上限としては、450℃が好ましく、430℃がより好ましい。上記抽出用溶剤の温度が上記下限未満であると、混合部6で抽出用溶剤とペースト化石炭とが混合されたスラリーが抽出温度まで昇温され難くなり、石炭を構成する分子間の結合を十分に弱められず、抽出率が低下するおそれがある。逆に、上記抽出用溶剤の温度が上記上限を超えると、混合部6でスラリーの温度が高くなり過ぎ、石炭の熱分解反応により生成した熱分解ラジカルの再結合が起こるため、抽出率が低下するおそれがある。なお、上記加熱部3の下流における抽出用溶剤の温度とは、加熱部3の出口での抽出用溶剤の温度を意味する。
【0033】
上記加熱部3は、主供給管19内を流れる抽出用溶剤が加熱部3を通る間に上記範囲の温度となるよう加熱する。加熱部3での加熱時間は特に限定されないが、例えば10分以上30分以下である。また、抽出用溶剤は、熱効率を上げるために廃熱を利用して予め加熱されており、加熱部3を通る前の抽出用溶剤の温度は100℃程度である。従って、加熱部3は、毎分当たり10℃以上100℃以下程度の加熱速度で抽出用溶剤を加熱できるものが好ましい。なお、抽出用溶剤は、加熱部3を通る前に予熱されていなくてもよい。
【0034】
また、上記加熱部3は、高圧下で抽出用溶剤を加熱することが好ましい。抽出用溶剤の蒸気圧などにもよるが、加熱部3が抽出用溶剤を加熱する際の圧力の下限としては、1MPaが好ましく、2MPaがより好ましい。一方、上記圧力の上限としては、5MPaが好ましく、4MPaがより好ましい。加熱部3が抽出用溶剤を加熱する際の上記圧力が上記下限未満であると、抽出用溶剤が揮発して後述するスラリー取得工程において上記溶剤可溶成分の抽出が困難となるおそれがある。一方、上記圧力が上記上限を超えると、設備コスト及び運転コストが増加するおそれがある。
【0035】
<調製部>
上記調製部4は、ペースト化用溶剤及び石炭の混合によりペースト化石炭を得る。調製部4は混合機であり、所定量の石炭とペースト化用溶剤とが混合機に投入され、混合機が撹拌混合することによりペースト化石炭を得る。ここで使用する混合機としては、高粘度に対応したものであれば特に限定されず、例えばモルタルミキサー、コンクリートミキサー等を使用できる。撹拌混合する時間は長い方がよいと考えられるが、製造効率の観点より、1時間以上3時間以下程度が好ましい。
【0036】
ペースト化用溶剤と混合する石炭としては、様々な品質の石炭を用いることができる。例えば抽出率の高い瀝青炭や、より安価な劣質炭(亜瀝青炭や褐炭)が好適に用いられる。また、石炭を粒径で分類すると、細かく粉砕された石炭が好適に用いられる。ここで「細かく粉砕された石炭」とは、例えば石炭全体の質量に対する粒径1mm未満の石炭の質量割合が80%以上である石炭を意味する。また、ペースト化石炭供給部5でペースト化用溶剤と混合する石炭として塊炭を用いることもできる。ここで「塊炭」とは、例えば石炭全体の質量に対する粒径5mm以上の石炭の質量割合が50%以上である石炭を意味する。塊炭は、細かく粉砕された石炭に比べて石炭の粒径が大きいため、後述する溶液分離工程での分離速度が早まり、沈降分離を効率化することができる。ここで、「粒径」とは、JIS−Z8815(1994)のふるい分け試験通則に準拠して測定した値をいう。なお、石炭の粒径による仕分けには、例えばJIS−Z8801−1(2006)に規定する金属製網ふるいを用いることができる。
【0037】
ペースト化用溶剤と混合する石炭の粒径1mm以下の粒子の含有量の下限としては、5質量%が好ましく、10質量%がより好ましい。上記石炭の粒径は細かいほど好ましく、上記含有量は100質量%以下であればよい。上記含有量が上記下限未満であると、ペースト化用溶剤と混合し難くなり、ペースト化石炭の調製時間が長くなるおそれがある。
【0038】
上記ペースト化用溶剤は、特に限定されないが、後述する固液分離部7で分離した上澄み液及び固形分濃縮液から無灰炭及び副生炭を分離し易い溶剤が好ましい。具体的には、上記ペースト化用溶剤として、例えば石炭由来の2環芳香族化合物が好適に用いられる。石炭由来の2環芳香族化合物としては、例えば石炭を乾留してコークスを製造する際の副生油の蒸留油であるメチルナフタレン油、ナフタレン油などを挙げることができる。また、上記ペースト化用溶剤としては、溶剤の再利用の観点で、抽出用溶剤供給部2から供給される抽出用溶剤と同種の溶剤を用いることが特に好ましい。
【0039】
上記ペースト化石炭中の石炭濃度(無水炭基準)の下限としては、40質量%が好ましく、50質量%がより好ましい。一方、上記石炭濃度の上限としては、70質量%が好ましく、60質量%がより好ましい。上記石炭濃度が上記下限未満の場合、ペースト化石炭に含まれるペースト化用溶剤の割合が多くなり過ぎ、加熱された抽出用溶剤と混合される際にペースト化石炭が十分に昇温されず、十分な抽出速度の短縮効果が得られないおそれがある。逆に、上記石炭濃度が上記上限を超える場合、ペースト化石炭中の石炭とペースト化用溶剤との結合力が弱く抽出用溶剤供給部2から供給される抽出用溶剤と混合し難くなり、ペースト化石炭の昇温速度が遅くなって十分な抽出速度の短縮効果が得られないおそれがある。
【0040】
主供給管19内を圧送される抽出用溶剤の質量に対するペースト化石炭供給部5から供給されるペースト化石炭に含まれるペースト化用溶剤の質量の比の下限としては、1/20が好ましい。一方、上記比の上限としては、1が好ましく、1/2がより好ましい。上記比が上記下限未満であると、ペースト化石炭中の石炭濃度を大きくしなければならず、ペースト化石炭の調製時間が長くなるおそれがある。逆に、上記比が上記上限を超えると、加熱された抽出用溶剤に対してペースト化石炭に含まれるペースト化用溶剤の割合が多くなり過ぎ、加熱された抽出用溶剤と混合される際にペースト化石炭が十分に昇温されず、十分な抽出速度の短縮効果が得られないおそれがある。
【0041】
上記ペースト化石炭の30℃における粘度の下限としては、0.5Pa・sが好ましく、1Pa・sがより好ましい。一方、上記粘度の上限としては、1000Pa・sが好ましく、600Pa・sがより好ましい。上記粘度が上記下限未満であると、ペースト化石炭に含まれるペースト化用溶剤の割合が多過ぎ、加熱された抽出用溶剤と混合される際にペースト化石炭が十分に昇温されず、十分な抽出速度の短縮効果が得られないおそれがある。逆に、上記粘度が上記上限を超えると、ペースト化石炭によって主供給管が閉塞し易くなるおそれがある。
【0042】
<ペースト化石炭供給部>
上記ペースト化石炭供給部5は、上記調製部4で得られたペースト化石炭を混合部6へ供給する。ペースト化石炭供給部5は、調製部4から供給されるペースト化石炭を貯蔵するペースト化石炭ホッパ12と、ペースト化石炭ホッパ12及び主供給管19を接続するペースト化石炭供給管13と、ペースト化石炭供給管13上に配設される第1弁14及び第2弁15とを有している。ペースト化石炭供給管13の第1弁14と第2弁15との間には、窒素ガスなどのガスを供給する加圧ライン16と、このガスを排気する排気ライン17とが接続されている。
【0043】
ペースト化石炭ホッパ12に供給されたペースト化石炭は、まず第2弁15が閉の状態で第1弁14を開とすることにより、ペースト化石炭供給管13内に充填される。次に、第1弁14を閉とし、加圧ライン16を介して窒素ガスなどのガスをペースト化石炭供給管13に供給し、ペースト化石炭供給管13の第1弁14と第2弁15との間に充填されているペースト化石炭に圧力を付加した後、加圧ライン16の弁を閉とする。その結果、ペースト化石炭供給管13の第1弁14と第2弁15との間に充填されているペースト化石炭が主供給管19よりも高い圧力に加圧された状態となる。そして、第2弁15を開とすることにより、ペースト化石炭供給管13内に充填されているペースト化石炭が、主供給管19へ勢いよく流れ込む。このとき、第1弁14と第2弁15との間に充填されていたペースト化石炭が第2弁15を通過した後、第2弁15を閉とすると共に排気ライン17の弁を開として、ペースト化石炭供給管13内のガスを排気する。そして、ペースト化石炭供給管13内のガスを排気した後、排気ライン17の弁を閉とする。
【0044】
上述のような第1弁14、第2弁15、加圧ライン16及び排気ライン17の操作を繰り返すことにより、ペースト化石炭ホッパ12内に貯蔵されているペースト化石炭を間欠的に主供給管19へ供給することができる。主供給管19内で圧送される抽出用溶剤の流量及び流速に合わせて、ペースト化石炭供給管13内の容積と第1弁14、第2弁15、加圧ライン16及び排気ライン17の操作タイミングとを設定することにより、抽出用溶剤供給部2による抽出用溶剤の供給を継続させながら、所定量のペースト化石炭を間欠的に供給することができる。
【0045】
ここで、第1弁14及び第2弁15の種類は、特に限定されるものではないが、第1弁14及び第2弁15として、例えばゲートバルブ、ボールバルブ、フラップバルブ、ロータリーバルブ等を使用することができる。
【0046】
<混合部>
上記混合部6は、抽出用溶剤供給部2から供給される抽出用溶剤とペースト化石炭供給部5から供給されるペースト化石炭との混合によりスラリーを得る。混合部6は、抽出槽18を有している。
【0047】
(抽出槽)
上記抽出槽18には、主供給管19を介して上記抽出用溶剤及びペースト化石炭が供給される。抽出槽18は、供給された抽出用溶剤及びペースト化石炭を混合してスラリーとし、このスラリーを所定時間貯留する。
【0048】
上記抽出槽18は、撹拌機18aを有している。抽出槽18は、混合したスラリーを撹拌機18aで撹拌しながら所定温度で保持することにより上記溶剤可溶成分を抽出する。
【0049】
主供給管19内を圧送される抽出用溶剤は加熱部3で加熱されており高温であり、また主供給管19内を圧送される抽出用溶剤の量に対してペースト化石炭供給部5から供給されるペースト化石炭に含まれるペースト化用溶剤の量を少なくすることで、ペースト化石炭供給部5から供給されるペースト化石炭は主供給管19内で急速昇温される。なお、ここで「急速昇温」とは、例えば毎秒当たり10℃以上500℃以下の加熱速度で加熱されることを意味し、加熱部3での加熱速度よりも速い。また、主供給管19内を流れる抽出用溶剤は抽出温度よりも高い温度まで加熱されているが、ペースト化石炭と接触するとペースト化石炭の温度の上昇に抽出用溶剤の熱が使用されるので、抽出槽18に供給される抽出用溶剤の温度は加熱部3にて加熱された抽出用溶剤の温度よりも低下する。その結果、抽出用溶剤及びペースト化石炭が抽出槽18まで主供給管19内を移動する際に、抽出用溶剤及びペースト化石炭の温度は、共に抽出温度(300℃以上420℃以下程度)に近づくよう変化する。これにより、抽出用溶剤及びペースト化石炭が混合された抽出槽18内のスラリーは、上記抽出温度となる。
【0050】
上記抽出槽18におけるスラリーの保持温度の下限としては、300℃が好ましく、350℃がより好ましい。一方、上記スラリーの保持温度の上限としては、420℃が好ましく、400℃がより好ましい。上記スラリーの保持温度が上記下限未満の場合、石炭を構成する分子間の結合を十分に弱めることができないため、抽出率が低下するおそれがある。逆に、上記スラリーの保持温度が上記上限を超える場合、石炭の熱分解反応が非常に活発になり生成した熱分解ラジカルの再結合が起こるため、抽出率が低下するおそれがある。
【0051】
なお、抽出槽18におけるスラリーの加熱抽出は非酸化性雰囲気で行うことが好ましい。具体的には、スラリーの加熱抽出を窒素等の不活性ガスの存在下で行うことが好ましい。窒素等の不活性ガスを用いることで、加熱抽出の際にスラリーが酸素に接触して発火することを低コストで防止できる。
【0052】
スラリーの加熱抽出時の圧力は、加熱温度や用いる抽出用溶剤の蒸気圧にもよるが、例えば1MPa以上3MPa以下とすることができる。加熱抽出時の圧力が抽出用溶剤の蒸気圧より低い場合には、抽出用溶剤が揮発して上記溶剤可溶成分が十分に抽出されないおそれがある。一方、加熱抽出時の圧力が高すぎると、機器のコスト、運転コスト等が上昇する。
【0053】
抽出槽18におけるスラリー中の無水炭基準での石炭濃度の下限としては、10質量%が好ましく、13質量%がより好ましい。一方、上記石炭濃度の上限としては、25質量%が好ましく、20質量%がより好ましい。上記石炭濃度が上記下限未満の場合、上記溶剤可溶成分の抽出量が少なくなり、溶剤の量に対する無灰炭の製造効率が低下するおそれがある。逆に、上記石炭濃度が上記上限を超える場合、溶剤中で上記溶剤可溶成分が飽和するため、上記溶剤可溶成分の抽出率が低下するおそれがある。従って、ペースト化石炭供給部5から供給されるペースト化石炭に含まれるペースト化用溶剤と抽出用溶剤供給部2から供給される抽出用溶剤との合計量に対する石炭の量の割合が、上記石炭濃度の範囲内となる量の抽出用溶剤を抽出用溶剤供給部2から供給することが好ましい。
【0054】
<固液分離部>
上記固液分離部7は、上記混合部6で混合したスラリーから溶剤可溶成分が溶解した溶液を分離する。
【0055】
固液分離部7における上記溶液の分離は、具体的には重力沈降法により、混合部6で抽出用溶剤及びペースト化石炭が混合されたスラリーから溶剤可溶成分が溶解した溶液と溶剤不溶成分を含む固形分濃縮液とに分離する。ここで重力沈降法とは、重力を利用して固形分を沈降させて固液分離する分離方法である。また、溶剤不溶成分とは、主に抽出用溶剤に不溶な灰分と不溶石炭とで構成されており、抽出用溶剤も含まれている抽出残分をいう。
【0056】
当該無灰炭製造装置1は、スラリーを固液分離部7内に連続的に供給しながら、溶剤可溶成分を含む溶液を上部から排出し、溶剤不溶成分を含む固形分濃縮液を下部から排出することができる。これにより連続的な固液分離処理が可能となる。
【0057】
溶剤可溶成分を含む溶液は、固液分離部7の上部に溜まる。この溶液は、必要に応じてフィルターユニット(不図示)にて濾過した後、第1溶剤分離部8に排出される。一方、溶剤不溶成分を含む固形分濃縮液は、固液分離部7の下部に溜まり、第2溶剤分離部9に排出される。
【0058】
固液分離部7内でスラリーを維持する時間は、特に限定されないが、例えば30分以上120分以下であり、この時間内で固液分離部7内の沈降分離が行われる。なお、ペースト化石炭に混合する石炭として塊炭を使用する場合には、沈降分離が効率化されるので、固液分離部7内でスラリーを維持する時間を短縮できる。
【0059】
固液分離部7内は、加熱及び加圧することが好ましい。固液分離部7内の加熱温度の下限としては、300℃が好ましく、350℃がより好ましい。一方、固液分離部7内の加熱温度の上限としては、420℃が好ましく、400℃がより好ましい。上記加熱温度が上記下限未満であると、溶剤可溶成分が再析出し、分離効率が低下するおそれがある。逆に、上記加熱温度が上記上限を超えると、加熱のための運転コストが高くなるおそれがある。
【0060】
また、固液分離部7内の圧力の下限としては、1MPaが好ましく、1.4MPaがより好ましい。一方、上記圧力の上限としては、3MPaが好ましく、2MPaがより好ましい。上記圧力が上記下限未満であると、溶剤可溶成分が再析出し、分離効率が低下するおそれがある。逆に、上記圧力が上記上限を超えると、加圧のための運転コストが高くなるおそれがある。
【0061】
なお、上記溶液及び固形分濃縮液を分離する方法としては、重力沈降法に限られず、例えば濾過法や遠心分離法を用いてもよい。固液分離方法として濾過法や遠心分離法を用いる場合、固液分離部7として濾過器や遠心分離器などが使用される。
【0062】
<第1溶剤分離部>
上記第1溶剤分離部8は、固液分離部7で分離された上記溶液から抽出用溶剤及びペースト化用溶剤を蒸発分離して無灰炭(HPC)を得る。
【0063】
ここで抽出用溶剤及びペースト化用溶剤を蒸発分離する方法として、一般的な蒸留法や蒸発法(スプレードライ法等)を含む分離方法を用いることができる。分離して回収された抽出用溶剤及びペースト化用溶剤は、加熱部3よりも上流側の配管へ循環して繰り返し使用することができる。上記溶液からの抽出用溶剤及びペースト化用溶剤の分離及び回収により、上記溶液から実質的に灰分を含まない無灰炭を得ることができる。
【0064】
このように得られる無灰炭は、灰分が5質量%以下又は3質量%以下であり、灰分をほとんど含まず、水分は皆無であり、また例えば原料石炭よりも高い発熱量を示す。さらに無灰炭は、製鉄用コークスの原料として特に重要な品質である軟化溶融性が大幅に改善され、例えば原料石炭よりも遥かに優れた流動性を示す。従って無灰炭は、コークス原料の配合炭として使用することができる。
【0065】
<第2溶剤分離部>
上記第2溶剤分離部9は、固液分離部7で分離された上記固形分濃縮液から、抽出用溶剤及びペースト化用溶剤を蒸発分離させて副生炭(RC)を得る。
【0066】
ここで固形分濃縮液から抽出用溶剤及びペースト化用溶剤を分離する方法は、第1溶剤分離部8の分離方法と同様に、一般的な蒸留法や蒸発法(スプレードライ法等)を用いることができる。分離して回収された抽出用溶剤及びペースト化用溶剤は、加熱部3よりも上流側の配管へ循環して繰り返し使用することができる。抽出用溶剤及びペースト化用溶剤の分離及び回収により、固形分濃縮液から灰分等を含む溶剤不溶成分が濃縮された副生炭を得ることができる。副生炭は、軟化溶融性は示さないが、含酸素官能基が脱離されている。そのため、副生炭は、配合炭として用いた場合にこの配合炭に含まれる他の石炭の軟化溶融性を阻害しない。従ってこの配合炭は、コークス原料の配合炭の一部として使用することもできる。なお、配合炭は回収せずに廃棄してもよい。
【0067】
[無灰炭の製造方法]
当該無灰炭の製造方法は、抽出用溶剤を加熱する工程(溶剤加熱工程)と、ペースト化用溶剤及び石炭の混合によりペースト化石炭を得る工程(ペースト化石炭取得工程)と、上記抽出用溶剤及びペースト化石炭の混合によりスラリーを得る工程(スラリー取得工程)と、上記スラリーから石炭成分が溶解した溶液を分離する工程(溶液分離工程)と、分離された上記溶液から上記抽出用溶剤及びペースト化用溶剤を蒸発分離する工程(溶剤蒸発分離工程)と、上記溶液分離工程で分離された固形分濃縮液からの溶剤の蒸発分離により副生炭を得る工程(副生炭取得工程)とを備える。上記スラリー取得工程は、抽出用溶剤を供給する工程(溶剤供給工程)と、ペースト化石炭を圧送する工程(圧送工程)とを含む。以下、
図1の無灰炭製造装置1を用いる当該無灰炭の製造方法について説明する。
【0068】
<溶剤加熱工程>
上記溶剤加熱工程では、抽出用溶剤を加熱する。具体的には、抽出用溶剤タンク10と混合部6とを接続するライン中に配設されている加熱部3によって、配管内を流れる抽出用溶剤を抽出温度よりも高い温度まで加熱する。これにより、加熱された抽出用溶剤が主供給管19を介して混合部6へ供給される。
【0069】
<ペースト化石炭取得工程>
上記ペースト化石炭取得工程では、ペースト化用溶剤及び石炭の混合によりペースト化石炭を得る。具体的には、調製部4として混合機を用い、所定量の石炭とペースト化用溶剤とを混合機に投入し、撹拌混合することによりペースト化石炭を得る。
【0070】
<スラリー取得工程>
上記スラリー取得工程では、上記抽出用溶剤及びペースト化石炭を混合してスラリーを得る。スラリー取得工程は、溶剤供給工程及び圧送工程を含む。
【0071】
(溶剤供給工程)
上記溶剤供給工程では、抽出用溶剤を混合部6へ供給する。具体的には、抽出用溶剤タンク10に貯蔵する抽出用溶剤を抽出用溶剤圧送ポンプ11により主供給管19を介して混合部6へ圧送する。抽出用溶剤及びペースト化石炭を混合し易くするために、抽出用溶剤圧送ポンプ11によって混合部6に供給する抽出用溶剤を乱流状態で主供給管19内を圧送してペースト化石炭と混合してもよい。
【0072】
(圧送工程)
上記圧送工程では、ペースト化石炭取得工程で取得したペースト化石炭を主供給管19を介して混合部6へ供給する。具体的には、上述した第1弁14、第2弁15、加圧ライン16及び排気ライン17の操作を繰り返すことにより、ペースト化石炭ホッパ12に供給された所定量のペースト化石炭を加圧し、間欠的に主供給管19を介して混合部6へ圧送する。
【0073】
そして、上記溶剤供給工程及び圧送工程により供給される抽出用溶剤及びペースト化石炭を抽出槽18により混合してスラリーとする。さらに、抽出槽18で、このスラリーを抽出温度で所定時間保持し、溶剤可溶成分を抽出する。抽出用溶剤及びペースト化石炭が抽出槽18に供給される際、加熱された抽出用溶剤によってペースト化石炭が急速昇温され、抽出用溶剤及びペースト化石炭が混合されたスラリーは抽出温度となる。これにより、抽出槽18内で上記溶剤可溶成分が速やかに抽出される。
【0074】
<溶液分離工程>
上記溶液分離工程では、上記スラリー取得工程で混合したスラリーから、溶剤可溶成分が溶解した溶液と、溶剤不溶性分を含む固形分濃縮液とを分離する。具体的には、抽出槽18から排出されるスラリーを供給し、固液分離部7内で例えば重力沈降法により供給されたスラリーを上記溶液及び固形分濃縮液に分離する。
【0075】
<溶剤蒸発分離工程>
上記溶剤蒸発分離工程では、上記溶液分離工程で分離された溶液から上記抽出用溶剤及びペースト化用溶剤を蒸発分離して無灰炭を得る。具体的には、固液分離部7で分離された溶液を第1溶剤分離部8に供給し、第1溶剤分離部8で抽出用溶剤及びペースト化用溶剤を蒸発させて溶剤と無灰炭とに分離する。
【0076】
<副生炭取得工程>
上記副生炭取得工程では、上記溶液分離工程で分離された固形分濃縮液から蒸発分離により副生炭を得る。具体的には、固液分離部7で分離された固形分濃縮液を第2溶剤分離部9に供給し、第2溶剤分離部9で抽出用溶剤及びペースト化用溶剤を蒸発させて溶剤と副生炭とに分離する。
【0077】
<利点>
当該無灰炭の製造装置は、加熱された抽出用溶剤及びペースト化石炭を混合するので、ペースト化石炭が加熱された抽出用溶剤と迅速に混合される。また、抽出用溶剤の量に対してペースト化石炭に含まれるペースト化用溶剤の量を少なくすることで、これらの抽出用溶剤及びペースト化石炭が混合されたスラリーを急速に溶剤可溶成分の抽出され易い温度とすることができる。これにより、溶剤可溶成分が速やかに抽出され、当該無灰炭の製造装置は溶剤可溶成分の抽出時間を短縮できる。
【0078】
また、当該無灰炭の製造装置は、ペースト化石炭を加熱された抽出用溶剤と混合するので、直接石炭を加熱した抽出用溶剤と混合する場合に比べて石炭が抽出用溶剤と混合し易く、混合に要する時間が短い。その結果、迅速に石炭及び抽出用溶剤が混合したスラリーとなり溶剤可溶成分の抽出が開始するので、抽出時間が短縮され、無灰炭製造工程全体の処理時間を短縮できる。
【0079】
また、当該無灰炭製造装置は、従来の無灰炭製造装置のように抽出用溶剤及び石炭を混合したスラリーを加熱するのではなく、抽出用溶剤のみ加熱し、この加熱した抽出用溶剤をペースト化石炭と混合することによりペースト化石炭を昇温させる。スラリーよりも抽出用溶剤の方が取扱い易く、抽出用溶剤のみ加熱する方がスラリーを加熱するよりも加熱し易いので、当該無灰炭製造装置は、この点においてハンドリング性に優れる。
【0080】
〔第二実施形態〕
図2の無灰炭製造装置21は、ペースト化石炭を主供給管19へ供給するペースト化石炭供給部22の構成が
図1の無灰炭製造装置1とは異なる。当該無灰炭製造装置21は、ペースト化石炭供給部22の構成が異なる以外は、上記
図1の無灰炭製造装置1と同様の構成であるため、ペースト化石炭供給部22以外については同一符号を付して説明を省略する。
【0081】
<ペースト化石炭供給部>
上記ペースト化石炭供給部22は、ペースト化石炭を貯蔵するペースト化石炭ホッパ12と、ペースト化石炭圧送ポンプ23とを有している。
【0082】
上記ペースト化石炭ホッパ12には、上記無灰炭製造装置1と同様に、ペースト化用溶剤及び石炭が調製部4で撹拌混合されたペースト化石炭が供給される。
【0083】
上記ペースト化石炭圧送ポンプ23は、ペースト化石炭ホッパ12と主供給管19との間に配設され、ペースト化石炭ホッパ12内のペースト化石炭を連続的に主供給管19へ圧送する。
【0084】
上記ペースト化石炭圧送ポンプ23としては、高粘度の流動物を圧送できるものであれば特に限定されず、例えばモーノポンプ、サインポンプ、ダイヤフラムポンプ、ベローズポンプ、ロータリーポンプ等を用いることができる。これらのポンプの中でも、流動物の粘性が高くなっても効率が低下しない点で、モーノポンプが特に好ましい。
【0085】
<利点>
当該無灰炭の製造装置の混合部及びこれに接続する主供給管内は高圧となるが、当該無灰炭製造装置は、供給する石炭原料としてペースト化石炭を用いるので、石炭ホッパ内と主供給管内との圧力差の影響をあまり受けずにポンプによって石炭原料の供給圧力を制御できる。石炭原料として粉体の石炭を供給する場合は、上記圧力差の影響が大きいためにポンプによる石炭の供給量の制御は困難であるが、当該無灰炭製造装置は、ポンプによりペースト化石炭の供給量を容易に制御でき、安定した原料石炭の供給ができる。
【0086】
また、当該無灰炭の製造装置は、ポンプによりペースト化石炭を連続的に圧送するので、低い設備コストでペースト化石炭を供給する圧力の調整が容易にできる。また、主供給管等がペースト化石炭により閉塞することの抑止効果を高められる。
【0087】
[その他の実施形態]
なお、本発明の無灰炭の製造装置及び無灰炭の製造方法は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0088】
つまり、上記実施形態では、ペースト化石炭供給部が主供給管を介してペースト化石炭を混合部に供給することとして説明したが、ペースト化石炭供給部がペースト化石炭を直接混合部へ供給してもよい。このように、ペースト化石炭供給部が主供給管を介さずにペースト化石炭を混合部へ直接供給する場合でも、ペースト化石炭は、混合部内において混合部に供給される加熱された抽出用溶剤と迅速に混合し急速に昇温されるので、上記溶剤可溶成分が速やかに抽出される。
【0089】
また、上記実施形態では、混合部が抽出槽を有する構成について説明したが、この構成に限らず、抽出用溶剤とペースト化石炭との混合及び溶剤可溶成分の抽出ができれば、抽出槽を省略してもよい。例えば抽出時間が短く、ラインミキサーにより上記混合及び抽出が完了するような場合には、抽出槽を省略して主供給管と固液分離部との間にラインミキサーを備える構成としてもよい。
【0090】
また、上記実施形態では、ペースト化石炭が混合機で調製されることとして説明したが、ペースト化石炭ホッパ内でペースト化石炭を調製してもよい。例えばペースト化石炭ホッパに撹拌機を配設し、ペースト化用溶剤及び石炭をこのペースト化石炭ホッパに供給してペースト化石炭ホッパ内でペースト化石炭を調製してもよい。
【実施例】
【0091】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0092】
(実施例1)
石炭と溶剤(30℃における粘度が0.005Pa・s)とを混合して無水炭基準で石炭濃度50質量%のペースト化石炭を作成し、
図3に示す容量500ccのオートクレーブの容器31の上部に接続した配管36内に、このペースト化石炭を常温状態で仕込んだ。一方、上記ペースト化石炭の作成に用いた溶剤と同種の溶剤を容器31内に入れ、2.0MPaの加圧下で、ヒーター35により容器31内の溶剤を抽出温度(380℃)以上に加熱した。そして、配管36に設けた2つのバルブ37、38を開いて配管36内に窒素ガスを導入することで、配管36内のペースト化石炭を溶剤中に滴下させて、瞬時にペースト化石炭を抽出温度(380℃)まで昇温させた。そして、60分間の抽出時間をかけて溶剤可溶成分を抽出した。
【0093】
(比較例1)
石炭と溶剤(30℃における粘度が0.005Pa・s)とを混合してなるスラリーを
図3の容器31内に投入し、2.0MPaの加圧下で、撹拌機34で撹拌しながらヒーター35の出力を最大にして抽出温度(380℃)まで昇温した。そして、スラリーを抽出温度まで昇温した後、60分間の抽出時間をかけて溶剤可溶成分を抽出した。なお、実施例1で石炭をペースト化石炭とするために用いた溶剤も含めて、実施例1及び比較例1におけるスラリー中の石炭濃度が同じ(無水炭基準で石炭濃度13.8質量%)となるようにした。
【0094】
[溶剤可溶成分抽出評価]
実施例1及び比較例1について、以下のようにして溶剤可溶成分の抽出率を算出し、溶剤可溶成分の抽出率の評価を行った。
【0095】
実施例1及び比較例1について溶剤可溶成分を抽出した後、容器31の底部に接続した配管に設けたバルブ32を開いて、スラリーをフィルター33で熱時濾過し、濾液を受器39で受けた。そして、フィルター33上の濾残質量を測定して抽出率を算出した。なお、上記抽出率は、上記ペースト化石炭に用いた石炭の無水無灰ベース(d.a.f.)に対する抽出された溶剤可溶成分の無水無灰ベースの割合である。ここでは、上記ペースト化石炭に用いた石炭の無水無灰ベースから濾残の無水無灰ベースを減じたものを抽出された溶剤可溶成分の無水無灰ベースとして上記抽出率を算出した。このようにして、10分、20分及び60分の抽出時間における抽出率を算出した。
【0096】
実施例1及び比較例1における抽出時間と抽出率との関係を
図4のグラフに示す。ここで、抽出時間は容器31内のペースト化石炭が抽出温度(380℃)に達した時点から計測した。実施例1では、ペースト化石炭を滴下して数秒後にスラリーの温度が抽出温度に達し、比較例1では、容器31内のスラリーをヒーター35で加熱し始めてから約1時間後にスラリーの温度が抽出温度に達した。
【0097】
図4より、実施例1で抽出時間を20分間とした場合の抽出率(58.9質量%d.a.f.)が、比較例1で抽出時間を60分間とした場合の抽出率(59.5質量%d.a.f.)と略等しい。つまり、実施例1及び比較例1の加熱方法で同じ抽出率の溶剤可溶成分を抽出する場合、実施例1の方が比較例1よりも短時間で抽出できるといえる。これより、実施例1のように石炭を急速に昇温させることで、抽出速度が速くなることがわかる。
【0098】
また、同じ抽出時間(60分間)における抽出率を比較すると、実施例1の抽出率(61.0質量%d.a.f.)の方が比較例1の抽出率(59.5質量%d.a.f.)よりも大きい。これにより、実施例1のように混合する石炭を急速に昇温させることで、同じ時間での抽出率が向上する。