(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る無灰炭の製造装置及び無灰炭の製造方法の実施形態について詳説する。
【0021】
〔第一実施形態〕
図1の無灰炭製造装置1は、石炭を予備加熱する予備加熱部2と、抽出用溶剤を加熱する抽出用溶剤加熱部3と、予備加熱後の石炭及びこの石炭よりも高温に加熱された抽出用溶剤を混合する本加熱部4と、上記石炭及び抽出用溶剤の混合物から石炭成分が溶解した溶液を分離する分離部5と、上記溶液から上記抽出用溶剤を蒸発分離する第1蒸発部6とを主に備える。無灰炭製造装置1では、第1蒸発部6で上記溶液から抽出用溶剤が蒸発分離されることにより、無灰炭(HPC)が得られる。また、無灰炭製造装置1は、予備加熱用溶剤及び上記石炭を混合する調製部9と、上記抽出用溶剤を供給する抽出用溶剤供給部8と、分離部5で分離され抽出用溶剤に不溶な石炭成分(以下、溶剤不溶成分と呼ぶ)を含む固形分濃縮液から副生炭(RC)を得る第2蒸発部7とを備える。上記予備加熱部2では、調製部9で予備加熱用溶剤及び石炭が混合された予備混合物を予備加熱する。
【0022】
<抽出用溶剤供給部>
上記抽出用溶剤供給部8は、抽出用溶剤を本加熱部4へ供給する。抽出用溶剤供給部8は、抽出用溶剤タンク12及び抽出用溶剤圧送ポンプ13を有する。
【0023】
(抽出用溶剤タンク)
抽出用溶剤タンク12は、予備加熱部2から供給される予備加熱された予備混合物と混合する抽出用溶剤を貯蔵する。予備加熱された予備混合物と混合する抽出用溶剤は、石炭を溶解するものであれば特に限定されないが、例えば石炭由来の2環芳香族化合物が好適に用いられる。この2環芳香族化合物は、基本的な構造が石炭の構造分子と類似していることから石炭との親和性が高く、比較的高い抽出率を得ることができる。石炭由来の2環芳香族化合物としては、例えば石炭を乾留してコークスを製造する際の副生油の蒸留油であるメチルナフタレン油、ナフタレン油などを挙げることができる。
【0024】
上記抽出用溶剤の沸点は、特に限定されないが、例えば抽出用溶剤の沸点の下限としては、180℃が好ましく、230℃がより好ましい。一方、抽出用溶剤の沸点の上限としては、300℃が好ましく、280℃がより好ましい。抽出用溶剤の沸点が上記下限未満の場合、抽出用溶剤を蒸発分離する後述する第1蒸発部6及び第2蒸発部7で抽出用溶剤を回収する場合に揮発による損失が大きくなり、抽出用溶剤の回収率が低下するおそれがある。逆に、抽出用溶剤の沸点が上記上限を超える場合、溶剤可溶成分と抽出用溶剤との分離が困難となり、この場合も抽出用溶剤の回収率が低下するおそれがある。
【0025】
(抽出用溶剤圧送ポンプ)
上記抽出用溶剤圧送ポンプ13は、抽出用溶剤タンク12を本加熱部4へ接続するライン中に配設されている。抽出用溶剤圧送ポンプ13は、抽出用溶剤タンク12に貯蔵されている抽出用溶剤を主供給管15を介して本加熱部4へ圧送する。
【0026】
上記抽出用溶剤圧送ポンプ13の種類は、上記抽出用溶剤を主供給管15を介して本加熱部4へ圧送できるものであれば特に限定されないが、例えば容積型ポンプ又は非容積型ポンプを用いることができる。より具体的には、容積型ポンプとしてダイヤフラムポンプやチューブフラムポンプを用いることができ、非容積型ポンプとして渦巻ポンプなどを用いることができる。
【0027】
なお、抽出用溶剤圧送ポンプ13によって抽出用溶剤を乱流状態で主供給管15内を圧送してもよい。抽出用溶剤を乱流状態で予備加熱された予備混合物と混合することにより、予備加熱部2から供給される予備混合物に抽出用溶剤が激しく衝突し、石炭がより早く溶解する。これにより、抽出時間がより短縮されると共に、抽出率がより向上する。ここで「乱流状態」とは、例えばレイノルズ数Reが2100以上の状態であり、より好ましくはレイノルズ数Reが4000以上の状態である。
【0028】
<抽出用溶剤加熱部>
上記抽出用溶剤加熱部3は、抽出用溶剤圧送ポンプ13によって圧送される抽出用溶剤を加熱する。抽出用溶剤加熱部3は、抽出用溶剤を加熱できるものであれば特に限定されないが、一般的には抽出用溶剤加熱部3として熱交換器が用いられる。抽出用溶剤加熱部3として熱交換器が用いられる場合、配管内を流れる抽出用溶剤は、抽出用溶剤加熱部3を通る際に熱交換することにより加熱される。抽出用溶剤加熱部3として用いる熱交換器としては、例えば多管式型、プレート型、スパイラル型などの熱交換器が用いられる。なお、
図1に示す無灰炭製造装置1では、抽出用溶剤加熱部3が抽出用溶剤供給部8の抽出用溶剤圧送ポンプ13よりも下流側に配設されており、抽出用溶剤圧送ポンプ13によって圧送された抽出用溶剤を加熱しているが、先に抽出用溶剤加熱部3にて加熱した抽出用溶剤を抽出用溶剤圧送ポンプ13で圧送するようにしてもよい。つまり、
図1において抽出用溶剤圧送ポンプ13と抽出用溶剤加熱部3との配置が逆であってもよい。
【0029】
ここで、本加熱部4において高い抽出率が得られる予備混合物と抽出用溶剤との混合物の温度(上記抽出温度)は、300℃以上420℃以下程度である。従って、本加熱部4において予備混合物と混合された混合物がこの抽出温度となるような温度の抽出用溶剤を本加熱部4へ供給することが好ましい。予備加熱部2から供給される予備加熱された予備混合物の温度は抽出温度よりも低いため、抽出用溶剤加熱部3で加熱された抽出用溶剤は予備混合物と混合されることにより温度が低下するので、本加熱部4内の混合物の温度以上に抽出用溶剤を加熱するとよい。この観点より、抽出用溶剤加熱部3の下流における抽出用溶剤の温度の下限としては、330℃が好ましく、380℃がより好ましい。一方、上記抽出用溶剤の温度の上限としては、450℃が好ましく、430℃がより好ましい。上記抽出用溶剤の温度が上記下限未満の場合、本加熱部4で抽出用溶剤と予備加熱された予備混合物とが混合された混合物が抽出温度まで昇温され難くなり、石炭を構成する分子間の結合を十分に弱められず、抽出率が低下するおそれがある。逆に、上記抽出用溶剤の温度が上記上限を超える場合、本加熱部4で上記混合物の温度が高くなり過ぎ、石炭の熱分解反応により生成した熱分解ラジカルの再結合が起こるため、抽出率が低下するおそれがある。なお、上記抽出用溶剤加熱部3の下流における抽出用溶剤の温度とは、抽出用溶剤加熱部3の出口での抽出用溶剤の温度を意味する。
【0030】
上記抽出用溶剤加熱部3は、主供給管15内を流れる抽出用溶剤が抽出用溶剤加熱部3を通る間に上記範囲の温度となるよう加熱する。抽出用溶剤加熱部3での加熱時間は特に限定されないが、例えば10分以上30分以下である。また、抽出用溶剤は、熱効率を上げるために廃熱を利用して予め加熱されており、抽出用溶剤加熱部3を通る前の抽出用溶剤の温度は100℃程度である。従って、抽出用溶剤加熱部3は、毎分当たり10℃以上100℃以下程度の加熱速度で抽出用溶剤を加熱できるものが好ましい。なお、抽出用溶剤は、抽出用溶剤加熱部3を通る前に予熱されていなくてもよい。
【0031】
また、上記抽出用溶剤加熱部3は、高圧下で抽出用溶剤を加熱することが好ましい。抽出用溶剤の蒸気圧などにもよるが、抽出用溶剤加熱部3が抽出用溶剤を加熱する際の圧力の下限としては、1MPaが好ましく、2MPaがより好ましい。一方、上記圧力の上限としては、5MPaが好ましく、4MPaがより好ましい。抽出用溶剤加熱部3が抽出用溶剤を加熱する際の上記圧力が上記下限未満の場合、抽出用溶剤が揮発して後述する本加熱部4において上記溶剤可溶成分の抽出が困難となるおそれがある。逆に、上記圧力が上記上限を超える場合、設備コスト及び運転コストが増加するおそれがある。
【0032】
<調製部>
上記調製部9は、予備加熱用溶剤及び石炭の混合によりペースト状の予備混合物を得る。調製部9は混合機であり、所定量の石炭と予備加熱用溶剤とが混合機に投入され、混合機が撹拌混合することにより予備混合物を得る。ここで使用する混合機としては、高粘度に対応したものであれば特に限定されず、例えばモルタルミキサー、コンクリートミキサー等を使用できる。撹拌混合する時間は長い方がよいと考えられるが、製造効率の観点より、1時間以上3時間以下程度が好ましい。
【0033】
予備加熱用溶剤と混合する石炭としては、様々な品質の石炭を用いることができる。例えば抽出率の高い瀝青炭や、より安価な劣質炭(亜瀝青炭や褐炭)が好適に用いられる。また、石炭を粒径で分類すると、細かく粉砕された石炭が好適に用いられる。ここで「細かく粉砕された石炭」とは、例えば石炭全体の質量に対する粒径1mm未満の石炭の質量割合が80%以上である石炭を意味する。また、調製部9で予備加熱用溶剤と混合する石炭として塊炭を用いることもできる。ここで「塊炭」とは、例えば石炭全体の質量に対する粒径5mm以上の石炭の質量割合が50%以上である石炭を意味する。塊炭は、細かく粉砕された石炭に比べて石炭の粒径が大きいため、後述する分離部5での分離速度が早まり、沈降分離を効率化することができる。ここで、「粒径」とは、JIS−Z8815(1994)のふるい分け試験通則に準拠して測定した値をいう。なお、石炭の粒径による仕分けには、例えばJIS−Z8801−1(2006)に規定する金属製網ふるいを用いることができる。
【0034】
予備加熱用溶剤と混合する石炭の粒径1mm以下の粒子の含有量の下限としては、5質量%が好ましく、10質量%がより好ましい。上記石炭の粒径は小さいほど好ましく、上記含有量は100質量%以下であればよい。上記含有量が上記下限未満の場合、予備加熱用溶剤と混合し難くなり、予備混合物の調製時間が長くなるおそれがある。
【0035】
上記予備加熱用溶剤は、特に限定されないが、後述する分離部5で分離した上澄み液及び固形分濃縮液から無灰炭と副生炭とを分離し易い溶剤が好ましい。具体的には、上記予備加熱用溶剤として、例えば石炭由来の2環芳香族化合物が好適に用いられる。石炭由来の2環芳香族化合物としては、例えば石炭を乾留してコークスを製造する際の副生油の蒸留油であるメチルナフタレン油、ナフタレン油などを挙げることができる。また、上記予備加熱用溶剤としては、溶剤の再利用の観点で、抽出用溶剤供給部8から供給される抽出用溶剤と同種の溶剤を用いることが特に好ましい。
【0036】
上記予備混合物中の石炭濃度(無水炭基準)の下限としては、40質量%が好ましく、50質量%がより好ましい。一方、上記石炭濃度の上限としては、70質量%が好ましく、60質量%がより好ましい。上記石炭濃度が上記下限未満の場合、予備混合物に含まれる予備加熱用溶剤の割合が多くなり過ぎるため、同じ質量の石炭を抽出温度まで昇温させるために抽出用溶剤の温度を高くしなければならず、石炭と抽出用溶剤との混合物の温度上昇に必要なエネルギーが増加するおそれがある。逆に、上記石炭濃度が上記上限を超える場合、予備混合物中の石炭と予備加熱用溶剤との結合力が弱く、抽出用溶剤供給部8から供給される抽出用溶剤と混合し難くなり、予備混合物の昇温速度が遅くなるおそれがある。
【0037】
<予備加熱部>
上記予備加熱部2は、調製部9で混合された予備加熱用溶剤及び石炭の予備混合物を予備加熱した後、その予備混合物を本加熱部4へ供給する。予備加熱部2は、内部に収納される予備混合物を加熱する予備混合物加熱器10と、予備混合物圧送ポンプ11とを有する。
【0038】
予備混合物加熱器10は、例えば気流槽式の石炭加熱器であり、予備混合物加熱器10内に貯蔵された予備混合物を予備加熱する。
【0039】
予備混合物加熱器10における予備混合物の予備加熱温度の下限としては、100℃が好ましく、150℃がより好ましい。一方、予備混合物の予備加熱温度の上限としては、250℃が好ましく、200℃がより好ましい。予備混合物の予備加熱温度が上記下限未満の場合、石炭中の水分を除去しきれないおそれがあると共に、抽出用溶剤の加熱温度を高くする必要があり運転コストを十分に低減できないおそれがある。逆に、予備混合物の予備加熱温度が上記上限を超える場合、熱分解による石炭の性状の変化が生じるおそれがある。
【0040】
予備混合物加熱器10における予備混合物の加熱速度は、特に限定されないが、例えば上記予備混合物の加熱速度の下限としては、5℃/分が好ましく、10℃/分がより好ましい。一方、上記予備混合物の加熱速度の上限としては、200℃/分が好ましく、120℃/分がより好ましい。上記予備混合物の加熱速度が上記下限未満の場合、予備混合物の予備加熱に要する時間が長くなり、無灰炭の製造工程全体の時間が長くなるおそれがある。逆に、上記予備混合物の加熱速度が上記上限を超えると、予備混合物加熱器10で石炭の水分を十分に除去できず、その結果、本加熱部4における石炭の昇温時間が長くなるおそれがある。
【0041】
予備混合物は、急速加熱し、その後本加熱部4へ供給するまでの所定期間、保温してもよい。予備混合物の加熱後に予備混合物を100℃以上に保持する保温期間は、特に限定されないが、上記保温期間の下限としては、例えば30分が好ましく、1時間がより好ましい。一方、上記保温期間の上限としては、例えば3時間が好ましく、2時間がより好ましい。上記保温期間が上記下限未満の場合、予備加熱部2から本加熱部4に予備混合物を供給する時間が短くなり、設計に制約が生じるおそれがある。逆に、上記保温期間が上記上限を超えると、保温に要するエネルギーが大きくなり、運転コストが増加するおそれがある。
【0042】
上記予備混合物圧送ポンプ11は、予備混合物加熱器10と主供給管15との間に配設され、予備混合物加熱器10内の予備加熱された後の予備混合物を連続的に主供給管15へ圧送する。
【0043】
上記予備混合物圧送ポンプ11としては、高粘度の流動物を圧送できるものであれば特に限定されず、例えばモーノポンプ、サインポンプ、ダイヤフラムポンプ、ベローズポンプ、ロータリーポンプ等を用いることができる。これらのポンプの中でも、流動物の粘性が高くなっても効率が低下しない点で、モーノポンプが特に好ましい。
【0044】
主供給管15内を圧送される抽出用溶剤の質量に対する予備加熱部2から供給される予備混合物に含まれる予備加熱用溶剤の質量の比の下限としては、1/20が好ましい。一方、上記比の上限としては、1が好ましく、1/2がより好ましい。上記比が上記下限未満の場合、予備混合物中の石炭濃度を大きくしなければならず、予備混合物の調製時間が長くなるおそれがある。逆に、上記比が上記上限を超える場合、加熱された抽出用溶剤に対して予備混合物に含まれる予備加熱用溶剤の割合が多くなり過ぎ、同じ質量の石炭を抽出温度まで昇温させるために抽出用溶剤の温度を高くしなければならず、石炭と抽出用溶剤との混合物の温度上昇に必要なエネルギーが増加するおそれがある。
【0045】
<本加熱部>
上記本加熱部4は、抽出用溶剤供給部8から供給される抽出用溶剤と予備加熱部2から供給される予備加熱後の予備混合物との混合によりスラリー状の混合物を得る。本加熱部4は、抽出槽14を有している。
【0046】
(抽出槽)
上記抽出槽14には、主供給管15を介して上記抽出用溶剤及び予備加熱後の予備混合物が供給される。抽出槽14は、供給された抽出用溶剤及び予備加熱後の予備混合物を混合してスラリー状の混合物とし、この混合物を所定時間貯留する。
【0047】
上記抽出槽14は、撹拌機14aを有している。抽出槽14は、上記混合物を撹拌機14aで撹拌しながら所定温度で保持することにより上記溶剤可溶成分を抽出する。
【0048】
主供給管15内を圧送される抽出用溶剤は抽出用溶剤加熱部3で加熱されており高温であり、また予備加熱部2から供給される予備加熱後の予備混合物よりも高温であるため、予備加熱後の予備混合物に含まれる石炭は、主供給管15内及び本加熱部4で抽出用溶剤との混合により急速昇温される。なお、ここで「急速昇温」とは、例えば毎秒当たり10℃以上500℃以下の加熱速度で加熱されることを意味し、抽出用溶剤加熱部3での加熱速度よりも速い。また、主供給管15内を流れる抽出用溶剤は抽出温度よりも高い温度まで加熱されているが、抽出温度よりも低い温度の予備加熱後の予備混合物と接触すると予備混合物の温度の上昇に抽出用溶剤の熱が使用されるので、抽出槽14に供給される抽出用溶剤の温度は抽出用溶剤加熱部3にて加熱された抽出用溶剤の温度よりも低下する。その結果、抽出用溶剤及び予備混合物が抽出槽14まで主供給管15内を移動する際に、抽出用溶剤及び予備混合物の温度は、共に抽出温度(300℃以上420℃以下程度)に近づくよう変化する。これにより、抽出用溶剤及び予備混合物が混合された抽出槽14内のスラリー状の混合物は、上記抽出温度となる。
【0049】
上記抽出槽14における抽出用溶剤と予備混合物との混合物の保持温度の下限としては、300℃が好ましく、350℃がより好ましい。一方、上記混合物の保持温度の上限としては、420℃が好ましく、400℃がより好ましい。上記混合物の保持温度が上記下限未満の場合、石炭を構成する分子間の結合を十分に弱めることができないため、抽出率が低下するおそれがある。逆に、上記混合物の保持温度が上記上限を超える場合、石炭の熱分解反応が非常に活発になり生成した熱分解ラジカルの再結合が起こるため、抽出率が低下するおそれがある。
【0050】
なお、抽出槽14における上記混合物の加熱抽出は非酸化性雰囲気で行うことが好ましい。具体的には、上記混合物の加熱抽出を窒素等の不活性ガスの存在下で行うことが好ましい。窒素等の不活性ガスを用いることで、加熱抽出の際に上記混合物が酸素に接触して発火することを低コストで防止できる。
【0051】
上記混合物の加熱抽出時の圧力は、加熱温度や用いる抽出用溶剤及び予備加熱用溶剤の蒸気圧にもよるが、例えば1MPa以上3MPa以下とすることができる。加熱抽出時の圧力が抽出用溶剤又は予備加熱用溶剤の蒸気圧より低い場合には、抽出用溶剤又は予備加熱用溶剤が揮発して上記溶剤可溶成分が十分に抽出されないおそれがある。一方、加熱抽出時の圧力が高すぎると、機器のコスト、運転コスト等が上昇する。
【0052】
<分離部>
上記分離部5は、上記本加熱部4で混合した混合物から溶剤可溶成分が溶解した溶液を分離する。
【0053】
分離部5における上記溶液の分離は、具体的には重力沈降法により、本加熱部4で抽出用溶剤と予備混合物とが混合された混合物から溶剤可溶成分が溶解した溶液と溶剤不溶成分を含む固形分濃縮液とに分離する。ここで重力沈降法とは、重力を利用して固形分を沈降させて固液分離する分離方法である。また、溶剤不溶成分とは、主に抽出用溶剤及び予備加熱用溶剤に不溶な灰分と不溶石炭とで構成されており、抽出用溶剤及び予備加熱用溶剤も含まれている抽出残分をいう。
【0054】
無灰炭製造装置1は、上記混合物を分離部5内に連続的に供給しながら、溶剤可溶成分を含む溶液を上部から排出し、溶剤不溶成分を含む固形分濃縮液を下部から排出することができる。これにより連続的な固液分離処理が可能となる。
【0055】
溶剤可溶成分を含む溶液は、分離部5の上部に溜まる。この溶液は、必要に応じてフィルターユニット(不図示)にて濾過した後、第1蒸発部6に排出される。一方、溶剤不溶成分を含む固形分濃縮液は、分離部5の下部に溜まり、第2蒸発部7に排出される。
【0056】
分離部5内で混合物を維持する時間は、特に限定されないが、例えば30分以上120分以下であり、この時間内で分離部5内の沈降分離が行われる。なお、石炭として塊炭を使用する場合には、沈降分離が効率化されるので、分離部5内で上記混合物を維持する時間を短縮できる。
【0057】
分離部5内は、加熱及び加圧することが好ましい。分離部5内の加熱温度の下限としては、300℃が好ましく、350℃がより好ましい。一方、分離部5内の加熱温度の上限としては、420℃が好ましく、400℃がより好ましい。上記加熱温度が上記下限未満の場合、溶剤可溶成分が再析出し、分離効率が低下するおそれがある。逆に、上記加熱温度が上記上限を超える場合、加熱のための運転コストが高くなるおそれがある。
【0058】
また、分離部5内の圧力の下限としては、1MPaが好ましく、1.4MPaがより好ましい。一方、上記圧力の上限としては、3MPaが好ましく、2MPaがより好ましい。上記圧力が上記下限未満の場合、溶剤可溶成分が再析出し、分離効率が低下するおそれがある。逆に、上記圧力が上記上限を超える場合、加圧のための運転コストが高くなるおそれがある。
【0059】
なお、上記溶液及び固形分濃縮液を分離する方法としては、重力沈降法に限られず、例えば濾過法や遠心分離法を用いてもよい。固液分離方法として濾過法や遠心分離法を用いる場合、分離部5として濾過器や遠心分離器などが使用される。
【0060】
<第1蒸発部>
上記第1蒸発部6は、分離部5で分離された上記溶液から抽出用溶剤及び予備加熱用溶剤を蒸発分離して無灰炭(HPC)を得る。
【0061】
ここで抽出用溶剤及び予備加熱用溶剤を蒸発分離する方法として、一般的な蒸留法や蒸発法(スプレードライ法等)を含む分離方法を用いることができる。分離して回収された抽出用溶剤は、抽出用溶剤加熱部3よりも上流側の配管へ循環して繰り返し使用することができる。また、予備加熱用溶剤として抽出用溶剤と同質の溶剤を使用する場合には、予備加熱用溶剤も分離して回収でき、抽出用溶剤加熱部3よりも上流側の配管又は調整部9へ循環して繰り返し使用することができる。上記溶液からの抽出用溶剤及び予備加熱用溶剤の分離及び回収により、上記溶液から実質的に灰分を含まない無灰炭を得ることができる。
【0062】
このように得られる無灰炭は、灰分が5質量%以下又は3質量%以下であり、灰分をほとんど含まず、水分は皆無であり、また例えば原料石炭よりも高い発熱量を示す。さらに無灰炭は、製鉄用コークスの原料として特に重要な品質である軟化溶融性が大幅に改善され、例えば原料石炭よりも遥かに優れた流動性を示す。従って無灰炭は、コークス原料の配合炭として使用することができる。
【0063】
<第2蒸発部>
上記第2蒸発部7は、分離部5で分離された上記固形分濃縮液から、抽出用溶剤及び予備加熱用溶剤を蒸発分離させて副生炭(RC)を得る。
【0064】
ここで固形分濃縮液から抽出用溶剤及び予備加熱用溶剤を分離する方法は、第1蒸発部6の分離方法と同様に、一般的な蒸留法や蒸発法(スプレードライ法等)を用いることができる。分離して回収された抽出用溶剤は、抽出用溶剤加熱部3よりも上流側の配管へ循環して繰り返し使用することができる。また、予備加熱用溶剤として抽出用溶剤と同質の溶剤を使用する場合には、予備加熱用溶剤も分離して回収でき、抽出用溶剤加熱部3よりも上流側の配管又は調整部9へ循環して繰り返し使用することができる。抽出用溶剤及び予備加熱用溶剤の分離及び回収により、固形分濃縮液から灰分等を含む溶剤不溶成分が濃縮された副生炭を得ることができる。副生炭は、軟化溶融性は示さないが、含酸素官能基が脱離されている。そのため、副生炭は、配合炭として用いた場合にこの配合炭に含まれる他の石炭の軟化溶融性を阻害しない。従ってこの配合炭は、コークス原料の配合炭の一部として使用することもできる。なお、配合炭は回収せずに廃棄してもよい。
【0065】
[無灰炭の製造方法]
当該無灰炭の製造方法は、石炭を予備加熱する工程(予備加熱工程)と、抽出用溶剤を加熱する工程(抽出用溶剤加熱工程)と、予備加熱後の石炭及びこの石炭よりも高温に加熱された抽出用溶剤の混合により石炭を加熱する工程(石炭加熱工程)と、上記石炭及び抽出用溶剤の混合物から石炭成分が溶解した溶液を分離する工程(溶液分離工程)と、上記溶液から上記抽出用溶剤を蒸発分離する工程(溶剤蒸発分離工程)と、上記溶液分離工程で分離された固形分濃縮液からの上記抽出用溶剤の蒸発分離により副生炭を得る工程(副生炭取得工程)とを備える。以下、
図1の無灰炭製造装置1を用いる当該無灰炭の製造方法について説明する。
【0066】
<予備加熱工程>
上記予備加熱工程は、予備加熱用溶剤及び石炭を混合する工程(予備加熱用溶剤混合工程)と、石炭及び予備加熱用溶剤の予備混合物を加熱する工程(予備混合物加熱工程)とを有する。
【0067】
(予備加熱用溶剤混合工程)
上記予備加熱用溶剤混合工程では、予備加熱用溶剤と石炭とを混合し、ペースト状の予備混合物を得る。具体的には、所定量の石炭と予備加熱用溶剤とを調製部9に投入し、調製部9で撹拌混合することにより予備混合物を得る。
【0068】
(予備混合物加熱工程)
上記予備混合物加熱工程では、予備加熱用溶剤混合工程で得た予備混合物を加熱する。具体的には、上記調製部9で混合された予備混合物を予備混合物加熱器10内へ移送し、予備混合物加熱器10で予備混合物を所定の予備加熱温度まで加熱する。
【0069】
なお、上記予備加熱工程では、調製部9で調製した予備混合物を予備加熱部2で予備加熱することとしたが、予備加熱用溶剤のみを加熱しておき、石炭及び加熱した予備加熱用溶剤を混合することにより石炭が予熱温度に昇温されるようにしてもよい。例えば、上記予備加熱工程が、予備加熱用溶剤を加熱する工程と、加熱した予備加熱用溶剤及び石炭を混合する工程とを有する工程としてもよい。すなわち、予備加熱部が、予備加熱用溶剤を加熱する予備加熱用溶剤加熱部と、加熱した予備加熱用溶剤及び石炭を混合する予備加熱石炭混合部とを備える無灰炭製造装置としてもよい。この場合、予備加熱用溶剤加熱部により予備加熱用溶剤を予備混合物の予熱温度よりも高い温度まで加熱し、予備加熱石炭混合部で、この加熱した予備加熱用溶剤と常温の石炭とを混合することにより、予熱温度の予備混合物を得る。この場合、予備加熱用溶剤と石炭との予備混合物よりも予備加熱用溶剤のみを容易に加熱できる。
【0070】
また、上記予備加熱工程で、予備混合物を予備加熱する熱源として、他の工程の廃熱を利用してもよい。例えば、後述する溶剤蒸発分離工程や副生炭取得工程で蒸気として回収される溶剤の熱を利用して予備混合物を加熱することにより、予備加熱のための運転コストを低減できる。
【0071】
また、上記予備加熱工程で、予備加熱用溶剤として溶剤蒸発分離工程や副生炭取得工程で回収される溶剤を用いてもよい。これらの工程で蒸気として回収される例えば265℃程度の溶剤から熱交換により熱を回収した後の溶剤も例えば248℃程度の熱を保持しているので、この溶剤を例えば20℃の常温の石炭と混合するだけで、例えば150℃程度の加熱された予備混合物とすることができる。そして、上記熱交換により得られる熱でこの加熱された予備混合物をさらに例えば240℃程度に加熱し、本加熱部4へ供給する。このように、溶剤蒸発分離工程や副生炭取得工程で回収される溶剤を予備加熱用溶剤として利用することで、予備加熱のための運転コストをさらに低減できる。
【0072】
<抽出用溶剤加熱工程>
上記抽出用溶剤加熱工程では、抽出用溶剤を加熱する。具体的には、抽出用溶剤タンク12と本加熱部4とを接続するライン中に配設されている抽出用溶剤加熱部3によって、配管内を流れる抽出用溶剤を抽出温度(例えば380℃程度)よりも高い混合前溶剤温度Ts1まで加熱する。これにより、加熱された抽出用溶剤が主供給管15を介して本加熱部4へ供給される。
【0073】
抽出用溶剤加熱工程で抽出用溶剤を加熱する熱源として、他の工程の廃熱を利用してもよい。例えば、後述する溶剤蒸発分離工程や副生炭取得工程で蒸気として回収される溶剤の熱を抽出用溶剤の所定温度までの加熱に利用することで、抽出用溶剤の加熱のための運転コストを低減できる。また、溶剤蒸発分離工程や副生炭取得工程で回収される溶剤は、例えば248℃程度の熱を保持しているので、これらの回収された溶剤を抽出用溶剤として再利用することで、抽出用溶剤の加熱のための運転コストを低減できる。
【0074】
<石炭加熱工程>
上記石炭加熱工程では、上記抽出用溶剤及び予備加熱後の予備混合物を混合してスラリー状の混合物を得る。石炭加熱工程は、溶剤供給工程及び圧送工程を含む。
【0075】
(溶剤供給工程)
上記溶剤供給工程では、抽出用溶剤を本加熱部4へ供給する。具体的には、抽出用溶剤タンク12に貯蔵される抽出用溶剤を抽出用溶剤圧送ポンプ13により主供給管15を介して本加熱部4へ圧送する。抽出用溶剤及び予備混合物を混合し易くするために、抽出用溶剤圧送ポンプ13によって本加熱部4に供給する抽出用溶剤を乱流状態で主供給管15内を圧送して予備加熱後の予備混合物と混合してもよい。
【0076】
(圧送工程)
上記圧送工程では、予備加熱工程で予備加熱した予備混合物を主供給管15を介して本加熱部4へ供給する。具体的には、予備混合物圧送ポンプ11により、予備混合物加熱器10で予備加熱温度まで加熱した予備混合物を主供給管15を介して本加熱部4へ圧送する。
【0077】
そして、溶剤供給工程及び圧送工程により供給される抽出用溶剤及び予備加熱後の予備混合物を抽出槽14により混合してスラリー状の混合物とする。さらに、抽出槽14で、この混合物を抽出温度で所定時間保持し、溶剤可溶成分を抽出する。抽出用溶剤及び予備混合物が抽出槽14に供給される際、加熱された抽出用溶剤によって予備加熱された予備混合物に含まれる石炭が急速昇温され、抽出温度となる。これにより、抽出槽14内で上記溶剤可溶成分が速やかに抽出される。
【0078】
図2Aは、
図1の無灰炭製造装置1の予備混合物及び抽出用溶剤の温度変化を示す図である。
図2Aに示すように、予備混合物加熱器10で、調製部9から供給された常温Tnの予備混合物を石炭予備加熱期間B1で加熱し、予熱温度Tp1(例えば200℃以上250℃以下程度)まで予備混合物を加熱する。そして、保温期間Dで予熱温度Tp1が維持されるよう予備混合物を保温しつつ本加熱部4へ供給する。
【0079】
そして、
図2Aの石炭投入点Aで、予備加熱部2から予備加熱後の予備混合物が本加熱部4へ供給されると、予熱温度Tp1の予備混合物が混合前溶剤温度Ts1の抽出用溶剤との混合により、急速昇温期間Cに急速昇温され、予備混合物に含まれる石炭の温度が抽出温度Teとなる。
【0080】
ここで、
図2Bに予備混合物を予備加熱しない場合の予備混合物及び抽出用溶剤の温度変化を示す。石炭投入点Aで、常温Tnの予備混合物が混合前溶剤温度Ts2の抽出用溶剤との混合により、急速昇温期間Cで急速昇温され、予備混合物に含まれる石炭の温度が抽出温度Teとなる。
図2Aと同じ急速昇温期間Cで予備混合物を抽出温度Teまで昇温させるためには、予備混合物と混合する抽出用溶剤を混合前溶剤温度Ts1よりも高い混合前溶剤温度Ts2まで加熱しておかなければならない。溶剤の温度を高くするほど装置設計圧力が高くなるため、
図2Bの場合には、
図2Aの当該無灰炭の製造方法の場合に比べて設備コスト及び運転コストが増加する。つまり、当該無灰炭の製造方法により、設備コスト及び運転コストを抑えつつ石炭と抽出用溶剤との混合物を迅速に昇温させることができる。
【0081】
また、
図1の無灰炭製造装置1で、予備混合物の温度を
図2Cのように制御してもよい。この場合、一次予備加熱期間B2で、調製部9から供給された常温Tnの予備混合物を予熱温度Tp1よりも低い一次予熱温度Tp2(例えば100℃程度)まで加熱する。そして、予備混合物の温度が一次予熱温度Tp2に維持されるよう保温期間Dで保温し、本加熱部4へ供給される直前の二次予備加熱期間B3で、予備混合物を予熱温度Tp1までさらに加熱する。予備混合物の温度をこのように制御することで、予備混合物の保温に要するエネルギーを低減できると共に、本加熱部4へ供給する石炭投入点Aのタイミングに合わせて予備混合物をより短時間で予熱温度Tp1まで加熱することができる。例えば、上述したように溶剤蒸発分離工程や副生炭取得工程で回収される溶剤を予備加熱用溶剤として利用し、さらにこれらの工程から回収される溶剤が有する廃熱を予備混合物の予備加熱に利用する場合に、
図2Cのような予備混合物の温度制御が好ましく用いられる。
【0082】
<溶液分離工程>
上記溶液分離工程では、上記石炭加熱工程で混合した混合物から、溶剤可溶成分が溶解した溶液と、溶剤不溶性分を含む固形分濃縮液とを分離する。具体的には、抽出槽14から排出される混合物を供給し、分離部5内で例えば重力沈降法により供給された混合物を上記溶液及び固形分濃縮液に分離する。
【0083】
<溶剤蒸発分離工程>
上記溶剤蒸発分離工程では、上記溶液分離工程で分離された溶液から上記抽出用溶剤を蒸発分離して無灰炭を得る。具体的には、分離部5で分離された溶液を第1蒸発部6に供給し、第1蒸発部6で抽出用溶剤及び予備加熱用溶剤を蒸発させて溶剤と無灰炭とに分離する。
【0084】
<副生炭取得工程>
上記副生炭取得工程では、上記溶液分離工程で分離された固形分濃縮液から蒸発分離により副生炭を得る。具体的には、分離部5で分離された固形分濃縮液を第2蒸発部7に供給し、第2蒸発部7で抽出用溶剤及び予備加熱用溶剤を蒸発させて溶剤と副生炭とに分離する。
【0085】
<利点>
当該無灰炭の製造方法は、予備加熱部2で石炭及び予備加熱用溶剤の予備混合物を加熱し、本加熱部4で予備加熱後の予備混合物及びこの予備混合物よりも高温に加熱された抽出用溶剤を混合するので、抽出用溶剤の加熱温度を低く抑えながら予備混合物と抽出用溶剤との混合物を迅速に昇温させることができる。これにより、抽出用溶剤の加熱のためのコストを低減できると共に、上記混合物が急速に溶剤可溶成分の抽出され易い温度に上昇し、溶剤可溶成分を速やかに抽出できる。その結果、当該無灰炭の製造方法により、低コストで溶剤可溶成分の抽出時間を短縮できる。
【0086】
また、当該無灰炭の製造方法は、予備加熱部2で石炭及び予備加熱用溶剤の予備混合物を加熱するので、石炭加熱工程における抽出用溶剤との混合時の石炭温度の昇温効率が向上し易い。また、石炭及び予備加熱用溶剤の予備混合物を取り扱うことにより、石炭のみを扱うよりもハンドリング性が向上する。
【0087】
〔第二実施形態〕
図3の無灰炭製造装置21は、石炭を予備加熱する予備加熱部22の構成と、調整部を備えていない点とが
図1の無灰炭製造装置1と異なる。無灰炭製造装置21は、これらの異なる点以外は上記
図1の無灰炭製造装置1と同様の構成であるため、これら以外については同一符号を付して説明を省略する。
【0088】
上記
図1の無灰炭製造装置1の予備加熱部2が石炭及び予備加熱用溶剤の予備混合物を予備加熱するのに対し、無灰炭製造装置21の予備加熱部22は、石炭のみを予備加熱し、この予備加熱後の石炭を本加熱部4へ供給する。
【0089】
<予備加熱部>
上記予備加熱部22は、石炭を予備加熱した後、その石炭を本加熱部4へ供給する。予備加熱部22は、常圧状態で使用される常圧ホッパ23と、内部に収納される石炭を加熱する石炭加熱器24と、常圧ホッパ23と石炭加熱器24とを接続する配管に配設される第1弁25と、石炭加熱器24と本加熱部4の主供給管15とを接続する配管に配設される第2弁26とを有している。石炭加熱器24は、常圧状態及び加圧状態で使用できる加熱器であり、窒素ガスなどのガスを供給する加圧ライン27と、このガスを排気する排気ライン28とが接続されている。
【0090】
常圧ホッパ23に貯蔵された石炭は、第2弁26が閉の状態で第1弁25を開とすることにより、まず石炭加熱器24に移送される。このとき石炭加熱器24は常圧状態である。石炭加熱器24は、例えば気流槽式の石炭加熱器であり、石炭加熱器24内に移送された石炭を予備加熱する。
【0091】
石炭加熱器24における石炭の予備加熱温度の下限としては、100℃が好ましく、150℃がより好ましい。一方、石炭の予備加熱温度の上限としては、250℃が好ましく、200℃がより好ましい。石炭の予備加熱温度が上記下限未満の場合、石炭中の水分を除去しきれないおそれがあると共に、抽出用溶剤の加熱温度を高くする必要があり運転コストを十分に低減できないおそれがある。逆に、石炭の予備加熱温度が上記上限を超える場合、熱分解による石炭の性状の変化が生じるおそれがある。石炭の予備加熱温度を上記下限以上とすることにより、石炭中の水分を確実に除去できる。これにより、本加熱部4における石炭の急速昇温時の水のガスによって生じる急激な圧力上昇を防止できるので、原料準備段階における水分除去工程を省略することができる。
【0092】
石炭加熱器24で石炭を上記範囲内の予備加熱温度まで加熱した後、第1弁25を閉とし、加圧ライン27を介して窒素ガスなどのガスを石炭加熱器24に供給する。その結果、石炭加熱器24を含む第1弁25から第2弁26までの配管が加圧され、石炭加熱器24内が加圧状態となる。この際、石炭加熱器24内の圧力が主供給管15内の圧力と同等又はそれ以上となるよう加圧することが好ましい。そして、第2弁26を開とすることにより、石炭加熱器24内の石炭が主供給管15へ供給される。このように石炭加熱器24内を加圧状態とすることで、石炭加熱器24内の石炭を主供給管15へスムーズに供給できる。なお、
図3の予備加熱部22では、加圧ライン27及び排気ライン28は石炭加熱器24に接続されているが、第1弁25と第2弁26との間であれば、石炭加熱器24以外の配管等に接続されてもよい。
【0093】
ここで、第1弁25及び第2弁26の種類は、特に限定されるものではないが、第1弁25及び第2弁26として、例えばゲートバルブ、ボールバルブ、フラップバルブ、ロータリーバルブ等を使用することができる。
【0094】
常圧ホッパ23に貯蔵する石炭としては、
図1の無灰炭製造装置1で予備加熱用溶剤と混合する石炭と同様のものを用いることができる。
【0095】
[無灰炭の製造方法]
図3の無灰炭製造装置21を用いる当該無灰炭の製造方法は、第一実施形態の無灰炭の製造方法と同様に、予備加熱工程、抽出用溶剤加熱工程、石炭加熱工程、溶液分離工程、溶剤蒸発分離工程、及び副生炭取得工程を備える。当該無灰炭の製造方法は、予備加熱工程及び石炭加熱工程のみが第一実施形態の無灰炭の製造方法と異なるので、以下に当該無灰炭の製造方法の予備加熱工程及び石炭加熱工程について説明する。
【0096】
<予備加熱工程>
上記予備加熱工程では、予備加熱部22で石炭を予備加熱して本加熱部4へ供給する。具体的には、常圧ホッパ23から石炭加熱器24へ移送した石炭を抽出温度よりも低い所定温度まで加熱した後、本加熱部4へ供給する。このとき、本加熱部4に接続する主供給管15内へスムーズに石炭を供給できるよう、石炭加熱器24内を加圧した状態で石炭を本加熱部4へ供給する。
【0097】
<石炭加熱工程>
上記石炭加熱工程では、上記抽出用溶剤及び予備加熱後の石炭を混合してスラリー状の混合物を得る。当該無灰炭の製造方法の石炭加熱工程は、第一実施形態の無灰炭の製造方法と同様に、溶剤供給工程及び圧送工程を含む。溶剤供給工程は、第一実施形態の無灰炭の製造方法と同様であるので説明を省略する。当該無灰炭の製造方法の圧送工程について、以下に説明する。
【0098】
(圧送工程)
上記圧送工程では、予備加熱工程で予備加熱した石炭を主供給管15を介して本加熱部4へ供給する。具体的には、上述した第1弁25、第2弁26、加圧ライン27及び排気ライン28の操作を繰り返すことにより、石炭加熱器24に供給された所定量の石炭を加圧し、間欠的に主供給管15を介して本加熱部4へ圧送する。
【0099】
そして、上記溶剤供給工程及び圧送工程により供給される抽出用溶剤及び予備加熱後の石炭を抽出槽14により混合してスラリー状の混合物とする。さらに、抽出槽14で、この混合物を抽出温度で所定時間保持し、溶剤可溶成分を抽出する。抽出用溶剤及び石炭が抽出槽14に供給される際、加熱された抽出用溶剤によって予備加熱された石炭が急速昇温され、抽出用溶剤及び石炭が混合された混合物は抽出温度となる。これにより、抽出槽14内で上記溶剤可溶成分が速やかに抽出される。
【0100】
<利点>
当該無灰炭の製造方法は、石炭と予備加熱用溶剤とを混合する必要がないので、調整部を省略でき、装置構成を小型化し易い。
【0101】
[その他の実施形態]
なお、本発明の無灰炭の製造装置及び無灰炭の製造方法は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0102】
つまり、上記実施形態では、予備加熱部が主供給管を介して予備混合物又は石炭を本加熱部に供給することとして説明したが、予備加熱部から予備混合物又は石炭を直接本加熱部へ供給してもよい。このように、予備加熱部から主供給管を介さずに予備混合物又は石炭を本加熱部へ直接供給する場合でも、予備混合物又は石炭が本加熱部内において本加熱部に供給される加熱された抽出用溶剤と迅速に混合し急速に昇温されるので、上記溶剤可溶成分が速やかに抽出される。
【実施例】
【0103】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0104】
(実施例1)
石炭と溶剤とを混合して無水炭基準で石炭濃度50質量%のペースト状の予備混合物を作成し、
図4に示す容量500ccの第1オートクレーブ容器31の上部に接続した第2オートクレーブ容器36内に、この予備混合物を常温状態で仕込んだ。そして、第2オートクレーブ容器36に設けたヒーター34により第2オートクレーブ容器36内の予備混合物を250℃に予備加熱した。一方、抽出用溶剤として、質量比で上記予備混合物の2.6倍の量で、上記予備混合物の作成に用いた溶剤と同種の溶剤を第1オートクレーブ容器31内に入れ、溶剤の蒸気圧以上の加圧下で、第1オートクレーブ容器31に設けたヒーター35により第1オートクレーブ容器31内の溶剤を抽出温度(380℃)以上に加熱した。そして、第2オートクレーブ容器36に設けたバルブ38により第1オートクレーブ容器31よりも高圧になるよう窒素ガスを第2オートクレーブ容器36内に導入した後、バルブ37を開いて第2オートクレーブ容器36内の予備加熱した予備混合物を溶剤中に滴下させ、瞬時に予備混合物を昇温させた。そして、第1オートクレーブ容器31に設けた撹拌機31aで撹拌しながら60分間の抽出時間をかけて溶剤可溶成分を抽出した後、第1オートクレーブ容器31の底部に接続した配管に設けたバルブ32を開いて、スラリーをフィルター33で熱時濾過し、濾液を受器39で受けた。
【0105】
(比較例1)
第2オートクレーブ容器36内に仕込んだ予備混合物を予備加熱せずに、第1オートクレーブ容器31よりも高圧になるよう窒素ガスを第2オートクレーブ容器36内に導入し、バルブ37を開いて常温(25℃)のまま抽出用溶剤中に滴下させた以外は、実施例1と同様の処理を行った。
【0106】
[抽出用溶剤加熱温度評価]
実施例1及び比較例1について、予備混合物を抽出用溶剤中に滴下させる前の第1オートクレーブ容器31内の抽出用溶剤の加熱温度を変化させて、予備混合物を抽出用溶剤中に滴下して昇温させた後の予備混合物の温度を測定した。
【0107】
加熱した抽出用溶剤中に滴下して昇温させた後の予備混合物の温度が抽出温度(380℃)となる場合の予備混合物滴下前の抽出用溶剤の加熱温度は、実施例1では418℃であり、比較例1では483℃であった。これにより、予備混合物を予備加熱することにより、予備混合物を抽出速度まで昇温させるための抽出用溶剤の加熱温度を大幅に下げられることがわかる。予備混合物を予備加熱しない場合、抽出用溶剤の温度を非常に高くしなければならないため装置設計圧力が高くなり、その結果、設備コストが増加する。従って、予備混合物を予備加熱することで設備コストを低減できる。