(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第三の試薬が、標識試薬に対して、分析物もしくは分析物の複合体または誘導体の濃度とは実質的に独立な親和性を有することを特徴とする請求項1から3のいずれかの請求項に記載の装置。
標識試薬が分析物もしくは分析物の複合体または誘導体に対する抗体からなっており、第一の試薬が分析物もしくは分析物の複合体または誘導体に対する抗体であり、第二の試薬がアイソタイプコントロール抗体であり、第三の試薬が抗種抗体であることを特徴とする請求項1から6のいずれかの請求項に記載の装置。
分析物もしくは分析物の複合体または誘導体を含む液体試料を、変換器に接触した状態で保持できるチャンバーを、さらに備えていることを特徴とする請求項1から7のいずれかの請求項に記載の装置。
読み取り部とカートリッジ部からなっていて、カートリッジ部は読み取り部と着脱可能で、読み取り部には放射源と検知器が、カートリッジ部には変換器と第一、第二および第三の試薬が含まれていることを特徴とする請求項1から8のいずれかの請求項に記載の装置。
試料中の分析物もしくはその分析物の複合体または誘導体を検知する方法であって、請求項1から9のいずれかに記載の装置を試料に適用する工程、発生したエネルギーを電気信号に変換する工程、およびその信号を検知する工程からなることを特徴とする方法。
電磁放射を吸収し無輻射失活によってエネルギーを発生することができる標識、その標識に結合している担体、および、その担体に結合している、第一の相補結合対の第一構成物と第二の相補結合対の第一構成物とからなることを特徴とする標識試薬。
第一の相補結合対の第一構成物が、治療薬剤、薬物濫用治療薬、ビタミン類、ホルモン類から選ばれるものであり、第二の相補結合対の第一構成物がボヂピーFL、ダンシル、アレクサフロー405、アレクサフロー488、ルシファーイエロー、ローダミン、テキサスレッド、ビオチン、ジニトロフェニルアミノヘキサン酸から選ばれるものであることを特徴とする請求項13に記載の標識試薬。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の装置は試料中の分析物を(場合によっては、分析物の複合体または誘導体を検知することによって)検知するために用いられるものである。この装置は、一連の電磁放射パルスを発生するための放射源;焦電または圧電素子と電極とを有し、無輻射失活によって生じたエネルギーを電気信号に変換することのできる変換器;および変換器によって生じた電気信号を検知することのできる検知器を有している。本発明の装置はWO2004/090512に記載の装置に基づいたものであることが好ましい。
【0013】
図1には、本発明に用いられる、電磁放射に照射されると発熱する標識2を利用した化学感知装置1を示した。簡単のため、
図1には標識のみを示した(本発明の装置の他の構成要素については後に詳しく述べる)。
図1には標識2が存在している状態の化学感知装置1を示している。装置1は、電極皮膜4、5を有する焦電もしくは圧電変換器3を備えている。変換器3は、分極したポリビニルフロライド膜であることが好ましい。電極皮膜4、5は、好ましくは透明で、インジウム・スズ酸化物から形成されることがさらに好ましい。電極の厚さは、それ以下では電気伝導率が低くなりすぎてしまう下限1nmから、それ以上では光透過率が低くなりすぎてしまう(光透過率は80%以下であってはならない)上限100nmまでの間ならば、いかなる厚さでもよいが、約35nmであることが好ましい。変換器はインジウム・スズ酸化物でコーティングされたポリビニルフロライド膜であることが特に好ましい。
【0014】
標識2は結合が起こることによって変換器に隣接担持される。本発明の好ましい特徴は、電磁放射(典型的には「光」)、好ましくは可視光の発生源6によって照射されたときに、標識2が熱を発生することである。この光源としては、例えば、LEDが挙げられる。光源6は適当な波長(例えば、補色)の光を標識2に照射する。理論に縛られることを望むわけではないが、標識2は光を吸収して励起状態になり、その後、無輻射失活によって
図1の波線で示したようなエネルギーを発生すると考えられる。他のエネルギー、例えば、衝撃波のようなものが同時に発生することがあるかもしれないが、このエネルギーは基本的には熱の形態(すなわち、周辺環境の熱的運動)である。このエネルギーは変換器によって検知され電気信号に変換される。本発明の装置においては、測定する特定の標識について補正を行うため、無輻射失活によって生じたエネルギーの正確な形態を特定する必要がない。特に断らない限り、ここで用いる「熱」という用語は無輻射失活によって生じるエネルギーのことを意味するものとする。光源6は標識2を照射するように配置される。好ましくは、光源6は変換器3と電極4,5の反対側に配置され、標識2は変換器3および電極4,5越しに照射される。光源は、変換器内に組み込まれた光ガイドシステムのような内部光源でもよい。光ガイドは変換器そのものでもよいし、変換器に敷設された付加的な層でもよい。照射波長は用いる標識によって、例えば、40nmの金標識ならば525nmが好ましく、炭素標識ならば690nmが好ましい。
【0015】
標識2によって発生したエネルギーは変換器3によって感知され、電気信号へと変換される。この電気信号は検知器7によって検知される。光源6と検知器7は、ともに制御器8によって制御される。光源6は一連の、断続光と呼ばれる光パルス(ここで言う「光」とは、特に断らない限り、あらゆる形態の電磁放射を意味する)を発生する。原則的には、単閃光、すなわち、電磁放射の一パルスで十分に変換器3から信号が発生される。しかし、再現性のある信号を得るために、実用上、断続光としては複数の閃光を用いることが必要である。電磁放射のパルスの周波数は変化させてもよい。その下限としては、パルス間の時間間隔が各パルスと信号発生との時間差を十分に測定できる程度でなければならない。上限としては、データを記録するのに要する時間が不当に長引いてしまうほどパルス間の時間間隔が大きくなってはならない。パルスの周波数は、好ましく1から50Hz、さらに好ましくは1から10Hz、もっとも好ましくは2Hzである。これらの周波数は、それぞれ、20から1000ミリ秒、100から1000ミリ秒、500ミリ秒のパルス間の時間間隔に相当する。さらに、いわゆる「マーク・スペース比」、すなわち、オン信号のオフ信号に対する比率は、悪影響がない限りいかなる値でもよいが、好ましくは1である。長いオフ信号と短いオン信号を用いると、次のパルスが系を乱してしまう前に系を熱平衡に近づけることが出来るので、多くの利点が得られる。例えば、1から50ミリ秒、好ましくは8ミリ秒の光パルスと、それに続く10から500ミリ秒、好ましくは100ミリ秒の緩和時間によって表面に担持された粒子をより正確に測定することができる。様々な断続周期や様々なマーク・スペース比の断続光を発生する電磁放射源は、すでに公知である。検知器7によって、光源6からの各パルスと、変換器3から送られ検知器7によって検知された対応する電気信号との時間差が決定される。出願人は、この時間差が距離の関数であることを見出したのである。信号は2から7ミリ秒で測定されることが好ましい。
【0016】
各光パルスと、それに対応する、再現性のある結果をもたらすような電気信号との時間差を測定する方法は、いかなるものであってもよい。時間差の測定は、各光パルスの始めから、担持された標識から発せられる熱の吸収に対応する電気信号の最大値が検知器7によって検知される時点までを測定することが好ましい。
【0017】
従来、当業者らは、熱は周辺媒体に拡散するため、変換器3では検知不能か、あるいは、少なくとも意味のある信号を変換器で受信することはできないと考えていた。そのため、変換器表面から標識2が分離しても信号が検知される場合があると判ったことは驚くべきことであった。すなわち、驚くべきことに、エネルギーを変換器3に伝達することのできる中間媒体を介して信号が検知可能であると判明しただけでなく、異なる距離dにあることも判別(これを「深さ分析」という)できることが判ったのである。さらに、受信強度が変換器3の表面から特定の距離dにある標識2の濃度に比例することも判った。さらにまた、媒体それ自体の性質によって、時間差および特定の時間差における信号強度が影響を受けることも判った。
【0018】
本発明の装置は、免疫アッセイに特に有用である。
【0019】
典型的な免疫アッセイでは、まず、注目する抗原に対して特異的な抗体を、ポリビニルクロライドやポリスチレン・シートなどのポリマー支持体に付着させる。次に、細胞抽出物や血清あるいは尿の検体をシート上に滴下し、抗原‐抗体複合体が生成したら洗浄する。抗原の他の部位に特異的な抗体を次に加え、シートを再び洗浄する。この第2の抗体には標識が担持されていて、高い感度で検知できるようになっている。シートに結合する第2の抗体の量は検体中の抗原の量に比例している。このような測定法および同種の改良型の測定法はよく知られており、例えば、「The Immunoassay Handbook, 2nd Ed.」 David Wild編,Nature Publishing Group,2001に記載されている。本発明の装置は、これらのどの測定にも用いることができる。もちろん、サンドイッチ、競合、置換およびアンチ・コンプレックス免疫アッセイに用いることができるのは言うまでもない。
【0020】
本発明の基礎となる原理を説明するために、
図2には本発明の装置(ただし、第一の試薬のみ示されている)を用いた典型的な捕捉抗体アッセイを示した。装置は、変換器3と、溶解もしくは懸濁している分析物11を含む液体10を保持するための試料チャンバーとを備えている。変換器3には第一の試薬、すなわち、抗体12が付着などすることで備えられている。第一の試薬12は
図2ではフィルムに付着した状態で示されているが、この付着は共有結合によるものであっても、水素結合のような非共有的な表面への吸着であってもよい。また、図では第一の試薬は変換器に付着して描かれているが、いかなる形態で変換器3に第一の試薬を隣接担持させてもよい。例えば、変換器3と第一の試薬12の間にパリレンポリマーのような付加的な層を挿入して、両者を分離しても良いし、抗体を不活性な粒子に付着させ、その粒子を変換器3に付着させてもよい。あるいは、第一の試薬12をゲル層内にトラップして、そのゲル層で変換器3の表面をコーティングしてもよい。
【0021】
使用の際には、分析物11を含む液体(あるいは他の流体)10で試料チャンバーを満たす。すると、分析物11は第一の試薬12と結合する。標識試薬13を液体中に加え、結合した第一の試薬12、分析物11および標識試薬13とで、いわゆる「サンドイッチ」複合体を形成させる。標識試薬13は過剰に加えられるので、すべての結合した抗原11はサンドイッチ複合体を形成する。したがって、試料には、結合した標識試薬13と溶液中にフリーでいる結合していない標識試薬13とが含まれることになる。
【0022】
サンドイッチ複合体の形成中あるいは形成後に、試料に、光などの電磁放射による一連のパルスを照射し、各パルスと変換器3による電気信号の発生との時間差を検知器によって測定する。時間差は、結合した標識試薬13aが発生する熱を優先的に測定できるように適宜、選択する。時間差は変換器3から標識までの距離の関数だから、結合している標識試薬13aを結合していない標識試薬13bと区別することが可能である。このことによって、従来のサンドイッチ免疫アッセイで必要であった洗浄操作を省くことができるという、大きな利点が得られる。従来のサンドイッチ免疫アッセイでは、結合していない標識試薬が結合している標識試薬が発生する信号を妨害するため、どんな測定方法を使用するにせよ、測定前に、結合していない標識試薬を結合している標識試薬から分離しなければならなかった。しかし、本発明による「深さ分析」ならば、結合していない標識試薬と結合している標識試薬とが判別できる。実際、変換器に隣接(すなわち、結合)する標識とバルク溶液中の(すなわち、結合していない)標識とを判別できることは、本発明の特に有利な点である。
【0023】
また、本発明は、試料中の分析物、もしくは分析物の複合物または誘導体を検知する方法を提供するものである。この方法は、上記の装置を試料に適用する工程、発生したエネルギーを電気信号に変換する工程、およびその信号を検知する工程からなることを特徴としている。この方法では、変換器を試料に適用する工程と発生したエネルギーを電気信号に変換する工程との間で、変換器から試料を除去しないことが好ましい。すなわち、この方法は均質分析である。
【0024】
本発明では、測定系における構成要素の自然変動、測定すべき試料の変動、および測定中の環境条件の変動などを補正するために対照(コントロール)を用いる。この補正は、試料を変換器表面の試薬に接触させることで行われる。典型的には、変換器表面の異なる場所に異なる試薬を配置し、それぞれの場所にはそれぞれの試薬を塗布する。これらの対照は「陰性対照」と「陽性対照」である。すなわち、陰性対照は分析物が存在しないときの信号に相当するものであり、陽性対照は分析物が系内で飽和状態にあるときの信号に相当するものである。
【0025】
これらの対照を利用した分析を行うために、本発明の装置は第一、第二および第三の試薬を備えており、これらはいずれも変換器に隣接している。
【0026】
第一の試薬は、試料中の分析物の濃度に比例して標識試薬を結合することのできる結合部位を有している。注目する分析物の濃度を有意に測定するためには、結合が分析物の濃度に依存していなければならない。従って、上記の比例関係はアッセイの機能のうえで重要である。結合は、行う分析の種類に応じて、分析物濃度に正比例しても反比例しても良い。免疫アッセイのような非競合的なアッセイの場合は、結合は分析物濃度に正比例するが、競合的なアッセイの場合は、結合は分析物濃度に反比例する。
【0027】
第一の試薬は分析物、もしくは分析物の複合物または誘導体に結合するようにされていても良い。そのような場合、標識試薬は、分析物、もしくは分析物の複合物または誘導体の存在下で、第一の試薬と結合する。この場合、第一の試薬は、分析物、もしくは分析物の複合物または誘導体の存在下で、標識試薬を結合することのできる結合部位を有している。しかし、この場合でもやはり、結合は分析物の濃度に比例している。
【0028】
あるいは、第一の試薬は、それ自身が分析物の類縁体で、標識試薬が直接、第一の試薬に結合しても良い。(第一の試薬は、共有結合もしくは非共有相互作用によって変換器表面に結合するので、あくまで類縁体である)。この場合、第一の試薬は、結合していない分析物、もしくは分析物の複合物または誘導体と、標識試薬との結合で競合することになる。従って、第一の試薬は、単に標識試薬と結合可能なだけである。
【0029】
標識試薬の(直接、あるいは分析物、もしくは分析物の複合物または誘導体を介した)第一の試薬との結合の程度を調べることで、試料中の分析物の濃度を測定することができる。
【0030】
第二の試薬は、測定条件下において、標識試薬に対して第一の試薬よりも低い親和性を有するものである。従って、第二の試薬は陰性対照として機能する。親和性は測定条件のもとで考えることが重要である。すなわち、非競合的なアッセイの場合、標識試薬に対する第一の試薬の親和性は、あくまで分析物、もしくは分析物の複合物または誘導体を介したものだからである。従って、分析物、もしくは分析物の複合物または誘導体が存在しなければ、第一の試薬も第二の試薬も、ともに標識試薬に対する親和性を持たない。しかし、分析物、もしくは分析物の複合物または誘導体が存在している場合、第二の試薬は標識試薬に対して第一の試薬よりも低い親和性を有している。
【0031】
さらに、第一の試薬が分析物、もしくは分析物の複合物または誘導体に結合するような態様においては、第二の試薬は、分析物、もしくは分析物の複合物または誘導体に対しても、第一の試薬より低い親和性を有することが好ましい。第二の試薬はタンパクであることが好ましく、抗体であることがさらに好ましい。典型的には、第二の試薬は第一の試薬と類似の化学的、物理的性質を有しているが、測定条件下において、標識試薬に対してほとんど、あるいは、全く親和性を持っていないものである。第二の試薬は、測定条件下において、標識試薬に対して全く親和性を持っていないことが特に好ましい。また、第二の試薬は、分析物、もしくは分析物の複合物または誘導体に対しても、実質的に親和性を持っていないことが好ましい。すなわち、標識試薬、場合によっては、分析物、あるいは分析物の複合物または誘導体の第二の試薬に対する結合は非特異的である。したがって、第二の試薬によって、標識試薬の第一の試薬への非特異的な結合を補正することができ、さらに、測定の障害となる可能性がある、重力による沈降など、変換器に対する標識試薬の余計な動きも補正することができる。
【0032】
第三の試薬は標識試薬に結合し、その標識試薬に対する親和性は、試料中の分析物、あるいは場合によっては分析物の複合物または誘導体の濃度による影響を、第一の試薬よりも受けることが少ない。従って、第三の試薬は陽性対照として機能する。第三の試薬の標識試薬に対する親和性は分析物、あるいは分析物の複合物または誘導体の濃度と実質的に独立であることが好ましい。さらに、第三の試薬の標識試薬に対する親和性は、測定条件下で第一の試薬よりも高いことが、より好ましい。そのようにすると、第三の試薬によって、変換器に標識試薬が結合する拡散限界速度を測定することができるので、拡散下で得ることのできる最大信号を求められる。分析物、あるいは分析物の複合物または誘導体の濃度が極端に大きい場合、濃度効果が表れる可能性があるが、第一の試薬よりも濃度の影響を受けることが少ない親和性のため、高濃度でも第三の試薬は陽性対照として機能することができる。
【0033】
検知器からの出力を精査することで、レシオメトリックな信号を得ることができる。このレシオメトリックな信号は、第二および第三の試薬の結合(すなわち、それぞれ、陰性および陽性対照)に対する第一の試薬の結合(すなわち、測定信号)の程度を0.000から1.000の間の値として出力したものである。
【0034】
第一、第二、第三の試薬は公知の方法によって変換器に付着させることが出来る。この付着は、例えば、変換器上に薄層を吸着させ、その薄層に試薬を結合操作によって付着させるような、非共有結合によるものであることが好ましい。
【0035】
この測定には標識試薬の存在が不可欠である。この「標識」試薬とは、放射源によって発生された電磁放射を吸収して、無輻射失活によってエネルギーを発することのできる標識(ラベル)を有する試薬を意味する。変換器によって電気信号に変換されるのは、この無輻射失活に他ならない。
【0036】
従って、標識は、電磁放射と上記のような相互作用ができる材料で構成されていてもよい。標識は、例えば、以下のようなものから選択することが好ましいが、これに限定されるものではない。すなわち、炭素粒子、着色高分子粒子(例えば、着色ラテックス)、色素分子、酵素、蛍光分子、金属(例えば、金)粒子、ヘモグロビン分子、赤血球、磁性粒子、非導電性コア材と少なくとも1層の金属シェル層からなるナノ粒子、ポリピリオールまたはその誘導体からなる粒子、およびこれらの組合せなどである。標識は炭素粒子または金粒子が好ましく、炭素粒子がもっとも好ましい。
【0037】
磁性粒子の場合、電磁放射はラジオ波である。それ以外の上記のすべての標識では、赤外光、紫外光を含む光が用いられる。金粒子は一般に市販されているが、公知の方法(例えば、G.Frens,Nature,241,20−22(1973)参照)によって調製してもよい。ナノ粒子標識については米国特許6344272およびWO2007/141581に詳細な説明がある。
【0038】
本発明においては、粒径が好ましくは20から1000mm、より好ましくは100から500mmの粒子を用いる。ここでの粒径は、粒子の最大幅での直径を意味する。粒子の密度は測定の種類に応じて適宜選択される。測定を拡散律速で行う場合、粒子密度は好ましくは0.5から3.0g/mL、さらに好ましくは1.5から2.0g/mL、最も好ましくは1.8g/mLである。このタイプの測定の場合、粒子は上記のような粒径と密度の炭素粒子である。測定を重力利用で行う場合は、粒子密度は好ましくは1.5から23g/mL、さらに好ましくは15から20g/mL、最も好ましくは19g/mLである。このタイプの測定の場合、粒子は上記のような粒径と密度の金粒子である。
【0039】
結合が起こるとき、標識は変換器に隣接している。すなわち、標識は、試料が照射を受けた際に標識が発するエネルギーを変換器が十分に検知できる程度に、変換器表面に近接している。しかしながら、標識と変換器表面との間の距離は、現実的には様々な条件に依存している。例えば、標識の大きさや性質、抗体や分析物の大きさや性質、試料媒体の性質、電磁放射の性質、およびそれに対応する検知器の設定などである。本発明の装置には、一連の電磁放射パルスを発生する放射源が含まれていてもよい。検知器は放射源から発生された各々の磁放射パルスと電気信号の発生との時間差を得るのに用いられ、それによって
図1を参照しながら説明した変換器に対する標識の位置を正確に求めることができる。
【0040】
標識試薬と同様、第一、第二、第三の試薬の性質は、分析物に応じて決められるが、これらは抗体であることが好ましい。特に好ましい態様においては、標識試薬は、分析物、あるいは分析物の複合物または誘導体に対する抗体を有し;第一の試薬は、分析物、あるいは分析物の複合物または誘導体に対する抗体であり;第二の試薬はアイソタイプ・コントロール抗体であり;第三の試薬は抗種抗体である。原理的には各々の試薬は単分子でもよいが、実用上は、標識試薬と同様、第一、第二、第三の試薬は、それぞれ、分子集団である。ここで言う「抗体」には、その意味範囲に、Fab断片、一本鎖可変断片(scFv)、再結合断片が含まれることが好ましい。
【0041】
特に好ましい態様として、第一、第二、第三の試薬がそれぞれ抗体であって、第三の試薬の親和定数が10
7dm
3mol
−1以上、さらに好ましくは10
8dm
3mol
−1以上であるような態様が挙げられるが、これに限定されるものではない。この親和性は、「Immunoassys」J.P.Gosling編,Oxford University Press,2000,80−83頁に記載されている、抗体の親和性を決定する一般的な方法である、ELISAによるスキャッチャード式を用いた吸光度測定によって求められる。第二の試薬の親和性は、動結合速度が第三の試薬の好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。
【0042】
抗体抗原反応の代わりに、試薬と分析物が相補的な核酸同志であってもよいし、また、アビジンまたはその誘導体を含む試薬とビオチンまたはその誘導体を含む分析物、あるいはこの反対であってもよい。さらに、試薬はアプタマーであってもよい。この測定系は生物学的分析に限定されず、例えば、水中の重金属の検出などにも利用することができる。また、液体に限定される必要もなく、空気中の酵素、細胞、ウイルスなど、いかなる流体系にも適用することができる。
【0043】
観測可能な最大の信号は、表面に結合した標識を調べる際に得られる最大の信号である。代わりとなる質量移動(例えば、対流、磁気的な運動、浮力、沈殿など)がない限り、粒子の変換器への結合は、分析物の拡散速度によって決まり、一方、標識試薬の結合は成分の流体力学的半径と試料の粘度/温度に大きく依存する。陰性および陽性対照は、測定すべき分析物の有無とは無関係な信号を生ずるものでなければならない。
【0044】
陽性対照として抗種抗体(これによって標識試薬上の抗種抗体を識別する)を用い、陰性対照として非反応性アイソタイプコントロール抗体(あるいは、単に非反応性表面)を用いることで免疫アッセイ(すなわち、サンドイッチあるいは過剰試薬免疫アッセイ)の性能を向上させられることが判った。これらの対照を組み合わせて用いると、対照が測定系の測定範囲の上限・下限を定めることになる。すなわち、系からの出力はこれら二つの限界の間での測定値の比として定義される。驚くべきことに、この対照の組合せによって、系の構成要素(例えば、変換器を構成する金属)の違い、環境条件、試料の変動、粒子の余計な動き(例えば、沈降)などを捕捉することができる。本発明による対照によって、これらすべての変動要因を同時に補正できることが判った。
【0045】
分子が小さすぎて抗体とサンドイッチを形成できないような場合は、異なるタイプの測定法を考える必要がある。小さな分子の測定法としては「競合」アッセイが挙げられる。この測定法では、注目する分析物は系内の他の成分と「競合」して結合を阻害する。したがって競合アッセイでは、信号は分析物濃度に反比例する。例えば、分析物に対する抗体が変換器上に固定されている場合、試料中に分析物の標識類縁体を導入すると、分析物と分析物の標識類縁体とは表面上の抗体をめぐって競合する。分析物がなければ、標識類縁体は可能最大限の速さで結合するが、分析物の存在下では、変換器上の抗体は分析物の方とより結合するようになり、標識類縁体の結合速度は減少する。本発明は、このように系内での対照の変動値が減少するようなアッセイにも適用することができる。
【0046】
分析物の類縁体を粒子上に導入するには、まず、担体に類縁体を付着させて類縁体−担体接合体を形成して、次にその接合体を標識表面に付着させればよい。担体は、好ましくはタンパク、多糖類または合成高分子である。担体への類縁体の付着は共有結合によるものであることが好ましい。また、標識表面に接合体が吸着することで担体表面に接合体が付着することが好ましい。擬似的な最大結合速度を得るための方法として、担体タンパクと結合する抗体などの、担体を識別できる第三の試薬を変換器表面に用いることが考えられる。しかし、類縁体が担体表面をマスクして立体障害するため、この対照による結合速度は最適下限となることがある。粒子上の担体と類縁体の相対分布は大きく異なることもある。
【0047】
上記のように、競合アッセイにおいては、標識試薬は担体が付着している標識を有していることが好ましいが、その担体には2個の異なる分子が付着している。そのうちの一つの分子は分析物の類縁体であり、他方の分子は関係のない、しかし、類縁体/分析物と類似の大きさの分子である。これら2個の異なる分子は互いに1:1のモル比で担体と接合することが好ましい。その後、第三の試薬は、分析物がない時の第二の試薬と同じ速度で標識試薬と結合する。
【0048】
このような測定法(すなわち、競合アッセイ)に用いられる標識試薬は、本発明の装置とともに使用するように特化されたものである。従って、本発明は、電磁放射を吸収し無輻射失活によってエネルギーを発生することができる標識、その標識に結合している担体、および、その担体に結合している、第一の相補結合対の第一構成物と第二の相補結合対の第一構成物とからなることを特徴とする標識試薬を提供するものでもある。ここで、第一の相補結合対の第一構成物とは、検出すべき分析物の類縁体であり、従って、第一の相補結合対の第二構成物とは、第一の試薬、例えば、分析物に対する抗体である。また、第二の相補結合対の第一構成物とは、通常は試料中にはないが、第三の試薬と結合できる分子である。第二の相補結合対の第二構成物とは、第三の試薬である。担体は好ましくはタンパクである。第一および第二の相補結合対は、それぞれの結合対の第一および第二構成物が互いに親和性を持たないという意味で、それぞれ異なる結合対である。例えば、分析物が薬剤ジゴキシン、標識が炭素粒子、担体がウシ血清アルブミン、第一の相補結合対の第一構成物がジゴキシゲニン(ジゴキシンの類縁体)、第一の相補結合対の第二構成物が抗ジゴキシン抗体、第二の相補結合対の第一構成物がフルオレセイン・イソチオシアネートで、第二の相補結合対の第二構成物が抗フルオレセイン抗体であるような場合が考えられる。
【0049】
第一の相補結合対の第一構成物の例としては、治療薬剤(例えば、カルバマゼピン、シクロスポリン、ジゴキシン、テオフィリン、およびゲンタマイシン)、薬物濫用治療薬(例えば、アヘン剤、コカイン、およびアンフェタミン類)、ビタミン類(例えば、ビタミンD、ビタミンB12、および葉酸)、ホルモン類(例えば、T3、T4、コルチゾール、プロゲステロン、テストステロン)などが挙げられる。また、第二の相補結合対の第一構成物の例としては、ボヂピーFL、ダンシル、アレクサフロー405、アレクサフロー488、ルシファーイエロー、ローダミン、テキサスレッド、ビオチン(ただし、第一、第二および/または第三の試薬として免疫アッセイに用いられる場合を除く)、ジニトロフェニルアミノヘキサン酸などが挙げられる。
【0050】
本発明による測定のダイナミックレンジを増大させるとともに、精度も向上させるために、変換器の複数の場所に第一の試薬を配置することが好ましい。これらは場所によって、第一の試薬の濃度を変化させるなどして、異なる感度を有するようにしておいてもよい。また、場所によって、第二、第三の試薬が異なるダイナミックレンジの対照となるようにしておいてもよい。これは、系を構成する個々の構成要素の濃度に特に鋭敏な競合アッセイを行うときに有効である。
【0051】
装置は、また、上記のような複数の場所を有していてもよく、標識試薬は二つの異なる結合部位を有していてもよい。そのような場合、分析物は一つの場所の一つの部位をブロックするが、そのことによって対照試薬への結合が阻害されることはない。
【0052】
分析物は高分子でも小分子でもよい。高分子としてはホルモンのようなタンパクが代表的であるが、ウイルス、バクテリア、細胞(例えば、赤血球)、プリオンなどの巨大粒子の一部であってもよい。小分子の例としては、薬剤が挙げられる。
【0053】
ここで用いた「小分子」という言葉は、タンパクや核酸のような高分子と区別するために用いられる術語である。免疫アッセイの分野では、タンパクのような高分子担体と結合すると免疫反応を引き起こす小分子を、しばしば「ハプテン」と言い、それにはホルモンや合成薬剤も含まれる。この種の小分子の分子量は、典型的には2000以下であり、1000以下のことや、500以下の場合もある。第一の試薬は分析物自体と結合させるために用いられる。ただし、分析物は第一の試薬と結合する前に化学反応したり、初期的な複合体生成をしたりすることができる。例えば、分析物は、測定条件のpHに応じてプロトン化あるいは脱プロトン化することがある。このようにして第一の試薬に結合する分析物は、分析物それ自身でも、分析物の誘導体でもよく、本発明の範囲には、その両者がともに含まれる。
【0054】
同一試料中の小分子と高分子の存在を同時に検知するのに本発明を利用するのも好ましい態様の一つである。すなわち、この試料は少なくとも二つの分析物を含んでいて、そのうちの一方は小分子で、他方は高分子である。この場合、少なくとも2種の第一の試薬を用いる。一方は、競合アッセイで小分子と結合し、他方は免疫アッセイで高分子と結合する。第二、第三の試薬は好ましくは共通で、両者のアッセイで同じ陽性および陰性対照として機能する。
【0055】
一般に、ここで注目する分析物を含んでいると思われる試料は、液体、通常は体液(例えば、血液、血漿、唾液、血清、尿)などの生物学的試料などの流体である。試料は、懸濁粒子を含んでいてもよく、また、全血であってもよい。本発明の方法の利点の一つは、懸濁粒子を含む試料であっても測定結果に過度の影響を与えることなく測定ができることである。試料の量は、典型的にはμLのオーダー(例えば、1から100μL、好ましくは1から10μL)である。流体試料を保持するために、変換器は、上下の表面と一枚または複数の側壁を有する試料チャンバー内に置かれることが好ましい。従って、本発明の装置には、さらに、分析物、もしくは分析物の複合物または誘導体を含む試料を変換器に接した状態で保持するためのチャンバーが備えられていることが好ましい。変換器がチャンバーを構成する上下の表面、あるいは一枚または複数枚の側壁を形成して、チャンバーと一体化しているような態様は好ましい態様の一つである。
図3に示したように変換器が上部表面を形成していることが好ましい。第一、第二、第三の試薬と標識試薬は、試料と接触できるようにチャンバーの内側表面に配置されることはもちろんである。試料は、単に、表面張力によってキャピラリー導路内に保持されてもよい。
【0056】
装置が、第一の試薬を含む第一チャンバー、第二の試薬を含む第二チャンバー、および第三の試薬を含む第三チャンバーを備えていることも好ましい。これら第一、第二、第三チャンバーは流体接続されていることが好ましい。
図3のコア部21に示したように、装置には、さらに、試料チャンバーと流体接続する試料供給端と、装置外部と接続する試料流入端とを有するキャピラリー導路が備えられていることが好ましい。
【0057】
標識試薬は、場合によっては他の一つまたは複数の添加試薬とともに、本発明の装置に備えられたチャンバー内に保存される。標識試薬は、装置と標識試薬をセットにしたキットとして供給されてもよい。従って、本発明は、上記の装置と標識試薬とからなるキットを提供するものでもある。標識試薬は変換器表面に塗布されていてもよい。
【0058】
本発明は単一の分析物を検知することに限定されず、異なる複数の分析物を、個々の分析物、もしくは分析物の複合物または誘導体とそれぞれ結合する異なる複数の第一の試薬を用いて検知することができる。このようなマルチ分析は、変換器の異なる位置を連続的に照射し、得られた出力を連続的に解析することによって、変換器との唯一の電気接続を使って行うことができる。
【0059】
標識試薬および試料中の細胞成分を含む懸濁粒子が、圧電/焦電変換器表面に沈殿することは、バックグラウンド阻害要因となる可能性がある。この阻害要因は、変換器をバルク溶液の上方、例えば、反応チャンバーの上側表面に配置することで軽減することができる。このようにすれば、もし何らかの沈殿が生じても、それが変換器を阻害することはない。あるいは、粒子を媒体よりも低い密度にして、変換器表面に沈殿するよりも、むしろ、バルク溶液の表面に浮遊するようにすることも可能である。本発明の範囲には、このようなものや他の改良も含まれる。
【0060】
好ましい態様においては、本発明の装置は、実質的に、上記の特徴からなっている。ここで「実質的」とは、アッセイを行うのに他の要素は必要ないということである。装置は着脱可能な読み取り部とカートリッジ部とからなるセパレート型であってもよいし、一体型であってもよい。前者の場合、装置は読み取り部とカートリッジ部からなっていて、読み取り部には放射源と検知器が、カートリッジ部には、変換器と第一、第二および第三の試薬が含まれている。読み取り部はポータブルであることが好ましい。本発明は、上記の、変換器と第一、第二および第三の試薬からなるカートリッジを提供するものでもある。このカートリッジは使い捨てタイプであることが好ましい。
【0061】
本発明を以下の実施例を用いて説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0062】
PVDFフィルム
以下の実施例ではセンサー素子として、インジウム・スズ酸化物でコーティングされた圧電/焦電ポリビニリデンフロライド(PVDF)分極フィルムを用いた。インジウム・スズ酸化物表面に、蒸着法によってパリレン層(層厚:約1μm)を設けた。この蒸着法では、パラシクロファン前駆体を昇華させ、続いて、熱分解させ、表面上でフリーラジカル重合させた。詳しくはWO2009/141637を参照。次に、得られたフィルムにポリストレプトアビジン溶液(リン酸緩衝液中200μg/mL、ただし、2.7mmol/LのKCl、137mmol/LのNaCl、0.05%のTween界面活性剤を含むリン酸緩衝液10mmol/L)を塗布し、室温で一晩放置した。ティシャーら(米国特許5061640)に記載のようにポリストレプトアビジンが形成された。
【実施例2】
【0063】
材料
モノクローナル抗体を、実質的に「Monoclonal Antibodies:Properties,Manufacture and Applications」J.R.Birch,E.S.Lennox著、Wiley−Blackwell,1995に従って産生し、公知の方法によってビオチン標識した。炭素−標識接合体を、実質的にヴァン・ドーンら(米国特許5641689)に従って調製した。
【実施例3】
【0064】
カートリッジの作成
測定を行うために、
図3に示したようにカートリッジ14を製作した。カートリッジ14は、補強材16によって支持された抗体担持圧電/焦電フィルム15を用いて作成した。3カ所の試料チャンバー18を形成するために打ち抜きされたポリエステルフィルム17に感圧接着剤を塗布し、圧電/焦電フィルムに接着させた。この際、発生した電荷を検知できるように、圧電/焦電フィルム15の上部および底部の表面は電気接続ができるようにしておいた。このようにして得られた部材を、標識20が接合する上面カバー19、コア部21、封止材22および底部カバー23でサンドイッチすることでカートリッジ14を得た。
【0065】
コア部21内のキャピラリー導路を通じて試料を試料チャンバーに充填して測定を行った。複数のLEDを用いて、断続LED光を上面カバー19の穴を介して圧電/焦電フィルム15に照射し、各々のLEDパルスについて、圧電/焦電フィルム15を挟んだ電圧をアンプとアナログ−デジタル変換器(ADC)を用いて測定した。得られたADC信号は時間に対してプロットした。
【実施例4】
【0066】
対照を用いた免疫アッセイ
短冊状PVDF焦電ポリマーフィルムを、3か所の領域に分けて、ユニバーサル・ストレプトアビジンでコーティングをした。これら三つの領域は、センサー表面に付着した接着スペーサーによって区分し、ビオチン標識された異なる抗体を、表面上で互いに混ざりあうことなく連続的に保温静置できるようにした。この3か所の表面(スポット1、スポット2、スポット3とする)に、1μg/mLの3種の異なる抗体を塗布した。2時間静置した後、スクロース安定剤の存在下で表面を洗浄・乾燥させた。
【0067】
スポット1には陰性対照抗体(アブカム、カタログ番号:AB37358、ネズミIgGアイソタイプ、ビオチン標識済み)を塗布し、スポット2にはモノクローナル抗TSH抗体を塗布し、スポット3には陽性抗体として機能するポリクローナル・ヤギ抗ネズミ抗体を塗布した。このような短冊状フィルムを複数作成して、それから、接着スペーサーから剥離ライナーを取り除き、それぞれのフィルムを射出成型された部材に付着させてカートリッジを組み立てた。このようにして、最終的には内部で連絡した3つのチャンバーを形成した。これらのチャンバーは円盤状であり、直径は約6mm、深さは約200μm、内容量は約6μLであった。また、各カートリッジには、見合うだけの抗TSH抗体がコーティングされた炭素粒子を予め秤量して備えておいた。炭素粒子はカートリッジ内でドライダウンしたが、カートリッジには、これらの乾燥試薬と液体試料を混ぜ合わせて均一な混合物を作り、その混合物を上記した3か所のチャンバーに移動、充填する機構を備えておいた。混合した後の試料中での炭素粒子は、最終的に約0.03%程度の濃度であった。既知濃度の甲状腺刺激ホルモン(TSH)を含む、様々なヒト・プール血漿標準試料を、予め準備しておき、そのTSHレベルを臨床分析装置で確認した。各々の血漿試料について、複数(15)回の測定を繰り返して行った。それぞれの測定は、予め準備しておいたカートリッジを用いて、まず試料をカートリッジに導入し、次に、焦電フィルムからの電気出力を測るように設計された機器にカートリッジを挿入することで行った。
【0068】
上記の機器には転送ポンプが備えられていて、総量30μLの試料を炭素粒子と混ぜ合わせて得られた均一混合物をチャンバーに輸送した。その後、機器内では、3個の高出力LEDを用いて、各チャンバーに連続して10分間、約10ミリ秒のパルスを約90ミリ秒の間隔で断続的に照射した。LEDによる照射の結果、圧電/焦電センサーから出力された電気信号は機器内で増幅した。この電気信号は、炭素粒子が光を吸収し発した熱を圧電/焦電センサーが感知して発生したものである。チャンバー内の炭素粒子の運動は、直接的な結合でも余計な沈降でも、時間に対する電気出力の変化をもたらす。電気出力はデジタルデータに変換され、データは搭載されたプロセッサーによって処理した。このようにして、それぞれのチャンバーからの出力を、
図4に示したような、任意のデジタルスケールでの信号の時間変化として得た。
【0069】
6種の異なるTSH濃度(0、1.19、2.54、5.24、10.27および24.9mlU/L)の新鮮な試料について、各々15回ずつ繰り返して測定を行い、90個のカートリッジで約90個の測定結果を得た。各カートリッジからは独立した3つの出力を得た。結果は表1に示した通りである。
【0070】
【表1】
【0071】
表1のデータを、すべてのカートリッジについて4つの方法で解析した。
【0072】
解析法1:それぞれのTSH濃度について、スポット2の出力を平均して、平均値、標準偏差(SD)および変動係数(CV)を計算した。
【0073】
解析法2:それぞれのTSH濃度について、スポット2の出力からスポット1の出力を減じて(すなわち、スポット1を測定のベースラインとして用いて)から平均して、平均値、標準偏差(SD)および変動係数(CV)を計算した。
【0074】
解析法3:それぞれのTSH濃度について、スポット2の出力をスポット3の出力で割って(すなわち、スポット3を測定のスケールファクタとして用いて)から平均して、平均値、標準偏差(SD)および変動係数(CV)を計算した。
【0075】
解析法4:それぞれのTSH濃度について、スポット2およびスポット3の両方の出力からスポット1の出力を減じた(すなわち、両測定値ともにベースライン補正をした)。次に、スポット2のベースライン補正済み測定値を、スポット3のベースライン補正済み測定値で割って、各濃度の平均値、標準偏差(SD)および変動係数(CV)を計算した。
【0076】
上記4つの解析法の各々について、アッセイ精度の目安となるCV値を表2にまとめて示した。
【0077】
【表2】
【0078】
表2から、両方の対照を用いた方法は、すべての濃度で最も低いCV値を示すことは明らかである。
図5には対照を用いなかったデータの濃度作用曲線を示し、
図6には両方の対照を用いたデータの濃度作用曲線を示した。
【実施例5】
【0079】
対照を用いた競合アッセイ
実施例4と同様の方法で、スポット1に同じ抗体を塗布してカートリッジを作成した。スポット2にはモノクローナル抗ジゴキシン抗体を塗布し、スポット3にはモノクローナル抗フルオレセイン抗体を塗布した。本実施例では、ともに5倍モル比のジゴキシゲニン・N−ヒドロキシスクシンイミドとフルオレセイン・イソチオシアネートとで連続して前処理したウシ血清アルブミン(BSA)で炭素粒子をコーティングした。この炭素粒子へのBSA−ジゴキシゲニン−フルオレセイン接合体のコーティングは、受動的吸着によって行った。ジゴキシゲニンはジゴキシン(心臓薬)の類縁体であり、ジゴキシンそのものよりも結合定数は劣るものの、抗ジゴキシン抗体と結合する。
【0080】
予めジゴキシンを添加しておいたプール血漿内のジゴキシンレベルを臨床分析装置で確認してアッセイを行った。試料中にジゴキシンが存在することは、カートリッジ内のスポット2における抗ジゴキシン抗体への炭素粒子の結合に影響を与えた。しかし、ジゴキシンが、スポット3における粒子の結合を阻害することはなかった(ヒトの血液試料中には、通常、フルオレセインは存在しないことに注意)。従って、スポット3はジゴキシン濃度とは無関係に、対照として機能した。
【0081】
表3には、異なるジゴキシン濃度で各スポットから得られたデータを示した。
【0082】
【表3】
【0083】
データは実施例4と同様の方法、すなわち、対照なし、対照1のみ使用、対照3のみ使用、両方の対照を使用、の方法で解析した。ここで注意すべきことは、スポット3は実施例4では、試料が分析物で飽和しているときに予想される信号を再現するので、陽性対照として用いられていたことである。競合アッセイにおいては、濃度作用曲線は分析物に対して反比例するので、スポット3は分析物が存在しない状態のときを再現する対照である。
【0084】
表4に示したように、両方の対照を用いることで測定精度が大きく改善されることが明らかになった。
【0085】
【表4】
【0086】
図7、
図8には、標準偏差エラーバー付き濃度作用曲線を、対照がない場合および両方の対照がある場合それぞれについて示した。
【実施例6】
【0087】
対照と組み合わせたマルチ測定表面によるダイナミックレンジの向上
3か所ではなく4か所の測定領域をコーティングしたこと以外は、実施例5と同様にしてカートリッジを作成した。スポット1とスポット4は実施例5と同じ対照であり、スポット2とスポット3はともに抗ジゴキシン抗体を塗布したが、スポット2の抗体濃度は0.5μg/mLでスポット3の抗体濃度は2μg/mLとした。予め一定の範囲内にある濃度のジゴキシンを添加しておいたヒト・プール血漿を試料としてアッセイを行った。
図9に示したデータは、観測された機器信号の平均で、繰り返し測定の標準偏差エラーバー付きデータである。それぞれのカートリッジについて、スポット2(0.5μg/mLの抗ジゴキシン塗布)のデータは二つの対照スポット(スポット1および4)と組み合わせて解析し、スポット3(2μg/mLの抗ジゴキシン塗布)のデータも二つの対照スポット(スポット1および4)と組み合わせて解析した。対照スポットの利用方法は上記した実施例4、5と同様である。すなわち、最大結合対照スポット(この場合、スポット4)のベースライン補正済み信号で、測定スポットのベースライン補正済み信号を割ったものを出力とした。
【0088】
データを
図9に示した。図から明らかなように、濃度作用曲線は二つの抗ジゴキシン濃度で大きく異なっている。0.5μg/mLのコーティングでは、表面が比較的低い濃度のジゴキシンで飽和して濃度作用曲線が急傾斜になるので、比較的低い濃度の測定を向上させられる。しかし、約15ng/mL以上の濃度は識別できない。一方、2μg/mLのコーティングでは、濃度作用曲線は低い濃度で比較的緩やかなので、濃度の識別があまり良くない。しかし、40ng/mLくらいの濃度までの高い濃度での識別は良い。このように、対照を用いた本発明によるアッセイには、従来の競合アッセイよりも向上したダイナミックレンジを有するという利点がある。
【実施例7】
【0089】
異なる試料タイプに亘る、対照を用いたアッセイ
実施例4と同様にして、TSH測定用のカートリッジを100個用意した。これらを実施例4と同様に使用して、約75人の健康人のドナーから得たTSHレベルを測定した。このとき、試料の凝固を避けるために、非分離全血をヘパリンで処理してから測定を行った。並行して、同じドナーから血漿試料も採取し、有効臨床分析装置によって分析して、これらのドナーの血漿TSHレベルを確認した。焦電センサーシステムを用いて行った全血測定の結果は、実施例4と同様に処理した。すなわち、スポット2の利用、スポット1とスポット2を組み合わせた利用、スポット2とスポット3を組み合わせた利用、あるいは、スポット1、スポット2およびスポット3を組み合わせた利用、を行って出力を計算した。全血の血漿成分からの拡散による動的な測定を行ったので、機器からの出力は分析物の血漿濃度であり、血液試料のヘマトクリットとは独立である。
【0090】
図10から13には、病院から報告された濃度に対して、4種のデータ処理方法による測定結果をプロットして得た散布図をそれぞれ示した。
図10にはスポット2からのデータのみを用いた場合、
図11にはスポット1によってベースライン補正したスポット2からのデータを用いた場合、
図12にはスポット3で割ったスポット2からのデータを用いた場合、
図13にはスポット1によってベースライン補正したスポット2からのデータを、スポット1によってベースライン補正したスポット3からのデータに対する比として用いた場合を示した。これら4種の方法に対する相関係数(R
2)は、それぞれ、0.42、0.85、0.25および0.88であった。このことから両方の対照を用いて処理したデータが、病院での結果と最も良い相関を示したことが判る。
【0091】
上記の実施例4から6は、いずれも、試料マトリックがヒト・プール血漿の場合、対照を用いることで精度が向上することを示している。従って、このような向上は、カートリッジの構成要素、機器類、環境要因などの変動を補正することによって得られているに違いないが、しかし、試料タイプの変化によるものについては行われていない。よく知られているように、ヒトの血液や血漿試料は、粘度、ヘマクリット、阻害因子および一般成分が変動する。実施例7では、二つの対照を用いることは、患者群に対して行われる測定の精度を向上させる利点もあることを示している。
【実施例8】
【0092】
血漿を用いた再測定
実施例7で用いたのと同じ患者の試料を遠心分離して血漿から赤血球を除き、血漿成分について実施例7と全く同様の方法でTSH測定を行った。得られた出力を実施例7と全く同様の方法で処理し、病院での血漿の値との相関を調べた。その結果、スポット2、ベースライン補正したスポット2、スケール化したスポット2、および、ともにベースライン補正してスケール化したスポット2のデータの相関係数は、それぞれ、0.61、0.76、0.62および0.79だった。
【0093】
実施例7および8から、両方の対照を用いることで、測定中のカートリッジに用いられている構成要素や環境要因といった他の要因に加えて、試料タイプが異なることによる違いも補正できることが判る。
【0094】
実施例4から8では、免疫アッセイあるいは競合アッセイいずれの系においても、精度を向上させるために同様の方法が用いられている。一方、時として、同一試料中に含まれる小さな分子と大きな分子を同時に測定することが有利であるような場合がある。例えば、小分子薬剤の血漿濃度を測定して適正な治療濃度範囲にあることを確認するとともに、タンパクやホルモンを測って薬剤の効果を調べたいような場合である。採取する試料の量を制限したり、一連の多機能テストを同時進行させる必要を避けたりするためには、それぞれのアッセイを同時に同じ対照を用いて行うほうが、並行して行うよりも有利である。以下の実施例では、競合アッセイと免疫アッセイを同時に向上させる2つの対照を利用した例を示す。
【実施例9】
【0095】
同じ対照を用いて同時に行う、競合アッセイと免疫アッセイ、二つのアッセイ
実施例4から8と実質的に同様にして、カートリッジを準備した。これらカートリッジのそれぞれにはユニバーサル・ストレプトアビジンで表面コーティングした6つのセンサー表面を備えておいた。次に、スポット1にはビオチン標識した陰性対照抗体を、スポット6にはヤギ抗ネズミ抗体を、スポット2とスポット3にはポリクローナル・ネズミ抗TSH抗体を、そしてスポット4とスポット5にはビオチン標識したジゴキシゲニン分子を、それぞれ塗布した。なお、本実施例では6か所のスポットを使用したが、カートリッジ内でのそれぞれのスポットの表面積は、試料の全量が指穿刺で採取した血液の量である30μLのままで良いように狭くしておいた。本実施例における、スポット2/スポット3およびスポット4/スポット5は、それぞれ、TSHとジゴキシンの再測定であるが、これはアッセイを行うために特に必要なものではない。また、本実施例におけるジゴキシンの測定は、実施例5、6におけるものとは、ジゴキシン類縁体がセンサー表面に結合し、抗ジゴキシン抗体が炭素粒子に結合するという点で反対であることに注意すべきである。しかし、原理は同様であり、いずれの接合でもアッセイを行うことができた。
【0096】
TSH単独、ジゴキシン単独、あるいはTSHとジゴキシンの両方を、既知の濃度で添加した様々なプール血漿標準試料を予め準備しておき、その濃度を臨床分析装置によって確認した。この臨床分析装置で各々の試料についてTSHとジゴキシンの分離分析を行った。抗TSH抗体または抗ジゴキシン抗体のいずれか一方でコーティングされた等しい濃度の炭素粒子を用いて作成した複数のカートリッジによって、それぞれ異なる試料ごとに反復(n=10)アッセイを行ったが、同じ粒子群を上記2つの抗体で同時に共コーティングすることも可能である。
【0097】
機器出力を、実施例4、5と実質的に同様に解析した。TSHに関しては、スポット2、3からの出力を平均し、得られたデータをスポット1、6からの2つの対照用測定値を用いて処理した。スポット4、5は使用しなかった。4つの解析法は実施例4と同様である。一方、ジゴキシンに関しては、スポット4、5からの出力を平均し、得られたデータをスポット1、6からの上記と同じ2つの対照用測定値を用いて同様に処理した。スポット2、3は使用しなかった。4つの解析法は実施例5と同様である。
【0098】
表5には、4つのデータ解析法を用いた各々の反復測定の精度を示した。測定範囲の上限と下限を定める2つの対照用測定値を利用することで、すべての場合で精度が向上することは明らかである。
【0099】
【表5】
【0100】
機器出力(両方の対照を用いたレシオメトリックな信号)を標準偏差エラーバー付きで
図14に示した。それぞれの分析物の機器出力は、他の分析物の有無とは無関係であった。
【0101】
実施例9より、両方の対照を同時に用いることで、競合/免疫アッセイが組み合わされた多重測定の性能を向上させられることが判る。