特許第6203738号(P6203738)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6203738-滅菌プロセス 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6203738
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】滅菌プロセス
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/24 20060101AFI20170914BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20170914BHJP
   A01N 43/20 20060101ALI20170914BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20170914BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20170914BHJP
   A01N 1/02 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   A61L27/24
   A61L27/50 300
   A01N43/20
   A01N25/00 102
   A01P1/00
   A01N1/02
【請求項の数】10
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-540276(P2014-540276)
(86)(22)【出願日】2012年11月9日
(65)【公表番号】特表2014-534034(P2014-534034A)
(43)【公表日】2014年12月18日
(86)【国際出願番号】AU2012001388
(87)【国際公開番号】WO2013067598
(87)【国際公開日】20130516
【審査請求日】2015年11月5日
(31)【優先権主張番号】2011904681
(32)【優先日】2011年11月10日
(33)【優先権主張国】AU
(31)【優先権主張番号】13/561,787
(32)【優先日】2012年7月30日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514118206
【氏名又は名称】アドメダス・リージェン・プロプライアタリー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100091638
【弁理士】
【氏名又は名称】江尻 ひろ子
(72)【発明者】
【氏名】ニースリング,ウィリアム・モリス・レオナルド
【審査官】 横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−090673(JP,A)
【文献】 特表2006−511246(JP,A)
【文献】 特開昭57−168920(JP,A)
【文献】 J. Biomed. Mater. Res.,1977年,vol.11,p.297-314
【文献】 J. Hyg. Camb.,1983年,vol.91,p.287-292
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00−33/18
A61K39/00−39/44
A01N1/02
A01N25/00
A01N43/20
A01P1/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋されたコラーゲンベースの生体材料を滅菌および保管するための方法であって、
(i)前記架橋されたコラーゲンベースの生体材料を3%〜6%v/vプロピレンオキシドを含む溶液と接触させ、前記生体材料を30℃〜55℃で48時間より長い時間の間保温し、次いで
(ii)前記生体材料を前記溶液中で少なくとも4日間または生体材料の存在下にプロピレンオキシドがその場で(in situ)プロピレングリコールに変わるまで保管することを含む、
前記方法。
【請求項2】
保温温度が30℃〜55℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
保温温度が45℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
48時間後の保温温度を室温まで低下させる、請求項1−3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記溶液が3.8%〜4.5%v/vのプロピレンオキシドを含む、請求項1−4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記溶液が約4%v/vのプロピレンオキシドを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記コラーゲンベースの生体材料がヒツジ、ウシ、ヤギ、ウマ、ブタ、有袋類およびヒトからなる群から選択される動物から単離される、請求項1−6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記生体材料が心血管組織、心組織、心臓弁、大動脈根、大動脈壁、大動脈弁尖、心膜組織、結合組織、硬膜、外皮組織、血管組織、軟骨、心膜、靭帯、腱、血管、臍帯組織、骨組織、筋膜、ならびに粘膜下組織および皮膚からなる群から選択される細胞組織である、請求項1−7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
コラーゲンベースの生体材料を0.625%v/vグルタルアルデヒド溶液およびリン酸二水素カリウムpH7.4と接触させて架橋し、そして少なくとも24時間1〜5℃で保温する、請求項1−8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
滅菌された架橋されたコラーゲンベースの生体材料および3%〜6%v/vプロピレングリコール溶液を含む容器であって、前記プロピレングリコールが3%〜6%v/vプロピレンオキシド溶液の、生体材料が存在する間のその場での変化の結果もたらされたものである、前記容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移植可能な生体材料を滅菌するためのプロセスに関する。特に、本発明はコラーゲンを含有する移植可能な生体材料を滅菌するためのプロセスおよびその後の保管に関する。
【背景技術】
【0002】
移植可能な生体材料、特にコラーゲンベースの生体材料は、滅菌およびほとんどの場合使用前の保管を必要とする。一般に、移植可能なコラーゲンベースの生体材料の2つの広いクラス:(1)天然組織および(2)化学架橋された組織がある。従って、コラーゲンベースの生体材料のタイプおよび架橋が行われたか否かに応じて、その組織を滅菌する、ならびに一度それが滅菌されたら組織を保管する手段のニーズがある。
【0003】
化学架橋されたコラーゲンベースの生体材料、例えば心血管パッチ、心臓弁、マトリックスおよび動脈は通常架橋後に滅菌され、無菌溶液中で移植まで保管される。ガンマ線照射、紫外線照射および様々な化学薬剤が含まれる、化学架橋されたコラーゲンベースの生体材料に関するいくつかの滅菌法が、過去30〜40年にわたって試験および実施されてきた。これらの滅菌法のほとんどは汚染の予防において効率的であるが、有害な効果、例えば構造損傷(ペプチド結合の切断)および組織変性(引張強度の低下)がいくつかのこれらの方法の産業的適用に関する魅力をより低くしてきた。
【0004】
例えば、グルタルアルデヒドで架橋されたコラーゲンベースの生体材料は、アルコールベースの滅菌溶液に曝露された際、そのアルコールの組織中に存在する残留する未結合のグルタルアルデヒドとの相互作用により、化学的に不安定になり得る。アルコールがアルデヒドと反応した際に不安定なヘミアセチル(hemiacetyls)が形成される。これらの不安定なヘミアセチルはアルコールと反応してアセチルを形成する能力を有し、それは分離してアルデヒドおよびアルコールを形成し得る。
【0005】
従って、現在、コラーゲンベースの生体材料の製造業者の大部分は、化学架橋に関してグルタルアルデヒド−ホルムアルデヒドの組み合わせ、そして滅菌に関して非アルデヒド系薬剤の使用を好む。1つのそのような非アルデヒド系薬剤はエチレンオキシド(オキシラン)ガスであり、それは機械製心臓弁を滅菌するために長年用いられてきた。エチレンオキシドガスは様々な医療用設備、使い捨て物品および機械製心臓弁を滅菌するためにも用いられてきた。
【0006】
一度コラーゲンベースの生体材料を滅菌したら、それは通常移植前の期間の間保管される。コラーゲンベースの生体材料の中〜長期保管は、生理学的に安定な溶液中での汚染からの適切な保護を必要とする。商業的に入手可能なコラーゲンベースの生体材料のほとんどはなおアルデヒドベースの溶液中で保管されているが、有害な作用、例えば石灰化および線維化は周知である。
【0007】
1970年代以来、プロピレンオキシドが滅菌剤として用いられてきた(例えば、Hart & Brown, 1974, Appl Microbiol, Dec. p.1069-1070; Brown & Ng, 1975, Appl Microbiol, Sept. p483-484を参照)。それぞれの場合において、5%プロピレンオキシド+70%イソプロピルアルコールまたは0.5%クロルヘキシジンまたは2%セトリミドを含む溶液が細菌芽胞懸濁液の破壊において有効であった。しかし、プロピレンオキシドの使用は記録されてきたが、これは通常はアルコール(エタノールまたはイソプロパノール)の存在下で適用される。従って、アルコールをプロピレンオキシド滅菌への添加剤としてアルデヒドで架橋された組織(残留アルデヒドを含有する)と共に用いることは結果として高められたアルデヒドレベルをもたらす可能性があり、それは今度はこれらの組織の石灰化の可能性および最終的には生体プロテーゼの失敗を増大させる。
【0008】
従って、必要とされるものは、化学架橋されたコラーゲンベースの生体材料を滅菌するだけでなくその滅菌された生体材料に関する好都合な保管媒体も提供する効率的な滅菌プロセスである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Hart & Brown, 1974, Appl Microbiol, Dec. p.1069-1070
【非特許文献2】Brown & Ng, 1975, Appl Microbiol, Sept. p483-484
【発明の概要】
【0010】
本発明者らは、架橋されたコラーゲンベースの生体材料に関する典型的に用いられる滅菌および/または保管法と関係する問題を克服する、または少なくとも軽減するプロセスを開発した。
【0011】
従って、第1観点において、本発明は、架橋されたコラーゲンベースの生体材料を滅菌するための方法であって、前記架橋されたコラーゲンベースの生体材料を3%〜6%v/vプロピレンオキシドを含む滅菌溶液と接触させ、前記生体材料を30℃〜55℃で48時間より長い時間の間保温することを含む方法を提供する;ただし、その滅菌溶液にはアルコールが含まれないことを条件とする。
【0012】
一部の態様において、その保温温度は30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃、37℃、38℃、39℃、40℃、41℃、42℃、43℃、44℃、45℃、46℃、47℃、48℃、49℃、50℃、51℃、52℃、53℃、54℃、及び55℃の間である。他の態様において、その保温温度は30℃から、31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃、37℃、38℃、39℃、40℃、41℃、42℃、43℃、44℃、45℃、46℃、47℃、48℃、49℃、50℃、51℃、52℃、53℃、54℃または55℃までの間である。言い換えれば、30℃〜55℃の範囲の間の温度の全ての組み合わせが予想されている。一部の態様において、その保温温度は好ましくは35℃〜50℃、より好ましくは40℃〜48℃である。一部の態様において、その保温温度は約45℃である。
【0013】
一度保温期間が経過したら、すなわち48時間より長い時間が経過したら、その温度を室温まで低下させることが許容可能である。実際、その滅菌された架橋されたコラーゲンベースの生体材料を、この時点におけるように、最初の48時間の後いくらかの時間の間室温のままにすることができる。一度その滅菌された架橋されたコラーゲンベースの生体材料をプロピレンオキシド中で少なくとも4日間保温したら、そのプロピレンオキシドはプロピレングリコールに変化すると考えられ、そのコラーゲンベースの生体材料はすぐに使用できるであろう。
【0014】
一部の態様において、その滅菌溶液は3.8%〜4.5%v/vのプロピレンオキシドを含む。他の態様において、その滅菌溶液は約4%v/vのプロピレンオキシドを含む。一部の態様において、その滅菌溶液は本質的に3%〜6%v/vのプロピレンオキシドからなり、より好ましくはその滅菌溶液は3%〜6%v/vのプロピレンオキシドからなる。一部の態様において、その滅菌溶液は本質的に3.8%〜4.5%v/vのプロピレンオキシドからなり、より好ましくはその滅菌溶液は3.8%〜4.5%v/vのプロピレンオキシドからなる。一部の態様において、その滅菌溶液は本質的に約4%v/vのプロピレンオキシドからなり、より好ましくはその滅菌溶液は約4%v/vのプロピレンオキシドからなる。
【0015】
アルコール、特にエタノールおよび/またはイソプロパノールは本発明の滅菌溶液中で用いられないことは理解されるであろう。
【0016】
その滅菌工程が48時間(2日間)より長い時間の間実施されることは必要条件である;しかし、その滅菌溶液は保管媒体として用いることもできるため、その滅菌工程は2、3、4、5、6、7、8、9、10日間、またはより長い日数の間実施することができる。
【0017】
その架橋されたコラーゲンベースの生体材料は、コラーゲンを含む、本質的にコラーゲンからなる、またはコラーゲンからなるあらゆる材料であることができる。一部の態様において、そのコラーゲンベースの生体材料は動物から直接単離される。その生体材料は、受容者と同じ種からでも受容者と異なる種の動物からでも、あらゆる動物から単離することができる。好ましくは、その動物は哺乳類目、すなわち偶蹄目、ウサギ目、齧歯目、奇蹄目、食肉目および有袋目の1つからの動物である。より好ましくは、その動物はヒツジ、ウシ、ヤギ、ウマ、ブタ、有袋類およびヒトからなる群から選択される。
【0018】
その生体材料はあらゆるタイプの細胞組織であってよい。好ましくは、その細胞組織は、心血管組織、心組織、心臓弁、大動脈根、大動脈壁、大動脈弁尖(aortic leaflets)、心膜組織、結合組織、硬膜、外皮組織、血管組織、軟骨、心膜、靭帯、腱、血管、臍帯組織、骨組織、筋膜、ならびに粘膜下組織および皮膚からなる群から選択される。
【0019】
一部の態様において、その生体材料は、天然存在のコラーゲン含有組織ではなく、分離した、すなわち単離されたコラーゲンであり、および/またはそれを含む。その分離したコラーゲンはその単離された状態で用いられてよく、または当技術で既知のあらゆる医療装置または物品へと形成されてよい。
【0020】
一部の態様において、その生体材料は培養された組織、動物から得られた細胞外マトリックスを含有するプロテーゼ、再構成された組織(例えばコラーゲンマトリックス)等である。
【0021】
その生体材料はさらに、天然組織マトリックス中に一般的にあるポリマーを含め、合成ポリマー、生物学的ポリマー、または両方から形成された合成類似体を含み得ることも理解されるであろう。適切な合成ポリマーには、例えばポリアミド類およびポリスルホン類が含まれる。生物学的ポリマーは天然存在のものまたはインビトロで例えば発酵等により生成されたものでもよい。
【0022】
第2観点において、本発明は、以下の工程を含む、コラーゲンベースの生体材料を滅菌するための方法を提供する:
(a)コラーゲンベースの生体材料を用意し、同じものを氷冷した0.9%v/v生理食塩水溶液で洗浄し、前記生体材料を氷冷した0.9%v/v生理食塩水溶液/フェニル−メチル−スルホニル−フロリド(PMSF)中に入れ;
(b)前記コラーゲンベースの生体材料を0.625%v/vグルタルアルデヒド溶液およびリン酸二水素カリウム(pH7.4)と接触させ、同じものを約1〜5℃で少なくとも5日間保温して架橋されたコラーゲンベースの生体材料を生成し;
(c)前記架橋されたコラーゲンベースの生体材料を無菌の0.9%v/v塩化ナトリウム中でおおよそ10℃ですすぎ、次いでその架橋されたコラーゲンベースの生体材料を3.8%〜4.5%v/vプロピレンオキシドを含む滅菌溶液と接触させ、そして前記組織を30℃〜55℃で48時間より長い時間の間保温する;ただし、その滅菌溶液にはアルコールが含まれないことを条件とする。
【0023】
第3観点において、本発明は、架橋されたコラーゲンベースの生体材料を3%〜6%v/vプロピレンオキシドを含む溶液と接触させ、前記生体材料を30℃〜55℃で48時間より長い時間の間保温し、次いでその生体材料を前記プロピレンオキシドと、同じものがプロピレングリコールに変わるまで接触したままにすることを含む、滅菌された架橋されたコラーゲンベースの生体材料を保管するための方法を提供する;ただし、その溶液にはアルコールが含まれないことを条件とする。
【0024】
第4観点において、本発明は、第1、第2または第3観点に従う方法により生成された滅菌された架橋されたコラーゲンベースの生体材料を提供する。
【0025】
一度その滅菌された架橋されたコラーゲンベースの生体材料が本発明の方法により得られたら、それを移植可能な生物学的装置に含ませることができることは理解されるであろう。従って、第5観点において、本発明は、第4観点に従う滅菌された架橋されたコラーゲンベースの生体材料を含む移植可能な生物学的装置を提供する。
【0026】
本発明のさらなる観点において、本発明の架橋されたコラーゲンベースの生体材料は組織損傷を修復するためのキット内に収容される。従って、第6観点において、本発明は、以下:
(a)第4観点に従う滅菌された架橋されたコラーゲンベースの生体材料または第5観点に従う装置を有する無菌の容器;および
(b)損傷した対象に対する使用に関する説明書
を含む、組織損傷を修復するためのキットを提供する。
【0027】
第7観点において、本発明は、滅菌された架橋されたコラーゲンベースの生体材料および3%〜6%v/vプロピレングリコール溶液を含む容器を提供し、ここで前記プロピレングリコールは3%〜6%v/vプロピレンオキシド溶液の生体材料が存在する間のその場での(in situ)変化の結果もたらされた。
【0028】
本発明のコラーゲンベースの生体材料は、その全部を本明細書にそのまま援用するEyre et al., 1984, Annu. Rev. Biochem. 537, 717-748; Eyre, 1982, In: Symposium on Heritable Disorders of Connective Tissue (Akeson et al.編集) pp. 43-58, Mosby, ミズーリ州セントルイス; Davison & Brennan, 1983, Connect. Tissue Res. 11, 135-151; Robins, 1982, Methods Biochem. Analysis, 28, 330-379; Reiser, 1991, Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 196, 17-29において開示されている方法が含まれるがそれらに限定されない、コラーゲンを架橋する当技術で既知のあらゆる方法により架橋されてよい。しかし、本発明のコラーゲンベースの生体材料の架橋の好ましい方法は以下の工程を含み:
(a)コラーゲンベースの生体材料をアルコール含有溶液に少なくとも24時間曝露し;
(b)工程(a)における前記生体材料を架橋剤に曝露し;そして
(c)工程(b)における前記生体材料を酸性溶液に曝露する;
ここで工程(b)および(c)は工程(a)に続いて行われる。
【0029】
工程(a)において用いられるアルコール含有溶液は、好ましくは水ベースの液体であり、すなわち約50%v/vより大きい割合のアルコール、好ましくは60体積%〜80体積%のアルコールの水溶液である。緩衝された、または緩衝されていないアルコール含有溶液のどちらを用いることもできる;しかし、緩衝されたアルコール含有溶液はその後の架橋手順に悪影響を及ぼして黄色くなった生体材料をもたらすことが分かっているため、緩衝されていないアルコール含有溶液が用いられることが好ましい。
【0030】
好ましい架橋の方法は、アルコール含有溶液において当技術で既知のあらゆるアルコールを用いることができる。好ましくは、そのアルコールは緩衝剤を含まない溶液中のC〜C低級アルコールである。さらにもっと好ましくは、そのアルコールはメタノール、エタノール、シクロヘキサノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、イソブタノール、sec−ブタノールおよびt−ブタノールからなる群から選択される。
【0031】
一部の態様において、そのアルコール含有溶液は2種類又はこれ以上のアルコールの混合物を含み、ただしそのアルコールの合わせた体積は50%v/vより大きい。例えば、約70%v/vのエタノールおよび約10%v/vのイソブタノールの混合物が有効である。
【0032】
工程(a)における生体材料は、それがその生体材料を生体内での病原性石灰化に耐性にするのに十分である限り、あらゆる長さの時間の間アルコール含有溶液に曝露することができる。好ましくは、その生体材料はそのアルコールが拡散してその生体材料中に浸透することを可能にするために十分な時間の間そのアルコール含有溶液と接触したままである。より好ましくは、その生体材料は少なくとも24時間、さらにもっと好ましくは少なくとも36時間、そして最も好ましくは少なくとも48時間そのアルコール含有溶液に曝露される。
【0033】
その生体材料は、そのアルコール含有溶液への曝露の後、取り出されて1種類又はこれ以上の架橋剤に曝露される。それがコラーゲンを架橋することができる限り、当技術で既知のあらゆる形態の架橋剤またはそれらの組み合わせを用いることができる。従って、架橋剤にはジビニルスルホン(DVS)、ポリエチレングリコールジビニルスルホン(VS−PEG−VS)、ヒドロキシエチルメタクリレートジビニルスルホン(HEMA−DIS−HEMA)、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、アルデヒド類、イソシアネート類、ハロゲン化アルキルおよびアリール、イミドエステル類、N−置換マレイミド類、アシル化化合物、カルボジイミド、ヒドロキシクロリド、N−ヒドロキシスクシンイミド、光(例えば青色光および紫外線)、pH、温度、ならびにそれらの組み合わせが含まれるが、それらに限定されないことは理解されるであろう。好ましくは、その架橋剤は、カルボジイミド、ポリエポキシエステル類、ジビニルスルホン(DVS)、ポリアルデヒドおよびジフェニルホスホリルアジド(DPPA)からなる群から選択される化学架橋剤である。
【0034】
一部の態様において、そのポリアルデヒドはビ−、トリ−またはジ−アルデヒドである。グルタルアルデヒドが特に好ましい。
【0035】
一部の態様において、架橋工程(b)の後に、介在する洗浄工程ありまたはなしで工程(c)が行われる。工程(c)において用いられる酸性溶液は、工程(b)の後にその生体材料中に存在する固定された、および/または未固定の架橋剤部分を不活性化および/または修飾して利用可能なカルシウム結合部位を除去または低減することができるあらゆる酸を含有する。あるいは、または加えて、工程(c)において用いられる酸性溶液は、さらにコラーゲン上の活性化されたカルボキシル基を活性化されたアミン基と架橋してアミド結合を形成することができるあらゆる酸を含有する。好ましくは、その酸性溶液中の酸はアミノカルボン酸を含む。好ましくは、そのアミノカルボン酸は少なくとも1個のアミノ基および少なくとも1個のカルボン酸置換基を有する酸である。より好ましくは、そのアミノカルボン酸は、L−アルギニン、L−リシン、L−ヒスチジン、L−グルタメートまたはL−アスパルテートからなる群から選択される。
【0036】
その生体材料をすすぐ工程は、0.9%v/v生理食塩水のホスフェートを含まない溶液を用いて実施される。
【0037】
当業者は、好ましい架橋法中の工程のそれぞれが実施される温度は決定的に重要ではないことを理解しているであろうが、好ましくはその温度は2℃〜40℃、より好ましくは4℃〜30℃、最も好ましくは5℃〜25℃であることは理解されるであろう。
【0038】
1態様において、そのアルコール、酸性溶液およびすすぎ溶液は全て緩衝剤を含まない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1図1は、15℃〜45℃の様々な温度における時間の経過にわたる2%プロピレンオキシドのB.subtilisの芽胞に対する効果を示す。
図2図2は、15℃〜45℃の様々な温度における時間の経過にわたる4%プロピレンオキシドのB.subtilisの芽胞への効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明を詳細に記述する前に、この発明は個々の例示された生成の方法に限定されず、それは当然異なってよいことは理解されるべきである。本明細書で用いられる用語法は本発明の特定の態様を記述する目的のためだけのものであり、限定的であることを意図しておらず、それは添付された特許請求の範囲によってのみ限定されるであろうことも理解されるべきである。
【0041】
上記であれ下記であれ本明細書で引用される全ての刊行物、特許および特許出願は、本明細書にそのまま援用される。しかし、本明細書で言及される刊行物は、その刊行物中で報告されており本発明に関連して用いられ得るプロトコルおよび試薬を記述および開示する目的のために引用されている。本明細書におけるいずれも、本発明が先行発明によりそのような開示に先行する(antedate)権利を与えられていないという自認として解釈されるべきではない。
【0042】
さらに、本発明の実施は、別途示さない限り、当技術分野の技術の範囲内の従来の免疫学的技法、化学および薬理学を用いる。そのような技法は当業者には周知であり、文献において完全に説明されている。例えば、Coligan, Dunn, Ploegh, Speicher and Wingfield “Current protocols in Protein Science” (1999) 第I巻および第II巻(John Wiley & Sons Inc.);ならびにBailey, J.E. and Ollis, D.F., Biochemical Engineering Fundamentals, McGraw-Hill Book Company, ニューヨーク, 1986; Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology (MayerおよびWalker編集, Academic Press, ロンドン, 1987); Handbook Of Experimental Immunology, 第I巻〜第IV巻(D. M. WeirおよびC. C. Blackwell編集, 1986)を参照。
【0043】
本明細書において、および添付された特許請求の範囲において用いられる際、単数形“a”、“an”、および“the”には、そうではないことを文脈が明確に指示しない限り、複数への言及も含まれることを特筆しなければならない。従って、例えば、“架橋剤(a cross−linking agent)”への言及には複数のそのような薬剤が含まれ、“アルコール(an alcohol)”への言及は1種類又はこれ以上のアルコール類への言及である、等。別途定義されない限り、本明細書で用いられる全ての技術用語および科学用語は、この発明が属する技術分野における当業者により一般的に理解されている意味と同じ意味を有する。本明細書で記述される材料および方法と類似した、または均等なあらゆる材料および方法を本発明を実施または試験するために用いることができ、好ましい材料および方法をここで記述する。
【0044】
最も広い観点の1つにおいて、本発明はコラーゲンベースの生体材料を滅菌する方法に関する。
【0045】
本明細書で用いられる際、用語“生体材料”は、潜在的に生物学的用途を有するあらゆるコラーゲン含有材料を指す。そのコラーゲンはあらゆる源からのあらゆるタイプのコラーゲンである可能性があり、単独で、または他の材料との組み合わせで存在し得る。従って、そのコラーゲンはその生体材料の総重量の1%w/wほどの小さい割合に相当する可能性があり、または100%ほどの大きい割合に相当する可能性がある。
【0046】
用語“コラーゲン”は、本明細書で用いられる際、それらの硬い3本鎖らせん構造を特徴とする細胞外の線維性タンパク質のファミリーを指す。3本のコラーゲンポリペプチド鎖(“α鎖”)が互いの周りに巻きつけられてこのらせん状分子を形成する。その用語は様々なタイプのコラーゲンを含むことも意図されている。
【0047】
コラーゲンのらせん部分の主要な部分は哺乳類種の間でほとんど異ならない。実際、いくつかのコラーゲンのタイプは高い程度のヌクレオチドおよびアミノ酸配列の相同性を有する。例えば、コラーゲンアルファIタイプIIに関するヌクレオチド配列の相同性は、ヒト、ウマおよびマウスを比較した場合、少なくとも88%である。ヒトおよびウマはヌクレオチドレベルで93%の配列の相同性を有し、一方でマウスおよびウマは89%の配列の相同性を有する。ヒトおよびマウスに関するヌクレオチド配列の相同性は88%である(NCBI受入番号U62528(ウマ)、NM033150(ヒト)およびNM031163(マウス) http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照)。他のタイプのコラーゲンは類似したレベルのアミノ酸相同性を有する。例えば、ブタコラーゲンアルファIタイプIおよびヒツジコラーゲンアルファIタイプI型の間のヌクレオチド配列の相同性は90%である(NCBI受入番号AF29287(ヒツジ)およびAF201723(ブタ) http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照)。
【0048】
上記の動物の多くに関する共通の祖先および生物(biology)のレベル、いくつかの種、例えばウシ、ヒツジ、マウスおよびブタにわたるコラーゲンに関する高い程度のアミノ酸およびヌクレオチド配列の相同性を考慮して、当業者は本明細書で開示されるような生体材料を生成するための方法が全ての哺乳類動物から単離されたコラーゲン性材料に適用可能であることを理解するであろう。
【0049】
従って、一部の態様において、その生体材料は哺乳類目、すなわち偶蹄目、ウサギ目、齧歯目、奇蹄目、食肉目および有袋目の1つの動物から単離または回収される。その動物は好ましくはヒツジ、ウシ、ヤギ、ウマ、ブタ、有袋類またはヒトである。その生体材料は好ましくは受容者と同じ動物種から単離されるが、その生体材料はその受容者と異なる種から単離され得ることが予想される。
【0050】
あるいは、一部の態様において、その生体材料は培養された組織、再構成された組織等を含む。
【0051】
その生体材料はあらゆるタイプの細胞組織であり得る。例えば、その細胞組織は心血管組織、骨盤底組織、心組織、心臓弁、大動脈根、大動脈壁、大動脈弁尖、心膜組織、結合組織、軟らかい器官または実質器官のマトリックス、外皮組織、血管組織、硬膜、軟骨、心膜、靭帯、腱、血管、臍帯組織、骨組織、筋膜、および粘膜下組織または皮膚である可能性があり、これはこれらの全てがいくらかのコラーゲンを含むためである。
【0052】
その生体材料はさらに、天然組織マトリックス中に一般的にあるポリマーを含め、合成ポリマー、精製された生物学的ポリマー、または両方から形成される合成類似体を含み得る。適切な合成ポリマーには、例えばポリアミド類およびポリスルホン類が含まれる。生物学的ポリマーは天然存在のものまたはインビトロで例えば発酵等により生成されたものであることができる。
【0053】
精製された生物学的ポリマーを、織り、編み、注型(casting)、成形(moulding)、押し出し、細胞整列、および磁気整列のような技法により支持体へと適切に形成することができる。適切な生物学的ポリマーには、コラーゲン、エラスチン、絹、ケラチン、ゼラチン、ポリアミノ酸、多糖類(セルロースおよびデンプン)、およびこれらのいずれかのコポリマーが含まれるが、それらに限定されない。例えば、コラーゲンおよびエラスチンポリマーを、様々な技法、例えば織りおよび成形のいずれかにより合成の移植可能な材料へと形成することができる。合成組織類似体は天然組織マトリックスを真似る。あるいは、合成支持体を単独または天然存在の支持体と一緒にのどちらかで用いて、組織類似体を形成することができる。限定的でない例には、ポリプロピレン、ポリ乳酸、ポリエステル、ナイロン、シリコン等が含まれる。
【0054】
一度その生体材料が得られたら、それを架橋する。その架橋は、Eyre et al., 1984, Annu. Rev. Biochem. 537, 717-748; Eyre, 1982, In: Symposium on Heritable Disorders of Connective Tissue (Akeson et al.編集) pp. 43-58, Mosby, ミズーリ州セントルイス; Davison & Brennan, 1983, Connect. Tissue Res. 11, 135-151; Robins, 1982, Methods Biochem. Analysis 28, 330-379; Reiser, 1991, Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 196, 17-29において記述されている手順が含まれるがそれらに限定されない周知の手順のいずれかを利用することができる。
【0055】
好ましい架橋法は、本明細書にそのまま援用される出願者の国際特許出願第2006/066327号において開示されている。簡潔には、本発明のコラーゲンベースの生体材料を架橋する好ましい方法における最初の工程は、その生体材料をアルコール含有溶液と接触させることを含む。本明細書で用いられる際、用語“接触した”、または“接触させること”は、そのコラーゲンベースの生体材料を本明細書で記述されたような、または下記で記述されるような溶液または薬剤中に浸し、続いてその生体材料を架橋剤、酸性溶液または他の物と所望の結果をもたらすために十分な期間の間接触させる能動的な工程を指す。その生体材料を例えばアルコール含有溶液と接触させるための方法は、当技術で周知である。例えば、一般に、その生体材料は、その生体材料を溶液または薬剤中にスプレーする、浸漬する、または浸すことにより接触させることができる。
【0056】
用語“アルコール”は、本明細書で用いられる際、トリグリセリド類を除去し、またはその量を低減し、かつコラーゲン上にあるカルボキシル基を少なくとも部分的にエステル化することができる、当技術で既知のあらゆるアルコールを指す。好ましくは、そのアルコールは水溶性アルコールである。より好ましくは、そのアルコールは緩衝剤を含まない溶液中のC−C低級アルコールである。さらにもっと好ましくは、そのアルコールはメタノール、エタノール、シクロヘキサノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、イソブタノール、sec−ブタノールおよびt−ブタノールからなる群から選択される。
【0057】
いずれかの特定の理論または仮説により束縛されることを望むわけではないが、本発明者らは、そのアルコール含有溶液はコラーゲンの3重らせんを緩め、それにより疎水性部位を露出させるのを助けると考えている(Karube & Nishida, 1979, Biochim Biophys Acta., 23; 581(1): 106-13を参照)。彼らは、コラーゲン中にあるカルボキシルおよびアミン基がアルコール含有溶液の存在下でそれらが後の工程における架橋のために利用可能になるようにエステル化されるとも考えている。従って、好ましいアルコール溶液は、緩衝剤を含まない水溶液に対して少なくとも約50%v/v、より好ましくは少なくとも約70%v/v、そして最も好ましくは少なくとも約80%v/vのアルコールを含むアルコール溶液である。1態様において、そのアルコール溶液は0.9%生理食塩水(0.5mM PMSFを含有する)中の70%v/vエタノールである。
【0058】
一部の態様において、本明細書で用いられるアルコール含有溶液ならびに他の溶液および試薬は、アルデヒドを含有する架橋剤は固定の間に緩衝剤と反応してそのアルデヒドの脱重合を引き起こすという仮説が立てられているため、“緩衝剤を含まない”。
【0059】
その生体材料をアルコール含有溶液と接触させる工程は、それがその生体材料を生体内での病原性石灰化に抵抗性にし、かつコラーゲン中にあるカルボキシルおよびアミン基の大部分(すなわち高い割合)がエステル化されるために十分である限り、あらゆる長さの時間の間実施することができる。好ましくは、その生体材料はそのアルコールが拡散してその生体材料中に浸透することを可能にするために十分な時間の間そのアルコール含有溶液と接触したままである。より好ましくは、その生体材料は少なくとも24時間、さらにもっと好ましくは少なくとも36時間、そして最も好ましくは少なくとも48時間そのアルコール含有溶液に曝露される。
【0060】
一度そのコラーゲンベースの生体材料をアルコールに曝露したら、それを除去する。一部の態様において、その生体材料をアルコールへの曝露後に0.9%v/v生理食塩水のホスフェートを含まない溶液を含むすすぎ溶液中ですすぐ。しかし、あらゆる緩衝されていない生理的に許容可能な溶液をすすぎ溶液として用いることができる。そのすすぎ溶液の目的は主に過剰なアルコールを除去することであり、従って決定的に重要ではない。
【0061】
そのコラーゲンベースの生体材料をアルコールに24時間より長い時間の間曝露した後、次いでそれを1種類又はこれ以上の架橋剤、特に二官能性架橋剤と接触させる。用語“二官能性”は、本明細書で用いられる際、5炭素鎖の両方の末端に存在する2個の官能性アルデヒド基を指す。その架橋は、当技術で既知のあらゆる技法により、それがコラーゲンを架橋することができる限りあらゆる形態の架橋剤を用いて行うことができる。架橋剤には、アシル化化合物、アジピルクロリド、アルデヒド類、ハロゲン化アルキルおよびアリール、ビスイミデート類(bisimidates)、カルボジイミド類、ジビニルスルホン(DVS)、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、グリオキサール、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヒドロキシクロリド、ヒドロキシエチルメタクリレートジビニルスルホン(HEMA−DIS−HEMA)、イミドエステル類、イソシアネート類、光(例えば青色光および紫外線)、N−ヒドロキシスクシンイミド、N−置換マレイミド類、pH、ポリアルデヒド、ジフェニルホスホリルアジド(DPPA)、17〜25炭素の主鎖および4〜5個のエポキシ基を含むポリエポキシ化合物、ポリエポキシエーテル類、ポリエチレングリコールジビニルスルホン(VS−PEG−VS)、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルおよび温度ならびにそれらの組み合わせが含まれるが、それらに限定されない。
【0062】
一部の態様において、その架橋剤は化学架橋剤、例えばカルボジイミド、ポリエポキシエーテル類、ジビニルスルホン(DVS)、ゲニピン、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒドおよびジフェニルホスホリルアジド(DPPA)である。
【0063】
17〜25炭素の主鎖および4〜5個のエポキシ基を含むポリエポキシ化合物はコラーゲンの架橋に関して高い効率を示すことも実証されている(例えば米国特許出願第20040059430号(一連番号10/618,447)を参照)。ポリエポキシ化合物の毒性はグルタルアルデヒドの毒性よりも低く、コラーゲンのようならせん状ポリペプチド分子と反応させる場合、組織の抗原性または免疫応答誘発は反応時間に比例して減少することも示されている。天然に、それは比較的優れた生体適合性を示す(例えば、Lohre et al., (1992), Artif. Organs, 16:630-633; Uematsu et al., (1998), Artif. Organs, 22:909-913を参照)。従って、記述したようなポリエポキシ化合物が1つの好ましい架橋剤である。
【0064】
一部の態様において、その架橋剤は約1%のグルタルアルデヒドを含み、曝露の長さは少なくとも約24時間である。その生体材料のその架橋剤への曝露に関する時間の長さは、用いる薬剤、濃度および時間に依存することは理解されるであろう。典型的には、曝露の長さは24時間〜28日間である。その生体材料に関するその架橋剤への曝露時間の正確な長さを決定することは、十分に当業者の能力範囲内である。
【0065】
また、あらゆる特定の理論または仮説により束縛されることを望むわけではないが、本発明者らは、アルコールに曝露したコラーゲンベースの生体材料を架橋剤に曝露することにより、その生体材料中に存在するコラーゲン上のエステル化されたカルボキシル基およびアミン基が架橋されると考えている。
【0066】
当業者には好ましい架橋法の工程のそれぞれが実施される温度は決定的に重要ではないことは理解されるであろうが、好ましくはその温度は2℃〜40℃、より好ましくは4℃〜30℃、もっとも好ましくは5℃〜25℃であることは理解されるであろう。
【0067】
また、その架橋工程の後に、そのコラーゲンベースの生体材料は好ましくは、例えばアルコール曝露工程(a)の後に用いられるすすぎ溶液のようなすすぎ溶液中ですすがれる。しかし、そのすすぎ工程は単なる好適条件でしかないことも理解されるであろう。
【0068】
その架橋工程後に、または利用されるならばその架橋工程後のすすぎ工程後に、そのコラーゲンベースの生体材料を次いで本明細書で記述される方法による使用のために滅菌することができる。あるいは、そのコラーゲンベースの生体材料を工程(b)の後にその生体材料中に存在する固定された、および/または未固定の架橋剤部分を不活性化および/または修飾することができるあらゆる酸を含有する酸性溶液と接触させて、利用可能なカルシウム結合部位を除去または低減する。あるいは、または加えて、工程(c)において用いられる酸性溶液は、さらにコラーゲン上の活性化されたカルボキシル基を活性化されたアミン基と架橋してアミド結合を形成することができるあらゆる酸を含有する。
【0069】
好ましくは、その酸性溶液は少なくとも1種類のアミノカルボン酸を含む。用語“アミノカルボン酸”は、本明細書で用いられる際、少なくとも1個のアミノ基および少なくとも1個のカルボン酸置換基を有するあらゆる酸である。本発明において有用であるアミノカルボン酸の代表的な例には、L−グルタメート、L−アスパルテート、L−リシン、L−アルギニン、L−ヒスチジンが含まれるが、それらに限定されない。その酸性溶液の目的は二重である:第1に、そのアミノカルボン酸は固定された、および未固定の架橋剤部分の不活性化および/または修飾を助け、それによりあらゆる有害な生物学的効果を低減または軽減する。第2に、そのアミノカルボン酸はさらにコラーゲン上の活性化されたカルボキシル基を活性化されたアミン基と架橋してアミド結合を形成する。
【0070】
そのアミノカルボン酸の濃度は用いられる実際の酸および他のパラメーター、例えば用いられる生体材料の総質量等に依存するであろう。加えて、アミノカルボン酸の生体材料に対する最小湿重量比は約1:4であろう。その酸性溶液の最も重要な観点は、そのpHである。そのpHはpH7未満、好ましくはpH6未満、より好ましくはpH5未満、最も好ましくは約pH4.6未満でなければならない。
【0071】
1態様において、その酸性溶液は脱イオン水1ミリリットルあたり8mgのアミノカルボン酸であり、それはホスフェートを含まず、約pH4である。
【0072】
その架橋されたコラーゲンベースの生体材料をそのアミノカルボン酸に少なくとも6時間、より好ましくは少なくとも24時間、さらにもっと好ましくは48時間より長い時間曝露する。その保温温度は決定的に重要ではないが、それは好ましくは5℃〜55℃、より好ましくは10℃〜45℃、最も好ましくは約45℃である。
【0073】
一部の態様において、開示された架橋法の工程(c)はその生体材料中に存在するエラスチン分子上のメタロプロテイナーゼの形成を阻害する方法で置き換えられ、またはそれが追加される。具体的には、大動脈組織のような組織には他の組織中よりも高い割合のエラスチンが存在する。これらのエラスチン分子はメタロプロテイナーゼの形成のための部位を提供することができ、従ってこれらの部位を低減、除去または不活性化する必要がある。
【0074】
その架橋されたコラーゲンベースの生体材料を、その生体材料を酸性溶液および/または多価陽イオンを含有する緩衝剤を含まない溶液に曝露する工程の前または後に、好ましくは再度すすぎ溶液中ですすぐ。次いでその架橋されたコラーゲンベースの生体材料を滅菌する。
【0075】
その生体材料を滅菌する工程は、その架橋されたコラーゲンベースの生体材料を3%〜6%v/vプロピレンオキシドを含む滅菌溶液と接触させ、前記生体材料を30℃〜55℃で48時間より長い時間の間保温することを含む;ただし、その滅菌溶液にはアルコールが含まれないことを条件とする。
【0076】
アルコール、特にエタノールおよび/またはイソプロパノールは本発明の滅菌溶液中で用いられないことは理解されるであろう。
【0077】
高められた温度、例えば55℃より高い温度ではコラーゲンは細胞内分解を起こすことは十分に確証されている。実際、ヒトの皮膚の線維芽細胞内のコラーゲンは41℃より高い温度において増大した分解を起こし始めることが示されている(Palotie, 1983, Coll Relat Res. Mar; 3(2): 105-13)。従って、本発明の架橋されたコラーゲンベースの生体材料の滅菌において、保温の温度は決定的に重要な要因である。その温度は好ましくは55℃より高くなく、それはこれがコラーゲンが分解し始める機会を増大させるためである。しかし、実施例9および他の箇所で記述されるように、30℃より低い温度は低減した滅菌可能性を有するため、その保温温度は30℃より低くないことが重要である。
【0078】
当業者には、3%未満のプロピレンオキシドの濃度は本明細書で定義されるような十分な滅菌を提供しないであろうことは理解されるであろう。6%より高いプロピレンオキシドの濃度は有毒であり、その生体材料の完全性に有害な効果を有する。一部の態様において、その滅菌溶液は3.8%〜4.5%のプロピレンオキシドを含む。他の態様において、その滅菌溶液は約4%のプロピレンオキシドを含む。一部の態様において、その滅菌溶液は本質的に3%〜6%のプロピレンオキシドからなり、より好ましくはその滅菌溶液は3%〜6%のプロピレンオキシドからなる。一部の態様において、その滅菌溶液は本質的に3.8%〜4.5%のプロピレンオキシドからなり、より好ましくはその滅菌溶液は3.8%〜4.5%のプロピレンオキシドからなる。一部の態様において、その滅菌溶液は本質的に約4%のプロピレンオキシドからなり、より好ましくはその滅菌溶液は約4%のプロピレンオキシドからなる。
【0079】
用語“約”は、本明細書で用いられる際、その用語の後の値における上下10%の逸脱(deviation)を指す。例えば、約4%のプロピレンオキシドへの言及には、3.6%〜4.4%、すなわち4%の値の上下10%の範囲が含まれる。これには、3.7%、3.8%、3.9%、4.0%、4.1%、4.2%、4.3%および4.4%のプロピレンオキシドが含まれる。
【0080】
その滅菌工程が48時間より長い時間の間実施されることは必要条件である;しかし、本明細書で記述されるようにプロピレンオキシドは保管媒体として用いることもでき、従ってその滅菌工程は少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10日間、またはより長い日数の間実施することができる。
【0081】
本明細書で記述される方法の1つの主な利益は、本明細書で用いられる滅菌溶液、すなわち3%〜6%v/vプロピレンオキシドはコラーゲン原線維に影響を及ぼさずにコラーゲン含有組織を滅菌すると考えられるだけでなく、プロピレンオキシドは約4日間その生体材料と接触した後にプロピレングリコール(それは毒性ではない)に変わるため、その滅菌された架橋されたコラーゲンベースの生体材料は最初の48時間のかなり後もその滅菌溶液中に入れたままにすることができることである。実際、その架橋されたコラーゲンベースの生体材料は滅菌および保管され、次いでそれ以上の処理の必要なく同じ容器中で最終顧客へと輸送されるであろうと予想される。
【0082】
用語“滅菌”は、本明細書で用いられる際、その架橋されたコラーゲンベースの生体材料がISO14160の下での要求を満たすことを意味する。ISO14160は健康管理製品の滅菌を含み、動物組織およびそれらの派生物を利用する1回使用の医療装置のための液体化学滅菌剤に関係する。簡潔には、ISO14160は組織にB.subtilisの芽胞を接種し、次いでその汚染を除去するために処理することを要求する。ISO14160試験に関する要求は実施例6において記述されている。
【0083】
一部の態様において、その滅菌溶液は緩衝剤を含まない。他の態様において、その溶液は脱イオン水を含む。
【0084】
その架橋されたコラーゲンベースの生体材料は、本明細書で開示される方法を用いた処置の後、石灰化への高レベルの抵抗性を有し、すなわちそれは“石灰化抵抗性生体材料”である。用語“石灰化”は、本明細書で用いられる際、結合組織タンパク質(すなわちコラーゲンおよびエラスチン)を含む伝統的に生成された生体材料と関係する主な病理学的問題の1つを指す。これらの材料は体内に移植した後石灰化され得ることが以前に示されている。そのような石灰化は結果としてその生体材料の望ましくない硬化または劣化をもたらし得る。2(2)つのタイプの石灰化:内在性石灰化および外因性石灰化が固定されたコラーゲン性生体材料において起こることが知られているが、そのような石灰化が起こる正確な機序(単数または複数)は未知である。内因性石灰化は、コラーゲンマトリックスおよび残留(remnant)細胞が含まれる固定された生体プロテーゼ組織内のカルシウムおよびリン酸イオンの沈殿を特徴とする。外因性石灰化は、その生体材料に対する接着細胞(例えば血小板)が含まれる接着性血栓内のカルシウムおよびリン酸イオンの沈殿ならびにその生体材料上のリン酸カルシウムを含有する表面プラークの発達を特徴とする。
【0085】
従って、句“石灰化への高レベルの抵抗性”または“石灰化抵抗性”は、本発明の生体材料に適用される際、その生体材料が少なくとも200日間の生体内移植後に、それを取り出した後に1mgの乾燥組織あたり50μg未満、好ましくは20μg未満、さらにもっと好ましくは10μg未満のカルシウムを示すことを意味する。
【0086】
好ましくは、本発明の生体材料は酵素的分解にも抵抗性である。用語“酵素的分解に抵抗性”は、本明細書で用いられる際、酵素的分解に伝統的な固定された組織と比較可能なレベルまで抵抗する本発明の生体材料の能力を指す。
【0087】
一度形成されたら、次いで本発明の滅菌された架橋されたコラーゲンベースの生体材料をいくつかの病気および/または障害を処置するために用いることができる。
【0088】
一般に、用語“処置すること”、“処置”等は、本明細書において所望の薬理学的および/または生理的効果を得るために個体または動物、それらの組織または細胞に影響を及ぼすことを意味する。その効果は、病気および/または障害の部分的または完全な治癒の点で特に療法的である。“処置すること”は、本明細書で用いられる際、脊椎動物、哺乳類、特にヒトにおける病気および/または障害のあらゆる処置を含み、以下:(a)その病気および/または障害を抑制すること、すなわちその進行を止めること;または(b)その病気および/または障害の症状を軽減もしくは改善すること、すなわち酵素的分解/病気および/または障害の症状の後退を引き起こすことを含む。
【0089】
用語“病気”および/または“障害”は本明細書において互換的に用いられており、ヒトが含まれる動物に影響を及ぼす異常な状態を指し、それは本発明の生体材料を用いて処置することができる。従って、創傷、病変、組織変性、微生物感染、熱傷、潰瘍、皮膚の病気の処置は、本発明に含まれる。さらに、心臓弁、大動脈根、大動脈壁、大動脈弁尖、心膜組織、結合組織、硬膜、外皮組織、血管組織、軟骨、心膜、靭帯、腱、血管、臍帯組織、骨組織、筋膜、ならびに粘膜下組織の置換も含まれる。
【0090】
本発明の石灰化抵抗性生体材料は、多種多様な医療装置の接触面のいずれに適用することもできる。接触面には、特にヒトが含まれる動物の血液、細胞または他の体液もしくは組織と接触することが意図される表面が含まれるが、それらに限定されない。適切な接触面には、血液または他の組織と接触することが意図されている医療装置の1個以上の表面が含まれる。その医療装置には、動脈瘤コイル、人工血管、人工心臓、人工弁、人工腎臓、人工腱および靭帯、血液バッグ、血液酸素付加装置、骨および心血管置換物、骨プロテーゼ、骨ろう、心血管移植片、軟骨置換装置、カテーテル、コンタクトレンズ、細胞および組織の培養および再生のための容器、塞栓形成粒子、濾過システム、移植片、ガイドチャネル、留置カテーテル、実験室機器、マイクロビーズ、神経成長ガイド、眼科用インプラント、整形外科用インプラント、ペースメーカーの導線、プローブ、補綴物、シャント、ステント、ペプチドのための支持体、手術器具、縫合糸、注射器、尿路置換物、創傷被覆材、創傷包帯、創傷治癒装置ならびに当技術で既知の他の医療装置が含まれる。
【0091】
本発明の適用から利益を得るであろう医療装置の他の例は外科および医療手技の技術分野の当業者にはすぐに明らかになると考えられ、従って本発明により意図されている。その接触面には、メッシュ、コイル、ワイヤー、膨張可能なバルーン、または血管内部位、管腔内部位、固形組織内の部位等が含まれる標的部位において移植されることができるあらゆる他の構造物が含まれてよい。その移植可能な装置は、永久的または一時的な移植に関して意図されることができる。そのような装置は血管内および他の医療用カテーテルにより送達されてよく、またはその中に組み込まれてよい。
【0092】
そのような装置の表面をコートするプロセスは、国際特許出願第96/24392号において記述されているように、プラズマコーティング技法により実施することができる。
【0093】
“含む”により、“含む”という語の後に続くもの全てが含まれるが、それらに限定されないことを意味する。従って、用語“含む”の使用は、その列挙された要素が必要とされている、または必須であるが、他の要素は任意であり、存在していてもいなくてもよいことを示す。“からなる”により、句“からなる”の後に続くもの全てが含まれ、それらに限定されることを意味する。従って、句“からなる”は、列挙された要素が必要とされており、または必須であり、かつ他の要素が存在していてはならないことを示す。“から本質的になる”により、その句の後に列挙されたあらゆる要素が含まれ、その列挙された要素に関する開示において明記される活性または効果に干渉または寄与しない他の要素に限定されることを意味する。従って、句“から本質的になる”は、列挙された要素が必要とされている、または必須であるが、他の要素は任意であり、それらがその列挙された要素の活性または効果に影響を及ぼすか否かに依存して存在していてよい、または存在していてはならないことを示す。
【0094】
本発明はここで、以下の限定的でない実施例への参照のみとしてさらに記述されるであろう。しかし、以下の実施例は説明的なものでしかなく、決して上記で記述された本発明の一般性に対する制限として受け取られるべきではないことは理解されるべきである。
【実施例】
【0095】
実施例1 生体材料の基本的な処理および保管
コラーゲン由来の生体材料の回収
成体のブタからのブタの心臓を地元の屠殺場で回収し、死後2〜4時間以内にアイスパック上で実験室に輸送した。その心臓を氷冷した0.9%v/v生理食塩水溶液中で2回洗浄し、接着している脂肪および緩い結合組織を注意深く取り除いた。大動脈弁を有する大動脈根を心臓から切り離し、氷冷した0.9%v/v生理食塩水/フェニル−メチル−スルホニル−フロリド(PMSF)中に入れ、弁を有する大動脈根をPMSFを含有する0.9%v/v生理食塩水溶液中で20分間洗浄した。弁膜を大動脈弁の開口部から取り外し、氷冷した0.9%v/v生理食塩水溶液中で保管した。
【0096】
その生体材料の架橋(固定)
滅菌脱イオン水中の9.07g/lのリン酸二水素カリウム緩衝剤を含有する0.625%v/vグルタルアルデヒド溶液を調製した。そのグルタルアルデヒド溶液のpHを水酸化ナトリウムで7.4に調整した。その大動脈弁膜をそのグルタルアルデヒド溶液中で1〜5℃において5日間の最小期間の間架橋し、その組織のコラーゲン中に存在するタンパク質を架橋した。
【0097】
架橋された生体材料をすすぐ
大動脈弁膜をグルタルアルデヒド溶液から取り出し、無菌の0.9%v/v塩化ナトリウム中で約15分間すすいだ。そのすすぎ期間の間、そのすすぎ溶液の温度はおおよそ10℃で維持された。
【0098】
生体材料の最後の滅菌および貯蔵
そのブタの大動脈弁膜を滅菌脱イオン水中の29.2g/lのリン酸二水素カリウム緩衝剤を含有するグルタルアルデヒドの2.0%v/v溶液中に浸した。そのアルデヒド溶液のpHを水酸化ナトリウムで7.4に調整した。その滅菌のプロセスは約25℃で5日間実施された。その滅菌された組織を4つの群に分け、さらなる使用まで以下の溶液中で保管した:(i)0.625%v/vグルタルアルデヒド、(ii)5.0%v/vグルタルアルデヒド、(iii)10%v/vグルタルアルデヒド;および(iv)2%v/vプロピレンオキシド。
【0099】
実施例2 保管溶液の生体材料の石灰化プロファイルへの効果
処置されたコラーゲンを含有する生体材料の石灰化の軽減における上記の滅菌−保管プロセスの有効性を評価するために、小動物および大型動物モデルにおける実験研究が実施された。
【0100】
最初の動物試験において、実施例1で記述した方法に従って滅菌および保管されたブタの大動脈弁膜を小動物モデルにおける評価のために用いた。
【0101】
4つの群全ての滅菌および保管されたブタの大動脈弁膜を、0.9%v/v生理食塩水中で5分間すすいだ。そのすすいだ組織を、成長期の(6週齢)オスのウィスターラットの中央腹壁領域中に作り出した皮下のポケット中に外科的に移植した(ラットあたりそれぞれの群の1個の試料)。これらの組織を60日後に取り出し、宿主の組織を除去し、試料をBiotherm(商標)恒温器(Marcus Medical,JHB,RSA)中で90℃で48時間乾燥させた。その乾燥した試料の重量を測定し、カルシウム含量を5.0mlの6N超高純度塩酸(Merck,JHB,RSA)中で75℃で24時間抽出した。次いでその抽出可能なカルシウムの含量を原子吸光光度計(Varian AA1275)を用いて測定し、mg組織(乾燥重量)あたりのμgカルシウムとして表した。これらのデータを表1にまとめる。結果(mg乾燥組織あたりのμgカルシウム)を表1にまとめる。
【0102】
【表1】
【0103】
実施例3 滅菌および保管溶液の生体材料の石灰化プロファイルへの効果
コラーゲン由来の生体材料の回収
第2の動物試験において、実施例Iにおいて記述した方法に従ってブタの大動脈弁膜を回収および分離した。分離されたブタの大動脈弁膜を3つの群に分けた。群Iは典型的な架橋処理を受け(対照);群IIは所有者の(proprietary)架橋法(本明細書に援用される国際公開第2006/066327号を参照)を受け;そして群IIIは群IIと同じ架橋処理を受けたが、この後にその架橋された生体材料を約4%v/vプロピレンオキシドを含む滅菌溶液と共に保温し、その生体材料を30℃〜55℃で48時間より長い時間の間保温した。
【0104】
大動脈弁膜の架橋(固定)
群Iにおいて、ブタの大動脈弁膜を、調製した滅菌脱イオン水中の9.07g/lのリン酸二水素カリウム緩衝剤を含有する0.625%グルタルアルデヒド溶液中で架橋した。そのグルタルアルデヒド溶液のpHを水酸化ナトリウムで7.4に調整した。その大動脈弁膜をそのグルタルアルデヒド溶液中で1〜5℃において5日間の最小期間の間架橋し、その組織のコラーゲン中に存在するタンパク質を架橋した。
【0105】
群IIおよびIIIにおいて、60〜80体積%v/vのアルコール(エタノール)の水溶性アルコール含有溶液を調製した。そのブタの大動脈弁膜を、4℃で一夜保管した後、そのアルコール溶液中に浸した。その弁を有する大動脈根を、氷冷した0.9%v/v生理食塩水(0.5mMPMSFを含有する)中での最終洗浄の直後に同じアルコール溶液中に浸した。そのブタの大動脈弁膜を、約5℃において最小で24時間そのアルコール溶液中に入れておいた。
【0106】
そのブタの大動脈弁膜をそのアルコール溶液から取り出し、0.9%v/v生理食塩水で約10分間すすいだ。そのすすぎ期間の間、そのすすぎ溶液の温度はおおよそ10℃で維持された。
【0107】
その大動脈弁膜を、滅菌脱イオン水中の9.07g/lのリン酸二水素カリウム緩衝剤を含有するグルタルアルデヒドの0.625%v/v溶液中に浸した。そのグルタルアルデヒド溶液のpHを水酸化ナトリウムで7.4に調整した。その心膜および弁を有する大動脈根をそのグルタルアルデヒド溶液中で1〜5℃において24時間の最小期間の間固定してその組織のコラーゲン中に存在するタンパク質を架橋した。
【0108】
そのブタの弁膜をそのグルタルアルデヒド溶液から取り出し、無菌の0.9%v/v塩化ナトリウム中で約15分間すすいだ。そのすすぎ期間の間、そのすすぎ溶液の温度はおおよそ10℃で維持された。
【0109】
次いでそのブタの大動脈弁膜を1mlの脱イオン水体積あたり8mgのジカルボン酸を含有する緩衝剤を含まない溶液中に浸した。その溶液のpHを、ある量の希釈した塩酸を用いて4.5のpHに調整した。その心膜および弁を有する大動脈根をその溶液中に約45℃の温度において約48時間浸した。
【0110】
生体材料の最後の滅菌および貯蔵
次いでそのブタの大動脈弁膜を以下の工程のどちらかにより滅菌および保管した:
(i)その組織を滅菌脱イオン水中の9.07g/lのリン酸二水素カリウム緩衝剤を含有するグルタルアルデヒドの0.25%v/v溶液中に浸す。そのアルデヒド溶液のpHを水酸化ナトリウムで7.4に調整した。その滅菌のプロセスを約45℃の温度において約120分間実施した(処理A);または
(ii)そのブタの大動脈弁膜を、20%v/vエチルアルコールと組み合わせた4%v/vプロピレンオキシドを含む水溶液中で37℃において約24時間滅菌し、4%v/vプロピレンオキシド溶液中で保管した(処理B−本発明)。
【0111】
3つの群全ての滅菌および保管されたブタの大動脈弁膜を、0.9%v/v生理食塩水中で5分間すすいだ。そのすすいだ組織を、成長期の(6週齢)オスのウィスターラットの中央腹壁領域中に作り出した皮下のポケット中に外科的に移植した(ラットあたりそれぞれの群の1試料)。これらの組織を60日後に取り出し、宿主の組織を除去し、試料をBiotherm(商標)恒温器(Selby Scientific,西オーストラリア州パース)中で90℃で48時間乾燥させた。その乾燥した試料の重量を測定し、カルシウム含量を5.0mlの6N超高純度塩酸(Merck,オーストラリア、シドニー)中で75℃で24時間抽出した。次いでその抽出可能なカルシウム含量を原子吸光光度計(Varian AA1275)を用いて測定し、mg組織(乾燥重量)あたりのμgカルシウムとして現した。結果(mg乾燥組織あたりのμgカルシウム)を表2にまとめる。
【0112】
【表2】
【0113】
実施例4 ウシの心膜の石灰化プロファイルへの処理Bの効果
第3の動物試験において、実施例3(0.625%緩衝グルタルアルデヒド、処理A+0.2%グルタルアルデヒドおよび処理B 4%v/vプロピレンオキシド)中の組織に従って調製、架橋および保管されたウシの心膜の石灰化可能性を、0.2%グルタルアルデヒド溶液中で保管された商業的なウシの心膜(Hancockの心膜)の石灰化可能性と比較した。
【0114】
それぞれの群の代表的な試料を1×1cmの大きさに整え、0.9%v/v生理食塩水中で5分間すすいだ。これらの試料を、成長期の(6週齢)オスのウィスターラットの中央腹壁領域中に作り出した皮下のポケット中に外科的に移植した。これらの組織を60日後に取り出し、宿主の組織を除去し、カルシウム含量を原子吸光光度法により決定した。結果(mg乾燥組織あたりのμgカルシウム)を表3にまとめる。
【0115】
【表3】
【0116】
実施例5 大型動物モデルにおけるブタ大動脈弁組織(弁膜および大動脈壁)の石灰化プロファイルへの処理Bの効果
第4の動物試験における、調製され、0.625%緩衝グルタルアルデヒド中で架橋され、(i)0.625%グルタルアルデヒド中で保管された;(ii)処理A(0.625%グルタルアルデヒド)で処理された;および(iii)処理B(4%プロピレンオキシド)で処理されたブタ大動脈弁組織(弁膜および大動脈壁)の石灰化可能性。
【0117】
それぞれの群の代表的な試料を小判胴形のおおよそ1.2×1cmの大きさに整え、0.9%生理食塩水中で5分間すすいだ。これらの試料を、若齢のヒツジ(体重22〜25kg)の頚静脈中に外科的に移植した。これらの組織を150日後に取り出し、宿主の組織を除去し、カルシウム含量を原子吸光光度法により決定した。結果(mg乾燥組織あたりのμgカルシウム)を表4−A(弁膜)および表4−B(大動脈壁)にまとめる。
【0118】
【表4】
【0119】
実施例6 検証:Bacillus subtilisの芽胞を接種した商業的な心臓弁の滅菌
この検証は、4%プロピレンオキシドを用いた45℃において48時間後の商業的な心臓弁組織の滅菌の実現可能性を試験するために実施された。この実現可能性試験の目的は、3.8%プロピレンオキシド(“最悪の場合の”濃度レベルとして)がFDAの規則により規定される“最悪の場合の”条件(Bacillus subtilisの芽胞による汚染)下の商業的な心臓弁X組織を滅菌することができるかどうか調べることであった。その試験条件は以下の通りであった:
・弁を0.5%グルタルアルデヒドから取り出し、合計1000mlの無菌の蒸留水中で合計6分間すすいだ。
【0120】
・次いで弁の保持器および弁を無菌的に分離し、次いでおおよそ30分間または見かけ上乾燥するまで乾燥させた。
【0121】
・次いでそれぞれの装置の弁の保持器および弁に、合計20μlの米国STERIS Corporationから得たBacillus subtilisの芽胞の懸濁液を接種した。その懸濁液は1.25×10個の芽胞を含有していた。
【0122】
・次いでその弁を室温でおおよそ1時間乾燥させた。
【0123】
・次いでその装置を受け取った通りに再度組み立て、無菌の広口瓶の中に入れた。
【0124】
・10個の装置に、160mlの新しく調製した3.8%プロピレンオキシドを添加した。
【0125】
・最後の装置に、160mlの大豆カゼイン消化培地(SCDM)を添加した。これは芽胞懸濁液の生存可能性を評価するための陽性対照であった。その陽性対照を32℃で48時間保温した。
【0126】
・次いでその10個の試験弁を42℃で44時間保温した。
【0127】
・保温後、無菌性試験をそれぞれの弁に関して実施した。
【0128】
・その弁を分離し、それぞれの構成要素を空の無菌の広口瓶に移し、それにSCDMを添加した。
【0129】
・次いでその広口瓶を32℃で14日間保温した。
【0130】
・その広口瓶を濁りの徴候に関して毎日調べた。
【0131】
試験の詳細:
実験室番号:7343042W
方法:英国薬局方2010、付録XVI、無菌性に関する試験、および医薬品検査施設手順MB:PT:0110に従う方法。
【0132】
【表5】
【0133】
実施例7 小動物モデルにおける商業的な心臓弁組織(ウシの心膜組織)の石灰化プロファイルへの処理Bの効果
表6は、0.625%v/vグルタルアルデヒド中で架橋および滅菌されたウシの心膜(参照対照の役目を果たした−Aの印を付けた)の石灰化可能性を商業的な心臓弁組織(0.625%v/v緩衝グルタルアルデヒド架橋+ホルムアルデヒド保管である商業的な所有者のプロトコルに従って架橋および保管されたウシの心膜−Bの印を付けた)および4%v/vプロピレンオキシド中で45℃において48時間滅菌し、4%v/vプロピレンオキシド溶液中で保管した同じ商業的な心臓弁組織(Cの印を付けた)と比較した第5の動物試験の結果を示す。
【0134】
それぞれの群の代表的な試料を1×1cmの大きさに整え、0.9%v/v生理食塩水中で5分間すすいだ。これらの試料を、成長期の(6週齢)オスのウィスターラットの中央腹壁領域中に作り出した皮下のポケット中に外科的に移植した。これらの組織を8、16および24週間後に取り出し、宿主の組織を除去し、カルシウム含量を原子吸光光度法により決定した。結果(mg乾燥組織あたりのμgカルシウム)を表6にまとめる。
【0135】
【表6】
【0136】
実施例8 急速なインビトロ石灰化モデルにおける商業的な心臓弁組織(ウシの心膜)組織の石灰化プロファイルへの処理Bの効果
さらなる実験的評価において、商業的な弁組織(対照組織)の石灰化可能性を、急速なインビトロ石灰化モデルにおいて、4%プロピレンオキシド中で45℃において48時間滅菌し、4%プロピレンオキシド溶液中で保管した商業的な心臓弁組織(処理された組織)と比較した。
【0137】
ステント処置した(Stented)商業的な心臓弁(対照および処理されたもの)をRowan Ash疲労試験機中に取り付け、(高カルシウム/ホスフェート含量を有する)生理的溶液に、5000万サイクルに至るまでの加速された流動(1分あたり400試験サイクル)の間暴露した。
【0138】
5000万試験サイクルの後、心臓弁を取り外し、組織学的検査のために代表的な組織試料を得た。それぞれの弁中の3個の弁膜のそれぞれの残存組織を取り外し、カルシウム含量を原子吸光光度法により決定した。結果(mg乾燥組織あたりのμgカルシウム)を表7にまとめる。
【0139】
【表7】
【0140】
実施例9 Bacillus subtilisの芽胞を接種した組織の滅菌および保管方法論の効果
図1および2は、15℃〜45℃の様々な温度における時間の経過にわたる(それぞれ)2%v/vおよび4%v/vプロピレンオキシドのB.subtilisの芽胞への効果を示す。用いた実験条件は実施例6において記述されている。本質的に、いずれの滅菌溶液(2%または4%)も48時間より前ではほとんど滅菌効果を有しないことを理解することができる。図2からは48時間以内では温度の上昇の効果は滅菌への重大な効果を有することも理解することができる。例えば、40℃以上の温度では24時間後に滅菌でき、48時間までには25℃以上の温度においてさえも滅菌できた。図1は、2%v/vプロピレンオキシドを用いて滅菌を得るためにはその組織を35℃より高い温度で少なくとも6日間保温する必要があることを示している。15℃〜20℃では、10日間の保温さえも2%v/vプロピレンオキシドを用いた滅菌の実質的な効果を有しない。
【0141】
従って、最適な滅菌はその組織を4%v/vプロピレンオキシド溶液と共に保温することおよびその組織を約45℃で48時間より長い時間の間保温することにより得られることを図1および2から理解することができる。
図1
図2