特許第6203763号(P6203763)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6203763
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】軟質コアを有する外科用縫合糸
(51)【国際特許分類】
   A61L 17/04 20060101AFI20170914BHJP
   A61L 17/08 20060101ALI20170914BHJP
   A61L 17/10 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   A61L17/04
   A61L17/08
   A61L17/10
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-559963(P2014-559963)
(86)(22)【出願日】2013年2月27日
(65)【公表番号】特表2015-511502(P2015-511502A)
(43)【公表日】2015年4月20日
(86)【国際出願番号】US2013027943
(87)【国際公開番号】WO2013130547
(87)【国際公開日】20130906
【審査請求日】2015年12月7日
(31)【優先権主張番号】61/605,730
(32)【優先日】2012年3月1日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513164565
【氏名又は名称】シンセス・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Synthes GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】ゲデット・フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】レックマン・ビート
(72)【発明者】
【氏名】ボワザール・シリル
【審査官】 小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−177499(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0025818(US,A1)
【文献】 特表2007−515212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 17/00−17/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは2つ以上の結節で結ばれるように構成された締結要素であって、
第1の生体適合性ポリマーを含み、タイプAデュロメータ硬さの値が15〜30の範囲である非耐荷重性コアと、
第2の生体適合性ポリマーを含む耐荷重性シースと、
を含み、前記耐荷重性シースは、前記非耐荷重性コアを囲み、前記非耐荷重性コアは、前記締結要素が1つまたは2つ以上の結節で結ばれるときにつぶれるように構成されており、前記非耐荷重性コアがつぶれていないとき、前記非耐荷重性コアの半径は、前記耐荷重性シースの厚みよりも大きく、前記締結要素の引張強度値は、100N〜400Nの範囲であり、
前記締結要素は縫合糸である、締結要素。
【請求項2】
前記非耐荷重性コアの引張強度は、5MPa〜20MPaの範囲である、請求項に記載の締結要素。
【請求項3】
前記第1の生体適合性ポリマーは、ポリシリコーン、ポリウレタン、ポリエチレングリコール、ポリエステル、コラーゲン、アルギン酸又はキトサンからなる群から選択される、請求項1又は2に記載の締結要素。
【請求項4】
前記耐荷重性シースは、複数の糸から形成され、各糸は、前記第2の生体適合性ポリマーのモノフィラメント又はマルチフィラメントの形態の、複数のフィラメントを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の締結要素。
【請求項5】
前記第2の生体適合性ポリマーは、重量平均分子量が500,000g/モル〜5,000,000グラム/モルの範囲であるポリオレフィンを含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の締結要素。
【請求項6】
各糸の破断強度の値が、30cN/dtex〜45cN/dtexの範囲である、請求項4又は5に記載の締結要素。
【請求項7】
前記第2の生体適合性ポリマーの前記複数の糸を編み組んで、前記耐荷重性シースを形成する、請求項のいずれか一項に記載の締結要素。
【請求項8】
前記締結要素の直径は、径方向の変形力を加えると変形可能であり、該直径は、最大40%小さくなる、請求項1〜のいずれか一項に記載の締結要素。
【請求項9】
前記非耐荷重性コアは、前記第1の生体適合性ポリマーに組み込まれた浸透圧活性物質を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の締結要素。
【請求項10】
前記浸透圧活性物質は、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸三カルシウム、又はこれらの混合物からなる群から独立して選択される無機塩である、請求項に記載の締結要素。
【請求項11】
前記縫合糸の直径は、径方向の変形力を加えると変形可能であり、該縫合糸の直径は、最大40%小さくなる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の締結要素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、少なくとも部分的に、縫合糸を対象としており、該縫合糸は、非耐荷重性コアと、該非耐荷重性コアを囲む耐荷重性シースと、を含む。本発明の縫合糸は、優れた結節形成特性及び結節保持特性を示す。
【背景技術】
【0002】
組織を修復し、組織を正しい解剖学的位置に取り付け、傷口を縫合するために、縫合糸を使用する状況がよくある。多くの例において、縫合糸ループは、複数の結節によって閉じられる。縫合糸の滑りを防止するため、複数の結節、7つ又は8つの結節が、次々に作られなければならない。これにより、外科医にとって時間のかかる多くの結節をもたらす。また、かぶれ及び炎症を起こしたり、あるいは関節の軟骨層を傷つけたりする場合もある、大量の縫合糸材料をもたらす。したがって、ある態様において、本発明は、優れた結節形成の特徴を有する、編組縫合糸を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の態様に従い、非耐荷重性コアと、該非耐荷重性コアを囲む耐荷重性シースと、を含む締結要素が提供される。1つのかかる実施形態において、締結要素は、縫合糸である。
【0004】
いくつかの実施形態において、締結要素又は縫合糸は、非耐荷重性コアと、耐荷重性シースと、を含み、耐荷重性シースは、非耐荷重性コアを囲み、締結要素又は縫合糸の引張強度の値は、100N〜400Nの範囲であり、締結要素又は縫合糸の直径は、径方向の変形力を加えると変形可能であり、直径は、最大40%小さくなり得る。
【0005】
いくつかの実施形態において、縫合糸は、非耐荷重性コアと、該非耐荷重性コアを囲む耐荷重性シースと、を含み、縫合糸は、少なくとも6つの結節で結ばれたとき、耐荷重性シースに囲まれた耐荷重性コアを含む縫合糸と比較して、改善された結節滑り数(knot slippage number)を有する。
【0006】
いくつかの実施形態において、非耐荷重性コアは、第1の生体適合性ポリマーを含み、耐荷重性シースは、第2の生体適合性ポリマーを含む。
【0007】
いくつかの実施形態において、耐荷重性シースは、編組の形態である。
【0008】
一実施形態において、非耐荷重性コアは、第1の生体適合性ポリマーを含む。別の実施形態において、非耐荷重性コアのタイプAデュロメータ硬さの値は、15〜30の範囲である。更に別の実施形態において、非耐荷重性コアの引張強度は、5MPa〜20MPaの範囲である。別の実施形態において、非耐荷重性コアは、第1の生体適合性ポリマーを含み、第1の生体適合性ポリマーは、ポリシリコーン、ポリウレタン、ポリエチレングリコール、ポリエステル、コラーゲン、アルギン酸(alignate)又は、キトサンからなる群から選択される。別の実施形態において、非耐荷重性コアは、第1の生体適合性ポリマーに組み込まれる浸透圧活性物質を含む。
【0009】
本発明の締結要素又は縫合糸の、別の例示的な実施形態において、耐荷重性シースは、第2の生体適合性ポリマーを含む。一実施形態において、第2の生体適合性ポリマーは、ポリオレフィンを含む。一実施形態において、ポリオレフィンは、ポリエチレンである。更に別の実施形態において、第2の生体適合性ポリマーは、重量平均分子量が500,000g/モル〜5,000,000グラム/モル(500,000 g/mole to 5,000,000 gram/mole)の範囲であるポリオレフィンを含む。
【0010】
本発明の締結要素又は縫合糸の、別の例示的な実施形態において、耐荷重性シースは、複数の糸から形成され、各糸は、第2の生体適合性ポリマーのモノフィラメント又はマルチフィラメントの形態である。更に別の実施形態において、複数の糸を編み組んで、シース又は編組を形成する。いくつかの実施形態において、各糸の破断強度の値(tenacity at break value)は、30cN/dtex〜45cN/dtexの範囲である。
【0011】
いくつかの実施形態において、本発明の締結要素又は縫合糸の引張強度の値は、100N〜400Nの範囲である。別の実施形態において、締結要素又は縫合糸の直径は、径方向の変形力を加えると変形可能であり、直径は、最大40%小さくなる。
【0012】
別の実施形態において、本発明は、本明細書に記載された縫合糸の様々な実施形態により、縫合糸の結節の滑り(knot slippage)を低減する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
これまでの発明の概要並びに以降の発明を実施するための形態は、添付の図面と併せて読むことで、より理解が深まるであろう。本発明を説明する目的で、図面には、現在好ましい実施形態が示されている。しかしながら、本発明は、異なる形態で具体化することができ、したがって、本明細書に記載される実施形態に限定すると解釈すべきではないことを理解されたい。
図1A】本発明の例示的な縫合糸の断面図である。
図1B】本発明の例示的な縫合糸の断面図である。
図1C】本発明の例示的な縫合糸の断面図である。
図1D】本発明の例示的な縫合糸の断面図である。
図2】本発明の編組耐荷重性シースを有する例示的な縫合糸の図である。
図3】本発明の例示的な縫合糸を結んでいる図である。
図4】6つの結節がある従来技術の縫合糸に対して、変位対加えられた引張荷重により判定される、結節の滑りを示す図である。
図5】7つの結節がある従来技術の縫合糸に対して(prior art suture with seven knots)、変位対加えられた引張荷重により判定される、結節の滑りを示す図である。
図6】6つの結節がある本発明の例示的な縫合糸の、結節の滑りを示す図である。
図7】従来技術の縫合糸と比較して、本発明の例示的な縫合糸の結節の滑りを示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
いくつかの実施形態において、本発明は、締結要素であって、(a)非耐荷重性コアであって、該非耐荷重性コアは、第1の生体適合性ポリマーを含む、該非耐荷重性コアと、(b)耐荷重性シースであって、該耐荷重性シースは、第2の生体適合性ポリマーを含む、該耐荷重性シースと、を含み、該耐荷重性シースは、該非耐荷重性コアを囲む、締結要素、を提供する。かかる実施形態において、締結要素は、縫合糸、靴紐又はロープとして使用できる。
【0015】
いくつかの実施形態において、本発明は、縫合糸であって、第1の生体適合性ポリマーを含む非耐荷重性コアと、第2の生体適合性ポリマーから構成される耐荷重性シースとを含み、耐荷重性シースは、非耐荷重性コアを囲み、縫合糸の引張強度の値は、100N〜400Nの範囲であり、縫合糸の直径は、径方向の変形力を加えると変形可能である、縫合糸を提供する(provides for suture)。いくつかの実施形態において、縫合糸の直径は、均一に変形する。いくつかのかかる実施形態において、縫合糸は、元の縫合糸の直径よりも直径が小さい円形に変形する。いくつかのかかる実施形態において、縫合糸の直径は、最大40%小さくなる。いくつかの他のかかる実施形態において、縫合糸の直径は、5%〜40%小さくなる。いくつかの他の実施形態において、縫合糸は、不均一に変形する。いくつかのかかる実施形態において、縫合糸は、楕円形に変形する。いくつかのかかる実施形態において、縫合糸の直径は、最大40%小さくなる。いくつかの他のかかる実施形態において、縫合糸の直径は、5%〜40%小さくなる。
【0016】
非耐荷重性コア、耐荷重性シースの様々な実施形態を、以下に記載する。各実施形態を、縫合糸、靴紐及び/又はロープとしての締結要素の実施形態に使用してもよい。
【0017】
A.非耐荷重性コア
ゴム、プラスチック、エラストマー、発泡体及びポリマー材料を含む多様な材料の硬度は、デュロメータを使用して判定し得る。デュロメータにはいくつかのスケールが有り、特性の異なる材料に使用される。ASTM D2240−00試験規格により、用途に応じて合計12のスケールが求められ、タイプA、B、C、D、DO、E、M、O、OO、OOO、OOO−S、及びRがある。各スケールは、0〜100の値になり、値が高いほど材料が硬いことを示す。Aスケールは、通常、比較的柔らかいプラスチックに使用し、一方、Dスケールは、比較的硬いプラスチックに使用する。
【0018】
本発明の例示的な実施形態において、非耐荷重性コアの、タイプAデュロメータ硬さの値は、15〜30の範囲である。別の実施形態において、非耐荷重性コアの、タイプAデュロメータ硬さの値は、15〜30、16〜30、17〜30、18〜30、19〜30、20〜30、21〜30、22〜30、23〜30、24〜30、25〜30、26〜30、27〜30、28〜30、及び29〜30の範囲である。別の実施形態において、非耐荷重性コアの、タイプAデュロメータ硬さの値は、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、又は少なくとも30である。
【0019】
本発明の一実施形態(embodiment the present invention)において、非耐荷重性(non-load bearding)コアの引張強度は、5MPa〜20MPaの範囲である。別の実施形態において、非耐荷重性コアの引張強度は、5MPa〜20MPa、6MPa〜20MPa、7MPa〜20MPa、8MPa〜20MPa、9MPa〜20MPa、10MPa〜20MPa、11MPa〜20MPa、12MPa〜20MPa、13MPa〜20MPa、14MPa〜20MPa、15MPa〜20MPa、16MPa〜20MPa、17MPa〜20MPa、18MPa〜20MPa、及び19MPa〜20MPaの範囲である。
【0020】
本発明の非耐荷重性コアは、任意の好適な生体適合性材料から構成され得る。例示的な実施形態において、非耐荷重性コアは、第1の生体適合性ポリマーを含み、第1の生体適合性ポリマーは、ポリシリコーン、ポリウレタン、ポリエチレングリコール、ポリエステル、コラーゲン、アルギン酸、キトサン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0021】
他の実施形態において、非耐荷重性コアは、第1の生体適合性ポリマーに組み込まれる浸透圧活性物質を含む。いくつかのかかる実施形態において、浸透圧活性物質は、生体適合性無機塩と、スラッシュパウダーとも称する高吸水性ポリマー(SAP)と、その水溶液と、を含む。いくつかのかかる実施形態において、無機塩は、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸三カルシウム、又はこれらの混合物を含む。他の実施形態において、浸透圧活性物質は、デキストランを含む低分子量多糖類及び高吸水性ポリマーなどの、有機浸透圧活性分子を含む。いくつかのかかる実施形態において、高吸水性ポリマーは、ポリアクリル酸ナトリウム塩(ポリアクリル酸ナトリウムと称する場合もある)、ポリアクリルアミド共重合体、エチレン無水マレイン酸共重合体、架橋カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール共重合体、架橋ポリエチレンオキサイド、及びポリアクリロニトリルの澱粉グラフト共重合体を含み得る。いくつかの実施形態において、浸透圧活性物質は、取り扱い易くさせ、浸透の動力学に更に影響させるために非耐荷重性コア中に埋め込むことも可能である。
【0022】
B.耐荷重性シース
例示的な実施形態において、本発明の耐荷重性シースは、第2の生体適合性ポリマーを含む。他の実施形態において、耐荷重性シースは、複数の糸から形成され、各糸は、第2の生体適合性ポリマーのモノフィラメント又はマルチフィラメントの形態である。
【0023】
いくつかの実施形態において、第2の生体適合性ポリマーは、ポリオレフィンを含む。別の実施形態において、ポリオレフィンは、ポリエチレンである。一実施形態において、ポリエチレンの重量平均分子量は、500,000g/モル〜5,000,000グラム/モルの範囲である。別の実施形態において、ポリエチレンの重量平均分子量は、1,000,000g/モル〜5,000,000グラム/モルの範囲である。
【0024】
いくつかの実施形態において、耐荷重性シースは、複数の糸から形成されている。いくつかのかかる実施形態において、各糸の破断強度の値は、30cN/dtex〜45cN/dtex、又は35cN/dtex〜45cN/dtexの範囲である。いくつかの他のかかる実施形態において、各糸の破断強度の値は、最大45cN/dtexである。いくつかの実施形態において、各糸のdtex値は、25〜450の範囲であってもよく、20〜800のフィラメントを含んでもよい。いくつかの他の実施形態において、各糸のdtex値は、55〜165の範囲であってもよく、かつ20〜300のフィラメントを含んでもよい。いくつかの他の実施形態において、各糸のdtex値は、110であってもよく、かつ200のフィラメントを含んでもよい。
【0025】
いくつかの実施形態において、複数の糸を編み組んで、耐荷重性シースを形成する。いくつかのかかる実施形態において、編組に含まれる糸の本数は、10〜32の範囲である(range from)。いくつかの他のかかる実施形態において、編組に含まれる糸の本数は、10〜20の範囲である。いくつかの更に他の、かかる実施形態において、編組に含まれる糸の本数は、15〜20の範囲である。いくつかの実施形態において、編組の2.5cm(インチ)当たりのピックカウントは、2.5cm(インチ)当たり60〜90ピックカウント(pic counts)の範囲である。
【0026】
D.縫合糸の特性及び使用方法
本発明の縫合糸は、様々な物理的特性によって特徴づけることができる。一実施形態において、縫合糸の引張強度の値は、100N〜400N、250N〜400N、又は300N〜400Nの範囲である。いくつかの実施形態において、縫合糸の直径は、径方向の変形力を加えると、均一に変形する。いくつかのかかる実施形態において、縫合糸は、元の縫合糸の直径よりも直径が小さい円形に変形する。いくつかのかかる実施形態において、縫合糸の直径は、最大40%小さくなる。いくつかの他のかかる実施形態において、縫合糸の直径は、5%〜40%小さくなる。いくつかの他の実施形態において、縫合糸は、径方向の変形力を加えると、不均一に変形する。いくつかのかかる実施形態において、縫合糸は、楕円形に変形する。いくつかのかかる実施形態において、縫合糸の直径は、最大40%小さくなる。いくつかの他のかかる実施形態において、縫合糸の直径は、5%〜40%小さくなる。
【0027】
吸収性縫合糸を使用したときの過剰な組織の反応を防止するために、あるいは、非吸収性縫合糸に対する異物反応を最小限にするために、数を少なくすることにより、できるだけ小さくし、かつ関節に近い外科用結節を形成可能な縫合糸に対するニーズがある。また、縫合糸は、滑り及び/又は結節がほどけることの危険性が無いよう、末端をできるだけ短く切ることが可能である結節を形成でき、かぶれ及び炎症又は及び/又は(or and/or)周囲の組織(例えば、関節の軟骨層)の損傷を有利に最小限にできる。実施例において例示するように、本発明の縫合糸は、この目的において特に有用である。
【0028】
本発明の縫合糸は、優れた結節形成特性及び結節保持特性を有することにより、これらニーズの1つ又は2つ以上に対処し、この縫合糸により、外科医は、結節が滑る、あるいはほどける危険性が最小限の状態で(with minimal risk the knots slipping)、(例えば、結節を少なくすることによって)外科的創傷の正確な縫合をより迅速に実行できるようになり、出血及び外因性微生物感染も最小限にし、かつ/あるいは防止する。特に、縫合糸は、軟組織を骨に固定する、軟組織を軟組織に固定する、又は軟組織を近づけて保持することを含む用途に使用し得る。
【0029】
理論に束縛されるものではないが、縫合糸を使用するとき、「軟質コア」は、荷重のごく一部を占めているか、あるいは全く占めておらず、一方、編組は、荷重の大半を占めるため、作用しているのは、現在の縫合糸の非耐荷重性コアである(it is the non-load bearing core of the present suture acts)。よって、外科医が、縫合糸において結節を形成し、縫合糸をブロックする(すなわち、結節がほどけるか、あるいは緩むのを防ぐ)とき、軟質コアは、つぶれ、かつ/又は押しつぶされる。その結果、結節の交わっている部分で接触領域が大きくなり、結節における摩擦が大きくなるという正味の効果がある。これにより、今度は、外科医が、最小の数の結節で縫合糸をブロックできる(結節が、わずか2つ又は3つの場合もある)。
【0030】
本発明の縫合糸は、改良された結節形成特性を有し、結節の滑りを低減する方法において、使用し得る。いくつかの実施形態において、縫合糸は、非耐荷重性コアと、該非耐荷重性コアを囲む耐荷重性シースと、を含み、縫合糸は、少なくとも6つの結節で結ばれたとき、耐荷重性シースに囲まれた耐荷重性コアを含む縫合糸と比較して、改善された結節滑り数(knot slippage number)を有する。
【0031】
E.図面
図1A図1Dは、本発明の例示的な縫合糸100の4つの断面図を示す。図1Aにおいて、非耐荷重性コア110は、20本の編組糸120からなる耐荷重性シースによって囲まれている。図1Bにおいて、非耐荷重性コア110は、20本の編組糸からなる耐荷重性シースによって囲まれ、縫合糸は、均一に変形して縫合糸の直径が小さくなっている。図1Cにおいて、非耐荷重性コア110は、20本の編組糸からなる耐荷重性シースによって囲まれ、縫合糸は、楕円形に変形している。図1Dにおいて、非耐荷重性コア110は、20本の編組糸からなる耐荷重性シースによって囲まれ、縫合糸は、半径方向に、不均一に変形し、直径は、最大40%小さくなっている。
【0032】
図2は、本発明の例示的な縫合糸200を示し、編組構造の耐荷重性シースを示している。
【0033】
図3は、物体310の周りに結ばれた、本発明の例示的な縫合糸300を示す。
【実施例】
【0034】
従来技術の糸。結節が6つのループ、例えば、6回撚り本結び(six throw square knot)について、従来技術のポリエステルを編み組んだ縫合糸の結節滑り数は、変位対引張荷重を測定することで判定された。この用途のため、結節の滑りを、[(最大力における変位−結節の滑りがない最終距離(last distance)に対する変位)/(最大力における変位)]×100と定義する。図4において、最大力における変位は、16.8mm(400)で発生し、結節の滑りがない最終距離に対する変位は、結節滑り数69.64%に対して5.1mm(410)で発生した。
【0035】
7つの結節からなるループ、例えば、7回撚り本結びの結節滑り数は、図4と同様の縫合糸を使用して、上記のように測定された。図5において、最大力における変位は、9.3mm(500)で発生し、結節の滑りがない最終距離に対する変位は、結節滑り数0%に対して、9.3mm(510)で発生した。
【0036】
2つの従来技術の縫合糸(Ethibond & FiberWire)の、結節滑り数は、上記のように測定された。データは、図7の棒グラフにグラフ表示し、表1にまとめた。
【0037】
発明例:本発明の例示的な縫合糸を使用して、6つの結節からなるループ、例えば、6回撚り本結びの結節滑り数を、上記のように測定した。図6において、最大力における変位は、9.5mm(600)で発生し、結節の滑りがない最終距離に対する変位は、結節滑り数0%に対して、9.5mm(610)で発生した。
【0038】
本発明の例示的な縫合糸(軟質コアを有する縫合糸)についての結節滑り数を、上記のように測定した。データは、図7の棒グラフにグラフ表示し、表1にまとめた。6つの(6)結節の形成に使用する際、従来技術の縫合糸と例示的な縫合糸の、3つの縫合糸は、12.32%〜42.98%の範囲の結節滑り数を示した。しかし、7つ又は8つの結節の形成に使用する際、従来技術の縫合糸を使用して作った結節の10.18%〜17.88%に対して、本発明の例示的な縫合糸は、より小さい3.03%〜3.16%の結節滑り数を示した。
【0039】
【表1】
【0040】
添付の特許請求の範囲で定義する本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な変更、代用、及び修正をなし得ることを理解されたい。更に、本願の範囲は、本明細書に記載したプロセス、機械、製造法、物質組成、手段、方法、及び工程の特定の実施形態に限定されることを意図するものではない。当業者が、本明細書における開示から容易に理解すると推察されるように、本明細書に記載の対応する実施形態と実質的に同じ機能を実行するか、又は実質的に同じ結果を達成する、現在存在するか、又は後に開発される、プロセス、機械、製造法、物質組成、手段、方法、又は工程は、本発明に従って利用され得る。
【0041】
〔実施の態様〕
(1) 締結要素であって、
第1の生体適合性ポリマーを含む非耐荷重性コアと、
第2の生体適合性ポリマーから構成される耐荷重性シースと、を含み、該耐荷重性シースは、該非耐荷重性コアを囲み、該締結要素の引張強度値は、100N〜400Nの範囲である、締結要素。
(2) 前記非耐荷重性コアの、タイプAデュロメータ硬さの値は、15〜30の範囲である、実施態様1に記載の締結要素。
(3) 前記非耐荷重性コアの引張強度は、5MPa〜20MPaの範囲である、実施態様2に記載の締結要素。
(4) 前記第1の生体適合性ポリマーは、ポリシリコーン、ポリウレタン、ポリエチレングリコール、ポリエステル、コラーゲン、アルギン酸又はキトサンからなる群から選択される、実施態様1、2又は3のいずれかに記載の締結要素。
(5) 前記耐荷重性シースは、複数の糸から形成され、各糸は、前記第2の生体適合性ポリマーのモノフィラメント又はマルチフィラメントの形態の、複数のフィラメントを含む、実施態様1、2、3又は4のいずれかに記載の締結要素。
【0042】
(6) 前記第2の生体適合性ポリマーは、重量平均分子量が500,000g/モル〜5,000,000グラム/モルの範囲であるポリオレフィンを含む、実施態様1〜5のいずれかに記載の締結要素。
(7) 各糸の破断強度の値が、30cN/dtex〜45cN/dtexの範囲である、実施態様5〜6のいずれかに記載の締結要素。
(8) 前記第2の生体適合性ポリマーの前記複数の糸を編み組んで、前記耐荷重性シースを形成する、実施態様5〜7のいずれかに記載の締結要素。
(9) 前記締結要素の直径は、径方向の変形力を加えると変形可能であり、該直径は、最大40%小さくなる、実施態様1〜8のいずれかに記載の締結要素。
(10) 前記非耐荷重性コアは、前記第1の生体適合性ポリマーに組み込まれた浸透圧活性物質を含む、実施態様1〜9のいずれかに記載の締結要素。
【0043】
(11) 前記浸透圧活性物質は、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸三カルシウム、又はこれらの混合物からなる群から独立して選択される無機塩である、実施態様10に記載の締結要素。
(12) 前記締結要素は、縫合糸である、実施態様1〜11のいずれかに記載の締結要素。
(13) 前記縫合糸の直径は、径方向の変形力を加えると変形可能であり、該縫合糸の直径は、最大40%小さくなる、実施態様12に記載の締結要素。
(14) 前記縫合糸は、少なくとも6つの結節で結ばれたとき、耐荷重性シースに囲まれた耐荷重性コアを含む縫合糸と比較して、改善された結節滑り数を有する、実施態様12及び13のいずれかに記載の締結要素。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3
図4
図5
図6
図7