特許第6203777号(P6203777)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6203777
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】可塑性油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20170914BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   A23D9/00 502
   A23D7/00 500
   A23D7/00 508
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-77271(P2015-77271)
(22)【出願日】2015年4月3日
(65)【公開番号】特開2016-195571(P2016-195571A)
(43)【公開日】2016年11月24日
【審査請求日】2016年12月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000189970
【氏名又は名称】植田製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】熊西 敦則
(72)【発明者】
【氏名】西田 誠
【審査官】 川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−311845(JP,A)
【文献】 特表2007−530071(JP,A)
【文献】 村上千秋、知見憲次、兼松弘,加工油脂のコレステロール代謝に及ぼす影響(第2報)パームエステル交換油の影響,油化学,日本,1991年,第40巻、第2号,P114-120
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00−9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(1)〜(4)の全てを満たす中融点エステル交換油95〜99.9質量%とHLB5以下でポリグリセリンの平均重合度が6〜10であり、主構成脂肪酸が炭素数16〜22の飽和脂肪酸から選ばれる1種または2種以上であるポリグリセリン脂肪酸エステル0.1〜5質量%からなり、70℃で溶解して5℃で1晩保管後、25℃で4時間保管した硬度が200〜700gfとなる可塑性油脂組成物。
(1)SFCが5℃で35〜50%、20℃で15〜30%であり、かつ5℃と20℃の差が30以下である。
(2)融点が30〜45℃である。
(3)トランス脂肪酸が1質量%以下であって、構成脂肪酸中に炭素数16以上の飽和脂肪酸が35〜50質量%であり、かつ炭素数16以上の飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸の比が1:0.3〜1:0.8である。
(4)70℃で溶解して5℃で1晩保管後、25℃で4時間保管した硬度が0〜150gfである。
【請求項2】
請求項1記載の可塑性油脂組成物を使用してなる油脂を連続相とする組成物。
【請求項3】
請求項の組成物が、ショートニング、マーガリンまたはバタークリームである油脂を連続相とする組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マーガリン、ショートニング等の油脂を連続相とする組成物に用いると優れた作業性と保形性と口溶け感をもたらす可塑性油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
マーガリン、ショートニング等の油脂を連続相とする組成物は、菓子やパン等の製造時において広い温度範囲での作業適性が求められており、そのためには温度変化による急激な硬さの変化がなく、常温より高い温度でも軟化がないことが求められる一方で、作業時の物理的な力により滑らかに伸展し、油脂を連続相とする組成物を用いた食品の口溶け感を損なわないことが求められている。
また、マーガリン、ショートニング等の油脂を連続相とする組成物は、品質保持のために冷蔵保管されることが多く、作業前に適正な硬さになるように調温して用いる必要があり、冷蔵保管されていても直ぐに使用できるといった作業適性を併せ持つことが求められている。
【0003】
しかしながら、この相反する性質を併せ持つことは困難であり、保管時での硬さと作業時での適正な硬さとの差を小さくすると、口溶け感は良いが保形性が十分ではないか、保形性を有しているが口どけ感が悪くなる。また、保形性を有したまま口溶け感を重視すると、保管時の硬さと作業時の適正な硬さとの差が大きくなり、広い温度範囲での作業適性が損なわれるという問題があった。さらに、部分硬化油に多く含まれるトランス脂肪酸が血中のLDLコレステロールを上昇させると共に、HDLコレステロールを低下させて心臓血管病を引き起こすことが示唆されているなか、トランス脂肪酸の含量を抑えながらもこの相反する性質を両立させることは極めて困難であり、いまだ満足のいくものができてはいなかった。このため、トランス脂肪酸の含量を抑えながらも広い温度範囲での作業適性と、保形性を有した良好な口溶け感のある物性とを両立させる方法が求められていた。
【0004】
このような物性を得るための代表的な方法としては、使用油脂の組み合わせにより融点やSFC(固形脂含量)を調整する方法、あるいは乳化剤を乳化目的ではなく油脂固化剤や油脂増粘剤として使用する方法が知られている。
これらの方法は、基本的には液体油もしくは低融点油脂を用いることにより良好な口どけ感を付与し、高融点油脂や乳化剤を使用することにより保形性を付与するということを行っており、中融点エステル交換油に広い温度範囲での作業適性と、保形性を有した良好な口溶け感のある物性とを両立させるという検討は、これまで行われた例が見当たらない。
【0005】
特許文献1では、ハイエルシン菜種油の極度硬化油を7〜16重量%含むロールイン用可塑性油中水型乳化物が記載されているが、常温流通を目的として極度硬化油の使用量を多くしているため、保形性を有しているが口どけ感が良いものではなかった。
【0006】
特許文献2では、油脂の融点やSFCにとらわれず、口溶け感を損なわずに耐熱保形性の良好なバタークリームや可塑性油脂組成物等の油脂を連続相とする油脂組成物が記載されているが、使用油脂には従来から行われているようなハードストックと低融点油脂とを組み合わせた油脂が使用されており、呈味を重視しているがために作業性としては満足のいくものではなかった。
【0007】
特許文献3では、20℃で液体である油脂を30%以上含有し特定の条件を満たすポリグリセリン脂肪酸エステルを含有したマーガリンまたはショートニングが記載されているが、20℃で液体である油脂を30%以上も使用しているがために、保形性としては満足のいくものではなかった。
【0008】
特許文献4では、主構成脂肪酸がベヘン酸であり且つエステル化度が50%以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルを有効成分とすることを特徴とする油脂の増粘剤について記載されているが、油脂の粘度を高めるためにポリグリセリン脂肪酸エステルを使用して粉体食材の油中分散安定性の向上を目的としたものであり、可塑性をもつ油脂組成物ではなく、マーガリン、ショートニングのように油脂を連続相とする組成物に関すものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5430202号公報
【特許文献2】特開2013−223466号公報
【特許文献3】特許第4724094号公報
【特許文献4】特許第3497780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、マーガリン、ショートニング等の油脂を連続相とする組成物に用いると優れた作業性と保形性と口溶け感をもたらす可塑性油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の発明者らは、鋭意検討の結果、作業性と保形性に優れ、口溶け感に優れたマーガリン、ショートニング等の油脂組成物が得られるように、特定のポリグリセリン脂肪酸エステルと、特定の中融点エステル交換油と組み合わせた相乗効果から得られる可塑性油脂組成物の特性により、前記した課題を解決できることを見いだしたのである。
【0012】
すなわち本発明は、第1に(1)〜(4)の全てを満たす中融点エステル交換油95〜99.9質量%とHLB5以下で主構成脂肪酸が炭素数16〜22の飽和脂肪酸から選ばれる1種または2種以上であるポリグリセリン脂肪酸エステル0.1〜5質量%からなり、70℃で溶解して5℃で1晩保管後、25℃で4時間保管した硬度が200〜700gfとなる可塑性油脂組成物を提供するものである。
(1)SFCが5℃で35〜50%、20℃で15〜30%であり、かつ5℃と20℃の差が30以下である。
(2)融点が30〜45℃である。
(3)トランス脂肪酸が1質量%以下であって、構成脂肪酸中に炭素数16以上の飽和脂肪酸が35〜50質量%であり、かつ炭素数16以上の飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸の比が1:0.3〜1:0.8である。
(4)70℃で溶解して5℃で1晩保管後、25℃で4時間保管した硬度が0〜150gfである。
【0013】
第2の発明は、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンの平均重合度が6〜10である第1に記載の可塑性油脂組成物である。
【0014】
第3の発明は、第1〜2何れかに記載の可塑性油脂組成物を使用してなる油脂を連続相とする組成物である。
【0015】
第4の発明は、第3の組成物が、ショートニング、マーガリンまたはバタークリームである油脂を連続相とする組成物である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の可塑性油脂組成物を用いてマーガリン、ショートニング等の油脂を連続相とする組成物を調製した場合、保形性と口どけ感が良く、製菓・製パン作業に優れ、バタークリームにおいては低温時の作業性が良好となる。また、特にロールイン用マーガリンを調製した場合、生地とともに薄く伸び、作製したデニッシュの浮きが極めて良好となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明の実施形態の可塑性油脂組成物について、以下に詳細を記載する。
【0018】
まず、本発明の可塑性油脂組成物を構成するエステル交換油について述べる。
本発明の可塑性油脂組成物を構成するエステル交換油は、前記(1)〜(4)の通り、SFC(固体脂含量)が特定の値であり、かつ25℃の硬度が特定の値である、融点が30〜45℃である特定された脂肪酸組成からなるエステル交換油である。
このようなエステル交換油により、本発明の可塑性油脂組成物に広い温度範囲での作業適性と、良好な口溶け感を付与することができる。
【0019】
前記エステル交換油においては、前記(1)の通り、SFC(固体脂含量)が5℃で35〜50%、20℃で15〜30%であり、かつ5℃と20℃の差が30以下である。
SFCの5℃と20℃の差が30を超えると、保管時の硬さと作業時の適正な硬さとの差が大きくなり、広い温度範囲での作業適性が得られなく、SFCが5℃で35%未満、20℃で15%未満であると、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルと十分な相互作用が得られず、保形性を付与することができない。
一方、SFCが5℃で50%を超えると保管時の硬さが硬くなり過ぎてしまい、20℃で30%を超えると口溶け感が悪くなってしまう。
【0020】
前記エステル交換油においては、前記(2)の通り、融点が30〜45℃である。
融点が30℃未満であると、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルと十分な相互作用が得られず、可塑性油脂組成物に保形性を付与することができない。
一方、融点が45℃を超えると口溶け感が悪くなってしまう。
【0021】
前記エステル交換油においては、前記(3)の通り、トランス脂肪酸が1質量%以下であって、構成脂肪酸中に炭素数16以上の飽和脂肪酸が35〜50質量%であり、かつ炭素数16以上の飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸の比が1:0.3〜1:0.8である。
構成脂肪酸中に炭素数16以上の飽和脂肪酸が35%未満の場合、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルと十分な相互作用が得られず、可塑性油脂組成物に保形性を付与することができない。
一方、構成脂肪酸中に炭素数16以上の飽和脂肪酸が50%を超えると口溶け感が悪くなってしまう。
また、炭素数16以上の飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸の比が1:0.3〜1:0.8から外れると、広い温度範囲での作業適性が得られなくなってしまう。
【0022】
前記エステル交換油においては、前記(4)の通り、70℃で溶解して5℃で1晩保管後、25℃で4時間保管した硬度が0〜150gfであることが必要である。
70℃で溶解して5℃で1晩保管後、25℃で4時間保管し、後述の実施例に記載の特定の測定方法からもとめられる硬度が150gfを超える油脂には、油脂そのものが既に強固な組織となっているため、口溶け感が悪くなる性質や保管時に硬くなる性質を可塑性油脂組成物にも付与してしまう。
【0023】
前記エステル交換油を得るには、多価不飽和脂肪酸を多く含む油脂として大豆油、なたね油、綿実油、米油、コーン油、ひまわり油、サフラワー油等を使用するが、その他に、高オレイン酸なたね油、高オレイン酸ひまわり油、高オレイン酸サフラワー油、パーム油、パーム分別油、パーム核油、ヤシ油、牛脂、豚脂等や、これらの油脂を水素添加し、極度硬化油にしたものを混合した後、ランダムエステル交換する。
【0024】
ランダムエステル交換の方法としては、特に制限はなく、化学触媒であるナトリウムメトキシドまたは苛性ソーダ、グリセリン、水の混合物を使用する方法や、酵素リパーゼを使用する周知の方法を採用できる。リパーゼを用いる場合はトリアシルグリセロールの位置に特異性を持たないリパーゼで、キャンディダ属由来のリパーゼ等を例示できる。
エステル交換反応後は、触媒を除去し、必要に応じて脱酸もしくは脱色またはこれらのいずれも行い、さらに脱臭を行うことで所望の油脂が得られる。
【0025】
つぎに、本発明の可塑性油脂組成物を構成するポリグリセリン脂肪酸エステルについて述べる。
【0026】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルにおいては、HLB5以下の主構成脂肪酸が炭素数16〜22の飽和脂肪酸から選ばれる1種または2種以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルであり可塑性油脂組成物に0.1〜5質量%含有される。
ここでいう「主構成脂肪酸」とは、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸組成の50質量%以上である脂肪酸のことをいい、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。
また、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンの平均重合度は、好ましくは4〜12、より好ましくは6〜10である。このようなポリグリセリン脂肪酸エステルを含有していることにより、前記エステル交換油から付与される広い温度範囲での作業適性と良好な口どけ感を損なわずに、本発明の可塑性油脂組成物に対し保形性を付与することができる。
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBが5を超えると、前記エステル交換油との十分な相互作用が得られず、必要となる硬度の上昇が得られない。主構成脂肪酸が炭素数16未満の飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸から選ばれる1種または2種以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルであっても同様である。また、可塑性油脂組成物中に0.1質量%未満では十分な効果が得られず、5質量%を超えると口溶け感が悪くなってしまう。
【0027】
また、本発明の可塑性油脂組成物は、70℃で溶解して5℃で1晩保管後、25℃で4時間保管し、後述の実施例に記載の特定の測定方法からもとめられる硬度が200〜700gfとなる。
このような可塑性油脂組成物により、本発明の油脂を連続相とする組成物に対し、25℃での保形性と良好な口溶け感とを両立させることができる。
この25℃での保形性というものは、マーガリン、ショートニング等の油脂を連続相とする組成物において重要な意味を持つ。この温度域は、製菓・製パン用途においては発酵や焼成工程での初期段階となり、マーガリン、ショートニングにこの温度域での保形性が不十分、すなわち、オイルオフがみられ、原形を保持できないような物性があると、膨らみや食感等のできあがりが悪くなってしまう。また、サンドして用いるようなバタークリーム用途においても同様に、25℃での保形性がないと油の浸みだし等の問題が生じてしまう。
前記エステル交換油を含む油脂と前記ポリグリセリン脂肪酸エステルとを70℃で溶解して5℃で1晩保管後、25℃で4時間保管した硬度が200gf未満であると、本発明の可塑性油脂組成物に十分な保形性を付与することができず、また、700gfを超えると過度な保形性を付与することとなり口溶け感が悪くなってしまう。
【0028】
本発明の油脂を連続相とする組成物に用いる可塑性油脂組成物は、前記(1)〜(4)の全てを満たす中融点エステル交換油95〜99.9質量%とHLB5以下で主構成脂肪酸が炭素数16〜22の飽和脂肪酸から選ばれる1種または2種以上であるポリグリセリン脂肪酸エステル0.1〜5質量%からなり70℃で溶解して5℃で1晩保管後、25℃で4時間保管した硬度が200〜700gfとなる可塑性油脂組成物である。
【0029】
前記条件を満足する可塑性油脂組成物は、目的とする油脂を連続相とする組成物に応じて最適量使用すれば良く、その使用量については特に限定させるものではないが、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。
【0030】
本発明の可塑性油脂組成物には、油脂を連続相とする組成物に優れた作業性と保形性と口溶け感をもたらすことができるため、可塑性油脂組成物を単独で用いることもできるが、この特徴を損なわない限り下記に挙げた1種類又は2種類以上の油脂と組み合わせて用いることもできる。
【0031】
使用する油脂としては、例えば、大豆油、なたね油、綿実油、米油、コーン油、ひまわり油、サフラワー油、高オレイン酸なたね油、高オレイン酸ひまわり油、高オレイン酸サフラワー油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、牛脂、豚脂、乳脂等を使用することができる。また、これらの油脂に対し水素添加、分別、エステル交換等の物理的または化学的処理の1種または2種以上の処理を施した油脂についても使用することができる。
【0032】
本発明の可塑性油脂組成物には、油脂を連続相とする組成物に優れた作業性と保形性と口溶け感をもたらすことができるため、可塑性油脂組成物を単独で用いることもできるが、この特徴を損なわない限り下記に挙げた1種類又は2種類以上の乳化剤と組み合わせて用いることもできる。
【0033】
使用する乳化剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、また、前記ポリグリセリン脂肪酸エステル以外のポリグリセリン脂肪酸エステル等を使用することができる。
【0034】
本発明の可塑性油脂組成物は、必要に応じ上記の油脂や乳化剤に加え、その他の成分を含有させて、ショートニング、マーガリンまたはバタークリームに使用することができる。
【0035】
使用するその他の成分としては、例えば、水、アルコール、食塩、着色料、酸味料、調味料、香料、増粘安定剤、糖類、乳成分、酸化防止剤等を使用することができる。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例および比較例を挙げこの発明をさらに詳しく説明する。
実施例および比較例で採用した試験法については、融点については、基準油脂分析試験法2.2.4.2−1996にて、トランス脂肪酸については、基準油脂分析試験法2.4.4.3−2013にて、SFCについては、基準油脂分析試験法2.2.9−2013固体脂含量(NMR法)にて、脂肪酸組成については、基準油脂分析試験法2.4.2.3−2013にて分析を行った。
また、前記エステル交換油と前記ポリグリセリン脂肪酸エステルとを70℃で溶解して5℃で1晩保管後、25℃で4時間保管した硬度は、測定装置として、山電社製「クリープメータ レオナー(RE−3305S)」を使用し、プランジャーNo.5を装着し、試料台速度を5mm/secに設定し、直径50mm、深さ25mmのカップに30g詰められたサンプルにプランジャーを挿入した時のプランジャーにかかる応力(gf)を読みとった。
尚、エステル交換油単独での硬度を測定する場合は、70℃に加温した油脂を用いて5℃で1晩保管する以外は、上記方法と同様の方法で測定を行った。
また、表中に示した%は全て質量%であり、部は質量部である。
【0037】
[製造例](油脂組成物A1〜A5、B1〜B4の調製)
なたね油55質量部、大豆極度硬化油35質量部、パーム核油10質量部を混合して0.2質量部のナトリウムメトキシドを加え、80℃で30分混合撹拌してランダムエステル交換反応を行い、反応後、水洗して触媒を除去した。次に脱色、脱臭して、表1に示す分析値を有するエステル交油脂X1を得た。
次に、99.5質量%のエステル交換油X1と0.5質量%のポリグリセリン脂肪酸エステルP1を70℃で溶解して、表3に示す油脂組成物A1を調製した。
使用したポリグリセリン脂肪酸エステルについての物性は、表2に示す。
油脂組成物A2〜A5、B1〜B4についても、表1で示したエステル交換油を用い、表3に示す組成に従い油脂組成物A1と同様の方法により調製した。
【0038】
【表1】
(※1)炭素数16以上の飽和脂肪酸
(※2)多価不飽和脂肪酸
【0039】
【表2】

(構成脂肪酸の単位:%)
【0040】
【表3】
【0041】
(ショートニングの製造方法)
[実施例1〜7]
表3に示した油脂組成物を用い、表5の配合に従いそれぞれを添加混合した後、これをコンビネーター(シューレーダー社製)に通し、急冷捏和してショートニングを得た。次いで、25℃のインキュベータ内にて1日熟成を行った後、5℃の冷蔵庫に保管した。
得られたショートニングについては下記の評価法に従って判定した。
【0042】
<ショートニングの評価>
下記の方法で保形性、クリーミング性を評価した。また、口どけ感と作業性についてはクッキーを作製して評価した。結果については、表5に併記した。
【0043】
(保形性の評価)
直径14mm、高さ10mmの円柱状にくり抜いたショートニングを25℃に4時間調温後、円柱の高さの測定とオイルオフの確認を行った。保形性については、下記評価基準に従って4段階で評価を行った。
・評価基準
◎ 円柱の高さに変化は無く、オイルオフが無い。
〇 少し軟化しているが円柱の高さに変化は無く、オイルオフが無い。
△ 軟化しており、円柱の高さが調温前より低くなり、オイルオフが有る。
× 軟化しており、円柱の高さが調温前より低くなり、激しいオイルオフが有る。
【0044】
(クリーミング性の評価)
ワイヤーウィップを取り付けたミキサー(HOBART社製)に、15℃の品温で1晩調温したショートニング500gを投入し、5分間中速でクリーミングした。クリーミング性については、比重を測定し下記評価基準に従って4段階評価を行った。
・評価基準
◎ 5分後の比重が0.40未満
〇 5分後の比重が0.40以上0.50未満
△ 5分後の比重が0.50以上0.60未満
× 5分後の比重が0.60以上
【0045】
(口どけ感の評価)
表4の配合に従って、15℃の品温で1晩調温したショートニングを用いてクッキーを以下のように作製し、口どけ感について下記評価基準に従って4段階で評価を行った。
フラット・ビーターを取り付けたミキサーに、ショートニング及び砂糖を投入して軽く混合した後、低速で2分すりあわせた。27℃に調温した全卵を3回に分けて低速で撹拌混合した後、薄力粉を加えて低速で撹拌混合し、更に、水と食塩を混合した水相を加えて低速で1分撹拌混合してクッキー生地を得た。得られたクッキー生地を冷蔵庫で1時間保管した後、厚さ7mm、直径5cmに成形し、170℃のオーブンで12分焼成して、クッキーを得た。
・評価基準(口どけ感)
◎ 良好なサクさがあり、口どけ感も良い
〇 サクさが有り、口どけ感も良い
△ サクさは有るが、口どけ感が悪い
× サクさが無く、口どけ感も悪い
【0046】
【表4】
(単位:質量部)
【0047】
(作業性の評価)
5℃に保管していたショートニングを用いて、作業性の評価を下記評価基準に従って4段階で評価を行った。
フラット・ビーターを取り付けたミキサーに、ショートニング300gと砂糖150gを投入して軽く混合した後、ショートニングに部分的な塊が残らずに砂糖と均一で滑らかな状態になるまで、低速ですりあわせるのに要した時間を測定した。
・評価基準
◎ 低速のすりあわせに1以上2分未満要した。
〇 低速のすりあわせに2分以上3分未満要した。
△ 低速のすりあわせに3分以上5分未満要した。
× 低速のすりあわせに5分以上要した。
【0048】
[比較例1〜5]
表3に示した油脂組成物を用い、表6の配合に従いそれぞれを添加混合する以外は、実施例1と同様にショートニングを作製し、25℃のインキュベータ内にて1日熟成を行った後、5℃の冷蔵庫に保管した。
得られたショートニングについては、同様に上記評価基準により評価し、結果については、表6に併記した。
【0049】
【表5】
【0050】
【表6】
比較例1は製造後の熟成工程において液状状態となってしまい、ショートニングとしては不十分なため使用できなかった。
【0051】
表5の実施例1〜7の結果からも明らかなように、所定のポリグリセリン脂肪酸エステルと所定のエステル交換油からなり、かつ所定の25℃での硬度を持つ本願の請求項に関わるショートニングは、作業性と保形性が優れていながらも、良好な口どけ感を有し、またクリーミング性が良好であった。
【0052】
これに対し、表6の比較例の結果から、エステル交換油のSFCが所定の範囲に到達していない比較例1では、十分な保形性を有しておらずショートニングとしての性能を有していなかった。
また、エステル交換油のSFCが所定の範囲を超え、また、25℃での硬度が所定の範囲を超えた比較例2では、十分な保形性を有しているが、口どけが大変悪いものとなり、エステル交換油の5℃と20℃のSFCの差が所定の範囲を超えた比較例3においては、作業性が大変悪いものとなった。
また、25℃での硬度が所定の範囲に到達しない比較例4においては十分な保型性が付与されておらず、天然油脂であるパーム油単体を用いた比較例5の結果では、クリーミング性や作業性が大変悪いものとなった。
【0053】
(ロールイン用マーガリンの製造方法)
[実施例8〜10、比較例6〜7]
表3に示した油脂組成物を用いて、表8の配合に従いそれぞれを添加混合した後、これをコンビネーター(シューレーダー社製)に通し、急冷捏和して厚さ1cm、幅20cmのロールイン用マーガリンを得た。次いで、ロールイン用マーガリンを5℃の冷蔵庫に保管した。
得られたロールイン用マーガリンについては下記の評価法に従って判定した。
【0054】
<ロールイン用マーガリンの評価>
得られたロールイン用マーガリンについては、下記の方法で保形性を評価した。口どけ、ロールイン物性、作業性についてはデニッシュを作製して評価した。
結果については、表8に併記した。
【0055】
(保形性の評価)
直径14mm、高さ10mmの円柱状にくり抜いたロールイン用マーガリンを25℃に4時間調温後、円柱の高さの測定とオイルオフの確認を行った。保形性については、下記評価基準に従って4段階で評価を行った。
・評価基準
◎ 円柱の高さに変化は無く、オイルオフが無い。
〇 少し軟化しているが円柱の高さに変化は無く、オイルオフが無い。
△ 軟化しており、円柱の高さが調温前より低くなり、オイルオフが有る。
× 軟化しており、円柱の高さが調温前より低くなり、激しいオイルオフが有る。
【0056】
(ロールイン物性と口どけ感の評価)
表7の配合に従って、ロールイン用マーガリンを用いてデニッシュを以下のように作製し、ロールイン物性について下記評価基準に従って4段階で評価を行った。
ロールイン用マーガリンを除いた原料をミキサーにて低速6分、中速7分、捏ね上げ温度25℃としてミキシングした。室温で40分生地を発酵させた後、生地を−5℃で1晩冷却した。この生地に15℃に調温したロールイン用可塑性油脂組成物を3つ折りで2回折り込み、−5℃で1時間冷却した後3つ折りで1回折り込み、リバースシーターの厚みを6mmに調整して生地を圧延した。生地を成形後、33℃、湿度70%のホイロで60分間発酵し、200℃のオーブンで12分焼成し、デニッシュを得た。
・評価基準(ロールイン物性)
◎ 生地とともに薄く伸び、作製したデニッシュの浮きが非常に良好である
〇 生地とともに薄く伸びるが少しひび割れがあり、作製したデニッシュの浮きが好である
△ 生地とともにやや薄く伸び難く及び/又は少しひび割れがあり、作製したデニッシュの浮きが悪い
× 生地とともに伸び難く及び/又は大きなひび割れがあり、作製したデニッシュの浮きが悪い
・評価基準(口どけ感の評価)
◎ 油脂が口残りせず、口どけが非常に良好で好ましい
〇 油脂が口残りせず、良好で好ましい
△ 油脂がやや口残りして、あまり好ましくない
× 油脂が口残りして、口どけが不良で好ましくない
【0057】
【表7】
(単位:質量部)
【0058】
(作業性の評価)
5℃に保管していたロールイン用マーガリンを用いた以外は、上記ロールイン物性と同様のデニッシュ試験を行い、作業性の評価を下記評価基準に従って4段階で評価を行った。
・評価基準
◎ 生地とともに薄く伸び、作製したデニッシュの浮きが非常に良好である
〇 生地とともに薄く伸びるが少しひび割れがあり、作製したデニッシュの浮きが良好である
△ 生地とともにやや薄く伸び難く及び/又は少しひび割れがあり、作製したデニッシュの浮きが悪い
× 生地とともに伸び難く及び/又は大きなひび割れがあり、作製したデニッシュの浮きが悪い
【0059】
【表8】
【0060】
表8の実施例8〜10の結果からも明らかなように、所定のポリグリセリン脂肪酸エステルと所定のエステル交換油からなり、かつ所定の25℃での硬度を持つ本願の請求項に関わるロールイン用マーガリンは、作業性と保形性が優れていながらも、良好な口どけ感を有し、またロールイン物性が良好であった。
【0061】
これに対し、表8の比較例の結果から、エステル交換油のSFCが所定の範囲を超え、また、25℃での硬度が所定の範囲を超えた比較例6では、十分な保形性を有しているが口どけが大変悪いものとなり、天然油脂であるパーム油単体を用いた比較例7では、ロールイン物性や作業性が大変悪いものとなった。
【0062】
(バタークリームの製造方法)
[実施例11、比較例8]
表3に示した油脂組成物を用い、表9の配合に従いそれぞれを添加混合した後、これをコンビネーター(シューレーダー社製)に通し、急冷捏和してバタークリームを得た。次いで、バタークリームを5℃の冷蔵庫に保管した。
得られたバタークリームについては下記の評価法に従って判定した。
【0063】
<バタークリームの評価>
下記の方法で保形性、口どけ感、作業性について評価した。結果については、表9に併記した。
【0064】
(保形性の評価)
直径14mm、高さ10mmの円柱状にくり抜いたバタークリームを25℃に4時間調温後、円柱の高さの測定とオイルオフの確認を行った。保形性については、下記評価基準に従って4段階で評価を行った。
・評価基準
◎ 円柱の高さに変化は無く、オイルオフが無い。
〇 少し軟化しているが円柱の高さに変化は無く、オイルオフが無い。
△ 軟化しており、円柱の高さが調温前より低くなり、オイルオフが有る。
× 軟化しており、円柱の高さが調温前より低くなり、激しいオイルオフが有る。
【0065】
(口どけ感の評価)
・評価基準
◎ 油脂が口残りせず、口どけが非常に良好で好ましい
〇 油脂が口残りせず、良好で好ましい
△ 油脂がやや口残りして、あまり好ましくない
× 油脂が口残りして、口どけが不良で好ましくない
【0066】
(作業性の評価)
5℃に保管していたバタークリームについて絞り出し器を使用して5cm絞り出し、低温時での作業性の評価を下記評価基準に従って4段階で評価を行った。
・評価基準
◎ 絞り出した形状がきれいで、絞りやすく非常に好ましい
〇 絞り出した形状がきれいで、絞り出すのに少し力を要するが好ましい
△ 絞り出した形状がきれいだが、絞り出しにくくあまり好ましくない
× 絞り出しにくいため、絞り出した形状が悪く好ましくない
【0067】
【表9】
【0068】
表9の実施例11の結果からも明らかのように、所定のポリグリセリン脂肪酸エステルと所定のエステル交換油からなり、かつ所定の25℃での硬度を持つ本願の請求項に関わるバタークリームは、作業性と保形性が優れていながらも、良好な口どけ感を有していた。
これに対し、天然油脂であるパーム油と大豆油を用いた比較例8では、作業性と保形性を両立させることができなかった。