(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電流指令生成部は、前記ダイナミックブレーキ信号を受信した後、前記q相電流を減少させるように前記q相電流指令を制御すると共に、前記d相電流を増加させるように前記d相電流指令を制御し、
前記短絡制御部は、ダイナミックブレーキ信号を受信した後であって、前記q相電流及び前記d相電流の少なくともいずれか一方がそれぞれ予め定めた値に到達した後に、同期電動機を短絡するように前記短絡装置を制御する、請求項4に記載の同期電動機の制御装置。
前記電流指令生成部は、前記ダイナミックブレーキ信号を受信した後、同期電動機の端子間電圧の振幅を小さくする方向に、U相、V相、W相それぞれに流す電流の位相を変更するように前記d相電流指令及び前記q相電流指令を制御し、
前記短絡制御部は、前記ダイナミックブレーキ信号を受信した後であって、前記q相電流及び前記d相電流の少なくともいずれか一方がそれぞれ予め定めた値に到達した後に、前記同期電動機を短絡するように前記短絡装置を制御する、請求項4に記載の同期電動機の制御装置。
前記電流指令生成部は、前記ダイナミックブレーキ信号を受信した後、前記q相電流を減少させるように前記q相電流指令を制御すると共に、前記d相電流を増加させるように前記d相電流指令を制御する、請求項8に記載の同期電動機の制御装置。
前記電流指令生成部は、前記ダイナミックブレーキ信号を受信した後、同期電動機の端子間電圧の振幅を小さくする方向に、U相、V相、W相それぞれに流す電流の位相を変更するように前記d相電流指令及び前記q相電流指令を制御する、請求項8に記載の同期電動機の制御装置。
【背景技術】
【0002】
同期電動機を緊急停止させるためにダイナミックブレーキが用いられる。ダイナミックブレーキについて簡単に説明する。
図1(a)に同期電動機(以下、単に「モータ」ともいう)が動作中の場合におけるモータ及び駆動アンプの接続状態を示す。モータ100は動力線300により駆動アンプ200に接続され、モータ100の三相コイル(図示せず)に電流が流れる。
図1(b)は、モータが動作中の場合のd−q座標上で表した電圧ベクトル図である。ここで、I
dはd相電流、I
qはq相電流、V
dはd相電圧、V
qはq相電圧、L
dはd軸インダクタンス、L
qはq軸インダクタンス、ωは周波数、K
vは逆起電圧定数、Rは巻線抵抗である。
【0003】
ダイナミックブレーキ動作を行う場合は、
図2(a)に示すように、モータ100を駆動アンプ200から切り離し、モータ100の三相コイルに接続された動力線300を短絡状態にし、モータ100の誘起電圧により三相コイルに流れる電流を制動電流としてモータ100を制動する。
図2(b)は、モータのダイナミックブレーキ動作中の場合のd−q座標上で表した電圧ベクトル図である。ダイナミックブレーキ動作中はモータ100の端子間電圧が0[V]となる。従って、逆起電圧K
vωを打ち消すように逆向きのq相電流I
q(トルク生成電流)がモータ内に流れるため、ブレーキとなる。
【0004】
ここで、ダイナミックブレーキ動作を開始すると、端子間電圧が大きい状態から0[V]に急激に減少する。そのため、ダイナミックブレーキ(以下、「DB」ともいう)開始直後は電流振幅が振動的になる。DB開始後のd相電流I
d及びq相電流I
qの時間的変化を
図3に示す。
図3(a)は時間0[sec]でのDB開始直後の初期q相電流I
qが0[A]の場合を示し、
図3(b)は初期q相電流I
qが大きい場合を示す。なお、便宜上、q相電流I
q(トルク生成電流)はグラフ上の正の場合にモータが加速し、負の場合にモータが減速するものとする。また、d相電流I
d(界磁弱め電流)は、グラフ上の正で界磁弱めとなるものとする。
【0005】
図3(a)に示すように、初期q相電流I
qが0[A]の場合であってもd相電流I
dは振動するが電流振幅は比較的小さい。これに対して、
図3(b)に示すように、初期q相電流I
qが大きい場合は、d相電流I
dの振幅が、初期q相電流I
qが0[A]の場合よりも大きくなる。特に、DB開始直後の時間t
mにおいてd相電流I
dが瞬間的に大きくなり、モータのロータに用いている永久磁石に減磁が生じる恐れがある。
【0006】
そこで、ダイナミックブレーキ動作によって生じる減磁を抑制する方法が報告されている(例えば、特許文献1〜3)。特許文献1には、三相短絡の際に発生する過渡的な電流により生じうる永久磁石の不可逆減磁を防止するために、同期電動機の電流値が最大電流値未満になるように同期電動機の電流を制御する方法が開示されている。しかしながら、電流を抑制するためにq相電流I
qを予め制限するため、不必要にトルクが制限されるという問題が生じる。
【0007】
特許文献2には、オン状態にされたときに三相モータが有する三相のコイルを短絡させ、オフ状態にされたときに三相のコイルの短絡を解消する3個のスイッチング素子と、3個のスイッチング素子をオン状態にしているときに、三相のコイルのうちいずれか1相のコイルに流れる電流が所定の閾値を超えた場合には、3個のスイッチング素子を第1の所定時間オフ状態とし、第1の所定時間が経過した後に3個のスイッチング素子をオン状態とするモータ制御装置が開示されている。しかしながら、コイルの短絡を解消するのは、コイルの電流が所定の閾値を超えた後であるので、ダイナミックブレーキによる減磁を完全に抑制することは難しいと考えられる。
【0008】
特許文献3には、モータを緊急停止させるダイナミックブレーキ装置において、ダイナミックブレーキ動作を開始してから所定時間は、ブレーキ電流を制御するためのスイッチング素子の少なくとも一部のオンオフを繰返すPWM制御でブレーキをかけてダイナミックブレーキ電流を弱めるように制御し、所定時間経過後は、PWM制御を行わずに全部のスイッチング素子を常時オン又はオフに固定して本来流れるべきダイナミックブレーキ電流を流すように制御するモータのダイナミックブレーキ装置が開示されている。しかしながら、この場合もダイナミックブレーキ電流を弱めるように制御するのはダイナミックブレーキ動作を開始させてからであるので、ダイナミックブレーキによる減磁を完全に抑制することは難しいと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明に係る同期電動機の制御装置について説明する。ただし、本発明の技術的範囲はそれらの実施の形態には限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0015】
[実施例1]
まず、本発明の実施例1に係る同期電動機の制御装置について図面を用いて説明する。
図4は、本発明の実施例1に係る同期電動機の制御装置の構成図である。
図4に示すように、本発明の実施例1に係る同期電動機の制御装置101は、d相電流指令及びq相電流指令を生成する電流指令生成部1と、d相電流及びq相電流を検出する電流検出部2と、同期電動機60にダイナミックブレーキをかけるために同期電動機60を短絡する短絡装置3と、短絡装置3を制御する短絡制御部4と、を有し、電流指令生成部1は、ダイナミックブレーキ信号を受信した後、q相電流を減少させるように、q相電流指令を制御し、短絡制御部4は、ダイナミックブレーキ信号を受信した後であって、電流指令生成部1がq相電流指令を制御してから所定の時間が経過した後に、同期電動機60を短絡するように短絡装置3を制御する、ことを特徴とする。
【0016】
図4に示した本発明の実施例1に係る同期電動機の制御装置101について、詳細に説明する。三相交流電源10からコンバータ20へ三相交流電圧が入力され、コンバータ20は直流電圧に変換して出力する。出力された直流電圧は平滑コンデンサ30により平滑化された後、インバータ40に入力される。インバータ40は、PWM信号生成部12からのPWM信号V
U*、V
V*、V
W*に基づくPWM制御により直流電圧を、同期電動機60を駆動するための所望の周波数の交流電圧に変換する。
【0017】
インバータ40と同期電動機60との間には短絡装置3が設置されている。短絡装置3は、短絡制御部4からの信号Sに従って同期電動機60の端子を短絡することによりダイナミックブレーキ動作を行う。
【0018】
同期電動機60に供給される三相電流のうち、U相電流I
U及びV相電流I
Vは、U相電流検出器4U及びV相電流検出器4Vにより検出され、検出結果は電流検出部2に出力される。電流検出部2は、U相電流I
U及びV相電流I
Vから、d相電流I
d及びq相電流I
qを算出し、短絡制御部4及び電圧指令生成部5へ出力する。
【0019】
同期電動機60は、巻線65U、65V、65Wを備えた固定子63を有する。さらに、同期電動機60は、固定子63の内側に磁極64a〜64dを備え、中心軸61を中心に回転する回転子62を備えている。同期電動機60は被駆動体7を駆動する。
【0020】
同期電動機60の近傍には、同期電動機60の回転角θを検出する回転角検出器8が設置されている。回転角検出器8は回転角θの検出値を電流検出部2、PWM信号生成部12及び回転速度演算部9に出力する。回転速度演算部9は、回転角θを時間で微分して回転速度ωを算出する。算出された回転速度ωは、短絡制御部4、トルク指令生成部11、電流指令生成部1、及び電圧指令生成部5に出力される。
【0021】
上位制御装置13は、トルク指令生成部11及び短絡制御部4に速度指令ω
*を出力する。トルク指令生成部11は、上位制御装置13から速度指令ω
*を取得し、トルク指令τ
*を生成し、電流指令生成部1に出力する。
【0022】
電流指令生成部1は、トルク指令生成部11から出力されたトルク指令τ
*に基づいて、d相電流指令I
d*及びq相電流指令I
q*を生成し、これらを電圧指令生成部5及び短絡制御部4に出力する。
【0023】
電圧指令生成部5は、d相電流指令I
d*及びq相電流指令I
q*からd相電圧指令V
d*及びq相電圧指令V
q*を生成し、PWM信号生成部12に出力する。
【0024】
PWM信号生成部12は、d相電圧指令V
d*及びq相電圧指令V
q*から各相のPWM信号V
U*,V
V*,V
W*を生成し、インバータ40に出力する。
【0025】
同期電動機60を停止させるためのダイナミックブレーキ信号は同期電動機の制御装置101の外部から電流指令生成部1及び短絡制御部4に入力される。なお、本発明を通常の減速停止が出来ないような非常停止の場合に適用するのが好適であるが、これには限られない。例えば、本発明を通常動作の減速にも適用することができる。
【0026】
次に、本発明の実施例1に係る同期電動機の制御装置を用いた場合の効果について説明する。
図5に本発明を適用しない場合におけるダイナミックブレーキ動作後のd相電流及びq相電流の時間的変化を表す図を示す。時間t
0でダイナミックブレーキ(DB)動作を開始したとする。DB開始前はd相電流I
d及びq相電流I
qは一定であったところ、DB開始後は振動的となる。DB開始時のq相電流I
qが大きいほど振幅が大きくなり、d相電流I
dの振幅が大きいと同期電動機の磁石の減磁を招くおそれがある点は上述した通りである。
【0027】
そこで本発明の実施例1に係る同期電動機の制御装置においては、短絡制御部4が、ダイナミックブレーキ信号を受信した後であって、電流指令生成部1がq相電流指令を制御してから所定の時間が経過した後に、同期電動機60を短絡するように短絡装置3を制御するようにしている。即ち、ダイナミックブレーキ信号を受信した後に即時にダイナミックブレーキを動作させるのではなく、電流指令生成部1がダイナミックブレーキ信号を受信してq相電流指令を制御してから所定の時間が経過した後にダイナミックブレーキを動作させている。
図6に本発明の実施例1に係る同期電動機の制御装置を用いてq相電流を減少させた場合におけるダイナミックブレーキ動作後のd相電流及びq相電流の時間的変化を表す図を示す。時間t
1において電流指令生成部1及び短絡制御部4がダイナミックブレーキ信号を受信したものとする。電流指令生成部1は時間t
1でq相電流I
qが減少するようにq相電流指令を制御する。そうすると、時間t
1以降にq相電流I
qは減少し始める。q相電流I
qが十分減少したものと推定される時間t
2においてダイナミックブレーキの動作を開始する。このように、本発明ではダイナミックブレーキ信号を受信したタイミングよりもダイナミックブレーキ動作を遅らせ、その間にq相電流I
qを減らすようにしている。その結果、ダイナミックブレーキ動作中の界磁弱め電流であるd相電流I
dの増加を抑制することができ、同期電動機の減磁を回避することができる。
【0028】
ここで、ダイナミックブレーキ信号を受信してから即時にダイナミックブレーキ動作を開始するのではなく、本発明のように所定の時間だけダイナミックブレーキ動作を遅らせたとしても必ずしもデメリットにはならない点について説明する。
図3(a)に示すように、ダイナミックブレーキ動作初期のq相電流I
qが0[A]の場合には、ダイナミックブレーキ動作後、即座にq相電流I
qが負になり減速トルク発生する。しかしながら、
図3(b)に示すように、ダイナミックブレーキ動作初期のq相電流I
qが大きい場合には、ダイナミックブレーキ動作後、しばらくはq相電流I
qが正となっており、このことは加速トルクが発生することを意味する。q相電流I
qは振動的となるため、再びq相電流I
qが正となる。従って、q相電流I
qが振動的になるほど加速トルクが発生する時間帯が長くなる。このように、ダイナミックブレーキ動作初期のq相電流I
qが大きい状態でダイナミックブレーキを動作させてもq相電流I
qが振動し瞬間的に加速になることがある。その結果、ダイナミックブレーキ信号を受信して即座にダイナミックブレーキを動作させたとしても、同期電動機を早く停止できるとは限らないといえる。以上の点から、ダイナミックブレーキ動作のディレイは必ずしもデメリットとはならないといえる。
【0029】
次に、本発明の実施例1に係る同期電動機の制御装置の第1の変形例について説明する。第1の変形例では、電流指令生成部1は、ダイナミックブレーキ信号を受信した後、q相電流を減少させるようにq相電流指令を制御すると共に、d相電流を増加させるようにd相電流指令を制御する点を特徴とする。
【0030】
図7に本発明の実施例1に係る同期電動機の制御装置を用いてq相電流を減少させ、かつd相電流を増加させた場合におけるダイナミックブレーキ動作後のd相電流及びq相電流の時間的変化を表す図を示す。時間t
3において電流指令生成部1はダイナミックブレーキ信号を受信した後、q相電流I
qを減少させるようにq相電流指令を制御すると共に、d相電流I
dを増加させるようにd相電流指令を制御する。そして、ダイナミックブレーキ信号を受信してから所定時間後の時間t
4において、ダイナミックブレーキ動作を開始させる。このようにd相電流I
dを増加させることによって、ダイナミックブレーキ動作直前のd相電圧及びq相電圧を下げることができる。
【0031】
次に、本発明の実施例1に係る同期電動機の制御装置の第2の変形例について説明する。第2の変形例では、電流指令生成部1は、ダイナミックブレーキ信号を受信した後、同期電動機の端子間電圧の振幅を小さくする方向にU相、V相、W相それぞれに流す電流の位相を変更するようにd相電流指令及びq相電流指令を制御する点を特徴としている。
【0032】
図8(a)、(b)に、電流位相変化前、電流位相変化後のそれぞれの場合における、d−q座標上の電圧ベクトルを表す図を示す。
図8(a)において、電流位相変化前のd相電流をI
d1、q相電流をI
q1とする。d相電流、q相電流の指令の大きさを変更せず、U相、V相、W相それぞれに流す電流の位相をθだけずらすように指令を生成すると、電圧ベクトルは
図8(b)のように変化し、
図8(a)よりも端子間電圧は小さくなる。なお、
図8(b)は端子間電圧ベクトルを同じくする
図8(c)と等価となる。電流位相変化後においてI
d1、I
q1は制御装置から観測される見かけ上のd相電流、q相電流に過ぎないのに対し、I
d2は界磁弱めに寄与する実質的なd相電流、I
q2はトルク生成に寄与する実質的なq相電流ということができ、I
d2>I
d1かつI
q1>I
q2となる。したがって、電流位相をずらしてから所定時間経過後にダイナミックブレーキ動作を開始した場合でも実質的にはq相電流を減少させると共にd相電流を増加させ、上記第1変形例と同様の効果が得られることがわかる。なお電流位相を変更する効果の説明の便宜上、d相電流、q相電流の指令の大きさを変更しない場合を例に説明したが、d相電流、q相電流の指令の大きさを変更しながら電流位相を変更しても構わない。
【0033】
以上説明したように、本発明の実施例1に係る同期電動機の制御装置によれば、ダイナミックブレーキ信号を受信した後、q相電流I
qを減少させ、所定時間経過後にダイナミックブレーキ動作を開始するようにしているため、過剰にトルクを制限することなく、同期電動機の減磁を回避しながら同期電動機のダイナミックブレーキ動作を行うことができる。
【0034】
[実施例2]
次に、本発明の実施例2に係る同期電動機の制御装置について図面を用いて説明する。
図9は、本発明の実施例2に係る同期電動機の制御装置の構成図である。
図9に示すように、本発明の実施例2に係る同期電動機の制御装置102は、d相電圧指令及びq相電圧指令を生成する電圧指令生成部5と、d相電流及びq相電流を検出する電流検出部2と、同期電動機60にダイナミックブレーキをかけるために同期電動機60を短絡する短絡装置3と、短絡装置3を制御する短絡制御部4と、を有し、電圧指令生成部5は、ダイナミックブレーキ信号を受信した後、d相電圧指令及びq相電圧指令を制御し、短絡制御部4は、ダイナミックブレーキ信号を受信した後であって、電圧指令生成部5がd相電圧指令及びq相電圧指令を制御してから所定の時間が経過した後に、同期電動機60を短絡するように短絡装置3を制御する、ことを特徴とする。
【0035】
実施例2に係る同期電動機の制御装置102が、実施例1に係る同期電動機の制御装置101と異なっている点は、電圧指令生成部5及び短絡制御部4がダイナミックブレーキ信号を受信する点、及び電圧指令生成部5が、ダイナミックブレーキ信号を受信した後、d相電圧指令及びq相電圧指令を制御し、短絡制御部4は、ダイナミックブレーキ信号を受信した後であって、電圧指令生成部5がd相電圧指令及びq相電圧指令を制御してから所定の時間が経過した後に、同期電動機60を短絡するように短絡装置3を制御する点である。実施例2に係る同期電動機の制御装置102のその他の構成は、実施例1に係る同期電動機の制御装置101における構成と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0036】
本発明の実施例2に係る同期電動機の制御装置によれば、電圧指令生成部5が、ダイナミックブレーキ信号を受信した後、d相電圧指令及びq相電圧指令を制御し、短絡制御部4は、ダイナミックブレーキ信号を受信した後であって、電圧指令生成部5がd相電圧指令及びq相電圧指令を制御してから所定の時間が経過した後に、同期電動機60を短絡するように短絡装置3を制御するようにしている。そのため、実施例1と同様に、ダイナミックブレーキ動作時にq相電流I
qを減少させることができ、過剰にトルクを制限することなく、同期電動機60の減磁を回避しながら同期電動機60のダイナミックブレーキ動作を行うことができる。
【0037】
[実施例3]
次に、本発明の実施例3に係る同期電動機の制御装置について説明する。本発明の実施例3に係る同期電動機の制御装置の構成は
図4に示した本発明の実施例1に係る同期電動機の制御装置の構成と同様である。本発明の実施例3に係る同期電動機の制御装置は、d相電流指令及びq相電流指令を生成する電流指令生成部1と、d相電流及びq相電流を検出する電流検出部2と、同期電動機60にダイナミックブレーキをかけるために同期電動機60を短絡する短絡装置3と、短絡装置3を制御する短絡制御部4と、を有し、電流指令生成部1は、ダイナミックブレーキ信号を受信した後、q相電流指令を制御し、短絡制御部4は、ダイナミックブレーキ信号を受信した後であって、q相電流が予め定めた値に到達した後に、同期電動機60を短絡するように短絡装置3を制御する、ことを特徴とする。
【0038】
実施例3に係る同期電動機の制御装置が、実施例1に係る同期電動機の制御装置と異なっている点は、短絡制御部4が、ダイナミックブレーキ信号を受信した後であって、電流指令生成部1がq相電流指令を制御してから所定の時間が経過した後に、同期電動機60を短絡するように短絡装置3を制御する代わりに、短絡制御部4が、ダイナミックブレーキ信号を受信した後であって、q相電流が予め定めた値に到達した後に、同期電動機60を短絡するように短絡装置3を制御する点である。実施例3に係る同期電動機の制御装置のその他の構成は実施例1に係る同期電動機の制御装置における構成と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0039】
図10に、本発明の実施例3に係る同期電動機の制御装置を用いてq相電流を減少させた場合におけるダイナミックブレーキ動作後のd相電流及びq相電流の時間的変化を表す図を示す。時間t
5において電流指令生成部1及び短絡制御部4がダイナミックブレーキ信号を受信したものとする。電流指令生成部1は時間t
5でq相電流I
qが減少するようにq相電流指令を制御する。そうすると、時間t
5以降にq相電流I
qは減少し、時間t
6においてq相電流I
qが予め定めた閾値I
qthに到達する。短絡制御部4は、q相電流I
qが閾値I
qthに到達したものと判断した場合に、時間t
6においてダイナミックブレーキ動作を開始する。このように、本発明ではq相電流I
qが所定の閾値I
qthに到達したことを確認した後にダイナミックブレーキ動作を開始している。その結果、ダイナミックブレーキ動作中の界磁弱め電流であるd相電流I
dの増加を抑制することができ、同期電動機60の減磁を回避することができる。
【0040】
次に、本発明の実施例3に係る同期電動機の制御装置の第1の変形例について説明する。第1の変形例では、電流指令生成部1は、ダイナミックブレーキ信号を受信した後、q相電流を減少させるようにq相電流指令を制御すると共に、d相電流を増加させるようにd相電流指令を制御し、短絡制御部4は、ダイナミックブレーキ信号を受信した後であって、q相電流及びd相電流の少なくともいずれか一方がそれぞれ予め定めた値に到達した後に、同期電動機60を短絡するように短絡装置3を制御する点を特徴とする。
【0041】
図11に本発明の実施例3に係る同期電動機の制御装置を用いてq相電流を減少させ、かつd相電流を増加させた場合におけるダイナミックブレーキ動作後のd相電流及びq相電流の時間的変化を表す図を示す。時間t
7において電流指令生成部1はダイナミックブレーキ信号を受信した後、q相電流I
qを減少させるようにq相電流指令を制御すると共に、d相電流I
dを増加させるようにd相電流指令を制御する。そして、時間t
8において、短絡制御部4が、q相電流I
qが予め定めた値である閾値I
qthに到達したものと判断した場合に、ダイナミックブレーキ動作を開始させる。このようにd相電流I
dを増加させることによって、ダイナミックブレーキ動作直前のd相電圧及びq相電圧を下げることができる。上記の例では、q相電流I
qが予め定めた値である閾値I
qthに到達したことを確認した後に、ダイナミックブレーキ動作を開始させる場合について例示したが、これには限られず、d相電流I
dが閾値I
dthに到達したことを確認した後、または、q相電流I
q及びd相電流I
dの両者がそれぞれの閾値I
qthまたはI
dthに到達したことを確認した後に、ダイナミックブレーキ動作を開始させるようにしてもよい。
【0042】
次に、本発明の実施例3に係る同期電動機の制御装置の第2の変形例について説明する。第2の変形例では、電流指令生成部1は、ダイナミックブレーキ信号を受信した後、同期電動機の端子間電圧の振幅を小さくする方向、あるいは、界磁弱め電流の方向に近づけるように、U相、V相、W相それぞれに流す電流の位相を変更するようにd相電流指令及びq相電流指令を制御し、短絡制御部4は、ダイナミックブレーキ信号を受信した後であって、q相電流及びd相電流の少なくともいずれか一方がそれぞれ予め定めた値に到達した後に、同期電動機60を短絡するように短絡装置3を制御する点を特徴としている。第2の変形例では、電流の位相をずらすことによってq相電流I
qを減少させ、d相電流I
dを増加させ、q相電流I
q及びd相電流I
dの少なくともいずれか一方がそれぞれ予め設定した閾値I
qthまたはI
dthに到達したことを確認した後にダイナミックブレーキ動作を開始するようにしており、上記第1変形例と同様の効果が得られる。
【0043】
以上説明したように、本発明の実施例3に係る同期電動機の制御装置によれば、ダイナミックブレーキ信号を受信した後、q相電流I
qが予め設定した閾値I
qthに到達したことを確認した後にダイナミックブレーキ動作を開始するようにしているため、過剰にトルクを制限することなく、同期電動機の減磁を回避しながら同期電動機のダイナミックブレーキ動作を行うことができる。
【0044】
[実施例4]
次に、本発明の実施例4に係る同期電動機の制御装置について説明する。本発明の実施例4に係る同期電動機の制御装置の構成は
図9に示した本発明の実施例2に係る同期電動機の制御装置の構成と同様である。本発明の実施例4に係る同期電動機の制御装置は、d相電圧指令及びq相電圧指令を生成する電圧指令生成部5と、d相電流及びq相電流を検出する電流検出部2と、同期電動機60にダイナミックブレーキをかけるために同期電動機60を短絡する短絡装置3と、短絡装置3を制御する短絡制御部4と、を有し、電圧指令生成部5は、ダイナミックブレーキ信号を受信した後、d相電圧指令及びq相電圧指令を制御し、短絡制御部4は、ダイナミックブレーキ信号を受信した後であって、q相電圧及びd相電圧の少なくともいずれか一方がそれぞれ予め定めた値に到達した後に、同期電動機60を短絡するように短絡装置3を制御する、ことを特徴とする。
【0045】
実施例4に係る同期電動機の制御装置が、実施例2に係る同期電動機の制御装置と異なっている点は、短絡制御部4が、ダイナミックブレーキ信号を受信した後であって、電圧指令生成部5がd相電圧指令及びq相電圧指令を制御してから所定の時間が経過した後に、同期電動機60を短絡するように短絡装置3を制御する代わりに、短絡制御部4が、ダイナミックブレーキ信号を受信した後であって、q相電圧が予め定めた値に到達した後に、同期電動機60を短絡するように短絡装置を制御する点である。実施例4に係る同期電動機の制御装置のその他の構成は実施例2に係る同期電動機の制御装置における構成と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0046】
図12に本発明の実施例4に係る同期電動機の制御装置を用いてd相電圧及びq相電圧が0[V]となった後にダイナミックブレーキを動作させた場合のd相電流及びq相電流の時間的変化を表す図を示す。
図12では、d相電圧及びq相電圧をともに0[V]とする例を示したがこれには限られず、q相電圧及びd相電圧の少なくともいずれか一方がそれぞれ予め定めた他の値に達した時にダイナミックブレーキを動作させるようにしてもよい。
【0047】
図12に示すように、q相電圧が0[V]になるようにd相電流I
d及びq相電流I
qを調整してからダイナミックブレーキ動作を開始する場合には、d相電流I
d及びq相電流I
qは振動しない。ただし、ダイナミックブレーキ信号を受信してから瞬間的にd相電圧及びq相電圧を0[V]とすると、即時にダイナミックブレーキを動作させた場合と同様にd相電流I
d及びq相電流I
qが振動する。そのため、ある程度の時間(例えば、数msec)をかけてd相電圧及びq相電圧を0[V]に近づけることが好ましい。このように、d相電圧指令及びq相電圧指令を調整することによりd相電圧及びq相電圧を徐々に0[V]に近づける方法は、d相電流I
d及びq相電流I
qの位相を見失った場合、d相電圧V
d及びq相電圧V
qを区別せず0[V]にすればよいので、例えばモータの角度検出器が誤動作した場合にも使用することができる。
【0048】
[実施例5]
次に、本発明の実施例5に係る同期電動機の制御装置について図面を用いて説明する。
図13は、本発明の実施例5に係る同期電動機の制御装置の構成図である。
図13に示すように、本発明の実施例5に係る同期電動機の制御装置103は、d相電流指令及びq相電流指令を生成する電流指令生成部1と、d相電流及びq相電流を検出する電流検出部2と、同期電動機60にダイナミックブレーキをかけるために同期電動機60を短絡する短絡装置3と、短絡装置3を制御する短絡制御部4と、検出されたq相電流に基づいて、最大のd相電流を逐次推定する最大電流推定部6と、を有し、電流指令生成部1は、ダイナミックブレーキ信号を受信した後、q相電流を減少させるように、q相電流指令を制御し、短絡制御部2は、ダイナミックブレーキ信号を受信した後であって、最大電流推定部6が推定したダイナミックブレーキ後の最大推定電流が許容値以下となった後に、同期電動機60を短絡するように短絡装置3を制御する点を特徴とする。
【0049】
図5に示すように、短絡制御部4がダイナミックブレーキ信号を受信して即時にダイナミックブレーキ動作を開始すると、d相電流が同期電動機60の減磁を引き起こすレベルまで増加してしまう場合がある。そこで、ダイナミックブレーキ信号を受信した後、電流指令生成部1はq相電流を減少させるようにq相電流指令を制御する。ここで、ダイナミックブレーキ動作後の最大のd相電流は、ダイナミックブレーキ動作時のq相電流に基づいて推定することが可能である。そこで、本発明の実施例5に係る同期電動機の制御装置においては、最大電流推定部6が、q相電流の検出値に基づいて、最大のq相電流を逐次推定し、短絡制御部2は、ダイナミックブレーキ信号を受信した後であって、最大電流推定部6が推定したダイナミックブレーキ後の最大推定電流が許容値以下となった後にダイナミックブレーキ動作を開始する。このようにすることで、q相電流の検出値に応じて、ダイナミックブレーキ動作を遅らせる時間を適切に決定することができるので、同期電動機の減磁を回避しながら迅速に同期電動機を停止させることができる。
【0050】
なお、最大電流の許容値は同期電動機に用いている磁石の温度により変わる。そのため、磁石温度が高いほど許容値を下げるようにしてもよい。
【0051】
次に、本発明の実施例5に係る同期電動機の制御装置の第1の変形例について説明する。第1の変形例では、電流指令生成部1は、ダイナミックブレーキ信号を受信した後、q相電流を減少させるようにq相電流指令を制御すると共に、d相電流を増加させるようにd相電流指令を制御する点を特徴とする。
【0052】
本発明の実施例5に係る同期電動機の制御装置の第1の変形例によれば、
図11を用いて説明した本発明の実施例3に係る同期電動機の制御装置の第1の変形例と同様に、d相電流I
dを増やすことによって、ダイナミックブレーキ動作直前のd相電圧及びq相電圧を下げることができる。
【0053】
次に、本発明の実施例5に係る同期電動機の制御装置の第2の変形例について説明する。第2の変形例では、電流指令生成部1は、ダイナミックブレーキ信号を受信した後、同期電動機の端子間電圧の振幅を小さくする方向に、U相、V相、W相それぞれに流す電流の位相を変更するようにd相電流指令及びq相電流指令を制御する点を特徴としている。第2の変形例では、電流の位相をずらすことによってq相電流I
qを減少させ、d相電流I
dを増加させ、q相電流I
qが予め設定した閾値I
qthに到達したことを確認した後にダイナミックブレーキ動作を開始するようにしており、上記第1変形例と同様の効果が得られる。
【0054】
以上説明したように、本発明の実施例5に係る同期電動機の制御装置によれば、最大電流推定部を設けてダイナミックブレーキ動作開始後の最大のd相電流を逐次推定するようにしているので、同期電動機の減磁を回避しながら迅速に同期電動機を停止させることができる。
【0055】
[実施例6]
次に、本発明の実施例6に係る同期電動機の制御装置について図面を用いて説明する。
図14は、本発明の実施例6に係る同期電動機の制御装置の構成図である。
図14に示すように、本発明の実施例6に係る同期電動機の制御装置104は、d相電圧指令及びq相電圧指令を生成する電圧指令生成部5と、d相電流及びq相電流を検出する電流検出部2と、同期電動機にダイナミックブレーキをかけるために同期電動機60を短絡する短絡装置3と、短絡装置3を制御する短絡制御部4と、検出されたq相電流に基づいて、最大のd相電流を逐次推定する最大電流推定部6と、を有し、電圧指令生成部5は、ダイナミックブレーキ信号を受信した後、d相電圧指令及びq相電圧指令を制御し、短絡制御部4は、ダイナミックブレーキ信号を受信した後であって、最大電流推定部6が推定したダイナミックブレーキ後の最大推定電流が許容値以下となった後に、同期電動機60を短絡するように短絡装置3を制御する点を特徴とする。
【0056】
実施例6に係る同期電動機の制御装置104が、
図9に示した実施例2に係る同期電動機の制御装置102と異なる点は、検出されたq相電流に基づいて、最大のd相電流を逐次推定する最大電流推定部6をさらに有し、短絡制御部4は、ダイナミックブレーキ信号を受信した後であって、最大電流推定部6が推定したダイナミックブレーキ後の最大推定電流が許容値以下となった後に、同期電動機60を短絡するように短絡装置3を制御する点である。実施例6に係る同期電動機の制御装置104のその他の構成は、実施例2に係る同期電動機の制御装置102における構成と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0057】
本発明の実施例6に係る同期電動機の制御装置によれば、実施例5に係る同期電動機の制御装置と同様に、最大電流推定部を設けてダイナミックブレーキ動作開始後の最大のd相電流を逐次推定するようにしているので、同期電動機の減磁を回避しながら迅速に同期電動機を停止させることができる。
【0058】
次に、ダイナミックブレーキ動作後の過渡状態におけるd相電流及びq相電流について説明する。
図15に、ダイナミックブレーキ動作後の過渡状態を考慮した場合のd−q座標上の電圧ベクトルを表す図を示す。
図15において、sin ωtの係数の実効値を横軸にとり、cos ωtの係数の実効値を縦軸にとっている。このとき、同期電動機の端子間電圧は以下の式(1)で表せる。
【0060】
ダイナミックブレーキ動作後は、常に端子間電圧が0[V]であるので、以下の式(2)及び(3)が成り立つ。
【0061】
【数2】
上記の式(2)及び(3)を変形すると、以下の式(4)及び(5)が得られる。
【0062】
【数3】
一方、Δtが小さければ下記の式(6)及び(7)が成立する。
【0063】
【数4】
従って、以下の式(8)及び(9)が得られる。
【0065】
上記の式(8)及び(9)を用いることにより、ダイナミックブレーキ動作後の過渡状態におけるd相電流及びq相電流を算出することができる。
【0066】
以上説明したように、本発明に係る同期電動機の制御装置によれば、過剰にトルクを制限することなく、同期電動機の減磁を回避しながらダイナミックブレーキ動作を行うことができる。