特許第6203809号(P6203809)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6203809
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】炭素繊維断熱タイル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/52 20060101AFI20170914BHJP
   C04B 35/80 20060101ALI20170914BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20170914BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20170914BHJP
   F16L 59/02 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   C04B35/52
   C04B35/80
   C04B38/00 303A
   C04B41/87 T
   F16L59/02
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-252978(P2015-252978)
(22)【出願日】2015年12月25日
(65)【公開番号】特開2017-114731(P2017-114731A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2016年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】516000044
【氏名又は名称】株式会社サンケン
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池下 兼明
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−279138(JP,A)
【文献】 特開平05−097554(JP,A)
【文献】 特開2008−274502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84,
C04B 38/00−38/10,
C04B 41/85−41/91
F16L 59/00−59/02
E04B 1/94
D04H 1/4242
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
短尺状の炭素繊維がセラミックスで連結された炭素繊維積層体を備えた炭素繊維断熱タイルであって、
前記炭素繊維は、長さ3〜30mmの短尺状に切断され、1本1本のフィラメントに開繊された綿状繊維であり、炭素繊維同士は、互いに綿状に絡み合っていること、
前記セラミックスは、外形寸法が0.03〜0.3mmの粒状体であり、無方向に配置された前記炭素繊維の表面に粒状に凝集し、かつ、複数箇所に分散して複数の前記炭素繊維を部分的に連結するように形成されていること、
前記炭素繊維が空隙部を有しつつ積層され、積層された前記炭素繊維の表面に形成された粒状の前記セラミックスによって前記炭素繊維が連続状に連結されていること
前記炭素繊維積層体の空隙率は、80〜90%であること、
前記炭素繊維積層体の外周面には、膜厚が3〜10μmの耐熱コート層が被覆されていること、
前記耐熱コート層は、アルミナを主成分とし酸化ケイ素と炭化ケイ素とを含むコーティング材からなることを特徴とする炭素繊維断熱タイル。
【請求項2】
請求項1に記載された炭素繊維断熱タイルの製造方法であって、
粘土、鉱石粉末などのセラミックス原料と、前記炭素繊維と、凝集剤と、結着材とを加えた水溶液を混練する混練工程と、
前記混練工程にて混練された前記水溶液を水切り型枠に注ぎ込み、蓋をした上で加圧、圧縮して炭素繊維マットを形成する水切り工程と、
前記水切り工程にて形成した炭素繊維マットを乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程にて乾燥させた前記炭素繊維マットの外周面に耐熱コート剤を塗布する塗布工程と、
前記塗布工程にて前記耐熱コート剤が塗布された前記炭素繊維マットを、当該炭素繊維マットに含まれる前記セラミックス原料が焼結される温度にて焼成する焼成工程とを備えたことを特徴とする炭素繊維断熱タイルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、加熱炉又はアルミ等の溶解炉や建物の防火扉等の壁面に軽量で断熱性の優れた断熱部材として使用される炭素繊維断熱タイル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、加熱炉等の耐火煉瓦として利用できる炭素繊維入りセラミックスの製造方法が、特許文献1に開示されている。上記炭素繊維入りセラミックスの製造方法は、粘土、鉱石粉末などのセラミックス原料に、炭素繊維と、おが屑、籾殻などの可燃性材料を加えて混練し、少なくともセラミックス原料がセラミックスに焼成できるとともに前記可燃性材料が燃焼し消失する高温で焼成することを特徴とする。上記方法によれば、図9に示すように、セラミックス101の内部に焼成段階で完全燃焼して焼失した可燃性材料の空隙部102が形成されるので、炭素繊維103で補強された多孔質のセラミックス製品を得ることができる。セラミックス製品を多孔質化することによって、軽量化できるとともに、断熱性を向上させることができる。また、セラミックスの多孔質化によって、セラミックスと炭素繊維との熱膨張率の違いにより、焼き上がった素材が分離しやすく強度的に脆くなるという欠点を克服することも可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2955574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、炭素繊維は、1本1本の繊維自体に捲縮性を持たず、滑りやすいので、セラミックス原料と炭素繊維と可燃性材料とを加えた水溶液を混練するときに、炭素繊維と可燃性材料とが絡みにくいという性質がある。炭素繊維と可燃性材料とが絡みにくいので、上記混練時に、炭素繊維は、一箇所に偏析する傾向がある。この偏析を回避して炭素繊維と可燃性材料とを均一に分散させるため、セラミックス原料と炭素繊維と可燃性材料とを混合した水溶液を長時間攪拌すると、炭素繊維のフィラメント径は7〜10μm程度と非常に細いので、炭素繊維が細かく折損する恐れがあった。炭素繊維が細かく折損しては、炭素繊維による補強効果が減殺される。したがって、炭素繊維と可燃性材料とを均一に分散させるまで、水溶液を十分に攪拌することができなかった。
したがって、特許文献1の製造方法では、炭素繊維と空隙部とが均一に分散した状態で固定でき、軽量で断熱性の優れた炭素繊維入りセラミックスを得ることは、容易ではなかった。
また、炭素繊維は、その主成分が炭素であるので、可燃性を有する。例えば、炭素繊維にガスバーナを当てて直接加熱すると、炭素繊維の炭素が空気中の酸素によって酸化されて炭素繊維自体が減量する。したがって、炭素繊維が空気と触れ酸化しやすい高温環境下では、炭素繊維の保護対策も必要となる。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、炭素繊維と空隙部とが均一に分散した状態で固定でき、軽量化と断熱性と耐燃性とを同時に高めた炭素繊維断熱タイル及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の炭素繊維断熱タイル及びその製造方法は、次のような構成を有している。
(1)短尺状の炭素繊維がセラミックスで連結された炭素繊維積層体を備えた炭素繊維断熱タイルであって、
前記セラミックスは、無方向に配置された前記炭素繊維の表面に粒状に凝集し、かつ、複数箇所に分散して形成されていること、
前記炭素繊維積層体の外周面には、耐熱コート層が被覆されていることを特徴とする。
【0007】
本発明においては、セラミックスは、無方向に配置された炭素繊維の表面に粒状に凝集し、かつ、複数箇所に分散して形成されているので、短尺状の炭素繊維が空隙部を有しつつ積層され、積層された炭素繊維の表面に形成された粒状のセラミックスによって炭素繊維が連続状に連結された炭素繊維積層体を構成することができる。また、炭素繊維積層体は、短尺状の炭素繊維が粒状のセラミックスによって連結されるので、炭素繊維と空隙部とが均一に分散された状態で固定できる。また、炭素繊維は、その表面に形成された粒状のセラミックスによって連続状に連結されているので、炭素繊維断熱タイルの一箇所が集中的に加熱された場合においても、セラミックスと炭素繊維との熱膨張率の違いを炭素繊維の弾性変形によって吸収でき、かつ、熱伝導率の高い炭素繊維を介して熱を周辺の炭素繊維により多く分散させることもできる。したがって、炭素繊維断熱タイルの軽量化と断熱性とを同時に高めることができる。
また、炭素繊維積層体の外周面には、耐熱コート層が被覆されているので、炭素繊維断熱タイルを大気と触れ酸化しやすい高温環境下に設置しても、炭素繊維が耐熱コート層によって大気から遮断され、保護される。そのため、炭素繊維断熱タイルの耐燃性を高めることができる。
よって、本発明によれば、炭素繊維と空隙部とが均一に分散した状態で固定でき、軽量化と断熱性と耐燃性とを同時に高めた炭素繊維断熱タイルを提供することができる。
【0008】
(2)(1)に記載された炭素繊維断熱タイルにおいて、
前記炭素繊維積層体の空隙率は、80〜90%であることを特徴とする。
【0009】
本発明においては、炭素繊維積層体の空隙率は、80〜90%であるので、炭素繊維積層体の内部において、より多くの空隙部を確保しつつ、1本1本の短尺状の炭素繊維同士が互いに綿状に交絡した状態を保持することができる。そのため、空隙部による断熱効果をより一層高めつつ、炭素繊維を通じた放熱効果も高めることができる。その結果、軽量化と断熱性とをより一層高めた炭素繊維断熱タイルを提供することができる。
なお、炭素繊維積層体の空隙率は、大きいほど熱伝導率が小さくなり、断熱効果が高くなる。しかし、空隙率が90%を超えると、炭素繊維同士の連結が弱くなって炭素繊維断熱タイルが変形したり、内部で炭素繊維同士の剥離が生じやすくなる。一方、空隙率が80%未満では、炭素繊維断熱タイルの剛性は高くなるものの、重量が重くなるとともに、熱伝導率が上昇し断熱効果が低下することになる。したがって、炭素繊維積層体の空隙率は、80〜90%であることが好ましい。
【0010】
(3)(1)又は(2)に記載された炭素繊維断熱タイルにおいて、
前記耐熱コート層は、アルミナを主成分とするコーティング材からなることを特徴とする。
【0011】
本発明においては、耐熱コート層は、アルミナ(Al)を主成分とするコーティング材からなるので、炭素繊維断熱タイルの耐燃性をより一層高めることができる。そのため、炭素繊維断熱タイルに1400〜1600°C程度の火炎を直接照射しても、割れ等の損傷が生じない。また、炭素繊維断熱タイルの耐風圧性、耐摩耗性を向上させ、高温時における加熱収縮を抑制する効果も奏する。
【0012】
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載された炭素繊維断熱タイルの製造方法であって、
粘土、鉱石粉末などのセラミックス原料と、前記炭素繊維と、凝集剤と、結着材とを加えた水溶液を混練する混練工程と、
前記混練工程にて混練された前記水溶液を水切り型枠に注ぎ込み、蓋をした上で加圧、圧縮して炭素繊維マットを形成する水切り工程と、
前記水切り工程にて形成した炭素繊維マットを乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程にて乾燥させた前記炭素繊維マットの外周面に耐熱コート剤を塗布する塗布工程と、
前記塗布工程にて前記耐熱コート剤が塗布された前記炭素繊維マットを、当該炭素繊維マットに含まれる前記セラミックス原料が焼結される温度にて焼成する焼成工程とを備えたことを特徴とする。
【0013】
本他の発明においては、粘土、鉱石粉末などのセラミックス原料と、炭素繊維と、凝集剤と、結着材とを加えた水溶液を混練する混練工程と、混練工程にて混練された水溶液を水切り型枠に注ぎ込み、蓋をした上で加圧、圧縮して炭素繊維マットを形成する水切り工程と、水切り工程にて形成した炭素繊維マットを乾燥させる乾燥工程と、乾燥工程にて乾燥させた炭素繊維マットの外周面に耐熱コート剤を塗布する塗布工程と、塗布工程にて耐熱コート剤が塗布された炭素繊維マットを、当該炭素繊維マットに含まれるセラミックス原料が焼結される温度にて焼成する焼成工程とを備えたので、セラミックス原料が凝集剤と結着材とによって炭素繊維の表面に粒状に凝集し、かつ、複数箇所に分散した状態で焼結された炭素繊維積層体を形成することができる。また、炭素繊維積層体の外周面には、耐熱コート剤が固化されて耐熱コート層が被覆される。
よって、本他の発明によれば、炭素繊維と空隙部とが均一に分散した状態で固定でき、軽量化と断熱性と耐燃性とを同時に高めた炭素繊維断熱タイルの製造方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、炭素繊維と空隙部とが均一に分散した状態で固定でき、軽量化と断熱性と耐燃性とを同時に高めた炭素繊維断熱タイル及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係る炭素繊維断熱タイルの部分断面付きの斜視図である。
図2図1に示すA部の模式的断面図である。
図3図1に示す炭素繊維断熱タイルの製造手順を表す工程説明図である。なお、図3(a)は混練工程を示し、図3(b)は水切り工程を示し、図3(c)は乾燥工程を示し、図3(d)は塗布工程を示し、図3(e)は焼成工程を示す。
図4図3(c)に示す乾燥工程で乾燥させた炭素繊維マットの顕微鏡写真図である。
図5図3(e)に示す焼成工程で焼成した炭素繊維マットの顕微鏡写真図である。
図6図1に示す炭素繊維断熱タイルの火炎照射試験を行っているときの、火炎照射面に対するサーモグラフィ撮影写真の模式図である。
図7図1に示す炭素繊維断熱タイルの火炎照射試験を行っているときの、火炎照射面と反対側の裏面に対するサーモグラフィ撮影写真の模式図である。
図8図6図7に示す炭素繊維断熱タイルの火炎照射試験において、火炎照射面と裏面との各温度推移を表すグラフである。
図9】特許文献1に記載された炭素繊維入りセラミックスの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
はじめに、本実施形態の炭素繊維断熱タイルの基本構造を説明する。次に、本実施形態の炭素繊維断熱タイルの製造工程について詳細に説明する。最後に、本実施形態の炭素繊維断熱タイルの火炎照射試験の結果を説明する。
【0017】
<炭素繊維断熱タイルの基本構造>
まず、本実施形態に係る炭素繊維断熱タイルの基本構造について、図1図2を用いて説明する。図1に、本実施形態に係る炭素繊維断熱タイルの部分断面付きの斜視図を示す。図2に、図1に示すA部の模式的断面図を示す。
【0018】
図1図2に示すように、炭素繊維断熱タイル10は、例えば、外形寸法が300mm×300mm×15mm程度の板状体であって、短尺状の炭素繊維1がセラミックス2で連結された炭素繊維積層体4を備えている。炭素繊維1は、長さ3〜30mm程度の短尺状に切断され、1本1本のフィラメントに開繊された綿状繊維であり、炭素繊維同士は、互いに綿状に絡み合っている。炭素繊維1は、バージン材を切断して利用する場合に限らず、炭素繊維原料を開繊して積層する炭素繊維スライバの端材を利用することもできる。炭素繊維1は、ポリアクリロニトリルを原料とするPAN系炭素繊維でも、コールタールピッチや石油ピッチを原料とするピッチ系炭素繊維でも良い。
【0019】
また、セラミックス2は、無方向に配置された炭素繊維1の表面に粒状に凝集し、かつ、複数箇所に分散して形成されている。セラミックス2は、外形寸法が0.03〜0.3mm程度の粒状体であり、複数の炭素繊維1を部分的に連結するように形成されている。セラミックス2は、粘土や鉱石粉末などのセラミックス原料が凝集剤、結着材(バインダー)などを含む水溶液中で溶解されたものが、炭素繊維1の表面に粒状に凝集して焼結されたものである。凝集剤としては、例えば、ポリ塩化アルミニウム(PAC)や硫酸アルミニウムなどを用いることができ、結着材(バインダー)としては、例えば、ピロリン酸ナトリウムやポリリン酸ナトリウムなどを用いることができる。
【0020】
なお、長さが3mm未満の炭素繊維1を用いると、積層した炭素繊維1を粒状のセラミックス2で連結するとき、セラミックス2の量が過大となり好ましくない。また、長さが30mmを越える長尺状の炭素繊維1を用いると、積層した炭素繊維1を圧縮して炭素繊維積層体4を形成するとき、長尺状の炭素繊維1が圧縮後に反発して元に戻ろうとするので、炭素繊維積層体4の表面が凹凸状となり好ましくない。したがって、炭素繊維1は、長さ3〜30mm程度の短尺状に切断されたものが好ましい。
【0021】
炭素繊維積層体4では、短尺状の炭素繊維1が空隙部3(中空部分)を有しつつ積層され、積層された炭素繊維1の表面に凝集し、かつ、複数箇所に分散して形成された粒状のセラミックス2によって炭素繊維1が連続状に連結されている。また、炭素繊維積層体4は、短尺状の炭素繊維1が粒状のセラミックス2によって連続状に連結されるので、炭素繊維1と空隙部3とが略均一に分散された状態で固定されている。炭素繊維積層体4の空隙率は、80〜90%程度である。空隙率は、炭素繊維積層体4の容積に対する炭素繊維積層体中に占める空隙部3の容積の比率である。
【0022】
炭素繊維積層体4の空隙率は、大きいほど熱伝導率が小さくなり、断熱効果が高くなる。しかし、空隙率が90%を超えると、炭素繊維1同士の連結が弱くなって炭素繊維断熱タイル10が変形したり、セラミックス2によって連結された炭素繊維1の剥離が生じやすくなる。一方、空隙率が80%未満では、炭素繊維断熱タイル10の剛性は高くなるものの、重量が重くなるとともに、熱伝導率が上昇し断熱効果が低下することになる。したがって、炭素繊維積層体4の空隙率は、80〜90%程度であることが好ましい。
【0023】
また、炭素繊維積層体4の外周面には、耐熱コート層5が被覆されている。耐熱コート層5は、アルミナ(Al)を主成分とするコーティング材からなる。例えば、耐熱コート層5を刷毛塗りによって形成する場合、重量比率でアルミナ(Al)が65%程度、酸化ケイ素(SiO)が15%程度、炭化ケイ素(SiC)が15%程度となるコーティング溶液を使用するとよい。また、例えば、耐熱コート層5をコテ塗りによって形成する場合、重量比率でアルミナ(Al)が55%程度、酸化ケイ素(SiO)が25%程度、炭化ケイ素(SiC)が10%程度となるコーティング溶液を使用するとよい。
【0024】
耐熱コート層5の膜厚は、用途によって異なるが、一般的には3〜10μm程度でよい。耐熱コート層5は、乾燥することによって硬化し、炭素繊維断熱タイル10としての強度を向上させることができる。また、炭素繊維断熱タイル10の耐燃性を高めることができる。具体的には、炭素繊維断熱タイル10に1400〜1600°C程度の火炎を直接照射しても、割れ等の損傷が生じない。したがって、耐熱コート層5は、炭素繊維断熱タイル10の耐風圧性、耐摩耗性を向上させ、高温時における加熱収縮を抑制する効果も奏する。
【0025】
<炭素繊維断熱タイルの製造工程>
次に、本実施形態の炭素繊維断熱タイルの製造工程について、図3図5を用いて詳細に説明する。図3に、図1に示す炭素繊維断熱タイルの製造手順を表す工程説明図を示す。なお、図3(a)は混練工程を示し、図3(b)は水切り工程を示し、図3(c)は乾燥工程を示し、図3(d)は塗布工程を示し、図3(e)は焼成工程を示す。図4に、図3(c)に示す乾燥工程で乾燥させた炭素繊維マットの顕微鏡写真図を示す。図5に、図3(e)に示す焼成工程で焼成した炭素繊維マットの顕微鏡写真図を示す。
【0026】
本実施形態の炭素繊維断熱タイル10の製造工程には、混練工程S1と水切り工程S2と乾燥工程S3と塗布工程S4と焼成工程S5とを備えている。まず、図3(a)に示すように、混練工程S1において、粘土、鉱石粉末などのセラミックス原料と、短尺状の炭素繊維と、凝集剤と、結着材とを加えた水溶液(スラリー)を混練する。具体的には、水を入れた撹拌容器61内に、粘土、鉱石粉末などのセラミックス原料と、短尺状の炭素繊維と、凝集剤と、結着材とを加えた水溶液63を撹拌棒62を回転させて、水溶液63内で各材料が均一に分散するように混練する。例えば、水18リットルの中にセラミックス原料を400g、炭素繊維を100g、凝集剤を7g、結着材を5g程度の割合で混入し、約3〜5分程度混練するとよい。
【0027】
次に、図3(b)に示すように、水切り工程S2において、混練工程S1にて混練された水溶液63を水切り型枠64に注ぎ込み、蓋65をした上で図示しない油圧プレス等によって加圧、圧縮して炭素繊維マット66を形成する。炭素繊維マット66内には、撹拌されたセラミックス原料と凝集剤と結着材とを含む水溶液63が炭素繊維1の表面に付着した状態で残っている。
【0028】
次に、図3(c)に示すように、乾燥工程S3において、水切り工程S2にて形成した炭素繊維マット66を乾燥させる。具体的には、炭素繊維マット66を乾燥炉67に入れ、60〜70°C程度で約4〜5時間保持して、ゆっくりと乾燥させる。このとき、図4に示すように、乾燥させた炭素繊維マット66内の水溶液63は、水分が減少するため凝集剤と結着材の濃度が高くなり、セラミックス原料が炭素繊維1の表面上に凝集して微細な粒状体68を形成する。この微細な粒状体68は、炭素繊維1の複数箇所に均一に分散して形成される。また、粒状体68及び炭素繊維1の周囲には、中空部となる空隙部3が形成されている。
【0029】
次に、図3(d)に示すように、塗布工程S4において、乾燥工程S3にて乾燥させた炭素繊維マット66の外周面に耐熱コート剤69を塗布する。耐熱コート剤69は、例えば、重量比率でアルミナ(Al)が65%程度、酸化ケイ素(SiO)が15%程度、炭化ケイ素(SiC)が15%程度となるコーティング溶液を、刷毛塗りによって均一に塗布する。耐熱コート剤69を塗布する膜厚は、3〜10μm程度である。
【0030】
次に、図3(e)に示すように、焼成工程S5において、塗布工程S4にて耐熱コート剤69が塗布された炭素繊維マット66を、当該炭素繊維マット66に含まれるセラミックス原料が焼結される温度にて焼成する。具体的には、炭素繊維マット66を電気炉70に入れ、700〜800°C程度で約4〜5時間保持して、ゆっくりと焼成させる。このとき、図5に示すように、電気炉70に投入した炭素繊維マット66内の粒状体68(図4を参照)は、加熱され水分が蒸発することによって、微細なものは消失し、ある程度の大きさを有するものが更に大きくなり、炭素繊維1の表面上に固着して0.03〜0.3mm程度の粒状体71を形成する。この粒状体71は、図1図2に示すセラミックス2となり、隣接する炭素繊維1を連結しながら、均一に分散して形成される。粒状体71の主成分であるセラミックス原料が炭素繊維1の表面上に凝集して焼結されることによって、炭素繊維積層体4の空隙率は、80〜90%程度となる。また、炭素繊維1と空隙部3とが、均一に分散された状態で、粒状体71に形成されたセラミックス2によって固定される。また、塗布された耐熱コート剤69は、炭素繊維積層体4の外周面で固化され、耐熱コート層5を形成する。
以上の方法によって、炭素繊維1と空隙部3とが均一に分散した状態で固定でき、軽量化と断熱性と耐燃性とを同時に高めた炭素繊維断熱タイル10を製造することができる。
【0031】
<炭素繊維断熱タイルの火炎照射試験の結果>
次に、本実施形態に係る炭素繊維断熱タイルの火炎照射試験の結果を、図6図8を用いて説明する。図6に、図1に示す炭素繊維断熱タイルの火炎照射試験を行っているときの、火炎照射面に対するサーモグラフィ撮影写真の模式図を示す。図7に、図1に示す炭素繊維断熱タイルの火炎照射試験を行っているときの、火炎照射面と反対側の裏面に対するサーモグラフィ撮影写真の模式図を示す。図8に、図6図7に示す炭素繊維断熱タイルの火炎照射試験において、火炎照射面と裏面との各温度推移を表すグラフを示す。
【0032】
次に、本実施形態に係る炭素繊維断熱タイル10を起立状に固定し、その表面にガスバーナの火炎を約2時間照射しつつ、火炎照射面の温度と、火炎照射面と反対側の裏面の温度とをサーモグラフィ温度計で測定する。試験に使用する炭素繊維断熱タイル10は、上述した製造工程に従って製造したもので、外形寸法は270mm×270mm×15mmである。ガスバーナは、火口径が22mmのものを使用し、その火炎温度は、1400〜1600℃であった。ガスバーナの火口は、炭素繊維断熱タイル10の中央部に対向して配置し、両者の離間距離は約50mmでセットした。
【0033】
図6に示すように、火炎照射面の温度は、火口径と同程度の範囲が最も高く、約1270℃位に達している。また、その周辺の温度は、略ドーナツ状に分布しながら低下し、火炎中心から半径80mm位の位置で常温に達している。また、図7に示すように、火炎照射面と反対側の裏面の温度は、火口径と同程度の範囲が最も高く、約250℃位に達している。また、その周辺の温度は、略ドーナツ状に分布しながら低下し、炭素繊維断熱タイル10の端縁付近で常温に達している。したがって、火炎照射面と裏面との間では、最大で約1000℃位の温度差が生じている。また、火炎照射面の集中的な加熱に対して、その熱が裏面側に熱伝導される間に、炭素繊維を通じて炭素繊維断熱耐タイルの周辺側へ広く熱拡散されている様子が窺える。
【0034】
次に、図8に示すように、火炎中心付近において火炎照射面とその裏面との温度推移を比較する。火炎照射面の温度は、照射開始から約10分程度の間に約960℃から約1040℃まで上昇し、その後は略一定に推移していた。これに対して、火炎照射面と反対側の裏面の温度は、照射開始から約20分程度の間に約290℃から約230℃まで低下し、その後は略一定に推移していた。また、本炭素繊維断熱タイル10の耐熱コート層5には、ひび割れも欠損も生じていなかった。また、本炭素繊維断熱タイル10の熱伝導率は、0.14W/m・Kであった。なお、図8では、照射開始から90分間の温度推移を示し、それ以降は、特に変化が見られないため省略している。
以上の結果から、本炭素繊維断熱タイル10は、長時間の集中的な加熱に対しても、非常に安定した断熱効果を奏することが明らかになった。
【0035】
<作用効果>
以上詳細に説明したように、本実施形態に係る炭素繊維断熱タイル10によれば、短尺状の炭素繊維1がセラミックス2で連結された炭素繊維積層体4を備えた炭素繊維断熱タイル10であって、セラミックス2は、無方向に配置された炭素繊維1の表面に粒状に凝集し、かつ、複数箇所に分散して形成されているので、短尺状の炭素繊維1が空隙部3を有しつつ積層され、積層された炭素繊維1の表面に形成された粒状のセラミックス2によって炭素繊維1が連続状に連結された炭素繊維積層体4を構成することができる。また、炭素繊維積層体4は、短尺状の炭素繊維1が粒状のセラミックス2によって連結されるので、炭素繊維1と空隙部3とが均一に分散された状態で固定できる。また、炭素繊維1は、その表面に形成された粒状のセラミックス2によって連続状に連結されているので、炭素繊維断熱タイル10の一箇所が集中的に加熱された場合においても、セラミックス2と炭素繊維1との熱膨張率の違いを炭素繊維1の弾性変形によって吸収でき、かつ、熱伝導率の高い炭素繊維1を介して熱を周辺の炭素繊維1により多く分散させることもできる。したがって、炭素繊維断熱タイル10の軽量化と断熱性とを同時に高めることができる。
また、炭素繊維積層体4の外周面には、耐熱コート層5が被覆されているので、炭素繊維断熱タイル10を大気と触れ酸化しやすい高温環境下に設置しても、炭素繊維1が耐熱コート層5によって大気から遮断され、保護される。そのため、炭素繊維断熱タイル10の耐燃性を高めることができる。
よって、本実施形態によれば、炭素繊維1と空隙部3とが均一に分散した状態で固定でき、軽量化と断熱性と耐燃性とを同時に高めた炭素繊維断熱タイル10を提供することができる。
【0036】
また、本実施形態によれば、炭素繊維積層体4の空隙率は、80〜90%であるので、炭素繊維積層体4の内部において、より多くの空隙部3を確保しつつ、1本1本の短尺状の炭素繊維1同士が互いに綿状に交絡した状態を保持することができる。そのため、空隙部3による断熱効果をより一層高めつつ、炭素繊維1を通じた放熱効果も高めることができる。その結果、軽量化と断熱性とをより一層高めた炭素繊維断熱タイル10を提供することができる。
【0037】
また、本実施形態によれば、耐熱コート層5は、アルミナ(Al)を主成分とするコーティング材からなるので、炭素繊維断熱タイル10の耐燃性をより一層高めることができる。そのため、炭素繊維断熱タイル10に1400〜1600°C程度の火炎を直接照射しても、割れ等の損傷が生じない。また、炭素繊維断熱タイル10の耐風圧性、耐摩耗性を向上させ、高温時における加熱収縮を抑制する効果も奏する。
【0038】
また、本他の実施形態である炭素繊維断熱タイルの製造方法によれば、粘土、鉱石粉末などのセラミックス原料と、炭素繊維と、凝集剤と、結着材とを加えた水溶液63を混練する混練工程S1と、混練工程S1にて混練された水溶液63を水切り型枠64に注ぎ込み、蓋65をした上で加圧、圧縮して炭素繊維マット66を形成する水切り工程S2と、水切り工程S2にて形成した炭素繊維マット66を乾燥させる乾燥工程S3と、乾燥工程S3にて乾燥させた炭素繊維マット66の外周面に耐熱コート剤69を塗布する塗布工程S4と、塗布工程S4にて耐熱コート剤69が塗布された炭素繊維マット66を、当該炭素繊維マット66に含まれるセラミックス原料が焼結される温度にて焼成する焼成工程S5とを備えたので、セラミックス原料が凝集剤と結着材によって炭素繊維1の表面に粒状に凝集し、かつ、複数箇所に分散した状態で焼結された炭素繊維積層体4を形成することができる。また、炭素繊維積層体4の外周面には、耐熱コート剤69が固化されて耐熱コート層5が被覆される。
よって、本他の実施形態によれば、炭素繊維1と空隙部3とが均一に分散した状態で固定でき、軽量化と断熱性と耐燃性とを同時に高めた炭素繊維断熱タイル10の製造方法を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、例えば、加熱炉又はアルミ等の溶解炉や建物の防火扉等の壁面に軽量で断熱性の優れた断熱部材として使用される炭素繊維断熱タイル及びその製造方法として利用できる。
【符号の説明】
【0040】
1 炭素繊維
2 セラミックス
3 空隙部
4 炭素繊維積層体
5 耐熱コート層
10 炭素繊維断熱タイル
63 水溶液
64 水切り型枠
65 蓋
66 炭素繊維マット
69 耐熱コート剤
S1 混練工程
S2 水切り工程
S3 乾燥工程
S4 塗布工程
S5 焼結工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9