(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6203849
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】ストラットアーム式の車両の車輪懸架装置
(51)【国際特許分類】
B60G 3/24 20060101AFI20170914BHJP
B60G 11/38 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
B60G3/24
B60G11/38
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-531502(P2015-531502)
(86)(22)【出願日】2013年8月1日
(65)【公表番号】特表2015-528415(P2015-528415A)
(43)【公表日】2015年9月28日
(86)【国際出願番号】EP2013066227
(87)【国際公開番号】WO2014044455
(87)【国際公開日】20140327
【審査請求日】2016年2月3日
(31)【優先権主張番号】102012216822.2
(32)【優先日】2012年9月19日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】398037767
【氏名又は名称】バイエリシエ・モトーレンウエルケ・アクチエンゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100173521
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 淳司
(74)【代理人】
【識別番号】100153419
【弁理士】
【氏名又は名称】清田 栄章
(72)【発明者】
【氏名】ケッテンベルガー・ヨーハン
【審査官】
森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】
実開平03−025305(JP,U)
【文献】
特開2011−246047(JP,A)
【文献】
特開2005−022424(JP,A)
【文献】
特開平01−278813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストラット式の車両の車輪懸架装置であって、車両の横断方向に向けられた車輪を案内する三つのアーム(4,5,6)を有し、および車輪担持部(2)に直接固結され、そして車両の車体に対するその横断方向動作をほとんど制限しない縦アーム(7)を有し、この縦アームが、車両の車体に固定されており、そしてこれにより、車輪担持部(2)と車両の車体の間の担持ばねの機能をも担い、及び当該車両の車輪懸架装置が、振動減衰器(10)内に統合された押圧ストップばね及び/又は引張ストップばねを有する振動減衰器(10)を有し、その際、振動減衰器(10)内に統合されたこれらのばねを例外として、前記縦アーム(7)の他に、別の担持ばね要素が車輪担持部(2)および車両の車体の間に設けられていないこと、前記縦アーム(7)が、二以上の個々のアーム部材(7a,7b)から成り、これらアーム部材が、一つの共通の垂直平面内にあることを特徴とする車両の車輪懸架装置。
【請求項2】
縦アーム(7)の第一のアーム部材(7a)が車輪担持部(2)における車輪中央の上に、そして第二のアーム部材(7b)が下に固定されていること、および両方のアーム部材(7a,7b)が、それらの他方の端部でもってまとめられて、一つの共通な固定要素(9)内に車両の車体において固定されていることを特徴とする請求項1に記載の車両の車輪懸架装置。
【請求項3】
縦アーム(7)が、繊維強化材料から形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両の車輪懸架装置。
【請求項4】
縦アーム(7)が、固定要素中において、及び/又は車輪担持部(2)において、わずかに弾性的に固定されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の車両の車輪懸架装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基本的に車両の横断方向に向けられ、車輪を案内する三つのアームを有し、および、車輪担持部に基本的に固定的に固定され、そして車両の車体に対するその横断方向動作をほとんど制限しない縦アームを有するストラットアーム式の車両の車輪懸架装置に関する。先行技術に対しては、特許文献1または2の他に特許文献3が挙げられる。最後に挙げられた文献が、繊維強化材料により形成され、そしてリーフばねとして形成されたアームを有する特別な車輪懸架装置を示す一方で、最初に挙げた両方の文献中には、ストラットアーム式の車両の車輪懸架装置が示されている。
【背景技術】
【0002】
特に乗用車の為の後車軸の更なる開発の際の増大する要求は、できる限り良好な走行の動的挙動のもと、構造空間要求と重量を減少することである。その上、個々の車軸コンポーネントの配置に対して追加的な余裕・遊びが存在する結果、例えば一つの車両の型番の自動車後部の異なるデザインが実現されることが可能であり、または異なるシャシーコントロールシステムが選択的に簡単に組み込まれることができると有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】欧州特許第0136563B1号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第102011112053A1号明細書
【特許文献3】独国特許第19933432B4号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これに関し、当業者に公知のストラットアーム車軸に対して改善を提示することは本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題の解決は、基本的に車両の横断方向に向けられた車輪を案内する三つのアームを有し、車輪担持部と基本的に固定的に固定され、そして車両の車体に対するその横断方向動作をほとんど制限しない縦アームを有し、この縦アームが、車両の車体に基本的に固定的に固定されており、そしてこれにより車輪担持部と車両の車体の間で担持ばねの機能を担う車両の車輪懸架装置に存在する。有利な発展形は、下位の請求項の内容である。
【0006】
まず、上述の縦アームの為に車両担持部においておよび車両の車体において意図される「基本的に固定的な固定」の概念について簡単に説明する。この概念でもって、アームが、これを担持する要素、つまり車輪担持部に対しておよび車両の車体に対して、各固定点において真の意味での移動自由度を有さないので、ここに何らかの形式のジョイントが存在するのではなく、実際に固定的な接続が存在するという表現がなされるべきである。しかし特に、転がり快適性の向上、及び/又は、車両内の音響の改善の為に、縦アームを車両の車体に、及び/又は車輪担持部に、わずかに弾性的に固定することが推奨可能である。そのようなときでも所定の自由度は存在せず、上述の弾性的な支承が、特に、短時間の強い衝突に関する機械的干渉機能、及び/又は、そうでなければ伝達される転がりノイズに関する音響的な緩衝機能を担う。そのようなわずかに弾性的な固定によって、縦アームは、「基本的に固定的に」車輪担持部に、及び/又は車両の車体に固定される。
【0007】
独立請求項に記載の特徴について更に詳細に説明すると、公知であるように、基本的に車両の横断方向に向けられ車輪を案内する三つのアームと、基本的に車両の長手方向に向けられた一つのアームであって、車輪担持部に固定されており、かつ車両の横断方向におけるその移動自由度を、これが車輪担持部を更に案内するクロスアームによって動くことが可能である限り、取り立てて制限しないアームを有するいわゆるストラットアーム車軸によって、良好な走行の動的挙動が得られる。
【0008】
車輪を案内するアームの他に更に必要である担持ばね(これを介して車両の車体が部分的に車輪担持部に支持されている)に対して、様々な装置が公知である。冒頭に最初に挙げた特許文献1において、担持ばねは、直接車輪担持部に支持されている。他方で、冒頭で更に挙げた特許文献2においては、そこに示されていない担持ばねは、高い確率で、後方下方のクロスアームに支持されている。後者はよって、比較的大型(独語:massiv)に形成される必要があり、このことは比較的多くの構造空間も要求するし、車両の重量も大きく増大させる。更に、特に、駆動される車軸において、担持ばねを担持するクロスアームの可能な配置に関して、担持ばねと車輪の駆動軸の間の十分なアクセス性を達成するのに制限となる。代替的な構造によるとこれと反対に担持ばねが直接車輪担持部に支持されている。よって、上述した短所は生じないが、担持ばねは垂直方向でみて上に向かって極めて遠くまで突出し、このことは特に乗用車の後車軸において、大きなトランク、大きな貫通積載幅、および安価な担持構造を有する自動車後部を形成するのに不都合である。
【0009】
よって本件では、担持ばね機能をいわゆるストラットアーム車軸の縦アーム内に統合することが提案される。これは、先行技術においては通常車両の横断方向でみて比較的曲げ剛性が弱く形成されている。この、先行技術において車両の横断方向で曲げ剛性が弱い縦アームは、先行技術においては、車輪担持部と反対側の端部でもって、車両の横断軸を中心として旋回可能に直接または間接に車両の車体に固定されており、車輪の入り込みおよび反発、つまりその垂直方向動作を可能とする。本発明によって、この縦アームは車輪担持部のみでなく、(場合によっては存在するわずかに弾性的な支承を除くと)車両の車体にも基本的に固定的に固定されており、そして車両の横断方向でみると、適当な力の作用の下、それ自身、車輪が垂直方向において、通常のばねストロークまたは車輪ストロークにわたって移動可能であるよう著しく弾性的に変形可能である。この力の作用のもと実現可能な弾性的な変形を介して、この縦アームは、これにより担持ばねの機能を少なくとも部分的に担うことができる。
【0010】
発明に従い提案される、担持ばねのうちの一つの縦アーム内への機能的な統合が原理的に様々な材料および縦アームの形態並びにこの縦アームの製造状況で実現可能である一方で、この縦アームが繊維強化材料で形成されることによって、縦アームの上述したこのような変形可能性が、適当な形状形成のもとつくりだされるとき、発明に従い、追加的な重量面でのメリットが生じる。その様な形成によって、適当な形状形成のもと、有利には車両の横断方向において必要とされる弾性も容易に実現可能である。
【0011】
ストラットアーム式の車両の後車軸中における発明に係る縦アームは、つまり、車輪担持部の可動性を、車両の長手方向のみにおいて著しく制限する。他方で、車両の横断方向におけるその可動性は、発明に係る縦アームによってほとんど制限されず、そして垂直方向におけるその可動性は、この縦アームが、車輪担持部と車両の車体の間に挟まれた担持ばねの機能が少なくとも部分的に担う分だけ制限される。つまり、発明に係る縦アームの他に、発明に係る車輪懸架装置においては別の一つのばね要素が、車両の車体と(最終的に)車輪担持部の間に挟み込まれていることが可能である。しかしこれは、(ストラットアーム車軸の)通常の先行技術におけるよりも、本質的により小さく寸法取られることが可能である。しかし好ましくは、発明に係る縦アームが、そうでない場合、通常の担持ばねの機能を完全に担うので、先行技術に従い、担持ばねに機能的に並列に接続された一つの振動減衰器内で、これに統合された押圧ストップばね及び/又は引張ストップばねのみが設けられ、これらは、車両担持部と車両の車体の間で作用するか、または有効となることが可能である。
【0012】
様々な担持ばね定数を実現するために、および複数の構造状態における異なる車両重量に適合するために、発明に係る縦アームを、複数のアーム分岐部と共に形成することが意図され得る。これは特に、必要とされる軸の適用範囲(独語:Anwendungsspreizung)を満たすために、唯一のアームまたはアーム分岐による幾何学的および材料技術的な構造上の余裕が十分でないときに行われる。よって前記縦アームは、広い領域の二以上の個々のアーム部材によって形成されることが可能である。これらアーム部材は、好ましくは基本的に一つの共通な垂直平面内に位置し、これによって、一つにはこの縦アームの幾何学的形態に関して著しい自由度が生じ、そしてこれに伴いそのばね特性およびその他の特性に関する著しい自由度も生じる。他方には、特に、縦アームの第一のアーム部材が車輪担持部の車輪中心の上、そして第二のアーム部材が下に固定されているとき、車輪の駆動軸が、これら両方のアーム部材の間を通り車輪担持部のハブに向かって案内されていることが可能である。これら両方の(または複数の)アーム部材が、その他方の端部が一つの共通な固定要素内でまとめられて車両の車体に固定されているとき、これは構造コストを減少させ、そして発明に係る車輪懸架装置の組立プロセスを簡易化する。
【0013】
発明に係る縦アームに関して転がり快適性と転がり音響性を最適化するために、車両の車体側の縦アーム端部が、弾性的に、例えばゴム内に支承されている、または固定されていると有用である。そのようなわずかに弾性的な固定または支承によって、更に、縦アームへの全面にわたる力の導入を行うことが可能であり、これによって望まれない点負荷または線負荷が防止される。この目的に、縦アームの為の固定要素の、この要素の開口部(この開口部に縦アームが挿入される)の領域における丸め処理も使用される。更に、弾性的な固定によって、車体側の支承箇所がシールされ、これにより水、汚染、および粒子の進入が防止されることが可能である。その際、そのようなわずかに弾性的な固定は、車体側の縦アーム端部が、車体と固定的に接続すべき固定要素内に加硫処理されているとき、特に容易に実現可能である。その際、縦アームの為の固定要素の挿入領域に、縦アームの入口開口部の方に向かって細くなっている傾斜した壁部を設けると、例えばブレーキの際、またはくぼみを通過する際に発生する可能性があるような、走行方向と反対に後ろに向かう高い長手方向力負荷においても、縦アームおよび固定要素が互いに分離されないことが、簡単な方法で確実とされる。転がり快適性および音響に関する高い要求に対応し、または場合によっては縦アームの車輪担持部側の固定における運転強度問題を取り除くために、縦アームのそのようなわずかに弾性的な固定が、車輪担持部においても意図されることが可能である。
【0014】
ストラットアーム式の発明に係る車輪懸架装置において、前進走行におけるブレーキ過程から縦アームの車体側の支承箇所に生じるブレーキトルクが、同じ方向に、タイヤ負荷から生じる固定トルク(独語:Einspannmoment)と重ね合わさる。よって、ブレーキによって通常引き起こされる後車軸におけるリバウンド動作の補償が行われることが可能である。その際、形状状態に応じて、リバウンド動作は部分的、完全、またはそれどころか過剰補償的となる。例えば特許文献1に表された典型的に形成されたストラットアーム車軸に対して、これは、発明に係る車輪懸架装置において、縦アームのリンクがより低く選択されることができ、その際、車両のブレーキによる縦揺れ挙動の短所を恐れる必要が無い。これにより、追加的な構造空間上のメリットが生ずる。これは、車両の車体の有利でかつそれにより重量も最適化された構造形状を可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0015】
貼付の原理図は、一つの実施例を斜視図で示す。その際、参照符号1によって、乗用車の左後輪が、その全体を表されている。リム1aは、通常通り、ここでは見ることができない複数の内側スポークを設けられており、そしてハブを介して車輪担持部2にこれに対して回転可能に固定されている。車輪担持部2に回転可能に支承されたハブに向かって、駆動軸3が通じているので、この後輪/車輪1が駆動可能である。
【0016】
車輪担持部2は、全部で四つのアーム4,5,6,7を介して最終的には車両の車体に向かって案内されている、つまり、その端部でもって適当に車輪担持部2に固定されているこれら四つのアーム4−7は、その他方の、図ではフリーである端部でもって、直接、または通常の(図示されていない)後車軸担持部を介して、同様に図示されていない車両の車体に適当に固定される。上述した四つのアームは、基本的に車両横断方向に向けられた三つのアーム4,5,6である。これらの内、アーム4と5は、車輪中央の下および前または後ろで、車輪担持部2と接続されており、そしてアーム6は、上、かつ車両の走行方向でみて車輪中央の前で車輪担持部2に接続されている。これら三つの、いわゆるクロスアーム4,5,6は、それぞれ適当にジョイント状に、車輪担持部2にも、後車軸担持部または車両の車体にも接続されており、そして、基本的にロッド形状に形成されている。その際、これらクロスアーム4−6は、有利には、力をアームの長手方向に伝達するだけの為に設計されている必要がある。というのは、先行技術においてしばしば実現されているのと異なり、ここでは車輪担持部2と車両の車体の間に挟まれた担持ばねが、これらクロスアーム4−6の一つに支持されていないからである。
【0017】
当然、それ以外に必要であり、そしてまた存在する一つの担持ばね要素が、別のアーム7内に統合されている。このアームは、基本的に車両長手方向に延在しており、そして例えば、または好ましくは繊維強化材料から成っているので、この、いわゆる縦アーム7は、適当な力作用のもと、これが、そうでない場合、通常鋼らせんばねとしてまたは空気ばねとして形成される担持ばねの機能を担うことが可能である限り、弾性的に変形可能である。この為、この縦アーム7は、主として、一つの広い領域中の、個々の二つのアーム部材7a,7b(これらアーム部材は、基本的に共通の一つの垂直平面内に位置している)から成るこの縦アーム7は、一方で、基本的に車輪担持部2に固定的に固定されており(これはここではアーム部材7a,7bごとに各二つのスクリュー8によって行われる)、そして他方では、同様に基本的に固定的に、図示されていない車両の車体に固定されている。そしてこれは、詳しく言うと、固定要素9を介して行われる。この固定要素内には、両方のアーム部材7a,7bが適当にまとめられている。ここではまた、わずかに弾性的な固定も可能である。これは、縦アーム7の車輪担持部2と反対側の端部が、ゴム層の中間接続のもと固定要素に固定されている、好ましくは加硫処理されていることによって行われる。
【0018】
両方のアーム部材7a,7bの間には、駆動軸3が通過案内されている。更に、参照符号10のもと、基本的に通常の振動減衰器が見て取れる。この振動減衰器は、機能的に縦アーム7内に統合された担持ばねと並列に接続されており、そして車輪担持部2と車両の車体の間で直接支持されている。しかしこれは、および更なる複数の詳細、特に構造的形式の詳細は、請求項の内容を離れることなく、上述の説明から異なるよう構成されていることも可能である。