(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑み、シール性に優れ、かつ、耐摩耗性(特に高温での耐摩耗性)および変形を伴う軸やシール溝への装着性も良好な樹脂シール部材を実現できる樹脂組成物、ならびにそれから得られる樹脂シール部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究を行った結果、ポリエーテルサルフォンを主たる樹脂成分として含み、さらに層状結晶構造を有する化合物の粉末および樹脂粉末を特定量含有する樹脂組成物は、耐熱性、耐摩耗性および機械特性(特に破断伸びおよび曲げ弾性率)が良好な樹脂組成物となって、上記の目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明は、次の[1]〜[11]に関する。
【0008】
[1](a)ポリエーテルサルフォン100重量部に対して、
(b)層状結晶構造を有する化合物の粉末1重量部〜7重量部、および
(c)樹脂粉末8重量部〜27重量部
を含有する、樹脂組成物。
[2](b)層状結晶構造を有する化合物の粉末がグラファイト粉末である、上記[1]に記載の樹脂組成物。
[3](c)樹脂粉末が、フッ素樹脂、ポリイミド、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリエーテルエーエルケトン、ポリアセタール、フェノール樹脂、エポキシ樹脂からなる群より選ばれる1種または2種以上の樹脂の粉末である、上記[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
[4](c)樹脂粉末がフッ素樹脂粉末である、上記[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
[5]フッ素樹脂粉末がポリテトラフルオロエチレン粉末である、上記[4]に記載の樹脂組成物。
[6]上記[1]〜[5]のいずれかに記載の樹脂組成物を成形してなる、樹脂シール部材。
[7]シールリングである、上記[6]に記載の樹脂シール部材。
[8]シールリングが角リングである、上記[7]に記載の樹脂シール部材。
[9]シールリングがUシールである、上記[7]に記載の樹脂シール部材。
[10]エアコンディショナー用スクロールコンプレッサーのシールリングである、上記[7]〜[9]のいずれかに記載の樹脂シール部材。
[11]ダストシールである、上記[6]に記載のシール部材。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、破断伸びおよび曲げ弾性率などのシール部材のシール性能および装着性に係る機械特性のみならず、耐熱性、耐摩耗性等が良好な樹脂組成物を得ることができ、かかる本発明の樹脂組成物を成形することで、シール性、装着性(変形性)および高温での耐摩耗性が良好な樹脂シール部材を得ることができる。
また、本発明の樹脂シール部材は、角リング、Uシール等のシールリング、ダストシール等として好適に用いることができ、特に高温の環境下で用いられるシールリングとして好適である。
さらに、本発明の樹脂組成物は、射出成形等の溶融成形が可能であり、生産速度すなわち量産性および製造コストの面で有利である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の樹脂組成物は、(a)ポリエーテルサルフォン100重量部に対し、(b)層状結晶構造を有する化合物の粉末1重量部〜7重量部、および(c)樹脂粉末8重量部〜27重量部を含有する。
【0011】
本発明で用いる(a)ポリエーテルサルフォンは、下記の化学構造を有する非晶性の耐熱樹脂であり、耐熱性、耐クリープ性、寸法安定性、難燃性、耐水性を有する樹脂として知られている。
【0013】
本発明の目的には、国際規格(ISO) 1133に従い、360℃、荷重=10kgの条件下で測定されるメルトボリュームレイト(MVR)が35cm
3/10min〜150cm
3/10minであるものが好ましい。また、ISO 1628に従い、フェノールおよびο−ジクロロベンゼン混合溶媒(質量比=1:1)に0.01g/mLの濃度で溶解して測定される粘度数(VN)が40cm
3/g〜70cm
3/gであるものが好ましく、48cm
3/g〜66cm
3/gであるものがより好ましい。
【0014】
本発明で用いる(b)層状結晶構造を有する化合物の粉末としては、六方晶系の層状結晶構造を有し、へき開性や潤滑性を示す化合物の粉末であれば特に限定されないが、グラファイト、フッ化グラファイト、二硫化モリブデン、二セレン化モリブデン、窒化ホウ素、二硫化タングステン、ヨウ化カドミウム、ヨウ化鉛等の粉末が例示される。(b)層状結晶構造を有する化合物の粉末(以下、「(b)層状結晶構造化合物粉末」とも略称する)は1種または2種以上を用いることができる。(b)層状結晶構造化合物粉末を含有することにより、特に樹脂組成物の耐摩耗性が向上する。
【0015】
(b)層状結晶構造化合物粉末としては、グラファイト粉末が好ましい。
グラファイトは、炭素からなる元素鉱物であり、六方晶系、六角板状結晶構造を有し、一方向に完全なへき開性を示す。グラファイト粉末として、天然または合成の鱗状グラファイト、鱗片状グラファイト、土状グラファイト等を用いることができるが、品質の安定性の観点から合成グラファイトが好ましく、樹脂組成物の成形により得られる樹脂シール部材が潤滑性に優れることから、合成鱗状または鱗片状グラファイトがより好ましく、鱗片状グラファイトがさらに好ましい。
【0016】
(b)層状結晶構造化合物粉末の平均粒子径は1μm〜250μmであることが好ましく、3μm〜100μmであることがより好ましく、5μm〜50μmであることがさらに好ましい。
なお、ここでいう「平均粒子径」は、日本工業規格(JIS) Z 8825−1:2001に従い、レーザー回折法により測定される。すなわち、レーザー回折法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒子径(メジアン径)を意味する。
【0017】
(b)層状結晶構造化合物粉末のモース硬度は、1〜2であることが好ましい。モース硬度が1未満であると耐摩耗性の改善効果が得られにくく、2を超えると摩耗時に相手材(特にアルミニウム等の軟質材)を損傷するおそれがある。
【0018】
(b)層状結晶構造化合物粉末の粒子径は、樹脂組成物の調製の際に、混練により小さくなる傾向がある。本発明の樹脂組成物を成形してなる樹脂シール部材中における(b)層状結晶構造化合物粉末の最大粒子径は、通常1μm〜50μmであり、好ましくは5μm〜40μm、より好ましくは10μm〜30μmである。最大粒子径が1μm未満であると、ベース樹脂に対する分散が困難となる傾向があり、50μmを超えると樹脂組成物の機械物性、特に耐衝撃性が低下する傾向がある。
【0019】
ここにいう「最大粒子径」は、次の方法により測定される。
まず、樹脂シール部材の周方向に対して垂直な面を3カ所切り出し、各々研磨して平滑とした後、以下の条件で走査型電子顕微鏡により観察する。確認された層状結晶構造を有する化合物の粉末粒子について、各々長軸の長さを計測し、それらのうち最大値を、樹脂シール部材中における(b)層状結晶構造化合物粉末の最大粒子径とする。
<観察条件>
走査型電子顕微鏡:「JSM−5600LV」(日本電子株式会社製)
真空モード:低真空モード
加速電圧:15kV
倍率:500倍
【0020】
本発明の樹脂組成物には、(b)層状結晶構造化合物粉末は、(a)ポリエーテルサルフォン100重量部に対し1重量部〜7重量部含有され、2重量部〜4重量部含有されることが好ましい。本発明の樹脂組成物中における(b)層状結晶構造化合物粉末の含有量が1重量部未満であると、樹脂組成物の耐摩耗性が不十分となり、7重量部を超えると樹脂組成物の機械物性が低下する傾向がある。
【0021】
本発明の樹脂組成物に含有される(c)樹脂粉末としては、樹脂組成物に潤滑性を付与し得る樹脂粉末であれば特に制限なく用いることができるが、ポリテトラフルオロエチレン、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体等のフッ素樹脂粉末、ポリイミド、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリエーテルエーエルケトン、ポリアセタール、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などの粉末が好ましいものとして挙げられる。(c)樹脂粉末は1種または2種以上を選択して用いることができる。樹脂組成物に良好な耐熱性と耐摩耗性を付与できる点で、ポリテトラフルオロエチレン粉末、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体粉末等のフッ素樹脂粉末がより好ましく、ポリテトラフルオロエチレン粉末がさらに好ましい。
【0022】
ポリテトラフルオロエチレン粉末としては、良好な分散性を得る観点から、直接重合法、熱分解法、放射線分解法等によって、固体潤滑油用に製造されたものが好ましい。また、ポリテトラフルオロエチレン粉末は、BET法による比表面積が1.3m
2/g〜8.2m
2/gであるものが好ましい。
また、ポリテトラフルオロエチレン粉末は、未変性のもの、変性したもののいずれをも使用することができるが、未変性のポリテトラフルオロエチレン粉末が好ましい。本発明の樹脂組成物に好適な未変性のポリテトラフルオロエチレンの表面エネルギーは、通常170μN/cm〜195μN/cmである。
【0023】
本発明において用いる(c)樹脂粉末の平均粒子径は、樹脂組成物中における分散性の観点から、通常0.01μm〜650μmであり、好ましくは0.05μm〜200μm、より好ましくは1μm〜100μm、さらに好ましくは3μm〜30μmである。
なお、上記(c)樹脂粉末の平均粒子径は、JIS Z 8825−1:2001に従い、レーザー回折法により測定される。
【0024】
本発明の樹脂組成物を成形してなる樹脂シール部材中における(c)樹脂粉末の最大粒子径は、通常1μm〜500μmであり、好ましくは30μm〜300μm、より好ましくは50μm〜200μmである。
なお、樹脂シール部材中における(c)樹脂粉末の上記最大粒子径も、樹脂シール部材中における(b)層状結晶構造を有する化合物の粉末の最大粒子径と同様に、走査型電子顕微鏡観察により確認される樹脂粉末の長軸の長さを計測し、それらのうちの最大値により表される。
【0025】
本発明の樹脂組成物には、(c)樹脂粉末は、(a)ポリエーテルサルフォン100重量部に対し8重量部〜27重量部含有され、12重量部〜22重量部含有されることが好ましく、15重量部〜20重量部含有されることがより好ましい。本発明の樹脂組成物中における(c)樹脂粉末の含有量が8重量部未満であると、樹脂組成物の耐摩耗性が不十分となり、27重量部を超えると樹脂組成物の機械物性が低下する傾向がある。
【0026】
なお、本発明において、(b)層状結晶構造化合物粉末および(c)樹脂粉末を用いることにより、樹脂組成物に耐摩耗性の向上と、摩擦係数の低下という特性を付与することができる。
(b)層状結晶構造化合物粉末を添加することにより、樹脂組成物に適度な補強効果が付与されて、耐摩耗性が向上すると考えられる。また、(c)樹脂粉末を添加することにより、樹脂組成物の摩擦係数が低下し、耐摩耗性が向上する。摺動時における摩擦による発熱の抑制も、耐摩耗性の向上に寄与していると考えられる。
【0027】
本発明の樹脂組成物には、本発明の特徴を損なわない範囲で、さらに(d)無機繊維や(e)エラストマー等を含有させることができる。
【0028】
本発明の樹脂組成物に含有させ得る(d)無機繊維としては、たとえばソーダガラス、石英ガラス(シリカガラス)等の無アルカリガラスなどのガラス繊維、ロックウールなどのセラミック繊維、スチール、鉄、アルミニウム、ニッケル、銅などの金属による金属繊維、チタン酸カリウムウィスカー、炭素繊維などの各種の繊維を用いることができ、中でも特に無アルカリガラスなどのガラス繊維や炭素繊維が好ましく、炭素繊維がより好ましい。
【0029】
本発明の樹脂組成物に用いる炭素繊維としては、特に制限はなく、ピッチ系炭素繊維、PAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維など、従来公知の種々の炭素繊維を使用することができるが、中でもピッチ系炭素繊維、特には、黒鉛化したピッチ系炭素繊維が好適である。ピッチ系炭素繊維は、たとえば、不活性気体中で2,000℃〜3,000℃の熱処理を行うことで黒鉛化される。
【0030】
本発明の樹脂組成物においては、通常40μm〜500μmの平均繊維長を有する(d)無機繊維を用いる。
平均繊維長が40μm以上の(d)無機繊維を用いると、樹脂組成物に特に良好な耐摩耗性を付与することができ、平均繊維長が500μm以下の(d)無機繊維を用いると、樹脂組成物に混練する際のフィード性が良好である。
(d)無機繊維の平均繊維長は、たとえば、当技術分野で通常行われる手法である画像解析法によって測定することができる。
また、本発明において用いる(d)無機繊維のアスペクト比(繊維径に対する繊維長の比の平均値)は、通常0.5〜5であり、好ましくは0.5〜3である。
【0031】
樹脂組成物に(d)無機繊維を添加すると、樹脂組成物の耐摩耗性が向上する反面、破断伸びおよび曲げ弾性率により表される機械物性が低下する傾向が見られる。
従って、本発明の樹脂組成物における(d)無機繊維の含有量は、通常1質量%未満であり、好ましくは0.5質量%未満であり、より好ましくは0.3質量%未満である。(d)無機繊維の含有量が1質量%未満であると、破断伸びおよび曲げ弾性率により表される機械物性を損なわない範囲で、耐摩耗性を向上させることができる。一方、耐摩耗性の観点からは、(d)無機繊維を若干添加することが好ましく、0.1質量%以上添加することがより好ましい。
【0032】
本発明の樹脂組成物に含有させ得る(e)エラストマーとしては、熱可塑性エラストマー、架橋ゴムなどが挙げられる。
【0033】
熱可塑性エラストマー(以下「TPE」と略記する)としては、たとえばポリスチレン系TPE、スチレン−ブタジエン(SB)系TPE、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン(SEBS)系TPE、ポリ塩化ビニル系TPE、ポリオレフィン系TPE、ポリウレタン系TPE、ポリエステル系TPE、ポリアミド系TPE、低結晶性1,2−ポリブタジエン、塩素化ポリマー系TPE、フッ素系TPE、イオン架橋TPEなどが例示されるが、特にポリオレフィン系TPEが好ましい。
【0034】
また、架橋ゴムとしては、たとえば天然ゴム、シス―1,4―ポリイソプレン、ハイシスポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム、アクリルゴム等が挙げられる。
【0035】
樹脂組成物に(e)エラストマーを添加すると、樹脂組成物の曲げ弾性率が低下し、曲げ弾性率により表される機械物性が向上する反面、摩耗量が大きくなって、破断伸びが小さくなり、耐摩耗性と破断伸びにより表される機械物性が低下する。
従って、本発明の樹脂組成物における(e)エラストマーの含有量は、通常7.5質量%未満であり、好ましくは5質量%未満であり、より好ましくは3質量%未満である。(e)エラストマーの含有量が7.5質量%未満であると、耐摩耗性および破断伸びにより表される機械物性を損なわない範囲で、曲げ弾性率を低下させることができる。一方、曲げ弾性率を低下させる観点からは、(e)エラストマーを若干添加することが好ましく、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上含有させる。
【0036】
本発明の樹脂組成物には、本発明の特徴を損なわない範囲で、さらに顔料、充填剤等の一般的な添加剤を含有させることができる。
【0037】
本発明の樹脂組成物は、上記した(a)ポリエーテルサルフォン、(b)層状結晶構造化合物粉末、および(c)樹脂粉末を混合し、必要に応じてさらに(d)無機繊維および/または(e)エラストマー、あるいは他の添加剤を混合して、当技術分野で公知の混練方法、たとえば、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、二軸押出機などによる加熱溶融混練等により混練し、均一とすることにより、製造することができる。
【0038】
(b)層状結晶構造化合物粉末を樹脂組成物に良好に分散させるためには、加熱溶融混練に先立ち、バンバリーミキサーなどの混合機で、ポリエーテルサルフォンの熱変形温度(203〜216℃)以下の温度で、(a)〜(c)の各成分を混合し、(c)樹脂粉末に(b)層状結晶構造化合物粉末が付着あるいは侵入する状態としたのち、加熱溶融混練を行ってもよい。また、まず(b)層状結晶構造化合物粉末と(c)樹脂粉末を混合して、(c)樹脂粉末に(b)層状結晶構造化合物粉末が付着あるいは侵入する状態とした後、(a)ポリエーテルサルフォンと混合し、その後加熱溶融混練を行ってもよい。
【0039】
本発明の樹脂組成物は、後述する方法により常態物性の測定、柔軟性の指標としての曲げ試験、および耐摩耗性の指標としてのピンディスク摩耗試験を行った際、以下の特性を有する。
(1)常態物性:破断伸びが5%以上である。また、引張降伏強度が20MPa以上であることが好ましい。
(2)柔軟性:曲げ弾性率が3000MPa以下である。
(3)耐摩耗性:耐久時間が6時間以上であることが好ましい。また、摩耗量が0.7mm以下であることが好ましい。
本発明の樹脂組成物は、上記特性を有することから、シール部材の成形に好適に用いることができる。
【0040】
本発明の樹脂組成物は、溶融加工が可能であり、射出成形法、注入成形法等の溶融加工によって成形することができる。量産性の観点からは、射出成形法が好ましい。射出成形法では、シール部材の所望の形状に対応する金型を用い、樹脂組成物の構成成分を加熱溶融して流動性を持たせた後、加熱した金型に充填して固化または硬化させる。従って、射出成形を行うには金型が必要であるため、金型のない形状のシール部材を製造する場合は、本発明の樹脂組成物のロッドを作成したのち、該ロッドを切削することによって、所望の形状のシール部材を得ることができる。
【0041】
従って、本発明はまた、本発明の樹脂組成物を成形してなる樹脂シール部材を提供する。本発明の樹脂シール部材は、耐摩耗性に優れ、十分な伸張性を有し、拡径などの変形が容易で装着性が良好であり、かつ、シール性がきわめて良好である。本発明の樹脂シール部材としては、シールリング、ダストシールなどが挙げられる。
【0042】
本発明のシールリングとして、角リングやUシールが挙げられる。
角リングは、断面形状が矩形の環状シールであって、一般的に合口と呼ばれる切断部を有する。
また、Uシールは、断面形状がU字形の環状シールである。バネを溝に収容した状態で使用される場合には、そのバネがはずれないようにするため、U字状の溝の二つの上端部のうち少なくとも一つの上端部に、前記溝の内側に向かって、かつシールリングの円周方向に沿って張出部を有する。シールリングの使用中、バネをよりはずれにくくするためには、前記張出部は二つの上端部において、シールリングの全周にわたって設けることが好ましい。また、シール機能を向上させるためには、U字状の溝の二つの上端部に、前記溝の外側に向かって、かつシールリングの円周方向に沿ってリップ部を設けることが好ましい。
本発明のシールリングは、シール性に優れることから、エアコンディショナー用スクロールコンプレッサーのシールリングとして、特に有用である。
【0043】
また、ダストシールとしては、外部からの塵埃の侵入を保護して、パッキンや軸受を保護するスクレーパ等が挙げられる。
【実施例】
【0044】
さらに本発明について、実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
1.使用原料
以下に示す実施例および比較例において使用した原料は、次の通りである。
【0046】
(a)ポリエーテルサルフォンとしては、次のものを用いた。
(i)ウルトラゾーン(Ultrason) E2010(ビーエーエスエフ(BASF)社製):MVR=70cm
3/10min、VN=56cm
3/g
(ii)ウルトラゾーン(Ultrason) E3010(ビーエーエスエフ(BASF)社製):MVR=35cm
3/10min、VN=66cm
3/g
なお、上記原料のメルトボリュームレイト(MVR)および粘度数(VN)は、上述したように、ISO 1133およびISO 1628に従って測定された値である。
【0047】
(b)層状結晶構造化合物粉末としては、下記グラファイトを用いた。
(i)「特CP」(日本黒鉛工業株式会社製):鱗形状、平均粒子径=15μm
(ii)「J−CPB」(日本黒鉛工業株式会社製):鱗形状、平均粒子径=5μm
なお、上記原料の平均粒子径は、上述したように、JIS Z 8825−1:2001に従い、レーザー回折法により測定された値である。
【0048】
(c)樹脂粉末として、下記のポリテトラフルオロエチレン粉末を用いた。
(i)「フルオンL169J」(旭硝子株式会社製):平均粒子径=17μm、BET法による比表面積=2m
2/g
(ii)「フルオンL173J」(旭硝子株式会社製):平均粒子径=7μm、BET法による比表面積=8.2m
2/g
なお、上記原料の平均粒子径は、上述したように、JIS Z 8825−1:2001に従い、レーザー回折法により測定された値である。
【0049】
2.樹脂組成物の調製
実施例および比較例の各樹脂組成物の組成を、下記表1および表2に示す。表中の各成分を秤り取り、ミキサーを用いてドライブレンドし、その後二軸押出機を用いて330℃〜370℃で押出して造粒し、各樹脂組成物を調製した。なお、表1および表2中の各成分の含有量は、重量部により示した。
上記各樹脂組成物(造粒物)について、それぞれ射出成形機に投入して加熱溶融後、所定の各種金型に射出し、次いで冷却して、所望の形状に成形できることを確認した。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
3.評価
上記2.において調製した実施例1〜11および比較例1〜6の各樹脂組成物について、以下の評価を行った。
【0053】
(1)常態物性
ASTM規格 D638:1995に従って引張試験を実施し、引張降伏強度および破断伸びを測定した。
上記したように、本発明の目的には、破断伸びは5%以上であることを要し、引張降伏強度が20MPa以上であることが好ましい。
【0054】
(2)柔軟性
柔軟性の指標として、ASTM規格 D790に従って曲げ試験を実施し、曲げ弾性率および曲げ強度を測定した。
本発明の目的には、上記の通り、曲げ弾性率は3000MPa以下であることを要する。
【0055】
(3)メルトフローレイト
樹脂組成物の流動性を表す指標として、JIS K 7210:1999に従って、メルトフローレイトを測定した。
【0056】
(4)耐衝撃性
耐衝撃性を評価するため、ISO 179/eAに従い、ノッチ有りシャルピー衝撃試験を実施し、シャルピー衝撃値を求めた。
なお、本発明の目的には、シャルピー衝撃値は5KJ/m
2以上であることが好ましい。
【0057】
(5)耐熱変形性
耐熱変形性の指標として、ISO 75−2に従い、加熱変形温度を測定した。
なお、本発明の目的には、加熱変形温度は190℃〜220℃であることが好ましい。
【0058】
(6)耐摩耗性
耐摩耗性を評価するため、以下の条件下にピンディスク摩耗試験を実施し、耐久時間、摺動面温度、摩耗係数、動摩擦係数および摩耗量を測定した。
本発明の目的には、上記の通り、耐久時間が6時間以上であることが好ましく、摩耗量が0.7mm以下であることが好ましい。また、摺動面温度は220℃以下であることが好ましく、摩耗係数および動摩擦係数については、それぞれ低い方が好ましい。
<試験条件>
圧力:2、3、4MPa(各3時間ずつ加圧)
雰囲気温度:120℃
回転速度:3m/秒
【0059】
上記についての評価結果を表3および4に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
表3に示されるように、本発明の実施例1〜11の樹脂組成物においては、いずれも引張降伏強度が20MPa以上であり、破断伸びは5%以上、曲げ弾性率は3000MPa以下であった。また、シャルピー衝撃値は5kJ/m
2以上であり、加熱変形温度は204℃〜212℃であった。さらに、ピンディスク摩耗試験における耐久時間は6時間以上であり、摩耗量は0.7mm以下であった。実施例1、8および11の各樹脂組成物において、4MPaの加圧時に摺動面温度が220℃をわずかに超えたが、その他は、摺動面温度はすべて220℃以下であり、摩耗係数、動摩擦係数ともに十分低い値であった。
【0062】
【表4】
【0063】
一方、表4に示されるように、(b)層状結晶構造化合物粉末、および(c)樹脂粉末の双方を含有しない比較例6の樹脂組成物では、耐摩耗性が認められなかった。(b)層状結晶構造化合物粉末の含有量が少ない比較例2の樹脂組成物では、耐久時間が基準値に満たず、耐摩耗性が不十分であった。(b)層状結晶構造化合物粉末の含有量が多い比較例1および3の樹脂組成物では、曲げ弾性率の増大とシャルピー衝撃値の低下が観察され、柔軟性および耐衝撃性が不十分であった。(b)層状結晶構造化合物粉末の含有量が本発明の範囲より大幅に多い比較例3の樹脂組成物では、破断伸びの低下も認められた。(c)樹脂粉末の含有量が少ない比較例4の樹脂組成物では、耐久時間が基準値に満たず、耐摩耗性が不十分であった。(c)樹脂粉末の含有量が多い比較例5の樹脂組成物では、破断伸びの低下が認められた。