特許第6203907号(P6203907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6203907
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/512 20060101AFI20170914BHJP
【FI】
   A61F13/512 200
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-118276(P2016-118276)
(22)【出願日】2016年6月14日
【審査請求日】2017年6月16日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽子
【審査官】 田中 尋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−005925(JP,A)
【文献】 特開2006−149457(JP,A)
【文献】 特開2009−118920(JP,A)
【文献】 特開2009−118921(JP,A)
【文献】 特開2011−055959(JP,A)
【文献】 特開2016−019616(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F13/15−13/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透液性表面シートと不透液性裏面シートとの間に吸収体が介在された吸収性物品において、
前記透液性表面シートは、肌側に配置された親水性を有する上層不織布と、非肌側に配置された撥水性を有する下層不織布とからなり、前記上層不織布及び下層不織布を貫通する多数の開孔が形成され
前記上層不織布は少なくとも肌側面が親水性を有するようになっており、前記下層不織布は少なくとも非肌側面が撥水性を有するようになっていることを特徴とする吸収性物品。
【請求項2】
前記下層不織布の繊度は、前記上層不織布の繊度より低く設定されている請求項1記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記開孔の開孔率は10〜25%である請求項1、2いずれかに記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記開孔の大きさは0.3〜4.0mmである請求項1〜3いずれかに記載の吸収性物品。
【請求項5】
前記透液性表面シートの非肌側に隣接して親水性のセカンドシートが配設され、前記セカンドシートの繊度は、前記透液性表面シートの繊度より高く設定されている請求項1〜4いずれかに記載の吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主には生理用ナプキン、おりものシート、失禁パッド、トイレタリー等に使用される吸収性物品であって、詳しくは2層構造の開孔不織布からなる透液性表面シートを備えた吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、パンティライナー、生理用ナプキン、失禁パッドなどの吸収性物品として、ポリエチレンシートまたはポリエチレンシートラミネート不織布などの不透液性裏面シートと、不織布または透液性プラスチックシートなどの透液性表面シートとの間に綿状パルプ等からなる吸収体を介在したものが知られている。
【0003】
特に、就寝時間帯に装着する、いわゆる夜用吸収性物品では、前記透液性表面シートは、血液や尿等の体液を速やかに吸収体に移行させる吸収速度性能と、一旦吸収体に吸収された体液を逆戻りさせない液戻り防止性と、さらに肌に直接接触するものであるため滑らかな肌触り感等の諸特性が要求される。
【0004】
吸収性物品の表面材としては、主に不織布からなる透液性不織布と、多孔性プラスチックシートとが使用されているが、体液の透過性が良く、一旦吸収した体液の逆戻りがないというのを両立させることは難しかった。
【0005】
このような吸収性能と逆戻り防止性に着目した従来の技術として、下記特許文献1では、撥水層と親水層からなる不織布を貫通し、撥水層表面を肌当接面とした開孔を有する表面シートであって、開孔内周面が撥水層を形成する繊維で覆われるように開孔周囲の撥水層と親水層とを延伸しながら親水層の吸収体側表面より吸収体側に突出させたものが開示されている。
【0006】
また、下記特許文献2では、表面シートが、親水性第1繊維不織布と親水性第2繊維不織布とから形成され、前記第2繊維不織布が、前記第1繊維不織布よりも高い密度と強い親水性とを有して該第1繊維不織布の下方に位置し、前記第1および第2繊維不織布の対向面が、ホットメルト接着剤を介して間欠的に接合され、前記開孔の周壁とその近傍では、前記第1および第2繊維不織布が一体となり、前記表面シートの密度がその上面から下面に向かって高くなっているとともに該表面シートの下面とその近傍において前記第2繊維不織布の密度よりも高くなっている表面シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4792249号公報
【特許文献2】特許第3587677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1記載のものでは、表面シートの肌当接面を撥水層としているため、就寝時の仰向け寝や横向き寝のときに、体液が表面シートの表面を伝って後漏れや横漏れを起こす可能性があった。また、表面シートの非肌当接面を親水層としているため、この親水層に液保持しやすく吸収体に体液が移行しにくいとともに、逆戻り量が多くなるおそれがあった。また、上記特許文献2記載のものでは、表面シートの1層目も2層目も親水性であるため、表面シート内に液保持しやすく吸収体に体液が移行しにくいとともに、逆戻り量が多くなる可能性があった。
【0009】
そこで本発明の主たる課題は、吸収体への体液の移行がスムーズにできるとともに、逆戻り量が低減できる吸収性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、透液性表面シートと不透液性裏面シートとの間に吸収体が介在された吸収性物品において、
前記透液性表面シートは、肌側に配置された親水性を有する上層不織布と、非肌側に配置された撥水性を有する下層不織布とからなり、前記上層不織布及び下層不織布を貫通する多数の開孔が形成され
前記上層不織布は少なくとも肌側面が親水性を有するようになっており、前記下層不織布は少なくとも非肌側面が撥水性を有するようになっていることを特徴とする吸収性物品が提供される。
【0011】
上記請求項1記載の発明では、前記透液性表面シートに多数の開孔が形成されているため、この開孔を通じて吸収体に体液の移行がスムーズに行われるようになる。また、肌側に配置された上層不織布は体液を吸収しやすい親水性とし、非肌側に配置された下層不織布は一旦通過した体液を再び吸収しにくい撥水性としているため、体液の逆戻り量が低減できるようになる。
【0012】
請求項2に係る本発明として、前記下層不織布の繊度は、前記上層不織布の繊度より低く設定されている請求項1記載の吸収性物品が提供される。
【0013】
上記請求項2記載の発明では、着用者の肌側の層に繊維径の大きな繊維を用い、かつ吸収体側の層に繊維径の小さい繊維を用いることで、毛管力に勾配を生じさせ、液の引込み性を高めている。
【0014】
請求項3に係る本発明として、前記開孔の開孔率は10〜25%である請求項1、2いずれかに記載の吸収性物品が提供される。
【0015】
上記請求項3記載の発明では、開孔の開孔率を10〜25%としている。開孔率が10%より低いと、開孔を通過して吸収体側に移行する体液の量が減少し、表面に液残りしやすくなり、開孔率が25%より大きいと、一旦吸収された体液が開孔を通じて逆戻りしやすくなる。
【0016】
請求項4に係る本発明として、前記開孔の大きさは0.3〜4.0mmである請求項1〜3いずれかに記載の吸収性物品が提供される。
【0017】
上記請求項4記載の発明では、前記開孔を所定の大きさで形成することによって、表面の液残りをなくすとともに、逆戻りしにくくしている。
【0018】
請求項5に係る本発明として、前記透液性表面シートの非肌側に隣接して親水性のセカンドシートが配設され、前記セカンドシートの繊度は、前記透液性表面シートの繊度より高く設定されている請求項1〜4いずれかに記載の吸収性物品が提供される。
【0019】
上記請求項5記載の発明では、前記セカンドシートの繊度を透液性表面シートの繊度より高くすることによって、透液性表面シートの体液を吸収体にスムーズに液移行できるようにしている。
【発明の効果】
【0020】
以上詳説のとおり本発明によれば、吸収体への体液の移行がスムーズにできるとともに、逆戻り量が低減できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る生理用ナプキン1の一部破断展開図である。
図2図1のII−II線矢視図である。
図3図1のIII−III線矢視図である。
図4】透液性表面シート3の拡大平面図である。
図5】透液性表面シート3の拡大断面図(図4のV−V線矢視図)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0023】
〔生理用ナプキン1の基本構造〕
本発明に係る生理用ナプキン1は、図1及び図2に示されるように、ポリエチレンシートなどからなる不透液性裏面シート2と、経血やおりものなど(以下、まとめて体液ともいう。)を速やかに透過させる透液性表面シート3と、これら両シート2,3間に介装された綿状パルプまたは合成パルプなどからなる吸収体4と、前記透液性表面シート3の非肌側に隣接して配置された親水性の不織布などからなるセカンドシート6と、肌当接面側の両側部に長手方向に沿ってほぼ全長に亘って設けられたサイド不織布7とを備え、かつ前記吸収体4の周囲においては、その上下端縁部では前記不透液性裏面シート2と透液性表面シート3との外縁部がホットメルトなどの接着剤やヒートシール、超音波シール等の接合手段によって接合され、またその両側縁部では吸収体4よりも側方に延出している前記不透液性裏面シート2と前記サイド不織布7との外縁部がホットメルトなどの接着剤やヒートシール、超音波シール等の接合手段によって接合されることにより、吸収体が介在しないフラップ部が形成されたものである。なお、図示例では、前記吸収体4の形状保持および拡散性向上のために、前記吸収体4をクレープ紙又は不織布などからなる被包シート5で囲繞しているが、この被包シート5は設けなくてもよい。
【0024】
以下、さらに前記生理用ナプキン1の構造について詳述すると、
前記不透液性裏面シート2は、ポリエチレン等の少なくとも遮水性を有するシート材が用いられるが、蒸れ防止の観点から透湿性を有するものを用いるのが望ましい。この遮水・透湿性シート材としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂中に無機充填剤を溶融混練してシートを成形した後、一軸または二軸方向に延伸することにより得られる微多孔性シートが好適に用いられる。前記不透液性裏面シート2の非肌側面(外面)にはナプキン長手方向に沿って1または複数条の粘着剤層(図示せず)が形成され、身体への装着時に生理用ナプキン1を下着に固定するようになっている。前記不透液性裏面シート2としては、プラスチックフィルムと不織布とを積層させたポリラミ不織布を用いてもよい。
【0025】
前記不透液性裏面シート2と透液性表面シート3との間に介在される吸収体4は、たとえば綿状パルプと吸水性ポリマーとにより構成されている。前記吸水性ポリマーは吸収体を構成するパルプ中に、例えば粒状粉として混入されている。前記パルプとしては、木材から得られる化学パルプ、溶解パルプ等のセルロース繊維や、レーヨン、アセテート等の人工セルロース繊維からなるものが挙げられ、広葉樹パルプよりは繊維長の長い針葉樹パルプの方が機能および価格の面で好適に使用される。前記吸収体4の目付は、250〜650g/m、好ましくは300〜400g/mとするのがよい。
【0026】
また、前記吸収体4には合成繊維を混合しても良い。前記合成繊維は、例えばポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィン系、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系、ナイロンなどのポリアミド系、及びこれらの共重合体などを使用することができるし、これら2種を混合したものであってもよい。また、融点の高い繊維を芯とし融点の低い繊維を鞘とした芯鞘型繊維やサイド−バイ−サイド型繊維、分割型繊維などの複合繊維も用いることができる。前記合成繊維は、体液に対する親和性を有するように、疎水性繊維の場合には親水化剤によって表面処理したものを用いるのが望ましい。
【0027】
図1及び図2に示されるように、前記吸収体4の体液排出部Hに対応する部位を含む領域に、肌側に増厚された吸収体の中高部8を設けるのが好ましい。前記中高部8は、吸収体4の肌側面に隣接するとともに、吸収体4の幅方向中央部に配置され、吸収体4より幅寸法及び長手寸法が小さく形成されている。前記中高部8の厚みは、厚すぎると剛性が上がり身体への密着性が低下するし、薄すぎると着用者の体液排出部Hとの密着性が低下するため3〜25mm、好ましくは5〜18mmとするのがよい。前記中高部8の配設領域における前記吸収体4及び中高部8の合計目付は、400〜900g/m、好ましくは600〜800g/mとするのがよい。
【0028】
前記中高部8は、少なくとも着用者の体液排出部Hに対応する部位を含む領域に配置されている。この中高部8は、図示例のように体液排出部Hに対応する部位を含む領域から臀部溝に対応する部位を含む領域にかけて連続する細長形状に形成してもよいし、体液排出部Hに対応する部位を含む領域のみに配置され、これより後側の臀部溝に対応する部位を含む領域には配置しないようにしてもよい。
【0029】
前記透液性表面シート3の幅寸法は、図示例では、図2及び図3の横断面図に示されるように、吸収体4の幅よりも若干長めとされ、吸収体4を覆うだけに止まり、それより外方側は前記透液性表面シート3とは別のサイド不織布7、具体的には経血やおりもの等が浸透するのを防止する、あるいは肌触り感を高めるなどの目的に応じて、適宜の撥水処理または親水処理を施した不織布素材を用いて構成されたサイド不織布7が配設されている。かかるサイド不織布7としては、天然繊維、合成繊維または再生繊維などを素材として、適宜の加工法によって形成されたものを使用することができるが、好ましくはゴワ付き感を無くすとともに、ムレを防止するために、坪量を抑えて通気性を持たせた不織布を用いるのがよい。具体的には、坪量を13〜23g/mとして作製された不織布を用いるのが望ましく、かつ体液の透過を確実に防止するためにシリコン系、パラフィン系、アルキルクロミッククロリド系撥水剤などをコーティングした撥水処理不織布が好適に使用される。
【0030】
前記サイド不織布7は、図2及び図3に示されるように、幅方向中間部より外側部分を所定の内側位置から不透液性裏面シート2の外縁までの範囲に亘ってホットメルトなどの接着剤によって接着し、これら前記サイド不織布7と不透液性裏面シート2との積層シート部分により吸収体4の両側部に吸収体4が介在しないフラップ部が形成されている。このフラップ部によって、ほぼ体液排出部Hに相当する吸収体側部位置に左右一対のウイング状フラップW、Wを形成するとともに、これより臀部側(後部側)位置にヒップホールド用フラップW、Wを形成することができる。これらウイング状フラップW、Wおよびヒップホールド用フラップW、Wの外面側にはそれぞれ粘着剤層(図示せず)が備えられ、ショーツに対する装着時に、前記ウイング状フラップW、Wを基端部の折返し線RL位置にて反対側に折り返し、ショーツのクロッチ部分に巻き付けて止着するとともに、前記ヒップホールド用フラップWをショーツの内面に止着するようになっている。
【0031】
一方、前記サイド不織布7の内方側部分はほぼ二重に折り返されるとともに、この二重シート内部に、その高さ方向中間部に両端または長手方向の適宜の位置が固定された1又は複数本の、図示例では3本の糸状弾性伸縮部材9、9…が両端または長手方向の適宜の位置が固定された状態で配設されている。この二重シート部分は前後端部では図3に示されるように、外側に1回折り返して積層された状態で吸収体4側に接着されることによって、図2に示されるように、外側に傾斜しながら表面側に起立する直線状の立体ギャザーBS、BSが左右対で形成されている。
【0032】
本生理用ナプキン1では、前記中高部8の近傍外側部位置に、透液性表面シート3の外面側から不透液性裏面シート2に向けて窪む圧搾溝10が形成されている。前記圧搾溝10は、少なくとも体液排出部Hに対応する部位を含む領域から臀部溝に対応する部位を含む領域にかけての両側部にそれぞれ形成されている。具体的に、図1に示される例では、体液排出部Hに対応する部位を含む領域から臀部溝に対応する部位を含む領域にかけての両側部にそれぞれ、ナプキン1のほぼ長手方向に沿って連続して形成された前側長手方向圧搾溝11、11と、この前側長手方向圧搾溝11の後側に離間して配置されるとともに、臀部溝の後端部分に対応する部位の両側部にそれぞれ、ナプキン1のほぼ長手方向に沿って連続して形成された後側長手方向圧搾溝12、12と、前記前側長手方向圧搾溝11、11の前側に離間して配置されるとともに、ナプキン1の長手方向中心線を幅方向に横断し、ナプキン1のほぼ幅方向に沿って形成された三日月形状からなる前端三日月形圧搾溝13と、前記後側長手方向圧搾溝12、12の後側に離間して配置されるとともに、ナプキン1の長手方向中心線を幅方向に横断し、後方に向けて膨出する湾曲形状からなる後端湾曲形圧搾溝14とから構成されている。前記圧搾溝10は、透液性表面シート3の外面側からの熱エンボスにより、透液性表面シート3から吸収体4にかけて一体的に圧搾したものである。
【0033】
〔透液性表面シート3〕
次に、前記透液性表面シート3について詳細に説明する。前記透液性表面シート3は、詳細には図4及び図5に示されるように、肌側に配置された親水性を有する上層不織布20と、非肌側に配置された撥水性を有する下層不織布21とからなる2層構造とされ、前記上層不織布20及び下層不織布21を貫通する多数の開孔22、22…が形成されている。不織布を構成する素材繊維としては、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等の合成繊維の他、レーヨンやキュプラ等の再生繊維、綿等の天然繊維とすることができ、エアスルー法、スパンレース法、スパンボンド法、サーマルボンド法、メルトブローン法、ニードルパンチ法等の適宜の加工法によって得られた不織布を用いることができる。これらの加工法の内、エアスルー法によって製造された不織布は、繊維間の空間が大きくふんわりとした感触を有し、嵩高でバルキーとなっているため、装着感が良く、繊維間を通って体液が浸透しやすくなるので好ましい。不織布の繊維は、長繊維または短繊維のいずれでもよいが、好ましくはタオル地の風合いを出すため短繊維を使用するのがよい。また、エンボス処理を容易とするために、比較的低融点のポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系繊維のものを用いるのがよい。また、融点の高い繊維を芯とし融点の低い繊維を鞘とした芯鞘型繊維やサイド−バイ−サイド型繊維、分割型繊維の複合繊維を好適に用いることもできる。
【0034】
前記上層不織布20としては、レーヨンやキュプラ等の再生繊維、綿等の天然繊維を用いることにより素材自体に親水性を有するものを用いるか、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等の合成繊維を親水剤によって表面処理し親水性を付与した繊維を用いることにより親水性を有するようにする。親水剤としては、例えば陰イオン性界面活性剤、カルボン酸塩、アシル化加水分解タンパク質、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩、非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレン系界面活性剤、カルボン酸エステル、カルボン酸アミド、ポリアルキレノキシドブロック共重合物、陽イオン性界面活性剤、第四級アンモニウム塩、両性界面活性剤、イミダゾリニウム誘導体等が挙げられ、この他にも繊維に塗布される親水剤として公知の親水剤であればどのようなものを適用しても良い。前記親水剤の塗布は、上層不織布20の肌側面のみでもよいし、肌側面と非肌側面の両面に施してもよい。少なくとも肌側面に親水処理を施すことにより、上層不織布20の少なくとも肌側面が親水性を有するようになり、体液が透液性表面シート3に引き込まれやすくなる。
【0035】
前記下層不織布21としては、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等の合成繊維を用いることにより素材自体に撥水性を有するものを用いるのが好ましいが、綿繊維等の親水性繊維の不織布を使用する場合は、撥水剤を外添塗布して使用する。撥水剤としては、パラフィン系、シリコン系等の既知のもののうち、肌への刺激性の少ないものを適宜選択して使用することができるが、ステアリン酸アミド、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸マグネシウム等の刺激性の少ない油脂を適宜選択して使用することがより好ましく、この他にも繊維に塗布される撥水剤として公知の撥水剤であればどのようなものを適用しても良い。前記撥水剤の塗布は、下層不織布21の非肌側面のみでもよいし、非肌側面と肌側面の両面に施してもよい。少なくとも非肌側面に撥水処理を施すことにより、下層不織布21の少なくとも非肌側面が撥水性を有するようになり、一旦吸収体側に吸収された体液が透液性表面シート3に逆戻りするのが防止できる。
【0036】
前記上層不織布20及び下層不織布21を貫通する多数の開孔22、22…は、図5に示されるように、前記上層不織布20及び下層不織布21を積層した状態で開孔処理を施すことにより、これら上層不織布20及び下層不織布21を一体的に貫通して形成されている。すなわち、前記開孔22は、上層不織布20の肌側面から下層不織布21の非肌側面にかけて連続して貫通している。このため、前記開孔22を通って体液が透液性表面シート3の肌側から非肌側に通過でき、吸収体4側への液移行がスムーズに行われるようになる。前記開孔処理は、加熱針を突き刺す方法、透液性表面シート3を軟化温度付近まで軟化させて、多数の開孔を有する支持体の上面に位置させた状態で、支持体の下方から吸引したり、支持体の上面から空気圧で加圧し開孔を形成する方法などを採用することができる。
【0037】
以上の構成からなる生理用ナプキン1では、前記透液性表面シート3に多数の開孔22、22…が形成されているため、この開孔22…を通じて吸収体4への体液の移行がスムーズに行われるようになる。また、肌側に配置された上層不織布20は体液を吸収しやすい親水性とし、非肌側に配置された下層不織布21は一旦通過した体液を再び吸収しにくい撥水性としているため、一旦吸収体4側に吸収された体液が撥水性の下層不織布21によってブロックされ、透液性表面シート3の肌側まで逆戻りするのが低減できるようになる。
【0038】
前記透液性表面シート3から吸収体側へ更に体液を移行しやすくするため、下層不織布21の繊度は、上層不織布20の繊維の繊度より低く設定するのが好ましい。これにより、繊度の低い下層不織布21の方が毛細管現象による体液の引込み力が大きくなるため、毛管力に勾配が生じ、体液の引込み性が高められるようになる。具体的に、前記上層不織布20の繊度は2.0〜6.0dtexが好ましく、前記下層不織布21の繊度は1.0〜5.0dtexが好ましい。前記上層不織布20の繊度と下層不織布21の繊度の差は、確実に毛管力勾配をつけるため、1.0〜5.0dtex、好ましくは2.5〜5.0dtexとするのがよい。
【0039】
前記上層不織布20と下層不織布21の割合(重量比)は、上層不織布20:下層不織布21が2:8〜8:2、好ましくは4:6〜6:4、より好ましくは5:5とするのがよい。上層不織布20と下層不織布21をほぼ同等の割合とすることにより、より確実に体液の吸収と逆戻りの防止が図れるようになる。
【0040】
前記下層不織布21が撥水性を有する範囲は、下層不織布21の全面とするのが好ましいが、例えば、着用者の体液排出部Hに対応する部位を含む範囲では、吸水量が多く、逆戻りが発生しやすいので、前記中高部8を含む幅方向中央部を撥水性とし、その両側部を親水性とするなど、部分的に撥水性を付与するようにしてもよい。
【0041】
前記開孔22…の開孔率は10〜25%とするのがよい。前記開孔率とは、透液性表面シート3の単位面積当たりに占める開孔22部分の面積の割合である。開孔率が10%より低いと、開孔22を通過して吸収体4側に移行する体液の量が減少し、表面に液残りしやすくなる。また、開孔率が25%より大きいと、一旦吸収体4側に吸収された体液が開孔22を通じて逆戻りしやすくなる。
【0042】
多数の開孔22…は、透液性表面シート3の全面に亘って形成してもよいし、体液排出部に対応する部位を含む領域のみに形成し、その他の領域には開孔が形成されないようにしてもよい。また、前記開孔22…は、図4に示される千鳥状や正格子状など規則性を有するパターンで配置してもよいし、このような規則性を有さないランダムなパターンで配置してもよい。
【0043】
前記開孔22の平面形状は、図4に示されるように、ナプキン長手方向に長い楕円形状としてもよいし、図示しないがナプキン幅方向に長い楕円形状、円形状、長円形状、方形状などとしてもよい。
【0044】
このとき、前記開孔22の大きさDは、0.3〜4.0mm、好ましくは0.5〜2.8mmとするのがよい。ここで開孔22の大きさDとは、図4に示されるように、開孔22の平面方向の最大の寸法をとったものである。開孔22の大きさが0.3mm未満では、開孔22を体液が通過しにくく、4.0mmを超えると、体液の逆戻りが生じやすくなる。
【0045】
〔セカンドシート6〕
次いで、前記透液性表面シート3の非肌側に隣接して配置される親水性のセカンドシート6について説明する。前記セカンドシート6は、体液に対して親水性を有するものであればよい。具体的には、レーヨンやキュプラ等の再生繊維、綿等の天然繊維を用いることにより素材自体に親水性を有するものを用いるか、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等の合成繊維を親水化剤によって表面処理し親水性を付与した繊維を用いることができる。
【0046】
前記セカンドシート6は、透液性表面シート3と吸収体4との間に配置されている。このセカンドシート6は、少なくとも吸収体4を覆う範囲に配置してあればよいが、透液性表面シート3とほぼ同じ範囲に設けるのが好ましい。前記セカンドシート6は、透液性表面シート3とホットメルト又は熱融着(エンボス)により不連続に接合されるのが望ましい。
【0047】
前記セカンドシート6の繊度は、透液性表面シート3の繊度より高く設定するのが好ましい。仮に、透液性表面シート3とほぼ同等又は低い繊度とした場合には、下層不織布21の繊度との差が小さくなり、透液性表面シート3からセカンドシート6に体液が移行しにくくなる。これに対して、セカンドシート6の繊度を透液性表面シート3の繊度より高くすることによって、吸収体4にスムーズに液移行できるようになる。前記セカンドシート6の繊度は、2.0〜6.0dtexとするのが好ましい。
【0048】
前記セカンドシート6としては、無孔の不織布を用いてもよいし、所定のパターンで開孔を形成した不織布を用いてもよい。開孔を形成した場合、セカンドシート6に形成された開孔と、透液性表面シート3に形成された開孔22とは全く一致しなくてもよいし、一部又は全部が一致する配置パターンとしてもよい。
【実施例】
【0049】
前記上層不織布20を親水性とし、下層不織布21を撥水性とした本生理用ナプキン1と、上層不織布及び下層不織布をともに親水性とした従来の生理用ナプキンとを用いて、逆戻り量の比較試験を行った。逆戻り量の試験は、37℃の人工経血3ccを3分間隔で5回注入したとき、5回目の人工経血注入の1分後、予め重量を測定してあるろ紙を乗せ、5g/cm荷重の錘を5分間載荷し、載荷後にろ紙重量を再度測定し、載荷前後の重量差から逆戻り量(g)を算出した。
【0050】
なお、前記人工経血は、1リットル中の成分が、グリセリン100ml、CMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム)4.6g、精製水875ml、塩化ナトリウム10g、炭酸ナトリウム10.7gのものを使用した。また、上層不織布及び下層不織布の目付はいずれも11g/mであり、開孔の大きさが長手方向に1.2〜1.4mm、幅方向に0.9〜1.0mm、開孔率が18%〜20%、繊維構成がPE/PETである。

【表1】

比較例1と実施例1、比較例2と実施例2をそれぞれ比較すると、いずれも下層不織布を撥水性にした方が逆戻り量が低減する。つまり、透液性表面シート3の上層は体液が吸収しやすいように親水性とし、下層は一旦吸収した体液が逆戻りしないように撥水性とすることで、逆戻り量が低減できることが実証できた。
【符号の説明】
【0051】
1…生理用ナプキン、2…不透液性裏面シート、3…透液性表面シート、4…吸収体、5…被包シート、6…セカンドシート、7…サイド不織布、8…中高部、9…糸状弾性伸縮部材、10…圧搾溝、11…前側長手方向圧搾溝、12…後側長手方向圧搾溝、13…前端三日月形圧搾溝、14…後端湾曲形圧搾溝、20…上層不織布、21…下層不織布、22…開孔
【要約】
【課題】吸収体への体液の移行をスムーズにするとともに、逆戻り量を低減する。
【解決手段】透液性表面シート3は、肌側に配置された親水性を有する上層不織布20と、非肌側に配置された撥水性を有する下層不織布21とからなり、前記上層不織布20及び下層不織布21を貫通する多数の開孔22、22…が形成されている。前記開孔22を通じて吸収体へ体液の移行がスムーズに行われるようになる。肌側の上層不織布20は体液を浸透しやすい親水性とし、非肌側の下層不織布21は一旦通過した体液を再び吸収しにくい撥水性としているため、体液の逆戻り量が低減できる。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5